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明細書 :放射線量率マップデータ収集システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5955546号 (P5955546)
公開番号 特開2013-134105 (P2013-134105A)
登録日 平成28年6月24日(2016.6.24)
発行日 平成28年7月20日(2016.7.20)
公開日 平成25年7月8日(2013.7.8)
発明の名称または考案の名称 放射線量率マップデータ収集システム
国際特許分類 G01T   1/17        (2006.01)
G01T   1/167       (2006.01)
G01T   7/00        (2006.01)
G01T   1/16        (2006.01)
G01T   1/20        (2006.01)
FI G01T 1/17 E
G01T 1/167 C
G01T 7/00 C
G01T 1/16 A
G01T 1/20 H
請求項の数または発明の数 7
全頁数 24
出願番号 特願2011-283518 (P2011-283518)
出願日 平成23年12月26日(2011.12.26)
審査請求日 平成26年11月12日(2014.11.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】谷垣 実
【氏名】奥村 良
個別代理人の代理人 【識別番号】100099793、【弁理士】、【氏名又は名称】川北 喜十郎
【識別番号】100154586、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 正広
審査官 【審査官】青木 洋平
参考文献・文献 特開2004-205375(JP,A)
特開2005-249580(JP,A)
特開平05-183180(JP,A)
特開2008-170249(JP,A)
特開平08-334563(JP,A)
谷垣 実,KURAMAの開発と運用,FBNews No.420,日本,株式会社千代田テクノル 線量計測事業部,2011年12月 1日,No.420,第6-10ページ
調査した分野 G01T 1/16
G01T 1/17
G01T 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
構造物の内部に配置されて放射線の線量率マップデータを収集する放射線量率マップデータ収集システムであって、
所定のトリガ条件が満たされたときに、自動的に放射線量の測定と現在位置に関する位置情報の測定とを行い、得られた線量率データと位置データとを組み合わせて放射線量率マップデータを取得するように構成され、
前記放射線量率マップデータ収集システムは、
前記構造物の内部に配置されて、放射線の線量率を測定する放射線測定手段と、
前記構造物の種類に応じて求められた放射線の遮蔽率に関する情報を、少なくとも1つ含むデータテーブルを保持可能なメモリ手段と、
前記放射線測定手段により測定された線量率データを較正する較正手段を有し、
前記較正手段は、
前記データテーブルに現在の構造物又は現在の構造物に近い構造物に対応する放射線の遮蔽率に関する情報が含まれる場合には、前記データテーブルに含まれる当該情報に基づいて前記線量率データを較正し、且つ、
前記データテーブルに現在の構造物又は現在の構造物に近い構造物に対応した放射線の遮蔽率の情報が含まれない場合には、外部から入力された放射線の遮蔽率に関する情報に基づいて前記線量率データを較正するように構成されていることを特徴とする放射線量率マップデータ収集システム。
【請求項2】
前記放射線量率マップデータ収集システムは、
在位置に関する位置データを取得する位置情報取得手段と、
前記較正手段により較正された線量率データ及び当該線量率データが測定された地点における位置データを関連付けて放射線量率マップデータを作成するマップデータ作成手段と、
前記放射線測定手段、前記較正手段、前記位置情報取得手段、及び前記マップデータ作成手段を制御して、前記放射線量率マップデータの自動収集を行わせる制御手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の放射線量率マップデータ収集システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記位置情報取得手段が位置情報を正常に取得しているかどうかを判定し、前記位置情報が正常に取得されている間に、前記放射線測定手段に前記線量率の測定を行わせることを特徴とする請求項2に記載の放射線量率マップデータ収集システム。
【請求項4】
前記放射線測定手段は、入射した放射線のエネルギーに応じて異なる出力信号を出力する検出器を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の放射線量率マップデータ収集システム。
【請求項5】
前記検出器がCsIシンチレーション検出器であることを特徴とする請求項4に記載の放射線量率マップデータ収集システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記放射線測定手段に、前記検出器の前記出力信号の大きさと前記入射した放射線のエネルギーとの相関を測定させることを特徴とする請求項4又は5に記載の放射線量率マップデータ収集システム。
【請求項7】
さらに、収集した前記線量率データ、較正された線量率データ、位置データ、放射線量率マップデータのうち少なくとも1つのデータを、有線回線又は無線回線を通じて所定の外部記憶装置に転送するデータ転送手段を備える請求項4~6のいずれか一項に記載の放射線量マップデータ収集システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばγ線の空間線量率のような放射線量率を測定し、それに基づいて放射線量率マップを作製する放射線量率マップデータ収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所のような原子炉を有する原子力関連施設の敷地内及び敷地周辺には、複数の固定式のモニタリングポストが点在するように配置されており、各モニタリングポストの位置における空間線量率が常時モニターされている。ここで、空間線量率(又は放射線量率)とは、対象とする空間の単位時間当たりの放射線量のことである。放射線の量を、物質が放射線から吸収したエネルギー量(吸収線量)で測定する場合、空間線量率は、吸収線量の単位であるGy(グレイ)を用いてGy/h(グレイ/時)で表される。あるいは、放射線の量を、生体の被曝の影響による生物学的影響の大きさ(線量当量)で測定する場合、空間線量率は、線量当量の単位であるSv(シーベルト)を用いてSv/h(シーベルト/時)で表される。なお、線量当量は、吸収線量に生体への影響に応じた係数をかけることにより求められる。空間線量率をモニターすることにより、放射性物質の漏洩をいち早く検知することができるとともに、必要に応じて、近隣住民に対して避難勧告などの適切な指示を出すことができる。しかしながら、チェルノブイリ原子力発電所や福島第1原子力発電所で発生した大規模な放射性物質の漏洩事故のような原子力災害が発生した場合、漏れ出した放射性物質は半径数十km~数百km(あるいはそれ以上)の広範囲の地域に拡散する。このような原子力災害が発生した場合、空間線量の分布を示すマップ(以下、放射線量率マップと呼ぶ)を作製することは、拡散した放射性物質がどこにどのくらい分布しているかを推定するため、及び、住民の被曝管理や放射性物質の拡散状況を推定するために重要であり、住民の避難区域や屋内退避区域を画定したり、住民が無用の被曝をしないように種々の規制区域を設けたりするために有用である。また、放射線量率マップの作製することは、除染計画や被害を受けた地域の環境修復の計画等を立てる上でも非常に重要である。
【0003】
放射線量率マップの一例として、γ線(あるいはX線)の線量率分布をマッピングした(γ線の)空間線量率マップが挙げられる。このような空間線量率マップを作製する場合、モニタリングポストにおいて計測される空間線量率のデータを利用することが考えられる。しかしながら、モニタリングポストの設置箇所は限られているので、すべての地域において空間線量率を測定することは不可能である。また、大規模な放射性物質の漏洩事故を想定して、あらかじめ広範囲の地域にわたって、モニタリングポストを密に設置することは費用の面からも現実的ではない。
【0004】
ここで、特許文献1には、設置場所を検知するGPS位置測定器及び放射線量を測定する放射線測定器を有する移動可能な子局と、子局から遠く離れた場所でデータ処理を行う親局とを備える緊急時環境放射線モニタリング装置が開示されている。なお、子局は、検出した位置データ及び放射線量データを無線で親局に伝送するデータ送信装置を有しており、親局は、各子局からの位置データ及び放射線量データを受信するデータ受信装置と、受信したデータを測定エリアの放射線量率マップとして画像化するデータ処理装置を有している。
【0005】
このような装置はすでに実用化されており、例えば福島第一、第二原子力発電所を有する福島県には、NaIシンチレーション検出器、電離箱測定装置、中性子線量測定装置、ダストサンプラ、気象観測装置及びゲルマニウム半導体検出器等を搭載した環境放射線測定車が配備されている。この環境放射線測定車は、平常時には、福島第一及び第二原子力発電所に係る原子力防災対策を重点的に充実するために、発電所から半径10kmの範囲の地域において定められた計104地点を巡回し、各地点の空間線量率、大気浮遊じん中の放射能濃度等を測定している。そして、緊急時には、原子力発電所周辺地域の、予め定められている緊急時環境モニタリング地点において、同様に空間線量率、大気浮遊じん中の放射能濃度等の測定を行うことになっている。いずれの場合にも、測定されたデータは、衛星携帯電話回線を通じて福島県原子力センターに伝送される。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平8-334563号公報
【0007】

【非特許文献1】日本分析センター広報No.32 28~34ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、東日本大震災における、福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故に際して、以下のような問題のために環境放射線測定車を用いた空間線量率マップの作製を実施することができなかった。まず、測定されたデータが送信される福島県原子力センターは、事故のあった福島第1原子力発電所から5km程度しか離れておらず、高線量区域であるとして立ち入り禁止区域に指定された。そのため、データ解析のために必要な人員が立ち入ることができず、解析システムを稼働できないという問題があった。さらに、高線量区域で環境放射線測定車の車両自体が汚染されてしまい、正確な空間線量率を測定することができなくなるという問題があった。ここで、環境放射線測定車は、上述の多種多様な放射線検出器群を搭載した特注の特殊車両である。また、これらの放射線検出器にカスタマイズされた回路系、データ処理システムが車両に備え付けられているため、これらの検出器群を容易に他の車両に乗せ替えることができない。そのため、環境放射線測定車両が汚染される度に、車両の除染を行わなければ正確な測定を行うことができず、実用に耐えないという問題があった。
【0009】
また、環境放射線測定車は、上述のような種々の放射線検出器、専用の回路系、データ処理システムなどを搭載するために、大型のバンを改造して製造された特殊車両である。そのため、大型のバンでは入れないような細い路地や、道路以外の箇所(例えば公園、校庭、事業所内など)での測定ができないことも問題になっていた。また、福島県が導入していた環境放射線測定車のような特注の専用車両は非常に高額であるため、広域の空間線量マップを作製するために多数台の車両を投入することは困難であった。
【0010】
さらに、原子力災害では、災害発生後環境の汚染状況を数十年に渡って長期的に観測し続け、必要に応じて放射線防護のための行動制限、除染等の対策が取られ続けることになる。しかし従来の特殊車両では、被災地域を長期にわたって継続的に観測する事は金銭的にも人員的にも負担が大きく困難である。
【0011】
本発明の目的は、原子力災害発生後の環境の汚染状況を把握するために、放射線量率(γ線の空間線量率等)を容易に、且つ、長期的に計測するために好適な放射線量率マップデータ収集システムであって、放射線計測に不慣れなユーザーであっても容易且つ正確に放射線量率マップデータを収集することができる放射線量率マップデータ収集システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様に従えば、構造物の内部に配置されて放射線の線量率マップデータを収集する放射線量率マップデータ収集システムであって、
所定のトリガ条件が満たされたときに、自動的に放射線量の測定と現在位置に関する位置情報の測定とを行い、得られた線量率データと位置データとを組み合わせて放射線量率マップデータを取得するように構成され、
前記放射線量率マップデータ収集システムは、
前記構造物の内部に配置されて、放射線の線量率を測定する放射線測定手段と、
前記構造物の種類に応じて求められた放射線の遮蔽率に関する情報を、少なくとも1つ含むデータテーブルを保持可能なメモリ手段と、
前記放射線測定手段により測定された線量率データを較正する較正手段を有し、
前記較正手段は、
前記データテーブルに現在の構造物又は現在の構造物に近い構造物に対応する放射線の遮蔽率に関する情報が含まれる場合には、前記データテーブルに含まれる当該情報に基づいて前記線量率データを較正し、
前記データテーブルに現在の構造物又は現在の構造物に近い構造物に対応した放射線の遮蔽率の情報が含まれない場合には、外部から入力された放射線の遮蔽率に関する情報に基づいて前記線量率データを較正するように構成されていることを特徴とする放射線量率マップデータ収集システムが提供される。
【0013】
本発明の放射線量率マップデータ収集システムによれば、該システムは構造物による放射線の遮蔽率に関する情報を保持することができる。そのため、システムに保持されている遮蔽率に関する情報から、現状の構造物の遮蔽率を決定(又は推定)することができない場合を除いて、ユーザーは構造物による放射線の遮蔽率に関する測定を行わなくても、放射線量率マップデータを収集することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放射線計測に不慣れなユーザーであっても、容易且つ正確に放射線量率マップデータを収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はKURAMAシステム1の概略図である。
【図2】図2はNaIシンチレーション検出器10の概略図である。
【図3】図3は固定装置120の概略図である。
【図4】図4は3次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカーを表示した空間線量率マップの一例である。
【図5】図5は、2次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカーが表示された空間線量率マップの一例である。
【図6】図6は、学校位置から約150m以内の位置(路上)で測定された空間線量率の測定結果と、文部省により測定された校庭での空間線量率の測定結果との相関を示すグラフである。
【図7】図7は、学校位置から約80m以内の位置(路上)で測定された空間線量率の測定結果と、文部省により測定された校庭での空間線量率の測定結果との相関を示すグラフである。
【図8】図8は、学校位置から約50m以内の位置(路上)で測定された空間線量率の測定結果と、文部省により測定された校庭での空間線量率の測定結果との相関を示すグラフである。
【図9】図9は、文科省が作製した空間線量率マップと、KURAMAシステムを用いて作製された空間線量マップとの比較を示す図である。
【図10】図10はKURAMA-IIシステムの概略図である。
【図11】図11はCsIシンチレーション検出器の概略図である。
【図12】図12はパルス波高スペクトルの一例である。
【図13】図13はパルス波高スペクトルの全CHにわたる積分値の、単位時間あたりの変化量と空間線量率との相関を示すグラフである。
【図14】図14はKURAMA-IIシステムの動作シーケンスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、本発明に係る放射線量率マップデータ収集システムの開発に先がけて、KURAMAシステムと呼ばれる放射線量率マップデータ収集システムを開発した。このKURAMAシステムは、Kyoto University RAdiation MAppingシステムの略であり、本発明者らを中心にして京都大学において開発された空間線量率マップを作製するためのシステムである。本発明者らは、このKURAMAシステムを用いて、福島県などにおいて空間線量率マップの作製を行ってきた。その過程において、本発明者らはKURAMAシステムにおいて改良すべき点を見出し、本発明に係る放射線量率マップデータ収集システムの一例であるKURAMA-IIシステムを開発するに至った。

【0017】
本発明に係る放射線量率マップデータ収集システムであるKURAMA-IIシステムについて説明する前に、先ず、本発明者ら開発したKURAMAシステム1(放射線量率マップデータ収集システム)について説明する。KURAMAシステム1の概要及びそれを用いた実証実験(空間線量率測定実験)について説明した後、発明者らによって見出されたKURAMAシステム1の問題点や改良すべき点について説明し、その後、それらの問題点等を鑑みて開発された、本発明に係る放射線量率マップデータ収集システムの一例であるKURAMA-IIシステムについて説明する。
<KURAMAシステム1の概略>

【0018】
図1に示されるように、KURAMAシステム1は空間線量率を測定する放射線測定器としてのNaIシンチレーション検出器10と、全地球測位システム(GPSシステム)を利用して現在位置の情報を取得するGPSユニット20(位置情報取得機構)と、NaIシンチレーション検出器10及びGPSユニット20により取得されたデータ(線量率データ及び位置データ)を処理するデータ処理システム30と、NaIシンチレーション検出器10からのアナログ出力をA/D変換してデータ処理システム30に取り込むためのインターフェースユニット40と、データ処理システム30により処理されたデータを後述のサーバ90に送信するデータ送信ユニット50とを主に備える。

【0019】
図2に示されるように、NaIシンチレーション検出器10は、発光中心としてのタリウム(Tl)がドープされたNaI結晶11及びNaI結晶11に光学的に接続された光電子増倍管(不図示)が内部に配置された円筒形状の測定部12と、光電子増倍管に所定の電圧を印加する高圧電源や光電子増倍管からの出力信号を成形し波高分別するための電子回路が配置された本体部13と、測定部12及び本体部13を電気的に接続するケーブル14とを主に備える。本体部13には、測定された、単位時間あたりの放射線(γ線又はX線)の線量(以下、空間線量率という)を表示するメータ13a、NaIシンチレーション検出器10の測定レンジを切り替えるレンジスイッチ13b、測定された空間線量率に対応したアナログ電圧信号を出力する出力部13c等が設けられている。

【0020】
ここで、NaI結晶11の内部にγ線、X線などの放射線が入射した場合、NaI結晶11を構成する原子と放射線との相互作用により、高エネルギーの電子が放出されることがある。放出された高エネルギーの電子は、周りの原子を励起させつつエネルギーを失うが、励起された周りの原子からはシンチレーション光が発せられる。言い換えると、放出された高エネルギーの電子の運動エネルギーがシンチレーション光に変換される。このシンチレーション光の光量は、放出された電子の運動エネルギーの大きさに依存し、放出された電子の運動エネルギーの大きさは、NaI結晶11を構成する原子と放射線との相互作用の大きさに依存する。このことから、NaI結晶11から発せられるシンチレーション光の光量を測定することにより、γ線、X線などの放射線がNaI結晶11を構成する原子との相互作用によって結晶内部で失ったエネルギーの大きさを求めることができる。具体的には、NaI結晶11から発せられたシンチレーション光の光量を、NaI結晶11に光学的に接続された不図示の光電子増倍管により測定する。光電子増倍管からの出力信号は、本体部13に配置された電子回路により信号処理され、空間線量率が求められる。測定された空間線量率がメータ13aに表示されるとともに出力部13cから空間線量率の大きさに応じたアナログ電圧信号(例えば、0~10mV)が出力される。

【0021】
インターフェースユニット40は、出力部13cから出力されるアナログ電圧信号を増幅するオペアンプ41と、オペアンプ41により増幅されたアナログ電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器42とを主に備える。なおオペアンプ41は、例えば0~10mVの低電圧のアナログ電圧信号を0-10Vのアナログ電圧信号に増幅する。

【0022】
インターフェースユニット40のAD変換器42によりAD変換された、空間線量率に関する情報を含むデジタル信号(以下、空間線量率信号と呼ぶ)と、現在位置の情報を含むGPSユニット20からの出力信号(以下、GPS出力信号と呼ぶ)とがデータ処理システム30に入力される。データ処理システム30は、空間線量率信号とGPS出力信号から、現在位置に関する情報(測定位置データ)を抽出するとともに、その位置での空間線量率データを抽出する。そして、測定位置データ(例えば、緯度情報及び経度情報)と空間線量率データとを関連付けて空間線量率マップデータ(放射線量率マップデータ)を作成し、これをテキストファイルに記録する。このテキストファイルには、1~10秒間隔で、空間線量率マップデータ(すなわち、測定位置データ及びその位置における空間線量率データ)が追加更新される。

【0023】
空間線量率マップデータが順次記載されたテキストファイルは、データ送信ユニット50によりサーバ90に送信される。サーバ90上に置かれたファイルは、他のユーザーとの間で共有することも可能である。

【0024】
上述のように、テキストファイルには、測定位置データと、それに関連付けられた空間線量率データとが記載されているので、これを用いて空間線量率マップを作製することができる。具体的には、例えば白地図を用意して、白地図上の測定位置に対応する箇所に、空間線量率の大きさによって色分けされたマーカー(例えばドットなど)を表示してもよい。あるいは、等高線マップを作製してもよい。

【0025】
また、測定位置データ及び空間線量率データを、電子地図データ(例えば、Google社のGoogle Earth(登録商標)等)と組み合わせることも可能である。この場合には、例えば図4に示されるように、3次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカーを表示させるなど、視覚的に分かり易い空間線量率マップを形成することができる。
<KURAMAシステムを用いた空間線量率測定実験>

【0026】
次に、KURAMAシステム1の有用性を確かめるために行った空間線量率測定実験について説明する。上述のKURAMAシステム1を自動車に搭載し、福島県内の道路を走行しつつ空間線量率の測定を行った。なお、人体に対する被曝の影響を議論する際には、地表面から1mの高さにおいて測定された空間線量率の測定データが用いられることが多い。そこで、本実験においても、NaIシンチレーション検出器10の測定部12を、車内に配置された固定装置15を用いて地上から1mの高さに固定した状態で測定を行った。図3に示されるように、固定装置15は、車両の運転席(又は助手席)の後方に測定部12を固定する器具であり、上下方向に延びる2本の脚部15Aと、2本の脚部15Aを平行に保ちつつ、運転席(助手席)のヘッドレストに連結して固定する連結固定部15Bと、2本の脚部15Aの間に架け渡されて、地上から1mの高さに、NaIシンチレーション検出器10の測定部12を支持する支持部15Cとを備えている。

【0027】
なお、本実験のように、車内に測定部12が配置される場合には、車外での測定に比べて空間線量率が低くなる。車体により、γ線などが遮蔽されるからである(シールド効果)。そこで、空間線量率の測定に先がけて、車体によるシールド効果の影響を取り除く補正を行うために、以下に示すような校正実験を行った。校正実験においては、まず、車外において、地上から1メートルの高さの位置に測定部12を配置して、車外における空間線量率を測定した。次に、車内の、地上から1メートルの高さに測定部12を固定した状態で、同じ位置での空間線量率をした。なお、車外における測定と車内における測定とで、同じ位置での測定がなされている限り、車外と車内の測定の順序は問わない。また、校正実験は広い駐車場のような、周りに建物や木などの構造物が無いところで行われることが好ましい。測定部12の近くに構造物がある場合、例えば、その表面に放射性物質が付着していると、測定部12に対して偏った方向から放射線が入射することになる。あるいは、構造物が、構造物の陰になる位置にある放射性物質からの放射線を遮蔽することも考えられる。このような理由により、測定部12の近くに構造物がある場合には、構造物が空間線量率測定の結果に影響を及ぼす可能性があり、車体によるシールド効果を正しく評価することができないからである。なお、車外における空間線量率の測定を行っている際には、車両を測定部12から遠ざけておくことが好ましい。車両の表面などに放射性物質が付着している場合、車外での測定において見かけ上空間線量率が高くなってしまうことを避けるためである。

【0028】
上述のようにして、同じ位置に関して、車外及び車内でそれぞれ空間線量率を測定することができ、その測定結果を用いて、車内での空間線量率に対する車外での空間線量率の比率(校正比率)を求めることができる。この校正比率に従って、車内で測定された空間線量率の値を車外での値に換算することができる。

【0029】
次に、路上走行中における空間線量率の測定について説明する。まず、前述の校正実験における車内での測定と同様に、固定装置15を用いて、NaIシンチレーション検出器10の測定部12を地上から1mの高さに固定した。そして、NaIシンチレーション検出器10の本体部13、GPSユニット20、データ処理システム30、インターフェースユニット40及びデータ送信ユニット50を、車内に配置した。

【0030】
本実験では、データ処理システム30として、いわゆるネットブックと呼ばれる小型で軽量のノート型コンピュータを用いた。また、データ送信ユニット50として3G回線(携帯電話回線)を通じてデータの送受信を行うモバイルルータ端末を用いた。さらに、NaIシンチレーション検出器10として、小型で軽量の検出器であるALOKA社のNaIシンチレーション検出器(TCS-161)を用いた。また、GPSユニット20はデータ処理システム30にUSB接続可能な小型モジュールとして構成されており、インターフェースユニット40も小型の箱形モジュールとして構成されている。また、データ処理システム30には、インターフェースユニット40、GPSユニット20、NaIシンチレーション検出器10等の各機器を制御するとともに、各機器間データ送受信を管理し、測定されたデータを所望の形式に加工成形するためのインターフェースプログラムが搭載されている。本実験で用いたインターフェースプログラムは、National Instruments社製のLabVIEW(登録商標)という開発プラットホームで開発されたプログラムである。LabVIEW(登録商標)を用いることにより、直感的に分かりやすいグラフィカルなインターフェースプログラムを容易に作製することができる。

【0031】
上述のように、KURAMAシステム1を構成する各ユニット(NaIシンチレーション検出器10、インターフェースユニット40等)は、いずれも小型軽量のモジュールとして構成されており、車内に配置する際に専用の架台等を特に必要としない。また、設置に際してわずかな場所しか占有しないため、小型車両(例えば軽自動車等)であっても十分設置することができる。また、いずれのユニットもバッテリー駆動が可能であるため、測定に際して外部電源を用意する必要がない。なお、測定が長時間に及ぶ場合などに備えて、外部電源を用意してもよい。例えば、車のバッテリーから電源を供給できるようにしてもよい。

【0032】
KURAMAシステム1を構成する各ユニットを車内に配置した状態で、福島市内及びその近傍の国道、県道などを走行しつつ、空間線量率の測定を行った。測定されたデータは、上述のようにデータ処理システム30により測定位置データ及びその測定位置における空間線量率データに変換され、テキストファイルとして記録された。そして、記録されたテキストファイルは、データ送信ユニット50によりサーバ90に送信された。なお、データ送信ユニット50がサーバ90にデータを送信するタイミングは不定期であってもよく、あるいは、一定間隔(例えば60秒間隔等)であってもよい。

【0033】
ここで、本実験においては、サーバ90として、クラウドコンピューティング技術を用いたオンラインストレージサービスの1つである、Dropbox社の「Dropbox(登録商標)」により提供されるサーバを用いられた。Dropboxを用いると、予め設定したローカルコンピューターの所定のフォルダ内のファイルを、ネットワーク上のストレージ領域に同期させることができる。そのため、ユーザーは、ファイルをサーバ90に送信するために特別な操作をする必要はなく、ローカルコンピューターの所定のフォルダのファイルを書き換えるだけでよい。このように、Dropboxのような汎用のオンラインストレージサービスを活用することにより、データ送信用の複雑なプログラムを用意しなくとも、容易にファイルをサーバ90に送信することができた。この際に、ファイルの変更部分のみを更新すること(差分同期)も可能であるため、通信量を軽減させることができる。なお、Dropboxを用いてネットワーク上のストレージ領域に置かれたファイルを、複数の者が共有することもできる。

【0034】
そして、一定時間毎に更新されたファイルに記載された測定位置データ及びその測定位置における空間線量率データを用いて、空間線量率マップを作製した。なお、本実験においては、上述のようなGoogle社のGoogle Earth(登録商標)を用いて、3次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカーが表示された空間線量率マップ(図4参照)や、2次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカーが表示された空間線量率マップ(図5参照)などを作製した。

【0035】
本実験における測定の信頼性を確かめるために、本実験における空間線量率の測定結果と、文科省が福島県内の学校の校庭で実施した空間線量率の測定結果との比較を行った。図6、7、8は、それぞれ学校位置から約150m、約80m、約50m以内の位置(路上)で測定された、本実験での空間線量率の測定結果と、文部省により測定された校庭での空間線量率の測定結果との相関を示すグラフである。これをみると、いずれの距離においても、本実験における空間線量率の測定結果と、校庭での空間線量率の測定結果は強く相関していることがわかる。特に、学校からの距離が短くなるにつれて、よい相関がみられる。この結果から、KURAMAシステムを用いて行った測定結果は、従来の手法を用いて測定された結果と比較して十分信頼できることが確認された。

【0036】
図9に、KURAMAシステムを用いた上述の実験において測定されたデータに基づいて作製された空間線量率マップ(図9左側)と、文科省が校庭を含めて福島県内の複数の測定箇所(固定地点)で行った測定に基づいて作製した空間線量率マップ(図9右側)とを示す。ここで、図9左側に示されているKURAMAシステムを用いた測定に基づいて作製された空間線量率マップの範囲は、図9右側に示されている固定地点での測定に基づいて作成された空間線量率マップにおける四角領域に相当する。一目瞭然にわかるように、KURAMAシステムを用いて作製された空間線量率マップの方が、圧倒的に(位置)分解能が優れている。ここで、固定地点での測定では、必然的に測定地点の数が限られるため、位置分解能を上げることは困難であるのに対して、KURAMAシステムを用いた測定においては、測定地点の数は特に制限されず、必要に応じて任意の間隔で測定を行うことができる。そのため、容易に、高い位置分解能で空間線量率マップを作製することができる。
<KURAMAシステムの応用例>

【0037】
上述のように、KURAMAシステム1を用いることによって、広範囲の空間線量率マップを短時間に容易に作製できることがわかった。また、NaIシンチレーション検出器10の測定部12を固定装置15に固定し、上述の校正実験を行えば、あとは車で走行している間に、自動的に測定し続けることも可能である。そのため、測定に際して大人数が必要ではなく、1~2名で十分である。さらに、上述のように、KURAMAシステム1自体が小型且つ軽量のシステムであるため、小型車両を含む任意の大きさの自動車に搭載できることは勿論、例えば、リュックに入れた状態で人が背負って移動させることも可能である。また、KURAMAシステム1は安価に製作することができるため、KURAMAシステム1を大量に投入した一斉測定を行うこともできる。このような点を考慮すると、KURAMAシステム1を以下のように応用することも可能である。

【0038】
上述のように、KURAMAシステム1においては、従来の環境放射線測定車のように大型のバンを利用する必要はなく、小型車にも搭載できる。そのため、大型のバンが入っていけないような狭い道での空間線量率の測定も可能である。さらに、KURAMAシステム1は、人がリュックに入れて背負ったり自転車に搭載したりすることも可能である。そのため、例えば人がKURAMAシステム1を携帯することによって、自動車では走行できない場所での測定も可能となる。例えば、通学路のような歩道や、学校、公園、工場、事業所などの敷地内などにおいても空間線量率の測定を行い、空間線量率マップを作製することができる。
<KURAMAシステムの問題点>

【0039】
上述のように、KURAMAシステム1においては、NaIシンチレーション検出器10が上述のような手順で適切に校正されていれば、測定中に測定者が特に操作しなくとも半自動的に測定を行うことができる。そのため、測定を実行する者は必ずしもKURAMAシステム1や放射線計測に精通した者でなくてもよい。しかしながら、上述のようにKURAMAシステム1においては、車内にNaIシンチレーション検出器10を配置した状態で、車外の空間線量率を測定している。そのため、測定に用いているNaIシンチレーション検出器10について、車内での空間線量率に対する車外での空間線量率の比率(校正比率)を求めて、車内で測定された空間線量率を車外での値に校正する必要がある。しかしながら、車内での空間線量率に対する車外での空間線量率の比率(校正比率)を求めることは、KURAMAシステム1や放射線計測に精通していない者にとって必ずしも容易ではない。万が一、上記校正比率に誤った値が設定されてしまうと、各地点における空間線量率データが、本来得られるべき値からずれてしまうことになる。そのため、上記KURAMAシステム1における測定に際しては、予め(あるいは事後的に)、放射線計測に対してある程度の経験と知識を持った者が上記校正比率を正確に測定することが求められていた。そこで本発明者らは、次世代のKURAMAシステムにおいては、放射線計測に全く精通していない者であっても、KURAMAシステムを起動し、上述の校正比率の設定を含めた校正作業を行い、空間線量率マップを作製することができるように改良されることが望ましいと考えるに至った。

【0040】
また、現状のKURAMAシステム1においては、NaIシンチレーション検出器10、GPSユニット20、データ処理システム30、インターフェースユニット40、データ送信ユニット50等は独立のユニットとして構成されており、これらの立ち上げ及び調整、各ユニットの接続(例えばNaIシンチレーション検出器10とインターフェースユニット40との接続等)は測定者が行わねばならなかった。このことも、放射線計測に全く精通していない者がKURAMAシステム1を使いこなすことを困難にしていた。そこで、本発明者らは、次世代のKURAMAシステムにおいては、複数のユニットがワンパッケージ化されていて、ユーザーが各ユニットの接続作業から解放されることが望ましいと考えるに至った。さらに、本発明者らは各ユニットの立ち上げ及び調整も自動で行われることが望ましいと考えるに至った。

【0041】
また、KURAMAシステム1は、従来の環境放射線測定車に搭載されていた放射線検出システムのような、多種多様な放射線検出器群及びそれらにカスタマイズされた専用の回路系、データ処理システムを含む放射線検出システムと比較すると、大幅に小型、軽量化されており、例えば小型車にも搭載できる。そのため、従来の環境放射線測定車のような、大型のバンを改造した特殊車両が入っていけないような狭い道での空間線量率の測定も可能である。さらに、KURAMAシステム1は、人がリュックに入れて背負ったり自転車に搭載したりすることも可能である。しかしながら、現状のKURAMAシステム1では、放射線測定器としてのNaIシンチレーション検出器10とインターフェースユニット40とは別の筐体として構成されており、さらにデータ処理システム30も別の筐体として構成されていた。これら3つを合わせると両手で抱えるほどの大きさとなるため、必ずしも人が携帯するのに適した大きさであるとは言えなかった。そのため、本発明者らは、KURAMAシステム1のさらなる小型、軽量化が望まれると考えるに至った。特に、KURAMAシステム1では、放射線測定器としてのNaIシンチレーション検出器10とインターフェースユニット40とが別の筐体として構成されていたため、本発明者らは、次世代のKURAMAシステムにおいては、携帯性の観点からも、少なくともこれらの2つのユニットが一体に構成されることが望まれると考えるに至った。

【0042】
また、KURAMAシステム1においては、NaIシンチレーション検出器10から出力される、空間線量率の大きさに応じたアナログ電圧信号をインターフェースユニット40のAD変換器42でデジタル信号に変換することによって、空間線量率信号を得ていた。この場合において、測定者はNaIシンチレーション検出器10に入射したγ線又はX線(以下、単にγ線という)のエネルギーの大きさ(厳密には、上述のようにNaIシンチレーション検出器10に入射したγ線が、NaIシンチレーション検出器10内で失ったエネルギーの大きさであるが、説明の簡略化のため、以後の説明においては、単にNaIシンチレーション検出器10に入射したγ線のエネルギーの大きさという)についての情報を直接得ることができず、空間線量率に換算された情報だけを得ることができた。ここで、KURAMAシステム1は、空間線量率マップデータを作製するためのものであるため、NaIシンチレーション検出器10から、入射したγ線のエネルギーの大きさについての情報を得る必要は必ずしも無いとも言える。しかしながら、NaIシンチレーション検出器10などの放射線検出器から、検出器に入射した放射線(γ線)のエネルギーの情報を取り出すことができれば、例えば、以下に説明するような核種同定などに利用することができる。

【0043】
放射性核種がβ崩壊した際、多くの場合、それに引き続いてγ線も放出される。このときのγ線のエネルギーを測定することができれば、どのような放射性核種の崩壊によって、そのγ線が放出されたのかを知ることができる。例えば、東日本大震災における、福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故において大気中に放出された種々の放射性核種のうち、事故発生後半年経過した時点において、環境に残留するγ線源として特に問題となっているのが、質量数134のセシウム元素(134Cs)と質量数137のセシウム元素(137Cs)である。なお、134Csの半減期、137Csの半減期はそれぞれ、約2.06年、約30.6年である。134Csからは、主に、約605keV、約796keVのエネルギーを持つγ線が、それぞれ、100崩壊あたり約97.6回、約85.5回の頻度で放出される。137Csからは、主に、約662keVのエネルギーを持つγ線が、100崩壊あたり約85.1回の頻度で放出される。放射線検出器によりγ線のエネルギーを測定することができれば、放射線検出器に入射したγ線に、134Csに起因するγ線及び137Csに起因するγ線がそれぞれどの程度含まれているのかを求めることができる。言い換えると、測定を行った時点において、半減期が比較的短い134Csと半減期が比較的長い137Csとがどの程度の比率で分布しているのかを把握することが可能となる。中長期的な除染計画を立案する上で、半減期が比較的短い134Csと半減期が比較的長い137Csとがどの程度の比率で分布しているのかを把握することは非常に有用である。

【0044】
また、放射能漏れ事故が発生した直後や、ベントが実行された場合には、環境中に質量数131のヨウ素(131I)が大量に放出されることが知られている。この131Iの半減期は約8日であり、上述の134Cs、137Csと比べて非常に短い。しかしながら、ヨウ素は気化して大気中に広範囲に拡散しやすい上、呼吸や飲食により体内に入ると甲状腺に取り込まれやすいことがわかっている。そのため、131Iが体内に入ると甲状腺に取り込まれた状態(甲状腺に集まった状態)で放射線を放出する可能性が高いため、甲状腺ガンを引き起こす可能性があることが知られている。このように、131Iは体内被曝の原因となる放射性核種として知られており、住民(特に子供)の被曝を最小限に抑えるという観点から131Iの空間分布を測定することは非常に有用である。この131Iからは約364keVのエネルギーのγ線が放出される。ある地点において測定されるγ線の中に、131Iに起因するγ線がどの程度含まれているかを定量的に把握することができれば、その地点において131Iがどの程度存在しているかを知ることができる。また、上述の134Cs、137Cs及び131Iに限られず、他の放射性核種についても同様に、ある地点において測定されるγ線の中に、その放射性核種に起因するγ線がどの程度含まれているかを定量的に把握することができれば、その地点においてその放射性核種がどの程度存在しているかを知ることができ、核種ごとの汚染状況を推定することができる。

【0045】
以上の理由から、本発明者らは、次世代のKURAMAシステムにおいては、単に空間線量率のデータを収集するだけでなく、γ線のエネルギー測定も行えるようになることが望ましいと考えるに至った。
<KURAMA-IIシステム100>

【0046】
以上のような問題点及び改良が望まれる点を鑑み、本発明者らはKURAMAシステム1を改良した次世代型のKURAMAシステムとして、本発明に係るKURAMA-IIシステム100を開発した。以下、図10を参照しつつ、KURAMA-IIシステム100について説明する。なお、上述のKURAMAシステム1と相違する点について説明することとし、共通する構成要素については同一の参照符号を付してその説明を省略する。

【0047】
図10に示すように、KURAMA-IIシステム100は、CsIシンチレーション検出器110と、GPSユニット20と、データ処理システム30と、インターフェースユニット140と、データ送信ユニット50と、コントローラ160とを有する。後述のように、インターフェースユニット140は、National Instrument社のCompact RIOシステムにより実現されている。また、前述のKURAMAシステム1においては、データ処理システム30はネットブックと呼ばれる軽量、小型のノート型パソコンにおいて起動するプログラムにより実現されていた。KURAMA-IIシステム100においては、インターフェースユニット140を構成するCompact RIOシステムに搭載される小型のPCモジュールにおいて起動するプログラムにより実現されている。また、GPSユニット20及びデータ送信ユニット50も、PCモジュールに対して、USBなどを介して取り付けられる小型モジュールである。また、コントローラ160も、同じPCモジュールにより実現されている。つまり、KURAMA-IIシステム100は、実質的には、インターフェースユニット140、データ処理システム30、コントローラ160等を構成するCompact RIOシステムと、CsIシンチレーション検出器110と、GPSユニット20及びデータ送信ユニット50等の小型モジュールとによって構成されている。そして、これらの各装置(ユニット)は同一の筐体の中に配置することも可能である。そのため、KURAMAシステム1に比べて、格段に携帯性に優れているとともに、ユーザーが各ユニットの接続作業を行う必要がほとんどないため、誤接続などのトラブルの発生を抑えることができる。

【0048】
また、KURAMA-IIシステム100においては、NaIシンチレーション検出器10に代えて、CsIシンチレーション検出器110を採用している。その理由は以下の通りである。一般に、物質とγ線との相互作用は、物質を構成する元素の原子番号が大きくなるほど大きくなることが知られている。ここで、Naの原子番号は11であるのに対して、Csの原子番号は55であることから、NaIシンチレーション検出器とCsIシンチレーション検出器とを比べると、CsIシンチレーション検出器の方がγ線に対する感度が高いと言える。そのため、KURAMA-IIシステム100においては、NaIシンチレーション検出器10に代えてCsIシンチレーション検出器110を採用することにより、γ線に対する感度を維持しつつ、システム全体をKURAMAシステム1と比べてさらに小型軽量化することができた。

【0049】
また、図11に示すように、CsIシンチレーション検出器110は、CsI結晶111と、CsI結晶111に光学的に接続された光電子増倍管、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)等の受光素子112と、受光素子112からの出力されるパルス信号を出力するパルス信号出力部113とを有する。なお、KURAMA-IIシステム100においては、受光素子112としてMMPCを採用している。MMPCは複数のガイガーモードAPD(アバランシェ フォトダイオード)のピクセルを含む、常温で使用できる小型の光半導体素子であり、光電子増倍管と比較して低電圧で動作可能であるとともに、磁場の影響を受けにくいという優れた特性を有している。

【0050】
インターフェースユニット140は、パルス信号出力部113から出力されるパルス信号を増幅するアンプ(パルスシェーピングアンプ)141と、アンプ141の出力信号(アナログ信号)をデジタル信号(デジタル値)に変換するAD変換器142と、FPGA143と、CPU144とを有する。なお、FPGA143とはField Programmable Gate Arrayの略であり、製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路である。KURAMA-IIシステム100においては、インターフェースユニット140として、National Instrument社製のCompact RIOシステムを採用している。上述のアンプ141、AD変換器142、FPGA143、CPU144は、Compact RIOシステムに搭載されるモジュールとして実装されている。なお、前述のように、CPU144は、Compact RIOシステムに搭載されるPCモジュールにより実現されており、このPCモジュールはデータ処理システム30及びコントローラ160を兼ねている。ここで、Compact RIOシステムは、再構成可能な組込制御、集録システムであり、上述のLabVIEW(登録商標)を用いて各モジュールを直接制御するプログラムを容易に作製することができる。また、KURAMA-IIシステム100においては、FPGA143を用いることにより、AD変換器142から出力されるデジタル信号に基づいて、パルスのピーク高さの波高弁別、及びノイズレベルのディスクリミネーションをソフトウェア的に実現している。FPGA143により得られたパルスのピーク高さに関する情報はCPU144へ送られ、CPU144は、図12に示されるようなパルス波高スペクトルを作製する。

【0051】
図12に示されるパルス波高スペクトルの横軸のチャンネル(CH)はパルス波高を表し、縦軸は各CHのカウント数を表す。ここで、パルス信号出力部113から出力されるパルス信号の波高はCsI結晶111内で失われたγ線のエネルギーに比例する。つまり、図12に示されるパルス波高スペクトルは、γ線のエネルギースペクトルに対応する。図12に示されるパルス波高スペクトルは、137Csの標準線源を用いて測定されたものであり、約80CHの位置に見られるピークが、約662keVのγ線の光電ピークに対応する。なお、光電ピークとは、光電効果によって発生した高エネルギーの電子がCsI結晶111中で全エネルギーを失うことによって発生したパルスに対応するピークである。ここで、光電効果とは、CsI結晶111を構成する原子とγ線との相互作用を通じてγ線の全エネルギーが原子に与えられてγ線が消滅する代わりに、当該原子から、消滅したγ線のエネルギーとほぼ同じ運動エネルギーを持った高エネルギーの電子が放出される現象をいう。つまり、図12の約80CHの位置に見られるピークは、137Csの標準線源から放出された約662keVのγ線の全エネルギーがCsI結晶111内で失われた場合に発生するパルスに起因するピークである。このように、本発明者らは、KURAMA-IIシステム100を用いて、γ線のエネルギー測定ができることを確かめた。

【0052】
また、本発明者らは、図13に示されるように、パルス波高スペクトルの全CHにわたる積分値の、単位時間あたりの変化量と空間線量率との間に非常によい相関が見られることを確認した。さらに本発明者らは、エネルギーごとに変わる線量等量の換算係数(スペクトル-線量換算演算子G(E))をかけた後、各CHのカウント数を積分する方法(G関数法、例えば非特許文献1参照)を採用することにより、さらに精度よく空間線量率を求めることができることを確認した。今回のKURAMA-IIシステム100においては、後者のG関数法を用いてパルス波高スペクトルから空間線量率を導出している。言い換えると、ノイズレベルを除いて、単位時間あたりにパルス信号出力部113から出力されるパルス信号のパルス数を計測し、上述の方法により演算を行うことにより、空間線量率を精度よく導出できることを確認した。

【0053】
このように、KURAMA-IIシステム100は、単に空間線量率の測定を行うだけでなく、CsIシンチレーション検出器110からの出力パルス信号のパルス波高スペクトルを測定できるように構成されているため、γ線のエネルギー測定も同時に行うことができる。これにより、前述のような核種同定を行うことが可能である。

【0054】
さらに、KURAMA-IIシステム100は、CsIシンチレーション検出器110と、GPSユニット20と、データ処理システム30と、インターフェースユニット140と、データ送信ユニット50とを制御するコントローラ160を有しており、以下に説明するようにKURAMA-IIシステム100の起動から測定終了に至るまでの各プロセスを自動で実行できるように構成されている。

【0055】
図14のフローチャートに示されるように、KURAMA-IIシステム100に電源が投入されると、KURAMA-IIシステム100は起動プロセスを実行する(S11)。なお、電源の投入後、必ずしも直ちに起動プロセスを実行しなくてもよく、例えば、ユーザーからの命令が不図示の入力手段から入力されるのを待って起動プロセスを実行してもよく、所定の時刻になったときに起動プロセスを実行してもよい。起動プロセスにおいて、コントローラ160は、CsIシンチレーション検出器110、GPSユニット20、データ処理システム30、インターフェースユニット140、及びデータ送信ユニット50の各ユニットが通電されて正常に起動しているかどうかを確認する。例えば、CsIシンチレーション検出器110の受光素子112に適切な電圧が印加されているかどうか、及び、パルス信号出力部113からパルス信号が出力されているかどうかを確認する。なお、CsIシンチレーション検出器110が空間線量の著しく低いところに配置されている場合には、CsIシンチレーション検出器110が正常に起動していてもパルス信号が出力されない場合もあり得るので、その場合には、コントローラ160は、受光素子112に適切な電圧が印加されているかどうかのみを確認してもよい。また、GPSユニット20が正常に起動している場合には、現在位置の情報を含むGPS出力信号を取得できるはずであるので、コントローラ160は、GPS出力信号に含まれる位置情報が現在位置を正しく示しているかどうかを確認することにより、GPSユニット20が正常に起動しているかどうかを確認できる。同様に、コントローラ160は、データ処理システム30、インターフェースユニット140、及びデータ送信ユニット50についても、正常に通電されているかどうか、及び/又は正常なレスポンスを返しているかどうか等を確認することにより、これらの各ユニットが正常に起動しているかどうか確認する。

【0056】
正常に起動していないユニットがある場合(S12:YES)には、コントローラ160は、ユーザーにエラーが発生している旨を報知する(S13)。エラーの報知は任意の方法によって行うことができる。例えば、ビープ音等の音声によりエラーを報知してもよく、不図示の表示器(ディスプレイやインジケータ)を用いてエラーを報知してもよい。あるいは、予め設定されたアドレスに電子メールを送るなどの方法によってエラーを報知することもできる。なお、エラー報知に代えて、あるいはエラー報知に加えて、電源のリセットを行うなどしてエラーが発生しているユニットの再立ち上げを行うこともできる。

【0057】
全てのユニットが正常に動作している場合(S12:NO)には、コントローラ160は、車内での空間線量率に対する車外での空間線量率の比率(校正比率)の設定を行う(S14)。校正比率の設定を行った後、コントローラ160はCsIシンチレーション検出器110のエネルギー校正を行う(S15)。校正比率の設定及びエネルギー校正については、後で詳しく説明する。次に、コントローラ160は、所定のトリガ条件が満たされた場合に、CsIシンチレーション検出器110、GPSユニット20、データ処理システム30、インターフェースユニット140、及びデータ送信ユニット50を制御して測定を開始する(S16)。ここで、所定のトリガ条件が満たされた場合とは、例えば、不図示の入力手段によりユーザーからの測定開始の指令が入力された場合であってもよく、所定時刻になったことであってもよく、あるいは上述の各ステップが異常なく終了した場合であってもよい。そして、所定の終了条件が満たされた場合には、コントローラ160は、CsIシンチレーション検出器110、GPSユニット20、データ処理システム30、インターフェースユニット140、及びデータ送信ユニット50を制御して測定を終了する(S17)。ここで、所定の終了条件が満たされた場合とは、ユーザーからの測定終了の指令が不図示の入力手段から入力された場合であってもよく、所定時刻になったことであってもよく、あるいは、コントローラ160がGPSユニット20からの測定位置データに基づいて、目的地に到着したと判断したことであってもよい。なお、上述の所定のトリガ条件及び終了条件が満たされた場合として挙げた事項はあくまでも例示であり、必要に応じて適宜トリガ条件及び終了条件を設定できることはいうまでもない。

【0058】
なお、上述の各プロセスは必ずしもこの順番で実行しなければならないわけではない。必要に応じて、適宜順番を入れ替えたり、省略したりすることができる。例えば、後述のように、エネルギー校正曲線が予め分かっている場合には、エネルギー校正を行うプロセスは省略しうる。また、エネルギー校正や校正比率の設定のプロセスは、必ずしも測定開始前に行わなければならないわけではなく、例えば、測定終了後に行ってもよい。

【0059】
なお、測定及びデータ収集の手順はKURAMAシステム1の場合とほぼ同様であるので、説明を省略する。なお、コントローラ160は、GPSユニット20が正常に動作している間だけ、空間線量率の測定を行うようにCsIシンチレーション検出器110、インターフェースユニット140、データ処理システム30等を制御してもよい。ここで、GPSユニット20が正常に動作していない場合には、測定位置データとして無意味なデータ(例えば、緯度、経度が共に0°であるデータ)を返す。この場合には、データ処理システム30は、測定位置データと空間線量率データとを関連付けた空間線量率マップデータを作成しないようにしてもよい。つまり、コントローラ160は、測定位置データが現在位置を正しく反映しているかどうかを判断し、現在位置を正しく反映していると判断したときだけ、データ処理システム30に測定位置データと空間線量率データとを関連付けて空間線量率マップデータを作成させてもよい。これにより、無駄なデータを収集することなく、空間線量率マップデータの作製に必要なデータのみを選択的に収集することができる。

【0060】
また、KURAMAシステム1においては、自動車に搭載する際に、固定装置15を用いてNaIシンチレーション検出器10の測定部12を地上から1mの高さに固定していた。KURAMA-IIシステム100においても、同様にして、適当な固定装置(不図示)を用意することにより、CsIシンチレーション検出器110を地上から1mの高さに固定することができる。

【0061】
次に、エネルギー校正のプロセスについて詳細に説明する。前述のように、KURAMA-IIシステム100においては、CsIシンチレーション検出器110からの出力パルス信号のパルス波高スペクトルを測定できるように構成されている。ここで、図12に示されるようなパルス波高スペクトルにおいて、横軸のチャンネル(CH)と、入射γ線のエネルギー(厳密には、入射γ線がCsI結晶内で失ったエネルギー)との間の関係がわかれば、パルス波高スペクトルから、直ちにどの様なエネルギーのγ線がCsIシンチレーション検出器110に入射しているかを把握することができ、核種同定に役立てることができる。

【0062】
エネルギー校正を行う際には、コントローラ160は、CsIシンチレーション検出器110と、データ処理システム30と、インターフェースユニット140とを制御して、一定時間(例えば30分間)にわたって、CsIシンチレーション検出器110からの出力パルス信号のパルス波高スペクトルの測定を行う。例えば、環境中の放射線レベルが高く、134Cs及び/又は137Csのγ線の光電ピークが検出される場合には、コントローラ160は、光電ピークの位置(CH)と光電ピークに対応するγ線のエネルギーとを用いて、パルス波高のチャンネルとγ線エネルギーとの間のエネルギー校正曲線を求めることができる。あるいは、ユーザーが137Csや22Na等の標準線源を所定位置に設置できる場合には、これを利用してエネルギー校正曲線を求めてもよい。なお、必ずしも毎回エネルギー校正曲線を求めなくともよい場合がある。例えば、エネルギー校正曲線をすでに求めたことがある場合であって、そのときとほぼ同じ条件で測定を行う場合などには、過去に求めたエネルギー校正曲線を利用できると考えられる。そのような場合には、エネルギー校正のプロセスを省略してもよい。但し、過去の測定とほぼ同じ条件で測定を行う場合であっても、アンプ141及び受光素子112のゲインが何らかの原因で大きくずれてしまっていることも考えられる。そのような場合には、コントローラ160は、アンプ141及び受光素子112のゲインを調整する必要がある。そこで、エネルギー校正のプロセスを省略する場合であっても、コントローラ160は、アンプ141及び受光素子112のゲインが大きくずれていないことを確認することが望ましい。この場合において、コントローラ160は、上述と同様にして一定時間にわたってパルス波高スペクトルの測定を行い、確認される光電ピークの位置が過去の測定と大きくずれていないことを確認してもよい。また、CsIシンチレーション検出器110の受光素子112に対して、不図示の光ファイバを通じて所定の光量のリファレンス光を入射すると、パルス波高スペクトルにおいて、リファレンス光に対応する鋭いピークが現れる。コントローラ160は、このピークの位置が過去の測定と大きくずれていないことを確認することによっても、アンプ141及び受光素子112のゲインが大きくずれていないことが確認できる。

【0063】
このように、エネルギー校正のプロセスにおいて、ユーザーが特に何もしなくても、コントローラ160が主体となってほぼ自動でエネルギー校正曲線を取得することができる。そのため、放射線計測に不慣れなユーザーであっても適切にエネルギー校正を行うことができる。

【0064】
次に、校正比率の設定の設定について説明する。ここで、コントローラ160はメモリ161を有しており、すでにメモリ161内に本測定における校正比率が登録されている場合には、その値を校正比率として設定することができる。例えば、KURAMA-IIシステム100を搭載している車両(又は搭載する予定の車両)に対応する校正比率がメモリ161に登録されている場合には、その値を校正比率として採用することができる。例えば、特定の車両にKURAMA-IIシステム100を搭載した後、複数回にわたって空間線量率マップの作製を行う場合等には、一度校正比率を設定してメモリ161に登録しておけば、その後は校正比率を設定しなおす手間が省ける。

【0065】
コントローラ160は、メモリ161内に本測定における校正比率が登録されていない場合には、以下のようにして校正比率を設定することができる。ここで、メモリ161は、少なくとも1つの車種に対応した校正比率のデータテーブルを保持していてもよい。そして、このデータテーブルに、KURAMA-IIシステム100を搭載している車両(あるいは搭載しようとしている車両)に対応する校正比率が含まれている場合には、ユーザーはKURAMA-IIシステム100を搭載する車両と同一の車種(あるいは最も近い車種)を選択することにより、メモリ161に保持されたデータテーブルを用いて適切な校正比率を設定することができる。この場合にも、一度適切に校正比率を設定したらそれをメモリ161に登録することにより、次回以降は同じ校正比率を用いるようにしてもよい。

【0066】
そして、上記データテーブルに、KURAMA-IIシステム100を搭載している車両(あるいは搭載しようとしている車両)に対応している校正比率が含まれていない場合、あるいは、メモリ161に上記データテーブルそのものが保持されていない場合には、コントローラー160は、ユーザーに対して、校正比率の値を設定することを要求する。そして、ユーザーは上述の手順によって求められた校正比率の値を入力して設定することができる。この場合においても、一度適切に校正比率を設定したらそれをメモリ161に登録することにより、次回以降は同じ校正比率を用いるようにしてもよい。

【0067】
以上をまとめると、校正比率の設定プロセスにおいて、コントローラ160は、メモリ161内に本測定における校正比率が登録されているかどうかを確認し、校正比率が登録されている場合には、その値を本測定における校正比率として採用する。メモリ161内に本測定における校正比率が登録されていない場合には、コントローラ160はユーザーに対して校正比率を設定することを要求する。ここで、メモリ161内に少なくとも1つの車種に対応した校正比率のデータテーブルが保持されている場合には、コントローラ160はユーザーに対して、KURAMA-IIシステム100を搭載する車両と同一の車種(あるいは最も近い車種)を選択するように要求することができる。そして、コントローラ160は、ユーザーの選択に基づいて、校正比率を設定することができる。また、メモリ161内にデータテーブルが保持されていないか、KURAMA-IIシステム100を搭載する車両に近い車種がデータテーブルに含まれていない場合には、コントローラ160はユーザーに対して校正比率の値を設定するように求め、ユーザーは上述の手順によって求められた校正比率の値を入力して設定することができる。

【0068】
このように、KURAMA-IIシステム100は、できる限り、ユーザーが校正比率の測定を行わなくても、適切に校正比率の値を設定できるように構成されている。KURAMA-IIシステム100を管理する者等が、KURAMA-IIシステム100を搭載することが想定される車両を含む少なくとも1つの車両について、予め、適切な手順に従って校正比率の測定を行い、得られた校正比率のデータをデータテーブルとしてメモリ161に保持しておけば、実際に測定を行う測定者は、必ずしも実際に校正比率の測定を行わなくても、適切な校正比率の値をデータテーブルから参照して設定することが可能になる。これにより、多くの場合において、ユーザー(測定者)は実際に校正比率の測定を行わなくてもよくなるため、放射線計測に全く精通していない者であっても容易にKURAMA-IIシステム100を用いた空間線量率マップの作製を行うことができる。

【0069】
上述のようにKURAMA-IIシステム100は、KURAMAシステム1と比べてさらに小型軽量化を実現している。また、放射線計測に全く精通していない者であっても正しく測定できるように、ほとんどのプロセスが自動化されている。特に、校正比率に関して、予めデータテーブルを用意しておくことができる。そのため、例えば小学生や中学生のような非力で放射線計測に対する知識が全くない子供であっても、KURAMA-IIシステム100を携帯して空間線量率の測定を行うことが可能である。例えば、小中学生がKURAMA-IIシステム100を携帯して通学することにより、通学路における空間線量率のきめ細かいマップを容易に作製することができる。なお、この場合のように、KURAMA-IIシステム100を車両に搭載せず、人等が携帯する場合においては、校正比率を1に設定すればよく、これがデータテーブルに含まれていてもよい。

【0070】
以上の説明において、空間線量率を計測する放射線計測器として、NaIシンチレーション検出器10又はCsIシンチレーション検出器110を例に挙げて説明してきた。しかしながら本発明はこれには限られず、任意の放射線計測器を用いることができる。例えば、固体シンチレーション検出器や、GM管、比例計数管のようなガス充填型の電離放射線検出器(ガスカウンタ)や、Ge検出器のような半導体検出器などを用いることができる。ここで、GM管などのガスカウンタは、γ線だけでなくβ線を計測することも可能ではある。ただし、内部のガス密度が低いため透過力の高いγ線は相互作用しにくく、γ線に対する感度は低い。これに対して、NaIシンチレーション検出器、CsIシンチレーション検出器のような固体シンチレーション検出器は、一般に、放射線の入射する入射窓が厚いためβ線が透過できず、主にγ線(及びX線)の測定に限られるが、GM管などのガスカウンタに比べてγ線に対する感度が高い。また、NaIシンチレーション検出器のような固体シンチレーション検出器においては、出力パルスのパルス波高がシンチレーション光の光量に比例し、前述のように、シンチレーション光の光量は、γ線、X線などの放射線がNaI結晶等のようなシンチレータを構成する原子との相互作用によって結晶内部で失ったエネルギーの大きさに比例する。つまり、固体シンチレーション検出器においては、出力パルスのパルス波高として放射線のエネルギー情報を求めることができる。このように固体シンチレーション検出器においては、入射した放射線のエネルギー情報を求めることができるので、吸収線量(単位はGy)を求めることができるとともに、吸収線量に放射線のエネルギーによって変わる生体効果の係数をかけることにより、線量当量(単位はSv)を求めることができる。これに対して、GM管では放射線が入射したかどうかの情報しか得ることができず、入射した放射線のエネルギーを判別することができない。そのため、GM管による測定では、放射線源を予め仮定しない限り、吸収線量(単位はGy)や線量当量(単位はSv)を求めることはできない。なお、入射窓を部分的にいくつかの異なる材質の部材で覆うことにより、擬似的に線量等量を測定できるように工夫されたGM管も市販されているが、あくまで簡易的な測定の用途にしか用いることができず、線量等量を正確に測定することはできない。

【0071】
また、Ge検出器などの半導体検出器は、γ線に対する感度がある程度高く、エネルギー分解能も高いという利点を有している。しかしながら、測定中は液体窒素などで冷却し続ける必要があることや、検出器からの信号を取り出して処理するために非常に複雑な電子回路が必要となるなど、その取り扱いが困難である。これに対して、固体シンチレーション検出器は取り扱いが容易であり、本発明に用いられる放射線計測器として好ましい。

【0072】
上述の説明においては、インターフェースユニット140が、パルス信号出力部113から出力されるパルス信号を増幅するアンプ(パルスシェーピングアンプ)141と、アンプ141の出力信号(アナログ信号)をデジタル信号(デジタル値)に変換するAD変換器142と、FPGA143と、CPU144とを有しており、これらのアンプ141、AD変換器142、FPGA143、CPU144は、Compact RIOシステムに搭載されるモジュールとして実装されていたが、本発明はこれには限られず、必要に応じて任意の構成にすることができる。例えば、CsIシンチレーション検出器に、アンプ及びADCが組み込まれている場合には、CsIシンチレーション検出器からADCにより変換されたデジタル信号が出力される。このような構成においては、インターフェースユニット140はCsIシンチレーション検出器から出力されるデジタル信号に基づいて波高スペクトルを作製するように構成されていてもよい。例えば、浜松ホトエレクトロニクス社製のC12137は、CsIシンチレーション検出器にアンプ、ADCが組み込まれており、ADCの出力信号がUSB出力されるように構成されている。このような検出器を採用することも可能である。

【0073】
また、上述の説明においては、データ処理システム30としてCompact RIOシステムに搭載される組み込み型のPCモジュールを用い、データ処理システム30とその他の機器(例えばデータ送信ユニット50やGPSユニット20等)はデータ処理システム30とは独立の機器として設けられていた。しかしながら本発明はこれには限られず、KURAMA-IIシステム100のさらなる小型軽量化を実現するために、KURAMA-IIシステム100を構成する各構成部分の一部又は全部を、一体に形成してもよい。例えば、GPSユニット20とデータ送信ユニット50とを組み込んだモジュールを作製し、インターフェースユニット140等を構成するCompact RIOシステムに組み込んでもよい。また、上述の説明において、データ処理システム30、CPU144及びコントローラ160は、Compact RIOシステムに実装される1個のPCモジュールにより実現されていたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、コントローラ160、CPU144、データ処理システム30がそれぞれ独立のPCモジュールによって実現されていてもよい。また、Compact RIOシステムの、モジュールが挿抜されるシャーシにもCPUを含む小型コンピュータが搭載されており、必ずしもPCモジュールを使用しなくても、シャーシに含まれる小型コンピュータにより各モジュールの制御を行うことが可能である。そして、上述のコントローラ160、CPU144、データ処理システム30の一部又は全部をシャーシに含まれる小型コンピュータにより実現することも可能である。また、上述の説明においては、メモリ161はコントローラ160を構成するコンピュータに含まれるメモリ手段(半導体メモリやHDD等)により構成されていたが、メモリ161がコントローラ160を構成するコンピュータとは別のコンピュータに含まれていてもよい。

【0074】
また、上述の説明においては、インターフェースユニット140とCsIシンチレーション検出器110とは、1つの筐体の内部に配置されていたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られず、これらが独立に設けられていてもよい。

【0075】
上述の説明において、KURAMA-IIシステム100のCsIシンチレーション検出器110は、固定装置を用いて、地上から1mの高さに固定されていた。しかしながら、本発明はこのような構成には限られず、任意の方法で任意の箇所に、CsIシンチレーション検出器110を車内(又は車外)に固定することができる。この場合において、空間線量率の測定データを、地上から高さ1mの位置での測定データに換算することができるのであれば、必ずしもCsIシンチレーション検出器110を車内(又は車内)の、地上から高さ1mの位置に固定する必要はない。例えば、不図示の固定装置を用いて、地上1mの高さにCsIシンチレーション検出器110を固定することに代えて、自動車の後部座席ドア上のハンドル部分(掴まり部分)(高さ1.2~1.5m程度)にCsIシンチレーション検出器110を自動車の進行方向後方に向けて固定してもよい。この場合において、上述のような車内での空間線量率に対する車外での空間線量率の比率(校正比率)に、CsIシンチレーション検出器110の高さの違いも含めてもよい。つまり、上記校正比率を、車内(後部座席ドア上のハンドル部分)で測定された空間線量率に対する、車外(地上1mの位置)で測定された空間線量率の比率として測定してもよい。このようにすれば、車内の、地上1.2~1.5m程度の高さで測定された空間線量率の測定データを、車外の地上1mの高さにおける空間線量率のデータに換算することができる。

【0076】
また、上述の説明において、KURAMA-IIシステム100は、測定位置に関する情報をGPSユニットを用いて計測していたが、本発明は必ずしもこれには限られない。例えば、渋滞の無い地域を巡回する路線バスのように、所定の時刻に所定の場所を通ることがほぼ確実である場合には、GPSユニットにより計測された経度及び緯度の情報に代えて、位置情報として時刻を記録してもよい。正確な時刻が分かれば、そのとき走行していたおおよその位置を算出できるからである。

【0077】
上述の説明において、KURAMA-IIシステム100(KURAMAシステム1)は、測定されたデータを記載したテキストファイルをサーバ90に送信するためのデータ送信ユニット50を有していた。しかしながら、測定データは必ずしもサーバ90に送信されなくてもよい。例えば、測定されたデータをKURAMA-IIシステム100(KURAMAシステム1)のデータ処理システム30でデータ処理し、ローカルのデータだけを用いて空間線量率マップを形成してもよい。あるいは、KURAMA-IIシステム100(KURAMAシステム1)が取り外し可能なハードディスク、不揮発性の半導体メモリ(例えばSDメモリ(登録商標)など)などの記憶媒体を備え、これらの記憶媒体を介して測定されたデータを他の解析システム(例えば他のKURAMA-IIシステム100のデータ処理システムや他のコンピュータなど)に送り、そこで空間線量率マップを作製してもよい。

【0078】
なお、測定されたデータを格納するファイルは、必ずしもテキストファイルでなくてもよく、任意の形式(例えばバイナリファイル)であってもよい。また、データ処理システム30に搭載されたインターフェースプログラムは、必ずしもLabVIEW(登録商標)により作製されなくてもよい。また、CsIシンチレーション検出器等の放射線測定器からの出力は必ずしもアナログ電圧信号でなくてもよく、例えば放射線量率の情報を含んだデジタル信号が出力されてもよい。また、本発明のインターフェースユニット140、データ処理システム30、コントローラ160は、必ずしもNational Instrument社製のCompact RIOシステムを採用する必要はなく、必要に応じて任意のシステムを採用しうる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、例えば定期的に所定のルートを巡回する路線バスにKURAMA-IIシステムを搭載することで、容易に空間線量率マップを作製できる。この場合において、本発明に係るKURAMA-IIシステムは小型軽量であり、運用に際して特別な操作を必要としないため、専門知識が無い一般人であっても容易に空間線量率の測定を行うことができる。また、故障した場合を除けば、ほぼメンテナンスフリーにすることができるため、電源の供給さえ確保してあれば、路線バスの運転手はKURAMA-IIシステムを搭載しているかどうかを全く意識しないまま、通常の業務として路線バスを運転するだけで、路線バスのルート上の空間線量率測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
1 KURAMAシステム
10 NaIシンチレーション検出器
20 GPSユニット
30 データ処理システム
40 インターフェースユニット
100 KURAMA-IIシステム
110 CsIシンチレーション検出器
140 インターフェースユニット
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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