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明細書 :フェノールの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-155390 (P2015-155390A)
公開日 平成27年8月27日(2015.8.27)
発明の名称または考案の名称 フェノールの製造方法
国際特許分類 C07C  37/60        (2006.01)
C07C  39/04        (2006.01)
B01J  31/26        (2006.01)
C07D 213/22        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
C07F  15/02        (2006.01)
FI C07C 37/60
C07C 39/04
B01J 31/26 Z
C07D 213/22
C07B 61/00 300
C07F 15/02
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2014-030794 (P2014-030794)
出願日 平成26年2月20日(2014.2.20)
発明者または考案者 【氏名】山口 修平
【氏名】八尋 秀典
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
【識別番号】100129757、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久彦
【識別番号】100115082、【弁理士】、【氏名又は名称】菅河 忠志
【識別番号】100125243、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 浩彰
審査請求 未請求
テーマコード 4C055
4G169
4H006
4H039
4H050
Fターム 4C055AA01
4C055BA02
4C055BA03
4C055BA25
4C055CA01
4C055DA01
4C055EA02
4C055GA02
4G169AA04
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC02C
4G169BC03C
4G169BC06C
4G169BC08C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169CB07
4G169CB70
4G169DA08
4G169EA01Y
4G169ZA04B
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA19
4H006BA46
4H006BA60
4H006BA71
4H006BB21
4H006BB31
4H006BB47
4H006BE32
4H006DA35
4H006DA50
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA60
4H039CC30
4H050AA03
4H050AB40
要約 【課題】本発明は、安全に且つ効率的にベンゼンからフェノールを製造するための方法と、当該方法で触媒として好適に用いることができるゼオライトを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るフェノールの製造方法は、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒または水の溶媒中、Feイオン錯体を含むゼオライトと過酸化水素の存在下、ベンゼンを酸化する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
フェノールを製造するための方法であって、
水と水混和性有機溶媒との混合溶媒または水の溶媒中、Feイオン錯体を含むゼオライトと過酸化水素の存在下、ベンゼンを酸化する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記溶媒として、水混和性有機溶媒の割合が20vol%以上、80vol%以下の水と水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ゼオライトとして、NaイオンおよびKイオンの少なくとも一方を含むものを用いる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記溶媒として水を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記ゼオライトとして、Csイオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(C1-6アルキル)アンモニウムイオンからなる群から選択される1以上のカチオンを含むものを用いる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記Feイオン錯体として、[Fe(2,2’:6’,2”-ターピリジン)22+を用いる請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
Feイオン錯体、および、Csイオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(C1-6アルキル)アンモニウムイオンからなる群から選択される1以上のカチオンを含むことを特徴とするゼオライト。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼンからフェノールを効率的に製造するための方法、および、当該方法で触媒として好適に用いることができるゼオライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノールの工業的な製造方法としては、古くからクメン法が主流である。クメン法は、フリーデル・クラフト反応によりプロペンとフェノールを反応させてクメンを得、クメンを酸化することにより得られるクメンヒドロペルオキシドを転移反応に付してフェノールとアセトンを製造する方法である。クメン法で副生するアセトンも有用である。
【0003】
しかし、クメン法は多段階反応によるものであり、決して効率的な方法ではない。また、クメン法は比較的安全な方法であるといわれているが、フリーデル・クラフト反応の触媒である塩化アルミニウムは可溶性であるために、後処理の際に溶液に混入し、溶液の廃棄を難しくするという問題がある。
【0004】
クメン法以外のフェノールの製造方法としては、ベンゼンをスルホン化し、そのナトリウム塩をアルカリ融解するスルホン化・フュージョン法があるが、クメン法と同じ多段階反応によるものである上に、危険な濃硫酸や水酸化ナトリウムを大量に用いることから、好ましい方法とはいえない。
【0005】
また、ベンゼンを塩素によりクロロベンゼンとし、得られたクロロベンゼンを高圧下で加熱するRashing-Hooker法も知られている。しかし、この方法も多段階反応によるものであり、危険な塩素を用い、また、高圧が必要であるため工業的に好ましい方法ではない。
【0006】
一方、近年、Feイオンを含むゼオライトを触媒として、一段階の反応でベンゼンからフェノールを製造する技術が開発されている(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】A.A.Ivanovら,Applied Catalyst A: General,249,pp.327~343(2003)
【非特許文献2】Valery S.Chernyavskyら,Journal of Catalyst,245,pp.466~469(2007)
【非特許文献3】L.V.Pirutkoら,Applied Catalyst B: Environmental,91,pp.174~179(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、非特許文献1~3には、従来主流の製造方法に対して一段階の反応でベンゼンからフェノールを製造する技術が開示されている。
【0009】
しかし上記方法では、有害な笑気ガス(N2O)を酸化剤として用いているばかりでなく、375~822℃といった高温下での気相反応が行われている。このような反応条件は、多大な設備費を要したり危険であるなどといった理由で工業的な大量生産に適するものではない。
【0010】
そこで本発明は、安全に且つ効率的にベンゼンからフェノールを製造するための方法と、当該方法で触媒として好適に用いることができるゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒または水の溶媒中、Feイオン錯体を含むゼオライトと過酸化水素の存在下で反応を行えば、液相でもベンゼンからフェノールを効率的に製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明に係るフェノールの製造方法は、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒または水の溶媒中、Feイオン錯体を含むゼオライトと過酸化水素の存在下、ベンゼンを酸化する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
上記溶媒としては、水混和性有機溶媒の割合が20vol%以上、80vol%以下の水と水混和性有機溶媒との混合溶媒が好適である。かかる溶媒を用いれば、フェノールのさらなる酸化反応などの副反応の進行はそれほど亢進しない一方で、フェノールの収率が顕著に高まる。
【0014】
水混和性有機溶媒を用いる場合には、上記ゼオライトとして、NaイオンおよびKイオンの少なくとも一方を含むものを用いることが好ましい。水混和性有機溶媒を用いる場合には、かかるゼオライトを用いることにより、フェノールの収率が特に向上する。
【0015】
反応後の廃液処理や環境適合性を考慮すれば、上記溶媒としては水を用いることが好ましい。
【0016】
溶媒として水を用いる場合には、上記ゼオライトとして、Csイオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(C1-6アルキル)アンモニウムイオンからなる群から選択される1以上のカチオンを含むものを用いることが好ましい。溶媒として水を用いる場合には、これらのようにイオン半径が大きく反応空間を広げるようなカチオンを含むゼオライトにより、フェノール収率がさらに向上する。
【0017】
また、溶媒として水を用いる場合には、上記Feイオン錯体として[Fe(2,2’:6’,2”-ターピリジン)22+を含むゼオライトにより、フェノール収率やフェノール選択性が特に向上する。
【0018】
本発明に係るゼオライトは、Feイオン錯体、および、Csイオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(C1-6アルキル)アンモニウムイオンからなる群から選択される1以上のカチオンを含むことを特徴とする。上記のとおり、かかるゼオライトは、溶媒として水を用いる場合のフェノール収率の向上に特に寄与するものである。
【0019】
本発明において「C1-6アルキル基」とは、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基である。
【発明の効果】
【0020】
本発明方法によれば、笑気ガスなどの有害な酸化剤ではなく、過酸化水素を用い、比較的高い選択率で、フェノールからベンゼンを一段階反応で安全に且つ効率的に製造することができる。また、溶媒として水のみを用いることができるという点は、廃液処理や環境適合性の面で極めて好ましいところ、本発明に係るゼオライトは、本発明方法において、溶媒として水のみを用いる場合に触媒として優れた機能を発揮する。よって本発明は、従来のフェノール製造方法にとって代わり得るものとして、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、溶媒として水のみを用い、且つゼオライトに含まれるカチオンを種々変更してベンゼンを酸化反応に付した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、溶媒として水のみを用い、且つゼオライトに含まれるFeイオン錯体の配位子を種々変更してベンゼンを酸化反応に付した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、溶媒としてアセトニトリル-水混合溶媒を用いた場合における当該混合溶媒の水の割合と、フェノール酸化反応の各生成物の収率との関係示すグラフである。
【図4】図4は、溶媒としてアセトニトリル-水混合溶媒を用いた場合における当該混合溶媒の水の割合と、フェノール酸化反応の各生成物のTON(生成物[mol]/触媒中のFe原子量[mol])との関係示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るフェノールの製造方法は、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒または水の溶媒中、Feイオン錯体を含むゼオライトと過酸化水素の存在下、ベンゼンを酸化する工程を含むことを特徴とする。以下、本発明方法に使用する各試薬から、反応条件につき説明する。

【0023】
<ゼオライト>
ゼオライトは、一般的には、多孔質なアルミノケイ酸塩結晶の総称であり、結晶水を含み、また、Al原子の周辺は-1価の状態になるため、H+、Na+、Ca2+など様々なカチオンが静電結合しているという構造を有する。

【0024】
本発明では、Feイオン錯体を含むゼオライトを用いる。本発明において「Feイオン錯体」とは、2価Feイオンにピリジンなどの含窒素ヘテロアリールの縮合体が配位しているものをいう。但し、当該2価Feイオンは、反応中、酸化剤により3価Feイオンに酸化されていると考えられる。

【0025】
Feイオン錯体を構成する配位子は、安定なFeイオン錯体を構成できるものであれば特に制限されないが、例えば、2以上のピリジンが単結合で連結されている2,2’-ビス(ビピリジン)や2,2’:6’,2”-ターピリジンなど;ピリジンと他の含窒素ヘテロアリールが単結合で連結されている2-(1H-イミダゾール-2-イル)ピリジン、2,6-ビス(イミダゾール-2-イル)ピリジン、2,6-ビス(4,5-ヒドロ-2-オキサゾリル)ピリジンなど;ピリジン以外の2以上の含窒素ヘテロアリールが単結合で連結されている2,2’-ビス(イミダゾール)、2,2’-ビス(4,5-ジメチルイミダゾール)、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)など;2以上の含窒素ヘテロアリールが2環間で2つの原子を共有している1,10-フェナントロリンなどを挙げることができる。

【0026】
Feイオン錯体を構成する配位子は、適宜選択することができる。例えば、本発明者らによる実験的知見によれば、溶媒としてアセトニトリルを用いた場合には配位子による効果の違いは見られなかった一方で、溶媒として水を用いた場合には、Fe-1,10-フェナントロリン錯体の使用でフェノール収率が向上し、さらに、Fe-2,2’:6’,2”-ターピリジン錯体の使用でフェノール収率と共にフェノール選択性が顕著に向上した。

【0027】
Feイオン錯体は、必ずしも明らかではないが、全体としてFe(II)イオン由来の2価のプラス電荷を有するので、ゼオライトを構成するAl原子に静電結合しつつ細孔内に存在し、触媒作用を発揮していると考えられる。

【0028】
一般的に、ゼオライト中のAl原子はマイナスに荷電しており、当該Al原子には様々なカチオンが静電結合している。かかるカチオンとしては、H+;Li+、Na+、K+、Cs+などのアルカリ金属イオン;Ca2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン;Mg2+など、アルカリ土類金属イオン以外の第2族元素イオン;La3+などの希土類金属イオン;Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+などの遷移金属イオン;NH4+;[N(CH34+や[N(n-C494+などのテトラ(C1-6アルキル)アンモニウムイオン;1,1’-ジメチル-4,4’-ビピリジニウムなどの有機多価カチオンを挙げることができる。

【0029】
使用するカチオンは、適宜選択することができる。例えば、本発明者らの実験的知見によれば、溶媒として水と水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いた場合には、アルカリ金属イオンを用いた場合、副反応の進行はそれほど亢進しない一方で、フェノール収率の大幅な向上が認められた。また、溶媒として水のみを用いた場合には、Cs+、アルカリ土類金属イオン、テトラ(C1-4アルキル)アンモニウムイオンといった比較的大きなイオンで良好な結果が得られた。

【0030】
ゼオライト中のカチオンは、所望のカチオンで十分に置換されていることが好ましい。なお、ゼオライト中のカチオンは静電結合でAl原子と結合しているのみであるので、例えば、所望のカチオンの塩の溶液中でゼオライトを加熱すれば、所望のカチオンで十分に置換されたゼオライトを得ることができる。

【0031】
ゼオライトの使用量は適宜調整すればよい。例えば、実質的に触媒作用を発揮するのはFeイオンであるので、原料化合物であるベンゼンに対して0.01mol%以上、1mol%以下のFeイオンを含むゼオライトを用いることができる。

【0032】
<過酸化水素>
本発明では、酸化剤として過酸化水素を用いる。本発明方法は液相で実施することができ、且つ反応温度を過度に上げる必要がないため、不安定な過酸化水素を酸化剤として用いることが可能である。また、過酸化水素は、反応後に水となることから安全で環境適合性も高い。

【0033】
過酸化水素の使用量は適宜選択すればよいが、例えば、原料化合物であるベンゼンに対して0.8倍モル以上、1.5倍モル以下用いることができる。当該割合が0.8倍モル以上であれば、フェノールの酸化反応が十分に進行すると考えられる。一方、当該割合が高過ぎると目的化合物であるフェノールがさらに酸化されるおそれがあり得るため、当該割合としては1.5倍モル以下が好ましい。

【0034】
<溶媒>
本発明方法は、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒または水の溶媒中で実施する。本発明者らの実験的知見によれば、溶媒として有機溶媒のみを用いた場合には、それが水混和性有機溶媒であっても、ベンゼンの酸化反応は十分に進行しなかった。その理由は必ずしも明らかではないが、例えば、ゼオライトには結晶水などの水分が含まれており、有機溶媒のみを用いた場合には、親水性である過酸化水素が当該水分の周辺に局在化したり包含されるなどしてベンゼンに十分作用できないことが考えられる。

【0035】
水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒;アセトニトリルなどのニトリル系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒を挙げることができる。

【0036】
溶媒は、適宜選択すればよい。例えば、必ずしも明らかではないが、水混和性有機溶媒の割合が高い混合溶媒の場合には、酸化剤である過酸化水素は結晶水などの水分子の周辺に偏在し、反応が十分に進行しなくなるおそれはあり得るが、フェノールがさらに酸化される副反応も抑制されると考えられる。よって、フェノール収率の向上よりもフェノール選択性の向上を目的とする場合には、水混和性有機溶媒の割合が高い混合溶媒を用いることが好ましい。一方、水のみ或いは水の割合が高い混合溶媒の場合には、疎水性の原料化合物であるベンゼンはFeイオン錯体の配位子周辺に偏在するが、溶媒中に分散した過酸化水素により酸化反応は進行すると考えられる。

【0037】
さらに、本発明者らの実験的知見によれば、適度な混合割合の混合溶媒を用いれば、副反応の進行はそれほど亢進しない一方で、フェノールの収率が顕著に高まる。よって、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒における水混和性有機溶媒の割合としては、20vol%以上、80vol%以下が好ましく、30vol%以上、70vol%以下がより好ましい。

【0038】
<反応条件>
反応条件は、予備実験などで適宜調整することができるが、例えば、過酸化水素が不安定であることから、溶媒中にゼオライトとベンゼンを入れ、温度調整した後、最後に過酸化水素を添加すればよい。過酸化水素は、水などの溶媒に溶解した上で添加してもよい。

【0039】
反応温度は適宜調整すればよいが、本発明では数百度といった高温にする必要はなく、例えば、30℃以上、80℃以下でも反応は十分に進行する。

【0040】
酸素などによる反応中の副反応を抑制するために、溶媒やベンゼン、過酸化水素などは脱気し、また、反応系中の空気を窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性気体で置換してもよい。さらに、光による影響を排除するために、反応中は遮光してもよい。

【0041】
反応時間は、予備実験などにより決定したり、クロマトグラフィなどでベンゼンの十分な消費が確認できるまでとすればよいが、例えば、5時間以上、100時間以下程度とすることができる。

【0042】
反応後は、一般的な後処理をすればよい。例えば、ゼオライトは固体であるので濾過や遠心分離などにより目的化合物であるフェノールを含む溶液から容易に分離できるし、過酸化水素は簡単に水に分解できる。目的化合物であるフェノールは、得られた反応溶液から蒸留、クロマトグラフィ、再結晶などで精製してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0044】
実施例1
(1) Fe(II)イオン-カチオン交換Y型ゼオライトの調製
市販のY型ゼオライト(Na-Y、SiO2/Al23=5.5、東ソー社製)5gにイオン交換水200mLを添加し、30分撹拌後、一晩放置し、デカンテーションで不純物を取り除いた。その後、イオン交換水300mLを加え、2時間煮沸した後に濾過した。さらに、カチオン交換のために0.1M硝酸塩水溶液300mLを加え、24時間撹拌した。硝酸塩としては、硝酸ナトリウム6.4g、硝酸カリウム4.5g、硝酸セシウム8.8g、硝酸マグネシウム11.5g、硝酸カルシウム10.6g、硝酸アンモニウム3.6g、硝酸テトラメチルアンモニウム6.122g、または硝酸テトラブチルアンモニウム13.7gを用いた。濾過後、0.2mM硫酸鉄(II)水溶液200mLを加えて12時間撹拌した。濾過後、蒸留水で洗浄し、真空乾燥することでFe(II)イオン-カチオン交換Y型ゼオライト(以下、「Fe-M-Y」と略記する)を得た。なお、ここでのMは、Na+、K+、Cs+、Mg2+、Ca2+、NH4+、テトラメチルアンモニウムイオン(TMA+)またはテトラブチルアンモニウムイオン(TBA+)である。
【実施例】
【0045】
(2) [Fe(bpy)32+錯体内包カチオン交換Y型ゼオライトの調製
あらかじめイオン交換水約100mLに2,2’-ビピリジン(Bpy)0.47gを添加し、約100℃まで加熱して完全に溶解した。この水溶液と上記(1)で調製したFe-M-Y 1.0gを混合し、20時間加熱還流した。得られた試料を吸引濾過した後、ソックスレー抽出器にてメタノールと蒸留水を用いて、それぞれ20時間洗浄した。次いで真空乾燥することで、[Fe(bpy)32+錯体内包カチオン交換Y型ゼオライト(以下、「[Fe(bpy)32+@M-Y」と略記する)を得た。
【実施例】
【0046】
(3) ベンゼンの酸化反応
Fe量が7.9μmolとなるように上記[Fe(bpy)32+@M-Yを量り取り、パイレックス(登録商標)製のガラス管に入れ、10mLの溶媒を加えた、溶媒としては、アセトニトリルのみ、アセトニトリル:水=1:1(容量比)の混合溶媒、または水のみを用いた。さらに基質としてベンゼン7.9mmolを加えた後、凍結脱気を3回行い、次いでアルゴンガスを封入した。反応管は温度コントロール可能な反応装置にセットし、温度を50℃で一定に保った。反応溶液が50℃になったところで、あらかじめ凍結脱気を5回行っておいた30%過酸化水素水溶液を7.9mmol加えた。反応中は遮光し、50℃で24時間撹拌した。次いで、反応管にトリフェニルホスフィンを加えることにより反応を停止した。遠心分離により触媒と反応溶液を分離した。触媒はアセトニトリルで3回洗浄し、その洗浄液も回収し、前に回収した反応溶液に加えた。生成物の分析は、o-ジクロロベンゼンを外部標準液として用い、GC-MSで行った。試料注入量は0.5μLとした。溶媒としてアセトニトリルを用いた場合の結果を表1に、アセトニトリル-水混合溶媒を用いた場合の結果を表2に、水を用いた場合の結果を表3と図1に示す。
【実施例】
【0047】
【表1】
JP2015155390A_000002t.gif
【実施例】
【0048】
【表2】
JP2015155390A_000003t.gif
【実施例】
【0049】
【表3】
JP2015155390A_000004t.gif
【実施例】
【0050】
表1に示す結果のとおり、溶媒としてアセトニトリルのみを用いた場合には、フェノール選択性は非常に高いが、収率は低い。その理由としては、必ずしも明らかではないが、酸化剤である過酸化水素がゼオライト中の水和水に包接されることにより酸化反応が十分に進行しなかったことが考えられる。
【実施例】
【0051】
一方、表2に示す結果のとおり、溶媒としてアセトニトリル:水=1:1(容量比)の混合溶媒を用いた場合には、ハイドロキノンやカテコールといった副生物が生成したものの、良好な収率でフェノールを製造することができた。その理由としては、必ずしも明らかではないが、原料であるベンゼン、酸化剤である過酸化水素および鉄錯体がゼオライトの細孔中で分散したため、反応は良好に進行したものの、フェノールのさらなる酸化も進行ことが考えられる。また、この場合、カチオンがNa+およびK+のゼオライトで特に良好な結果が得られた。
【実施例】
【0052】
また、表3に示す結果のとおり、溶媒として水のみを用いた場合には、混合溶媒を用いた場合に比して収率は低下したものの、アセトニトリルのみを用いた場合に比して高い収率でフェノールを製造することができた。その理由としては、必ずしも明らかではないが、原料であるベンゼンが錯体周辺に集合して反応性が低下した一方で、過酸化水素は溶媒である水中に分散しているので反応は進行し、酸化された化合物から水溶媒中に分散してカチオンに捕捉されたと考えられる。また、この場合、表3および図1に示す結果のとおり、カチオンとして比較的大きなCsイオン、アルカリ土類金属イオンおよびテトラ(C1-6アルキル)アンモニウムイオンを含むゼオライトの場合で良好な結果が得られた。また、溶媒として水のみを用いることができる点は、廃液処理や環境適合性などの面から非常に好ましい。
【実施例】
【0053】
実施例2
(1) [Fe(phen)32+錯体内包カチオン交換Y型ゼオライトの調製
あらかじめイオン交換水約100mLに1,10-フェナントロリン(phen)0.59gを添加し、約100℃まで加熱して完全に溶解した。この水溶液と上記実施例1(1)で調製したFe-Na-YまたはFe-Ca-Y 1.0gを混合し、20時間加熱還流した。得られた試料を吸引濾過した後、ソックスレー抽出器にてメタノールと蒸留水を用いて、それぞれ20時間洗浄した。次いで真空乾燥することで、[Fe(phen)32+錯体内包カチオン交換Y型ゼオライト(以下、「[Fe(phen)32+@Na-Y」または「[Fe(phen)32+@Ca-Y」と略記する)を得た。
【実施例】
【0054】
(2) [Fe(terpy)22+錯体内包カチオン交換Y型ゼオライトの調製
あらかじめイオン交換水約100mLに2,2’:6’,2”-ターピリジン(terpy)0.14gを添加し、約100℃まで加熱して完全に溶解した。この水溶液と上記実施例1(1)で調製したFe-Na-Y 1.0gを混合し、20時間加熱還流した。得られた試料を吸引濾過した後、ソックスレー抽出器にてメタノールと蒸留水を用いて、それぞれ20時間洗浄した。次いで真空乾燥することで、[Fe(terpy)22+錯体内包カチオン交換Y型ゼオライト(以下、「[Fe(terpy)22+@Na-Y」と略記する)を得た。
【実施例】
【0055】
(3) ベンゼンの酸化反応
上記(1)および(2)で得られた[Fe(phen)32+@Na-Y、[Fe(phen)32+@Ca-Yおよび[Fe(terpy)22+@Na-Yについて、上記実施例1(3)と同様にして、溶媒としてアセトニトリルのみまたは水のみを用い、ベンゼンの酸化反応を行った。溶媒としてアセトニトリルのみを用いた場合の結果を表4に、水のみを用いた場合の結果を表5と図2に、[Fe(bpy)32+@Na-Yおよび[Fe(bpy)32+@Ca-Yの結果と共に示す。
【実施例】
【0056】
【表4】
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【実施例】
【0057】
【表5】
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【実施例】
【0058】
表4に示す結果のとおり、溶媒としてアセトニトリルのみを用いた場合には、鉄錯体中の配位子の違いによる触媒活性の向上は見られなかった。
【実施例】
【0059】
一方、表5と図2に示す結果のとおり、溶媒として水のみを用いた場合には、[Fe(phen)32+を用いた系は、[Fe(bpy)32+の系に比べてフェノール選択率は変わらなかったが、活性が向上した。また、[Fe(terpy)22+を用いた系は、[Fe(bpy)32+の系に比べて活性が大幅に向上したのみならず、フェノール選択率も顕著に向上し、フェノールのみが生成する理想的な状態であることが明らかになった。
【実施例】
【0060】
実施例3
上記実施例1(3)において、[Fe(bpy)32+@Na-Yを用い、溶媒の混合割合をアセトニトリル:水=10:0~0:10(容量比)に変更した以外は同様にして、ベンゼンの酸化反応実験を行った。各生成物について、アセトニトリル-水混合溶媒における水の割合(アセトニトリル:水=10-x:x)と、収率との関係を図3に、TON(生成物[mol]/触媒中のFe原子量[mol])との関係を図4に示す。
【実施例】
【0061】
図3および図4に示す結果のとおり、アセトニトリル:水の混合割合が8:2~2:8の範囲で、良好な選択率と収率でベンゼンからフェノールを製造できることが分かった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3