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明細書 :レーザ熱処理システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5920871号 (P5920871)
公開番号 特開2013-104103 (P2013-104103A)
登録日 平成28年4月22日(2016.4.22)
発行日 平成28年5月18日(2016.5.18)
公開日 平成25年5月30日(2013.5.30)
発明の名称または考案の名称 レーザ熱処理システム
国際特許分類 C21D   1/34        (2006.01)
C21D   1/09        (2006.01)
C21D   1/62        (2006.01)
FI C21D 1/34 H
C21D 1/09 A
C21D 1/62
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2011-248767 (P2011-248767)
出願日 平成23年11月14日(2011.11.14)
審査請求日 平成26年2月18日(2014.2.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
発明者または考案者 【氏名】田邉 裕貴
【氏名】小川 圭二
【氏名】後藤 光宏
個別代理人の代理人 【識別番号】110001210、【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
審査官 【審査官】鈴木 葉子
参考文献・文献 特開2010-047789(JP,A)
特開2002-317223(JP,A)
特開平10-176216(JP,A)
特開平07-076718(JP,A)
特開2010-013719(JP,A)
特開平01-316416(JP,A)
特開平01-188621(JP,A)
特開2010-255114(JP,A)
特開2011-025315(JP,A)
調査した分野 C21D 1/02-1/84
C21D 9/00-9/44,9/50
特許請求の範囲 【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ装置と、
ワークの熱処理領域に前記レーザ光を照射するための加工ヘッドと、
前記ワークと前記加工ヘッドとの位置関係を相対的に変化させるレーザ光走査装置と、
前記熱処理領域の温度を計測する放射温度計と、
前記ワークの材質に応じた熱処理温度を設定し、当該熱処理温度と、前記ワークのCADデータとに基づいて、標準熱処理条件を演算する手段を有する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記熱処理領域の曲率半径および前記熱処理領域の表面凹凸に基づいて、前記標準熱処理条件を変更する補正手段と、前記レーザ光の出力を下げて前記熱処理領域に酸化膜を形成しながらトライアルを行い、前記酸化膜における前記レーザ光の吸収率を取得する手段とを有し、
前記補正手段は、
前記CADデータに基づいて前記熱処理領域の曲率半径が所定の閾値Rz以下であるか否かを判定し、当該曲率半径が閾値Rz以下であると判定されたときには当該曲率半径に応じて前記レーザ光の走査速度を遅くすると共に、当該走査速度を遅くするほど前記レーザ光の出力を下げる第1補正手段と、
前記CADデータに基づいて前記熱処理領域の表面凹凸の大きさが所定の閾値Hz以上であるか否かを判定し、当該表面凹凸の大きさが閾値Hz以上であると判定されたときには当該表面凹凸の大きさに応じて、前記レーザ光の焦点位置を前記標準熱処理条件の標準焦点位置から大きくシフトさせる第2補正手段と、
前記トライアルにおいて取得された前記吸収率に応じて前記標準熱処理条件又は補正された前記標準熱処理条件を変更する第3補正手段と、
を含むことを特徴とするレーザ熱処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ熱処理システムにおいて、
加工精度および加工速度に基づいて予め設定された制御モードの選択を可能とし、
前記制御装置は、選択された前記制御モードに応じて前記標準熱処理条件を演算することを特徴とするレーザ熱処理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ熱処理システムにおいて、
熱処理中に操作が可能な前記熱処理温度の設定を変更するための操作部を備え、
前記補正手段は、オペレータによる前記操作部の操作に基づいて、前記標準熱処理条件又は補正された前記標準熱処理条件を変更するオンライン補正手段を含むことを特徴とするレーザ熱処理システム。
【請求項4】
請求項に記載のレーザ熱処理システムにおいて、
前記第3補正手段及び前記オンライン補正手段は、前記レーザ光の出力のみを変更して前記標準熱処理条件又は補正された前記標準熱処理条件を変更することを特徴とするレーザ熱処理システム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のレーザ熱処理システムにおいて、
前記熱処理は、焼入れ、窒化、浸炭、焼なまし、焼戻し、又は焼ならしであることを特徴とするレーザ熱処理システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ熱処理システムに関し、より詳しくは、ワークの材質に応じた熱処理温度を設定し、当該熱処理温度に基づいて、標準熱処理条件を演算する手段を有する制御装置を備えたレーザ熱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光を用いて鋼材の熱処理を行う方法、特にレーザ焼入れ法が注目されている(例えば、特許文献1参照)。レーザ焼入れ法では、局所的に熱を集中できるので、ワークに対する熱影響が極めて小さく、超低歪み焼入れが可能となる。このため、高い加工精度が要求される用途にも好適である。また、冷却速度が速く、焼きが入りやすいという利点もある。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2010-255114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ焼入れ法等のレーザ熱処理法は、多くの優れた特徴を有する。しかし、熱処理に先立ち設定すべき条件は多岐にわたり、目的とする品質を得るための条件設定は必ずしも容易ではない。かかる条件設定はオペレータの経験や勘に基づいてなされることが多く、このため、加工品の品質はオペレータの熟練度によって大きく異なる。また、ワークの熱処理領域の形状が複雑である場合、例えば、曲率半径の小さな曲部や大きな表面凹凸が存在する場合には、その形状に的確に対応した条件設定が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るレーザ熱処理システムは、レーザ光を出力するレーザ装置と、ワークの熱処理領域に前記レーザ光を照射するための加工ヘッドと、前記ワークと前記加工ヘッドとの位置関係を相対的に変化させるレーザ光走査装置と、前記ワークの材質に応じた熱処理温度を設定し、当該熱処理温度に基づいて、標準熱処理条件を演算する手段を有する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記熱処理領域の曲率半径および前記熱処理領域の表面凹凸のうち少なくとも一方に基づいて、前記標準熱処理条件を変更する補正手段を有することを特徴とする。
なお、レーザ光走査装置としては、前記熱処理領域に沿って前記加工ヘッドを3次元的に移動させることができるロボット装置を用いることが好適である。
前記熱処理としては、焼入れ、窒化、浸炭、焼なまし、焼戻し、又は焼ならしが例示できる。
【0006】
本発明に係るレーザ熱処理システムにおいて、前記補正手段は、前記熱処理領域の曲率半径が小さくなるに従って、前記レーザ光の走査速度を遅くする第1補正手段を含むことが好適である。
また、前記標準熱処理条件には、前記レーザ光の標準走査速度が含まれ、前記曲率半径が所定の閾値よりも小さな場合に、前記走査速度を前記標準走査速度よりも遅くすることが好ましい。
さらに、前記第1補正手段は、前記走査速度を遅くするほど、前記レーザ光の出力を下げることが特に好ましい。
【0007】
本発明に係るレーザ熱処理システムにおいて、前記標準熱処理条件には、前記レーザ光の標準焦点位置が含まれ、前記補正手段は、前記熱処理領域の表面凹凸が大きくなるに従って、前記レーザ光の焦点位置を前記標準焦点位置から大きくシフトさせる第2補正手段を含むことが好適である。なお、前記標準焦点位置とは、適正なワーキングディスタンスとなる位置を意味し、ジャストフォーカスとなる位置に限定されない。前記焦点位置は、前記表面凹凸が存在する場合であっても前記適正なワーキングディスタンスを維持できるように、前記補正手段により補正された位置であって、これもジャストフォーカスとなる位置に限定されない。
また、前記表面凹凸の大きさが所定の閾値よりも大きな場合に、前記焦点位置を前記標準焦点位置からシフトさせることが好ましい。
【0008】
本発明に係るレーザ熱処理システムは、加工精度および加工速度に基づいて予め設定された制御モードの選択を可能とし、前記制御装置は、選択された前記制御モードに応じて前記標準熱処理条件を演算することが好適である。
【0009】
本発明に係るレーザ熱処理システムは、前記熱処理領域の温度を計測する温度センサを備え、前記制御装置は、前記レーザ光の出力を前記熱処理領域に酸化膜が形成されないレベルに変更してトライアルを行い、当該トライアルにおける前記熱処理領域の温度を計測する手段を有し、前記補正手段は、前記トライアルにおいて計測された前記温度に応じて前記標準熱処理条件又は補正された前記標準熱処理条件を変更する第3補正手段を含むことができる。
或いは、前記熱処理領域の温度を計測する放射温度計を備え、前記制御装置は、前記レーザ光の出力を下げて前記熱処理領域に酸化膜を形成しながらトライアルを行い、前記酸化膜における前記レーザ光の吸収率を取得する手段を有し、前記補正手段は、前記トライアルにおいて取得された前記吸収率に応じて前記標準熱処理条件又は補正された前記標準熱処理条件を変更する第3補正手段を含むことができる。
【0010】
本発明に係るレーザ熱処理システムは、熱処理中に操作が可能な前記熱処理温度の設定を変更するための操作部を備え、前記補正手段は、前記操作部の操作に基づいて、前記標準熱処理条件又は補正された前記標準熱処理条件を変更するオンライン補正手段を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るレーザ熱処理システムによれば、ワークの熱処理領域の形状が複雑であっても、その形状に的確に対応した熱処理が可能となる。このため、加工品の品質を向上させることができると共に、オペレータの熟練度によって品質に差がでることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態であるレーザ熱処理システムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態であるレーザ熱処理システムにおいて、加工精度および加工時間と制御モードとの関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態であるレーザ熱処理システムにおいて、ワークの熱処理領域の形状と熱処理条件との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施形態であるレーザ熱処理システムによる制御手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態であるレーザ熱処理システムによる制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の適用の一例であって、本発明の適用はこれに限定されるものではない。

【0014】
実施形態では、熱処理として焼入れを例示し、レーザ焼入れシステム10について詳説する。但し、本発明は、上記のように、焼入れに限定されない。本発明が適用可能な熱処理は、焼入れの他に、窒化、浸炭、焼なまし、焼戻し、焼ならし等が例示できる。

【0015】
また、レーザ焼入れシステム10により焼入れ加工(以下、単に焼入れ又は加工という場合がある)されるワーク100としては、特に限定されず、用途分類によれば、工具鋼や軸受鋼、刃物鋼、機械構造用鋼、ばね鋼など、成分分類によれば、炭素鋼(普通鋼)や合金鋼(特殊鋼)、クロム鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、マンガン鋼など、種々の鋼材が例示できる。また、焼入れ領域101の形状も特に限定されない。

【0016】
図1に、レーザ焼入れシステム10の概略構成を示す。
レーザ焼入れシステム10は、レーザ装置20と、加工ヘッド30と、ロボット装置40と、メインコントローラ50とを備える。ロボット装置40は、ワーク100と加工ヘッド30との位置関係を相対的に変化させるレーザ光走査装置である。メインコントローラ50は、レーザ焼入れシステム10の各構成要素の動作を制御する制御装置であって、且つ入力装置および表示装置としても機能する。

【0017】
レーザ焼入れシステム10は、さらに、ワーク100を載せる加工テーブル11、ワーク100の温度を計測する温度センサ12等を備える。加工テーブル11は、ワーク100の形状に合わせて適宜変更可能であり、特に限定されない。本実施形態では、ロボット装置40により加工ヘッド30を動かすものとして説明するが、加工テーブル11を動かすことでワーク100に対してレーザ光を走査してもよい。

【0018】
温度センサ12は、焼入れ加工中において、ワーク100の焼入れ領域101の温度をリアルタイムで計測できるものであれば特に限定されないが、計測精度等の観点から放射温度計を用いることが好適である。温度センサ12に放射温度計を用いた場合、温度センサ12は、センサ用ファイバ13、およびセンサ用アンプ14を含み、加工ヘッド30に搭載されることが好ましい。

【0019】
温度センサ12に好適な放射温度計としては、計測可能温度が100℃~2500℃程度のものが例示できる。放射温度計は、例えば、低温域に対応する第1の温度計および高温域に対応する第2の温度計のように、複数設けられてもよい。また、放射温度計の光軸は、ワーク100に照射されるレーザ光と同軸上に設定されることが好適である。

【0020】
レーザ装置20は、ワーク100を焼入れ加工できるレーザ光を出力可能な装置であれば特に限定されず、公知のレーザ装置を適用することができる。好適なレーザ装置20としては、高出力半導体レーザ装置(HDDL)やYAGレーザ装置、CO2レーザ装置等が例示できる。レーザ装置20には、レーザ用ファイバ21が接続されており、レーザ装置20から出力されたレーザ光は、レーザ用ファイバ21を通って加工ヘッド30に伝送される。

【0021】
加工ヘッド30は、ワーク100の焼入れ領域101に対してレーザ光を照射するための構成要素であって、ワーク100に対してレーザ光を照射可能な位置に配置される。例えば、加工テーブル11の直上に配置される。加工ヘッド30には、例えば、その上部にレーザ用ファイバ21が接続されており、加工ヘッド30の上部から導入されたレーザ光は、後述の光学系を通過して下部からワーク100に向けて照射される。なお、加工ヘッド30は、ロボット装置40の後述するアーム部42に取り付けられている。

【0022】
加工ヘッド30には、XYスキャナ、F-θレンズ等の光学系(いずれも図示せず)が搭載されている。なお、これら光学系には、公知の形態を適用することができる。

【0023】
ロボット装置40は、ワーク100上で加工ヘッド30を動かして、レーザ装置20から出力されるレーザ光をワーク100の焼入れ領域101に沿って走査する。ロボット装置40は、土台として機能する本体部41と、本体部41から延びるアーム部42とを有する。本体部41には、例えば、メインコントローラ50からの制御指令を受けてアーム部42を動作させるコントローラが内蔵されている。アーム部42には、複数の関節部が設けられることが好ましい。アーム部42は、例えば、手首部、下腕部、上腕部を有し、それぞれを独立に動かすことができる。また、本体部41とアーム部42との連結部は、旋回可能であることが好ましい。これにより、加工ヘッド30を水平方向(XY方向)、上下方向(Z方向)に動かすことができる。

【0024】
メインコントローラ50は、上記のように、入力装置、表示装置、および制御装置として機能する。この機能を実現するために、メインコントローラ50は、操作部51、表示部52、および制御部53を有する。操作部51としては、オペレータによる加工パラメータの入力が可能なものであれば特に限定されず、例えば、キーボードやテンキー、スイッチ、つまみ、タッチパネルなどが例示できる。表示部52も特に限定されず、一般的なディスプレイを用いることができる。

【0025】
操作部51により入力される加工パラメータとしては、ワーク100の材質が挙げられる。メインコントローラ50は、例えば、ワーク100の材質に対応するレーザ光の吸収率を記憶しており、入力された材質情報から当該吸収率を自動的に導出する。その他の加工パラメータとしては、焼入れ領域101を含むワーク100の形状に関する情報が必要である。かかる情報としては、焼入れ領域101を含むワーク100の形状を示すCADデータを用いることが好適である。また、本システムでは、オペレータにより、制御モードが選択される。さらに、オペレータは、必要により、焼入れ加工中に焼入れ温度の設定を変更する。これらの操作は、操作部51の操作により行うことができる。

【0026】
図2に、加工精度および加工時間と制御モードとの関係を示す。
上記制御モードは、加工精度および加工速度に基づいて予め設定されたものである。制御モードM1は、高い加工精度が要求される場合に好適である。但し、制御モードM1では、高い加工精度を追求するため加工速度が遅くなる。一方、焼入れ領域101の形状が単純である場合には、制御モードM3が好適であり、これにより高速加工が可能となる。制御モードM2は、M1とM3との中間的なモードである。後述の焼入れ条件演算手段60は、選択された制御モードに基づいて、適切な焼入れ条件を演算する。

【0027】
上記制御モードは、M1~M3に限定されず、より多くの制御モードを設定することもできる。また、制御モードの選択は、例えば、焼入れ領域101の曲部や表面凹凸の程度(曲率半径、表面凹凸の大きさ)、曲部や表面凹凸の存在頻度等に基づいて、制御部53が自動的に選択するものとしてもよい。

【0028】
制御部53は、焼入れ条件演算手段60、および焼入れ制御手段61を有する。これにより、オペレータが入力した加工パラメータに基づいて焼入れ条件を設定し、かかる焼入れ条件に従って目的とする焼入れ領域101を焼入れ加工することができる。制御部53は、例えば、CPU、入力した加工パラメータや焼入れ演算手段60等の各手段の機能を実行するための制御プログラムなどを記憶する記録部、および入出力ポートなどを備える装置であって、コンピュータによって構成することができる。

【0029】
焼入れ演算手段60は、ワーク100の材質に応じた焼入れ温度Tを設定し(以下、焼入れ温度Tの設定値を設定温度Tsという)、設定温度Tsと、焼入れ領域101を含むワーク100の形状を示すCADデータと、選択された制御モードとに基づいて、標準焼入れ条件を演算する。標準焼入れ条件には、例えば、レーザ光の標準出力、レーザ光の標準焦点位置、およびレーザ光の標準走査速度が含まれる。焼入れ演算手段60は、焼入れ領域101の全域において、例えば、レーザ光の各照射スポットでの温度が一定となるように、標準出力、標準焦点位置、および標準走査速度を演算する。また、ロボット装置40だけでなく、XYスキャナやフォーカスレンズ等の動作も演算する。

【0030】
焼入れ演算手段60により演算される標準焼入れ条件は、例えば、焼入れ始点から終点に亘って一定である。標準焦点位置は、焼入れ領域101のいずれかの位置(例えば、焼入れ始点)を基準として、その位置と加工ヘッド30との距離が適正なワーキングディスタンスとなるように演算される。標準出力および標準走査速度は、例えば、設定温度Tsと、選択された制御モードとにより演算される。つまり、焼入れ演算手段60は、焼入れ領域101の曲率半径や表面凹凸を考慮しない。

【0031】
標準焼入れ条件には、標準出力、標準焦点位置、および標準走査速度の他にも、例えば、焼入れ領域101に対するレーザ光の照射角度が含まれる。平坦な面の焼入れでは、通常、照射角度はワーク100の表面に対して略垂直又はXYスキャナで変更可能な角度範囲内であるが、ワーク100の厚み方向に対して交差する面を焼入れする場合等には、例えば、アーム部42の手首部を動かして照射角度を変更することが好ましい。

【0032】
焼入れ制御手段61は、焼入れ演算手段60により演算された標準焼入れ条件又は後述の補正焼入れ条件に従い、レーザ装置20や加工ヘッド30、ロボット装置40等の各構成要素の動作を制御して焼入れ加工を実行する。焼入れ制御手段61は、温度センサ12から焼入れ領域101の温度を取得して、その温度が設定温度Tsから所定温度以上ずれたときに、レーザ光の出力を調整する温度フィードバック制御を実行することが好ましい。

【0033】
制御部53は、さらに、焼入れ領域101の形状等に合わせて焼入れ条件をより的確に設定するための補正手段を複数有する。即ち、制御部53は、必要により、標準焼入れ条件を補正する。さらに、必要により、補正した焼入れ条件(以下、補正焼入れ条件という)を追加補正する。

【0034】
補正手段としては、第1補正手段62、第2補正手段63、第3補正手段65、およびオンライン補正手段66が挙げられる。第1補正手段62、第2補正手段63、および第3補正手段65は、焼入れ加工が開始される前に焼入れ条件を補正し、オンライン補正手段66は、加工中に焼入れ条件を補正する。また、第3補正手段65は、トライアル実行手段64により後述のトライアルが実行された場合に補正を実行する。

【0035】
第1補正手段62は、焼入れ領域101の曲率半径Rが小さくなるに従って、レーザ光の走査速度を遅くする。つまり、一定である標準走査速度を、焼入れ領域101の曲率半径Rに合わせて補正する。また、第1補正手段62は、走査速度を遅くするほど、レーザ光の出力を下げることが好ましい。焼入れ領域101に曲部が存在し、この曲率半径が小さい場合には、レーザ光が焼入れ領域101よりも内側を通る又はオーバーランすることが想定されるが、第1補正手段62により、このような問題の発生を防止できる。また、走査速度に合わせて出力を変更することで、走査速度を遅くした曲部において過加熱状態となることを防止できる。

【0036】
第1補正手段62は、焼入れ領域101の曲率半径Rが所定の閾値Rz以下であるときに、曲率半径Rに応じて走査速度を遅くすることが好適である。閾値Rzは、例えば、実験やシミュレーションにより決定することができ、制御モードM1~M3に応じて変更することもできる。例えば、制御モードM1,M2,M3の順に、Rz=0.5mm,0.4mm,0.3mmのように設定できる。また、曲率半径Rが閾値Rz以下であっても、走査速度を一定にする範囲を定めて段階的に走査速度を変更してもよい。例えば、0.3mm<R≦0.5mmでは、標準走査速度の75%とし、0.1mm<R≦0.3mmでは、標準走査速度の50%とするように補正できる。

【0037】
第2補正手段63は、焼入れ領域101の表面凹凸が大きくなるに従って、レーザ光の焦点位置を標準焦点位置から大きくシフトさせる。つまり、第2補正手段63は、一定である標準焦点位置を、焼入れ領域101の表面凹凸に合わせて補正する。これにより、表面凹凸が大きい部分であっても適正なワーキングディスタンスで加工することができる。

【0038】
第2補正手段63は、焼入れ領域101の表面凹凸の大きさHが所定の閾値Hz以上であるときに、表面凹凸の大きさHに応じて焦点位置をシフトさせることが好適である。閾値Hzは、閾値Rzと同様に、実験やシミュレーションにより決定することができ、制御モードM1~M3に応じて変更することもできる。

【0039】
図3に、焼入れ領域101の形状と焼入れ条件との関係を示す。
同図では、焼入れ領域101の平面図(紙面左側)、および焼入れ領域101のA線に沿ってワーク100を切断した断面図(紙面右側)を示す。断面図では、紙面の左右方向がワーク100の厚み方向である。また、断面図の紙面右側に、焦点位置をP0,P1,P2のそれぞれに設定する範囲を示す。

【0040】
図3に例示する焼入れ領域101には、凹部102、凸部103、および2つの曲部104a,104bが存在する。曲部104a,104bに挟まれた直線部105には表面凹凸が存在せず、ここでの焼入れ条件が、標準焼入れ条件、即ち標準焦点位置P0、標準走査速度V0、標準出力K0となる。

【0041】
一方、凹部102では、第2補正手段63の機能により、焦点位置のみが標準焦点位置P0よりも下方にシフトした焦点位置P1に変更される。また、凸部103では、標準焦点位置P0よりも上方にシフトした焦点位置P2に変更される。標準焦点位置P0(直線部105)に対する表面凹凸の大きさ(直線部105との差)は、凹部102よりも凸部103の方が大きいため、焦点位置の変化量は、凹部102よりも凸部103において大きくなる。即ち、|P2-P0|>|P1-P0|である。

【0042】
さらに、曲部104a,104bでは、第1補正手段62の機能により、走査速度が標準走査速度V0よりも遅くされる。そして、曲部104bの曲率半径Rbは、曲部104aの曲率半径Raよりも小さいため、曲部104bでの走査速度Vbは、曲部104aでの走査速度Vaよりも遅くされる(Vb<Va)。また、走査速度の減少に合わせて、出力を標準出力K0よりも小さくする。曲部104bにおける出力Kbは、曲部104aにおける出力Kaよりも小さくされる。

【0043】
トライアル実行手段64は、標準出力又は補正された出力を焼入れ領域101に酸化膜が形成されないレベルに変更してトライアルを行い、当該トライアルにおける焼入れ領域101の温度を計測する。トライアルとは、標準焼入れ条件又は補正焼入れ条件が適当であることを確認するためのプロセスであって、レーザ光の出力以外の条件は、実際に焼入れ加工を行うときと同じに設定される。

【0044】
トライアル実行手段64は、トライアルにおける焼入れ領域101の温度が、200℃以下、好ましくは100℃~150℃となるように、レーザ光の出力を下げる(例えば、標準出力の1/10)ことが好適である。このため、焼入れ領域101に酸化膜が形成されず、トライアルにより焼入れ領域101の表面状態が変化することを防止できる。

【0045】
トライアルは、例えば、オペレータが実施の有無を選択可能な設定とすることができる。例えば、焼入れ領域101の形状が単純である場合には、標準焼入れ条件で十分に対応できるため、オペレータはトライアルを省略できる。或いは、補正手段による補正量に基づいて自動的にトライアルの有無を決定する設定としてもよく、例えば、補正量が多い場合に限定してトライアルを実施してもよい。

【0046】
第3補正手段65は、上記トライアルにおいて計測された焼入れ領域101の温度に応じて標準焼入れ条件又は補正焼入れ条件を変更する。第3補正手段65は、例えば、トライアルで計測された焼入れ領域101の温度(以下、計測温度という)が、予測される温度から所定温度以上ずれる場合、又は計測温度の振れ幅ΔTが所定範囲(例えば、計測温度±30℃)を超える場合に焼入れ条件を変更する。後者の場合は、焼入れ領域101において、計測温度±30℃を超える部分の焼入れ条件を、計測温度±30℃を満たすように変更することが好適である。

【0047】
第3補正手段65による補正は、レーザ光の出力、焦点位置、走査速度のいずれを変更して行ってもよいが、補正が軽微である場合には、出力のみを変更して行うことが好適である。補正が軽微であるか否かの判定は、例えば、補正量と予め設定した閾値とを比較して行うことができ、補正量が閾値を超える場合には、焼入れ領域101の形状に応じて焦点位置や走査速度を変更してもよい。

【0048】
オンライン補正手段66は、焼入れ加工中において、オペレータが設定温度Tsを変更した場合に、標準焼入れ条件又は補正焼入れ条件を変更する。本実施形態では、焼入れ加工中に設定温度Tsを変更できる機能が操作部51に含まれる。そして、オンライン補正手段66は、操作部51の操作に基づいて、焼入れ条件を変更する。例えば、設定温度Tsが大きく変更されたときには、焼入れ条件を大きく変更する。この補正機能は、例えば、オペレータが焼入れ領域101から煙が発生する等して温度センサ12により取得される温度が実際の温度よりも低いと判断した場合などに使用される。オペレータは、例えば、レーザ光が照射されている焼入れ領域101の色に基づいて、必要により、設定温度Tsを変更することができる。

【0049】
オンライン補正手段66による補正は、第3補正手段65と同様に、レーザ光の出力、焦点位置、走査速度のいずれを変更して行ってもよいが、操作部51の操作に基づく補正であるため、出力のみを変更して行うことが好適である。

【0050】
なお、トライアル実行手段64は、レーザ光の出力を下げて焼入れ領域101に酸化膜を形成しながらトライアルを行い、当該酸化膜におけるレーザ光の吸収率を取得する構成とすることも好適である。実際の焼入れ加工では、ワーク100が非常に高温になるため、加工点(レーザ光の照射スポット)の周囲もある程度高温になり、ワーク100の表面に酸化膜が形成される場合がある。つまり、レーザ光を走査して焼入れするときに、次の加工点には既に酸化膜が形成されている場合がある。酸化膜を形成するトライアルは、このような場合に好適である。

【0051】
この場合、トライアルにおける焼入れ領域101の温度が、好ましくは200℃~300℃となるように、レーザ光の出力を下げることが好適である。なお、吸収率と放射率とは等しいから、トライアルにおける酸化膜の吸収率は、放射温度計を用いて取得することができる。このとき、放射温度計の光軸は、例えば、レーザ光の照射スポットの走査方向後方に設定することが好ましい。又は、吸収率測定用の放射温度計を別途設けてもよい。

【0052】
この場合、第3補正手段65は、トライアルにおいて取得された酸化膜の吸収率に応じて標準焼入れ条件又は補正焼入れ条件を変更する。第3補正手段65は、例えば、酸化膜の吸収率に基づいて、レーザ光の出力を変更することができる。

【0053】
ここで、図4および図5を参照しながら、上記構成を備えたレーザ焼入れシステム10によりワーク100を焼入れ加工するときの制御手順の一例について詳説する。
図4および図5は、かかる制御手順を示すフローチャートである。同図では、オペレータによる手順を鎖線で囲み、制御部53による手順を実線で囲んでいる。

【0054】
まず初めに、オペレータによって加工に必要なパラメータが入力される(S10)。入力されるパラメータとしては、ワーク100の材質、焼入れ領域101を含むワーク100の形状を示すCADデータ、および制御モード(M1~M3のいずれか)が挙げられる。オペレータは、操作部51の操作により、これらのパラメータを入力することができる。

【0055】
続いて、入力されたワーク100の材質から焼入れに使用するレーザ光の吸収率を導き、焼入れ温度を設定する(S11)。なお、S11~S13の手順は、焼入れ条件演算手段60の機能により実行される。ワーク100の上記吸収率に対応する焼入れ温度は、例えば、制御部53の記憶部に予め記憶されている。そして、焼入れ条件演算手段60は、上記吸収率に対応する焼入れ温度を設定する(設定温度Tsの決定)。ここで、上記吸収率は、ワーク100の材質だけでなく、表面粗さ等を考慮して導出してもよい。また、複数の制御モードのうち、選択された制御モードを焼入れ条件演算の前提条件として設定する(S12)。

【0056】
そして、設定温度Tsと、ワーク100の形状を示すCADデータと、選択された制御モードとに基づいて、標準焼入れ条件を演算する(S13)。焼入れ演算手段60は、焼入れ領域101の全域において、例えば、レーザ光の各照射スポットでの温度が一定となるように、標準出力、標準焦点位置、および標準走査速度を演算する。

【0057】
次に、S14~S22において、焼入れ条件を補正する。なお、S24,S25は、焼入れ加工中に焼入れ条件を補正するステップである。

【0058】
まず、S14では、ワーク100のCADデータに基づいて、焼入れ領域101の曲部の曲率半径Rが閾値Rz以下であるか否かを判定する。S14において、曲率半径Rが閾値Rz以下であると判定されたときには、曲率半径Rが小さくなるに従って、レーザ光の走査速度を遅くする(S15)。即ち、アーム部42の動きを遅くする。一方、焼入れ領域101に曲部が存在しない場合や曲部の曲率半径Rが閾値Rzよりも大きく曲率が緩やかである場合には、標準走査速度を維持して、次の補正ステップに進む。

【0059】
S16では、S14と同様に、CADデータに基づいて、焼入れ領域101の表面凹凸の大きさHが閾値Hz以上であるか否かを判定する。S16において、閾値Hz以上の表面凹凸があると判定されたときには、表面凹凸の大きさHが大きくなるに従って、レーザ光の焦点位置を標準焦点位置から大きくシフトさせる(S17)。即ち、フォーカスレンズやアーム部42を制御して、凹部においては、その深さに応じて焦点位置を下方にシフトさせ、凸部においては、その高さに応じて焦点位置を上方にシフトさせる。一方、焼入れ領域101に表面凹凸が存在しない場合や表面凹凸の大きさHが閾値Hzよりも小さな場合には、標準焦点位置を維持して、次の補正ステップに進む。

【0060】
S18では、上記トライアルの実施の有無を判定する。トライアルの実施の有無は、オペレータにより選択可能とすることが好適であり、実施が選択されたときには、レーザ光の出力を下げてトライアルを実施する(S19,S20)。トライアルでは、ワーク100に酸化膜が形成されない程度まで出力を下げ、その他のパラメータは実際の焼入れ加工時と同じに設定する。そして、温度センサ12により焼入れ領域101の温度を計測する。

【0061】
続いて、トライアルにおける計測温度の振れ幅ΔTが所定範囲ΔTzよりも大きいか否かを判定する(S21)。S21において、振れ幅ΔTが所定範囲ΔTzよりも大きいと判定されたときには、焼入れ条件を補正する(S22)。焼入れ条件の補正は、例えば、レーザ光の出力を変更することにより行う。一方、振れ幅ΔTが所定範囲ΔTzよりも小さい場合には、標準焼入れ条件又は補正焼入れ条件が適当であることを意味し、補正を行わずに次のステップに進む。

【0062】
そして、標準焼入れ条件又は補正焼入れ条件に従って焼入れ加工を開始する(S23)。この手順は、焼入れ制御手段61の機能により実行される。ロボット装置40は焼入れ領域101に沿って加工ヘッド30を動かし、自動的に加工が行われるが、通常、オペレータは加工状態を観察する。そして、焼入れ領域101の色等から、焼入れ温度が適切ではないと判断したときには、操作部51の操作により設定温度Tsを変更することができ(S24)、この操作に基づき加工中に焼入れ条件を補正する(S25)。このとき、焼入れ条件の補正は、レーザ光の出力を変更することにより行うことが好適である。

【0063】
なお、焼入れ領域101の全域において、焼入れが完了したときには(S26)、焼入れ加工の全工程を終了する。
【符号の説明】
【0064】
10 レーザ焼入れシステム、11 加工テーブル、12 温度センサ、13 センサ用ファイバ、14 センサ用アンプ、20 レーザ装置、21 レーザ用ファイバ、30 加工ヘッド、40 ロボット装置、41 本体部、42 アーム部、50 メインコントローラ、51 操作部、52 表示部、53 制御部、60 焼入れ条件演算手段、61 焼入れ制御手段、62 第1補正手段、63 第2補正手段、64 トライアル実行手段、65 第3補正手段、66 オンライン補正手段、100 ワーク、101 焼入れ領域、102 凹部、103 凸部、104a,104b 曲部、105 直線部。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4