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明細書 :赤色みりんの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4521580号 (P4521580)
公開番号 特開2007-110959 (P2007-110959A)
登録日 平成22年6月4日(2010.6.4)
発行日 平成22年8月11日(2010.8.11)
公開日 平成19年5月10日(2007.5.10)
発明の名称または考案の名称 赤色みりんの製造方法
国際特許分類 C12G   3/08        (2006.01)
FI C12G 3/08 102
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2005-305277 (P2005-305277)
出願日 平成17年10月20日(2005.10.20)
審査請求日 平成19年3月14日(2007.3.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
発明者または考案者 【氏名】伊藤 彰敏
【氏名】深谷 伊和男
【氏名】工藤 悟
個別代理人の代理人 【識別番号】100097733、【弁理士】、【氏名又は名称】北川 治
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開昭57-105183(JP,A)
愛知県産業技術研究所研究報告,2004年11月,第3号,URL,http://www.aichi-inst.jp/afri/res/rep-03-t5.pdf
特許請求の範囲 【請求項1】
掛米製造工程で得られた掛米と、麹製造工程で得られた麹とを用いて仕込み工程を行い、みりんを製造するみりんの製造方法において、
前記掛米製造工程での原料米として、糠層にアントシアニン色素を含む有色米を97%以下の精米度で使用し、
前記麹製造工程では、麹米に接種する麹菌としてクエン酸生産性の麹菌を使用すると共に、麹菌接種後の品温経過パターンを、30~33℃で接種し、48時間程度にわたって次第に40~43℃まで品温を上昇させるパターンで管理し、
かつ、前記仕込み工程における上槽後に前記麹菌由来の酵素を失活させるための火入れを行うことを特徴とする赤色みりんの製造方法。
【請求項2】
前記仕込み工程における麹の仕込み比率を20~25重量%に設定することを特徴とする請求項1に記載の赤色みりんの製造方法。
【請求項3】
前記掛米製造工程での原料米が紫黒もち米であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の赤色みりんの製造方法。
【請求項4】
前記掛米製造工程での原料米の精米度が95~97%であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の赤色みりんの製造方法。
【請求項5】
前記クエン酸生産性の麹菌が、少なくとも黒麹菌及び白麹菌を包含する生酸麹菌から選ばれる1種又は2種以上の麹菌であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の赤色みりんの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は赤色みりん及びその製造方法に関する。更に詳しくは本発明は、赤色その他の色彩を付与するための添加成分を含まず、しかも澄明で鮮やかな赤色を呈する赤色みりんと、このような赤色みりんを製造することができる新規な赤色みりんの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、みりんの製造方法は、基本的に、掛米を製造するための工程と、麹を製造するための工程と、これらの工程で製造された掛米及び麹を仕込んでみりんを製造する工程とからなる。
【0003】
掛米製造工程では、通常、もち米を一定の程度に精米してから、蒸きょうして、掛米(蒸もち米)を調製する。他方、麹製造工程では、うるち米を精米した麹米を蒸きょうして、通常は黄麹菌( Aspergillus orizae )を接種し、48時間程度にわたって一定の品温経過パターンで温度管理することにより麹菌の増殖と酵素生産を図り、麹を調製する。次いで掛米と麹を一定の割合で仕込み、これに焼酎又はアルコールを加え(仕込みもろみ)た後に糖化・熟成させて原料米中の成分を分解・溶出させる(みりんもろみ)。このみりんもろみを圧搾(上槽)・ろ過して、みりん製品としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような従来のみりんの製造方法に対して、クエン酸の濃度を高めてpHを低下させたみりんが検討されている。その手段として、例えば下記の特許文献1の第2~第3頁には、通常の方法で製造されたみりんに対してクエン酸を添加する方法が記載されている。
【0005】
<patcit num="1"> <text>特開平9-187267号公報 しかし、このようなみりんの製造方法は、醸造製品の性格上、好ましくなく、添加物表示の義務を免れない。</text></patcit>
【0006】
一方、Aspergillus awamorii、Aspergillus usamii、Aspergillus kawachii等のクエン酸生産能を有する生酸麹菌を黄麹菌に代えて使用するみりんの製造方法も、下記の特許文献2の第1~第2頁において記載されている。
【0007】
<patcit num="2"> <text>特開昭和57平9-187267号公報 しかし、このような方法で得られるみりんは、甘みが少なく、みりんらしい風味に乏しい欠点がある。</text></patcit>
【0008】
以上に述べたように、従来の通常のみりんは製造方法が画一化していて品質や色調等が画一的であり、一方、上記の特許文献1や特許文献2に記載されたような新規な製造方法に係るみりんも、必ずしも消費者を十分に満足させるものではなかった。
【0009】
そこで本発明は、みりんの需要喚起、新規な用途展開を可能とする斬新な品質・色調のみりんと、その製造方法とを提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【0010】
本願発明者は、色彩を付与するための成分を添加することなく澄明で鮮やかな赤色を呈する赤色みりんを開発することに着眼した。そのため、掛米の原料米として、糠層にアントシアニン色素を含む有色米(例えば紫黒米)を用いることを着想した。紫黒米等の有色米を、清酒製造や食酢製造に利用することを開示した公知の特許文献は存在するが、みりんの製造に用いることを開示した特許文献については見聞していない。
【0011】
又、みりんの基本的な製造工程は前記のように多数のステップからなり、それらの各ステップごとに、処理の手段や条件が経験的に確立されている。この点に関して、本願発明者は次のように考えた。
【0012】
即ち、みりん製造方法の工程の始点で「原料米として有色米を用いる」と言う重大な変更を加えるのであるから、みりん製造の基本的フローを維持しつつも、各工程における処理の手段や条件の設計を、原料米の変更に適応できるように、総合的にバランス良く再構築する必要がある。特許文献2等で記載されたみりん製造方法が満足すべき結果をもたらさないのは、このような製造工程全般にわたる設計の再構築を伴わないためである、と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、掛米製造工程で得られた掛米と、麹製造工程で得られた麹とを用いて仕込み工程を行い、みりんを製造するみりんの製造方法において、前記掛米製造工程での原料米として、糠層にアントシアニン色素を含む有色米を97%以下の精米度で使用する、赤色みりんの製造方法である。
【0014】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る掛米製造工程での原料米が紫黒もち米である、赤色みりんの製造方法である。
【0015】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る掛米製造工程での原料米の精米度が95~97%である、赤色みりんの製造方法である。
【0016】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明~第3発明のいずれかに係る麹製造工程において、麹米に接種する麹菌としてクエン酸生産性の麹菌を使用する、赤色みりんの製造方法である。
【0017】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第4発明に係るクエン酸生産性の麹菌が、少なくとも黒麹菌及び白麹菌を包含する生酸麹菌から選ばれる1種又は2種以上の麹菌である、赤色みりんの製造方法である。
【0018】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第4発明又は第5発明に係るクエン酸生産性の麹菌を使用する麹製造工程において、麹菌接種後の品温経過パターンを通常の黄麹菌接種の場合に準じて管理する、赤色みりんの製造方法である。
【0019】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第1発明~第6発明のいずれかに係る仕込み工程における麹の仕込み比率を15~30重量%に設定する、赤色みりんの製造方法である。
【0020】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、前記第1発明~第7発明のいずれかに係る仕込み工程における上槽後に、前記麹菌由来の酵素を失活させるための火入れを行う、赤色みりんの製造方法である。
【0021】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、第1発明~第8発明のいずれかに係る赤色みりんの製造方法により製造されたものである、赤色みりんである。
【0022】
(第10発明の構成)
上記課題を解決するための本願第10発明の構成は、色彩を付与しあるいは酸度に影響する添加成分を含まないみりんであって、その色調が以下の各パラメーターを満足する、赤色みりんである。
(1)明度(L):50~60
(2)赤色度(a):50~60
(3)黄色度(b):20~30
(4)OD520:0.15~0.20
(5)酸度:3.00~7.00mL
【発明の効果】
【0023】
(第1発明の効果)
第1発明においては、掛米製造工程での原料米として糠層にアントシアニン色素を含む有色米を使用するため、色彩を付与するための成分を別途に添加することなく、赤色みりんを製造することができる。前記したように紫黒米を清酒製造や食酢製造に利用した前例はあるが、これをみりん製造の掛米製造工程での原料米として使用した前例はない。
【0024】
又、第1発明においては、有色米を97%以下の精米度で使用する。無精米の、もしくは精米度が97%を超える有色米を使用すると、赤色みりんの色調が黒っぽく悪化し、消化性も悪い。これに対し、紫黒米を清酒製造等に使用した前例では無精米の紫黒米を使用している。更に、従来のみりん製造方法では、もち米を通常は85%程度にまで精米している。
【0025】
(第2発明の効果)
上記の第1発明で用いる掛米製造工程での原料米としての有色米は、糠層にアントシアニン色素を含む有色米である限りにおいて、その種類を限定されないが、特に有色もち米が好ましく、とりわけ紫黒もち米が好ましい。
【0026】
(第3発明の効果)
掛米製造工程での原料米としての有色米の精米度は、95~97%であることが特に好ましい。精米度が95%未満であると、そのパーセンテージが低くなるに従って赤色みりんの色彩が薄くなり、後述する有色米特有の豊富な無機成分も次第に削減されて行く。
【0027】
(第4発明の効果)
前記したように、通常のみりん製造方法においては麹米に接種する麹菌として黄麹菌(Aspergillus orizae)を用いる。しかしながら赤色みりんにおいては、黄麹菌を用いるとアントシアニン色素の退色が見られる。アントシアニン色素の色調の向上、退色の抑制のために、pHを低下させることが有効である。
【0028】
本願発明者は、上記のような明確な目的意識をもって、麹米に接種する麹菌としてクエン酸生産性の麹菌を使用した結果、クエン酸によりみりんのpHが低下し、より澄明で鮮やかな赤色を呈する赤色みりんを製造することができた。このpH低下と言う目的のために、添加物としてクエン酸等を別途に加えていない点は重要である。
【0029】
(第5発明の効果)
上記した第4発明におけるクエン酸生産性の麹菌は、一定のクエン酸生産能を示す麹菌である限りにおいて、その種類を限定されない。但し、第5発明のように、少なくとも黒麹菌及び白麹菌を包含する生酸麹菌から選ばれる1種又は2種以上の麹菌を用いることが、特に好ましい。
【0030】
(第6発明の効果)
みりんの製造方法における従来の常識から言えば、蒸きょうした麹米に対する麹菌の接種後の品温経過パターンは以下のようなものであり、黄麹菌の接種の場合と、生酸麹菌の接種の場合とでは、パターンが大きく異なる。
1)黄麹菌の接種の場合は、30°C程度で接種し、次第に43°C程度まで品温を上昇させる。
2)黒麹菌や白麹菌等のいわゆる生酸麹菌の接種の場合は、35~40°C程度で接種し、上記とは逆に、次第に30°C程度まで品温を降下させる。
【0031】
しかしながら、本願発明者は、生酸麹菌のアミラーゼ活性が高くない点に留意した。即ち、生酸麹菌の接種後の品温経過パターン上記の2)のようなものとすると、アミラーゼ活性の不足により、前記の特許文献2に記載された製造方法に係るみりんのように、甘みが少なく、みりんらしい風味に乏しくなる。
【0032】
そこで、第6発明のように、麹米に対してクエン酸生産性の麹菌を接種した後に、その品温経過パターンを上記2)のような通常の黄麹菌接種の場合と同様とした。その結果、アミラーゼ活性が十分に高まり、甘みに富むみりんらしい風味を実現することができた。
【0033】
(第7発明の効果)
みりんの製造方法における従来の常識から言えば、仕込み工程における掛米と麹の仕込み(混合)比率は、通常は掛米が88~90重量%に対して、麹が10~12重量%である。
【0034】
しかしながら、第6発明の場合と同様に生酸麹菌のアミラーゼ活性に留意し、掛米と麹の仕込み比率を、掛米が70~85重量%に対して、麹が15~30重量%と、麹の仕込み比率を著しく高くした。その結果、仕込み工程におけるアミラーゼ活性とクエン酸濃度が非常に良好に調整され、みりんの甘みが一層高まると共に、みりんらしい風味を更に良好に実現することができた。
【0035】
(第8発明の効果)
従来のみりん製造方法においては、みりんもろみの上槽・ろ過後における加熱処理(火入れ)は行ない場合も多く、これを行うとしても専ら殺菌を目的としていた。しかし、本願発明者の研究の結果、赤色みりんの製造においては、みりんもろみの上槽・ろ過後における火入れが、生酸麹菌由来の酵素の失活に基づいて、赤色みりんの退色の防止に非常に有効であることが判明した。
【0036】
(第9発明の効果)
第9発明の赤色みりんは、上記の第1発明~第8発明のいずれかに係る製造方法により製造されたものであるため、赤色その他の色彩を付与するための添加成分を含まず、しかも澄明で鮮やかな赤色を呈する。呈色成分であるアントシアニン色素は、栄養学的な機能性も注目されている。又、赤色みりんにおいては、甘みに富むみりんらしい風味も確保されている。更に、掛け米製造工程での原料米として使用する有色米は各種の無機成分を豊富に含むことが知られており、赤色みりんはミネラル分も豊富に含んでいる。
【0037】
以上の点から、赤色みりんは、品質や色調等が画一的な従来のみりんとは異なり、現代の消費者の変化しつつある嗜好に応えた新たな意匠性、栄養価及び機能性を備えたみりんとして、新規な需要の喚起、新規な用途の展開が期待される。より具体的には、みりんとしての本来の用途の他に、みりん風調味料の原料、飲料(本直し)、デザートリキュール等としての利用が考えられる。
【0038】
(第10発明の効果)
第10発明に係る赤色みりんは、色彩を付与しあるいは酸度に影響する添加成分を含まず、しかも、明度(L)、赤色度(a)、黄色度(b)、OD520及び酸度において一定のパラメーターが確保されているので、澄明で鮮やかな赤色を呈し、消費者の意匠的嗜好に適合し、又、調味料等としての使用において料理等に対して好ましい調色を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、本願の第1発明~第10明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。以下において単に「本発明」と言う時は、上記の各発明を包括的に指している。
【0040】
〔赤色みりんの製造方法〕
本発明に係る赤色みりんの製造方法は、掛米製造工程で得られた掛米と麹製造工程で得られた麹とを用いて仕込み工程を行いみりんを製造する方法において、掛米製造工程での原料米として、糠層にアントシアニン色素を含む有色米を97%以下の精米度で使用する点に第1の特徴がある。
【0041】
上記の「掛米製造工程」とは、原料米を一定の程度に精米してから蒸きょうし、掛米(蒸し米)を調製する工程を言う。上記の「麹製造工程」とは、精米した麹米を蒸きょうして麹菌を接種し、48時間程度にわたって一定の品温経過パターンで温度管理することにより麹菌の増殖と酵素生産を図り、以て麹を調製する工程を言う。上記の「仕込み工程」とは、掛米と麹を一定の割合で混合し、これに焼酎又はアルコールを加えて仕込みもろみとした後、糖化・熟成させてみりんもろみとし、みりんもろみを圧搾・ろ過してみりん製品とする工程を言う。
【0042】
〔掛米製造工程〕
掛米製造工程において原料米として用いる有色米は、上記のように糠層にアントシアニン色素を含むものであるが、特に紫黒米、とりわけ紫黒もち米を用いることが好ましい。又、この有色米は、上記のように97%以下の精米度で使用するが、特に95~97%の精米度であることが好ましい。
【0043】
原料米として用いる有色米は、上記のような精米の後に、通常は水に浸漬し、しかる後に蒸きょうして掛米とするが、このような浸漬及び蒸きょうの処理条件は特段に限定されず、適宜にプロセス設計することができる。
【0044】
〔麹製造工程〕
本発明に係る赤色みりんの製造方法は、麹製造工程において、麹米に接種する麹菌としてクエン酸生産性の麹菌を使用する点に第2の特徴がある。更に、麹菌接種後の品温経過パターンを通常の黄麹菌接種の場合に準じて管理する点に第3の特徴がある。
【0045】
クエン酸生産性の麹菌の種類は限定されないが、特に、生酸麹菌の1種又は2種以上を用いること、とりわけ黒麹菌及び白麹菌等から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。黒麹菌では、Asp. awamorii 、Asp. saitoi 等を好ましく例示できる。白麹菌では、、Asp. kawachii 等を好ましく例示できる。
【0046】
上記した「黄麹菌接種の場合に準じた品温経過パターン」の内容は、具体的な一例を挙げれば、「30~33°C程度で接種(麹菌の胞子を散布)し、湿温度を調節しながら35°C、39°Cで手入れを行い、最高品温度40~43°C程度で12時間保持した後に出麹する」と言うようなパターンであるが、このようなパターンに限定されない。要するに、「麹製造工程においては比較的に低温域(例えば、30°Cあるいはその上下の温度域)からスタートし、適宜に設定された工程時間の間に、麹製造工程においては比較的に高温域(例えば、40°Cを超えるような温度域)に次第に昇温させる」と言うパターンであれば、「黄麹菌接種の場合に準じた品温経過パターン」と言える。
【0047】
麹製造工程においては、まず原料米を精米して麹米とし、これを水に浸漬し、蒸きょうした後に麹菌の接種を行って麹を製造する。原料米としては、必ずしも限定されないが、通常のうるち米を好ましく利用できる。原料米の精米度も限定されないが、例えば75~80%程度の精米度とすることができる。上記の浸漬及び蒸きょうの処理条件は特段に限定されず、適宜にプロセス設計することができる。
【0048】
〔仕込み工程〕
本発明に係る赤色みりんの製造方法は、仕込み工程において、麹の仕込み比率を15~30重量%に設定する点、即ち、掛米が70~85重量%に対して麹が15~30重量%と、麹の仕込み比率を高くした点に第4の特徴がある。麹の仕込み比率は、更に好ましくは、20~25重量%に設定することができる。
【0049】
本発明に係る赤色みりんの製造方法は、仕込み工程での上槽及びろ過の後に、クエン酸生産性の麹菌に由来する酵素の失活を目的とする火入れを行う点に第5の特徴がある。火入れの条件は目的を達する限りにおいて限定されないが、例えば、55~65°C程度で5~15分間程度の加熱とすることができる。
【0050】
仕込み工程においては、仕込み時に焼酎又はアルコールを加えて仕込みもろみとし、これを糖化・熟成させてみりんもろみとし、更にみりんもろみを圧搾・ろ過した後に、好ましくは上記の火入れを行った後に、みりん製品とする。仕込み時の焼酎又はアルコールの添加量は限定されないが、例えば、濃度40%のアルコールを仕込総米の60~70%容量程度に用いることができる。仕込みもろみの糖化・熟成プロセスの条件は限定されないが、例えば、30°C程度の温度域での30~60日間程度の糖化・熟成プロセスとすることができる。みりんもろみの圧搾においては、通常に使用される圧搾手段を任意に採用することができる。圧搾後のろ過の手段も限定されないが、例えば、常用されるケイソウ土を利用できる。
【0051】
〔赤色みりん〕
本発明に係る赤色みりんは、上記したいずれかの赤色みりんの製造方法により製造されたものである。この赤色みりんは、赤色その他の色彩を付与しあるいは酸度に影響する添加成分を含まないにも関わらず、以下の特徴を有する。第1の特徴は、澄明で鮮やかな赤色を呈する点である。第2の特徴は、ミネラル分が豊富で、かつ、麹製造工程においてクエン酸生産能を有する麹菌を使用するにも関わらず甘みに富むみりんらしい風味を確保している点である。第3の特徴は、以下のパラメーターが確保されている点である。
(1)明度(L):50~60
(2)赤色度(a):50~60
(3)黄色度(b):20~30
(4)OD520:0.15~0.20
(5)酸度:3.00~7.00mL
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲がこれらの実施例によって限定されないことは、勿論である。
【0053】
(実施例1:みりんモデル系による精米度の評価)
本例では、表1に示すように精米度を種々に変えた試料(紫黒もち米)について、市販酵素を用いたみりんモデル系による評価を行った。
【0054】
即ち、試料を10gとり、15°Cの水道水に3時間浸漬してから水切りした後、常圧で45分間蒸した。この蒸した試料米を30°Cまで冷却して、蒸米水分(%)を測定した。その結果を表1に示す。次に、クエン酸緩衝液を用いて調製した20%アルコール液(pH3.5)に、αアミラーゼ活性が60U/mLとなるように市販の酵素剤ペプチダーゼR(アマノエンザイム株式会社製)を溶かした溶液を別途準備しておき、この溶液中に上記の蒸した試料米を投入して、30°Cで3日間消化させ、ろ紙によりろ過した。このろ液のブリックス(%)、アミノ酸度(mL)、明度(L)、赤色度(a)、黄色度(b)、及びOD520を測定した。これらの測定結果も表1に示す。
【0055】
【表1】
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表1から分かるように、玄米は吸水性が悪く、蒸米水分が最も低い値を示し、消化性の指標であるブリックス、アミノ酸度も低い値を示し、原料利用率が悪い(溶け難い)ため、みりん製造には玄米の利用は適さない。3~5%精米することで、消化性が飛躍的に向上し、赤みを示すaやOD520が高くなり、明るい色調の消化液が得られる。よって、赤色みりんの製造には、所定の程度の精米操作が不可欠である。
【0056】
(実施例2:赤色みりんの製造)
精米度80%のうるち米を、常法により洗米、浸漬、水切りし、次いで常圧で40分間蒸きょうした後、放冷して蒸米を得た。この蒸米を33°Cに保持して、Asp. kawachii 又はAsp. awamorii をそれぞれ0.1重量%の割合で接種し、48時間の間に品温を次第に昇温させつつ、最終的に40°Cで出麹した。対照例として、黄麹菌( Asp. oryzae)が接種麹である点以外は上記と全く同様に実施した黄麹も調製した。
【0057】
精米度97%の紫黒もち米2.1kgを加圧蒸きょう(1k、30分)した掛け米を3例準備し、それぞれに対して、上記の実施例2及び対照例で得た麹を全量加えて混合(仕込み)した。これらの場合の麹の仕込み比率は20重量%である。これらの混合物に対して更に40%アルコールを2.1L仕込み、30°Cで30日間、糖化・熟成を行った。次いでこれらのみりんもろみを圧搾し、60°Cで10分間の加熱(火入れ)を行った後にオリ引きして、実施例2及びその対照例に係るみりんを得た。
【0058】
これらのみりんの成分分析値及び煮切試験結果を表2に示す。表2において、各例の区別は用いた麹菌の表示によって行っている。更にこれらのみりんの色調分析の結果を表3に示す。
【0059】
【表2】
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【0060】
【表3】
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表2の結果から、次の点を指摘できる。即ち、成分的には、生酸性麹を使用した実施例2の方が、黄麹を使用した対照例よりも酸度、アミノ酸度及びアルコールが高くなる傾向を示した。又、実施例2はクエン酸の風味に優れていた。煮切試験においては全体的に低い数値を示したが、これは、紫黒もち米のポリフェノールにより、オリ引きの際に余剰タンパク質が沈降し、製成みりん中の煮切原因タンパク質が減少していることに起因すると考えられる。生酸性麹を使用した実施例2のみりんは、加アルコール煮切りについても低い値を示した。
【0061】
表3の結果から分かるように、実施例2に係るみりんは、a(赤色度)及びOD520が高く、全体的に明るい赤色を呈した。
【0062】
(実施例3:赤色みりんの色調の経時変化)
実施例2及びその対照例に係るみりんについて、その各300mLを透明なガラス瓶に詰め、常温(20°C)で60日間保存した後に、再度、色調分析を行った。その結果を表4に示す。表4中、「0日」とあるのは、表3と同じ、製造直後の色調分析の結果である。表4から分かるように、実施例に係る赤色みりんは色調の経時変化が緩やかである。
【0063】
【表4】
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【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明によって、斬新な品質・色調の赤色みりんと、その新規な製造方法とが提供される。