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明細書 :細胞死抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6143435号 (P6143435)
公開番号 特開2014-091703 (P2014-091703A)
登録日 平成29年5月19日(2017.5.19)
発行日 平成29年6月7日(2017.6.7)
公開日 平成26年5月19日(2014.5.19)
発明の名称または考案の名称 細胞死抑制剤
国際特許分類 A61K  31/713       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI A61K 31/713 ZNA
A61P 43/00 105
A61P 25/28
A61P 37/02
A61K 48/00
C12N 15/00 G
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2012-242950 (P2012-242950)
出願日 平成24年11月2日(2012.11.2)
審査請求日 平成27年10月9日(2015.10.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】浦野 泰臣
【氏名】野口 範子
【氏名】斎藤 芳郎
【氏名】山中 一哲
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】井関 めぐみ
参考文献・文献 米国特許出願公開第2011/0237656(US,A1)
Biochemical and Biophysical Research Communications,2010年,Vol.398,p.671-676
Experimental cell research,2010年,Vol.316,p.3272-3281
調査した分野 A61K 31/713
A61K 48/00
A61P 25/28
A61P 37/02
A61P 43/00
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列を有するsiRNA であるACAT阻害剤を含む、24S-OHC誘導性細胞死の抑制剤。
【請求項2】
細胞が神経細胞又は免疫系細胞である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抑制剤を含む、神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死抑制剤に関する。より具体的に、本発明は、酸化ステロールによって誘導される細胞死をAcyl-CoA:cholesterol acyltransferase(ACAT)阻害剤を利用して抑制する細胞死抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞死は、おおまかにプログラム細胞死と非プログラム性の細胞死の2つに分けられる。プログラム細胞死の代表であるアポトーシスは、生理的条件下で細胞自らが積極的に引き起こす制御された細胞死である。非プログラム細胞死として知られるネクローシスは、非生理的条件下で起こる強制的な細胞死である。アポトーシスでは、細胞膜構造の保持、フォスファチジルセリンの細胞表面への露出、caspase cascadeの活性化、及び核の断片化及び凝集等が生じ、アポトーシスを起こした細胞は速やかに貪食されて炎症反応を引き起こさない。一方、ネクローシスでは、細胞膜が破裂して内容物が流出し、周囲の細胞に炎症反応を引き起こすことが知られている。また、ネクローシスは、核の形態が保持されていることや細胞死の初期段階におけるATPの減少、及びミトコンドリアの膨張等がその特徴として知られている。
【0003】
アポトーシス及びネクローシスの他に、近年新たに報告されたプログラム細胞死としてネクロトーシスがある。ネクロトーシスはアポトーシス抑制条件下で起きる代替的なプログラム細胞死として見出され、プログラムネクローシスとも呼ばれる。その形態的な特徴はネクローシスに似ているが、細胞によって制御されているという点で大きく異なる。また、ネクロトーシスは、necrostatin-1 (Nec-1) という阻害剤によって抑制されることによって特徴付けられる。更に、ネクロトーシスは、虚血性脳血管障害や神経細胞の興奮毒性に関与していることが知られている。興奮毒性は、アルツハイマー病やパーキンソン病等の慢性的な神経変性疾患の発症に関連すると考えられている。
【0004】
上記のように細胞死には種々の形態が存在する。そして、いずれの細胞死がその主因であるかは十分に理解されていないが、神経細胞死がアルツハイマー病やパーキンソン病等に代表される神経変性疾患の一因であることは間違いないと考えられている。
【0005】
一方、酸化ステロールは、細胞毒性を有することが報告されており、近年本発明者等は、酸化ステロールによって誘導される細胞死が上述するネクロトーシスに相当することを見出した(非特許文献1)。しかしながら、酸化ステロールによる細胞死の誘導が如何なる機構によって生じているのかは知られておらず、酸化ステロールによって誘導される細胞死の有効な抑制手段は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Yamanaka et al., J. Biological Chemistry, 286:24666-24673, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような現状の下、本発明は、酸化ステロールによって誘導される細胞死のメカニズムを解明し、酸化ステロール誘導性細胞死を抑制する手段を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる課題を解決すべく本発明者等は鋭意研究を重ね、次の知見を得た:(1)酸化ステロールで細胞を処理することによって細胞内に脂肪滴(lipid droplets)が形成される;(2)酸化ステロールで細胞を処理することによって細胞内に酸化ステロールのエステル体が形成される;(3)酸化ステロールからそのエステル体を合成する酵素(ACAT)の阻害剤で細胞を処理することによって、酸化ステロール誘導性の脂肪滴の形成が抑制される;(4)ACAT阻害剤によって酸化ステロール誘導性の細胞死も抑制される;(5)ACAT阻害剤を用いた処理により、酸化ステロール誘導性のネクロトーシスだけでなくアポトーシスをも含む細胞死の抑制が可能である。本発明者等は、斯かる知見に基づき、更なる検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
代表的な本発明は以下の通りである。
項1.
ACAT阻害剤を含む、酸化ステロール誘導性細胞死の抑制剤。
項2.
酸化ステロールが24(S)-hydroxycholesterol(24S-OHC)である、項1に記載の抑制剤。
項3.
細胞が神経細胞である、項1又は2に記載の抑制剤。
項4.
ACAT阻害剤が、配列番号1で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドを有するsiRNAである、項1~3のいずれかに記載の抑制剤。
項5.
項1~4のいずれかに記載の抑制剤を含む、神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物。
項6.
ACAT阻害剤を含む、24S-OHC誘導性脂肪滴形成の抑制剤。
項7.
ACAT阻害剤を細胞に接触させる工程を含む、24S-OHC誘導性細胞死の抑制方法
項8.
神経変性疾患の治療が必要な患者にACAT阻害剤を投与する工程を含む、神経変性疾患の治療方法。
項9.
神経変性疾患の治療用医薬組成物を製造するためのACAT阻害剤の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ACAT阻害剤を用いることにより、酸化ステロールによって誘導される細胞死をその細胞死形態に関係なく効果的に抑制することが可能である。よって、本発明は、酸化ステロール誘導性細胞死に起因した種々の症状及び疾患(例えば、神経変性疾患)の予防及び/又は治療を可能にする。また、本発明によれば、ACAT阻害剤によって、酸化ステロールによって誘導される細胞内の脂肪滴の形成を効果的に抑制することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、24S-OHC処理及び/又はACAT阻害剤処理による細胞中の脂肪滴形成に対する影響を示す。
【図2】図2は、24S-OHC処理した細胞における脂質をGC-MSで解析した結果を示す。図2の右図について、n=3、*p<0.05である。
【図3】図3は、24S-OHC処理した細胞における脂質をHPLCで解析した結果を示す。
【図4】図4は、HPLC解析で得られた脂質のピークサンプルについてGC-MS解析した結果を示す。
【図5】図5は、24S-OHC誘導性細胞死に対するACAT 阻害剤の影響を示す。n=3、**p<0.01である。
【図6】図6は、24S-OHC誘導性細胞死に対するACAT1ノックダウンの影響を示す。n=3、**p<0.01である。
【図7】図7は、カスパーゼ8高発現細胞においてDeath-receptorが刺激されるとネクロトーシスではなく、アポトーシスが誘導される機構を模式的に示す。
【図8】図8は、カスパーゼ阻害剤を用いてネクロトーシスを誘導させる機構を模式的に示す。AIは、ACAT阻害剤を意味し、ZVADは全カスパーゼ阻害剤である。
【図9】図9は、カスパーゼ8高発現細胞における脂肪滴形成に対するカスパーゼ阻害剤処理、24S-OHC処理、及びACAT阻害剤処理による影響を示す。
【図10】図10は、カスパーゼ8高発現細胞の生存率に対する24S-OHC処理、カスパーゼ阻害剤処理、及びACAT阻害剤処理による影響を示す。n=3、**p<0.01である。
【図11】図11は、ACAT阻害剤処理によってアポトーシス及びネクロトーシスの両方が抑制される機構を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を説明する。
酸化ステロール誘導性細胞死とは、酸化ステロールの存在によって誘導される細胞死を意味し、その死亡形態や機序は特に限定されない。従って、酸化ステロール誘導性細胞死には、酸化ステロールの存在によって誘導されるアポトーシス及びネクロトーシスの両方が含まれる。

【0013】
本発明において、ACAT阻害剤によって、酸化ステロール誘導性の細胞死が抑制される細胞は、酸化ステロールによって細胞死が誘導される細胞であれば特に制限されない。酸化ステロールによる細胞死の誘導は、細胞の種類に特異的ではないと考えられるため、任意の細胞を対象とすることが出来る。神経細胞は、その細胞死が神経変性疾患を発症する原因となる。よって、本発明は、神経変性疾患の予防及び/又は治療を提供するという観点から、本発明は神経細胞を対象とすることが好ましい。また、同観点から、神経細胞は脳内に存在する神経細胞であることが好ましい。更に、同観点から、本発明は、星状細胞、小膠細胞、希突起膠細胞等のグリア細胞を対象とすることも好ましい。

【0014】
別の観点から、本発明は、T細胞、B細胞等の免疫系細胞を対象とすることもできる。これらの免疫系細胞を対象とすることは、癌の治療における副作用による免疫細胞の死滅を抑制することに繋がると考えられるため好ましい。従って、一実施形態において、本発明のACAT阻害剤は、抗癌剤と併用され得る。

【0015】
本発明において、酸化ステロールは、細胞死を誘導する作用を有するものであれば特に制限されず、例えば、24S-OHC、7-ケトコレステロール、7β-OHC、7α-OHC、25-OHC、22R-OHC、及び27-OHC等を挙げることができる。本発明者等は、これらの酸化ステロールが細胞死を誘導することを確認している。好適な一実施形態において、酸化ステロールは24S-OHCである。

【0016】
酸化ステロールによる細胞死誘導性は、公知の細胞生存率を測定する手法を用いて確認することが出来る。例えば、酸化ステロールの存在下で細胞を所定の期間培養し、培養後の細胞生存率をMTTアッセイ又はLDH activityアッセイ等を用いて測定し、細胞死誘導の有無を確認することができる。本発明においては、例えば、10μMの酸化ステロールの存在下で細胞を24時間培養した場合に、酸化ステロールが存在しない場合(コントロール)と比較して細胞生存率が10%以上低下する場合に、酸化ステロールは細胞死誘導性を有すると判定することが出来る。尚、分散分析等の統計学的な計算を行い、コントロールと比較して有意差が見られた場合に、誘導性の細胞死が存在すると判断することもできる。

【0017】
ACATは、ステロール及び酸化ステロールのエステル化を触媒する酵素である。ACAT阻害剤は、その触媒活性を阻害する活性を有する物質であり、これまでに動脈硬化等を治療薬として種々の物質が開発されている。代表的なACAT阻害剤としては、FR145237、F-1394、Dup128、E5324、 CI277082、NTE-122、CI-976、CI-1011、CS-505、F12511、AS-183、KW-3033、FY 087、FCE 27677、TEI 6522、K-604、RP 73163、FR179254、S 58-035、エルダシミベ、オクチミバート等を例示することができる。これらのACAT阻害剤は、商業的に入手可能であるか、又は、その合成方法は公知である。神経変性疾患の予防及び/又は治療を目的とする場合は、血液脳関門を通過可能なACAT阻害剤を用いることが好ましい。

【0018】
本発明において使用可能なACAT阻害剤は上記に例示したものに限定されるものではない。ACAT阻害作用を有する任意の物質を使用することができ、上記の代表的なACAT阻害剤の誘導体を含め、今後開発される物質を用いることができる。ACAT阻害剤に幾何異性体又は立体異性体が存在する場合、その各々或いはそれらの混合物を使用することもできる。また、ACAT阻害剤は、種々の割合の水を含有する水和物として存在することができ、その各々或はそれらの混合物も使用することもできる。本発明において、ACAT阻害剤は1種単独又は任意の2種以上の組合せで使用することが出来る。

【0019】
ACAT阻害剤は、上記のような所謂低分子化合物の他に、ACATをコードする遺伝子の発現を抑制することによりACATの働きを阻害することが可能な核酸分子であってもよい。そのような核酸分子としては、ACATをコードするポリヌクレオチドを標的としたアンチセンス鎖、siRNA、miRNA、shRAN、リボザイム、又はこれらを含むベクターを挙げることできる。これらの核酸分子は、ACATをコードするポリヌクレオチド配列を基に公知の手法によって設計し、作製することが出来る。好適な一実施形態において、ACAT阻害剤である核酸分子はsiRNAであり、その具体例としては、配列番号1で示される塩基配列を有するsiRNAを挙げることが出来る。尚、前記siRNAは、ACATをコードする遺伝子の発現を抑制可能である限り、その塩基配列において1又は数個(例えば、2個又は3個)の塩基が他の塩基に置換されていてもよい。

【0020】
ACATにはACAT1及びACAT2という2種類のアイソザイムの存在が知られている。ACAT1は多くの組織の細胞に存在するのに対し、ACAT2は小腸及び肝臓に特異的に発現していると考えられる。本発明で使用されるACAT阻害剤は、ACAT1とACAT2のいずれかを特異的に阻害してもよく、両方を阻害するものであっても良い。いずれかのみを特異的に阻害するACAT阻害剤である場合は、ACAT1特異的阻害剤であることが好ましい。特に、神経細胞の細胞死を抑制する場合は、ACAT1特異的阻害剤を用いることが好ましい。これは、神経細胞では、ACAT1の活性が主であり、ACAT1特異的阻害剤を用いることにより、副作用を低減できると考えられるためである。

【0021】
酸化ステロール誘導性細胞死の抑制剤は、ACAT阻害剤のみからなっていても良く、ACAT阻害剤の活性を阻害しない限り、任意の他の成分を含んでいても良い。例えば、細胞死抑制剤を医薬組成物として利用する場合は、ACAT阻害剤と薬学的許容される担体とを組み合わせて種々の剤形とすることが出来る。

【0022】
薬学的に許容される担体としては、製剤の技術分野において賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として使用される各種の有機又は無機担体物質を挙げることが出来る。

【0023】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、D-マンニトール、塩化ナトリウム、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ホウ酸末、コロイドシリカ等が挙げられる。結合剤としては、例えば、デキストリン、デンプン液、ゼラチン溶液、結晶セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。

【0024】
崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ナミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。

【0025】
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、及び、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。

【0026】
医薬組成物には、担体の他に、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等添加物を用いることもできる。防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。本発明においては、上記に例示した担体等を適宜選択し、必要に応じて組み合わせて使用することが出来る。

【0027】
医薬組成物中のACAT阻害剤が核酸分子である場合は、治療効果を向上させるために核酸分子に種々の修飾を施すことができる。そのような修飾としては、例えば、ヌクレアーゼ耐性を改善させるために、リン酸骨格中のヘテロ原子のリン又は酸素を修飾することが挙げられる。また、核酸分子は、in vivo発現、特に本発明の治療を必要とする患者体内での発現に適した発現ベクター、特に哺乳動物発現ベクターに組み込まれていることが好ましい。そのような発現ベクターとしては、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス発現系を挙げることができる。好ましいウイルス発現系ベクターとしては、アデノウイルス系、レトロウイルス系、レンチウイルス系の発現ベクターを挙げることができる。また、細胞や組織にベクターを導入する方法は周知である。例えば、トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、及び組み換えウイルスベクターを利用した手法を挙げることが出来る。

【0028】
本発明の医薬組成物は、神経変性疾患の予防及び/又は治療に有効である。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、トリプレットリピート病、Creutzfeldt-Jakob 病、ポリグルタミン病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、小脳変性、ハンチントン病、網膜変性疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症等)等を挙げることが出来る。また、本発明の医薬組成物は、動脈硬化、並びに動脈硬化に関連する諸疾患、例えば、脳梗塞、脳血栓、一過性脳溢血、狭心症、心筋梗塞、末梢性血栓及び閉塞等の予防及び/又は治療にも有用である。

【0029】
医薬組成物は、その剤形に応じて経口的又は非経口的に哺乳動物(例、マウス、ラット、イヌ、サル、ヒト等)に安全に投与することができる。例えば、医薬組成物を、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、又は懸濁剤等の剤形で調製する場合は、経口投与が適しており、注射剤、坐剤又は舌下錠等の剤形で調製する場合は、静脈内、皮下又は筋肉内等への非経口投与が適している。医薬組成物は、各種の徐放製剤とすることも可能である。

【0030】
医薬組成物の投与量は、症状の程度、投与対象の年齢、性別、体重、投与の時期、間隔、医薬製剤の性質、種類、ACAT阻害剤の種類等によって異なり、特に限定されないが、通常、成人に対して1日に当たり、ACAT阻害剤の量で、約10μg~100mg/kg体重、好ましくは100μg~50mg/kg体重とすることができる。医薬組成物は、1日に1回又は2~4回に分けて投与することができる。

【0031】
医薬組成物中のACAT阻害剤の含有量は、薬理効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、医薬組成物全体の約0.01ないし100重量%とすることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
試験例1: 酸化ステロール誘導性脂肪滴形成に対するACAT阻害剤の影響
下記の手順で酸化ステロールによって誘導される細胞中の脂肪滴の形成に対するACAT阻害剤の影響を調べた。ここでは、酸化ステロールの代表例として24S-hydroxycholesterol (24S-OHC)を用いた。
1.培養したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン 1%を含むDMEM/F12培地)を6 well plate(wellの直径34.6mm,IWAKI製)に2mL/wellとなるように播種し、一晩培養した。
2.ウェルに終濃度が5μMになるようにACAT 阻害剤 (Eflucimibe(F12511),Pierre Fabre/Eli Lilly社製) を添加し,37℃条件で15分間培養した。比較対象用の細胞には、ACAT阻害剤は添加しなかった。
3.終濃度が50μMになるように24S-OHC (Enzo Life Sciences製)を添加し、37℃条件で6時間培養した。尚、比較対象群については、同量のエタノールを添加した。
4.培地除去後PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液 (Wako製)を1mL添加して室温で30分間放置して反応させた。
5.PBSによる洗浄を2回行った後、各wellにPBS 1mLを加え、終濃度が50ng/mLになるようにNile red (Sigma製) を添加し、室温で5分間遮光して放置した。
6.PBSで洗浄を2回行い、PBS 1mLをwellに加え、蛍光顕微鏡(励起波長:530-550nm、蛍光波長:575nm)を用いて脂肪滴の形成の有無を観察した。
【実施例】
【0034】
観察した結果を図1に示す。図1において、右側は24S-OHCで処理したサンプルであり、左側はエタノールで処理した比較対象である。また上段は、ACAT阻害剤を添加していない比較対象であり、下段はACAT阻害剤を添加したサンプルである。図1に示される通り、エタノールで処理した細胞では、ACAT阻害剤の有無にかかわらず、脂肪滴の形成は見られなかった。一方、24S-OHCで処理した細胞では、ACAT阻害剤を添加しない場合に脂肪滴の形成が見られたが、ACAT阻害剤を添加することによって脂肪滴の形成は抑制された。ここで、脂肪滴の形成は、コレステロールエステルやトリアシルグリセロールなどの中性脂質を染色する蛍光試薬であるNile redの染色の有無で確認した。以上から、酸化ステロールによって中性脂質が蓄積し、脂肪滴の形成が誘導され、それがACAT 阻害剤によって抑制されることが確認された。
【実施例】
【0035】
試験例2:酸化ステロール処理細胞における脂質解析1
下記の手順でガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)を用いて酸化ステロールで処理した細胞における脂質を解析した。ステロールエステル等のエステル体はそのままの状態ではGC-MSで測定することができないため、下記の手順では、エステル結合を切断するけん化処理を行い、けん化処理サンプルとけん化非処理サンプルの差からエステル体の量を算出した。
1.培養したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン1%を含むDMEM/F12培地)を直径100mmのdish(IWAKI製)に10 mL/dishとなるように播種し、一晩培養した。
2.終濃度が5μMになるようにACAT 阻害剤 (F12511) を添加し、37℃条件で15分間培養した。
3.終濃度が50μMになるように24S-OHCを添加し、37℃条件で6時間培養した後、PBSで洗浄し、スクレーパーを用いて細胞を回収した。
4.サンプルをけん化処理用及びけん化非処理用に均等に分け、PBS 500μLに細胞を再懸濁した。
5.内部標準物質を加えた100μM BHTを含むメタノールを500μL加えた。
6.けん化処理用のみに1M KOHを含むメタノールを500μL加え、40℃条件で30分間反応させた。
7.10%のCH3COOHを2mL加えて混合し、5mlのクロロホルム/酢酸エチル (4:1)を加えて混合した後、4℃ 3,000×g 10minの条件で遠心した。
8.上層及びタンパク質層をアスピレーターで除去し、下層を窒素ガス下で完全に乾固させた。
9.30 μLのBSTFA(Wako製)を加えて60℃条件で1時間反応させ、氷冷後、50μLのアセトンを添加し、サンプル瓶へ移した。
10.GC-MS (Agilent 6890N ネットワーク GC) を用いて解析を行った。
【実施例】
【0036】
解析結果を図2に示す。コレステロールに関しては、24S-OHC処理及び/又はACAT阻害剤処理の有無によって、けん化処理サンプルとけん化非処理サンプルの間で有意差は認められなかった(図2左)。これは、24S-OHC処理によってコレステロールのエステル体は蓄積しないことを示す。一方、24S-OHCに関しては、24S-OHC単独処理によって、けん化非処理サンプルに比べてけん化処理サンプルでの有意な増加が認められ、この増加はACAT 阻害剤による前処理によって消失することが確認された(図2右)。これらの結果は、酸化ステロールの存在によって細胞内に酸化ステロールのエステル体が形成されることを強く示唆する。
【実施例】
【0037】
試験例3: 24S-OHC処理細胞における脂質解析2
下記の手順により高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて酸化ステロールで処理した細胞における脂質を解析した。
1.培養したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン 1%を含むDMEM/F12培地)を直径100mmのdish(IWAKI製)に10mL/dishとなるように播種し、一晩培養した。
2.終濃度が50μMになるように24S-OHCを添加し,37℃条件で6時間培養し、PBSで洗浄後、スクレーパーを用いて細胞を回収し、サンプルをけん化処理用及びけん化非処理用の2つに均等に分けた。けん化処理用サンプルは、下記3~6の処理を行い、けん化非処理用サンプルは下記7~8の処理を行った。
3.100μL 10M KOHで細胞を溶解し、ガラスチューブにサンプルを移した後、3mlのEtOH:Benzene:H2O (80:20:5)溶液と200μLの10M KOHを添加して混合し、80℃条件で1時間加熱して反応させた。
4.液量が100μL以下になるまで窒素下で蒸発させ、1mLのH2O添加して混合し、更に3倍量のCHCl3:MeOH (2:1)を加えて混合した。
5.1mLのH2Oを添加して混合し、1,000rpm、5minの条件で遠心後、上清を除去した。
6.CHCl3で飽和した1mLの3%NaHCO3を用いて2回洗浄し、CHCl3で飽和した1mLのH2Oを用いて洗浄した後、1,000 rpm, 5minの条件で遠心した。
7.1mL の0.2M NaOHで細胞を溶解し、ガラスチューブにサンプルを移し、64μLの3M HCl及び45μLの1M KH2PO4を加えて中和した。
8.3倍量のCHCl3:MeOH (2:1)を加えて混合し、1mLのH2O添加して混合した後、3,500 rpm 10minの条件で遠心した。
9.上記6.及び8.で遠心したサンプルを、各々シリンジでクロロホルム層を新しいガラスチューブに移し、窒素下で乾燥させた。
10.100μLのイソプロパノール:アセトニトリル(55:45)で脂質を溶解させ、下記の条件でHPLCを用いて脂質の解析を行った。
【実施例】
【0038】
【表1】
JP0006143435B2_000002t.gif
【実施例】
【0039】
解析の結果を図3に示す。図3(上段)から、24S-OHC処理によって、無処理細胞(コントロール)では見られない4つのピーク(#2~5)が認められた。検出時間からこれらのピークは、コレステロールより疎水性が高くコレステロールエステルより疎水性が低い物質であることが示唆された。そして、けん化処理によってこれらのピークが消失することを確認し(図3下段)、これらのピークは24S-OHCのエステル体であることが示唆された。
【実施例】
【0040】
試験例4:GC-MSを用いたHPLC分取サンプルの解析
下記の手順で、試験例3で得られたHPLCを用いて得られたピークサンプルについて解析した。
1.培養したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン1%を含むDMEM/F12培地)を直径100 mmのdish(IWAKI製)に10mL/dishとなるように播種し、一晩培養した。
2.終濃度が50μMになるように24S-OHCを添加し、37℃条件で6時間培養し、PBSで洗浄後、スクレーパーを用いて細胞を回収した。
3.1mLの0.2M NaOHで細胞を溶解し、ガラスチューブにサンプルを移し、64μLの3M HClと45μLの1M KH2PO4を加えて中和した。
4.3倍量のCHCl3:MeOH (2:1)を加えて混合し、1mLのH2O添加して混合した後、3,500 rpm 10minの条件で遠心した。
5.シリンジでクロロホルム層を新しいガラスチューブに移し、窒素下で乾燥させた。
6.100μLのイソプロパノール:アセトニトリル (55:45)で脂質を溶解させ、HPLCを用いて脂質の分離を行い、検出されたピークをそれぞれ分取した。
7.サンプルをけん化処理用及びけん化非処理用の2つに均等に分け、全量が500μLになるようにPBSを添加し、内部標準物質を加えた100μMのBHTを含むメタノールを500μL加えた。
8.けん化処理用のサンプルに、500μLの1M KOHを含むメタノールを加え、40℃条件で30分間反応させた。
9.2mLの10%CH3COOHを加えて混合し、5mLのクロロホルム/酢酸エチル (4:1)を加えて混合した後、4℃,3,000×g 10 minの条件で遠心した。
10.上層およびタンパク質層をアスピレーターで除去し、下層を窒素ガス下で完全に乾固した。
11.30μLのBSTFA (Wako)を加えて60℃で1時間反応させ、氷冷後、アセトン 50μL添加しサンプル瓶に入れ、GC-MS (Agilent 6890N ネットワーク GC) を用いて解析を行った。
【実施例】
【0041】
図4に示す通り、コレステロールに関しては、1番のフラクションにエステル化されていない状態で含まれているのみで、他のフラクションには存在しないことが確認された。一方、24S-OHCに関しては、2番から5番までのフラクション全てに含まれていることが分かった。また、けん化非処理サンプルではほとんど検出されず、けん化処理サンプルで検出されたことから、いずれもエステル化した状態であることが示された。同じ24S-OHCのエステル体でありながら,HPLCで別のピークとして検出されている理由は,エステル体に付加している脂肪酸がそれぞれ異なり、その脂肪酸の疎水性の違いによると考えられる。
【実施例】
【0042】
試験例5:酸化ステロール誘導性細胞死に対するACAT 阻害剤の影響
下記の手順で酸化ステロール性誘導性細胞死に対するACAT 阻害剤の影響を調べた。
1.培養したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン 1%を含むDMEM/F12培地)を96 well plate(IWAKI製)に100μL/wellとなるように播種し、一晩培養した。
2.終濃度が5μMになるようにACAT 阻害剤 (F12511) を添加し、37℃条件で15分間培養した。
3.終濃度が50μMになるように24S-OHCを添加し、37℃条件で24時間培養し、培養上清を死細胞サンプルとして回収した。
4.底面に付着している細胞を1%のTriton X-100を含むDMEM/F12培地で溶解して生細胞サンプルとし、LDH activity assayを用いて細胞生存率を測定した。
【実施例】
【0043】
結果を図5に示す。図5から、24S-OHCで処理することによって細胞生存率が10%以下まで低下するが、ACAT 阻害剤で処理することによって、生存率がほぼ100%まで回復することが確認された。この結果は、酸化ステロールによって誘導される細胞死をACAT 阻害剤が強く抑制することを示す。
【実施例】
【0044】
試験例6:酸化ステロール誘導性細胞死に対するACAT1ノックダウンの影響
下記の手順で、ACAT1をノックダウンすることによる24S-OHC誘導性細胞死に対する影響を調べた。
1.培養したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞(2.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%を含むDMEM/F12培地)を6 well plate(wellの直径34.6 mm,IWAKI製)に2 mL/wellとなるように播種し、一晩培養した。
2.Lipofectamine RNAiMAXを用いてNegative control oligo (Invitrogen製)又はsiACAT1 oligo (Invitrogen製) を終濃度が50pmol又は75pmolとなるように導入し、37℃条件で6時間培養した。その後、ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン1%を含むDMEM/F12培地で培地交換を行い、更に二晩培養した。siRNA配列には、独自で設計したUAGAACUCCAAUCUGGAAGAUCAUG(配列番号1)を用いた。
3.siRNAを導入したSH-SY5Y細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン 1%を含むDMEM/F12培地)を、96 well plate(IWAKI製)に100μL/wellとなるように播種し、一晩培養した。
4.終濃度が50μMになるように24S-OHCを添加し、37℃条件で24時間培養し、培養上清を死細胞サンプルとして回収した。
5.底面に付着している細胞を1%のTriton X-100を含むDMEM/F12培地で溶解して生細胞サンプルとして回収し、LDH activity assayを用いて細胞生存率を測定した。
【実施例】
【0045】
測定した結果を図6に示す。図6の結果から、試験例2と同様に、siRNAを用いたACAT1タンパク質のノックダウンにおいても24S-OHC誘導性細胞死が有意に抑制されることが確認された。これらの結果から、酸化ステロール誘導性細胞死にACAT1が関与していることは明らかであり、ACAT1によって生成される酸化ステロールのエステル体が誘導性細胞死に関与していることが示唆された。
【実施例】
【0046】
以上の試験結果から、酸化ステロール誘導性細胞死をACAT阻害剤で抑制することができることが確認された。また、酸化ステロール処理によって細胞内にステロールではなく、酸化ステロールのエステル体が蓄積することが明らかとなった。
【実施例】
【0047】
試験例7:カスパーゼ8高発現細胞における酸化ステロール誘導性脂肪滴形成
試験例1~6で使用したSH-SY5Y細胞はカスパーゼ-8の発現量が低いため、アポトーシスではなく代替的な細胞死形態であるネクロトーシスが誘導されると考えられる。一方、カスパーゼ-8が高発現している細胞ではDeath-receptorが刺激された場合、SH-SY5Y細胞と異なり、カスパーゼ-8の活性によってアポトーシスが誘導され、代替経路であるネクロトーシスは起こらないと考えられる(図7)。そこで、カスパーゼ-8を強く発現している細胞に対する酸化ステロールの影響及びそれとカスパーゼ-8の活性との関連性を調べた。カスパーゼ-8高発現細胞として、ヒト白血病T細胞株Jurkat細胞を用い、SH-SY5Y細胞と同様にネクロトーシスを誘導するために、全カスパーゼの阻害剤であるZ-VAD-FMK処理を利用して検討した(図8)。具体的には、下記の手順でカスパーゼ-8を強く発現しているヒト白血病T細胞株Jurkat細胞における酸化ステロール誘導性脂肪滴形成の有無及びそれに対するACAT阻害剤の影響を調べた。
【実施例】
【0048】
1.培養したヒト白血病T細胞株Jurkat細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン 1%を含むRPMI-1640培地)を、6 well plate(wellの直径34.6mm,IWAKI製)に2mL/wellとなるように播種した。
2.終濃度が20μMになるように全カスパーゼ阻害剤であるZ-VAD-FMK (Medical & Biological Laboratories)を添加し、37℃条件で45分間培養した。
3.終濃度が5μMになるようにACAT 阻害剤 (F12511) を添加し,37℃条件で15分間培養した。
4.終濃度が50μMになるように24S-OHC (Enzo Life Sciences)を添加し,37℃条件で6時間培養した。
5.細胞回収後PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液 (Wako)を1mL添加して室温で30分間放置して反応させた。その後、PBSで2回洗浄し、各サンプルにPBS 1mLを加えて終濃度が50ng/mLになるようにNile red (Sigma) を添加し,室温で5分間遮光して放置した。
6.PBSで2回洗浄し、PBS 30μLで細胞を再懸濁し、スライドガラスに15μLの懸濁液を載せて、蛍光顕微鏡(励起波長:530-550nm、蛍光波長:575nm)で脂肪滴形成の有無を観察した。
【実施例】
【0049】
図9に示される結果から、ZVADの存在下と非存在下に関わらず、24S-OHC無処理の細胞及びACAT 阻害剤処理細胞においては、Nile redで殆ど染色されない(即ち、脂肪滴は形成されない)が、24S-OHC単独処理した細胞(上から2段目)ではNile redによって強く染色されることが確認された。これは、Jurkat細胞でもSH-SY5Y細胞と同様に24S-OHCによって中性脂質が蓄積し、脂肪滴の形成が誘導されていることを示す。ACAT 阻害剤を前処理してから24S-OHCを処理した細胞では、Nile redではほとんど染色されなかったことから24S-OHCによって誘導される脂肪滴の形成がACAT 阻害剤によって抑制されることが確認された(最下段)。また、24S-OHCによって誘導される脂肪滴の形成に、カスパーゼ8の活性は関係ないことが示された。
【実施例】
【0050】
試験例8:カスパーゼ8高発現細胞における酸化ステロール誘導性細胞死に対するACAT 阻害剤の影響
下記の手順でカスパーゼ8高発現細胞である、Jurkat細胞に対する酸化ステロールによる細胞死誘導及びそれに対するACAT阻害剤の影響を調べた。
1.培養したヒト白血病T細胞株Jurkat細胞(3.0×105 cells/mL,ウシ胎児血清10%,ペニシリン・ストレプトマイシン 1%を含むRPMI-1640培地)を6 well plate(wellの直径34.6 mm,IWAKI製)に2 mL/wellとなるように播種した。
2.終濃度が20μMになるように全カスパーゼ阻害剤であるZ-VAD-FMK (Medical & Biological Laboratories)を添加し、37℃条件で45分間培養した。
3.終濃度が5μMになるようにACAT阻害剤 (F12511) を添加し、37℃条件で15分間培養した。
4.終濃度が50μMになるように24S-OHC (Enzo Life Sciences)を添加し、37℃条件で24時間培養した。
5.培養上清を死細胞サンプルとして回収し、底面に付着している細胞をTriton X-100 1%を含むDMEM/F12培地で溶解して生細胞サンプルとして回収し、LDH activity assayを用いて細胞生存率を測定した。
【実施例】
【0051】
上記試験の結果、ZVADの存在下(=ネクロトーシス)、非存在下(=アポトーシス)に関わらず、24S-OHC単独処理によって細胞生存率は40%程度まで低下したが、ACAT 阻害剤を前処理しておくことによって、生存率はほぼ100%まで回復することが判明した(図10)。これは、24S-OHCによって誘導される細胞死をACAT 阻害剤が強く抑制するということを示す。Jurkat細胞において、ACAT阻害剤はZVADの有無(即ち、アポトーシスであるかネクロトーシスであるかという細胞死機構)に関わらず細胞死を抑制するため、アポトーシスとネクロトーシスの分岐点よりも上流の細胞死シグナルをACAT阻害剤が抑制していると考えられる(図11)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10