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明細書 :加速器質量分析による妨害核種分別方法およびその装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6086587号 (P6086587)
公開番号 特開2014-150028 (P2014-150028A)
登録日 平成29年2月10日(2017.2.10)
発行日 平成29年3月1日(2017.3.1)
公開日 平成26年8月21日(2014.8.21)
発明の名称または考案の名称 加速器質量分析による妨害核種分別方法およびその装置
国際特許分類 H01J  49/28        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
FI H01J 49/28
G01N 27/62 V
請求項の数または発明の数 12
全頁数 16
出願番号 特願2013-019509 (P2013-019509)
出願日 平成25年2月4日(2013.2.4)
審査請求日 平成28年1月4日(2016.1.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】松原 章浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100176164、【弁理士】、【氏名又は名称】江口 州志
審査官 【審査官】杉田 翠
参考文献・文献 米国特許第05783823(US,A)
Masanobu Nakamura et al.,Accelerator mass spectrometry at the Kyoto University tandem accelerator,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B,1997年,Vol.123,pp.43-46
C.D. Moak et al.,Resonant coherent excitation of channeled ions,Physical Review A,1979年 3月,Vol.19, No.3,pp.977-993
東俊行,結晶場による相対論的重イオンのコヒーレント共鳴励起の観測,日本物理学会誌,2001年,Vol.56, No. 7,pp.502-509
樽本洋,イオンチャネリング現象を利用した材料解析,放射線と産業,1991年 6月 1日,vol.50,pp.50-55
調査した分野 G01N27/60-27/70
27/92
H01J27/00-27/26
37/00-37/18
37/21
37/24-49/48
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
CiNii
Google Scholar
特許請求の範囲 【請求項1】
測定対象の物質をイオン源によりイオン化し、該イオンを加速器によって加速させ、該加速されたイオンを分別装置によって運動量及びエネルギーによる物質の分別を行う加速器質量分析による妨害核種分別方法であって、
前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせることによって、前記妨害核種を前記目的核種と分別することを特徴とする加速器質量分析による妨害核種分別方法。
【請求項2】
前記イオンは、前記加速器によって、測定対象物質に対応して予め定められた多価変換基準に従って加速変換されることを特徴とする請求項1に記載の加速器質量分析による妨害核種分別方法。
【請求項3】
前記イオンを単結晶薄膜に透過させることによって、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせることを特徴とする請求項1又は2に記載の加速器質量分析による妨害核種分別方法。
【請求項4】
前記イオンを前記単結晶薄膜に透過させるときに、前記イオンの入射角度を前記結晶薄膜の単晶原子面と平行な平面内で調整することによって、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起起こさせるように、該イオンからみた見掛け上の原子間隔dを調整することを特徴とする請求項3に記載の加速器質量分析による妨害核種分別方法。
【請求項5】
前記単結晶薄膜は、前記加速器と前記分別装置との間に配置されることを特徴とする請求項3又は4に記載の加速器質量分析による妨害核種分別方法。
【請求項6】
前記目的核種と前記妨害核種が、それぞれ10Beと10B、32Siと32S、36Clと36S、41Caと41K、及び53Mnと53Crの組み合わせの何れかであることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の加速器質量分析による妨害核種分別方法。
【請求項7】
測定対象の物質をイオン化するイオン源と、該イオンを加速させる加速器と、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせる手段と、前記加速されたイオンの運動量及びエネルギーによる物質の分別を行う分別装置とを有することを特徴とする加速器質量分析による妨害核種分別装置。
【請求項8】
前記加速器は、前記イオンを測定対象物質に対応して予め定められた多価変換基準に従って加速変換するものであることを特徴とする請求項7に記載の加速器質量分析による妨害核種分別装置。
【請求項9】
前記コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段は、前記イオンを透過する単結晶薄膜を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の加速器質量分析による妨害核種分別装置。
【請求項10】
前記コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段は、前記イオンを透過する単結晶薄膜と、該単結晶薄膜を安定に支持するための支持台と、該単結晶薄膜のイオン通過軸に対して3次元の位置調整を行うための位置決めステージとで構成される薄膜システムであることを特徴とする請求項9に記載の加速器質量分析による妨害核種分別装置。
【請求項11】
前記コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段は、前記加速器と前記分別装置との間に配置されることを特徴とする請求項7~10の何れかに記載の加速器質量分析による妨害核種分別装置。
【請求項12】
前記目的核種と前記妨害核種が、それぞれ10Beと10B、32Siと32S、36Clと36S、41Caと41K、及び53Mnと53Crの組み合わせの何れかであることを特徴とする請求項7~11の何れかに記載の加速器質量分析による妨害核種分別装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
加速器質量分析(Accelerator Mass Spectrometry 以下、AMSと称す。)における分析目的核種(以下、目的核種と称す。)と妨害核種の分別に関する。詳しくは、イオンビームを所定の入射角度で結晶薄膜に通した時に発生するコヒーレント共鳴励起の現象を利用して目的各種と妨害核種との電荷を異ならせることで分別性能を向上させる分析に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、AMSの分析対象は、10Be、14C、36Cl、53Mn等のごく微量の同位体(放射性核種であることが多く、さらに、宇宙線によって生成される核種である場合が多い)と安定同位体との比(通常10-10~10-15といった比となる)を測定する技術として利用されている。(非特許文献1、2、3)
【0003】
加速器では、イオンに核子あたりMeV程度のエネルギーを与えることができるため、通常の質量分析では実現困難な次のような利点が得られる。(非特許文献1)
1)加速されたイオンを薄いガスや膜に通すと、分子イオンを壊すことができる。このため、分析する際に妨害となる同量分子イオンの影響を防ぐことができる。
2)イオンのエネルギーをエネルギー検出器により精密に測定することにより、イオンの同定ができる。
3)媒体中のエネルギー損失を測定することにより、同位体を分離することができる。
【0004】
ただ、この方法は、サンプル中の極微量同位体の絶対量を求めることは不可能ではないが、その場合、様々な不確定要素によって精度は悪くなる。同位体比の測定の場合には、これら不確定要素の大部分は共通ファクターとしてキャンセルできるため、きわめて高精度の測定を実現することができる。とはいえ、その技術的な要は、極微量の目的核種を妨害核種からいかに分離して検出するか、にかかっている。
【0005】
特に、目的核種と等しい質量をもつ安定した同重体が存在する場合、例えば、10Beに対する10B、36Clに対する36S、53Mnに対する53Cr等、これらの同重体は目的核種の測定を著しく妨害する核種(妨害核種)となり、極微量の目的核種を妨害核種からいかに分離して検出するかが大きなポイントである。
【0006】
そのような妨害核種に対する従来の分別方法には大きく分けて2つの方法が用いられている。
1つは、重イオン検出器中のガスあるいはその前段に設置した薄膜と入射イオンの相互作用を利用する方法である。ガスあるいは薄膜の原子と衝突したイオンは、その運動エネルギーを失うが、そのエネルギーの減衰は原子番号のおよそ2乗に比例する(ベーテの式)。入射イオンの原子番号の違いを利用するこの原理によって、通過した目的核種と妨害核種の運動エネルギーの間に差を作り出し、この差を持って両者を分別する。この方法を利用して分別機能を持たせた検出器は、その簡素な構造のため廉価であり最も広く使用されている基本的なものである。この方式の検出器は、一般的に分割電極型ΔE電離箱、あるいは単にΔE検出器などと呼ばれる。
【0007】
しかしながら、衝突が確率的に発生するため、衝突後のイオンの運動エネルギーのスペクトル幅が広がる現象(エネルギー ストラグリング)が発生し、双方のスペクトルが重なり分別性能が制限される。この現象は、入射イオンの運動エネルギーが低いほど著しい。このため、より高い加速電圧を有する大形の加速器を用いて入射イオンの運動エネルギーを高める方法をとる必要がある。さらに、原子番号が大きい核種ほど、双方の原子番号の相対的な差が小さくなるため、より高い加速電圧が必要になる。現状、同重体の有する核種に必要な加速器の加速電圧については、例えば、36Clの場合で最低6MeV程度といわれている。53Mnの測定では、その実用化に向けた試験において10MeV超の加速器が使用されている。
【0008】
もう1つの方法は、重イオン検出器を構成するガス容器を磁界中に置いたものであり、ガスフィルドマグネット(Gas Filled Magnet:GFM)方式と呼ばれる。この方法は、ガス中を通過するイオンの平衡電荷が原子番号に依存することに基づき、磁界中の軌道半径が目的核種と妨害核種との間で異なるということを利用したものである。原子の分別能力は、従来の型ΔE検出器に比べて20倍程度高いことが知られている。しかし、第1の方法と同じように、ガス中の原子との衝突を利用しているため、本質的にエネルギー ストラグリングが発生し、これが分別性能を制限している。また、GFM方式では、電離箱の前段に、この電離箱の大きさの10倍程度の大きさを持つ電磁石を取り付けており、この空間規模は1m、重量は数tに達する。そのため、この導入については、上記ΔE検出器と比較して制限が著しく大きい。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特表2008-541406号公報
【0010】

【非特許文献1】「加速器質量分析装置(AMS)」 AMS詳細|日本原子力研究開発機構青森研究開発センター
【非特許文献2】「加速器質量分析の原理」 東京大学 松崎 浩之氏 放射線利用技術データベース データ番号:040291
【非特許文献3】「加速器質量分析法の進歩」 東京大学 川面 澄氏 放射線利用技術データベース データ番号:040198
【非特許文献4】「イオンビーム工学(イオン・固体相互作用編)」 藤本文範、小牧研一郎、内田老鶴圃1995第4章」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の従来技術の問題点に鑑み、本発明は、AMSにおいて目的核種の分析を妨害する同比電荷の同重体(以下、妨害核種と称す。)の分別を、低加速電圧加速器においても分別精度を向上させることを課題とする。
【0012】
具体的には、AMS装置において発生させたイオンビームを結晶薄膜に通し、そのときに発生する「コヒーレント共鳴励起(Resonant Coherent Excitation、以下、RCEと称す。)」なる現象を利用し、目的核種あるいは妨害核種のみ電離段階を上げ、目的核種と妨害核種の比電荷を異ならせることによって、その後の電磁界による分別を容易にするものである。すなわち、エネルギーの差のみを作り出す従来方法と異なり、分別性能を阻害するエネルギー ストラグリングの影響を本質的に排除するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の発明は、測定対象の物質をイオン源によりイオン化し、該イオンを加速器によって加速させ、該加速されたイオンを分別装置によって運動量及びエネルギーによる物質の分別を行う加速器質量分析による妨害核種分別方法であって、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせることによって、前記妨害核種を前記目的核種と分別する加速器質量分析による妨害核種分別方法である。
【0014】
第2の発明は、前記第1の発明に付加して、前記イオンが、前記加速器によって、測定対象物質に対応して予め定められた多価変換基準に従って加速変換される加速器質量分析による妨害核種分別方法である。
【0015】
第3の発明は、前記第1又は第2の発明に付加して、前記イオンを単結晶薄膜に透過させることによって、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせる加速器質量分析による妨害核種分別方法である。
【0016】
第4の発明は、前記第3の発明に付加して、前記イオンを前記単結晶薄膜に透過させるときに、前記イオンの入射角度を前記結晶薄膜の単晶原子面と平行な平面内で調整することによって、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起起こさせるように、該イオンからみた見掛け上の原子間隔dを調整する加速器質量分析による妨害核種分別方法である。
【0017】
第5の発明は、前記第3又は第4の発明に付加して、前記単結晶薄膜が、前記加速器と前記分別装置との間に配置される加速器質量分析による妨害核種分別方法である。
【0018】
第6の発明は、前記第1乃至第4の発明に付加して、前記目的核種と前記妨害核種が、それぞれ10Beと10B、32Siと32S、36Clと36S、41Caと41K、及び53Mnと53Crの組み合わせの何れかである加速器質量分析による妨害核種分別方法である。
【0019】
第7の発明は、測定対象の物質をイオン化するイオン源と、該イオンを加速させる加速器と、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせる手段と、前記加速されたイオンの運動量及びエネルギーによる物質の分別を行う分別装置とを有する加速器質量分析による妨害核種分別装置である。
【0020】
第8の発明は、前記第7の発明に付加して、前記加速器が、前記イオンを測定対象物質に対応して予め定められた多価変換基準に従って加速変換する加速器質量分析による妨害核種分別装置である。
【0021】
第9の発明は、前記第7又は第8の発明に付加して、前記コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段が、前記イオンを透過する単結晶薄膜を有する加速器質量分析による妨害核種分別装置である。
【0022】
第10の発明は、前記第9の発明に付加して、前記コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段が、前記イオンを透過する単結晶薄膜と、該単結晶薄膜を安定に支持するための支持台と、該単結晶薄膜のイオン通過軸に対して3次元の位置調整を行うための位置決めステージとで構成される薄膜システムである加速器質量分析による妨害核種分別装置である。
【0023】
第11の発明は、前記第7乃至第10の発明に付加して、前記コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段が、前記加速器と前記分別装置との間に配置される加速器質量分析による妨害核種分別装置である。
【0024】
第12の発明は、前記第7乃至第11の発明に付加して、 前記目的核種と前記妨害核種が、それぞれ10Beと10B、32Siと32S、36Clと36S、41Caと41K、及び53Mnと53Crの組み合わせの何れかである加速器質量分析による妨害核種分別装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、目的核種と妨害核種の関係である10Beと10B、32Siと32S、36Clと36S、41Caと41K、53Mnと53Crとの分別、測定を、5MV以下の加速電圧で行うことが可能であるため、大型の加速器を使用せず、小型の加速器とすることが可能性あり、安価な設備構成とすることができる。
また、5MV以上の加速電圧が印加可能な大型加速器の場合には、測定限界は従来技術に比較して1桁程度の測定限界を良くすることができ、測定精度を向上することができる。
また、結晶薄膜の安定な支持と該結晶薄膜のイオン通過軸に対する3次元の位置調整を行う位置決めステージとを採用することで、高精度に、かつ迅速に位置調整が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のRCEを利用した分別の概念を示す模式図である。
【図2】本発明のシステム機器構成の一実施例を示す図である。
【図3】本発明に使用するRCEの発生メカニズムを示す図である。
【図4】本発明に使用する薄膜システムの位置決めステージの構成及びその配置を示す図である。
【図5】真空チャンバに載置したときの本発明の薄膜システムの動作を示す図である。
【図6】本発明による目的核種と妨害核種との分別方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、測定対象の物質をイオン源によりイオン化し、該イオンを加速器によって加速させ、該加速されたイオンを分別装置によってエネルギーによる物質の分別を行う加速器質量分析による妨害核種分別方法であって、前記イオンの目的核種及び妨害核種の少なくとも何れか一方にコヒーレント共鳴励起を起こさせることによって、前記妨害核種を前記目的核種と分別することを特徴とする加速器質量分析による妨害核種分別方法である。さらに、加速器では、測定対象物質に対応して予め定められた多価変換基準に従って加速変換させるものである。

【0028】
ここで、RCEについて、図3により説明する。
RCEは、イオンが結晶の原子列あるいは原子面と平行に入射する際にイオンがほぼ無衝突で結晶を通過する現象であるチャネリング状態において、その時通過するチャネリングイオンに属する電子が共鳴的に励起される現象である。
RCEを発生させるためには、まずそのチャネリング状態を作り出すことが必要である。図3には、イオンが左側から原子面にほぼ平行に入射した場合のチャネリング状態を描いている。ある入射角の範囲では、イオンは上あるいは下の原子面に近づくと結晶の原子とイオンの間に作用するクーロン斥力で反射する。したがって、上下の原子面の間を行き来しながら結晶を通過する。なお座標軸の方向については後に示す図4に記載している座標軸の方向に一致させており、実際は、xは上下方向、y軸は左右方向、z軸はイオンの進行方向を示す。

【0029】
このようなチャネリングが発生する入射角度の範囲(図3ではθ(ベクトルvをy-z平面に射影したベクトルのz軸となす角度))は、加速器の仕様を基にすると、±0.2°程度と推定され、核種に対して大きな変化はない。したがって、角度の制御精度としては、その1/20程度、すなわち0.01°程度が求められる。チャネリングイオンは、図3のように原子面の間を進んでいるとき、結晶原子の電場の影響を周期的に受ける。この周期電場は、イオンにとっては、光子を受けたことによる変動電場と同じである。光子エネルギーhνがイオンの励起/電離エネルギーに等しくなると、イオンは共鳴励起/電離する。一般的に、励起/電離エネルギーは元素やその励起状態、すなわち電子配置によって異なるため、着目した核種に対しRCEを選択的に発生さることができる。したがって、目的核種あるいは妨害核種のどちらかの電離段階を上げることが可能となる。

【0030】
RCEの発生・制御は、図3に示した入射角度φ(速度ベクトルvをx-z平面に射影したベクトルのz軸となす角度)を調節することで行う。RCEの発生条件は前述のように、光子のエネルギーが電離エネルギーEiに等しくなることである。この条件は、近似的には、次の式(1)で表される。
Ei=h(v/d ) (1)
ここで hとdは、それぞれプランク定数と原子間隔を表す。原理的には、加速器のエネルギーを変化させ速度vを調節し、式(1)を満足させてRCEを発生することは可能であるが、加速器での速度変化に合わせてビームラインに沿った沢山の偏向機器の設定を変更する必要が生じるため非常に複雑となる。そこで、結晶の角度φを後述する薄膜システムの位置決めステージで変化させ、イオンからみた見かけ上の原子間隔dを調節してRCEを発生・制御する。

【0031】
それらの構成は、図2に示すように、イオン創生装置10としての測定対象物質の負イオンビームを作り出すスパッタ式のイオン源2、発生したイオンを磁力によって測定対象物質のイオンを選択する入射電磁石3、測定対象物質のイオンに静電界を用してイオンを加速するタンデム型加速器4、目的核種とその安定同位体を運動量の違いより選別する分析電磁石5、到達したイオンを電流値として計測するファラデーカップ6と、分別装置20としての選択されたイオンと単結晶の結晶格子の位置調整によってRCEを発生させる薄膜システム21、イオンビームを収束させ静電アナライザの分解能を向上させる磁気レンズ22、入射したイオンが持つ運動エネルギーによって特定エネルギーを持つイオンを通過させる静電アナライザ23、イオンの到着をパルス測定し到着数を検出する重イオン検出器24、とからなる。このように、図2に示す各装置機器が、本発明の妨害核種分別方法を実施するためのシステム機器であるAMS装置1の基本構成となる。

【0032】
本発明の概念を、図1の模式図を基に、分析対象の目的核種として32Si、妨害核種として32S、加速器としてタンデム加速器の例を用いて説明する。
まず、イオン源によって目的核種の32Siをイオン化し32Siとする。このとき、好ましくない同重体である32Sも同時にイオン化され32となって混在することとなる。

【0033】
つぎに、イオン化された32Si32とを、加速器によって予め定められた多価変換基準にしたがい多価イオン、この例では5価のイオンである32Si5+325+に変換、加速させる。

【0034】
つぎに、32Si5+325+を薄膜システムに入射させる。
薄膜システムに内蔵した結晶薄膜では、イオンが結晶薄膜の原子列あるいは原子面と平行に入射させ、ほぼ無衝突で結晶薄膜を通過する状態にすることで、通過するイオンにRCEを発生させる。
本例では、325+にRCEを発生させることで電離段階が1つ上昇し326+となる。一方、32Si5+はチャネリングのみ発生し、その電離段階を保ったまま結晶薄膜を通過する。

【0035】
さらに、静電アナライザ(静電分析器)によって、従来技術では比電荷の同じものの分別はできなかったが、RCEを発生させることにより目的核種あるいは妨害核種の電離段階が増加することから、目的核種と妨害核種の電離段階の差を検出し、妨害核種である326+を除去する。最後にイオン検出器によって目的核種の32Si5+を検出する。

【0036】
本発明を実施するためのAMS装置の構成について、図2に示す各構成機器の要点を下記の表1にまとめ、本発明の特徴となる点を太枠網掛けで示した。以下その内容を説明する。

【0037】
【表1】
JP0006086587B2_000002t.gif

【0038】
イオン創生装置10の加速器4では、イオン源2から加速器に入射した負イオンを数MeVまで加速し加速器中央のストリッパーと呼ばれる装置において正イオンに変換する。正イオンの価数の選択は、予め定められた多価変換基準に従う。すなわち、目的核種とその妨害核種のイオン半径および+1qの電離電圧との間に可能な限り大きな差を与える電離段階(例えば、H様とHe様、あるいはNa様とNe様など)に成らしめることが分別効率を高める上で重要である。したがって、加速電圧は、その基準を満たす電離段階に効率よく変換し得る値であることが所望される。実際には加速器の規模により最大加速電圧が制限されるが、この場合、出力可能な電圧範囲より、上記変換基準に合うような電離段階を定めることになる。一方、RCE現象を際立たせようとする観点からは、RCEを発生させる単結晶薄膜において同時に発生する確率的相互作用(入射イオンと価電子との衝突)を可能な限り低減させるため、加速電圧は高いほうが望ましい。また、加速器で加速されたイオンの速度が、入手しやすい信頼性の高い単結晶の格子間隔でRCEが発生可能であるという条件も課せられる。以上を総合的に考慮して加速電圧が選択される。

【0039】
分別装置20の薄膜システム21は、入射するイオンの位置と薄膜システム21に内蔵する単結晶薄膜211の結晶格子の位置を3次元で位置調整し、目的核種イオンあるいは妨害核種イオンのいずれかのイオンにRCEを発生させる。すなわち、イオンをチャネリング状態に保持し、かつ、単結晶薄膜211内でイオンが感じる周期電場の周波数を調整し、RCEを発生させる状態となるようにする。

【0040】
静電分析器23は、従来技術で比電荷の同じものの区別はできなかったが、本発明では、いずれか一方にRCEを発生させると、RCEを発生させた核種の電離段階が変わることから、目的核種イオンを選択抽出でき、次の重イオン検出器における妨害核種イオンの検出を防止することができる。例えば、図1に示すように、従来技術では32Si5+325+の区別はできなかったが、本発明によって325+にRCEを発生させると、32Si5+はそのままで325+326+となることから、目的核種イオンを選択抽出できるようになる。32Si5+325+との組合せを含めて、RCEの発生によって区別できる核種イオンの組合せの例を下記の表2に示す。表2において、RCE発生の欄に(◎)の符号が付されている核種イオンがRCEを発生する。

【0041】
【表2】
JP0006086587B2_000003t.gif

【0042】
このように、あらかじめ定められた多価変換基準に従って、目的核種イオンあるいは妨害核種イオンのいずれかにRCEを発生させるように薄膜システムでの位置調整を行うことによって、低電圧の加速器の採用、ならびに妨害核種を除去した高精度の目的核種の質量分析が実現できる。

【0043】
本発明で使用する薄膜システム21の構成について説明する。
薄膜システム21は、コヒーレント共鳴励起を起こさせる手段であり、イオンを透過する結晶薄膜と、該結晶薄膜の安定な支持と、該結晶薄膜のイオン通過軸に対する3次元の位置調整を行う位置決めステージとで構成する。

【0044】
結晶薄膜の材質は、Si、AgおよびAuのいずれかで、好ましくは単結晶薄膜であり、厚さは0.2~1.0μmで構成する。結晶薄膜がその厚さを増すことによってイオンを感じる周期電場の回数が増えRCEが明瞭になる、一方、厚みを増すことによって結晶内の価電子との確率的相互作用が増加しRCEが不明瞭となる相反する影響を考慮して適宜決定する。

【0045】
図4に本発明で使用する薄膜システムの位置決めステージの構成及びその配置を、また、図5に真空チャンバに載置したときの本発明の薄膜システムの動作を示す。

【0046】
位置決めステージは、図4のx-y平面で示すように、10mm×10mm×厚さ0.4mmのフレーム212に、結晶薄膜211を取り付けて結晶薄膜アセンブリ213とし、該結晶薄膜アセンブリ213を薄膜ホルダ214にストッパ215を介して保持する。その後、位置決めステージ216に取り付け薄膜システム21とする構成である。

【0047】
さらに、薄膜システム21の載置は、図5のx-z平面で示すように、ファラデーカップ6の下流側に配設したイオンが通過する真空チェンバ217に載置する。なお、x、y、z軸のそれぞれは図3に記載のx、y、z軸と同じである。 この薄膜システム21は、z軸をφ、x軸をθ、y軸をωとして角度の調整を行い、チャネリングとRCEの発生に適した状態を実現する。

【0048】
つぎに、単結晶薄膜を通過したイオンに見られるRCEおよびチャネリング影響についてエネルギースペクトルを用いて説明する。
図6は、目的核種に対してRCEを発生させた場合の、薄膜システム21を通過後(すなわちRCE発生後)の目的核種および妨害核種のエネルギー分布関数の概念図である。

【0049】
図6では、入射粒子のエネルギーを基準(0)としたとき、いわゆる結晶薄膜に入射する前のエネルギー分布関数を破線で描いている。さらに目的核種のイオンが結晶薄膜を通ると、図6(a)に示すように、その多くはRCEにより電離段階が一つだけ上昇し、実戦で示す+1qの分布関数をもつようになる(現象〈1〉)。これと同時に、その電離や結晶に付与するエネルギー損失により、平均エネルギーは低下する(現象〈2〉)。さらに、エネルギー ストラグリングも発生し、分布関数は広がる(現象〈3〉)。一方、妨害核種についても現象〈1〉~〈3〉が発生するが、現象〈1〉については、RCEの発生条件が大きく異なるため、図6(b)に示すように目的核種と比べ極めて小さくなる。

【0050】
結晶薄膜を透過した後に、目的核種に合わせたエネルギー選別を行うが、このエネルギー範囲に混入する妨害核種の粒子数によって分別性能が決定される。ここで、図6に示す検出領域は、測定の目的により随時変更が可能である。図6の縦軸は対数表示であり、見かけよりは目的核種に対する妨害核種の混入する比率は非常に小さくなる。
なお、この図6の検出領域の設定については、静電アナライザ23への印加電圧及び通過幅の設定に応じて最適化して行う。

【0051】
[実施例]
本発明の実施例として、10Be、32Si、36Cl、41Caについての分別測定を、タンデム型加速器およびSi単結晶薄膜を使用して、イオン半径、+1qの電離電圧、RCEに関する公知の実験事例(非特許文献4)等に基づき、質量分析結果の推定を行った。その結果を下記の表3に示し、本発明と従来技術とを併記して両者の差異を明確にした。ここで、本発明の欄に示す「1.代表的な加速電圧」とは、最高5MVの加速器を持つAMS装置において本方法を適用した場合の、上記多価変換基準に従った電離段階への変換効率を有効に高めるために使用した加速電圧を意味する(この目的において最高電圧5MV超が望ましい場合、実際には加速電圧の安定性も考慮され、本表にあるように最高電圧の90%程度が使用される)。一方、従来技術の欄に示す「1.代表的な加速電圧」とは、該当する核種の測定において広く用いられる加速電圧を意味する。その多くの場合、加速電圧は4MV程度から10MV程度に渡るが、本表では、本発明と従来技術との比較を容易にするため、従来技術の欄の左列に、本発明の代表的な加速電圧5MVに近い場合の結果を記載している。また、参考のため、その右列には加速電圧が高い場合や加速電圧が5MV程度であっても付加的な分別機能の追加により検出限界を低減(向上)している場合(10Beの場合に該当)を付記している。表3より、一般に、加速電圧が高いと検出の測定限界が低減されることが理解される。

【0052】
次に、「4.測定限界」とは、同位体比(ここでは、目的核種の単位時間当たりの検出数と、AMS測定で同時に得られる安定核種の単位時間当たりの検出数との比)でもって規定される量であり、妨害核種による誤った検出で制限される同位体比の下限(すなわち、有意な同位体比を与える下限)を示したものである。したがって、検出の測定限界は、低い値ほど妨害核種の分別性能が高くなることを意味し、分析精度の高さを表す指標となっている。本発明と従来技術との間で測定限界を比較する場合は、本発明の代表的な加速電圧である5MVに近い値で両者の対比を行うことに意味がある。そのため、従来技術については、左列に記載する測定限界(下線で表示)を比較対象とした。この従来技術の測定限界の値は、丸め幅を5とした。

【0053】
表3に示す「3.分別方法」については、本発明の場合、分別機能を備えた最も基本的な検出器(ΔE検出器)の前段にRCE方式を連結したものとした。ただしBe測定の場合のみ、従来技術との比較を容易にするため、従来技術の分別方法(ガスセル+ΔE検出器)をベースとした。ガスセル自体は簡素な構造を持ち、ΔE検出器と同様に多用されるため、基本的な検出機器として位置づけられる。なお、本方式の併用については、従来の分別技術の内、薄膜アブソーバを使用する方式を除いて競合する技術はなく、例えば、本方式とGFMとの連結も可能である。この場合、GFMを単独に使用した場合の検出限界よりも有意に低い検出限界が得られると見込まれる。

【0054】
【表3】
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【0055】
表3に示すように、10Beでは、RCEを水素様10Be3+に発生させる。比較対象の従来技術(ガスセルとΔE検出器)に対して、測定限界を一桁近く低減できる。この値は、従来技術の右列に示す薄膜アブソーバ方式に匹敵するが、この薄膜アブソーバ方式では薄膜の後に分析電磁石(上記の段落[0031]に記載)と同規模の電磁石を併用する必要がある。したがって、同程度の測定限界を得る場合、本発明は、薄膜アブソーバ方式と異なり、容量・重量ともに大きい付加的機器を除去することができる。

【0056】
32Siでは、RCEをNa様325+に発生させる。したがって従来技術に対して、価数を+7価から+5価とすることができる。価数が小さくなるほどその価数へ変換する最も高い効率を与える加速電圧は低下するため、価数の低下により加速電圧を必然的に低減することができる。ただし、比較対象については、従来技術において5MV以下でSi測定が実施された例はなく、従来技術の左列で示すように6MVであり、さらにGFMを使用した場合となる。そのため、他の核種に比べ精密な比較は難しくなるが、本発明における検出限界は、GFMを使用せずとも従来技術のそれに匹敵すると期待される。GFMを使用する必要がない本発明は規模縮小に大きく役立つ。なお、前述の通りGFMと本方式を連結することも可能であり、この場合さらに低い測定限界が得られると期待できる。

【0057】
36Clでは、RCEをNa様32Cl6+に発生させる。従来技術に対して、価数を+7から+6価とすることができ、前述と同じ理由により加速電圧を低減することができる。測定限界については、従来技術であるGFMを使用せずとも、それと同程度の値が得られる。GFMが不必要になる利点は32Si測定の場合に同じである。

【0058】
41Caでは、RCEをSi様415+に発生させる。検出限界は従来技術と比較し有意に低減できる。ただし、41Caあるいは41KのどちらかをNa様の電離段階に高効率で変換する場合は、加速電圧が5MVをはるかに超える(従来技術11MVにおける+8価の418+がNa様となる)。このため、本発明によるRCEの分別効果は、これまで述べた核種の分別効果と比較して高く望めない。当クラスのAMS装置においてNa様の電離段階に変換させるためには、薄膜システムの入射前にセカンドストリッパーと呼ばれる薄膜と電磁石をビームラインに組み入れ、イオンの薄膜通過によっていろいろな高い電離段階に変換されたものから、Na様になっている電離段階の核種をその電磁石で選別する必要がある。とは言え、従来技術の11MVの場合において本方式を適用すれば、上述の通り418+がNa様となり、これにRCEを発生させることにより、本方式を効果的に用いることが期待でき、測定限界の数値が有意に低下し、精度の向上が期待できる。

【0059】
53Mnについては、従来技術で使用される加速電圧が10MVを超えるものしか存在せず、比較に用いた加速電圧に対し著しく高く、本発明の代表的な加速電圧5MV程度における測定限界の対比は困難であるため、本表に掲載しなかった。しかしながら、53Mnについても本方式を従来技術に上乗せすることにより41Ca測定の場合と同様、測定限界の数値低減に対し有利に働くと考えられる。

【0060】
以上のように、本発明は、比較の一例として加速電圧5MV程度の下でΔE検出器による基本的な分別方法をもつ従来技術に対して、さらに本方式のRCEを上乗せした場合、従来技術よりも検出限界を数分の1未満に低減できる。これは、上述の段落[0051]に記載したように一般に加速電圧が高いと検出限界の数値が下がることを踏まえると、本発明は、同程度の測定限界を得る場合、従来よりも加速電圧を低減できるという効果を奏する。次に、同程度の加速電圧でGFMに代表される付加的な分別機能が備わる従来技術と比較した場合、本発明は、従来技術の検出限界と同程度の値を与える。これは、検出部の重量・容量を数倍大きくするGFMなしで同程度の分別効果が得られるというところに意義がある。また、加速電圧が10MV程度を超すような大型のAMS装置に本発明を適用すれば、検出限界の向上に対する一定の効果が得られる。
【符号の説明】
【0061】
1‥‥AMS装置
2‥‥イオン源
3‥‥入射電磁石
4‥‥加速器
5‥‥分析電磁石
6‥‥ファラデーカップ
10‥‥イオン創生装置
20‥‥分別装置
21‥‥薄膜システム
22‥‥磁気レンズ
23‥‥静電アナライザ
24‥‥重イオン検出器
30‥‥制御装置
31‥‥多価変換基準
211‥‥結晶薄膜
212‥‥フレーム
213‥‥結晶薄膜アセンブリ
214‥‥薄膜ホルダ
215‥‥ストッパ
216‥‥位置決めステージ
217‥‥真空チェンバ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5