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明細書 :管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4452886号 (P4452886)
公開番号 特開2006-334235 (P2006-334235A)
登録日 平成22年2月12日(2010.2.12)
発行日 平成22年4月21日(2010.4.21)
公開日 平成18年12月14日(2006.12.14)
発明の名称または考案の名称 管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置
国際特許分類 A61B  19/00        (2006.01)
A61B   5/026       (2006.01)
FI A61B 19/00 501
A61B 5/02 340
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2005-164600 (P2005-164600)
出願日 平成17年6月3日(2005.6.3)
審査請求日 平成20年5月12日(2008.5.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
発明者または考案者 【氏名】峯田 貴
【氏名】牧野 英司
【氏名】藤 哲
【氏名】廣田 賢一
【氏名】渡邉 優
【氏名】菅原 卓
【氏名】柴田 隆行
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】川端 修
参考文献・文献 実開昭53-032760(JP,U)
特開平10-257785(JP,A)
特開平05-272446(JP,A)
特開平08-110317(JP,A)
特開平05-034182(JP,A)
広田賢一 他,TiNiCu形状記憶合金薄膜による血管把持アクチュエータの形成,第109回講演大会講演要旨集,日本,社団法人表面技術協会,2004年 3月 8日,266,15D-28
調査した分野 A61B 19/00
A61B 5/026
特許請求の範囲 【請求項1】
管腔器官を把持するための把持部と、把持部が管腔器官を把持するように動作するための動作部を少なくとも備えた形状記憶合金薄膜体の表面に、把持部と動作部のそれぞれを形状回復温度よりも高い温度にまで別個に加熱することを可能とする加熱手段と、形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサを設けてなることを特徴とする管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項2】
形状記憶合金薄膜体が平板状に形状記憶されてなり、動作部は形状回復時に把持部が管腔器官を把持するように、把持部は動作部の形状回復時に管腔器官を把持するとともに自身の形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように、それぞれ外力によって変形させて使用されることを特徴とする請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項3】
形状記憶合金薄膜体の厚さが1μm~500μmであることを特徴とする請求項1または2記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項4】
形状記憶合金薄膜体の形状回復温度が45℃~70℃であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項5】
加熱手段が金属薄膜からなるマイクロヒータであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項6】
変位薄膜センサが金属薄膜からなる歪みゲージ抵抗型センサであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項7】
管腔器官が血管であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項8】
管腔器官を把持するための把持部と、把持部が管腔器官を把持するように動作するための動作部を少なくとも備えた形状記憶合金薄膜体の表面に、絶縁膜を形成した後、その表面に、把持部と動作部のそれぞれを形状回復温度よりも高い温度にまで別個に加熱することを可能とする加熱手段としてのマイクロヒータを構成する配線パターンと、形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサとしての歪みゲージ抵抗型センサを構成する配線パターンを、同一の金属薄膜を用いて1度のパターニング工程で形成し、その後、これらの配線パターンを絶縁保護するために、その全体を絶縁膜で被覆することを特徴とする管腔器官把持アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータの変位薄膜センサによって検知した電気信号を、管腔器官把持アクチュエータに接続した解析手段で解析することで、管腔器官の直径の変化を監視することができるようにしてなることを特徴とする管腔器官の直径の変化を監視するための装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生の有無を監視するためなどに有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術の進歩により、手指が切断された際の血管吻合手術の成功率は非常に高く、時には吻合手術によって完全に回復することも可能になっている。しかし、術後に血管の縫い目である吻合部で血栓が発生し、これにより吻合部の下流の末梢部分への血流が阻害され、最悪の場合には指先の壊死を引き起こすことがある。このような問題を未然に防止するためには、血栓の発生を初期段階で発見し、薬剤の投与などにより血栓を的確に溶解除去する必要があることから、術後2日程度の血栓形成のモニタリングは非常に重要な意味を持つ。現在、一般的に行われている血栓形成のモニタリング方法としては、術後の皮膚の温度や色の変化によって血栓による血流障害を検知することに基づくものがある。しかし、このような方法では、血流障害を検知した時点で既に事態が手遅れになっている場合があり、また、検知の正確性が医師や看護師の熟練度に左右されてしまうといった問題がある。
【0003】
以上のような背景のもと、血管吻合部における血栓の発生の有無を、ドップラープローブセンサを用いて監視する方法や、レーザ計測装置を用いて監視する方法が提案されている。前者の方法は、例えば、図4のようにして、プローブから血管内に超音波を発振し、その反射波を電気信号に変換して周波数の変化をドップラー現象として計算することで、血流の流速を測定することができるセンサを用い、血流の流速の変化の有無(血栓が発生した場合にはその近辺において血流の流速が低下する)から血栓の発生の有無を監視するものである(必要であれば非特許文献1や非特許文献2を参照のこと)。後者の方法は、近赤外レーザを血管に照射してその透過光をフォトカウンタで受光すると、血栓が存在する部位の血球成分は、血栓が存在しない部位の血球成分と異なるため、両部位の間には光吸収特性や光散乱特性に違いを生じるので、その違いが透過光量の違いになって現れる現象を利用して血栓の発生の有無を監視するものである(必要であれば非特許文献3を参照のこと)。しかし、これらの方法には、血管径に応じた各種のプローブを必要とするので汎用性に欠けるといった問題や、大型測定プローブを血管に直接固定しなければならず、使用後には取り外すための再手術が必要になるといった問題がある。血管吻合部における血栓の発生を簡易、迅速かつ正確に検知することができ、しかも、患者にとって低侵襲性で、医師や看護師の負担を軽減することができる実用的な血栓形成のモニタリング方法を提供するためには、血管への取り付けを容易に行うことができ、使用後には再手術などを行うことなく容易に血管から取り外すことができる血流センサが要求される。
【0004】
このような事情に鑑み、下記の非特許文献4では、形状回復時に血管を把持するように形状記憶させた形状記憶合金薄膜体による血管把持アクチュエータが提案されている。この血管把持アクチュエータは、外力によって予めフォーク状の先端部分を開放状態に変形しておき、形状回復時に先端部分が血管を把持するように動作させ、把持した血管の直径の変化を電気信号に変換して検知しようとするものである(図5参照)。

【非特許文献1】Anilkumar K Reddy, George E Taffet, Sridhar Madala, Lloyd H Michael, Mark L Entman, and Craig J Hartley :" Noninvasive blood pressure measurement in mice using pulsed Doppler ultrasound ", Ultrasound in Medicine & Biology 29 (2003) 379-385
【非特許文献2】Reza Tabrizchi, Michael K Pugsley :" Methods of blood flow measurement in the arterial circulatory system ", Journal of Pharmacological Methods 44 (2000) 375-384
【非特許文献3】古口晴敏、山海嘉之、榛沢和彦「微小血栓(栓子)検出におけるレーザー計測の有効性の検討」第3回日本栓子検出と治療研究会予稿集pp.56-57(2000.12)
【非特許文献4】広田賢一、山田圭一、牧野英司、菅原卓、藤哲、柴田隆行「TiNiCu形状記憶合金薄膜による血管把持アクチュエータの形成」社団法人表面技術協会第109回講演大会要旨集p266(2004.3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献4において提案されている血管把持アクチュエータでは、血管を把持していない状態(開放状態)から把持している状態(把持状態)への1度限りの形状回復動作しか行い得ないため、使用時の血管把持力の向上と使用後の取り外し性の向上を同時に図ることができず、使用時の血管把持力の向上を図ろうとすれば、使用後の取り外しの際に把持力過剰になり、血管を傷つけるといった問題が発生する恐れがあり、一方、使用後の取り外し性の向上を図ろうとすれば、使用時の血管把持力不足を招き、血管の直径の変化を正確に検知できないといった問題が発生する恐れがある。また、非特許文献4において提案されている血管把持アクチュエータには、加熱手段が設けられていないので、形状記憶合金薄膜体の形状回復温度が体温よりもずっと高い場合には、形状回復動作を行わせるための外部熱源が必要となることから、実用上、改善の余地がある。
そこで本発明は、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知することができる、使用時の十分な血管把持力と、使用後の取り外しの容易性を兼ね備えた血管把持アクチュエータなどとして有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果完成させた本発明の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1記載の通り、管腔器官を把持するための把持部と、把持部が管腔器官を把持するように動作するための動作部を少なくとも備えた形状記憶合金薄膜体の表面に、把持部と動作部のそれぞれを形状回復温度よりも高い温度にまで別個に加熱することを可能とする加熱手段と、形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサを設けてなることを特徴とする。
また、請求項2記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、形状記憶合金薄膜体が平板状に形状記憶されてなり、動作部は形状回復時に把持部が管腔器官を把持するように、把持部は動作部の形状回復時に管腔器官を把持するとともに自身の形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように、それぞれ外力によって変形させて使用されることを特徴とする。
また、請求項3記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1または2記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、形状記憶合金薄膜体の厚さが1μm~500μmであることを特徴とする。
また、請求項3記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1乃至3のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、形状記憶合金薄膜体の形状回復温度が45℃~70℃であることを特徴とする。
また、請求項5記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1乃至4のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、加熱手段が金属薄膜からなるマイクロヒータであることを特徴とする。
また、請求項6記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1乃至5のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、変位薄膜センサが金属薄膜からなる歪みゲージ抵抗型センサであることを特徴とする。
また、請求項7記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1乃至6のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、管腔器官が血管であることを特徴とする。
また、本発明の管腔器官把持アクチュエータの製造方法は、請求項8記載の通り、管腔器官を把持するための把持部と、把持部が管腔器官を把持するように動作するための動作部を少なくとも備えた形状記憶合金薄膜体の表面に、絶縁膜を形成した後、その表面に、把持部と動作部のそれぞれを形状回復温度よりも高い温度にまで別個に加熱することを可能とする加熱手段としてのマイクロヒータを構成する配線パターンと、形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサとしての歪みゲージ抵抗型センサを構成する配線パターンを、同一の金属薄膜を用いて1度のパターニング工程で形成し、その後、これらの配線パターンを絶縁保護するために、その全体を絶縁膜で被覆することを特徴とする。
また、本発明の管腔器官の直径の変化を監視するための装置は、請求項9記載の通り、請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータの変位薄膜センサによって検知した電気信号を、管腔器官把持アクチュエータに接続した解析手段で解析することで、管腔器官の直径の変化を監視することができるようにしてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の管腔器官把持アクチュエータは、形状記憶合金薄膜体の少なくとも2箇所を、管腔器官を把持するための把持部と、把持部が管腔器官を把持するように動作するための動作部とし、把持部と動作部のそれぞれを形状回復温度よりも高い温度にまで局所加熱することを可能とする加熱手段を設けてなる。よって、例えば、最初に動作部を加熱してその形状回復動作により把持部に管腔器官を把持させて血栓の発生の有無を監視し、監視終了後は、今度は把持部を加熱してその形状回復動作により把持していた管腔器官を開放させるといったような2段階の動作を実現できる。従って、本発明の管腔器官把持アクチュエータは、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知することができる、使用時の十分な血管把持力と、使用後の取り外しの容易性を兼ね備えた血管把持アクチュエータなどとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の管腔器官把持アクチュエータの一例の平面図である。図1に示す管腔器官把持アクチュエータ1は、基本構成として、連結された2本の長い外側アーム3と中央部の短い内側アーム4からなるクリップ部を、パターニングにより一方の端部に形成した平板状の形状記憶合金薄膜体2からなる。そして、形状記憶合金薄膜体2は、管腔器官を把持するための把持部5を外側アーム3の中央に、把持部5が管腔器官を把持するように動作するための動作部6をクリップ部の根元に備え、把持部5の表面には、把持部5を形状回復温度よりも高い温度にまで局所加熱することができる加熱手段としての金属薄膜からなるマイクロヒータ7が、動作部6の表面には、動作部6を形状回復温度よりも高い温度にまで局所加熱することができる加熱手段としての金属薄膜からなるマイクロヒータ8が、それぞれ、図略の絶縁膜を介して設けられている。また、内側アーム4の表面には、把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサとしての金属薄膜からなる歪みゲージ抵抗型センサ9が図略の絶縁膜を介して設けてられている。符号10と符号11は、形状記憶合金薄膜体2の表面温度を測定してヒータ7やヒータ8による異常加熱の有無などをモニタリングするための金属薄膜からなる温度センサ、符号12は、歪みゲージ抵抗型センサ9による微小の電気抵抗変化を計測するための金属薄膜からなる補償抵抗素子(ホイートストーンブリッジ回路)である。
【0009】
図2は、管腔器官把持アクチュエータ1の作製プロセスの一例を示す図である。まず、工程1として、研磨した厚さ5μm~20μmの銅基板21の表面に、真空蒸着処理により形状記憶合金薄膜体22を成膜する。形状記憶合金薄膜体22を構成する形状記憶合金としては、例えば、TiNiCu合金が挙げられる。真空蒸着処理は、例えば、蒸着原料としてTiNiCu合金のペレットを用い、1×10-3Pa以下の減圧下で、銅基板の温度を350℃以上に保持して行えばよい。形状記憶合金薄膜体22の厚さは、アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば1μm~500μmが好ましい。
【0010】
次に、工程2として、レジストパターン23をエッチングマスクとして用い、フッ素・硝酸からなる混酸で形状記憶合金薄膜体22をエッチングしてパターニングする。この際、銅基板21の裏面や端面は液状のニトロセルロースを塗布して保護しておくことが好ましい。エッチングを終了した後、レジストパターン23とニトロセルロースからなる保護膜は、剥離液を用いて除去する。
【0011】
次に、工程3として、パターニングされた形状記憶合金薄膜体22の表面に絶縁性樹脂液を塗布し、ベークにより硬化させて絶縁膜24とする。絶縁膜24としては、例えば、ポリイミド膜などが挙げられる。絶縁膜24の厚さは、アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば0.5μm~5μmが好ましい。
【0012】
次に、工程4として、絶縁膜24の表面に、金属薄膜からなる、マイクロヒータ、歪みゲージ抵抗型センサ、温度センサ、補償抵抗素子を構成する配線パターンを形成するためのレジストパターン25を形成する。
【0013】
次に、工程5として、スパッタ処理により、絶縁膜24の表面に配線パターン26となる金属薄膜を成膜した後、レジストパターン25をアセトンで溶解除去する。配線パターン26となる金属薄膜としては、例えば、白金薄膜が挙げられる。配線パターン26の厚さは、アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば0.01μm~1μmが好ましい。
【0014】
次に、工程6として、配線パターン26の絶縁保護のため、その全体を絶縁膜27で被覆する。絶縁膜27としては、例えば、ポリイミド膜などが挙げられる。絶縁膜27の厚さは、アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば0.5μm~5μmが好ましい。
【0015】
最後に、工程7として、濃硝酸で銅基板21を選択的に溶解し、管腔器官把持アクチュエータ1を周囲の形状記憶合金薄膜体22から独立させる。
【0016】
なお、管腔器官把持アクチュエータ1は、形状記憶合金薄膜体2が平板状に形状記憶されてなるので、形状記憶合金薄膜体2の形状記憶熱処理は、工程1において、銅基板21の表面に形状記憶合金薄膜体22を形成した後、引き続き、これを、例えば、400℃~500℃で30分間~3時間保持することで行うことができる。形状記憶合金薄膜体2のアクチュエータ駆動温度に相当する形状回復温度(Af点:逆マルテンサイト変態終了温度)は、45℃~70℃が好ましい。形状回復温度が45℃を下回ると、体温により形状回復が起こってしまい、アクチュエータとしての動作制御が困難になる恐れがある。一方、形状回復温度が70℃を超えると、形状回復のための加熱により、血管やその周辺組織が過度に加熱されることによる人体への悪影響が懸念される。形状記憶合金薄膜体2の形状回復温度の制御は、形状記憶合金薄膜体2の合金組成を調節することで行うことができる。例えば、形状記憶合金薄膜体2を構成する形状記憶合金としてTiNiCu合金を用いる場合、TiNiCu合金薄膜が10at.%以上の銅を含有するようにすれば、形状回復温度を約45℃にまで低温化することも可能である。
【0017】
また、図2に示した管腔器官把持アクチュエータ1の作製プロセスにおいては、形状記憶合金薄膜体2として、工程1において、銅基板21の表面に真空蒸着処理により成膜した蒸着薄膜を採用したが、形状記憶合金薄膜体2は、別途の圧延加工により得られた箔体であってもよい。形状記憶合金薄膜体2として圧延加工箔体を採用する場合、圧延加工箔体は、例えば、銅基板21の表面に接着剤を用いて固定したり、その外周部を枠体にクランプしてダイアフラム状に固定したりして工程2以降の工程を行えばよい。この場合、最終工程において、接着剤は、有機溶剤を用いて剥離除去したり、銅基板もろとも濃硝酸で溶解除去したりすればよい。また、枠体との分離は、クランプ開放を行ったり、外周部を切断したりして行えばよい。
【0018】
管腔器官把持アクチュエータ1の使用方法の一例を図3により説明する。まず、(1)に示すように、予め、外力によって(例えば指先や治具を用いて)、平板状の形状記憶合金薄膜体2における、外側アーム3の中央に位置する把持部5を、クリップ部の根元に位置する動作部6の形状回復時に管腔器官Xを把持するようにカギ状に折り曲げて変形しておくとともに、動作部6を形状回復時に把持部5が管腔器官Xを把持するように開放状態に変形しておく。使用開始時には、(2)に示すように、ヒータ8に通電することで動作部6を形状回復温度よりも高い温度にまで局所加熱する。これにより、動作部6はその形状回復動作に基づいて平板状に戻ろうとし、把持部5に管腔器官Xを把持させる。歪みゲージ抵抗型センサ9(図略)により把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知した後は、(3)に示すように、ヒータ7に通電することで把持部5を形状回復温度よりも高い温度にまで局所加熱する。これにより、把持部5はその形状回復動作に基づいて平板状に戻ろうとし、把持していた管腔器官Xを開放させる。
【0019】
例えば、外科手術を行った際の血管吻合部の上流と下流のそれぞれの血管を管腔器官把持アクチュエータ1で把持し、血管の直径の変化を監視した場合、血管吻合部において血栓が発生すると、血圧が変化することにより、吻合部の上流の血管は膨張する一方、下流の血管は収縮することから、いずれの部位の血管も、その直径が変化する。従って、この変化を歪みゲージ抵抗型センサ9によって電気信号に変換して検知し、検知した電気信号を、管腔器官把持アクチュエータ1に接続した解析手段で解析することで、血管吻合部における血栓の生成をin-situで迅速かつ正確に把握することができる。また、管腔器官把持アクチュエータ1は、小型化が可能であるとともに、体内に設置する際に血管に固定するための縫合などを必要とせず、血栓の発生の有無を所定の期間において監視した後に不要になった際には、薄膜物であるので、例えば、ヒータ7とヒータ8への通電のためや、歪みゲージ抵抗型センサ9によって検知した電気信号を外部に取り出すために、配線のパッド部に接続された図略のリード線を引っ張るなどすれば、容易に体内から抜去することができる。従って、血管への取り付けや取り外しの作業に熟練を要することがなく、その際に患者に侵襲を与えることもない。
【0020】
なお、管腔器官把持アクチュエータ1では、把持部と動作部のそれぞれを形状回復温度よりも高い温度にまで別個に加熱することを可能とする加熱手段として、白金薄膜などの金属薄膜からなるマイクロヒータを用いたが、加熱手段はこれに限定されるものではない。しかし、加熱手段として金属薄膜からなるマイクロヒータを用いれば、図2で示した作製プロセスにおける工程5において、歪みゲージ抵抗型センサを構成する配線パターンなどとともに、同一の金属薄膜を用いて1度のパターニング工程で一括して配線パターンを形成することができる。従って、作製プロセスの簡素化を図ることができるので、低コストでの大量生産が可能となり、再使用に伴う感染リスクがない使い捨て使用の体内挿入型医療用センサに適したものとなる。
【0021】
また、管腔器官把持アクチュエータ1では、把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサとして、金属材料に力や歪みが加わると抵抗が変化する現象を利用し、この変化を電気信号に変換して検知することができる白金薄膜などの金属薄膜からなる歪みゲージ抵抗型センサを用いたが、変位薄膜センサはこれに限定されるものではない。しかし、変位薄膜センサとして金属薄膜からなる歪みゲージ抵抗型センサを用いれば、図2で示した作製プロセスにおける工程5において、ヒータを構成する配線パターンなどとともに、同一の金属薄膜を用いて1度のパターニング工程で一括して配線パターンを形成することができる。従って、作製プロセスの簡素化を図ることができるので、低コストでの大量生産が可能となり、再使用に伴う感染リスクがない使い捨て使用の体内挿入型医療用センサに適したものとなる。
【0022】
金属薄膜からなる歪みゲージ抵抗型センサ以外の変位薄膜センサとしては、例えば、圧電薄膜とその上下(表裏)に位置する電極から構成される圧電薄膜センサが挙げられる。変位薄膜センサとして圧電薄膜センサを採用する場合、圧電薄膜センサは、例えば、下部電極として機能させる厚さ5μm~20μmの銅基板の表面に、厚さ0.5μm~2μmの圧電薄膜を形成し、さらにその表面に、厚さ100nm~150nmの上部電極を形成した積層体からなる。圧電薄膜は、例えば、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛を原料に用い、自体公知の方法に従ってスパッタ処理を行うことで形成することができる(ゾルゲル法によって形成してもよい)。上部電極は、例えば、電極材料として白金を原料に用い、自体公知の方法に従ってスパッタ処理を行うことで形成することができる。圧電薄膜センサの厚さは、アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば、10μm~15μmであることが好ましい。このようにして作製した圧電薄膜センサは、例えば、圧電薄膜を形成した銅基板の表面と反対側の表面を、形状記憶熱処理を行った形状記憶合金薄膜体2の表面に、100℃程度の温度よりも低温で硬化するフォトレジストなどのフレキシブルな樹脂からなる接着剤で接着して使用すればよい。なお、圧電薄膜センサは、例えば、形状記憶熱処理を行った形状記憶合金薄膜体の表面に、スパッタ処理を行うことで形成した酸化シリコン層などからなる絶縁層を介して、必要に応じてスパッタ処理を行うことでチタンなどからなる密着層を形成した後、下部電極、圧電薄膜、上部電極を順に積層することで形成することもできる。圧電材料は、力や歪みが加わると電荷を発生する正圧電効果と、電界を加えると力や歪みを発生する逆圧電効果、即ち、機械エネルギーと電気エネルギーの変換機能を有する材料であり、簡易な構造で両エネルギーを効率的に交換することができる。従って、圧電薄膜センサは、変位計測の分解能や応答性に優れているので、ミクロン単位の変位でも十分に計測することができることから、生体部位の微小な変位を計測するのに都合がよいセンサであり、形状記憶合金薄膜体の把持対象となる管腔器官が直径が1mm程度の血管であっても、把持した血管の直径のわずかな変化を電気信号に変換して検知することができる。チタン酸ジルコン酸鉛は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛の固溶体であるが、チタン酸バリウムや酸化亜鉛などのような他の圧電材料に比べて安定な温度特性と高い圧電定数を有するので、生体部位の微小な変位を計測するのに適した圧電材料である。
【0023】
また、変位薄膜センサは、半導体材料のピエゾ効果を利用したピエゾ抵抗型センサであってもよい。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の管腔器官把持アクチュエータを実施例によって詳細に説明するが、本発明の管腔器官把持アクチュエータの形状や使用方法などは、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0025】
図1に示す管腔器官把持アクチュエータ1を図2に示す作製プロセスに基づいて作製した(全長13.5mm、外側アーム長4.8mm、最大幅4.3mm、クリップ幅2.4mm)。
【0026】
形状記憶合金薄膜体は、Ti-42.9at.%,Ni-6.96at.%,残Cu組成のペレットを用い、フラッシュ真空蒸着処理(必要であればE.Makino, M.Uenoyama, T.Shibata:“Flash evaporation of TiNi shape memory thin film for microactuators, Sensors and Actuators A, Physical, 71/3 (1998) pp.187-192”を参照のこと)により、厚さ10μmの研磨した銅基板の表面に厚さ4μmで成膜した。フラッシュ真空蒸着処理は、1×10-3Pa以下の減圧下で銅基板の温度を380℃に保持して行った。蒸着原料の蒸発が始まってからシャッタを開いて蒸着を開始するまでの時間の相違により、TiNiCu合金薄膜の合金組成は変化するが、蒸着原料の蒸発が始まってから5秒後にシャッタを開いて蒸着を開始することで、Ti-52.10at.%,Ni-44.34at.%,Cu-3.56at.%組成のTiNiCu合金薄膜を得た。引き続き、このTiNiCu合金薄膜を450℃で1時間保持することで形状記憶熱処理を行い、平板状に形状記憶させた。その形状回復温度(Af点)は66.1℃であった。フォトリソグラフィは、ポジフォトレジストであるOFPR-800(東京応化工業製)を用いて行った。TiNiCu合金薄膜の表面に形成する絶縁膜は、厚さ2μmのポリイミド膜(CRC-8300:住友ベークライト製)とした。絶縁膜の表面に形成する、マイクロヒータ、歪みゲージ抵抗型センサ、温度センサ、補償抵抗素子を構成する配線パターンは、厚さ0.1μm×幅30μmの白金薄膜で形成した。配線パターンを絶縁保護する絶縁膜は、厚さ2μmのポリイミド膜(同上)とした。
【0027】
以上のようにして作製した管腔器官把持アクチュエータのマイクロヒータを10mAで通電加熱すると、約10秒後に形状記憶合金薄膜体の表面温度が形状回復温度と同程度の65℃に達した。そこで、管腔器官把持アクチュエータを図3の(1)に示すような形状に指先で変形させ、最初に動作部の表面のマイクロヒータのみを10mAで通電加熱したところ、約10秒後に動作部が所定の形状回復動作を示した。この際、把持部の形状回復動作は起こらなかった。次に、動作部の表面のマイクロヒータの通電加熱を停止し、把持部の表面のマイクロヒータのみを10mAで通電加熱したところ、約10秒後に把持部が所定の形状回復動作を示した。これにより、この管腔器官把持アクチュエータは、所望の2段階の動作を実現できるものであることが確認できた。この2段階の動作は、血管に見立てた外径1.5mmのシリコンゴムチューブを用いたモデル実験によっても確認できた。2段階の動作が終了した後は、管腔器官把持アクチュエータを容易にシリコンゴムチューブから引き抜いて取り外すことができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知することができる、使用時の十分な血管把持力と、使用後の取り外しの容易性を兼ね備えた血管把持アクチュエータなどとして有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の管腔器官把持アクチュエータの一例の平面図である。
【図2】同、作製プロセスの一例を示す図である。
【図3】同、使用方法の一例を示す図である。
【図4】従来技術であるドップラープローブセンサを用いて血管吻合部における血栓の発生の有無を検知する方法を示す図である。
【図5】従来技術である形状記憶合金薄膜体を用いた血管把持アクチュエータを示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 管腔器官把持アクチュエータ
2 形状記憶合金薄膜体
3 外側アーム
4 内側アーム
5 把持部
6 動作部
7 マイクロヒータ
8 マイクロヒータ
9 歪みゲージ抵抗型センサ
10 温度センサ
11 温度センサ
12 補償抵抗素子
21 銅基板
22 形状記憶合金薄膜体
23 レジストパターン
24 絶縁膜
25 レジストパターン
26 白金薄膜
27 絶縁膜
X 管腔器官
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図1】
3
【図2】
4