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明細書 :無線通信システム、中継局装置および無線通信方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5240711号 (P5240711)
公開番号 特開2010-016721 (P2010-016721A)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月17日(2013.7.17)
公開日 平成22年1月21日(2010.1.21)
発明の名称または考案の名称 無線通信システム、中継局装置および無線通信方法
国際特許分類 H04W  84/18        (2009.01)
H04B   7/15        (2006.01)
H04W  76/02        (2009.01)
FI H04W 84/18
H04B 7/15 Z
H04W 76/02 110
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2008-176291 (P2008-176291)
出願日 平成20年7月4日(2008.7.4)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成20年2月27日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.107 No.518」に発表
審査請求日 平成23年5月25日(2011.5.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】杉山 隆利
【氏名】梅原 大祐
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100108453、【弁理士】、【氏名又は名称】村山 靖彦
審査官 【審査官】小林 正明
参考文献・文献 国際公開第2006/071187(WO,A2)
特表2008-527795(JP,A)
特開2008-211472(JP,A)
国際公開第2009/090877(WO,A1)
特開2009-206778(JP,A)
調査した分野 H04W 84/18
H04B 7/15
H04W 76/02
特許請求の範囲 【請求項1】
無線局間のパケット中継を行う中継局装置と、互いに電波が到達不可能で前記中継局装置を介してパケットの送受信を行う前記無線局とを備えた無線通信システムであって、
前記中継局装置は、
前記中継局装置のバッファに存在するパケットの宛先と数量に応じて前記パケットを送信する際に、前記バッファに存在する異なる宛先の前記パケット同士で排他的論理和の演算処理を行うか否かを選択し、前記演算処理で得られたパケットを、前記演算処理を施すことなくそのまま転送するパケットの送信確率よりも高い値に定められた送信確率で送信すること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
無線局間のパケット中継を行う中継局装置と、互いに電波が到達不可能で前記中継局装置を介してパケットの送受信を行う前記無線局とを備えた無線通信システムであって、
前記中継局装置は、
前記無線局から受信したパケットをバッファリングする送信バッファ部と、
異なる2つの前記無線局宛のパケットが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの前記無線局宛のパケットだけが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットとして生成して、前記コーディングパケットの送信確率を前記ネイティブパケットの送信確率よりも高い値としてパケット配信を行う送信制御部と、を備え、
前記無線局は、
前記中継局装置に送信したパケットをバッファリングするバッファ部と、
前記中継局装置から受信したパケットが、コーディングパケットの場合に当該コーディングパケットと前記バッファリング部に前記バッファリングしていた前記送信したパケットとの排他的論理和の演算を行ったパケットを取り出し、前記ネイティブパケットの場合に前記受信したパケットをそのまま取り出す受信パケット生成部と、を備える
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
前記送信確率は予め定められた値とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記送信確率は通信中のパケット数に応じて更新される値とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
互いに電波が到達不可能な無線局間のパケット通信を中継する無線通信システムで用いられる中継局装置であって、
前記無線局から受信したパケットをバッファリングする送信バッファ部と、
異なる2つの前記無線局宛のパケットが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの前記無線局宛のパケットだけが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットとして生成して、前記コーディングパケットの送信確率を前記ネイティブパケットの送信確率よりも高い値としてパケット配信を行う送信制御部と、
を備えることを特徴とする中継局装置。
【請求項6】
無線局間のパケット中継を行う中継局装置と、互いに電波が到達不可能で前記中継局装置を介してパケットの送受信を行う前記無線局とを備えた無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記中継局装置による、
異なる2つの前記無線局宛のパケットを受信してバッファリングされている場合に、前記パケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの前記無線局宛のパケットだけを受信してバッファリングされている場合に、前記パケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットを生成し、前記コーディングパケットの送信確率を前記ネイティブパケットの送信確率よりも高い値でパケット配信を行う送信制御過程と、を備え、
前記無線局による、
前記中継局装置に送信したパケットをバッファリングするバッファ過程と、
前記中継局装置から受信したパケットが、コーディングパケットの場合に前記バッファリングしていた前記送信したパケットとの排他的論理和の演算を行ってパケットを取り出し、前記ネイティブパケットの場合に前記受信したパケットをそのまま取り出す受信パケット生成過程と、を備える
ことを特徴とする無線通信方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばランダムアクセスプロトコルを用いた無線通信システム、中継局装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムでは、半導体技術及び集積回路技術の発展に伴い、デジタル信号処理技術を元にした携帯電話のセルラーシステムや無線LANシステムが実現されてきた。これらの無線通信システムでは、無線端末がセルラーシステムの基地局や無線LANシステムのアクセスポイント(AP:Access Point)に1ホップでアクセスする構成で実現されてきた。
このような無線通信システムでは、デジタルデバイドの解消や、より高速な通信の実現に向けて、高周波化・広帯域化が進められている。そのなかで、現状の無線通信システムと同じ1ホップでアクセスする構成では、送信局に対してさらに高い送信電力が要求されるため、各無線局の送信電力の軽減を目的として中継局装置を有するマルチホップ無線通信ネットワークの研究開発が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
マルチホップ無線通信ネットワークを実現するにあたり、中継局装置(中継ノードともいう)において複数のあて先へのデータをコーディング処理することにより送信するパケット数を低減することができるネットワークコーディング技術が注目されている。「ネットワークコーディング」とは、ネットワーク内の中継ノードを経由する複数コネクションのデータに対し、その中継ノードにおいてコーディング処理することを意味するものである。そのネットワークコーディング技術を利用することにより、1対多マルチキャスト通信というフレームワークにおいて、フローを最大化できることが開示されており、ほかにも多くの研究がなされている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
無線通信ネットワークにおいて、無線媒体の同報性を利用した隣接ノードのパケットを傍受(overhear)することによるOpportunistic Listeningと複数ユニキャストにおけるネットワークコーディングを組み合わせることが提案されている。
また、無線LANへの実装への動きは急速で、シンプルなパケット同士の排他的論理和(以下、排他的論理和をXOR(Exclusive OR)という)に基づくネットワークコーディングを無線LANシステムへ実装する手法が検討されている(例えば、非特許文献3参照)。
しかしながら、ネットワークコーディングを適用した際の最適なマルチホップ無線通信システムの実現手法は、まだ確立されていない状況にある。

【非特許文献1】F.A.Tobagi," Analysis of a two-hop centralized packet radio network‐Part I:Slotted ALOHA, "IEEE Trans. Commun., vol.COM-28, no.2, p.196-207, Feb.1980.
【非特許文献2】R.Ahlswede et al, "Network information flow, " IEEE Trans. Inform. Theory, vol.46, no.4, p.1204-1216, July 2000.
【非特許文献3】S.Katti et al, " XOR′s in the air:Practical wireless network coding," Proc. ACM SIGCOMM 2006, p.243-254, Sep.2006.
【非特許文献4】D.Bertsekas and R.Gallager," Data Networks Second Edition," Prentice Hall, 1992.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ネットワークコーディングを2ホップ中継無線通信システムに適用した場合のシステムが提案されている。
図7は、ネットワークコーディングを適用する通信システム200のブロック図である。図示された通信システム200は、2ホップ中継Slotted ALOHAシステムである。通信システム200において2ホップ中継Slotted ALOHAシステムは、中継ノードRと、中継ノードRに接続され中継ノードRと通信する2つのノードAとノードBを備える。
ノードAは、パケットを送受信するノードであり、ノードBに送付するトラフィックGのパケットaを送信する。ノードBは、パケットを送受信するノードであり、ノードAに送付するトラフィックGのパケットbを送信する。
中継ノードRは、ノードAとノードBからのパケットを中継する中継ノードである。このノードAとノードBは、互いに直接通信せず中継ノードRを経由して通信する。
【0006】
最初に、ノードAとノードBのネットワークコーディングのエンコード処理について説明する。ノードAとノードBでは自身が送信したパケットを格納するバッファを有している。また、中継ノードRは、中継するために受信したパケットを格納する物理的なバッファの他に、隣接するノードAとノードBのそれぞれに対応する仮想的なバッファ(以下、「バーチャルバッファ」という)を有している。ノードAに対応するバーチャルバッファには、物理的なバッファ内に存在するノードAを宛先とするパケットのポインタを格納する。同様に、ノードBに対応するバーチャルバッファにはノードBを宛先とするパケットのポインタを格納する。
中継ノードRはバッファにパケットが格納されているときに、定められた送信確率にしたがい転送を行う。その中継ノードRのバッファに格納されているパケットにしたがって、バーチャルバッファにはポインタが格納される。いずれかのバーチャルバッファが空いている場合は、パケットはそのまま転送される。双方のバーチャルバッファにそれぞれに1つ以上のパケットが存在する場合は、両バーチャルバッファの先頭パケットをXORの演算を行ったパケットが転送される。ここで、宛先ノードが異なる2つ以上のパケットをXORの演算を行う処理がネットワークコーディングのエンコード処理である。
【0007】
次に、ノードAとノードBのネットワークコーディングのデコード処理について説明する。ノードAからノードBへのパケットaと、ノードBからノードAへのパケットbが中継ノードRに向けてそれぞれ送信される。中継ノードRは、XORパケット(a*b)を生成し、生成されたXORパケット(a*b)をブロードキャストし、ノードAとノードBの双方でそのパケットを受信する。「*」は、XORの演算を示す演算子を示し、「(a*b)」は、パケットaとパケットbのXORの演算によって導かれたパケットを示す。ノードAでは自身が送信したパケットaと中継ノードRから転送されたパケット(a*b)を有する。ネットワークコーディングのデコード処理では、この2つのパケットをXORの演算を行う処理であり、XORの演算を行うことでノードBからノードAへのパケットbを得る。すなわち、(a*(a*b))の演算処理によりパケットbが導かれる。同様に、ノードBではデコード処理によりパケットaを得る。中継ノードからブロードキャストされて受信したXORパケット(a*b)と、中継ノードに送信したパケットデータの控えデータを利用してXORの演算を行って、再生する処理がネットワークコーディングのデコード処理である。
【0008】
しかしながら、前述したシステムでは、中継局装置における送信制御手法については検討されておらず、システムのスループットに関しても十分な性能を得ることができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、システムスループットを向上させるための無線通信システム、中継局装置および無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明は、無線局間のパケット中継を行う中継局装置と、互いに電波が到達不可能で前記中継局装置を介してパケットの送受信を行う前記無線局とを備えた無線通信システムであって、前記中継局装置は、前記中継局装置のバッファに存在するパケットの宛先と数量に応じて前記パケットを送信する際に、前記バッファに存在する異なる宛先の前記パケット同士で排他的論理和の演算処理を行うか否かを選択し、前記演算処理で得られたパケットを、前記演算処理を施すことなくそのまま転送するパケットの送信確率よりも高い値に定められた送信確率で送信することを特徴とする無線通信システムである。

【0011】
また、本発明は、無線局間のパケット中継を行う中継局装置と、互いに電波が到達不可能で前記中継局装置を介してパケットの送受信を行う前記無線局とを備えた無線通信システムであって、前記中継局装置は、前記無線局から受信したパケットをバッファリングする送信バッファ部と、異なる2つの前記無線局宛のパケットが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの前記無線局宛のパケットだけが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットとして生成して、前記コーディングパケットの送信確率を前記ネイティブパケットの送信確率よりも高い値としてパケット配信を行う送信制御部と、を備え、前記無線局は、前記中継局装置に送信したパケットをバッファリングするバッファ部と、前記中継局装置から受信したパケットが、コーディングパケットの場合に当該コーディングパケットと前記バッファリング部に前記バッファリングしていた前記送信したパケットとの排他的論理和の演算を行ったパケットを取り出し、前記ネイティブパケットの場合に前記受信したパケットをそのまま取り出す受信パケット生成部と、を備えることを特徴とする無線通信システムである。
【0012】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記送信確率は予め定められた値とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記送信確率は通信中のパケット数に応じて更新される値とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、互いに電波が到達不可能な無線局間のパケット通信を中継する無線通信システムで用いられる中継局装置であって、前記無線局から受信したパケットをバッファリングする送信バッファ部と、異なる2つの前記無線局宛のパケットが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの前記無線局宛のパケットだけが前記送信バッファ部に存在する場合に前記パケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットとして生成して、前記コーディングパケットの送信確率を前記ネイティブパケットの送信確率よりも高い値としてパケット配信を行う送信制御部と、を備えることを特徴とする中継局装置である。
【0015】
また、本発明は、無線局間のパケット中継を行う中継局装置と、互いに電波が到達不可能で前記中継局装置を介してパケットの送受信を行う前記無線局とを備えた無線通信システムにおける無線通信方法であって、前記中継局装置による、異なる2つの前記無線局宛のパケットを受信してバッファリングされている場合に、前記パケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの前記無線局宛のパケットだけを受信してバッファリングされている場合に、前記パケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットを生成し、前記コーディングパケットの送信確率を前記ネイティブパケットの送信確率よりも高い値でパケット配信を行う送信制御過程と、を備え、前記無線局による、前記中継局装置に送信したパケットをバッファリングするバッファ過程と、前記中継局装置から受信したパケットが、コーディングパケットの場合に前記バッファリングしていた前記送信したパケットとの排他的論理和の演算を行ってパケットを取り出し、前記ネイティブパケットの場合に前記受信したパケットをそのまま取り出す受信パケット生成過程と、を備えることを特徴とする無線通信方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無線通信システムは、中継局装置のバッファに存在するパケットの宛先と数量に応じて前記パケットを送信する際に、前記バッファに存在する異なる宛先の前記パケット同士で排他的論理和の演算処理を行うか否かを選択し、前記演算処理で得られたパケットを定められた送信確率で送信することとする。
これにより、中継局装置がパケットを中継する際に、排他的論理和の演算処理によって生成され通信効率を高くできるパケットの送信確率を高く設定し、そのパケットを優先させて送信することにより、無線通信システムとしての通信効率を高くすることができる。また、中継局装置の送信制御手法を規定することにより、無線通信システムの通信効率を制御することができ、スループットを向上させることが可能となる。
【0017】
また、本発明によれば、中継局装置は、送信バッファ部が受信したパケットをバッファリングする。送信制御部が、異なる2つの無線局宛のパケットが送信バッファ部に存在する場合にパケット同士の排他的論理和の演算を行ったコーディングパケットを生成し、1つの無線局宛のパケットだけが送信バッファ部に存在する場合にパケットをそのまま転送するネイティブパケットとするパケットとして生成して、コーディングパケットの送信確率をネイティブパケットの送信確率よりも高い値とする送信確率に基づいてパケット配信を行う。また、無線局は、バッファ部が、中継局装置に送信したパケットをバッファリングする。受信パケット生成部が、中継局装置から受信したパケットがコーディングパケットの場合にバッファリングしていた送信したパケットとの排他的論理和の演算を行ったパケットを取り出し、ネイティブパケットの場合に受信したパケットをそのまま取り出す。
これにより、中継局装置においてネットワークコーディングが可能な場合と不可能な場合の送信確率を明確化して、ネットワークコーディング処理による遅延特性の悪化を避けながら、システムのスループットを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態による無線通信システム100を示す概略ブロック図である。
この図を参照し、2ホップ中継Slotted ALOHAシステムとしての無線通信システム100について説明する。
【0019】
無線通信システム100は、中継ノードR10と、無線通信回線を介して中継ノードR10に接続される2つのノードA20とノードB30を備える。
無線通信システム100におけるノードA20は、無指向性のアンテナを備え無線通信回線でパケットを送受信する通信ノードであり、ノードB30に送付するトラフィックGのパケットaを送信する。ノードB30は、無指向性のアンテナを備え無線通信回線でパケットを送受信する通信ノードであり、ノードA20に送付するトラフィックGのパケットbを送信する。
中継ノードR10は、ノードA20とノードB30から送付されるパケットを中継する中継ノードである。ノードA20とノードB30は互いに直接通信は行わず、中継ノードR10を経由して通信する。また、ノードA20とノードB30から送信されるパケットの送信において、互いに共に干渉しない。
【0020】
図を参照し中継ノードR10におけるネットワークコーディングについて説明する。
図2(a)は、無線通信システム100のバッファ配置を示すブロック図である。
中継ノードR10は、通信バッファA12と通信バッファB13、および通信バッファA12と通信バッファB13を制御する送信制御回路11を備える。
中継ノードR10において通信バッファA12は、ノードB30から受信しノードA20に送信するためのパケットが格納されるバッファである。通信バッファB13は、ノードA20から受信しノードB30に送信するためのパケットが格納されるバッファである。
また、中継ノードR10は、中継するために受信したパケットを格納する物理的なバッファである通信バッファA12と通信バッファB13の他に、物理的なバッファに対応する仮想的なバッファ(以下、「バーチャルバッファ」という)を有している。ノードAに対応するバーチャルバッファには、通信バッファA12内に存在するノードAを宛先とするパケットのポインタを格納する。同様に、通信バッファB13に対応するバーチャルバッファにはノードBを宛先とするパケットのポインタを格納する。
送信制御回路11は、ノードB30から受信しノードA20に送付するためのパケットを通信バッファA12に、ノードA20から受信しノードB30に送付するためのパケットを通信バッファA12に格納する。送信制御部11が、通信バッファA12または通信バッファB13にパケットが格納されているとき、送信確率にしたがい転送を行う。送信制御部11が送信するときの処理は、それぞれのバッファにパケットが格納されているか、否かによって送信処理が異なる。
【0021】
ノードA20は、受信制御回路21、通信バッファA22を備える。ノードA20における通信バッファA22は、中継ノードR10に送信したパケットを記憶する。受信制御回路21は、中継ノードR10から受信したパケットがネットワークコーディングされたパケットであるときには、通信バッファA22を参照し、記憶されているパケットと受信したパケットとの排他的論理和の演算処理を行った結果を出力する。
また、受信したパケットがネットワークコーディングされていないパケットであるときには、受信したパケットをそのまま出力する。
【0022】
ノードB30は、受信制御回路31、通信バッファB32を備える。ノードB30における通信バッファB32は、中継ノードR10に送信したパケットを記憶する。受信制御回路31は、中継ノードR10から受信したパケットがネットワークコーディングされたパケットであるときには、通信バッファB32を参照し、記憶されているパケットと受信したパケットとの排他的論理和の演算処理を行った結果を出力する。
また、受信したパケットがネットワークコーディングされていないパケットであるときには、受信したパケットをそのまま出力する。
【0023】
図2(b)は、送信バッファA12の双方に送信すべきパケットが格納されている状態を示す図である。
送信バッファA12には、送信する順にパケットa1、パケットa2が格納されているが、送信バッファB13には、送信するパケットは格納されていない。図に示されるように、いずれかのバーチャルバッファが空いている場合は、送信確率E∈[0,1]にしたがいパケットa1がそのまま転送される。
【0024】
図2(c)は、送信バッファA12と送信バッファB13の双方に送信すべきパケットが格納されている状態を示す図である。
送信バッファA12には、送信する順にパケットa1、パケットa2が格納されている。送信バッファB13には、パケットb1が格納されている。
図に示されるように、双方のバーチャルバッファにそれぞれに1つ以上のパケットが存在する場合は、両バーチャルバッファの先頭パケットをXORの演算を行ったパケットが送信確率F∈(0,1]にしたがい転送される。宛先ノードが異なる2つ以上のパケットをXORの演算を行う処理がネットワークコーディングのエンコード処理である。
【0025】
上記に示されたようにネットワークコーディングのエンコード処理を施されて送信されたパケットは、中継ノードR10の送信先であるノードA20とノードB30において、復元させる処理、すなわちネットワークコーディングのデコード処理を施すことが必要になる。
ノードA20とノードB30で処理されるネットワークコーディングのデコード処理について説明する。ノードA20からノードB30へのパケットaと、ノードB30からノードA20へのパケットbが中継ノードR10に向けてそれぞれ送信される。中継ノードR10は、XORパケット(a*b)を生成し、生成されたXORパケット(a*b)をブロードキャストする。ブロードキャストされたXORパケット(a*b)を、ノードA20とノードB30の双方でそのパケットを受信する。「*」は、XORの演算を示す演算子を示し、「(a*b)」は、パケットaとパケットbのXORの演算によって導かれたパケットを示す。ノードA20では自身が送信したパケットaと中継ノードR10から転送されたパケット(a*b)を有する。ネットワークコーディングのデコード処理は、この2つのパケットをノードA20とノードB30のそれぞれでXORの演算を行う処理であり、XORの演算を行うことでノードB30からノードA20へ送信されるパケットbを得る。すなわち、(a*(a*b))の演算処理によりパケットbが導かれる。同様に、ノードB30ではデコード処理によりパケットaが導かれる。中継ノードR10からブロードキャストされて受信したXORパケット(a*b)と、中継ノードR10に送信したパケットデータの控えデータを利用してXORの演算を行って、再生する処理がネットワークコーディングのデコード処理である。
【0026】
中継ノードR10における中継するパケットを格納するためのバッファについて説明する。中継ノードR10のバッファ、すなわち、送信バッファA12と送信バッファB13とを合わせた全バッファは、M個のパケットを一時的に保持することができる容量を有し、Mパケットまでのパケットを同時に格納することを可能とする。ただし、バッファ容量を示すMは、M∈[1,∞]で示される(「[s,t]」は、s以上t以下の整数を表す)。なお、中継ノードR10が備えるバッファは、FIFO(First In First Out)のキューを想定する。
ノードA20からノードB30への通信では、送信確率にしたがったトラフィックが発生し、同様にノードB30からノードA20への通信では、同じく送信確率にしたがったトラフィックが発生する。中継ノードR10は、自らのトラフィックを発生しないものと仮定し、中継ノードR10のバッファ内にパケットの状態に合わせた送信確率にしたがってパケットを転送する。
【0027】
無線通信システム100におけるMAC(Medium Access Control)方式は、Slotted ALOHA方式とする。すなわち、各送信パケットは固定長であり、各送信パケットが送信されるために1スロットを要する。
各ノードからのパケットの送信は、このスロットに同期して行われる。送信された各パケットの受信は、あるスロットで開始され同じスロットの時間内、すなわち、次のスロットが開始する前までに終了する。中継ノードR10が2つのノードからパケットを同じスロットで受信するとき、または、通信可能な1つ以上のノードからパケットを受信するスロットでそのノード自身がパケットを送信するとき、衝突(Collision)が生じる。衝突が生じたときには、そのパケットを受信するノードは、送られてきたパケットに関しての情報を得ることができない。一方、パケットの衝突がない場合には、パケットは正常に受信されるものと仮定する。
また、各スロットの終わりには、RTT(Round Trip Time)前のスロットでパケットを送信したノードは、その宛先ノードがパケットを正常に受信した場合に受信応答信号(以下、受信応答信号についてACK(ACKnowledgement)という)を受け取る。ACKを受け取らなければ、送信ノードはパケットが衝突したと判断する。
【0028】
以下、無線通信システム100におけるノードA20とノードB30間のスループット、ノードA20とノードB30における正常にパケットを受信するのに要した送信パケット数、および、中継ノードR10を経由したパケットの伝送遅延について説明する。その説明では、中継ノードR10のバッファ内に存在するパケットの振る舞いについてマルコフ連鎖を用いた解析により導き出された結果を示す。
送信ノードとなるノードA20またはノードB30から送信されたパケットが衝突することにより中継ノードR10がそのパケットを受信できなかった場合には、送信ノードは衝突して受信できなかったパケットをパケット発生のトラフィックにしたがって再送する。再送されるパケットが送信ノードから再送されるまでの間に、新規に発生したパケットは廃棄されるものとする。これにより、中継ノードR10を経由したパケットの伝送遅延の解析が簡略化される。
【0029】
一方、中継ノードR10は、受信ノードからACKを受信できなかった場合において、ACKを受信できなかったパケットを送信バッファの先頭に配置し、同じ送信確率にしたがって受信ノードに向けて再送を行う。ノードA20でのパケットの送信確率をG∈[0,1]、ノードB30でのパケットの送信確率をG∈[0,1]とする。ノードA20とノードB30における再送パケットはそれぞれの送信確率GとGを持ち、パケット再送の間の新規パケットは廃棄されるため、送信確率GとGがそれぞれノードA20とノードB30のトラフィックを表す。
ここで示される2ホップ中継Slotted ALOHAシステムは、無線メッシュネットワーク、無線アドホックネットワーク、無線センサーネットワーク、衛星通信ネットワークなど媒体を共有するネットワークにおいて適用できる。
なお、以下の解析においては、システムにおける処理遅延、及び、物理的な伝搬遅延はパケット長に対して無視できる程度に小さいと仮定する。すなわち、あるスロットで送信されたパケットは同じスロット内で受信される。したがって、再送遅延を含むアクセス遅延は中継ノードR10を経由するため2以上となる。伝送遅延はアクセス遅延と待ち行列遅延の足し合わせであり、2以上の値をとる。また、ノードA20、ノードB30、中継ノードR10は移動しないと仮定する。すなわち、固定の無線基地局をノードとしてそのノード間を無線回線で中継する無線中継システムであり、構成されるネットワークとしては、無線メッシュネットワークを想定し説明する。
【0030】
(性能解析)
次に、対象とする無線通信システム100の性能解析について説明する。
ノードA20とノードB30のトラフィックは偏りがなく同一とし、システム全体のトラフィックG∈[0,2]を用いることにより、送信確率を用いてG=G=G/2と記述される。
次の3つの対象について性能解析を行う。その対象は、ノードA20とノードB30間のスループット、ノードA20とノードB30における正常にパケットを受信するのに要した送信パケット数、および、中継ノードR10を経由したパケットの伝送遅延である。これらは中継ノードR10のバッファ内のパケット数に基づく状態解析により導き出すことができる。
【0031】
最初に、解析に用いる離散時間マルコフ連鎖理論(「非特許文献4」参照)について説明する。状態の集合を集合S={n}と示す。集合S内の状態を確率変数にとる離散確率過程{X|k∈[0,∞]}と示す。現在の状態Xが過去の状態Xk-1にのみ依存するとき、その確率過程をマルコフ連鎖と呼ぶ。
時点kにおける過去の状態n∈Sから現在の状態mに遷移する確率をp(n,m)で示す。また、定常遷移確率を式(1)で示す。
【0032】
【数1】
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【0033】
時点kにおける状態nの確率をP(n)で示し、その定常確率を式(2)で示す。
【0034】
【数2】
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【0035】
以降では、定常確率のみを対象とし、エルゴード性を仮定する。
ある時点からN時点経過した定常遷移確率は、式(3)で定義される。
【0036】
【数3】
JP0005240711B2_000004t.gif
式(3)において、あるNとN’について、式(4)かつ式(5)であるとき、2状態nとmは通信するという。
【0037】
【数4】
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【0038】
【数5】
JP0005240711B2_000006t.gif

【0039】
全ての状態が通信する状態であるとき、マルコフ連鎖は既約(irreducible)であるという。状態nに対してNがdの倍数であるとき以外に式(6)となるような整数d≧2が存在しない場合、マルコフ連鎖は非周期的(aperiodic)であるという。
【0040】
【数6】
JP0005240711B2_000007t.gif

【0041】
次に、ネットワークコーディングを適用する場合について説明する。
ネットワークコーディングを適用する無線通信システム100の条件を次に示すように定める。M個のバッファ容量を備える中継ノードR10のいずれかのバーチャルバッファが空いている場合は、送信確率E∈[0,1]にしたがいパケットはそのまま転送される。双方のバーチャルバッファにそれぞれに1つ以上のパケットが存在する場合は、両バーチャルバッファの先頭パケットをXORの演算を行ったパケットを送信確率F∈(0,1]にしたがい転送される。このときのネットワークコーディング(NC:Network Coding)する無線通信システム100について、[M,F,ENCシステムとして示す。
【0042】
時点kにおけるノードA20とノードB30のバーチャルバッファ内のパケット数をそれぞれAとBで示す。そのパケット数で示される2次元確率過程R=(A,B)について、[M,F,ENCシステムの状態集合Sを式(7)に示す。
【0043】
【数7】
JP0005240711B2_000008t.gif

【0044】
式(7)において、状態集合S以外の状態への確率遷移は起こらないように必要であれば中継ノードR10の動作を規定する。
また、以下の解析を容易にするための仮定を行う。その仮定は、E=F、すなわちネットワークコーディングができない場合でもできる場合でも中継ノードR10からの送信確率を同じとし、中継ノードR10のバッファ容量は、無限大のバッファ長M=∞を有するものと仮定する。この仮定から[M,F,FNCシステムと示すことができる。
【0045】
図3は、確率過程Rのマルコフ連鎖を示す。図示される状態遷移確率は、それぞれ式(8)~式(12)で与えられる。
【0046】
【数8】
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【0047】
【数9】
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【0048】
【数10】
JP0005240711B2_000011t.gif

【0049】
【数11】
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【0050】
【数12】
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【0051】
状態(n,m)に対する定常確率をP(n,m)で示す。ノードA20に対するバーチャルバッファ内のパケット数nに関する定常周辺確率をP(n)で示す。同様に、ノードB30に対するバッファ内のパケット数mに関する定常周辺確率をP(m)で示す。ノードA20とノードB30は、互いに独立してパケット生起を行うため、式(13)で示されるように近似することができる。
【0052】
【数13】
JP0005240711B2_000014t.gif

【0053】
ただし、式(13)において、ネットワークコーディングが適用されるため、実際には独立ではない。次の定理が成立する。
[定理3.1]
状態(0,0)に関する定常確率P(0,0)は、式(14)として近似することができる。
【0054】
【数14】
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【0055】
式(14)において、ρ=λ/μ=(1-F)G/2Fである。
このとき、[M,F,F]NCシステムのスループットSは、式(15)で与えられる。
【0056】
【数15】
JP0005240711B2_000016t.gif

【0057】
[証明]
最初に周辺確率P(n)に注目する。周辺確率P(n)のマルコフ連鎖は出生死滅システムとなる。その遷移確率はn∈[1,∞]に対してpn,n+1=λ、および、pn-1,n=μとなる。一方、定常遷移確率p0,1は、式(16)で示される。
【0058】
【数16】
JP0005240711B2_000017t.gif

【0059】
この出生死滅システムを解くことにより、式(17)が導かれる。
【0060】
【数17】
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【0061】
さらに、定常確率P(n)が存在するためには、式(18)を満足する必要がある。
【0062】
【数18】
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【0063】
結合確率P(0,0)は、P(0,0)=P(0)より導かれる方程式の式(19)を解くことにより、前述の式(14)を得ることができる。
【0064】
【数19】
JP0005240711B2_000020t.gif

【0065】
図3に示されるように、n,m≧1に対して、状態(n,0),(0,m)から確率μにて1パケットが受信され、状態(n,m)から確率2μにて1パケット、確率μで2パケットが受信される。したがって、スループットSは、式(20)で示される。
【0066】
【数20】
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【0067】
式(20)に、式(17)を代入することで、スループットの式(15)が導かれる(証明終)。
【0068】
中継ノードR10のバッファが発散しないために式(18)を満足する範囲では、スループットの式(15)から中継ノードR10の送信確率Fが小さいほどスループットSを大きくする。したがって、[M,F,FNCシステムにおけるスループットを最大化させるためには、十分小さな正の実数δ>0に対して中継ノードR10の送信確率をF=G/(2+G)+δとすればよい。
【0069】
図4を参照し、トラフィックGに対するスループットSの特性を説明する。
このグラフの横軸はトラフィックGを示し、縦軸はスループットSを示す。この図に示されるグラフSは、ネットワークコーディングを適用した[M,F,FNCシステム(F=G/(2+G)+δ)のスループットを示す。また、グラフSは、送信確率をE=F=0.6とするネットワークコーディングを適用した[M,0.6,0.6]NCシステムのスループットを示す。グラフSは、ネットワークコーディングなしの[M,1.0]NNCシステムのスループットを示す。「NNC」は、ネットワークコーディングなしを示す。
それぞれのグラフのスループット特性について、比較して説明することとする。
ネットワークコーディングを行うグラフS、Sに示されるスループット特性は、ネットワークコーディングが行われないグラフSに示されるスループット特性に比べ全領域で高いスループットが示される。
また、グラフSで示される特性は、トラフィックに応じて送信確率の値を変化させたときのスループット特性であり、パケットの送信確率を固定値(E=F=0.6)としたグラフSで示される特性より、高いスループットが示される。
【0070】
[M,F,FNCシステムにおいて、正常にパケットが宛先ノードに受信されるまでに送信ノードからの平均パケット数は、式(21)で示される。
【0071】
【数21】
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【0072】
[M,F,FNC システムにおいて、中継ノードR10内のシステム遅延について考察する。中継ノードR10のバッファ内にある平均パケット数Nは、式(22)として導かれる。
【0073】
【数22】
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【0074】
一方、中継ノードR10へのパケット到着率λは、式(23)として導かれる。
【0075】
【数23】
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【0076】
したがって、リトルの定理を用いて中継ノードR10内のシステム遅延Dを式(24)として得ることができる。
【0077】
【数24】
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【0078】
中継ノードR10内のシステム遅延DにノードA20またはノードB30から中継ノードR10へのアクセス遅延を含めた[M,F,FNCシステムの伝送遅延Dは、式(25)として示される。
【0079】
【数25】
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【0080】
伝送遅延Dは、F=1となるとき最小値をとり、Fが小さくなるにつれて大きくなり、F=G/(2+G)で発散する。
【0081】
[M,F,FNCシステムでは、スループットと伝送遅延との間に明確なトレードオフの関係が存在する。[M,F,FNCシステムでは、最大のスループットを達成するF=G/(2+G)+δでは伝送遅延が最大となり、最小の伝送遅延を達成するF=1ではネットワークコーディング自体が実行できないこととなる。
【0082】
中継ノードR10の送信確率F=G/(2+G)+δにおける伝送遅延は、δの逆数に依存し、Offered Load Gが低い場合でもδの逆数付近が伝送遅延となる。これは中継ノードR10においてパケットの送信機会が得られないことで中継ノードR10のバッファ内にパケットが停留することが要因となる。
また、スループットを向上させるためには可能な限りネットワークコーディングを行うことが必要となるため、ネットワークコーディングの機会を増やす必要があり、[M,F,FNCシステムにおいてはFを小さくしなければならない。
【0083】
このように、スループット向上と伝送遅延低減の双方の特性をさらに高めるには、ネットワークコーディングが行えない場合の送信確率Eとネットワークコーディングが行える場合の送信確率Fを切り分けることが必要になる。そして、ネットワークコーディングが行える送信の送信確率を高く設定し、送信確率をE<Fとした[M,F,ENCシステムが必要になる。この条件によって制御される方式を、コーディング優先制御方式という。
コーディング優先制御方式について説明する。コーディング優先制御方式を適用する中継ノード10におけるバッファモデルおよびネットワークコーディングの原理については、前述の図2に示した構成と同じ構成に基づいて適用することができる。コーディング優先制御方式特有の条件は、上記に示した送信確率をE<Fとする条件になる。
【0084】
図5は、2つのノードと1つの中継ノードからなる無線中継ネットワークコーディングシステムのトラフィックに対するスループットを示すグラフである。
このグラフの横軸はトラフィックGを示し、縦軸はスループットSを示す。この図に示されるグラフSは、コーディング優先制御方式のスループットを示す。また、グラフS1aとグラフSは、コーディング可能な状態で同じパケット送信確率を有する平等制御方式とした場合のスループットを示す。グラフS1aは、トラフィックに応じて送信確率を設定するときの特性グラフであり、グラフSは、送信確率を定められた設定値(E=F=0.6)としたときのグラフである。
【0085】
本実施形態によるグラフSのスループット特性について、グラフS1aとグラフ3で示されるスループット特性と比較して以下に説明する。
グラフSに示されるスループット特性では、送信確率を固定していることによりスループットが制限され、スループットのピーク値も0.3に達しない。グラフS1aに示されるスループット特性では、スループットのピーク値が0.32に達し、トラフィックに応じて送信確率を変更されることによりスループットの向上が見込まれるが、トラフィックの変動による性能劣化の可能性を含んでいる。また、このグラフS1aに示される特性を得るためには、トラフィックに応じて送信確率を制御するためのトラフィック推定回路が必要となり、トラフィック推定回路の性能によっても特性が左右されることになる。
グラフSに示されるスループット特性では、送信確率を予め定められた値(F=1.0,E=0.1)に固定したときの特性が示されている。このグラフSに示されるスループット特性では、そのピーク値0.34が示される。このスループット特性では、送信確率を固定しているので、トラフィックの変動に影響されることがない。上記で示した送信確率の設定値は、一実施例であるが、この図に示される他の特性に比べても最も良好なスループット特性が示される。
【0086】
このように、本実施形態によるコーディング優先制御方式では、コーディング不可能な状態のパケット送信確率Eに対してコーディング可能な状態のパケット送信確率Fを大きくなるようにパケット中継を行うように制御する。同方式では、トラフィックに応じてパケット送信確率を制御することなく、高スループットが実現できる。そのため、中継ノードR10においてトラフィック推定回路を不要とすることができる。
【0087】
図6は、2つのノードと1つの中継ノードからなる無線中継ネットワークコーディングシステムのスループットに対する伝送遅延の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフである。このグラフの横軸はスループットSを示し、縦軸は伝送遅延Dを示す。
(a)に示されるグラフは、本実施形態によるコーディング優先制御方式における伝送遅延のシミュレーション結果を示す。(b)に示されるグラフは、コーディング不可能な状態において、パケットを中継しないネイティブ排他制御方式における伝送遅延のシミュレーション結果を示す。(a)と(b)に示されるグラフを比較すれば、明らかにコーディング優先制御方式を示す(a)に示されるグラフの方が、ネイティブ排他制御方式を示す(b)に示されるグラフに比べて伝送遅延を少なくしてパケット伝送することが可能となることが示される。
また、ネイティブ排他制御方式では、解析の結果から伝送遅延時間が無限大となることもありうることが導かれた。さらに、総タイムスロット数を大きくすることにより、ネイティブ排他制御方式の伝送遅延はさらに多くなるものと予想される。伝送遅延特性の結果からも、コーディング優先制御方式が、ネイティブ排他制御方式に比べて優れていることが示された。
【0088】
上記に示した実施形態により、中継ノードR10がパケットを中継する際に、XORの演算処理によって生成され通信効率を高くできるネットワークコーディングされたパケットの送信確率Eを高く設定し、そのパケットを優先させて送信することにより、無線通信システム100としてのスループット(通信効率)を高くすることができる。また、中継ノードR10の送信制御手法を規定することにより、無線通信システム100の通信効率を制御することができ、スループットを向上させることが可能となる。
また、中継ノード10においてネットワークコーディングが可能な場合と不可能な場合の送信確率を明確化して、ネットワークコーディング処理による遅延特性の悪化を避けながら、システムのスループットを向上させることができる。
【0089】
なお、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。本発明のネットワークコーディング処理において用いられる送信確率は、予め定められた固定値とするほかに動的に変化する値とすることも可能である。送信確率を動的に変化させるときに参照する変数としては、トラフィック値などを用いて設定することが可能である。
【0090】
また、上述の中継ノードR10、ノードA20およびノードB30は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述したネットワークコーディングに係る処理手順は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0091】
なお、本発明の無線通信システムは、無線通信システム100に相当する。また、本発明の中継局装置は、中継ノードR10に相当する。また、本発明の送信制御部は、送信制御回路11に相当する。また、本発明の送信バッファ部は、送信バッファA12と送信バッファB13に相当する。また、本発明の無線局は、ノードA20、ノードB30に相当する。また、本発明の受信パケット生成部は、受信制御回路21と受信制御回路31に相当する。また、本発明のバッファ部は、通信バッファA22と通信バッファB32に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施形態による無線通信システムを示すブロック図である。
【図2】本実施形態による無線通信システムを示すブロック図である。
【図3】本実施形態によるネットワークコーディングシステムのマルコフ連鎖を示す図である。
【図4】本実施形態による無線通信システムにおけるスループット特性を示すグラフ(その1)である。
【図5】本実施形態による無線通信システムにおけるスループット特性を示すグラフ(その2)である。
【図6】本実施形態による無線通信システムにおける伝送遅延特性を示すグラフである。
【図7】従来の実施形態による無線通信システムを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0093】
100 無線通信システム
10 中継ノードR
20 ノードA
30 ノードB
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6