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明細書 :実鏡映像結像光学系

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5177483号 (P5177483)
公開番号 特開2009-025776 (P2009-025776A)
登録日 平成25年1月18日(2013.1.18)
発行日 平成25年4月3日(2013.4.3)
公開日 平成21年2月5日(2009.2.5)
発明の名称または考案の名称 実鏡映像結像光学系
国際特許分類 G02B   5/124       (2006.01)
G02B  27/22        (2006.01)
FI G02B 5/124
G02B 27/22
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2007-211992 (P2007-211992)
出願日 平成19年8月15日(2007.8.15)
優先権出願番号 2007163323
優先日 平成19年6月21日(2007.6.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年12月24日(2009.12.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301022471
【氏名又は名称】独立行政法人情報通信研究機構
発明者または考案者 【氏名】前川 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】100130498、【弁理士】、【氏名又は名称】佐野 禎哉
審査官 【審査官】森内 正明
参考文献・文献 特表2002-517779(JP,A)
特表2001-511915(JP,A)
特表平9-506717(JP,A)
特開平4-339488(JP,A)
特表昭59-500189(JP,A)
特開2000-352695(JP,A)
英国特許出願公開第2287549(GB,A)
調査した分野 G02B 5/12 - 5/136
G02B 27/22 - 27/24
特許請求の範囲 【請求項1】
ハーフミラーと、該ハーフミラーからの透過光若しくは反射光を再帰反射させる位置に配置される単位再帰反射素子の集合である再帰反射素子とを具備し、
前記単位再帰反射素子は、3つの隣接する鏡面から構成され、当該3つの鏡面を、当該単位再帰反射素子内での鏡面同士の角度関係を維持しつつ、個々の単位再帰反射素子では任意の方向を向けているものであり、
前記ハーフミラーの裏面側に配置される被投影物から発せられる光を当該ハーフミラーを透過させ且つ表面側に配置された前記各単位再帰反射素子で再帰反射させ、さらにこのハーフミラーの表面側で反射させる第1光路、又は前記被投影物から発せられる光を当該ハーフミラーの裏面側で反射させ且つ裏面側に配置された前記各単位再帰反射素子で再帰反射させ、さらにこのハーフミラーを透過させる第2光路のうち、何れか一方又は両方の光路を経て当該ハーフミラーに対する面対称位置に前記被投影物の実鏡映像を結像させることを特徴とする実鏡映像結像光学系。
【請求項2】
前記再帰反射素子において、各単位再帰反射素子を共通の曲面上に並べている請求項1に記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項3】
前記再帰反射素子において、各単位再帰反射素子を共通の平面上に並べている請求項1に記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項4】
前記再帰反射素子を、前記ハーフミラーの表面側と裏面側の何れか一方又は両方に配置している請求項1乃至3の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項5】
前記ハーフミラーにおいて前記第1光路及び第2光路よりも実鏡映像に対する観察側の領域を遮光する遮光手段を設けている請求項1乃至4の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項6】
前記再帰反射素子を、少なくとも前記ハーフミラーの裏面側において当該ハーフミラーと共に前記被投影物を3次元的に包囲するように配置している請求項1乃至4の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項7】
前記ハーフミラーの表面側に、特定方向の光線のみを透過・遮断若しくは拡散する光学的な視線制御手段を設け、当該視線制御手段により、前記ハーフミラーの表面側の空間における前記実鏡映像を観察する視点から当該ハーフミラーを通して前記被投影物を直接視する方向の光線を遮断するようにしている請求項1乃至6の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項8】
前記単位再帰反射素子は、3つの互いに直交して隣接する鏡面から構成されるコーナーキューブである請求項1乃至7の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項9】
前記単位再帰反射素子は、3つの隣接する鏡面がなす角度のうち2つの角度が90度であり、且つ他の1つの角度が90/N度(ただしNは整数)をなすものである請求項1乃至7の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
【請求項10】
前記単位再帰反射素子は、3つの隣接する鏡面がなす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタである請求項1乃至7の何れかに記載の実鏡映像結像光学系。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被投影物となる物体や映像の鏡映像を実像として得ることができる光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで本発明者は、2つの直交する鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを多数備えた2面コーナーリフレクタアレイを利用して、2次元又は3次元の被投影物である物体や映像を空中に実鏡映像として観察することを可能とする実鏡映像結像結像素子を提案してきている(例えば特許文献1参照)。このものは、素子面に対してほぼ垂直な鏡面2つを直交させて2面コーナーリフレクタとし、素子の一方面側に配置される被投影物から発せられる光を当該2面コーナーリフレクタの2つの鏡面で1回ずつ反射させて当該素子を透過させることで、素子面に対する面対称位置に被投影物の鏡映像を実像(実鏡映像)として結像させる作用を有するものである。
【0003】

【特許文献1】特開2006-080009出願明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような2面コーナーリフレクタを有する実鏡映像結像素子は、2次元の被投影物は2次元の実鏡映像として、3次元の被投影物は3次元の実鏡映像として歪みのない像を得ることができ、また素子自体も小型化薄型化を図ることができる新規で有用なものであるといえる。しかしながら、斯かる実鏡映像結像素子に課題を挙げるとすれば、素子面に対して垂直な鏡面を形成する必要があるために、形成の精度を高め且つ低コストとなるような製造方法を選択しなければならないことと、視野角が狭いことである。
【0005】
そこでこのような課題に鑑みて、本発明は、より製造が容易で、任意配置可能な光学素子を利用することで、被投影物の実鏡映像を得ることができる新規な光学系を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ハーフミラーと、このハーフミラーからの透過光若しくは反射光を再帰反射させる位置に配置される単位再帰反射素子の集合である再帰反射素子とを具備し、前記単位再帰反射素子は、3つの隣接する鏡面から構成され、当該3つの鏡面を、当該単位再帰反射素子内での鏡面同士の角度関係を維持しつつ、個々の単位再帰反射素子では任意の方向を向けているものであり、前記ハーフミラーの裏面側に配置される被投影物から発せられる光を当該ハーフミラーを透過させ且つ表面側に配置された前記各単位再帰反射素子で再帰反射させ、さらにこのハーフミラーの表面側で反射させる第1光路、又は前記被投影物から発せられる光を当該ハーフミラーの裏面側で反射させ且つ裏面側に配置された前記各単位再帰反射素子で再帰反射させ、さらにこのハーフミラーを透過させる第2光路のうち、何れか一方又は両方の光路を経て当該ハーフミラーに対する面対称位置に前記被投影物の実鏡映像を結像させることを特徴とする実鏡映像結像光学系である。

【0007】
本発明において「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。単位再帰反射素子が十分に小さい場合は、入射光と反射光の経路は重なると見なすことができる。このような単位再帰反射素子の集合を本発明では再帰反射素子と称することとするが、この再帰反射素子において各単位再帰反射素子は同一面上に存在している必要はなく、各単位再帰反射素子が3次元的に散在していても構わない。また、本発明における「ハーフミラー」は、光線を透過させる機能と反射させる機能の両方を備えているものをいい、好ましくは透過率と反射率がほぼ1:1のものが理想的である。
【0008】
このような本発明の実鏡映像結像光学系であれば、被投影物から発せられる光を、ハーフミラーの透過・各単位再帰反射素子での再帰反射・ハーフミラーでの反射という第1光路、ハーフミラーでの反射・各単位再帰反射素子での再帰反射・ハーフミラーの透過という第2光路の、何れの光路を通じてもハーフミラーに対する面対称位置に実鏡映像として結像させることが可能である。結像は、第1光路と第2光路の両方を利用してもよいし一方のみでもよいが、一方の光路のみの場合は両方の光路の場合と比較して実鏡映像の明るさ(透過率として規定される)はほぼ半分となる。
【0009】
なお、再帰反射素子は、入射された光を逆反射させる機能を果たしているため、各単位再帰反射素子の配置は上述した第1光路又は第2光路を構成する限り任意であり、前述の通り3次元的に散在させてもよい。ただしこの場合には、様々な方向からの光を確実に再帰反射させるためには、非常に多くの単位再帰反射素子を必要とするため、再帰反射素子の製造の容易さの観点からは、各単位再帰反射素子を共通の曲面上若しくは平面上に設定することが有利となる。
【0010】
ここで、本発明に適用される再帰反射素子は、単位再帰反射素子が3つの隣接する鏡面から構成されるもの(広義には「コーナーリフレクタ」と呼ぶことができる)である。この場合、各単位再帰反射素子を構成する各鏡面は、角度が付いているため、前述した2面コーナーリフレクタにおいて生じ得る垂直な鏡面を作成するという製造上の困難を回避することが可能であり、製造を低コスト化することが可能となる。例えばこのような単位再帰反射素子を構成する3つの面を電鋳又は樹脂形成により製造する場合には、3つの面が角度を持っていることから、金型からの抜け性を容易に確保することが可能であり、素子の製造を極めて容易に行うことができる。
【0011】
また、各単位再帰反射素子を構成する3つの鏡面をそれぞれの単位再帰反射素子同士において同一方向を向けているため、1回反射や2回反射光による結像が現れる可能性があるが、レトロリフレクタを構成する3つの鏡面を、当該単位再帰反射素子内での鏡面同士の角度関係を維持しつつ、個々の単位再帰反射素子では任意の方向を向けることにより、これを回避することが可能となる。
【0012】
特に再帰反射素子を曲面とする場合には、入出射光角度を素子の反射面に対して、どの場所であっても垂直近くにすることができるため、素子における反射率を高く維持することができる。再帰反射素子では、光線が素子の反射面に対して斜め方向から入射すると反射率が低下するという特徴があり、例えば再帰反射素子が平面の場合、素子の上部では斜め方向からの入射となるため観察される像は暗くなる。また、再帰反射素子を曲面として結像される実鏡映像を取り囲むように素子を配置することで、視野角を極めて広く確保することができる。なお、再帰反射素子を曲面としても、構成する各単位再帰反射素子が正確に再帰反射を行えるのであれば像質が特に悪化するということは無く、この曲面は自由に設計可能である。
【0013】
また、ハーフミラーに対する面対称位置への被投影物の実鏡映像の結像は、上述の通り第1光路又は第2光路の少なくとも一方を利用すれば可能であることから、再帰反射素子を、ハーフミラーの表面側と裏面側の何れか一方に配置するだけでもよく、再帰反射素子をハーフミラーの表面側に配置する場合は第1光路を利用して結像させ、裏面側に配置する場合は第2光路を利用して結像させることになる。両方の光路を利用してより明瞭な実鏡映像を得る場合には、ハーフミラーの表面側と裏面側の両方に配置すればよい。さらに、ハーフミラーの表面側と裏面側の両方に再帰反射素子を配置する場合、それらは必ずしも曲面・平面を問わず同一面上に配置しなくてもよく、例えば各再帰反射素子をそれぞれ共通の平面上に単位再帰反射素子を配置した態様とする場合、両再帰反射素子はハーフミラー側に180度未満の角度を付けた屈曲姿勢とすることも可能である。
【0014】
ハーフミラーを通して被投影物が観察者から直接視認できることを防止するには、ハーフミラーにおいて第1光路及び第2光路よりも実鏡映像に対する観察側の領域を遮光する遮光手段を設けることが好ましい。遮光手段として最も簡易な構成は、ハーフミラーの表面側に、観察者からハーフミラー越しに被投影物が直接見える位置に、光を通さない遮光板等の部材を配置することである。
【0015】
同時に様々な視点から被投影物の実鏡映像を観察できるようにするには、再帰反射素子を、少なくとも前記ハーフミラーの裏面側において当該ハーフミラーと共に被投影物を3次元的に包囲するように配置することが望ましい。このように、実鏡映像結像光学系の多視点化を図る場合、上述の通り被投影物はハーフミラーとその裏面側の再帰反射素子により包囲された状態となるので、被投影物から出た光がハーフミラーで反射すれば被投影物自体で阻害されない限り必ず再帰反射素子により再帰反射し、さらにハーフミラーを透過して、ハーフミラーに対して被投影物の面対称位置に結像する。すなわち、少なくとも第2光路を利用した結像により、ハーフミラーの表面側のほぼ全方位から実鏡映像の観察が可能となる。なお、被投影物の真下の位置には、被投影物から出てハーフミラーで反射した光が届かないため、再帰反射素子を配置しないようにしてもよい。さらに、視点の位置が一部制限されることにはなるが、ハーフミラーの表面側の空間の一部分にも再帰反射素子を配置して、第1光路を経る結像を利用することで、実鏡映像の明るさを向上させるようにしてもよい。
【0016】
また、上述した遮光手段の他にも、ハーフミラーを通して被投影物が直接視認できるようになることを防止するには、ハーフミラーの表面側に、特定方向の光線のみを透過・遮断若しくは拡散する光学的な視線制御手段を設け、当該視線制御手段により、ハーフミラーの表面側の空間における前記実鏡映像を観察する視点から当該ハーフミラーを通して被投影物を直接視する方向の光線を遮断するように構成するという対策が考えられる。これによって、観察者は、ハーフミラーの下側の被投影物を直接目にすることなく、空中映像である実鏡映像のみを観察することが可能となる。なお視線制御手段の具体例としては、特定方向の光線のみを拡散させる視界制御フィルム(例えば「ルミスティ(商品名、住友化学株式会社製)」)や、特定方向の光線のみを遮断する視野角調整フィルム(例えば「ライトコントロールフィルム(商品名、住友スリーエム株式会社製)」)等の光学フィルムなどを用いることができる。特に、多視点での実鏡映像の観察を可能とする上述の実鏡映像結像光学系の場合は、前述の遮光手段を適用することができないため、このような視線制御手段を用いることが適している。
【0017】
より具体的に、このような単位再帰反射素子には、3つの互いに隣接して直交する鏡面から構成されるコーナーキューブを採用することができる。ここでコーナーキューブとは、立方体内面の1つの角(隅)を利用した形状であり、その角を囲む3つの面を鏡面としたものが、逆反射器(レトロリフレクタ)として機能させることができる。
【0018】
さらに、コーナーキューブ以外にも、単位再帰反射素子には、3つの隣接する鏡面がなす角度のうち2つが90度であり、且つ他の1つの角度が90/N度(ただしNは整数)をなすものを採用したり、3つの鏡面がなす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタを採用したりすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実鏡映像結像光学系によれば、光を透過及び反射するハーフミラーと、光を入射方向に反射させる再帰反射素子とを有効に利用することで、ハーフミラーの一方面側にある被投影物の鏡映像を当該ハーフミラーに対する面対称位置に実像として結像させ、広い視野範囲において観察可能とすることができ、再帰反射素子の配置態様によっては、ハーフミラーの表面側のほぼ全方位からの実鏡映像の観察が可能となる。また、単位再帰反射素子として3つの鏡面から構成されるもの(コーナーキューブを含む広い概念として「コーナーリフレクタ」)を本発明では利用しているため、この再帰反射素子及び実鏡映像結像光学系の作成を簡易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1はこの実施形態における結像の原理図、図2は同実施形態における光線の反射・透過の状態を横方向から見た図で示す模式図である。同各図に示す本実施形態の実鏡映像結像光学系1Aでは、水平方向にハーフミラー2Aを配置し、このハーフミラー2Aの一端側(反観察側)に1枚の再帰反射素子3Aを鉛直姿勢で配置することで、ハーフミラー2Aと再帰反射素子3Aとがほぼ直交するようにしている。ハーフミラー2Aの一方面(裏面)側には、被投影物Oとして2次元又は3次元の物体や映像(スクリーンに映された映像)を配置することができ、図示例では文字「F」の図形を被投影物Oとして配置している。なお、被投影物O自体が発光するものであれば別途に光源は必要ないが、被投影物Oが発光しないものであれば別途に配置される光源からの光を被投影物Oに照射することになる。本実施形態の実鏡映像結像光学系1Aでは、被投影物Oの鏡映像が実像(実鏡映像P)としてハーフミラー2Aに対して面対称な位置に結像し、これをハーフミラー2Aの斜め上方から観察することができる。以下、実鏡映像結像光学系、ハーフミラー、再帰反射素子を総称する場合はそれぞれ符号1、2、3を用い、これらについて具体例を示す場合は各符号にアルファベット文字を付して示すものとする。
【0022】
このような被投影物Oの実鏡映像Pは、図示例では2つの光路を経て結像するので、この結像する仕組みを、被投影物O(A点)から発せられた光線の光路ごとに説明する。図1において(a)は第1光路L1についての結像の原理を示し、(b)は第2光路L2についての結像の原理を示している。まず、第1光路L1を通る光線については、被投影物O上の1点であるA点から様々な方向に出た光がハーフミラー2Aを直線的に透過し、ハーフミラー2Aの表面側に突出している再帰反射素子3Aで反射して同じ方向へ再帰反射し(図2では再帰反射点の1つを例としてC点として示している)、さらにハーフミラー2Aで反射することによって、ハーフミラー2Aの表面の上方空間のB点で再び1点に集まっている。すなわち、この集光は結像を意味する。このB点は、A点のハーフミラー2Aに対する面対称位置である。一方、第2光路L2を通る光線については、被投影物O上の1点であるA点から様々な方向に出た光がハーフミラー2Aで反射して、ハーフミラー2Aの裏面側に突出している再帰反射素子3Aで同じ方向へ再帰反射し(図2では再帰反射点の1つを例としてD点として示している)、さらにハーフミラー2Aを直線的に透過することによって、ハーフミラー2Aの表面の上方空間のB点で結像する。すなわち、L1とL2のいずれの光路を通る光線も、被投影物Oのハーフミラー2Aに対する面対称位置を通過するため、同じ位置に実鏡映像Pを結像させ、これを視点Vから観察することができる。ここで、実鏡映像Pの被投影物Oに対する明るさ(光線の透過率)は、光路ごとに「ハーフミラー透過率」と「ハーフミラー反射率」と「コーナーキューブ反射率」の3つを乗じることによって得られる。仮に理想的な最大値として、「ハーフミラー透過率」及び「ハーフミラー反射率」を共に0.5、「コーナーキューブ反射率」をrとすれば、各光路L1、L2を通った実鏡映像Pの透過率は共に0.25rとなり、両光路L1、L2を合わせると実鏡映像P全体の透過率はその合計の0.5rとなる。
【0023】
上述した結像の仕組みは、再帰反射素子3Aの位置やハーフミラー2Aとの間で形成される角度に依らず共通である。すなわち、例えば図3に示す実鏡映像結像光学系1Bのように、1枚の再帰反射素子3Bをハーフミラー2B(前記ハーフミラー2Aと同等のものである)と直交しないように傾斜させて配置した場合について説明する。第1光路L1を通る光線については、被投影物O上の1点(A点)から様々な方向に出た光がハーフミラー2Bを直線的に透過し、ハーフミラー2Bの表面側において再帰反射素子3Bで同じ方向へ再帰反射し(同図では再帰反射点の1つを例としてC点として示している)、さらにハーフミラー2Bで反射することによって、A点のハーフミラー2Bの面対称位置であるB点で結像する。また、第2光路L2を通る光線については、被投影物O上の1点(A点)から様々な方向に出た光がハーフミラー2Bで反射して、ハーフミラー2Bの裏面側において再帰反射素子3Bで同じ方向へ再帰反射し(同図では再帰反射点の1つを例としてD点として示している)、さらにハーフミラー2Bを直線的に透過することによってB点で結像する。この場合、何れもB点に実鏡映像Pが結像することについては両光路について共通であるが、光路長はL2>L1となる。この光学系の場合、光路長が長くなると回折や加工精度による像のボケが増えるため、第2光路L2を経た実鏡映像Pの方が第1光路L1を経た実鏡映像Pよりも低解像度となる。
【0024】
また、図4に示す実鏡映像結像光学系1Cのように、再帰反射素子3Cをハーフミラー2C(前記ハーフミラー2Aと同等のものである)の表面側と裏面側とで屈曲しているようなものとしても結像の仕組みは同様である。同図の場合、ハーフミラー2Cの表面側、裏面側において平面状の再帰反射素子3Cをそれぞれ1つずつ配置したものとみることができる。なお図示例では、ハーフミラー2Cの表面側、裏面側の再帰反射素子3がハーフミラー2Cとそれぞれなす角度が同一の場合を示している。第1光路L1を通る光線については、被投影物O上の1点(A点)から様々な方向に出た光がハーフミラー2Cを直線的に透過し、ハーフミラー2Cの表面側において再帰反射素子3Cで同じ方向へ再帰反射し(同図では再帰反射点の1つを例としてC点として示している)、さらにハーフミラー2Cで反射することによって、A点のハーフミラー2Cの面対称位置であるB点で結像する。また、第2光路L2を通る光線については、被投影物O上の1点(A点)から様々な方向に出た光がハーフミラー2Cで反射して、ハーフミラー2Cの裏面側において再帰反射素子3Cで同じ方向へ再帰反射し(同図では再帰反射点の1つを例としてD点として示している)、さらにハーフミラー2Cを直線的に透過することによってB点で結像する。上述の通り、ハーフミラー2Cの表面側、裏面側において再帰反射素子3Cがハーフミラー2Cとなす角度が同一であるので、第1光路L1と第2光路L2の光路長は同一であり、両光路L1、L2を経た実鏡映像Pの解像度も同一である。このことは、図1及び図2に示した例と同様に、ハーフミラー2Cの表面側と裏面側とで再帰反射素子3Cが面対称に配置されていれば、両光路L1、L2の光路長が等しくなり、観察される実鏡映像Pの解像度も同一となることを意味している。また、図1及び図2に示した例よりも、光線が再帰反射素子3Cに対してより垂直に近い角度で入射・反射するため、図4に示した例の方が再帰反射素子3Cでの反射効率は高くなり、実鏡映像Pは均一な明るさでより明るくなる。なお、光路L1、L2によって解像度が異なってもよければ、ハーフミラー2Cの表面側と裏面側とで再帰反射素子3Cの角度を異ならせてもよく、その場合も同様にB点に実鏡映像Pが得られる。
【0025】
以上のことは、上記各図に示したように再帰反射素子3が少なくともハーフミラー2の表面側と裏面側でそれぞれ異なる平面や曲面上に形成されている場合であっても、光線を入射方向に逆反射させる再帰反射素子3を用いる限り、被投影物Oの実鏡映像Pがハーフミラー2に対する面対称位置に結像することに違いはないことを示している。さらにいえば、再帰反射素子3を構成する単位再帰反射素子が、3次元的に散在していても同様であるといえる。さらにいえば、光路L1、L2の何れか一方のみを利用した結像様式とする場合には、ハーフミラー2の表面側又は裏面側の一方のみに再帰反射素子3を配置すればよい。
【0026】
上述したような本実施形態の実鏡映像結像光学系1を構成するハーフミラー2は、例えば透明樹脂やガラス等の透明薄板の一方の面に薄い反射膜をコーティングしたものを利用することができる。この透明薄板の反対側の面には、無反射処理(ARコート)を施すことで、観察される実鏡映像Pが2重になるのを防止することができる。また、再帰反射素子3への対向位置にいる観察者からは、ハーフミラー2を通じて被投影物Oが直接視認できる場合が考えられる。そこで、図2に示した実鏡映像結像光学系1Aを例として図5に示すようにハーフミラー2の観察側(視点V側)の領域に、遮光手段の一種として遮光板4を配置したり、遮光膜や遮光塗料を塗布等することにより遮光して、観察者からは被投影物Oがハーフミラー2越しに見えないようにしてもよい。
【0027】
一方、再帰反射素子3は、表面を鏡面精度の平滑度として光線を再帰反射するものや、素材表面への再帰反射膜や再帰反射塗料のコーティングによるものなど、入射光を逆反射させるものであればあらゆる種類のものを適用することができる。例えば、図6(a)に正面図を示す再帰反射素子3は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。単位再帰反射素子を構成する各コーナーキューブ31は、3つの同形同大の二等辺三角形をなす鏡面31a,31b,31cを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面31a,31b,31cは互いに直交している。図6(b)に立体的に示すとおり、入射光が3つの鏡面で順に反射することで、光線は入射光と平行に反射してゆくことになる。また、図7(a)に正面図を示す再帰反射素子3も、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。単位再帰反射素子を構成する各コーナーキューブ31’は、3つの同形同大の正方形をなす鏡面31a’,31b’,31c’を1点に集合させて正面視した場合に正六角形を形成するものであり、これら3つの鏡面31a,31b,31cは互いに直交している。図7(b)に立体的に示すとおり、入射光が3つの鏡面で順に反射することで、光線は入射光と平行に反射してゆくことになる。このように、図4、図5に示したようなコーナーキューブアレイは、例えばアルミやニッケル等の金属板の切削による鏡面仕上げや、金属板又は樹脂板への電鋳工法等によって作成することができる。これら2種類のコーナーキューブアレイの違いは、鏡面が二等辺三角形のものは比較的作成しやすいが反射率が若干低くなり、鏡面が正方形のものは二等辺三角形のものと比較して作成がやや難しい反面、反射率が高い、ということである。
【0028】
上述したコーナーキューブアレイの他にも、単位再帰反射素子としては、3つの鏡面により光線を再帰反射させるもの(広義には「コーナーリフレクタ」)を採用することができる。図示しないが、例えば、単位再帰反射素子として、3つの鏡面のうち2つの鏡面同士が直交し、且つ他の1つの鏡面が他の2つの鏡面に対して90/N度(ただしNは整数とする)をなすものや、3つの鏡面がそれぞれ隣接する鏡面となす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタが、本実施形態に適用される再帰反射素子3として適している。その他にも、キャッツアイレトロリフレクタ等も単位再帰反射素子として利用することができる。
【0029】
なお、単位再帰反射素子のサイズは、像の解像度を決定するパラメータである。幾何光学的には、点光源は単位再帰反射素子のサイズの2倍程度に広がって結像するため、より小さいものが望ましいと考えられるが、一方波動光学的にはサイズが小さくなると回折が顕著になり解像度を悪化させてしまう。そのため、これらの相反する効果を勘案して大きさを決定する必要がある。例えば像を数十cm程度の近距離から観察する場合には五十~数百μm程度のサイズを持つものが好適であり、数m~数十mの遠距離から観察する場合には距離に応じてサイズを大きくする必要があり、数百~数千μmのサイズが好適となる。
【0030】
また、以上の説明では、再帰反射素子として平面形状のものについて説明したが、図8に示す実鏡映像結像光学系1Dのように曲面形状の再帰反射素子3Dを適用することも可能である。同図(a)は横方向から、(b)は上方から見た実鏡映像結像光学系1の模式図である。この図示例では、再帰反射素子3Dとして、内側が空洞の部分球体状のものを採用しており、内面側に単位再帰反射素子を多数形成してあり、内部空間を上下に区切るようにハーフミラー2D(前記ハーフミラー2Aと同等のものである)を水平姿勢で設けている。このような実鏡映像結像光学系1Dでは、上述した平面形状の再帰反射素子1A,1B,1Cを用いた実鏡映像結像光学系1A,1B,1Cと同様に、被投影物O(A点)から出た光が2つの光路L1、L2を経ることでハーフミラー2Dに対する面対称位置(B)点に実鏡映像として結像するが、曲面状の再帰反射素子3Dの表面(反射面)に対する光線の入射角度、出射角度は、再帰反射素子3のどの位置であっても垂直に近いので、再帰反射素子3Dでの反射率を非常に高いものとして、視野角及び解像度を極めて高く維持することができる。
【0031】
以上の他にも、再帰反射素子の配置構成を変更することで、実鏡映像結像光学系の多視点化、すなわち同時に多数の方向から被投影物Oの実鏡映像Pを観察できるようにすることも可能である。図9は、多視点化を実現する実鏡映像結像光学系1Eの一例を示す概略的な縦断面図である。この実鏡映像結像光学系1Eは、円盤状をなすハーフミラー2Eと、ハーフミラー2Eの裏面側において半球状をなす再帰反射素子3Eとによって、被投影物Oを包囲したものである。ハーフミラー2Eは、上述した各ハーフミラー2A~2Dとは形状が異なるのみで同等のものである。また、ハーフミラー2Eの上面には、特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルム等の光学フィルム5を貼り付けて設けている。一方、再帰反射素子3Eは、上述の再帰反射素子3Dと同様に、内面側に単位再帰反射素子を多数形成した湾曲形状を有するものである。なお、被投影物Oの真下となる再帰反射素子3Eの底部は光線の再帰反射には利用されないので単位再帰反射素子を形成しないこととしているが、底部に単位再帰反射素子を形成しても特段の不都合はない。
【0032】
この実鏡映像結像光学系1Eの場合、ハーフミラー2Eの表面側には再帰反射素子を配置していないので、第2光路を通じた結像による実鏡映像Pのみが観察される。すなわち、被投影物O上の1点であるA点から様々な方向に出た光がハーフミラー2Eで反射して、ハーフミラー2Eの裏面側にある再帰反射素子3Eで同じ方向へ再帰反射し(図9では再帰反射点の1つを例としてD点として示している)、さらにハーフミラー2Eを直線的に透過することによって、ハーフミラー2Eの表面の上方空間におけるA点の面対称位置であるB点で結像する。なお、被投影物Oから真上に向けて出てハーフミラー2Eで反射した光は、再び被投影物Oに戻るため、再帰反射素子3Eで再帰反射することはなく、この理由により、再帰反射素子3Eの底部は再帰反射には利用されないことになる。したがって、結像点Bの集合である実鏡映像Pは、被投影物Oの真上の空間を除き、ハーフミラー2Eの表面側の空間のほぼ全ての位置を視点として同時に観察することが可能となる。また、被投影物Oから発した光のうち、ハーフミラー2Eを反射せずに直接透過する光は光学フィルム5により視点には届かないため、視点Vから被投影物O直接観察できるようになることが防止される。
【0033】
このような多視点化が可能な実鏡映像結像光学系は、上述した態様に限られず、ハーフミラーと再帰反射素子とで被投影物を包囲している限り、それらの形状等を適宜変更することができる。例えば、上述した図9の実鏡映像結像光学系1Eの構成に加えて、ハーフミラー2Eの表面側にも裏面側と同様の再帰反射素子3Eを配置することで、第1光路も利用して実鏡映像Pの明るさを向上することが可能である。ただし、表面側の再帰反射素子3Eは、同じ側の視点から実鏡映像Pの観察を行うことを考慮して、視点を十分に確保できる範囲でハーフミラー2Eからの突出高さを決定するとよい。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、またハーフミラーや再帰反射素子等の各部の具体的構成についても上記実施形態や上述した各種の例に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態である実鏡映像結像光学系の原理図。
【図2】同実鏡映像結像光学系を横方向から見た模式図。
【図3】同実鏡映像結像光学系の一変形例を横方向から見た模式図。
【図4】同実鏡映像結像光学系の他の変形例を横方向から見た模式図。
【図5】図2の模式図において遮光板を配置した状態を示す図。
【図6】同実鏡映像結像光学系に用いられる再帰反射素子の一例を示す図。
【図7】同実鏡映像結像光学系に用いられる再帰反射素子の他の例を示す図。
【図8】同実鏡映像結像光学系のさらに他の変形例を示す模式図。
【図9】同実鏡映像結像光学系の多視点化した態様を示す模式的な断面図。
【符号の説明】
【0036】
1(1A,1B,1C,1D,1E)…実鏡映像結像光学系
2(2A,2B,2C,2D,2E)…ハーフミラー
3(3A,3B,3C,3D,3E)…再帰反射素子
31、31’…単位再帰反射素子(コーナーキューブ)
31a,31b,31c…鏡面
31a’,31b’,31c’…鏡面
4…遮光手段(遮光板)
5…視線制御手段(光学フィルム)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
7
【図9】
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