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明細書 :Ti-Ni系形状記憶合金の形状記憶処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-058710 (P2014-058710A)
公開日 平成26年4月3日(2014.4.3)
発明の名称または考案の名称 Ti-Ni系形状記憶合金の形状記憶処理方法
国際特許分類 C22F   1/10        (2006.01)
A61L  31/00        (2006.01)
C22C  19/03        (2006.01)
A61M  29/02        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22F 1/10 G
A61L 31/00 Z
C22C 19/03 A
A61M 29/02
C22F 1/00 623
C22F 1/00 625
C22F 1/00 630K
C22F 1/00 630L
C22F 1/00 640A
C22F 1/00 675
C22F 1/00 683
C22F 1/00 685Z
C22F 1/00 686B
C22F 1/00 691B
C22F 1/00 691C
C22F 1/00 694A
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2012-203352 (P2012-203352)
出願日 平成24年9月14日(2012.9.14)
発明者または考案者 【氏名】長 弘基
【氏名】佐久間 俊雄
出願人 【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100113918、【弁理士】、【氏名又は名称】亀松 宏
【識別番号】100172269、【弁理士】、【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
【識別番号】100140121、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 朝幸
【識別番号】100111903、【弁理士】、【氏名又は名称】永坂 友康
審査請求 未請求
テーマコード 4C081
4C167
Fターム 4C081AC06
4C081AC08
4C081BB08
4C081BB09
4C081CG03
4C081DA03
4C081EA02
4C167AA41
4C167AA53
4C167GG32
4C167HH01
要約 【課題】高性能のTi-Ni系形状記憶合金製部材を提供できる形状記憶熱処理方法を提供する。
【解決手段】Ti-Ni系形状記憶合金に形状記憶熱処理を施す方法であって、マルテンサイト相弾性変形領域から塑性変形領域の塑性破断直前までに至る歪を、冷間加工して付与しその後加熱するか、又は加熱しながら熱間加工して付与することを特徴とするTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
Ti-Ni系形状記憶合金に形状記憶熱処理を施す方法であって、マルテンサイト相弾性変形領域から塑性変形領域の塑性破断直前までに至る歪を、冷間加工して付与しその後加熱するか、又は加熱しながら熱間加工して付与することを特徴とするTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
【請求項2】
一回の前記冷間加工又は一回の前記熱間加工により付与する歪を10~15%にすることを特徴とする請求項1に記載のTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
【請求項3】
前記Ti-Ni系形状記憶合金は、Ti含有量が49~51at%、Ni含有量が51~49at%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、狭窄した血管を拡張させる自己拡張型SMAステントなどに適用されるTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、Ni-Ti系形状記憶合金は加工性、耐腐食性に優れ、また熱処理後の焼き入れが不要である点などから最も実用化が進んでいる。
最も利用されている感温作動素子では、繰り返し動作の良好性が利用されているが、特にアクチュエータや医療用ステントとして用いる場合には安定した繰り返し動作が必要である。
【0003】
そこで従来、Ti-Ni系形状記憶合金(SMA;Shape Memory Alloy)を各種の部材に適用する場合には、使用する際に目的の形状に固定し、その状態で400℃以上に加熱(熱処理)することで、その形状を記憶させる「形状記憶熱処理」工程が存在する。
【0004】
この形状記憶熱処理は、再結晶作用によって加工組織を一部消失させてしまうために、高温・長時間の熱処理や、繰り返し形状記憶熱処理を行うことで、形状記憶能力や機械的特性が劣化する場合が多々存在した。
【0005】
形状記憶合金を使用した応用例に、人体の管状の部分(血管、気管、食道、十二指腸、大腸、胆道など)を管腔内部から広げる医療機器として自己拡張型SMAステントがある。例えば血管用のステントは、バルーンカテーテルにより血管内を移送されて、目的の狭窄した血管位置において拡径して狭窄血管を拡径させその内壁に位置決めされ、拡径させた狭窄血管を内側から支えながら正常に脈動拡縮させるものでその位置に長期間留まることを要求される。
このため、予め形状記憶熱処理したステントをカテーテル内に収納の際の弾性変形(塑性変形は不可)可能な柔軟性(マルテンサイト変態誘起応力)、カテーテル内から血管内に挿出後の変形回復による狭窄血管の拡張機能、及び変形回復後に、血管内で脈動拡縮しながらその場に留まる留置性(繰り返し変形時のマルテンサイト誘起応力及び回復応力の安定性)が血管用ステントに要求される。
【0006】
このSMAステントの作製工程において、ニチノール等の形状記憶合金製のパイプをレーザによってメッシュ状に加工したものに、シース管を挿入し、内径を拡大した状態で熱処理を行う拡張熱処理がある。この拡張熱処理は目的の径に至るまで繰り返されるが、この過程で、形状記憶特性が劣化することが過去の研究により明らかにされている。これは、熱処理に伴う再結晶作用によって、加工組織の一部が消失することが原因である。
【0007】
形状記憶合金の形状記憶劣化防止法としては、Fe-Mn-Si合金系では、一般に、形状記憶熱処理を施す前又は後に、小歪を与えるトレーニングと称する加工を施すことが特許文献1,2等により公知である。
【0008】
さらに、生体安全性の高いTi-Ni系合金では、形状記憶熱処理を施した後に、歪付与トレーニングを行うことが特許文献3,4等で紹介されているが、形状記憶熱処理をする前の歪付与トレーニングについて述べた文献はない。
【0009】
また、この歪付与トレーニングにおいて付与される歪は、マルテンサイト変態領域に留まるものであって、その効果は小さいものである。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2003-277827号公報
【特許文献2】特開2003-105438号公報
【特許文献3】特開2002-180951号公報
【特許文献4】特開2002-275604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、Ti-Ni系形状記憶熱処理の過程で生じる形状記憶性能の劣化を低減し、形状記憶合金が本来有する形状記憶効果に伴う超弾性等の機械的性質の劣化も低減することで、ステントとして使用した場合の形状維持能力を向上すると共に、ステントの初期設置位置からのずれ等も低減できる高性能のステントを製造できる形状記憶合金におけるTi-Ni系形状記憶熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、Ti-Ni系形状記憶合金における形状記憶熱処理方法において、形状記憶熱処理前に、マルテンサイト相弾性変形領域から塑性変形領域に至る比較的大きな歪量を、冷間加工で付与した後に加熱するか又は加熱しながら熱間加工で付与することでこれらの形状記憶熱処理自体の繰り返し回数を低減することができ、これによって熱処理に伴う加工組織の減少を低減し、形状記憶特性や機械的性質の劣化を防ぐことができ、例えば血管用ステントとしての拡縮性能を大幅に向上することに成功したものであって、その要旨は以下に記載するとおりである。
【0013】
(1)Ti-Ni系形状記憶合金に形状記憶熱処理を施す方法であって、マルテンサイト相弾性変形領域から塑性変形領域の塑性破断直前までに至る歪を、冷間加工して付与し、その後加熱するか、又は加熱しながら熱間加工して付与することを特徴とするTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
【0014】
(2)一回の前記冷間加工又は一回の前記熱間加工により付与する歪を10~15%にすることを特徴とする前記(1)に記載のTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
【0015】
(3)前記Ti-Ni系形状記憶合金は、Ti含有量が49~51at%、Ni含有量が51~49at%であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のTi-Ni系形状記憶合金の形状記憶熱処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるTi-Ni系形状記憶熱処理方法によれば、Ti-Ni系形状記憶合金製部材として、血管拡張維持能力や初期設置位置停留性及び長寿命化が要求されるステント、或いは形状回復精度及び高い回復速度並びに長寿命化が要求される熱エンジン用の渦巻きばねSMAや精密機器に適用される各種アクチェータ等を提供することができる。
また、その他のTi-Ni系形状記憶合金製部材においても、形状記憶効果の他、超弾性等の機械的性質も良好に維持されるので、形状記憶合金からなる各種の部品における形状記憶熱処理方法に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】Ti-Ni系形状記憶合金の破断試験における応力歪曲線図である。
【図2】Ti-Ni系線材に10%歪を付与した場合の形状回復量試験結果を示す図である。
【図3】本発明により作成したTi-Ni系形状記憶合金線材を、所定温度で形状回復量試験を繰り返して行うひずみ振幅試験の結果を示す応力-歪曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、Ti-Ni系形状記憶合金を用いる意義は、Ti-Ni系形状記憶合金が周知のように加工性、耐腐食性に優れていることであり、これを有利に生かして本発明の形状記憶熱処理方法により安定した高い形状回復精度と長寿命効果がえられることである。
そこで、適用するTi-Ni系形状記憶合金の成分構成は、好ましくはTi含有量を49~51at%、Ni含有量を51~49at%とし、場合によっては形状回復歪みの劣化率を小さくし、かつ応答速度を速める働きがあるCu等を含有させてもよい。

【0019】
本発明により作成したTi-Ni系形状記憶合金製のステントは、挿入された血管内で血圧の変化に応じて、血管壁と共に拡張力と収縮力を作用して、血流を維持するための空間を確保すると共に、設置位置からの移動を阻止するものである。
そのため、予め挿入後の形状を記憶させるための拡張熱処理が必要となるが、従来の拡張熱処理で形状記憶合金に付与されていた歪量は、図1に示すように、0~8%程度であって、いわゆるオーステナイト相弾性変形領域からマルテンサイト変態(再配列)領域であった。

【0020】
これに対して、本発明における前記冷間加工とその後の加熱処理又は加熱処理中の熱間加工による加工歪量は、好ましくは10~15%とし、この加工歪量の付与は、図1に示すように、マルテンサイト相弾性変形領域から塑性変形領域の塑性破断直前までの領域で付与することを前記の二通りの加熱処理と共に数回繰り返すことによって、所望の加工組織を導入することを特徴としている。

【0021】
この大きな歪量を加熱処理前或いは加熱処理と同時に付与することによって、従来法の拡張熱処理と比較して、初期状態から拡張熱処理後に減少する加工組織の減少分を低減することができるため、形状記憶特性の劣化や超弾性に代表される機械的特性の劣化を防ぐことが可能となった。

【0022】
さらに、1回の形状記憶処理で付与する歪量をマルテンサイト相弾性変形領域から塑性変形領域の塑性破断直前までの領域で増大させることで、目的の形状に至るまでの加工と加熱のトレーニングの回数自体を低減させることができるため、より形状回復性能の低下を防止することができる。
【実施例1】
【0023】
図2に、従来の方法、すなわち、付与歪4%下で500℃-1.8ks(1800sec)拡張熱処理を10回行ったTi-50.4at%Ni線材(1mmφ)の形状回復量試験結果(点線)と、本発明方法、すなわち、付与歪13.3%下で500℃-1.8ks拡張熱処理を3回行ったTi-50.4at%Ni線材(1mmφ)の形状回復量試験結果(実線)を示す。
【実施例1】
【0024】
拡張熱処理によって、双方の線材は、初期長さから約40%の拡張(伸長)が行われている。実験は、体温を想定して310K(37℃)で行った。
【実施例1】
【0025】
その結果、従来の方法では塑性歪量(回復不能な歪量)が4%(横軸と点線の接点)であったのに対し、本発明による方法では、塑性歪量が2%に留まり、従来法の1/2に減少した。
【実施例1】
【0026】
双方の逆変態終了温度を調べたところ、ほとんど同じ温度であったことが確認されていることから、本発明方法による熱処理によって、材料そのものに塑性歪が導入されにくくなり、回復量が増大していることを確認することができる。
【実施例1】
【0027】
Ti-Ni形状記憶合金製ステントは、血管内に導入される際に、カテーテル内部に収納されるが、その収納時に約10%の歪が付与されるため、そこからの形状回復量は極めて重要であり、本発明を採用することで、形状回復量の大幅な向上が見込まれる。
【実施例1】
【0028】
図3は、図2によって説明した従来法と本発明による方法で作成したTi-Ni形状記憶合金製ステント試料に対して、1~3%の歪量範囲で1000サイクルの振幅試験を行った形状回復量試験結果を示す。
図3(a)が4%歪を付与した従来例、図3(b)が13.3%歪を付与した本発明例である。
【実施例1】
【0029】
この試験は、ステントがカテーテル内から取り出され、血管内に留置された後に、ステントが、繰り返し受ける血管内の脈動による拡縮変形がどのように変化していくのかを調べるために行われた。
【実施例1】
【0030】
図3(a)に示す従来法によって作製された試料のステントの場合、繰り返し拡縮変形によって応力が低下し、特に形状回復時の応力低下により塑性歪量が増大していく傾向(歪量を1%に戻した際に、応力が0になっても戻りきれずに1%超の歪量が増大する傾向)が見て取れる。
【実施例1】
【0031】
一方、図3(b)で示す本発明法によって作製された試料のステントの場合、繰り返し拡縮変形により、初期サイクル時のみに変形時の応力の低下が見られるものの、以降1000サイクル目までも安定しており、さらに、形状回復時の応力は、初期サイクル時からほぼ変化しないことがわかる。
【実施例1】
【0032】
その他の具体例を表1に紹介する。
表1において、形状記憶処理パターンAは冷間加工で付与した後に加熱する処理を、形状記憶処理パターンBは加熱しながら熱間加工で付与する処理を言う。
形状回復量試験は、3%歪振幅試験(1000サイクル)結果の形状回復時の応力と歪を記載した。
【実施例1】
【0033】
【表1】
JP2014058710A_000003t.gif

【産業上の利用可能性】
【0034】
以上の結果から、本発明による形状記憶熱処理を行ったSMAステントは、従来法により作製されたステントと比較して、初期の良好な特性を長く維持できると考えられる。
また、ステント以外にも、本発明による形状記憶熱処理方法を採用すれば、形状記憶合金の形状記憶性能が向上し、その劣化の程度も大幅に低減されるので、ステント以外の繰り返し変形や応力変化を受ける形状記憶合金製機械部品等の形状記憶熱処理方法にも適用できるものであり、その利用可能性は大なるものがある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2