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明細書 :籾殻または玄米から単離された植物乳酸菌およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5881017号 (P5881017)
登録日 平成28年2月12日(2016.2.12)
発行日 平成28年3月9日(2016.3.9)
発明の名称または考案の名称 籾殻または玄米から単離された植物乳酸菌およびその利用
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
A23L  33/10        (2016.01)
A61K  35/74        (2015.01)
A61P   1/02        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61Q  11/00        (2006.01)
A61K   8/99        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
A23L 1/30 Z
A61K 35/74 A
A61P 1/02
A61P 31/04
A61Q 11/00
A61K 8/99
請求項の数または発明の数 8
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-983
全頁数 13
出願番号 特願2012-541842 (P2012-541842)
出願日 平成23年10月31日(2011.10.31)
国際出願番号 PCT/JP2011/075029
国際公開番号 WO2012/060312
国際公開日 平成24年5月10日(2012.5.10)
優先権出願番号 2010249196
優先日 平成22年11月5日(2010.11.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年9月3日(2014.9.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】杉山 政則
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 特開2010-106013(JP,A)
特表2001-512670(JP,A)
国際公開第2008/074473(WO,A1)
特開2003-164276(JP,A)
特表2009-538614(JP,A)
山本 幸生, 外3名,米ぬかより分離したEnterococcus属乳酸菌が生産するバクテリオシンについて.,日本農芸化学会2002年度大会講演要旨集, 2002, p.211, #3-6Cp09
YAMAMOTO Y. et al.,Applied and Environmental Microbiology, 2003, Vol.69, No.10, pp.5746-5753
杉本 好美, 外5名,植物を分離源とする乳酸菌の探索とバクテリオシン産生株のスクリーニング.,日本薬学会第130年会要旨集3, 2010.03.05, p.84, #28SG-pm08
KWAADSTENIET M.D. et al.,,International Journal of Food Microbiology, 2005, Vol.105, pp.433-444
TODOROV S.D. et al.,,International Journal of Antimicrobial Agents, 2005, Vol.25, pp.508-513
調査した分野 C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
E.mundtii MG3株(受託番号:NITE BP-983)である、Enterococcus属の植物乳酸菌。
【請求項2】
請求項1に記載の植物乳酸菌を含有している、バイオフィルムの形成を阻害するための組成物。
【請求項3】
前記バイオフィルムがStreptococcus mutansによって形成されるものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
う蝕を予防するために用いられる、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
医薬部外品である、請求項2~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
食品である、請求項2~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
医薬である、請求項2~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の植物乳酸菌あるいは請求項2~7のいずれか1項に記載の組成物を、生体外でStreptococcus mutansと接触させる工程を包含する、バイオフィルムの形成を阻害する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、籾殻の有効利用に関し、より詳細には、籾殻または玄米から単離された植物乳酸菌およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
籾殻は極めて身近な資材である。籾殻は、籾の最も外側の皮の部分であり、籾の内容物を外部から保護する役割を担っている。籾殻は、刈り取られた稲から玄米を得る過程である脱穀および籾摺りの際に生成する。生成した籾殻は、古くから、保温用資材(果実を木箱に詰める際の緩衝材、農作物の防寒用など)や、燻炭として有効利用されている。
【0003】
イネは世界で最も多く生産されている穀物であり、排出される籾殻の量もまた非常に多い。植物性バイオマスからエタノールを生産する特定の微生物が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1では、籾殻等を植物性バイオマスとして用いることを記載している。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2009-183249号公報(2009年8月20日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燻炭は土壌改良剤として用いられることが多いが、燻炭を作製するには手間がかかるので、有効な利用法とはいいづらい。近年、腐食菌を用いて籾殼の堆肥化がなされているが、肥料としての利便性や好ましい効果に乏しい。また、イネ科植物は土壌中の微生物によって分解されにくく、特に、籾殻は、表面がクチクラ層によって覆われているので、土壌中の微生物による分解に7~8年という期間を必要とする。
【0006】
このような状況下で、大量に発生する籾殻は焼却されることが多いが、籾殻の焼却は、煙による周囲環境への影響や、炭酸ガスの発生による地球温暖化などの観点から、余り好ましくない。特許文献1のようなエタノールを生産するための材料として用いられることは非常に好ましいが、特定の微生物を用いることが必要である。
【0007】
このように、籾殻をより有効に利用する技術の開発が期待されている。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、籾殻をより簡便かつ有効に利用するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、籾殻に付着している微生物に着目し、従来知られていた籾殻の用途と大きく異なる機能を有している微生物を同定すべく鋭意検討を行い、その結果、哺乳動物の口腔内においてう蝕の原因菌として機能するS. mutansの、歯の表面への付着性およびバイオフィルム形成を阻害する物質を産生する植物乳酸菌を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、Enterococcus属の植物乳酸菌を提供する。本発明の植物乳酸菌は、籾殻または玄米から単離されたものが好ましく、E. mundtii、E. villorum、E. avium、E. faecalis、E. casseliflavusおよびE. mundtiiからなる群より選択される物であることがより好ましく、籾殻から単離されたものがさらに好ましく、植物乳酸菌E. mundtii MG3株(受託番号:NITE BP-983)であることが最も好ましい。
【0011】
本発明にかかる植物乳酸菌は、培養条件が好気性または嫌気性であるかにかかわらずS. mutansのバイオフィルム形成能を阻害する。動物の体内で機能する微生物の作用を阻害する微生物が、植物から、しかも籾殻から得られたことは、全く予測し得なかった。
【0012】
E. mundtii MG3株は、本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)へ、受領番号「NITE ABP-983」(受領日:2010年10月1日)として受領され、受託番号「NITE BP-983」が付与されている。
【0013】
本発明にかかる組成物は、バイオフィルムの形成を阻害するために上記の植物乳酸菌を含有していることを特徴としている。本発明にかかる組成物は、S. mutansによるバイオフィルムの形成を阻害するのに用いることができる。また、本発明にかかる組成物は、う蝕を処置するために用いられることがより好ましい。なお、本発明の組成物は、医薬部外品であっても、食品であっても、医薬であってもよい。さらに、本発明の組成物は、キットとして提供されてもよい。
【0014】
本発明の方法は、う蝕を処置するために、上記植物乳酸菌または上記組成物を、被験体の口腔内にてS. mutansと接触させる工程を包含することを特徴としている。本発明の方法は、上記組成物を、被験体の口腔内へ供給する工程をさらに包含してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いれば、S. mutansによるバイオフィルムの形成を阻害し得る。これにより、本発明を用いれば、う蝕を処置し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】S. mutansを種々の植物乳酸菌とともに、好気性または嫌気性の条件下で培養した際の、S. mutansによるバイオフィルム形成率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔1〕う蝕
う蝕とは、葉の表面に付着した口腔内の原因菌の代謝産物によって歯の組織(エナメル質、象牙質、セメント質など)が破壊される感染性疾患である。ヒトの口腔内には約700種類の細菌が、総数100億個を超えて生息しており、う蝕の主な原因菌として、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinusなどが知られている。これらの原因菌が産生する不溶性の多糖に口腔内細菌が付着することによってバイオフィルムが歯面に形成され、形成されたバイオフィルム内の細菌が産生する酸によって歯面のpHが局所的に低下し、その結果、う蝕が形成されやすくなる。

【0018】
バイオフィルムは、微生物がコロニー上に凝集し、自ら産生した多糖体を主成分とするグリコカリックスに囲まれ、固相の物質表面に付着した細菌の集合体である。通常、バイオフィルムは、細菌が付着と脱離とを繰り返しながら、細胞外へ多糖類を産生しながら、徐々に形成されていく。バイオフィルムには、複数種の微生物が生息しており、細菌類以外(例えば酵母)も生息していることがある。単一種のみで形成されるコロニーは、自然界においては非常にまれである。バイオフィルム内の細菌は、抗生物質や免疫に対して抵抗性が高く、医学的には、難治性疾患の病態として注目されている。代表的な疾患として、細菌性心内膜炎、慢性骨髄炎、複雑性尿路感染症などがある。カテーテルの体内留置によって強固なバイオフィルムが形成されやすくなる。

【0019】
う蝕の阻止するには、バイオフィルムの形成および/または固着を阻害することが必要である。しかし、一旦形成されたバイオフィルムは強固であり、歯ブラシなどによる物理的除去は困難である。また、歯の隙間にはブラシが届きにくい。さらに、殺菌剤を用いたとしても、バイオフィルムの表層に存在する細菌のみが殺菌される。よって、う蝕の阻止するには、バイオフィルムの形成を阻害することが好ましく、特に、その形成が完了する前に対処することが重要である。

【0020】
口腔内のバイオフィルムの形成過程を阻害するために、S. mutansのような主要な病原細菌の生育を阻害すること以外に、病原細菌を予め共凝集させることによってバイオフィルムの形成に寄与しないようにする技術が検討されている。このような技術は、人体に対する副作用が十分に検討される必要があり、十分な安全性が求められる。安全性の観点から、天然物由来の物質(例えば、植物の乾燥粉末、抽出エキスなど)が研究されているが、口腔内への定着性をさらに考慮して、病原性のない細菌を用いることも研究されている。例えば、口腔粘膜に付着する乳酸菌を用いれば、乳酸菌自体の増殖によって乳酸菌を口腔内に定着させることができる。そして、乳酸菌の増殖によって細菌叢中の病原性細菌の割合を減少させることができる。

【0021】
〔2〕植物乳酸菌
植物乳酸菌は、植物由来の乳酸菌をいい、例えば穀物、野菜、果物、あるいはこれらを原材料に含む醗酵食品やナム等の醗酵食品の製造に関係するバナナ等の熱帯植物の葉等から分離されたものが意図される。本発明者らはこれまでに、種々の植物乳酸菌を分離しているが、他にも多くの植物乳酸菌が知られている。

【0022】
本発明は、籾殻から単離された新規の植物乳酸菌が、S. mutansによるバイオフィルム形成を阻害することを見出したことに基づいて完成された。本発明にかかる植物乳酸菌は、籾殻から単離された腸球菌属(Enterococcus属)の植物乳酸菌E. mundtii MG3株(受託番号:NITE BP-983)である。本発明にかかる植物乳酸菌は、S. mutansによって形成されるバイオフィルムの形成を阻害することができる。本発明にかかる植物乳酸菌はう蝕を処置するために用いられることが好ましい。

【0023】
Enterococcus属は、主にヒトを含む哺乳類の腸管内に存在する常在菌のうち、球菌の形態をとるものを指す。外界で増殖しにくく、人畜の糞尿で汚染されていない限り、環境中の水や土壌にはほとんど分布していないとされている。実際、健康な人間の腸内から一般的に検出され、通性嫌気性、かつ、グラム陽性の連鎖状の球菌で、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロースを分解し、60℃で加熱しても30分間は耐えることができる。Enterococcusに属する主なspeciesとしては、E. faecalis、E. faecium、E. avium、E. casseliflavus、E. gallinarum、E. flavescensなどが従来からよく知られている。

【0024】
う蝕の予防を目的として、S. mutansの増殖抑制やS. mutansによるバイオフィルムの形成阻害について、微生物を用いた研究が進められている(特許文献2~6参照)。

【0025】
例えば、特開2010-124772号公報には、う蝕などを予防するための口腔用組成物が開示されており、S. mutansに起因するバイオフィルム形成を抑制する作用を有する特定の乳酸菌(Lactococcus lactis、Lactobacillus rhamnosusおよびLactobacillus curvatus)が用いられている。特開2008-237198号公報には、S. thermophilusと併用してS. mutansの増殖を抑制するLb. delbrueckii subspecies lactis、および該乳酸菌を含有する虫歯予防用組成物が開示されている。特開2003-299480号公報には、S. mutansの増殖を抑制することによって虫歯の予防等に有効な乳酸菌(Lb. reuteri)が開示されている。また、特開2010-53062号公報には、口腔疾患の予防や治療のための口腔用組成物が開示されており、口腔内細菌との共凝集を行い、さらに口腔内組織への付着性を有する特定の乳酸菌(Lenuconostoc属)が用いられている。WO2002/080946には、乳酸菌、乳酸菌培養液等が、S. mutans等の増殖を抑制する効果を示すことや、キシリトール等の甘味料や砂糖等の糖類、各種植物抽出物が、単独では口腔病原菌の増殖抑制効果を示さないものの、上記乳酸菌、乳酸菌培養液等による効果を顕著に増強することが記載されている。しかし、う蝕の処置に利用可能なEnterococcus属の植物乳酸菌を籾殻から単離することを動機付ける事項は全く記載されていない。

【0026】
後述する実施例にて示すように、47種類の米サンプル(籾殻及び玄米)から乳酸菌が多数分離された。これらの乳酸菌は花から分離されたものと異なり、分離株の55%をEnterococcus属の乳酸菌が占めていた。このように、分離されたEnterococcus属の生育環境は、これまでの技術常識と異なっており、当業者が容易に取得し得るものでない。なお、籾殻または玄米からE. mundtii以外にE. villorum、E. avium、E. faecalis、E. casseliflavus、E. mundtii等が分離されている。

【0027】
このように、本発明は、S. mutansによって形成されるバイオフィルムの形成を阻害することができる植物乳酸菌を提供する。本発明にかかる植物乳酸菌は、う蝕を処置するために用いられることが好ましく、E. mundtii、E. villorum、E. avium、E. faecalis、E. casseliflavusおよびE. mundtiiからなる群より選択されるものが好ましく、E. mundtiiがより好ましく、E. mundtii MG3株(受託番号:NITE BP-983)が最も好ましい。

【0028】
〔3〕植物乳酸菌の利用
(1)組成物
本発明にかかる組成物は、バイオフィルムの形成を阻害するために上記の植物乳酸菌を含有していることを特徴としている。本発明にかかる組成物は、S. mutansによるバイオフィルムの形成を阻害するのに用いることができる。また、本発明にかかる組成物は、う蝕を処置するために用いられることがより好ましい。なお、本発明の組成物は、医薬部外品であっても、食品であっても、医薬であってもよい。

【0029】
本発明は、バイオフィルムの形成を阻害するための植物乳酸菌を含有する組成物を提供する。本発明の組成物は、う蝕を処置するために用いられることが好ましい。本明細書中にて使用される場合、用語「処置」は、症状の軽減、改善または排除が意図され、予防的(発症前)に行われ得るものだけでなく、治療的(発症後)に行われ得るものもまた包含されるが、バイオフィルムの形成を阻害する際に好適に用いられるので、予防的な処置であることが好ましい。

【0030】
本発明の組成物は、使用前に水等に溶解される固形剤であっても、懸濁液等の液体であっても、あるいは塗布に好ましいペーストであってもよい。本発明の組成物は、植物乳酸菌が含有されており、その生理作用を発現させるための有効量が含有されていれば特にその形状が限定されることはなく、タブレット状、顆粒状、カプセル状などの経口的に摂取可能な形状物も包含する。また、本発明の組成物における植物乳酸菌の含有量は特に限定されず、その官能と作用発現の観点から適宜選択できる。

【0031】
本発明の組成物は、任意の形態を採り得るが、バイオフィルムの形成阻害、あるいはう蝕の処置を目的としているので、口腔内に留まりやすい形態であることが好ましく、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、ペースト剤、丸剤、チュアブル剤、含嗽剤、トローチ剤、パッチ剤等であり得、錠剤、散剤、顆粒剤、ペースト剤、チュアブル剤、含嗽剤、トローチ剤、またはパッチ剤であることがより好ましい。

【0032】
バイオフィルムの形成阻害、あるいはう蝕の処置を目的としているため、本発明の組成物は、口腔用組成物として提供されることが好ましい。「口腔用組成物」は、口腔内への適用可能な形態であれば限定されず、医薬部外品であっても食用組成物であっても医薬組成物であってもよい。なお、本発明の植物乳酸菌は、公知の種々の口腔用組成物に配合可能である。

【0033】
なお、口腔用組成物は、従来公知の方法に従って調製され得、その剤型に応じて、通常配合される任意の成分を単独または複数適宜組み合わせても調製されてもよい。配合される成分としては、例えば、研磨剤、界面活性剤、粘結剤、粘稠剤、甘味料、防腐剤、香料、着色剤、pH調整剤、賦形剤、各種薬効成分等が挙げられるがこれらに限定されない。

【0034】
本発明に好ましい口腔用組成物としては、歯磨き剤(練り歯磨き剤、粉歯磨き剤、液状歯磨き剤)、チュアブル錠、マウスウオッシュ、うがい薬(錠剤、散剤を含む。)、軟膏、クリーム(歯肉マッサージクリームを含む。)、口中清涼剤、義歯洗浄剤、トローチ、ガム等が挙げられるがこれらに限定されない。特に、トローチ、ガムなどを用いれば、植物乳酸菌の口腔内への放出が徐放性であるので、口腔内にて植物乳酸菌を所望の時間にわたって持続させることができる。

【0035】
本発明に好ましい食用組成物としては、キャンデー、チョコレート、ドリンク、発酵品等が挙げられるがこれらに限定されない。植物乳酸菌の発酵品が食用組成物として用いられる場合には、発酵食品または発酵飲料等に配合することが知られている種々の成分、例えば甘味料、風味剤、増粘剤、矯味剤、着色剤、着香剤等が配合されてもよい。本発明の食用組成物は、バイオフィルムの形成阻害、あるいはう蝕の処置を目的とした食用組成物であり、健康食品(機能性食品)として極めて有用である。本発明の食用組成物の製造法は特に限定されず、調理、加工および一般に用いられている食品または飲料の製造法による製造を挙げることができ、上述した植物乳酸菌が、その食品または飲料中に含有されていればよい。

【0036】
本発明に好ましい医薬組成物としては、歯周ポケット内へ投与するための徐放性製剤等が挙げられるがこれに限定されない。医薬組成物として提供される場合、本発明の組成物は、製薬分野における公知の方法を用いて所望の剤型を採り得る。例えば、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えて固形剤として形成された後に、常法に従って、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤等の剤型にて提供され得る。

【0037】
本発明の医薬組成物にて使用される医薬用担体は、医薬組成物の投与形態および剤型に応じて選択することができる。経口剤の場合、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが医薬用担体として利用される。また経口剤を調製する際、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合してもよい。

【0038】
本発明の医薬組成物は、製薬分野における公知の方法により製造することができる。本発明の医薬組成物における植物乳酸菌の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、この医薬組成物を適切な量にて投与できるような量であれば特に限定されない。本発明の医薬組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的および当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。また、本発明の医薬組成物はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。

【0039】
なお、本明細書中にて使用される場合、用語「組成物」はその含有成分を単一組成物中に含有する態様と、単一キット中に別個に備えている態様であってもよい。すなわち、本明細書中にて使用される場合、「キット」は、「組成物」の一態様であるといえる。

【0040】
(2)キット
本発明は、バイオフィルムの形成を阻害するための植物乳酸菌を備えているキットを提供する。本発明のキットは、う蝕を処置するために用いられることが好ましい。本明細書中にて使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは、上記材料を使用するための指示書を備えている。指示書には、本発明のキットを、バイオフィルムの形成を阻害するために使用する際の手順が記載されていることが好ましく、う蝕を処置するために使用する際の手順が記載されていることがより好ましい。本明細書中にてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明のキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であってもよく、容器中に内包された溶液形態の組成物を梱包していてもよい。本発明のキットは、異なる2つ以上の物質を同一の容器に混合して備えても別々の容器に備えてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明のキットは、上述した組成物を構成するためにもちいられてもよく、上述した組成物に含まれる物質を別々に備えていても、上述した組成物とさらなる成分とを別々に備えていてもよい。

【0041】
(3)方法
本発明はさらに、う蝕を処置するための方法を提供する。本発明の方法は、本発明の植物乳酸菌(または該植物乳酸菌を含有する組成物)と、う蝕の原因菌とを接触させる工程を包含する。本発明の植物乳酸菌とう蝕の原因菌とを接触させる工程は、歯磨き、指でのペーストの塗布、パッチの貼付であっても、トローチ剤またはチュアブル剤等を口に含むことであってもよく、含嗽剤を用いてうがいをする工程であってもよい。なお、本工程において、本発明の植物乳酸菌とう蝕の原因菌とを接触させる時間は、採用される手段に応じて適宜設計されるが、10秒間~10分間の範囲内が好ましく、30秒間~10分間の範囲内がより好ましく、1分間~5分間の範囲内がさらに好ましい。

【0042】
本発明の方法は、本発明の植物乳酸菌とう蝕の原因菌とを接触させることが必要であるので、被験体への投与は口腔内投与であることが好ましい。すなわち、本発明の方法は、う蝕を処置するための植物乳酸菌を、被験体の口腔内へ供給する工程をさらに包含してもよい。

【0043】
また、本発明の方法は、う蝕の処置が実現したことを確認するために、う蝕の原因菌のバイオフィルム形成能を、本発明の植物乳酸菌と接触させる前後で比較する工程をさらに包含してもよい。

【0044】
本発明の方法における植物乳酸菌の具体的な適用は、上述した組成物およびキットの使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。

【0045】
なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中にて参考として援用される。

【0046】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0047】
広島大学病院小児歯科を受診した患児の歯面およびう蝕病巣から、口腔内細菌を分離した。分離した株を同定するために、それぞれの16S rDNA塩基配列を決定した後に相同性検索を行った。また、分離株のバクテリオシン産生能を、寒天拡散法にて評価した。また、S. mutans MT8148Rのバイオフィルム形成に対する乳酸菌の影響を調べるために、所定濃度のスクロースを含有するBHI培地(全量200μL)の入った96穴プレートにS. mutansおよび各乳酸菌(1×10FPU)を植菌した。これらを、好気性条件下または嫌気性条件下にて静置培養した後に、1(w/v)%ゲンチアナバイオレット溶液にて染色し、A598の値からバイオフィルム形成度を評価した。
【実施例】
【0048】
50人の患児の歯面および3人の患児のう蝕病巣から、それぞれ152株および24株の乳酸菌を分離し、前者について110株、後者について23株を同定した。その結果、dmf歯率(う蝕を経験した歯の数)の高い患児では、Lactobacillus属が多く検出され、特に、Lb. fermentum、Lb. gasseri、Lb. salivariusが多く検出された。また、う蝕病巣からは、S. mutans、Lb. fermentumおよびLb. caseiが分離された。上記152株にバクテリオシン産生性は認められなかった。さらに、MT8148R株に対して抗菌活性を示すバクテリオシン産生株は認められなかった。
【実施例】
【0049】
全国25都道府県から集めた47種類の米サンプル(表1)を分離源として、植物乳酸菌を分離した。MRS broth(MERCK社)を蒸留水に溶解(5.22%(w/v))した後に、118℃で15分間オートクレーブしたものを培地(MRS培地)として用い,28℃または37℃にて嫌気培養した。なお、MRS培地を寒天培地として使用する場合には、agarを最終濃度1.5%(w/v)となるように添加した。
【実施例】
【0050】
米から分離した籾殻(約10粒相当)または玄米(それぞれ約10粒相当)を10mLのMRS培地入のフタ付き試験管に入れて、十分に懸濁した後に、その100μLを液体培地に植菌し、さらに2~3日間にわたって嫌気培養した。培養後の液体の一部を寒天培地にさらに塗菌してコロニーを形成させ、さらに2~3日間にわたって培養した。大きさ、形、色、つやなどが異なるコロニーを全てピックアップし、寒天培地にて別々に分離培養した。この操作を2回行った。ピックアップしたコロニーが単一コロニーからなることを確認した後に、KOH/Hテストを行い、KOH(-)、H(-)と判定されたコロニーをそれぞれ液体培地で培養してグリセロールストックを作製した。
【実施例】
【0051】
上記手順に従って、47種類の米サンプルから乳酸菌を47株分離した(表2)。また、籾殻および玄米の両方から乳酸菌が分離された。玄米の糠層は、発芽に必要なビタミン類や脂肪分などが含まれているために栄養価が高く、乳酸菌にとっては好適な生育環境であるといえる。今回得られた乳酸菌は、花から分離された乳酸菌と異なり、Enterococcus属が多かった(全体の55%)。
【実施例】
【0052】
【表1】
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【実施例】
【0053】
【表2】
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【実施例】
【0054】
籾殻から単離した乳酸菌には通し番号としてMG株と命名した。MG3株はバクテリオシン(抗菌性ポリペプチド)を生産することから、本株の分類学的同定を行い、E. mundtiiであると同定し、E. mundtii MG3と命名した。MG3株の産生するバクテリオシンは、S. sobrinus、Listeria monocytogenes、E. aviumおよびE. faeciumに対して抗菌活性を示した。S. mutans MT8148R株のバイオフィルム形成能は、MG3株と共培養した場合に、好気性または嫌気性の環境にかかわらず、著しく阻害された。S. mutans MT8148R株のバイオフィルム形成能に対するE. mundtii 15-1Aによる阻害活性はわずかであった。なお、15-1A株は壬生菜から分離された植物乳酸菌である。また、MG3株の培養液上清には、S. mutansに対する抗菌活性は認められなかった。さらに、MT8148R株に対して抗菌活性を示すバクテリオシン産生株Lb. brevis 174Aを共培養した場合には、バイオフィルム形成阻害が認められなかった(図1)。
【実施例】
【0055】
なお、MG3株にはバイオフィルム形成能力がないことがわかった。また、バイオアッセイ法によって、MG3株の培養上清中に抗菌活性を調べ、MG3株が抗生物質を産生しないことがわかった。さらに、MG3株の培養上清を添加した際に、S. mutansによるバイオフィルム形成が若干阻害された(データ示さず)。
【実施例】
【0056】
このように、本発明者らは、ヒトの口腔内に生息する乳酸菌叢を解析し、植物乳酸菌株および口腔内から分離された細菌について、バクテリオシン産生性およびバイオフィルム形成阻害能を調べ、その結果として、植物乳酸菌を利用した口腔内ケアの技術を開発した。
【実施例】
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明を用いれば、新たなう蝕処置剤を開発することができるので、歯磨き剤、嗽薬等の口腔衛生医療分野での技術開発に貢献することができる。
図面
【図1】
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