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明細書 :放射性セシウム簡易測定方法及び可搬式放射性セシウム簡易測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6029054号 (P6029054)
公開番号 特開2014-025895 (P2014-025895A)
登録日 平成28年10月28日(2016.10.28)
発行日 平成28年11月24日(2016.11.24)
公開日 平成26年2月6日(2014.2.6)
発明の名称または考案の名称 放射性セシウム簡易測定方法及び可搬式放射性セシウム簡易測定装置
国際特許分類 G01T   1/172       (2006.01)
G01T   1/167       (2006.01)
FI G01T 1/172
G01T 1/167 C
請求項の数または発明の数 12
全頁数 12
出願番号 特願2012-168814 (P2012-168814)
出願日 平成24年7月30日(2012.7.30)
審査請求日 平成27年5月13日(2015.5.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】平出 哲也
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100092967、【弁理士】、【氏名又は名称】星野 修
【識別番号】100112634、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 美奈子
審査官 【審査官】林 靖
参考文献・文献 特開2012-103179(JP,A)
特開2005-134244(JP,A)
特開平11-194170(JP,A)
特表2001-524678(JP,A)
特開2005-274330(JP,A)
特開2003-329774(JP,A)
特開2007-218827(JP,A)
特開2008-089310(JP,A)
特開2010-107483(JP,A)
特開2010-133832(JP,A)
特開2010-276519(JP,A)
調査した分野 G01T 1/00-7/12
特許請求の範囲 【請求項1】
被検体に面して、互いに近接した位置に並置された2個のγ線検出器と、
当該2個のγ線検出器により605keVと796keVの2種のγ線が同時に検出された時にのみカウントする同時計数器と、
を具備し、γ線検出器からの距離の4乗に反比例する検出効率を実現し、環境バックグラウンドの干渉を排除する遮蔽用包囲体を用いない、可搬式セシウム134簡易測定装置。
【請求項2】
前記2個のγ線検出器を近接した位置に配置し、その間に厚み8~10mmの鉛遮蔽物を配置した、請求項1に記載の可搬式セシウム134簡易測定装置。
【請求項3】
前記鉛遮蔽物は、被検体に近接する端部が肉薄となる形状である、請求項2に記載の可搬式セシウム134簡易測定装置。
【請求項4】
前記γ線検出器に対面する位置に被検体を収納する容器を配置した、請求項1~3のいずれかに記載の可搬式セシウム134簡易測定装置。
【請求項5】
前記γ線検出器は、605keVと796keVのγ線のエネルギー領域を弁別するエネルギー弁別機能を有する、請求項1~4のいずれかに記載の可搬式セシウム134簡易測定装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の可搬式セシウム134簡易測定装置を用いて、その場でセシウム134のみを計測するセシウム134簡易測定方法であって、2個のγ線検出器を被検体に密着させるか又は10cm以下の距離に位置づけて、γ線検出器が605keVと796keVの2種のγ線を同時に検出した時にのみ同時計測器によりカウントし、被検体のセシウム134のみを計測することを特徴とするセシウム簡易その場測定方法。
【請求項7】
被検体の測定の前に、被検体を用いずに偽カウント数を計測して、その場のバックグラウンド値を設定し、
当該偽カウント数と、被検体の計測によるカウント数とを比較する、請求項6に記載のセシウム簡易その場測定方法。
【請求項8】
計測されたカウント数に基づいて、あらかじめ求めておいた検量線又は演算回路を用いて、その場のセシウム134濃度を求める、請求項6又は7に記載のセシウム134簡易その場測定方法。
【請求項9】
環境中のセシウム134濃度とセシウム137濃度の存在比と、請求項6~8のいずれかに記載のセシウム134簡易測定方法で求めた被検体のセシウム134濃度とを用いて、被検体のセシウム137濃度を計算により求めるセシウム137濃度簡易測定方法。
【請求項10】
環境中のセシウム134濃度とセシウム137濃度の存在比と、請求項6~8のいずれかに記載のセシウム134簡易測定方法で求めた被検体のセシウム134濃度とを用いて、被検体の全放射性セシウム濃度を計算により求める放射性セシウム濃度簡易測定方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセシウム134簡易測定装置に、セシウム134濃度に基づいてセシウム137濃度を計算する計算手段をさらに設ける、セシウム137簡易測定装置。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセシウム134簡易測定装置に、セシウム134濃度に基づいて全放射性セシウム濃度を計算する計算手段をさらに設ける、全放射性セシウム簡易測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム簡易測定方法及び可搬式放射性セシウム簡易測定装置に関する。特に、放射性セシウム134濃度を簡易に測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に発生した東日本大震災後の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、環境中に残留している放射性物質の中で最も健康被害が危惧されているのはセシウム137及びセシウム134である。そのため、各自治体や学校などの現場で簡易にセシウム濃度を測定する可搬式装置が必要となっている。
【0003】
本出願人は、NaI(TI)スペクトロメーターによる測定データから表計算ソフトを用いてセシウム134とセシウム137とを別個に算出する個別定量手法を開発した(非特許文献1)。しかし、当該手法は従来のセシウム計測法により得られたデータの解析の手法であり、セシウム134の簡易測定方法は検討していない。
【0004】
従来のセシウム濃度測定装置は、検出効率が検出器からの距離の2乗に反比例するため、バックグラウンドの影響が大きく、被検体を周囲から遮蔽する鉛遮蔽体が必要であった。鉛遮蔽体は、非常に重量があるため容易に移動することができず、被検体を放射能汚染現場で簡易に測定することができなかった。また、鉛遮蔽体で囲まれた測定部位に被検体を密閉状態で設置する必要があるため、牛などの生きている動物や大木などの植物を被検体とすることができなかった。その場で、生物が生存しているままの状態で、被検体のセシウム濃度を測定できる小型で軽量の可搬式測定装置が求められている。
【0005】
また、従来の放射能濃度測定装置では、エネルギースペクトルから各核種の量を評価しなければならず、測定前にエネルギー校正、効率校正などの技術的に困難な作業や、複数の形状及び密度に対する高価な標準線源が必要であり、簡易に計測できる方法がなかった。
【0006】
さらに、従来のサーベイメーターで、カリウムなどを豊富に含む農地や食品などの放射能量を測定すると、バックグラウンドが高くなってしまい、正確な測定ができない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2010-237232号公報
【特許文献2】特開2011-13250号公報
【特許文献3】特開2011-252817号公報
【0008】

【非特許文献1】http://www.jaea.go.jp/02/press2012/p12062201/index.html 日本原子力研究開発機構ウエブサイト プレス発表「NaI(TI)スペクトロメーターでセシウム134と137を個別に定量する簡便な手法を開発(お知らせ)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高度な技術や知識を必要とせずに操作可能で、鉛遮蔽体を必要とせずにその場で生物を被検体として測定することができる小型軽量の簡易型セシウム134濃度測定装置及び測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、2個の並置されたγ線検出器と、当該2個のγ線検出器により605keVと796keVの2種のγ線が同時に検出された時にのみカウントする同時計数器と、を具備し、環境バックグラウンドの干渉を排除する遮蔽用包囲体を用いない、可搬式セシウム134簡易測定装置が提供される。
【0011】
前記2個のγ線検出器を近接した位置に配置し、その間に厚み8~10mmの鉛遮蔽物を配置することが好ましい。前記鉛遮蔽物は、被検体に近接する端部が肉薄となる形状であることがより好ましい。
【0012】
さらに、前記γ線検出器に対面する位置に被検体を収納する容器を配置してもよい。
前記γ線検出器は、605keVと796keVのγ線のエネルギー領域を弁別するエネルギー弁別機能を有することが好ましい。
【0013】
本発明によれば、上記可搬式セシウム134簡易測定装置を用いて、その場でセシウム134のみを計測するセシウム134簡易測定方法であって、2個のγ線検出器を被検体に密着させるか又は10cm以下の距離に位置づけて、γ線検出器が605keVと796keVの2種のγ線を同時に検出した時にのみ同時計測器によりカウントし、セシウム134を計測することを特徴とするセシウム簡易その場測定方法も提供される。
【0014】
被検体の測定の前に、被検体を用いずに偽カウント数を計測して、その場のバックグラウンド値を設定し、当該偽カウント数と、被検体の計測によるカウント数とを比較する。
計測されたカウント数に基づいて、あらかじめ求めておいた検量線又は演算回路を用いて、その場のセシウム134濃度を求める。
【0015】
また本発明によれば、環境中のセシウム134濃度とセシウム137濃度の存在比と、上記セシウム134簡易測定方法で求めた被検体のセシウム134濃度とを用いて、被検体のセシウム137濃度を計算により求めるセシウム137濃度簡易測定方法も提供される。
【0016】
さらに本発明によれば、環境中のセシウム134濃度とセシウム137濃度の存在比と、上記セシウム134簡易測定方法で求めた被検体のセシウム134濃度とを用いて、被検体の全放射性セシウム濃度を計算により求める放射性セシウム濃度簡易測定方法も提供される。
【0017】
セシウム137及び全放射性セシウム濃度の計算は、下記式(1)及び式(2)による。
【0018】
【数1】
JP0006029054B2_000002t.gif

【0019】
また、本発明によれば、上記可搬式セシウム134簡易測定装置に、セシウム134濃度に基づいてセシウム137濃度を計算する計算手段をさらに設けたセシウム137簡易測定装置あるいは全放射性セシウム測定装置も提供される。
【0020】
環境中に存在し、放射能汚染検査の際に被検体中に有意に存在する放射性物質のうち、1回の崩壊で2種のγ線(605keVと796keV)を高放出比で放出するのはセシウム134のみである。本発明では、当該2種のγ線を2個のγ線検出器が同時に検出した時の信号のみを同時計数器で計数することで、セシウム134を同定し、計数率の計測に基づいて放射能量を求める。
【0021】
γ線検出器としては、シンチレーション検出器やGM管を用いることができる。特に、セシウム134が崩壊する際に発生する605keV及び796keVのγ線のエネルギー領域のみを弁別するエネルギー弁別機能を有する検出器を用いる。かようなγ線検出器としては、NaIシンチレータが特に好ましい。
【0022】
計測誤差を小さくするために、2個のγ線検出器はできるだけ近接して並置することが好ましく、2個のγ線検出器の間に肉薄の鉛遮蔽物を位置づけることがより好ましい。鉛遮蔽物の厚さは、γ線検出器の大きさによって変動するが、γ線検出器の直径が50mmの場合には8~10mmの厚さが適切であることを確認している。さらに、鉛遮蔽物は一様の厚みを有する形状よりも、被検体に近い端部が肉薄となる形状の方が計測誤差を小さくできることを確認している。
【0023】
同時計数器は、2個のγ線検出器により同時に605keV及び796keVのγ線が検出された際の信号のみを計数する。同時計数器としては、デジタルオシロスコープなどを好ましく用いることができ、検出器からの信号を直接入力してもよい。設計された演算回路を内蔵することで装置を小型化することが可能である。
【0024】
2個のγ線検出器の同時計数を行うことで、測定装置の検出効率は、各検出器の検出効率の積となる。1個のγ線検出器の検出効率は、検出器と被検体との距離の2乗に反比例するため、本発明の測定装置では距離の4乗に反比例することになる。よって、γ線検出器からの距離が遠いγ線は検出されず、被検体からのγ線のみを検出することができる。被検体は、2個のγ線検出器に近接して配置することが好ましく、被検体とγ線検出器との距離は10cm以下とし、密接させることがより好ましい。被検体と検出器との距離を短くすることで、検出器近くのセシウム134を重点的に検出することができる。このため、被検体による自己吸収の効果も小さくすることができ、被検体の材質による影響を低減できる。
【0025】
また、被検体を収納する容器の形状及び大きさも検出効率に影響を与える。容量が大きい方が多量の被検体からのγ線を検出できるため、検出効率は高くなる。一方で、検出効率は被検体と検出器との距離の4乗に反比例するため、容器が大きすぎると距離が大きくなり、検出効率も低下する。被検体を収納する容器の大きさは、縦横がそれぞれ5~10cmの範囲の箱状又は直径5~10cmの範囲の円柱状とし、厚みを薄くすることが好ましい。検出器の形状によっても最適な試料容器の形状は異なるため、試料容器は適宜の形状であってよい。
【0026】
あるいは、生きている動物や大木などの容器に入らない被検体の測定を行う場合には、本発明の測定装置では距離の4乗に反比例することになるため、検出器を被検体の表面に位置づけるだけでよく、試料容器は不要となる。
【0027】
また、本発明の方法で測定した被検体のセシウム134濃度と、環境中のセシウム134とセシウム137の存在比とを用いて、被検体のセシウム137濃度及び全放射性セシウム濃度を求めることもできる。
【0028】
本発明の測定方法で計測した被検体のセシウム134濃度に、被検体のセシウム134濃度測定時の環境中のセシウム134及び137の存在比を掛け合わせれば、被検体のセシウム137濃度及び全放射性セシウム濃度を計算することができる(式(1)及び(2))。
【0029】
環境中から採取した試料中の放射性セシウム濃度は、半導体検出器による長時間計測によって正確に測定することができる。被検体のセシウム134濃度測定に用いる、環境中から採取した試料中の全セシウム濃度I(Bq/kg)は、環境中から採取した試料中のセシウム134及び137のそれぞれの濃度と、セシウム134及び137のそれぞれの半減期H134、H137と、環境中から採取した試料中のセシウム濃度測定日からの経過年数(X)と、から下記式(3)により求めることができる。
【0030】
【数2】
JP0006029054B2_000003t.gif

【0031】
上記式(3)により求めた全放射性セシウム濃度既知の標準試料を本発明に用いれば、被検体のセシウム134の計測結果から、被検体のセシウム137濃度及び全放射性セシウム濃度は式(1)及び(2)を用いて計算により求めることができる。
【0032】
なお、実際の測定時には、定期的な装置の調整で、セシウム134からの真カウントの計数率は決まる。宇宙線などのバックグラウンドの高エネルギーγ線により起こる偽カウントは、その場の環境で変化する。このため、試料なしの状態あるいは放射性セシウムが含まれていないことが既知の試料を測定して、バックグラウンドカウント(偽カウント)計数率を求めれば、検量線を作成することが可能である。したがって、一般的に高価になると考えられる放射性セシウムが定量されている標準試料を用いずに、簡易測定を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明のセシウム134簡易測定装置は、2個のγ線検出器を並置し、2個のγ線検出器に特定のγ線が同時に入射した時のみカウントするため、セシウム134のみを選択的に検出できる。本発明のセシウム134簡易測定装置のγ線検出器の検出効率は、距離の4乗に反比例するため、検出器から離れた位置に存在するγ線の検出効率が非常に小さく、従来の装置及び方法では検出してしまっていた干渉物質のγ線を検出しない。そのため、周囲環境中のセシウム134や他の放射能の影響を受けず、測定試料及び検出器を重量のある遮蔽容器に入れる必要がない。その結果、試料を切り出して遮蔽容器内に入れずにセシウム134濃度が測定でき、大木など移動できない物や、動物などを生きたまま、その場で直接測定することが可能となる。また、小型化した検出器を牛などの動物や人間の体表面に装着することで、精度良く、簡便に、体内のセシウム134濃度をその場で測定できる。また、被検体のセシウム134濃度に基づいて、環境中のセシウム134とセシウム137との存在比から、被検体のセシウム137濃度及び全放射性セシウム濃度を計算により求めることができる。
【0034】
安価な普及型として製作可能であり、また、熟練者でなくともその場測定が可能となる。各ローカルコミュニティにおいて測定可能であり、農作物の販売時に計測を実演することが可能で、風評被害を低減できる。
【0035】
計測範囲が数十センチ程度となるため、従来のサーベイメーターに比べて局所的な汚染を評価でき、汚染箇所の特定に威力を発揮でき、除染活動、環境修復に貢献できる。
通常のサーベイメーターでは、カリウムなどが豊富に含まれる農地や食品などではバックグラウンドが高くなり、正確な測定が困難であるが、本発明の簡易型セシウム134濃度測定装置ではカリウムを検出しないため、カリウムが豊富に含まれている土壌や食物であってもセシウム134を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、エネルギースペクトルとカウント数との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のセシウム134簡易測定装置における検出器と被検体との配置関係を示す説明図である。
【図3】図3は、本発明のセシウム134簡易測定装置により得られる検量線を示すグラフである。
【図4】図4は、2個の検出器間に鉛遮蔽体を配置した態様を示す説明図である。
【図5】図5は、検出器間に挿入した鉛遮蔽体と、実測時の誤差との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、2個の検出器間に配置した鉛遮蔽体形状を真カウントの増大を目的に試料側の一部を薄いものにした態様を示す説明図である。
【図7】図7は、実施例5の測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例7の測定結果を示すグラフである。
【実施形態】
【0037】
本発明のセシウム134簡易測定方法及び装置は、検出器からの距離の4乗に反比例する検出効率を実現することで、周囲環境中のセシウム134やその他の放射能の影響を排除し、被検体のセシウム134のみを検出する。
【0038】
本発明のセシウム134簡易測定装置は、所定間隔で離間して配置した2個の検出器を具備し、当該2個の検出器にセシウム134が崩壊する際に高効率で放出される2種のγ線600±5keV、好適には605keV(γ線放出比97.6%)と、800±5keV、好適には796keV(γ線放出比85.5%)を同時に検出した時にのみ、γ線検出器からの信号を同時計数器で計数する。特定の2種のγ線が同時に入る時を特定するために、検出する信号の波高から2つのγ線のエネルギー領域を弁別するエネルギー弁別機能を有する検出器を用いることが好ましく、NaIシンチレータを好適に用いることができる。図1は、従来の検出器により計測されるエネルギースペクトルとカウント数との関係を示す。本発明のセシウム134簡易測定装置では、バックグラウンドの影響を排除して、図1において白抜きで表示される、605keV及び796keVのγ線からの信号を含むエネルギー領域(545keV~870keV)のみを解析に用いることで測定精度を上げることができる。解析に用いる領域は、全吸収ピークから換算して求めることができる。エネルギー分解能が良い場合は、さらに狭いエネルギー領域からの信号を限定できるので、測定精度はさらに上がる。
【0039】
本発明における検出器と被検体との配置関係を図2に示す。図2に示す検出器は、2インチ(5.08cm)直径、奥行き10cmの2個のNaIシンチレータを出来るだけ近い位置(検出器のケースの径によって決まるが、ここでは7cm)に並べたものである。シンチレータは光電子増倍管に遮光用容器内で接続されている。被検体は、検出器に近接して置く。図2では、縦横10cm、高さ4cm、容積400ccの容器内に被検体を収納して、検出器上に配置している。被検体が容器に収納できない場合には、容器を用いる必要はなく、被検体を検出器に密接させるかあるいは10cm以下の距離に位置づければよい。
【0040】
2個のγ線検出器の間に鉛遮蔽体を位置づける態様を図4及び図6に示す。図4では厚みが均一である鉛遮蔽体を用い、図6では被検体に近い端部が肉薄形状である鉛遮蔽体を用いている。いずれも鉛遮蔽体の最大厚みは8~10mmである。図6に示す肉薄形状部分の厚みは3mmと、最大厚みの1/2以下である。肉薄部の長さは、試料と検出器の距離が近いほど、あるいは検出器の大きさが大きいほど、長くすることで、より良い効果を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて、本発明のセシウム134簡易測定装置を用いる放射能測定方法を説明する。
[実施例1]
(1)被検体を用いずに計測した放射能量0Bq/kgにおける計数率と、放射能量既知のセシウム134標準試料を用いて計測して既知放射能量における計数率とから検量線を求める。
【0042】
例として、震災後の環境中のセシウムを採取して定量した後、標準試料として使用して検量線を求めた場合を説明する。400ccの容器内にトータルで150Bqのセシウム134とセシウム137が存在する。検出器間隔を7cmに設定して測定した結果、図3に示す検量線が得られた。図3中●は被検体を用いない場合(放射能量0Bq)と、標準試料を用いた場合(放射能量150Bq)の計測値であり、長時間の測定でほとんど誤差のない検量線が得られた。当該検量線は下記式(4)で表すことができる。
【0043】
【数3】
JP0006029054B2_000004t.gif

【0044】
式(4)中、cpmは毎分の計数率(counter/minute)である。
なお、検量線を作成するための標準試料の測定は測定時間が長いほど高い精度で計測することができる。本実施例では計測時間を1時間とした。しかし、検量線をあらかじめ作成しておくことで、被検体の測定時には検量線作成工程は不要とすることができる。
(2)被検体を検出器の上に置いて、計測する。
【0045】
被検体を2個の検出器の上に置いて、同時計数器によりカウント数を計測し、計数率を計測し、上記検量線の式に代入して放射能量を求めた。被検体の計測時間は20分間とした。図3中○は、20Bq相当の被検体を用いて測定した場合の計測率の測定値である。図3に示すように、実測値の誤差も±12.1Bq以内である。
【0046】
[実施例2]
本発明のセシウム134簡易測定装置における測定誤差は、検量線に由来する誤差と、実測時に生じる誤差の両者を含む。図3において、放射能量20Bqの試料測定時の誤差に相当する。誤差は、主に検量線の傾きが小さいと大きくなり、大きな「偽カウント」(試料が無いときのカウント)と小さな「真カウント」(セシウム134からのγ線によって発生するカウント)が原因で誤差は大きくなる。「偽カウント」は宇宙線などに由来する高エネルギーγ線が侵入して、コンプトン散乱することにより2個の検出器に同時にエネルギーを付与する過程が主な原因で発生する。したがって、2個の検出器間距離を広げること、あるいは間に鉛などの遮蔽体を挿入することで低減できるが、検出器間距離を広げすぎると、「真カウント」の計数率も低減してしまう。
【0047】
遮蔽体厚みの最適範囲を求めるため、図4に示すように、検出器間に鉛遮蔽体を挿入して、誤差の遮蔽体厚依存性について調べた。検出器間の距離は遮蔽体の挿入に伴って広がっていく。鉛遮蔽体が無い時と、厚み6mm、9mm、12mm、15mmの鉛遮蔽体を挿入した場合に、試料無しの状態で偽カウントを測定し、また、400ccの容器に総量で150Bqのセシウム134とセシウム137が存在している試料を測定した結果で検量線を作り、400cc中に20Bq存在する試料を20分測定した場合のエラーの大きさを計算で求め比較した。結果を図5中○で示す。図4の配置では鉛遮蔽体の厚みは9mmが最適であることがわかる。さらに鉛遮蔽体の厚みが厚くなると試料と検出器が離れることにより、真カウントが低減し、エラーが大きくなっていき、好ましくない条件となっていくことがわかる。
【0048】
[実施例3]
実施例2で示した厚み9mmの鉛遮蔽体を2個のγ線検出器の間に挿入したセシウム134簡易測定装置において、試料に近い部分の遮蔽体の厚みを薄くすることで、誤差をさらに低減できることを確認した。実施例2で示したように、真カウントが低減しない条件で、偽カウントの低減を実現することが最適である。鉛遮蔽体が偽カウントの低減のみに作用する場合は、誤差が減少するのみであるため、出来るだけ多く入れることが望ましい。しかし、鉛遮蔽体を挿入することで、γ線検出器間隔距離が増大し、試料と検出器を結ぶ直線上にも鉛遮蔽体が存在することになるため、真カウントも低減してしまう。結果として誤差の増大に繋がる。そこで、図6に示すように、試料に近い端部(図では上部)を肉薄形状として、真カウントの低減を抑制した。本実施例では、二つのシンチレータがお互いに完全に隠れるように,シンチレータの径と同等の長さ(ここでは5.08cm)を持っている遮蔽体の試料に近い端部から10mmまでを厚さ3mmとして効果を検証した。結果を図5中●で示す。一様な厚みの遮蔽体(○)と比較すると、誤差が小さくなっていることがわかる。
【0049】
[実施例4]
実施例3の測定データから、図1の白抜きで示した605keV及び796keVのγ線からの信号を含むエネルギー領域(本測定では、全吸収ピークから換算して、545keV~870keVの領域)のみのデータを抜き出し、解析を行った。その結果を図5中□で示す。検出器からの信号をエネルギー弁別することで、偽カウントをさらに低減し、測定精度の向上が実現できている。
【0050】
[実施例5]
実施例4に示す、上部10mmが3mm厚、下部は9mm厚の鉛遮蔽体を用いたセシウム134簡易測定装置、および、図1に示すエネルギー領域のみの信号を弁別する手法を用いて、150Bq/400ccの標準試料による検量線を作成し、試料容器に400ccの純水を入れて、放射能量を測定した。計測時間は14時間とした。なお、検量線のための測定もそれぞれ14時間で行った。結果を図7に示す。図7において、点線で囲まれる範囲が検量線の誤差範囲である。被検体の計数率(図中の○)は誤差範囲を含めた放射能量ゼロと重なっていることから、不検出と言える。被検体は純水でありセシウム134は含まれていない。この400ccの被検体の計測結果は、検量線の誤差も含めて評価すると、-1.68±1.70Bqであり、1リットルに換算すると-4.19±4.26Bq/1Lとなる。-4.19±4.26Bq/1Lは、精度5Bq/1L未満で不検出となる。水の基準値が10Bq/1Lであるから、-4.19±4.26Bq/1Lは基準値以下であり、簡易測定では不検出と判断して差し支えない。したがって、精度5Bq/1Lは検出の有無を判断する簡易測定に対して十分な精度といえる。
【0051】
ここで行なった14時間の測定から得られた計数率から、より短い測定時間における計数を計算で求めることが出来、その計数における精度を上記の14時間の場合と同様に求めることができる。測定時間を5分、10分、15分、20分とした場合の計数から求められた精度はそれぞれ39Bq/1L未満、28Bq/1L未満、23Bq/1L未満、20Bq/1L未満である。これは一般的な半導体検出器などによる検出限界とほぼ同等であると考えられる。セシウムを含まない被検体の場合、一般食品の規制値100Bq/kg(密度1で換算)では5分程度の測定で、牛乳、乳児用食品の50Bq/kg(密度1で換算)では15分程度の測定で評価可能であることがわかる。
【0052】
[実施例6]
茨城県水戸市近辺の東電福島原発事故由来の放射性セシウムを含む試料(土壌)をある程度希釈して標準試料としても用いるための試料を作成した。2012年4月19日においてセシウム134が1kgあたり212Bq、セシウム137が344Bqであることを、半導体検出器による長時間測定で値を求めておいた。この試料中の放射性セシウム量は556Bq/kgであった。その後、セシウム134、137はそれぞれ半減期が2.0648年、30.17年で減衰するとした場合、X年後のこの標準の1kgあたりの放射能量I(Bq)は、下記式(5):
【0053】
【数4】
JP0006029054B2_000005t.gif

【0054】
となる。この値を計算し、標準の全体の放射性セシウム量とし、セシウム134のみの計測で、全放射性セシウムの放射能量を計測することが出来る。この手法を用いる地域でこのような標準試料を準備しておくことで、正確な全放射性セシウム放射能量を本発明による測定器で簡単に求めることが出来る。
【0055】
また、本発明の測定器ではセシウム134のみ計測するため、全放射性セシウム量ではなく、セシウム134のみの放射能量が既知の標準試料を用いて、セシウム134のみを定量後、セシウム134とセシウム137の存在比をから計算して求めることもできる。現在のセシウム134の放射能量がY Bqであったとすると、134と137存在比が212:344であるから,全放射能量I Bqは、下記式(6):
【0056】
【数5】
JP0006029054B2_000006t.gif

【0057】
で求められる。
[実施例7]
茨城県東海村の日本原子力研究開発機構原子力科学研究所内において、400cc容器に落ち葉を採取し、実施例3、4、5に示す方法で実測を行った。この測定の標準に用いた土壌は、2012年4月19日(検定日)から測定日までに95日経過しており、セシウム134が1kgあたり194.3Bq、セシウム137が342.0Bq、全放射性セシウムは536.3Bq/kgである。標準に用いた400cc容器内の土壌は295gである。ここで用いた標準試料内の全放射性セシウム量は、実施例6に示した式(5)で求められ、158.2Bqである。この標準試料を用いて、図8の●のようにそれぞれ14時間測定し、検量線を作成し、落ち葉試料の測定を20分間行った結果を図8中に○で示す。●の誤差は図中の●の大きさよりも小さい。この結果から、400cc容器内の落ち葉中に200.8±13.6Bqの放射性セシウムが存在することがわかる。この落ち葉試料は27.7gであるから、1kgの落ち葉中の放射性セシウム量は7249±491Bqとなる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のセシウム134簡易測定装置は、小型軽量で、複雑な操作も不要であるため、その場で簡易にセシウム134の放射能量を測定でき、畜産業や農業などに従事する方が食品出荷前にその場で規制値を超えるか否かの簡易計測を行うことができる。
【0059】
また、本発明のセシウム134簡易測定装置は、検出器から遠いγ線源からのγ線を検出しないため、従来の測定装置で必須となる鉛遮蔽体が不要であるため、簡単に持ち歩け、また、鉛遮蔽体に入らない大型の被検体の測定が可能であるため、その場での非破壊全量検査や生きている動物を被検体とする検査が可能である。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
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【図7】
5
【図8】
6
【図1】
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