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明細書 :回り込みキャンセラ及び回り込みキャンセル方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5521201号 (P5521201)
公開番号 特開2011-130427 (P2011-130427A)
登録日 平成26年4月18日(2014.4.18)
発行日 平成26年6月11日(2014.6.11)
公開日 平成23年6月30日(2011.6.30)
発明の名称または考案の名称 回り込みキャンセラ及び回り込みキャンセル方法
国際特許分類 H04B   7/015       (2006.01)
H04B   7/10        (2006.01)
H04B   7/15        (2006.01)
FI H04B 7/015
H04B 7/10 A
H04B 7/15 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 28
出願番号 特願2010-257127 (P2010-257127)
出願日 平成22年11月17日(2010.11.17)
優先権出願番号 2009263960
優先日 平成21年11月19日(2009.11.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年8月16日(2013.8.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】工藤 理一
【氏名】村上 友規
【氏名】溝口 匡人
【氏名】藤島 泰郎
【氏名】林 和則
【氏名】酒井 英昭
個別代理人の代理人 【識別番号】110001634、【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
審査官 【審査官】前田 典之
参考文献・文献 特開2008-172466(JP,A)
特開2003-273831(JP,A)
特開2003-087217(JP,A)
特開2001-223628(JP,A)
特開2006-314080(JP,A)
調査した分野 H04B 7/015
H04B 7/10
H04B 7/15
特許請求の範囲 【請求項1】
同一周波数の無線信号を送受信する無線中継において送信機から受信機に回り込む干渉信号をキャンセルする回り込みキャンセラであって、
前記受信機の受信用アレーアンテナの各素子を用いて受信された複数又は一つの受信信号に対して前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数又は一つの第1重み係数をそれぞれ乗算する複数又は一つのウェイト乗算器と、
前記複数又は一つのウェイト乗算器の出力および仮想パスウェイト乗算器の出力を加算し、アレー出力信号として出力する加算器と、
前記アレー出力信号から帰還信号を減算し、誤差信号として出力する減算器と、
前記誤差信号を白色化する白色化フィルタと、
前記誤差信号に遅延を与え、前記送信機への出力信号とする遅延線路と、
前記送信機への出力信号を可変の伝達関数に基づきフィルタリングし、前記帰還信号として前記減算器へ出力する適応フィルタと、
前記白色化フィルタの出力に基づき、前記干渉信号が最小となるように前記適応フィルタの伝達関数を制御する制御手段と、
前記遅延線路の出力信号を増幅する増幅器と、
前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数又は一つの第1重み係数を制御するウェイト可変制御装置と
を備え、
前記仮想パスウェイト乗算器は、
前記増幅器の出力を仮想パスとして分岐し、第2重み係数をそれぞれ乗算し、
前記ウェイト可変制御装置は、
前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記複数又は一つの第1の重み係数とともに前記第2重み係数を制御する、
ことを特徴とする回り込みキャンセラ。
【請求項2】
前記ウェイト可変制御装置が、前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数の制御に最小二乗誤差法を用いることを特徴とする請求項1に記載の回り込みキャンセラ。
【請求項3】
前記ウェイト可変制御装置が、前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数の制御に最小分散無歪み応答を用いることを特徴とする請求項1に記載の回り込みキャンセラ。
【請求項4】
前記ウェイト可変制御装置によって、前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数が、前記送信機から前記受信機への回り込み経路のインパルス応答の推定値と、基地局から前記受信機へのインパルス応答の推定値とに基づいて制御される
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回り込みキャンセラ。
【請求項5】
前記仮想パスウェイト乗算器は、
前記遅延線路の出力を仮想パスとして分岐し、前記第2重み係数をそれぞれ乗算し、
前記ウェイト可変制御装置は、
前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記複数又は一つの第1の重み係数とともに前記第2重み係数を制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回り込みキャンセラ。
【請求項6】
同一周波数の無線信号を送受信する無線中継において送信機から受信機に回り込む干渉信号をキャンセルする回り込みキャンセル方法であって、
複数又は一つのウェイト乗算器によって、前記受信機の受信用アレーアンテナの各素子を用いて受信された複数又は一つの受信信号に対して前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数又は一つの第1重み係数をそれぞれ乗算する過程と、
複数又は一つの仮想パスウェイト乗算器によって、分岐された増幅器の出力に対し、それぞれの第2重み係数を乗算する過程と、
加算器によって、前記複数又は一つのウェイト乗算器の出力と、前記複数又は一つの仮想パスウェイト乗算器の出力を加算し、アレー出力信号として出力する過程と、
減算器によって、前記アレー出力信号から帰還信号を減算し、誤差信号として出力する過程と、
白色化フィルタによって、前記誤差信号を白色化する過程と、
遅延線路によって、前記誤差信号に遅延を与え、前記送信機への出力信号とする過程と、
適応フィルタによって、前記送信機への出力信号を可変の伝達関数に基づきフィルタリングし、前記帰還信号として前記減算器へ出力する過程と、
制御手段によって、前記白色化フィルタの出力に基づき、前記干渉信号が最小となるように前記適応フィルタの伝達関数を制御する過程と、
前記遅延線路の出力信号を前記増幅器により増幅する過程と、
ウェイト可変制御装置によって、前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数を制御する過程と
を含むことを特徴とする回り込みキャンセル方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、中継局を用いた同時送受信方式において送信機から受信機への回り込み干渉信号を除去又は補償する際に用いて好適な回り込みキャンセラ及び回り込みキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線中継器(以下、中継局と称する)を用いた伝送方式に関する研究が盛んに行われている。中でも、無線通信路のもつブロードキャスト性を積極的に利用してリレーノードから転送された信号と、送信ノードから宛先ノードに直接届いた信号を合成して復号することでより信頼性の高い信号伝送を行う協調通信と、中継局を利用した双方向通信においてリレーノードがそれぞれの送信ノードからの信号を合成して転送することで周波数利用効率を改善する無線ネットワークコーディングは、従来の無線伝送方式に比べてその特性を大きく改善できる可能性があることから大変注目されている。協調通信とネットワークコーディングに関する手法は様々なものが数多く提案されているが、いずれの場合でも中継局が受信する信号と送信する信号の間での直交性が仮定されている。これは直接伝送をする場合に比べて2倍の無線資源を使用することを意味する。
【0003】
このような場合でも協調通信やネットワークコーディングによる周波数利用効率の改善可能であることが示されているが、親局(あるいは基地局)から中継局と中継局から端末への通信路で同じ無線資源を使用することができれば、大幅なシステム特性の改善が期待される。
【0004】
そのような同時送受信を行う中継局は、SFN(Single Frequency Network)によるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を用いた地上ディジタルテレビ放送システムにおいて検討されてきた。同一周波数を用いて中継局が同時に送受信を行う場合、送信アンテナからの中継送信信号が受信アンテナに回り込み、発振が生じて特性が劣化することが大きな問題となる。そのため、中継局を用いた同時送受信方式において送信機から受信機への回り込み干渉信号を除去又は補償するための回り込みキャンセラの研究が行われている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】R.Heath and G.B.Giannakis,“Exploiting input cyclostationary for blind identication in OFDM systems,”IEEE Trans. Signal Processing, vol.47, no.3, pp.848-856,1999
【非特許文献2】孫連名、佐野昭、「回り込み干渉をもつOFDM系SFN中継伝達特性の同定」、電子情報通信学会論文誌A、vol.J88A、no.9,pp.1045-1053,2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に回り込みキャンセラのブロック線図(構成1)を示す。この図において、実線と破線はそれぞれ中継局内と空気中におけるデータの伝送を表す。また、これ以降に示すブロック線図も全て同様である。
【0007】
図7において、加算器101は、基地局から送信されたOFDM信号x(n)と伝達関数C(z)のフィードバックパス102を介して回り込む干渉信号とを加算する。減算器103は、加算器101の出力から適応フィルタ104の出力を減算する。この減算器103から出力された誤差信号s(n)は、適応フィルタ104と、適応フィルタ104を制御する制御手段105へ入力されるとともに、伝達関数G(z)のフォワードパス106を介して送信信号u(n)として送信される。この適応フィルタ104は、例えばFIR(Finite Impulse Response;有限インパルス応答)フィルタからなり、各タップ係数(すなわち各タップの重み)が制御手段105によって制御される。
【0008】
ここで、OFDM信号x(n)は平均0の周期定常過程であり(非特許文献1)、C(z)、G(z)はそれぞれ回り込み経路と増幅器の伝達関数を表している。ただし、nは時間のインデックスである。G(z)は既知であるが、C(z)は未知であり、また時変の場合もあるため、回り込み経路の推定に制御手段105によるLMS(Least Mean Square;最小二乗平均)アルゴリズムを用いた適応フィルタ(W(z))104を使用する。
【0009】
図7より、誤差信号s(n)は
【0010】
【数1】
JP0005521201B2_000002t.gif

【0011】
と表せる。ここで、
【0012】
【数2】
JP0005521201B2_000003t.gif

【0013】
を用いると
【0014】
【数3】
JP0005521201B2_000004t.gif

【0015】
と書ける。ここで、W(z)は定常状態における適応フィルタ104の伝達関数を、z-1は遅延作用素をそれぞれ表し、Q(z)は安定であるとする。すなわち、1-(C(z)G(z)-W(z))の零点は全て単位円内に存在すると仮定する。一般的に用いられている適応フィルタ104のLMSアルゴリズムは
【0016】
【数4】
JP0005521201B2_000005t.gif

【0017】
のように書ける。ただし、
【0018】
【数5】
JP0005521201B2_000006t.gif

【0019】
であり、w(n)は適応フィルタ104のi番目のタップ係数を、μは正のステップサイズを表しており、上付の“*”は複素共役を意味する。Nはタップ数を表す。また、式(4)の左辺の「w」のような太字の文字はベクトルを表している。なお、本文中では、ベクトルを表す文字を、「文字(ベクトル)」の形式で表記する。式(4)では誤差信号s(n)を適応フィルタ104の入力信号として用いている。平均化法より、式(4)の停留点は
【0020】
【数6】
JP0005521201B2_000007t.gif

【0021】
により与えられる。ここで、E[・]は期待値を表す。ただし、s(n)=0となるため式(8)においてi=0に対する条件は除外する。つまり、式(5)、(7)において、
【0022】
【数7】
JP0005521201B2_000008t.gif

【0023】
とする。また、OFDM信号x(n)は周期定常過程であり、その統計量は時変であるため、式(8)の平均は集合平均および時間平均とする。これより、x(n)を、サイクル周波数0のサイクリックスペクトルと等しい、スペクトル密度P(ejω)を持った定常過程として扱うことが出来る(非特許文献1)。式(3)より、式(8)は
【0024】
【数8】
JP0005521201B2_000009t.gif

【0025】
と表せる。z=e-jωと置くと式(10)は
【0026】
【数9】
JP0005521201B2_000010t.gif

【0027】
と書ける。ただし、
【0028】
【数10】
JP0005521201B2_000011t.gif

【0029】
である。ここで~は推定値を表す。C(z)、G(z)(ただし本文中の上付の~は文字の真上に付けられた記号を表すこととする(以下、同様)。)も同様である。式(11)が全てのi≧1に対して成り立つには、式(10)のzi-1以下の被積分関数がzの正の冪で展開されていなければならないので、すなわち式(11)は
【0030】
【数11】
JP0005521201B2_000012t.gif

【0031】
と書くことが出来る。ここで、演算[X(z)]
【0032】
【数12】
JP0005521201B2_000013t.gif

【0033】
に対して
【0034】
【数13】
JP0005521201B2_000014t.gif

【0035】
と因果性のある部分、つまり、定数項とzの負の冪の抽出を表している。また、スペクトル密度P(z)のスペクトル因数分解はスペクトル因数R(z)を用いて
【0036】
【数14】
JP0005521201B2_000015t.gif

【0037】
と書ける。ここで、R(z)は最小位相系であり、その定数項を1とする。式(2)から1/Q(z)は安定多項式であるので、1/(R(z-1)Q(z-1))はzの非負の冪で展開できる。ゆえに、式(12)の両辺に掛けることで式(12)は
【0038】
【数15】
JP0005521201B2_000016t.gif

【0039】
と書ける。式(14)のR(z)を得るため、x(n)がデータ長M、CP(Cyclic Prefix)長LCP、ブロック長T=M+LCPのOFDM信号とし、スペクトル密度P(z)を求める。1ブロック長内のk番目の標本x(n)=x(nT+k)とすると
【0040】
【数16】
JP0005521201B2_000017t.gif

【0041】
と書け、入力シンボルs(n)は平均0、分散σで互いに無相関であるので
【0042】
【数17】
JP0005521201B2_000018t.gif

【0043】
である。ここで、δ(r)はr≠0、r=0に対してそれぞれδ(r)=0、1を意味する(非特許文献1)。サイクル周波数0のサイクリック相関関数p(0;τ)は式(16)の各kに対する0からT-1までの平均であり、
【0044】
【数18】
JP0005521201B2_000019t.gif

【0045】
であるので、
【0046】
【数19】
JP0005521201B2_000020t.gif

【0047】
であり、また、
【0048】
【数20】
JP0005521201B2_000021t.gif

【0049】
より、スペクトル因数は、
【0050】
【数21】
JP0005521201B2_000022t.gif

【0051】
となる。ここで、αは正の実数である。ただし、式(13)のγは
【0052】
【数22】
JP0005521201B2_000023t.gif

【0053】
で与えられる。ここで、
【0054】
【数23】
JP0005521201B2_000024t.gif

【0055】
であり、一般的にT/LCP>2なので、0<α<1である。これより、式(14)の解が陽に得られる。R(z)Q(z)は因果的であるので、式(14)からその値は定数βであり、それゆえ、停留点W(z)は
【0056】
【数24】
JP0005521201B2_000025t.gif

【0057】
を満たす。式(7)、(9)、(19)より、G(z)にz-1が含まれている時、つまり
【0058】
【数25】
JP0005521201B2_000026t.gif

【0059】
ならばβ=1であり、
【0060】
【数26】
JP0005521201B2_000027t.gif

【0061】
となる。
【0062】
すなわち、停留点においてバイアス項αz-Mが生じてしまう。式(23)のバイアス項を除去する方法について述べる。
【0063】
式(4)において誤差信号s(n)の代わりに以下の信号
【0064】
【数27】
JP0005521201B2_000028t.gif

【0065】
を用いる。つまり、
【0066】
【数28】
JP0005521201B2_000029t.gif

【0067】
であるが、これは、誤差信号s(n)がOFDM信号x(n)に等しい場合は白色化の操作となる。これより、式(12)は
【0068】
【数29】
JP0005521201B2_000030t.gif

【0069】
と書ける。式(13)より停留点は
【0070】
【数30】
JP0005521201B2_000031t.gif

【0071】
で与えられる。zQ(z)の因果性部分が0すなわち、Q(z)=1でなければならないので、
【0072】
【数31】
JP0005521201B2_000032t.gif

【0073】
である。これより、適応フィルタ104の停留点は
【0074】
【数32】
JP0005521201B2_000033t.gif

【0075】
となる。式(23)と比べ、バイアス項が消去されているのが分かる。
【0076】
図8にマルチパスとバイアスを考慮した回り込みキャンセラのブロック線図を記す。図8に示す構成は、図7に示す構成と比較して、減算器103と制御手段105の間に白色化フィルタ107が挿入されている点と、減算器103とフォワードパス106の間に遅延線路108が挿入されている点と、適応フィルタ104に遅延線路108の出力信号が入力される点とが異なっている。図8に示す構成において、図7に示す構成に対応するものには同一の符号を用いている。遅延線路108は、入出力信号間に所定の時間遅延を与える。白色化フィルタ107は、スペクトル因数R(z)の逆数を伝達関数とするフィルタであり、信号s’(n)を出力する。適応フィルタ104の平均二乗誤差は
【0077】
【数33】
JP0005521201B2_000034t.gif

【0078】
と書ける。ここで、停留点W(z)に対応する適応フィルタ104のタップ係数ベクトルをw(ベクトル)とすると
【0079】
【数34】
JP0005521201B2_000035t.gif

【0080】
となる。ただし、μY(ベクトル)は停留点付近のタップ係数の誤差共分散行列を近似したものであり、Lyapunov方程式を解くことで、Y(ベクトル)=γ(ベクトル)/2・I(ベクトル)を得る。これより停留点での平均二乗誤差は
【0081】
【数35】
JP0005521201B2_000036t.gif

【0082】
と書ける。
【0083】
上記で示した回り込みキャンセラについての議論では、初期状態が安定であることが大前提となっている。
【0084】
【数36】
JP0005521201B2_000037t.gif

【0085】
であるが、適応フィルタ104の初期状態として各係数の初期値を全て0とすると、これに対応するQ(z)は
【0086】
【数37】
JP0005521201B2_000038t.gif

【0087】
となる。このとき、Q(z)が安定であるためには、全てのωに対して|C(ejω)G(ejω)|<1でなければならず、この条件を満たさない場合には発散してしまう。C(z)は回り込み通信路の伝達関数であるため、この条件を満足するためにはフォワードパス(増幅器)106の伝達関数G(z)を十分小さく設定する必要があることを意味する。つまり無線中継局における増幅率に対して非常に厳しい制限を課すこととなる。
【0088】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、大きな増幅率を有する送信機(増幅器)を用いた場合であっても、送信機から受信機に回り込む干渉信号をキャンセルすることができる回り込みキャンセラ及び回り込みキャンセル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0089】
請求項1記載の発明は、同一周波数の無線信号を送受信する無線中継において送信機から受信機に回り込む干渉信号をキャンセルする回り込みキャンセラであって、前記受信機の受信用アレーアンテナの各素子を用いて受信された複数又は一つの受信信号に対して前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数又は一つの第1重み係数をそれぞれ乗算する複数又は一つのウェイト乗算器と、前記複数又は一つのウェイト乗算器の出力および仮想パスウェイト乗算器の出力を加算し、アレー出力信号として出力する加算器と、前記アレー出力信号から帰還信号を減算し、誤差信号として出力する減算器と、前記誤差信号を白色化する白色化フィルタと、前記誤差信号に遅延を与え、前記送信機への出力信号とする遅延線路と、前記送信機への出力信号を可変の伝達関数に基づきフィルタリングし、前記帰還信号として前記減算器へ出力する適応フィルタと、前記白色化フィルタの出力に基づき、前記干渉信号が最小となるように前記適応フィルタの伝達関数を制御する制御手段と、前記遅延線路の出力信号を増幅する増幅器と、前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数又は一つの第1重み係数を制御するウェイト可変制御装置とを備え、前記仮想パスウェイト乗算器は、前記増幅器の出力を仮想パスとして分岐し、第2重み係数をそれぞれ乗算し、前記ウェイト可変制御装置は、前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記複数又は一つの第1の重み係数とともに前記第2重み係数を制御する、ことを特徴とする回り込みキャンセラである。
【0090】
請求項2記載の発明は、前記ウェイト可変制御装置が、前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数の制御に最小二乗誤差法を用いることを特徴とする。
【0091】
請求項3記載の発明は、前記ウェイト可変制御装置が、前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数の制御に最小分散無歪み応答を用いることを特徴とする。
【0092】
請求項4記載の発明は、前記ウェイト可変制御装置によって、前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数が、前記送信機から前記受信機への回り込み経路のインパルス応答の推定値と、基地局から前記受信機へのインパルス応答の推定値とに基づいて制御されることを特徴とする。
【0093】
請求項5記載の発明は、前記仮想パスウェイト乗算器は、前記遅延線路の出力を仮想パスとして分岐し、前記第2重み係数をそれぞれ乗算し、前記ウェイト可変制御装置は、前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記複数又は一つの第1の重み係数とともに前記第2重み係数を制御することを特徴とする。
【0094】
請求項6記載の発明は、同一周波数の無線信号を送受信する無線中継において送信機から受信機に回り込む干渉信号をキャンセルする回り込みキャンセル方法であって、複数又は一つのウェイト乗算器によって、前記受信機の受信用アレーアンテナの各素子を用いて受信された複数又は一つの受信信号に対して前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数又は一つの第1重み係数をそれぞれ乗算する過程と、複数又は一つの仮想パスウェイト乗算器によって、分岐された増幅器の出力に対し、それぞれの第2重み係数を乗算する過程と、加算器によって、前記複数又は一つのウェイト乗算器の出力と、前記複数又は一つの仮想パスウェイト乗算器の出力を加算し、アレー出力信号として出力する過程と、減算器によって、前記アレー出力信号から帰還信号を減算し、誤差信号として出力する過程と、白色化フィルタによって、前記誤差信号を白色化する過程と、遅延線路によって、前記誤差信号に遅延を与え、前記送信機への出力信号とする過程と、適応フィルタによって、前記送信機への出力信号を可変の伝達関数に基づきフィルタリングし、前記帰還信号として前記減算器へ出力する過程と、制御手段によって、前記白色化フィルタの出力に基づき、前記干渉信号が最小となるように前記適応フィルタの伝達関数を制御する過程と、前記遅延線路の出力信号を前記増幅器により増幅する過程と、ウェイト可変制御装置によって、前記アレー出力信号を入力し、該アレー出力信号と既知の入力信号との誤差が最小となるように前記受信用アレーアンテナの各素子に対応する前記複数又は一つの第1重み係数および前記第2重み係数を制御する過程とを含むことを特徴とする回り込みキャンセル方法である。
【発明の効果】
【0095】
本発明によれば、アレー出力信号y(n)と既知の入力信号x(n)との誤差が最小となるように受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数の重み係数を制御するようにしたので、大きな増幅率(例えば100倍以上)を有する送信機を用いた場合であっても、送信機から受信機に回り込む干渉信号を安定してキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施形態のブロック線図である。
【図2】特性評価に用いた回り込み経路の瞬時遅延プロファイルである。
【図3】特性評価に用いた回り込み経路の瞬時遅延プロファイルである。
【図4】特性評価に用いた回り込み経路の瞬時遅延プロファイルである。
【図5】特性評価に用いた回り込み経路の瞬時遅延プロファイルである。
【図6】本発明を用いた場合の二乗誤差(マルチパス通信路)を示す図である。
【図7】従来の回り込みキャンセラのブロック線図(1)である。
【図8】マルチパスを考慮した回り込みキャンセラのブロック線図である。
【図9】本発明の他の一実施形態のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。本発明の一つの特徴は、アレーアンテナの素子数に対応する干渉波の抑圧効果に加え、仮想パスを導入することで、アレーアンテナ素子数以上の干渉波をキャンセルすることが可能になる。図1は、本発明の一実施形態としての回り込みキャンセラの構成例を示すブロック線図である。

【0098】
図1は、本発明の一実施形態としての回り込みキャンセラ2を含む中継局内外の信号間の関係を表すブロック線図である。この場合、回り込みキャンセラ2と、フォワードパス(増幅器)206と、仮想パス210-1~210-dと、出力点209とが中継局内の構成である。他方、図示していない基地局とこの中継局との間の伝達要素であるm個のフォワードパス201-1~201-mが中継局外の構成である。また、中継局内の送信機(出力点209内の1要素)から受信機(入力点220-1~220-m内の1要素)への回り込み経路を表すm個のフィードバックパス202-1~202-mが、中継局内と外のいずれかまたは両方に位置する構成である。

【0099】
図1の中継局は、同一周波数の無線信号を送受信することで無線中継を行う装置である。すなわち、図1の中継局は、図示していない基地局から送信された無線信号を、複数素子(この場合はm素子)からなる受信用アレーアンテナを用いて中継局内の受信機で受信する。そして受信した無線信号を中継局内の増幅器によって増幅し、中継局内の送信機によって受信信号と同一周波数の無線信号を用いて送信する。図1では、m個の入力点220-1~220-mが、受信用アレーアンテナの各素子、すなわち、各素子で受信した信号を受信するm個の受信機等の要素に対応する構成である。また、出力点209が、送信機、すなわち、送信用アンテナ(複数素子からなるアレーアンテナ、1素子のアンテナ等)等の要素に対応する構成である。

【0100】
図1に示す例では、回り込みキャンセラ2が、m個の入力点220-1~220-m、m個のウェイト乗算器21-1~21-m、d個の仮想パス210-1~210-d、d個のウェイト乗算器22-1~22-d、加算器24、ウェイト可変制御装置23、減算器203、適応フィルタ204、制御手段205、白色化フィルタ207および遅延線路208によって構成されている。なお、本実施形態において、mは2以上の整数であり、dは1以上の整数である。
ただし、これと異なり、m個の入力点220-2~220-mを除いた構成や、フォワードパス206や出力点209を含んだ構成を、本発明の回り込みキャンセラの構成としてとらえることもできる。また、フォワードパス206が表す増幅器は、その一部又は全部が、送信機内に含まれていてもよい。すなわち出力点209内に増幅器に対応する要素が含まれていてもよい。

【0101】
回り込みキャンセラ2は、上記の構成で、出力点209に含まれる送信機から入力点220-1~220-mに含まれるm個の受信機に回り込む干渉信号をキャンセルする回り込みキャンセラとして機能する。入力点220-1~220-mは、フォワードパス201-1~201-mを介して送信されてきたOFDM信号x(n)を受信用アレーアンテナのm個の素子それぞれで受信するとともに、フィードバックパス202-1~202-mを介して回り込んできたm個の回り込み干渉信号を受信用アレーアンテナのm個の素子それぞれで受信する。ここで、フォワードパス201-1~201-mの伝達関数は、H(z)~H(z)である。
入力点220-1~220-mは、フォワードパス201-1~201-mを介して送信されてきたOFDM信号x(n)と、フィードバックパス202-1~202-mを介して回り込んできたm個の回り込み干渉信号とを、それぞれ加算し、m個のウェイト乗算器21-1~21-mに、それぞれ出力する。この入力点220-1~220-mの出力信号を、r(n)~r(n)と表すこととする。

【0102】
m個のウェイト乗算器21-1~21-mは、入力点220-1~220-mからの出力信号はr(n)~r(n)に対して、受信用アレーアンテナの各素子に対応するm個の重み係数w~wをそれぞれ乗算する。加算器24は、複数のウェイト乗算器21-1~21-mの出力、および、後述するd個のウェイト乗算器22-1~22-dからの出力(すなわち、仮想パスウェイト乗算器の出力)を加算し、アレー出力信号y(n)として出力する。
減算器203は、アレー出力信号y(n)から、適応フィルタ104から出力された帰還信号を減算し、減算結果を誤差信号s(n)として出力する。白色化フィルタ207は、誤差信号s(n)を白色化する。遅延線路208は、誤差信号s(n)に遅延を与え、出力点209に含まれる送信機への出力信号とする。適応フィルタ204は、遅延線路208から送信機への出力信号を可変の伝達関数W(z)に基づきフィルタリングし、帰還信号として減算器203へ出力する。制御手段205は、白色化フィルタ207の出力s’(n)に基づき、フィードバックパス202-1~202-mを介してm個の受信機に回り込む干渉信号が最小となるように、適応フィルタ204の伝達関数W(z)を制御する。
フォワードパス206は、遅延線路208からの出力信号を増幅し、出力点209に出力する。このフォワードパス206からの出力は、d個の仮想パス210-1~210-dに分岐される。d個のウェイト乗算器22-1~22-d、d個の仮想パス210-1~210-dに分岐されたフォワードパス206からの出力に、d個の重み係数^wm+1~^wm+dをそれぞれ乗じて、加算器24に出力する(ただし本文中の^は、この^に後続する文字の真上に付けられた記号を表すこととする)。
ウェイト可変制御装置23は、アレー出力信号y(n)を入力し、アレー出力信号y(n)と既知の入力信号x(n)(すなわちOFDM信号x(n)に含まれる所定のパイロット信号)との誤差が最小となるように受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数(m個)の重み係数w~w、および、複数(d個)の重み係数^wm+1~^wm+dを制御する。

【0103】
ここでは、回り込み経路の伝達関数を構成するG(z)とC(z)のうち、C(z)を制御する手法について考える。具体的には、中継局の受信側にアダプティブアレーアンテナを導入し、そのウェイトをうまく制御することで回り込み波を抑圧し、アダプティブアレーも含んだ回り込み通信路の伝達関数C(z)を小さくすることを考える。OFDM信号に対するアダプティブアレーは、時間領域で合成を行うプリFFT(fast Fourier transform)型アレーと周波数領域で合成を行うポストFFT型アレーの2つに大きく分けられるが、ポストFFT型では1OFDMシンボル以上の遅延が中継局で発生してしまうこと、及び後段の回り込みキャンセラが時間領域で動作するフィルタであることからここではプリFFT型アレーを採用することとする。時間領域のアレーでは、一般に遅延波は全て干渉信号として取り扱われるため、最大電力のパスのみを捕捉するような合成法となるが、中継局を親局(基地局)からの見通し内に設置することで遅延波の損失による特性の劣化は小さくできると考えられる。最大電力のパスのみを捕捉することは、むしろ、親局中継局間の実効的な遅延広がりを小さくでき、回り込みキャンセラ内に必要な遅延時間を短縮できるため、大変望ましいと考えられる。一方、中継局の送信アンテナに対してもアレーを導入することが考えられるが、送信ビームフォーミングはウェイトの制御が難しいこと、及び本対象とする中継局はカバレッジの拡大をひとつの目的としているため全方向に信号を送信したいことなどから送信アンテナは1素子とする。

【0104】
図1に示す本実施形態のシステムのブロック線図では、BSとRSがそれぞれ基地局(親局)と中継局を表し、遅延線路208は遅延作用素z-aを意味する。基地局の送信アンテナは1素子としているため、回り込み経路および基地局から中継局への経路はいずれも1×mのSIMO(Single Input Single Output)となる。ここで、mはアンテナの本数である。

【0105】
また、アレーアンテナへの入力は

【0106】
【数38】
JP0005521201B2_000039t.gif

【0107】
である(上付の“T”は転置を意味する。)。さらに、回り込み経路と基地局から中継局への伝達関数を、それぞれC(z)、H(z)(p=1、2、…、m)とおいている。C(z)およびH(z)はそれぞれ

【0108】
【数39】
JP0005521201B2_000040t.gif

【0109】
と書ける。ここで、K、Lはそれぞれ回り込み経路のチャネル長と基地局から中継局への経路のチャネル長である。そして、これらのインパルス応答の推定値を用いて

【0110】
【数40】
JP0005521201B2_000041t.gif

【0111】
とおくと、

【0112】
【数41】
JP0005521201B2_000042t.gif

【0113】
と表せる。ここで式(37)の0は、d個である。なお、u(n)は中継局から送信される信号、n(n)(ベクトル)は観測雑音である。
式(38)において、雑音項は、

【0114】
【数42】
JP0005521201B2_000043t.gif

【0115】
と表記され、m個の雑音とd個の0からなるベクトルとなっている。
式(38)より、アレーアンテナの出力y(n)は

【0116】
【数43】
JP0005521201B2_000044t.gif

【0117】
となる。ここで、

【0118】
【数44】
JP0005521201B2_000045t.gif

【0119】
はアレーアンテナのウェイトである。上付の“H”はエルミート共役を意味する。また、jは最大電力のパスの遅延時間を表し、

【0120】
【数45】
JP0005521201B2_000046t.gif

【0121】
とする。ここで、argmax||h(ベクトル)||は、||h(ベクトル)||を最大とするiを表す。また、||・||はフロベニウスノルムを表す。また、基地局から中継局までの通信路が周波数選択性でなければ、基地局から中継局までのチャネル長L=1となるのでj=0である。

【0122】
次に、ウェイト可変制御装置23において、受信用アレーアンテナの各素子に対応するm個の重み係数w~wまたは^wm+1~^wm+dを算出する手法について説明する。以下では、MMSE(MinimumMean-Square-Error;最小二乗誤差法)規範とMVDR(Minimum Variance Distortionless Response;最小分散無歪み応答)規範の2種類の手法について説明する。

【0123】
(規範1)MMSE規範

【0124】
MMSE基準のウェイト制御では、評価関数

【0125】
【数46】
JP0005521201B2_000047t.gif

【0126】
を最小にするウェイトが最適ウェイトとなる。ここで、

【0127】
【数47】
JP0005521201B2_000048t.gif

【0128】
とすると(I(ベクトル)は単位行列)、評価関数は、

【0129】
【数48】
JP0005521201B2_000049t.gif

【0130】
となる。これより、

【0131】
【数49】
JP0005521201B2_000050t.gif

【0132】
を得る。さらに

【0133】
【数50】
JP0005521201B2_000051t.gif

【0134】
を解くことで、MMSE基準最適アレーウェイト

【0135】
【数51】
JP0005521201B2_000052t.gif

【0136】
を得る。

【0137】
(規範2)MVDR規範

【0138】
MMSE基準のウェイト制御法ではアンテナ素子数が少ない場合に、希望信号(基地局からの最大電力のパス)に対するゲインが小さくなることがある。これは回り込みの干渉信号電力が非常に大きいときには、希望信号の電力を低減してでも干渉信号を抑圧したほうが2乗誤差の意味では望ましいことがあるからである。しかしながら、本実施形態の中継局ではアダプティブアレーの後段に回り込みキャンセラを備えているため、アダプティブアレーの役割としては回り込み波を完全に抑圧することよりも、希望信号をより確実に受信することのほうが重要であると考えられる。そこで、

【0139】
【数52】
JP0005521201B2_000053t.gif

【0140】
なる拘束条件の下で評価関数(40)を最小にするようなアレーウェイトw(ベクトル)を導出する。このようなアダプティブアレーはMVDRビームフォーマーと呼ばれる。Lagrangeの未定乗数法を用いると、評価関数は

【0141】
【数53】
JP0005521201B2_000054t.gif

【0142】
と書ける。ここで、λはLagrange乗数である。これより

【0143】
【数54】
JP0005521201B2_000055t.gif

【0144】
となり、したがって、MVDR最適ウェイトopt(ベクトル)は

【0145】
【数55】
JP0005521201B2_000056t.gif

【0146】
と書ける。ここで、拘束条件(48)は

【0147】
【数56】
JP0005521201B2_000057t.gif

【0148】
と同値であるから、式(51)より、

【0149】
【数57】
JP0005521201B2_000058t.gif

【0150】
なる関係式が成立する。これより、

【0151】
【数58】
JP0005521201B2_000059t.gif

【0152】
を得る。このLagrange乗数を式(51)に代入することにより、opt(ベクトル)得る。

【0153】
なお、アレーアンテナのウェイト制御はアナログでもディジタルでも制御可能であるが、アナログで制御した場合は、A/D(アナログ-ディジタル)変換機のダイナミックレンジを大きく取らなくてもよいという利点がある。

【0154】
以上のように、ウェイト可変制御装置23は、アレー出力信号y(n)と既知の入力信号x(n)とを入力として、それらの誤差が最小となるように受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数の重み係数w~wを制御する際に、複数の重み係数w~wの制御に最小二乗誤差法を用いたり、最小分散無歪み応答を用いたりすることができる。その際、ウェイト可変制御装置23は、式(47)や式(51)に示すように、複数の重み係数w~wを、送信機から受信機への回り込み経路のインパルス応答の推定値(式(36))と、基地局から受信機へのインパルス応答の推定値(式(37))とに基づいて制御することができる。
また、このウェイト可変制御装置23は、複数の重み係数w~wと同様に、重み係数^wm+1~^wm+dを制御する。

【0155】
次に、本発明の有効性を確認するため、計算機実験により評価を行った結果を示す。OFDM信号は振幅1のBPSK(Binary Phase Shift Keying)データより生成し、データ長M=64、CP長LCP=16(ブロック長T=80)とした。このとき、式(23)のバイアス項のα=0.2087である。

【0156】
提案方式の特性として、図2~図5に特性評価に用いた回り込み経路の瞬時の遅延プロファイルを示す。図中、横軸は時間遅延、縦軸はインパルス応答の瞬時電力を表している。図2~図5は、アンテナ1、2、3、4のチャネル応答値、アンテナ5、6、7、8のチャネル応答値、アンテナ9、10、11、12のチャネル応答値、および、アンテナ13、14、15、16のチャネル応答値をそれぞれ表している。

【0157】
ここでは、(規範1)において、Recursive Least Squares(RLS)アルゴリズムを用いた場合に、基地局から中継局への通信路が周波数選択性マルチパス通信路である場合の二乗誤差特性と受信SNR(signal-to-noise ratio)に対する特性を図6に示す。ここで、二乗誤差として|y(n)-wah(ベクトル)x(n)|を用いた。アンテナ数mを4~16とし、仮想パスも含めた入力の総数m+dは16とし、MVDRアレーを用いている。誤差特性から、アンテナ数mが4である場合でも、仮想パスを12とすることで、アンテナ素子mを16とした場合とほぼ同等の特性が得られていることが確認できる。

【0158】
計算結果より、本発明を用いることで、従来の手法では適応フィルタが収束しないよう大きな増幅率(100倍以上)に対しても回り込みキャンセラを正常に動作させることに成功した。また、十分な素子数を持つアダプティブアレーの導入により、従来手法ではすぐに発散するような環境においても特性を改善できることが確認できた。

【0159】
以上説明したように、本実施形態においては、白色化フィルタを介してから、これをモニタし制御する構成としている。さらに、増幅器の出力を仮想パスとして分岐し、重み係数をそれぞれ乗算して、増幅前の信号に加算する構成としている。
これら構成により、アレー出力信号y(n)と既知の入力信号x(n)との誤差が最小となるように受信用アレーアンテナの各素子に対応する複数の重み係数を制御するようにしたので、大きな増幅率(例えば100倍以上)を有する送信機を用いた場合であっても、送信機から受信機に回り込む干渉信号を安定してキャンセルすることが可能となる。

【0160】
また、以下のように制御することで、基地局からの信号は遅延波も全て捕捉して、中継転送することが可能である。この場合における本発明の実施の形態を第2の実施形態とし、また上記の図1を参照して説明した実施形態を第1の実施形態として、以下、第2の実施形態について説明する。

【0161】
第2の実施形態では、中継局の受信アレーアンテナから入力される入力数mを1とする。

【0162】
このように、第2の実施形態の構成自体は第1の実施形態の特別な(中継局の受信アンテナ素子数が1の)場合に相当するが、1素子の受信アンテナの重み係数wと仮想パスの重み係数^wm+1~^wm+dの制御に違いがある。以下、第2の実施形態の構成について第1の実施形態と同様、図1を参照して説明する。中継局の受信アンテナが1素子の場合には、基地局から到来する信号に対して指向性を制御することが出来ず、第1の実施形態のように最大電力パスのみを捕捉することが出来ないが、逆にこのことは、基地局からの信号を全て遅延波を含んだ形で中継局が受信可能であることを意味する。基地局と中継局が見通し外にあって特別強勢なパスが存在しないような環境では、第1の実施形態による手法を用いると遅延波成分の損失による受信信号電力の低下が問題となるが、第2の実施形態による手法ではそのような問題を回避することが出来る。実際の受信アンテナ素子を1本とすることで全ての到来信号を受信しつつ、そこに含まれる回り込み干渉成分を仮想パスの重み係数を制御することで抑圧することが、第2の実施形態の基本的な考え方である。

【0163】
図1に示す第2の実施形態のブロック線図のウェイト可変制御装置23において、受信アンテナの重み係数wと仮想パスの重み係数^wm+1~^wm+dを算出する手法について説明する。

【0164】
第2の実施形態のウェイト制御では、

【0165】
【数59】
JP0005521201B2_000060t.gif

【0166】
なる拘束条件の下でアレー出力の電力を最小にするようなウェイトw(ベクトル)を導出する。Lagrangeの未定乗数法を用いると、評価関数は

【0167】
【数60】
JP0005521201B2_000061t.gif

【0168】
と書ける。ここで、λはLagrange乗数であり

【0169】
【数61】
JP0005521201B2_000062t.gif

【0170】
である。したがって、最適ウェイトopt(ベクトル)は

【0171】
【数62】
JP0005521201B2_000063t.gif

【0172】
となる。ただし、

【0173】
【数63】
JP0005521201B2_000064t.gif

【0174】
である。

【0175】
以上説明したように、第2の実施形態においては、白色化フィルタを介してから、これをモニタし制御する構成としている。さらに、増幅器の出力を仮想パスとして分岐し、重み係数をそれぞれ乗算して、増幅前の信号に加算する構成としている。

【0176】
また、図1に示す第1の実施形態および第2の実施形態では、フォワードパス(増幅器)206の出力を仮想パス210-1~210-dへ入力するようにしているが、これに代えて、遅延線路208の出力を仮想パス210-1~210-dへ入力するようにしてもよい。すなわち、図9に示すように、フォワードパス(増幅器)206に入力する前の信号を仮想パス210-1~210-dとして分岐し、乗算器22-1~22-dにおいて重み係数をそれぞれ乗算して、加算器24によって増幅前の信号に加算する構成とすることもできる。なお、図9に示す構成において、図1に示すものと同一の構成には同一の符号を用いている。ところで図1に示す構成では、例えば、回り込みキャンセラ2をCPU(中央処理装置)を用いて構成する場合、フォワードパス(増幅器)206の出力がアナログ信号であるとすると、仮想パス210-1~210-dの入力段にアナログ-ディジタル変換器を設け、フォワードパス(増幅器)206から出力されたアナログ信号をディジタル信号に変換することになる。これに対し、図9に示す構成では、回り込みキャンセラ2aをCPUを用いて構成する場合、仮想パス210-1~210-dに対しては、遅延線路208から出力されたディジタル信号をそのまま入力すればよいので、仮想パス210-1~210-dの入力段にアナログ-ディジタル変換器を設けなくてよくなる。
【符号の説明】
【0177】
2、2a 回り込みキャンセラ
21-1~21-m 乗算器
22-1~22-m ウェイト乗算器
23 ウェイト可変制御装置
24 加算器
201-1~201-m フォワードパス
202-1~202-m フィードバックパス
203 減算器
204 適応フィルタ
205 制御手段
206 フォワードパス
207 白色化フィルタ
208 遅延線路
209 出力点
210-1~210-d 仮想パス
220-1~220-m 入力点
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8