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明細書 :プロテオグリカンの抽出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5252623号 (P5252623)
公開番号 特開2009-173702 (P2009-173702A)
登録日 平成25年4月26日(2013.4.26)
発行日 平成25年7月31日(2013.7.31)
公開日 平成21年8月6日(2009.8.6)
発明の名称または考案の名称 プロテオグリカンの抽出方法
国際特許分類 C08B  37/00        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
FI C08B 37/00 Q
A23L 1/30 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2008-011296 (P2008-011296)
出願日 平成20年1月22日(2008.1.22)
審査請求日 平成23年1月17日(2011.1.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
発明者または考案者 【氏名】加藤 陽治
【氏名】伊藤 聖子
【氏名】工藤 重光
個別代理人の代理人 【識別番号】100098556、【弁理士】、【氏名又は名称】佐々 紘造
審査官 【審査官】熊谷 祥平
参考文献・文献 再公表特許第07/094248(JP,A1)
国際公開第04/083257(WO,A1)
特開2003-300858(JP,A)
北海道立釧路水産試験場事業報告書,2000年,vol.1999,p.128-129
日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2007年,vol.61,p.254
調査した分野 C08B 37/00
A23L 1/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記のA~E工程よりなるプロテオグリカン組成物の抽出方法。
A.凍結した水棲動物組織を破砕し、これに水を加え、温度0~20℃、pH4.8~7で処理する工程、
B.Aの固液混合物を遠心分離し、最上部の脂質層と中間層の水層を取り除き、沈殿物を回収する工程、
C.沈殿物を乾燥し、微粉末化する工程、
D.得られた乾燥微粉末に、溶媒としてヘキサン、アセトン又はエタノールを加え、残存脂質を抽出除去する工程、
E.溶媒を除去する工程。
【請求項2】
溶媒がエタノールである請求項1の抽出方法。
【請求項3】
乾燥沈殿物と有機溶媒の体積比が1:1~10である請求項1又は2の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水棲動物組織、就中大量に廃棄されている魚類頭部からプロテオグリカンを抽出回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、古くは哺乳動物軟骨に含まれるものを抽出分離していたが、牛のBSE発症が報告されてから、水産動物組織のプロテオグリカンを抽出分離することが行われてきた。鯨やサメの軟骨に含まれるプロテオグリカンの抽出はすでに行われているが、原料となる動物の捕獲量に限りがあり、プロテオグリカンの生産量が制限されている。さらに抽出分離操作が複雑であり、抽出の際に使用する溶媒は食品に適さないものが使われることが多く、製品の用途に制限が加えられ高価格になっている。
【0003】
動物組織に含まれるプロテオグリカンを抽出する方法にはいろいろあるが、抽出に際して加熱操作を加える方法では、調製されたプロテオグリカンに分解が起きて低分子化したものが多く含まれている。プロテアーゼ阻害剤を添加し加水分解を防ぐ抽出法では、回収率が悪く、組織に含まれる各種成分が混入してそれを除くための複雑な操作が必要となり、抽出コストに大きく影響している。これまで市販されている製品では製造方法が複雑であり、非常に高価なものとなっている。さらに、酢酸やアルカリのような特殊な抽出溶媒を使用するため、製品に残留した溶媒の異臭が残り、医療用など利用範囲が制限され、プロテオグリカンの持つ健康機能を引き出した方面での利用は閉ざされている。
【0004】
また、動物はそれぞれ特有の体臭を有しており、動物から組織を取り出したときには必ず体臭やそれの変質した臭いが組織に付着している。ある時にはその臭いが好ましいものとなることもあるが、多くの場合は臭いがあることは望ましいものではない。動物の体臭は痕跡量で感じるために完全に除かなければならない。さらに体臭は油に溶けやすいものが多く組織を取り出し、精製の過程で脱臭操作を加えても、微量の脂肪分の残留により完全な脱臭は非常に困難である。
特に魚類から分離抽出した場合に付着する異臭を除去するためには各種の極性および非極性の溶媒を多量に使用したり、超臨界抽出など特別な装置を用いたりする必要がある。これら溶媒を使用する場合には食品に使用できないものが多く、食品に使用可能な溶媒は効力が低く、使用条件を厳密に設定して使用しないときは十分な効果を得ることができない。
【0005】
WO2004/083275には、軟骨魚類由来の軟骨を粉砕し、水を加えて水溶性成分を抽出し、水層を分離し、アルコールを加えて沈殿物を得てプロテオグリカンを製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法は、脂質を多く含む軟骨原料からプロテオグリカンと脂肪分を完全に分離することは困難であり、魚臭が残るという問題がある。
【0006】

【特許文献1】WO2004/083257
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、大量に漁獲される魚、特に北洋において漁獲、加工された後に残渣として廃棄されている鮭、鱒の頭部の軟骨組織から効率よく分離抽出精製する方法を提供することである。本発明の他の目的は異臭がほとんどなく、幅広い用途を有するプロテオグリカン組成物を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するためにプロテオグリカンの抽出条件を種々検討の結果、本発明に到達した。即ち、本発明は以下のとおりである。
1.下記のA~E工程よりなるプロテオグリカン組成物の抽出方法。
A.凍結した水棲動物組織を破砕し、これに水を加え、温度0~20℃、pH4.8~7で処理する工程、
B.Aの固液混合物を遠心分離し、最上部の脂質層と中間層の水層を取り除き、沈殿物を回収する工程、
C.沈殿物を乾燥し、微粉末化する工程、
D.得られた乾燥微粉末に、溶媒としてヘキサン、アセトン又はエタノールを加え、残存脂質を抽出除去する工程、
E.溶媒を除去する工程。
2.有機溶媒がエタノールである前記1の抽出方法。
3.乾燥沈殿物と有機溶媒の体積比が1:1~10である請求項1又は2の方法。
4.前記1、2又は3の方法により得られるプロテオグリカン組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、水棲動物組織からプロテオグリカンを中心とした成分を分離抽出し、食品に使用する組成物を提供することができる。本発明の処理操作を行うことで、組成物には食品に使用が許されている溶媒を使用して異臭を除去し、食品およびそれ以外の素材として使用が可能な状態とすることができる。さらに本発明で得た組成物はさらに精製することで、食品およびそれ以外の各種用途に使用できる組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の抽出方法は、水棲動物からの抽出に使用する水の微妙な温度およびpHを適正に設定して脂質を上部に浮上させて抽出を行うことで、プロテオグリカンの分解を防ぎながら不要な脂質を除く第1段階の工程A~Cと、エタノールのような有機溶媒を使用して微量に残存する脂質に共存している異臭を取り除く第2段階の工程D~Eよりなる。
【0011】
生体組織に含まれる脂質とその他組成物とは完全に一体化して組織体を構成しており、両者を分離するためには加熱抽出のような強力な操作法を用いるために、通常は組成物の変性を引き起こすことが多い。本発明においては脂質と水溶性組成物を分離する第1段階の操作としては鋭意研究の結果、磨砕した軟骨組織に含まれる脂質を比重の差により分離することで脂質の75%を除去することが可能である。
【0012】
本発明における水棲動物とは、例えばサメ、鯨、鮭、鱒等であり、好ましくは鮭と鱒である。水棲動物の組織とは、いずれの組織でも差し支えないが、北洋において漁獲、加工された後に残渣として廃棄されている鮭、鱒の頭部の軟骨組織が資源の有効利用という点から好ましい。これらの軟骨組織は、軟骨組織に含まれるプロテオグリカンの加水分解酵素による分解を抑制するために、凍結したものを用いる必要がある。参考として、サケ鼻軟骨の組成を表1に示す。
【0013】
【表1】
JP0005252623B2_000002t.gif

【0014】
A工程における破砕は、公知の破砕機、例えばチョッパー(冷凍用・骨用肉挽機)で行って差し支えない。水棲動物組織に加える水は水道水でも脱イオン水でも蒸留水でも差し支えない。水の量は、ウェットベースで、水棲動物組織100重量部に対して100~200重量部が好ましい。本発明においては、A工程でpHが4.8~7、温度が0~20℃で十分混合した後、好ましくは0~15℃にて遠心分離することが重要である。pHが4.8未満の酸性条件では、溶媒として酢酸などを使用し、沈殿物から溶媒を完全に除去することが困難となるため、利用範囲が限られてくる。pH7を超えるアルカリ条件だと、脂肪分の溶解率は高まるが、プロテオグリカンのグリコサミノグリカン糖鎖とコアタンパク質も分解されてしまう。温度が0℃より低いと氷となり抽出溶媒として使用できず、20℃より高いと水棲動物組織に含まれるプロテオグリカン加水分解酵素の働きを促進し、プロテオグリカンが低分子化する。特に好ましくはpH5.0~6.5、温度10~15℃である。水を加え、pHと温度を所望の範囲に調整したら、好ましくは撹拌して十分混合する。脂質は上部付近に浮き上がり、プロテオグリカン組成物は沈殿する。
【0015】
ついで、B段階として、ただちに遠心分離で脂質とプロテオグリカン組成物を分ける。遠心分離の回転数と分離時間は相関があるが、3,000~12,000rpm、10~40分が好ましく、より好ましくは5,000~10,000rpm、20~30分である。遠心分離層は3層に分かれ、最上部の脂質層と中間層の水層を取り除き、沈殿物を回収する。遠心分離の際の温度は、明確な3層を形成するため、好ましくは0~15℃である。
【0016】
次いでC工程として、沈殿物を乾燥、好ましくは凍結乾燥した後、粉砕機にて微粉末とする。粉砕は、公知の粉砕機、例えば遠心式および衝撃式微粉砕機で行って差し支えない。粉砕の程度は概ね100~300メッシュである。得られた乾燥微粉末の脂質は約10%となる。よって、A~C工程にて脂質が約75%除去されたこととなる。
【0017】
本発明における第1段階の処理であるA~C工程により、共存することが好ましくない大部分の脂質を除去することができるが、プロテオグリカン組成物中に市販されている組成物と同じ程度ではあるがまだ異臭が残留しており、使用される食品に制限があった。そこで、本発明においては種々の機能を有するプロテオグリカンの用途をさらに拡大することを第一の目的として鋭意研究を行った。このような意味から残留する異臭は除かなければならない。
【0018】
これまで臭いに関する研究は数多くあり、多くは臭いが単一成分で構成されることはほとんどなく、数多くの化学物質の特定両の集合によりそれぞれ特有の臭いが構成されている。特に好ましい臭いすなわち「香り」に関する研究結果は市場において数多く利用されている。本発明で対象となる臭いは好ましくないもので除去することが目的となるが、その全体の性質を知る必要があり、本発明は鋭意研究を行い、それが脂質と共存していることを突き止めた。
【0019】
A~C工程で得られたプロテオグリカン組成物には微量ではあるが、まだ脂質が残留している。残留する脂質を除くためには脂質を溶解する溶媒を利用することが必要である。本発明におけるプロテオグリカン組成物は食品用を含めた幅広い用途を対象とすることから、脂質を溶解する溶媒には制限が加えられる。この点から溶媒としては、作業者並びに製品の使用者にも安全な、食品衛生法により許可されたヘキサン、アセトン又はエタノールを用いる。好ましくはエタノールである。
溶媒を加えて脂質を抽出する際には脂質と共存するコラーゲン等のタンパク質が乳化状況を示すことが多く、できるだけ操作を簡便化し、低コストで異臭を含む脂質を除く方法を開発した。
【0020】
即ち、本発明においては脂質を溶解した溶媒とプロテオグリカン組成物との乳化を防ぐために、D工程として、C工程で得られた乾燥微粉末に、特定の溶媒を加え、残存脂質を抽出除去する。このように、水分と体積を減少させて溶媒を添加することで、使用する溶媒の量を少なくすることができる。溶媒の量は、体積比で乾燥沈殿物1に対して有機溶媒が1~10が好ましく、更に好ましくは5~10である。
最後にE工程として、使用した溶媒を風乾または低温真空乾燥することで、組成物中のプロテオグリカンを分解させることもなく目的とする異臭を除くことができる。溶媒抽出は必要に応じて1回乃至複数回行うことができる。
【実施例】
【0021】
実施例1
凍結サケ鼻軟骨100gを破砕し、これに15℃の水道水を同容量加え、緩やかに撹件して十分混ぜ合わせ、5℃前後に維持された混合物をただちに遠心分離器9,000rpm、30分、4℃で遠心分離し、脂質とプロテオグリカン他組成物を分けた。遠心分離層は3層に分かれ、最上部の脂質層と中間層の水層を取り除き、沈殿物を回収した。沈殿物は凍結乾燥後、遠心式粉砕機で粉砕し、水脱脂微粉末を得た。この段階で、一部をエーテル抽出にて脂質を測定した結果、脂質は8.8%残存しており、脱脂前の脂質を100%とした場合の除去率は75.0%となり、弱い異臭を含んでいた。
【0022】
ついで、水脱脂微粉末に10倍容量のエタノールを加えて、異臭を含む脂質を溶解抽出した。本操作を2回繰り返してエタノール溶液を濾過除去し、溶媒を蒸発させると微黄褐色無臭のプロテオグリカン組成物粉末を得た。サケ鼻軟骨に対する収率58.7%(ドライベース)、プロテオグリカン含有率77.7%であった。プロテオグリカン組成物粉末の異臭は全く消失した。
【0023】
試料、水脱脂粉末及び水-エタノール脱脂粉末のプロテオグリカン組成物の組成を表2に、水脱脂微粉末中に含まれるプロテオグリカンの分子量構成を図1に示した。比較として、一般的な脱脂法であるクロロホルム-メタノールを用いた有機溶剤脱脂後に得られるプロテオグリカン組成物の組成を表3に、分子量構成を図2に示した。
【0024】
【表2】
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【0025】
【表3】
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【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法により得られるプロテオグリカン組成物は、異臭がないために、特に食品分野での使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の中間段階で得られた水脱脂粉末に含まれるプロテオグリカンの分子量構成を表した図である。
【図2】有機溶剤脱脂(クロロホルム-メタノール)で得られた粉末に含まれるプロテオグリカンの分子量構成を表した図である。
図面
【図1】
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【図2】
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