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明細書 :キチンまたはキトサンと合成高分子との複合体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5939796号 (P5939796)
公開番号 特開2013-136699 (P2013-136699A)
登録日 平成28年5月27日(2016.5.27)
発行日 平成28年6月22日(2016.6.22)
公開日 平成25年7月11日(2013.7.11)
発明の名称または考案の名称 キチンまたはキトサンと合成高分子との複合体およびその製造方法
国際特許分類 C08F   2/44        (2006.01)
C08J   3/075       (2006.01)
C08B  37/08        (2006.01)
FI C08F 2/44 C
C08J 3/075 CEP
C08B 37/08 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 19
出願番号 特願2011-288901 (P2011-288901)
出願日 平成23年12月28日(2011.12.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 1.日本キチン・キトサン学会発行、キチン・キトサン研究 第17巻第2号(2011年)、平成23年7月1日発行 2.第25回キチン・キトサンシンポジウム、日本キチン・キトサン学会、平成23年8月30日~31日開催
審査請求日 平成26年12月25日(2014.12.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
発明者または考案者 【氏名】田村 裕
【氏名】古池 哲也
【氏名】大西 裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
【識別番号】100156085、【弁理士】、【氏名又は名称】新免 勝利
審査官 【審査官】赤澤 高之
参考文献・文献 特開2001-190274(JP,A)
特表2009-507110(JP,A)
調査した分野 C08F 2/44
C08J 3/075
C08B 37/08
特許請求の範囲 【請求項1】
a)キチンゲルまたはキトサンヒドロゲルを提供する工程; および
(b)該キチンゲルまたはキトサンヒドロゲル、架橋剤および重合開始剤の存在下において、液体状態で、ビニル化合物である重合性モノマーを重合させる工程
を含む、キチンまたはキトサンとビニル化合物重合体との複合体の製造方法であって、
キチンゲルを提供する工程(A)が、
(A1)少なくとも1mm以上の平均粒子径を有するキチンと、該キチン1重量部に対して0.8~100重量部の分散媒とを均一に混合する工程;
(A2)得られた混合物と、工程(A1)のキチン1重量部に対して0.8~100重量部の分散媒とを均一に混合する工程; および
(A3)分散媒の総量が工程(A1)のキチン1重量部に対して4~500重量部になるまで工程(A2)を繰り返してキチンゲルを得る工程
を含み、または
(A1’)キチンを、塩化カルシウム水和物飽和メタノール、ジメチルアセトアミド-塩化リチウムおよびイオン液体からなる群より選択される溶媒に溶解させる工程; および
(A2’)該キチン溶液から溶媒を除去し、キチン1重量部に対する溶媒の量が50~90重量部であるキチンゲルを得る工程
を含み、ならびに
キトサンヒドロゲルを提供する工程(B)が、
(B1)キトサンを酸水溶液に溶解する工程;
(B2)工程(B1)のキトサン水溶液のpHを7~12に調整する工程;
(B3)工程(B2)において生じた沈殿を収集する工程; および、
(B4)工程(B3)において収集した沈殿を水によりpHが6.0~7.5になるまで洗浄する工程、または工程(B3)において収集した沈殿を水に分散させた液を、pHが6.0~7.5になるまで水に対して透析する工程
を含む、複合体の製造方法
【請求項2】
キチンゲルを提供する工程(A)において、分散媒が水である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
キチンゲルを提供する工程(A)において、溶媒が塩化カルシウム二水和物飽和メタノールである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)の前に、工程(a)において提供されたキチンゲルまたはキトサンヒドロゲル中の分散媒もしくは溶媒を別の分散媒もしくは溶媒に置換する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
重合性モノマーが、アクリル酸エステルメタクリル酸エステルまたはスチレンである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
架橋剤が、多官能アクリル酸エステル多官能メタクリル酸エステルまたはジビニルベンゼンである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
重合開始剤が、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウムおよび過酸化ベンゾイルからなる群より選択されるラジカル重合開始剤である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、天然高分子と合成高分子との複合化技術、特に、キチンまたはキトサンと合成高分子との複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンおよびキトサンは、エビ、カニ、イカ等から得られる天然高分子である。また、生物資源としてはセルロースに次ぐ年間生産量を有しており、生体適合性や生分解性に優れた材料として様々な技術分野において利用されている。特に、キトサンは抗菌性を有しており、また、キチンは表皮細胞増殖促進効果を発揮することから、医用および生活関連分野の用途に利用されている。
【0003】
例えば医用分野においては、表皮細胞増殖促進効果を有するキチン繊維の不織布(特許文献1)やキチン・キトサンの綿状物(特許文献2)等が創傷被覆保護材として利用されており、表面にキトサン又は改質キトサンが塗布された不織布からなる白血球除去用フィルタ(特許文献3)等も開発されている。また、生活関連分野への応用例としては、例えば抗菌性を有するキチン・キトサン繊維が挙げられる(特許文献4)。
【0004】
しかし、これらの応用事例はいずれも、キチンまたはキトサンを単独で利用するもの、あるいはキチンまたはキトサンと他の高分子をグラフト化または被覆もしくは混合等によって化学的または物理的に複合化した材料等を利用するものがほとんどである。
【0005】
一方、高性能かつ安全性の高い蓄電デバイス用の膜として、イオン液体を含浸したキトサン膜の利用が注目されており、例えば、電気二重層キャパシタ用のキトサンを用いたゲル電解質の開発が進められている(副田和位,山崎穣輝,山縣雅紀,石川正司, 「イオン液体を用いた非水系天然高分子ゲルのEDLC特性に対する効果」第51回電池討論会(2010年11月9日~11日))。
【0006】
しかし、キチンやキトサンを用いたゲル電解質を実用化するためには、これらを薄膜化する技術が必要となる。さらに、キチンやキトサンのみからなる薄膜は強度に問題があり、その製造自体も容易ではない。
【0007】
キチンまたはキトサンと他の高分子との複合材料としては、キチンとポリビニルピロリドン(PVP)をブレンドした材料(非特許文献1)や、キチンまたはキトサン骨格にポリサルコシン鎖をグラフト化した材料(非特許文献2および3)等が知られているが、これらが膜材料として適した物性を有するかどうかは不明であり、また、異種の高分子化合物を良溶媒へ溶解させて混合(ブレンド)する複合化方法では、溶媒を除去した際に相分離する場合がある。
【0008】
そのため、例えば薄膜化に適した強靱な物性等を有する、キチンまたはキトサンを利用した新規な高分子複合体や、相分離を生じることなくかかる高分子複合体を製造できる新規な方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特公平5-26498号公報
【特許文献2】特許第3046099号公報
【特許文献3】特開平10-338639号公報
【特許文献4】特許2822174号公報
【0010】

【非特許文献1】宮下美晴、山田康博、木村悟隆、西尾嘉之、鈴木秀松、「キチン/ポリ(N-ビニルピロリドン)ブレンドの調製と相溶性評価」、繊維学会誌、vol.51、No.8、pp.396-399 (1995)
【非特許文献2】Nakamura, R., Aoi, K. and Okada, M., "Controlled Synthesis of a Chitosan-Based Graft Copolymer Having Polysarcosine Side Chains Using the NCA Method with a Carboxylic Acid Additive", Macromolecular Rapid Communications, 27, 1725 (2006).
【非特許文献3】Nakamura, R., Aoi, K. and Okada, M., "Interactions of Enzymes and a Lectin with a Chitin-Based Graft Copolymer Having Polysarcosine Side Chains", Macromolecular Bioscience, 4, 610 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、薄膜化に適した強靱な膜物性等、キチンまたはキトサン単独では得られない物性を有するキチンまたはキトサンと合成高分子との複合体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の工程を含む、キチンまたはキトサンと合成高分子との複合体の製造方法を提供する:
(a)キチンゲルまたはキトサンヒドロゲルを提供する工程; および
(b)該キチンゲルまたはキトサンヒドロゲル、架橋剤および重合開始剤の存在下において、液体状態で重合性モノマーを重合させる工程。
【0013】
また、本発明は、上記の製造方法により得られる、キチンまたはキトサンと合成高分子との複合体を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、キチンまたはキトサンと架橋された合成高分子との複合体であって、該架橋された合成高分子により形成される三次元網目構造中にキチン鎖またはキトサン鎖が侵入していることを特徴とする複合体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合体の製造方法により、キチンまたはキトサン単独の膜と比較して強靱な膜物性を有するキチンまたはキトサンと合成高分子との複合体を得ることができる。また、重合性モノマー、架橋剤および重合開始剤の種類の選択や、キチンまたはキトサン、重合性モノマーおよび架橋剤の仕込み比の調節により、得られる複合体の物性を用途に応じて自在にコントロールすることが可能となる。さらに、キチンまたはキトサンと合成高分子を単に物理的に混合するのではなく、キチンゲルまたはキトサンヒドロゲルの存在下、液体状態で重合性モノマーの重合を行うため、相分離を生じることなくキチンまたはキトサンと合成高分子とが複合した均質な高分子複合体を製造することができる。
【0016】
また、本発明の方法において使用するキチンゲルおよびキトサンヒドロゲルは、強酸または酸水溶液に溶解させたキチンまたはキトサンとは異なり、分子量の低下を起こすことなく長時間保存することが可能である。そのため、本発明の複合体の製造方法は、重合反応の度にキチンまたはキトサンからゲルを調製する必要がないという利点を有する。また、キチンゲルおよびキトサンヒドロゲルがある程度の粘性を有するため、重合性モノマー、架橋剤および重合開始剤との混合後すぐに型に流し込んで成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、異なるタイプの重合開始剤: a) 2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN); b) 過酸化水素(H2O2); および c) 過硫酸カリウム(KPS)を用いて、本発明の方法により調製したβ-キチン/pHEMA複合体の外観を示す。
【図2】図2は、蒸留水中に24時間浸漬した後の、実施例3のβ-キチン/pHEMA複合体の外観を示す。
【図3】図3は、実施例4のβ-キチン/pHEMA複合体の破断面を示す。
【図4】図4は、湿潤状態における実施例4のβ-キチン/pHEMA複合体に a) 引張力および b) 圧縮力をかけた場合の外観を示す。
【図5】図5は、実施例5のβ-キチン/pHEMA複合体の外観を示す。
【図6】図6は、実施例6のβ-キチン/pHEMA複合体の外観を示す。
【図7】図7は、乾燥状態における実施例4の複合体の機械的物性に及ぼすβ-キチン/HEMAモル比の影響を示す。
【図8】図8は、湿潤状態における実施例4の複合体の機械的物性に及ぼすβ-キチン/HEMAモル比の影響を示す。
【図9】図9は、湿潤状態における実施例4の複合体の機械的物性に及ぼすTEGDM含量の影響を示す。
【図10】図10は、実施例4のβ-キチン/pHEMA複合体の膨潤挙動に及ぼすβ-キチン/HEMAモル比およびTEGDM含量の影響を示す。3つ組のバーはそれぞれ左から順に、蒸留水、PBS緩衝液、酢酸緩衝液の結果を示している。
【図11】図11は、実施例4のβ-キチン/pHEMA複合体の生分解性に及ぼすβ-キチン/HEMAモル比およびTEGDM含量の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の複合体の製造方法において用いるキチンの入手源は特に限定されないが、例えば、エビ、カニなどの甲殻類の甲殻やイカの甲からカルシウムやタンパク等を除去して得たものであってもよいし、市販のものでもよい。また、αキチンおよびβキチンのいずれも使用することが可能である。本発明の複合体の製造方法において用いるキチンの形態は特に限定されず、例えば、粒状、フレーク状、粉末状のいずれの形態であってもよい。本発明の複合体の製造方法において用いるキチンの分子量は、10,000~1,000,000程度が好ましく、50,000~500,000程度がより好ましく、100,000~300,000程度がさらに好ましい。

【0019】
本発明の複合体の製造方法において用いるキトサンの入手源は特に限定されないが、例えば、エビ、カニなどの甲殻類の甲殻やイカの甲などから得られるキチンを脱アセチル化して得たものでもよいし、市販のものでもよい。本発明の複合体の製造方法において用いるキトサンの形態は特に限定されず、例えば、粒状、フレーク状、粉末状のいずれの形態であってもよい。また、本発明の複合体の製造方法において用いるキトサンの脱アセチル化度は、75~98%程度が好ましい。本発明の複合体の製造方法において用いるキトサンの分子量は、10,000~500,000程度が好ましく、10,000~300,000程度がより好ましく、10,000~200,000程度がさらに好ましい。

【0020】
本明細書において、合成高分子とは、天然には通常存在せず、重合性モノマーの重合反応によって合成される高分子化合物をいう。

【0021】
本発明の複合体の製造方法において用いる重合性モノマーは、重合反応が可能な構造、例えば反応性官能基や不飽和結合等を有する化合物であり、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物が挙げられる。これら重合性モノマーの中で、親水性モノマーとしては、例えばヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルラクタム、N-アクリロイルモルフォリンやそれらの誘導体等を好適に用いることができ、中でもヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を特に好適に用いることができる。また、疎水性モノマーとしては、例えばメチルメタクリレート(MMA)、メチルアクリレート、スチレンをはじめとしたビニル化合物やそれらの誘導体等を好適に用いることができ、中でもメチルメタクリレート(MMA)を特に好適に用いることができる。

【0022】
本発明の複合体の製造方法において用いる架橋剤は、重合性モノマーの重合によって形成される分子鎖同士を架橋することができる化合物であり、例えば、多官能アクリル酸エステル、多官能メタクリル酸エステル、ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物が挙げられる。例えば、重合性モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用いる場合、架橋剤としてトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDM)やエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、N,N-メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物等を好適に用いることができ、中でもトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDM)を特に好適に用いることができる。

【0023】
本発明の複合体の製造方法において用いる重合開始剤は、熱や光等によってラジカル、カチオン、アニオン等の活性種を発生させる化合物であり、例えば、アゾ化合物、過硫酸塩類、過酸化物等が挙げられる。例えば、重合性モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用いる場合、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸化水素等を好適に用いることができる。また、紫外線や放射線の照射による重合開始でもよい。

【0024】
本発明の複合体の製造方法において用いるキチンゲルは、キチンと液体の分散媒もしくは溶媒とを含むゲル状物質である。例えば、該キチンゲルは、キチンに分散媒を少量ずつ添加しながら均一に混合すること、あるいは、キチンを良溶媒へ溶解させた後に該溶媒を除去すること等によって得ることができる。本発明の複合体の製造方法において用いるキトサンヒドロゲルは、キトサンと水を含むゲル状物質である。該キトサンヒドロゲルは、例えば、以下に記載する方法によって得ることができる。

【0025】
本発明の複合体の製造方法において重合性モノマーを重合させる工程は、キチンゲルまたはキトサンヒドロゲル、架橋剤および重合開始剤を液体状態の重合性モノマーと混合することにより、該混合物全体が液体の状態において重合反応を行うものである。

【0026】
キチンゲル提供方法(A)
本発明の一つの態様において、キチンゲルは以下の工程によって提供される(以下、「キチンゲル提供方法(A)」とも称する):
(1)少なくとも1mm以上の平均粒子径を有するキチンと、該キチン1重量部に対して0.8~100重量部の分散媒とを均一に混合する工程;
(2)得られた混合物と、工程(1)のキチン1重量部に対して0.8~100重量部の分散媒とを均一に混合する工程; および
(3)分散媒の総量が工程(1)のキチン1重量部に対して4~500重量部になるまで工程(2)を繰り返してキチンゲルを得る工程。

【0027】
キチンゲル提供方法(A)におけるキチンと分散媒の混合方法は、両者を均一に混合することができるものである限り特に限定されないが、例えば、Phoenix社製オスターブレンダーを用いて、10,000~20,000rpmで撹拌することによってキチンと分散媒を均一に混合することができる。

【0028】
キチンゲル提供方法(A)は、キチン(またはキチンと分散媒の混合物)と分散媒との混合工程を複数回繰り返すものである。キチンを分散媒で確実に膨潤させるためには、ある1回の混合工程において添加された分散媒の大部分がキチンに吸収され、キチンと分散媒の混合物がミキサーの回転歯等の動きによって動くことがなくなった段階で、次なる分散媒との混合工程に移ることが好ましい。また、キチンと分散媒を混合する工程は、合計で3~10回繰り返すことが好ましく、3~7回繰り返すことがさらに好ましい。

【0029】
キチンゲル提供方法(A)においては、αキチンよりも水素結合が弱く膨潤しやすいβキチンを使用することが好ましい。また、キチンゲル提供方法(A)において使用するキチンの平均粒子径は、少なくとも1mm以上であることが好ましく、1~5mmであることがより好ましく、2~3mmであることがさらに好ましい。平均粒子径は、例えば、一般的なロータップふるい振盪機等を用いて、ふるい分け法により粒度分布を測定し、ロジン・ラムラー式に基づいて算出することができる。

【0030】
キチンゲル提供方法(A)においてキチンと混合する分散媒の量は、混合工程1回につき、キチン1重量部に対して0.8~100重量部が好ましく、10~40重量部がより好ましく、10~30重量部がさらに好ましく、15~25重量部が特に好ましい。

【0031】
キチンゲル提供方法(A)において使用する分散媒は、有機溶媒または無機溶媒のいずれであってもよく、また、極性または無極性溶媒のいずれであってもよい。該分散媒は好ましくは極性溶媒であり、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等を好適に使用することができる。

【0032】
キチンゲル提供方法(A)によって得られるキチンゲルは、キチンと混合された分散媒の総量が工程(1)のキチン1重量部に対して4~500重量部であるものが好ましく、6~400重量部であるものがより好ましく、9~200重量部であるものがさらに好ましい。ここにいう「分散媒の総量」とは、工程(1)~(3)を通じてキチンと混合された分散媒の量を累積したものである。

【0033】
キチンゲル提供方法(B)
本発明の一つの態様において、キチンゲルは以下の工程によって提供される(以下、「キチンゲル提供方法(B)」とも称する):
(1)キチンを、塩化カルシウム水和物飽和メタノール、ジメチルアセトアミド-塩化リチウム、N-メチルモルフォリン-塩化リチウム、ジメチルアセトアミド-N-メチルモルフォリン-塩化リチウムおよびイオン液体からなる群より選択される溶媒に溶解させる工程; および
(2)該キチン溶液から溶媒を除去し、キチン1重量部に対する溶媒の量が50~90重量部であるキチンゲルを得る工程。

【0034】
キチンゲル提供方法(B)において用い得る溶媒としては、例えば塩化カルシウム水和物飽和メタノール、塩化カルシウム水和物飽和エタノール、ジメチルアセトアミド-塩化リチウム、N-メチルモルフォリン-塩化リチウム、ジメチルアセトアミド-N-メチルモルフォリン-塩化リチウム、イオン液体等が挙げられる。これらの中では、比較的安全性が高く、環境への負荷が低いことから塩化カルシウム水和物飽和メタノールが好適であり、溶解性の点から塩化カルシウム二水和物飽和メタノールを特に好適に用いることができる。イオン液体としてはカチオンおよびアニオンの種類によって様々なタイプのものが知られているが、キチンゲル提供方法(B)においては、例えば1-アリル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等をキチンの溶媒として用いることができる。

【0035】
キチンゲル提供方法(B)の工程(1)においてキチンを溶解させる溶媒の量は特に限定されないが、キチン1重量部に対して55~200重量部が好ましく、60~150重量部がより好ましい。

【0036】
キチンゲル提供方法(B)の工程(2)においてキチン溶液から溶媒を除去する方法は特に限定されないが、例えば、加熱、減圧、遠心分離、風乾等によって溶媒を除去することができる。加熱によりキチン溶液から溶媒を除去する場合の条件としては、これらに限定されないが、例えば、100℃で3時間、80℃で5時間等の条件が挙げられる。減圧によりキチン溶液から溶媒を除去する場合の条件としては、これらに限定されないが、例えば、真空ポンプを用い、0.01気圧で1時間等の条件が挙げられ、40℃程度の加温を併用してもよい。

【0037】
キチンゲル提供方法(B)によって得られるキチンゲルは、該キチンゲル中の溶媒の量がキチン1重量部に対して50~90重量部であるものが好ましく、50~80重量部であるものがより好ましく、50~70重量部であるものがさらに好ましい。

【0038】
キトサンヒドロゲル提供方法
本発明の一つの態様において、キトサンヒドロゲルは以下の工程によって提供される(以下、「キトサンヒドロゲル提供方法」とも称する):
(1)キトサンを酸水溶液に溶解する工程;
(2)工程(1)のキトサン水溶液のpHを7~12に調整する工程;
(3)工程(2)において生じた沈殿を収集する工程; および
(4-a)工程(3)において収集した沈殿を水によりpHが6.0~7.5になるまで洗浄する工程、または(4-b)工程(3)において収集した沈殿を水に分散させた液を、pHが6.0~7.5になるまで水に対して透析する工程。

【0039】
上記キトサンヒドロゲル提供方法において、酸水溶液へのキトサンの溶解方法は特に限定されず、撹拌などの常套の方法により溶解すればよい。溶解時の温度は室温、例えば15~40℃とすればよい。溶解時間はキトサンの形状、分子量、脱アセチル化度等に応じて異なるが、一般的には4~5時間の撹拌により溶解する。

【0040】
上記キトサンヒドロゲル提供方法において用いる酸水溶液の種類は特に限定されないが、例えば酢酸水溶液、塩酸、乳酸水溶液などが挙げられ、好ましくは酢酸水溶液である。酢酸水溶液を用いる場合、その濃度は2~6重量%が好ましく、3.5~4.5重量%がさらに好ましい。例えば2重量%の酢酸水溶液に溶解して得られるキトサン水溶液のpHは通常、3.5~4.0程度である。

【0041】
上記キトサンヒドロゲル提供方法における工程(2)は、キトサン水溶液のpHを7~12、好ましくは8~10に調整する工程である。pHの調整は、当該技術分野における常套の方法、例えば、塩基性物質の添加、好ましくは塩基性物質の水溶液の滴下によって行うことができる。この際、水溶液を激しく撹拌することが好ましい。用い得る塩基性物質としては、これらに限定されないが、NaOH、KOH、NHOH等が挙げられる。

【0042】
上記キトサンヒドロゲル提供方法における工程(4-a)は、収集した沈殿を水によりpHが6.0~7.5、好ましくは6.8~7.2になるまで洗浄する工程である。該洗浄方法は特に限定されないが、例えば、収集した沈殿を水に分散して得られる懸濁液を撹拌し、遠心分離、ろ過などにより沈殿を収集することを繰り返す方法や、カラム中の沈殿に大量の水を通す方法などが挙げられる。

【0043】
上記キトサンヒドロゲル提供方法における工程(4-b)は、収集した沈殿を水に分散させた液を透析膜に入れ、pHが6.0~7.5、好ましくは6.8~7.2になるまで水に対して透析する工程である。透析に用いる分散液の量は透析液(即ち水)100重量部に対して0.1~1.0重量部とすることが好ましい。また、分散液におけるキトサンの含有量は0.1~2.0重量%程度とすることが好ましい。透析回数は、透析液の量や、分散液のpHなどによって異なるが、2~5回程度が好ましい。透析温度は室温、例えば10~20℃程度とすればよい。用いる透析膜は特に限定されず、セルロース系や合成高分子系等、種々の透析膜を用いることができる。

【0044】
上記キトサンヒドロゲル提供方法の工程(4-a)または(4-b)において用いる水としては、脱イオン水、蒸留水等の精製水を使用することが好ましい。

【0045】
また、上記キトサンヒドロゲル提供方法によって提供されるキトサンヒドロゲルの含水率は、90~99.8重量%であることが好ましく、95~99.5重量%であることがより好ましく、95~99重量%であることがさらに好ましい。該キトサンヒドロゲルの含水率は、遠心分離またはろ過等によって所望の値に変化させることができる。

【0046】
本発明の複合体の製造方法は、重合性モノマーを重合させる工程(b)の前に、提供されたキチンゲルまたはキトサンヒドロゲル中の分散媒もしくは溶媒を別の分散媒もしくは溶媒に置換する工程をさらに含み得る。かかる工程により、キチンゲルまたはキトサンヒドロゲル中の分散媒もしくは溶媒の種類を重合性モノマーの種類等に応じて最適なものに変更することができ、キチンまたはキトサンと合成高分子をより均一に複合化させることが可能となる。例えば、キチンゲル中の分散媒が水等の極性溶媒である場合に、重合性モノマーとして疎水性モノマーを用いると、キチンと合成高分子が均一に複合化しないおそれがある。この場合、キチンゲル中の分散媒を低極性または無極性の溶媒に置換することにより、疎水性の重合性モノマーから形成される合成高分子とキチンとを均一に複合化させることが可能となる。

【0047】
キチンゲルまたはキトサンヒドロゲル中の分散媒もしくは溶媒を置換する方法としては、まず水の極性に近い溶媒を加え、攪拌・遠心分離を繰り返し、さらに極性の低い溶媒を用いて同じ操作を繰り返す方法等が挙げられる。

【0048】
本発明の複合体の製造方法によって得られるキチンまたはキトサンと合成高分子との複合体は、架橋された合成高分子により形成される三次元網目構造中にキチン鎖またはキトサン鎖が侵入している構造を有するものである。かかる構造は、当該技術分野において一般にsemi-IPN構造と称されるものである。

【0049】
本発明の複合体の製造方法は、キチンを用いる場合、一つの特徴として、キチンを溶媒に溶解させること又は分散媒を用いてキチンを膨潤させること等によってキチンゲルを提供する工程を含むものである。かかる工程により、分子鎖内および分子鎖間の水素結合に起因するキチンの強固な結晶構造をほぐすことができる。そして、分子鎖がほぐれた状態のキチンゲルの存在下において液体状態で重合性モノマーの重合を行うことにより、均一なsemi-IPN構造を有する複合体を得ることが可能となる。キトサンを用いる場合についても同様に、分子鎖がほぐれた状態のキトサンヒドロゲルを提供することで、該キトサンヒドロゲルが必要最小限の酸に溶けた中性溶液の状態で重合性モノマーの重合を行うことにより、均一なsemi-IPN構造を有する複合体を得ることが可能となる。本発明の複合体の製造方法によって得られるキチンまたはキトサンと合成高分子との複合体が有する強靱な膜物性には、かかる均一なsemi-IPN構造が寄与しているものと考えられる。

【0050】
また、本発明の複合体の製造方法の変法として、キチンゲルまたはキトサンヒドロゲルに代えてキチン溶液またはキトサン粉末から調製したキトサン溶液を用い、該溶液、架橋剤および重合開始剤の存在下において重合性モノマーを重合させることによって、キチンまたはキトサンと合成高分子との複合体を製造することも可能である。

【0051】
本発明の複合体の製造方法において使用するキチンゲルおよびキトサンヒドロゲルは、実質的に酸を含まないものであるため、分子量の低下を起こすことなく長時間保存することが可能である。また、重合性モノマーの重合中においてもキチンまたはキトサンの分子量低下を防止することができる。

【0052】
本発明の複合体の製造方法は、重合性モノマー、架橋剤および重合開始剤の種類の選択や、キチンまたはキトサン、重合性モノマーおよび架橋剤の仕込み比の調節により、得られる複合体の物性を自在にコントロールすることができるものである。例えば、重合性モノマーに対するキチンまたはキトサンの比率を高めると、得られる複合体の生分解性および膨潤度は増大する傾向がある。また、重合反応に供する架橋剤の量を増加させると、生分解性および膨潤度は減少する傾向がある。さらに、重合反応に供する架橋剤の量を増加させると、引張強度および引張破断伸度は減少する傾向がある。

【0053】
仕込み比の例として、重合性モノマーに対するキチンまたはキトサンのモル比を0.001~0.027、0.022~0.110、0.022~0.072等の範囲として複合体を製造することができる。また、重合反応に供する架橋剤の量を、例えば、キチンまたはキトサン、重合性モノマー、架橋剤および重合開始剤の合計量に対して0.227~2.273モル%、2.27~13.6モル%等の範囲として複合体を製造することができる。

【0054】
また、本発明の複合体の製造方法において、重合開始剤としてアゾ化合物を用いると、ラジカルの発生に伴って生成される窒素ガスにより、多孔質のスポンジ状構造が形成される場合がある。

【0055】
本発明の複合体の製造方法において、重合性モノマーの重合を行う際の反応条件は特に限定されず、使用する重合性モノマーの種類や量等に応じて適宜設定することができる。また、ラジカル等の活性種を発生させるための処理(UV光、熱など)についても、使用する重合開始剤の種類や量等に応じて適宜設定することができる。

【0056】
例えば、キチンゲル(キチン1.5%、塩化カルシウム二水和物飽和メタノール98.5%)20g、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDM)0.41gおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.12gの存在下、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)4.1gを重合させる場合、これらの条件には限定されないが、60~70℃で12~24時間、あるいは70~80℃で6~12時間反応させることにより、キチンとポリヒドロキシエチルメタクリレート(pHEMA)との複合体を得ることができる。

【0057】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0058】
製造例1 (SW-β-キチンゲルの調製)
β-キチン(分子量150,000、平均粒子径1mm)1gと蒸留水20mlをオスターブレンダー(Phoenix 社製 Phoenix Blender)用ミニボトル(容量50ml)に入れ、該ブレンダーを用いて撹拌した(回転数:16,800rpm、室温)。その際、β-キチンが膨潤してゲル状になり、β-キチンと蒸留水の混合物が回転しなくなるまで撹拌を続けた(約1分)。次いで、該混合物に蒸留水20mlを加えてブレンダーで同様に撹拌し(回転数:16,800rpm)、さらにβ-キチンを膨潤させた。この後も同様に、混合物が回転しなくなった段階で蒸留水20mlを添加して16,800rpmにて撹拌する操作をさらに3回繰り返し、β-キチンゲルを得た。ロスを無視すれば、該ゲルの含水率は99%である(キチン1重量部に対して水を100重量部含有)。このように製造したキチンゲルを、以下において「SW(膨潤)-β-キチンゲル」と称する。
【実施例】
【0059】
製造例2 (HT-β-キチンゲルの調製)
塩化カルシウム二水和物飽和メタノール100gにβ-キチンを1g加え(濃度1重量%)、オスターブレンダー(Phoenix 社製 Phoenix Blender)を用いて30分激しく撹拌した(回転数:16,800rpm、室温)。その後、モーターで一晩撹拌し(回転数:60rpm、室温)、粘性のβ-キチン溶液を得た。次いで、ヒーター(Corning社製、PC-4200)を用いて該β-キチン溶液を100℃で3時間熱処理した後、室温まで冷やし、β-キチンゲルを得た。該β-キチンゲルの重量は67gであった(即ち、キチン1重量部に対し、塩化カルシウム、水およびメタノールの合計が66重量部である)。このように製造したβ-キチンゲルを、以下において「HT(熱処理)-β-キチンゲル」と称する。
【実施例】
【0060】
製造例3 (キトサンヒドロゲルの調製)
3.06gのキトサン粉末(分子量40,000、脱アセチル化度84%)を、室温で5~7時間撹拌することにより100mlの4重量%の酢酸水溶液に溶解した。得られたキトサン水溶液のpHは3.85であった。該キトサン水溶液をろ過して不溶部を除去後、ミキサーで高速撹拌下、10重量%NaOH水溶液を添加し、pH11.0~12.0にした。生成した沈殿を遠心分離により収集した後、蒸留水に分散させて1000mlの分散液とした。該分散液を透析袋に入れ、pHが6.0~7.5になるまで1000mlの蒸留水に対して透析を行ってキトサンヒドロゲルを得た(透析用蒸留水は5回交換した)。該ゲルの含水率は95%であった。
【実施例】
【0061】
実施例1
製造例1のSW-β-キチンゲル20gに、表1に示す量のHEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)およびTEGDM(トリエチレングリコールジメタクリレート)を加え、室温で1時間攪拌した。次いで、得られた混合物に、HEMAに対して0.24モル%のAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を加えて攪拌後、40×40mmのテフロン(登録商標)製枠にキャストし、70℃のオーブン中に12時間静置して重合を行った。その結果、サンプル1~10いずれの仕込み量においても、相分離を生じることなくβ-キチンとHEMAとの複合体を得ることができた。サンプル2の仕込み量で作成した複合体の外観写真を図1のa)に示す。
【実施例】
【0062】
【表1】
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【実施例】
【0063】
実施例2
製造例1のSW-β-キチンゲル20gに、上記表1に示す量のHEMAおよびTEGDMを加え、室温で1時間攪拌した。次いで、得られた混合物に、HEMAに対して0.24モル%の過酸化水素(H)を加えて攪拌後、40×40mmのテフロン製枠にキャストし、70℃のオーブン中に12時間静置して重合を行った。その結果、サンプル1~10いずれの仕込み量においても、相分離を生じることなくβ-キチンとHEMAとの複合体を得ることができた。サンプル2の仕込み量で作成した複合体の外観写真を図1のb)に示す。
【実施例】
【0064】
実施例3
製造例1のSW-β-キチンゲル20gに、上記表1に示す量のHEMAおよびTEGDMを加え、室温で1時間攪拌した。次いで、得られた混合物に0.24%KPS(過硫酸カリウム)水溶液を1ml加えて2時間撹拌した後、40×40mmのテフロン製枠にキャストし、70℃のオーブン中に12時間静置して重合を行った。その結果、サンプル1~10いずれの仕込み量においても、相分離を生じることなくβ-キチンとHEMAとの複合体を得ることができた。サンプル2の仕込み量で作成した複合体の外観写真を図1のc)に示す。このようにして得られた複合体(サンプル1~10)はいずれも、乾燥状態においては硬く強固であったのに対し、吸水状態では柔軟かつ強靱な性質を示すものであった(図2)。
【実施例】
【0065】
実施例4
製造例2のHT-β-キチンゲル20gに蒸留水6gを加え、オートクレーブを用いて121℃で30分間加熱した。次に、オートクレーブ後の該HT-β-キチンゲルを均一になるまで1時間撹拌した。この間に、表2に示す量のHEMAモノマー、TEGDMおよびAIBNを撹拌により混合し、HEMA溶液を調製しておいた。そして、撹拌後のHT-β-キチンゲルに該HEMA溶液を加えて4時間撹拌し、40×40mmのテフロン製枠にキャストした後、70℃のオーブン中に24時間静置して重合を行った。その結果、サンプル1~10いずれの仕込み量においても、相分離を生じることなくβ-キチンとHEMAとの複合体を得ることができた。このようにして得られた複合体(サンプル1~10)はいずれも、三次元多孔質構造を有するスポンジ状の複合体であった(例えばサンプル4、図3)。これらの複合体は、乾燥状態においては硬質のプラスチック状であるのに対し、湿潤状態ではゴムのように柔軟性に富み、かつ非常に強靱なスポンジとなった(例えばサンプル4、図4)。
【実施例】
【0066】
【表2】
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【実施例】
【0067】
実施例5
製造例2のHT-β-キチンゲル20gに蒸留水6gを加え、オートクレーブを用いて121℃で30分間加熱した。次に、オートクレーブ後の該HT-β-キチンゲルを均一になるまで1時間撹拌した。この間に、表3に示す量のHEMAモノマー、TEGDMおよび過酸化水素を撹拌により混合し、HEMA溶液を調製しておいた。そして、撹拌後のHT-β-キチンゲルに該HEMA溶液を加えて撹拌し、40×40mmのテフロン製枠にキャストした後、70℃のオーブン中に2日間静置して重合を行った。その結果、サンプル1~4いずれの仕込み量においても、相分離を生じることなくβ-キチンとHEMAとの複合体を得ることができた。サンプル1の仕込み量で作成した複合体の外観写真を図5に示す。
【実施例】
【0068】
【表3】
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【実施例】
【0069】
実施例6
製造例2のHT-β-キチンゲル20gに蒸留水6gを加え、オートクレーブを用いて121℃で30分間加熱した。次に、オートクレーブ後の該HT-β-キチンゲルを均一になるまで1時間撹拌した。この間に、表4に示す量のHEMAモノマーおよびTEGDMを撹拌により混合し、HEMA溶液を調製しておいた。そして、撹拌後のHT-β-キチンゲルに0.24%KPS水溶液を1ml加えて1時間撹拌し、次いで該HEMA溶液を加えて2時間撹拌した。得られた混合物に10%TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)水溶液を0.1ml加え10秒ほど撹拌した後、素早く40×40mmのテフロン製枠にキャストし、70℃のオーブン中に2日間静置して重合を行った。その結果、サンプル1~7いずれの仕込み量においても、相分離を生じることなくβ-キチンとHEMAとの複合体を得ることができた。サンプル1の仕込み量で作成した複合体の外観写真を図6に示す。
【実施例】
【0070】
【表4】
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【実施例】
【0071】
実施例7
製造例3のキトサンヒドロゲル5gに1M酢酸0.3gを加えて溶解させ、さらに0.24%KPS水溶液を1ml加えて1時間撹拌した。ここへ別途調製しておいたHEMA溶液(HEMAモノマー5.0gとTEGDM0.49gを混合したもの)を加えて2時間攪拌した。そして、10%TMEDA水溶液を0.1ml加え2分ほど撹拌した後、素早く40×40mmのテフロン製枠にキャストし、70℃のオーブン中に2日間静置して重合を行った。その結果、相分離を生じることなくキトサンとHEMAとの複合体を得ることができた。
【実施例】
【0072】
実施例8
製造例2のHT-β-キチンゲル20gにエチレングリコール6gを加え、オートクレーブを用いて121℃で30分間加熱した。次に、オートクレーブ後の該HT-β-キチンゲルを均一になるまで1時間撹拌した。この間に、MMA(メチルメタクリレート)モノマー1.89g、TEGDM0.24g、AIBN0.07gおよび界面活性剤としてTritonX-100 0.01gを撹拌により混合し、MMA溶液を調製しておいた。そして、撹拌後のHT-β-キチンゲルに該MMA溶液を加え4時間撹拌し、40×40mmのテフロン製枠にキャストした後、70℃のオーブン中に48時間静置して重合を行った。その結果、相分離を生じることなくβ-キチンとMMAとの複合体を得ることができた。
【実施例】
【0073】
機械的物性
実施例4の複合体(サンプル1~8)について、卓上型材料試験機(エー・アンド・デイ(株)製、STA-1150)を用いて機械的物性(引張強度および引張破断伸度)を測定した。測定するサンプルはJIS(K7162)の規格に基づいて切り取り、乾燥および湿潤状態で測定した。なお、湿潤状態サンプルは蒸留水に1週間浸漬させたものを使用した。測定結果を図7~9に示す(図7は乾燥状態、図8および9は湿潤状態における結果)。HEMAに対するβ-キチンの比率が高まると、得られる複合体の乾燥状態における強度、伸度とも低下する傾向にあったが、湿潤状態でのそれらはHEMAに対するβ-キチンのモル比が0.043のときに最大を示した。さらに、重合反応に供するTEGDMの量を増加させると、引張強度および引張破断伸度は減少する傾向が見られた。
【実施例】
【0074】
膨潤度
実施例4の複合体(サンプル1~9)について、以下の手順に従って膨潤度を測定した。乾燥状態の実施例4の複合体を5mm×5mm×2mmのサイズに切り取ってサンプルとした。該サンプルを、蒸留水、PBS緩衝液(pH=7.4)または酢酸緩衝液(pH=5.5)に浸漬し、その状態で恒温振盪機を用いて37℃で1週間インキュベートした。その後、該サンプルの重量を測定し、以下の式によって膨潤度を算出した。結果を図10に示す。

膨潤度(%)=(浸漬後重量-乾燥時重量)/乾燥時重量 ×100

HEMAに対するβ-キチンの比率が高まると、得られる複合体の膨潤度は増大する傾向が見られた。また、重合反応に供するTEGDMの量を増加させると、得られる複合体の膨潤度は低下する傾向が見られた。
【実施例】
【0075】
生分解性
実施例4の複合体(サンプル1~9)について、以下の手順に従って生分解性を評価した。乾燥状態の実施例4の複合体を5mm×5mm×2mmのサイズに切り取ってサンプルとした。該サンプルを、リゾチームを0.01%(w/v)含むPBS緩衝液中に入れ、恒温振盪機を用いて37℃で1週間インキュベートした。その後、該サンプルを蒸留水で洗浄し、60℃で2日間オーブン中において乾燥させた。その後、該サンプルの重量を測定し、以下の式によって分解重量を算出した。結果を図11に示す。

分解重量(%)=(リゾチーム処理前重量-リゾチーム処理後重量)/リゾチーム処理前重量 ×100

HEMAに対するβ-キチンの比率が高まると、得られる複合体の生分解性は増大する傾向が見られた。また、重合反応に供するTEGDMの量を増加させると、得られる複合体の生分解性は低下する傾向が見られた。
【実施例】
【0076】
メタノール抽出
実施例4の複合体(サンプル4)を、ソックスレー抽出機でメタノールを用いて一週間処理した。その結果、処理後も該複合体の重量に変化はなく、メタノールを留去しても何も残存していなかった。この結果より、本発明の方法によって得られる複合体中においては、キチンとHEMAポリマーが単独に存在しているのではなく、両者の分子鎖が絡み合ったIPN構造をとっていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の製造方法によって得られる複合体は、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池等の蓄電デバイス用の高性能な新規ゲル電解質として活用できるほか、キチンの表皮細胞増殖促進効果やキトサンの抗菌性を取り込んだ新規な高分子複合体として医用および生活関連分野における様々な製品に応用することが可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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