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明細書 :マイクロ流体チップを用いた微小液滴の製造法および微小液滴製造装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-211931 (P2015-211931A)
公開日 平成27年11月26日(2015.11.26)
発明の名称または考案の名称 マイクロ流体チップを用いた微小液滴の製造法および微小液滴製造装置
国際特許分類 B01J  19/00        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
B01F   3/08        (2006.01)
B01J  13/00        (2006.01)
FI B01J 19/00 321
G01N 37/00 101
B01J 19/00 B
B01F 3/08 A
B01J 13/00 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-094531 (P2014-094531)
出願日 平成26年5月1日(2014.5.1)
発明者または考案者 【氏名】橋本 雅彦
【氏名】田中 洋成
【氏名】中村 惟愛
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4G035
4G065
4G075
Fターム 4G035AB37
4G035AB40
4G035AE13
4G035AE17
4G065BB01
4G065CA02
4G065GA01
4G075AA13
4G075AA39
4G075BB05
4G075BD15
4G075DA02
4G075EB50
4G075EC25
4G075FA01
4G075FA12
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC20
要約 【課題】微小液滴を、低コストで簡単に、かつ効率的に製造できるようにする。
【解決手段】ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成されたチップ本体と、チップ本体に気密シールされた状態で接合された基板とを有し、チップ本体に、第1~第3の液溜と、それぞれ第1~第3の液溜からのび一点で連結する第1~第3のマイクロ流路とが設けられたマイクロ流体チップを準備する(S1)。第3の液溜に蓋を被せた後、マイクロ流体チップを脱気する(S2)。脱気後のマイクロ流体チップを大気圧下に置き、第1の液溜に連続相となる液体を注入し、第2の液溜に分散相となる液体を注入する(S3)。合成樹脂のガス吸蔵作用を利用して、第1および第2の液溜から連続相となる液体および分散相となる液体を第3の液溜に向けて流し、第3のマイクロ流路内にエマルジョンを形成して第3の液溜内に捕集する(S4、S5)。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
マイクロ流体チップを用いて微小液滴を製造する方法であって、
(1)ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、前記合成樹脂と同じ種類の合成樹脂または別の種類の合成樹脂またはガラスから形成され、前記チップ本体の一方の面に気密シールされた状態で接合された基板とを有し、前記チップ本体に、第1~第3の液溜と、それぞれ前記第1~第3の液溜の底部からのび一点で互いに連結する第1~第3のマイクロ流路とが設けられたマイクロ流体チップを準備し、
(2)前記マイクロ流体チップの前記第3の液溜に蓋を被せた後、前記マイクロ流体チップを所定時間、減圧下に置くことによって前記マイクロ流体チップを脱気し、
(3)脱気した前記マイクロ流体チップを前記第3の液溜に前記蓋を被せたままで大気圧下に置き、前記第1の液溜に連続相となる液体を注入する一方、前記第2の液溜に分散相となる液体を注入し、前記合成樹脂のガス吸蔵作用を利用して、前記第1および第2の液溜からそれぞれ前記連続相となる液体および前記分散相となる液体を前記第1および第2のマイクロ流路を通じて前記第3の液溜に向けて流し、前記第3のマイクロ流路内にエマルジョンを形成し、前記第3の液溜に、前記分散相となる液体の微小液滴を前記連続相となる液体とともに捕集することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1~第3のマイクロ流路のそれぞれが、前記連結する点の手前から前記連結する点まで先細り状にのびていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1~第3のマイクロ流路のそれぞれが、その全長にわたって同じ深さを有し、かつ、関係する前記液溜から前記連結する点の手前までのびる幅広の部分と、前記幅広の部分の先端に接続した次第に幅が狭くなるテーパー部分と、前記テーパー部分の先端から前記連結する点までのびる狭小な部分とからなっていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロ流体チップのチップ本体には各1つの前記第1~第3の液溜が設けられ、前記第1~第3のマイクロ流路が、前記第1および第2のマイクロ流路のうちの一方と前記第3のマイクロ流路が一直線となり、前記第1および第2のマイクロ流路のうちの他方が前記第3のマクロ流路および前記第1および第2のマイクロ流路のうちの一方に対して直交する配置で、前記一点で互いにT字状に連結していることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロ流体チップのチップ本体には各1つの前記第1~第3の液溜が設けられ、前記第1の液溜から一対の前記第1のマイクロ流路がのび、前記第1のマイクロ流路の組と、前記第2および第3のマイクロ流路の組とが前記一点で互いに十字状に連結していることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記マイクロ流体チップのチップ本体には、2つの前記第1の液溜と、各1つの前記第2および第3の液溜が設けられ、前記2つの第1の液溜からそれぞれのびる2本の前記第2のマイクロ流路の組と、前記第2および第3の流路の組とが前記一点で互いに十字状に連結していることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第3の液溜の容積が、前記第1および第2の液溜を足し合わせた容積よりも大きいことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ガスを吸蔵し得る合成樹脂がポリジメチルシロキサン(PDMS)であることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第3の液溜に対する前記蓋がガラス板であることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
チャンバと、
一端が前記チャンバに接続された排気管と、
前記排気管の他端に接続され、前記チャンバから排気を行うためのポンプと、
前記排気管の途中に設けられた第1のバルブと、
前記排気管における前記第1のバルブの上流側に分岐接続されたリーク管と、
前記リーク管の途中に設けられた第2のバルブと、
前記チャンバ内に配置されたマイクロ流体チップと、を備え、
前記マイクロ流体チップは、
ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、
前記合成樹脂と同じ種類の合成樹脂または別の種類の合成樹脂またはガラスから形成され、前記チップ本体の一方の面に気密シールされた状態で接合された基板とを有し、
前記チップ本体には、第1~第3の液溜と、それぞれ前記第1~第3の液溜の底部からのび一点で互いに連結する第1~第3のマイクロ流路とが設けられており、さらに、
前記マイクロ流体チップの前記第3の液溜を封閉し得る蓋と、
前記チャンバの外部に配置された、連続相となる液体を供給する第1の液体供給源と、
前記チャンバの外部に配置された、分散相となる液体を供給する第2の液体供給源と、
前記第1の液体供給源から前記マイクロ流体チップの前記第1の液溜に前記連続相となる液体を供給するための第1の液体供給管と、
前記第2の液体供給源から前記マイクロ流体チップの前記第2の液溜に前記分散相となる液体を供給するための第2の液体供給管と、を備えたものであることを特徴とする微小液滴製造装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップを用いて微小液滴を製造する方法およびマイクロ流体チップを用いた微小液滴製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のマイクロフルイディクスを利用したナノテクノロジーの発達に伴って、バイオテクノロジーや薬品製造等の分野では、微小液滴(エマルジョン)が、極微小反応容器やマイクロカプセルの形成材等として広く用いられている。
【0003】
この微小液滴は、例えば、マイクロ流体チップを用いて製造される(例えば、特許文献1、2および非特許文献1参照)。
この微小液滴の製造法によれば、マイクロ流体チップは、通常、ガラスやシリコン等から形成された板状を有し、連続相となる液体を貯留する第1の液溜、および分散相となる液体を貯留する第2の液溜、および微小液滴(エマルジョン)を貯留する第3の液溜をそれぞれ少なくとも1つ備え、さらに、その表面または内部に、それぞれ第1~第3の液溜の底部からのび一点で互いに連結する第1~第3のマイクロ流路を備えている。
【0004】
また、この微小液滴の製造法によれば、シリンジポンプその他のマイクロポンプが準備され、このマイクロポンプによって、マイクロ流体チップの第1の液溜に連続相となる液体が送液される一方、第2の液溜には分散相となる液体が送液される。
【0005】
マイクロポンプによる送液によって、第1および第2の液溜からそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体が第1および第2のマイクロ流路を通じて第3の液溜に向けて流される。その際に、第3のマイクロ流路内にエマルジョンが形成され、第3の液溜には、分散相となる液体の微小液滴が連続相となる液体とともに捕集される。
【0006】
しかしながら、この従来法によれば、連続相となる液体および分散相となる液体のそれぞれの送液のためにシリンジポンプ等の高価な送液手段を使用しなければならず、しかもシリンジポンプ等による送液流量の調節が難しく、さらには、分散相となる液体のデッドボリュームが相当量発生し、そのため、微小液滴の製造の効率が悪く、また製造コストが高くつくという問題があった。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2004-358386号公報
【特許文献2】国際公開第2012/008497号パンフレット
【0008】

【非特許文献1】Deniz Pekin 他 「Quantitative and sensitive detection of rare mutations using droplet-based microfluidics」Lab Chip、The Royal Society of Chemistry、2011年、第11巻、P.2156-2166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、微小液滴を、低コストで簡単に、かつ効率的に製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、マイクロ流体チップを用いて微小液滴を製造する方法であって、(1)ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、前記合成樹脂と同じ種類の合成樹脂または別の種類の合成樹脂またはガラスから形成され、前記チップ本体の一方の面に気密シールされた状態で接合された基板とを有し、前記チップ本体に、第1~第3の液溜と、それぞれ前記第1~第3の液溜の底部からのび一点で互いに連結する第1~第3のマイクロ流路とが設けられたマイクロ流体チップを準備し、(2)前記マイクロ流体チップの前記第3の液溜に蓋を被せた後、前記マイクロ流体チップを所定時間、減圧下に置くことによって前記マイクロ流体チップを脱気し、(3)脱気した前記マイクロ流体チップを前記第3の液溜に前記蓋を被せたままで大気圧下に置き、前記第1の液溜に連続相となる液体を注入する一方、前記第2の液溜に分散相となる液体を注入し、前記合成樹脂のガス吸蔵作用を利用して、前記第1および第2の液溜からそれぞれ前記連続相となる液体および前記分散相となる液体を前記第1および第2のマイクロ流路を通じて前記第3の液溜に向けて流し、前記第3のマイクロ流路内にエマルジョンを形成し、前記第3の液溜に、前記分散相となる液体の微小液滴を前記連続相となる液体とともに捕集することを特徴とする方法を構成したものである。
【0011】
上記構成において、好ましくは、前記第1~第3のマイクロ流路のそれぞれが、前記連結する点の手前から前記連結する点まで先細り状にのびている。この場合、前記第1~第3のマイクロ流路のそれぞれが、その全長にわたって同じ深さを有し、かつ、関係する前記液溜から前記連結する点の手前までのびる幅広の部分と、前記幅広の部分の先端に接続した次第に幅が狭くなるテーパー部分と、前記テーパー部分の先端から前記連結する点までのびる狭小な部分とからなっていることが好ましい。
【0012】
また、上記構成において、好ましくは、前記マイクロ流体チップのチップ本体には各1つの前記第1~第3の液溜が設けられ、前記第1~第3のマイクロ流路が、前記第1および第2のマイクロ流路のうちの一方と前記第3のマイクロ流路が一直線となり、前記第1および第2のマイクロ流路のうちの他方が前記第3のマクロ流路および前記第1および第2のマイクロ流路のうちの一方に対して直交する配置で、前記一点で互いにT字状に連結しており、あるいは、前記マイクロ流体チップのチップ本体には各1つの前記第1~第3の液溜が設けられ、前記第1の液溜から一対の前記第1のマイクロ流路がのび、前記第1のマイクロ流路の組と、前記第2および第3のマイクロ流路の組とが前記一点で互いに十字状に連結しており、あるいは、前記マイクロ流体チップのチップ本体には、2つの前記第1の液溜と、各1つの前記第2および第3の液溜が設けられ、前記2つの第1の液溜からそれぞれのびる2本の前記第2のマイクロ流路の組と、前記第2および第3の流路の組とが前記一点で互いに十字状に連結している。
【0013】
また好ましくは、前記第3の液溜の容積が、前記第1および第2の液溜を足し合わせた容積よりも大きくなっている。
また、前記ガスを吸蔵し得る合成樹脂は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることが好ましく、また、前記第3の液溜に対する前記蓋がガラス板であることが好ましい。
【0014】
上記課題を解決するため、また、本発明は、チャンバと、一端が前記チャンバに接続された排気管と、前記排気管の他端に接続され、前記チャンバから排気を行うためのポンプと、前記排気管の途中に設けられた第1のバルブと、前記排気管における前記第1のバルブの上流側に分岐接続されたリーク管と、前記リーク管の途中に設けられた第2のバルブと、前記チャンバ内に配置されたマイクロ流体チップと、を備え、前記マイクロ流体チップは、ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、前記合成樹脂と同じ種類の合成樹脂または別の種類の合成樹脂またはガラスから形成され、前記チップ本体の一方の面に気密シールされた状態で接合された基板とを有し、前記チップ本体には、第1~第3の液溜と、それぞれ前記第1~第3の液溜からのび一点で互いに連結する第1~第3のマイクロ流路とが設けられており、さらに、前記マイクロ流体チップの前記第3の液溜を封閉し得る蓋と、前記チャンバの外部に配置された、連続相となる液体を供給する第1の液体供給源と、前記チャンバの外部に配置された、分散相となる液体を供給する第2の液体供給源と、前記第1の液体供給源から前記マイクロ流体チップの前記第1の液溜に前記連続相となる液体を供給するための第1の液体供給管と、前記第2の液体供給源から前記マイクロ流体チップの前記第2の液溜に前記分散相となる液体を供給するための第2の液体供給管と、を備えたものであることを特徴とするマイクロ流体チップを用いた微小液滴の製造装置を構成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マイクロ流体チップのチップ本体を、ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成したので、チップ本体の第3の液溜に蓋を被せた後、マイクロ流体チップを減圧下に置いて脱気し、脱気したマイクロ流体チップを第3の液溜に蓋を被せたまま大気圧下に置くと、チップ本体が再び空気を吸蔵し始めることで、第3の液溜内が一定時間減圧状態に維持される。
【0016】
このとき、チップ本体の第1および第2の液溜にそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体を注入すると、これらの液体は、自律的に、第1および第2のマイクロ流路、さらに第3のマイクロ流路を通じて第3の液溜に向けて流れる。その間に、第3のマイクロ流路内にエマルジョンが形成され、分散相となる液体の微小液滴が連続相となる液体とともに第3の液溜に自動的に捕集される。
【0017】
こうして、本発明によれば、連続相となる液体および分散相となる液体をそれぞれ第1および第2の液溜から第3の液溜に向けて送液するためのシリンジポンプ等のマイクロポンプが不要となる。また、第1および第2の液溜にそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体を注入すれば、それぞれの液体が自律的に第3の液溜に向かって流れるので、各液体の送液流量を制御する必要もない。
さらに、第3の液溜の容積に基づいて計算された、分散相となる液体の必要量を第2の液溜に注入することで、分散相となる液体のデッドボリュームも発生しない。
その結果、微小液滴の製造を低コストで簡単かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるマイクロ流体チップを利用した微小液滴の製造方法のフロー図である。
【図2】本発明による方法において使用されるマイクロ流体チップの一例を示す斜視図である。
【図3】図2のマイクロ流体チップの液溜およびマイクロ流路の配置を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)の一部を拡大した図である。
【図4】図1のステップS2以後の過程を説明する模式図であり、マイクロ流体チップの第1の液溜から、第1のマイクロ流路および第3のマイクロ流路を経て第3の液溜に至る部分の側断面を示した図である。
【図5】実験において、脱気する前のマイクロ流体チップの状態を映した写真である。
【図6】実験において、脱気後、マイクロ流体チップの第1および第2の液溜に液体を注入する状態を映した写真である。
【図7】実験において、第3のマイクロ流路内に形成されたエマルジョンが第3の液溜に捕集される状態を映した写真である。
【図8】1時間脱気した後のマイクロ流体チップを用いた場合の、微小液滴の生成速度および生成総数の時間変化を示したグラフである。
【図9】1.5時間脱気した後のマイクロ流体チップを用いた場合の、微小液滴の生成速度および生成総数の時間変化を示したグラフである。
【図10】一昼夜脱気した後のマイクロ流体チップを用いた場合の、微小液滴の生成速度および生成総数の時間変化を示したグラフである。
【図11】本発明による微小液滴製造装置の一例の概略構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例を説明する。図1は、本発明によるマイクロ流体チップを利用した微小液滴の製造方法のフロー図である。
図1を参照して、本発明によれば、まず、マイクロ流体チップが準備される(図1のS1)。

【0020】
図2は、本発明による微小液滴の製造方法において使用されるマイクロ流体チップの一例を示した斜視図であり、図3は、図2のマイクロ流体チップの液溜およびマイクロ流路の配置を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)の一部を拡大した図である。
図2および図3を参照して、マイクロ流体チップは、ガスを吸蔵し得る合成樹脂から形成された一定厚の板状のチップ本体1を有している。この実施例では、チップ本体1を形成する合成樹脂としてポリジメチルシロキサン(PDMS)が用いられる。

【0021】
チップ本体1には、その一面側から他面側に貫通する3つの円柱状の穴2~4が設けられている。この場合、3つの穴2~4の径は、第1の穴2の容積と第2の穴3の容積を足し合わせたものが、第3の穴4の容積よりも小さくなるような大きさに設定されている。

【0022】
また、チップ本体1の一面には、第1の穴2の開口縁に接続する第1の微細な溝5と、第2の穴3の開口縁に接続する第2の微細な溝6と、第3の穴4の開口縁に接続する第3の微細な溝7が設けられ、第1~第3の溝5~7は互いに一点Pで連結している。

【0023】
第1~第3の溝5~7は、それぞれ、連結点Pの手前から当該連結点Pに向かって先細り状に形成されている。
この実施例では、第1~第3の溝5~7のそれぞれが、その全長にわたって同じ深さを有し、かつ、関係する穴2~4から連結点Pの手前までのびる幅広の部分5a~7aと、幅広の部分5a~7aの先端に接続した次第に幅が狭くなるテーパー部分5b~7bと、テーパー部分5b~7bの先端から連結点Pまでのびる狭小な部分5c~7cとからなっている。

【0024】
さらに、連結点Pにおいて、第1~第3の溝5~7が、第1および第2の溝5、6のうちの一方(この実施例では、第2の溝6)と第3の溝7が一直線となり、第1および第2の溝5、6のうちの他方(この実施例では、第1の溝5)が、第1および第2の溝5、6のうちの一方(この実施例では、第2の溝6)および第3の溝7に対して直交する配置で、互いにT字状に連結している。

【0025】
そして、チップ本体1の第1~第3の溝5~7が設けられた面には、ガラスから形成された基板8が、気密シールされた状態で接合されている。この場合、チップ本体1を形成するPDMSの強い自己吸着性により、チップ本体1と基板8を互いに接触させるだけで、両者を気密シールした状態で接合することができる。
なお、基板8の形成材料はガラスに限定されず、基板8は、チップ本体1を形成する合成樹脂と同じ種類の合成樹脂または別の種類の合成樹脂から形成されていてもよい。

【0026】
このチップ本体1と基板8との接合によって、チップ本体1の第1~第3の穴2~4のそれぞれの一端開口が封閉されて、マイクロ流体チップの第1~第3の液溜m~mが形成され、また、チップ本体1の第1~第3の溝5~7のそれぞれの、チップ本体1の面上に形成された開口部が封閉されて、マイクロ流体チップの第1~第3のマイクロ流路n~nが形成される。
マイクロ流体チップは、基板8が下になる配置で使用される。

【0027】
なお、マイクロ流体チップの構成は、上述のものに限定されるものではなく、種々の変形例が可能である。
例えば、上述の実施例では、マイクロ流体チップに第1~第3の液溜m~mを1組だけ設けているが、マイクロ流体チップに第1~第3の液溜m~mの組を複数組設けてもよい。
また、上述の実施例では、第1~第3のマイクロ流路n~nが互いにT字状に連結しているが、第1の液溜mからのびる第1のマイクロ流路nを一対設け、連結点Pにおいて、第1のマイクロ流路nの組と、第2および第3のマイクロ流路n、nの組を互いに十字状に連結してもよい。

【0028】
また、例えば、チップ本体1に、2つの第1の液溜mと、各1つの第2および第3の液溜m、mを設けるとともに、2つの第1の液溜からそれぞれのびる2本の第1のマイクロ流路nの組と、第2および第3の流路n、nの組を一点で互いに十字状に連結してもよい。

【0029】
本発明によれば、次に、第3の液溜mに蓋が被せられた後、マイクロ流体チップが減圧下に置かれて、脱気される(図1のS2)。この実施例では、蓋はガラス板からなっている。この場合、チップ本体1を形成するPDMSは強い自己吸着性を有しているので、チップ本体1の上から第3の液溜mの開口面を覆うようにガラス板を置くだけで、ガラス板とチップ本体1とが吸着して第3の液溜mの上端開口を気密シールした状態で封閉することができる。

【0030】
このマイクロ流体チップを脱気する際の圧力値および減圧下に置いておく時間は、特に限定されず、これらのパラメータは、後述する、チップ本体1の空気の再吸蔵作用による自律的な微小液滴の製造が適切に行われるように設定される。

【0031】
次いで、脱気されたマイクロ流体チップが、第3の液溜mに蓋が被せられたまま大気圧下に置かれ、第1の液溜mに連続相となる液体が注入される一方、第2の液溜mに分散相となる液体が注入される(図1のS3)。

【0032】
この場合、脱気されたマイクロ流体チップが第3の液溜mに蓋が被せられたまま大気圧下に置かれると、チップ本体1が再び空気を吸蔵し始め、それによって、第3の液溜m内が一定時間減圧状態に維持される。
このとき、チップ本体1の第1および第2の液溜m、mにそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体が注入されると、これらの液体は、自律的に、第1および第2のマイクロ流路n、n、さらに第3のマイクロ流路nを通じて第3の液溜mに向けて流れる。その間に、第3のマイクロ流路n内にエマルジョンが形成され、分散相となる液体の微小液滴が連続相となる液体とともに第3の液溜mに自動的に捕集される(図1のS4、S5)

【0033】
以下に、図1のステップS2以後の過程をより詳細に説明する。
図4は、図1のステップS2以後の過程を説明する模式図であり、マイクロ流体チップの第1の液溜mから、第1のマイクロ流路nおよび第3のマイクロ流路nを経て第3の液溜mに至る部分の側断面を示した図である。
そして、図4Aは、マイクロ流体チップが減圧下に置かれた状態を示し、図4Bは、脱気されたマイクロ流体チップが大気圧下に置かれた状態を示し、図4Cは、第1の液溜mに連続相となる液体が注入された状態を示し、図4Dは、第3のマイクロ流路n内にエマルジョンが形成され、第3の液溜mに分散相となる液体の微小液滴が捕集されている状態を示している。

【0034】
図4Aに示すように、マイクロ液体チップが減圧下に置かれると、チップ本体1に吸蔵された空気が外部に放出されると同時に、第1の液溜m、第1のマイクロ流路n、第3のマイクロ流路nおよび第3の液溜mのそれぞれの内部からも空気が外部に放出される。

【0035】
次いで、図4Bに示すように、脱気されたマイクロ流体チップが第3の液溜mに蓋9が被せられたまま大気圧下に置かれると、第1の液溜mから第3の液溜mに向かって空気が流入するが、この空気は、チップ本体1による空気の再吸蔵作用によって、第1および第3の液溜m、mおよびマイクロ流路n、nの壁面から吸収される。
このとき、図4Cに示すように、第1の液溜mに連続相となる液体uが注入されると、液体uは、自律的に、減圧状態にある第1および第3のマイクロ流路n、nを通って、第3の液溜mに向けて流れる。

【0036】
この間に、図4Dに示すように、第3のマイクロ流路n内にエマルジョンwが形成され、第3の液溜mに、分散相となる液体の微小液滴が連続相となる液体uとともに捕集される。このエマルジョン生成過程は、第3の液溜m内に残された空間が減圧状態に維持される間持続する。

【0037】
こうして、本発明によれば、連続相となる液体および分散相となる液体をそれぞれ第1および第2の液溜m、mから第3の液溜mに向けて送液するためのシリンジポンプ等のマイクロポンプが不要となる。また、第1および第2の液溜m、mにそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体を注入すれば、それらは自律的に第3の液溜mに向かって流れるので、各液体の送液流量を制御する必要もない。
また、第3の液溜mの容積に基づいて計算された、分散相となる液体の必要量を第2の液溜mに注入することで、分散相となる液体のデッドボリュームも発生しない。
それによって、微小液滴の製造を低コストで簡単かつ効率的に行うことができる。

【0038】
次に、本発明の効果を確認すべく、実験を行ってその結果を評価した。
実験においては、マイクロ流体チップとして、図2および図3に示したものと同様の構成のものを作成した。マイクロ流体チップの各部の寸法は次のとおりである。
・チップ本体1:縦50mm×横70mm×厚さ4mm
・基板8:縦52mm×横76mm×厚さ1mm
・第1の液溜mの径:d=6mm
・第2の液溜mの径:d=4mm
・第3の液溜mの径:d=8mm
・チップ本体横方向の、第1の液溜mの中心および点P間の距離:L=7mm
・チップ本体横方向の、第2の液溜mの中心および点P間の距離:L=7mm
・チップ本体縦方向の、第2の液溜m(第1の液溜m)の中心および点P間の距離L=7.5mm
・チップ本体縦方向の、第3の液溜mの中心および点P間の距離L+L=7.5mm
・チップ本体縦方向の、第3の液溜mの中心および第3のマイクロ流路nとの接続点間の距離:L=1mm
・第1~第3のマイクロ流路n~nの深さ:50μm
・第1~第3のマイクロ流路n~nの幅広の部分5a、6a、7aのそれぞれの幅:d=250μm
・第1~第3のマイクロ流路n~nのテーパー部分5b、6b、7bのそれぞれの長さ:d=300μm
・第1~第3のマイクロ流路n~nの狭小な部分5c、6c、7cのそれぞれの幅:d=50μm
・第1のマイクロ流路n1の狭小な部分5cの長さd=0.2mm
・第2のマイクロ流路n2の狭小な部分6cの長さd=0.2mm
・第3のマイクロ流路n3の狭小な部分7cの長さd=2mm
なお、この実験では、マイクロ流体チップは、第1~第3の液溜m~mの組を4組備えているが、そのうちの1組のみを使用した。

【0039】
このマイクロ流体チップを、図5に示すように、第3の液溜mにカバーガラス(蓋)を被せた状態で、ポンプ内蔵真空デシケータ内に収容し、ポンプを作動させてデシケータ内を減圧し、デシケータ内が所定の圧力値に達した時点でポンプを停止させて、1時間デシケータ内を減圧状態に維持した。

【0040】
その後、マイクロ流体チップを、第3の液溜mにカバーガラスを被せたままで、デシケータから取り出して大気圧下に置くとすぐに、図6に示すように、第1の液溜mに、連続相となる液体として、2%(vol/vol)のABIL EM90および0.05%(vol/vol)のTriton X-100(いずれも界面活性剤)を含んだミネラルオイル液を60μL注入し、第2の液溜mに、PCR反応液(ポリメラーゼ連鎖反応液)を20μL注入した。

【0041】
約3.5分経過後、第3のマイクロ流路n内にエマルジョンが形成され、図7に示すように、第3の液溜mに、PCR反応液の微小液滴がミネラルオイル液とともに捕集された。
このとき、ミネラルオイル液とPCR反応液とが点Pで交差した時点を基準として、PCRの微小液滴の生成速度の時間変化を測定した。さらに、得られた生成速度を積分することによって、微小液滴の生成総数の時間変化を算出した。
結果を図8のグラフに示す。図8のグラフ中、曲線Xは微小液滴の生成総数を表し、曲線Yは微小液滴の生成速度を表している。

【0042】
同じマイクロ流体チップを使用し、それぞれ脱気時間を1.5時間および一昼夜として、それぞれの場合について、前と同様に、微小液滴の生成速度の時間変化を測定するとともに、微小液滴の生成総数の時間変化を算出した。
脱気時間を1.5時間とした場合の結果を図9のグラフに示し、脱気時間を一昼夜とした場合の結果を図10のグラフに示す。

【0043】
図8~図10のグラフから、減圧時の圧力が同じ場合、脱気時間が長いほど、微小液滴の生成速度が大きくなり、より短時間で大量の微小液滴を生成することができることがわかった。
また、上記3つの異なる実験のそれぞれにおいて、生成される微小液滴の粒径の時間変化を測定したが、いずれの場合も、微小液滴の粒径は、時間によらずほぼ一定(約90μm)であった。

【0044】
図11は、本発明による微小液滴製造装置の一例の概略構成を示す側断面図である。
図11に示すように、本発明の微小液滴製造装置は、チャンバ10と、一端がチャンバ10に接続された排気管11と、排気管11の他端に接続され、チャンバ10から排気を行うためのポンプ12と、排気管11の途中に設けられた第1のバルブ13と、排気管11における第1のバルブ13の上流側に分岐接続されたリーク管14と、リーク管14の途中に設けられた第2のバルブ15を備えている。

【0045】
チャンバ10は、この実施例では、両端が閉じられた円筒形状を有し、チャンバ本体10aと、上蓋10bとに分離可能になっている。この場合、チャンバ本体10aの上端開口が上蓋10bによって閉じられたとき、上蓋10bの環状の下端面が、Oリング10cを介してチャンバ本体10aの環状の上端面に接触するようになっている。

【0046】
微小液滴製造装置は、また、チャンバ10内に配置されたマイクロ流体チップ16を備えている。
マイクロ流体チップ16は、第1~第3の液溜m~mの組を複数組有している点を除いて、図2および図3に示したものと同様の構成を有している。
また、図示はしないが、微小液滴製造装置は、マイクロ流体チップ16の第3の液溜mを封閉し得る蓋を備えている。

【0047】
さらに、微小液滴製造装置は、チャンバ10の外部に配置された、連続相となる液体を供給する第1の液体供給源17と、チャンバ10の外部に配置された、分散相となる液体を供給する第2の液体供給源18と、第1の液体供給源17からマイクロ流体チップ16の第1の液溜mに連続相となる液体を供給するための第1の液体供給管19と、第2の液体供給源18からマイクロ流体チップ16の第2の液溜mに分散相となる液体を供給するための第2の液体供給管20を備えている。

【0048】
この装置によれば、まず、マイクロ流体チップ16の各第3の液溜mに蓋が被せられた後、チャンバ10の上蓋10bが閉じられ、第1のバルブ13が開放される一方、第2のバルブ15が閉じられ、ポンプ12が作動せしめられて、チャンバ10内の空気が排気される。そして、チャンバ10内が一定の減圧状態となった時点で第1のバルブが閉じられるとともにポンプ12が停止せしめられ、マイクロ流体チップ16の脱気がなされる。

【0049】
一定時間経過後、第2のバルブ15が開放されてチャンバ10内に再び空気が取り込まれ、チャンバ10内がほぼ大気圧に等しくなった時点で、第1の液体供給源17から連続相となる液体が、第1の液体供給管19を通じてマイクロ流体チップ16の第1の液溜mに注入され、同時に、第2の液体供給源18から分散相となる液体が、第2の液体供給管20を通じてマイクロ流体チップ16の第2の液溜mに注入される。
そして、マイクロ流体チップ16における自律的な微小液滴の製造過程が終了した時点で、上蓋10bが取り外されるとともに、第3の液溜mから蓋が取り外され、生成された微小液滴が外部に取り出される。
【符号の説明】
【0050】
1 チップ本体
2 第1の穴
3 第2の穴
4 第3の穴
5 第1の溝
6 第2の溝
7 第3の溝
8 基板
9 蓋
10 チャンバ
10a チャンバ本体
10b 上蓋
10c Oリング
11 排気管
12 ポンプ
13 第1のバルブ
14 リーク管
15 第2のバルブ
16 マイクロ流体チップ
17 第1の液体供給源
18 第2の液体供給源
19 第1の液体供給管
20 第2の液体供給管
第1の液溜
第2の液溜
第3の液溜
第1のマイクロ流路
第2のマイクロ流路
第3のマイクロ流路
u 連続相となる液体
w エマルジョン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図8】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図11】
7
【図5】
8
【図6】
9
【図7】
10