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明細書 :二分子膜の製造方法および二分子平面膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5057348号 (P5057348)
登録日 平成24年8月10日(2012.8.10)
発行日 平成24年10月24日(2012.10.24)
発明の名称または考案の名称 二分子膜の製造方法および二分子平面膜
国際特許分類 G01N  27/28        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
B01J  19/00        (2006.01)
FI G01N 27/28 P
G01N 27/46 336M
G01N 27/46 336G
G01N 37/00 101
B01J 19/00 321
B01J 19/00 M
G01N 27/46 386G
請求項の数または発明の数 22
全頁数 19
出願番号 特願2009-507562 (P2009-507562)
出願日 平成20年3月28日(2008.3.28)
国際出願番号 PCT/JP2008/056737
国際公開番号 WO2008/120816
国際公開日 平成20年10月9日(2008.10.9)
優先権出願番号 2007094443
優先日 平成19年3月30日(2007.3.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年1月19日(2011.1.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】西迫 貴志
【氏名】馬場 崇弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100080919、【弁理士】、【氏名又は名称】田崎 豪治
審査官 【審査官】河野 隆一朗
参考文献・文献 特開平07-173052(JP,A)
特開平03-035792(JP,A)
特開2005-091305(JP,A)
特開2005-098718(JP,A)
特開2005-315832(JP,A)
特開2004-351417(JP,A)
特開2004-059802(JP,A)
国際公開第2007/013493(WO,A1)
国際公開第02/068104(WO,A1)
調査した分野 G01N 27/28
B01J 19/00
G01N 27/416
G01N 37/00
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が、微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させ、その接触により両親媒性分子からなる二分子膜の並列構造を形成させることを特徴とする二分子膜の製造方法。
【請求項2】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作成する請求項1に記載の二分子膜の製造方法。
【請求項3】
微細流路の分岐構造が十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる請求項2に記載の二分子膜の製造方法。
【請求項4】
2つの液相が有機相および水相である請求項1~3のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項5】
両親媒性分子が脂質、界面活性剤もしくはポリマーである請求項1~4のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項6】
両親媒性分子が有機相に配合して導入される請求項4もしくは5に記載の二分子膜の製造方法。
【請求項7】
両親媒性分子が有機相および水相の界面に吸着し単分子膜を形成する請求項4~6のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項8】
疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させる請求項4~7のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項9】
親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により水相を導出して、隣り合う有機相同士を接触させる請求項4~7のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項10】
分岐微小流路による導出が毛管作用および/または吸引により行われる請求項1~9のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項11】
2個以上の二分子膜が一定間隔で並列に配置された構造を有する請求項1~10のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項12】
互いに異なる成分の液相に挟まれた請求項1~11のいずれかに記載の二分子膜の製造方法。
【請求項13】
2個以上の二分子膜が、互いに独立した有機相もしくは水相を介して並列に配置された構造を有し、両親媒性分子からなり、かつ平面膜である二分子膜。
【請求項14】
互いに異なる成分の液相に挟まれた請求項13に記載の二分子膜。
【請求項15】
両親媒性分子からなる2個以上の二分子膜が微細流路内に並列に配置されてなる二分子膜。
【請求項16】
両親媒性分子がリン脂質である請求項1315のいずれかに記載の二分子膜。
【請求項17】
リン脂質に生体分子が固定化された請求項16に記載の二分子膜。
【請求項18】
生体分子が膜タンパク質である請求項17に記載の二分子膜。
【請求項19】
膜タンパク質がイオンチャンネルタンパク質、トランスポーター、イオンポンプタンパク質およびレセプターの一種以上から選ばれる請求項18に記載の二分子膜。
【請求項20】
請求項1319のいずれかに記載の二分子膜を備えてなるデバイス。
【請求項21】
デバイスが膜タンパク質の機能解析デバイスである請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
デバイスがセンサーデバイスである請求項20に記載のデバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は二分子膜の製造方法および得られる二分子平面膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム時代の今日、タンパク質の構造や機能を解析する研究が国内外で盛んに行われている。特に最近、細胞膜に特異的に組み込まれ、膜内外の情報交換やエネルギー変換を司る「膜タンパク質」の機能の解明が、さまざまな病気のメカニズムの解明や新薬開発につながるとして注目を集めている。
膜タンパク質の機能解析手法の1つとして、精製した膜タンパク質を人工のリン脂質二分子膜に固定化して行う電気生理学的手法がある。膜タンパク質の迅速な機能解析には、多数の脂質二分子膜を並列化し、網羅的な条件検討(スクリーニング)を行うことが望ましい。また、脂質二分子平面膜を用いた各種バイオセンサの研究も報告されている。
従来から一般的に用いられる脂質二分子膜生成法として、LB(ラングミュア-ブロジェット)膜を利用した手法が挙げられる。また近年,微細加工技術を利用して作成した構造体を用い、脂質二分子膜の形成を行う研究事例がいくつか報告されている(たとえば竹内,応用物理74,1589(2005)およびN.Malmstadt et al.,Nano Letters 6,1961(2006))。
しかし従来の手法では,脂質二分子膜の作成に手間がかかる。また、多数の膜を効率よく形成するには不向きである。したがって,従来の脂質二分子平面膜の形成技術をスクリーニング用の脂質二分子平面膜の形成に利用することは困難である。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、上記状況に鑑みて、脂質二分子平面膜等の二分子膜を容易に、且つ大量に形成することができる微細流路を用いた二分子膜の製造方法および得られる二分子平面膜を提供することを目的とする。
本発明は上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が、微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させ、その接触により両親媒性分子からなる二分子膜の並列構造を形成させることを特徴とする二分子膜の製造方法;
(2)両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作成する上記(1)に記載の二分子膜の製造方法;
(3)微細流路の分岐構造が十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる上記(2)に記載の二分子膜の製造方法;
(4)2つの液相が有機相および水相である上記(1)~(3)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(5)両親媒性分子が脂質、界面活性剤もしくはポリマーである上記(1)~(4)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(6)両親媒性分子が有機相に配合して導入される上記(4)もしくは(5)に記載の二分子膜の製造方法;
(7)両親媒性分子が有機相および水相の界面に吸着し単分子膜を形成する上記(4)~(6)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(8)疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させる上記(4)~(7)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(9)親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により水相を導出して、隣り合う有機相同士を接触させる上記(4)~(7)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(10)分岐微小流路による導出が毛管作用および/または吸引により行われる上記(1)~(9)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(11)2個以上の二分子膜が一定間隔で並列に配置された構造を有する上記(1)~(10)のいずれかに記載の二分子膜の製造方法;
(12)互いに異なる成分の液相に挟まれた上記(1)~(11)のいずれかに記載の製造方法;
(13)2個以上の二分子膜が並列に配置された構造を有し、両親媒性分子からなる二分子膜;
(14)有機相もしくは水相を介して並列構造を形成された上記(13)に記載の二分子膜;
(15)互いに異なる成分の液相に挟まれた上記(13)もしくは(14)記載の二分子膜;
(16)両親媒性分子からなる1個以上の二分子膜が微細流路内に配置されてなる二分子膜;
(17)2個以上の二分子膜が並列に配置されている上記(16)に記載の二分子膜;
(18)両親媒性分子がリン脂質である上記(13)~(17)のいずれかに記載の二分子膜;
(19)リン脂質に生体分子が固定化された上記(18)に記載の二分子膜;
(20)生体分子が膜タンパク質である上記(19)に記載の二分子膜;
(21)膜タンパク質がイオンチャンネルタンパク質、トランスポーター、イオンポンプタンパク質およびレセプターの一種以上から選ばれる上記(20)に記載の二分子膜;
(22)上記(13)~(21)のいずれかに記載の二分子膜を備えてなるデバイス;
(23)デバイスが膜タンパク質の機能解析デバイスである上記(22)に記載のデバイス;ならびに
(24)デバイスがセンサーデバイスである上記(22)に記載のデバイス、
である。
本発明によれば、二分子平面膜等の二分子膜を容易に,且つ大量に形成することができる微細流路を用いた二分子膜の製造方法および得られる二分子膜を提供しうる。
たとえば、リン脂質を含む有機相と水相からなるプラグ流を疎水性流路内に作成し、壁面の微細流路から有機相を導出することで隣接する水相同士を接触させることで、二分子膜の並列構造を作成することができる。有機相または水相に膜タンパク質を混入させることで、二分子膜に膜タンパク質を固定化することができる。さらに,微小流路に微小電極を組み込むことで,膜タンパク質の機能解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、本発明における二分子平面膜の製造の模式図を示す。
図2は、微小電極と微細流路の組み合わせの例を示す。
図3は、非対称二分子膜の生成法の一例を示す。
図4は、脂質膜形成手順の概念図を示す。
図5は、アクリル微細流路を用いた脂質膜並列構造の作成例を示す。
図6は、脂質膜並列構造の作成に使用した微細流路および送液・導出方向を示した概念図を示す。
図7は、液滴生成用十字路のSEM(電子顕微鏡)写真を示す。
図8は、有機相導出と脂質膜形成を行う箇所のSEM写真を示す。
図9は、有機相中に生成された純水液滴を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図10は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図11は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図12は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図13は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図14は、実施例3における微細流路内部の様子を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図15は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図16は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
図17は、生成された脂質膜の並列構造を示す光学顕微鏡写真(10倍)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の二分子膜の製造方法においては、両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が、微細流路内部に交互に並んだ状態を作成し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させ、その接触により両親媒性分子からなる二分子膜の並列構造を形成させる。
2つの液相としては有機相および水相、または極性の異なる2種の有機相(たとえば極性の大きい水性溶媒と極性の小さい油性溶媒)が挙げられるが、有機相および水相が最も一般的である。有機相としては、各種の有機化合物から選ばれるが、好適にはデカン、オクタン等のアルカン類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、オレイン酸等の脂肪酸類等が挙げられる。液相と気相を用いる場合、液相としては有機相もしくは水相、一方気相としては空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等が好適である。
両親媒性分子としては、通常、リン脂質、糖脂質、中性脂質等の脂質;パルミチン酸、ステアリン酸、等の両親媒性界面活性剤;もしくはその構造中に疎水部と親水部を有するブロックコポリマー等のポリマーから選ばれる。このようなブロックコポリマーとしては、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン、ポリエチレンオキシド-ポリブタジエン、ポリスチレン-ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド-ポリカプロラクタム、ポリブチルアクリレート-ポリアクリル酸等が挙げられる。
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の分岐構造を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作成するのが好適である。このような微細流路の分岐構造としては、特に制限されないが、好適には十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる。微細流路の大きさは、目的に応じて決定しうるが、通常0.1~1000μm程度、好ましくは10~500μm程度から選ばれる。微細流路を形成する材料の材質は、たとえばプラスチック、セラミック、金属等のいずれでもよく、たとえば微細流路の壁面を疎水性とする場合にはアクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好適であり、一方、親水性にする場合には石英ガラス、シリコン、ホウケイ酸ガラス(たとえば「パイレックス(登録商標)」(商標))等が好適である。微細流路を形成する材料の形状、大きさは目的とする用途等により適宜選定し得、たとえば、加工した流路を有する板状体(たとえば~数センチ角)が挙げられる。
両親媒性分子は有機相に配合して導入するのが好適である。両親媒性分子は2つの液相(たとえば有機相および水相)、または液相と気相、の界面に吸着し単分子膜を形成する。後述する図3に示すように、有機相を2分して異なる両親媒性分子を導入することにより、非対称二分子膜を形成しうる。
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を制御するためには、上記の微細流路の分岐構造を用いて、たとえば供給する、2つの液相の粘度、表面張力、密度、液性(極性)等にもよるが、2つの液相の吐出速度(吐出量)を適宜調整する。この場合、特開2004-12402号公報、特開2004-67953号公報、特開2004-59802号公報、特開2005-255987号公報および特開2005-270894号公報に記載される方法に準じて連続相と分散相(液滴)の形成を行うこともできる。
2つの液相が有機相および水相である場合、好ましくは疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成しうる。
一方、好ましくは親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた分岐微小流路により水相を導出して、隣り合う有機相同士を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成しうる。
本発明の二分子膜は、互いに異なる成分の液相、たとえば水相と有機相、または互いに異なる成分を含有する水相同士(たとえば後述する実施例3)もしくは有機相同士で挟まれていてもよい。この場合、たとえば細胞の内部と外部を模した実験系を構築しうる。
分岐微小流路は、微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けられ、毛管作用(自発的な浸透)および/または吸引(ポンプやバルブを用いる)により、上記のように液相のひとつを導出させる。分岐微小流路の大きさは、毛管作用および/または吸引に適した範囲から適宜選定され得るが、通常0.1~200μm程度等から選ばれる。
本発明によれば、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に二分子膜が配置された構造を有し、両親媒性分子からなる二分子膜が得られる。通常2個以上の二分子膜が間隔をおいて並列に配置される。上記間隔は目的に応じて決定され得、有機相もしくは水相を介して形成され、有機相もしくは水相の間に両親媒性分子からなる二分子膜が配置されている。二分子膜は異なる成分の液相で挟まれていてもよい。しかしながら、これらの有機相もしくは水相を除去してその間隔を零(すなわち多層膜)とすることができるし、二分子膜と多層膜の混合型としてもよい。さらに、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に、有機相もしくは水相の間に1個のみの二分子膜が配置されていてもよい。
二分子膜は平面、球面のいずれであってもよく、閉じた球体形であってもよいが、通常は二分子平面膜が選ばれる。
両親媒性分子がたとえばリン脂質である場合、有機相もしくは水相に膜タンパク質等の生体分子を配合しておくことにより、膜タンパク質等の生体分子が固定された二分子膜を得ることができる。膜タンパク質としては、イオンチャンネルタンパク質、トランスポーター、イオンポンプタンパク質およびレセプター(受容体)の一種以上が挙げられる。
たとえば、イオンチャンネルタンパク質はイオンを電気化学的ポテンシャルの勾配にしたがって透過させる働きを持つ。イオンチャンネルタンパク質を取り込んだ二分子平面膜において、イオンの流れを電気生理的に計測しうる。トランスポーターは糖質やアミノ酸等の有機物質を輸送する担体であり、たとえばATP結合部位(ABC)を持ち、ABC加水分解活性を有するABCトランスポーターが挙げられ、放射性標識した糖やアミノ酸等の有機物質が輸送される現象を測定しうる。イオンポンプタンパク質はナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオン、カルシウムイオン等を輸送する輸送担体であり、イオンの濃度勾配(電気化学ポテンシャル差)に抗して輸送する。イオンを輸送するためにはたとえばATP分解により得られる化学エネルギー、もしくは光エネルギー等の供給が必要である。
さらに、レセプターは、たとえば神経伝達物質のような特異的な物質(リガンド)と結合し、細胞の反応を開始させ、細胞外のシグナルを細胞内のシグナルに変換しうる。
このような生体分子が固定された二分子膜に常法により微小電極等を設け、生体分子の電気応答性を測定することにより創薬スクリーニング、細胞機能解明等を目的とした生体膜タンパク質機能解析装置を作製しうる。電極構造としては特に制限されないが、微細流路内を流動もしくは停止している複数の二分子膜に対して、平行に配置された多数の電極を用いて並列的に信号を検出する方式(多数の電極を用いて並列的に検出)、または微細流路内を流動している複数の二分子膜を次々に電極部を通過させ、1つずつ連続的に信号を検出する方式(一対の電極を用いてシーケンシャルに検出)が通常である。
さらに、二分子膜への固定は上記の膜タンパク質に限定されるものではなく、目的に応じ種々の物質を取り込むことができる。たとえば、免疫グロブリン等の抗体を蛍光標識し、抗原を吸着させて生じる蛍光強度変化から抗原を検出しうる。また、微生物が産生するペプチド抗生物質であるグラミシジン等のイオノフォアを取り込み、親水性イオンを二分子膜の疎水性相に入り易くして、透過させるようにすることができる。たとえば、グラミシジンAは膜にチャンネル(イオン透過路)を形成して、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを透過させる。
検出に際しては、放射性標識、蛍光標識等の常法を用いることができ、電気、光、熱等を利用した測定系とすることもでき、創薬スクリーニング、バイオセンサー、抗原抗体反応分析、等に有効に利用しうる。
以下に、本発明の二分子膜を備えてなるデバイスについて、さらに詳細に説明する。
1.膜タンパク質の機能解析デバイス
(A)単一の膜タンパク質の機能解析を目的としたもの、ならびに(B)多数の膜タンパク質を二分子平面膜に配置し、巨視的な挙動の解析を目的としたもの、が挙げられる。
作成した脂質二分子平面膜に、機能を調べたい膜タンパク質(イオンチャンネル、トランスポーター、レセプター)を配置する。各種の物理的または化学的な刺激を与え、膜タンパク質の応答を測定する。
解析する機能としては、チャンネル形成膜タンパク質の場合には、単一チャンネルのコンダクタンス、チャンネル開閉時間、開閉状態確率等が挙げられる。刺激の種類としては、たとえば電位作動性の膜タンパク質の場合には電気刺激を刺激として用い、リガンド作動性の膜タンパク質の場合にはリガンドを刺激として用い、機械刺激作動性の膜タンパク質の場合には機械刺激を刺激として用いられる。また、測定手段としては、電気的測定の場合には、測定対象として膜電位、膜電流、単一チャンネル電流、ゲート電流(電位作動性イオンチャンネル)が挙げられる。
2.二分子平面膜を用いたセンサーデバイス
(A)二分子平面膜をセンサーとして利用する場合
作成した脂質二分子平面膜に、水相中の物質が吸着した際に生じる電気応答(脂質膜の膜電位、膜電流、膜容量等)の変化を測定し、(a)脂質二分子平面膜への物質の取り込みの確認、(b)水相中に含まれる物質の検知、濃度測定等を行う。水相中の物質としては、各種タンパク質、水溶性環境汚染物質等が挙げられる。
(B)二分子平面膜に埋め込んだ膜タンパク質をセンサーとして利用する場合
(1)リガンド作動性イオンチャンネルの利用
作成した脂質二分子平面膜に、レセプター(受容体)膜タンパク質を配し、水相にそのレセプターに対応するリガンド(例えば、神経終末から放出される神経伝達物質、分泌細胞から放出される生理活性物質)、またはリガンドを生成し得るもの(例えば、神経細胞、分泌細胞)を導入しておき、リガンドの結合によるレセプターの応答を検出することで、リガンドの放出、存在を検出する。たとえば、ニコチン性アセチルコリンレセプターは、イオンチャンネル型のレセプター(リガンド作動性イオンチャンネル)で、リガンドであるアセチルコリンが結合することによりチャンネルが開口する。したがって、このチャンネル開口に伴なう電流測定により、リガンド放出をリアルタイムに検知できる。このレセプターを脂質平面膜に配置し、水溶液中にアセチルコリン生成源である細胞を導入しておくことで、アセチルコリンの放出をリアルタイムでセンシングすることができる。
同様に、グルタミン酸レセプターをセンサーとしてグルタミン酸の放出を検出することができる。
(2)その他のイオンチャンネルの利用
Ca2+活性化Kチャンネルは細胞内側のカルシウム濃度に依存した活性を示すので、このイオンチャンネルを二分子平面膜に配することにより、カルシウムセンサーとして利用できる。
以下、図面を用いてさらに本発明を詳細に説明する。
図1において、(a)は二相プラグ流形成の概念図、(b)および(c)は微細流路の両側面に設けた分岐微小流路を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図、(c)および(d)は微細流路の片方の側面に設けた分岐微小流路を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図を示す。
微細流路(3)内部に,両親媒性分子を含有する有機相(2),および水相(1)が規則的に交互に並んだ状態を作成する(a)。次に,側面に設けた分岐微小流路(4)に有機相(2)を導出させ,隣接する水相(1)同士を接触させる。これにより,両親媒性分子で構成される二分子平面膜の並列構造を形成する((b)~(e))。
(a)にT字路を用いた例を示す.本発明においては,規則正しい時間周期でサイズの揃った液滴を生成することができ,且つ流れの制御により,液滴のサイズおよび生成周期を精密に制御することが可能である。両親媒性分子は有機相-水相の界面に吸着し,単分子膜を形成する。
次に,疎水性の微細流路(3)の側面(片側または両側)に設けられたより分岐微小流路(4)から有機相(2)を抽出する。隣り合う水相(1)同士を接触させ,両親媒性分子で構成される薄膜の形成を促す((b)および(c))。
あらかじめ,有機相(2)あるいは水相(1)に脂質膜に埋め込むための生体分子(例:膜タンパク質)を混ぜておくことで,それら生体分子を脂質膜に固定化することができる。
図2は、微小電極(5)と微細流路(3)の組み合わせの例を示し、微小電極(5)と微細流路(3)を組み合わせることにより,膜厚の検証や生体分子の電気応答性を測定することができる。
図3は非対称二分子膜の生成法の一例を示す。(a)は二相プラグ流形成の概念図、(b)および(c)は微細流路の両側面に設けた分岐微小流路を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図、(c)および(d)は微細流路の片方の側面に設けた分岐微小流路を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図を示す。この態様によれば、異なる種類の両親媒性分子からなる非対称な二分子膜を形成することも可能である。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
アクリル樹脂(PMMA)に微細流路を加工して、液滴生成および脂質膜並列構造の作成試験を行った。図4は使用したアクリル微細流路と脂質膜形成手順の概念図である。
液滴を生成するための微細流路(3)の分岐構造は十字形状とし、サイズを幅500μm,深さ100μmとした。有機相(2)の抽出を行う部分の分岐微小流路(4)のサイズは、幅100μm,深さ100μmの溝が200μmピッチで微細流路(3)の側面に多数並んだ構造とした。微細流路の加工は機械加工によって行い、透明な粘着テープで封をすることで流路の形成を行った。分散相(液滴となる相)として純水、連続相(液滴を取り囲む相)として,オレイン酸(和光純薬工業)にリン脂質(ジオレイルホスファチジルコリン、DOPC、和光純薬工業)を5mg/mlの濃度で溶かしたものを用いた。シリンジポンプ(KD Scientific社製,KDS200)を用いて連続相を0.1ml/hr,分散相を0.05ml/hrで装置に送液したところ、十字路において,規則正しい周期で液滴が生成される様子を観察することができた。また、その下流にて有機相(2)が両側面に設けられた、より微細な分岐微小流路(3)(幅100μm)に回収され、前後の液滴同士が接触することで、脂質二分子膜の並列構造が作成される様子を確認することができた。図5はアクリル微細流路を用いた脂質膜並列構造の作成例を示す。(a)は流路SEM写真、深さ100μm、幅は太い部分が500μm,細い部分(有機相抽出流路)が100μm、(b)は水滴が接触する様子、(c)は複数水滴の接触により生成された脂質膜の並列構造、を示す。
【実施例2】
【0007】
石英ガラス基板に実施例1と同様に微細流路を加工して、水相液滴生成および脂質二分子膜並列構造の作成を行った。図6は使用した微細流路および送液・導出方向を示した概念図である。
図7は液滴生成用十字路のSEM(電子顕微鏡)写真、図8は有機相導出と脂質膜形成を行う箇所のSEM写真である。水相液滴を生成するための微細流路の分岐構造は図7のように十字形状とし、サイズを幅200μm、深さ100μmとした。有機相の導出を行う部分は図8のように、脂質膜を形成する微細流路を幅200μm、深さ100μmとし、有機相導出用の分岐微小流路を、幅20μm、深さ100μmの流路が50μmピッチで微細流路の両側に多数並んだ構造とした。微小流路の加工はドライエッチングによって行い、同一素材(合成石英)の薄板を熱溶着することで密封を行った。石英ガラス製の流路はもともと親水性表面を有し、そのままでは水滴の生成には適さないため、流路内壁を疎水化処理剤(シリコナイズ、富士システムズ)を用いて疎水化処理したうえで用いた。分散相(液滴となる相)として純水、連続相(液滴を取り囲む相)として、クロロホルム(和光純薬工業)にリン脂質(ジオレイルホスファチジルコリン、DOPC、和光純薬工業)を5mg/mLの濃度で溶かしたものを用いた。分散相および連続相の送液には、送液専用のシリンジポンプ(KD Scientific社製、KDS200)をそれぞれ一台ずつ用いた。連続相の導出のために、吸引操作を行うことのできるシリンジポンプ(KD Scientific社製、KDS210)を一台用いた。
二方向から供給される水相(1)の送液流量を各0.01mL/hrに、有機相(2)の送液流量を0.1mL/hrに、二方向に導出される有機相の導出流量を0mL/hrに設定したところ、図9の光学顕微鏡観察(10倍)結果に示すように、十字路において規則正しい周期で純水液滴が有機相中に生成された。この際、水滴は互いに接触しないまま流れていった。さらにこの状態から、二方向に導出される有機相の導出流量を各0.05mL/hr(計0.1mL/hr)に設定したところ、図10の光学顕微鏡観察(10倍)結果に示すように、十字路で生成された水滴が互いに前後で接触し、脂質膜の並列構造が作成された。微細流路の両側に設けられた分岐微小流路への水滴の流入は見られなかった。
二方向から供給される水相(1)の送液流量を各0.01mL/hrに、有機相(2)の送液流量を0.005mL/hrに、二方向に導出される有機相(2)の導出流量を各0.0025mL/hr(計0.005mL/hr)に設定した場合の脂質膜形成の様子を図11(光学顕微鏡観察(10倍))に示す。また、二方向から供給される水相(1)の送液流量を各0.01mL/hrに、有機相(2)の送液流量を0.01mL/hrに、二方向に導出される有機相(2)の導出流量を各0.005mL/hr(計0.01mL/hr)に設定した場合の脂質膜形成の様子を図12(光学顕微鏡観察(10倍))に示す。また、二方向から供給される水相(1)の送液流量を各0.01mL/hrに、有機相(2)の送液流量を0.5mL/hrに、二方向に導出される有機相の導出流量を各0.25mL/hr(計0.5mL/hr)に設定した場合の脂質膜形成の様子を図13(光学顕微鏡観察(10倍))に示す。いずれの場合においても、微細流路の両側に設けられた分岐微小流路への水相の流入は見られなかった。図10~13から明らかなように、設定流量を変化させることで、脂質膜の間隔を変化させることが可能であった。
【実施例3】
【0008】
石英ガラス基板上の微細流路を用いて、水相液滴生成および脂質二分子膜並列構造の作成を行った。十字路において二方向から供給する分散相として、一方には純水、他方には純水を水溶性青インクで着色したものを用いた。連続相として、クロロホルム(和光純薬工業)にリン脂質(ジオレイルホスファチジルコリン、DOPC、和光純薬工業)を5mg/mLの濃度で、細胞膜のイオン透過に作用するグラミシジンA(Calbiochem社)を3μg/mLの濃度で共に溶かしたものを用いた。その他の装置構成は実施例2と同様のものを用いた。
図14(光学顕微鏡観察(10倍))は、二方向から供給される水相の送液流量を各0.01mL/hrに、有機相(2)の送液流量を0.2mL/hrに、二方向に導出される有機相の導出流量を各0mL/hrに設定した際の微細流路内部の様子である。この場合、十字路において規則正しい周期で青に着色された水相液滴(青色水滴)(1’)と無着色の水相液滴(無色水滴)(1’’)が有機相中に交互に生成された。また、生成された青色水滴(1’)と無色水滴(1’’)は互いに接触しないまま流れていった。さらに、この状態から、二方向に導出される有機相の導出流量を各0.1mL/hr(計0.2mL/hr)に設定したところ、図15の光学顕微鏡観察(10倍)結果に示すように、十字路で生成された水滴が互いに前後で部分的に接触し、脂質膜の並列構造が形成される様子が観察された。さらに、この状態から、二方向に導出される有機相の導出流量を各0.11mL/hr(計0.22mL/hr)に増加させたところ、図16の光学顕微鏡観察(10倍)結果に示すように、液滴同士の接触面積すなわち脂質膜の面積が増大した。ついで、二方向に導出される有機相の導出流量を各0.115mL/hr(計0.23mL/hr)に増加させたところ、図17の光学顕微鏡観察(10倍)結果に示すように、液滴同士の接触面積すなわち脂質膜の面積がさらに増大した。
このように、イオノフォアを有機相に混入して用い、互いに成分の異なる水相で挟まれた脂質膜の並列構造を作成することができた。また、このように、有機相の導出流量を変化させることで、形成される脂質膜の面積を変化させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明によれば、脂質二分子平面膜等の二分子膜を容易に、且つ大量に形成することができる微細流路を用いた二分子膜の製造方法を提供しうる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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