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明細書 :酸化バナジウム薄膜及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3002720号 (P3002720)
公開番号 特開平10-259024 (P1998-259024A)
登録日 平成11年11月19日(1999.11.19)
発行日 平成12年1月24日(2000.1.24)
公開日 平成10年9月29日(1998.9.29)
発明の名称または考案の名称 酸化バナジウム薄膜及びその製造方法
国際特許分類 C01G 31/02      
G01J  1/02      
G01J  5/02      
FI C01G 31/02
G01J 1/02
G01J 5/02
請求項の数または発明の数 4
全頁数 5
出願番号 特願平09-083326 (P1997-083326)
出願日 平成9年3月17日(1997.3.17)
審査請求日 平成9年3月17日(1997.3.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛庁技術研究本部長
発明者または考案者 【氏名】長嶋 満宏
【氏名】和田 英男
個別代理人の代理人 【識別番号】100079290、【弁理士】、【氏名又は名称】村井 隆
審査官 【審査官】大工原 大二
参考文献・文献 Appl.Phys.Lett.63(24),3288-3290(1993)
調査した分野 C01G 31/02
G01J 1/02
G01J 5/02
特許請求の範囲 【請求項1】
サファイア上に成長し、25℃~75℃の温度範囲において比抵抗の温度変化率が-6%/Kを越えることを特徴とする酸化バナジウム薄膜。

【請求項2】
シリコン酸化膜上に成長し、25℃~75℃の温度範囲において比抵抗の温度変化率が-4%/Kを越えることを特徴とする酸化バナジウム薄膜。

【請求項3】
レーザアブレーション法によって基板面に酸化バナジウム薄膜を成膜する酸化バナジウム薄膜の製造方法において、成膜時の酸素雰囲気の圧力制御によって比抵抗の温度変化率を最適化することを特徴とする酸化バナジウム薄膜の製造方法。

【請求項4】
前記成膜時の基板温度が500℃を越えない請求項3記載の酸化バナジウム薄膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、ボロメータ型赤外線センサに用いるボロメータ材料に好適な酸化バナジウム薄膜及びその製造方法に関する。

【0002】

【従来の技術】酸化バナジウム薄膜は、室温動作のボロメータ型赤外線センサに用いるボロメータ材料として重要な性質の一つである比抵抗の温度変化率(以下、TCRという)の絶対値が、他のボロメータ材料、例えば酸化チタン(TCR=-0.2%/K)等に比べて大きい。TCRはボロメータ型赤外線センサの感度の比例係数であるため、このTCRが大きいほど赤外線センサの感度が向上する。

【0003】
現在、室温におけるTCRが約-2%/Kの酸化バナジウム薄膜が室温動作のボロメータ型赤外線センサ材料として用いられている[N.Butler et. al.,SPIE Proceedings vol.2252(1995) Infrared Technology XXI]。また、スパッタリング法により成膜したVO2薄膜を、500℃で熱処理することにより、温度25℃で-5.4%/KのTCRを持つ酸化バナジウムがサファイア上に成膜されている[H. Jerominek and D. Vincent, Optical Engineering 32 No.9,2092(1993)]。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】ボロメータ材料として酸化バナジウム薄膜を用いた室温動作のボロメータ型赤外線センサの高感度化を図るためには、酸化バナジウム薄膜の室温付近におけるTCRをできるだけ向上させることが必要である。酸化バナジウムは、様々な結晶相が存在するが、特に二酸化バナジウム(VO2)は室温でのTCRが大きい。この物質は、60~70℃付近で半導体-金属相転移を示し、比抵抗が大幅に変化するという特徴を有する。VO2のバルクの高純度な単結晶の場合、相転移温度以下での活性化エネルギーは0.5eVであり[D. Adler,"Insulating andmetallic states of transition metal oxides",Solid State Physics:Advancesin Research and Applications、,F.Seitz,Ed.,Vol.21,pp.1,Academic Press(1968)]、この値から求めたTCRは約-6%/Kである(H. Jerominek,前掲)。

【0005】
しかしながら、薄膜の状態で得られるVO2は、シリコンデバイス上に成膜した場合、約-2%/K程度である(N. Butler et. al.、前掲)。また、良質の薄膜が成長し易いサファイア基板上の薄膜の成長例[M. Borek et al., Appl.Phys. Lett.,63(24),3288(1993)]においても、室温付近でのTCRを文献の図から求めると約-3.5%/Kであり、バルクのものに比べて小さいという問題点がある。

【0006】
また、このレベルのTCRの大きな良質の酸化バナジウムを得た例(H.Jerominek et al.,前掲)においては、500℃に保持する熱処理のプロセスを要している。しかし、シリコン等を用いた集積回路デバイス(ICデバイス)上に成長する場合、この条件による成膜では、プロセス温度が高いので、集積回路デバイスを損なわずに成膜する事は困難であるという問題点がある。

【0007】
そこで、本発明の技術的課題は、熱処理を一切行わず、成長時の基板温度が500℃を越えない条件で、室温付近でのTCRがバルクのVO2に近い大きな値を有し、室温動作のボロメータ型赤外線センサに用いることが可能な酸化バナジウム薄膜を提供するとともに、酸化バナジウムの成膜にその場成膜が可能なレーザアブレーション法を用い、作製パラメータの単純な制御により薄膜のTCRを最適化可能な酸化バナジウム薄膜の製造方法を提供することにある。

【0008】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。

【0009】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る第1の酸化バナジウム薄膜は、サファイア上に成長し、25℃~75℃の温度範囲において比抵抗の温度変化率が-6%/Kを越えることを特徴としている。

【0010】
また、本発明に係る第2の酸化バナジウム薄膜は、シリコン酸化膜上に成長し、25℃~75℃の温度範囲において比抵抗の温度変化率が-4%/Kを越えることを特徴としている。

【0011】
本発明に係る酸化バナジウム薄膜の製造方法は、レーザアブレーション法によって基板面に酸化バナジウム薄膜を成膜する場合において、成膜時の酸素雰囲気の圧力制御によって比抵抗の温度変化率を最適化することを特徴としている。

【0012】
上記酸化バナジウム薄膜の製造方法において、前記成膜時の基板温度が500℃を越えないように設定することが可能である。

【0013】

【発明の実施の形態】以下、本発明に係る酸化バナジウム薄膜及びその製造方法の実施の形態を図面に従って説明する。

【0014】
図1は本発明の実施の形態であって、レーザアブレーション法によって酸化バナジウム薄膜を成長させるための薄膜作製装置の概略構成を示す。この図において、1は薄膜原料であるバナジウム若しくは酸化バナジウムのターゲット、2は酸化バナジウム薄膜を成膜するための基板であってサファイア基板(R面、すなわち012面ともいう;結晶面の種類を示す)或いはシリコンウエハ(100面;結晶面の種類を示す)上に酸化膜を形成した基板である。これらのターゲット1及び基板2は真空チャンバー3内に対向配置されている。4はレーザ発生装置、5はレンズであり、レンズ5はレーザ発生装置4により発生したパルスレーザ光を集光してターゲット1に照射する。前記真空チャンバー3内には、酸素導入部6より酸素を導入可能であり、導入する酸素流量は流量調節器7により調整自在である。なお、前記基板2はヒータで300~500℃に加熱可能である。

【0015】
ここで、レーザ発生装置4にはArFエキシマレーザ(波長193nm)を用い、1レーザパルスあたりのエネルギーは約7J/cm2、繰り返し周波数は30Hzとし、ターゲット1の材料には五酸化バナジウム(V25)を使用した場合について述べる。

【0016】
図1のレーザアブレーション法による薄膜作製装置において、真空チャンバー3内を10-5Torrに排気した後、レーザ発生装置4により発生したパルスレーザ光をレンズ5で集光し、ターゲット1に照射してターゲット材料を蒸発、飛散させ、基板2上に堆積させた。また、薄膜成長時、酸素導入部6より酸素を導入し、膜形成の際の酸素離脱を補う。導入する酸素流量は流量調節器7により適切量に調整する。なお、成長時の基板温度は300~500℃、成膜時間は10分間とした。

【0017】
基板面上に成膜、形成してなる成長した通りの(as-grownの)薄膜について、同定のためX線回折を行った。また、薄膜をペルチェ素子により温度変化させ、4端子法により抵抗温度特性を求めた。

【0018】
図2及び図3は、薄膜作製時の基板温度が400℃の条件において成長時に導入する酸素の圧力を5mTorrから30mTorrまで変化させたときの抵抗温度特性曲線を示す。但し、図2はサファイア基板、図3はシリコンウエハ(100面)上に酸化膜を形成した基板の場合である。

【0019】
また、図4は、成膜時の酸素圧力をパラメータとしたときの、測定温度25℃におけるTCRプロットを示す。

【0020】
更に図5及び図6にそれぞれサファイア及びシリコン酸化膜上に成長した酸化バナジウム薄膜のX線回折パターン(散乱角に対する相対強度の変化特性)の測定例を示す。

【0021】
図2及び図3に示すように、成膜時の酸素圧力の減少に伴い、酸化バナジウム薄膜の比抵抗が大幅に減少する。また、同時に、測定温度に対する比抵抗値の変化の様子は、図2の曲線(イ)及び図3の曲線(イ)のはっきりとした転移を示す形状から、図2の曲線(ロ)及び図3の曲線(ロ)のなだらかな変化を示す形状へと変化する。

【0022】
更に図4から、成長の際導入する酸素量の変化に対し、TCRが最大となる最適値が存在することがわかる。本発明の実施の形態で得られた最適化特性例として、図2の(ロ)のサファイア基板上に成長した酸化バナジウム薄膜の場合、酸素圧力20mTorrの条件で25℃におけるTCRは約-6.2%/K、比抵抗は約0.3Ωcmの値を得た。また図3の(ロ)のシリコン酸化膜上に成長した酸化バナジウム薄膜の場合、酸素圧力10mTorrの条件で25℃におけるTCRは約-4.5%/K、比抵抗は約0.02Ωcmの値を得た。さらに、25℃を越えて75℃に至る温度範囲において、サファイア及びシリコン酸化膜上の酸化バナジウム薄膜のTCRは25℃におけるTCRより高い値を示した。

【0023】
これらの最適化特性例について測定したX線回折パターンをそれぞれ図5及び図6に示す。但し、VO2(200)は酸化バナジウム結晶の200面が、VO2(111)は結晶の111面が、VO2(011)は結晶の011面が、VO2(022)は結晶の022面がそれぞれ現れていることを示している。そして、それぞれのパターンをJCPDS(Joint Comittee on Powder DiffractionStandard)カードと照合した結果、共にVO2のピークと一致した。しかしながら、図2の(ロ)及び図3の(ロ)に示すように、これらの薄膜の抵抗温度曲線はVO2薄膜の特徴である60℃~70℃付近における明確な相転移を示さず、なだらかに変化していることから、従来得られているVO2薄膜とは異なるものと考えられる。

【0024】
以上のように、上記実施の形態で説明した酸化バナジウム薄膜の製法により、成膜時の基板温度を400℃程度とし、500℃以上での熱処理が不要な酸化バナジウム薄膜の低温成長が可能である。

【0025】
また、レーザアブレーション法による酸素雰囲気下での酸化バナジウムの成膜において、成膜パラメータの一つである酸素圧力を最適化制御して(最適な値を選ぶことにより)、酸化バナジウム薄膜の室温付近のTCRを向上させることができる。

【0026】
更に、本製法による酸化バナジウム薄膜のTCRは、従来のVO2薄膜とは異なり、サファイア基板上に400℃で成長した場合、温度25℃付近において-6%/K以上、集積回路デバイス材料であるシリコン酸化膜上に400℃で成長した場合、温度25℃付近において-4%/K以上を実現でき、従来得られている実用化されたボロメータ用酸化バナジウム薄膜の室温付近のTCR約-2%/Kと比較して2倍以上であり、優れたボロメータ型赤外線センサ材料であるといえる。

【0027】
また、集積回路デバイス材料であるシリコン酸化膜上に比較的低温で酸化バナジウム薄膜を成長させて高いTCRを実現でき、集積回路デバイスを損なわずに成膜することも可能である。

【0028】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。

【0029】

【発明の効果】以上説明したように、本発明により、単純な工程、簡単な成膜条件の設定で、サファイア又はシリコン酸化膜上に成長した、室温付近におけるTCRが-4~-6%/K以上のバルクのVO2に近い値を持つ酸化バナジウム薄膜を提供することができ、ボロメータ型センサの感度向上が可能となる。

【0030】
また、集積回路デバイスに適用可能な成膜温度が500℃を越えない(好ましくは400℃以下の)範囲で高いTCRを実現できる利点もある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5