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明細書 :MEP経路中の酵素DXSの阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5862889号 (P5862889)
公開番号 特開2013-241387 (P2013-241387A)
登録日 平成28年1月8日(2016.1.8)
発行日 平成28年2月16日(2016.2.16)
公開日 平成25年12月5日(2013.12.5)
発明の名称または考案の名称 MEP経路中の酵素DXSの阻害剤
国際特許分類 C07D 407/06        (2006.01)
A61K  31/36        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  31/06        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61P  33/06        (2006.01)
FI C07D 407/06 CSP
A61K 31/36
A61P 43/00 111
A61P 31/06
A61P 31/04
A61P 33/06
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2012-189523 (P2012-189523)
出願日 平成24年8月30日(2012.8.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 日本農芸化学会2012年度大会の講演要旨集ウェブサイト(http://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2012/download_pdf.php?p_=2A04a15)にて公開(平成24年3月5日)
審査請求日 平成27年2月13日(2015.2.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
発明者または考案者 【氏名】矢嶋 俊介
【氏名】佐々木 康幸
【氏名】北原 一治
【氏名】越野 広雪
【氏名】高橋 俊哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100080609、【弁理士】、【氏名又は名称】大島 正孝
【識別番号】100109287、【弁理士】、【氏名又は名称】白石 泰三
審査官 【審査官】三上 晶子
参考文献・文献 西独国特許出願公告第01027206(DE,B)
MedChemComm,2012年 1月,Vol.3, No.1,pp.65-67
Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2008年,Vol.18, No.19,pp.5320-5323
Pesticide Biochemistry and Physiology,2006年,Vol.85, No.1,pp.7-14
調査した分野 C07D401/00-421/14
A61K 31/33- 33/44
A61P 1/00- 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(1-1)で表される化合物。
【化2】
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【請求項2】
記式(1-1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するMEP経路中の酵素DXSの阻害剤。
【化4】
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発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、MEP経路中の酵素DXSの阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生物にとって必要不可欠なイソプレノイドはイソペンテニル2リン酸から生合成されている。イソペンテニル2リン酸合成経路は2種類知られている。真核生物が主に保有しているメバロン酸経路と、原核生物が主に保有している2-C-methyl-D-erythritol 4-phosphate(MEP)経路である。また、植物は葉緑体内でMEP経路を使用し、細胞質内ではメバロン酸経路を使用していることも知られており、進化的にも非常に興味深い経路である。原核生物の中には結核菌やマラリア原虫などの病原菌が多く存在している。そして、MEP経路は人には存在しないため、新規薬剤分子の有用なターゲットと考えられている。
【0003】
MEP経路を以下に示す。
【0004】
【化1】
JP0005862889B2_000002t.gif

【0005】
MEP経路では、まずピルビン酸(Pyr)とグリセルアルデヒド3リン酸(G3P)が酵素DXSによってDXPに縮合される。その後、酵素DXRによってMEPが合成される。その後は5つの段階を経てイソペンテニル2リン酸が生合成される。
【0006】
本発明は、MEP経路の最初の反応に関わる酵素DXSに関する。現在、MEP経路阻害剤としてフォスミドマイシンとケトクロマゾンが知られている。フォスミドマイシンは酵素DXR(1-deoxy D-xylulose 5-phosphate reductoisomerase)を阻害し、ケトクロマゾンは酵素DXS(1-deoxy D-xylulose 5-phosphate synthase)を阻害する。どちらもMEP経路の最初の反応に関係する酵素である。しかし、この2つの阻害物質は薬剤への応用としていくつかの問題があると言われている。フォスミドマイシンは体内で分解しやすいため、多量の摂取を必要とされる。ケトクロマゾンは元々除草剤として使用されていることから人体への影響が懸念されている。このような問題から、これらの化合物はMEP経路阻害剤としてはまだ改善の余地があり、新たな阻害剤が求められている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2001-19641号公報
【特許文献2】特開2011-178743号公報
【0008】

【非特許文献1】浅見忠男、雄谷友美、葛山智久、笠原博幸、永田典子、山口信次郎、神谷勇治、吉田茂男、白化作用を有する除草剤クロマゾンはMEP経路中の1-deoxy-d-xylulose-5-phosphate synthaseが触媒する反応の阻害剤か?、植物化学調節学会研究発表記録集、37巻、2,2002
【非特許文献2】松江由紀子、浅見忠男、葛山智久、西山真 2007年度日本農芸化学会要旨集、MEP経路阻害剤ketoclomazoneの阻害機構に関する研究、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、MEP経路中の酵素DXSの阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、コショウ科のヒハツモドキ(Piper retrofractum)の抽出液から酵素DXS阻害活性測定を行いスクリーニングした。その結果、強い酵素DXS阻害活性を示すフラクションがあることを見い出した。この抽出液からDXS阻害活性物質を単離し、本発明を完成した。ヒハツモドキは、東南アジア原産であり沖縄でもよく栽培されている。現地では香辛料や民間伝承薬として使用されている。
【0011】
本発明は、下記式(1-1)
【0012】
【化2】
JP0005862889B2_000003t.gif

【0013】
表わされる化合物である。
【0014】
また本発明は、上記式(1-1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するMEP経路中の酵素DXSの阻害剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物または阻害剤は、MEP(2-C-methyl-D-erythritol 4-phosphate)経路中の酵素DXS(1-deoxy D-xylulose 5-phosphate synthase)を阻害する。本発明の化合物または阻害剤は、結核菌の類縁菌(Mycobacterium smegmatis)に対する生育阻害活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Fr.B-3-4の活性測定結果を示す図である。
【図2】M.smegmatisに対する生育阻害活性試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の化合物は、下記式(1-1)で表される。

【0018】
【化3】
JP0005862889B2_000004t.gif

【0019】
式(1-1)の化合物の薬学的に許容される塩の例としては、塩基付加塩が挙げられる。
塩基付加塩としては無機塩基または有機塩基との塩が挙げられる。無機塩基との塩として、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム塩等が挙げられる。

【0020】
また有機塩基との塩として、例えば、第1級、第2級および第3級脂肪族および芳香族アミンとの塩が挙げられる。これらの例として、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、4種のブチルアミン異性体、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、キヌクリジン、ピリジン、キノリンおよびイソキノリン、ベンザチン、N-メチル-D-グルカミン、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ヒドラバミンが挙げられる。またアルギニン、リシンなどのようなアミノ酸との塩が挙げられる。
(1-1)の化合物またはその塩は、溶媒和物としても提供され得る。溶媒和物として、例えば、水和物、メタノール、エタノール等のアルコール和物等が挙げられる。

【0021】
<式(1-1)の化合物の製造方法>
(1-1)の化合物は、ヒハツモドキ(Piper retrofractum)の葉を抽出および精製して製造することができる。
抽出は、メタノール、アセトニトリルなどの溶媒で行うことができる。
精製は、中圧クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)等によって行うことができる。
得られたフラクションの酵素DXSの阻害活性は、MEP経路の初期反応であるPyrとG3PからMEPが合成される過程での、酵素DXRの反応により生じるNADPHの吸収波長を測定することで間接的に測定することができる。

【実施例】
【0022】
<酵素DXSの阻害活性の測定>
酵素DXSは、下記に示すように、PyrとG3Pを基質としてDXPを生成する。その後、DXPは酵素DXRによってMEPに変換される。酵素DXRが反応する過程で同時にNADPHを還元するためNADPHの特異的な吸収波長である340nmの吸光度を測定することで酵素DXSの活性を間接的に測定した。
【実施例】
【0023】
【化4】
JP0005862889B2_000005t.gif
【実施例】
【0024】
(基質、buffer、タンパク質の濃度調整)
200mM HEPES buffer(pH7.0)、100mM MgCl、50mM TPP、1M pyruvate、1M G3PをStock solutionとして作成した。
精製したDXSおよびDXR(E.coli由来)の濃度をそれぞれ1mg/ml、になるように調整した。
【実施例】
【0025】
(フラクションとDXS のプレヒート)
HEPES buffer 100μlとDXS 10μlサンプル(1mg/ml)4μlをエッペンチューブに添加し、37℃で10minプレヒートを行った。
【実施例】
【0026】
(reaction buffer の作成とDXPの生成)
stock solutionより下記表1に示すようにreaction bufferを作成した。
【実施例】
【0027】
【表1】
JP0005862889B2_000006t.gif
【実施例】
【0028】
reaction bufferを37℃で1hインキュベートした。その後on iceで酵素反応を停止させた。
【実施例】
【0029】
(DXRの活性測定)
インキュベート後、エッペンチューブから300μlをセル(TM Microcell)に取り37℃で1minプレヒートを行った。その後、NADPH(100mM)を6μl添加し波長340nmの吸光値の測定を開始する。40sec後DXR(1mg/ml)を2μl添加し6min測定した。
【実施例】
【0030】
【化5】
JP0005862889B2_000007t.gif
【実施例】
【0031】
コントロールとしてサンプルの代わりにメタノールを添加した場合、DXRの酵素反応が進むことにより波長340nmでの吸光値が時間とともに減少する。サンプルにDXSに対する阻害活性がある場合には、コントロールと比較して、吸光値の減少が見られないか、あるいは緩やかになる。
【実施例】
【0032】
実施例1
<粗抽出>
乾燥したヒハツモドキ(P.retrofractum)の葉21.2gを、ミルミキサーを用いて破砕し、1Lメタノールにて一晩抽出した。その結果、合計1977mgの抽出液を得られた。得られた抽出液は200mg/mlに濃度調整し粗抽出液とした。
【実施例】
【0033】
<中圧クロマトグラフィーによる精製>
(精製1段階)
Purif compact(モリッテクス社)を用い以下の条件でサンプル200mg/mlを4ml添加した。
カラム:シリカゲルカラム(Si60μl SIZE 120)
溶媒: メタノール、クロロホルム
組成: Flow 20ml/min 0minメタノール0%
→120 minメタノール100%
その結果、試験管(一本18ml)134本分分取し、下記表2に示すように分画した。
【実施例】
【0034】
【表2】
JP0005862889B2_000008t.gif
【実施例】
【0035】
これらのフラクションについてDXS阻害活性を測定した。その結果Fr.Bに阻害活性が見られた。
【実施例】
【0036】
(精製2段階)
得られたFr.Bを下記条件でさらに精製した。
条件
カラム:ODS-3 20×250 mm
流量: 5 ml/min
溶媒: アセトニトリル:メタノール=9:1
Fr.B-1~3の3つのフラクションが得られ、活性測定にかけたところFr.B-3(保持時間29分~35分)に活性が見られた。以後Fr.B-3をさらに精製していった。
【実施例】
【0037】
(精製3段階)
Fr.B-3を下記条件でさらに精製した。
条件
カラム:ODS-3 4.6×250 mm
流量: 5 ml/min
溶媒: アセトニトリル:メタノール:水=8:1:1
Fr.B-3-1~5の5つのフラクションが得られた。活性測定にかけたところFr.B-3-4(保持時間7.8分~9.8分)および5に活性が見られた。Fr.B-3-4はピークを切り出しFr.B-3-5はそのあとのベース部分を分取していることからFr.B-3-4を解析していくこととした。
【実施例】
【0038】
<Fr.B-3-4の活性測定>
Fr.B-3-4の活性測定結果を図1に示す。
【実施例】
【0039】
<Fr.B-3-4の構造解析>
阻害活性測定の結果によりFr.B-3-4に活性が見られたためHPLCにて分析を行った。
【実施例】
【0040】
(HPLCによる分析)
カラム:ODS-3 4.6×250 mm
流量: 5 ml/min
溶媒: アセトニトリル:メタノール:水=8:1:1
分析の結果Fr.B-3-4はシングルピークであることが示唆された。このフラクションの構造解析を行った。
【実施例】
【0041】
(LC/MSによる分子量推定)
精製の結果、単離したと考えられるFr.B-3-4をLC/MSにかけたところ、分子量は376であり、組成式は、C2232であると推定された。
【実施例】
【0042】
(NMR解析)
NMRのスペクトル解析の結果、下記式で表されるメチレンジオキシフェニル基を有していることが判明した。メチレンジオキシフェニル基の置換様式は1,2,4-置換であり、その化学シフト値から、下記式のRの部分にアルキル側鎖が置換していることが明らかになった。
【実施例】
【0043】
【化6】
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【実施例】
【0044】
また下記式で表されるテトラヒドロフラン(THF)環が存在していることが判明した。THF環の一方はカルボキシメチル基(‘-CH-COOH)、もう一方はアルキル鎖が置換していることが分かった。
【実施例】
【0045】
【化7】
JP0005862889B2_000010t.gif
【実施例】
【0046】
なお、13C-NMRスペクトルのケミカルシフト値は以下のとおりであった。
13C-NMR(100MHz, methanol-d4) 176.6, 148.9, 146.9, 137.9, 122.1, 109.7, 108.9, 101.9, 81.1, 80.4, 77.3, 76.9, 43.0, 37,2, 36.9, 36.6, 33.0, 32.8, 31.9, 31.8, 30.8, 30.7, 30.6, 30.2, 27.2 ppm
以上よりFr.B-3-4フラクション中の化合物は、下記式(1-1)で表される構造を有することが明らかになった。
【実施例】
【0047】
【化8】
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【実施例】
【0048】
<式(1-1)で表される化合物のDXS阻害活性の評価>
Mycobacterium smegmatisを対象として、式(1-1)で表される化合物のDXS阻害活性を評価した。
【実施例】
【0049】
(前培養)
Mycobacterium smegmatis(Trevisan 1889) Lehmann and Neumann 1899のグリセロールストックから下記に示す26R培地4mlに植菌し37℃で24時間、しんとう培養した。
【実施例】
【0050】
【表3】
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【実施例】
【0051】
(本培養)
前培養の培地4mlから4μl取り出し新しい26Rの培地4mlに添加する。本培養の培地には阻害剤を各種濃度で添加してある。阻害剤の濃度は100μg/ml、10μg/ml、1μg/mlで行った。本培養は37℃でしんとう培養し、3時間ごとにO.D.660を測定した。
【実施例】
【0052】
(プレートリーダーによる阻害活性試験)
上の前培養により培養した培地から100μl取り出し新しい26Rの培地2mlに添加する。本培養の培地には阻害剤を各種濃度で添加してある。阻害剤の濃度は上記と同じく、100μg/ml、10μg/ml、1μg/mlである。よく振って混ぜた後、96穴プレートリーダーに200μlずつ添加した。プレートは37℃で静置培養し60h後にO.D.660を測定した。
【実施例】
【0053】
(実験結果)
プレートリーダーによる生育阻害活性試験結果を図2に示す。図2から明らかなように25μg/ml以上においてコントロールと顕著なM.smegmatisに対する生育阻害を示すことがわかった。このことから式(1-1)で表される化合物は、真正細菌一般にも生育阻害を示すことが考えられ、抗真正細菌剤の候補物質としての有用である。
【実施例】
【0054】
比較例1
下記式で表される化合物を合成し、実施例1と同じ方法で、DXS酵素阻害活性を評価した。
【実施例】
【0055】
【化9】
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【実施例】
【0056】
この化合物は、DXS酵素阻害活性を示さなかった。
【実施例】
【0057】
比較例2
下記式で表される化合物(東京化成工業株式会社製)について実施例1と同じ方法で、DXS酵素阻害活性を評価した。
【実施例】
【0058】
【化10】
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【実施例】
【0059】
この化合物は、DXS酵素阻害活性を示さなかった。
【実施例】
【0060】
比較例3
下記式で表される化合物(和光純薬工業株式会社製)について実施例1と同じ方法で、DXS酵素阻害活性を評価した。
【実施例】
【0061】
【化11】
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【実施例】
【0062】
この化合物は、DXS酵素阻害活性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の阻害剤は、結核菌などの真菌に対する抗菌剤および抗マラリア原虫薬としての利用が期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1