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明細書 :薬物送達システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5471447号 (P5471447)
登録日 平成26年2月14日(2014.2.14)
発行日 平成26年4月16日(2014.4.16)
発明の名称または考案の名称 薬物送達システム
国際特許分類 A61L  31/00        (2006.01)
A61K   9/51        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
FI A61L 31/00 Z
A61L 31/00
A61K 9/51
A61P 43/00 111
A61P 9/10
A61K 45/00
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2009-547150 (P2009-547150)
出願日 平成20年12月19日(2008.12.19)
国際出願番号 PCT/JP2008/073884
国際公開番号 WO2009/082014
国際公開日 平成21年7月2日(2009.7.2)
優先権出願番号 2007331948
優先日 平成19年12月25日(2007.12.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年11月18日(2011.11.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】青木 浩樹
【氏名】吉村 耕一
【氏名】堤 宏守
【氏名】照山 智恵
【氏名】松崎 益徳
【氏名】黒田 俊一
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】原田 隆興
参考文献・文献 国際公開第2002/067849(WO,A1)
特開2007-106752(JP,A)
国際公開第2006/033679(WO,A1)
特開2008-162981(JP,A)
特表2002-501408(JP,A)
特表2001-521778(JP,A)
特表2005-511502(JP,A)
Koichi Yoshimura et al,Nature Medicine,2005年12月,11(12),p.1330-1338
調査した分野 A61L 31/00
A61K 9/51
A61K 45/00
A61P 9/10
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
表面に標的分子を有する生体内留置医療装置と、前記標的分子と特異的に結合可能な標的認識分子を有し、かつ薬物を封入した標的認識バイオナノカプセルを含む薬物送達システムであって、前記生体内留置医療装置は生体適合性の生分解性材料によって被覆されており、かつその被覆に標的分子が埋め込まれており、前記標的分子がニュートラビジン(登録商標)であり、前記標的認識分子がビオチンである、薬物送達システム
【請求項2】
前記生体内留置医療装置がビオチン化により結合されたニュートラビジン(登録商標)を有する、請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項3】
標的認識バイオナノカプセルが有する標的認識分子が、生体内留置医療装置が有する標的分子に結合されるように設計され、それによって、標的認識バイオナノカプセルは、当該生体内留置医療装置に結合し、内包する薬物を徐放、もしくは標的認識バイオナノカプセルが周辺組織内部に導入され、薬物を放出することを特徴とする請求項1または2に記載の薬物送達システム。
【請求項4】
薬物送達システムが、動脈瘤治療のためのシステムであって、生体内留置医療装置がステント・グラフトであり、標的認識バイオナノカプセルが、JNK阻害活性を有する薬物を封入した標的認識バイオナノカプセルである請求項1~3のいずれか1項に記載の薬物送達システム。
【請求項5】
標的認識バイオナノカプセルが、ウイルス表面抗原由来の粒子またはその改変体と脂質二重膜を含むナノサイズのカプセルである請求項1~4のいずれか1項に記載の薬物送達システム。
【請求項6】
標的認識バイオナノカプセルが、B型肝炎ウイルス表面抗原由来の粒子またはその改変体と脂質二重膜を含むナノサイズのカプセルである請求項に記載の薬物送達システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の薬物送達システム用の、表面に標的分子を有し、生体適合性の生分解性材料によって被覆されており、かつその被覆に標的分子が埋め込まれており、前記標的分子がニュートラビジン(登録商標)である、生体内留置医療装置。
【請求項8】
ビオチン化により結合されたニュートラビジン(登録商標)を有する、請求項7に記載の生体内留置医療装置。
【請求項9】
ステント・グラフトである請求項7または8に記載の生体内留置医療装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、再充填可能な薬物送達システム(RDDS:Rechargeable Drug Delivery System)に関し、詳しくは、標的分子を有する生体内留置医療装置、および標的認識分子を有する薬物放出制御可能なナノキャリアーからなる薬物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疾患、特に局所的な病変に対する薬物治療が有効であるためには、作用局所で充分な濃度を達成する必要がある。一方、当該病変部以外の組織における薬物濃度が上昇すると、多くの場合に当該薬物は何ら有効な作用を示さないばかりか、望ましくない副作用を示すことがある。そのため、薬物の効果を発揮したい体内局所に、特異的に当該薬物を送達し、当該部位の薬物濃度を選択的に上昇させる薬物送達システムが開発されてきた。
薬物送達の手段として、薬物をリポ化する、あるいはマイクロカプセルに封入することにより、体内局所に集積させ、当該局所で徐放させることにより局所作用を発揮させる方法は知られており、例えば、抗腫瘍剤のリュープロレリン注射剤(非特許文献1)、血行改善剤のアルプロスタジル注射剤(非特許文献2)等が実用化されている。しかしながら、リポ化またはマイクロカプセル化した製剤を、薬物作用を発揮させようとする体内局所に集積させる方法の一例は、当該局所の血管の脆弱性のため血管内投与された当該製剤が血管外組織に漏出する性質(enhanced permeability and retention:EPR)を利用するものであり、薬物集積の効率は当該局所の組織特性に依存しており、体内の任意の場所に薬物を自在に送達することは困難である。この問題を解決するために、マイクロカプセルの表面に、体内局所の組織を特異的に認識する分子、例えば糖鎖認識分子や、目的細胞の表面抗原を認識する抗体などを提示させ、当該マイクロカプセル化薬剤の局所集積特異性を高めようとする試みがなされている(特許文献1、2)。しかし、薬物を作用させたい体内局所に特異的な糖鎖や細胞表面抗原等が発見されていない場合には、薬物を当該局所のみに送達することが困難である。
一方、生体内に留置する医療装置を利用する薬物送達システムは、例えば薬物塗布ステントとして良く知られ(特許文献3)、実用化もされている。免疫抑制剤や抗増殖性薬を塗布し徐放させる冠動脈ステントは、ステント植え込み後の再狭窄を効果的に予防できるため、一時期盛んに使用された。しかし、植え込んだ後にステント内血栓形成による冠動脈閉塞を高頻度に起こし、急性心筋梗塞や突然死を起こすことが明らかとなったが、植え込んだステントを取り出すことは事実上不可能なため、重大な医療問題となっている。
また、医療の現場では、様々な理由から薬物の種類、薬効の開始時点、有効期間を変更する必要に迫られることが多い。例えば体内留置医療装置が必要になる原因となった病変に対して治療効果のある薬物であれば、病変の活動性が高い時期には充分量の薬物を送達する必要があり、病変が沈静化した時期に薬物減量または中止すれば副作用の減弱、消失または予防が期待され、病変活動性が再び高まれば再度充分量の薬物を局所に送達する必要がある。この要請に応えるために、種々の医療装置が治療薬を体内局所に送達するために開発されてきた。しかし、好ましい標的部位に持続的な期間薬物を供与するには多くの課題が残っている。
動脈瘤は、動脈壁を構成している細胞外基質の分解亢進あるいは合成異常により動脈壁が局所的に脆弱化することによって発症し、次第に拡大し、やがて破裂して死に至る病気であり、破裂以前にはほとんど無症状である。したがって、「動脈瘤に対する有効な治療」とは、この破裂を防止し、生命予後を改善することに他ならない。現在、有効性が証明されている動脈瘤の治療法は、手術により動脈瘤を人工血管に置換する方法と、血管内にステント・グラフト(人工血管)を挿入し、動脈瘤を血流から遮断する方法がある。ステント・グラフトは、動脈瘤化した動脈部位を越えて、瘤の前後に存在する正常血管に達するように設計される。動脈瘤部位に挿入されたステント・グラフトは自己展開し、瘤前後の正常血管に密着し、瘤を血行負荷から遮断することにより治療効果を発揮する。ステント・グラフトは、動脈瘤への血行負荷遮断が完全である限り、有効な治療法である。しかし最大の問題点は、動脈瘤への血行負荷遮断が不充分となる可能性があることである。ステント・グラフトによる治療後に、動脈壁の脆弱性および/または動脈瘤の拡大が進行すると、ステント・グラフトの動脈壁への密着が不充分となり、動脈瘤壁への血行負荷遮断が不完全になることが少なからず経験される(エンドリーク)。一旦、動脈瘤壁への血行負荷遮断が不完全になると、もはやステント・グラフトは動脈瘤の拡張進行、破裂を予防することはできない。従って、薬物治療により動脈瘤の病勢を効果的に抑制し、ステント・グラフトの動脈壁への密着を完全に保つことが重要である。同時に、薬物治療により動脈瘤を退縮させることができれば、ステント・グラフトの動脈壁への密着および動脈瘤壁への血行負荷遮断は、より完全に保たれ、ステント・グラフトの治療成績は飛躍的に向上することになる。
JNK(c-Jun N-terminal kinase)阻害薬は、動脈瘤の退縮を引き起こすことが証明されている唯一の薬物であり、薬物治療による動脈瘤退縮の可能性は現実のものとなった(非特許文献3)。しかし、これらの薬物を全身投与すると、望ましくない副作用が出現する可能性がある。ドキシサイクリンについて知られている副作用は、例えば、食欲不振、吐気、嘔吐、下痢、発疹、腎臓毒性、および貧血を含む。ロキシスロマイシンやテトラサイクリン誘導体などの抗生物質使用は、抗生物質耐性病原体の蔓延を引き起こし得る(非特許文献4)。JNK阻害薬の全身投与による副作用として免疫抑制や肝機能障害などの副作用も懸念される。ヒドロキシメチルグルタリル コエンザイムエー(HMG-CoA)還元酵素阻害薬(スタチン)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬等についても、食欲不振、吐気、嘔吐、下痢、発疹、過度の血圧低下を含む副作用が知られている。

【特許文献1】特開2007-106752号公報
【特許文献2】特開平9-110722号公報
【特許文献3】特許第3954616号公報
【非特許文献1】小川泰亮 他、Chem Pharm Bull 36:2576-2581,1988
【非特許文献2】浜野哲夫 他、基礎と臨床 20:5145-5154,1986
【非特許文献3】吉村耕一 他、Nature Medicine 11:1330,2005
【非特許文献4】平松啓一編、医薬ジャーナル社、耐性菌感染症の理論と実践、(2002年)
【発明の開示】
【0003】
従来様々な理由により有効な局所濃度を達成することが困難であった薬物や、作用局所以外の組織における副作用のために使用が困難であった薬物を使用可能にし、病変がある体内局所に、有効な濃度の薬物を継続して送達するシステムであり、薬物の変更、再充填が可能な薬物送達システムを提供することをその主な課題とする。
本発明者らは、表面に標的分子を有する生体内留置医療装置を生体内に挿入または植え込んだ後に、薬物を封入した標的認識分子を有するナノキャリアー(バイオナノカプセル、リポソーム、リポ化製剤、高分子ミセル、ナノパーティクルなど:以下「ナノキャリアー」と記載)を体内に投与した時、標的分子を介して、生体内留置医療装置とナノキャリアーが結合することによって、必要に応じて薬物を生体内留置医療装置周辺に放出できる方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の(1)~(5)を提供する。
(1)表面に標的分子を有する生体内留置医療装置と、前記標的分子と特異的に結合可能な標的認識分子を有し、かつ薬物を封入した標的認識ナノキャリアーからなる薬物送達システム。
(2)前記生体内留置医療装置は、生体適合性材料で被膜したものであって、次の何れかの方法により標的化されていることを特徴とする上記(1)に記載の薬物送達システム。
1)当該生体適合材料の表面修飾により、適切な標的分子を結合させる、
2)当該生体適合材料に、あらかじめ適切な標的分子を結合させておく、
3)当該生体適合材料に、あらかじめ適切な官能基を結合させておき、当該官能基と反応するように設計された適切な標的分子を結合させる。
(3)生体内留置医療装置に提示された標的分子が、修飾されていてもよいビオチン、修飾されていてもよいグルタチオン、修飾されていてもよい糖、修飾されていてもよいエピトープの中から選ばれるものである上記(1)または(2)のいずれかに記載の薬物送達システム。
(4)上記(1)に記載の薬物を封入した標的認識ナノキャリアーは、保有する標的認識分子が、上記(1)~(3)のいずれかに記載の生体内留置医療装置に提示された標的分子に結合されるように設計され、それによって、ナノキャリアーは、当該生体内留置医療装置に結合され、内包する薬物徐放、もしくはナノキャリアーが周辺組織内部に導入され、薬物を放出することを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の薬物送達システム。
(5)薬物送達システムが、動脈瘤治療のためのシステムであって、生体内留置医療装置がステント・グラフトであり、JNK阻害活性を有する薬物を封入した標的認識ナノキャリアーである上記(1)~(4)のいずれかに記載の薬物送達システム。
本発明により、病変に必要な時点で、必要な期間、治療薬を送達することができ、優れた治療効果が期待できる。さらに、薬物徐放の開始後に望ましくない副作用が出現し、当該薬物の治療効果による利益より、望ましくない副作用による不利益が上回ると判断された場合、薬物を減量または中止でき、副作用を最小限に止められる可能性がある。また、徐放させようとする薬物が不安定で、長期の徐放に適さない場合でも、再充填が可能であるため、当該薬物が活性を失わない期間内に再充填を繰り返すことにより、継続的な薬物送達を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、大動脈瘤治療を想定した再充填可能な薬物送達システムの概念図を示す。
図2は、標的分子を有する生分解性材料で被覆した生体内留置医療装置の表面が、徐々に分解されることにより新たな標的分子が露出することを示した概念図である。
図3は、ダクロン製人工血管表面のビオチン化が認められたことを示す図面に代わる写真である(A:ビオチン化処理なし、B:ビオチン化処理あり)。
図4は、コラーゲンコートを施したダクロン製人工血管表面のビオチン化が認められたことを示す図面に代わる写真である(A:ビオチン化処理なし、B:ビオチン化処理あり)。
図5は、生体内でもアビジン:アルカリホスファターゼ複合体が、ビオチン化グラフトに特異的に結合することを示す図面に代わる写真である(A:暗視野蛍光像、B:モノクロ明視野像)。
図6は、実証実験に用いた標的化グラフトとバイオナノカプセルの概念図を示す。
図7は、マウス下大静脈へ植え込んだ標的化グラフトの概念図および図面に代わる写真を示す。
図8は、生体内における標的化グラフトへの標的認識ナノキャリアーの集積を示す図面に代わる写真である。
図9は、生体内における標的化グラフトへの標的認識ナノキャリアーの集積を示すグラフである。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2007-331948号の特許請求の範囲、明細書および図面に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の薬物送達システムは、例えば、大動脈瘤治療に利用する場合、図1に示すように、表面に適切な標的分子を提示した標的化グラフト(標的化された生体内留置医療装置)と、当該標的分子と特異的に結合する標的認識分子を表面に有し、薬物を封入した標的認識ナノキャリアー、好ましくは標的認識生分解性ナノキャリアー、で構成される再充填可能な薬物送達システムである。本発明の薬物送達システムは、薬物送達のための組み合わせまたはキットとすることができる。
本発明の生体内留置医療装置は、生体適合性の高い材料からなるものを用いるが、一般的に使用されている生体内留置医療装置を、標的化することにより、薬物送達システムとして利用することができる。すなわち、標的化した医療装置を、生体内の適切な場所に挿入および/または植え込むことにより、生体内における複数回の薬物充填および放出を目的としての利用が可能になる。このような生体内留置医療装置の例として、たとえば、ステント(冠動脈血管ステント、脳、尿道口、尿管、胆管、気管、胃腸および食道ステントを含む)、グラフト、ステント・グラフト、カテーテル、シャントチューブ、眼内レンズ、血管内コイル、歯科インプラント、腫瘍内留置ニードル、腫瘍内留置カプセル、植え込み型除細動器、心臓弁、人工ペースメーカー、人工関節、人工胸膜、人工硬膜、人工骨、人工心膜、人工内耳、人工軟骨、人工毛、人工網膜、静脈内フィルタ、静脈弁、縫合器ステープル、縫合糸、豊胸術用挿入物などが挙げられる。美容形成外科目的の生体内挿入および/または植え込み医療装置なども、本発明の生体内留置医療装置の範囲に入れることができる。
生体内留置医療装置は、例えば動脈瘤治療に利用する場合、ステント、グラフトあるいはステント・グラフト等を使用することができる。これらの生体内留置医療装置は、現在使用されている生体適合性を有する材質のものであって、大きさ・形状が当該病変に適切なもの使用することが望ましい。
生体内留置医療装置は、好ましくは生体適合性材料で被覆したものである。生体適合性材料は生分解性材料であってもよい。生分解性材料とは、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(PLA)・ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエステル系ポリアミノ酸、ポリペプチド、ポリデプシペプチド、ナイロンコポリミド、デンプン、セルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン等であるが、この場合、被覆材に埋め込んだ標的分子は、当該生体内留置医療装置の表面からの分解により、常に新しく再生させることができる(図2)。これは、本発明の別の態様である。
生体内挿入および/または植え込み医療装置(生体内留置医療装置)は、一般に生体適合性を高めるために、装置表面を生体適合性材料で被覆する。装置表面を被覆する生体適合性材料として、生体適合性の高い高分子材料を使用できる。生体適合性の高い高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやその共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリメトキシエチルアクリレート等のアクリレート系高分子、セルロースアセテート、セルロースナイトレート等のセルロース系高分子、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、コラーゲン、キチン、キトサン等があげられる。
本発明の生体内留置医療装置は、被覆する材料に適切な分子を提示することにより、標的化することができる(以下、表面に標的分子を有する標的化された生体内留置医療装置を、標的化医療装置と称する場合がある)。標的化の実施形態の例としては、当該生体適合材料の表面修飾により、標的化のための適切な分子を結合させる方法や、当該生体適合材料に、あらかじめ標的化のための適切な分子を結合させておく方法、当該生体適合材料に、あらかじめ適切な官能基を結合させておき、当該官能基と反応するように設計された標的化のための適切な分子を結合させる方法、などの手法が挙げられるが、当該生体適合材料や標的分子の物理化学的特性、治療する病変により適宜選択することが望ましい。本発明において、生体適合材料と生体適合性材料は互換可能に用いられる。
医療装置標的化のための認識分子の組み合わせ(標的分子を標的認識分子の組み合わせ)は、特に限定されないが、例として、ビオチン対アビジン、ビオチン対ストレプトアビジン、ビオチン対NeutrAvidin(登録商標)、ビオチン対ヒト由来ビオチン結合分子、ビオチン対Strep・Tactin(登録商標)、Strep・Tag(登録商標)対Strep・Tactin(登録商標)、Strep・TagII(登録商標)対Strep・Tactin(登録商標)、S・Tag(登録商標)対S-protein、Haloリガンド(登録商標)対Halotag(登録商標)、グルタチオン対グルタチオンS-トランスフェラーゼ、アミロース対マルトース結合タンパク、適切にデザインされたエピトープ対当該エピトープに対応するヒト化モノクローナル抗体、適切にデザインされた糖鎖対当該糖鎖に対応するレクチンなどヒト化モノクローナル抗体を含む糖鎖認識分子などが挙げられる。ここで、ビオチン、グルタチオン、糖およびエピトープ等は、例えばポリエチレングリコール、炭化水素等のスペーサーアームや、N-ヒドロキシサクシニミド基、スルホ-N-ヒドロキシサクシニミド基、ペンタフルオロフェニル基、ヒドラジド基、アミド基、ペンチラミン基、マレイミド基、ヘキシルピリジルジチオプロピオンアミド基、イオドアセチル基、リジル基、アジドサリチルアミド基、ニトロフェニルアジド基、ソラレン基、テトラフェニルフルオロアジド基等の反応基により修飾されていてもよい。核酸対それに相補的な核酸、抗原対抗体又はその断片、酵素対基質又は阻害剤、リガンド対レセプターの組み合わせも挙げられる。標的化医療装置表面の分子(標的分子)は生体内で安定なものが選択される。
本発明のナノキャリアー(標的認識ナノキャリアー)とは、バイオナノカプセル、リポソーム、リポ化製剤、高分子ミセル、ナノパーティクルなどを含み、標的化医療装置を認識する標的認識分子を有する薬物放出部位であり、以下の方法を選択して薬物との複合体を作製することができる。1)水溶性の高分子に薬物を結合させる方法、2)ナノサイズの微粒子に薬物を埋め込む方法、3)脂質の2分子膜からできた、いわば人工の細胞膜に相当する小胞で、リポソームと呼ばれているものと薬物を混合または封入する方法、4)不均質な構造の高分子を会合させたもので、高分子ミセルと呼ばれるもの、5)ナノサイズのバイオカプセル(バイオナノカプセル)に封入する方法。
本発明の標的認識ナノキャリアーは単一の薬物を含有することも、同一ナノキャリアー中か又は別集団のナノキャリアー中に複数の薬物を含有することもできる。これらのナノキャリアーは分解され、内包する薬物を徐放させることにより治療効果を期待することができる。
あるいは、ナノキャリアーが生体内に導入され、標的化医療装置の標的分子と結合した後、周辺組織内部に導入されて薬物を放出させることによっても治療効果を期待することができる。
本発明のある形態で使用するバイオナノカプセル(Bio-nanocapsule)とは、遺伝子組換え微生物によって産み出されたナノサイズのカプセルである。バイオナノカプセルとしては、例えばB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)粒子などのウイルス表面抗原粒子を含む、ウイルスタンパク質由来またはその改変体由来の粒子を利用することができる。バイオナノカプセルとして、例えば、脂質二重膜と、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)粒子などのウイルス表面抗原粒子等のウイルスタンパク質由来またはその改変体由来の粒子を含む、ナノサイズのカプセルを利用することもできる。これらの粒子は、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞などの真核細胞から精製して得られる。カプセルのサイズとしては、10nm~500nm程度のものを使用することができるが、20nm~250nmのサイズのものがより好ましく、80nm~150nmのサイズのものを使用することが最も好ましい。
また、リポソームとバイオナノカプセルを各々の特徴を保ったまま高効率に融合させる技術は既に知られており、薬物封入リポソームと標的認識バイオナノカプセルとの融合により、薬物を封入した標的認識ナノキャリアーを容易に作成することができる(Journal of Controlled Release 126(2008)255-264)。
薬物送達システムの一般的な実施形態では、標的化医療装置が、あらかじめ体内に挿入または植え込まれ、標的認識ナノキャリアーが、その後の任意の時点で、生体に投与される。投与経路は、標的認識ナノキャリアーが標的化医療装置に最も到達しやすい経路が選ばれる。
例えば、標的化医療装置が血管内に留置される場合は、標的認識ナノキャリアーは血管内に投与されることが適切である。標的化医療装置が消化管内に留置される場合は、標的認識ナノキャリアーは経口投与されることが適切である。標的化医療装置が心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等の体腔に露出または近接している場合は、標的認識ナノキャリアーは当該体腔内に投与されることが適切である。標的化医療装置が体表面に近い場合は、たとえば皮下注射等で当該医療装置の近傍に標的認識ナノキャリアーを投与されることが適切である。これらの投与方法は、基本的には当該医療装置により治療すべき病変と、本発明により期待される診断的効果および/または治療的効果によって、適切に選択されることが望ましい。
本発明は、医療装置を体内に挿入又は留置することが必要な全ての疾患を対象とすることができる。対象疾患の例と当該医療装置の例として、次のようなものを挙げることができる。
大動脈瘤を含む動脈瘤等に対するグラフト、ステント・グラフト、血管内コイル;
冠動脈を含む血管の拡張、狭窄又は閉塞等に対するステント、ステント・グラフト、グラフト;
喉頭、気管、気管支を含む気道、尿道、尿管、胆管、および咽頭、食道・胃・腸を含む消化管などの狭窄、閉塞または欠損等に対するステント、ステント・グラフト、グラフト;
炎症性腸疾患、消化管切除術後、低栄養状態、意識障害等を含む経管または経静脈栄養を必要とする疾患に対するカテーテル;
水頭症等に対するシャントチューブ;
白内障、眼球外傷等に対する眼内レンズ;
歯の物理的損傷、う蝕、歯牙腫、歯原性粘液腫、歯原性嚢胞、歯根嚢胞、歯髄炎、歯髄疾患、歯髄充血、歯性上顎洞炎、歯内歯等の歯科的疾患に対する歯科インプラント;
腫瘍一般、のう胞、中枢神経疾患、末梢神経疾患等局在病変に対する組織内留置ニードル、カプセルまたはメッシュなどを含む薬物放出装置;
心筋症、不整脈または心不全等に対する植え込み型除細動器、人工ペースメーカー;
先天性心血管奇形または心臓弁膜症等に対する心臓弁;
関節リウマチを含む関節炎または関節外傷等に対する人工関節;
胸部手術後等に対する人工胸膜;
脳外科出後等に対する人工硬膜;
骨外傷、骨腫瘍等の手術後等に対する人工骨;
心臓大血管手術後等に対する人工心膜;
内耳疾患等に対する人工内耳;
外傷、腫瘍等の手術または関節リウマチを含む関節炎または関節外傷等に対する人工軟骨;
皮膚外傷、皮膚熱傷、皮膚炎、脱毛症等に対する人工毛;
網膜色素変性症、黄斑変性症、緑内障、網膜出血、眼底出血、眼部外傷等の網膜疾患等に対する人工網膜;
静脈内血栓症、静脈炎または静脈瘤等の静脈疾患等に対する静脈内フィルタまたは静脈弁;
消化管吻合手術、血管吻合手術等を必要とする疾患で用いられる縫合器ステープル;
外科的手術一般等で用いられる縫合糸;
美容形成外科等で用いられる生体内挿入および/または植え込みプロテーゼ等である。
動脈瘤治療用の標的化医療装置として、血管内ステント・グラフトを使用する場合には、動脈瘤治療薬を封入した標的認識ナノキャリアーが血管内に投与される。ステント・グラフトは、自己展開性のステントに人工血管(グラフト)を縫着した医療器具である。ステント・グラフトは、動脈瘤化した動脈部位を越えて、瘤の前後に存在する正常血管に達するように設計される。動脈瘤部位に挿入されたステント・グラフトは自己展開し、瘤前後の正常血管に密着し、瘤を血行負荷から遮断することにより治療効果を発揮する。ステント・グラフトによる血管内治療は手術より侵襲が少ないため、より好まれる趨勢にある。
動脈瘤に対するステント・グラフト治療を前提とした実施形態では、標的認識ナノキャリアーは、以下の薬物を封入することができる。すなわち、ドキシサイクリン等のテトラサイクリン誘導体を含むMMP阻害薬、ロキシスロマイシンを含む抗生物質、マクロファージ走化性因子(Monocyte chemocttractant protein:MCP-1)、および/またはその受容体(CCR2)拮抗薬を含むケモカイン拮抗薬、TNF-α、IL-6、IL-1β、INF-γ、および/またはその受容体の拮抗薬、TGF-β、および/またはその受容体、SMADの拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、レニン阻害薬、アラキドン酸5-リポキシゲナーゼ阻害薬、シクロオキシゲナーゼ阻害薬、アスピリンを含む非ステロイド抗炎症剤(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAID)、一酸化窒素合成酵素阻害薬、ビタミンE、ビタミンCやその誘導体を含む抗酸化薬、ステロイド、ラパマイシン、シクロスポリンAを含む免疫抑制薬、エラスチン結合性ポリフェノールやペンタガロイルグルコース)を含むエラスチン安定化薬、JNK阻害薬、NFκBおよび/またはEts転写因子の結合部位を含んだオリゴDNA(デコイ)を含むNFκB阻害薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)等であり、このうちから、1種類または複数種類の薬物を選択して封入することができる。
本発明は、さらに、冠動脈狭窄による疾患に対して、冠動脈内留置ステントを標的化医療装置とし、標的認識ナノキャリアー中に封入する治療薬を選ぶことができる。すなわち、パクリタキセル、ヘパリン、シロリムス、エバロリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、エストラジオール、トラピジル、ダクチノマイシン、クロピドグレルおよびリドグレル等の抗再狭窄薬を、1種類または複数種類を選択して封入することができる。
ナノキャリアーは従来の薬物送達キャリアと比較して、細胞内への物質送達機能に優れるため、様々な物性を持つ広義の薬物を送達するキャリアとして殊に優れている。本発明は、その他の病変に応じて、特に限定されないが、例えば以下の薬物を標的認識ナノキャリアー中に封入する治療薬として選ぶことができる。ヘパリン、低分子量ヘパリン、硫酸デキストランおよびβ—シクロデキストリンテトラデカサルフェート等のヘパリノイド、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、RGDペプチド含有化合物、ヒルジン、ヒルログ、アルガトロバン等の抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤および抗血小板ペプチド、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ、エプチフィバチドおよびチロフィバン等のGPIIbおよびIIIa阻害剤、FXa阻害剤、ワルファリン等のビタミンK阻害剤のような抗凝血剤、抗血栓剤、および血小板剤、アルブミンおよびポリエチレンオキサイド等の血小板接着阻害剤、アスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシンおよびスルフィンピラゾン等のシクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、リポキシゲナーゼ経路阻害剤、ロイコトリエン受容体拮抗薬、スロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベンおよびリドグレル等のトロンボキサンA2(TAX2)経路修飾因子、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、メトプレドニゾロンおよびヒドロコーチゾン等の天然および合成副腎皮質ステロイド、エストロゲン、スルファサラジンおよびメサラミン等の抗炎症剤、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンジオスタチン、アンジオペプチン、平滑筋細胞増殖遮断可能なモノクロナール抗体およびチミジンキナーゼ阻害剤等の抗悪性腫瘍薬、抗増殖性薬、有糸分裂阻害剤、細胞分裂停止剤および細胞増殖影響因子、CDK阻害剤を含む細胞周期阻害剤、チロホスチン、ゲニステイン、キノキサリン誘導体等のチロシンキナーゼ阻害剤および、その他のタンパク質キナーゼ阻害剤、プリン類似体(6-メルカプトプリン又は塩素化プリンヌクレオチド類似体であるクラドリビン)、ピリミジン類似体(例えばシタラビンおよび5-フルオロウラシル)およびメトトレキサート等の代謝拮抗剤、ナイトロジェンマスタード、アルキルスルホン酸、エチレンイミン、ダウノルビシン、ドキソルビシン等の抗腫瘍性抗生物質、ニトロソウレア、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、パクリタキセルおよびエポチロン等の微小管運動に影響する薬物、カスパーゼ活性体、プロテアソーム阻害剤、エンドスタチン、アンジオスタチン等の血管形成阻害剤、ラパマイシン、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミン等の抗増殖および抗悪性腫瘍薬、成長因子阻害剤、成長因子受容体拮抗剤、成長因子に拮抗する抗体、転写リプレッサー、翻訳リプレッサー、複製阻害剤、内皮前駆細胞を認知する抗体、成長因子および細胞毒素からなる二官能性分子、抗体と細胞毒素からなる二官能性分子等の血管細胞成長阻害剤、サイトカインおよびホルモン、酸性および塩基性線維細胞成長因子、bFGF抗体およびキメラ融合タンパク質等のFGF経路薬、アンジオポエチン、血管内皮成長因子、内皮分裂促進成長因子、上皮成長因子、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮成長因子、血小板由来成長因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞成長因子およびインスリン様成長因子等の成長因子を含む血管形成因子、RGDペプチド等の内皮化促進剤、トラピジル等のPDGF受容体拮抗薬、アンジオペプチンおよびオクレオチド等のソマトスタチン類似体を含むIGF経路薬、ポリアニオン系試薬(ヘパリン、フコイダン)、デコリンおよびTGF-β抗体等のTGF-β経路薬、EGF抗体等のEGF経路薬、受容体拮抗薬およびキメラ融合タンパク質、サリドマイドおよびその類似体等のTNF-α経路薬、フォルスコリン等のアデニレートおよびグアニレートシクラーゼ刺激薬、シロスタゾールおよびジピリダモール等のホスホジエステラーゼ阻害剤を含む環状ヌクレオチド経路薬、ジルチアゼム等のベンゾチアゼピン、ニフェジピン、アムロピジンおよびニカルジピン等のジヒドロピリジンおよびベラパミル等のフェニルアルキルアミンを含むカルシウムチャネル遮断薬、ケタンセリンおよびナフチドロフリル等の5-HT拮抗薬更にはフルオキセチン等の5-HT吸収阻害剤を含むセロトニン経路修飾因子、アデノシン類似体、プラゾシンおよびブナゾシン等のα拮抗薬、プロプラノール等のβ拮抗薬およびラベタロールおよびカルベジロール等のαおよびβ拮抗薬を含むカテコールアミン修飾因子、エンドセリン受容体拮抗薬、シラザプリル、フォシノプリルおよびエナラプリル等のACE阻害剤、サララシン、ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン等のアンジオテンシン受容体拮抗薬等の内因性血管作動機構の阻害剤、ヒドララジン等、その他の血管拡張薬、アドレナリンα作動薬、アドレナリンβ作動薬、ドーパミン作動薬、プロスタグランジンE1、E2およびI2等のプロスタグランジンを含むプロスタグランジンおよびその類似体およびプロスタサイクリン類似体、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび亜硝酸アミル等の有機硝酸塩および亜硝酸塩、ニトロプルシドナトリウム等の無機ニトロソ化合物、モルシドミンおよびリンシドミン等のシドノンイミン、ジアゼニウムジオレートおよびアルカンジアミンの一酸化窒素付加物、低分子量化合物含有S-ニトロソ化合物(例えばカプトプリル、グルタチオンおよびN-アセチルペニシラミンのS-ニトロソ誘導体)および高分子量化合物含有S-ニトロソ化合物(例えばタンパク質、ペプチド、オリゴ糖、多糖類、合成高分子またはオリゴマーおよび天然高分子またはオリゴマーのS-ニトロソ誘導体)、C-ニトロソ化合物、O-ニトロソ化合物、N-ニトロソ化合物およびL-アルギニンを含む一酸化窒素供与体および放出分子、E-およびP-セレクチンの拮抗薬、VCAM-1およびICAM-1相互作用阻害剤、ビスホスホネートを含むマクロファージ活性化防止剤、ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンおよびセリバスタチン、ピタバスタチン等のHMG-CoA還元酵素阻害剤を含むコレステロール低下剤、魚油およびオメガ-3-脂肪酸、プロブコール、ビタミンCおよびE、エブセレン、トランスレチノイン酸等のラジカル・スカベンジャー抗酸化剤、リドカイン、ブビバカインおよびロビバカイン等の麻酔薬、マリマスタット、アイロマスタットおよびメタスタット等のMMP経路阻害剤、サイトカラシンB等の細胞運動阻害剤、ハロフジノン、他のキナゾリノン誘導体およびトラニラスト等の基質沈着および組織化経路阻害剤、ペントキシフィリン等の血液レオロジー修飾因子、トリクロサン、およびニトロフラントイン等の抗菌剤、スルタミシリン、アモキシシリン、アスポキシシリン、ピペラシリン等のペニシリン類、セファクロル、セファゾリン、セフォチアム、フロモキセフ、セフテラム、セフタジジム、セフメノキシム、セフォゾプラン、セフスロジン等のセファロスポリン類、イミペネム、パニペネム、メロペネム等のカルバペネム類、アズトレオナム等のモノバクタム類、アミカシン、ジベカシン、トブラマイシン、テイコプラニン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等のアミノ配糖体、ポリミキシンB、バンコマイシン、ナリジクス酸、オフロキサシン、シプロフロキサシン、トスフロキサシン、レボフロキサシン、ホスホマイシン等の合成抗菌剤、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン等のマクロライド類、クリンダマイシン、リンコマイシン等のリンコマイシン類、ドキシサイクリン、ミノサイクリン等のテトラサイクリン類、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、スルファメトキシン、スルファメトキサゾール等の抗生剤、抗菌剤、イソニアジド、リファンピシン、エタンブトール等の抗結核剤、ジアフェニルスルホン、クロファジミン等の抗ハンセン病剤、ナイスタチン、ミコナゾール、メトロニダゾール、フルコナゾール、アムフォテリシンB、クロトリマゾール等の抗真菌剤、ガンシクロビル、オセルタミビル、ビダラビン、アシクロビル、バリビズマブ等の抗ウイルス剤、ペンタミジン等の抗原虫剤等である。
さらに、本発明の標的認識ナノキャリアー中に封入する薬物としては、低分子無機化合物、低分子有機化合物、高分子無機化合物、高分子有機化合物、ペプチド、核酸等を用いることができる。ペプチドとしては、生体内分子、生体内分子の活性化作用または阻害作用を有するペプチドを使用することができる。ペプチドまたは核酸をコードする核酸としては、生体内分子、生体内分子の活性化作用または阻害作用を有するペプチドをコードする核酸、生体内分子に対する干渉RNA、リボザイム、アンチセンス核酸およびこれらをコードする核酸を使用することができる。また、生体内分子の転写または翻訳を制御するペプチド、核酸およびこれらをコードする核酸も使用することができる。
本発明はまた、上記薬物送達システムを用いた薬物送達方法にも関する。本発明の薬物送達方法は、表面に標的分子を有する生体内留置医療装置を生体内に留置(挿入)すること、および、前記標的分子と特異的に結合可能な標的認識分子を有し、かつ薬物を封入した標的認識ナノキャリアーを投与することを含む。生体内留置医療装置と標的認識ナノキャリアーについては、薬物送達システムについて記載したとおりである。
本発明の薬物送達方法の対象となる疾患と医療装置の組み合わせについても、薬物送達システムに関して記載したとおりである。当業者であれば、対象疾患に基づき、生体内留置医療装置の種類、それを留置(挿入)する生体内の部位を選択することができる。生体内留置医療装置を留置する生体内の部位としては、血管、喉頭、気管、気管支を含む気道、尿道、尿管、胆管、咽頭、食道・胃・腸を含む消化管、眼、口腔内、歯、腫瘍、のう胞、中枢神経、末梢神経、心臓、関節、胸部、頭部、骨、内耳、皮膚などが挙げられる。
一実施形態において本発明の薬物送達方法は、標的化医療装置を血管内に留置し、標的認識ナノキャリアーを血管内に投与することを含む。別の実施形態において本発明の薬物送達方法は、標的化医療装置を消化管内に留置し、標的認識ナノキャリアーを経口投与することを含む。別の実施形態において本発明の薬物送達方法は、標的化医療装置を心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等の体腔に露出または近接した状態で留置し、標的認識ナノキャリアーを当該体腔内に投与することを含む。別の実施形態において本発明の薬物送達方法は、標的化医療装置を体表面に近い位置に留置し、皮下注射等で当該医療装置の近傍に標的認識ナノキャリアーを投与することを含む。
本発明の薬物送達システムおよび薬物送達方法の対象は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、たとえば、ヒトおよびサルなどの霊長類、マウス、ラットおよびウサギなどの齧歯類、イヌおよびネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマおよびブタなどの家畜が挙げられる。
【実施例】
【0006】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、ダクロン(登録商標)人工血管を例にとって、標的分子をビオチンとした留置医療装置標的化と、標的認識分子としてアビジンを用いた実施例を示すが本発明はこれに限定されない。
実施例1 ダクロン人工血管(グラフト)表面のビオチン化と、インビトロにおけるビオチン検出
[方法]
ダクロン製人工血管(ユービーウーブングラフト(登録商標):宇部興産社製)表面を1N水酸化ナトリウムで処理することで部分加水分解をおこない、遊離カルボキシル基を露出した。架橋剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いて、EZ-Link(登録商標)・Biotin-PEO3-LC Amine(ピアス社製)により、表面をビオチン化したグラフト片を作製した。対照として、表面の部分加水分解のみを行い、ビオチン化操作をしないグラフト片を作製した。アビジンとビオチン化アルカリホスファターゼを試験管内で混合し、あらかじめアビジン:アルカリホスファターゼ複合体を形成した(VECTASTAIN(登録商標)・ABC-AP KIT:Vector Laboratories社製)。充分にグラフト片を洗浄した後に、アビジン:アルカリホスファターゼ複合体と反応させ、いわゆるABC法によりグラフト表面のビオチンを検出した。
[結果]
ビオチン化処理を施したグラフト片のみにアルカリホスファターゼ試薬(VECTOR RED(登録商標):Vector Laboratories社製)による赤色の発色が認められ、グラフト表面のビオチン化が証明された(図3)。
実施例2 コラーゲンコートした人工血管(グラフト)表面のビオチン化と、インビトロにおけるビオチン検出
[方法]
生体適合性を高めるためにコラーゲンコートを施したダクロン製人工血管(ヘマシールド(登録商標):Boston Scientific社製)に、EZ-Link(登録商標)・NHS-LC-Biotin(ピアス社製)を作用させ、表面をビオチン化したグラフト片を作製した。対照として、ビオチン化操作を行わないグラフト片を作製した。アビジンとビオチン化アルカリホスファターゼを試験管内で混合し、あらかじめアビジン:アルカリホスファターゼ複合体を形成した(VECTASTAIN(登録商標)・ABC-AP KIT:Vector Laboratories社製)。充分にグラフト片を洗浄した後に、アビジン:アルカリホスファターゼ複合体と反応させ、ABC法によりグラフト表面のビオチンを検出した。
[結果]
ビオチン化処理を施したグラフト片のみにアルカリホスファターゼ試薬(VECTOR RED(登録商標):Vector Laboratories社製)による赤色の発色が認められ、グラフト表面のビオチン化が証明された(図4)。
実施例3 生体内における表面ビオチン化処理人工血管(グラフト)への、アビジン結合の証明
[方法]
生体適合性を高めるためにコラーゲンコートを施したダクロン製人工血管(ヘマシールド(登録商標):Boston Scientific社製)に、EZ-Link(登録商標)・NHS-LC-Biotin(ピアス社製)を作用させ、表面をビオチン化したグラフト片を作製した。対照として、ビオチン化操作を行わないグラフト片を作製した。充分にグラフトを洗浄した後に、ビオチン化処理後グラフト片と未処理のグラフト片の双方を、同一マウスの下大静脈内に移植した。アビジンとビオチン化アルカリホスファターゼを試験管内で混合し、あらかじめアビジン:アルカリホスファターゼ複合体を形成した。グラフトを移植したマウスに、アビジン:アルカリホスファターゼ複合体を静脈内投与し、30分後にマウスを屠殺し、下大静脈内のグラフト片を摘出した。グラフト片を、アルカリホスファターゼ発色試薬(VECTOR RED(登録商標):Vector Laboratories社製)と反応させた。VECTOR REDの赤色蛍光をレーザー走査共焦点顕微鏡で観察し、グラフト線維束表面のビオチンにアルカリホスファターゼが結合しているかを検証した。
[結果]
ビオチン化処理を施したグラフト片のみに、VECTOR REDの強い赤色蛍光を認めた。一方、未処理のグラフトには蛍光が全く認められなかった。このことから、生体内でもアビジン:アルカリホスファターゼ複合体が、ビオチン化グラフトに特異的に結合することが証明された(図5)。
実施例4 リポソームへの薬物封入
想定される大動脈瘤治療薬であるJNK阻害薬(SP600125)およびスタチン(Pitavastatin)を、下記の手順でリポソームに封入した。
1)脂質をメタノール/クロロホルム(1:1)溶液2ml中に溶解した(総脂質10mg、DPPC:DPPE:DPPG:コレステロール=15:15:40:30)。(DPPC=ジパルミトイルホスファチジルコリン、DPPE=ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、DPPG=ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール)。
2)上記溶液に薬物0.5mgを溶解した。
3)60°Cの水浴上で温めながら、エバボレーターを用いて溶媒を揮発させ、脂質フィルムを調製した。
4)1mlのバッファー(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)で水和した。
5)エクストゥルーダー(Avestin社製: 500ml シリンジタイプ、孔径:100nm)に50回通し、粒子径を調整した。
6)ゲルろ過(Superdex G-50)して封入されなかった薬物を除去したものを精製リポソームとした。
SP600125およびPitavastatinは、それぞれ特異的な蛍光特性を示し、蛍光測光による定量が可能であることを確認した。精製リポソームについて、0.1N HCl、0.5% SDS存在下でリポソームを破壊し、遊離する薬物を蛍光測定した。脂質量は、リン脂質C-テストワコー(和光純薬工業製)を用いて測定したDPPC量から算出した。粒子径は動的光散乱法を用いて測定した。結果を以下の表1に示す。
【表1】
JP0005471447B2_000002t.gif
JP0005471447B2_000003t.gif 表1の結果より、リポソーム内に、高濃度のPitavastatinおよびSP600125の封入が可能であることが示された。
実施例5 標的化グラフトと標的認識ナノキャリアー
実証実験に用いた標的化グラフトとバイオナノカプセルの概念図を図6に示す。図3に示したビオチン化グラフトにニュートラビジンを結合させることで標的化グラフトを作製した。Cy3で蛍光標識したバイオナノカプセル(改変したB型肝炎ウイルス表面抗原由来の粒子と脂質二重膜を含むナノサイズのカプセル)をビオチン化することで、標的認識ナノキャリアーを作製した。
ビオチン化グラフトにニュートラビジンをあらかじめ結合させた標的化グラフトを、全身麻酔下でマウス下大静脈に植え込んだ。標的化グラフトを下大静脈に挿入し(図7)、尾側(画面右側)を血管壁に固定し(固定端)、頭側(画面左側)は血管内に浮遊させた(自由端)。
標的化グラフトを血管内に植え込んだ後、Cy3で蛍光ラベルしビオチン化した標的認識ナノキャリアー(ビオチン化バイオナノカプセル=BNC)50μgを静脈内投与した。蛍光標識BNC投与直後(図8、inject)には、血流中の遊離BNCの蛍光シグナルを認めるのみでグラフトにおいて蛍光を認めなかったが、5分後には標的化グラフトの自由端に蛍光集積を認め、その後、固定端側にも経時的に蛍光が集積することが認められた(図8、15minおよび30min)。また、蛍光プロファイルの定量結果を図9のグラフに示す。以上の結果から、標的認識ナノキャリアーが血管内で標的化グラフトに集積することが示された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明の薬物送達システムでは、従来は有効な局所濃度を達成することが困難であった薬物や、作用局所以外の組織における副作用のために使用が困難であった薬物を、適切な局所濃度での使用が可能になると期待される。また、本発明のシステムでは、薬物の再充填が可能であるため、有効期間内に再充填を繰り返すことにより、継続的な薬物送達を実現でき、さらに、従来の薬物より有効性に優れた薬剤が開発された場合に、当該病変に送達する薬物を、新たに標的認識ナノキャリアーに封入して投与し、留置医療装置に送達することができるため、より優れた治療を行うことが可能になる。さらにまた、留置医療装置周辺組織の感染症の場合には、感染後に原因病原体に対する最適な治療薬を選択し、単独あるいは複数の治療薬を同時に投与することが可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図6】
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【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図7】
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【図8】
7
【図9】
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