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明細書 :会合誘起発光材料の調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-160897 (P2015-160897A)
公開日 平成27年9月7日(2015.9.7)
発明の名称または考案の名称 会合誘起発光材料の調製方法
国際特許分類 C09K   9/02        (2006.01)
FI C09K 9/02 Z
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 7
出願番号 特願2014-036866 (P2014-036866)
出願日 平成26年2月27日(2014.2.27)
発明者または考案者 【氏名】伊藤 冬樹
【氏名】藤森 隼一
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
要約 【課題】 DBDCSからなるニート膜を容易に作製することができ、簡単な操作により非発光相のニート膜から発光相へ転移させることを可能にする。
【解決手段】 会合誘起発光材料であるDBDCSの溶液を基板上に供給する工程と、前記基板に供給されたDBDCSの溶液から溶媒を蒸発させ、前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成する工程とを備え、これによりDBDCSからなるニート膜を容易に調製する。また、前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成した後、前記基板上に形成された非発光相のニート膜に紫外光を照射し、前記非発光相のニート膜を緑色発光相に移行させる工程を備えることにより、非発光相のニート膜を発光相のニート膜に転移させる。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
会合誘起発光材料であるDBDCSの溶液を基板上に供給する工程と、
前記基板に供給されたDBDCSの溶液から溶媒を蒸発させ、前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする会合誘起発光材料の調製方法。
【請求項2】
前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成した後、
前記基板上に形成された非発光相のニート膜に紫外光を照射し、前記非発光相のニート膜を緑色発光相に移行させる工程
を備えることを特徴とする請求項1記載の会合誘起発光材料の調製方法。
【請求項3】
前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成した後、
前記非発光相のニート膜を、加熱により緑色発光相から青色発光相に相転移する温度に加熱しながら紫外光を照射し、前記非発光相のニート膜を青色発光相に相転移させる工程
を備えることを特徴とする請求項1記載の会合誘起発光材料の調製方法。
【請求項4】
前記DBDCSの溶液を基板上に供給する工程において、
DBDCSの溶液の溶媒としてアルコールを使用することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の会合誘起発光材料の調製方法。







発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は会合誘起発光材料の調製方法に関し、より詳細には、力学的刺激に応答して発光色を変える作用(メカノクロミズム)を備える会合誘起発光材料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
力学的刺激に応答して発光色を変える作用を備えるメカノクロミック材料の存在は以前から知られている。たとえば、オリゴビニルフェニレン構造を含む高分子材料は、オリゴビニルフェニレンの凝集状態が変化することにより発光挙動が変化し(非特許文献1)、有機金錯体(CFAu)(μ-1,4-diisocyanobenzene)は、紫外光を照射すると青色に発光し、力学的刺激を加えると黄色に変化する。また、この有機金錯体に柔軟なトリエチレングリコールモノメチルエーテル鎖、またはジエチレングリコールモノメチルエーテル鎖を導入すると、紫外光照射により青色に発光し、力学的刺激を加えることにより緑色発光相になり、加熱すると青色発光の状態へ戻ることが知られている(特許文献1)。
【0003】
本発明者は、メカノクロミズムを備える発光材料である(2Z,2’Z)-2,2’-(1,4-phenyle)bis(3-(4-butoxyphenyl)acrylonitrile)(DBDCS)について研究している。このDBDCSは、加熱により緑色発光相から青色発光相へ相変化し、溶媒蒸気噴霧により青色発光相から緑色発光相へ戻る作用を備える(非特許文献2)。DBDCSの発光作用は、分子の会合化により分子内の回転運動が抑制され無輻射失活が抑制されることに起因すると報告されている(非特許文献2)。この現象は、会合誘起増強発光(AIEE)と呼ばれる。
【0004】
DBDCSが、加熱により緑色発光相から青色発光相へ変化する性質を利用すれば、DBDCSをシート状に形成し、このシート体を所定の文字、図形にしたがったパターン的に加熱すれば、緑色の地に青色の文字、図形を表示させること(書き込み)ができる。また、青色発光相で力学的刺激を加える(たとえば、擦る)ことにより、刺激を加えた部位を緑色に発光させること(書き込み)ができる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-158678号公報
【0006】

【非特許文献1】C.Weder et al.,Adv.Mater.,22,14(2002).
【非特許文献2】S-J.Yoon et al.,J.Am.Chem.Soc.132,13675-13683(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したDBDCSが緑色発光相と青色発光相との間で可逆的に状態変化する特性を利用すれば、DBDCSは熱的あるいは機械的なセンシング、熱的あるいは機械的な書き込み、イメージング、特徴的な作用を備える膜製品等として利用することができる。このような用途にDBDCSを利用する場合は、DBDCSをシート体として利用する方法が有効である。
DBDCSからなるシート体を形成する従来方法には、真空蒸着による方法と、DBDCSを分散させたPMMA溶液を基板に滴下する方法があるが、真空蒸着を利用する方法は操作が煩雑であるという問題がある。また、真空蒸着による場合もPMMA溶液を利用する場合も、ともにシート体が発光相として得られ、非発光相としてのニート膜が得られないという問題もある。
【0008】
本発明は、DBDCSからなる膜(シート体)をきわめて簡単な方法によって作製することを可能とし、非発光相としてニート膜を得ることができ、非発光相から発光相への転移もきわめて簡単な操作で行うことができる会合誘起発光材料の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者は、会合誘起発光作用を備えるDBDCSの特性とその調製方法について鋭意検討を重ねた結果、非発光相から緑色発光相、青色発光相へ相転移する作用を発見し、その作用を生じるDBDCSからなるニート膜の新規な調製方法を見出し、本発明を想到するに至ったものである。
すなわち、本発明に係る会合誘起発光材料の調製方法は、会合誘起発光材料であるDBDCSの溶液を基板上に供給する工程と、前記基板に供給されたDBDCSの溶液から溶媒を蒸発させ、前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
DBDCSの溶液をカバーガラス等の基板上に供給する方法としては、DBDCSの溶液を基板上に滴下する方法、スプレー塗布する方法等が利用できる。
DBDCSの溶液は、DBDCSを溶媒に溶解して得られるが、DBDCSの溶媒としてはアルコール類が好適に利用でき、とくにエタノールは、蒸発させることにより簡単に溶媒を除去できるという操作上の利点と、ニート膜を発光相に転移させたときの発光強度が高いという利点がある。
【0011】
また、本発明に係る会合誘起発光材料の調製方法においては、前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成した後、前記基板上に形成された非発光相のニート膜に紫外光を照射し、前記非発光相のニート膜を緑色発光相に移行させる工程を備えることにより、非発光相のニート膜をきわめて容易に緑色発光相に転移させることができる。
また、前記基板上にDBDCSからなる非発光相のニート膜を形成した後、前記非発光相のニート膜を、加熱により緑色発光相から青色発光相に相転移する温度に加熱しながら紫外光を照射し、前記非発光相のニート膜を青色発光相に相転移させる工程を備えることにより、非発光相のニート膜をきわめて容易に青色発光相に転移させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る会合誘起発光材料の調製方法によれば、DBDCSからなるニート膜を容易に作製することができ、簡単な操作により、非発光相のニート膜から緑色発光相に転移させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】DBDCSからなるニート膜とその作用を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(DBDCSニート膜の調製方法)
DBDCSニート膜は、カバーガラス等の基板上にDBDCS溶液を滴下し、溶液の溶媒を蒸発させることによって作製する。
本実施形態においては、DBDCSの溶液としてエタノール溶液(濃度1×10-4mol・dm-3)を使用した。DBDCSの溶媒には、エタノールに限らず、メタノール・プロパノール・2-プロパノール・1-ブタノール・1-ペンタノール等のアルコール類を使用することができる。なお、エタノールを溶媒として使用すると、蛍光強度の高いニート膜を得ることができ、相転移による蛍光色変化を確認しやすいという利点がある。
DBDCS溶液の濃度は、ニート膜の発光強度に関わる。実験によれば、DBDCSの濃度が1×10-3mol・dm-3の場合には溶け残りができてしまうこと、DBDCSの濃度が1×10-5mol・dm-3の場合には発光強度が不十分であることから、DBDCSの濃度Dの範囲としては、1×10-5mol・dm-3<D<1×10mol・dm-3が好適範囲である。

【0015】
実験で使用したDBDCSは既出の合成方法(非特許文献2)にしたがって研究室内で合成して得たものである。得られたDBDCS粉末(黄色)をエタノールに溶解し、DBDCS溶液(濃度1×10-4mol・dm-3)を調製した。
このDBDCS溶液を、パスツールピペットを用いて約1.5 mLとり、22mm四方のカバーガラス上の1/4の範囲に1滴ずつ、計4滴滴下する方法により、基板上にDBDCS溶液を供給した(DBDCS溶液を供給する工程)。この滴下操作により、カバーガラス表面の略全面が、DBDCS溶液により均一に被覆された。

【0016】
次いで、DBDCS溶液を供給したカバーガラスを、室温、大気下に10~15分放置し溶媒を蒸発させる。この操作により、カバーガラス上にDBDCSのニート膜が形成される(ニート膜を形成する工程)。
カバーガラス上に形成されたニート膜は無色透明の膜である。このニート膜は紫外光を照射しても蛍光発光しない非発光相のニート膜となる。

【0017】
次に、カバーガラス上に形成されたDBDCSからなるニート膜に、室温下において紫外光を照射する(紫外光照射工程)。
この紫外光を照射する操作を行うと、カバーガラス上のニート膜は、紫外光を照射しても発光しない非発光状態から、紫外線を照射すると緑色の蛍光を示す緑色発光状態へ移行する。すなわち、室温下における紫外光照射により、カバーガラス上のニート膜は非発光相から緑色発光相に相転移する。

【0018】
紫外光照射工程において使用した紫外光の波長は365nmと375nmであり、波長365nmと375nmの紫外光照射により、非発光相から緑色発光相に相転移することについては確認している。なお、カバーガラスにDBDCS溶液を滴下したサンプルを室内に放置しても、非発光相から緑色発光相への相転移はみられない。非発光相から緑色発光相への相転移は、DBDCSの光吸収に対応していると考えられる。
紫外光照射により、非発光相から緑色発光相に相転移させる操作に必要な紫外光の照射時間は、紫外光の強度にもよるが、2~3秒程度で移行させることができる。

【0019】
(DBDCSニート膜の作用)
以下では、基板上にDBDCS溶液を供給し、DBDCS溶液の溶媒を蒸発させて基板上に形成したDBDCSからなるニート膜の作用について説明する。

【0020】
(1)ニート膜を室温から0℃に冷却する操作
上述した方法により調製したニート膜を、室温から0℃に冷却する操作を行い、ニート膜を冷却したときに発光相がどのようになるかを調べた。実際には、ニート膜が形成されたカバーガラスを、0℃に設定したペルチェ素子上にのせて室温から0℃まで冷却し、発光相について調べた。実験は、蛍光灯照明の実験室内で行った。
この実験により、ニート膜は室温と同様に0℃まで冷却した状態においても非発光相を維持し、冷却操作により相転移が生じないことを確認した。

【0021】
(2)ニート膜を室温から120℃に加熱する操作
DBDCSは120℃程度に加熱すると緑色発光相から青色発光相に相転移することが既に知られている。この実験は、ニート膜が形成されたカバーガラスを室温から120℃にまで加熱したときにニート膜の発光相が変化するか否かを確かめるためのものである。
ニート膜が形成されたカバーガラスを120℃に加熱したヒータのステージにのせ、室温から120℃まで加熱して、ニート膜の発光相を調べたところ、120℃まで加熱した状態で、室温と同様にニート膜は非発光相を維持していた。実験は、蛍光灯照明の実験室内で行ったものである。

【0022】
上記(1)、(2)の実験は、前述した方法によって作製したニート膜は、冷却操作及び緑色発光相と青色発光相の相転移が生じる温度環境における加熱操作によっては、非発光相から緑色発光相あるいは青色発光相に転移しないことを示唆している。
また、(1)、(2)の実験は、蛍光灯照明下における実験であり、蛍光灯照射によって非発光相のニート膜が緑色発光相あるいは青色発光相に相転移することがないことを示す。前述したように、ニート膜を形成したカバーガラスを室内に放置しても非発光相からの相転移は生じないことを確認しており、ニート膜は加熱、冷却作用のみによっては、非発光相から発光相に転移することはないことを示唆する。

【0023】
(3)0℃における紫外光照射
前述した実施形態では、室温でカバーガラス上のニート膜に紫外光を照射して非発光相から緑色発光相に相転移させた。ニート膜を冷却した状態における紫外光の作用を確かめるため、ニート膜を形成したカバーガラスを0℃に冷却した状態で、ニート膜に紫外光を照射してその相変化を調べた。ニート膜は0℃に設定したペルチェ素子にサンプルをのせて冷却状態とした。
0℃にニート膜を冷却した状態で紫外光を照射すると、室温における紫外光照射と同様に非発光相であったニート膜は緑色発光相に転移した。この実験結果は、ニート膜を冷却した状態においても、紫外光照射により非発光相のニート膜を緑色発光相に相転移させることができることを示す。

【0024】
(4)120℃における紫外光照射
加熱下におけるニート膜に対する紫外光の作用を確かめるため、緑色発光相から青色発光相に相転移する加熱温度である120℃にサンプルを加熱した状態でニート膜に紫外光を照射して発光相の変化を調べた。
ニート膜を形成したカバーガラスを120℃に加熱したヒータのステージにのせ、ニート膜に紫外光を照射した。その結果、ニート膜は非発光相から青色発光相に移行した。
この実験結果は、ニート膜に紫外光を照射することによりニート膜が緑色発光相に転移し、さらに加熱により緑色発光相から青色発光相に転移したもの、すなわち非発光相から緑色発光相、緑色発光相から青色発光相への転移が連続的に生じたものと考えられる。

【0025】
図1は、実験で作製したニート膜に室温で紫外光を照射することにより緑色発光相に転移し、ニート膜を加熱して緑色発光相から青色発光相に転移した様子を示す写真である。
図1(a)は、前述した方法により、カバーガラス上にニート膜を形成した状態を示す。ニート膜に紫外線を照射してもニート膜は無色で、蛍光は観察されない。照射直後は蛍光は観測されないが,照射時間とともに緑色発光が増加する.
図1(b)は、図1(a)のニート膜に室温で紫外光を照射してニート膜を緑色発光相とした状態を示す。図1(b)は、ニート膜に紫外光を照射した状態で(白黒に表示されているためわかりにくいが)、カバーガラス上に付着したニート膜が薄く緑色発光している。
図1(c)は、図1(b)のサンプルを120℃まで加熱し、青色発光相に転移させた状態のニート膜である。図1(c)は、ニート膜に紫外光を照射した状態で、カバーガラス上のニート膜が薄く青色発光している。

【0026】
DBDCS膜は緑色発光相の膜を加熱すると青色発光相に転移し、青色発光相の膜を摩擦すると緑色発光相に転移することが知られている。上記方法によって作製したニート膜も、図1(c)に示す青色発光相の状態のニート膜を摩擦すると緑色発光相(図1(b))に転移することを確かめている。すなわち、緑色発光相と青色発光相に転移したニート膜は、既に報告されているDBDCS膜とまったく同様の作用を備えていることが確かめられた。
図面
【図1】
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