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明細書 :液晶デバイスの駆動方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-038549 (P2015-038549A)
公開日 平成27年2月26日(2015.2.26)
発明の名称または考案の名称 液晶デバイスの駆動方法
国際特許分類 G02F   1/13        (2006.01)
G02F   1/133       (2006.01)
FI G02F 1/13 505
G02F 1/13 500
G02F 1/133 505
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2013-169417 (P2013-169417)
出願日 平成25年8月19日(2013.8.19)
発明者または考案者 【氏名】宇戸 禎仁
【氏名】金原 由惟
出願人 【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 2H088
2H193
Fターム 2H088EA61
2H088GA03
2H088HA06
2H088JA15
2H088MA20
2H193ZB50
2H193ZD26
2H193ZE18
2H193ZE40
2H193ZH40
2H193ZH52
2H193ZQ19
要約 【課題】本発明は、水溶性でコレステリック液晶性を有するセルロース誘導体を含む液晶組成物に外部から電圧を印加して反射色を変化させる際に電極付近に発生する気体を回収可能な、液晶組成物の選択反射波長を制御する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】上記本発明の課題は、a)水溶性でコレステリック液晶性を有するセルロース誘導体、電解質、および水性溶媒で構成された液晶組成物を備える液晶素子と、b)液晶素子に電圧を印加する電圧印加回路と、c)電圧印加回路とは逆方向の電流が流れる逆電流通電回路とを備えた液晶デバイスにおいて、電圧印加回路により液晶素子に所定の間隔で断続的に電圧を印加し、かつ、液晶素子への電圧印加が停止している間に電圧印加回路とは逆方向の電流が逆電流通電回路に流れることにより、液晶組成物の選択反射波長を制御する、液晶デバイスの駆動方法により、解決される。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のa)~c)を備えた液晶デバイスの駆動方法であって:
a)水溶性でコレステリック液晶性を有するセルロース誘導体、電解質、および水性溶媒で構成された液晶組成物と、液晶組成物に電圧を印加するための陽極および陰極とを備えてなる液晶素子;
b)液晶素子に電圧を印加するために、電源装置と陽極および陰極に接続されている、電圧印加回路;および
c)電圧印加回路が接続する陽極および陰極に接続されており、電圧印加回路とは逆方向の電流が流れる、逆電流通電回路;
電圧印加回路により液晶素子に所定時間、電圧を印加した後、液晶素子への電圧印加を停止し、液晶素子への電圧印加が停止している間に逆方向の電流が逆電流通電回路に流れることにより、液晶組成物の選択反射波長を制御する、液晶デバイスの駆動方法。
【請求項2】
セルロース誘導体が、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)である、請求項1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
【請求項3】
電圧印加が、パルス波を示す電圧を印加するものである、請求項1または2に記載の液晶デバイスの駆動方法。
【請求項4】
電圧印加時とは逆方向の電流が逆電流通電回路に流れることにより、陽極および陰極の少なくとも1つの電極にて、液晶素子への電圧印加時に発生した気体が消費されて減少する、請求項1~3のいずれか1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
【請求項5】
液晶素子への電圧印加のDuty比が、電圧印加時に発生した気体が液晶組成物中での電解質の電気分解を妨げないように気体を消費する値である、請求項1~4のいずれか1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
【請求項6】
電圧印加時に発生した気体が消費されることにより生じる電気エネルギーを、逆電流通電回路において回収する、請求項4または5に記載の液晶デバイスの駆動方法。
【請求項7】
液晶素子がチューブセルの形態である、請求項1~6のいずれか1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体を主成分とする液晶組成物を含む液晶素子に所定時間、電圧を印加した後、液晶素子への電圧印加を停止させることにより、液晶組成物の選択反射波長を制御する、液晶デバイスの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、低分子液晶は多くの改良を経て現在ディスプレイ用の表示材料として一般的に用いられている。一方、高分子液晶も近年、表示素子としての利用の可能性が注目されつつある。高分子液晶は、高分子特有の高い機械的特性により材料に強度、耐衝撃性を与え、温度的性質においても優れていると考えられる。
【0003】
食品や医薬品の添加物としても用いられているセルロースは、植物に多く含まれる天然高分子であり、生分解性を持つため、比較的環境負荷が小さい材料として工業応用が注目されている。セルロースの誘導体の1つであるヒドロキシプロピルセルロースは、水と混合することにより、リオトロピック液晶になり、ある特定の光の波長のみを反射する選択反射特性を有するコレステリック相となる。
【0004】
リオトロピック液晶はサーモトロピック液晶と比べると電気応答性が低いが、選択反射を有している。ヒドロキシプロピルセルロース液晶の選択反射波長は、添加する無機塩の種類や濃度によって変化させることができ、電圧印加によって無機塩の濃度を操作することで、電気的に変化させることが出来る(非特許文献1~3、特許文献1)。また本発明者らは、ヒドロキシプロピルセルロース液晶を封入したチューブセルに電圧を印加することにより、選択反射波長の変化が得られることを報告している(非特許文献4~6)。
【0005】
ヒドロキシプロピルセルロース等の高分子液晶は広範な応用が期待されている一方、実用化においては解決すべき多くの問題が残されたままである。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平11-24054号公開公報
【0007】

【非特許文献1】S. Okuda and S. Uto: Jpn. J. Appl. Phys. 45(2006)5889.
【非特許文献2】Y. Iwamoto and Y. Iimura: Jpn. J. Appl. Phys. 42 (2003)51.
【非特許文献3】J. Soc. Elect. Mat. Eng. Vol.14, No.2, p.229-230(2005)
【非特許文献4】電子情報通信学会技術研究報告 OME2011-44、p.17-19(2011年)
【非特許文献5】第73回応用物理学会学術講演会、講演予稿集 13p-PB5-1 p12-125(2012年)
【非特許文献6】日本液晶学会討論会講演予稿集 PB35 p171-172(2012年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒドロキシプロピルセルロースを主成分とする液晶組成物に外部から電圧を印加して選択反射波長を変化させると、電極付近に気体が発生することがわかった。発生した気体は絶縁体として作用するため、液晶組成物に電圧が印加されなくなり、液晶組成物の選択反射波長の変化が阻害されてしまうという問題がある。また発生した気体自体が有害であることがあり、これは実用化への障壁となる。
本発明は、かかる問題点を解決し得るような、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体を主成分とする液晶組成物の選択反射波長を制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、外部からの電圧印加とは逆方向の電流が陽極と陰極の間に流れた場合に、電極において発生した気体が消費されることに着目し、電圧を連続的に印加するのではなく、所定の間隔で断続的に印加することにより、気体の発生を抑制しながら液晶組成物の選択反射波長を制御し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下からなる。
1. 以下のa)~c)を備えた液晶デバイスの駆動方法であって:
a)水溶性でコレステリック液晶性を有するセルロース誘導体、電解質、および水性溶媒で構成された液晶組成物と、液晶組成物に電圧を印加するための陽極および陰極とを備えてなる液晶素子;
b)液晶素子に電圧を印加するために、電源装置と陽極および陰極に接続されている、電圧印加回路;および
c)電圧印加回路が接続する陽極および陰極に接続されており、電圧印加回路とは逆方向の電流が流れる、逆電流通電回路;
電圧印加回路により液晶素子に所定時間、電圧を印加した後、液晶素子への電圧印加を停止し、液晶素子への電圧印加が停止している間に逆方向の電流が逆電流通電回路に流れることにより、液晶組成物の選択反射波長を制御する、液晶デバイスの駆動方法。
2. セルロース誘導体が、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)である、前項1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
3. 電圧印加が、パルス波を示す電圧を印加するものである、前項1または2に記載の液晶デバイスの駆動方法。
4. 電圧印加時とは逆方向の電流が逆電流通電回路に流れることにより、陽極および陰極の少なくとも1つの電極にて、液晶素子への電圧印加時に発生した気体が消費されて減少する、前項1~3のいずれか1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
5. 液晶素子への電圧印加のDuty比が、電圧印加時に発生した気体が液晶組成物中での電解質の電気分解を妨げないように気体を消費する値である、前項1~4のいずれか1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
6. 電圧印加時に発生した気体が消費されることにより生じる電気エネルギーを、逆電流通電回路において回収する、前項4または5に記載の液晶デバイスの駆動方法。
7. 液晶素子がチューブセルの形態である、前項1~6のいずれか1に記載の液晶デバイスの駆動方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、気体発生直後に気体を消費することから、結果として気体の発生を抑制することができ、液晶組成物の応答性を維持することが可能であり、液晶組成物を目的の選択反射波長まで変化させることが可能となる。また、電圧印加とは逆方向の電流が流れることにより、発生した気体を消費して電気エネルギーに変換して回収することが可能である。回収した電気エネルギーを利用して、再度液晶組成物に電圧印加を行い、液晶組成物の選択反射波長を制御することが可能であるので、全体としての消費電力を抑えながら、目的の選択反射波長を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】液晶組成物(LC)を封入した液晶素子の実施態様を例示する図である。(a)はチューブセルの模式図であり、管状部材に液晶組成物を注入し管状部材の両端に電極を配してなる液晶素子である(実施例1)。(b)はサンドイッチセルの模式図であり、電極2本をスペーサーにして板状部材2枚で液晶組成物を挟んでなる液晶素子である。
【図2】液晶デバイスにおける回路の一実施態様を例示する図である。
【図3】チューブセルに各種条件で電圧印加を行いオシロシコープで波形観測したもののうち、Freq:0.1Hz、Duty比50%、振幅21Vのパルス波についての結果を示す図である。(実施例1)
【図4】チューブセルに各種条件で電圧印加を行った結果を示す写真である。各写真において、楕円で囲んだ部分のうち、左側の楕円が発生した気体の蓄積部分であり、右側の楕円が反射光の変化した部分を示している。(実施例1)
【図5】チューブセルに各種条件で電圧印加を行い、印加時に電流計で測定した電流値の結果を示す図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は液晶デバイスにおいて、液晶組成物を含む液晶素子に所定時間、電圧を印加した後、液晶素子への電圧印加を停止させることにより、セルロース誘導体を主成分とする液晶組成物の選択反射波長を変化させる、液晶デバイスの駆動方法に関する。本発明における液晶デバイスは、液晶素子、液晶素子に電圧を印加する電圧印加回路、電圧印加時とは逆方向の電流が流れる逆電流通電回路を備えたものである。

【0014】
本発明における液晶組成物は、水溶性でコレステリック液晶性を有するセルロース誘導体(以下単に「セルロース誘導体」とも称する)を主成分とするものである。水溶性でコレステリック液晶性を有するセルロース誘導体としては、具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース(以下単に「HPC」とも称する)が挙げられる。HPCを主成分とする液晶組成物を、以下単に「HPC液晶組成物」とも称する。

【0015】
本発明における液晶組成物は、螺旋周期構造を有し、その繰り返し単位の長さ(コレステリックピッチP)の制御により、選択反射波長(構造色)を制御することが可能である。電解質が解離して生じる陽イオンと陰イオンの種類および濃度により、コレステリックピッチPが増大または減少することから選択反射波長が大きく変化する。特に、HPC液晶組成物は、紫外から赤外まで(360nm~830nm)の広範囲の選択反射波長を表示することができる(非特許文献5,6)。なお陽イオンと陰イオンの種類および濃度により、相分離温度の指標である曇点も昇降する。本発明では、液晶組成物に電圧を印加することにより、電解質より生じる陽イオンと陰イオンが移動し、コレステリックピッチPが増大または減少し、液晶組成物の選択反射により構造色(反射色)の波長が変化する。液晶組成物の選択反射波長が変化することにより、液晶素子が目的の表示色を示すことができるようになり、液晶デバイスを駆動させることができる。本発明においては、電圧印加の時間や大きさ、逆方向の電流の大きさや、流れる時間などを調節することにより、液晶組成物の選択反射波長を制御することができ、目的の表示色を液晶素子に表示させることが可能となる。

【0016】
本発明においては、液晶素子にとぎれず連続して電圧を印加し続けるのではなく、断続的に電圧を印加する。断続的に電圧を印加するとは、所定の時間、液晶素子に電圧を印加した後は、電圧の印加を停止し、その後再度液晶素子への電圧印加を開始し、所定の時間液晶素子に電圧を印加した後、再度電圧の印加を停止するというサイクルを交互に繰り返すことによる電圧印加方式を意味する。例えば、図3に例示されるようなパルス波を示す電圧印加方式が例示される。

【0017】
すなわち、本発明の液晶デバイスの方法は、以下の工程を含むものである:
i)電圧印加回路により所定の時間、液晶素子に電圧を印加する工程;
ii)電圧印加回路における液晶素子への電圧印加を、所定の時間、停止する工程であって、逆電流通電回路において、電圧印加時とは逆方向の電流が流れる工程;
iii)工程i)および工程ii)を複数回、繰り返す工程。
液晶素子の表示色が目的の波長に達した時点で、工程i)および工程ii)の繰り返しを終了すればよい。工程i)および工程ii)を繰り返す回数は、目的となる液晶素子の表示色の波長、気体の消費量に応じて適宜設定可能である。また、工程i)および工程ii)の各時間についても、目的となる液晶素子の表示色の波長、気体の消費量に応じて適宜設定可能である。工程i)は、電圧印加により、液晶素子に含まれる液晶組成物の選択反射波長を変化させるものである。
電圧印加により液晶組成物中の電界質が分解し、これにより気体が生じ、電極に蓄積する。気体が電極に蓄積すると絶縁体として機能してしまい、電圧が液晶組成物に伝わらずに、選択反射波長の変化が停止してしまう。工程ii)により、気体を消費して、液晶組成物の電解質への応答性を維持させることができる。
例えば工程iおよびii)の時間は、0.01 ~60秒間、好ましくは5~30秒間、より好ましくは10~12.5秒間である。工程i)の時間はサイクル毎に同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、工程ii)の時間もサイクル毎に同じであってもよいし、異なっていてもよい。

【0018】
工程i)の時間および工程ii)の時間がサイクル毎に同じである、すなわち電圧印加回路において連続パルス波を示す電圧が印加される場合、工程i)と工程ii)の時間の比は、パルス波のDuty比として設定することができる。Duty比は、電圧印加による液晶組成物中の電解質の電気分解を阻害しないように発生気体を消費することができるものであればよい。Duty比とは、パルス幅wを周期Tで割った値である。Duty比は、液晶素子の大きさ、電極間の距離、電解質の種類、目的となる液晶素子の表示色等に応じて、適宜設定可能である。例えば、液晶素子が外径2.0mm、内径1.0mm、長さ3cm程度のポリ塩化ビニル(PVC)を用いて作製したチューブセルである場合、Duty比は5%~70%であり、好ましくは10%~60%であり、より好ましくは12.5%~50%である。

【0019】
上述したとおり、工程ii)においては、液晶素子への電圧印加が停止している間に、電圧印加時とは逆方向の電流が流れる。この逆方向の電流は、電圧印加を停止することにより、自然発生的に流れるものであってもよいし、負極性の電圧を印加することによって強制的に流されるものであってもよい。逆方向の電流が流れることにより、陽極および陰極の少なくとも1つから、電圧印加時に発生していた気体が消費され、電気エネルギーを回収することができる。

【0020】
本発明の液晶素子は、セルロース誘導体、電解質、および水性溶媒で構成された液晶組成物と、液晶組成物に接触する一対の電極より構成される。
セルロース誘導体は、水溶性でコレステリック液晶性を有するものであれば、いかなるものであってもよいが、HPCが好ましい。HPCは、アルカリセルロースにプロピレンオキシドを反応させて合成される。HPCの構造式を以下に示す。
【化1】
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HPCはセルロースエーテルの1つであり、セルロースに酸化プロピレンを反応させ、セルロースの無水グルコース単位当たり3個存在する-OH基の一部を-O-CH2-CH(CH3)-OH(2-ヒドロキシプロポキシル基)で置換した部分エーテルである。

【0021】
本発明において使用されるセルロース誘導体の平均重合度は、溶液が過度に高粘度化することなく、液晶性および電圧印加に対する応答性を損なわない限り特に制限されない。例えば、濃度2%、20℃におけるHPCの粘度は、2.0~2.9mPである。

【0022】
液晶組成物におけるセルロース誘導体の濃度は、使用温度に応じて選択でき、セルロース誘導体を含む水性組成物が相溶状態から相転移するとき、凝集・沈殿が生じない範囲で選択するのが望ましく、セルロース誘導体の濃度は、可視光を選択反射するコレステリック液晶としての機能を発揮し得るものであればいかなる濃度であってもよい。例えばHPCは通常、濃厚溶液によりコレステリック液晶としての機能を発揮し得る。セルロール誘導体の濃度は例えば、40~70重量%、好ましくは55~65重量%、さらに好ましくは62.5重量%程度である。

【0023】
本発明における電解質は、水性溶媒中で陽イオンと陰イオンとに解離可能である化合物であればよく、電圧印加により陽イオンと陰イオンとに解離する化合物であってもよい。電解質としては、高分子電解質も使用できるが、通常、電場の作用による移動度の大きな低分子電解質、特に水溶性電解質(無機塩、無機電解質)が使用される。
電解質の陽イオンには、無機カチオンおよび有機カチオンが含まれ、無機カチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(Li, Na, K, Csなど)、アルカリ土類金属イオン(Mg, Ca, Srなど)、遷移金属イオン(Ti, Zr, Cr, Fe, Co, Ni, Cu, Ag, Au, Cdなど)、アルミニウムイオン、ランタノイドおよびアクチノイド金属イオンなどが挙げられる。有機カチオンとしては、第4級アンモニウムイオン、グアニジウムイオンなどが含まれる。陽イオン種の価数は特に制限されず、例えば1~4程度であってもよい。これらの陽イオン種のうち、無機カチオン、特にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンが好ましい。陽イオンは単一のイオン種に限らず複数のイオンで構成してもよい。

【0024】
電解質の陰イオンには無機アニオンおよび有機アニオンが含まれ、無機アニオンとしては、SNC-(チオシアン酸)、ハロゲンイオン(I-、Br-、Cl-、F-など)、無機酸アニオン(NO3-(硝酸))、SO42-(硫酸)、ClO4-(過塩素酸)など)などが例示でき、有機アニオンとしては、例えば有機酸アニオン(CH3COO-(アセテート)、C2H5COO-(プロピオネート)、メタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、p-トルエンスルホネートなど)などが挙げられる。これらの陰イオンのうち、無機アニオン、特にチオシアン酸アニオン、ハロゲンアニオン、無機酸アニオンが好ましい。陰イオンは単一のイオンに限らず複数のイオンで構成してもよい。

【0025】
代表的な電解質として、例えばチオシアン酸リチウム、ハロゲン化リチウム(ヨウ化リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムなど)、硝酸リチウムなどのリチウム塩、これらに対応する金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、カルシウム塩など)が例示できる。好ましくは電解質は金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。

【0026】
電解質の濃度は、電圧の印加により電極間にイオン勾配を形成して選択反射波長の変化を有効に制御できる範囲で選択することができ、例えば0.01~5mol/L、好ましくは0.1~1mol/L、より好ましくは0.5mol/L程度である。

【0027】
水性溶媒は、水単独であってもよく、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水混和性有機溶媒には、水溶性有機溶媒、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、など)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、ケトン類(アセトンなど)、有機酸(酢酸など)、窒素含有水溶性溶媒(トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジンなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、アミド類(ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、多価アルコール類(エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなど)などが含まれる。水混和性有機溶媒は、極性溶媒(誘電率の高い有機溶媒)であるのが好ましい。これらの水混和性有機溶媒は二種以上組み合わせて混合溶媒としても使用できる。

【0028】
本発明の液晶組成物においては、セルロース誘導体と電解質とが水性媒体中で共存しており、電圧の印加により各種イオンが速やかに移動するのが有利である。そのため、水性溶媒中の水分含有量は多いのが好ましく、例えば、10~60重量%、好ましくは20~50重量%、より好ましくは37.5重量%程度である。

【0029】
本発明の液晶組成物は、必要により種々の添加剤、例えば、着色剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤、凍結防止剤などを含有していてもよい。

【0030】
液晶素子は、一対の電極と、液晶組成物より構成されるものである。液晶素子は、電極や表示部の配置構造などに応じて種々の態様が可能である。少なくとも液晶組成物の選択反射波長を表示する表示部は透明性を有したものであり、電極は電圧を液晶組成物に印加するために、液晶組成物に接触している。

【0031】
液晶素子は液晶セルとも称することができる。液晶素子の形態は、いかなるものであってもよいが、例えば図1に示すようなチューブセル、サンドイッチセルが例示される。
チューブセルは、管状部材(チューブ)に液晶組成物を注入して電極を配して封入してなる液晶素子である(図1(a))。液晶素子における電極は、少なくとも陽極および陰極の2つである。陽極および陰極は、各々管状部材の両端に配されていてもよいし、両方の電極が片方の端部に配されていてもよい。管状部材は、液晶組成物の選択反射波長を外部に表示可能な透明性のある表示部を有するものであれば、いかなるものであってもよい。管状部材の材料は、目的や用途に応じて選択すればよく、特に限定されるものではないが、ポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC))が例示される。また管状部材の内径、外径、長さも特に限定されるものではなく、目的や用途に応じて液晶組成物の選択反射波長の制御を効率よく行い得るものであればよい。

【0032】
サンドイッチセルは、2枚以上の板状部材により液晶組成物を挟み、電極を配してなる液晶素子である。(図1(b))。サンドイッチセルは、電極をスペーサーとして利用し、2枚の板状部材で液晶組成物を挟んでなるものであってもよい。板状部材は、液晶組成物の選択反射波長を外部に表示可能な透明性のある表示部を有するものであれば、いかなるものであってもよい。板状部材の材料は、目的や用途に応じて選択すればよく、特に限定されるものではないが、ガラス板やアクリル板などが例示される。板状部材の大きさ、厚さなどは特に限定されるものではなく、目的や用途に応じて液晶組成物の選択反射波長の制御を効率よく行い得るものであればよい。

【0033】
液晶素子における陽極および陰極の電極は、液晶デバイスの内部に配されており、液晶デバイスの外部に露出するものではない。液晶組成物に電圧を印加すると陽極および陰極付近にて電気分解が起こり、気体が発生する。これらの気体は有毒なものである場合があり、周辺環境への影響を考慮すると、液晶デバイス外に放出することは問題である。また逆方向の電流が流れることにより、発生した気体が電気エネルギーに変換され、電気エネルギーを再利用できれば、液晶デバイス駆動の消費電力を抑えることができる。電極付近の気体を効率よく電気エネルギーに変換することが好ましいため、電極が液晶デバイス内に配されていることは有利である。電極間距離は液晶素子の構造や回路に流れる電流の大きさ等との関係に応じて適当に選択すればよい。電極の極性は切換え可能であってもよい。電極の端子数は3個以上であってもよい。また電極の材料は本発明の目的を達成し得るものであればいかなるものを用いてもよい。

【0034】
本発明の液晶デバイスに備えられる回路は、電源装置と陽極および陰極に接続されており、液晶素子に電圧を印加する働きと、電圧印加時とは逆方向の電流を流す働きを有する。これら二つの働きは同時に実施されることはなく、印加電圧の大きさと極性によって切り替わる。電圧印加時の回路は電圧印加回路と称することができる。逆方向の電流が流れる時の回路は逆電流通電回路と称することができ、当該逆電流通電回路は、陽極および陰極から電気エネルギーを回収することができることから、電気エネルギー回収回路とも称することができる。液晶デバイスにおいて、電圧印加回路と逆電流通電回路は、全く別個の回路として設けられていてもよいし、一部が重複していてもよい。またこれらの回路は同一の回路を完全に共有していてもよく、1つの回路に2つの回路の機能を付与して用いるものであってもよい。

【0035】
回路に接続される電源装置は、液晶デバイス内に備えられていてもよいし、備えられていなくてもよい。液晶素子には、断続的に電圧が印加されるが、断続的な電圧印加は、電源装置の機能によりオンオフが達成されてもよいし、電源装置は常時オンの状態にし回路にオンオフの手段を設けることにより達成されてもよい。

【0036】
本発明における電源装置は、本発明の目的を達成し得るものであれば、いかなるものであってもよく、公知のものを使用することができる。印加する電圧の大きさは、液晶素子の大きさ、電極間の距離、電解質の種類、目的となる液晶組成物の選択反射波長、電圧印加のDuty比などに応じて適宜選択することができる。印加する電圧は直流電圧であってもよいし、交流電圧であってもよい。

【0037】
逆電流通電回路は、電圧印加時とは逆方向の電流が流れるものであるが、陽極および陰極のいずれか1つに発生した気体より電気エネルギーを回収可能なものであればいかなるものであればよい。回路にコンデンサを設けてコンデンサにより電気エネルギーを回収してもよい。例えば、図2の回路では、ファンクションジェネレータの出力電圧が0Vになり、液晶素子への電圧印加が停止すると、抵抗器を介して電圧印加時とは逆方向に電流が流れることができる。このとき、電極付近の気体が消費される。当該抵抗器の代わりにコンデンサを設け、電気エネルギーを蓄積させて、再度、液晶素子に提供することも可能である。

【0038】
抵抗器を設ける場合には、電圧印加を停止させるだけで逆方向の電流が流れるが、さらに逆方向の電流を強制的に流すことにより、気体消費を促進してもよい。逆方向の電流を強制的に流す場合は、逆方向の電流を流すための電源装置を逆電流通電回路に接続しておけばよい。逆方向の電流を流すための電源装置は、液晶素子への電圧印加のための電源装置を共有することもできる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の代表例を実施例により説明するが、これらの実施例は本発明の技術範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
HPC液晶組成物を封入した可変色素子(液晶素子)に継続して電圧印加を行うと、陽極にCl2の気泡が発生し、陰極にH2の気泡が発生する。かかる気泡の発生が電圧制御により抑制されるかを検証した。
【実施例】
【0041】
(1)HPC液晶組成物を封入した可変色素子(チューブセル)の作製
まず、以下の試薬を用いてHPC液晶セルを作製した。
・HPC(Hydroxypropyl Cellulose 2.0~2.9mPa・s,メーカー:和光純薬工業株式会社,
型番: LTQ4449)
・NaCl(メーカー:和光純薬工業株式会社,型番:7892)
・エポキシ系強力接着剤アラルダイト(メーカー:NICHIBAN,型番:AR-R30)
・PVCチューブ(メーカー:NalgeNuncIntermational Corp.,型番F2979)
【実施例】
【0042】
S. Yuji and S. Uto: Jpn. J. Appl. Phys. 45(2006) 2833に記載の方法に基づき、HPC液晶組成物を作製した。まず、無機塩としてのNaClを蒸留水に加え、濃度0.5mol/Lの無機塩水溶液を作製した。そして、この水溶液と粉末のHPCを質量比3:5の割合で混合した。この混合物は粘性が高いため、乳鉢と乳棒を使用して約5分間練和した。この時、多数の小さな気泡が混入するため、練和後すぐにHPC液晶組成物をスクリュー管に移し替え、オートクレイブを用いて0.1MPa(121℃)の高温高圧下に約1分間放置し、脱気を行った。その際、液晶組成物が噴出するのを防ぐため、スクリュー管をビーカーに入れ、水が入り込まないようにスクリュー管の上をアルミホイルで覆った。この操作により液晶分子が配向し、HPC液晶組成物は選択反射による色彩を呈する。その後、このガラス瓶を3日間冷蔵庫(4℃)で保存し、その間ガラス瓶を頻繁にひっくり返して、液晶分子の配向を進行させた。
【実施例】
【0043】
外径2.0mm、内径1.0mmのポリ塩化ビニル(PVC)チューブを3cmに切った。チューブに注射器を用いて上記(1)で作製したHPC液晶組成物を注入し、両端にプラチナ棒(φ0.7mm)を差し込み、エポキシ系接着剤(アラルダイト)で封止した。作製したチューブセルの概略図を図1に示す。
【実施例】
【0044】
(2)チューブセルについて電流・電圧印加実験を行った。本実験に用いた器具は以下の通りである。
・Voltage Amplifiere(メーカー:ELECTROMCS,型番:F10AD)
・30MHZ MULTIFUNCTION GENERATOR(メーカー:nf,型番:WF1973)
・DIGITAL OSCILLOSCOPE(メーカー:IWATSU,型番:DS-5102)
・Digital multimeter(メーカー:岩通計測株式会社,型番:VOAC7522)
・超高感度スペクトロメータ(メーカー:Ocean Optics,型番:QE65000)
・メタルハライドファイバー照明装置(メーカー:株式会社シグマプレシジョン,型番:IMH-160)
【実施例】
【0045】
ファンクションジェネレータとアンプを用いてチューブセルに電圧印加を行い、オシロスコープで波形観測と、電流計で電流を測定した。本実験の回路図を図2に示す。
ファンクションジェネレータの設定は以下の通りにした。方形波からパルス波を作るために直流オフセット機能を用いた。図3にFreq:0.1Hz,Amptd:+2.1Vp-p,Offset:+1.05V,Duty50%,アンプ10倍の時のパルス波を示した。このファンクションジェネレータはAmptdが+10Vp-pまでしか出力できないので、Amptdを+2.1Vp-pにしてアンプで10倍にした。次にオフセットを+10.5[V]にし、21[V]と0[V]が交互に印加できるようにした。周波数0.1[Hz]の周期は10秒なので、Duty比を50%に設定し、5秒間21[V]印加された後に5秒間は印加しないという波形とした。このパルス波形を、2時間印加した場合に、直流21[V]を1時間印加した場合と通電量は等しくなる。Duty比が100%、50%、25%、12.5%の場合について実験を行った。
【実施例】
【0046】
(3)結果
それぞれ以下の条件で電圧印加実験を行った結果の写真を、図4(a)~(d)に示した。
(a)21[V]1時間印加…周波数(Freq):0.1Hz ,Amptd:+2.1Vp-p,Offset:+1.05V,アンプ×10
(b)21[V]2時間印加…Freq:0.1Hz,Amptd:+2.1Vp-p,Offset:+1.05V,Duty50%,アンプ×10
(c)21[V]4時間印加…Freq:0.1Hz,Amptd:+2.1Vp-p,Offset:+1.05V,Duty25%,アンプ×10
(d)21[V]8時間印加…Freq:0.1Hz,Amptd:+2.1Vp-p,Offset:+1.05V,Duty12.5%,アンプ×10
また、それぞれ陽極から液晶の選択反射波長が変化した長さと、陰極から発生した水素ガスの長さを、図4(a)の比率を基準として、陽極からの液晶組成物の選択反射波長の変化量の比を揃えて算出して評価した結果を以下の表1に示す。更に、図4(a)~(d)の電圧印加時に流れていた電流値の結果を図5に示した。
【表1】
JP2015038549A_000004t.gif
【実施例】
【0047】
印加電圧のDuty比を下げるにつれて、抵抗が小さくなり、電流値の変化もなだらかになった。つまり、水素ガス発生を抑えられていることがわかった。Duty比を下げ、電圧印加時間を長くすることにより、液晶組成物の選択反射波長を変化させつつも、水素ガスの発生量を減らすことが出来た。従って、電圧印加ONの時には選択反射波長の変化が促進されると同時に気泡が発生し、OFFの時はその気泡が消費され、結果として気泡の発生を抑制することができたと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
セルロース誘導体、特にHPCを利用した液晶素子は、明るい反射型表示、電力ゼロでも画像表示を維持するメモリー性、高繊細・大面積化に適しているなど他の液晶素子には無い魅力的な特徴を備えている。またセルロース誘導体は植物に由来し、生分解性を有することから、廃棄する際なども環境への影響が少ない。セルロース誘導体を利用した液晶素子は、広告やポスター等の静止画用表示装置としての応用が期待される。本発明の方法により、一定の速度を維持しながら目的の選択反射波長まで液晶組成物を変化させることができるようになった。また、本発明の方法によれば消費電力を最小限に抑えることも可能となる。セルロース誘導体を利用した液晶素子の応用範囲を広げることを可能とするものである。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図1】
2
【図4】
3
【図5】
4