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明細書 :排尿障害治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-084283 (P2014-084283A)
公開日 平成26年5月12日(2014.5.12)
発明の名称または考案の名称 排尿障害治療薬
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  13/00        (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
FI A61K 45/00
A61K 37/02 ZNA
A61P 13/00
C07K 14/435
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 35
出願番号 特願2012-232440 (P2012-232440)
出願日 平成24年10月19日(2012.10.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 1.平成24年4月24日、http://twitter.com/kaken_nii、http://kaken.nii.ac.jp/d/p/24791640.en.html 2.日本排尿機能学会、日本排尿機能学会誌、第23巻1号、平成24年7月31日 3.第19回日本排尿機能学会、平成24年8月30日 4.Nagoya Shinshu Forum 2012、平成24年9月1日 5.平成24年8月21日、http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~yshinozaki/pharmacometrics.html、http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~yshinozaki/Oyoyakuriprogram.pdf 6.第14回応用薬理シンポジウム、平成24年9月3-4日
公序良俗違反の表示 1.PHOTOSHOP
発明者または考案者 【氏名】宮本 達也
【氏名】武田 正之
【氏名】小泉 修一
【氏名】中込 宙史
出願人 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA09
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA44
4C084NA14
4C084ZA81
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA17
4H045BA18
4H045CA50
4H045EA20
要約 【課題】 新規のメカニズムを有する排尿障害治療薬、又は治療方法。
【解決手段】 Piezo1の機能抑制物質を含む、排尿障害治療薬を用いる。又は、(f)配列番号1で示されるアミノ酸配列、(g)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(h)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする核酸がコードするアミノ酸配列、(j)配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、排尿障害治療薬を用いてもよい。
【選択図】 図20
特許請求の範囲 【請求項1】
Piezo1の機能抑制物質を含む、排尿障害治療薬。
【請求項2】
前記Piezo1は、膀胱上皮において発現しているPiezo1である、請求項1に記載の排尿障害治療薬。
【請求項3】
前記機能抑制物質は、膀胱上皮におけるCaイオンの細胞内への流入を阻害する物質である、請求項1又は2に記載の排尿障害治療薬。
【請求項4】
前記機能抑制物質は、膀胱上皮におけるTRPV4の機能を実質的に阻害しない物質である、請求項3に記載の排尿障害治療薬。
【請求項5】
前記機能抑制物質は、
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
(d)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする核酸がコードするアミノ酸配列、
(e)配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列、
からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項1~4いずれかに記載の排尿障害治療薬。
【請求項6】
前記機能抑制物質は、GsMTx-4である、請求項1~5いずれかに記載の排尿障害治療薬。
【請求項7】
(f)配列番号1で示されるアミノ酸配列、
(g)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、
(h)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする核酸がコードするアミノ酸配列、
(j)配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列、
からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、排尿障害治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿障害の治療薬、又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の排尿機構が正常に作用しなくなると、例えば、頻尿、尿意切迫感、尿失禁等の排尿障害が発症することがある。この排尿障害は、QOL(Quality of life)を著しく低下させる泌尿器領域の疾患として知られている。排尿障害発症の原因としては、例えば、膀胱、尿道、脳血管、又は神経等の障害が考えられるが、詳細なメカニズムは未解明な部分が多く残っている。従来の排尿障害に対する治療戦略としては、抗コリン剤が最も広く採用されている(例えば、非特許文献1)。また近年、β3アドレナリン受容体アゴニストの使用も増えてきている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】"A comparison of the efficacy and tolerability of solifenacin succinate and extended release tolterodine at treating overactive bladder syndrome: results of the STAR trial." Chapple et al., Eur Urol. 2005 Sep;48(3):464-70.
【非特許文献2】"Beta3-adrenoceptor agonists: possible role in the treatment of overactive bladder." Igawa et al., Korean J Urol. 2010 Dec;51(12):811-8. Epub 2010 Dec 21.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、抗コリン剤やβ3アドレナリン受容体アゴニストを用いても、患者によっては、改善効果が十分に得られなかったり、副作用のために投与を中止することがしばしば起きていた。そのため、従来の治療薬だけでは十分に治療できない患者が多く存在していた。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、新規のメカニズムを有する排尿障害治療薬、又は治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、排尿障害に関する研究を行う中で、膀胱上皮においてPiezo1が特異的に高発現していることに気がついた。また、さらなる研究の中でPiezo1の機能を阻害したところ、排尿障害が改善されることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち本発明によれば、Piezo1の機能抑制物質を含む、排尿障害治療薬が提供される。
【0008】
なお、上記Piezo1は、好ましくは、膀胱上皮において発現しているPiezo1である。上記機能抑制物質は、好ましくは、膀胱上皮におけるCaイオンの細胞内への流入を阻害する物質である。上記機能抑制物質は、好ましくは、膀胱上皮におけるTRPV4の機能を実質的に阻害しない物質である。上記機能抑制物質は、好ましくは、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列、(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、(d)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする核酸がコードするアミノ酸配列、(e)配列番号2、3、4、5、又は6で示されるアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。上記機能抑制物質は、好ましくは、GsMTx-4である。
【0009】
また本発明によれば、(f)配列番号1で示されるアミノ酸配列、(g)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(h)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする核酸がコードするアミノ酸配列、(j)配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、排尿障害治療薬が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規のメカニズムを介して、排尿障害を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1Aは、組織別にPiezo1のmRNA発現量を測定した結果を表した図である。
【図1B】図1Bは、組織別にPiezo2のmRNA発現量を測定した結果を表した図である。
【図2】図2は、マウス膀胱組織に対して蛍光免疫染色を行った結果を表した図である。
【図3】図3は、ヒト膀胱組織に対して蛍光免疫染色を行った結果を表した図である。
【図4】図4は、ヒト膀胱上皮又はマウス膀胱上皮培養細胞におけるPiezo1、TRPV4、VnutのmRNA発現量を測定した結果を表した図である。
【図5】図5は、下部尿路閉塞患者と非閉塞患者における、膀胱上皮のPiezo1の発現量を測定した結果を表した図である。
【図6】図6は、Piezo1の発現量と年齢の相関を調べた結果を表した図である。
【図7】図7は、Piezo1 KD細胞等における、Piezo1のm‐RNA発現量を測定した結果を表した図である。
【図8】図8は、Piezo1 KD細胞等における、Piezo1の蛋白質発現量を測定した結果を表した図である。
【図9】図9は、コントロール細胞において、伸展刺激前後のCaイメージングを行った結果を表した図である。
【図10】図10は、Piezo1 KD細胞において、伸展刺激前後のCaイメージングを行った結果を表した図である。
【図11】図11は、コントロール細胞とPiezo1 KD細胞における、伸展刺激時の細胞内へのCa2+流入量を比較した結果を表した図である。
【図12】図12は、コントロール細胞とPiezo1 KD細胞において、伸展刺激時に放出される細胞外ATPを撮影した結果を表した図である。
【図13】図13は、コントロール細胞とPiezo1 KD細胞における、伸展刺激時の細胞外へのATP放出量を比較した結果を表した図である。
【図14】図14は、GsMTx-4で処置した膀胱上皮培養細胞における、伸展刺激時の細胞内へのCa2+流入量を測定した結果を表した図である。
【図15A】図15Aは、GsMTx-4で処置した膀胱上皮培養細胞を洗浄し、GsMTx-4を除去した場合の、Ca2+流入量の変化を測定した結果を表した図である。
【図15B】図15Bは、GsMTx-4で処置した膀胱上皮培養細胞を洗浄し、GsMTx-4を除去した場合の、Ca2+流入量の変化を測定した結果を表した図である。
【図16】図16は、GsMTx-4で処置した膀胱上皮培養細胞における、伸展刺激時の細胞外へのATP放出量を測定した結果を表した図である。
【図17】図17は、膀胱上皮培養細胞においてGsMTx-4がTRPV4を阻害するかを評価した結果を表した図である。
【図18】図18は、GsMTx-4のマウスへの投与実験の結果を表した図である。
【図19】図19は、GsMTx-4のマウスへの投与実験において、活動期(暗期)12時間の排尿記録の比較結果を表した図である。
【図20】図20は、GsMTx-4の投与実験において、GsMTx-4投与群とコントロール群の、排尿回数を比較した結果を表した図である。
【図21】図21は、GsMTx-4の投与実験において、GsMTx-4投与群とコントロール群の、1回排尿量を比較した結果を表した図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0013】
本発明の一実施形態は、新規の排尿障害治療薬である。この治療薬は、例えば、Piezo1の機能抑制物質を含む、排尿障害治療薬である。このPiezo1の機能抑制物質は、後述する実施例で実証されているように、排尿回数の減少、及び1回排尿量の増加を促すことができる。そのため、上記構成を有する治療薬を用いれば、排尿障害を治療することができる。
【0014】
本発明の一実施形態において「Piezo」は、例えばCa2+などのイオンを、細胞内に流入させるイオンチャネルとして機能する蛋白質である。Piezoには、Piezo1とPiezo2が存在する。Piezo1は、例えば、配列番号8、又は配列番号9で示されるアミノ酸配列を有していてもよい。Piezo1は生体内の様々な場所で発現しているが、排尿障害を治療するためには、膀胱上皮において発現しているPiezo1の機能を抑制することが好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態において「機能抑制物質」は、Piezo1の機能を抑制する物質である。又は、機能抑制物質はPiezo1の機能阻害剤を含む。機能抑制物質の形態は、例えば、ポリペプチド、RNA鎖、DNA鎖、抗体、低分子有機化合物であってもよい。上記ポリペプチドとしては、GsMTx-4をPEPTIDE INSTITUTE, INC.から購入することができる。上記RNA鎖は、例えば、Piezo1に対するRNAi作用を有するRNA鎖(例えば、siRNA、shRNA等)を使用できる。上記RNA鎖は、例えば、Stealth RNAi designer(Invitrogen)、又はsiDirect 2.0(Naito et al., BMC Bioinformatics. 2009 Nov 30;10:392.)等によりデザインすることができる。上記DNA鎖は、上記ポリペプチドをコードするDNA鎖、上記RNA鎖をコードするDNA鎖、又はPiezo1の機能を抑制するDNAアプタマーを使用できる。上記DNAアプタマーは、例えば、SELEX法を利用して作製できる。上記抗体の作製は、公知の抗体作製法(例えば、Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628.に記載の方法)を使用してもよいし、受託会社(例えば、EVEC, Inc.、ADVANCE CO., LTD.)に委託してもよい。このとき、抗体ライブラリを作製し、Piezo1の機能抑制活性の高いものを選択することが好ましい。上記低分子化合物は、コンビナトリアルケミストリーやハイスループットスクリーニングを活用することで、得ることができる。なお、機能抑制物質は、Piezo1の機能抑制作用を通じて、膀胱上皮におけるCaイオンの細胞内への流入を阻害することができる。また、機能抑制物質は、膀胱上皮におけるTRPV4の機能を実質的に阻害しない物質であることが好ましい。この場合、TRPV4の機能が阻害されることによって生じる副作用を抑えることができる。上記「機能を実質的に阻害しない」とは、例えば、機能が0.9、0.95、0.99%以上、又は100%維持されている状態を含む。
【0016】
本発明の一実施形態において「GsMTx-4」は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。またGsMTx-4は、L型又はD型アミノ酸から構成されていてもよい。D型アミノ酸で構成されているGsMTx-4と、L型アミノ酸で構成されているGsMTx-4とが同等の活性を発揮できることが、例えば、Suchyna et al., Nature. 2004 Jul 8;430(6996):235-40.に記載されている。
【0017】
本発明の一実施形態において「RNAi」は、siRNA、shRNA、miRNA、短鎖または長鎖の1又は複数本鎖RNA(例えば2本鎖RNA)等によって、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能が抑制、又はサイレンシングされる現象である。一般的に、RNAiによる抑制機構は配列特異的であり、様々な生物種に存在する。siRNA又はshRNAを用いた場合の、典型的な哺乳類におけるRNAiのメカニズムは以下の通りである。まず、siRNA又はshRNAを発現する(又はコードする)ベクターを細胞に導入する。その後、細胞内でsiRNA又はshRNAが発現した後、siRNA又はshRNAの一本鎖化が起こり、その後RISC(RNA-induced Silencing Complex)を形成する。RISCは取り込まれた1本鎖RNAをガイド分子として、この1本鎖RNAと相補性の高い配列を持つ標的RNA鎖を認識する。標的RNA鎖は、RISC内のAGO2等の酵素によって切断される。その後、切断された標的RNA鎖は分解される。以上がメカニズムの一例である。Piezo1に対するRNAi作用を有するRNA鎖としては、例えば、配列番号2で示される塩基配列を含む1又は複数本鎖RNA鎖を使用できる。このRNA鎖は、さらに配列番号12で示される塩基配列を含んでいてもよい。このRNA鎖は、さらに3'突出末端を含んでいてもよい。このRNA鎖は、Piezo1に対するRNAi作用を有する限り、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加されていてもよい。
【0018】
また機能抑制物質は、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列、(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、(d)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする核酸がコードするアミノ酸配列、(e)配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0019】
上記「複数個」は、例えば、10、8、6、4、又は2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。上記ポリペプチドがGsMTx-4の活性を高度に維持する観点からは、この数は少ないほど好ましい。なお一般に、1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、又は他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci U S A.1984 Sep;81(18):5662-5666.、Zoller et al., Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。また、欠失、置換、挿入、もしくは付加がなされたポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法、又はランダム変異導入法等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えば、KOD -Plus- Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。
【0020】
上記「90%以上」は、例えば、90、95、98、99、又は100%であってもよい。又はそれらいずれかの値以上、又はいずれか2つの範囲内であってもよい。上記ポリペプチドがGsMTx-4の活性を高度に維持する観点からは、この数は大きいほど好ましい。
【0021】
上記「相同性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、及びそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBI (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositives又はIdentitiesとして数値化されるが、本実施形態では好ましくはPositivesを採用する。
【0022】
上記「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度及び高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、又は(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、及び20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%又はそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、又はそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照することができる。
【0023】
上記ポリペプチドにおいて、1又は複数個のアミノ酸が別のアミノ酸に置換している場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換していることが好ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、及び芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸同士の置換は「保存的置換」と総称される。また、上記ポリペプチドがジスルフィド結合を形成可能なCys残基を有している場合には、そのCys残基は置換等の対象から除かれてもよい。
【0024】
「配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列」を含むポリペプチドは、GsMTx-4と同等の機能を発揮し得ることが、国際公開第2004/085647号に記載されている。そのため、機能抑制物質は、「配列番号3、4、5、6、又は7で示されるアミノ酸配列」を含むポリペプチドであってもよい。なお、配列番号3~7のアミノ酸配列は、順に、WKCNPNDDKC、CARPKLKC、WKCNPNDDKAARPKLKC、CAAPKLKC、CARPKLACである。
【0025】
本発明の一実施形態において「ポリペプチド」は、アミノ酸又はその等価物が、複数個以上結合した形態で構成されているものを含む。本実施形態では、オリゴペプチドや蛋白質と称されるものも、ポリペプチドの下位概念に含まれるものとする。オリゴペプチドの鎖長は、例えば、5、8、10、17、20、30、34、40、50、100、300、600、又は1000アミノ酸であってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの範囲内であってもよい。また、化学修飾体、塩、溶媒和物などを形成していてもよい。ポリペプチドの作製は、例えば、合成装置(例えば、PSSM-8(SHIMADZU CORPORATION))を使用してもよいし、受託会社(例えば、GenScript USA Inc.等)に委託してもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本発明の実施形態に係るポリペプチドが「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、又は溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、又はD型であってもよい。それらのような場合でも、本発明の実施形態に係るポリペプチドは、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。即ち、例えばアミノ酸配列中のRは、アルギニン、又はその化学修飾体、塩、もしくは溶媒和物であってもよい。ポリペプチドに含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、又は側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。上記「塩」は、特に限定されないが、例えば任意の酸性(例えばカルボキシル)基で形成されるアニオン塩、または任意の塩基性(例えばアミノ)基で形成されるカチオン塩を含む。塩類には無機塩および有機塩を含み、例えば、Berge et al., J.Pharm.Sci., 1977, 66, 1-19に記載されている塩が含まれる。また例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。上記「溶媒和物」は、溶質及び溶媒によって形成される化合物である。溶媒和物については例えば、J.Honig et al., The Van Nostrand Chemist's Dictionary P650 (1953)を参照できる。溶媒が水であれば形成される溶媒和物は水和物である。この溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものが好ましい。そのような好ましい溶媒の例として、特に限定するものではないが、水、エタノール、又は酢酸が挙げられる。
【0027】
上記「ポリペプチドをコードするDNA鎖」又は「上記RNA鎖をコードするDNA鎖」は、ベクターに連結していてもよい。この形態は、遺伝子治療に特に適している。上記ベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpET-Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1-11)、λファージなどのバクテリオファージ、ウイルス由来のベクターなどを用いることができる。これらのベクターは、プロモーター、複製開始点、又は抗生物質耐性遺伝子など、蛋白質発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。ベクターは発現ベクターであってもよい。
【0028】
なお機能抑制物質は、変異型Piezo1の機能を抑制するものであってもよい。変異型とは、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。変異型Piezo1のアミノ酸配列は、配列番号8に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは90%以上の相同性を有し、特に好ましくは95%以上の相同性を有している。
【0029】
本発明の一実施形態において、Piezo1の機能が抑制されている状態は、Piezo1の活性(例えば、Ca2+流入活性)が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。上記「有意に減少」とは、例えば、活性が0.8、0.75、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.01、又は0倍に減少している状態であってもよい。又は、ここで例示したいずれか1つの値以下、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。排尿障害が特に明確に改善される観点からは、0.75倍以下に減少していることが好ましい。なおCa2+流入活性は、Caイメージングによって測定してもよい。また本明細書において「有意に」は、例えば統計学的有意差をスチューデントのt検定(片側又は両側)を使用して評価し、p<0.05であるときを含んでいてもよい。又は、実質的に差異が生じている状態を含む。本発明の一実施形態において「排尿障害」は、生体内の排尿機構が正常に作用しなくなることによって生じる疾患である。排尿障害は、蓄尿障害又は排出障害を含む。また排尿障害は、頻尿、尿意切迫感、尿失禁、過活動膀胱、間質性膀胱炎等を含む。過活動膀胱は、例えば、膀胱の不随意の収縮による尿意切迫感を伴う疾患である。間質性膀胱炎は、例えば、頻尿・膀胱充満時痛などの症状を呈する難治性疾患である。
【0031】
本発明の一実施形態は、Piezo1の機能を抑制する工程を含む、排尿障害の治療方法である。また本発明の一実施形態は、膀胱上皮におけるCaイオンの細胞内への流入を阻害する工程を含む、排尿障害の治療方法である。これらの治療方法には、上記の機能抑制物質を使用できる。
【0032】
本発明の一実施形態において「治療」は、被験者の疾患、又は疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることをいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体を含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分(例えば、Piezo1の機能抑制物質)と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体又は液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお治療薬は、予防のために用いられる薬物(予防薬)を含む。
【0033】
治療薬の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、又は経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。ポリペプチドを投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、又はステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、又はNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0034】
投与量は特に限定されないが、例えば、一回あたり10、27、270、1350、2000、又は30000μg/kg体重であってもよい。又は、ここで例示したいずれか1つの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1日に1回又は2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、被験者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択することが可能である。また、適切な化学療法薬と併用で投与してもよい。また治療薬は、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。
【0035】
排尿障害患者の1日の排尿回数が治療前に比べて減少し、且つその1日の1回当たりの平均排尿量が治療前に比べて増加した場合に、排尿疾患が治療されたと判断してもよい。上記の減少した回数は、例えば、1、2、3、4、又は5回であってもよい。又は、ここで例示したいずれか1つの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記の増加した平均排尿量は、1000、2500、5000、10000、20000、又は30000μl/kg体重であってもよい。又は、ここで例示したいずれか1つの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態において「被験者」は、ヒト、又はヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、及びチンパンジー等のいずれか1種以上)を含む。
【0037】
本発明の一実施形態は、膀胱上皮におけるCaイオンの細胞内への流入を阻害する物質を含む、排尿障害治療薬である。この物質には、上記の機能抑制物質を使用できる。
【0038】
本発明の一実施形態は、上記の機能抑制物質、又はGsMTx-4を含む、排尿障害治療用キットである。このキットは、例えば、緩衝液、有効成分情報を記載した添付文書、有効成分を収容するための容器、又はパッケージ等をさらに含んでいてもよい。
【0039】
なお、本実施形態において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>Piezoの発現量の評価
【0043】
(1) m-RNAの発現量の評価
マウスの膀胱上皮、及び膀胱上皮以外の組織におけるPiezoのm-RNA発現量を、定量RT-PCRによって求めた。その結果を図1A、1Bに示す。Piezo1 m-RNAは膀胱上皮において有意に高発現していた。一方で、Piezo2 m-RNAは、膀胱上皮においてほとんど発現が見られなかった。
【0044】
(2) 蛍光免疫染色
マウス膀胱組織に対して蛍光免疫染色を行った。実験条件は下記の通りである。
(i) 固定: 100%メタノール、-20℃、20分。
(ii) TritonX、0.2%/blockace、10分室温。
(iii) 1次抗Piezo1抗体(ラビット) 1:400、24時間。
(iv) 2次Alexa 488抗体(ロバ抗ラビットIgG) 1:500、60分室温。
【0045】
その結果、膀胱上皮が特に強く染まっていた(図2の膀胱組織の縁周辺部)。このことから、Piezo1蛋白質はマウス膀胱上皮において特に高発現していることがわかる。なお、マウス膀胱上皮培養細胞に対しても、蛍光免疫染色を行った。その結果、マウス膀胱上皮培養細胞におけるPiezo1蛋白質の発現が確認された(not shown)。
【0046】
また、ヒト膀胱組織に対して蛍光免疫染色を行った。実験条件は上記と同様である。その結果、膀胱上皮(図3の膀胱組織の縁周辺部)が特に強く染まっていた。このことから、Piezo1蛋白質はヒト膀胱上皮において特に高発現していることがわかる。なお、CK7は上皮細胞において特異的に発現していることが知られている蛋白質である(免疫染色には抗CK7抗体を用いた)。
【0047】
(3) Piezo1、TRPV4、Vnutの発現量の比較
前立腺肥大症、又は前立腺癌のいずれかで手術を受けた患者31人から膀胱粘膜を採取した。これらのサンプルを用いて、ヒト膀胱上皮におけるPiezo1、TRPV4、VnutのmRNA発現量を定量RT-PCRにて測定した(図4上)。またマウス膀胱上皮培養細胞においても同様にmRNAを測定した(図4下)。なお、TRPV4はCaイオンの輸送に関与することが知られている蛋白質であり、VnutはATPの輸送に関与することが知られている蛋白質である。その結果、Piezo1は、TRPV4及びVnutに比べて発現量が顕著に大きいことがわかった。
【0048】
(4) 下部尿路閉塞患者と非閉塞患者における比較
前立腺肥大症、又は前立腺癌のいずれかで手術を受けた患者29人から膀胱粘膜を手術時に採取した。これらのサンプルを用いて、ヒト膀胱上皮におけるPiezo1のmRNA発現量を定量RT-PCRにて測定した。その結果、下部尿路閉塞患者(前立腺肥大症/前立腺癌患者)(obstructed)と非閉塞患者(others)において、Piezo1の発現量に有意な差は見られなかった(図5)。このことは、Piezo1をターゲットとした治療薬は、下部尿路閉塞の有無に関わらず、薬理作用を発揮することを示唆している。
【0049】
(5) 発現量と年齢の相関
58~82歳の、前立腺肥大症・前立腺癌手術を受けた患者34人から膀胱粘膜を手術時に採取した。これらのサンプルを用いて、ヒト膀胱上皮におけるPiezo1のmRNA発現量を定量RT-PCRにて測定した。その結果、Piezo1の発現量に有意な差は見られなかった(図6)。このことは、Piezo1をターゲットとした治療薬は、年齢の違いに関わらず、薬理作用を発揮することを示唆している。
【0050】
<実施例2>膀胱上皮におけるPiezoの機能評価
(1)Piezo1 KD細胞の作製
Piezo1 siRNAを、lipofection法にて膀胱上皮細胞に導入し、Piezo1ノックダウン(KD)細胞を作成した。次に、定量RT-PCRにより、Piezo1 m‐RNAの発現量を測定した。また、ウエスタンブロッティング(WB)により、Piezo1蛋白質の発現量を測定した。下記の実験材料を使用した。なお、下記のPiezo1 siRNAのセンス鎖の塩基配列は、5' UCGGCGCUUGCUAGAACUUCATT 3' (配列番号10)である。またアンチセンス鎖の塩基配列は、5' UGAAGUUCUAGCAAGCGCCGATT 3' (配列番号11)である。センス鎖のうち3'末端のTTは突出末端であり、このTTを除いた配列は、5' UCGGCGCUUGCUAGAACUUCA 3' (配列番号2)である。アンチセンス鎖のうち3'末端のTTは突出末端であり、このTTを除いた配列は、5' UGAAGUUCUAGCAAGCGCCGA 3' (配列番号12)である。
(i) C57BL/6 オスマウス
(ii) Control siRNA
(iii) Piezo1 siRNA (2.0μMでストックしておく。)
(iv) Lipofectamine RNAi max
(v) OPTI-MEM
(vi) CnT-16 (但しペニシリン/ストレプトマイシンは通常使用量の1/4を使用。アンホテリシンは通常使用量の1/4を使用)
【0051】
KDの実験条件は下記の通りである。なお、KDはストレッチチャンバーで行った。このストレッチチャンバーはメディウムが250μl入るものを使用した。
(i) フィブロネクチンコーティングして培養の準備。
(ii) マウスから採取した膀胱上皮2.0~5.0×105cell/mlを30μl播種。
(iii) 3時間インキュベートした後、37℃に温めたCnT-16 180μlをそっとチャンバーに添加した後に、transfection complexを40μl添加(チャンバー内には合計で250μlとなる)。
(iv) トランスフェクション48時間後に通常通り、培地交換。
(v) 培地交換後24時間(トランスフェクション後72時間)でmRNA測定。
(vi) 後述の伸展実験はトランスフェクション後84時間で施行。
【0052】
上記のtransfection complexは下記の通りの手順で調整した(ストレッチチャンバーの1枚分の場合)。
(i) OPTI-MEM(40μl)にPiezo1 siRNA(1.25μl)+Lipofectamine RNAimax(0.4μl)を入れボルテックスを3秒行う。
(ii) Complexが作られるまで20分室温で待つ。最終濃度は約10nMとなる。
【0053】
以上の結果を図7、8に示す。定量RT-PCRでは、KD細胞において、顕著なPiezo1のm-RNA発現量低下が見られた。またWBにおいても、顕著なPiezo1の蛋白質発現量低下が見られた。
【0054】
(2)伸展刺激時の細胞内へのCa2+流入の評価
ストレッチチャンバーに膀胱上皮培養細胞(コントロール細胞、又はPiezo1 KD細胞)を播種した。72~84時間培養後にFura2 (10μM)を60分間ローディングし、その後、ストレッチチャンバーを伸展させ、伸展刺激時の細胞内Ca濃度の測定をCaイメージング法にてを行った。伸展刺激時の伸展刺激条件は、伸展距離200μm、伸展速度100μm/secで行った。最後にイオノマイシン(最終濃度5μM)を添加し、細胞の反応を確認し、この時の数値で補正した。なお、Caイメージングは"Mochizuki et al., J Biol Chem. 2009 Aug 7;284(32):21257-64. Epub 2009 Jun 15."に記載の方法に従った。
【0055】
以上の結果を図9~11に示す。この結果、Piezo1 KD細胞ではコントロール細胞に比べて、Ca2+流入量が顕著に低下していた。このことから、Piezo1が膀胱上皮においてCa2+流入に関与していることがわかる。
【0056】
(3)伸展刺激時の細胞外へのATP放出量の評価
ストレッチチャンバー上に膀胱上皮培養細胞(コントロール細胞、又はPiezo1 KD細胞)を播種した。72~84時間培養後にストレッチチャンバーを伸展し、膀胱上皮培養細胞から放出される細胞外ATP量を測定した。伸展刺激時の伸展刺激条件は、伸展距離200μm、伸展速度100μm/secで行った。ATP測定には、ATP Bioluminescene Assay Kit CLS IIを使用し、Aqua cosmosにて撮影した。撮影したATO Photon画像を、画像解析ソフトphotoshop ,Image Jを用いて解析した。
【0057】
以上の結果を図12、13に示す。この結果、Piezo1 KD細胞ではコントロール細胞に比べて、ATP放出量が顕著に低下していた。このことから、Piezo1が膀胱上皮においてATP放出に関与していることがわかる。
【0058】
<実施例3>GsMTx-4の膀胱上皮細胞における効果
(1)伸展刺激時の細胞内へのCa2+流入の評価
ストレッチチャンバー上に膀胱上皮培養細胞を播種した。72~84時間培養後、培地を図14に記載の濃度のGsMTx-4 (PEPTIDE INSTITUTE, INC.)を溶解した細胞外液に交換した。GsMTx-4を10分間処置した後に細胞内Ca2+濃度変化を測定した。GsMTx-4は、Piezo1の機能を阻害することが報告されているポリペプチドである(Bae et al., Biochemistry. 2011 Jul 26;50(29):6295-300. Epub 2011 Jun 29.参照)。その後、上記実施例2の(2)と同様の手順で、伸展刺激時の細胞内へのCa2+流入量を測定した。また、コントロールとして、GsMTx-4非処置でも同様に行った。なお、GsMTx-4のアミノ酸配列は、GCLEFWWKCNPNDDKCCRPKLKCSKLFKLCNFSF (配列番号1)である。
【0059】
以上の結果を図14に示す。この結果、GsMTx-4処置細胞では非処置細胞に比べて、Ca2+流入量が顕著に低下していた。これは、GsMTx-4によりPiezo1の機能が阻害されたためと考えられる。
【0060】
(2) GsMTx-4の可逆性の評価
図15A、Bに示すように、膀胱上皮細胞をGsMTx-4で処置した後、洗浄、除去することによって、GsMTx4の可逆性を測定した。その結果、洗浄、除去することでGsMTx-4の効果が消失しており、GsMTx-4の効果は可逆性に優れていることがわかった。
【0061】
(3)伸展刺激時の細胞外へのATP放出量の評価
ストレッチチャンバー上に膀胱上皮培養細胞を播種した。この細胞を10μMのGsMTx-4で処置した。その後、上記実施例2の(3)と同様の手順で、伸展刺激時の細胞外へのATP放出量を測定した。また、コントロールとして、GsMTx-4非処置でも同様に行った。
【0062】
以上の結果を図16に示す。この結果、GsMTx-4処置細胞では非処置細胞に比べて、ATP放出量が顕著に低下していた。これは、GsMTx-4によりPiezo1の機能が阻害されたためと考えられる。
【0063】
(4) GsMTx-4がTRPV4を阻害するかの評価
TRPV4 (Transient receptor potential cation channel subfamily V member 4)は、Caイオンの輸送に関与することが知られている蛋白質である。TRPV4は、TRPV4のアゴニストであるGSK 1016790Aによる刺激によって、Caイオンを細胞内へ流入させる。このCaイオンの流入をGsMTx-4が阻害するかどうかを調べた(図17)。その結果、GsMTx-4は阻害効果を示さなかった。このことは、GsMTx-4はTRPV4に作用しないことを示唆している。
【0064】
<実施例4>GsMTx-4の投与実験
下記、及び図18に示す実験条件で、マウス(8~12週齢、雄)にGsMTx-4を投与した。このとき、投与前、投与直後、投与1日目の活動期(暗期)における排尿パラメータを測定した。
(i) マウス排尿代謝ケージ(小動物用排尿機能測定システム、販売元:株式会社シンファクトリーを用いて測定。
(ii) 12時間ごとに暗期・明期が自動的に切り替わる設定。
(iii) 測定室内は、防音、無風であり、室温25℃、湿度40%前後で一定。
(iv) 食事、飲水は自由に摂取可能。
(v) 48時間の馴化期間を置いた後、飲水量、排尿量を連続測定。
(vi) GsMTx-4投与前日の排尿データを採取。
(vii) 測定22時間後にGsMTx-4を腹腔内投与(コントロール群には生理食塩水を腹腔内投与)。
(viii) GsMTx-4投与日、投与1日後の排尿データを採取。
(ix) 活動期(暗期)の12時間の排尿記録の比較
【0065】
以上の結果を図18~21に示す(図18と19は異なるマウスを使用)。GsMTx-4投与により排尿回数は減少し、1回排尿量(μl)は増加していた。GsMTx4投与前後において、総排尿量、飲水量に、変化は見られなかった。このことは、GsMTx-4が排尿障害の治療薬として有用であることを意味している。また、投与1日後にはGsMTx4の効果はなくなり、排尿パラメータは投与前と同程度に戻った。このことは、GsMTx-4は効果が短期的に生じるため、治療効果の調節がし易いことを意味している。また、投与後、何らかの副作用が伴った場合でも、その副作用が長期間生じることを防ぐことができることを意味している。
【0066】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11
【図12】
12
【図13】
13
【図14】
14
【図15A】
15
【図15B】
16
【図16】
17
【図17】
18
【図18】
19
【図19】
20
【図20】
21
【図21】
22