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明細書 :生体用接着材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5940987号 (P5940987)
登録日 平成28年5月27日(2016.5.27)
発行日 平成28年6月29日(2016.6.29)
発明の名称または考案の名称 生体用接着材料
国際特許分類 A61L  24/00        (2006.01)
FI A61L 25/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2012-552731 (P2012-552731)
出願日 平成24年1月11日(2012.1.11)
国際出願番号 PCT/JP2012/050307
国際公開番号 WO2012/096271
国際公開日 平成24年7月19日(2012.7.19)
優先権出願番号 2011003841
優先日 平成23年1月12日(2011.1.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年1月9日(2015.1.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】中村 達雄
【氏名】荒木 政人
個別代理人の代理人 【識別番号】100100158、【弁理士】、【氏名又は名称】鮫島 睦
【識別番号】100138863、【弁理士】、【氏名又は名称】言上 惠一
【識別番号】100132252、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 環
【識別番号】100138885、【弁理士】、【氏名又は名称】福政 充睦
審査官 【審査官】石井 裕美子
参考文献・文献 特表2001-508689(JP,A)
国際公開第2009/106641(WO,A1)
調査した分野 A61L 15/00-33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)フィブリノーゲン及び(b)トロンビン
を混合することで得られる生体用接着材料であって、
更に、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合して得られる、消化管皮膚瘻閉塞用生体用接着材料。
【請求項2】
コラーゲンは、未架橋である請求項1記載の生体用接着材料。
【請求項3】
ポリグルコール酸は、5000~30000の重量平均分子量を有する請求項1又は2に記載の生体用接着材料。
【請求項4】
生体用接着剤は注射剤である請求項1~3のいずれかに記載の生体用接着材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の生体用接着材料を得るための
(a)フィブリノーゲン、(b)トロンビン、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を組み合わせた、二成分型又は四成分型接着剤
【請求項6】
(a)フィブリノーゲン及び(b)トロンビンを混合する生体用接着材料の製造方法であって、
更に、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合する、消化管皮膚瘻閉塞用生体用接着材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体用接着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管皮膚瘻は、消化管に穴が開き、その穴が、体外にまで達する病気であって、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎)、術後縫合不全等(例えば、腸管皮膚瘻、胆汁瘻、膵液瘻)、放射線治療後の合併症(例えば、直腸膣瘻、直腸膀胱瘻)等の多岐の疾病に渡る難治性の疾患である。消化管皮膚瘻の治療法として、消化管皮膚瘻の自然閉塞を期待する長期に渡る絶食、手術による閉鎖等がある。手術を試みる場合、患部の周囲の炎症が強いため、非常に侵襲の大きな手術となることが多い。
【0003】
本来、消化管皮膚瘻の瘻管を、何らかの方法で完全に閉塞することができれば、長期の絶食も手術も必要とすることなく治療可能なはずである。しかし、消化管皮膚瘻を低侵襲な方法で閉塞することは、一般的に困難である。その理由として、下記の3点が指摘される。(図1参照)
i)消化管皮膚瘻(1)に対して、薬剤及び材料(2)は、皮膚(3)側からしかアプローチできない。即ち、薬剤及び材料(2)は、消化管(4)、例えば腸管側から、アプローチできない。
ii)消化管皮膚瘻(1)の瘻管は非常に細くて複雑な形態を有することが多く、瘻管を閉塞するために用いる材料(2)を、瘻管に留置することが困難である。
iii)瘻管を閉塞するために用いる材料(2)は、瘻管に留まり、消化管(4)からの消化液(5)の流入を防ぐことが要求される。
【0004】
このような事情から、消化管皮膚瘻の瘻管を閉塞するために、使用開始後すぐにゲル化し、接着力を生ずる注射剤を注入することが、近年行われている。そのような注射剤として、フィブリン糊が良く用いられている。
【0005】
フィブリン糊は、主にフィブリノーゲンから成るA液と、主にトロンビンから成るB液の2液を混合することによって得られる。モノマーであるフィブリノーゲンが、トロンビンの触媒作用によって重合して、ポリマーであるフィブリンを形成し、それが糊となって生体組織に接着する。フィブリン糊は、生体適合性が良好であり、生体内に留置できる接着材料が他にないので、手術の際によく使用される。塗布されたフィブリン糊が膜を形成して損傷した臓器を覆うので、損傷した肺から空気漏れを防止することや、血管や臓器等からの出血を防止することができる。塗布されたフィブリン糊は、生体内で徐々に分解されて縮小し、最終的に体内に吸収される。(例えば、特許文献1及び2参照)
【0006】
フィブリン糊を、消化管皮膚瘻等の瘻管内に注入すると、注入直後は、フィブリン糊は、瘻管に留まり、一時的に瘻管を閉鎖する。しかし、徐々にフィブリン糊が生体内で分解されて縮小するので、最後には、フィブリン糊は消化液によって瘻管から押し出されて抜け落ちて、消化管皮膚瘻は再発することとなる。つまり、フィブリン糊が長期間にわたって瘻管内に留まり、瘻管が治癒して塞がる確立は極めて低いのが現状である。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】JP2774141B
【特許文献2】JP6-102628B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、消化器、呼吸器及び循環器等の種々の臓器に使用することができる新規な生体用接着剤を提供することである。より具体的には、種々の臓器に生じた瘻管内に接着材料が留まっている間に、その瘻管を閉塞することができる新規な接着材料を提供することである。
更に本発明の別の目的は、そのような接着材料を得るための成分の組合せを提供することである。
また本発明の更なる目的は、そのような接着材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、種々検討した結果、驚くべきことに、特定のコラーゲンと特定のポリグリコール酸(PGA)を、フィブリン糊に混合することによって、上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、第一の要旨において、(a)フィブリノーゲン及び(b)トロンビンを混合することで得られる生体用接着材料であって、
更に、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合して得られる接着材料を提供する。
本発明に係る生体用接着材料は、注射剤として、好適に使用することができる。
【0011】
本発明は、一の態様において、コラーゲンは、未架橋である上記生体用接着材料を提供する。
本発明は、他の態様において、ポリグルコール酸は、5000~30000の重量平均分子量を有する上記生体用接着材料を提供する。
【0012】
本発明は、別の要旨において、上記生体用接着材料を得るための、(a)フィブリノーゲン、(b)トロンビン、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)の組み合わせを提供する。
【0013】
本発明は、好ましい要旨において、(a)フィブリノーゲン及び(b)トロンビンを混合する生体用接着材料の製造方法であって、
更に、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る生体用接着剤は、(a)フィブリノーゲン及び(b)トロンビンを混合することで得られ、更に、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合して得られるので、消化器、呼吸器及び循環器等の種々の臓器に使用することができる新規な生体用接着剤を提供することができる。より具体的には、種々の臓器に生じた瘻管内に接着材料が留まっている間に、その瘻管を閉塞することができる。
【0015】
上記生体用接着剤は、コラーゲンが、未架橋である場合、上記生体用接着材料は、生体用接着剤として、より均一性が向上し、より使用し易くなる。
上記生体用接着剤本発明は、ポリグルコール酸が、5000~30000の重量平均分子量を有する場合、より微粉末と成り得、生体用接着剤として、より均一性が向上し、より使用し易くなる。
【0016】
本発明に係る上記生体用接着材料を得るための組み合わせは、(a)フィブリノーゲン、(b)トロンビン、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)の組み合わせであるので、消化器、呼吸器、循環器等の種々の臓器に生じた瘻管内に接着材料が留まっている間に、その瘻管を閉塞することができる生体用接着剤を提供することができる。
【0017】
本発明に係る生体用接着材料の製造方法は、(a)フィブリノーゲン(b)トロンビン(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合する製造方法であるので、消化器、呼吸器、循環器等の種々の臓器に生じた瘻管内に接着材料が留まっている間に、その瘻管を閉塞することができる生体用接着剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、消化管皮膚瘻を模式的に示す。
【図2】図2は、直径5mm、長さ10mmの円筒形の材料として、SDラット皮下に埋入した、実施例1に係る生体用接着材料の中央部分の光学顕微鏡写真を示す。図2(a)~(d)は、各々3日後40倍、3日後200倍、21日後40倍、28日後40倍の光学顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は、直径5mm、長さ10mmの円筒形の材料として、SDラット皮下に埋入した、比較例1に係る生体用接着材料の中央部分の光学顕微鏡写真を示す。図3(a)~(d)は、各々3日後40倍、7日後40倍、14日後40倍、28日後40倍の光学顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、直径5mm、長さ10mmの円筒形の材料として、SDラット皮下に埋入した、比較例2に係る生体用接着材料の中央部分の光学顕微鏡写真を示す。図4(a)~(d)は、各々3日後40倍、7日後40倍、14日後40倍、28日後40倍の光学顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る「(a)フィブリノーゲン」とは、通常「フィブリノーゲン」とされるものであり、本発明が目的とする生体用接着剤を得ることができれば、特に制限されるものではない。「(a)フィブリノーゲン」は、市販のものを使用することができる。そのような市販のフィブリノーゲンとして、例えば、ボルヒール(製品名)及びベリプラスト(製品名)等を例示できる。(a)フィブリノーゲンは、市販の原液(例えば、約8重量%)をそのまま使用することができるが、適切な水性媒体を用いて溶解及び/又は分散させて、水性液を作成して使用することもできる。

【0020】
本発明に係る「(b)トロンビン」とは、通常「トロンビン」とされるものであり、本発明が目的とする生体用接着剤を得ることができれば、特に制限されるものではない。「(b)トロンビン」は、市販のものを使用することができる。そのような市販のトロンビンとして、例えば、ボルヒール(製品名)及びベリプラスト(製品名)等を例示できる。(b)トロンビンは、市販の原液(250単位/ml)をそのまま使用することができるが、適切な水性媒体を用いて溶解及び/又は分散させて、水性液を作成して使用することもできる。

【0021】
本発明において、「水性媒体」とは、通常フィブリン糊を作るために使用され、おもに水から形成される媒体であって、適宜、添加剤を含んでよく、本発明が目的とする生体用接着剤を得ることができるものであれば、特に制限されるものではない。そのような水性媒体として、例えば、フィブリノーゲン溶解液及びトロンビン溶解液(化学及び血清療法研究所製)等を例示できる。また、本発明において、「水性液」とは、本発明に係る種々の成分が、水性媒体に溶解及び/又は分散した状態であることを意味する。

【0022】
本発明に係る生体用接着剤では、(a)フィブリノーゲンは、上述の原液を5倍まで希釈するか原液をそのままで使用することが好ましく、原液を3倍まで希釈するか原液をそのままで使用することがより好ましく、原液を2倍まで希釈するか原液をそのままで使用することが特に好ましい。(b)トロンビンは、上述の原液を2倍~20倍に希釈して使用することが好ましく、原液を5倍~15倍に希釈して使用することがより好ましく、原液を8倍~12倍に希釈して使用することが特に好ましい。

【0023】
(a)フィブリノーゲンの濃さは、生体用接着剤の濃さと関連し、濃い方が、接着剤としてより大きな接着力を発揮すると考えられる。また、トロンビンはフィブリノーゲンに重合に関する触媒作用を有するので、濃い場合はフィブリン糊形成が早く、薄い場合フィブリン糊形成が遅くなる。本発明に係る生体用接着剤に求められる性質(例えば、接着強度、固化に要する時間等)に応じて、(a)及び(b)の濃さは、適宜選択されるものである。

【0024】
本発明に係る「(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン(以下「(c)コラーゲン」ともいう)」とは、水に濃度10g/Lで溶解したときに5.5より大きく7.0以下のpHを示すコラーゲンであり、本発明が目的とする生体用接着剤を得ることができれば、特に制限されるものではない。
本発明に係る(c)コラーゲンは、通常、水に溶解性が高いので、通常の固形物であってよく、特に、粉末状であることを要しないが、水により迅速に溶解させるために、「粉末状」であることが好ましい。ここで「コラーゲン」に関し「粉末状」とは、砕けて細かくなった状態をいい、たとえ粉末状で水中に存在したとしても、注射器の先端(内径が1mm)を閉塞しない程度に細かいことが好ましい。従って、粉末の粒子は、その一番長い径が、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。粉末の粒子の径は、光学顕微鏡、電子顕微鏡等の各種顕微鏡を用いて目視で観察することができる。

【0025】
尚、ここで、「水」とは、医薬・バイオテクノロジー分野において、一般的に純水又は超純水と呼ばれる水であって、通常、イオン交換法、蒸留法、逆浸透膜法、及び(逆浸透+連続イオン交換法)から選択される少なくとも一種を用いて精製された水をいい、超純水が好ましく、ミリポア社製の超純水装置ミリQ(Milli-Q)(商品名)により精製された超純水(いわゆる、ミリQ水)がより好ましいが、本発明が目的とする生体用接着材料が得られる限り特に制限されるものではない。一般的に「純水」とは、比抵抗が1MΩ・cm(25℃)以上、好ましくは3MΩ・cm(25℃)以上を示す水をいい、「超純水」とは、比抵抗が15MΩ・cm(25℃)以上、好ましくは18MΩ・cm(25℃)以上を示し、有機物量(TOC)が50ppb以下、好ましくは20ppb以下であるものをいう。

【0026】
フィブリノーゲンとトロンビンを混合することで得られるフィブリン糊をゲル化して、糊として機能させるためには、フィブリン糊のpHは5.5より大きく7.0以下という特定の値の範囲にpHを調整しなければならないことが知られている。常套のコラーゲンは、通常、この範囲のpHより、pHの値がより小さいので、より酸性を示すことが知られている。本発明者等は、フィブリン糊のゲル化を考慮して、コラーゲンが示すpHは、水に濃度10g/Lで溶解したときに、5.5より大きく7.0以下であることが必要であると考えて、そのようなコラーゲンを用いて検討を行った。(c)コラーゲンが示すpHは、6.0~7.0であることが好ましく、6.5~7.0であることがより好ましい。

【0027】
このような(c)コラーゲンは、常套のコラーゲンを、上述の水、好ましくは超純水、より好ましくはミリQ水に1重量%となるように混合し、攪拌して溶解して溶解液を得た後、0.1NのHClを用いて、この溶解液のpHを5.5より大きく7.0以下となるように調節し、凍結乾燥することによって得ることができる。(c)コラーゲンのpHの値として、この溶解液のpHを、pHメーターで測定して得た値を示した。通常、この0.1NHClを用いて調節された溶解液のpHは、コラーゲンを水に濃度10g/Lで溶解したときに示すpHの値と実質的に等しいと考えられる。上述のコラーゲンの上記溶解液のpHを、6.0~7.0となるように調節して、凍結乾燥して得られるコラーゲンが、(c)コラーゲンとして好ましく、pHを6.5~7.0となるように調節して、凍結乾燥して得られるコラーゲンが、(c)コラーゲンとしてより好ましい。

【0028】
凍結乾燥は、常套の方法を用いて行うことができる。凍結温度は、コラーゲンを凍結乾燥することができ、目的とする生体用接着剤を得ることができれば特に制限されるものではない。凍結乾燥して得られるコラーゲンの構造に応じて適宜凍結温度を選択することができる。一般的に-20℃付近で凍結すると線維状又はスポンジ状コラーゲンが得られ、-80℃付近で凍結すると、薄フィルム多房状コラーゲンが得られ、-196℃付近で凍結すると、線維状又はスポンジ状コラーゲンが得られる。組織再生能力の点から、コラーゲンは、薄フィルム多房状コラーゲンが好ましく、凍結温度は、-70℃~-100℃がより好ましく、-80~-90℃が特に好ましい。凍結乾燥は、凍結した温度で、例えば、薄フィルム多房状コラーゲンを得た場合、-80℃~-90℃の温度で、5.0Pa以下に減圧して、24時間行うことが好ましい。

【0029】
本発明に係るコラーゲンは、水性媒体に溶解及び/又は分散し易いことが好ましく、そのため、架橋されていないことが好ましい。コラーゲンは、架橋されていない、即ち、未架橋であることによって、本発明に係る生体用接着剤の均一性がより向上し、注射剤として使用した場合により注射し易い接着剤を得ることができる。

【0030】
本発明に係る「(d)粉末状ポリグルコール酸(以下、「(d)PGA」ともいう)」とは、粉末状に粉砕したPGAであって、本発明が目的とする生体用接着剤を得ることができれば、特に制限されるものではない。
本発明に係るPGAに関し「粉末状」とは、砕けて細かくなった状態をいい、注射器の先端(内径が1mm)を閉塞しない程度に細かいことが好ましい。従って、粉末の粒子は、その一番長い径が、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。粉末の粒子の径は、光学顕微鏡、電子顕微鏡等の各種顕微鏡を用いて目視で観察することができる。

【0031】
一般的にPGAは、生分解性の合成高分子であり、縫合糸や組織補強材料として使用されるので、強度を高めるために、約20万から30万の重量平均分子量を有するものが合成されている。
しかし、水への溶解性及び/又は分散性を考慮すると、より低分子量であることが好ましく、重量平均分子量は、1000~50000であることが好ましく、3000~400000であることがより好ましく、5000~30000であることが特に好ましい。

【0032】
このような分子量がより小さい(d)PGAは、例えば、ラウリルアルコール等の沸点の高いアルコール類、乳酸及びグリコール酸又はそれらのエステル化物等をグリコリドに添加して、バルク重合することによって、製造することができることは周知のことである(例えば、Chang-Ming Dong et al; Polymer42(2001)6891-6896参照)。その重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。GPC測定条件等の詳細は、実施例に記載した。

【0033】
本発明に係る生体用接着材料は、通常、上述の(a)~(d)成分を含んで成る水性液の形態を有し、一般的に、ゲル状の形態を有する。
(d)PGAが比較的水性媒体に溶解し難く、沈殿しやすい成分であるが、一緒に混合する(c)コラーゲンは、水性媒体に溶解及び/又は分散して比較的粘度の高い水性液を形成することができるので、(d)PGAは、沈殿することはなく、その結果、水性媒体に均一に成分(a)~(d)が分散及び/又は溶解した水性液の形態の生体用接着材料を得ることができる。

【0034】
本発明に係る生体用接着材料は、(a)~(d)成分を含んで成る水性液を基準(100g当たり)として、(a)フィブリノーゲンを、1~5g含むことが好ましく、3~5g含むことがより好ましく、4~5g含むことが特に好ましい。
(b)トロンビンを、10~250単位含むことが好ましく、15~100単位含むことがより好ましく、20~30単位含むことが特に好ましい。
(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲンを、1~20g含むことが好ましく、3~10g含むことがより好ましく、4~6g含むことが特に好ましい。
(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を、1~20g含むことが好ましく、3~10g含むことがより好ましく、4~6g含むことが特に好ましい。

【0035】
本発明は、上述した生体用接着材料を得るための、(a)フィブリノーゲン、(b)トロンビン、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)の組み合わせを提供する。
この組み合わせは、四成分型接着剤ということもできる。使用する直前に四つの成分全部を一度に混合して本発明に係る生体用接着材料を製造して使用することができる。

【0036】
更に、(a)フィブリノーゲンを含む第一成分(具体的には、原液又は水性液)と、(b)トロンビン、(c)コラーゲン及び(d)PGAの三成分を含む第二成分(具体的には水性液)の二種類の成分の組み合わせを一旦作成することができる。これは、いわゆる二成分型生体用接着材料ということができる。この二種類の成分を混合して本発明に係る生体用接着材料を製造して使用することができる。
尚、これらの四つの成分の組み合わせ及び二種類の成分の組み合わせは、混合して得られる本発明に係る生体用接着剤に関して、(a)~(d)成分を含んで成る水性液を基準(100g当たり)とする、(a)~(d)成分の上述の量的な関係を満たすことが好ましい。

【0037】
本発明に係る生体用接着剤を製造するための(a)~(d)成分の混合は、通常使用される混合方法を使用して行うことができる。製造した生体用接着剤は、種々の器具、例えば、シリンジ等を用いて生体の種々の臓器に塗工することができる。
本発明に係る生体用接着材料は、注射器を使用して注射剤として瘻管内に入れて、瘻管を閉塞するために好適に使用することができる。
瘻管を閉塞するために、上述の二種類の成分の組み合わせ((a)成分を含む第一成分と(b)~(d)成分を含む第二成分の組み合わせ)、即ち、二成分型接着材料を、二種類の成分の各々を同時に押し出して注射器先端で混合しながら瘻管に入れることができる注射器、即ち、デュアルシリンジを用いて、使用することが好ましい。

【0038】
本発明に係る生体用接着材料は、種々の臓器、例えば、消化器、呼吸器、循環器等に使用することができるが、それらに生じた瘻管の閉鎖に好適に使用することができる。例えば、消化管皮膚瘻(クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、術後の消化管縫合不全の遅延化による瘻孔、術後胆汁瘻、術後膵液瘻等)、痔瘻、術後気管支断端瘻、膀胱膣瘻、直腸膣瘻、気管食道瘻、隣接する臓器で瘻孔を形成するような病態等に好適に使用することができる。本発明に係る生体用接着材料を使用することで、種々の臓器に生じた瘻管を低侵襲な方法で閉塞することができる。

【0039】
本発明に係る生体用接着材料は、患者のベッドサイドで簡単に調合することができるので、使用が容易である。更に、造影剤等を混合することによって、透視下で、種々の病気を治療することができる。

【0040】
本発明に係る生体用接着材料は、上述したような優れた効果を奏するが、それは、以下のような理由によるものと考えられる。
本発明者等は、フィブリン糊が、瘻管内に長期に渡って留まり、瘻管が治癒して塞がらない理由は、フィブリン糊は、瘻管の周囲の組織から細胞や血管等の組織を誘導することなく、単に分解して縮小するからであると考えた。そこで、フィブリン糊の生体用接着材料としての長所を生かしつつ、フィブリン糊が分解縮小するとともに、瘻管内部に新たな組織を生じさせることを考えた。

【0041】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、上述した特定の成分である(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸を更に加えてフィブリン糊を製造すると、フィブリン糊の生体用接着材料としての長所を生かしつつ、フィブリン糊が分解縮小するとともに、瘻管内部に新たな組織を生じさせることができることを見出して本発明を完成したものである。加えられた(c)コラーゲンと(d)ポリグルコール酸は、瘻管の周囲の組織から、細胞や血管等の新たな組織を誘導する効率を著しく向上すると考えられる。

【0042】
尚、本発明に係る(c)コラーゲンと(d)ポリグルコール酸ではなく、一般的な単なる「コラーゲン」と「ポリグルコール酸」を用いると、フィブリン糊はゲル化せず接着材料として機能しない、均一な接着材料を得ることができず結果的に使用できない、シリンジの先端で詰まってしまう等の問題を生じ、目的とする生体用接着材料を得ることが困難であると考えられる。

【0043】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
使用した材料を、以下説明する。
<コラーゲン>
日本ハム社製(NMPコラーゲンPSN(商品名))のブタのコラーゲンを、MILLIPORE社製のMilli-Q spU(精製装置名)を用いて作成したミリQ水に、1重量%となるように混合し、攪拌して溶解した。この水溶液のpHを、0.1NのHClを用いて、6.5~7.0になるように調節した。pHは、pHメーター(HORIBA製のTwin pH B-212(商品名)を用いて測定した。作成したコラーゲン水溶液を容器に流し込み、-80℃で固めた。十分に固まった後、-80℃で凍結乾燥した。尚、コラーゲンに通常施される熱架橋は行わなかった。48時間の凍結乾燥後、容器から乾燥したコラーゲンを取り出した。
このコラーゲンを、大阪ケミカル製のワンダーブレンダー WB-1を用いて30秒間~1分間粉砕することによって、微粉化した。
コラーゲンは、エチレンオキサイドガスを用いて40℃で22時間30分、減菌した。
【実施例】
【0045】
<ポリグルコール酸>
分子量調整剤(酢酸エチル)、グリコリド及び重合開始剤(オクチル酸錫、約0.005~0.01重量%程度)を重合管に入れ、減圧して真空にした後、管を封じて、オイルバス(約140℃)で、24~48時間加熱して、重合させることで、重量平均分子量が約24000のPGAを合成した。
得られたPGAの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定される、単分散分子量ポリスチレンで換算された重量平均分子量をいう。より具体的には、下記のGPC装置及び測定方法を用いて測定された値をいい、本発明者は後述する実施例においても、下記の装置及び測定方法を用いた。
【実施例】
【0046】
GPC装置はゲル浸透クロマトグラフGPC(機器No.GPC-14)を用い、検出器として、示差屈折率検出器RI(Waters社製のRI-2414型、感度512)を用いた。GPCカラムとして、昭和電工製のShodex HFIP-806M(2本)(S/N A805260、A805261、φ7.8mm×30cm)を用いた。3mgの試料に5mlの溶媒(5mMの濃度でトリフルオロ酢酸ナトリウムが添加されたヘキサフルオロイソプロパノール)を加えて、40℃で4時間緩やかに撹拌後、0.45μmのフィルターを用いて濾過した試料を用いた。カラム温度は、40℃で、同様の溶媒を用いた。流量は、0.5ml/分であった。試料の秤量から繰り返し2回測定を行い、得られたMn及びMwの平均値を、PGAのMn及びMwとした。Mnは約16,000、Mwは約24,000であった。
このPGAを、大阪ケミカル製のワンダーブレンダー WB-1を用いて30秒間~1分間粉砕することによって、微粉化した。粉の寸法は、OLYMPUS製の光学顕微鏡BX40(商品名)を用いて測定して、約10~100μmであった。
PGAは、エチレンオキサイドガスを用いて40℃で22時間30分、減菌した。
【実施例】
【0047】
<フィブリノーゲン液(A液)>
フィブリノーゲン液は、市販のもの(原液、フィブリノーゲンを8重量%含む)(化学及び血清療法研究所製のボルヒール(商品名))をそのまま使用した。
<トロンビン液(B液)>
トロンビン液は、市販のもの(原液、トロンビンを250単位/ml含む)(化学及び血清療法研究所製のボルヒール(商品名))を、生理食塩水を使用して10倍に希釈して用いた。
【実施例】
【0048】
実施例1
上述のコラーゲン粉末0.1gとPGA粉末0.1gを、1mlのトロンビン液(上述の10倍に希釈したもの)と混合して、混合トロンビン液を得た。
デュアルシリンジ(Plas-Pak Industries,Inc製のMini-Dual Syringe(商品名))の一方に、フィブリノーゲン液を1ml入れ、他方に混合トロンビン液を1ml入れた。デュアルシリンジの内筒を押すことで、両者を当量ずつ押し出して、実施例1に係る生体用接着材料を製造すると同時に、シリンジの先から、細い瘻管内へ、注入することができた。
【実施例】
【0049】
実施例1に係る生体用接着材料をSDラット皮下に、直径5mm、長さ10mmの円筒形の形状の材料としてデュアルシリンジを用いて製造すると同時に埋入した。HematoxylinとEosin染料で染色し、光学顕微鏡(OLYMPUS製のBX40(商品名))を使用して40倍と200倍で目視観察した。円筒形の生物用接着材料の中央部分の光学顕微鏡写真を、図2(a)~(d)に示す。
図2(a)は、3日後40倍、図2(b)は、3日後200倍、図2(c)は21日後40倍、図2(d)は28日後40倍で、円筒形の生物用接着材料の中央部分の組織の様子を示す。
【実施例】
【0050】
図2(a)に示すように、3日目には、楕円状に見える接着材料の内部にラットの炎症細胞等の細胞が侵入していることが認められた。この侵入は、中央部まで達していた。図2(b)は、図2(a)の接着材料の中央部を拡大したものである。紫色の点々は、ラットの細胞と考えられる。図2(c)及び(d)に示すように、2~3週間で、ラットの細胞によって、接着材料の内部にラットの組織が完全に再構築されるとともに、接着材料は徐々に分解された。図2(d)では、少量のグルコール酸は、残存しているが、接着材料全体として分解は順調に進んでいた。
【実施例】
【0051】
比較例1
比較例1に係る生体用接着材料は、フィブリノーゲン液とトロンビン液(上述の10倍に希釈したもの)を混合して得た。
即ち、デュアルシリンジ(Plas-Pak Industries,Inc製のMini-Dual Syringe(商品名))の一方に、フィビリノーゲン液を1ml入れ、トロンビン液を1ml入れた。デュアルシリンジの内筒を押すことで、両者を当量ずつ押し出して、比較例1に係る生体用接着材料を製造した。この生体用接着材料は、通常のフィブリン糊に対応する。
【実施例】
【0052】
比較例1に係る生体用接着材料をSDラット皮下に、直径5mm、長さ10mmの円筒形の形状の材料としてデュアルシリンジを用いて製造すると同時に埋入した。HematoxylinとEosin染料で染色し、光学顕微鏡(OLYMPUS製のBX40(製品名))を使用して40倍で目視観察した。円筒形の生物用接着材料の中央部分の光学顕微鏡写真を、図3(a)~(d)に示す。
図3(a)は、3日後40倍、図3(b)は、7日後40倍、図3(c)は14日後40倍、図3(d)は28日後40倍で、円筒形の生物用接着材料の中央部分の組織の様子を示す。
【実施例】
【0053】
図3(a)~(d)に示すように、楕円形の生体用接着材料は徐々に小さくなるが、その周囲にあるラットの皮下組織から接着材料の内部に細胞や血管が侵入してラットの組織が構築されることはなかった。楕円形の生体用接着材料とラット皮下組織の間には、隙間が常に存在した。このことが、コラーゲン粉末とPGA粉末を混合していない、フィブリン糊では、ある程度小さくなったときに、容易に瘻管から脱落する原因であると思われる。
【実施例】
【0054】
比較例2
上述のコラーゲン粉末0.1gを、1mlのトロンビン液(上述の10倍に希釈したもの)と混合して、混合トロンビン液を得た。
デュアルシリンジ(Plas-Pak Industries,Inc製のMini-Dual Syringe(商品名))の一方に、フィブリノーゲン液を1ml入れ、他方に混合トロンビン液を1ml入れた。デュアルシリンジの内筒を押すことで、両者を当量ずつ押し出して、比較例2に係る生体用接着材料を製造した。
【実施例】
【0055】
比較例2に係る生体用接着材料をSDラット皮下に、直径5mm、長さ10mmの円筒形の形状の材料としてデュアルシリンジを用いて製造すると同時に埋入した。HematoxylinとEosin染料で染色し、光学顕微鏡(OLYMPUS製のBX40(製品名))を使用して40倍と200倍で目視観察した。円筒形の生物用接着材料の中央部分の光学顕微鏡写真を、図4(a)~(d)に示す。
図4(a)は、3日後40倍、図4(b)は、7日後40倍、図4(c)は21日後40倍、図4(d)は28日後40倍で、円筒形の生物用接着材料の中央部分の組織の様子を示す。
【実施例】
【0056】
図4(a)~(d)に示すように、楕円形の生体用接着材料は徐々に小さくなるが、その周囲にあるラットの皮下組織から接着材料の内部に細胞や血管が侵入してラットの組織が構築されることはなかった。尚、比較例2の生体用接着材料は、フィブリン糊がコラーゲンを含む場合であるが、フィブリン糊の内部に空隙が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る生体用接着材料は、(a)フィブリノーゲン、(b)トロンビン、(c)pHは5.5より大きく7.0以下のコラーゲン及び(d)粉末状ポリグルコール酸(PGA)を混合して得られ、種々の臓器、例えば、消化器、呼吸器、循環器等に使用することができるが、特に、それらに生じた瘻管の閉鎖に好適に使用することができる。例えば、消化管皮膚瘻(クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、術後の消化管縫合不全の遅延化による瘻孔、術後胆汁瘻、術後膵液瘻等)、痔瘻、術後気管支断端瘻、膀胱膣瘻、直腸膣瘻、気管食道瘻、隣接する臓器で瘻孔を形成するような病態等に好適に使用することができる。本発明に係る生体用接着材料を使用することで、種々の臓器に生じた瘻管を低侵襲な方法で閉塞することができる。
[関連出願]
尚、本出願は、2011年1月12日に日本国でされた出願番号2011-03841を基礎出願とするパリ条約第4条又は日本国特許法第41条に基づく優先権を主張する。この基礎出願の内容は、参照することによって、本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 消化管皮膚瘻、 2 薬剤及び材料、 3 皮膚、 4 消化管、 5 消化液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3