TOP > 国内特許検索 > 高分子材料の製造方法、並びにその方法に用いる装置 > 明細書

明細書 :高分子材料の製造方法、並びにその方法に用いる装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3742821号 (P3742821)
公開番号 特開2002-212437 (P2002-212437A)
登録日 平成17年11月25日(2005.11.25)
発行日 平成18年2月8日(2006.2.8)
公開日 平成14年7月31日(2002.7.31)
発明の名称または考案の名称 高分子材料の製造方法、並びにその方法に用いる装置
国際特許分類 C08L 101/00        (2006.01)
C08J   3/00        (2006.01)
G02B   1/04        (2006.01)
G02B   5/18        (2006.01)
G02B   5/20        (2006.01)
FI C08L 101/00
C08J 3/00 CFD
G02B 1/04
G02B 5/18
G02B 5/20
C08L 101:00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2001-006660 (P2001-006660)
出願日 平成13年1月15日(2001.1.15)
審査請求日 平成13年11月22日(2001.11.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000046
【氏名又は名称】関西ティー・エル・オー株式会社
発明者または考案者 【氏名】西田 幸次
【氏名】梶 慶輔
【氏名】金谷 利治
個別代理人の代理人 【識別番号】100098969、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 正行
審査官 【審査官】冨士 良宏
参考文献・文献 特開平10-330494(JP,A)
特開平03-274533(JP,A)
特開昭47-012900(JP,A)
特開平05-040960(JP,A)
特開平07-300530(JP,A)
特開平06-051289(JP,A)
特開平07-033991(JP,A)
梶慶輔ほか,「高分子の結晶化準備機構」,高分子学会予稿集,(財)高分子学会,1999年 9月20日,第48巻、第13号,p.3420-342
調査した分野 C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 3/00- 5/24
G02B 1/04
G02B 5/18
G02B 5/20
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
1つの化学種からなる高分子融体を、下記のスピノーダル臨界温度Tsより低くガラス転移温度Tgより高い温度にまで瞬時に冷却し、その温度で少なくともスピノーダルパターンが生じる時間が経過するまで保持した後、更に急冷して固化させることにより、高分子材料を製造する方法において、
スピノーダルパターンが生じる温度をTxとするとき、各温度Txで出現するスピノーダルパターンを2次元フーリエ変換したときのピーク位置に基づいて、予めTxとTsとスピノーダルパターンの特性波長Λとの関係を求めておき、その関係に基づいて特性波長に応じて製造時の保持温度Txを定めることを特徴とする高分子材料の製造方法。
Ts:それより高い温度ではスピノーダルパターンが生じない限界の温度。
【請求項2】
1つの化学種からなる高分子ガラスを、下記のスピノーダル臨界温度Tsより低くガラス転移温度Tgより高い温度にまで瞬時に加熱し、その温度で少なくともスピノーダルパターンが生じる時間が経過するまで保持した後、急冷して固化させることにより、高分子材料を製造する方法において、
スピノーダルパターンが生じる温度をTxとするとき、各温度Txで出現するスピノーダルパターンを2次元フーリエ変換したときのピーク位置に基づいて、予めTxとTsとスピノーダルパターンの特性波長Λとの関係を求めておき、その関係に基づいて特性波長に応じて製造時の保持温度Txを定めることを特徴とする高分子材料の製造方法。
Ts:それより高い温度ではスピノーダルパターンが生じない限界の温度。
【請求項3】
高分子融体を収容可能な平たい薄肉の保持部材と、
この保持部材が通過する程度に狭い通路を内部に有する第1の熱媒ブロックと、
第1熱媒ブロックの通路と同軸状で保持部材が通過する程度に狭い通路を内部に有し、第1熱媒ブロックとの間に熱的遮断ギャップを空けて配置された第2の熱媒ブロックと、
第2熱媒ブロックの通路の出口付近に配置されたガラス転移温度以下の冷媒浴と
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法に用いる高分子材料の製造装置。
【請求項4】
高分子ガラスを収容可能な平たい薄肉の保持部材と、
この保持部材が通過する程度に狭い通路を内部に有する第1の熱媒ブロックと、
第1熱媒ブロックの通路と同軸状で保持部材が通過する程度に狭い通路を内部に有し、第1熱媒ブロックとの間に熱的遮断ギャップを空けて配置された第2の熱媒ブロックと、
第2熱媒ブロックの通路の出口付近に配置されたガラス転移温度以下の冷媒浴と
を備えることを特徴とする、請求項2に記載の方法に用いる高分子材料の製造装置。
【請求項5】
前記保持部材が光学ガラスからなり、
前記第2熱媒ブロックが、光学顕微鏡のステージに搭載可能又は光学顕微鏡のステージと兼用可能なものであって、その通路の途中に中心が光軸と一致する観察孔を有することを特徴とする、請求項3に記載の製造装置。
【請求項6】
前記保持部材が光学ガラスからなり、
前記第2熱媒ブロックが、光学顕微鏡のステージに搭載可能又は光学顕微鏡のステージと兼用可能なものであって、その通路の途中に中心が光軸と一致する観察孔を有することを特徴とする、請求項4に記載の製造装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、新規な組織構造を有する高分子材料の製造方法、並びにその方法に用いる製造装置に属する。
【0002】
【従来の技術】
一般に高分子材料は、基本的にはポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの各化学種に固有の材料特性を示す。そして、同じ化学種(分子量分布、分岐度なども同じ)であれば、結晶性高分子は非晶性高分子よりも機械的強度に優る。
しかし、高分子特有の絡み合いのために全体にわたって均質な単結晶材料を得ることができず、一般には結晶相と非晶相と中間相とが複雑に混じり合った組織構造を示す。すなわち、高分子の結晶化では溶融体マトリクス中に球晶が成長するが、最終的には球晶どうしが衝突した組織構造を形成する。ここで、球晶はリボン状の薄い結晶(折りたたみ鎖ラメラ)が中心から半径方向に成長したものであり、結晶間は非晶相または中間相によって埋められている。結晶性高分子材料の機械的性質は、このような球晶のサイズおよび分布に大きく依存する。したがって、このような組織構造を制御することは高分子材料の高性能化にとって重要な問題であり、これまで種々の制御技術が開発されてきた。そして、その殆どは球晶成長のための核剤を利用するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、核剤などの添加物の使用は、環境問題や余分な工程を増やす面からも余り望ましいものではない。また、単一の化学種からなっていても、複数の領域が均質に混ざり合っていたり、互いに連続して存在したりすれば、従来に見られない特性向上が期待できる。
それ故、この発明の一つの課題は、微視的に均一な組織構造を有する高分子材料を提供することにある。もう一つの課題は、添加物を加えないで結晶組織を制御し、従来より高性能の高分子材料を作製する方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明者は、球晶などの微結晶集合体のサイズおよびその分布を制御する技術を開発した。この発明は、結晶化開始以前に特殊なミクロ相分離(スピノーダル分解型の相分離)が起こるという学問上全く新しい発見を利用したものである。すなわち、結晶化開始以前に密度の高い領域と低い領域に一定の幅でミクロ相分離するが、各領域は共連続している。微結晶集合体は、まず密度の高い領域から成長し始め、遅れて低密度領域からも成長する。しかし、それらは各領域の幅を超えて成長することが出来ないので、最終的には分布幅の狭い小さいサイズの微結晶集合体からなる組織構造をもつ高分子材料となる。また、低密度領域が結晶化を開始する前に試料を急冷すると 非晶相リッチのまま固定することができる。
よって、この発明の高分子材料は、
1つの化学種からなり、平均密度または結晶化度の異なる2つ以上の領域が共連続し、各領域はいずれも結晶相、非晶相およびそれらの中間相のうちから選ばれる1つ以上の相からなっていることを特徴とする。このような各領域の幅の和は、特性波長と呼ばれるが、材料性能上特に好ましいのは、それら2つ以上の領域が1~10μmの特性波長をもって共連続しているものである。
【0005】
この発明の高分子材料は、平均密度又は結晶化度の異なる2つ以上の領域が共連続しているので、第一に応力集中が起こりにくく、優れた力学的特性を示す。また、各領域の中間的な性質を有することから、例えば全体の1/2が結晶であっても柔らかくて粘り強い性質を有する。第二に2つの領域の物理的性質や化学的性質の違いを利用することができる。例えば、エッチング性の差を利用して一方の領域をエッチングすることにより、吸着剤や物質的フィルタを得ることができるし、屈折率の差を利用して方向性をもたない回折格子となりうる。特に上記の特性波長をもって共連続している材料の場合、ミクロンスケールで均一に絡み合っているので、力学的特性が顕著に優れる。
【0006】
この発明の高分子材料を製造する適切な一つの方法は、
1つの化学種からなる高分子融体を、スピノーダル臨界温度Tsより低くガラス転移温度Tgより高い温度にまで瞬時に冷却し、その温度で少なくともスピノーダルパターンが生じる時間が経過するまで保持した後、更に急冷して固化させることにより、高分子材料を製造する方法において、
スピノーダルパターンが生じる温度をTxとするとき、各温度Txで出現するスピノーダルパターンを2次元フーリエ変換したときのピーク位置に基づいて、予めTxとTsとスピノーダルパターンの特性波長Λとの関係を求めておき、その関係に基づいて特性波長に応じて製造時の保持温度Txを定めることを特徴とする。尚、ここで、Tsとは、それより高い温度ではスピノーダルパターンが生じない限界の温度を意味する。瞬時に冷却とは、1000度/分以上、好ましくは10000度/分以上の速度で降温させることをいう。
【0007】
高分子融体をTg以下に急冷すると溶融状態の構造に類似の固体、即ち透明なガラス材料となり、融点Tmより低くTg以上の温度にまで徐冷すると結晶化することは周知である。後者の場合、核剤を用いないと結晶は各々が大きく成長した球晶の集合体であり、硬くて脆い。そして、従来、スピノーダル分解は、2つ以上の化学種の混合物に見られる物理現象として知られていた。
【0008】
しかし、発明者らは、1化学種であってもTsより低くTgより高い温度にまで瞬時に冷却し、保持すると平均密度又は結晶化度の異なる複数の領域がミクロンスケールの特性波長をもって均一に出現すること、並びにその特性波長が保持温度によって異なることを見いだした。従って、所望の特性波長のスピノーダルパターンを生じさせるために大切なことは、予めTxとスピノーダルパターンの特性波長との関係を求めておくことと、瞬時に所定温度Txにまで冷却することと、その温度Txで少なくともスピノーダルパターンが生じる時間が経過するまで保持することの点である。
【0009】
即ち、先ず、瞬時に所定温度Txにまで冷却・保持することにより、融体の各部分が、その温度Txにおいて安定な結晶相に向かって成長するので、保持の途中でスピノーダルパターンを生じさせることができるし、更に保持し続けると全体がサイズ分布の狭い微結晶集合体となる。このため、保持時間を選択することにより、結晶相(及び/又は液晶相)リッチな領域と非晶相リッチな領域とが均一に絡み合った材料、液晶相リッチな領域と結晶相リッチな領域とが均一に絡み合った材料、あるいはサイズ分布の狭い微結晶集合体からなる材料などのように所望の構造に固定することができるからである。瞬時に温度Txまで冷却しても、スピノーダルパターンが生じない間にガラス転移温度以下に再度急冷すると、結局従来通りのガラス材料となるだけである。
【0010】
上記のスピノーダルパターンは、高分子材料が安定な結晶構造に固定される前に温度Txに保持することにより生じるのであって、スピノーダルパターンの前駆体は融体に限定されず、融体と同様にエネルギー的に不安定なガラスであってもよい。
【0011】
それ故、この発明の高分子材料を製造する適切なもう一つの方法は、
1つの化学種からなる高分子ガラスを、スピノーダル臨界温度Tsより低くガラス転移温度Tgより高い温度にまで瞬時に加熱し、その温度で少なくともスピノーダルパターンが生じる時間が経過するまで保持した後、急冷して固化させる方法において、
スピノーダルパターンが生じる温度をTxとするとき、各温度Txで出現するスピノーダルパターンを2次元フーリエ変換したときのピーク位置に基づいて、予めTxとTsとスピノーダルパターンの特性波長Λとの関係を求めておき、その関係に基づいて特性波長に応じて製造時の保持温度Txを定めることを特徴とする。ここでもTsとは、それより高い温度ではスピノーダルパターンが生じない限界の温度をいうが、同じ化学種であっても融体から瞬時に冷却する場合とガラスから瞬時に加熱する場合とでは、必ずしも一致せず、ガラスから瞬時に加熱する場合の方が融体から瞬時に冷却する場合よりも高温までスピノーダルパターンを発生させることができる。従って、製造方法に応じて予め実験的にTsを求めておくことが好ましい。瞬時に加熱とは、1000度/分以上、好ましくは10000度/分以上の速度で昇温させることをいう。
【0012】
この発明の高分子材料を製造する適切な装置は、
高分子融体又は高分子ガラスを収容可能な平たい薄肉の保持部材と、
この保持部材が通過する程度に狭い通路を内部に有する第1の熱媒ブロックと、
第1熱媒ブロックの通路と同軸状で保持部材が通過する程度に狭い通路を内部に有し、第1熱媒ブロックとの間に熱的遮断ギャップを空けて配置された第2の熱媒ブロックと、
第2熱媒ブロックの通路の出口付近に配置されたガラス転移温度以下の冷媒浴と
を備えることを特徴とする。
【0013】
この装置によれば、2つの熱媒ブロックが熱的遮断ギャップを空けて配置されているので、各熱媒ブロック毎に個別に温度を制御することができる。そして、保持部材は薄肉であって全体が平たく形成されているので、高分子融体又はガラスの熱容量と保持部材の熱容量との合計は小さい。また、熱媒ブロックの通路は、保持部材が通過する程度に狭いので、熱媒ブロックと保持部材との間で断熱されることはない。従って、保持部材に収容された高分子融体又は高分子ガラスは、先ず第1熱媒ブロックの通路内に置かれると、瞬時に第1熱媒ブロックと等温になる。
【0014】
上記第1番目の製造方法では、第1熱媒ブロックを高分子の融点以上に設定して高分子を融体としておく。第2番目の製造方法では、予め公知の方法に従って高分子ガラスを準備して保持部材に収容し、第1熱媒ブロックをガラス転移温度Tg以下に設定して、そこに保持部材を挿入する。
【0015】
次に、高分子融体又は高分子ガラスを収容した保持部材を第2熱媒ブロックの通路内に移動させる。両熱媒ブロックの通路は互いに同軸状であって、熱的遮断ギャップを隔てているだけであるので、保持部材は第1熱媒ブロックの通路内の定位置から第2熱媒ブロックの通路内の定位置まで瞬時に移動することができる。移動後は第1熱媒ブロックの通路内におけると同様に高分子融体又は高分子ガラスが瞬時に第2熱媒ブロックと等温になる。上記各製造方法では、第2熱媒ブロックを所定温度Txに設定し、高分子融体又は高分子ガラスに所望の構造を発現させる。
【0016】
最後に、保持部材をガラス転移温度以下の冷媒浴に浸ける。冷媒浴は第2熱媒ブロックの出口付近に配置されているので、高分子融体又は高分子ガラスを急冷し、温度Txにおいて発現した構造を固定することができる。
【0017】
上記製造装置として好ましい構成は、前記保持部材が光学ガラスからなり、前記第2熱媒ブロックが、光学顕微鏡のステージに搭載可能又は光学顕微鏡のステージと兼用可能なものであって、その通路の途中に中心が光軸と一致する観察孔を有する場合である。この構成によれば、高分子融体又は高分子ガラスの構造やその経時変化を観察しながら製造することができるからである。
【0018】
【実施例】
-実施例1-
図9に断面図として示す保持部材1と装置2とを準備した。保持部材1は、厚さ0.15mmの2枚の互いに対向する光学ガラス6、6と、それら光学ガラス6,6間に介在し枠形状で厚さ20μmのスペーサー7(材質:アルミニウム)とからなる。保持部材1と後述の高分子試料となるフィルムFとの合計質量は、僅か0.05gであり、熱容量は以下の熱媒ブロックに比べて十分無視できる。装置2は、第1熱媒ブロック3、第2熱媒ブロック4及び冷媒浴5からなる。第1熱媒ブロック3及び第2熱媒ブロック4は、共に銅製のブロックに図略の発熱体が埋設されていて水平方向に貫通する直線通路31、41が各々形成されたものである。通路31、41の断面の形状及び大きさは、保持部材1がほとんど抵抗無く且つ蛇行することなく通過できる程度に設計されている。
【0019】
但し、第2熱媒ブロック4には、通路41のほぼ中央に鉛直方向に貫通する観察孔42が形成されている点で第1熱媒ブロック3と異なる。第2熱媒ブロック4は、観察孔42の中心線が図略の光学顕微鏡の光軸aと一致するように固定されている。第1熱媒ブロック3は、その通路31が通路41と同軸状をなすように且つ第2熱媒ブロック4と2mmの間隔dを空けて固定されている。この間隔は、第1熱媒ブロック3の質量50g、第2熱媒ブロック4の質量50g、設定すべき温度範囲-10℃~300℃からして、互いの輻射熱を遮断するのに十分である。
【0020】
冷媒浴5は、第2熱媒ブロック4の出口43の直下に置かれ、氷水を溜めておく。そして、第1熱媒ブロック3の温度は280℃、第2熱媒ブロック4の温度は200℃に設定しておく。
【0021】
以上の準備完了後、数平均分子量Mn=17500のPET(東レ株式会社製ロットNo.HT91342)からなり、厚さ20μmのフィルムFを光学ガラス6、6とスペーサー7とで囲まれる空間に収容し、これを通路31に挿入した。数秒でフィルムFが融体となった。続いて融体を保持部材1ごと素早く通路41内の観察孔42の位置に移動させた。光学ガラス6に取り付けた図略の熱電対で融体の温度変化を追跡したところ、降温速度は10000度/分(初期速度)であった。温度プログラムを図1に示す。
【0022】
移動直後から融体の構造を光学顕微鏡で観察し、移動後4秒、6秒、8秒及び10秒保持したときの状態を写真撮影した。その結果を図2に示す。図中、左上が保持時間4秒、右上が6秒、左下が8秒、右下が10秒の状態である。
図2に見られるように、6秒及び8秒では異なる領域が一定の周期で互いに連続して出現していることが認められた。
【0023】
-比較例-
単一の熱媒ブロックからなる従来の熱伝導タイプのホットステージを用いて、実施例1と同じPETフィルムを280℃に加熱して図1の破線で示すように20度/分で200℃まで降温し、途中、降温開始後2分、3分、3.5分、4分のときの状態を写真撮影した。その結果を図3に示す。
図3に見られるように、降温開始後3分(220℃)で不規則な距離間隔で球晶が生成し始め、その後も規則化することなく粗い構造を生じることが認められた。
【0024】
-実施例2-
数平均分子量Mn=17500のPET(東レ株式会社製ロットNo.HT91342)からなり、厚さ20μmのフィルムを290℃に加熱して溶融状態とし、その後、実施例1と同様に瞬時に130℃にまで冷却し、その温度で120秒間保持した。保持時間中、光学顕微鏡で観察するとともに、種々の時間毎に波長632.8nmのHe-Meレーザーを偏光させずに照射し、その際の光散乱の積分強度を測定した。測定された積分強度と130℃に達してからの経過時間との関係を図4に示す。尚、内側の小さなグラフは、散乱角=0度での各経過時間における光の透過度を示し、各経過時間とも透過度80%以上の条件で積分強度を測定したことの証である。
【0025】
散乱現象は、この条件下では密度差によって生じるとしか考えられないことから、図4に見られるように、30秒の位置で一旦ピークが生じ、その後更なる時間の経過によりピークが消失していることは、初期より30秒までは密度揺らぎが次第に顕著になり、その後解消していったことを裏付ける。
【0026】
また、同じレーザーを用いて直交偏光板下でフィルムの光散乱の積分強度を測定した。測定された積分強度と経過時間との関係を図5に示す。偏光の散乱強度は、旋光性の構造の発生即ち液晶や結晶の生成の程度に依存することから、図5に見られるように、25秒までは強度が緩やかに上昇し、25秒の位置より強度が急上昇し、50秒以降で一定に達していることは、25秒までは液晶的構造の成長期、25~50秒間は微結晶構造の成長期、50秒以降は微結晶の成長の終了と推定される。
【0027】
一般に、結晶構造の確実な存在の判定は、X線回折による結晶性のブラッグピークが観測されることである。130℃に達してから経過時間10秒間隔で0℃の氷水で再冷却固化したフィルムに対してX線回折を行ったところ、0~20秒のフィルムでは結晶性のブラッグピークが認められず、30秒以降のフィルムでは結晶性のブラッグピークが観測された。即ち、直交偏光板下でのレーザー光散乱による推定は、支持される。
【0028】
また、0秒から10秒間隔で70秒経過時までの状態を光学顕微鏡写真で撮影し、スピノーダルパターンの特性波長即ち白色部分から隣の白色部分又は黒色部分から隣の黒色部分までの周期と、この写真の光学的2次元フーリエ変換したときに生じるピーク位置の逆数から求めた値は、どちらも2.1μmであった。よって、130℃では2.1μmの特性波長の非晶相リッチ領域と液晶相リッチ領域、又は液晶相(及び/又は非晶相)リッチ領域と結晶相リッチ領域からなるスピノーダルパターンを維持しながら経時的に結晶成長していくことが明らかとなった。
【0029】
次に、上記PET融体を120℃~220℃の範囲内の種々の温度にまで瞬時に冷却し、状態の経時変化を光学顕微鏡及びX線回折により分析した。そして、横軸に時間、縦軸に温度をとったグラフ上に、液晶相と非晶相とのスピノーダルパターンが出現し始める時刻を×、微結晶が出現し始める時刻を□、球晶が出願し始める時刻を○で記した。その結果を図6に示す。
【0030】
図6に見られるように、上記温度範囲内では、保持温度が低いほどスピノーダルパターン出現時刻と微結晶出現時刻との間隔が長くなっている。従って、保持温度が低いほど保持時間中の所望の構造を固定しやすいことが明らかである。即ち、保持温度が120℃の場合を例に取ると、20~40秒で保持した後に再度急冷すると、液晶相リッチ領域と非晶相リッチ領域とのスピノーダルパターンを有する構造の高分子材料が得られるし、40秒以上保持した後に再度冷却すると非晶相リッチ領域及び液晶相リッチ領域に更に結晶相リッチ領域が混ざったスピノーダルパターンあるいは液晶相リッチ領域と結晶相リッチ領域とのスピノーダルパターンを有する構造の高分子材料が得られる。勿論、長時間保持すると均一な微結晶の集合体からなる高分子材料が得られる。
【0031】
図7は、上記PET融体を120~220℃間の種々の温度に瞬時に冷却後、図6における×印と□印もしくは○印との間の時間(220℃については○印通過後の時間)まで保持し、顕微鏡で撮影した写真である。200℃以下では液晶相リッチ領域(白色部分)と非晶相リッチ領域(黒色部分)とが一定の周期で共連続しているのに対して、220℃では球晶が不規則に出現していることが明らかに認められる。
【0032】
そこで、上記のスピノーダルパターンが生じる限界の温度Tsを見いだすべく、種々の保持温度Txで出現するスピノーダルパターンを写真撮影し、光学的2次元フーリエ変換したときのピーク位置の逆数に基づいて特性波長を求めた。尚、特性波長は保持時間が異なってもほとんど変わらないという仮定のもとで、各温度Txの保持時間は当該温度Txでパターンが最も明確になる時間を選んだ。具体的には、Tx=120、140、160、180、190、200、205℃においてそれぞれ55、7、4、4、5、6、8秒後に読みとった。その結果を図8に示す。
【0033】
図8より、特性波長Λと保持温度Txとの間にはΛ=[Ts/(Ts-Tx)]0.5の関係が成立し、且つ臨界温度Ts=213±5℃の存在が認められた。よって、上記PETフィルムの場合、その融体を213℃以下77℃(ガラス転移温度)以上の所定温度に瞬時に冷却し、保持することで、所望の均一な組織構造に制御することができる。
【0034】
-実施例3-
実施例1及び実施例2で用いたPETフィルムと同質のフィルムを280℃に加熱して溶融状態とし、一旦0℃の冷媒浴に浸けて透明なガラス状態とした後、図9の保持部材1に収容した。そして、図略の冷却機で第1熱媒ブロックの温度を0℃に、ヒーターで第2熱媒ブロックの温度を100℃に設定し、保持部材1を第1熱媒ブロックに挿入した。続いてフィルムを保持部材1ごと素早く通路41内の観察孔42の位置に移動させた。光学ガラス6に取り付けた図略の熱電対でガラスの温度変化を追跡したところ、昇温速度は10000度/分(初期速度)であった。
【0035】
観察孔42に移動してから50分後のフィルムの構造を写真撮影した結果を図10に示す。図10から明らかなように、2つの異なる領域が一定の周期で互いに連続して出現していた。
【0036】
-実施例4-
フィルム材質をPETに代えて数平均分子量Mn=293000、融点=270℃、ガラス転移点=95℃のシンジオタクティク・ポリスチレンs-PS(出光石油化学株式会社製)とし、第2熱媒ブロックの温度を140℃に設定した以外は、実施例3と同様の操作をした。
観察孔42に移動してから90秒後のフィルムの構造を写真撮影した結果を図11に示す。図11から明らかなように、この例でも2つの異なる領域が一定の周期で互いに連続して出現していた。
【0037】
-実施例5-
数平均重合度Nn=8800、融点=265℃、ガラス転移点=70℃のアタクティク・ポリビニルアルコールa-PVA(株式会社クラレ製)からなり、厚さ20μmのフィルムFを図9の光学ガラス6、6とスペーサー7とで囲まれる空間に収容し、これを通路31に挿入した。数秒でフィルムFが融体となった。続いて融体を保持部材1ごと素早く通路41内の観察孔42の位置に移動させた。
観察孔42に移動してから1秒後のフィルムの構造を写真撮影した結果を図12に示す。図中、周囲の大きな黒い像は、フィルムFを光学ガラス6に収容する際に混入した気泡であり、無視すべきである。中央部分は、2つの異なる領域が一定の周期で互いに連続したスピノーダルパターンであると認められる。
【0038】
【発明の効果】
この発明によれば、高分子材料を従来知られていなかった均一な組織構造に制御することができる。また、非晶、液晶、結晶の所望の均質な組み合わせを得ることができる。従って、強靱な構造材料の他、従来品に比類無き性質を有する吸着剤、フィルター、回折格子などが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 温度プログラムを示すグラフである。
【図2】 200℃に瞬時に冷却後の各保持時間におけるPETの組織構造を示す顕微鏡写真である。
【図3】 従来の降温過程におけるPETの組織構造を示す顕微鏡写真である。
【図4】 外側は瞬時に130℃に冷却したPETに無偏光のレーザーを照射したときの光散乱積分強度と保持時間との関係を示すグラフ、内側は散乱角=0度における光の透過度と保持時間との関係を示すグラフである。
【図5】 上記レーザーを直交偏光板下でPETに照射したときの光散乱積分強度と保持時間との関係を示すグラフである。
【図6】 各温度における液晶、微結晶又は球晶が出現する時期を打点したグラフである。
【図7】 PET融体を種々の温度に瞬時に冷却後、所定時間保持したときの構造を示す顕微鏡写真である。
【図8】 PETの特性波長と温度との関係を示すグラフである。
【図9】 実施例の製造装置を示す断面図である。
【図10】 0℃から100℃に瞬時に加熱後50分経過時におけるPETの構造を示す顕微鏡写真である。
【図11】 0℃から140℃に瞬時に加熱後90秒経過時におけるa-PSの構造を示す顕微鏡写真である。
【図12】 280℃から170℃に瞬時に冷却後1秒経過時におけるa-PVAの構造を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 保持部材
2 装置
3、4 熱媒ブロック
31、41 通路
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11