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明細書 :マイクロマシン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4686718号 (P4686718)
公開番号 特開2007-050494 (P2007-050494A)
登録日 平成23年2月25日(2011.2.25)
発行日 平成23年5月25日(2011.5.25)
公開日 平成19年3月1日(2007.3.1)
発明の名称または考案の名称 マイクロマシン
国際特許分類 B81B   5/00        (2006.01)
A61J   3/07        (2006.01)
A61B  19/00        (2006.01)
FI B81B 5/00
A61J 3/07 A
A61B 19/00 502
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願2005-239025 (P2005-239025)
出願日 平成17年8月19日(2005.8.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年7月4日~6日 知能材料とシステムフォーラム主催、財団法人未踏科学技術協会及び科学技術振興機構共催の「The 6th International Conference on Intelligent Materials and Systems(第6回知能材料とシステム国際会議)」において文書をもって発表
審査請求日 平成20年5月8日(2008.5.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
発明者または考案者 【氏名】古屋 泰文
【氏名】冨田 晴伸
【氏名】岡崎 禎子
個別代理人の代理人 【識別番号】100108372、【弁理士】、【氏名又は名称】谷田 拓男
審査官 【審査官】太田 良隆
参考文献・文献 特開平11-269611(JP,A)
特開2001-179700(JP,A)
Shuxiang Guo, Yasuhiro Sasaki, Toshio Fukuda,A New Kind of Microrobot in Pipe Using Driving Fin,Proceedings. 2003 IEEE/ASME International Conference on Advanced Intelligent Mechatronics (AIM 2003),2003年 7月24日,vol. 2,pp. 697-702
調査した分野 B81B 1/00 - 7/04
B81C 1/00 - 99/00
A61J 3/07
A61B19/00
特許請求の範囲 【請求項1】
強磁性合金により形成されたマイクロマシンであって、印加された外部交流磁場に基づき液体が充填された管内を移動可能な駆動部を備え、該強磁性合金は薄帯形状を有し、該駆動部は後部に設けられると共に中央部に対して所定の角度のひねり形状を有することを特徴とするマイクロマシン
【請求項2】
請求項記載のマイクロマシンにおいて、前記駆動部は所定の温度の熱処理を施されたことを特徴とするマイクロマシン。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマイクロマシンにおいて、前記駆動部は印加される外部交流磁場の周波数に応じて前後にマイクロマシンを移動させることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかに記載のマイクロマシンにおいて、前記駆動部は印加される外部交流磁場の周波数に応じてマイクロマシンの移動速度を調整することを特徴とするマイクロマシン。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載のマイクロマシンにおいて、前記強磁性合金は形状記憶機能を有する強磁性形状記憶合金であり、外部からの加熱又は冷却に応じて作業可能な作業部を前部にさらに備えたことを特徴とするマイクロマシン。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかに記載のマイクロマシンにおいて、前記強磁性合金又は前記強磁性形状記憶合金は急冷凝固のFePd材であることを特徴とするマイクロマシン。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性形状記憶合金により形成されたマイクロマシンに関し、特に、患者の肉体的精神的苦痛を軽減する低侵襲型治療、各種産業設備またはプラント等における高度メンテナンス技術の非破壊検査可能な自走式マイクロマシン等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、マイクロマシンは、工業、医療および宇宙・航空分野等において、次世代の産業技術として注目されている。多くの研究がなされているマイクロマシンまたはマイクロマシン技術(Micro electromechanical System : MEMS)は、静電力、圧電力等を駆動力とし複数の部品の組み合わせにより構成されている。特に、液体で満たされた管(パイプ)内を泳動するタイプのマイクロマシンでは、移動体本体部分の両側に設けられた交流電場中または交番磁場中に、それらの電場または磁場により運動するアクチュエータを設置してマイクロマシン本体を駆動させている。その際、アクチュエータとしてヒレ交互運動によりパイプの内壁をけり、その際の摩擦反動力を利用してマイクロマシン本体の移動への推進力としている。
【0003】
上述のタイプのマイクロマシンの中で交流電場を利用するものは、例えば非特許文献1に記載されている。図13は非特許文献1に記載された、圧電バイモルフ型の管内移動機械(マイクロマシン)が管内に置かれた状態の側面図を示す。図13において、符号50は管、80は管50内に置かれたマイクロマシン、82は圧電素子(不図示)を2枚貼り合わせたマイクロマシン80の圧電バイモルフ、84a、84b、84cおよび84dは各々マイクロマシン80に設けられた弾性板、86はマイクロマシン80に接続され上記圧電素子に交流電圧を印加するためのリード線である。各部の寸法は、図13に示されるように、管50の内径は20mm、圧電バイモルフ82の厚さは0.5mm、圧電バイモルフ82の管50の長手方向の長さは38mm、圧電バイモルフ82の先端部aから最初の弾性板84cの圧電バイモルフ82への接続部bまでの長さは8mm、最初の弾性板84cの接続部bから先端部cまでの管50の長手方向の長さは15mm、2番目の弾性板84dの圧電バイモルフ82への接続部dから圧電バイモルフ82への後部eまでの長さは8mmである。図14は、マイクロマシン80の管50における移動原理を示す。図14で図13と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため説明は省略する。マイクロマシン80の圧電素子にリード線86(図14では省略)により交流電圧を印加すると、図14に示されるようなたわみ振動(図14上でマイクロマシン80が下方へたわんだ場合を点線、上方へたわんだ場合を一点鎖線で示す。)を生じる。このたわみ振動により、圧電バイモルフ82の先端部aはf方向に振動し、弾性板84aの先端部c1、弾性板84bの先端部c2は管50路の長手方向に振動する。u1ないしu4は各々4枚の弾性板84aないし84dの変位である。このとき、弾性板84と管50路との間の等価動摩擦係数は滑り方向により異なり、弾性板84の先端部c1、c2が左方へ滑る場合の方が右方へ滑る場合より小さくなるため、マイクロマシン80は左方向へ移動する。
【0004】
一方、上述のタイプのマイクロマシンの中で交番磁場を利用するものは、例えば非特許文献2または特許文献1に記載されている。図15は非特許文献2に記載された、永久磁石を用いたマイクロマシン90を示す。図15において、符号92はNdFeB磁石、94はNdFeB磁石92に接続されたフィルムシート、96はNdFeB磁石92およびフィルムシート94の一部を覆う発泡スチロールである。各部の寸法は、図15に示されるように、NdFeB磁石92の直径は12mmで厚さは4mm、フィルムシート94の厚さは100μmである。図16は、マイクロマシン90の管50における移動原理を示す。図16で図15と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため説明は省略する。管50の直径方向に交流磁界(交番磁場)Hを印加すると、可動子としてのNdFeB磁石92は磁気トルクTを受けて首振り運動を行い、フィルムシート94が揺動する。この結果、推進力Gが生じてマイクロマシン90は図16上の左方向へ移動する。
【0005】
特許文献1には、マイクロマシンに磁石が搭載され、外部からの磁界によりマイクロマシン本体が回転し、ドリル部の螺旋構造により推力となり、マイクロマシン本体が移動する点が記載されている。
【0006】

【非特許文献1】内野研二編集幹事、「精密制御用ニューアクチュエータ便覧」、第29節、「管内移動機械」、787頁~796頁、日本工業技術振興協会固体アクチュエータ研究部会およびフジ・テクノシステム編、1995年4月20日発行。
【非特許文献2】本田 宗著、「マイクロマシンの中で活躍する永久磁石」、電気学会誌、124巻、11号、703頁~706頁、2004年発行。
【特許文献1】特開2002-187100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のマイクロマシン(泳動型マイクロマシン)10等の移動微小機械本体は複数部品の組み合わせであるため、その構造は複雑化している。さらに小型化させた場合、アクチュエータ側の寸法精度が厳密になり、本体との寸法比率でみてもヒレ動作距離への誤差が許されなくなる。この結果、数ミリ以下のパイプ内に適用できる移動微小機械は設計および製作が技術的に困難となるという問題があった。
【0008】
さらに、上述した従来のマイクロマシン(泳動型マイクロマシン)は、移動するだけで作業できないものが多く、目標場所まで移動し且つそこで局所的な作業動作が可能な微小機械の研究例はほとんどないのが実状であるという問題があった。
【0009】
マイクロマシンおよびMEMS等の多くの管内移動機構は静電力または圧電力を駆動力とする駆動方式を用いている。これらの駆動方式では、外部からのエネルギー供給ケーブルが必要になるため、特にパイプ内または生体内部血管等における長距離移動に適さないという問題があった。
【0010】
さらにその駆動方式はパイプの内壁と弾性板14との摩擦力を利用するため、小さい内径のパイプになればなるほど、安定的な泳動のためにヒレ運動部での一サイクル毎のアクチュエータ駆動量の高精度が要求されることになる。この結果、MEMS製作時の許容製作誤差が少なくなるため、上述した設計および製作の技術的困難性という問題と同様に、より小さい内径のパイプ内に適用できる移動微小機械は設計および製作が技術的に困難となるという問題があった。
【0011】
上記の設計および製作の技術的困難性という問題を克服するために、永久磁石を用いて外部磁場とマシン本体のSN極との吸引・反発力を利用した泳動型マイクロマシンの研究がある。しかし、これらの泳動型マイクロマシンでは必ず磁石を用いる必要があるという制限が生じてしまうことになるため、小型化には限界があった。この結果、上述した移動するだけで作業ができないという問題に加えて、磁石を用いた泳動型マイクロマシンでは、泳動以外の作業動作等の多機能化はさらに困難になるという問題があった。
【0012】
一般的に、移動および作業という多機能マイクロマシンを実現させるためには、1つ1つの機能の集積化構造が必要になり、小型化への信頼性および各構成部品の機能への信頼性が低下することになるため、実現は困難になるという問題があった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、数mm以下のパイプ内に適用することができ、技術的困難性を伴うことなく設計および製作することができるマイクロマシンであって、且つ永久磁石を用いないマイクロマシンを提供することにある。
【0014】
本発明の第二の目的は、目標場所まで移動し且つそこで局所的な作業動作が可能でありマイクロマシンであって、且つ小型化への信頼性等を低下させることのないマイクロマシンを提供することにある。
【0015】
本発明の第三の目的は、外部からのエネルギー供給ケーブルを必要とせずに、パイプ内または生体内部血管等における長距離移動を行うことができるマイクロマシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明のマイクロマシンは、強磁性合金により形成されたマイクロマシンであって、印加された外部交流磁場に基づき液体が充填された管内を移動可能な駆動部を備え、該強磁性合金は薄帯形状を有し、該駆動部は後部に設けられると共に中央部に対して所定の角度のひねり形状を有することを特徴とする。
【0018】
ここで、この発明のマイクロマシンにおいて、前記駆動部は所定の温度の熱処理を施されたものとすることができる。
【0019】
ここで、この発明のマイクロマシンにおいて、前記駆動部は印加される外部交流磁場の周波数に応じて前後にマイクロマシンを移動させることができる。
【0020】
ここで、この発明のマイクロマシンにおいて、前記駆動部は印加される外部交流磁場の周波数に応じてマイクロマシンの移動速度を調整することができる。
【0021】
ここで、この発明のマイクロマシンにおいて、前記強磁性合金は形状記憶機能を有する強磁性形状記憶合金であり、外部からの加熱又は冷却に応じて作業可能な作業部を前部にさらに備えることができる。
【0022】
ここで、この発明のマイクロマシンにおいて、前記強磁性形状記憶合金は急冷凝固のFePd材とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロマシンによれば、マイクロマシン本体に薄帯状の強磁性形状記憶合金(FSMA。好適にはFePd材)を用い、このFSMAの熱および磁場応答機能(磁場駆動による高応答速度等)に着目してマイクロマシン本体を駆動させるワイヤレス多機能マイクロマシンを実現することができる。すなわち、従来技術のように、永久磁石、エネルギー供給ケーブル等を用いずにマイクロマシン本体を駆動させることができる。さらに、マイクロマシン本体が薄帯状の強磁性形状記憶合金(FSMA)であるため、小型化可能な単体構造である。ヒレ部にひねり加工を施すことにより、ヒレ部の反磁場係数の変化と液体中で運動する際の抗力の変化とを引き起こし、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。さらにヒレ部(またはヒレ部の一部)に所定の温度の熱処理を施すことにより、当該部位と他の部分との間で磁気的特性の変化を持たせて、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。外部交流磁場の周波数に応じてマイクロマシンを前進または後進させるというコントロールが可能になり、さらに移動速度の調節も可能になっている。この結果、数mm以下の管内に適用することができ、技術的困難性を伴うことなく設計および製作することができるマイクロマシンであって、且つ永久磁石を用いないマイクロマシンを提供することができる。さらに、外部からのエネルギー供給ケーブルを必要とせずに、管内または生体内部血管等における長距離移動を行うことができるマイクロマシンを提供することができるという効果がある。
【0024】
加温・冷却に対して二方向動作(開放・把持)が可能な急冷凝固FePd強磁性形状記憶合金をマイクロマシンに使用することより、上述の管内で移動(泳動)できるという効果に加えて、さらに外部からの加熱または冷却に応じて、対象物(生体血管内血栓、管内汚れまたは錆等の付着物)を把持・放出(グリップ)する作業を行なうことができる。すなわち、目標場所まで移動し且つそこで局所的な作業動作が可能でありマイクロマシンであって、且つ小型化への信頼性等を低下させることのないマイクロマシンを提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は本発明のマイクロマシン10(試作例)の全体画像を示し、図2はマイクロマシン10の模式図を示す。図1および図2で、符号12はマイクロマシン10の前部に設けられたグリップ機構(作業部)、14はマイクロマシン10の中央部、16はマイクロマシン10の後部に設けられた泳動用のヒレ機構(駆動部)である。図2に示されるように、マイクロマシン10は、全長3.8mm、幅0.62mm、厚さ60μmの薄帯状の形状を有している。グリップ機構12の寸法は直径1.0mm、ヒレ機構16は中央部14に対してヒネリ加工角度θ(所定の角度)のヒネリ形状を有している。以上の寸法は一試作例としての寸法であり、本発明のマイクロマシン10の寸法はこれらの寸法に限定されるものではない。
【0027】
本発明のマイクロマシン10は、マイクロマシン10本体に薄帯状の強磁性形状記憶合金(Ferromagnetic shape memory alloy: FSMA。好適にはFePd材)を用いており、このFSMAの熱および磁場応答機能(磁場駆動による高応答速度等)に着目してマイクロマシン10本体を駆動させるワイヤレス多機能マイクロマシンである。すなわち、従来技術のように、永久磁石、エネルギー供給ケーブル等を用いずにマイクロマシン10本体を駆動させることができる。さらに、マイクロマシン10本体が薄帯状の強磁性形状記憶合金(FSMA)であるため、小型化可能な単体構造である。図2に示されるように、マイクロマシン10に外部交流磁場Hを印加することにより強磁性体としての磁場応答性(発生磁気力)が起こる。この発生磁気力を駆動力としてヒレ機構16がy方向に点線で示すように角度θで振動(磁場駆動)するため、液体が充填された細い管内をx方向へ移動することが可能となる。
【0028】
急冷凝固FePd薄帯という材料は高温と低温との両方の形状を記憶しているという二方向形状記憶効果(Two-way shape memory effect : TWSME)を有している。このため、本発明のマイクロマシン10本体の材料として急冷凝固FePd薄帯を適用した場合、外部から加熱/冷却する手段をとることにより加熱時/冷却時にグリップ機構12の形状が変化する。図1に示されるようにグリップ機構12の形状は加熱時に点線で示されるように変化し、冷却時に元の形状に戻るため、マイクロマシン10本体自身で繰り返しアクチュエータ動作を行うことが可能となる。グリップ機構12については実施例2で詳細に説明する。
【0029】
次に、上記急冷凝固薄帯のFePd材を作製方法について説明する。始めに合金インゴットをアーク炉を用いるアーク溶解法により混合・溶製し作製した。アーク溶解により作製した母合金を用い、単ロール型液体急冷凝固法で急冷凝固薄帯(リボン)を作製した。図3は、単ロール型液体急冷凝固装置40の基本構成を示す。図3において、符号41は石英ノズル、42は石英ノズル43に加えられるアルゴンガス圧、43は電磁コイル、45は溶解した金属、47は急冷凝固されたリボン(薄帯)、49は急速回転する凝固ロールである。液体急冷凝固法とは、図3に示されるように、石英ノズル41に入れた合金を電磁コイル43により高周波で溶解し、アルゴンガス圧42を用いて石英ノズル41から噴射し、高速回転している凝固ロール49に吹きつけて溶融合金を急冷し、リボン(薄帯)47を作製する方法である。符号44は溶解した金属45(ランダム方向をもつ結晶粒子(random crystallization))の状態の説明図、46はリボン(薄帯)47(柱状組織をもつ微結晶粒(columnar grain))の状態の説明図である。
【0030】
図4(A)および(B)は開度(Shape Recovery Ratio : %)を説明するための図である。図4(A)に示される急冷凝固磁性形状記憶FePd合金薄帯47は丸まった形状であり、丸まった部分の直径がΦτの状態である。一方、図4(B)に示される急冷凝固磁性形状記憶FePd合金薄帯47は全開した形状であり、直径がΦの状態である。開度はΦτ/Φ×100(%)と定義され、全開した形状(図4(B))で100%となる。
【0031】
図5は、単ロール型液体急冷凝固法を用いて作製された急冷凝固磁性形状記憶FePd合金薄帯47の温度変化(加温・冷却)に伴う磁歪と形状回復効果との特性を示すグラフである。図5で、横軸は温度(℃)、左側縦軸は急冷凝固磁性形状記憶FePd合金薄帯の開度であり、黒丸印(●)は加熱時の開度、白四角印(□)は冷却時の開度を示し、右側縦軸は磁歪(Magnetostriction : ppm)、すなわち急冷凝固磁性形状記憶FePd合金薄帯47の変態進行状況(黒三角印(▲))を示す。黒四角印(■)は、温度140℃付近のものが溶解した金属45(ランダム方向をもつ結晶粒子)の状態における開度、温度30℃前後付近のものがリボン(薄帯)47(柱状組織をもつ微結晶粒)の状態における開度を示す。図5に示されるように、温度が約130℃で全開、すなわち開度100%となり、冷却すると開度は100%から下がっていき、丸まって元の形状に戻る。磁歪は温度が約100℃でピーク値となり、この時の温度が変態点となる。理論上は変態点より左側の低い温度において、丸まって元の形状に戻る現象が冷却時に始まる。
【0032】
ヒレ機構.
上述のように、本発明のマイクロマシン10の後部にあるヒレ機構(またはヒレ部)16は、中央部14に対してヒネリ加工角度θ(所定の角度)のヒネリ形状を有している。このように、ヒレ部16にひねり加工を施すことにより、ヒレ部16の反磁場係数の変化と液体中で運動する際の抗力の変化とを引き起こし、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。
【0033】
さらにヒレ部16(またはヒレ部16の一部16a)に所定の温度の熱処理を施すことにより、当該部位16(または16a)と他の部分との間で磁気的特性の変化を持たせて、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。
【0034】
上記の二つの加工(ヒレ部16へのひねり加工およびヒレ部16(または16a)に施す所定の温度の熱処理)によって、移動機構を向上させることが可能となる。
【0035】
図6は、上記二つの加工を施す前と、ヒレ部16へのひねり加工後と、ヒレ部16へのひねり加工および熱処理後とにおけるヒレ部16の磁気的特性変化を示す表である。図6で、Hはマイクロマシン10に印加される外部交流磁場(Oe)、MおよびMsはヒレ部16における磁化の強さ(emu/g)である。いずれも単位はCGS単位である。磁気的特性変化は、応答反応であるローレンツ力を検出し、数学的に理論式から算出する振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer : VSM)を使用した。VSMは、発生させた磁界中に設置した試料を一定振幅、一定周波数で振動させ、試料の磁化の強さを検出コイルの誘起起電力の大きさから測定する装置である。図6に示されるように、外部交流磁場Hが17(Oe)の場合、ヒレ部16の磁化の強さMは、上記二つの加工を施す前は9.44(emu/g)、ヒレ部16へのひねり加工後は6.69(emu/g)、ヒレ部16へのひねり加工および熱処理後は6.4(emu/g)とその磁気特性が変化していることがわかる。外部交流磁場Hが500(Oe)の場合も同様に、ヒレ部16の磁化の強さMは、上記二つの加工を施す前は93.1(emu/g)、ヒレ部16へのひねり加工後は88.17(emu/g)、ヒレ部16へのひねり加工および熱処理後は75.74(emu/g)とその磁気特性が変化していることがわかる。以上より、ヒレ部16へ施すひねり加工および熱処理により、ヒレ部16(または16a)と他の部分との間で磁気的特性が変化し、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。
【0036】
管内移動試験.
上述した本発明のマイクロマシン10が液体を満たし管内(内径3mm)を移動できるかどうかを検証するため、外部交流磁場Hの周波数を変化させた場合の速度変化を計測した。
【0037】
図7(A)は、管内移動試験を行うための実験システムの構成を示す。図7(A)において、符号55は液体(水)を充填した管(直径は数mm以下)、52は管55に外部交流磁場Hを加えるためのコイル、54はコイル52に印加するための電源、56は電源54とコイル52との間に接続されたアンプである。図7(B)はコイル52の周りに設置された管55の一部55aの拡大図であり、管55に外部交流磁場Hが印加されている様子が示されている。管55の中に試作したマイクロマシン10を入れて、外部交流磁場Hを印加して泳動させる。外部交流磁場Hの周波数を変化させた場合のマイクロマシン10の移動速度の変化を測定した。
【0038】
図8は、外部交流磁場Hの周波数を変化させた場合のマイクロマシン10の移動速度の変化を示すグラフである。図8において、横軸は外部交流磁場Hの周波数(Hz)、縦軸はマイクロマシン10の移動速度(mm/s)であり、移動速度が正の場合は前進、負の場合は後進を示す。図8に示されるように、周波数が0~約8(Hz)の場合(点線BWで示す。)、後進する。例えば、周波数5Hzの場合、1.5(mm/s)で後進する。一方、周波数が約8~30(Hz)の場合(一部の点線FWで示す。)、前進する。例えば、周波数20Hzの場合、6.25(mm/s)で前進する。マイクロマシン10の全長は3.8mmであるため、これは毎秒全長の約1.5倍前進する速度である。以上より、外部交流磁場Hの周波数に応じてマイクロマシン10を前進または後進させるというコントロールが可能になり、さらに移動速度の調節も可能になっている。管55ではなく、生体内部血管等においても長距離移動を行うことができる。
【0039】
図9(A)および(B)は、マイクロマシン10の移動メカニズムを説明するための図である。図9(A)および(B)で図1および図7と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため説明は省略する。マイクロマシン10に印加される外部交流磁場Hの周波数が高い場合(図7に示されるように、約8~30(Hz)の場合)、図9(A)に示されるように、マイクロマシン10の振動(点線で示される振幅AMP1)は速く小刻みとなる。この結果、マイクロマシン10は舟の櫂で漕ぐような形で前進する。一方、マイクロマシン10に印加される外部交流磁場Hの周波数が低い場合(図7に示されるように、約0~約8(Hz)の場合)、図9(B)に示されるように、マイクロマシン10の振動(点線で示される振幅AMP2)は遅く(長周期)大きくなる。この結果、管55の壁に液体を押し付ける効果の反作用として後進することになる。
【0040】
以上より、本発明の実施例1によれば、マイクロマシン10本体に薄帯状の強磁性形状記憶合金(FSMA。好適にはFePd材)を用い、このFSMAの熱および磁場応答機能(磁場駆動による高応答速度等)に着目してマイクロマシン10本体を駆動させるワイヤレス多機能マイクロマシンを実現することができる。すなわち、従来技術のように、永久磁石、エネルギー供給ケーブル等を用いずにマイクロマシン10本体を駆動させることができる。さらに、マイクロマシン10本体が薄帯状の強磁性形状記憶合金(FSMA)であるため、小型化可能な単体構造である。本発明のマイクロマシン10の後部にあるヒレ機構(またはヒレ部)16は、中央部14に対してヒネリ加工角度θ(所定の角度)のヒネリ形状を有している。このように、ヒレ部16にひねり加工を施すことにより、ヒレ部16の反磁場係数の変化と液体中で運動する際の抗力の変化とを引き起こし、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。さらにヒレ部16(またはヒレ部16の一部16a)に所定の温度の熱処理を施すことにより、当該部位16(または16a)と他の部分との間で磁気的特性の変化を持たせて、外部交流磁場を駆動力にすることが可能となる。外部交流磁場Hの周波数に応じてマイクロマシン10を前進または後進させるというコントロールが可能になり、さらに移動速度の調節も可能になっている。以上より、数mm以下の管55内に適用することができ、技術的困難性を伴うことなく設計および製作することができるマイクロマシン10であって、且つ永久磁石を用いないマイクロマシン10を提供することができる。さらに、外部からのエネルギー供給ケーブルを必要とせずに、管10内または生体内部血管等における長距離移動を行うことができるマイクロマシン10を提供することができる。
【実施例2】
【0041】
実施例2では、本発明のマイクロマシン10に備えられたグリップ機構(作業部)12について詳細に説明する。実施例1でもふれたように、急冷凝固FePd薄帯という材料は高温と低温との両方の形状を記憶しているという二方向形状記憶効果(TWSME)を発現できる。形状記憶効果(Shape memory effect : SME)の発現原理は、マルテンサイト変態終了温度(Mf)以下の低い温度において形状記憶合金(Shape memory alloy : SMA)はヤング率が小さく、かつ臨界降伏応力も低いため、変形が容易なマルテンサイト(Martensite)相状態になっている。常温における一般金属の塑性変形(plastic deformation)は、転位の導入による「すべり変形」に起因するため、残留ひずみは永久変形となり元の形状には戻らない。すなわち、金属原子は隣の原子との結合を切り離して次の原子と結合しながら変形していくため、元の形状に戻そうとしても戻らない。一方、SMAの変形は、結晶構造は同じであるが結晶方位の異なるバリアントとよばれる兄弟晶間の「双晶変形機構」によって進行する。すなわち、金属原子の結合は切り離さずに他の原子と共に位置を少しずつずらして変形していく。SMAは母相である高温のオーステナイト(Austenite)相から冷却してマルテンサイト変態開始温度Msを通過すると、低温のマルテンサイト相へ変化する。このマルテンサイト相状態で外部から力を加え、変形した後、除荷すると残留ひずみ状態になる。その後昇温(加熱)するにつれSMAは、母相のオーステナイト変態開始温度As以上で元の結晶構造の母相に(逆相)変態しながら、ひずみを解放し始め、オーステナイト変態終了温度Afで完全に元の記憶形状に回復するという動作を示す。
【0042】
図10(A)ないし(C)は、二方向形状記憶効果発現条件とその原子相変態とを示す模式図である。図10(A)および(B)はマルテンサイト相、(C)はオーステナイト相であり、白丸印(○)は原子を示し、一点鎖線は双晶界面を示す。図面の都合上、原子間の結合の手は省略する。図10(A)に示されるマルテンサイト相のSMAに(双晶)変形を加えると、図10(B)に示されるようにマルテンサイト相で双晶界面に変形量DEFが生じる。ここで加熱すると、二方向形状記憶効果(TWSME)は一方向形状記憶効果と異なり、図10(C)に示されるようにマルテンサイト相の変態開始温度Ms以下でオーステナイト相へ逆相変態しながら、双晶変形前の記憶形状に回復する。一方、図10(C)に示されるオーステナイト相で冷却すると、図10(B)に示されるマルテンサイト相の形状に変形する。
【0043】
上述の現象は、急冷凝固したままでのFePd薄帯で加熱・冷却過程に伴い現れた。これは急冷凝固時に導入された内部応力(バックストレス)が存在し、それが回復現象をある程度抑制することで現れたものと考えられる。
【0044】
図11(A)ないし(C)は、二方向形状記憶効果(TWSME)を利用したグリップ機構12を示す。図11(A)ないし(C)で図1と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため説明は省略する。図11(A)はマルテンサイト相においてグリップ機構12が丸まっており薬剤等70を把持している状態を示している。この状態で熱を加えることにより、マルテンサイト相からオーステナイト相に逆相変態させて、グリップ機構12が把持している薬剤等70を放出(開放)し、血管60の患部72へ付与することができる。図11(B)に示されるオーステナイト相におけるグリップ機構12を冷却することにより、図11(C)に示されるマルテンサイト相へ変態させて、血管60の血栓等の異物74を掴むことができる。血管55の替わりに管55の場合、異物74は錆等となる。以上のように、二方向形状記憶効果(TWSME)を利用したグリップ機構12とすることにより、把持から開放の動作をドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System : DDS)等に応用し、開放から把持の動作を管内の異物取り込み方法に応用することが可能である。
【0045】
上述の図11(A)では、マルテンサイト相においてグリップ機構12は丸まっている状態であったが、マイクロマシン10を800℃で10分保持し、その後焼入れ(水冷)の熱処理を行うことにより、グリップ機構12を開いた状態とすることもできる。すなわち、熱を加えることにより、グリップ機構12が開いたマルテンサイト相から丸まったオーステナイト相に逆相変態させて、薬剤等70を掴むことも可能である。
【0046】
以上のように、二方向形状記憶効果を最大限生かして加熱・冷却の両過程を行えば、繰り返しアクチュエータ機能を実現することができ、マイクロマシン10の作業工程を増加させ、多機能化することができる。
【0047】
グリップ動作試験.
試作したマイクロマシン10に発泡スチロール78(直径1.1mm)を掴ませて、液体の満たされた管55内に入れ、ワイヤレス加熱した。図12(A)および(B)は、二方向形状記憶効果(TWSME)を用いたグリップ機構12の動作試験を示す。図12(A)は、グリップ機構12による発泡スチロール78のグリップ動作後の状態を示す。図12(A)に示されるように、グリップ機構12が発泡スチロール78を掴んでいる状態でマイクロマシン10が浮いていることが確認できた。図12(B)は、ワイヤレスで加温できるマイクロ波加温装置を使用した後の状態を示す。加温したことによりクリップ機構12が作動し、発泡スチロール78を開放したことが確認できた。以上より、グリップ機構12が正常に作用することを確認することができた。
【0048】
以上より、本発明の実施例2によれば、加温・冷却に対して二方向動作(開放・把持)が可能な急冷凝固FePd強磁性形状記憶合金をマイクロマシン10に使用することより、実施例1に示される管55内で移動(泳動)できるという効果に加えて、さらに外部からの加熱または冷却に応じて、対象物74(生体血管60内血栓、管55内汚れまたは錆等の付着物)を把持・放出(グリップ)する作業を行なうことができる。すなわち、目標場所まで移動し且つそこで局所的な作業動作が可能でありマイクロマシン10であって、且つ小型化への信頼性等を低下させることのないマイクロマシン10を提供することができる。
【0049】
熱と磁場とに応答可能な磁性形状記憶合金単体からなる本発明のマイクロマシン10は、まず、外部からの交流磁場Hを受けて移動機械10自身を形成する材料自体への磁気力により連続的で交互の自己変形によるヒレ運動を行い、それを駆動力にして液体に満たされた管55内をワイヤレスで自己泳動することができる。
【0050】
上述の水泳動および把持機能を有する材料単体からなる本発明のマイクロマシン10は、従来のアクチュエータ材料・泳動機構組み合わせ部品よりもさらに設計・構造がシンプル化されているため、大幅に小型軽量化することができる。このため、生体医療分野(DDS、血栓除去、細い血管内低侵襲治療等)または工業産業用パイプ内部の点検および補修機能を有する多機能化マイクロマシンとしての応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の活用例として、生体医療分野(DDS、血栓除去、細い血管内低侵襲治療等)または工業産業用パイプ内部の点検および補修機能を有する多機能化マイクロマシンに対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のマイクロマシン10(試作例)の全体画像を示す図である。
【図2】マイクロマシン10の模式図である。
【図3】単ロール型液体急冷凝固装置40の基本構成を示す図である。
【図4】開度を説明するための図である。
【図5】単ロール型液体急冷凝固法を用いて作製された急冷凝固磁性形状記憶FePd合金薄帯47の温度変化(加温・冷却)に伴う磁歪と形状回復効果との特性を示すグラフである。
【図6】上記二つの加工を施す前と、ヒレ部16へのひねり加工後と、ヒレ部16へのひねり加工および熱処理後とにおける磁気的特性変化を示す表である。
【図7】管内移動試験を行うための実験システムの構成を示す図である。
【図8】外部交流磁場Hの周波数を変化させた場合のマイクロマシン10の移動速度の変化を示すグラフである図である。
【図9】マイクロマシン10の移動メカニズムを説明するための図である。
【図10】二方向形状記憶効果発現条件とその原子相変態とを示す模式図である。
【図11】二方向形状記憶効果(TWSME)を利用したグリップ機構12を示す図である。
【図12】二方向形状記憶効果(TWSME)を用いたグリップ機構12の動作試験を示す図である。
【図13】非特許文献1に記載された、圧電バイモルフ型の管内移動機械(マイクロマシン)が管内に置かれた状態の側面図である。
【図14】マイクロマシン80の管50における移動原理を示す図である。
【図15】非特許文献2に記載された、永久磁石を用いたマイクロマシン90を示す図である。
【図16】マイクロマシン90の管50における移動原理を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 本発明のマイクロマシン、 12 グリップ機構(作業部)、 14 中央部、 16、16a ヒレ機構(駆動部)、 40 単ロール型液体急冷凝固装置、 41 石英ノズル、 42 アルゴンガス圧、 43 電磁コイル、 44、46 説明図、 不規則な結晶、 45 溶解した金属、 47 急冷凝固されたリボン(薄帯)、 49 凝固ロール、 50、55 管、 60 血管、 70 薬剤等、 72 患部、 74 異物、 78、96 発泡スチロール、 80、90 従来のマイクロマシン、82 圧電バイモルフ、 84a、84b、84c、84d 弾性板、 86 リード線、 92 NdFeB磁石、 94 フィルムシート。

図面
【図2】
0
【図3】
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【図4】
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【図5】
3
【図6】
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【図7】
5
【図8】
6
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図12】
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