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明細書 :透明樹脂複合材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5836361号 (P5836361)
登録日 平成27年11月13日(2015.11.13)
発行日 平成27年12月24日(2015.12.24)
発明の名称または考案の名称 透明樹脂複合材料
国際特許分類 C08L   1/02        (2006.01)
C08L 101/12        (2006.01)
C08J   5/00        (2006.01)
FI C08L 1/02
C08L 101/12
C08J 5/00 CEP
請求項の数または発明の数 20
全頁数 22
出願番号 特願2013-503429 (P2013-503429)
出願日 平成24年2月10日(2012.2.10)
国際出願番号 PCT/JP2012/053124
国際公開番号 WO2012/120971
国際公開日 平成24年9月13日(2012.9.13)
優先権出願番号 2011048171
優先日 平成23年3月4日(2011.3.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年1月14日(2015.1.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】矢野 浩之
【氏名】佐々木 彰三
【氏名】阿部 賢太郎
【氏名】中谷 丈史
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】岡▲崎▼ 忠
参考文献・文献 特開2008-024788(JP,A)
特開2006-347079(JP,A)
特開2010-180416(JP,A)
特開2006-036926(JP,A)
特開2006-035647(JP,A)
特開2005-336212(JP,A)
調査した分野 C08L 1/00-1/32
101/00-101/14
C08J 5/00-5/24
特許請求の範囲 【請求項1】
リグニン除去及び疎水変性された植物繊維からなる樹脂補強材料、並びに透明樹脂を含む透明樹脂複合材料であって、前記樹脂補強材料の平均繊維径が5~200μmであり、リグニンの含有率が5質量%以下である透明樹脂複合材料。
【請求項2】
前記樹脂補強材料が、平均繊維径5~200μmの植物繊維を90質量%以上含むものである、請求項1に記載の透明樹脂複合材料。
【請求項3】
前記樹脂補強材料が、平均繊維径35~60μmの植物繊維からなる、請求項1に記載の透明樹脂複合材料。
【請求項4】
前記透明樹脂が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項1~3のいずれかに記載の透明樹脂複合材料。
【請求項5】
前記透明樹脂複合材料中の樹脂補強材料の含有率が5~60質量%である請求項1のいずれかに記載の透明樹脂複合材料。
【請求項6】
透明樹脂複合材料がシート状であって、さらに、少なくとも一方の表面に、
セルロースナノファイバー及び透明樹脂を含む層、又は
透明樹脂フィルム層を有する
請求項1のいずれかに記載の透明樹脂複合材料。
【請求項7】
透明樹脂補強用の樹脂補強材料であって、リグニン除去及び疎水変性された植物繊維からなり、平均繊維径が5~200μmであり、リグニンの含有率が5質量%以下である樹脂補強材料。
【請求項8】
前記平均繊維径5~200μmの植物繊維が、90質量%以上含まれるものである、請求項7に記載の樹脂補強材料。
【請求項9】
平均繊維径35~60μmの植物繊維からなる、請求項7に記載の樹脂補強材料。
【請求項10】
リグニン除去及び疎水変性された植物繊維からなる樹脂補強材料、並びに透明樹脂を含む透明樹脂複合材料を成形してなる透明樹脂成形体であって、前記樹脂補強材料の平均繊維径が5~200μmであり、リグニンの含有率が5質量%以下である透明樹脂成形体。
【請求項11】
前記樹脂補強材料が、平均繊維径5~200μmの植物繊維を90質量%以上含むものである、請求項10に記載の透明樹脂成形体。
【請求項12】
前記樹脂補強材料が、平均繊維径35~60μmの植物繊維からなる、請求項10に記載の透明樹脂成形体。
【請求項13】
(1)植物繊維中のリグニンを、含有率が5質量%以下となるように除去する工程、
(2)工程(1)で得られたリグニンを除去した植物繊維を疎水変性し、平均繊維径が5~200μmとなるように解繊する工程、及び
(3)工程(2)で得られた樹脂補強材料を透明樹脂と複合化する工程
を含む透明樹脂複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記工程(2)が、平均繊維径5~200μmの植物繊維を90質量%以上含むように解繊する工程である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂補強材料が、平均繊維径35~60μmの植物繊維からなる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記透明樹脂が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
前記透明樹脂複合材料中の樹脂補強材料の含有率が5~60質量%である請求項13~16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
(1)植物繊維中のリグニンを、含有率が5質量%以下となるように除去する工程、及び
(2)工程(1)で得られたリグニンを除去した植物繊維を疎水変性し、平均繊維径が5~200μmとなるように解繊する工程
を含む透明樹脂補強用の樹脂補強材料の製造方法。
【請求項19】
前記工程(2)が、平均繊維径5~200μmの植物繊維を90質量%以上含むように解繊する工程である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記樹脂補強材料が、平均繊維径35~60μmの植物繊維からなる、請求項18に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物繊維を用いた樹脂補強材料、該樹脂補強材料と透明樹脂とを複合化してなる透明樹脂複合材料、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明樹脂は、透明性が要求される分野において工業的、商業的に広く用いられており、耐衝撃性、引張り強度等の機械的強度を向上させるために、透明樹脂中に補強材を含有させることが広く知られている。
【0003】
透明樹脂の透明性を保持しつつ、機械的強度を向上させる樹脂補強材料としては、例えば、ガラス繊維等の無機材料が挙げられる。樹脂補強材料としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の屈折率と透明樹脂の屈折率とを一致させて、透明なガラス繊維強化樹脂を得ることが可能となる(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
しかしながら、物質の屈折率は温度依存性を有するため、ガラス繊維のような補強材料を用いて樹脂を補強した場合、特定の温度条件では透明であっても、別の温度条件では半透明又は不透明となるといった問題が生じる。また、ガラス繊維は機械的物性に優れる半面、比重が高いため、樹脂との複合材料が重くなることや、廃棄時に多量の残渣が生じるといった問題がある。
【0005】
また、一般的に可視光領域の波長より繊維径が大きい補強材料を透明樹脂に含有すると、可視光の光散乱が生じ、その結果、樹脂の透明性が損なわれてしまうという問題がある。
【0006】
このような問題点を解決するために、木材や草本等から得られるセルロース繊維をミクロフィブリル化して、繊維径がナノオーダーにまで微細化されたナノファイバーを樹脂補強材料として用いることが知られている。
【0007】
前記ナノファイバーは、アラミド繊維並みの高弾性率を有し、石英ガラス並みの低い熱膨張率を示す。また、ナノファイバーのように、繊維径をナノオーダーまでナノ化させることによって、可視光の波長領域よりも小さく、可視光の光散乱を生じさせないことができる。そのため、ナノファイバーは、透明樹脂を補強する材料として有用に用いられている(例えば、特許文献3)。
【0008】
しかしながら、ナノファイバーはその製造工程が煩雑であり、コストが高くなるために工業的に生産することが難しい。また、ナノファイバーは断面二次モーメントが小さいため変形しやすく、かつ非常に凝集力が強いため、一般的に樹脂との相溶性が悪い。そのため、ナノファイバーの凝集を抑制される工程を更に設ける必要があり、その点においても工程が煩雑となる。さらに、ナノファイバーは、平均繊維径が非常に小さいために、その水懸濁液の濾水性が非常に悪く、シート等に成形する際の生産性においても問題を有している。また、ナノファイバーは、透明樹脂との複合化の際に、透明樹脂中に均一に分散させることが困難であり、複合化する方法も制限される。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開平9-207234号公報
【特許文献2】特開平7-156279号公報
【特許文献3】特開平2007-51266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、透明樹脂と複合化した時に幅広い温度範囲で透明性を維持でき、機械強度にも優れた植物繊維由来の樹脂補強材料、該樹脂補強材料と透明樹脂とを複合化してなる透明樹脂複合材料、及びこれらの製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
樹脂補強材料としてガラス繊維を用いることによる透明性維持の難しさ、比重の大きさや、植物繊維をナノファイバー化することによる製造工程の煩雑さ、ナノファイバーを用いた懸濁液の濾水性の低下、及び透明樹脂中に均一に分散させることが困難であるといった従来技術の問題点に対して、本発明者は、植物繊維をナノファイバー化せずに樹脂補強材料として使用できないかを鋭意研究した。その結果、本発明者は、脱リグニン後の植物繊維を疎水変性することにより、乾燥過程でのセルロース繊維の再凝集を防ぐこと、あるいは、脱リグニン後に乾燥した植物繊維における乾燥課程で生じたセルロース繊維の凝集を解き、疎水変性することにより、透明樹脂を植物繊維内及び繊維間の微小な空隙にも十分かつ均一に浸透させることができることを見出した。
【0012】
さらに、疎水変性された脱リグニン植物繊維に透明樹脂を十分かつ均一に浸透させることにより、透明樹脂中での疎水変性植物繊維自体が透明となり、温度変化によって透明樹脂の屈折率が変化しても、透明樹脂の透明性を維持したまま機械的強度を補強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
一般的に植物繊維を樹脂補強材料として用いる場合、植物繊維の繊維径が可視光領域の波長より長い場合(例えば、数十μm程度)、透明樹脂中で可視光が散乱してしまうため、このような植物繊維-樹脂複合材料は半透明又は不透明な材料となると考えられる。ところが、驚くべきことに、本発明によれば、植物繊維をリグニン除去、疎水変性することにより、ナノファイバー化せずに透明樹脂と複合化して透明複合材料が得られる。
【0014】
すなわち、本発明は、可視光領域の波長よりも十分に小さい繊維径とする(植物繊維をナノオーダーにまでフィブリル化する)という従来の手法とは全く異なるアプローチによって見出された、下記項に示す植物繊維を用いた透明樹脂用の樹脂補強材料、該樹脂補強材料と透明樹脂とを複合してなる透明樹脂複合材料、及びこれらの製造方法を提供する。
【0015】
項1.リグニン除去及び疎水変性された植物繊維からなる樹脂補強材料、並びに透明樹脂を含む透明樹脂複合材料。
【0016】
項2.前記樹脂補強材料の平均繊維径が5~200μmである項1に記載の透明樹脂複合材料。
【0017】
項3.前記樹脂補強材料のリグニンの含有率が5質量%以下である項1又は2に記載の透明樹脂複合材料。
【0018】
項4.前記透明樹脂が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である項1~3のいずれかに記載の透明樹脂複合材料。
【0019】
項5.前記透明樹脂複合材料中の樹脂補強材料の含有率が5~60質量%である項1~4のいずれかに記載の透明樹脂複合材料。
【0020】
項6.透明樹脂複合材料がシート状であって、さらに、少なくとも一方の表面に、
セルロースナノファイバー及び透明樹脂を含む層、又は
透明樹脂フィルム層を有する
項1~5のいずれかに記載の透明樹脂複合材料。
【0021】
項7.透明樹脂補強用の樹脂補強材料であって、リグニン除去及び疎水変性された植物繊維からなる樹脂補強材料。
【0022】
項8.リグニン除去及び疎水変性された植物繊維からなる樹脂補強材料、並びに透明樹脂を含む透明樹脂複合材料を成形してなる透明樹脂成形体。
【0023】
項9.(1)植物繊維中のリグニンを除去する工程、
(2)工程(1)で得られたリグニンを除去した植物繊維を疎水変性する工程、及び
(3)工程(2)で得られた繊維を透明樹脂と複合化する工程
を含む透明樹脂複合材料の製造方法。
【0024】
項10.前記樹脂補強材料の平均繊維径が5~200μmである項9に記載の製造方法。
【0025】
項11.樹脂補強材料のリグニンの含有率が5質量%以下である項9又は10に記載の製造方法。
【0026】
項12.前記透明樹脂が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である項9~11のいずれかに記載の製造方法。
【0027】
項13.前記透明樹脂複合材料中の樹脂補強材料の含有率が5~60質量%である項9~12のいずれかに記載の製造方法。
【0028】
項14.(1)植物繊維中のリグニンを除去する工程、及び
(2)工程(1)で得られたリグニンを除去した植物繊維を疎水変性する工程
を含む透明樹脂補強用の樹脂補強材料の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の透明複合材料は、樹脂補強材料であるリグニン除去及び疎水変性によりセルロース繊維間の凝集がない状態の植物繊維が、ナノファイバー化されていないにもかかわらず、透明樹脂の透明性を維持しており、機械強度も透明樹脂と比較して高くなるという効果を奏する。また、本発明の透明複合材料は、植物繊維由来の樹脂補強材料を使用しているため、ガラス繊維を補強材料とした樹脂複合材料と比較して、温度変化によっても透明性が維持され、比重が低いといった優れた点を有する。
【0030】
本発明の樹脂補強材料は、透明樹脂と複合化することにより、透明樹脂の透明性を維持したまま透明樹脂の機械強度を高めることができる。よって、本発明の樹脂補強材料は、透明樹脂用の樹脂補強材料として優れている。また、一般的にナノファイバーの水懸濁液は、濾水性が非常に悪いが、本発明の樹脂補強材料は、植物繊維をナノファイバー化していないため、濾水性に優れる。濾水性は製造コストに大きく影響するため、ナノファイバーと比較して濾水に要する時間を大幅に低減することができる本発明の樹脂補強材料は、コストの面からも極めて優れた材料である。さらに、本発明の樹脂補強材料は、植物繊維をナノファイバー化していないため、透明樹脂中での補強材料の繊維配向制御が容易であり、透明樹脂中での異方性を付与した透明樹脂成形体することも可能となる。
【0031】
本発明の樹脂補強材料の製造方法によれば、脱リグニン後の植物繊維を疎水変性する、あるいは、脱リグニン後に乾燥した植物繊維においてセルロース繊維の凝集を解き、疎水変性する。これにより、乾燥過程でのセルロース繊維の凝集をなくし、透明樹脂を繊維間の微小な空隙にも十分かつ均一に浸透させることができる。そのため、ナノファイバー化を行っていないにもかかわらず、本発明の樹脂補強材料と透明樹脂とが複合化された複合材料は、透明性を維持することができると考えられる。また、透明樹脂補強材料の製造工程において、植物繊維をナノファイバー化することなく透明樹脂を補強することができるため、ナノファイバー化するための煩雑な工程を要しない。
【0032】
本発明の樹脂補強材料の製造方法によれば、上記優れた本発明の透明複合材料を簡便に製造することができる。
【0033】
なお、本発明の樹脂補強材料は、ナノファイバー化を行っていないが、後述の通り、本発明の効果を奏する限り、樹脂補強材料の一部にナノサイズの繊維(ナノファイバー)が含まれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1において得られたアセチル化パルプ繊維シートの顕微鏡写真(倍率:100倍)である。
【図2】実施例2において得られたアセチル化パルプ繊維シートの顕微鏡写真(倍率:100倍)である。
【図3】実施例3において得られたアセチル化乾燥パルプシートの顕微鏡写真(倍率:100倍)である。
【図4】印字された台紙の上に、実施例1で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートを載せ、室温でのシートの透明性を評価した写真である。
【図5】印字された台紙の上に、実施例2で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートを載せ、室温でのシートの透明性を評価した写真である。
【図6】印字された台紙の上に、実施例3で得られたアセチル化乾燥パルプ-アクリル樹脂複合シートを載せ、室温でのシートの透明性を評価した写真である。
【図7】印字された台紙の上に、比較例1で得られた乾燥パルプ-アクリル樹脂複合シートを載せ、室温でのシートの透明性を評価した写真である。
【図8】印字された台紙の上に、実施例1で得られたアセチル化パルプ繊維シート(左)とアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(右)を載せ、室温でのシートの透明性を評価した写真である。
【図9】印字された台紙の上に、2枚のガラス板に挟んだ実施例1で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂シートを載せ、90℃でのシートの透明性を評価した写真である。
【図10】印字された台紙の上に、2枚のガラス板に挟んだ実施例2で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂シートを載せ、90℃でのシートの透明性を評価した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の樹脂補強材料、該樹脂補強材料と透明樹脂とを複合してなる透明樹脂複合材料、及びこれらの製造方法について、詳述する。

【0036】
<樹脂補強材料>
本発明の樹脂補強材料は、リグニンが除去され、疎水変性された植物繊維からなる。

【0037】
本発明の樹脂補強材料の原料となる植物繊維は、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビートパルプ、ポテトパルプ、農産物残廃物、布、紙等に含まれる植物由来の繊維である。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。植物繊維は、1種単独でも用いてもよく、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。

【0038】
植物繊維は、セルロース繊維の間を埋めているリグニン及びヘミセルロースから構成された構造を有し、セルロースミクロフィブリル束の周囲の一部又は全部をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆し、特に、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。当該リグニンによってセルロース繊維間は、強固に接着しており、植物繊維を形成している。後述の製造方法における工程(1)は、植物繊維中のリグニンを取り除くことにより、植物繊維を分散させ、またセルロース繊維間に空隙を作る工程である。

【0039】
植物繊維としては、前記植物繊維含有材料から得られるパルプ、マーセル化を施したセルロース繊維、レーヨンやセロファン等の再生セルロース繊維等を含むものも挙げられる。

【0040】
前記パルプとしては、植物原料を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、セミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。

【0041】
本発明の樹脂補強材料において、リグニンはできるだけ取り除かれていることが、植物繊維中のセルロース繊維の凝集を防ぐことができるという点で好ましい。具体的には、リグニンの除去率は、樹脂補強材料中、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。また、リグニンの除去率の下限は、特に限定されるものではなく、0質量%に近いほど好ましい。

【0042】
植物繊維からリグニンを除去する方法は、例えば、後述の製造方法における工程(1)に記載の方法が採用できる。

【0043】
また、本発明の樹脂補強材料は、植物繊維が疎水化されている。すなわち、植物繊維のセルロース繊維表面に存在する水酸基が疎水性の置換基で置換され、疎水化されている。置換基としては、炭素数2~18のアシルオキシ基、炭素数1~18のアルコキシ基等が挙げられる。

【0044】
疎水変性された植物繊維(疎水変性植物繊維)の置換度としては、0.01~1程度が好ましく、0.3~0.8程度がより好ましい。置換度を0.01以上に設定することによって、セルロース繊維間の凝集を抑制することができ、透明樹脂を十分に浸透することができるという効果が得られる。また、置換度を1以下に設定することによって、後述する植物繊維の繊維径を保持することができ、セルロース繊維の結晶性を損なわない等の効果が得られる。

【0045】
植物繊維を疎水化する方法は、例えば、後述の製造方法における工程(2)に記載の方法が採用できる。

【0046】
また、樹脂補強材料の平均繊維径は、5~200μm程度が好ましく、5~100μm程度がより好ましく、10~50μm程度がさらに好ましい。平均繊維径を5μm以上に設定することによって、濾水性を向上させることができる。また、平均繊維径を200μm以下に設定することによって、透明樹脂複合材料における直線透過率を向上させることができる。なお、樹脂補強材料の平均繊維径は、電子顕微鏡の100倍での観察において視野内の繊維少なくとも50本以上について測定したときの平均値である。

【0047】
本発明の樹脂補強材料の比表面積は、20~300m/g程度が好ましく、40~300m/g程度がより好ましい。比表面積を20m/g以上に設定することにより、透明樹脂中での樹脂補強材料の透明性を向上させることができる。

【0048】
本発明の樹脂補強材料の濾水時間としては、20秒程度以下が好ましく、10秒程度以下がより好ましい。濾水時間が20秒以下であることにより、樹脂補強材料の濾水処理に要する時間を大幅に短縮できることから工業的に好ましい。

【0049】
なお、前記濾水時間とは、樹脂補強材料と水からなる0.33質量%のスラリー600mLを下記(1)~(4)の条件で減圧吸引濾過を行い、脱水シートが得られる迄の時間をいう。

【0050】
(1)20℃
(2)濾過面積200cm
(3)-30kPa減圧度
(4)厚さ0.2mmの濾紙(5A アドバンテック東洋(株)製)で濾過して脱水シートが得られるまでの時間

【0051】
<樹脂補強材料の製造方法>
本発明の樹脂補強材料の製造方法は、(1)植物繊維中のリグニンを除去する工程、及び(2)工程(1)で得られたリグニンを除去した植物繊維を疎水変性する工程を含む。

【0052】
工程(1)において、リグニンを除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、亜塩素酸法、クラフト法、サルファイト法等が挙げられる。ここで、亜塩素酸法によるリグニン除去とは、酸性条件下の亜塩素酸ナトリウム水溶液中で植物繊維を加熱することによってリグニンを除去する方法である。

【0053】
なお、リグニン含有量は、Klason法により測定することができる。

【0054】
工程(1)によって得られたリグニンを除去した植物繊維は、工程(2)によって疎水変性処理を行う。これにより、セルロース繊維間の凝集を防ぐことができ、セルロース繊維表面の水酸基を疎水化することができる。

【0055】
工程(1)によって得られたリグニンを除去した植物繊維は、工程(1)のリグニンを除去する際に用いた水を完全に除去しない状態で疎水変性処理してもよく、また、工程(1)のリグニンを除去後、水洗を行い、用いた水を完全に除去しない状態で疎水変性処理してもよい。このような未乾燥の状態で疎水変性処理を行うことにより、乾燥工程を行う必要がないため、生産コストの面から好ましい。また、工程(2)の疎水変性処理前のリグニン除去した植物繊維は、必ずしも未乾燥の状態で行う必要はなく、工程(1)によって得られたリグニンを除去した植物繊維を乾燥した状態で、疎水変性処理してもよい。例えば、市販のパルプ等のリグニン除去された植物繊維をそのまま使用する場合には、工程(2)の疎水変性処理の前処理(乾燥処理)を施す必要がなく、生産コストの面から好ましい。

【0056】
リグニンを除去した植物繊維を疎水変性する際に用いる疎水変性化剤としては、例えば、酸、酸ハロゲン化物、酸無水物等が挙げられる。疎水変性剤は、1種単独でも用いてもよいし、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。

【0057】
酸としては、炭素数2~18程度のカルボン酸等が挙げられる。具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、オクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等が挙げられる。

【0058】
酸ハロゲン化物としては、炭素数2~18程度の酸ハロゲン化物が挙げられ、具体的には、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、ブチリルクロライド、バレロイルクロライド、ヘキサノイルクロライド、オクタノイルクロライド、デカノイルクロライド、ドデカノイルクロライド、ステアロイルクロライド、オレオイルクロライド等が挙げられる。

【0059】
酸無水物としては、炭素数3~18程度の酸無水物が挙げられ、具体的には、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、炭素数4~20程度のアルキル基又はアルケニル基を有する無水コハク酸等が挙げられる。

【0060】
工程(2)によって得られる樹脂補強材料は、植物繊維の表面に存在する水酸基の一部が、前記の疎水変性化剤によって変性された構造をとる。前記疎水性の置換基は、疎水変性化剤を適宜選択することによって導入される。

【0061】
疎水変性化剤の使用量は、疎水変性化剤の種類に応じて、適宜変更すればよく、限定されるものではないが、例えば、脱リグニン植物繊維100質量部に対して0.1~200質量部程度が好ましく、0.5~150質量部程度がより好ましい。

【0062】
なお、リグニン除去後に残った非セルロース成分(ヘミセルロース)を除去するために植物繊維をアルカリ処理しておいてもよい。

【0063】
疎水変性を行う際の反応溶媒としては、使用される疎水変性化剤に応じて適宜設定すればよいが、例えば、水;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独でも用いてもよく、これらから選ばれた2種以上の混合溶媒を用いてもよい。

【0064】
前記工程(1)及び(2)によって得られる疎水変性化された植物繊維は、さらに解繊することによって、植物繊維の一部をミクロフィブリル化(ナノファイバー化)することができる。また、植物繊維の一部を疎水変性前にミクロフィブリル化(ナノファイバー化)することができる。ただし、前記の通り、製造工程における濾水性の低減を抑制する(濾水時間が長くならないようにする)ために、解繊後に前記の測定条件で測定された植物繊維の疎水変性化された平均繊維径が5~200μm程度となるように解繊することが好ましい。

【0065】
植物繊維を解繊する方法としては、公知の方法が採用でき、例えば、前記セルロース繊維含有材料の水懸濁液、スラリーをリファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機、ビーズミル等により機械的に摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。

【0066】
樹脂補強材料をシート状とする場合における成形方法としては、特に限定されないが、例えば、前記工程(1)及び(2)によって得られた、樹脂補強材料と水との混合液(スラリー)を吸引濾過し、フィルター上にシート状になった樹脂補強材料を乾燥、加熱圧縮等することによって、樹脂補強材料をシート状に成形することができる。

【0067】
<透明樹脂複合材料>
本発明の透明樹脂複合材料は、リグニンが除去され、疎水変性された植物繊維からなる前記樹脂補強材料、及び透明樹脂を含む。

【0068】
本発明において、透明樹脂とは、厚さ0.1mmの樹脂シートの可視光領域の波長(400~800nm)での直線透過率が30%以上の樹脂をいう。

【0069】
透明樹脂としては、植物繊維の屈性率に近い樹脂であることが好ましく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。

【0070】
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂;メタクリル樹脂;オレフィン樹脂;無水マレイン酸、アクリル酸等で変性された変性オレフィン樹脂等が挙げられ、具体的には、ポリプロピレン樹脂;無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂;ポリエチレン樹脂;ナイロン樹脂;塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、また、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。

【0071】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;エポキシ樹脂;ジアリルフタレート樹脂;ポリウレタン樹脂;ケイ素樹脂;ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等が使用できる。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。

【0072】
透明樹脂の屈折率としては、1.48~1.62程度のものが、植物繊維の屈性率に近く、透明な複合材料が得られるという観点で好ましい。

【0073】
本発明の透明樹脂複合材料中の樹脂補強材料の含有割合(繊維率)は、5~60質量%程度が好ましく、10~40質量%程度がより好ましく、10~30質量%程度がさらに好ましい。樹脂補強材料の含有割合(繊維率)を5質量%程度以上に設定することによって、機械的強度の向上、熱膨張係数の低減、高温化での弾性率の向上等の効果が得られる。また、含有割合(繊維率)を60質量%程度以下に設定することによって、複合材料の透過率の低減の抑制、吸湿率の低下等の効果が得られる。

【0074】
本発明において、透明樹脂複合材料を厚さ100μmにしたときのシートにおける波長600nmの直線透過率は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。前記直線透過率を20%以上とすることにより、透明樹脂複合材料の透明性が保持される。

【0075】
透明樹脂複合材料は、さらに樹脂の透明性、及び本発明の効果を損なわない程度に添加剤を含有していてもよい。添加剤の具体例としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の相溶化剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。これらの添加剤を用いる場合、1種単独で用いてもよいし、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。

【0076】
<透明樹脂複合材料の製造方法>
本発明の透明樹脂複合材料の製造方法は、前記樹脂補強材料(繊維)を透明樹脂と複合化する工程により製造される。すなわち、(1)植物繊維中のリグニンを除去する工程、(2)工程(1)で得られたリグニンを除去した植物繊維を疎水変性する工程、及び(3)工程(2)で得られた繊維を透明樹脂と複合化する工程を含む。

【0077】
工程(3)の複合化は、工程(2)で得られた樹脂補強材料を透明樹脂と混合等すればよい。

【0078】
樹脂補強材料と透明樹脂とを複合化(混合)する方法としては、例えば、透明樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、樹脂補強材料と熱可塑性樹脂を二軸押出し機、ラボプラストミル、ブレンダー等により溶融混練する方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂を繊維状に加工後、パルプと混合して熱圧によりシート化することでも複合化できる。

【0079】
また、樹脂補強材料と熱硬化性樹脂を複合化(混合)する場合は、例えば、樹脂補強材料より構成されるシート又は成形体に、樹脂モノマー液を十分に含浸させて、熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、樹脂補強材料にポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液を十分に含浸させて乾燥する方法、樹脂補強材料を樹脂モノマー液中に十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、樹脂補強材料をポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に分散させて乾燥する方法等が挙げられる。

【0080】
さらに、前記樹脂補強材料と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とを複合化した繊維状の樹脂複合材料を製造した後、繊維状の樹脂複合材料と該熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とを複合してもよい。

【0081】
前記透明樹脂複合材料がシート状である場合、さらに、少なくとも一方の表面に、セルロースナノファイバー及び透明樹脂を含む層、又は透明樹脂フィルム層を有していてもよい。前記の層を設けることによって、前記透明樹脂複合材料の表面を平滑化させることができ、透明樹脂複合材料の透明性をより向上させることができる。

【0082】
セルロースナノファイバーは、公知の方法により、前記の植物繊維を解繊することによって得られ、例えば、前記セルロース繊維含有材料の水懸濁液、スラリーをリファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機、ビーズミル等により機械的に摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法等によって製造することができる。

【0083】
また、セルロースナノファイバー及び透明樹脂を含む層における透明樹脂としては、前記で挙げられた熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を用いることができ、透明樹脂複合材料で用いた透明樹脂と同じ樹脂を用いることが好ましい。

【0084】
セルロースナノファイバー及び透明樹脂を含む層を透明樹脂複合材料の表面に設ける方法としては、特に限定されないが、例えば、セルロースナノファイバーと透明樹脂を分散媒に分散させた分散液を調製し、透明樹脂複合材料の表面に塗布する方法、セルロースナノファイバー及び透明樹脂をあらかじめシート状に形成し、当該シートを透明樹脂複合材料の表面に積層する方法、前記、樹脂補強材料より構成されるシートに、セルロースナノファイバーの水懸濁液を注ぎ、表面にセルロースナノファイバー層を形成させ、得られた積層シートに樹脂モノマー液を十分に含浸させて、熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法等が挙げられる。

【0085】
セルロースナノファイバー及び透明樹脂を含む層の厚さとしては、透明樹脂複合材料の表面を平滑化でき、透明性樹脂複合材料の透明性が損なわれない範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、100nm~50μm程度が好ましい。

【0086】
透明樹脂フィルムとしては、透明性を有し、前記透明樹脂複合材料の表面を平滑化でき、透明性樹脂複合材料の透明性が損なわれない範囲であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂フィルム、前記の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂から形成されるフィルム等が挙げられる。ポリエステル樹脂フィルムとしては、PET樹脂が好ましく、二軸延伸したPETフィルムがより好ましい。

【0087】
透明樹脂フィルム層を透明樹脂複合材料の表面に設ける方法としては、特に限定されないが、例えば、透明樹脂を分散媒に分散させた分散液を透明樹脂複合材料の表面に塗布する方法、透明樹脂フィルムを透明樹脂複合材料の表面に積層する方法、等が挙げられる。

【0088】
透明樹脂フィルム層の厚さとしては、透明樹脂複合材料の表面を平滑化できれば特に限定されるものではないが、例えば、1~50μm程度が好ましい。

【0089】
<透明樹脂成形体>
本発明の透明樹脂成形体は、前記の透明樹脂複合材料を成形して得られる。

【0090】
本発明の透明樹脂複合材料及びこれを成形した透明樹脂成形体は、透明樹脂の透明性を維持したまま、樹脂補強材料による機械強度を付与することができる。そのため、樹脂に透明性が要求され、かつ機械強度が要求される分野に広く用いることができる。

【0091】
例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の窓;パソコン、テレビ等のディスプレイ、電話(携帯電話)、時計等の電化製品等の表示部;カメラ、ビデオカメラ、映像再生機器等のレンズ;印刷機器、複写機器等の内部部品等;建築材;有機ELディスプレイ、有機EL照明や太陽電池の透明基板、タッチパネル、ヘッドライト用透明部品、透明紙、接着剤、塗料等の用途として有効に使用することができる。

【0092】
本発明の樹脂補強材料、透明樹脂複合材料及び透明樹脂成形体には、ナノファイバーが一部に含まれていてもよい。ただし、その製造工程においては、濾水率の低減を抑制する(濾水時間が長くならないようにする)ために、解繊後に前記の測定条件で測定された植物繊維の疎水変性化された平均繊維径が5~200μm程度となるように解繊することが好ましい。

【0093】
この点で、本発明は、従来のナノファイバーを樹脂補強材料の主原料とした発明とは大きく異なる。

【0094】
<透明樹脂成形体の製造方法>
本発明の透明樹脂成形体の製造方法は、前記透明樹脂材料を目的とする形状に成形する工程を含む。成形体成形方法としては、通常の樹脂組成物の成形方法と同様な方法、例えば金型成形、射出成形、押出し成形、中空成形等を採用することができる。

【0095】
樹脂補強材料を透明樹脂と複合化する際に用いられる本発明の樹脂補強材料はナノ化していないため、平均繊維径が5~200μm程度となるような大きな繊維径を有する変性植物繊維を含有する。そのため、透明樹脂材料中で樹脂補強材料の繊維の配向を容易に行うことができ、樹脂補強材料に異方性を付与することができる。樹脂補強材料に異方性を付与する方法としては、例えば、前記複合化の工程(3)において、押出し成形、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形等の成形の際に異方性を持たせる方法、得られた樹脂補強材料を一軸又は二軸延伸する方法等の方法が挙げられる。

【0096】
特に射出成形後においても弾性率の異方性が小さいため、強度の高い樹脂成形体を得ることができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【実施例】
【0097】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
実施例1
1.樹脂補強材料(アセチル化パルプ繊維シート)の製造
シトカスプルース木粉(30~60mesh)5gをエタノール及びトルエンからなる混合液(エタノール:トルエン=1:2(体積比))により脱脂処理をし、得られた脱脂試料5gを以下の亜塩素酸法によって脱リグニン処理を行い、脱リグニン処理パルプ繊維を得た。
【実施例】
【0099】
脱リグニン処理(亜塩素酸塩法)は、脱脂処理試料5gを、蒸留水300ml、亜塩素酸ナトリウム2g、氷酢酸0.4mlの溶液中に入れ、80℃の湯浴中で時折撹拌しながら1時間、加温した。1時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム2g、氷酢酸0.4mlを加えて反復処理した。この操作を6回行った。その後、水で洗浄した。得られた脱リグニン処理パルプ繊維におけるリグニンの含有率は、1質量%未満であった。
【実施例】
【0100】
得られた脱リグニン処理パルプ繊維3.5gを0.1重量%水酸化ナトリウム水溶液200mlに浸漬させ、室温で一晩アルカリ処理を行った後、吸引濾過により回収しながら、試料が中性になるまで洗浄した。
【実施例】
【0101】
水洗後、未乾燥のままアルカリ処理した脱リグニン処理パルプ繊維(固形分濃度10質量%)30g中の水分を、吸引濾過と酢酸の添加を繰り返し、水分を酢酸に置換した。最終的に脱リグニン処理パルプ繊維を酢酸50mlに分散させ、さらに15gの無水酢酸を添加し、80℃で3時間撹拌させ、アセチル化処理を行った。得られたアセチル化パルプ繊維を水洗し、アセチル化パルプ繊維の懸濁液を調製した後、フィルターで濾過した。その後、熱圧乾燥させ、厚さ15~30μmのアセチル化パルプ繊維シートを得た。
【実施例】
【0102】
得られたアセチル化パルプ繊維シートの倍率100倍での顕微鏡写真を図1に示す。図1より、得られたアセチル化パルプ繊維シートの平均粒子径は、55μmであり、5~200μmの繊維径が95%以上存在していることが確認できた。なお、アセチル化パルプ繊維シートの平均繊維径は、電子顕微鏡の100倍での観察において視野内の繊維(少なくとも50本以上)について測定した時の平均値を算出することによって求め、前記繊維径の含有率は、アセチル化パルプ繊維シートの電子顕微鏡の100倍における視野内に観察される任意繊維50本のうち、5~200μmの繊維径の植物繊維の占有率を算出することによって求めた。
【実施例】
【0103】
2.透明樹脂複合材料(アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート)の製造
直径3cmの得られたアセチル化パルプ繊維シートに対し、アクリル樹脂(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業のABPE-10))を減圧下で注入し、アセチル化パルプ繊維シートにアクリル樹脂を含浸させた。得られた含浸シートを紫外線照射することにより硬化させ、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ120μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)は19.3質量%であった。
【実施例】
【0104】
実施例2
アセチル化パルプ繊維を適度にフィブリル化させるために、実施例1と同様の方法で得られたアセチル化パルプ繊維にビーズミル処理(1mmビーズ/充填率70%/1分)を行い、得られたパルプ懸濁液をフィルターで濾過し、熱圧乾燥させ、厚さ15~30μmのアセチル化パルプ繊維シートを得た。得られたアセチル化パルプ繊維シートの倍率100倍での顕微鏡写真を図2に示す。図2より、得られたアセチル化パルプ繊維のシートの平均粒子径は、60μmであり、5~200μmの繊維径が90%以上含有していることが確認できた。なお、前記平均繊維径、及び繊維径の含有率は、実施例1と同様の方法で求めた。
【実施例】
【0105】
得られたアセチル化パルプ繊維シートを実施例1と同様の方法にて、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ60μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)は21.7質量%であった。
【実施例】
【0106】
実施例3
あらかじめ脱リグニン処理が行われている市販の乾燥パルプシートを、実施例1と同様の方法にて2回アセチル化処理を行い、アセチル化乾燥パルプシートを得た。得られたアセチル化乾燥パルプシートの倍率100倍での顕微鏡写真を図3に示す。図3より、得られたアセチル化パルプ繊維のシートの平均粒子径は、35μmであり、5~200μmの繊維径が95%以上含有していることが確認できた。なお、前記平均繊維径、及び繊維径の含有率は、実施例1と同様の方法で求めた。
【実施例】
【0107】
得られたアセチル化乾燥パルプシートを実施例1と同様の方法にて、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ170μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)は30.5質量%であった。
【実施例】
【0108】
実施例4
実施例1と同様の方法により、アセチル化パルプ繊維シートにアクリル樹脂を含浸させ、得られた含浸シートを紫外線照射することにより硬化させ、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ100μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)
は26.0質量%であった。なお、用いたアセチル化パルプ繊維シート及びアクリル樹脂は実施例1と同様のものである。
【実施例】
【0109】
実施例5
実施例2と同様の方法により得られたアセチル化パルプ繊維シートを実施例1と同様の方法にて、実施例2で用いたアクリル樹脂と含浸させ、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ60μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)は18.0質量%であった。
【実施例】
【0110】
実施例6
実施例3と同様の方法により得られたアセチル化乾燥パルプ繊維シートを実施例1と同様の方法にて、実施例3で用いたアクリル樹脂と含浸させ、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ100μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)は26.9質量%であった。
【実施例】
【0111】
比較例1
アセチル化処理を行わなかった市販の乾燥パルプシートを実施例1と同様の方法にて、パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(厚さ120μm)(パルプ繊維の平均粒子径:35μm)を得た。なお、平均繊維径は、実施例1と同様の方法で求めた。得られた複合シート中のパルプ繊維の含有割合(繊維率)は29.8質量%であった。
【実施例】
【0112】
参考例1
アクリル樹脂(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業のABPE-10))のみを紫外線照射により硬化させ、アクリル樹脂シート(厚さ100μm)を得た。
【実施例】
【0113】
<物性評価>
・直線透過率、線熱膨張係数、及び全光線透過率
実施例1、2、4及び5で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート、実施例3及び6で得られたアセチル化乾燥パルプ-アクリル樹脂複合シート、比較例1で得られた乾燥パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート、並びに参考例1で得られたアクリル樹脂シートについて、直線透過率及び線熱膨張係数を測定した。なお、直線透過率は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製のUV-4100形分光光度計を用い、波長200~800nmでの透過率を測定した。線熱膨張係数は、セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/SS6100を用い、下記の条件にて測定した。表1に実施例1~3、比較例1及び参考例1の100μm厚換算における波長600nmでの直線透過率、及び線熱膨張係数の評価結果を示す。また、表2に実施例4~6の全光線透過率、及び線熱膨張係数の評価結果を示す。
「線熱膨張係数測定条件」
昇温速度:5℃/min、雰囲気:N中、加熱温度:20~150℃、荷重:3mg、測定回数:3回、試料長:4×15mm、モード:引っ張りモード
【実施例】
【0114】
また、実施例3~6の複合シートについて、全光線透過率を測定した。なお、全光線透過率は、直線透過率と同様に、(株)日立ハイテクノロジーズ社製のUV-4100形分光光度計を用い、波長200~800nmでの全光線透過率を測定した。
【実施例】
【0115】
【表1】
JP0005836361B2_000002t.gif
【実施例】
【0116】
【表2】
JP0005836361B2_000003t.gif
【実施例】
【0117】
実施例7
実施例1においてアセチル化処理パルプ繊維のシートの上に、0.1質量%濃度の無処理セルロースナノファイバー水溶液を注ぎ、表面にセルロースナノファイバー層を形成した。得られたアセチル化処理パルプ繊維シートとセルロースナノファイバーの比率は、乾燥重量ベースで4:1とした。得られたアセチル化処理パルプ繊維・ナノファイバー積層シートを、実施例1と同様の方法により乾燥させ、実施例1で用いたアクリル樹脂を注入し、アセチル化処理パルプ繊維・セルロースナノファイバー積層-アクリル樹脂複合シート(厚さ75μm)を得た。得られた複合シート中のアセチル化処理パルプ繊維(セルロースナノファイバー含有)の含有割合(繊維率)は28質量%であった。 得られた複合シートについて、前記の<物性評価>と同様の方法により、直線透過率、全光線透過率、及び線熱膨張係数を測定した。
【実施例】
【0118】
測定した結果、直線透過率(600nm):75%(100μm厚換算)、全光線透過率(600nm):87.5%、線熱膨張係数:11.5ppm/kであった。
【実施例】
【0119】
実施例8
実施例1と同様の方法によりアセチル化処理パルプ繊維シートにアクリル樹脂を含浸させ、さらに厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムで両側から挟み、それをガラス板に挟んでから紫外線照射することにより硬化させ、アセチル化パルプ繊維・PETフィルム積層-アクリル樹脂複合シート(厚さ85μm)を得た。また、得られた複合シート中のアセチル化パルプ繊維の含有割合(繊維率)は21質量%であった。 得られた複合シートについて、前記の<物性評価>と同様の方法により、直線透過率、全光線透過率、及び線熱膨張係数を測定した。
【実施例】
【0120】
測定した結果、直線透過率(600nm):72%(100μm厚換算)、全光線透過率(600nm):87.0%、線熱膨張係数:14.8ppm/kであった。
【実施例】
【0121】
・(アセチル化)パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートの透明性
実施例1及び2で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート、実施例3で得られたアセチル化乾燥パルプ-アクリル樹脂複合シート、並びに比較例1で得られた乾燥パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートをそれぞれ印字された台紙の上に載せ、パルプ繊維含有樹脂複合シートの透明性を目視により観察した。評価結果を図4(実施例1の複合シート)、図5(実施例2の複合シート)、図6(実施例3の複合シート)、及び図7(比較例1の複合シート)に示す。
【実施例】
【0122】
また、実施例1で製造したアセチル化パルプ繊維シート(図8の左側)とアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート(図8の右側)の写真を示す。
【実施例】
【0123】
・温度変化による透明性の変化
実施例1で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シート及び実施例2で得られたアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートをそれぞれ2枚のガラス板に挟み、ホットステージ上で90℃に加熱した。加熱後、直ちに加熱したガラス板に挟んだパルプ繊維含有樹脂複合シートを印字された台紙の上に載せ、アセチル化パルプ繊維含有樹脂複合シートの透明性を目視により観察した。評価結果を図9(実施例1のシート)、及び図10(実施例2のシート)に示す。
【実施例】
【0124】
・考察
表1に示すように、実施例1~6のアクリル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートでは、線熱膨張係数が13ppm/K以下となり、パルプ繊維を含まない参考例1の線熱膨張係数(213.0ppm/K)と比較して、1/16前後にまで飛躍的に低減されていることが分かった。
【実施例】
【0125】
一般的に、パルプ繊維のような補強材を用いて樹脂を補強した場合、パルプ繊維中の、セルロース繊維間での水素結合等の相互作用が強く、アクリル樹脂がパルプ繊維中に十分に浸透されない。その結果、光散乱が生じてしまい、得られるパルプ繊維と透明樹脂の複合材料は、透明性が低減するものと考えられる。このことは、比較例1の評価結果からも明らかであり、アセチル化されていない乾燥パルプシートによってアクリル樹脂を補強した比較例1では、600nmでの直線透過率が、15.8%と非常に低く、図7の写真からも透明性に劣っていることが明らかとなっている。
【実施例】
【0126】
一方、表1に示すように、実施例1~3のアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートでは、可視光の波長よりも大きい繊維径(5~200μm)のパルプ繊維を90%以上と非常に多く含有しているにもかかわらず、600nmでの直線透過率が50%と高くなった。また、図4、図5及び図6の写真からもアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートの透明性が維持されていることが明らかとなった。
【実施例】
【0127】
このことは、パルプ繊維をアセチル化のような疎水変性処理することによって、パルプ繊維中の、セルロース繊維間での水素結合がアセチル基のような疎水基によって阻害され、アクリル樹脂がパルプ繊維中のセルロース繊維間にまで十分に浸透されたことに起因するものと考えられる。そのため、光の拡散が抑制でき、透明樹脂の透明性が損なわれなかったものと考えられる。
【実施例】
【0128】
また、実施例4~6の複合シートにおいて、全光線透過率がいずれも87%以上と高く、非常に透明性に優れた透明性シートが得られているということが明らかとなった。
【実施例】
【0129】
さらに、複合シートの表面に、セルロースナノファイバーとアクリル樹脂が複合された積層シート(実施例7)や、二軸延伸PETフィルム層が複合された積層シート(実施例8)を設けた場合には、直線透過率が向上し、全光線透過率においても非常に高い値を示した。これは、複合シートの表面に発生するアセチル化処理パルプ繊維に由来する毛羽立ち等が、上記の層を設けることにより抑えられ、複合シートの平滑化ができたためと考えられる。
【実施例】
【0130】
さらにまた図4及び図5と、図9及び図10の比較から、実施例1及び2のアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートは、90℃という高い温度条件においても室温のときと同様、アセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートの下の台紙に印字された文字を確認することができ、良好な透明シートが得られていることがわかった。
【実施例】
【0131】
補強材によって補強された透明樹脂複合材料は、温度変化による補強材の屈折率が変化するため、その影響により、透明性が温度変化によって損なわれることがあるが、実施例1及び2のアセチル化パルプ繊維-アクリル樹脂複合シートでは、温度変化による補強材の屈折率の変化が少なく、室温から90℃という非常に広い温度範囲においても透明性を保持することができるということがわかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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