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明細書 :凝集性酵母、及びその作製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5435657号 (P5435657)
登録日 平成25年12月20日(2013.12.20)
発行日 平成26年3月5日(2014.3.5)
発明の名称または考案の名称 凝集性酵母、及びその作製法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/19
請求項の数または発明の数 10
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-514
NPMD NITE BP-516
NPMD NITE BP-515
NPMD NITE BP-517
全頁数 18
出願番号 特願2010-503780 (P2010-503780)
出願日 平成21年3月18日(2009.3.18)
国際出願番号 PCT/JP2009/001214
国際公開番号 WO2009/116286
国際公開日 平成21年9月24日(2009.9.24)
優先権出願番号 2008069329
2008187206
優先日 平成20年3月18日(2008.3.18)
平成20年7月18日(2008.7.18)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成24年2月8日(2012.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】赤田 倫治
【氏名】ノンクラ サノム
【氏名】星田 尚司
【氏名】アブデル-バナット バビカ モハメド アーメド
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】佐藤 巌
参考文献・文献 特開2005-532055(JP,A)
特開平02-000476(JP,A)
ALMEIDA, C. et al.,"Acquisition of flocculation phenotype by Kluyveromyces marxianus when overexpression GAP1 gene enco,J. Microbiol. Methods,2003年,Vol.55,pp.433-440
LUNDBLAD, V. et al.,"Manipulation of cloned yeast DNA",Current Protocols in Mol. Biol.,1997年,Unit 13.10.1-13.10.14
KURODA, S. et al.,"Fermentable and nonfermentable carbon sources sustain constitutive levels of expression of yeast tr,J. Biol. Chem.,1994年,Vol.269, No.8,pp.6153-6162
NONKLANG, S. et al.,Biosci. Biotechnol. Biochem.,2009年,Vol.73, No.5,pp.1090-1095
ABDEL-BANAT, B.M.A. et al.,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2010年,Vol.85,pp.861-867
KURODA, S. et al.,Gene,1989年,Vol.78,pp.297-308
NEDEVA, T.S. et al.,FEMS Microbiol. Lett.,1993年,Vol.107,pp.49-52
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 1/19
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/WPIDS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程(A)~(C)を順次含むことを特徴とする凝集性及び耐熱性を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)形質転換体の作製方法。
(A)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の内在性FLO1遺伝子、及び、内在性FLO9遺伝子から選択される1以上のFLO遺伝子の上流にマーカー遺伝子配列及び発現プロモーター配列を導入してサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体を作製する工程;
(B)工程(A)で作製されたサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体由来の染色体DNAから、マーカー遺伝子配列、発現プロモーター配列、及び、FLO遺伝子配列を含むDNA断片を得る工程;
(C)工程(B)で得られたDNA断片を、FLO遺伝子発現カセットとしてクルイベロマイセス・マルシアヌスに導入し、クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体を作製する工程;
【請求項2】
マーカー遺伝子が、栄養要求性マーカー遺伝子であることを特徴とする請求項1記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項3】
栄養要求性マーカー遺伝子がヒスチジン、ロイシン、ウラシル、メチオニン、リシン、アデニン、トリプトファン、アルギニンの少なくとも1つの栄養要求性遺伝子であることを特徴とする請求項2に記載のクルベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項4】
栄養要求性マーカー遺伝子がURA3遺伝子であることを特徴とする請求項3記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項5】
クルイベロマイセス・マルシアヌスが、ヒスチジン、ロイシン、ウラシル、メチオニン、リシン、アデニン、トリプトファン、アルギニンの少なくとも1つの栄養要求性遺伝子に変異を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス変異体であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項6】
発現プロモーターがグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ3(TDH3)プロモーターであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項7】
線状のDNA断片を、FLO遺伝子発現カセットとしてクルイベロマイセス・マルシアヌスに導入することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項8】
クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体が、RAK4299株(NITE BP-514)、又は、RAK4301株(NITE BP-516)であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の作製方法により作製された凝集性及び耐熱性を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体。
【請求項10】
RAK4299株(NITE BP-514)、又は、RAK4301株(NITE BP-516)であることを特徴とする請求項9記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオエタノール生産のための凝集性を高めたクルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)に属する凝集性酵母、及びその作製法等に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、工業製品を生産するために重要な位置を占めている。その中で、より効率よく安価に生産を行うことが課題とされてきた。その解決方法は、より高い生産性を示す菌株を選択すること、微生物培養のための培地組成や培養温度等の培養条件の検討等であった。近年の分子遺伝学の発達のもとでは、菌株の選択肢のひとつとして、従来の菌株から優秀な遺伝子を特定して利用し、菌株を形質転換する手法があげられる。従来、有用な食品類を生産してきた酵母においても、より有効な生産のために形質転換が多く行われている。
【0003】
有効な生産のための形質転換のひとつとして、菌体の凝集性を高める形質転換があげられる。発酵法によるアルコール生産は、発酵酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の中で特にアルコール生産性の高い株を用いて、回分発酵法あるいは、連続発酵法という手法で実施されている。従来の回分発酵法は、アルコール発酵酵母に糖蜜等を原料として加え、一定の条件下で培養することによりアルコールを生成させる。生成されたアルコールは、培養液を加熱して蒸留回収するが、培養液中に残った酵母は、加熱により死滅する。従って、アルコール生産を続ける際には、酵母液を補充しなければならない。このような工程は、効率が悪く、さらにコスト高になる。凝集性酵母を使用した場合は、静置して上清のアルコールを回収し、沈殿している凝集性酵母に新たな発酵液を加えて、再度アルコール生産を行うことができるため、回分発酵法によるアルコール生産においては、凝集性の酵母が望まれていた。
【0004】
凝集性を付与する形質転換の手法として、アルコール発酵酵母の染色体上の任意のマーカー遺伝子領域に、外来DNAである凝集性遺伝子発現カセットを導入して作製した、実用的な凝集性アルコール発酵酵母とその育種方法(特許文献1)、酵母の凝集性遺伝子の凝集性に関与する蛋白領域をコードするDNAを取得し、該DNAをビール酵母に導入して凝集性が強化された酵母を製造する方法(特許文献2)、燃料用エタノール生産のために凝集性酵母の構築(非特許文献1)等がある。これらの既に報告されている形質転換酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ由来の凝集性遺伝子を、サッカロマイセス・セレビシエに属する酒類製造用酵母に導入して作製されたものである。一方、サッカロマイセス・セレビシエと異なる属に属する酵母に、サッカロマイセス・セレビシエ由来の凝集性遺伝子を導入した形質転換酵母については未だ報告されておらず、サッカロマイセス・セレビシエ由来の凝集性遺伝子が、サッカロマイセス・セレビシエ以外の酵母においても凝集性の調節に関与するかどうかについては全く知られていなかった。
【0005】
サッカロマイセス・セレビシエでは、全ゲノムの解析がおわり、凝集性遺伝子が特定されている。凝集性に関与するFLO遺伝子群には、第1番染色体上に存在するFLO1遺伝子(非特許文献2)、第8番染色体上に存在するFLO5遺伝子(非特許文献3)、第5番染色体上に存在するFLO8遺伝子(非特許文献4)、第1番染色体上に存在するFLO9遺伝子(非特許文献5)、第11番染色体上に存在するFLO10遺伝子(非特許文献6)等がある。これらの遺伝子は、FLO1と類似の塩基配列を有するレクチン様タンパク質であるとされている。
【0006】
現在、石油供給の問題点から、世界レベルで石油に代わって、生物由来資源(バイオマス)によるエネルギー源の探索が試みられている。バイオマスによる新エネルギーのひとつに、バイオマス燃料であるバイオエタノールがある。バイオエタノールは、糖質あるいはデンプン質を多く含む植物資源が利用されている。バイオマスを原料とした微生物によるアルコール生産の方法としては、サゴヤシ原木の粉砕物を糖化し、サッカロマイセス・セレビシエによるエタノールの発酵生産法(特許文献3)、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母を用いた生ごみなどの廃棄物からの燃料用アルコールの生産法(特許文献4)が開示されている。バイオエタノールの生産に使う酵母は、バイオマスの処理に対応できる耐熱性を有し、アルコール生産酵母と同様に高い凝集性を有する酵母が望まれている。
【0007】
酵母クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)は耐熱性を有する酵母であり、Lertwattanasakulや山田らによって糖からエタノールへの変換に関与する酵素アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase; Adh)の発現が確認されている(非特許文献7)。クルイベロマイセス・マルシアヌスはエタノールを産生することができるだけでなく、タンパク質生産性が高いことから、工業的な生産において非常に有用であると考えられるが、クルイベロマイセス・マルシアヌスの形質転換方法が一般的に確立されていない等、研究が進んでいないのが現状である。このため、バイオエタノールの工業生産に適したクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換株については、これまで全く報告されていない。
【0008】

【特許文献1】特許第3040959号公報
【特許文献2】特許第3643404号公報
【特許文献3】特開2007-195406号公報
【特許文献4】特開2006-325577号公報
【非特許文献1】Biotechnol Lett, 30: 97-102, 2008
【非特許文献2】Yeast, 9: 423-427,1993
【非特許文献3】Science, 265: 2077-2082, 1994
【非特許文献4】Nature 387: 78-81, 1997
【非特許文献5】Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A. 92: 3809-3813, 1995
【非特許文献6】Nature 369: 371-378, 1994
【非特許文献7】Biosci. Biotechnol. Biochem.71: 1170-82, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、外来の凝集性遺伝子をクルイベロマイセス・マルシアヌス菌に導入することにより、バイオエタノールの工業生産に適した、耐熱性及び凝集性を有する新規のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体を提供すること、ならびに、上記形質転換体の効率的な作製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、クルイベロマイセス・マルシアヌスに凝集性を付与するための外来遺伝子として、サッカロマイセス・セレビシエの凝集性遺伝子FLOに着目し、FLO遺伝子発現を誘導するためのFLO遺伝子発現カセットとして、既知の発現プロモーター配列とサッカロマイセス・セレビシエ由来のFLO遺伝子配列とを含む直鎖状(線状)DNA断片を作製した。この線状DNA断片をクルイベロマイセス・マルシアヌス菌に導入した結果、クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体が効率よく得られることを確認するとともに、予想外にも、上記形質転換体の凝集性が顕著に高まることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、[1](A)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevi
siae)の内在性FLO1遺伝子、及び、内在性FLO9遺伝子から選択される1以上のFLO遺伝子の上流にマーカー遺伝子配列及び発現プロモーター配列を導入してサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体を作製する工程;(B)工程(A)で作製されたサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体由来の染色体DNAから、マーカー遺伝子配列、発現プロモーター配列、及び、FLO遺伝子配列を含むDNA断片を得る工程;(C)工程(B)で得られたDNA断片を、FLO遺伝子発現カセットとしてクルイベロマイセス・マルシアヌスに導入し、クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体を作製する工程;の工程(A)~(C)を順次含むことを特徴とする凝集性及び耐熱性を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)形質転換体の作製方法や、[2]マーカー遺伝子が、栄養要求性マーカー遺伝子であることを特徴とする上記[1]記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法や、[3]栄養要求性マーカー遺伝子がヒスチジン、ロイシン、ウラシル、メチオニン、リシン、アデニン、トリプトファン、アルギニンの少なくとも1つの栄養要求性遺伝子であることを特徴とする上記[2]に記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法や、[4]栄養要求性マーカー遺伝子がURA3遺伝子であることを特徴とする上記[3]記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法や、[5]クルイベロマイセス・マルシアヌスが、ヒスチジン、ロイシン、ウラシル、メチオニン、リシン、アデニン、トリプトファン、アルギニンの少なくとも1つの栄養要求性遺伝子に変異を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス変異体であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれかに記載の作製方法や、[6]発現プロモーターがグリセルアルデヒド-3-リン酸 デヒドロゲナーゼ3(TDH3)プロモーターであることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれかに記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法や、[7] 線状のDNA断片を、FLO遺伝子発現カセットとしてクルイベロマイセス・マルシアヌスに導入することを特徴とする上記[1]~[6]のいずれかに記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法や、[8] クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体形質転換体が、RAK4299株(NITE BP-514)、又は、RAK4301株(NITE BP-516)であることを特徴とする上記[1]~[7]のいずれか記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の作製方法に関する。
【0012】
また本発明は、[9]上記[1]~[7]のいずれかに記載の作製方法により作製された凝集性及び耐熱性を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体や、[10]RAK4299株(NITE BP-514)、又は、RAK4301株(NITE BP-516)であることを特徴とする上記[9]記載のクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、クルイベロマイセス・マルシアヌスを形質転換して凝集性及び耐熱性に優れた酵母を作製することが可能であり、バイオエタノールの工業生産のために有効な酵母を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】pST106プラスミド由来のTDH3プロモーターとURA3DNA断片をFLO遺伝子上流に挿入する模式図を示す。
【図2】形質転換用DNA断片の電気泳動結果を示す図である。(Lane 1,6:DNA ladder、lane 2:FLO3由来、lane 3:FLO5由来、lane 4:FLO9由来、lane 5:FLO10由来)
【図3】形質転換用DNA断片を導入したサッカロマイセス・セレビシエBY4700の染色体DNA(TF)と、導入していない染色体DNA(WT)の電気泳動結果を示す図である。
【図4】形質転換用DNA断片を導入して得られた4タイプのサッカロマイセス・セレビシエの染色体DNAにおける組換えFLO遺伝子の電気泳動結果を示す図である。(Lane 1,6:DNA ladder、lane 2:URA3-TDH3p-FLO1、lane 3:URA3-TDH3p-FLO5、lane 4:URA3-TDH3p-FLO9、lane 5:URA3-TDH3p-FLO10)
【図5】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042と、サッカロマイセス・セレビシエ BY4700に対する各形質転換体の凝集性を示す図である。
【図6】クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体の28℃と40℃での凝集性を示す図である。
【図7】温度40~50℃におけるヒートショックの時間について、温度に対する反応時間の上限と下限を示した図である。
【図8】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042の形質転換についての結果の写真を示す図である。直鎖DNAのURA3断片を25ng使用してプレート一面の形質転換体数を得ることができる。
【図9】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042の形質転換効果における酵母細胞の濃度の影響を示す図である。
【図10】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042の形質転換効果におけるポリエチレングリコール(PEG)の分子量とヒートショック後の希釈液の影響を示す図である。
【図11】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042の形質転換効果におけるDTTの影響を示す図である。
【図12】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042の形質転換効果におけるDNA断片の大きさの影響を示す図である。
【図13】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042の形質転換効果におけるヒートショック温度と時間の影響を示す図である。
【図14】クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042が、DNA断片を用いた形質転換に最も有効な菌株であることを示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の凝集性及び耐熱性を有する酵母の作製方法としては、耐熱性酵母クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)にFLO遺伝子発現カセットを導入する方法を含むものであれば特に制限されるものではなく、上記FLO遺伝子としては、クルイベロマイセス・マルシアヌスに凝集性を付与することができるFLO遺伝子であればどのようなものでもよいが、例えば、全ゲノム配列が解析されているサッカロマイセス・セレビシエのFLO遺伝子を好適に挙げることができ、より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエのFLO1遺伝子、FLO5遺伝子、FLO9遺伝子、FLO10遺伝子等を好適に例示することができる。サッカロマイセス・セレビシエのFLO遺伝子の情報は、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)、EMBL-EBI(European
Molecular Biology Laboratory)、GenBank-NCBI(National
Center for Biotechnology Information)、SGD(Saccharomyces Genome Database)等のゲノムデータベースから、その塩基配列情報を知ることができる。
【0016】
上記FLO遺伝子発現カセットとしては、クルイベロマイセス・マルシアヌスにFLO遺伝子の発現を誘導できるものであれば特に制限されるものではないが、形質転換体を効率的に選択するためのマーカー遺伝子配列含み、さらに、FLO遺伝子の発現が発現プロモーターにより制御されるよう設計されたFLO遺伝子発現カセットであることが好ましい。上記選択マーカー遺伝子としては、抗生物質等の薬剤耐性遺伝子や、栄養要求性マーカー遺伝子等のレシピエント(宿主)細胞における欠失産物をコードする遺伝子等を挙げることができ、上記薬剤耐性遺伝子としては、アンピシリン、ブレオマイシン、カナマイシン、オリゴマイシン等の薬剤に対する耐性遺伝子等を、上記栄養要求性マーカー遺伝子としては、HIS3、URA3、LEU2等を例示することができ、特に栄養要求性マーカー遺伝子を用いることが好ましい。栄養要求性マーカー遺伝子と選択培地を組み合わせることによって、マーカー遺伝子を発現する細胞を選択することができ、例えば、URA3の栄養要求性遺伝子を細胞に導入した場合、形質転換した宿主細胞は、ウラシルを含まない培地で成育することができ、凝集性を付与された菌株の選択が可能になる。また、上記発現プロモーターとしては、特に制限されるものではないが、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ3(TDH3、GAP)プロモーター、TDH1プロモーター、TDH2プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、ADHプロモーター、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP1プロモーター等を具体的に挙げることができ、これらのプロモーター配列は、生体由来のゲノムDNA配列であっても、化学的な手法等により人工的に得られたDNA配列であってもよい。
【0017】
FLO遺伝子発現カセットを導入して形質転換を行うためのクルイベロマイセス・マルシアヌ菌体は、マーカーとなる遺伝子が変異された変異体を用いることが望ましい。変異遺伝子を取得する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて行うことができる。UV照射による方法として、例えば、Hashimotoらの方法(Applied and Environmental
Microbiology,71(1):312-319,2005)、がある。この方法では、生育させたプレート上の酵母株に35cmの距離からUVを20秒照射して、0.05~0.2%の変異体が得られている。この方法に準じて、ヒスチジン(His)、ロイシン(Leu)、アルギニン(Arg)、ウラシル(Ura)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Tri)の栄養要求性変異株を得ることができる。あるいは、遺伝子破壊カセットベクター等、標的とする遺伝子と相同的な塩基配列を持ち、遺伝子として働き得ないDNAを細胞中に導入して相同的組換えを起こさせ、不活化させる方法もある(特開2001-46053号公報)。発現を目視できない遺伝子の変異を行う場合は、細胞の薬剤(抗生物質等)感受性試験、細胞の生育速度、酵素活性試験、光学的方法又は栄養要求性試験により観察できるようなマーカー遺伝子を導入する必要がある。
【0018】
上述のような、栄養要求性マーカー遺伝子配列と、サッカロマイセス・セレビシエ由来のFLO遺伝子配列とを含み、前記FLO遺伝子の発現が前記発現プロモーターにより制御されるよう設計されたFLO遺伝子発現カセットを用いた本発明の酵母の作製方法としては、(A)サッカロマイセス・セレビシエの内在性FLO遺伝子の上流に栄養要求性マーカー遺伝子配列及び発現プロモーター配列を導入してサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体を作製する工程;(B)工程(A)で作製されたサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体由来の染色体DNAから、栄養要求性マーカー遺伝子配列、発現プロモーター配列、及び、FLO遺伝子配列を含むDNA断片を得る工程;(C)工程(B)で得られたDNA断片に含まれる栄養要求性マーカー遺伝子に対応する栄養要求性遺伝子に変異を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス変異体に、前記DNA断片をFLO遺伝子発現カセットととして導入し、クルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換体を作製する工程;の工程(A)~(C)を順次含む作製方法を挙げることができる。
【0019】
上記工程(A)において、サッカロマイセス・セレビシエ形質転換体は、栄養要求性遺伝子が変異したサッカロマイセス・セレビシエ菌株に、栄養要求性マーカー遺伝子配列と、サッカロマイセス・セレビシエ由来のFLO遺伝子配列とを含む形質転換用DNA断片を導入することにより作製することができ、上記栄養要求性遺伝子が変異したサッカロマイセス・セレビシエ菌株としては、市販のウラシル要求性遺伝子が変異したサッカロマイセス・セレビシエ BY4700株や、ウラシル、ロイシン、リシンの要求性遺伝子が変異したサッカロマイセス・セレビシエ BY4740株や、ヒスチジン、ロイシン、ウラシルの要求性遺伝子が変異したサッカロマイセス・セレビシエ BY4743株や、Hashimotoらの方法(Applied and Environmental
Microbiology,71(1):312-319,2005)に準じて作製したウラシル要求性遺伝子変異のクルイベロマイセス・マルシアヌス RAK3605等を用いることができる。また、上記形質転換用DNA断片の作製には、サッカロマイセス・セレビシエFLO遺伝子の配列情報に基づき、開始コドンATGからATGを含んで40番目の塩基までの配列からなるDNA断片を用いることができ、例えば、40塩基からなるDNA断片の塩基配列としては、FLO1遺伝子由来の場合は、atgacaatgcctcatcgctatatgtttttggcagtcttta(配列番号1)であり、FLO5遺伝子由来の場合は、atgacaattgcacaccactgcatatttttggtaatcttgg(配列番号2)であり、FLO9遺伝子由来の場合は、atgtctctggcacattattgtttactactagccatcgtca(配列番号3)であり、FLO10遺伝子由来の場合は、atgcctgtggctgctcgatatatatttttgaccggcctat(配列番号4)等を挙げることができる。これらのFLO遺伝子の塩基配列情報を基に作製したDNA断片をアニールして、発現プロモーター配列と栄養要求性マーカー遺伝子配列を有するプラスミドに挿入し、PCRによって所望の領域を増幅することでFLO遺伝子発現カセット用のDNA配列を得ることができる。上記発現プロモーター配列と栄養要求性マーカー遺伝子配列を有するプラスミドとしては、特に制限されるものではないが、例えば、Turgeonらの方法(Plasmid 51:24-36,2004)にしたがって作製された、発現プロモーターとしてTDH3pを、栄養要求性遺伝子としてウラシル要求性遺伝子を有するプラスミドURA3-TDH3p(「pST106」という)を好適に挙げることができる。
【0020】
遺伝子変異株に、形質転換用DNA断片を導入する方法は、DNA断片を導入する一般的な形質転換の手法を用いることができる。例えば、接合法、エレクトロポレーション法、コンピテントセル法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等の何れの方法も用いることができる。また、赤田らの方法(特開2005-269920号公報)により、アルカリ金属イオンとポリエチレングリコールを含有する培地でヒートショックを行ない、形質転換用DNA断片を導入することもできる。
【0021】
上記工程(A)において、ウラシル要求性遺伝子が変異したサッカロマイセス・セレビシエ BY4700株を用いたサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体の例として、URA3-TDH3p-FLO401を導入したサッカロマイセス・セレビシエ RAK3977株や、URA3-TDH3p-FLO405を導入したサッカロマイセス・セレビシエ RAK3979株や、URA3-TDH3p-FLO409を導入したサッカロマイセス・セレビシエ RAK3981株や、URA3-TDH3p-FLO4010を導入したサッカロマイセス・セレビシエ RAK3983株等の以下の実施例にて作製された形質転換体を挙げることができる。
【0022】
上記工程(B)において、工程(A)で作製されたサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体由来の染色体DNAから、FLO遺伝子発現カセットをコードするDNA断片を得る方法としては、上記サッカロマイセス・セレビシエ形質転換体の染色体DNAを、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)溶液等を用いた通常の方法で、溶解・攪拌・抽出・遠心分離の操作を行うことにより精製し、精製された染色体DNAを鋳型としてPCR反応を行う方法を挙げることができ、上記PCR反応の際に、栄養要求性マーカー遺伝子配列、発現プロモーター配列、及び、FLO遺伝子配列を含むFLO遺伝子発現カセット配列を含むDNA配列を増幅するよう設計したプライマーを用いることにより、FLO遺伝子発現カセットをコードするDNA断片を得ることができる。
【0023】
上記(C)においては、上記FLO遺伝子発現カセットに含まれる栄養要求性マーカー遺伝子に対応する染色体遺伝子に変異を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス栄養要求性変異体であれば、どのような栄養要求性遺伝子が変異したクルイベロマイセス・マルシアヌス変異体であっても使用することができ、ヒスチジン、ロイシン、ウラシル、メチオニン、リシン、アデニン、トリプトファン、アルギニン等の栄養要求性遺伝子が変異したクルイベロマイセス・マルシアヌス変異体を選択することができる。例えば、以下の実施例に示すように、FLO遺伝子発現カセットとして、URA3-TDH3p-FLO遺伝子断片を用いる場合には、ウラシル要求性遺伝子が変異したクルイベロマイセス・マルシアヌス菌株のクルイベロマイセス・マルシアヌス RAK3605株を用いて作製することができる。
【0024】
本発明の作製方法を用いて作製される凝集性及び耐熱性を有する酵母としては、特に制限されるものではないが、例えば、ウラシル要求性遺伝子が変異したクルイベロマイセス・マルシアヌス RAK3605株に、サッカロマイセス・セレビシエ RAK3977株由来のFLO遺伝子発現カセット(URA3-TDH3p-FLO1)を導入した、クルイベロマイセス・マルシアヌス RAK4299株(受託番号:NITE BP-514)や、サッカロマイセス・セレビシエ RAK3979株由来のFLO遺伝子発現カセット(URA3-TDH3p-FLO5)を導入した、クルイベロマイセス・マルシアヌス RAK4300株(受託番号:NITE BP-515)や、サッカロマイセス・セレビシエ RAK3981株由来のFLO遺伝子発現カセット(URA3-TDH3p-FLO9)を導入した、クルイベロマイセス・マルシアヌス RAK4301株(受託番号:NITE BP-516)や、サッカロマイセス・セレビシエ RAK3983株由来のFLO遺伝子発現カセット(URA3-TDH3p-FLO10)を導入した、クルイベロマイセス・マルシアヌス RAK4302株(受託番号:NITE BP-517)等を具体的に挙げることができる。なお、上記の4種のクルイベロマイセス・マルシアヌス変異株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されている。
【0025】
本発明において、形質転換した菌株を選択するための培地としては、通常使用されている酵母培養用の培地でも良く、例えば、実施例にあげたYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)や、YM培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、0.5%ペプトン、1%グルコース)を用いることができる。培地の炭素源、窒素源の種類や、アルカリ金属イオン等の培地への添加物については、形質転換体の選択が有効に行えるものであれば何れの培地でも良い。培養は、25~33℃、好ましくは28~30℃で、1~5日、好ましくは2~3日行う。
【0026】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0027】
<サッカロマイセス・セレビシエのFLO遺伝子の上流への過剰発現プロモーターTDH3pの挿入>
A.URA3-TDH3p断片の増幅
マーカー遺伝子であるURA3遺伝子配列と、発現プロモーター配列であるTDH3とを有するpST106プラスミドをテンプレートに、表1に示すプライマーを用いてPCR反応を行い、サッカロマイセス・セレビシエ形質転換用のDNA断片を作製した。上記プライマーはpST106プラスミドのURA3-TDH3p配列をはさむように設計されており、さらに、サッカロマイセス・セレビシエのFLO1、FLO5、FLO9又はFLO10遺伝子上流配列をそれぞれ40塩基含むよう設計されている。PCR反応液は、1対の0.2μMのプライマーを各々0.2μl、KOD plusバッファー1.0μl(TOYOBO社製)、0.2mM dNTPs1.0μl(TOYOBO社製)、0.2mM
MgSO0.8μl(TOYOBO社製)、0.4ng/μl pST106プラスミド0.4μl、KOD Plus DNA polymerase0.2μl(TOYOBO社製)、滅菌水6.2μlで、トータル10μlの液とした。反応は、まず94℃で1分間加熱し、その後、94℃で20秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で3分間の伸長反応を30サイクル行った。その結果、FLO1、FLO5、FLO9又はFLO10遺伝子上流の相同配列をそれぞれ持つDNA断片URA3-TDH3p-FLO401、URA3-TDH3p-FLO405、URA3-TDH3p-FLO409、URA3-TDH3p-FLO4010(以下、これらのDNA断片を総称してURA3-TDH3p-FLO40sということがある)を得た(図1、2)。
【0028】
【表1】
JP0005435657B2_000002t.gif

【0029】
B.サッカロマイセス・セレビシエへのURA3-TDH3p配列の導入
サッカロマイセス・セレビシエ BY4700株を、2mlのYPD培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)の入ったテストチューブに接種し、28℃、150rpmで一夜培養した。培養液1mlを、YPD培地9mlの入ったペトリ皿へ移し、28℃、150rpmで5時間培養した。培養液は、8500rpmで3分間の遠心分離を行い、細胞を集め、滅菌蒸留水で一度洗った。残渣は、滅菌蒸留水100μlで溶解した。形質転換用の溶液は、60%のPEG3350を115μl、4Mのリチウムアセテート5μl、蒸留水15μlを混合して調製した。細胞溶解液50μlは、形質転換用バッファー135μlの入ったマイクロ遠心分離用のチューブへ移し、サーモンDNA10μlと上記Aで作製した4種類のDNA断片(URA3-TDH3p-FLO40s)をそれぞれ5μlを加え、攪拌機を使って30秒間よく攪拌した。チューブを42℃で40分間熱処理をした。形質転換された細胞溶液200μlは、選択培地へ広げ、28℃で2-3日培養した。ウラシル欠損培地で生育した細胞のコロニーをランダムに採取して形質転換細胞を分離した。形質転換細胞は、YPD培地に生育させ、4℃で保存した。
【0030】
C.PCRによるサッカロマイセス・セレビシエ形質転換体の確認
1.PCR用DNAの調製
上記Bで作製した形質転換細胞を、1mlのYPD培地の入った12穴プレートのウエルに接種し、28℃で20時間培養した。培養後、YPD培地1mlを添加し、さらに28℃で4時間培養した。培養液1.5mlを採取して、マイクロ遠心分離用のチューブへ移し、12000rpmで3分間の遠心分離を行った後、上清を除き、残渣を滅菌蒸留水で一度洗った。蒸留水を除き、7.5μlの細胞を2.5μlの1%SDSを含むマイクロ遠心分離用のチューブへ移し、攪拌機を使って30秒間よく攪拌した。12000rpmで3分間遠心分離を行い、上清を取った。上清は、コロニーPCRに使用した。
【0031】
2.コロニーPCR
コロニーPCRは表2に示すプライマーを用いて行った。PCR反応液は、0.4μMの1対のプライマーを各々0.4μl、KOD Dashバッファー1.0μl(TOYOBO社製)、0.2mMdNTPs1.0μl(TOYOBO社製)、KOD Dash DNA polymerase0.2μl(TOYOBO社製)、滅菌水4.0μlで、上記で作製した形質転換細胞の染色体DNA5.0μlをテンプレートとして、トータル10μlの液でPCRを行った。反応は、まず94℃で1分間加熱し、その後、94℃で20秒間の熱変性、60℃で2秒間のアニーリング、74℃で4分間の伸長反応を30サイクル行った。その結果、図3で示すとおりサッカロマイセス・セレビシエ BY4700株にURA3-TDH3p-FLO40sが導入された形質転換体が作製されたことを確認した。ここで作製された4種類のサッカロマイセス・セレビシエの形質転換体は、内在性のFLO1、FLO5、FLO9又はFLO10遺伝子の上流に、選択マーカーであるURA3遺伝子配列と、TDH3プロモーター配列とを含むものである。
【0032】
【表2】
JP0005435657B2_000003t.gif

【実施例2】
【0033】
<サッカロマイセス・セレビシエ由来URA3-TDH3p-FLOsのクルイベロマイセス・マルシアヌスへの導入>
A.URA3-TDH3p-FLOsの増幅
実施例1で作製したサッカロマイセス・セレビシエの形質転換体由来の染色体DNAをテンプレートとして用いてクルイベロマイセス・マルシアヌス形質転換用のDNA断片(URA3-TDH3p-FLOs;FLO遺伝子発現カセット)を作製した。表3に示すように、各サッカロマイセス・セレビシエの形質転換体のURA3配列、TDH3p配列及び完全長FLO遺伝子を増幅するためのプライマーを設計し、DNA断片URA3-TDH3p-FLOsを増幅した。PCR反応は、実施例1Aと同様に行った。反応は、まず94℃で1分間加熱し、その後、94℃で20秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で5分間の伸長反応を30サイクル行った。その結果、増幅したPCR産物をアガロース電気泳動やUV照射の写真で分析した(図4)。
【0034】
【表3】
JP0005435657B2_000004t.gif

【0035】
B.クルイベロマイセス・マルシアヌスのURA3欠損株の作製
クルイベロマイセス・マルシアヌスのURA3欠損株は、Hashimotoらの方法(Appl Microbiol. Biotechnol., 69:
689-696, 2006)で取得した。すなわち、酵母株をYPDプレートにスプレッドし、UVを60秒照射後、28℃で一晩培養し、そのプレートを、Akadaらの方法(Yeast 23, 399-405, 2006)で調製した5-FOA培地にレプリカし、さらに3日間培養した。生育したコロニーを単離し、ウラシル要求性を確認後、形質転換が成功した株をRAK3605株とした。
【0036】
C.URA3-TDH3p-FLOsのクルイベロマイセス・マルシアヌス染色体への導入
クルイベロマイセス・マルシアヌス RAK3605を、25mlのYPD培地の入った250mlの三角フラスコに接種し、28℃で18時間培養した。培養液25mlを、50mlの遠心管に移し、8500rpm5分間の遠心分離を行い、細胞を集め、上清を除去した。形質転換用の溶液は、60%のPEG3350を400μl、1MのDTT60μl、4Mのリチウムアセテート30μl、蒸留水110μlを含む600μlとした。細胞を500μlの形質転換用溶液で溶解した。細胞溶解液100μlをマイクロ遠心分離用のチューブへ移し、上記作製のDNA断片5μlをFLO遺伝子発現カセットとして加え、攪拌機を使って30秒間よく攪拌した。チューブを47℃で15分間熱処理をした。形質転換された細胞溶液に100mlのYPD培地を加え、200μlをウラシル欠損培地へ広げ、28℃で2-3日培養した。ウラシル欠損培地で生育した細胞のコロニーを採取して形質転換細胞を分離した。形質転換細胞は、YPD培地に1-2日間生育させ、4℃で保存した。
【実施例3】
【0037】
<FLO遺伝子を発現するクルイベロマイセス・マルシアヌスとサッカロマイセス・セレビシエの凝集性>
FLO遺伝子を発現するクルイベロマイセス・マルシアヌスと、サッカロマイセス・セレビシエを、それぞれ5mlのYPD培地の入ったテストチューブに接種し、28℃、150rpmで24時間培養した。培養後、テストチューブを,攪拌機を使って15秒間よく攪拌し、テストチューブはラックに1時間立てておき、経時的に凝集速度を観察した。図5に示すように、FLO遺伝子過剰発現株では、野生株(WT:クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042、WT:サッカロマイセス・セレビシエ BY4700)に比較し、高い凝集性を示した。
【実施例4】
【0038】
<クルイベロマイセス・マルシアヌスのFLO遺伝子過剰発現株の高温での凝集性>
FLO遺伝子を発現するクルイベロマイセス・マルシアヌスを、24穴板の各ウエルに5mlのYPD培地が入っているウエルに接種し、28℃又は40℃、150rpmで24時間振とう培養した。図6に示すように、クルイベロマイセス・マルシアヌスのFLO遺伝子過剰発現株では、高温での凝集性が維持されていた。
[参考例]
以下に参考例として、直鎖状DNAを用いた効率的なクルイベロマイセス・マルシアヌスの形質転換方法の条件検討を行った結果を示す。
【0039】
<材料>
1.培地
YPD培地は、蒸留水中、1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコースを溶解し、121℃で20分間オートクレーブを掛けた。ウラシル欠損培地(以下「-U培地」とする)は、0.17%酵母由来の窒素源(アミノ酸と硫酸アンモニウムを除く)、0.5%硫酸アンモニウム、2%グルコース、さらに0.06%のアミノ酸混合物(4%アデノシンサルフェイト、16%L-トリプトファン、16%L-塩酸ヒスチジン、16%L-メチオニン、32%L-ロイシンと16%L-塩酸リシン)とした。これらの成分は蒸留水に溶解し、121℃で20分間オートクレーブに掛ける前に、1N水酸化ナトリウムでpH6.0に調製した。固体培地にする場合は、2%寒天を加えた。
【0040】
2.酵母菌株
サッカロマイセス・セレビシエBY4704(ATCC200868)より、形質転換のためのURA3遺伝子断片を得た。宿主としては、クルイベロマイセス・マルシアヌスのURA3欠損株であるDMKU3-1042、NCYC587(National Collection of Yeast Cultures,Institute
of Food Research,Norwich Research Park,Colney,Norwich,United
Kingdom,NR4 7UA.より入手)、IFO0273とIFO0277(前記2種は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRCより入手)を使用した。すべての酵母は、形質転換に使用する前に、新鮮なYPD培地のプレート上で、28°C、1~2日間培養した。
【0041】
3.DNA断片
サッカロマイセス・セレビシエ BY4704由来のURA3遺伝子断片は、KOD-Plus DNA ポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用いてPCRを行い増幅した。プライマーセットは、URA3-40(5’-atcaaagaaggttaatgtggctgtgg-3’:配列番号24)とURA3-40c(5’-ttcgtcattatagaaatcattacgac-3’:配列番号25)、URA3-300(5’-gaagagtattgagaagggcaac-3’:配列番号26)とURA3-300c(5’-tgttgtgaagtcattgacacag-3’:配列番号27)、またはURA3-1000(5’-tactaggaaatgagaatttttggaa-3’:配列番号28)とURA3-1000c(5’-tgcgattggcagtggaacagtggta-3’:配列番号29)を適宜用いた。PCRは、まず94℃で1分間加熱し、その後、94℃で20秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で3分間の伸長反応を30サイクル行った。
【0042】
<形質転換方法>
URA3遺伝子欠損株である、クルイベロマイセス・マルシアヌス DMKU3-1042菌株細胞を、YPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース、2%寒天)の入ったシャーレ上で28℃、一夜培養し、そこから試験用の細胞を採取した。細胞は、YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)25mlの入った三角フラスコへ接種し、28℃で17時間、通気下150rpmで振とう培養した。培養液50mlを取り、遠心分離管に移して、8000rpmで2分間遠心分離を行った。上清を除き、残渣に形質転換用バッファー(60%PEG3350
2ml、4Mリチウムアセテート 150μl、1M DTT 300μl、滅菌蒸留水550μl)を1.4ml加え、15秒間攪拌混合し、混合溶液をマイクロ遠心分離管に移した。12000rpmで15秒間超遠心分離を行い、上清を除いた。残渣に、前記形質転換用バッファー500μlを加え、良く攪拌した。混合液100μlをマイクロ遠心分離管に移し、試験用には、DNA断片(URA3)25ng(0.5μl)を添加し、対照には添加しなかった。ミクサーでよく混合し、47℃で15分間ヒートショックを行って培養した。次いで、反応液に滅菌水及び-U培地150μlを加えて懸濁し、混合液をスプリーダーで-U固体培地のプレートに伸ばし、28℃で2~3日培養した。
【0043】
URA3-40(配列番号24)とURA3-40c(配列番号25)で増幅したDNA断片を用いて行った結果を図14に示した。対照のURA3遺伝子欠損株では、菌体の生育は見られず、試験用では、多くのコロニーが見られ、細胞にURA3遺伝子のDNAが取り込まれたことが証明された。
【0044】
<酵母細胞濃度の影響>
YPD液体培地中で生育させた酵母細胞の濃度は、600nm(OD600)の吸光度で測定した。42°Cで2時間のヒートショック処理を行うことを除いては、実施例1と同じ条件下で形質転換を行った。その結果、図9に示すように、酵母細胞の濃度は濃い程反応性が高いことが明らかになった。
【0045】
<形質転換用反応液組成の影響>
1.ポリエチレングリコール(PEG)の分子量と希釈溶媒
実施例1と同じ条件下で、形質転換用バッファー中のポリエチレングリコール(PEG)の分子量を変えて形質転換を行った。PEGは、PEG3350(平均分子量3350)とPEG600(平均分子量600)を用い、形質転換用バッファー中、最終濃度40%となるようにした。また、対照としてPEGを加えない場合も同様に行った。図10に示すように、PEG3350を添加する方が効果的な結果であった。
【0046】
2.DTT
上述の条件と同じ条件下で、形質転換用バッファー中のDTTの最終濃度を0から100mMまで変えて形質転換を行った。その結果、図11に示すように濃度依存的に、DTTの効果が明らかになった。
【0047】
<サッカロマイセス セレビシエ染色体由来のDNA断片の大きさの影響>
上述の条件と同じ条件下で、サッカロマイセス セレビシエの染色体URA3DNA断片を、増幅プライマーのみを変えて形質転換を行った。用いたプライマーは、DNAサイズが1.702kbとなるURA3-300(配列番号26)とURA3-300c(配列番号27)のセット、またはサイズが2.804kbとなるURA3-1000(配列番号28)とURA3-1000c(配列番号29)のセットを用いPCRで増幅した。その結果、図12に示すようにPCRでは、いずれの場合にも高い形質転換効率を示した。なお、反応液の懸濁は-U培地を用いる方が高い形質転換効率を示した。
【0048】
<ヒートショックの時間と温度の影響>
上述の条件と同じ条件下で、DNA断片を加えた後の反応液のヒートショックについて、温度と時間のみを変えて形質転換を行った。ヒートショックは、42℃、47℃または49℃の温度で、1分間、5分間、15分間または45分間行った。その結果、図13に示すように、温度により効果的な時間が異なることが明らかになった。
【0049】
<宿主クルイベロマイセス マルシアヌスの菌株の選択>
上述の条件と同じ条件下で、クルイベロマイセス マルシアヌス DMKU3-1042と同じURA3遺伝子欠損株である、NCYC587、IFO0273およびIFO0277を用いて形質転換を行った。その結果、図14に示すように、宿主としては、クルイベロマイセス マルシアヌス DMKU3-1042を用いることが最も効果的であることが分かった。なお、反応液の懸濁は-U培地を用いる方が高い形質転換効率を示した。
【0050】
本発明の酵母の形質転換方法は、従来の人為的形質転換法と比べて、操作が簡便であり、形質転換に要する時間が短く、且つ1μgのDNAあたり10の6乗個以上という高い形質転換率を有し、さらに形質転換細胞の保存が良好で、継代が充分に行える利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、バイオエタノールの工業生産に有利な、凝集性と耐熱性に優れたエタノール産生酵母を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
12
【図14】
13