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明細書 :漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された塗膜を備えた製品

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-109298 (P2015-109298A)
公開日 平成27年6月11日(2015.6.11)
発明の名称または考案の名称 漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された塗膜を備えた製品
国際特許分類 H05K   3/10        (2006.01)
B44C   1/22        (2006.01)
H05K   3/00        (2006.01)
H01L  23/12        (2006.01)
H05K   3/46        (2006.01)
B44C   3/00        (2006.01)
FI H05K 3/10 E
B44C 1/22 Z
H05K 3/00 N
H01L 23/12 N
H05K 3/46 B
H05K 3/46 N
H05K 3/46 T
B44C 3/00 A
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2013-250088 (P2013-250088)
出願日 平成25年12月3日(2013.12.3)
発明者または考案者 【氏名】橋本 悠希
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100110179、【弁理士】、【氏名又は名称】光田 敦
審査請求 未請求
テーマコード 5E316
5E343
Fターム 5E316AA12
5E316AA15
5E316AA43
5E316CC01
5E316CC31
5E316DD03
5E316DD13
5E316DD34
5E316EE31
5E316FF18
5E316FF45
5E316HH08
5E316HH31
5E316HH40
5E316JJ25
5E343AA02
5E343AA16
5E343AA38
5E343BB02
5E343BB22
5E343BB24
5E343BB33
5E343BB72
5E343CC80
5E343DD02
5E343GG14
5E343GG20
要約 【課題】各種の耐性を備え、電気絶縁性を有し、人や環境に対して無害でやさしい特性を有する漆を、漆工芸の分野だけでなく、先端技術と融合させて新たな産業を創出する。
【解決手段】漆塗膜12の表面に紫外線レーザーを照射することにより、従来のレーザー加工のように熱で分解するのではなく化学反応で、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜12の照射部分以外の箇所に、熱による変形や変質等の悪影響が与えることなく、凹部や孔から成る所定のパターンを形成し、このパターンであるスルーホール16内に、配線18を装填して、この配線18に接続する又は配線を構成要素として有する電子回路6、13を漆塗膜3、12、21に付加して実装する。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、
漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成することを特徴とする漆塗膜の加工方法。
【請求項2】
漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、
漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成し、
前記パターン内に配線を装填し、
絶縁材である漆塗膜に付加して、前記配線に接続された又は前記配線を構成要素として有する電子回路を実装することを特徴とする漆塗膜の加工方法。
【請求項3】
漆塗膜として、第1漆塗膜を形成し、第1漆塗膜の上に電子回路を形成し、第1漆塗膜及び電子回路の上に第2漆塗膜を形成し、第2漆塗膜に前記パターンを形成し、該パターン内に配線を装填して、前記電子回路と、第2漆塗膜の上に形成される別の電子回路とを電気的に接続し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装することを特徴とする請求項2に記載の漆塗膜の加工方法。
【請求項4】
漆塗膜として、第1漆塗膜を形成し、第1漆塗膜に前記パターンを形成し、該パターン内に配線を装填し電子回路を形成し、第1漆塗膜及び電子回路層の上に第2漆塗膜を塗布し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装することを特徴とする請求項2に記載の漆塗膜の加工方法。
【請求項5】
前記電子回路と前記漆塗膜は、回路構造体を構成することを特徴とする請求項2から3のいずれかに記載の漆塗膜の加工方法。
【請求項6】
漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、
漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成し、
前記パターンは、漆塗膜を備えた製品の外観の装飾デザインとなることを特徴とする漆塗膜の加工方法。
【請求項7】
前記パターンとして、凹部及び孔、又は凹部若しくは孔を形成することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の漆塗膜の加工方法。
【請求項8】
漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンが形成された漆塗膜を備えた製品であって、
前記パターンは、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解し除去して形成された構成であることを特徴とする漆塗膜を備えた製品。
【請求項9】
漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンが形成された漆塗膜を備えた製品であって、
前記パターンは、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解し除去して形成された構成であり、
前記パターン内には、配線が装填されており、
絶縁材である漆塗膜に付加して、前記配線と接続される又は前記配線を構成要素として有する電子回路が実装されていることを特徴とする漆塗膜を備えた製品。
【請求項10】
漆塗膜として、第1漆塗膜と第2漆塗膜を有し、第1漆塗膜と第2漆塗膜の間に電子回路が設けられており、第2の漆塗膜に形成されたパターン内に配線が装填されており、該配線は前記電子回路と、第2漆塗膜の上に形成される別の電子回路とを電気的に接続し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装する構成であることを特徴とする請求項9に記載の漆塗膜を備えた製品。
【請求項11】
漆塗膜として、第1漆塗膜と第2漆塗膜を有し、第1漆塗膜に形成された前記パターン内に配線が装填されて電子回路が形成されており、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装されていることを特徴とする請求項9に記載の漆塗膜を備えた製品。
【請求項12】
前記電子回路と前記漆塗膜は、回路構造体を構成することを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の漆塗膜を備えた製品。
【請求項13】
漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成された漆塗膜を備えた製品であって、
前記パターンは、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解し除去して形成されたものであり、漆塗膜を備えた製品の外観の装飾デザインとなることを特徴とする漆塗膜を備えた製品。
【請求項14】
前記パターンは、凹部及び孔、又は凹部若しくは孔であることを特徴とする請求項8~13のいずれかに記載の漆塗膜を備えた製品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された漆塗膜を備えた製品に関する。より詳細には、本発明は、紫外線を用いて漆塗膜の一部を局所的に除去し、漆塗膜に所定のパターンを加工する方法及び該加工方法で加工された漆塗膜を備えた製品である。
【0002】
例えば、本発明は、基板上に塗布された絶縁材として機能する漆塗膜を、紫外線を用いてその一部を局所的に除去し、導電体(例えば、導電性ペースト、導電性インク、導電性の金属材料等)を充填して配線を装填するスルーホールや溝等の所定のパターンを形成する加工方法であり、該加工方法で加工した電気絶縁性の漆塗膜を備えた単層又は多層回路構造体等の製品に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、一般的に、各種の製品及びその製造技術については、コスト、耐久性等の優位さが追求されてきたが、これらに加わって、近年、特に、デザイン性、環境負荷の軽減、人への優しさ、安全性の向上等の要請が高まっている。
【0004】
環境負荷の軽減に関しては、例えば、各種の電子製品に組み込まれている回路構造体についてみると、従来は、その製造工程において、エッチング等において使用する各種の薬品、化学剤の後処理等、環境に対する負荷が高い。
【0005】
このような負荷を軽減するために、回路構造体の製造において、レーザーを用い、その構成要素である、例えば、絶縁材等の切断、孔開け等、基板を直接加工する技術が登場し(特許文献1、2、3参照)、製造による環境負荷は低下しつつある。
【0006】
また、人への優しさ、安全性の向上に関しては、例えば、近年の電子デバイスの分野で、主に人ヘルスケア等のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上を目的とした、肌との接触時間が非常に長いウェアラブル機器(Wearable機器:身につけて持ち歩く機器)が近年急激に広まっている。
【0007】
例えば、人の手首につけて、ジョギング、ウォーキング、ダンス、あるいは日々の生活等で消費するカロリーを計測できるアームリストが知られている(特許文献4参照)。
【0008】
さらに、口部という最もデリケートな部分に焦点を当てた試みも増加している。例えば、味覚器に電気刺激を与えて電気味覚を呼び起こすという原理に基づき、その手段としてフォークや箸に電極を付して、水分を含む食物に電気を流して食べるという考えも知られている(非特許文献2参照)。
【0009】
また、家庭内には人とコミュニケーションを行うロボットが入り込み、機械が人と密接に触れ合う機械が劇的に増加している。これらのデバイスでは、人の汗等の水分や衝撃等の過酷な環境に耐え、人に対する衛生面やアレルギー等に対して極め安全であることが必要となる。
【0010】
そのために、従来は、このような製品が出てもプロトタイプに留まっているか、デザインや使用可能な素材、その用途が大幅に限られている。以上のような観点から、各種の素材の開発は当然のこととして、既知の素材についても新たな加工技術、利用技術を開発していくことは、きわめて重要なことである。
【0011】
ところで、漆芸は日本独特の装飾美を持ち、世界から「Japan」と呼ばれる等、日本を代表する伝統工芸である。漆器に使用されている漆は、塗料として、耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性等の耐性において、非常に優れた特性を持ちあわせており、人や環境に対して優しい無公害の天然樹脂塗料である。こうした特色から、古くから食器等の日用品から家具、船舶、建築等に至るまで広範囲に用いられてきた。
【0012】
そして、漆については、「漆の主成分であるウルシオールはベンゼン環や複数の二重結合を持つため,紫外線が当たるとα水素が励起され,酸化を受けやすい。漆塗膜中のウルシオール成分は紫外線を受けると次第に分解して低分子化し,炭酸ガス,低分子有機酸等に変化して大気中に揮散する。漆のその他の成分はビヒクル成分であるウルシオールがなくなると,雨等によって流されるので,漆塗膜は表面から劣化していき,だんだん膜厚が薄くなっていく。これが漆塗膜の劣化の機構である」という点が知られている(非特許文献3、4参照)。
【0013】
なお、漆塗膜上に導電体でパタンを形成し、それをタッチセンサとして用いるアート作品は知られている(非特許文献5参照)。ただし、本作品は漆塗膜自身に対する加工は行っておらず、漆を装飾用塗料として用いているにすぎない。
【先行技術文献】
【0014】

【特許文献1】特開平07-030212号公報
【特許文献2】特開2001-237524号公報
【特許文献3】特開2005-197273号公報
【特許文献4】特開2013-140158号公報
【0015】

【非特許文献1】Nike, Inc., "NIKE+FUELBANDhttp://www.nike.com/us/en_us/c/nikeplus-fuelband"
【非特許文献2】中村、宮下、「電気味覚を活用した味覚の増幅と拡張」、インストラクション2011, pp.461- 464, 2011.
【非特許文献3】江頭俊郎、梶井紀孝、「屋外用漆塗膜に関する研究」、www.irii.jp/theme/h18/pdf/study14.pdf
【非特許文献4】佐藤弘三、漆膜の劣化原因、塗料物性工学、p.225-228
【非特許文献5】http://yurisuzuki.com/works/urushi-musical-interface/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記レーザーを用い基板を直接加工する従来の技術は、確かに製造による環境負荷は低下させる。しかしながら、このような技術は、出力の大きなレーザーが必要であり、そのため、経済的に好ましくはないだけでなく、レーザーを基板に照射した際に生じる熱で、基板及び基板に設けた部品等を物理的に変形、変質させる懸念もある。
【0017】
即ち、レーザーを用い基板を直接加工する技術では、強力なレーザーによる高出カエネルギーによる基板の物理的な破壊を行っているため、加工に伴って生じる熱により、基板や基板に設けた部品の変形等、信頼性が損なわれる危険性が存在する。
【0018】
漆は、その表面は美しく、上記のとおり非常に優れた特性を持ちあわせており、人や環境に対して優しい無公害の天然樹脂塗料である。しかしながら、漆塗膜に所定のパターンやデザインを付与すること(非特許文献5参照)は、重ね塗り等の面倒な技術を必要とし、また蒔絵の製作工程等からみても、きわめて面倒な芸術的技能を要する。漆塗膜にシルクスクリーンで模様を印刷することは可能であり、蒔絵に比較すると容易であるが、蒔絵のような繊細さを出すのは難しい。
【0019】
本発明は、各種の耐性及び電気絶縁性を有し、人や環境に対して無害でやさしい特性を有する漆を、漆工芸の分野において一層活かすことはもちろんのこと、先端技術と融合させて新たな産業を創出することを目的とするものである。
【0020】
そのために、本発明は、紫外線によって、従来技術と比較して小さな出力で紫外線を照射することで加工でき、照射される部材及び照射対象部分以外に、熱による変形や変質等の悪影響が与えない漆塗膜の加工方法と、該加工方法で加工された漆塗膜を備えた製品を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成することを特徴とする漆塗膜の加工方法を提供する。
【0022】
本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成し、前記パターン内に配線を装填し、絶縁材である漆塗膜に付加して、前記配線に接続された又は前記配線を構成要素として有する電子回路を実装することを特徴とする漆塗膜の加工方法を提供する。
【0023】
漆塗膜として、第1漆塗膜を形成し、第1漆塗膜の上に電子回路を形成し、第1漆塗膜及び電子回路の上に第2漆塗膜を形成し、第2漆塗膜に前記パターンを形成し、該パターン内に配線を装填して、前記電子回路と、第2漆塗膜の上に形成される別の電子回路とを電気的に接続し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装するようにすることが好ましい。
【0024】
漆塗膜として、第1漆塗膜を形成し、第1漆塗膜に前記パターンを形成し、該パターン内に配線を装填し電子回路を形成し、第1漆塗膜及び電子回路層の上に第2漆塗膜を塗布し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装するようにすることが好ましい。
【0025】
前記電子回路と前記漆塗膜は、回路構造体を構成する構成としてもよい。
【0026】
本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成し、前記パターンは、漆塗膜を備えた製品の外観の装飾デザインとなることを特徴とする漆塗膜の加工方法を提供する。
【0027】
前記パターンとして、凹部及び孔、又は凹部若しくは孔を形成するようにしてもよい。
【0028】
本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンが形成された漆塗膜を備えた製品であって、前記パターンは、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解し除去して形成された構成であることを特徴とする漆塗膜を備えた製品を提供する。
【0029】
本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンが形成された漆塗膜を備えた製品であって、前記パターンは、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解し除去して形成された構成であり、前記パターン内には、配線が装填されており、絶縁材である漆塗膜に付加して、前記配線と接続される又は前記配線を構成要素として有する電子回路が実装されていることを特徴とする漆塗膜を備えた製品を提供する。
【0030】
本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成された漆塗膜を備えた製品であって、前記パターンは、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解し除去して形成されたものであり、漆塗膜を備えた製品の外観の装飾デザインとなることを特徴とする漆塗膜を備えた製品を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば次のような顕著な効果が生じる。
(1)本発明において漆塗膜を加工する方法は、従来のレーザーによる加工方法とは根本的に異なり、熱による分解ではなく、紫外線により漆の主成分であるウルシオールの化学反応による分解を利用する。従って、照射する紫外線の出力(エネルギー密度)は、従来のレーザー加工技術に比べて、比較的少なくてよい。そのため、熱による、照射部分以外への熱による変形、変質、損傷等の悪影響を低減することが可能となる。
【0032】
(2)漆の有する耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性、電気絶縁性等、耐性に優れた特性によって、漆を用いた機器等の信頼性、安定性、安全性、人や環境に対する優しさを向上することができる。
【0033】
特に、漆塗膜は、1回塗りの薄さの限界である5μm程度の薄さでも、電気絶縁性を発揮するので、電子機器の絶縁材等に使用すると、機器全体の小型軽量化に寄与する。また、漆は各種の耐性にすぐれ、特に抗菌性を有し、人が身につける各種のウェアラブル機器に適用すれば、その工芸的な美に加えて、人にも優しいという効果を発揮する。
【0034】
(3)漆は、ほぼすべての素材に塗布可能であり、従来からの伝統工芸に欠かせない素材であり、このような漆と電子デバイスを組み合わせることで、伝統工芸にハイテクを融合した新たな産業分野を創出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1を説明する図であり、(a)~(f)は、本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用して多層回路構造体を製造する工程を説明する図であり、(a)、(c)、(e)は平面図であり、(b)、(d)、(f)は、それぞれ(a)、(c)、(e)のB-B、D-D、F-F断面図である。
【図2】上記実施例1を説明する図であり、(a)~(d)は、本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用して多層回路構造体を製造する図1(f)に示す工程に続く製造工程を説明する図であり、(a)、(c)は平面図であり、(b)、(d)は、それぞれ(a)、(c)のB-B、D-D断面図である。
【図3】上記実施例1を説明する図であり、(a)~(d)は、本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用して多層回路構造体を製造する図2(d)に示す工程に続く製造工程を説明する図であり、(a)、(c)は平面図であり、(b)、(d)は、それぞれ(a)、(c)のB-B、D-D断面図である。
【図4】上記実施例2を説明する図であり、(a)~(e)は、本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用して多層回路構造体を製造する製造工程を説明する製造工程にある多層回路構造体等の断面図である。
【図5】上記実施例2を説明する図であり、(a)~(e)は、図4(e)に続く本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用して多層回路構造体を製造する製造工程を説明する製造工程にある多層回路構造体等の断面図である。
【図6】本発明の効果を実証する試験例3を説明する図であり、(a)は試験例3に使用した試験装置の回路図であり、(b)は試験例3の試験装置を模式的に説明する断面図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明に係る漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された塗膜を備えた製品を実施するための形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【0037】
前記課題において説明したような問題に鑑み、本発明者は、人や環境に対して無害な素材について、またそのような素材の加工対象部分以外の部分へ変形や変質等の悪影響を与えないような加工方法について、さらに該加工方法を適用して製造可能な製品について、研究開発を進めた。
【0038】
そのような研究開発の過程で、本発明者は、前記のとおり、耐性、即ち耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性等、塗料として非常に優れた特性を持ちあわせており、人や環境に対して優しい無公害の天然樹脂塗料である漆に着目し、漆の新たな利用技術、そのための漆の加工技術を検討した。
【0039】
漆は、紫外線に極度に触れすぎると反応して分解、劣化することは周知であり(非特許文献3、4参照)、従来、漆分野の当業者は、紫外線の影響を受けず紫外線に強い漆の技術開発に、努力を傾注していた。
【0040】
本発明者は、そのような従来の技術開発とは全く逆の発想をして、漆は紫外線に極度に触れすぎると劣化するという従来知られた欠点をむしろ積極的に利用し、そして、漆の主要成分が特定の波長に反応し分解されるという知見の基づき、漆塗膜の一部に紫外線を照射することによりその部分を除去し、漆塗膜に、漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する加工方法を発明するに至った。
【0041】
ここで「所定のパターン」とは、漆塗膜の一部が除去され、所定の形状(平面視の形状、立体視の形状)を有する凹部(例.溝、或いは矩形や円形の凹所)、孔(例.貫通孔)、その他三次元構造等から成るパターンである。これらのパターンは、比較的簡単な形状からかなり複雑な形状まで含むが、電子回路の配線溝に適用する場合等では比較的簡単な形状も想定されるが、デザイン的にはかなり複雑な模様も想定される。
【0042】
本発明は、このように、漆塗膜の一部に紫外線を照射することによりその部分を分解して除去し、漆塗膜に所定のパターンを形成する方法である。紫外線を照射することで、漆を構成する主成分であるウルシオールが分解され(詳細は非特許文献3、4参照)、漆の他の成分である多糖類の物質が残る。
【0043】
漆が分解された後に残る多糖類の物質は、簡単に除去可能である。即ち、多糖類物質は、粉状になっているため、本発明の加工方法を実施するに際しては、ブロア一等で風を供給し吹き飛ばして除去しながら紫外線の照射を行えばよい。
【0044】
漆を構成する主成分はウルシオールであるが、漆の産地によって主成分の名前は異なり、化学式は微妙に異なるが、紫外線に対する特性はほぼ同じである。例えば、台湾、ベトナム産の漆木では、漆の主成分はラッコール(laccol)と言い、タイ、ミャンマー産の漆木では、漆の主成分はチチオールという。本明細書では、ウルシオールを例に説明する。
【0045】
本発明の加工方法では、照射する紫外線として、紫外線レーザー及び紫外線ランプ光(水銀ランプや紫外線LED等の拡散光)のいずれかを使用する。
【0046】
まず、紫外線レーザーを使用する場合について説明する。紫外線レーザーを使用する場合は、漆塗膜の一部を局所的(スポット的)に照射し、紫外線レーザー及び加工対象物のうちの一方を固定し、他方をパターンが形成されるように、二次元又は三次元的に相対的に移動し、スキャニングする構成とすればよい。
【0047】
本発明の加工方法では、紫外線レーザーは、405nmの紫外線領域(より正確には近紫外線領域)も含めて、405nm以下の紫外線領域を使用する。本発明における分解は、あくまでも、従来のレーザー加工のような熱による物理的な分解によるものではなく、紫外線照射によるウルシオールの化学反応による分解であるから、照射する紫外線レーザーのエネルギー密度は、従来のレーザー加工に比べて、比較的少なくてよい。
【0048】
特に、波長405nm程度のレーザー照射装置は、各種のレーザー照射装置の中でも、比較的安価で、入手し易く、このようなレーザー照射装置を使用すれば、本発明では、特に高価で複雑なレーザー照射装置を使用しなくてもよいので、経済的にも優れている。
【0049】
そして、照射する紫外線レーザーの照射出力(紫外線レーザーのエネルギー密度)は比較的少なくてよいから、紫外線レーザーの照射によって発生する熱、温度は比較的低く、そのため漆塗膜の照射対象部分以外の部分や、漆塗膜に付設される部品(例.半導体基板の配線、電子部品)等への熱による変形、変質等の悪影響は少ない。
【0050】
具体的には、漆の耐熱温度は100℃~120℃程度であるため、これを超えると漆が硬化し、漆表面に筋ができる等の症状が現れたり、紫外線レーザーを照射した部分が黒く焦げたようになり、漆の焼付等が生じ、漆を除去するのが困難となる。
【0051】
なお、漆の耐熱温度について補足すると、漆は塗装方法によって耐熱温度が100℃程度~最大250℃程度まで変わるということが知られている。生漆などを塗装する、いわゆる漆塗りの場合は、漆の耐熱温度は、100℃~120℃程度であり、漆の焼付け塗装では200℃を超えても大丈夫と考えられる。
【0052】
本発明では、主に漆塗りの場合を想定しているので、上記のとおり、漆の耐熱温度は100℃~120℃程度としたが、仮に本発明を漆の焼付け塗装の場合にも適用する場合は、焼付け塗装の場合の上記漆の耐熱温度を考慮すればよい。
【0053】
よって、漆塗膜における紫外線レーザーで照射された部分の温度は、少なくとも100℃未満(安全を考慮すると90℃程度までが望ましい)となるように、紫外線レーザーの照射出力を調節し、漆の分解のみを行う。
【0054】
紫外線レーザーの照射作業を、例えば、冷却された加工室内で行ったり、或いは加工物における紫外線レーザーで照射される部分を冷却手段(例.水冷、空冷等)によって冷やしたりして、製品における紫外線レーザーが照射される部分を所定の温度に温度管理して、照射作業を行ってもよい。
【0055】
このように漆塗膜における紫外線レーザーで照射される部分の温度管理ができ、高温となることを抑制できるのであれば、紫外線レーザーの照射出力や照射時間等の照射条件を程度自由に設定できる。
【0056】
例えば、紫外線レーザーの照射出力を大きく設定すると、漆の分解度合いは大きくなるので、所定量の除去作業が、比較的短時間で可能となり、漆塗膜も高温とならないように温度管理されているので、熱による変形、変質も防止できる。
【0057】
即ち、紫外線レーザーの照射出力を大きく設定すると、漆塗膜の照射部分は、大きな照射エネルギーによって、比較的高温となるところであるが、冷却手段で冷却され、高温となることを抑制されているので、漆自体又は周辺部への悪影響も生じない。
【0058】
例えば、後記するが漆塗膜を回路構造体の絶縁材として使用している場合は、紫外線レーザーの照射部分の周辺の配線、電子部品等に悪影響を与えない。なお、本明細書、発明において、「回路構造体」は、基板上に配線や電子部品等から成る電子回路が設けられたものを言う。
【0059】
さらに、紫外線レーザーの照射出力だけでなく、光径、照射位置を制御することで、高精度な漆塗膜の加工が実現可能となる。例えば、パターンが線状の場合は、その太さ、深さ、加工位置等を精度よく加工可能となる。
【0060】
次に、紫外線ランプ光を使用する場合について説明する。紫外線ランプ光を使用する場合は、加工される漆塗膜の上にパタンマスクを載置して、その全面に紫外線ランプによって紫外線ランプ光を照射する。
【0061】
紫外線ランプ光は、紫外線レーザーと同様に、405nmの紫外線領域(より正確には近紫外線領域)も含めて、405nm以下の紫外線領域を使用する。紫外線ランプ光を漆塗膜に照射すると、紫外線レーザーを照射した場合と同様に、漆の主成分ではウルシオールの化学反応により分解されて、除去される。
【0062】
パタンマスクは、紫外線を遮断する材料で形成されており、漆塗膜に形成すべき所定のパターンの平面形状に対応して、所定の平面形状の透過孔がカットして形成されている。これによって、紫外線ランプ光の照射された漆塗膜には、紫外線レーザーを照射した場合と同様に、所定のパターンが形成される。
【0063】
紫外線ランプ光を使用する場合は、紫外線レーザーの場合のように、パターンの線の細さ、深さ等を部分的に調節することはできない。しかし、パタンマスクの透過孔に対応する平面形状と同じパターンを漆塗膜に形成するのであれば、紫外線レーザーよりも早く加工することが可能である。従って、漆塗膜に同じ形状のパターンを備えた製品を量産する場合には適している。
【0064】
以上のとおり、本発明では、照射する紫外線として、紫外線レーザー及び紫外線ランプ光を使用する2通りの方法、手段について説明したが、加工する漆塗膜の塗布された製品の種類等によって、適宜いずれかを選択して使用すればよい。本明細書、実施例等では、主に、紫外線レーザーを使用した場合で説明する。
【0065】
ところで、従来、漆を使用した製品(例.漆器、家具等)における漆塗膜面へデザインを付与する際に、漆塗膜に凹部や孔等から成る所定のパターンを形成する場合は、主に手作業で行われていた。
【0066】
本発明の加工方法を用いれば、漆塗膜に比較的簡単に凹部や孔等から成る所定のパターンを形成することが可能となる。このパターンによって、漆塗膜を備えた製品(例えば、漆器、装飾品、家具等)に、外観に所望の装飾デザインが付与され、しかも装飾デザインは、比較的容易に、低コストで付与することが可能となる。
【0067】
また、本発明の加工方法を用いれば、既製の漆器の漆塗膜を所望の形状に改変して再デザインし、漆器のリフォームをすることもできる。
【0068】
なお、漆塗膜に凹部や孔等から成る所定のパターンを形成するためには、紫外線レーザー又は製品の一方を固定し、他方をパターンが形成されるように、二次元又は三次元的に相対的に移動し、スキャニングする構成とすればよい。
【0069】
ところで、漆は、上記のとおり耐性、即ち耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性等の優れた特性に加えて、電気絶縁性を有している。このことは、漆を絶縁材として電子回路の配線間に介在させても、回路をショートさせる心配もない。
【0070】
また、電子回路、電子デバイス等を漆でコーティングすることで漆の各種耐性を電子回路、電子デバイス等に付与することができる。さらに、漆は木、紙、金属、プラスチック等、ほぼすべての素材に対して塗布可能である。
【0071】
漆のこのような特性に着目し、しかも漆塗膜は本発明の方法により容易に凹部や孔等から成る所定のパターンに加工が可能であることから、本発明者は、漆を、例えば、回路構造体、人と密に触れ合うウェアラブル機器等、その他電気配線を備えた製品における、電気絶縁や外装を目的とする構成部材として適用することを想到した。
【0072】
要するに、本発明の漆塗膜の加工方法で加工された塗膜を備えた製品について想到した。例えば、回路構造体の場合は、後記する実施例で詳細に説明するが、漆塗膜を回路構造体における絶縁層として組み込む。
【0073】
また、ウェアラブル機器の場合は、機器本体に塗布した漆塗膜の表面上に電子回路を設けてから、或いは漆塗膜の表面に所定の配線溝や孔から成るパターンを形成しそれに導電体を充填することで配線を装填し、必要に応じて電子部品も装填してから、さらにその上に漆塗膜を形成し、漆塗膜内に電子回路を電気的に絶縁状態で埋め込んだ構成とする。
【0074】
上記導電体の材料としては、例えば、導電性ペースト、導電性インク、導電漆、金属導電材料等がある。ここで、「導電漆」とは、漆に導電漆以外の導電体の材料を練り込んだものである。漆塗膜に導電漆によって配線を設けた場合に、配線だけ目立つようなことがないので、意匠性が向上する。
【0075】
導電漆を使用して配線を形成した場合、強い紫外線を照射すれば漆が分解され配線が消滅する等の問題もあるが、通常の使用状態では問題はない。逆に、強い紫外線を照射することで、配線を後から切断したい場合等(例えば、電子回路の改変等)では、導電漆は有用である。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
本発明に係る漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された塗膜を備えた製品の実施例1を説明する。この実施例1では、漆塗膜の加工方法を回路構造体の製造に適用し、該加工方法で加工された漆塗膜を備えた製品として多層回路構造体に適用した例について説明する。
【0077】
本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用した多層回路構造体1(図3(c)、(d)参照)の製造工程を図1~3において順次説明する。
【0078】
(1)ガラス、プラスチック等で形成された基板2の上に絶縁性の第1の漆塗膜3を塗布する(図1(a)、(b)参照)。漆は、前記のとおり、木、紙、金属、プラスチック等、ほぼすべての下地となる素材に対して塗布可能であるから、基板2の材質を自由に選ぶことができる。
【0079】
(2)第1の漆塗膜3の上面に、第1の電子回路6を形成する(図1(c)、(d)参照)。本発明で「電子回路」は、配線を有する回路又は配線と電子部品を有する回路(例えば、IC回路等)等を言う。
【0080】
本実施例1では、第1の電子回路6は第1の配線7を有する。この配線7は、その導電体の材料として、例えば導電性ペースト、導電性インク等を使用し、周知のシルクスクリーン技術、電子回路プリント技術(http://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/参照)等を使用すれば、所定の精密な回路配線が形成可能である。導電体の配線材料としては、導電性ペースト、導電性インク等以外にも、導電漆、或いはアルミニウム、銅等を用いてメタル配線としてもよい。
【0081】
なお、第1の電子回路6は、漆工芸では周知技術である蒔絵を製作する際に用いられる技術を模しても形成可能である。即ち、詳細は後記する実施例2及び図4、図5において説明するが、本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用し、第1の漆塗膜3の一部を分解し、第1の漆塗膜3の厚さ方向の途中まで除去し、凹部や孔から成る所定のパターンを形成する。
【0082】
そして、このパターン内に蒔絵を製作する際に用いられる技術を利用して、導電体(例えば、導電性ペースト、導電性インク、導電漆、金属導電材料等)を埋め込み配線を装填して形成してもよい。
【0083】
また、第1の電子回路6の構成要素として必要な電子部品8は、第1の配線7に接続するように設置する(図1(e)、(f)参照)。電子部品8は、例えば、ダイオード、トランジスタ、バリスタ、SCR等の半導体素子であり、チップ部品、プリンタブル電子回路素子(http://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/参照)等を用いればよい。
【0084】
(3)第1の電子回路6の上に、及び第1の漆塗膜3であって第1の電子回路6が設けられていない領域11の上に、絶縁性の第2の漆塗膜12を塗布し積層する(図2(a)、(b)参照)。
【0085】
(4)第2の漆塗膜12における、第1の電子回路6と後記する第2の電子回路13を接続して通電する必要のある箇所に、本発明に係る加工方法を使用し、紫外線レーザーを照射し、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去するとともに、残った多糖類を風を当てて吹き飛ばして除去する。これによって第2の漆塗膜12の一部が除去されて成るパターンとして、スルーホール(孔)16を形成する(図2(c)、(d)参照)。
【0086】
(5)第2の漆塗膜12の上面に第2の電子回路13を形成する(図3(a)、(b)参照)。本実施例1では、第2の電子回路13は、第1の電子回路6と同様に、導電体の材料として導電性ペーストをシルクスクリーン技術によって塗布し第2の配線17を形成し、ここでは図示はしないが、必要に応じて電子部品をさらに第2の配線17に接続するように設けて製造すればよい。
【0087】
このように導電性ペーストをシルクスクリーン技術によって塗布し配線を形成する際に、導電性ペーストがパターンであるスルーホール16内に充填され、その結果、スルーホール16内に、第1の電子回路6と第2の電子回路13を接続する配線18が装填されることとなる。この場合、第1の電子回路6は、パターン(スルーホール16)内に配線を装填し、この配線に接続された電子回路に相当する(請求項2参照)。
【0088】
なお、第2の電子回路13は、前記第1の電子回路6の場合と同様に、蒔絵を製作する際に用いられる技術を利用して、凹部や孔から成る所定のパターン内に導電性ペーストを充填することで、配線を装填して形成してもよい。
【0089】
(6)第2の電子回路13の上に、及び第2の漆塗膜12であって第2の電子回路13と電子部品8が形成されていない領域の上に、絶縁性の第3の漆塗膜21を塗布し、積層する。この第3の漆塗膜21は、多層回路構造体1の絶縁性、耐久性及び安全性を確保するためのコーティング(被覆層)である。以上の製造工程を経て、多層回路構造体1(図3(c)、(d)参照)が製造される。被覆層を必要としない場合は、第3の漆塗膜21は省略して良い。
【0090】
本実施例1では、電子回路を2層有する多層回路構造体1について説明したが、さらに多くの電子回路の層を有する多層回路構造体も、上記同様の製造工程によって製造可能である。なお、電子回路を1層有する単層回路構造体も製造可能であることは言うまでもない。
【0091】
また、上記多層回路構造体1のように漆塗膜内への配線7、17、18、電子部品8等の埋め込みは、回路構造体だけでなく、他の製品、例えば、皿、箸、お椀及び重箱等の漆器、或いは、腕時計、スマートフォン及びタブレット等の先端機器、さらには、前記アームリストのようなウェアラブル機器等にも適用可能である。
【0092】
例えば、漆器については、通常、重ね塗りして製作するが、重ね塗りの間に、上記実施例1のような製造工程を適宜採用して、配線や電子部品を備えた電子回路を形成し、塗膜層内に電子回路を実装することが可能となる。
【0093】
従来の回路構造体等では、絶縁層として使用される絶縁材は、ポリイミド等の絶縁性樹脂材等が使用されていたため、比較的な大きな出力のレーザーで、所定のパターンを形成するために加工する必要があった。そのために、レーザーの照射対象部分以外への熱の悪影響が生じるという問題があった。
【0094】
しかしながら、上記実施例1によれば、第2の漆塗膜12のスルーホール16等のパターンの形成は、従来のレーザーによる加工方法とは根本的に異なり、熱による分解ではなく、紫外線照射によるウルシオールの化学反応による分解を利用するから、照射する紫外線レーザーの出力(エネルギー密度)は、従来のレーザーの出力に比べて、比較的少なくてよい。
【0095】
従って、熱による、回路構造体全体の変形、変質等が生じることなく、また、照射する部分以外の漆塗膜や電子回路等への悪影響を与えない、というきわめて顕著な効果が生じる。
【0096】
漆は、耐性、即ち耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性等、耐性に優れた特性に加えて、電気絶縁性を有するので、漆を電子回路の配線間に介在させても、回路をショートさせることもないので、回路構造体としての耐性、信頼性、安定性、安全性を向上することが可能となる。
【0097】
後記する試験例1でも説明するが、漆塗膜は、漆を1回の塗りの下限まで薄く塗ったとしても十分な電気絶縁性を持つので、絶縁材として薄い漆塗膜を回路構造体に絶縁材に利用すると、回路構造体及び該回路構造体を組み込む電子デバイス全体を小型軽量化することができる。例えば、多層回路構造体の場合は、漆が薄塗り可能(約5um)であることから、薄型化が可能であり、これにより製品全体の小型軽量化が実現できる。
【0098】
以上からして、回路構造体自体が高い耐久性を持つことにより、回路を保護するための構造が必要なくなるため、製品全体の小型軽量化、素材選択の自由度向上、工業デザインの自由度向上が実現できる。
【0099】
また、漆器、先端機器、ウェアラブル機器等に適用した場合は、上記回路構造体における効果に加えて、漆の有する工芸的美しさ、防水防腐性、抗菌性等の人や環境に優しい特性を相乗的に発揮することができる。
【0100】
(実施例2)
本発明に係る漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された塗膜を備えた製品の実施例2を説明する。この実施例2は、漆塗膜に凹部や孔から成る所定のパターンを形成し、このパターン内に配線や電子部品(チップ)を装填し、電子回路をパターン内に形成する構成を特徴とする。
【0101】
実施例2は、実施例1と略同じであるので、相違する構成を中心に説明する。この実施例2では、本発明に係る漆塗膜の加工方法を利用した多層回路構造体51(図5(e)参照)の製造工程を図4、5において順次説明する。
【0102】
(1)ガラス、プラスチック等で形成された基板52の上に絶縁性の第1の漆塗膜53を塗布する(図4(a)参照)。
【0103】
(2)第1の漆塗膜53に、本発明に係る加工方法を使用し、紫外線レーザーを照射し、漆の主成分であるウルシオールを分解して深さ方向の途中まで除去するとともに、残った多糖類を風を当てて吹き飛ばし、凹部や孔から成る所定の第1のパターン55を形成する(図4(b)参照)。
【0104】
(3)第1の漆塗膜53に形成された第1のパターン55内に、導電体の材料として導電性ペーストをシルクスクリーン技術によって充填し第1の配線57を形成し、必要に応じて第1の電子部品(チップ等)58を第1の配線57に接続し、第2の電子回路56を形成する(図4(c)参照)。
【0105】
このようにすることで、第2の電子回路56の第1の配線57や第1の電子部品58は、第1の漆塗膜53の上面から上方に突出することなく、第1の漆塗膜53とともに全体的にフラットな表面を構成する。
【0106】
(4)第1の電子回路56の上に、及び第1の漆塗膜53であって第1の電子回路56が設けられていない領域61の上に、絶縁性の第2の漆塗膜62を塗布し積層する(図4(d)参照)。
【0107】
(5)第2の漆塗膜62に、本発明に係る加工方法を使用し、凹部や孔から成る所定の第2のパターン63を形成する(図4(e)参照)。この実施例2では、第2のパターン63として、配線用の凹部65とスルーホール66を形成する。
【0108】
(6)第2の漆塗膜62に形成された第2のパターン63内に、導電体の材料として導電性ペーストをシルクスクリーン技術によって充填し、凹部65に第2の配線67を装填して第2の電子回路64を形成する(図5(a)参照)。
【0109】
このようにして第2の配線67を形成する際に、導電性ペーストが第2のパターン63のスルーホール66内に充填され、その結果、スルーホール66内に、第1の電子回路56と第2の電子回路64を接続する配線68が装填されることとなる(図5(a)参照)。
【0110】
第2の電子回路64は第2のパターン63内に形成されるので、第2の漆塗膜62とともに、全体的にフラットな表面が構成される。なお、必要に応じて第2のパターン63内の適所に第2の配線67と接続するように電子部品を装填してもよい。
【0111】
(7)第2の電子回路64の上に、及び第2の漆塗膜62であって第2の電子回路64が設けられていない領域69の上に、絶縁性の第3の漆塗膜71を塗布し積層する(図5(b)参照)。
【0112】
(8)第3の漆塗膜71に、本発明に係る加工方法を使用し、凹部や孔から成る所定の第3のパターン72を形成する(図5(c)参照)。実施例2では、第3のパターン72は、第3の漆塗膜71の一部が厚さ方向に貫通し第2の配線が露出するように形成された、電子部品装填孔である。
【0113】
(9)第3の漆塗膜71に形成された第3のパターン(電子部品装填孔)72内に、第3の漆塗膜71の上面から突出することなくすっぽりと収まるように、第2の電子部品73を装填する(図5(d)参照)。
【0114】
(10)第2の電子部品73の上に、及び第3の漆塗膜71であって第2の電子部品73が設けられていない領域74の上に、絶縁性の第4の漆塗膜76を塗布し積層する(図5(e)参照)。
【0115】
この第4の漆塗膜76は、多層回路構造体51の絶縁性、耐久性及び安全性を確保するためのコーティング(被覆層)である。被覆層を必要としない場合は、第4の漆塗膜76は省略して良い。以上の製造工程を経て、実施例2の多層回路構造体51(図5(e)参照)が製造される。
【0116】
実施例2によると、他の層とは独立しつつ第1~3の漆塗膜53、62、71から配線が上方に突出することなく、フラットな表面となる。また、実施例2のような構成によると、第1~3の漆塗膜53、62、71のそれぞれの層内に、配線だけでなく電子部品についても組み込めることが可能であり、このため、配線や電子部品の漆塗膜による保護がより高まるとともに、全体として薄型にできることによるコンパクト化等、従来にない顕著な効果が生じる。
【0117】
実施例2において説明した電子回路は、パターン内に配線を装填し、この配線を構成要素として有する電子回路(請求項2参照)に相当する。
【0118】
本発明に係る漆塗膜の加工方法及び該加工方法を利用して製造した製品について、その実効性を確認するために、本発明者は、いくつかの実証試験を行ったが、その一例を以下説明する。
【0119】
(試験例1:電気絶縁性試験)
漆は、一般的に電気絶縁性を持つことは知られているが、どのくらいの厚みまで電気絶縁性が保たれるのかという点は、上記実施例1、2の多層回路構造体1、51等に適用した場合の実効性を確認する上で、きわめて重要なことである。
【0120】
そこで、本発明者は、漆の厚みを3段階に塗り分け、それぞれに対して電気絶縁性を検証する試験を行った。この試験は、漆塗膜の厚さを変えた試験片について抵抗値を測定し、電気絶縁性が保持できる塗布膜厚みの同定のための試験である。
【0121】
試験片として、3種類の試験片A~Cを用意した。それぞれ銅箔テープに漆を塗って作成したものである。試験片A~Cについて、それぞれ漆塗膜の厚みをマイクロメーターで、異なる箇所について合計3回測定し、その平均値を算出した。次の表1は、試験片A~Cについての漆塗膜の厚みの3回の測定値と、その平均値を示す。
【0122】
【表1】
JP2015109298A_000003t.gif

【0123】
表1に示すように、試験片A~Cは、平均厚みは13μm、9μm、5μmである。漆は、通常、1回の塗りで5~50μmの厚みとなる。このことから、試験片A~Cは、それぞれ1回の塗りの下限付近であると言える。本試験例1では、このような1回塗りの下限付近での抵抗値を測定することで、電気絶縁性を検証する。
【0124】
試験片A~Cに対してテスター(HIOKI、3244 CARD HiTESTER)を使用して導通テストを行った。具体的には、テスターの検知針の一方を銅箔テープに接触し、他方の検知針を漆塗膜面に接触して行った。漆塗膜面に対しては、測定点(検知針の接触箇所)を異なる20箇所について導通テストを行った。
【0125】
その導通テストの結果、全ての測定点で導通を確認することができなかった。また、抵抗値を合わせて測定したが、全ての測定点でテスターの上限である41.99MQを超えていた。よって、漆を1回の塗りの下限まで薄く塗ったとしても十分な電気絶縁性を持つことが実証された。
【0126】
(試験例2:紫外線レーザー照射試験)
本発明者は、塗布された漆塗膜に対して紫外線レーザーを照射し、局所的に漆を分解し除去することが可能であるかどうかを検証する実験を行った。
【0127】
紫外線レーザーは、入手し易いことから、近紫外線の波長域である405nm、出力200mVのレーザーモジュールを使用した。試験片は、前記試験例1に示した最も塗膜が薄い試験片Cを用いた。
【0128】
レーザーと試験片の距離は5mmに固定した。レーザーを試験片に1分間照射後、銅箔テープと塗布膜間の抵抗値をテスターで計測した。このような計測を同じ試験片について、導通するまで、もしくは合計照射時間が10分となるまで、合計10回行った。この試験例2の試験結果を、次の表2に示す。
【0129】
【表2】
JP2015109298A_000004t.gif

【0130】
この試験結果から、表2に示すとおり、6回目、即ち合計6分間の照射で漆の塗布膜が完全に除去され、銅箔が露出したことが分かった。但し、露出したのはレーザー照射エリア全体ではなく、その中の一部であった。その後、照射回数を重ねる度に銅箔露出部分は増加していった。これは、漆の塗りムラと、レーザーの空間的な強度ムラが原因だと考えられる。
【0131】
本試験例1の試験では、特に光学系を用いた集光を行っていなかった。集光を行うことでレーザーの強度ムラを抑えると共に照射エリアを絞ることができるため、レーザー照射部に対する漆の除去ムラ抑制と漆除去時間の短縮が可能だと考えられる。
【0132】
(試験例3:電子回路の実装試験)
本発明者は、試験例1に示した試験片Bを用い、試験片Bの漆塗膜31を銅箔テープ32の上に塗布し、図6(a)に示すような簡単な電子回路33を漆塗膜31の上に表面実装をした。この電子回路33は、LEDを点灯させるものであり、図6(b)に、試験例3に用いた試験装置を、説明のために模式的な断面図として示す。
【0133】
試験例2において使用した紫外線レーザーを用いて、試験片Bの漆塗膜31の一部を局所的に除去し、スルーホール36を形成した。電子回路33の配線37は導電性ペースト(谷口インキ製造株式会社、テクノペン)を用いた。
【0134】
この導電性ペーストは、電子部品の接着も兼ねている。導電性ペーストは、スルーホール36にも充填されて接続用の配線40が装填されて、銅箔テープ32と漆塗膜31上の配線37を接続する構成とした。
【0135】
電子回路33の構成要素である電子部品として、チップ抵抗(200Ω)38とチップLED39(赤色灯、順電圧=約2.0V、順電流=約20mA)を用いた。電源として、安定化電源41(TKASAGO,LTD.,GPO35-5)を用い、銅箔テープ21に+端子を接続した。漆塗膜31上の配線37をGND端子に接続した。
【0136】
以上の構成の電子回路33において通電した結果、正常に動作し、チップLED39が点灯した。この試験例3の試験結果により、漆塗膜31上に形成した電子回路33が有効に機能することが確認された。
【0137】
以上、本発明に係る漆塗膜の加工方法及び該加工方法で加工された塗膜を備えた製品を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、上記実施例に示すような回路構造体以外にも、産業上、次のような用途へ適用できる。
(1)漆器に電子デバイス組み込んで融合させることで、伝統工芸と先端技術を組み合わせた新たな工芸品を創出する。
【0139】
(2)従来の電子・電気製品(例.テレビ)、先端的な電子機器(例.各種のスモバイル機器等)、ウェアラブル機器等のフレーム表面等に漆塗膜を付し、この漆塗膜内に電子デバイス組み込んで融合させることで、漆工芸の伝統的な美を付加し、また機器全体の小型軽量化を図る。
【0140】
例えば、前記したアームリスト、着物等の和装に使用する帯留め金具、装飾具等の外装面に漆塗膜を付し、この漆塗膜内に電子デバイス組み込み、ファッションとハイテクを融合した製品を創出する。
【0141】
(3)人に直接接触したりして、最も衛生面に気を使う調理道具、食器類、医療機器(例.手術具、検査用医療機器)等への電子回路を組込む。
【0142】
例えば、前記したとおり、箸やフォークに電極をつけるという考えは知られている(非特許文献2参照)。このような箸やフォークに漆塗膜を形成し、その漆塗膜内に電極への給電のための回路を埋め込む等である。
【0143】
あるいは、例えば、メス、ピンセット等の手術機器の先端部に小さな照明器又は光学的検知器を設け、その先端部への給電回路又は検出回路を設けることによって、手術中、体内での照明を可能とし、又は手術部位の画像を検出する等行う。乳幼児に対する衛生、アレルギー面で安全な電子玩具を可能とする。
【0144】
(4)日本家屋、家具等の表面に漆塗膜を形成し美観を向上させるとともに、その漆塗膜中に電子デバイスを埋め込んで、景観を損ねることなく、ユピキタス電子機器(家屋や家具等に偏在的に適宜設けられる電子機器)配置する構成を可能とする。
【0145】
(5)本発明の加工方法を利用すれば、漆塗膜の表面に凹部、孔等を形成することが容易となるので、漆工芸において、漆塗膜面にデザイン、模様、蒔絵を付す手段としても活用可能である。
【符号の説明】
【0146】
1 多層回路構造体
2 基板
3 第1の漆塗膜
6 第1の電子回路
7 第1の配線
8 電子部品
11 第1の漆塗膜上であって第1の電子回路が設けられていない領域
12 第2の漆塗膜
13 第2の電子回路
16 スルーホール
17 第2の配線
18 第1の電子回路と第2の電子回路を接続する配線
21 第3の漆塗膜
31 試験片Bの漆塗膜
32 銅箔テープ
33 試験例3で用いた電子回路
36 スルーホール
37 電子回路の配線
38 チップ抵抗
39 チップLED
40 接続用の配線
41 安定化電源
51 多層回路構造体
52 基板
53 第1の漆塗膜
55 第1のパターン
56 第1の電子回路
57 第1の配線
58 第1の電子部品
61 第1の漆塗膜上であって第1の電子回路が設けられていない領域
62 第2の漆塗膜
63 第2のパターン
64 第2の電子回路
65 第2のパターンにおける配線用の凹部
66 第2のパターンにおけるスルーホール
67 第2の配線
68 第1の電子回路と第2の電子回路を接続する配線
69 第2の漆塗膜上であって第2の電子回路が設けられていない領域
71 第3の漆塗膜
72 第3のパターン
73 第2の電子部品
74 第3の漆塗膜上であって第2の電子部品が設けられていない領域
76 第4の漆塗膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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