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明細書 :細胞培養用基板

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-073460 (P2015-073460A)
公開日 平成27年4月20日(2015.4.20)
発明の名称または考案の名称 細胞培養用基板
国際特許分類 C12M   1/00        (2006.01)
C12M   3/00        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12M 1/00 A
C12M 3/00 A
C12N 1/00 A
C12N 5/00 202A
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2013-211063 (P2013-211063)
出願日 平成25年10月8日(2013.10.8)
発明者または考案者 【氏名】田辺 利住
【氏名】立花 亮
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
Fターム 4B029AA02
4B029AA21
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029DG10
4B029GB09
4B065AA90X
4B065BC41
4B065BC48
4B065BC50
4B065CA60
要約 【課題】細胞に損傷を与えることなく、簡便かつ安価に細胞パターニングを可能とする細胞培養用基板およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材と、基材の上に形成されたブロッキング剤を含む非特異吸着防止層を含み、非特異吸着防止層上に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、細胞接着領域と細胞非接着領域を有しており、細胞接着領域が、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を担持する領域である、細胞培養用基板による。本発明は、蛍光物質に極大吸収波長を含む光を照射することにより、当該蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し得ることに着目し、達成されたものである。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、細胞接着領域と細胞非接着領域を有しており、細胞接着領域が、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を担持する領域である、細胞培養用基板。
【請求項2】
以下のa)~c)のいずれかである、細胞培養用基板:
a)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、極大吸収波長を含む波長の光を、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に照射することにより、照射した領域を細胞接着領域とするための、細胞培養用基板;
b)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を細胞培養用基板に照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域とするための、細胞培養用基板;
c)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含む、細胞培養用基板であって、極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を担持させることにより、細胞接着領域を作製するための、細胞培養用基板。
【請求項3】
蛍光物質が、フルオレセインまたはフルオレセイン誘導体である、請求項1または2に記載の細胞培養用基板。
【請求項4】
蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光が、430~510nmの波長の光である、請求項3に記載の細胞培養用基板。
【請求項5】
ブロッキング剤がアルブミンを含むものである、請求項1~4のいずれか1に記載の細胞培養用基板。
【請求項6】
細胞パターニングに用いられる、請求項1~5のいずれか1に記載の細胞培養用基板。
【請求項7】
以下の工程を含む、請求項1および3~6のいずれか1に記載の細胞培養用基板を作製する方法:
1)基材を準備する工程;
2)基材の上に、ブロッキング剤を用いて非特異吸着防止層を形成する工程;
3)非特異吸着防止層上に細胞接着領域を作製する、以下のa)、b)および/またはc)である工程;
a)非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、照射した領域を細胞接着領域に変換する工程;
b)非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の全部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域に変換する工程;
c)蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し、細胞接着性を付与し得る物質を非特異吸着防止層の上の一部の領域に担持させ、細胞接着領域とする工程。
【請求項8】
非特異吸着防止層に紫外線を照射する工程を含む、請求項7に記載の細胞培養用基板を作製する方法。
【請求項9】
請求項1および3~6のいずれか1に記載の細胞培養用基板に細胞を播種し、細胞接着領域に細胞を接着させて培養することを含む、細胞パターニング方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、細胞パターニング方法:
1)基材と、基材の上に非特異吸着防止層を有する細胞培養用基板において、非特異吸着防止層の上に細胞接着領域を作製する、以下のa)、b)および/またはc)である工程;
a)非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、照射した領域を細胞接着領域とする工程;
b)非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の全部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域とする工程;
c)蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し、細胞接着性を付与し得る物質を非特異吸着防止層の上の一部または全部の領域に担持させ、細胞接着領域とする工程;
2)得られた細胞培養用基板に細胞を播種し、細胞接着領域に細胞を接着させる工程;
3)細胞を培養する工程。
【請求項11】
工程1)が、a)および/またはb)であり、工程1)および工程2)を2回以上繰り返すことにより、2種類以上の異なる種の細胞を、2つ以上の異なる細胞接着領域に接着させて、複数種の細胞の混合培養を行う、請求項10に記載の細胞パターニング方法。
【請求項12】
蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を含む、細胞培養用基板上に細胞接着領域を作製するための薬剤。
【請求項13】
ブロッキング剤と、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換される蛍光物質を含む薬剤とを含む、細胞パターニング用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用基板、特に細胞パターニングに用いられる細胞培養用基板、当該細胞培養用基板を作製する方法、および、当該細胞培養用基板を用いた細胞パターニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の細胞は、他種の細胞や、周囲の微小環境に存在する増殖因子などのタンパク質、細胞外マトリックスとの相互作用により、増殖・分化・機能発現などの生命活動の維持・調節がなされている。生体を模倣したバイオマテリアルを開発するためには、他の細胞等との相互作用を把握し、制御する必要がある。特定の細胞と他の細胞等との相互作用を調べる方法の1つとして細胞パターニング技術が挙げられる。細胞パターニング技術により細胞足場上に所望の細胞配列を作製することにより、細胞外で生体組織を模倣し、多種類の生体分子の機能や細胞間の相互作用の分析を行うことが試みられている。細胞パターニング技術は、細胞間の相互作用の基礎研究のみならず、創薬スクリーニングや再生医療などの細胞アッセイ分野への応用も期待されている。
【0003】
現在利用されている代表的な細胞パターニング技術には、インクジェットプリンティング法(Biomaterials, 25, 3707-3715 (2004))、フォトリソグラフィ法 (J. Am. Chem. Soc., 114, 4432-4433 (1992))、マイクロコンタクトプリンティング法 (Stem Cells, 26, 2921-2927 (2007))などがある。インクジェットプリンティング法は、単一細胞だけを含むドロップをインクジェットノズルを用いて作製・飛翔させ、所望の場所に細胞を配列させる技術である。フォトリソグラフィ法、マイクロプリンティング法は高価な装置と複雑な工程を必要とすることから、実施が制限されてしまうという問題点があり、インクジェット法はさらに、細胞にダメージを与えてしまうという問題点がある。また、いずれの方法も複数種の細胞のパターニングには適していない。
【0004】
架橋アルブミンフィルムを用いて細胞パターニングを行う方法について報告がされている(非特許文献1~3、特許文献1)。アルブミンをコーティングした表面にはタンパク質や細胞が接着しないという特徴があり、水溶性のアルブミンを架橋剤により架橋すると、非水溶性かつ細胞非接着性のフィルムを作製することができる。アルブミンフィルムに紫外線照射等のタンパク質変性処理を施すことにより、アルブミンが変性し、変性した領域が細胞接着性に変換されることが報告されている。しかしながら、紫外線照射等のタンパク質変性処理は、操作が危険であり煩雑であるという問題点があり、さらにタンパク質変性処理は細胞に損傷を与えてしまうため、複数種の細胞を追加して培養するといった場合には適さない。
【0005】
その他の細胞パターニング方法として、基材と細胞接着阻害層とを有する基板において、細胞接着阻害層に含まれる細胞接着阻害材料を光触媒の作用を利用して変性させて、細胞接着部位を作製する方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、細胞培養用基板において細胞接着性を付与するために蛍光物質を利用することについての報告はない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2008-174714号公報
【特許文献2】特開2005-237377号公報
【0007】

【非特許文献1】Hironori Yamazoe, Toshizumi Tanabe, Journal of Biomedical Materials Research Part A, vol. 86A, 2008, p. 228-234.
【非特許文献2】Hironori Yamazoe, Toshimasa Uemura, and Toshizumi Tanabe., Langmuir, Vol. 24, 2008, p.8402-8404
【非特許文献3】Hironori Yamazoe, Toshizumi Tanabe., J. Biomed. Mater. Res., Part A, vol. 91, 2009, 1202-1209.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞に損傷を与えることなく、簡便かつ安価に細胞パターニングを可能とする細胞培養用基板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、蛍光物質に極大吸収波長を含む光を照射することにより、当該蛍光物質を、細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し得ることに着目し、当該蛍光物質と極大吸収波長を含む光を利用することにより、細胞に損傷を与えることなく、簡便かつ安価に細胞パターニングを可能とする細胞培養用基板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、細胞接着領域と細胞非接着領域を有しており、細胞接着領域が、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を担持する領域である、細胞培養用基板。
2.以下のa)~c)のいずれかである、細胞培養用基板:
a)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、極大吸収波長を含む波長の光を、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に照射することにより、照射した領域を細胞接着領域とするための、細胞培養用基板;
b)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持する細胞培養用基板であって、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を細胞培養用基板に照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域とするための、細胞培養用基板;
c)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含む、細胞培養用基板であって、極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を担持させることにより、細胞接着領域を作製するための、細胞培養用基板。
3.蛍光物質が、フルオレセインまたはフルオレセイン誘導体である、請求項1または2に記載の細胞培養用基板。
4.蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光が、430~510nmの波長の光である、請求項3に記載の細胞培養用基板。
5.ブロッキング剤がアルブミンを含むものである、請求項1~4のいずれか1に記載の細胞培養用基板。
6.細胞パターニングに用いられる、請求項1~5のいずれか1に記載の細胞培養用基板。
7.以下の工程を含む、請求項1および3~6のいずれか1に記載の細胞培養用基板を作製する方法:
1)基材を準備する工程;
2)基材の上に、ブロッキング剤を用いて非特異吸着防止層を形成する工程;
3)非特異吸着防止層上に細胞接着領域を作製する、以下のa)、b)および/またはc)である工程;
a)非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、照射した領域を細胞接着領域に変換する工程;
b)非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の全部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域に変換する工程;
c)蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し、細胞接着性を付与し得る物質を非特異吸着防止層の上の一部の領域に担持させ、細胞接着領域とする工程。
8.非特異吸着防止層に紫外線を照射する工程を含む、請求項7に記載の細胞培養用基板を作製する方法。
9.請求項1および3~6のいずれか1に記載の細胞培養用基板に細胞を播種し、細胞接着領域に細胞を接着させて培養することを含む、細胞パターニング方法。
10.以下の工程を含む、細胞パターニング方法:
1)基材と、基材の上に非特異吸着防止層を有する細胞培養用基板において、非特異吸着防止層の上に細胞接着領域を作製する、以下のa)、b)および/またはc)である工程;
a)非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、照射した領域を細胞接着領域とする工程;
b)非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の全部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域とする工程;
c)蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し、細胞接着性を付与し得る物質を非特異吸着防止層の上の一部または全部の領域に担持させ、細胞接着領域とする工程;
2)得られた細胞培養用基板に細胞を播種し、細胞接着領域に細胞を接着させる工程;
3)細胞を培養する工程。
11.工程1)が、a)および/またはb)であり、工程1)および工程2)を2回以上繰り返すことにより、2種類以上の異なる種の細胞を、2つ以上の異なる細胞接着領域に接着させて、複数種の細胞の混合培養を行う、請求項10に記載の細胞パターニング方法。
12.蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を含む、細胞培養用基板上に細胞接着領域を作製するための薬剤。
13.ブロッキング剤と、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換される蛍光物質を含む薬剤とを含む、細胞パターニング用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞培養用基板によれば、安価かつ簡便に、細胞に損傷を与えずに細胞を配列させることが可能となる。また、複数種の細胞を用いた細胞パターニングを可能とする。本発明に用いられる、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光は、可視光であるため、細胞毒性がほとんどなく安全であり、複雑な形状の細胞パターニングも行うことが可能である。本発明の細胞培養用基板によれば、iPS細胞等を用いて多種の細胞をパターニングすることができ、組織用構造の構築に貢献可能と考えられ、再生医療の分野での応用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の細胞培養用基板の概略図を示す。
【図2】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に青色光を30分間照射して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。細胞播種後1日目および2日目について、A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(実施例1)
【図3】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に青色光を60分間照射して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。細胞播種後1日目および2日目について、A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。 (実施例1)
【図4】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に青色光を120分間照射して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。細胞播種後1日目および2日目について、A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。 (実施例1)
【図5】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に青色光を照射せずに、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(実施例1)
【図6-1】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に、UVを5分間および10分間照射し、青色光を照射して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。UV照射5分間および10分間の場合について、A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(実施例2)
【図6-2】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に、UVを20分間照射し、青色光を照射して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。UV照射20分間の場合について、A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(実施例2)
【図7】フルオレセインを担持させた細胞培養用基板に青色光を照射した後、フルオレセインを洗浄して除去して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(比較例1)
【図8】フルオレセインに先に青色光照射し、青色光を照射後のフルオレセインを担持させた細胞培養用基板を用いて、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。A:フルオレセイン濃度1.0 mg/mL、B:フルオレセイン濃度10-1 mg/mL、C:フルオレセイン濃度10-2 mg/mL、D:フルオレセイン濃度10-3 mg/mL、E:フルオレセイン濃度10-4 mg/mL、F:フルオレセイン濃度10-5 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(実施例3)
【図9】FITCを担持させた細胞培養用基板に青色光を照射して、細胞パターニングを行った場合の結果を示す写真である。A:FITC濃度1.0 mg/mL、B:FITC濃度1.0×10-1 mg/mL、C:FITC濃度1.0×10-2 mg/mL、D:FITC濃度1.0×10-3 mg/mLを顕微鏡(40倍)で観察した結果を示す。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において細胞培養用基板は、基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含み、非特異吸着防止層上に蛍光物質を担持する細胞培養用基板である。本発明の細胞培養用基板は、表面に細胞接着領域と細胞非接着領域を有しており、細胞接着領域は、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を担持する領域である。

【0014】
細胞接着領域と細胞非接着領域を有する細胞培養用基板は、以下の1)~3)の工程を含む作製方法により作製することができる。
1)基材を準備する工程。
2)基材の上に、ブロッキング剤を用いて非特異吸着防止層を形成する工程。
3)非特異吸着防止層上に細胞接着領域を作製する、以下のa)、b)および/またはc)である工程:
a)非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、照射した領域を細胞接着領域とする工程;
b)非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の全部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域とする工程;
c)蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し、細胞接着性を付与し得る物質を非特異吸着防止層の上の一部の領域に担持させ、細胞接着領域とする工程。

【0015】
上記の方法により得られる細胞培養用基板は、細胞を接着させて培養する準備の整った状態のものであるが、本発明における細胞培養用基板には、細胞接着領域が設けられる前のものであり、まだ細胞接着領域を有していない細胞培養用基板も含まれる。細胞接着領域が設けられる前の細胞培養用基板は、特定の処理を行った後に、細胞接着領域が設けることが可能なものである。細胞接着領域が設けられる前の細胞培養用基板としては以下のa)~c)の基板が例示される。

【0016】
a)基材と、基材の上に形成された非特異吸着防止層を含み、非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持する細胞培養用基板。
a)の細胞培養用基板は、既に蛍光物質を非特異吸着防止層上に担持しているものの、極大吸収波長を含む波長の光が、まだ照射されていないものである。a)の細胞培養用基板は、上記作製方法の工程3)のa)により細胞接着領域が設けられる。すなわち、非特異吸着防止層上の蛍光物質を担持する領域のうち、所望の一部の領域に、極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質が細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換され、極大吸収波長を含む波長の光を照射した領域を細胞接着領域とすることができる。極大吸収波長を含む波長の光の照射は、所望の領域に照射が可能であればいかなる方法で行ってもよい。極大吸収波長を含む波長の光は細胞に対して障害を与えるものではないことから、細胞接着領域に細胞を接着させた後に、再度同様に極大吸収波長を含む波長の光を照射して、他の細胞接着領域を作製し、そこに他種の細胞を接着させることが可能である。

【0017】
b)基材と、基材の上に形成された非特異吸着防止層を含み、非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持する細胞培養用基板。
b)の細胞培養用基板は、既に蛍光物質を非特異吸着防止層上に担持しているものの、極大吸収波長を含む波長の光が、まだ照射されていないものである点は、上記a)の細胞培養用基板と同じである。b)の細胞培養用基板は、上記作製方法の工程3)のb)により細胞接着領域が設けられる。すなわち、b)の細胞培養用基板では、非特異吸着防止層上の蛍光物質を担持させる際に、所望の領域のみに蛍光物質を担持させ、極大吸収波長を含む波長の光を、蛍光物質を担持させた領域に照射することにより、蛍光物質が細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換され、細胞接着領域とすることができる。極大吸収波長を含む波長の光の照射は、蛍光物質を担持させた領域に照射が可能であればいかなる方法で行ってもよく、例えば、細胞培養用基板全体に極大吸収波長を含む波長の光を照射すれば簡便である。極大吸収波長を含む波長の光は細胞に対して障害を与えるものではないことから、細胞接着領域に細胞を接着させた後に、再度同様に蛍光物質を担持させて極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、他の細胞接着領域を作製し、そこに他種の細胞を接着させることが可能である。

【0018】
c)基材と、基材の上に形成された、ブロッキング剤を含有する非特異吸着防止層とを含む細胞培養用基板。
当該細胞培養用基板は、蛍光物質を非特異吸着防止層上に担持していないものである。c)の細胞培養用基板は、上記製造方法の工程3)のc)により細胞接着領域が設けられる。すなわち、蛍光物質を細胞培養用基板上に担持させる前に、極大吸収波長を含む光を蛍光物質に照射し、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換させる。変換後の蛍光物質を、非特異吸着防止層上の細胞接着領域としたい領域のみに、担持させる。蛍光物質および変換後の蛍光物質(細胞接着性を付与し得る物質)は、細胞に対して毒性を有さないものである。よって、細胞接着領域に細胞を接着させた後に、再度同様に変換後の蛍光物質を担持させることにより、他の細胞接着領域を作製し、そこに多種の細胞を接着させることが可能である。

【0019】
本発明において「細胞接着性」とは、細胞を接着する強度、すなわち細胞の接着しやすさを意味する。細胞接着領域とは、細胞接着性が良好な領域を意味し、細胞非接着領域とは、細胞の接着性が悪い領域を意味する。従って、細胞接着領域と細胞非接着領域とがパターン化された基板上に細胞を播くと、細胞接着領域には細胞が接着するが、細胞非接着領域には細胞が接着しないため、細胞培養用基板表面には細胞がパターン状に配列されることになる。

【0020】
本発明において「物質を担持させる」とは、当該物質が基材や層上に付着した状態で存在していれば、いかなる態様であってもよい。例えば蛍光物質を担持するとは、蛍光物質を含む蛍光物質溶液を非特異吸着防止層上に塗布して付着させてもよいし、蛍光物質の誘導体を用いて誘導体の官能基により、蛍光物質を非特異吸着防止層上に固定させてもよい。

【0021】
本発明における蛍光物質は、極大吸収波長を含む光を照射されることにより、細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換されるものであり、細胞毒性を有さないものであればいかなるものであってもよい。例えば、フルオレセイン類、カルボキシナフトフルオレセイン類、ローダミン類、テキサスレッド類、インドシアニン類、蛍光シアニン類、NBD、SBDなどの化合物が挙げられるがこれらに限定されない。また、本発明に用いられる蛍光物質は、上記化合物の誘導体であってもよい。本発明に好適な蛍光物質としては、フルオレセイン骨格を有するものが好ましく、フルオレセイン類がより好ましく、フルオレセインおよびその誘導体がさらに好ましい。フルオレセインの誘導体としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)が例示される。本発明において蛍光物質は、極大吸収波長を含む光を照射されることにより、非特異吸着防止層の構造に何らかの影響を与えて基板に細胞接着性を付与しているのではなく、蛍光物質自体が何らかの構造変化を起こし、細胞接着性を付与し得る物質に変換されるものと考えられる。

【0022】
蛍光物質は、蛍光物質を溶解した蛍光物質溶液を調製して用いることが好ましい。蛍光物質溶液は、蛍光物質の他に緩衝剤を含有させてもよい。緩衝剤としては、例えばトリス-塩酸緩衝剤、イミダゾール-酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グッド緩衝剤などを用いることができる。用いる蛍光物質の構造に応じて、緩衝液を選択することができる。

【0023】
蛍光物質溶液の蛍光物質の濃度は特に限定されないが、0.02~5 mg/mlであり、好ましくは0.05~2 mg/mlである。5 mg/mlより高い濃度や0.02 mg/mlより低い濃度は、良好な細胞接着性が得られないため好ましくない。

【0024】
本発明において、蛍光物質に照射する極大吸収波長を含む波長の光は、可視光(360~830 nm)から選択される。よって極大吸収波長を含む波長の光が、既に細胞が播種されている基板に対して照射されたとしても、細胞に損傷を与えるものではない。極大吸収波長を含む波長の光は、蛍光物質の種類に応じて選択され、蛍光物質の励起波長を含むものである。蛍光物質がフルオレセイン骨格を有する化合物である場合は、極大吸収波長を含む光として青色光(ブルーライト)を照射することが好ましい。青色光は、430~510 nmの波長の光が好ましい。蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射する装置は、本発明の目的を達成し得るものであれば、いかなるものであってもよい。また所望の領域に極大吸収波長を含む波長の光を照射するために、遮光材を用いてもよい。遮光材を用いた場合は、遮光材のない部分に極大吸収波長を含む波長の光が照射されることとなり、細胞接着領域を作製することができる。

【0025】
本発明における基材とは、本発明の目的を達成し得る平面上の支持体をいう。基材としては、平滑な表面をもつよう成型され得る固体材料であればいずれでもよく、例えば、ガラス、セラミック、シリコン等の無機材料、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。またその形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状や、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状が挙げられる。基材が透明であり、極大吸収波長を含む波長の光を透過させるものであれば、極大吸収波長を含む波長の光を基材の上部だけではなく、底部から照射することができるため、有用である。

【0026】
本発明においてブロッキング剤とは、非特異吸着防止層を形成する薬剤であり、細胞やタンパク質等の望ましくない物質が細胞接着領域以外で細胞培養用基板に吸着することを防ぐ機能を有する。ブロッキング剤としては、アルブミン、カゼイン、グロブリン、ゼラチンなどが例示され、これらを単独又は混合して用いることができる。これらのうち、アルブミンを用いることが好ましいが、その由来とする動物は特に限定されず、例えばウシ、ヤギ、ウサギ、ヒトなどを由来とするアルブミンを用いることができる。アルブミンは、血清アルブミンを意味するが、血清アルブミンは血清中のみならず、肺、心臓、腸、皮膚、筋肉や涙、汗、唾液、胃液、腹水などにも存在する事が知られており、血清由来のアルブミンに限定されない。天然のアルブミンとは、変性していない状態の本来の高次構造を有するアルブミンを意味する。

【0027】
ブロッキング剤により基材に非特異吸着防止層を形成する場合、ブロッキング剤を溶解したブロッキング溶液を用いることが好ましい。ブロッキング溶液には、ブロッキング剤の他に緩衝剤を含有させてもよい。緩衝剤としては、例えばトリス-塩酸緩衝剤、イミダゾール-酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グッド緩衝剤などを用いることができる。用いるブロッキング剤の種類等に応じて、緩衝液を選択することができる。

【0028】
例えばブロッキング剤としてアルブミンを使用する場合、アルブミンと緩衝剤を含有するブロッキング溶液に架橋剤を添加してアルブミンと反応させ、さらに少量の可塑剤を添加後、基材上にブロッキング溶液をキャストして作製することができる。

【0029】
架橋剤は、架橋反応後に親水性が付与される架橋剤のうちでも、特に複数のエポキシ基を有する架橋剤であるポリエポキシ化合物からなる架橋剤である。たとえば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等を用いることができる。中でも、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(n=1~8)、すなわちエチレングリコール繰り返し単位(n)が1~8である場合のポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。nが増大するほど疎水的になるため、nが9以上の場合は、水分保持用の可塑剤を添加してもなお脆く、良好なしなやかさを保持した非特異吸着防止層を形成することができない。また、可塑剤としては、水分保持可能なものであればいかなるものであってもよいが、親水性に優れたものが望ましい。特に、グリセリン、糖類、ポリエチレングリコールなどの高分子化合物等が好ましい。

【0030】
本発明においては、ブロッキング剤により形成された非特異吸着防止層に紫外線(UV)を照射する。例えばアルブミンでは、紫外線を照射することにより、タンパク質が変性し、親水性が付与される。細胞接着性は、表面の親水性と疎水性のバランスによりもたらされると考えられている。本発明においては、非特異吸着防止層に細胞接着性を付与しない程度の時間、紫外線照射を行うことが好ましい。非特異吸着防止層に細胞接着性を付与してしまうと、蛍光物質による細胞接着領域と細胞非接着領域との境界が不明瞭なものとなり、細胞パターニングが良好に行われない。具体的には、紫外線照射は3分間~30分間、より好ましくは5分間~10分間行う。紫外線照射は蛍光物質を細胞培養用基板に担持させる前に行ってもよいし、担持させた後に行ってもよい。

【0031】
本発明は、以下の1)~3)の工程を含む、細胞パターニング方法にも及ぶ。
1)基材と、基材の上に非特異吸着防止層とを有する細胞培養用基板において、非特異吸着防止層の上に細胞接着領域を作製する、以下のa)、b)および/またはc)である工程;
a)非特異吸着防止層上の一部または全部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の一部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、照射した領域を細胞接着領域とする工程;
b)非特異吸着防止層上の一部の領域に蛍光物質を担持させ、蛍光物質を担持する領域の全部の領域に、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を担持する領域を細胞接着領域とする工程;
c)蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、蛍光物質を細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換し、細胞接着性を付与し得る物質を非特異吸着防止層の上の一部の領域に担持させ、細胞接着領域とする工程;
2)得られた細胞培養用基板に細胞を播種し、細胞接着領域に細胞を接着させる工程;
3)細胞を培養する工程。

【0032】
細胞培養用基板に播種する細胞としては、接着性を有する細胞が好適である。そのような細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞などの内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞などの表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞などの上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞などの筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞などの神経細胞、軟骨細胞、骨細胞などが挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれら細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞(ES細胞)、多分化能を有する間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、iPS細胞などの人工多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞などの単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであっても良い。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。

【0033】
本発明において細胞をパターン状に配列させるには、細胞培養用基板の表面に細胞を均一に播き、一定時間細胞を培養し、細胞非接着領域にある余分な細胞を除去するために洗浄することが好ましい。細胞接着領域には細胞が接着しているが細胞非接着領域には細胞が接着していない細胞パターンが形成された細胞接着基板を得ることができる。細胞の培養方法は公知の方法を適宜選択して用いればよい。

【0034】
本発明は、2つ以上の異なる細胞接着領域に、2種類以上の異なる種の細胞を接着させて、複数種の細胞の混合培養を行う方法にも及ぶ。上記細胞パターニング方法の工程1)および工程2)を2回以上繰り返すことにより、複数種の細胞の混合培養が可能である。好ましくは、工程1)が、a)および/またはb)である、細胞パターニング方法により複数種の細胞の混合培養を行う。細胞の培養方法は公知の方法を適宜選択して用いればよい。

【0035】
本発明は、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射した蛍光物質を含む、細胞培養用基板上に細胞接着領域を作製するための薬剤にも及ぶ。

【0036】
さらに本発明は、ブロッキング剤と、蛍光物質の極大吸収波長を含む波長の光を照射することにより、細胞培養用基板に細胞接着性を付与し得る物質に変換される蛍光物質を含む薬剤とを含む、細胞パターニング用キットにも及ぶ。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の内容を実施例に示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(参考例1)
まず、すべての実施例および比較例において共通する器具の前処理方法および試薬の調製、使用した機器、細胞試料および継代方法、架橋アルブミンフィルムの作製方法を記載する。
【実施例】
【0039】
1.器具の前処理方法・試薬の調製
(1)滅菌法
試薬、実験機器は全て、常法に従い、オートクレーブにより120℃で20分間滅菌を行い使用した。
(2)ウシ血清アルブミン(BSA)
Albumin from bovine serum, essentially fatty acid free (SIGMA) (ウシ血清アルブミン、分子量≒66000、脂肪酸含量~≦0.01 %) を使用した。
(3)エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDG)
エチレングリコールジグリシジルエーテル(Wako)(C8H14O4=174.19)を、BSAの架橋剤として使用した。
(4)リン酸緩衝生理食塩水:1×PBS(-)溶液
NaCl 8.0 g(Wako), KCl 0.2 g(Wako), Na2HPO4・12H2O 2.9 g(Wako),KH2PO4 0.24 g(Wako)をmilliQ水に溶かし、pH7.4に調製した後、全量1000 mLにメスアップして作製した。なお細胞に対して用いるときは、オートクレーブで滅菌したものを使用した。
(5)トリプシン溶液(0.05%)
1×PBS(-)を49 mL、2.5 %トリプシン(Wako)1 mLを混合し、0.05 %トリプシン溶液を作製した。
(6)Fetal Bovine Serum (FBS) の非働化
FBSの非働化により、血清中の補体C1qとB因子が失活する。これにより補体反応を阻止することができる。ウォーターバスに水を加え、冷凍状態で購入したFBSを60℃で1時間、湯浴で温めた。クリーンベンチ内でファルコンチューブに50 mLずつ分注して、-25℃で保存した。
(7)細胞培養用の培地の調製
L-グルタミン・フェノールレッド含有ダルベッコ変法イーグル培地 D-MEM (SIGMA)に、FBS 50 mL、ペニシリン/ストレプトマイシン L-グルタミン溶液 5 mLを加えて、4℃で保存した。
(8)グリセロール溶液 (10 %) の調製
Glycerol (Wako) 1 mLに蒸留水9 mLを加えて調製した。
(9)フルオレセイン溶液の調製
C20H12O5=332.31 Fluorescein (東京化成工業) (Acid Yellow 73)に蒸留水 8 mLと1M Tris-HCl (pH=8.0)を2 mL加えて溶かし、1 mg/mLの溶液を調製した。これを10倍ずつ段階希釈し、1.0, 1.0×10-1, 1.0×10-2, 1.0×10-3, 1.0×10-4, 1.0×10-5 mg/mLに調製した。
(10)FITC溶液の調製
C21H11NO5S=389.38 Fluorescein-4-isothiocyanateに、0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.4)を2 mL加えて溶かし、1 mg/mLの溶液を調製した。これを10倍ずつ段階希釈し、1.0, 1.0×10-1, 1.0×10-2, 1.0×10-3 mg/mLに調製した。
【実施例】
【0040】
2.使用機器
(1)倒立型顕微鏡:OLYMPUS CKX41
(2)CO2インキュベーター:SANYO CO2INCUBATOR
(3)紫外線照射装置:ATTO DNA-FIX DF-254
(4)青色光照射装置:Invitrogen Safe Imager
【実施例】
【0041】
3.細胞試料及び継代方法
細胞としては、L929細胞 (マウス線維芽細胞由来株化細胞)を使用した。L929細胞はサイトカインFGF-2 (線維芽細胞増殖因子)を恒常的に発現する細胞である。継代は以下のようにして行った。
L929細胞がコンフルエント状態になっている25 cm2の細胞培養用フラスコ中の培地をアスピレーターで除去し、PBS 1 mLで洗浄した。トリプシン溶液を1 mL加え、37℃で5分間インキュベートした。細胞が剥がれていることを顕微鏡で確認し、培地3 mLを加えてピペッティングした。15 mLのファルコンチューブに移し、5℃,1000 rpmで5分間遠心分離した。分離後に細胞を4mLの培地に懸濁した。懸濁液を1 mL採り、培養フラスコに加えた。ここに培地を8 mL加えてから37℃, 5 %CO2インキュベーター内で培養した。継代は2日おきに行った。
【実施例】
【0042】
4.架橋アルブミンフィルムの作製方法
BSA 0.3 gに1×PBS(-)を10 mL加え、3 %アルブミン溶液を調製した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、322 μLのEGDEをアルブミン溶液に一滴ずつ加え、24時間架橋反応させた。反応溶液を、Dialysis Membrane Size36に移し、約3 LのMilliQ水中で2日間透析した。尚、外液は1日に1回交換した。透析後、溶液をフィルター滅菌した。滅菌後の溶液1 mLを35 mm Non-treated Dish (IWAKI)に流し込んだ。クリーンベンチ内で紫外線照射をせずに、送風で一晩乾燥させシャーレにコーティングした。パラフィルムで密閉し、アルミホイルで遮光をして冷蔵保存した。
【実施例】
【0043】
(実施例1)フルオレセインと青色光照射による細胞パターニング
参考例の方法に従って架橋アルブミンをコーティングした35 mm Non-treated dishに、UVを30分間照射した。 dishの特定の領域にクリーンベンチ内で1.0, 1.0×10-1, 1.0×10-2, 1.0×10-3, 1.0×10-4, 1.0×10-5 mg/mLのフルオレセイン溶液を各2 μLずつ滴下した後、dishを青色光照射装置上に置き、dishの下側から青色光を30分間照射した。照射後、1 mLのPBSで2回洗浄し、L929細胞 2.0×105 cellsを播種した。培地を1 mL加えてインキュベートした。1日後(24時間後)および2日後(48時間後)、接着していない細胞を除去するためにPBSにより洗浄を行った後、顕微鏡で細胞の様子を観察し写真を撮影した。
【実施例】
【0044】
青色光を30分間照射したdishに、細胞を播種してから1日後に観察した結果および2日後に観察した結果を図2に示す。青色光を60分間照射したdishに、細胞を播種してから1日後に観察した結果および2日後に観察した結果を図3に示す。青色光を120分間照射したdishに、細胞を播種してから1日後に観察した結果および2日後に観察した結果を図4に示す。
フルオレセインに青色光を30分間以上照射した場合、細胞のパターニングが確認された。本実施例の条件では、6種類の濃度のフルオレセイン溶液のうち、1.0 mg/mLと0.1 mg/mLの濃度のみパターニングが確認された。また24時間後と48時間後の結果の比較により、パターニングされた細胞が増殖していることが確認された。コントロールとしてフルオレセインに青色光を照射しなかった場合を観察した結果、細胞のパターニングが確認できなかった(図5)。
【実施例】
【0045】
(実施例2)アルブミンフィルムへのUV照射時間の検討
参考例の方法に従って架橋アルブミンをコーティングした35 mm Non-treated dishに、UVを5分間、10分間または20分間照射した。dishの特定の領域にクリーンベンチ内で1.0, 1.0×10-1, 1.0×10-2, 1.0×10-3, 1.0×10-4, 1.0×10-5 mg/mLのフルオレセイン溶液を各2 μLずつ滴下した後、dishを青色光照射装置上に置き、dishの下側から青色光を30分間照射した。照射後、1 mLのPBSで2回洗浄し、L929細胞 2.0×105 cellsを播種した。培地を1 mL加えてインキュベートした。24時間後、接着していない細胞を除去するためにPBSにより洗浄を行った後、顕微鏡で細胞の様子を観察し写真を撮影した。
【実施例】
【0046】
5分間UV照射した場合の結果および10分間UV照射した結果を、図6-1に示す。20分間UV照射した場合の結果を図6-2に示す。
アルブミンフィルムへのUV照射時間を短くし、フルオレセインに青色光照射することで、非接着性の足場に接着性の領域を作製することができた。UV照射時間が短い程、その傾向は顕著に現れた。
また、UV照射をせずに青色光を照射した場合は、細胞接着性領域を作製できなかった。
【実施例】
【0047】
(比較例1)青色光を照射したフルオレセインの作用の検討
参考例の方法に従って架橋アルブミンをコーティングした35 mm Non-treated dishに、UVを10分間照射し、dishの特定の領域にクリーンベンチ内で1.0, 1.0×10-1, 1.0×10-2, 1.0×10-3, 1.0×10-4, 1.0×10-5 mg/mLのフルオレセイン溶液を各2 μLずつ滴下した後、dishを青色光照射装置上に置き、dishの下側から青色光を30分間照射した。照射後、2 mLのPBSを添加し、dishを4℃で12時間放置し、フルオレセインを完全に洗浄して除去した。再度1 mLのPBSで2回洗浄し、L929細胞 2.0×105 cellsを播種した。培地を1 mL加えてインキュベートした。24時間後、接着していない細胞を除去するためにPBSにより洗浄を行った後、顕微鏡で細胞の様子を観察し写真を撮影した。
【実施例】
【0048】
結果を図7に示す。 洗浄時間を延長し、フルオレセインを完全に除去すると細胞パターニングは確認できなかった。よって、細胞パターニングを行うには、青色光が照射されたフルオレセインがアルブミンフィルム上に留まっている必要があると考えられる。
【実施例】
【0049】
(実施例3)フルオレセインへの青色光照射の順番についての検討
1.0 mg/mLのフルオレセイン溶液を1 mL分取し、青色光を30分間照射した。参考例の方法に従い架橋アルブミンをコーティングした35 mm Non-treated dishにUVを10分間照射した。青色光を照射したフルオレセイン溶液を10倍ずつ6段階に希釈し、各2 μLずつフィルム上に滴下した。20分間乾燥させ、PBS 1 mLで2回洗浄し、L929細胞 2.0×105 cellsを播種した。培地を1 mL加えてインキュベートした。24時間後、接着していない細胞を除去するためにPBSにより洗浄を行った後、顕微鏡で細胞の様子を観察し写真を撮影した。
【実施例】
【0050】
結果を図8に示す。フルオレセインに青色光を照射した後、アルブミンフィルムに滴下した後であっても、細胞接着領域を作製可能であることが確認された。つまり、フルオレセインが青色光を照射されて励起した際に、アルブミンフィルムに何らかの影響を与えているのではなく、フルオレセイン励起時に生じる何らかの物質が細胞接着性を増加させることが予測された。
【実施例】
【0051】
(実施例4)FITCによる細胞パターニング
参考例の方法に従って架橋アルブミンをコーティングした35 mm Non-treated dishに、UVを10分間照射した。dishの特定の領域にクリーンベンチ内で1.0, 1.0×10-1, 1.0×10-2, 1.0×10-3 mg/mLのFITC溶液を各2 μLずつ滴下した後、dishを青色光照射装置上に置き、dishの下側から青色光を30分間照射した。照射後、1 mLのPBSで2回洗浄し、L929細胞 2.0×105 cellsを播種した。培地を1 mL加えてインキュベートした。24時間後、接着していない細胞を除去するためにPBSにより洗浄を行った後、顕微鏡で細胞の様子を観察し写真を撮影した。
【実施例】
【0052】
結果を図9に示す。FITCに青色光を照射することによって、フルオレセインと同様に細胞接着領域を作製可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の細胞培養用基板によれば、安価かつ簡便に、細胞に損傷を与えずに細胞を配列させることが可能となり有用である。また、複数種の細胞を用いた細胞パターニングを可能とする。本発明に用いられる、蛍光物質の極大波長を含む波長の光は、可視光であるため、細胞毒性がほとんどなく安全であり、複雑な形状の細胞パターニングも行うことが可能である。本発明の細胞培養用基板によれば、iPS細胞等を用いて多種の細胞をパターニングすることができ、組織用構造の構築に貢献可能と考えられ、再生医療の分野での応用も期待される。
【符号の説明】
【0054】
1 基材
2 非特異吸着防止層
3 蛍光物質
4 細胞接着領域
5 細胞非接着領域
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6-1】
5
【図6-2】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9