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明細書 :デバイス・シミュレータ、デバイス・シミュレーションの方法、および、デバイス・シミュレーション・プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-024604 (P2016-024604A)
公開日 平成28年2月8日(2016.2.8)
発明の名称または考案の名称 デバイス・シミュレータ、デバイス・シミュレーションの方法、および、デバイス・シミュレーション・プログラム
国際特許分類 G06F  17/50        (2006.01)
FI G06F 17/50 666S
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-148055 (P2014-148055)
出願日 平成26年7月18日(2014.7.18)
発明者または考案者 【氏名】森 伸也
【氏名】美里劫 夏南
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100125874、【弁理士】、【氏名又は名称】川端 純市
審査請求 未請求
テーマコード 5B046
Fターム 5B046AA08
5B046BA03
5B046JA04
要約 【課題】従来に比べて少ない計算量で電子-フォノン間相互作用を考慮しつつデバイスの電気的特性を原子論的に算出するデバイス・シミュレータを提供する。
【解決手段】デバイスの構造に関するデータを格納する記憶部2と、デバイスの構造に関するデータを読み出して、デバイスの構造に応じた電子のバンド構造とフォノンの分散関係とを算出するモデル生成部101と、電子のバンド構造およびフォノンの分散関係に基づいて、波数依存性を有さない仮想的なフォノンである仮想フォノンと、仮想フォノンの散乱強度を決定する仮想フォノンモード決定部102と、モデル生成部が算出した電子のバンド構造と仮想フォノンモード決定部が決定した仮想フォノンおよび仮想フォノンの散乱強度とに基づいて、デバイスの電気的特性をシミュレートするシミュレータ部103と、を有する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
電子-フォノン間相互作用に影響されるデバイスの電気的特性をシミュレートするデバイス・シミュレータであって、
シミュレートされるデバイスの構造に関するデータを格納する記憶部と、
前記記憶部から前記デバイスの構造に関するデータを読み出して、前記デバイスの構造に応じた電子のバンド構造とフォノンの分散関係とを算出するモデル生成部と、
前記モデル生成部が算出した前記電子のバンド構造および前記フォノンの分散関係に基づいて、波数依存性を有さない仮想的なフォノンである仮想フォノンと、前記仮想フォノンの散乱強度を決定する仮想フォノンモード決定部と、
前記モデル生成部が算出した前記電子のバンド構造と前記仮想フォノンモード決定部が決定した前記仮想フォノンおよび前記仮想フォノンの散乱強度とに基づいて、前記デバイスの電気的特性をシミュレートするシミュレータ部と、を有するデバイス・シミュレータ。
【請求項2】
前記仮想フォノンは、複数のエネルギーレベルを有し、当該複数のエネルギーレベルの隣接するエネルギーレベル間のエネルギー差はいずれも等しい、ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス・シミュレータ。
【請求項3】
前記仮想フォノンモード決定部は、前記電子のバンド構造および前記フォノンの分散関係に基づいて第一原理計算により求めた散乱時間のエネルギー依存性および電子移動度の電子密度依存性を用いて前記仮想フォノンおよび前記仮想フォノンの散乱強度を決定する、請求項1または2に記載のデバイス・シミュレータ。
【請求項4】
コンピュータを用いて電子-フォノン間相互作用に影響されるデバイスの電気的特性をシミュレートするデバイス・シミュレーションの方法であって、
演算部が、記憶部に格納されたシミュレートされるデバイスの構造に関するデータを読み出して、前記デバイスの構造に応じた電子のバンド構造とフォノンの分散関係とを算出するモデル生成ステップと、
前記演算部が、前記モデル生成ステップにおいて算出した前記電子のバンド構造および前記フォノンの分散関係に基づいて、波数依存性を有さない仮想的なフォノンである仮想フォノンと、前記仮想フォノンの散乱強度を決定する仮想フォノンモード決定ステップと、
前記演算部が、前記モデル生成ステップにおいて算出した前記電子のバンド構造と前記仮想フォノンモード決定ステップにおいて決定した前記仮想フォノンおよび前記仮想フォノンの散乱強度とに基づいて、前記デバイスの電気的特性をシミュレートするステップと、を有するデバイス・シミュレーションの方法。
【請求項5】
コンピュータに電子-フォノン間相互作用に影響されるデバイスの電気的特性をシミュレートさせるデバイス・シミュレーション・プログラムであって、
前記デバイス・シミュレーション・プログラムは、前記コンピュータに、
シミュレートされるデバイスの構造に応じた電子のバンド構造とフォノンの分散関係とを算出するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにおいて算出した前記電子のバンド構造および前記フォノンの分散関係に基づいて、波数依存性を有さない仮想的なフォノンである仮想フォノンと、前記仮想フォノンの散乱強度を決定する仮想フォノンモード決定ステップと、
前記モデル生成ステップにおいて算出した前記電子のバンド構造と前記仮想フォノンモード決定ステップにおいて決定した前記仮想フォノンおよび前記仮想フォノンの散乱強度とに基づいて、前記デバイスの電気的特性をシミュレートするステップと、
を実行させることを特徴とするデバイス・シミュレーション・プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス・シミュレータに関し、特に、電子-フォノン間の相互作用を考慮してデバイスの電気的特性をシミュレートするデバイス・シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
デバイス設計においてシミュレーションによりデバイスの性能を見極めることは極めて重要である。例えば、近年、プレーナ型のトランジスタにとってかわる新しいトランジスタとしてシリコン・ナノワイヤ型(以下、SiNW型)のトランジスタが注目されているが、そのような新しいデバイスを設計する場合、その性能を決定するデバイス特性をコンピュータ上でシミュレートすることは極めて重要である。
【0003】
特許文献1には、ゲート電極が作るポテンシャルを、一方向に無限長であり他の方向においてゲート幅を有する面電荷を周期的に与えることにより、ナノデバイスにおけるソース・ドレイン間電流電圧特性を計算する装置および方法が記載されている。
【0004】
非特許文献1では、原子論的な方法によりあらゆる全ての電子-フォノン間相互作用を考慮してシリコン・ナノワイヤの量子輸送特性を求める手法が述べられている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2014-017382号公報
【0006】

【非特許文献1】Wenxing Zhang, et al., Atomistic modeling of electron-phonon coupling and transport properties in n-type [110] silicon nanowires(アトミスティック・モデリング・オブ・エレクトロン-フォノン・カップリング・アンド・トランスポート・プロパティーズ・イン・nタイプ[110]シリコン・ナノワイヤーズ), Physical Review B, (2010), 82, 115319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えばシリコン・ナノワイヤの輸送特性では、電子-フォノン間相互作用が大きな影響を与える。しかしながら、輸送特性シミュレーションにおいて電子-フォノン間相互作用を考慮する場合、その計算には膨大な時間を要する。
【0008】
本発明は、従来に比べて少ない計算量で電子-フォノン間相互作用を考慮しつつデバイスの電気的特性を原子論的に算出することができるデバイス・シミュレータを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
電子-フォノン間相互作用に影響されるデバイスの電気的特性をシミュレートするデバイス・シミュレータであって、
シミュレートされるデバイスの構造に関するデータを格納する記憶部と、
記憶部からデバイスの構造に関するデータを読み出して、デバイスの構造に応じた電子のバンド構造とフォノンの分散関係とを算出するモデル生成部と、
モデル生成部が算出した電子のバンド構造およびフォノンの分散関係に基づいて、波数依存性を有さない仮想的なフォノンである仮想フォノンと、仮想フォノンの散乱強度を決定する仮想フォノンモード決定部と、
モデル生成部が算出した電子のバンド構造と仮想フォノンモード決定部が決定した仮想フォノンおよび仮想フォノンの散乱強度とに基づいて、デバイスの電気的特性をシミュレートするシミュレータ部と、を有するデバイス・シミュレータである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、少ない計算量で電子-フォノン間相互作用を考慮してデバイスの電気的特性を原子論的に算出することができる。そのため、原子論的なデバイス・シミュレーションにおいて従来に比べ計算コストが低減されたデバイス・シミュレータが供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態によるデバイス・シミュレータの構成を示すブロック図
【図2】同デバイス・シミュレータの機能的構成を示すブロック図
【図3】同デバイス・シミュレータの動作の流れを示すフローチャート
【図4】シミュレートするデバイスの構造の概略を示す模式図
【図5】原子軌道を説明する図
【図6】<100>シリコン・ナノワイヤの構造を説明する図
【図7】第一原理計算により求めた電子のバンド構造を示す図
【図8】フォノン振動を説明する図
【図9】第一原理計算により求めたフォノンの分散関係を示す図
【図10A】第一原理計算により求めた散乱時間の電子エネルギー依存性と、仮想フォノン(エネルギー間隔20meV)より求めた散乱時間の電子エネルギー依存性とを示すグラフ
【図10B】仮想フォノン(エネルギー間隔20meV)の各モードを示す図
【図10C】第一原理計算により求めた電子移動度の電子密度依存性と、仮想フォノン(エネルギー間隔20meV)より求めた電子移動度の電子密度依存性とを示すグラフ
【図11A】第一原理計算により求めた散乱時間の電子エネルギー依存性と、仮想フォノン(エネルギー間隔10meV)より求めた散乱時間の電子エネルギー依存性とを示すグラフ
【図11B】仮想フォノン(エネルギー間隔10meV)の各モードを示す図
【図11C】第一原理計算により求めた電子移動度の電子密度依存性と、仮想フォノン(エネルギー間隔10meV)より求めた電子移動度の電子密度依存性とを示すグラフ
【図12A】第一原理計算により求めた散乱時間の電子エネルギー依存性と、仮想フォノン(エネルギー間隔5meV)より求めた散乱時間の電子エネルギー依存性とを示すグラフ
【図12B】仮想フォノン(エネルギー間隔5meV)の各モードを示す図
【図12C】第一原理計算により求めた電子移動度の電子密度依存性と、仮想フォノン(エネルギー間隔5meV)より求めた電子移動度の電子密度依存性とを示すグラフ
【図13】デバイス・シミュレーションの概要を示す模式図
【図14】非平衡グリーン関数法の概要を示す模式図
【図15】デバイス・シミュレーションにおける定常状態を説明する模式図
【図16】デバイス・シミュレーションの概要を示す模式図
【図17】グリーン関数の構成を説明する模式図
【図18】デバイス・シミュレーションにより得られたデバイスの電流電圧特性のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態として、非弾性散乱過程である電子-フォノン散乱過程を考慮した原子論的デバイス・シミュレータを説明する。以下の説明では、シミュレーションの例として、断面形状が2.2nm×2.2nmの正方形である<100>シリコン・ナノワイヤの量子輸送シミュレーションを説明する。当業者であれば、以下の説明から、本発明の実施形態の構成、作用および有利な効果について、明確に理解することができるであろう。なお、本実施形態によるデバイス・シミュレータでは、言うまでも無く、上記形状のシリコン・ナノワイヤ以外のデバイスについてのシミュレーションも可能である。

【0013】
図1は、本実施形態によるデバイス・シミュレータ10の構成を示すブロック図である。デバイス・シミュレータ10は、データの入力を受け付ける入力部3、様々なデータおよびプログラム等を記憶する記憶部2、記憶部2に格納されたプログラムを実行することにより入力部3が受け付けたデータおよび記憶部2に記憶されたデータを読み出して様々な演算を行い演算結果を出力する演算部1、演算結果等のデータを外部に出力する出力部4を有する。

【0014】
入力部3は、外部の演算装置に対するデータ・インタフェース、および、ユーザからのデータ入力を受け付けるユーザ・インタフェースを含み、ユーザ・インタフェースは、マウス、キーボードといった入力装置を含む。

【0015】
記憶部2は、各種データおよび演算部1が実行するプログラム等を格納する。記憶部2は、例えば、ROM(Read-Only memory)およびRAM(Random Access Memory)である。記憶部2は、本発明の実施形態によるデバイス・シミュレーション方法をコンピュータで実現するためのデバイス・シミュレーション・プログラム204(図2)を格納している。併せて記憶部2には、後述するように、シミュレートされるデバイスの構造に関するデータ(デバイス構造データ200(図2))、デバイスの電子のバンド構造やフォノンの分散関係に関するデータ(モデルデータ201(図2))、後で詳しく説明する仮想フォノンの精度を評価するためリファレンス・データ(評価用データ202(図2))、および、決定された仮想フォノンのエネルギーレベルや散乱強度に関するデータ(仮想フォノン・データ203(図2))を記憶している。本デバイス・シミュレータ10は、これらのデータを用いて所定の構造を有するデバイスについての電子-フォノン相互作用を考慮した原子論的デバイス・シミュレーションを実行する。

【0016】
演算部1は、所謂、中央処理装置(CPU、Central Processing Unit)である。演算部1は、装置10の全体の動作を制御する制御部としても動作する。なお、演算部1の構成は、CPUおよびその周辺の補助回路に限定されない。演算部1は、所定の演算処理に特化したGPU(Graphics Processing Unit)等でもよい。あるいは、演算部1は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルロジックデバイスや、マイクロコントローラ、といったプロセッサとして実装可能である。演算部1は、CPU等の上記要素を複数組み合わせて構成されてもよく、かつ演算部1の構成は上述の例に限定されるものではない。演算部1は、記憶部2に格納されたデバイス・シミュレーション・プログラム204(図2)を実行することにより、本発明の実施形態によるデバイス・シミュレーション方法を実行することができる。また、デバイス・シミュレーション・プログラム204(図2)は、フレキシブル・ディスク、光学ディスク、フラッシュメモリ等に記録されてよく、また、インターネット等のネットワークを介して送信されてよい。

【0017】
出力部4は、演算部1が行ったデバイス・シミュレーションの結果を出力する。出力部4は、例えば、モニタディスプレイ、あるいは、プリンタである。あるいは、出力部4は、ハードディスクやフラッシュメモリといった外部記憶装置や、ネットワークを介して接続された他のコンピュータとの接続を実現するためのインタフェース機構を備えてもよい。

【0018】
図2を参照し、演算部1が、記憶部2に格納されたデバイス・シミュレーション・プログラム204を実行することにより、演算部1により実現されるデバイス・シミュレータ10の機能的構成について説明する。

【0019】
演算部1がデバイス・シミュレーション・プログラム204を実行することにより実現されるモデル生成部101は、入力部3から入力されて記憶部2に記憶されているシミュレートするべきデバイスの構造に関するデータ(デバイス構造データ200)を読み出し、当該データに基づいて、デバイスの電子のバンド構造、および、フォノンの分散関係等を原子論に基づく第一原理的な演算により導出する。

【0020】
電子のバンド構造の算出は、強結合近似法や等価モデル(EMモデル)といった既知の原子論的モデルに従えばよい。フォノンの分散関係の算出は、キーティング(Keating)原子価力場法といった既知の原子論的モデルに従えばよい。算出された電子のバンド構造やフォノンの分散関係は、モデルデータ201として記憶部2に格納される。

【0021】
モデル生成部101は、さらに、電子のバンド構造やフォノンの分散関係に加え、シミュレートするべきデバイスの、散乱時間のエネルギー依存性と、電子移動度の電子密度依存性とを原子論的に計算し、これらのデータを評価用データ202として記憶部2に格納する。

【0022】
次に、演算部1がデバイス・シミュレーション・プログラム204を実行することにより実現される仮想フォノンモード決定部102は、特定のエネルギーレベルを有し波数依存性を有さない仮想的なフォノン(仮想フォノン)、および、各仮想フォノンの散乱強度を、評価用データ202(上述の散乱時間のエネルギー依存性と電子移動度の電子密度依存性)を用いて、決定する。

【0023】
すなわち、仮想フォノンモード決定部102は、評価用データ202として記憶されている第一原理計算による散乱時間のエネルギー依存性を用いて、変分法により、仮想フォノンの散乱強度を決定する。そして仮想フォノンモード決定部102は、決定された仮想フォノンの散乱強度から電子移動度の電子密度依存性を算出し、評価用データ202として記憶されている、先に求めた第一原理計算による電子移動度の電子密度依存性と比較し、仮想フォノンの適合性を評価する。適合性評価において所定レベル以上の高評価を得た仮想フォノンは、後のデバイス・シミュレーションで使用される。そのため、高評価を得た当該仮想フォノンのエネルギーレベルおよび散乱強度は、仮想フォノン・データ203として記憶部2に格納される。

【0024】
演算部1がデバイス・シミュレーション・プログラム204を実行することにより実現されるシミュレータ部103は、仮想フォノンモード決定部102が決定した仮想フォノンおよびその散乱強度を用いて、デバイス・シミュレーションを行い、デバイスの特性(電流電圧特性等)を算出する。

【0025】
次に、図3~図18を参照し、デバイス・シミュレータ10の演算部1がデバイス・シミュレーション・プログラム204を実行したときにデバイス・シミュレータ10が行う動作について説明する。

【0026】
図3は、演算部1が実行する処理の流れを示すフローチャートである。

【0027】
ステップS1において、演算部1は、モデル生成部101(図2)として動作することにより、シミュレートするべきデバイス(デバイス300(図4))の構造に関するデータ(デバイス構造データ200(図2))を記憶部2から読み出し、当該データに基づいて、デバイスの電子のバンド構造を計算する。なお、デバイス構造データ200(図2)は、ユーザが入力部3を介して、シミュレータ10に入力してもよいし、入力部3を介して接続される外部の機器から、データ通信によりシミュレータ10に入力されてもよい。

【0028】
図4は、シミュレートするべきデバイスの構造の例を示した模式図である。図4(a)は、デバイス300の立面図であり、図4(b)は、デバイス300の側面図である。ここではデバイス300は、断面形状が、2.2ナノメートル×2.2ナノメートルの正方形形状を有する<100>シリコン・ナノワイヤである。デバイス300のシリコン・ナノワイヤは、長手方向に30ナノメートルの長さを有し、ソース電極401側10ナノメートル長の領域301は、n型シリコンであり、絶縁膜404および金属405を介してゲート402と対向する10ナノメートル長の中央領域302は、真性シリコンであり、ドレイン電極403側10ナノメートル長の領域303は、n型シリコンであるとする。ここでのデバイス300は、ゲート長10ナノメートル、酸化膜厚1ナノメートルのゲート・オール・アラウンド(GAA)型シリコン・ナノワイヤ・トランジスタである。

【0029】
ここで、図5~図7を参照し、デバイス300の電子のバンド構造の決定の方法について説明する。

【0030】
モデル生成部101(演算部1)(図2)は、強結合近似法を用いて、デバイス300のシリコン・ナノワイヤの電子のバンド構造を算出する。モデル生成部101(演算部1)は、算出した電子のバンド構造を、モデルデータ201として記憶部2に格納する。

【0031】
図5は、デバイス300の原子501および原子501の原子軌道502の模式図である。モデル生成部101(演算部1)(図2)は、強結合近似法に従い、各原子501に属する原子軌道502を最小単位とし、最近接原子軌道間の相互作用までを考慮してハミルトニアンを決定する。すなわち、モデル生成部101(演算部1)は、強結合近似法に従い、各原子501に属する原子軌道502の原子軌道関数
【数1】
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を基底として、電子のハミルトニアンHを行列形式で決定し、当該ハミルトニアン行列の固有値を算出することにより、電子のバンド構造を算出する。ここでの原子軌道関数φn,λTBの添え字nは、原子の番号(n:n=1,2,3,...,N)(Nは原子数。)であり、添え字λは、原子軌道の種類(s軌道、p軌道、など)を表す。

【0032】
原子の数Nとは、考慮する系に含まれる原子の総数である。ここで、図6は、シリコン・ナノワイヤの構造を示す図である。図6から判るように、<100>シリコン・ナノワイヤは、長手方向(図の左右方向)にA、B、C、Dの4種類の原子層が周期的に繰り返される周期性を有する。そのため、モデル生成部101(演算部1)(図2)がするバンド計算においては、これら4つの原子層から構成される繰り返しの基本単位(単位胞)(図6のa)に含まれる原子501のみを考慮すれば足りる。断面形状2.2nm×2.2nmの正方形の<100>シリコン・ナノワイヤ(図4)の場合は単位胞に含まれる原子数Nは、N=145でよい。

【0033】
一方、各原子について、10種類の軌道(s軌道1種類、p軌道3種類、d軌道5種類、s軌道1種類の10種の軌道)を考慮すればシリコンの伝導帯をよく記述できることが知られている。したがって、モデル生成部101(演算部1)(図2)がデバイス300の電子のバンド構造を強結合近似法により計算する場合、必要な基底関数の数MTBは、N×10=1450となる。そのため、モデル生成部101(演算部1)(図2)が決定するハミルトニアン行列のサイズは、MTB×MTB=1450×1450となる。モデル生成部101(演算部1)(図2)は、このハミルトニアン行列の固有方程式を生成して固有値問題を解くことによって、電子のバンド構造を算出する。図7は、モデル生成部101(演算部1)(図2)がそのようにして強結合近似法により算出した電子のバンド構造を示す図である。算出したバンド構造は、モデルデータ201として、記憶部201に格納される。

【0034】
なお、強結合近似法に代えて、等価モデル(EMモデル)を用いて、デバイス300(図4)の電子のバンド構造を算出し、モデルデータ201を生成してもよい。(等価モデルの詳細については、G. Mil'nikov, N. Mori, and Y. Kamakura, "Equivalent transport models in atomistic quantum wires", Physical Review B, 85, 035317 (2012)を参照。)等価モデルでは、強結合近似法との比較において極めて少数の基底関数φEM(j:j=1,2,...,MEM;MEM<<MTB)を構築することにより電子状態を記述する。そのため、電子のバンド構造の計算にかかる計算コストならびにデバイス・シミュレーションに要する計算コストの削減の観点で、等価モデルは、強結合近似法よりも有利である。図7にMEM=44として等価モデルに従ってモデル生成部101(演算部1)(図2)が算出した電子のバンド構造を示す。MEM=44(<<MTB=1450)の等価モデルにより計算されたデバイス300(図4)の電子のバンド構造は、とくにエネルギー範囲0<E-E<0.5eVの範囲において、強結合近似法による結果をよく再現している(よく一致している)ことがわかる。このように強結合近似法に代えて等価モデルによりバンド構造を決定する場合でも、決定されたバンド構造はモデルデータ201として、記憶部201に格納される。

【0035】
図3に戻り、ステップS2において、モデル生成部101(演算部1)は、記憶部2に格納されているデバイス構造データ200(図2)に基づいて、シミュレートされるデバイス300(図4)におけるフォノンの分散関係を算出する。本ステップでは、モデル生成部101(演算部1)は、フォノンの分散関係を、キーティング(Keating)原子価力場法を用いて算出する。モデル生成部101がこのようにして導出した分散関係は、モデルデータ201(図2)として記憶部2に格納される。ただし、本発明の実施形態では、フォノンの分散関係の導出の手法について一切の限定はなく、ここで説明するキーティング原子価力場法は、その一例に過ぎない。

【0036】
キーティング原子価力場法においては、図8に示されるように原子501の間をバネ503で結んだモデルを用い、原子系についての古典力学的な運動方程式を解くことにより、基準モード(全ての原子501が同じ振動数で同位相で振動するモード)を求める。なお、図8には、原子間の結合方向に沿ったバネ503のみが示されているが、計算では、結合角方向に関するバネも考慮する。

【0037】
図9は、そのようにしてモデル生成部101が算出したデバイス300のフォノンの分散関係のプロットである。先に述べたようにデバイス300は、断面形状が2.2ナノメートル×2.2ナノメートルの正方形形状の<100>シリコン・ナノワイヤであり、単位胞a(図6)に含まれる原子の数は、原子数N=145個であり、かつ各原子が、x,y,z方向の3つの自由度を有するため、図9に示すように、フォノンの基準モードは、フォノン波数ベクトルqに対し、3N=435個のモード(ブランチ)を有する。(実際には、計算に際しシリコン・ナノワイヤの表面を水素原子で終端しているため、ブランチの数は471個になる。)

【0038】
図3に戻り、次にモデル生成部101(演算部1)(図2)は、ステップS3において、ステップS1およびステップS2で算出した結果(モデルデータ201)を用いて、つまり、電子のバンド構造およびフォノンの分散関係に基づいて、デバイス300における、散乱時間の電子エネルギー依存性、および、電子移動度の電子密度依存性を原子論に基づいて第一原理的に計算する。すなわち、本ステップにおいては、モデル生成部101(演算部1)(図2)は、図9に示した全てのフォノンモードのブランチを考慮して、散乱時間の電子エネルギー依存性、および、電子移動度の電子密度依存性を算出する。図10A、図11A、および、図12Aのプロット601は、モデル生成部101(演算部1)(図2)がそのようにして算出した散乱時間の電子エネルギー依存性のプロットであり、図10C、図11C、および、図12Cのプロット605は、モデル生成部101(演算部1)(図2)がそのようにして算出した電子移動度の電子密度依存性のプロットである。このようにしてモデル生成部101(演算部1)(図2)が第一原理的に求めた散乱時間の電子エネルギー依存性、および、電子移動度の電子密度依存性は、評価用データ202として、記憶部2に格納される。

【0039】
次に、ステップS4からステップS8までの一連の処理において、演算部1は、仮想フォノンモード決定部102(図2)として動作して、特定のエネルギーレベルを有しかつ波数依存性を有さない仮想的なフォノン(仮想フォノン)、および、各仮想フォノンの散乱強度を決定する。

【0040】
ここで、本発明の実施形態において導入される仮想フォノンについて説明する。

【0041】
始状態iにいる電子が、ブランチν、波数ベクトルqのフォノンを吸収・放出し、終状態jとなる電子-フォノン間相互作用過程を、Tijνq(bνq+bν,-q)(ここで、Tijνqは、相互作用強度であり、a(a)は電子の生成(消滅)演算子であり、bν,-q(bνq)は、フォノンの生成(消滅)演算子である。)とすれば、原子論に基づいて第一原理的に電子の散乱時間(散乱確率)や、移動度や、デバイス特性を計算しようとする場合、フォノンモードに関する多くの項の和、すなわち、
【数2】
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という形を持つ式を計算する必要がある。デバイス300(図4)の場合、先に述べたように471(=N)個のブランチがあり、図9に示した分散関係を精度よく表現するために、波数ベクトル方向にも十分に細かくメッシュを切る(典型的には、波数ベクトル方向に、600点程度のメッシュを構成する)場合、上記Σνqは、282,600項程度の和となる。この計算が、デバイス・シミュレーションにおいて多大な計算コストを要求する。

【0042】
そこで、本発明の実施形態においては、演算部1(図2)は、式(1)を、
【数3】
JP2016024604A_000005t.gif
と置き換えて計算を行う(δは、クロネッカーのデルタを表す)。こうすることで、デバイス・シミュレーションに要する計算量を劇的に減少させることができる。すなわち、ブランチの指数νおよび波数ベクトルqに依存するフォノンhων(q)(hは、プランク定数hを2πで除した換算プランク定数を表す。)を、等エネルギー間隔で配置される(すなわち、hωμ=(μ-1)hΔω(μ)(hΔωは、仮想フォノンのエネルギー間隔、μは、μ=1,2,3,...,N;N<<N))波数ベクトルに依存しない少数個の仮想的なフォノンに置き換えて計算を行う。(なお、仮想フォノンのエネルギー間隔hΔωは、必ずしも等間隔でなくともよい。)

【0043】
仮想フォノンの散乱強度T-μ(Tは、式(2)におけるTの上にバーを付した文字記号を表す。)は、第一原理的に決定することができないため、本発明の実施形態においては、演算部1(図2)は、ステップS4~ステップS8の処理を行うことにより、仮想フォノンの散乱強度T-μを決定する。なお、図10B、図11B、および、図12Bのプロット604a,b,cは、そのような仮想フォノンの例である。以下にステップS4~ステップS8での処理を説明する。

【0044】
図3のステップS4において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、エネルギー間隔hΔωを20meVとして、等間隔に並んだ、波数に依存しない仮想フォノンのモードを設定する。ここでの、エネルギー間隔hΔω=20meVは、第一原理的に求めたフォノンのエネルギー(図9)のおよそ最大レベルの値(60meV)を予め定めておいた仮想フォノン個数初期値(ここでは3)で除して求めた値である。図10Bは、このようにして求めた仮想フォノンのモード604aをプロットした図である。

【0045】
図3のステップS5において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに適当な初期値を与え、当該散乱強度のパラメータT-μの初期値に基づいて、散乱時間の電子エネルギー依存性を計算する。そして、仮想フォノンモード決定部102は、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づく散乱時間の電子エネルギー依存性が、ステップS3において第一原理的に求めた散乱時間の電子エネルギー依存性(図10A等のプロット601)に可能な限り一致するように、変分法を用いて仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μを調整する。図10Aのプロット602aは、仮想フォノンモード決定部102がそのようにして求めた、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づく散乱時間の電子エネルギー依存性であり、同図の差し込み図中のチャート603aは、そのときの仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μの値を示している。

【0046】
次に、図3のステップS6において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、ステップS4で設定した仮想フォノン、および、ステップS5で求めた仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づいて電子移動度の電子密度依存性を算出する。図10Cのプロット606aは、そのようにして算出された電子移動度の電子密度依存性であり、もう一方のプロット605は、ステップS3において第一原理的に求めた電子移動度の電子密度依存性である。

【0047】
次に、図3のステップS7において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、ステップS6の結果を用いてステップS4において設定した仮想フォノンを評価する。例えば、仮想フォノンモード決定部102は、ステップS3で第一原理的に求めた電子移動度(すなわちプロット605(図10C))と、ステップS4で設定した仮想フォノンに基づいて求めた電子移動度(すなわちプロット606a(図10C))との差分をとり、当該差分の絶対値を電子密度軸(図10C)に沿って数値的に積分することにより、両者の乖離の程度を定量化する。そして、仮想フォノンモード決定部102は、そのようにしてもとめた両者の乖離の程度を、予め定めた閾値と比較することにより、ステップS4で設定した仮想フォノンの適合度(ステップS3で求めた電子移動度との一致の程度)を評価する。仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)が、両者は閾値以上にかけ離れている、と判断した場合(ステップS7における「NO」)、処理は、ステップS8へ進む。仮想フォノンモード決定部102(図2)が、両者はかけ離れていない、と判断した場合(ステップS7における「YES」)、処理は、ステップS9へ進む。図10A,図10B,図10Cに示した仮想フォノンの例(エネルギー間隔:20meV、仮想フォノン数3(初期値)の例)では、仮想フォノンモード決定部102(図2)は、両者が閾値を上回る程度に乖離していると判断するため、処理は、ステップS8へ進む。

【0048】
図3に戻って、仮想フォノン決定部102は、ステップS8において、エネルギー間隔をhΔωを狭く設定し直して、仮想フォノンの数を増やす。ここでは、エネルギー間隔を20meVから10meVに変更し、仮想フォノン数を3から6に増やす。

【0049】
上記ステップS8から戻ってきたステップS4においては、ステップS8で定めたエネルギー間隔に従って、仮想フォノン決定部102が、改めて仮想フォノンを設定する。

【0050】
つまり、2回目のステップS4において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、エネルギー間隔hΔωを10meVとして、等間隔に並ぶ、波数に依存しない仮想フォノンのモードを設定する。図11Bは、このようにして求めた仮想フォノンのモード604bをプロットした図である。

【0051】
図3のステップS5において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、1回目のステップS5と同様に、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに適当な初期値を与え、当該散乱強度のパラメータT-μの初期値に基づいて、散乱時間の電子エネルギー依存性を計算する。そして、仮想フォノンモード決定部102は、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づく散乱時間の電子エネルギー依存性が、ステップS3において第一原理的に求めた散乱時間の電子エネルギー依存性(図11A等のプロット601)に可能な限り一致するように、変分法を用いて仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μを調整する。図11Aのプロット602bは、仮想フォノンモード決定部102がそのようにして求めた、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づく散乱時間の電子エネルギー依存性であり、同図の差し込み図中のチャート603bは、そのときの仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μの値を示している。

【0052】
次に、図3のステップS6において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、直前のステップS4で設定した仮想フォノン、および、直前のステップS5で求めた仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づいて電子移動度の電子密度依存性を算出する。図11Cのプロット606bは、そのようにして算出された電子移動度の電子密度依存性であり、もう一方のプロット605は、ステップS3において第一原理的に求めた電子移動度の電子密度依存性である。

【0053】
次に、図3のステップS7において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、直前のステップS6の結果を用いて直前のステップS4において設定した仮想フォノンを評価する。図11A,図11B,図11Cに示した仮想フォノンの例(エネルギー間隔:10meV、仮想フォノン数6の例)では、仮想フォノンモード決定部102は、両者が閾値を上回る程度に乖離していると判断するため、処理は、ステップS8へ進む。

【0054】
図3に戻って、仮想フォノン決定部102はステップS8において、エネルギー間隔をhΔωを狭く設定し直して、仮想フォノンの数を増やす。ここでは、エネルギー間隔を10meVから5meVに変更し、仮想フォノン数を6から13に増やす。

【0055】
上記ステップS8から戻ってきたステップS4においては、直前のステップS8で定めたエネルギー間隔に従って、仮想フォノン決定部102(演算部1)(図2)が、改めて仮想フォノンを設定する。

【0056】
3回目のステップS4において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、エネルギー間隔hΔωを5meVとして、等間隔に並ぶ、波数に依存しない仮想フォノンのモードを設定する。図12Bは、このようにして求めた仮想フォノンのモード604cをプロットした図である。

【0057】
図3のステップS5において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、1回目および2回目のステップS5と同様に、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに適当な初期値を与え、当該散乱強度のパラメータT-μの初期値に基づいて、散乱時間の電子エネルギー依存性を計算する。そして、仮想フォノンモード決定部102は、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づく散乱時間の電子エネルギー依存性が、ステップS3にて第一原理的に求めた散乱時間の電子エネルギー依存性(図12A等のプロット601)に可能な限り一致するように、変分法を用いて仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μを調整する。図12Aのプロット602cは、仮想フォノンモード決定部102がそのようにして求めた、仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づく散乱時間の電子エネルギー依存性であり、同図の差し込み図中のチャート603cは、そのときの仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μの値を示している。

【0058】
次に、図3のステップS6において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、直前のステップS4で設定した仮想フォノン、および、直前のステップS5で求めた仮想フォノンの散乱強度のパラメータT-μに基づいて電子移動度の電子密度依存性を算出する。図12Cのプロット606cは、そのようにして算出された電子移動度の電子密度依存性であり、もう一方のプロット605は、ステップS3において第一原理的に求めた電子移動度の電子密度依存性である。

【0059】
次に、図3のステップS7において、仮想フォノンモード決定部102(演算部1)(図2)は、直前のステップS6の結果を用いて直前のステップS4において設定した仮想フォノンを評価する。図12A,図12B,図12Cに示した仮想フォノンの例(エネルギー間隔:5meV、仮想フォノン数13の例)では、仮想フォノンモード決定部102(図2)は、両者が閾値を超えない程度によく一致していると判断し、処理は、ステップS9へ進む。

【0060】
仮想フォノンモード決定部102(図2)は、図3のステップS9において、仮想フォノンモードおよび散乱強度のパラメータを、仮想フォノン・データ203として記憶部2に格納する。

【0061】
仮想フォノン・データ203(図2)は、デバイス300について求めた仮想フォノンに関するデータ(仮想フォノンのエネルギーレベルや散乱強度)を格納する。なお、仮想フォノン・データ203は、ソース-ドレイン間距離(デバイス300の長手方向寸法)や、ゲートの構造がデバイス300とは異なるデバイスについても、使用することができる。したがって、そのようなデバイスについてデバイス・シミュレーションを行う場合には、デバイス300について求めた仮想フォノン・データ203を使用することができる。よって、そのような場合には、ステップS1からステップS9までの処理は、スキップしてよい。

【0062】
次に、図3のステップS10において、演算部1は、シミュレータ部103(図2)として動作して、デバイス300についてのデバイス・シミュレーションを行い、デバイス300の電流電圧特性を出力する。

【0063】
本発明の実施形態においてシミュレータ部103(演算部1)(図2)は、ステップS7で評価用データとよく一致していると判断された、ステップS4で設定した仮想フォノンおよびステップS5で求めた仮想フォノンの散乱強度パラメータT-μ(仮想フォノン・データ203として記憶部2に格納されたデータ)を用いてデバイス300の特性(電流電圧特性)を求める。つまり、シミュレータ部103は、仮想フォノンとその散乱強度を用いてデバイス300における電子-フォノン間相互作用を考慮して、デバイス300の電気的特性(電流電圧特性)を求める。そのため、従来の手法で電子-フォノン間相互作用を考慮してデバイスの電気的特性を計算する場合に比べ、計算コストが低減される。

【0064】
ここで、シミュレータ部103が実行するデバイス・シミュレーションについて説明する。

【0065】
一般に、定常状態のデバイス・シミュレーションでは、輸送方程式とポアソンの式を連立させて自己無撞着的に解くことにより、注目するデバイスの電流電圧特性を得ている(図13参照)。

【0066】
デバイス内のポテンシャル分布φ(x)(xはデバイス内の位置を指すベクトル量。)が決定されれば、輸送方程式を解くことにより、デバイス内の電子密度分布n(x)(xはデバイス内の位置を指すベクトル量。)や電流が得られる(φ→n)。しかしながらポテンシャル分布φ(x)は、ポアソンの式を通して電子密度分布n(x)に依存する(n→φ)ため、デバイス内のポテンシャル分布φ(x)と電子密度分布n(x)とを決定するために、輸送方程式とポアソンの式を連立させて解く。

【0067】
通例、バイアスに関する条件のもとで、輸送方程式とポアソンの式とについて自己無撞着計算を行うことにより、電子密度分布や電流値が得られ、それらを纏めることによりデバイスの電流電圧特性が得られる。

【0068】
これまで、上記輸送方程式としては、ボルツマン輸送方程式がもっぱら用いられてきたが、図4に示したデバイス300のような極微細デバイスでは、量子力学的な効果を無視することができないため、シミュレータ部103(演算部1)(図2)は、ステップS10において、非平衡グリーン関数(NEGF)法を用いた量子効果を考慮したデバイス・シミュレーションを行う。

【0069】
次にNEGF法について説明する。

【0070】
NEGF法では、図14に示したように、ダイソンの式を解いてグリーン関数Gを求め、ケルディッシュの式を解いて相関関数Gを求める。ダイソンの式は、本質的には量子力学的な運動方程式である。ダイソンの式を解いてグリーン関数Gを求めることにより、デバイス内の電子の状態密度がわかる。相関関数Gは、デバイス内の電子密度を表しており、ケルディッシュの式により、各状態への電子の出入りをカウントすることにより、相関関数Gが決定される。

【0071】
デバイス・シミュレーションにおいては、シミュレータ部103(演算部1)が、ダイソンの式やケルディッシュの式とポアソンの式とを自己無撞着的に解き、デバイス内のポテンシャル分布および電子密度分布を算出する。

【0072】
なお、シミュレータ部103がするデバイス・シミュレーションにおいては、デバイス300(図4)に電源が接続され(図15)、ソース電極から電子が注入され続け、ドレインからは電子が流出し続けて、結果として定常に達した状態を計算する(図16)。デバイス内の状態は、上記したように輸送方程式を解くことにより求め、デバイス300と電極との接続部分は境界条件として取り込む。このとき、ソース電極、ドレイン電極、および、フォノンは、図16に示したように熱平衡状態に保たれていることを仮定する。

【0073】
図17は、グリーン関数Gを模式的に説明する図である。ステップS1で先に求めた電子のバンド構造はデバイス領域のハミルトニアンとしてグリーン関数Gの計算に用いられる。また、電子-フォノン間相互作用は、自己エネルギーΣscatとしてグリーン関数Gに導入される。

【0074】
シミュレータ部103は、仮想フォノンおよびその散乱強度のパラメータT-μに基づいて自己エネルギーを求める。すなわち、シミュレータ部103は、
【数4】
JP2016024604A_000006t.gif
を計算することにより自己エネルギーを算出する。

【0075】
従来においては、この自己エネルギーの算出において、
【数5】
JP2016024604A_000007t.gif
という計算が必要であった。(ここで、<j|・・・|i>等の項は、電子状態i,j等の波動関数に関する空間積分を表している。)図14に示したように、この自己エネルギーの計算は、各自己無撞着ループ(図16参照。)内で行う必要がある。デバイス300(図4)のような2.2ナノメートル×2.2ナノメートルのシリコン・ナノワイヤ・トランジスタの場合、この従来の方法では、あるエネルギー点におけるΣscatの計算に一般的なパーソナル・コンピュータで1日以上の処理時間を要する。これに対し、本発明の実施形態によるデバイス・シミュレータにおいては、シミュレータ部103(演算部1)(図2)は、式(4)の代わりに式(3)を用いるため、モード数が劇的に減少し、デバイス・シミュレーションの高速化が実現される。デバイス300についてのデバイス・シミュレーションの場合、式(4)を用いる従来の手法で一般的なPCで一日以上を要した計算が、本発明の実施形態においては、同じ一般的なPCを用いて1分以内で完了する。

【0076】
図18は、そのようにしてシミュレータ部103が求めたデバイス300の電流電圧特性である。図18の結果を出力するために、一般的なPCでバイアスポイント1点あたり、およそ1時間程度の時間を要した。このようにシミュレータ部103(図2)は、デバイス・シミュレーションにおいて、自己エネルギーΣscatの計算を、仮想フォノンおよびその散乱強度パラメータT-μを用いて実行する(式(3))。そのため、従来の手法(式(4))に比べ、計算コストが劇的に低減される。

【0077】
本発明の実施形態によるデバイス・シミュレータ10は、シミュレーション対象のデバイスについて、仮想フォノンを設定し、設定した仮想フォノンおよびその散乱強度パラメータを用いて、電子-フォノン間相互作用(自己エネルギー)を算出する。そうすることで、従来の第一原理的な計算に比べて、劇的に計算量が低減されている。なお、デバイス・シミュレータ10は、上で説明した、第一原理計算的な電子のバンド構造およびフォノンの分散関係(モデルデータ201)の算出において使用する計算アルゴリズム、散乱時間の電子エネルギー依存性および電子移動度の電子密度依存性(評価用データ202)の算出において使用する計算アルゴリズム、仮想フォノンの散乱強度パラメータの算出において使用する計算アルゴリズム、デバイス300の電流電圧特性のシミュレートにおいて使用する種々の計算アルゴリズムを、デバイス・シミュレーション・プログラム204内に保持している。

【0078】
さらに、本実施形態のデバイス・シミュレータ10によれば、
1.電子状態i,jの波動関数に関する空間積分が解析的に行える(数値計算が不要になる)。
2.フォノンモードの波数q依存性がなくなるため、グリーン関数の対角ブロックのみを計算すればよくなる(波数q依存性がある場合には、全ブロックの計算が必要)。
3.フォノン・エネルギーの間隔が等間隔であるため、装置内に保持しておく必要があるグリーン関数の数が低減され(外部記憶装置に保持させる必要がなくなる)。
といった効果があり、これらの効果もまた、計算の高速化に資するものである。
【符号の説明】
【0079】
1 ・・・ 演算部
2 ・・・ 記憶部
3 ・・・ 入力部
4 ・・・ 出力部
10 ・・・ デバイス・シミュレータ
101 ・・・ モデル生成部
102 ・・・ 仮想フォノンモード決定部
103 ・・・ シミュレータ部
201 ・・・ モデルデータ
202 ・・・ 評価用データ
203 ・・・ 仮想フォノン・データ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10A】
9
【図10B】
10
【図10C】
11
【図11A】
12
【図11B】
13
【図11C】
14
【図12A】
15
【図12B】
16
【図12C】
17
【図13】
18
【図14】
19
【図15】
20
【図16】
21
【図17】
22
【図18】
23