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明細書 :プラスチック標準物質およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4154689号 (P4154689)
公開番号 特開2004-257809 (P2004-257809A)
登録日 平成20年7月18日(2008.7.18)
発行日 平成20年9月24日(2008.9.24)
公開日 平成16年9月16日(2004.9.16)
発明の名称または考案の名称 プラスチック標準物質およびその製造方法
国際特許分類 G01N  23/223       (2006.01)
G01N   1/00        (2006.01)
FI G01N 23/223
G01N 1/00 102B
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2003-047422 (P2003-047422)
出願日 平成15年2月25日(2003.2.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2002年10月28日~29日 日本分析化学会X線分析研究懇談会主催の「第38回X線分析討論会」において文書をもって発表
審査請求日 平成17年7月12日(2005.7.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】中村 利廣
【氏名】中野 和彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100107102、【弁理士】、【氏名又は名称】吉延 彰広
【識別番号】100094330、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 正紀
【識別番号】100079175、【弁理士】、【氏名又は名称】小杉 佳男
審査官 【審査官】遠藤 孝徳
参考文献・文献 特開平6-235688(JP,A)
特開平5-60705(JP,A)
特公平5-6571(JP,B2)
特許第3246022(JP,B2)
特開平11-242008(JP,A)
特公平7-26923(JP,B2)
特開平1-250743(JP,A)
特許第3119973(JP,B2)
特許第3142690(JP,B2)
実開平3-52609(JP,U)
特開平2-57951(JP,A)
中野和彦・中村利廣,“蛍光X線分析法によるプラスチックフィルム中の微量金属の定量”,X線分析討論会講演要旨集,日本,日本分析化学会X線分析研究懇談会,2000年11月16日,第36回、11,p.21-22
中野和彦・中村利廣,“蛍光X線分析法によるプラスチック中の微量金属の定量”,X線分析討論会講演要旨集,日本,日本分析化学会X線分析研究懇談会,2001年10月29日,第37回、P4,p.81-82
A. Lamberty, W. Van Borm, P. Quevauviller,"Collaborative study to improve the quality control of trace element determinations in polymers. Part2. Certification of polyethylene reference materials (CRMs 680 and 681) for As, Br, Cd, Cl, Cr, Hg, Pb, and S content",Fresenius's Journal of Analytical Chemistry,Springer-Verlag,2001年 8月,第370巻、第7号,p.811-818
調査した分野 G01N 23/00 - 23/227
G01N 1/00 - 1/44
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
プラスチック基材中に既知の元素が既知量分散した薄膜からなるプラスチック標準物質において、
このプラスチック標準物質の複数箇所に所定の励起ビームを照射し前記元素から発生する蛍光X線のX線強度のばらつきが、相対標準偏差10%以下に抑えられたものであることを特徴とするプラスチック標準物質。
【請求項2】
前記元素が、金属元素であることを特徴とする請求項1記載のプラスチック標準物質。
【請求項3】
プラスチック基材中に既知の元素が既知量分散した薄膜からなるプラスチック標準物質の製造方法において、
常温下において液状のプラスチック基材、既知の元素を既知量含む標準溶液及び硬化剤混合する混合工程と、
前記混合工程を実施することで得られた混合溶液が硬化する前に、該混合溶液から薄膜を形成する形成工程と、
前記形成工程を実施することで得られた薄膜を硬化させる硬化工程と、
硬化された薄膜の複数個所に所定の励起ビームを照射し前記元素から発生する蛍光X線のX線ばらつきが相対標準偏差で10%以下であるものを合格とする判断工程と
を有することを特徴とするプラスチック標準物質の製造方法。
【請求項4】
前記標準溶液が、金属塩類および有機金属化合物の少なくともいずれか一方を用いて調整されたことを特徴とする請求項3記載のプラスチック標準物質の製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、既知の元素がプラスチック基材中に既知量分散し、所定の厚さを有するプラスチック標準物質、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
重合を促進するため、あるいは物理的、化学的な特性を付与するため、プラスチックには微量の金属が添加されていることが多い。ところが、この金属が所定量を超えて添加されていると、添加された金属が、人体や環境にとって有害なものとして問題になる。そのため、今日では、プラスチック中に金属を所定量以上添加することを規制する動きが出てきており、これに伴い、プラスチック製品に含まれる金属元素の濃度を正確に求めることが望まれる。
【0003】
ところで、従来より、プラスチック製品に含まれる金属元素の定量には、原子吸光光度法が用いられている。しかしながら、この原子吸光分析法では、試料が分析後に原形を留めておらず、また、前処理が煩雑である。
【0004】
そこで、プラスチック製品に含まれる金属元素の定量に、前処理が比較的簡単で、試料が分析後でも原形を留めている蛍光X線分析法を用いることが考えられる。この蛍光X線分析法の中には、既知の標準試料から得た、分析元素の濃度とX線強度との対応関係を表す検量線を用いる検量線法や、既知の標準試料を測定することで得た測定X線強度と、その標準試料から理論的に算出した理論X線強度との比(装置感度係数)を用いるファンダメンタルパラメータ法(以下、FP法と称する)がある。これらいずれの方法においても、既知の標準試料、すなわち分析対象試料の基材と同じ基材に、分析元素を既知量添加した試料が必要になる。
【0005】
既知の元素をプラスチック基材に既知量添加したプラスチック標準試料としては、ポリエチレンパウダーに分析元素を添加し、200℃でポリエチレンパウダーを融解させながら混合、撹拌を行い、押出成型によって得られたブロック状のプラスチック標準試料が知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0006】
【非特許文献1】
エー・ラーンベルトリィ、ダブリュ・ヴァン・ボールム アンド ピー・ケヴォーヴィエ(A. Lambertry, W. Van Borm and P. Que vauviller)著、「コラボレイティヴ スタディ トゥー インプ ルーヴ ザ クオリティ コントロール オブ トレース エレメント デターミネーションズ イン ポリマーズ。パート2。サーティフィケーション オブ ポリエチレン リファレンス マテリアルズ(CMRs 680 アンド 681)フォー As、Br、Cd、Cl、Cr、Hg、Pb、アンド S コンテント(Collaborati ve study to improve the quality control of trace element determinations in polymers. Part 2. Certification of polyethylene reference materials (CRMs 680 and 681) for As, Br, Cd, Cl, Cr, Hg, Pb, and S content)」、フレズィーニオス ジャーナル オブ アナリティカル ケミストリ、ベルリン、スプリンガー(Fresenius' journal of analytical chemistry, Berlin, Springer)、370、811-818(2001)
【非特許文献2】
ピー・エイチ・ケヴォーヴィエ(Ph. Quevauviller)著、「サー ティファイド オブ リファレンス マテリアルズ フォー ザ クオリティ コントロール オブ インオーガニック アナリシス オブ マニュファクチュアド プロダクツ(グラス、ポリマーズ、ペイントコーティングズ)(Certified of reference materials for the quality control of inorganic analysis of manuf actured products (glass, polymers, paint coatings))」、トレンズ インアナリティカル ケミストリ、アムステルダム、ザ ネザーランズ、エルゼヴィエ サイエンティフィック パブシー・オー(trend's in analytical chemistry, Amsterdam, The Netherlands, Elsevier Scientific Pub. Co.)、 vol.20、 no.8 446-456(2001)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ポリエチレンを融解状態にしてもある程度の粘度は残り、混合、撹拌を行っても添加した分析元素が均一に分散しにくい。そのため、これらの非特許文献に記載された標準試料から得た検量線は直線性が劣り、また装置感度係数には誤差が生じやすく、正確な分析結果を得られない恐れがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、正確な分析結果を得ることができるプラスチック標準物質、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明のうちのプラスチック標準物質は、プラスチック基材に既知の元素が既知量分散した薄膜からなるプラスチック標準物質において、
このプラスチック標準物質の複数箇所に所定の励起ビームを照射し前記元素から発生する蛍光X線のX線強度のばらつきが、相対標準偏差10%以下に抑えられたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明のプラスチック標準物質によれば、上記相対標準偏差というパラメータを用いて、上記元素が均一に含まれていることを定義しており、このプラスチック標準物質を用いることで、良好な直線性を有する検量線や、FP法に用いる正確な装置感度係数を得ることができる。したがって、このプラスチック標準物質から得た検量線や装置感度係数を用いることで正確な分析結果を得ることができる。
【0011】
ここで、本発明のプラスチック標準物質は、蛍光X線分析において試料の厚さの影響が出る有限厚の厚さであっても、試料の厚さの影響が出ない無限厚の厚さであってもよく、公的機関等で厚さの保証を得られる程度に厚さのバラツキが抑えられたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のプラスチック標準物質において、上記元素は、金属元素であってもよい。
【0013】
上記元素が金属元素であることで、このプラスチック標準物質を、プラスチック製品に含まれる有害な金属元素の定量分析用の検量線や装置感度係数を求めるための標準試料として使うことができる。
【0014】
上記目的を達成する本発明のうちのプラスチック標準物質の製造方法は、プラスチック基材中に既知の元素が既知量分散した薄膜からなるプラスチック標準物質の製造方法において、
常温下において液状のプラスチック基材、既知の元素を既知量含む標準溶液及び硬化剤混合する混合工程と、
上記混合工程を実施することで得られた混合溶液が硬化する前に、その混合溶液から薄膜を形成する形成工程と、
上記形成工程を実施することで得られた薄膜を硬化させる硬化工程と、
硬化された薄膜の複数箇所に所定の励起ビームを照射し前記元素から発生する蛍光X線のX線強度のばらつきが、相対標準偏差10%以下であるものを合格とする判断工程と
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明のプラスチック標準物質の製造方法によれば、上記プラスチック基材への上記元素の混合が、常温下において液状の状態で行われるため、上記元素の混合が均一に行われる。また、相対標準偏差10%以下としたことによって、プラスチック標準物質の精度が大幅に改善される。したがって、本発明のプラスチック標準物質の製造方法によって製造したプラスチック標準物質から得た検量線や装置感度係数を用いることで正確な分析結果を得ることができる。また、上記形成工程では、有限厚の厚さに正確に調整することができる。したがって、本発明のプラスチック標準物質の製造方法によって製造されたプラスチック標準物質は、厚さについて正確であることが保証される。
【0016】
ここで、上記混合工程が、金属塩類および有機金属化合物の少なくともいずれか一方を用いて調整された上記標準溶液を混合する工程であってもよい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明のうちのプラスチック標準物質の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0019】
本実施形態のプラスチック標準物質の製造方法は、混合工程11、形成工程12、および硬化工程13を、この記載順に実施する方法である。
【0020】
まず、混合工程11を実施する前に、常温下で液状のプラスチック基材と、既知の元素を既知量含む標準溶液と、液状の硬化剤との3つの溶液を用意する。標準溶液は、塩化カルシウムにより脱水処理を施したキシレンに、分析元素を含む試薬を溶解することで得る。分析元素を含む試薬をキシレンに溶解するにあたっては、標準溶液中の分析元素の濃度が把握できるよう、試薬を秤量してからキシレンに溶解する。この試薬としては、有機金属化合物あるいは金属塩類が用いられる。
【0021】
混合工程11では、液状のプラスチック基材に標準溶液を所定の濃度で添加し、30秒程度の撹拌を行うことで、用意した液状のプラスチック基材と、標準溶液と、液状の硬化剤を混合し、混合溶液を得る。
【0022】
形成工程12では、混合工程11を実施することで得られた混合溶液が硬化する前に、その混合溶液から所望の厚さの薄膜を形成する。
【0023】
図2は、図1に示す形成工程で用いられる簡易型の形成器を示す図である。
【0024】
図2に示す形成器200は、表面が平坦なガラスプレート210と、アプリケータ220とを備えている。アプリケータ220は、ガラスプレート210の幅方向に延在する丸い棒体221と、その棒体221の両端に設けられたリング状の膜厚調整具222を有する。膜厚調整具222は、ガラスプレート210の上に載置されており、ガラスプレート210の表面と棒体221との間には隙間が生じている。まず、アプリケータ220を、ガラスプレート210の長手方向一端側に寄せてから、混合溶液をガラスプレート210の上に垂らす。次いで、膜厚調整具222をガラスプレート210に接触させた状態で、アプリケータ220をガラスプレート210の長手方向他端側に向かってスライドさせる。すると、ガラスプレート210上の混合溶液が棒体221によって掻き取られ、ガラスプレート210の表面には、その表面と棒体221との隙間分の厚さを有する薄膜が残る。この形成器200では、リング状の膜厚調整具222の径を変更することで、所望の厚さの薄膜を得ることができる。蛍光X線分析では、試料の厚さがある一定未満の厚さになると測定X線強度に試料の厚さの影響が表れるため、試料の厚さを把握しておくことが重要になる。ここでは、試料の厚さの影響が出ない厚さを無限厚と称し、反対にその影響が出る厚さを有限厚と称することにする。ファンダメンタルパラメータ法(FP法)を用いた分析では、実際に測定した測定X線強度と理論的に算出した理論X線強度との比(装置感度係数)を得る際に、プラスチック標準試料の厚さを正確に把握しておくことができれば、厚さによる影響の補正が容易である。食品に触れるプラスチック製品にはシート状のものが多く、試料の厚さの影響が出やすい。シート状のプラスチック製品を分析するにあたり、プラスチック標準試料の正確な厚さが不明である場合には、無限厚のプラスチック標準試料(ブロック状のプラスチック標準試料)を作成し装置感度係数を求めてから、分析対象であるシート状のプラスチック製品を何枚も重ね無限厚にしてX線強度を測定する。一方、本実施形態のプラスチック標準物質の製造方法では、形成工程12において、有限厚の厚さに正確に調整することができる。したがって、本実施形態のプラスチック標準物質の製造方法によって製造されたプラスチック標準物質は、厚さについて正確であることが保証され、シート状のプラスチック製品を何枚も重ねなくても、FP法を用いた分析によって、1枚のシート状のプラスチック製品から正確な分析結果を得ることができる。
【0025】
図1に示す硬化工程13では、形成工程12を実施することで得られた薄膜を硬化させプラスチック標準物質を得る。薄膜の硬化は自然乾燥によって行う。
【0026】
このようにして製造されたプラスチック標準物質は、既知の金属元素がプラスチック基材中に既知量分散し、所定の厚さを有するものであり、装置感度係数や、分析元素の濃度とX線強度との対応関係を表す検量線を得るために用いられる。
【0027】
装置感度係数や検量線を得るためには、まず、このプラスチック標準物質を試料ホルダにセットし、プラスチック標準物質のX線強度を蛍光X線分析装置で測定する。
【0028】
図3は、図1に示すフロチャートに従って製造されたプラスチック標準物質を試料ホルダにセットする様子を示す図である。
【0029】
図3には、図1に示すフロチャートに従って製造されたプラスチック標準物質1と、試料ホルダ2と、ホルダマスク3と、アクリル板4が示されている。アクリル板4は、試料ホルダ2の中に挿入される。プラスチック標準物質1は、試料ホルダ2からの散乱を抑えるため、試料ホルダ2内のアクリル板3の上に載置され、試料ホルダ2にセットされる。プラスチック標準物質1のセットが完了すると、試料ホルダ2に上からホルダマスク3が嵌められる。
【0030】
試料ホルダ2にセットされたプラスチック標準物質1は、不図示の蛍光X線分析装置によって、励起ビーム(X線ビーム)が照射され発生する蛍光X線強度が測定される。
【0031】
以下、各種の実施例を用いて説明する。
【0032】
まず、各溶液の調整について説明する。液状のプラスチック基材としては、エポック社製のクリアポリエステルを用いた。また、液状の硬化剤には、エポック社製のパーメックNを1ml用いた。
【0033】
標準溶液の調整では、分析元素を含む試薬を溶解するキシレン溶液として、純正化学社製の特級キシレンを塩化カルシウムによって脱水処理したものを用いた。
【0034】
Cr(クロム)を含む試薬としては、ACROS社製のクロムアセチルアセトナト97%(C1521CrO6)を用いた。この試薬を1.2289g秤り取り、常温下でキシレン1001mlに溶かし、Cr濃度が2044m/mppmの標準溶液とした。
【0035】
Co(コバルト)を含む試薬としては、和光純薬社製のTris2,4-ペンタンジオネートコバルト(III)(C1521CoO6)を用いた。この試薬を0.4013g秤り取り、常温下でキシレン100m1に溶かし、Co濃度が750m/mppmの標準溶液とした。
【0036】
Ni(ニッケル)を含む試薬としては、ACROS社製のニッケルアセチルアセトナト・二水和物99%(C10144Ni・2H2O)を用いた。この試薬を0.2145g秤り取り、常温下でキシレン100mlに溶かし、Ni濃度が500m/mppmの標準溶液とした。
【0037】
Ge(ゲルマニウム)を含む試薬としては、東京化成工業社製のテトラフェニルゲルマニウム((C654Ge)を用いた。この試薬を0.4390g秤り取り、80℃の湯浴中でキシレン100m1に溶かし、Ge濃度が1000m/mppmの標準溶液とした。
【0038】
As(ヒ素)を含む試薬としては、和光純薬社製のトリフェニルアルシン95%(C1815As)を用いた。この試薬を0.2581g秤り取り、常温下でキシレン100mlに溶かし、As濃度が693.2m/mppmの標準溶液とした。
【0039】
Pb(鉛)を含む試薬としては、ACROS社製のテトラフェニル鉛97%(C1521CrO6)を用いた。この試薬を0.1426g秤り取り、常温下でキシレン100mlに溶かし、Pb濃度が64410m/mppmの標準溶液とした。
【0040】
Sb(アンチモン)を含む試薬としては、和光純薬社製の塩化アンチモン(SbCl3)を用いた。この試薬を0.3935g秤り取り、常温下でキシレン100mlに溶かし、Sb濃度が1947m/mppmの標準溶液とした。
【0041】
キシレン溶液、分析元素を含む試薬、および硬化剤の混合にあたっては、これら3つの溶液を混合することによって得られる混合溶液中に含まれる分析元素が所望の濃度になるように調整し、図1に示す混合工程11において、これら3つの溶液を一つにして30秒程度撹拌した。
【0042】
次に、図2に示す形式器を用いて薄膜を形成し、図1に示す硬化工程13を実施することでプラスチック標準物質を得た。分析元素を含む試薬は、1つのプラスチック標準物質を作製するにあたり1種類しか用いなかった。したがって、ここでは、Cr,Co,Ni,Ge,As,Pb,およびSbの7元素のうちのいずれか1つの元素を含む計7種類のプラスチック標準物質を得た。
【0043】
まず、表1から表7に、これらのプラスチック標準物質の厚み再現性を確認した結果をCr,Co,Ni,Ge,As,Pb,Sbの順に示す。
【0044】
【表1】
JP0004154689B2_000002t.gif
【0045】
【表2】
JP0004154689B2_000003t.gif
【0046】
【表3】
JP0004154689B2_000004t.gif
【0047】
【表4】
JP0004154689B2_000005t.gif
【0048】
【表5】
JP0004154689B2_000006t.gif
【0049】
【表6】
JP0004154689B2_000007t.gif
【0050】
【表7】
JP0004154689B2_000008t.gif
【0051】
Sbのプラスチック標準物質を除いた各プラスチック標準物質については、厚さが異なる5通りのサンプルを5つずつ作製し、Sbのプラスチック標準物質については、厚さが異なる10通りのサンプルを5つずつ作製した。作製したいずれのサンプルについても、マイクロメータを用いて厚さを測定した。各表には、横一列ごとにサンプルNo,厚み(単位;μm),相対標準偏差(R.s.d(単位;%))が示されている。各表に示す相対標準偏差から、作製したサンプルの厚さのバラツキは、厚さ1000um程度のもので3%程度であり、厚さ100um程度のものでも5%程度に抑えられている。この結果から、本実施形態の形成工程12において、有限厚の厚さに正確に調整することができることが確認された。
【0052】
続いて、表8に、3種類のプラスチック標準物質それぞれにおける分析元素の分散具合を確認した結果を示す。
【0053】
【表8】
JP0004154689B2_000009t.gif
【0054】
ここでは、分析元素の分散具合は、プラスチック標準物質の厚さに関係ないことから、十分な蛍光X線強度を得るため、無限厚(5m厚のブロック状)のプラスチック標準物質を作製した。このブロック状のプラスチック標準物質の作製では、図1に示す形成工程12に代えて、混合溶液を、直径45mm,深さ5mmの鋳型に流し込む工程を実施し、その後6時間ほど放置して硬化させた。
【0055】
分析元素の分散具合を確認する実験では、Crを48.1mass ppm含むものと、Coを37.51mass ppm含むものと、Geを23.7mass ppm含むものとの3種類のブロック状のプラスチック標準物質について元素マッピングを行った。ここでの元素マッピングでは、X線ビームを走査することで、1つのプラスチック標準物質につき145箇所にわたって分析元素から発生するKα線を測定した。表8には、縦1列ごとに、測定したKα線のX線強度が示されている。ここに示すKα線のX線強度は、上から順に、平均X線強度,最大X線強度,最小X線強度(単位はいずれもkcps(counts per second))である。また、145箇所にわたって計測したKα線のX線強度の分布は正規分布になったことから、これらのX線強度の下には、3σの値が示されている。さらに一番下には、相対標準偏差(R.s.d)(単位;%)の値が示されている。表8に示す相対標準偏差から、いずれのプラスチック標準物質においても、Kα線のX線強度のばらつきは、相対標準偏差10%以下に抑えられていることがわかる。なお、CrのX線強度とCoのX線強度に3σを超えるものがあったが、145箇所中いずれも1箇所のみであった。以上のことから、本実施形態のプラスチック標準物質の製法方法によって製造されたプラスチック標準物質には、分析元素が均一に含まれていることがわかる。
【0056】
次に、Cr,Co,Ni,Ge,As,およびPbの各プラスチック標準物質については、分析元素の濃度が異なる5通りの薄膜状のサンプルを作製し、Sbのプラスチック標準物質については、Sbの濃度が異なる10通りの薄膜状のサンプルを作製し、作製したサンプルに含まれる分析元素の濃度と、それぞれのKα線の測定X線強度との関係を表す検量線を作成した。しかしながら、作製したプラスチック標準物質はいずれも有限厚(数μm)であり、このため、厚さの影響により検量線の直線性が劣っていた。そこで、作製したプラスチック標準物質の理論X線強度を公知の理論計算により算出し、測定X線強度と算出した理論X線強度との関係を表す感度校正曲線を作成した。
【0057】
図4から図10までは、それぞれ、Cr、Co、Ni、Ge、As、Sb、およびPbのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【0058】
これらの各図には、左右それぞれに1つずつグラフが示されているが、左側に示すグラフは検量線のグラフであり、その縦軸は測定X線強度(単位;kcps)を表し、その横軸は分析元素の濃度(単位;mass ppm)を表す。各図に示すように、いずれの検量線も直線性が悪いことがわかる。一方、右側に示すグラフは感度校正曲線のグラフであり、その縦軸は測定X線強度(単位;kcps)を表し、その横軸は理論X線強度(単位;kcps)を表す。各図に示すように、いずれの感度校正曲線も直線性が良好であり、この感度校正曲線の傾きを装置感度係数として、FP法を実施すれば、正確な分析結果を得ることができる。
【0059】
最後に、本実施形態のプラスチック標準物質の製造方法によって製造したプラスチック標準物質の保存安定性について説明する。ここでは、Crの濃度が異なる10通りのサンプルを作製しておき、200日間にわたって計42回、Kα線のX線強度を測定した。サンプルには、十分な蛍光X線強度を得るため、無限厚(5m厚のブロック状)のプラスチック標準物質を用いた。
【0060】
図11は、Crのプラスチック標準物質の保存安定性を確認した結果を示すグラフである。
【0061】
図11に示すグラフの縦軸はKα線の測定X線強度(単位;kcps)を示し、横軸は時間(単位;日)を示す。また、図11の右上の枠内に、各サンプルにおけるCrの濃度(単位;mass ppm)と、各サンプルごとの、計42回の測定におけるX線強度の相対標準偏差(R.s.d)(単位;%)を上下2段に示す。図11に示すように、Crの濃度が低いサンプルほど測定X線強度も低いが、200日経過したサンプルでも測定X線強度はほとんど変化していない。また、各サンプルの相対標準偏差は0.94%~1.4%であり、X線計数の統計的な誤差範囲内に収まっている。さらに、サンプルには、X線ビームの照射による若干の変色は見られたものの、変形やひび割れなどの損傷は認められなかった。これらのことから、本実施形態のプラスチック標準物質の製造方法によって製造したプラスチック標準物質の保存安定性は良好であることが確認された。
【0062】
なお、標準溶液の調整において、Al、Si、またはVを含む試薬を用いてもよい。Al(アルミニウム)を含む試薬としては、和光純薬社製のTris2,4-ペンタンジオネートアルミニウム(C10145Al)を用い、この試薬を1.0397g秤り取り、常温下でキシレン100mlに溶かし、Al濃度が1000m/mppmの標準溶液とすればよい。また、V(バナジウム)を含む試薬としては、純正化学社製のバナジルアセチルアセトナト99%(C10145V)を用い、この試薬を0.2265g秤り取り、70℃の湯浴中でキシレン100mlに溶かし、V濃度が500m/mppmの標準溶液とすればよい。さらに、Si(ケイ素)を含む試薬としては、東京化成工業社製のテトラエチルオルトクイ酸((C254Si)を用いればよい。
【0063】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、正確な分析結果を得ることができるプラスチック標準物質、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のうちのプラスチック標準物質の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す形成工程で用いられる簡易型の形成器を示す図である。
【図3】図1に示すフロチャートに従って製造されたプラスチック標準物質を試料ホルダにセットする様子を示す図である。
【図4】Crのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図5】Coのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図6】Niのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図7】Geのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図8】Asのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図9】Sbのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図10】Pbのプラスチック標準物質を用いて作成した検量線、および感度校正曲線を示す図である。
【図11】Crのプラスチック標準物質の保存安定性を確認した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 プラスチック標準物質
2 試料ホルダ
3 ホルダマスク
4 アクリル板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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