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明細書 :熱電半導体装置の熱電能向上方法および熱電能試験方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6090975号 (P6090975)
公開番号 特開2014-053432 (P2014-053432A)
登録日 平成29年2月17日(2017.2.17)
発行日 平成29年3月8日(2017.3.8)
公開日 平成26年3月20日(2014.3.20)
発明の名称または考案の名称 熱電半導体装置の熱電能向上方法および熱電能試験方法
国際特許分類 H01L  35/28        (2006.01)
H01L  35/16        (2006.01)
G01N  25/00        (2006.01)
FI H01L 35/28
H01L 35/16
G01N 25/00 B
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2012-196584 (P2012-196584)
出願日 平成24年9月6日(2012.9.6)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 日本機械学会東北学生会第42回卒業研究発表講演会、社団法人日本機械学会主催、平成24年3月6日開催
審査請求日 平成27年4月6日(2015.4.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
発明者または考案者 【氏名】笹川 和彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100108372、【弁理士】、【氏名又は名称】谷田 拓男
審査官 【審査官】安田 雅彦
参考文献・文献 特表2009-520361(JP,A)
特開平06-104494(JP,A)
国際公開第2012/045312(WO,A1)
調査した分野 H01L 35/00-34
H02N 11/00
G01N 25/00
特許請求の範囲 【請求項1】
絶縁性基板上に形成されたアンチモン(S)を材料として含む熱電半導体と、該熱電半導体上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の熱電能向上方法であって 前記熱電半導体の一端側を陰極側とし他の一端側を陽極側として所定の高密度電流を通電しエレクトロマイグレーションを導入することにより、熱電半導体装置の熱電能を向上させることを特徴とする熱電半導体装置の熱電能向上方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱電半導体装置の熱電能向上方法において、前記絶縁性基板は二酸化シリコン(S)被覆基板であり、前記熱電半導体はビスマス-アンチモン-テルリウム(B-S-T)薄膜であり、前記保護被膜はポリイミド保護被膜であることを特徴とする熱電半導体装置の熱電能向上方法。
【請求項3】
絶縁性基板上に形成されたビスマス-アンチモン-テルリウム(B-S-T)薄膜と、該B-S-T薄膜上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の熱電能試験方法であって、
前記熱電半導体の引き出し電極間に所定の温度差を与える温度差付与ステップと、
前記熱電半導体の引き出し電極間の熱起電力を測定する熱起電力測定ステップと、
前記熱電半導体の引き出し電極間の温度差を測定する温度差測定ステップと、
前記熱起電力測定ステップで測定された熱起電力と前記温度差測定ステップで測定された温度差とに基づき、熱電能を求める熱電能取得ステップと、
前記熱電半導体の引き出し電極間に温度差を与えずに、該熱電半導体の一端側を陰極側とし他の一端側を陽極側として所定の高密度電流を通電してエレクトロマイグレーションを導入するエレクトロマイグレーション導入ステップと、
前記熱電半導体の引き出し電極間に所定の温度差を与える温度差再付与ステップと、
前記熱電半導体の引き出し電極間の熱起電力を再測定する熱電能起電力再測定ステップと、
前記熱電半導体の引き出し電極間の温度差を再測定する温度差再測定ステップと、
前記熱起電力再測定ステップで測定された熱起電力と前記温度差再測定ステップで測定された温度差とに基づき、エレクトロマイグレーション導入後の熱電能を求める熱電能再取得ステップと、
前記熱電能取得ステップで取得された熱電能と前記熱電能再取得ステップで取得されたエレクトロマイグレーション導入後の熱電能とを比較する熱電能比較ステップとを備えたことを特徴とする熱電半導体装置の熱電能試験方法。
【請求項4】
請求項3記載の熱電半導体装置の熱電能試験方法において、前記保護被膜を有していない熱電半導体装置を用いて前記温度差付与ステップから前記熱電能再取得ステップまでを実行する保護被膜無し熱電能試験ステップと、
前記保護被膜を有する熱電半導体装置を用いた場合における前記熱電能取得ステップで取得された熱電能及び前記熱電能再取得ステップで取得されたエレクトロマイグレーション導入後の熱電能と、前記保護被膜無し熱電能試験ステップの熱電能取得ステップで取得された熱電能及び熱電能再取得ステップで取得されたエレクトロマイグレーション導入後の熱電能とを比較する保護被膜影響比較ステップとをさらに備えたことを特徴とする熱電半導体装置の熱電能試験方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の熱電半導体装置の熱電能試験方法において、前記絶縁性基板は二酸化シリコン(S)被覆基板であり、前記保護被膜はポリイミド保護被膜であることを特徴とする熱電半導体装置の熱電能試験方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基板上に形成された熱電半導体と、当該熱電半導体上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の熱電能向上方法および熱電能試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電効果は熱的現象と電気的現象との相互作用であり、物体の両端に温度差のみを与えた時にこの両端で電位差が発生する現象、あるいはその逆現象のことである。熱電能(Thermoelectric Power、Thermopower)とは、この与えた温度差1度あたりで何ボルト発生するかを表した物性値である。従来、熱電発電、熱電冷却等の幅広い分野で熱電効果の応用が試みられている。一方、電子デバイスの微細な金属配線においては、高密度電子流による金属原子の拡散現象であるエレクトロマイグレーション(Electromigration : EM)の発生が知られている。これまで、金属薄膜、半導体薄膜に対して、熱電効果に対するEMの影響についての研究がなされてきた(金属薄膜に関しては非特許文献1参照、半導体薄膜に関しては非特許文献2参照)。金属配線において、EMの導入により保護膜の有無によって配線内部の応力状態が異なることが知られている(非特許文献3参照)。
【0003】
非特許文献2によれば、保護膜のない半導体薄膜において、EMの導入によりSb(アンチモン)原子が移動し、熱電能が増加することが知られている。熱電効果は、EM導入前にSb原子が一様に分布している時も、両端に温度差を与えることにより電位差が発生する。EM導入後は、Sb原子の濃度に偏り、即ち濃度分布が生じるため、保護膜のない半導体薄膜の熱電能が増加したものと考えられている。
【0004】
非特許文献3によれば、保護膜で被覆した金属配線において、EMの導入により配線内部に応力の分布が生じることが知られている。EMの導入により、いわゆるBlech効果(陽極側に原子が溜り、陰極側からは原子が流れ出るため、原子濃度の勾配が生じる)によって、応力の分布(応力勾配=原子濃度の勾配)が生じたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した非特許文献2、3による知見だけでは、半導体薄膜において、EMの導入により保護膜の有無によって内部の応力状態が変化し、熱電効果に影響を与えるかどうかは不明であるという問題があった。そこで、本発明の目的は上記問題を解決するためになされたものであり、半導体薄膜において、EMの導入により保護膜の有無によって内部の応力状態が変化し、熱電効果に影響を与えることを確認することにより、絶縁性基板上に形成された熱電半導体と、当該熱電半導体上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の発電能力を向上させる熱電能向上方法および熱電能試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の熱電半導体装置の熱電能向上方法は、絶縁性基板上に形成されたアンチモン(S)を材料として含む熱電半導体と、該熱電半導体上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の熱電能向上方法であって前記熱電半導体の一端側を陰極側とし他の一端側を陽極側として所定の高密度電流を通電しエレクトロマイグレーションを導入することにより、熱電半導体装置の熱電能を向上させることを特徴とする。


【0007】
ここで、この発明の熱電半導体装置の熱電能向上方法において、前記絶縁性基板は二酸化シリコン(S)被覆基板であり、前記熱電半導体はビスマス-アンチモン-テルリウム(B-S-T)薄膜であり、前記保護被膜はポリイミド保護被膜とすることができる。
【0008】
この発明の熱電半導体装置の熱電能試験方法は、絶縁性基板上に形成されたビスマス-アンチモン-テルリウム(B-S-T)薄膜と、該B-S-T薄膜上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の熱電能試験方法であって、前記熱電半導体の引き出し電極間に所定の温度差を与える温度差付与ステップと、前記熱電半導体の引き出し電極間の熱起電力を測定する熱起電力測定ステップと、前記熱電半導体の引き出し電極間の温度差を測定する温度差測定ステップと、前記熱起電力測定ステップで測定された熱起電力と前記温度差測定ステップで測定された温度差とに基づき、熱電能を求める熱電能取得ステップと、前記熱電半導体の引き出し電極間に温度差を与えずに、該熱電半導体の一端側を陰極側とし他の一端側を陽極側として所定の高密度電流を通電してエレクトロマイグレーションを導入するエレクトロマイグレーション導入ステップと、前記熱電半導体の引き出し電極間に所定の温度差を与える温度差再付与ステップと、前記熱電半導体の引き出し電極間の熱起電力を再測定する熱電能起電力再測定ステップと、前記熱電半導体の引き出し電極間の温度差を再測定する温度差再測定ステップと、前記熱起電力再測定ステップで測定された熱起電力と前記温度差再測定ステップで測定された温度差とに基づき、エレクトロマイグレーション導入後の熱電能を求める熱電能再取得ステップと、前記熱電能取得ステップで取得された熱電能と前記熱電能再取得ステップで取得されたエレクトロマイグレーション導入後の熱電能とを比較する熱電能比較ステップとを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、この発明の熱電半導体装置の熱電能試験方法において、前記保護被膜を有していない熱電半導体装置を用いて前記温度差付与ステップから前記熱電能再取得ステップまでを実行する保護被膜無し熱電能試験ステップと、前記保護被膜を有する熱電半導体装置を用いた場合における前記熱電能取得ステップで取得された熱電能及び前記熱電能再取得ステップで取得されたエレクトロマイグレーション導入後の熱電能と、前記保護被膜無し熱電能試験ステップの熱電能取得ステップで取得された熱電能及び熱電能再取得ステップで取得されたエレクトロマイグレーション導入後の熱電能とを比較する保護被膜影響比較ステップとをさらに備えることができる。
ここで、この発明の熱電半導体装置の熱電能試験方法において、前記絶縁性基板は二酸化シリコン(S)被覆基板であり、前記保護被膜はポリイミド保護被膜とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱電半導体装置の熱電能向上方法等は、絶縁性基板上に形成された熱電半導体と、当該熱電半導体上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置を用いる。熱電半導体の一端側を陰極側とし他の一端側を陽極側として所定の高密度電流を通電しEMを導入することにより、熱電半導体装置の熱電能を向上させることができる。本発明の実験によれば、Bi-Sb-Te(薄膜)試験片にポリイミド保護被膜がある場合は無い場合と比較して、熱電能が増加することを発見した。ポリイミド保護被膜の有無による熱電能の増加の違いは、Sb原子(あるいはBi原子も)のEMによる拡散移動によってBi-Sb-Te試験片内部に応力勾配ができるか否かが大きな違いと考えられる。よって、ポリイミド保護被膜があるときの熱電能の増加は、Bi-Sb-Te試験片内の応力勾配に起因していると考えられる。以上の結果、半導体薄膜(Bi-Sb-Te試験片)において、EMの導入により保護膜(ポリイミド保護被膜)の有無によって内部の応力状態が変化し、熱電効果に影響を与えることを確認することができた。以上により、本発明の熱電半導体装置の熱電能向上方法等によれば、絶縁性基板上に形成された熱電半導体(Bi-Sb-Te試験片)と、当該熱電半導体上に形成された保護被膜(ポリイミド保護被膜)とを有する熱電半導体装置の発電能力を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Bi-Sb-Te試験片10の形状を示す図である。
【図2】Bi-Sb-Te試験片10(薄膜配線)にEMを導入するための通電試験およびEM導入前後の熱起電力の計測に用いる試験装置20を示す図である。
【図3】本発明の熱電半導体装置15の熱電能試験方法を示すフローチャートである。
【図4】通電試験時における電圧計22Bの電圧変化を示す図である。
【図5】通電試験後の薄膜配線の陰極端、陽極端の画像を示す図である。
【図6】EM導入前に、接点1(25L)と接点2(25R)との間に温度差Tを与えたときに得た熱起電力Vと温度差Tとの関係の一例をグラフで示す図である。
【図7】EM導入後に、接点1(25L)と接点2(25R)との間に温度差Tを与えたときに得た熱起電力Vと温度差Tとの関係の一例をグラフで示す図である。
【図8】EM導入前後における熱電能TpbおよびTpaをグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
まず熱電効果とEMとについて簡単に説明する。二つの異なる導体Aと導体Bとをつないで閉回路を作り任意の位置で切り離したとき、切り離した導体Aと導体Bとの二つの接合部の温度差に応じて、切り口の両端間に熱起電力が生じる現象を熱電効果の一つであるゼーベック効果という。Bi-Sb-Te(Bismuth-Antimong-Tellurium : ビスマス-アンチモン-テルリウム)半導体においては金属よりも顕著なゼーベック効果が生じることが知られている。一方、EMは、高密度電子流およびそれに伴うジュール発熱の上昇に起因した現象であり、熱電効果との深い関連が示唆される。EMによる原子流束が不均一な箇所では局所的な原子の損失(void : ボイド)あるいは蓄積(hillock : ヒロック)が生じる。本発明で用いる試験片(後述)のEM損傷の評価にあたっては、ボイド形成にともなう電気抵抗の増加を計測し、その指標とした。
【実施例1】
【0014】
次に、本発明の熱電半導体装置の熱電能向上方法について説明する。本発明の熱電半導体装置の熱電能向上方法は、絶縁性基板上に形成された熱電半導体と、当該熱電半導体上に形成された保護被膜とを有する熱電半導体装置の熱電能向上方法である。詳しくは、まず熱電半導体の一端側を陰極側とし他の一端側を陽極側として所定の高密度電流を通電しEMを導入することにより、熱電半導体装置の熱電能を向上させる。熱電半導体としてはBi-Sb-Te薄膜が好適であり、絶縁性基板としては二酸化シリコン(S)被覆基板が好適であり、保護被膜としてはポリイミド保護被膜が好適である。しかし、本発明が適用される熱電半導体、絶縁性基板および保護被膜の種類はこれらの例に限定されるものではなく、例えば熱電半導体としてPb(鉛)-Te系(常温から800K程度まで)、Si(シリコン)-Ge(ゲルマニウム)系(常温から1000K程度まで)を使用してもよい。保護被膜としてシリコン酸化膜(S)またはシリコン窒化膜(SN)を使用してもよい。
【実施例1】
【0015】
以下では、本発明の熱電半導体装置の熱電能試験方法について説明する。試験片の材料には熱電半導体装置の材料として着目される上述のBi-Sb-Teを用いる。図1(A)、(B)はBi-Sb-Te試験片(薄膜)10の形状を示す。図1(A)に示されるように、Bi-Sb-Te試験片10の左側片Lは縦が100μmで横が140μmの略矩形の形状であり、左側片Lと中央片Cを介して接続された右側片Rは左側片Lと対称の形状で縦が100μmで横が140μmの略矩形の形状である。中央片Cの左端には細片を介して引出し電極Ljが接続され、右端には細片を介して引出し電極Rjが接続された形状となっている。図1(B)は図1(A)のXX’線断面図であり、S基板の表面に二酸化シリコン(S)膜を形成した二酸化シリコン(S)被覆基板11上に750nm厚のBi-Sb-Te試験片10が形成され、Bi-Sb-Te試験片10上に3μm厚のポリイミド保護被膜12が形成された熱電半導体装置15を示す。S基板11の厚さは特に示していないが、適宜設定すればよい。
【実施例1】
【0016】
発明者は図1に示される形状のBi-Sb-Te試験片10(薄膜試験片)を作製し、以下で説明する実験を行った。図1(A)、(B)に示されるBi-Sb-Te試験片10等の作製方法は、まずS基板11上にスパッタ装置を用いてBi-Sb-Te試験片10を厚さ750nm堆積させ、リフトオフにより図1(A)に示されるBi-Sb-Te試験片10の形状を形成した。リフトオフは、レジストで作製したパターンに金属を蒸着させた後にレジストを取り去ることにより、レジストが無かった部分にのみ金属のパターンが残るという手法である。その後、Bi-Sb-Te試験片10の表面を保護被覆するために、厚さ約3μmのポリイミド保護被膜12をBi-Sb-Te試験片10の表面に成膜した。さらに、赤外線による温度計測を行うために、ポリイミド保護被膜24(サンプル)表面全体を厚さ3μmの黒色塗料(不図示)でコーティングした。
【実施例1】
【0017】
図2は、Bi-Sb-Te試験片10(薄膜配線)にEMを導入するための通電試験およびEM導入前後の熱起電力の計測に用いる試験装置20を示す。図2で図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図2に示されるように、Bi-Sb-Te試験片10に対して左右の引き出し電極LjおよびRj間の熱起電力Vb(mV)を電圧計22Aのプローブ21Lおよび21Rにて計測した。このとき、ヒータ23と水冷ブロック24とを用いて引き出し電極LjおよびRj間に温度差を与えた。さらにサーモグラフィー29を用いて、引き出し電極Ljと電圧計22Aとの接点1(25L)と、引き出し電極Rjと電圧計22Aとの接点2(25R)との間(「接点1(25L)と接点2(25R)との間」は、「引出し電極LjとRjとの間」と言ってもよい。以下同様)の温度差T(K)を計測した。計測した温度差Tと熱起電力Vbとから熱電能Tpb(=Vb/T)を求めた。熱電能Tpbには温度依存性があることが知られているため、接点1(25L)の温度が323、373(K)の2種類に対して接点2(25R)の温度を変化(正負)させた。次に、Bi-Sb-Te試験片10の薄膜配線部(狭義には左側片L、中央片Cおよび右側片Rを指す。以下、「薄膜配線部LCR」と言う。広義にはBi-Sb-Te試験片10を指す。)にEMを導入するため、定電流直流電源26を用い、高密度電流約30~90kA/cmをS基板11全体の温度を503Kに設定の下、定電流直流電源26の電極27Pおよび28Pにより通電した。EM導入の確認のため、電圧計22Bの電極27Vおよび28V間の電圧変化を記録した。その後、通電試験前と同様の方法で電圧計22Aを用いて熱起電力Vaの(再)計測を行い、EM導入前後における熱起電力VbとVaとを比較した。4本のBi-Sb-Te試験片10を用いて以上の実験を行った。
【実施例1】
【0018】
図3は、本発明の熱電半導体装置15の熱電能試験方法をフローチャートで示す。図3に示されるように、まず、Bi-Sb-Te試験片10(熱電半導体)の接点1(25L:一端)側と接点2(25R:他の一端)側との間に接点1(25L)側を323Kまたは373Kとする所定の温度差を与える(温度差付与ステップ。ステップS10)。次に、Bi-Sb-Te試験片10接点1(25L)側と接点2(25R)側との間の熱起電力Vbを測定する(熱起電力測定ステップ。ステップS12)。Bi-Sb-Te試験片10接点1(25L)側と接点2(25R)側との間の温度差Tを測定する(温度差測定ステップ。ステップS14)。熱起電力測定ステップ(ステップS12)で測定された熱起電力Vbと温度差測定ステップ(ステップS14)で測定された温度差Tとに基づき、EM導入前の熱電能Tpbを求める(熱電能取得ステップ。ステップS16)。Bi-Sb-Te試験片10接点1(25L)側と接点2(25R)側との間に温度差を与えずに、Bi-Sb-Te試験片10の接点1(25L)または左側片L側を陰極側(-)とし、接点2(25R)または右側片R側を陽極側として所定の高密度電流(好適には30~90kA/cm)を通電してEMを導入する(EM導入ステップ。ステップS18)。Bi-Sb-Te試験片10接点1(25L)側と接点2(25R)側との間に所定の温度差T’を与える(温度差再付与ステップ。ステップS19)。Bi-Sb-Te試験片10の接点1(25L)側と接点2(25R)側との間の熱起電力Vaを再測定する(熱起電力再測定ステップ。ステップS20)。Bi-Sb-Te試験片10接点1(25L)側と接点2(25R)側との間の温度差T’を測定する(温度差再測定ステップ。ステップS21)。熱起電力再測定ステップ(ステップS20)で測定された熱起電力Vaと温度差再測定ステップ(ステップS21)で測定された温度差T’とに基づき、EM導入後の熱電能Tpaを求める(熱電能再取得ステップ。ステップS22)。熱電能取得ステップ(ステップS16)で取得されたEM導入前の熱電能Tpbと熱電能再取得ステップ(ステップS22)で取得されたEM導入後の熱電能Tpaとを比較する(熱電能比較ステップ。ステップS24)。
【実施例1】
【0019】
図4は、通電試験時における電圧計22Bの電圧変化を示す。図4で、横軸は時間t(s)、縦軸は電圧(V)である。図4に示されるように、通電(t=0)から1時間程経過した後に約30%の電圧の上昇が見られた。約30%の電圧の上昇がみられるまでの経過時間は、使用した4本のBi-Sb-Te試験片10または通電条件により差があるが、概して通電から数時間あれば約30%の電圧の上昇がみられる。
【実施例1】
【0020】
図5は、通電試験後の薄膜配線部LCRの陰極端、陽極端の画像を示す。図5で図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図5において、Vは薄膜配線部LCRにおける左側片Lと中央片Cとの接続部分の拡大図であり、Hは薄膜配線部LCRにおける中央片Cと右側片Rとの接続部分の拡大図である。図5の拡大図VおよびHに示されるように、薄膜配線部LCRの表面にボイドおよびヒロックを確認することができた。以上より、Bi-Sb-Te試験片10の薄膜配線部LCRへのEMの導入を確認することができた。
【実施例1】
【0021】
上述した熱電能試験方法では、熱電半導体装置15がポリイミド保護被膜12を有していることを前提とした。しかし、保護被膜の有無によって、EMの導入による薄膜配線部LCR内部の応力状態の変化が熱電効果に影響を与えるかどうかを調べるためには、保護被膜がない状態で同様の熱電能試験方法を行って両者を比較する必要がある。そこで、本発明の熱電半導体装置15の熱電能試験方法では、ポリイミド保護被膜12を有していない熱電半導体装置15を用いて温度差付与ステップ(ステップS10)から熱電能再取得ステップ(ステップS22)までを実行するポリイミド保護被膜無し熱電能試験ステップ(不図示)をさらに備えている。加えて、本発明の熱電半導体装置15の熱電能試験方法では、ポリイミド保護被膜12を有する熱電半導体装置15を用いた場合における熱電能取得ステップ(ステップS16)で取得されたEM導入前の熱電能Tpbおよび熱電能再取得ステップ(ステップS22)で取得されたEM導入後の熱電能Tpaと、ポリイミド保護被膜無し熱電能試験ステップの熱電能取得ステップ(不図示)で取得されたEM導入前の熱電能Tpb’および熱電能再取得ステップ(不図示)で取得されたEM導入後の熱電能Tpa’とを比較するポリイミド保護被膜影響比較ステップ(不図示)とをさらに備えることができる。
【実施例1】
【0022】
図6は、EM導入前に、接点1(25L)と接点2(25R)との間に温度差Tを与えたときに得た熱起電力Vと温度差Tとの関係の一例を示すグラフである。図7は、EM導入後に、接点1(25L)と接点2(25R)との間に温度差Tを与えたときに得た熱起電力Vと温度差Tとの関係の一例を示すグラフである。図6および7で、横軸は温度差T(K)、縦軸はゼーベック効果による起電力(Seebeck EMF。mV)である。両図中、原図では青色菱形はポリイミド保護被膜12無しで接点1(25L)を323(K)とした場合(W/O Passi.はWithout Passivation(保護被膜無し)の略。以下同様)、黄色四角形はポリイミド保護被膜12無しで接点1(25L)を373(K)とした場合、赤色三角形はポリイミド保護被膜12有りで接点1(25L)を323(K)とした場合(W/ Passi.はWith Passivation(保護被膜有り)の略。以下同様)、緑四角形はポリイミド保護被膜12有りで接点1(25L)を373(K)とした場合を示す。図6に示されるように、EM導入の前ではポリイミド保護被膜12の有無にかかわらず、接点1(25L)の基準とする温度が増加すると、正負の温度差T(または温度差Tの絶対値)に対する正負の熱起電力V(または起電力Vの絶対値)が増加していることがわかる。図7に示されるように、EM導入の後でもポリイミド保護被膜12の有無にかかわらず、正負の温度差Tが増加すると正負の熱起電力Vが増加していることがわかる。即ち、EM導入の前後共にポリイミド保護被膜12の有無にかかわらず、正負の温度差Tが増加すると正負の熱起電力Vが増加していることがわかる。さらに、図7を詳しく見ると、EM導入後において、ポリイミド保護被膜12の有無により比較すると、ポリイミド保護被膜12を有する方が(特に緑四角形)、正負の温度差Tに対する正負の熱起電力Vが増加していることがわかる。
【実施例1】
【0023】
図8は、EM導入前後における熱電能TpbおよびTpaを示すグラフである。図8で、横軸はEM導入の前後、縦軸は熱電能(μV/K)であり、青色菱形、黄色四角形、赤色三角形および緑四角形の意味は図6、7と同様であるため、説明は省略する。図8ではEM導入後の熱電能は正の温度差Tを与えたときの熱電能を表示した。図8に示されるように、接点1(25L)を基準とする基準温度が323Kと373Kとの場合におけるEM導入後の熱電能TpbおよびTpaは、EM導入前に比べてポリイミド保護被膜12が無い場合で各々15%(青色菱形)、37%(黄色四角形)増加しており、ポリイミド保護被膜12を有する場合で47%(赤色三角形)、86%(緑四角形)増加した。以上の結果より、ポリイミド保護被膜12を有する場合の熱電能の方がより増加していることがわかる。
【実施例1】
【0024】
熱電能が変化したことに対し、次のことが考えられる。まず、背景技術で説明した非特許文献2によれば、保護被膜の無い薄膜において、EMによりSb原子が移動し、熱電能が増加することが知られている。非特許文献3によれば、保護膜で被覆した配線にEMを導入した場合、原子の移動により配線内部には応力の分布が生じる。従って、ポリイミド保護被膜12を有する薄膜配線部LCRにおいて、EMによりSb原子が移動し熱電能が増加したことに加え、薄膜配線部LCR内部に応力分布が生じたことによって、さらに熱電能が増加したものと考えられる。
【実施例1】
【0025】
以上より、本発明の実施例1によれば、Bi-Sb-Te試験片10にポリイミド保護被膜12がある場合は無い場合と比較して、熱電能が増加することを発見した。ポリイミド保護被膜12の有無による熱電能の増加の違いは、Sb原子(あるいはBi原子も)のEMによる拡散移動によってBi-Sb-Te試験片10内部に応力勾配ができるか否かが大きな違いと考えられる。よって、ポリイミド保護被膜12があるときの熱電能の増加は、Bi-Sb-Te試験片10内の応力勾配に起因していると考えられる。以上の結果、半導体薄膜(Bi-Sb-Te試験片10)において、EMの導入により保護膜(ポリイミド保護被膜12)の有無によって内部の応力状態が変化し、熱電効果に影響を与えることを確認することができた。以上により、二酸化シリコン(S)被覆基板11上に形成された熱電半導体(Bi-Sb-Te試験片10)と、当該熱電半導体上に形成された保護被膜(ポリイミド保護被膜12)とを有する熱電半導体装置15の発電能力を向上させる熱電能向上方法および熱電能試験方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の活用例として、熱電発電、熱電冷却等における発電能力向上に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 Bi-Sb-Te試験片10、 11 二酸化シリコン(S)被覆基板、 12 ポリイミド保護被膜、 15 熱電半導体装置、 20 試験装置、 21L、21R プローブ、 22A、22B 電圧計、 23 ヒータ、 24 水冷ブロック、 25L 引出し電極Ljとプローブ21Lとの接点1、25R 引出し電極Rjとプローブ21Rとの接点2、 26 定電流直流電源、 27P、27V、28P、28V 電極、 29 サーモグラフィー、
【先行技術文献】
【0028】

【非特許文献1】笹川・平野,金属薄膜熱電対の熱電効果に及ぼすエレクトロマイグレーションの影響,日本機械学会M&M2007 講演論文集, (2007), pp.186-187.
【非特許文献2】Chien, N. L. et al., Electricaland Thermal Transport Properties of Electrically Stressed Bi-Sb-TeNanocrystalline Thin Films, Thin Solid Films, Vol.519, No.13, (2011),pp.4394-4399.
【非特許文献3】Sasagawa, K. et al., Predictionof Electromigration Failure in Passivated Polycrystalline Line, Journal ofApplied Physics, Vol.91, No.11, (2002), pp.9005-9014.
図面
【図3】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7