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明細書 :ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-142991 (P2015-142991A)
公開日 平成27年8月6日(2015.8.6)
発明の名称または考案の名称 ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法
国際特許分類 B27K   3/18        (2006.01)
B27K   3/32        (2006.01)
B27K   3/02        (2006.01)
A01N  59/14        (2006.01)
A01N  25/00        (2006.01)
A01P   7/04        (2006.01)
FI B27K 3/18
B27K 3/32
B27K 3/02 B
A01N 59/14
A01N 25/00 102
A01P 7/04
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-017073 (P2014-017073)
出願日 平成26年1月31日(2014.1.31)
発明者または考案者 【氏名】西尾 圭史
【氏名】水戸 洋彦
出願人 【識別番号】803000115
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
審査請求 未請求
テーマコード 2B230
4H011
Fターム 2B230AA04
2B230BA02
2B230BA03
2B230CA01
2B230CA22
2B230CC21
2B230EB02
2B230EB03
2B230EB05
2B230EB13
4H011AC03
4H011BB18
4H011DA13
4H011DD07
要約 【課題】針状結晶ではない状態でコレマナイトに由来するホウ酸カルシウムを内包する木材を製造する方法を提供すること。
【解決手段】コレマナイトを特定のpHである強酸性水溶液に浸漬して得られる酸性含浸液のpHを塩基性に調整してアモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させる。木材の内部で前述のホウ酸カルシウム含有酸性含浸液からアモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させるか、前述の酸性含浸液から回収されたアモルファス状態のホウ酸カルシウムの粉末を粉砕及び/又は解砕した後、ホウ酸カルシウムの微粉末を木材が有する細孔内に含浸させることによって、針状結晶ではない状態でコレマナイトに由来するホウ酸カルシウムを内包する木材を製造する。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を、前記酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る、溶解工程と、
木材に対して、前記酸性含浸液を含浸させる含浸処理を施す、含浸工程と、
前記含浸処理を施された木材を、塩基性の水溶液と接触させて、木材の内部でホウ酸カルシウムを析出させる、析出工程と、を含む、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【請求項2】
前記酸性水溶液が塩酸水溶液である、請求項1に記載の、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性の水溶液のpHが7.5~8.5である、請求項1又は2に記載の、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【請求項4】
前記塩基性の水溶液がアンモニア水溶液である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を、前記酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る、溶解工程と、
前記酸性含浸液のpHを塩基性に調整して、前記酸性含浸液からホウ酸カルシウム粉末を析出させる、析出工程と、
前記ホウ酸カルシウム粉末を粉砕及び/又は解砕することにより微細化する、微細化工程と、
微細化された前記ホウ酸カルシウム粉末を分散媒に分散させて、ホウ酸カルシウム粉末を含む分散液を調製する、分散液調製工程と、
木材に対して前記分散液を含浸させる、含浸処理を施す、含浸工程と、を含む、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【請求項6】
前記分散液が分散安定剤を含有する、請求項5に記載のホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の木材が、建築材料や、屋外に設置される、塀、柵、看板、遊具等の材料として広く使用されている。このような用途で使用される木材について、木材を用いて製造された構造物の耐久性の観点から、一般に、シロアリ等の昆虫による食害の予防や、難燃化が要求されている。
【0003】
このため、例えば、木材の表面に、水酸基を有する高分子のコーティング層を設け、当該コーティング層の上に重合ホウ酸ナトリウム重合体を付着させて木材を難燃化する方法や(特許文献1)、ホウ酸カルシウムを主体とするホウ酸塩鉱物であるコレマナイトの粉末を、建造物の床下に散布して、シロアリ等の昆虫による食害を防ぐ方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
ところが、ホウ酸ナトリウム重合体は水に可溶であるため、特許文献1に記載される方法で処理された木材については、屋外で雨水に暴露される場合に、ホウ酸ナトリウム重合体の溶出によって、難燃化の効果が失われる問題がある。
【0005】
他方、ホウ酸カルシウム(コレマナイト)は水に難溶であるため、特許文献2に記載の方法によれば、昆虫による木材の食害を防ぐ効果が持続する。
そして、コレマナイトは、産出量の多い天然の鉱物であり、試薬のホウ酸カルシウム等と比較して安価であるため、その有効利用が期待されている。
【0006】
しかし、特許文献2に記載の方法にも、木材の表面又は内部に、ホウ酸カルシウムが担持されるわけではないことから、空中から飛来する昆虫による木材の食害を防げないことや、ホウ酸塩類の有する、木材の難燃化効果を期待できない等の問題がある。
【0007】
このような問題を解消するためには、コレマナイトを木材の表面、又は内部に担持させる方法が望まれる。コレマナイトを、木材の表面、又は内部に担持させる方法としては、例えば、微粉砕されたコレマナイトのスラリーを木材に接触させ、木材が有する空孔に、コレマナイト(ホウ酸カルシウム)の微粒子を内包させる方法が考えられる。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2009-029103号公報
【特許文献2】特開2000-026218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、通常、木材が使用される前には、切断、研削、研磨等の加工が木材に対して施される。このように、木材を加工する場合、木粉が多量に発生する。このため、結晶性のコレマナイトを微粉砕して木材内に含浸させる方法では、木材の加工時に、木粉とともにコレマナイトの微細な針状結晶が空気中に飛散するおそれがある。
【0010】
そして、微細な針状の物質について、例えば、アスベストの発がん性が広く知られており、カーボンナノチューブについても近年の研究により発がん性が指摘されている。このように、微細な針状の物質について、一般的に、発がん性が懸念される状況にある。
【0011】
そうすると、コレマナイトの微細な針状結晶を木質組織内に含浸させる方法では、木工所等の作業員がコレマナイトの微細な針状結晶を含浸された木材を継続して加工する場合に、コレマナイトの微細な針状結晶を長期にわたって吸引し続けることによる健康被害が懸念される。
【0012】
このため、針状結晶ではない状態でコレマナイトに由来するホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法が求められる。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、針状結晶ではない状態でコレマナイトに由来するホウ酸カルシウムを内包する木材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、コレマナイトを特定のpHである強酸性水溶液に浸漬して得られる酸性含浸液のpHを塩基性に調整することで、アモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させることができることを見出した。
【0015】
そして、本発明らは、かかる知見に基づいて、木材の内部で前述の酸性含浸液からアモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させるか、前述の酸性含浸液から回収されたアモルファス状態のホウ酸カルシウムの粉末を粉砕及び/又は解砕した後、ホウ酸カルシウムの微粉末を木材が有する細孔内に含浸させることによって、針状結晶ではない状態でコレマナイトに由来するホウ酸カルシウムを内包する木材を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下の通りである。
【0016】
(1) コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を、酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る、溶解工程と、
木材に対して、酸性含浸液を含浸させる含浸処理を施す、含浸工程と、
含浸処理を施された木材を、塩基性の水溶液と接触させて、木材の内部でホウ酸カルシウムを析出させる、析出工程と、を含む、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【0017】
(2) 酸性水溶液が塩酸水溶液である、(1)に記載の、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【0018】
(3) 塩基性の水溶液のpHが7.5~8.5である、(1)又は(2)に記載の、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【0019】
(4) 塩基性の水溶液がアンモニア水溶液である、(3)に記載の製造方法。
【0020】
(5) コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を、酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る、溶解工程と、
酸性含浸液のpHを塩基性に調整して、酸性含浸液からホウ酸カルシウム粉末を析出させる、析出工程と、
ホウ酸カルシウム粉末を粉砕及び/又は解砕することにより微細化する、微細化工程と、
微細化されたホウ酸カルシウム粉末を分散媒に分散させて、ホウ酸カルシウム粉末を含む分散液を調製する、分散液調製工程と、
木材に対して分散液を含浸させる、含浸処理を施す、含浸工程と、を含む、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【0021】
(6) 分散液が分散安定剤を含有する、(5)に記載のホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、針状結晶ではない状態でコレマナイトに由来するホウ酸カルシウムを内包する木材を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で得られた析出物の、熱処理されていない状態でのX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた析出物の、700℃で熱処理された後のX線回折スペクトルと、ホウ酸カルシウム結晶の既知のX線回折スペクトルとを示す図である。
【図3】実施例1で得られた析出物(ホウ酸カルシウム)の顕微鏡画像を示す図である。
【図4】400℃で熱処理された後の、実施例4で得たホウ酸カルシウムを内包する木質の断面の電子顕微鏡画像を示す図である。
【図5】実施例10で得られたホウ酸カルシウム微粒子を内包する木材の電子顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪第一の実施形態≫
本発明の第一の実施形態は、
コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を、酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る、溶解工程と、
木材に対して、酸性含浸液を含浸させる含浸処理を施す、含浸工程と、
含浸処理を施された木材を、塩基性の水溶液と接触させて、木材の内部でホウ酸カルシウムを析出させる、析出工程と、を含む、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法に関する。

【0025】
以下、溶解工程、含浸工程、及び析出工程について順に説明する。

【0026】
[溶解工程]
溶解工程では、コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る。酸性水溶液として、pHが0.5以下である酸性水溶液を用いることで、コレマナイト中のホウ酸カルシウムを主成分とする酸可溶分を、良好に酸性水溶液中に溶解させることができる。

【0027】
20℃におけるpHが0.5以下の酸性水溶液に含まれる酸成分は、所望するpHの酸性水溶液を与える強酸であれば特に限定されない。酸性水溶液の具体例としては、塩酸水溶液、臭化水素水溶液、硝酸水溶液等が挙げられる。酸性水溶液は、これらの水溶液を2種以上混合したものであってもよい。

【0028】
酸性水溶液としては、得られた酸性含浸液を用いて木材を処理する場合に、セルロースの加水分解や、セルロースのニトロ化のような望まない副反応が生じにくい点から、塩酸水溶液、臭化水素水溶液が好ましく、入手が容易で安価である点から、塩酸水溶液が特に好ましい。

【0029】
コレマナイトを酸性水溶液に浸漬させる際に、酸性水溶液を静置した状態でコレマナイトを浸漬してもよく、酸性水溶液を流動させた状態でコレマナイトを浸漬させてもよい。酸性水溶液を流動させた状態でコレマナイトを浸漬する方法としては、ポンプ等により、閉環上のチューブ内に、コレマナイトを含む酸性水溶液を循環させる方法や、容器内のコレマナイトを含む酸性水溶液を、従来知られる撹拌装置により撹拌する方法が挙げられる。

【0030】
コレマナイトを酸性水溶液に浸漬させる際の、酸性水溶液の温度は、コレマナイトの可溶分が酸性水溶液中に良好に溶解する限り特に限定されない。コレマナイトの可溶分の溶解速度や作業性の観点から、酸性水溶液の温度は、0~60℃が好ましく、5~50℃がより好ましく、10~40℃が特に好ましい。

【0031】
コレマナイトを酸性水溶液に浸漬させる時間は、特に限定されず、コレマナイトの可溶分が所望する程度に酸性水溶液に溶解するように適宜設定される。コレマナイトを酸性水溶液に浸漬させる時間は、典型的には、3時間以上が好ましく、12~24時間がより好ましい。

【0032】
酸性水溶液100mL当たりに加えられるコレマナイトの質量は、特に限定されない。酸性水溶液100mL当たりに加えられるコレマナイトの質量は、1~15gが好ましい。酸性水溶液100mLに対して、コレマナイトを15gを超える量加えても、特段問題はないが、酸性水溶液に溶解するホウ酸カルシウムの量がコレマナイトの添加量に応じて増加するわけではない。

【0033】
コレマナイト中の可溶分を速やかに酸性水溶液に溶解させるためには、粉末状のコレマナイトを、酸性水溶液に浸漬するのが好ましい。コレマナイト粉末の平均粒子径は、コレマナイトの可溶分が速やかに酸性水溶液に溶解する限り特に限定されない。コレマナイト粉末の平均粒子径は、100μm以下であるのが好ましく、80μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのが特に好ましい。コレマナイト粉末の平均粒子径は、コレマナイト粉末を走査型電子顕微鏡を用いて観察することで、数平均粒子径として求めることができる。

【0034】
可溶分を溶解させた直後の酸性含浸液は、通常、コレマナイト由来の不溶物を含む懸濁液である。酸性含浸液は、不溶物を含む懸濁液としても使用することができ、不溶物を除去した清澄な液として使用することもできる。酸性含浸液を用いて処理された木材の外観や、酸性含浸液が処理対象の木材に浸透しやすいこと等から、酸性含浸液は、不溶物が除去された清澄な液として使用されるのが好ましい。

【0035】
懸濁液の状態である酸性含浸液から不溶分を除く方法は特に限定されない。不溶分を除く方法としては、例えば、フィルタープレスや、遠心分離等を用いるろ過や、懸濁液を静置して不溶物を沈降させた後、上澄み液を回収する方法等が挙げられる。

【0036】
[含浸工程]
含浸工程では、木材に対して、上述の溶解工程で得られた酸性含浸液を含浸させる含浸処理を施す。

【0037】
木材に酸性含浸液を含浸させる方法としては、処理対象の木材を酸性含浸液に浸漬させる方法や、酸性含浸液を、処理対処の木材の表面に繰り返し噴霧又は塗布する方法等が挙げられる。

【0038】
処理対象の木材は、十分に乾燥されているのが好ましい。また、含浸工程に先だって、処理対象の木材を減圧された雰囲気下に置き、木材を脱気処理してもよい。木材に脱気処理を施すことにより、酸性含浸液の木材内部への浸透を促進させることができる。また、酸性含浸液に木材を浸漬させる場合、当該浸漬を、減圧雰囲気下で行ってもよい。含浸工程前、又は含浸工程中に、木材を減圧雰囲気下に置く場合の圧力は、50kPa以下が好ましく、5kPa以下がより好ましい。かかる圧力の減圧雰囲気下に木材を置くことで、多量の酸性含浸液を速やかに木材に含浸させやすい。

【0039】
酸性含浸液を木材に含浸させる際に、酸性含浸液と木材とを接触させる時間は、所望する程度に、木材に酸性含浸液を含浸させることができれば特に限定されない。酸性含浸液と、木材との接触時間は、典型的には1時間以上が好ましく、1~24時間がより好ましく、1~12時間が特に好ましい。

【0040】
酸性含浸液を木材に含浸させる際の、酸性含浸液の温度は、木材に劣化や変質等が生じない限り特に限定されない。酸性含浸液の温度は、0~60℃が好ましく、5~50℃がより好ましく、10~40℃が特に好ましい。

【0041】
不溶物を含む懸濁液の状態の酸性含浸液を用いて木材を処理する場合、木材の表面に不溶物が付着する場合がある。このような場合、含浸工程に続く析出工程で、木材の内部で良好に酸性含浸液を析出させるために、析出工程の前に、木材の表面に付着する不溶物を剥離させておくのが好ましい。

【0042】
以上の方法で、含浸処理を施された木材は、乾燥されることなく湿潤状態で次の析出工程に供されてもよく、乾燥された状態で次の析出工程に供されてもよい。

【0043】
[析出工程]
析出工程では、含浸処理を施された木材を塩基性の水溶液と接触させて、木材の内部でホウ酸カルシウムを析出させる。

【0044】
上記の方法で得られた酸性含浸液を塩基性の水溶液と接触させることで析出する固体のホウ酸カルシウムは、アモルファス状態である。このため、上記の溶解工程及び含浸工程と、析出工程とを経て製造される、ホウ酸カルシウムを内包する木材を加工する場合、健康被害をもたらす懸念のある、微細な針状結晶の飛散が生じない。

【0045】
含浸処理を施された木材を塩基性の水溶液と接触させる方法としては、含浸処理を施された木材を、塩基性の水溶液に浸漬する方法が挙げられる。

【0046】
この場合の塩基性の水溶液のpHは、木材を変質させることなくホウ酸カルシウムを析出させやすい点から、7.5~10.0が好ましい。

【0047】
塩基性の水溶液の調製に使用される塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。これらの中では、水へ溶解させやすいことや、溶解工程で使用された酸と、塩基性水溶液に含まれる塩基とから形成される塩が、水に溶解しやすく、木材外に溶出しやすいことから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが好ましい。また、塩基性の水溶液が木材を特に変質させにくいことから、上記の塩基性化合物の中では、アンモニアが特に好ましい。

【0048】
塩基性の水溶液へ木材を浸漬する際の、温度、時間、圧力条件については、前述の含浸工程について、酸性含浸液に木材を浸漬する場合と同様の条件が好ましい。

【0049】
また、湿潤状態の含浸処理を施された木材を、アンモニア等の気体状の塩基性化合物の雰囲気下に置く方法でも、ホウ酸カルシウムを析出させることができる。かかる方法では、木材に含まれる水分中に気体状の塩基性化合物が溶解した後、塩基性化合物が木材内部に拡散することで、木材の内部で、ホウ酸カルシウムが析出する。

【0050】
以上説明した析出工程を経ることで、内部にアモルファス状態のホウ酸カルシウムを包含する木材が得られる。上記の方法で処理された木材は、必要に応じて適宜乾燥された後に、従来流通する木材と同様に使用される。

【0051】
≪第二の実施形態≫
本発明の第二の実施形態は、
コレマナイトを20℃におけるpHが0.5以下である酸性水溶液に浸漬し、コレマナイト中の可溶分を、酸性水溶液中に溶解させて酸性含浸液を得る、溶解工程と、
酸性含浸液のpHを塩基性に調整して、酸性含浸液からホウ酸カルシウム粉末を析出させる、析出工程と、
ホウ酸カルシウム粉末を粉砕及び/又は解砕することにより微細化する、微細化工程と、
微細化されたホウ酸カルシウム粉末を分散媒に分散させて、ホウ酸カルシウム粉末を含む分散液を調製する、分散液調製工程と、
木材に対して分散液を含浸させる、含浸処理を施す、含浸工程と、を含む、ホウ酸カルシウムを内包する木材の製造方法に関する。

【0052】
以下、溶解工程、析出工程、微細化工程、分散液調製工程、及び含浸工程について順に説明する。

【0053】
[溶解工程]
溶解工程は、第一の実施形態について説明した溶解工程と同様に実施される。溶解工程で得られる酸性含浸液は、通常、コレマナイト由来の不溶物を含む懸濁液である。酸性含浸液は、不溶物を含む懸濁液としても使用することができ、不溶物を除去した清澄な液として使用することもできる。次工程である析出工程で回収されるホウ酸カルシウム粉末の純度の点から、酸性含浸液は、不溶物が除去された清澄な液として使用されるのが好ましい。

【0054】
[析出工程]
析出工程では、溶解工程で得られた酸性含浸液のpHを塩基性に調整して、酸性含浸液からホウ酸カルシウム粉末を析出させる。

【0055】
ホウ酸カルシウム粉末を析出させる際に、酸性含浸液のpHは7.5~10.0の範囲に調整されるのが好ましい。pHの値がこの範囲を外れても特段問題はないが、酸性含浸液のpHを過度に高めてもホウ酸カルシウム粉末の析出量が劇的に増加するわけではない。また、酸性含浸液のpHをかかる範囲内に調整する場合、析出したホウ酸カルシウム粉末をろ過等の方法で分離する作業を安全に行うことができる。

【0056】
このようにして析出したホウ酸カルシウム粉末は、pH調整された直後のホウ酸カルシウム粉末を含む懸濁液の状態、又は当該懸濁液からろ過等の方法により分離された状態で、続く微細化工程に供される。pH調整された酸性含浸液に含まれる副生塩が除去されることから、通常、ホウ酸カルシウム粉末を含む懸濁から、ろ過により分離されたホウ酸カルシウム粉末を、微細化工程に供するのが好ましい。

【0057】
ろ過により分離された、ホウ酸カルシウム粉末は、必要に応じて乾燥された後、微細化工程に供される。微細化工程で採用される、ホウ酸カルシウム粉末を粉砕及び/又は解砕する方法が湿式法である場合には、分離されたホウ酸カルシウム粉末を乾燥させることなく、微細化工程に供することができる。

【0058】
[微細化工程]
微細化工程では、析出工程で得られたホウ酸カルシウム粉末を粉砕及び/又は解砕して微細化する。ホウ酸カルシウム粉末を粉砕及び/又は解砕する方法は、所望する程度にホウ酸カルシウム粉末を微細化できれば特に限定されない。微細化後のホウ酸カルシウム粉末の粒子径は、微細化されたホウ酸カルシウム粉末が、木材が有する細孔の内部に十分に侵入できるサイズであれば特に限定されない。このように、微細化後のホウ酸カルシウム粉末の粒子径は、木材の品種に固有の、木材が有する細孔のサイズに応じて適宜調整される。

【0059】
上記の方法で得られるホウ酸カルシウム粉末はアモルファス状態であるため、固い結晶性のホウ酸カルシウム粉末よりも粉砕及び/又は解砕が容易であって、微細化後に針状の微細な粉末が生じない。

【0060】
微細化後のホウ酸カルシウム粉末の平均一次粒子径は、典型的には、100nm以下であるのが好ましく、50nm以下であるのがより好ましい。ホウ酸カルシウム粉末の平均一次粒子径は、微粉砕後のホウ酸カルシウム粉末を顕微鏡により観察することで、数平均径として得ることができる。

【0061】
微細化工程において使用できる装置としては、ジェットミル、ハンマーミル、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。このような装置を用いる微細化方法としては、ホウ酸カルシウム粉末を、速やか且つ容易に微細化できる点から、ビーズミルやボールミルを用いる湿式法が好ましい。ビーズミルやボールミルを用いる微細化方法では、析出工程で得られたホウ酸カルシウム粉末が、水のような分散媒とともに装置内に仕込まれ微細化が行われる。

【0062】
ホウ酸カルシウム粉末を、分散媒の存在下に湿式法により微細化する場合、微細化は分散安定剤の存在下に行われてもよい。分散安定剤の存在下に微細化を行うことで、微細化により生じたホウ酸カルシウムの微細な一次粒子の凝集を抑制することができる。ホウ酸カルシウムの一次粒子の凝集を抑制することで、後述する含浸工程で、ホウ酸カルシウムの微粉末を、より良好に木材の内部に含浸させやすい。

【0063】
分散安定剤の好適な例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、及びポリエーテル系分散剤等の非イオン性分散剤が挙げられる。分散安定剤の使用量は、ホウ酸カルシウム微粉末100質量部に対して、15~30質量部が好ましく、15~20質量部がより好ましい。

【0064】
上記の方法を経て得られた微細化されたホウ酸カルシウム粉末は、続く、分散液調製工程で、微細化されたホウ酸カルシウム粉末が分散媒中に分散された分散液とされる。

【0065】
[分散液調製工程]
分散液調製工程では、微細化されたホウ酸カルシウム粉末を分散媒に分散させて、ホウ酸カルシウム粉末を含む分散液を調製する。

【0066】
分散液の調製に使用される分散媒は、ホウ酸カルシウムを溶解させないものであって、木材を変質させないものであれば特に限定されず、水の他、種々の有機溶剤や、有機溶剤の水溶液を用いることができる。分散媒としては、安価であって、作業時の引火等の危険性が無いことから、水が好ましい。

【0067】
分散液中のホウ酸カルシウムの微粉末の量は、続く含浸工程で、ホウ酸カルシウムの微粉末が木材の組織内に良好に含浸される限り特に限定されない。分散液中のホウ酸カルシウムの微粉末の量は、分散液100質量部あたり、0.5~2質量部が好ましく、0.5~1.5質量部がより好ましい。

【0068】
ホウ酸カルシウム粉末が湿式法で微細化された場合、微細化時に使用された分散媒と、ホウ酸カルシウムの微粉末とを分離することなく、ホウ酸カルシウムの微粉末を含むスラリーを用いて分散液を調製できる。具体的には、ホウ酸カルシウムの微粉末を含むスラリーを、分散液中のホウ酸カルシウムの微粉末の量が所望の量となるように、必要に応じて、分散媒で希釈することで、分散液が得られる。

【0069】
湿式法での微細化により得られたホウ酸カルシウムの微粉末を含むスラリー中の、ホウ酸カルシウムの含有量が、分散液として使用するのに好適な量である場合、必ずしも、湿式法での微細化により得られたスラリーを分散媒により希釈する必要はない。

【0070】
分散液を調製する際、分散媒中に、微細化工程で説明した分散安定剤を加えてもよい。分散安定剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、得られる分散液中の分散安定剤の量が、ホウ酸カルシウム微粉末100質量部に対して、0.5~2質量部である量が好ましく、0.5~1.5質量部である量がより好ましい。

【0071】
このようにして得られる分散液は、必要に応じて、撹拌や、超音波照射された後、続く含浸工程に供される。

【0072】
[含浸工程]
含浸工程では、木材に対してホウ酸カルシウムの微粉末を含有する分散液を含浸させる、含浸処理を施す。ホウ酸カルシウムの微粉末を含む分散液を木材に含浸させる方法としては、当該分散液に木材を浸漬させる方法が好ましい。

【0073】
ホウ酸カルシウムの微粉末を含む分散液へ木材を浸漬する際の、温度、時間、圧力条件については、第一の実施形態における含浸工程についての、酸性含浸液に木材を浸漬する場合と同様の条件が好ましい。

【0074】
以上説明した第二の実施形態にかかる方法に従って木材を処理することで、内部にアモルファス状態のホウ酸カルシウムの微粒子を包含する木材が得られる。上記の方法で処理された木材は、必要に応じて適宜乾燥された後に、従来流通する木材と同様に使用される。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
〔実施例1、実施例2、及び比較例1~3〕
<コレマナイトの溶解試験>
20℃におけるpHが表1に記載の値である水溶液70mL中に、コレマナイト粉末(トルコ産)3.0gを加えたコレマナイトを含む懸濁液を得た。pH6の水溶液としては純水を用いた。pH6未満の水溶液としては、所定のpHに調整された塩酸水溶液を用いた。得られた懸濁液を、室温で、24時間撹拌し、コレマナイト中の可溶分を水溶液に溶解させた。次いで、懸濁液をろ過して不溶分を分離し、乾燥された不溶分の質量を測定した。その後、アンモニア水を用いて、ろ液のpHを9.0に調整した後、ろ液からのホウ酸カルシウムの析出状況を目視にて観察した。
3.0gのコレマナイト粉末に由来する、不溶分の質量と、pHを9.0に調整されたろ液の目視観察の結果とを、表1に記す。
【実施例】
【0077】
実施例1でpH調整後にろ液中に析出した析出物を、ろ取、乾燥した後、析出物について、粉末X線回折測定を行った。得られた、析出物のX線回折スペクトルを図1に示す。
また、実施例1でpH調整後にろ液中に析出した析出物を、700℃で12時間焼成した焼成物について、粉末X線回折測定を行った。なお、焼成前後で、析出物の質量は殆ど変わらなかった。このことから、析出物の化学組成が、焼成前後で変化していないことが分かる。得られた焼成物のX線回折スペクトルと、ホウ酸カルシウムの結晶の既知のX線回折スペクトルとを図2に示す。
【実施例】
【0078】
図1及び図2によれば、pH調整後に得られた析出物はアモルファスであるが、焼成処理により析出物が結晶化すること分かる。また、図2において、熱処理により結晶化した析出物のX線回折スペクトルが、ホウ酸カルシウムの結晶の既知のX線回折スペクトルと一致していることから、pH調整後に得られた析出物が、アモルファスのホウ酸カルシウムであることが分かる。
【実施例】
【0079】
また、実施例1でpH調整後にろ液中に析出した析出物(ホウ酸カルシウム)の顕微鏡画像を、図3に示す。図3によれば、コレマナイトを一旦酸性水溶液に溶解させて得られる酸性含浸液のpHを、塩基性に調整することで析出するホウ酸カルシウムは、針状の結晶を含んでいないことが分かる。
【実施例】
【0080】
【表1】
JP2015142991A_000003t.gif
【実施例】
【0081】
表1によれば、コレマナイトを浸漬する水又は酸性水溶液のpHが1.0以上である場合、コレマナイトの大部分が溶け残ることと、コレマナイトの浸漬後に得たろ液のpHを9.0に調整しても、ホウ酸カルシウムは析出しないか極わずかな量しか析出しないことが分かる。
他方、表1から、コレマナイトを浸漬する酸性水溶液のpHが0.1以下である場合、コレマナイトの大分部が溶解することと、コレマナイトの浸漬後に得たろ液のpHを9.0に調整することで、多量のホウ酸カルシウムが析出することが分かる。また、実施例1と、実施例2との比較から、pHが0.1よりも低い酸性水溶液を用いても、酸性水溶液へのコレマナイトの溶解量は殆ど増加しないことが分かる。
【実施例】
【0082】
〔参考例1~3〕
pH0の塩酸水溶液70mL中に、表2に記載の量のコレマナイト(トルコ産)を加えた後、得られた懸濁液を、室温で24時間撹拌した。次いで、懸濁液をろ過して不溶分を分離し、乾燥された不溶分の質量を測定した。その後、アンモニア水を用いて、ろ液のpHを9.5に調整して、ろ液中にホウ酸カルシウムを析出させた。析出したホウ酸カルシウムをろ過して分離し、乾燥されたホウ酸カルシウムの質量を測定した。測定された不溶分の質量と、析出したホウ酸カルシウムの質量とを、表2に記す。
【実施例】
【0083】
【表2】
JP2015142991A_000004t.gif
【実施例】
【0084】
参考例1~3において、コレマナイトの添加量と、不溶分の質量と、ホウ酸カルシウム析出量との和とは概ね一致した。つまり、酸性水溶液に溶解したコレマナイト中の可溶分は、その大部分がpH調整によりホウ酸カルシウムとして析出する。
また、参考例2と参考例3との比較によれば、pH0の塩酸水溶液70mLに溶解するホウ酸カルシウムの量の上限は、約5.10gであることが分かる。
【実施例】
【0085】
〔実施例3、比較例4、及び比較例5〕
<潮解性試験>
実施例1と同様の方法によりコレマナイトを酸性水溶液に浸漬させた後、コレマナイトの可溶分が溶解した懸濁液をろ過して、ろ液を得た。実施例3、及び比較例4では、アンモニア水を用いて表3に記載のpHに調整されたろ液を、潮解性試験に用いた。比較例5では、得られたろ液をそのまま潮解性試験に用いた。所定のpH値のろ液を、木片上に塗布した後、木片を加熱して水分を除去した。表面に白色の析出物が付着した、乾燥後の木片を、常温常湿雰囲気中で20時間放置した後、木片の表面での析出物の潮解の有無を目視にて観察した。目視観察の結果を、表3に記す。
【実施例】
【0086】
【表3】
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【実施例】
【0087】
比較例4及び5から、pHが酸性であるろ液を乾燥させて得られる析出物には、容易に潮解する塩化カルシウムが多量に含まれていると推測される。他方、実施例3からは、ろ液のpHを塩基性に調整して析出する析出物は、塩化カルシウムを殆ど含まず、大部分が潮解性のないホウ酸カルシウムであると考えられる。
【実施例】
【0088】
〔実施例4、及び比較例6〕
<木材中でのホウ酸カルシウムの析出試験>
20℃におけるpHが0である塩酸水溶液70mL中に、コレマナイト粉末(トルコ産)10.0gを加えたコレマナイトを含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を、室温で、24時間撹拌し、コレマナイト中の可溶分を塩酸水溶液に溶解させた。次いで、懸濁液をろ過して不溶分を分離した後、得られたろ液に木片を浸漬した。
【実施例】
【0089】
ろ液へ木片を浸漬する操作は、具体的には、以下の通り行った。まず、ろ液を張り込まれた容器が封入されたチャンバ—内を、木片の浸漬開示より30分かけて1.3kPaまで減圧し、次いで、チャンバ—内を30分間減圧状態に維持した。その後、チャンバ—内の圧力を大気圧に戻し、大気圧下で木片の浸漬を60分間継続した。
【実施例】
【0090】
所定の浸漬操作が終了した後、室温、大気圧下で、24時間、木片を乾燥させた。
【実施例】
【0091】
次いで、乾燥された木片を、pH8のアンモニア水溶液中に浸漬させた。木片のアンモニア水溶液中への浸漬は、コレマナイト中の可溶分を含むろ液に木片を浸漬させる方法と同様にして行われた。かかる浸漬操作により、木片の内部で、アモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させた。
【実施例】
【0092】
所定の浸漬操作が終了した後、室温、大気圧下での24時間の乾燥に次ぐ、室温、33kPa減圧下での24時間の乾燥により、アモルファス状態のホウ酸カルシウムを内包する木片を得た。未処理の木片の質量(Wt1)と、処理後の木片の質量(Wt2)とを測定し、下式に従って質量増加率を算出した。その結果、質量増加率は27質量%であった。つまり、木片の質量100質量部当たり、約27質量部のホウ酸カルシウムを内包する、実施例4の木片が得られた。
(質量増加率算出式)
質量増加率=(Wt2-Wt1)/Wt1×100
【実施例】
【0093】
次いで、得られたホウ酸カルシウムを内包する木片(実施例4)と、未処理の木片(比較例6)とを用いて、難燃性の評価を行った。難燃性の評価は、木片を置いた加熱炉内の温度を、400℃まで2時間かけて上げ、次いで、室温まで放冷した後、炉内の木片を観察して行った。その結果、未処理の木片については、試験後、完全に灰化しており限定をとどめなかった。対して、ホウ酸カルシウムを内包する木片は、試験後に、表面が多少黒ずんだものの、その形状は完全に維持された。なお、燃焼性評価後のホウ酸カルシウムを内包する木片の質量は、燃焼性評価前の質量に対して45質量%に減少していた。
【実施例】
【0094】
燃焼性の評価後の、ホウ酸カルシウムを内包する木片の断面の、電子顕微鏡写真を図4に示す。図4によれば、道管(又は仮道管)を形成する植物細胞に由来する組織の形状が、400℃の加熱後も完全に保持されていることが分かる。他方、比較例6の木片は、400℃の加熱によりほぼ完全に灰化した。
【実施例】
【0095】
つまり、実施例4と比較例6との結果から、実施例4のホウ酸カルシウムを内包する木片では、木質組織中の死んだ細胞内でホウ酸カルシウムが析出したため、400℃の加熱後も、道管(又は仮道管)の構造が維持されたと考えられる。
【実施例】
【0096】
〔実施例5、及び実施例6〕
<浸漬処理時の減圧条件の比較>
20℃におけるpHが0である塩酸水溶液70mL中に、コレマナイト粉末(トルコ産)6.0gを加えたコレマナイトを含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を、室温で、24時間撹拌し、コレマナイト中の可溶分を塩酸水溶液に溶解させた。次いで、懸濁液をろ過して不溶分を分離した後、得られたろ液に木片を浸漬した。
【実施例】
【0097】
実施例5では、ろ液へ木片を浸漬する操作は、具体的には、以下の通り行った。まず、ろ液を張り込まれた容器が封入されたチャンバ—内を、木片の浸漬開示より30分かけて33kPaまで減圧し、次いで、チャンバ—内を30分間減圧状態に維持した。その後、チャンバ—内の圧力を大気圧に戻し、大気圧下で木片の浸漬を60分間継続した。
【実施例】
【0098】
実施例6では、減圧時のチャンバ—内の圧力を1.3kPaに変更することの他は、実施例5と同様の方法で、ろ液へ木片を浸漬させた。
【実施例】
【0099】
所定の浸漬操作が終了した後、木片を乾燥させることなく、pH8のアンモニア水溶液中に浸漬させた。実施例5、実施例6ともに、木片のアンモニア水溶液中への浸漬は、コレマナイト中の可溶分を含むろ液に木片を浸漬させる方法と同様にして行われた。かかる浸漬操作により、木片の内部で、アモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させた。
【実施例】
【0100】
実施例5で得られた木片と、実施例6で得られた木片とについて、実施例4と同様に、未処理の木片の質量に対する、処理後の木片の質量の増加率を測定した。
その結果、実施例5で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は13質量%であり、実施例6で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は15質量%であった。
【実施例】
【0101】
つまり、実施例5と、実施例6との比較によれば、ホウ酸カルシウムを含有するろ液や、アンモニア水溶液中に木片を浸漬させる際の減圧度を高めることによって、木片内に内包させるホウ酸カルシウムの量を増やせることが分かる。
【実施例】
【0102】
〔実施例7、及び実施例8〕
<浸漬処理時の減圧条件の比較>
20℃におけるpHが0である塩酸水溶液70mL中に、コレマナイト粉末(トルコ産)20.0gを加えたコレマナイトを含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を、室温で、24時間撹拌し、コレマナイト中の可溶分を塩酸水溶液に溶解させた。次いで、懸濁液をろ過して不溶分を分離した後、得られたろ液に木片を浸漬した。
【実施例】
【0103】
実施例7、実施例8ともに、ろ液へ木片を浸漬する操作は、具体的には、以下の通り行った。まず、ろ液を張り込まれた容器が封入されたチャンバ—内を、木片の浸漬開示より30分かけて1.3kPaまで減圧し、次いで、チャンバ—内を30分間減圧状態に維持した。その後、チャンバ—内の圧力を大気圧に戻し、大気圧下で木片の浸漬を60分間継続した。
【実施例】
【0104】
実施例7では、所定の浸漬操作が終了した後、木片を乾燥させることなく、pH8のアンモニア水溶液中に浸漬させた。他方、実施例8では、室温、大気圧下で、24時間、木片を乾燥させた後、木片をpH8のアンモニア水溶液中に浸漬させた。実施例7、実施例8ともに、木片のアンモニア水溶液中への浸漬は、コレマナイト中の可溶分を含むろ液に木片を浸漬させる方法と同様にして行われた。かかる浸漬操作により、木片の内部で、アモルファス状態のホウ酸カルシウムを析出させた。
【実施例】
【0105】
実施例7で得られた木片と、実施例8で得られた木片とについて、実施例4と同様に、未処理の木片の質量に対する、処理後の木片の質量の増加率を測定した。
その結果、実施例7で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は22質量%であり、実施例6で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は28質量%であった。
【実施例】
【0106】
つまり、実施例5と、実施例6との比較によれば、ホウ酸カルシウムを含有するろ液に木片を浸漬させた後に、いったん木片を乾燥させてから、木片を塩基性水溶液に浸漬させることによって、木片内に内包させるホウ酸カルシウムの量を増やせることが分かる。
ホウ酸カルシウムを含有するろ液に浸漬された木片を、湿潤状態で、塩基性水溶液に浸漬させる場合、塩基性水溶液への浸漬開示に、木片内に染み込んだホウ酸カルシウムを含有するろ液が、一部、塩基性水溶液に溶出しているのかもしれない。
【実施例】
【0107】
〔実施例9、実施例10、及び比較例7〕
20℃におけるpHが0である塩酸水溶液70mL中に、コレマナイト粉末(トルコ産)10.0gを加えたコレマナイトを含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を、室温で、24時間撹拌し、コレマナイト中の可溶分を塩酸水溶液に溶解させた。次いで、懸濁液をろ過して不溶分を分離し、清澄なろ液を得た。
【実施例】
【0108】
得られたろ液のpHをアンモニア水を用いて8.0に調整し、ろ液中にホウ酸カルシウムを析出させた。析出したホウ酸カルシウムをろ過により回収した後、乾燥させ、ホウ酸カルシウム粉末を得た。
【実施例】
【0109】
実施例9では、得られたホウ酸カルシウム粉末0.25gと、蒸留水15mLと、ビーズ(0.2mm径粒子15mLと、0.5mm径粒子15mLとの混合品、材質:イットリア安定化ジルコニア(YSZ))30mLと、をビーズミル(RMB-01、AIMEX社製)のシリンダー内に充填し、1000rpmの条件で1時間、ホウ酸カルシウムの微細化を行った。実施例9では、ビーズミルでの微細化により得られた、ホウ酸カルシウムの微粒子を含むスラリーを、そのまま木片の浸漬に用いた。
【実施例】
【0110】
実施例10では、ビーズミルのシリンダー内に、さらに37.5mgのポリビニルピロリドンを加えることの他は、実施例9と同様の条件で、ホウ酸カルシウムの微細化を行った。実施例10では、ビーズミルでの微細化により得られた、ホウ酸カルシウムの微粒子を含むスラリーを、そのまま木片の浸漬に用いた。
【実施例】
【0111】
比較例7では、微細化されていないホウ酸カルシウム0.25gと、蒸留水15mLとを混合して得られたスラリーを、木片の浸漬に用いた。
【実施例】
【0112】
実施例9、実施例10、及び比較例7について、それぞれ上記の方法で調製されたホウ酸カルシウムのスラリーに木片を浸漬させた。ホウ酸カルシウムのスラリーへ木片を浸漬する操作は、具体的には、以下の通り行った。まず、スラリーが張り込まれた容器が封入されたチャンバ—内を、木片の浸漬開示より30分かけて1.3kPaまで減圧し、次いで、チャンバ—内を30分間減圧状態に維持した。その後、チャンバ—内の圧力を大気圧に戻し、大気圧下で木片の浸漬を60分間継続した。
【実施例】
【0113】
所定の浸漬操作が終了した後、室温、大気圧下での24時間の乾燥に次ぐ、室温、33kPa減圧下での24時間の乾燥により、アモルファス状態のホウ酸カルシウムを内包する木片を得た。
【実施例】
【0114】
実施例9、実施例10、及び比較例7で得られた木片について、実施例4と同様に、未処理の木片の質量に対する、処理後の木片の質量の増加率を測定した。
その結果、実施例9で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は3.2質量%であり、実施例10で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は20質量%であり、比較例7で得られた木片の質量の、未処理の木片の質量に対する増加率は、ほぼ0質量%であった。
あった。
なお、比較例7で得られた木片については、木片の表面へのホウ酸カルシウム粉末の付着が激しかったため、質量の増加率の測定を行う前に、木片に付着した粗大なホウ酸カルシウム粉末を剥離させた。
【実施例】
【0115】
実施例9と、実施例10とで、処理後の木片の質量の増加率が大きく異なったのは、ホウ酸カルシウム粉末を微細化する際の、分散安定剤の使用の有無の影響によると考えられる。実施例10では、木片の浸漬に用いたスラリー中に、微細化により生成した、極微細なホウ酸カルシウム微粒子が安定して存在したために、木片が有する細孔内に、ホウ酸カルシウムの微粒子が良好に含浸されたと考えられる。一方で、実施例9では、木片の浸漬に用いたスラリー中で、微細化により生成した、極微細なホウ酸カルシウム微粒子の凝集が生じ、ややサイズの大きなホウ酸カルシウムの二次粒子が発生したため、木片が有する細孔内のへのホウ酸カルシウム微粒子の含浸が、実施例10ほど進行しなかったと考えられる。
【実施例】
【0116】
実施例10で得た木片の断面の電子顕微鏡画像を、図5に示す。図5によれば、電子顕微鏡像内の白丸で囲われた部分から、実施例10で得られた木片では、木質内の細孔にホウ酸カルシウムの微粒子が取り込まれていることが分かる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4