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明細書 :黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法およびこれに用いるプライマーセット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5083571号 (P5083571)
公開番号 特開2011-120528 (P2011-120528A)
登録日 平成24年9月14日(2012.9.14)
発行日 平成24年11月28日(2012.11.28)
公開日 平成23年6月23日(2011.6.23)
発明の名称または考案の名称 黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法およびこれに用いるプライマーセット
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12R   1/445       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
C12Q 1/68 A
C12R 1:445
請求項の数または発明の数 10
全頁数 39
出願番号 特願2009-281486 (P2009-281486)
出願日 平成21年12月11日(2009.12.11)
審査請求日 平成22年2月8日(2010.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
発明者または考案者 【氏名】鈴木 匡弘
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査官 【審査官】松原 寛子
参考文献・文献 特開2006-141249(JP,A)
国際公開第2009/085221(WO,A1)
国際公開第2008/140612(WO,A1)
Journal of applied microbiology,2009年,Vol.107,p.1367-1374
調査した分野 C12N 15/00
C12Q 1/68
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
日本で分離され、同定された黄色ブドウ球菌の菌株のゲノム上の、
(1)ファージ由来遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)、
(2)ブドウ球菌カセット染色体(Staphylococcal cassette chromosome mec; SCCmec)以外のゲノミックアイランド由来のORF、
(3)トランスポゾン由来のORF、
(4)SCCmec由来のORF、および
(5)genomic isletを構成するORF
の有無を任意の順で検出し、これらORFの有無の組み合わせにより遺伝子型別分類を行うステップを有する黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法であって
上記(1)のORFにおける遺伝子が、SAV0850、SAV0898、SAV0866、SA1774、SAV1974、SAV0855、SAV0881、SLTorf175、SA1801、SAV0913、SLTorf182、SAV1998およびPV83orf2からなる群から選ばれる少なくとも11種の遺伝子であり、
上記(2)のORFにおけるゲノミックアイランドが、Mu50株のSaGImであり、
上記(3)のORFにおけるトランスポゾンが、トランスポゾンTn554であり、
上記(4)のORFにおける遺伝子が、mecA、mec gene complex class B、SCCmec kdpCおよびcassette chromosome recombinase A2であり、
上記(5)のORFにおけるgenomic isletが、MW2株(GenBank Accession Number BA000033)のMW0919およびN315株(GenBank Accession Number BA000018)のSA2259であり、
上記検出が、上記ORF群に対応するプライマーの組を用いて、PCR(polymerase chain reaction)法により上記ORFの検出を行う
ことを特徴とする黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法
【請求項2】
上記(1)のORFにおける遺伝子が、SAV0850、SAV0898、SAV0866、SA1774、SAV1974、SAV0855、SAV0881、SLTorf175、SA1801、SAV0913、SLTorf182、SAV1998およびPV83orf2であることを特徴とする請求項1に記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法。
【請求項3】
配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46に示された13組の塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーを用いて、PCR(polymerase chain reaction)法により前記(1)のORFの検出を行い、
配列表の配列番号23および24に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いて、PCR法により前記(2)のORFの検出を行い、
配列表の配列番号9および10に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いて、PCR法により前記(3)のORFの検出を行い、
配列表の配列番号3と4、5と6、7と8、25と26、31と32に示された塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマーを用いて、PCR法により前記(4)のORFの検出を行い、
配列表の配列番号27と28、29と30に示された2組の塩基配列の組み合わせからなる2組のプライマーを用いて、PCR法により前記(5)のORFの検出を行い、
上記プライマーには、2塩基以下の付加、置換、欠失、挿入が有ってもよいことを特徴とする請求項1または2に記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法。
【請求項4】
前記プライマーに付加、置換、欠失、挿入がないことを特徴とする請求項に記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法。
【請求項5】
前記PCR法がマルチプレックスPCR法であることを特徴とする請求項のいずれかに記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法。
【請求項6】
前記(1)~(5)のORF有無の検出結果を、それぞれ1(有)と0(無)に置き換えて2進法コード化することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法。
【請求項7】
前記(4)および(5)のORF有無の検出結果を一つにまとめて2進法コード化することを特徴とする請求項に記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法。
【請求項8】
前記2進法コード化した結果をさらに10進法コード化することを特徴とする請求項またはに記載の黄色ブドウ球菌の遺伝子型分類法。
【請求項9】
配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーと、
配列表の配列番号23および24に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと、
配列表の配列番号9および10に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと、
配列表の配列番号3と4、5と6、7と8、25と26、31と32に示された塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマーと、
配列表の配列番号27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる2組のプライマーと
を含むことを特徴とする黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類用プライマーセットであって、
上記プライマーには、2塩基以下の付加、置換、欠失、挿入が有ってもよい黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類用プライマーセット。
【請求項10】
前記プライマーに付加、置換、欠失、挿入がないことを特徴とする請求項に記載のプライマーセット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法(菌株特定法)およびこれに用いるプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、MRSAという)は病院で数多く分離される病原菌である。東京都内のある病院(925床)では1ヶ月の間に72人の入院患者からMRSAが検出されたと報告されており、また熊本県内のある病院(550床)では同じく1ヶ月の間に35人の入院患者からMRSAが検出されたと報告されている。
【0003】
厚生労働省の感染症発生動向調査では、全国の主要な約500病院からの報告だけで、MRSA感染症は年間20,000件以上に及んでいる。
以上のことからMRSAは病院で非常に多く分離され、感染防止のための疫学調査が常に必要な病原菌であると考えられる。言い換えると、MRSAは院内感染原因菌として重要な菌である。院内感染を減少させるためには感染ルートの特定が必要である。
【0004】
院内感染が疑われる場合には、感染ルートを特定するために、異なる患者から分離された菌株が同一か否かを判定する必要がある。そのために菌株が保有するゲノムの特徴を検出し菌株を特定するが、これを遺伝子型別分類という。
【0005】
菌の遺伝子型別分類の方法としては、従来、パルスフィールドゲル電気泳動法(以下、PFGEという。)が多用されている。PFGEは菌のゲノムDNAを制限酵素で切断し、その断片の電気泳動パターンとして菌株の遺伝子型を決定する方法で、識別能力が高く、再現性があることから遺伝子型別分類の定法とされている。
【0006】
しかし、PFGEは結果が出るまでに早くても菌株分離同定後3日程度と時間がかかり、検査結果が出たときにはすでに感染拡大が終了していることが多い。それに加え、複雑なバンドパターンにより判定するため、主観的な要素が入りがちで、同時に泳動した菌株間以外で遺伝子型が同一か否かを判断することは困難である。したがって、時間的あるいは距離的に隔たりのある(異なる時または別の場所で行った)PFGE解析結果間での遺伝子型の比較は実質上不可能であった。
【0007】
さらに、PFGEは作業が煩雑で作業者の熟練を要するうえ、パルスフィールドゲル電気泳動装置などの特殊な装置を必要とし、コストが高い。
そこで、これらのPFGEの欠点を克服した方法として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の特定のORFの有無を検出することによる遺伝子型別分類法およびこれに用いるプライマーセットが開発されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術によって、PFGEと同等な精度の結果を3時間程度で得られ、かつ客観的な遺伝子型別分類が可能となった。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、1株を解析するためにPCRチューブが4本必要である([0062]等参照)。PCRに用いるプライマーの中に、異なるプライマーが互いに結合して二量体を形成してしまうことがあるため、このように4本のPCRチューブが必要になる。
【0009】
このため、前記技術では一度のPCR反応で解析できるMRSAの株数が少なく、それゆえ解析の手間やゲルなども余分にかかるため、まだコストを充分低くすることができていない。
【0010】
さらに、菌株識別に特化しているため、メチシリン耐性株と感受性株の区別ができず、特許文献1に記載の遺伝子型別分類法を実施するためには、あらかじめ別の試験(薬剤感受性試験など)によって黄色ブドウ球菌がメチシリン耐性であるかどうかを判定しておかなければならない。
【0011】
また、特許文献1の表3を見れば分かるように、特許文献1に記載の技術は、SCCmecタイプがType IIである、日本の病院でもっとも多数分離されるNewYork/Japan cloneと言われるMRSAをきれいに分類することを目的として考案されたものであると考えられる。このため特許文献1に記載の技術は、NewYork/Japan clone以外のMRSAやメチシリン感受性の黄色ブドウ球菌については、菌株識別能力が劣る。
【0012】
さらに、特許文献1に記載の技術では、テンプレートの調整時における菌の懸濁量によりバンドが薄くなったり、全くバンドが現れなくなったりする事があるという問題がある。そのため、特許文献1に記載の技術はPCRに用いるプライマーの配列の最適化が不十分であり、感度が十分ではないと推定され、正確に判定するためにはテンプレートDNA濃度を適度な範囲に納める必要がある。
【0013】
このような理由から、特許文献1に記載の技術は、実施するためにある程度の熟練を要するものである。
したがって、より簡便かつ迅速に、幅広く黄色ブドウ球菌を遺伝子型別分類することができる方法の開発が依然として強く望まれている。
【先行技術文献】
【0014】

【特許文献1】特開2006-141249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記実情に鑑みて、特許文献1に記載の技術を改良し、より実際の産業(医療現場)利用に適した黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法を提供することを目的としている。
【0016】
また本発明は、さらに上記遺伝子型別分類法に用いるプライマーセットを提供することをもその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、黄色ブドウ球菌のゲノム上の、(1)ファージ由来遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)、(2)ブドウ球菌カセット染色体(Staphylococcal cassette chromosome mec; SCCmec)以外のゲノミックアイランド由来のORF、(3)トランスポゾン由来のORF、(4)SCCmec由来のORF、および(5)genomic isletを構成するORFの有無を任意の順で検出し、これらORFの有無の組み合わせにより遺伝子型別分類を行うことにより、より有効に黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類を行うことができることを見出した。
【0018】
本発明の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法においては、前記(1)のORFにおける遺伝子が、SAV0850、SAV0898、SAV0866、SA1774、SAV1974、SAV0855、SAV0881、SLTorf175、SA1801、SAV0913、SLTorf182、SAV1998、PV83orf2、SAV0858およびSLTorf257からなる群より選ばれる少なくとも一種の遺伝子であり、前記(2)のORFにおけるゲノミックアイランドがMu50株のSaGIm、SaPIn1、SaPIn2およびSaPIn3からなる群より選ばれる少なくとも一種の遺伝子であり、前記(3)のORFにおけるトランスポゾンがトランスポゾンTn554であり、前記(4)のORFにおける遺伝子が、mecA、mec gene complex class A、mec gene complex class B、SCCmec kdpCおよびcassette chromosome recombinase A2からなる群より選ばれる少なくとも一種の遺伝子であり、前記(5)のORFにおけるgenomic isletが、MW2株(GenBank Accession Number BA000033)のMW0919、N315株(GenBank Accession Number BA000018)のSA2259およびSA2124、MRSA-COL株(GenBank Accession Number CP000046)のSACOL1824ならびにMRSA252株(GenBank Accession Number X571856)のSAR0228からなる群より選ばれる少なくとも一種の遺伝子であることが好ましい。
【0019】
さらに、より高精度に遺伝子型別分類する観点からは、前記(1)のORFにおける遺伝子が、SAV0850、SAV0898、SAV0866、SA1774、SAV1974、SAV0855、SAV0881、SLTorf175、SA1801、SAV0913、SLTorf182、SAV1998およびPV83orf2からなる群より選ばれる少なくとも一種の遺伝子であることが好ましく、
前記(1)のORFにおける遺伝子が、SAV0850、SAV0898、SAV0866、SA1774、SAV1974、SAV0855、SAV0881、SLTorf175、SA1801、SAV0913、SLTorf182、SAV1998およびPV83orf2からなる群より選ばれる少なくとも8種の遺伝子であり、前記(5)のORFにおけるgenomic isletが、前記MW0919および前記SA2259であることがより好ましく、
前記(1)のORFにおける遺伝子が、SAV0850、SAV0898、SAV0866、SA1774、SAV1974、SAV0855、SAV0881、SLTorf175、SA1801、SAV0913、SLTorf182、SAV1998およびPV83orf2からなる群より選ばれる少なくとも11種の遺伝子であることがさらに好ましい。
【0020】
さらに、前記(2)のORFにおけるゲノミックアイランドが、Mu50株のSaGImであることもまた好ましい。
また、本発明の遺伝子型別分類法は、配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46に示された13組の塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーを用いて、PCR(polymerase chain reaction)法により前記(1)のORFの検出を行い、配列表の配列番号23および24に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いて、PCR法により前記(2)のORFの検出を行い、配列表の配列番号9および10に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いて、PCR法により前記(3)のORFの検出を行い、配列表の配列番号3と4、5と6、7と8、25と26、31と32に示された塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマーを用いて、PCR法により前記(4)のORFの検出を行い、配列表の配列番号27と28、29と30に示された2組の塩基配列の組み合わせからなる2組のプライマーを用いて、PCR法により前記(5)のORFの検出を行うことによって、実施することができる。
【0021】
上記プライマーには、2塩基以下の付加、置換、欠失、挿入が有ってもよいが、高精度に遺伝子型別分類する観点からは、前記プライマーに付加、置換、欠失、挿入はないことが好ましい。
【0022】
また、本発明の遺伝子型別分類法は、配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46、53と54、55と56に示された15組の塩基配列の組み合わせからなる群より選択される8組以上のプライマーを用いて、PCR法により前記(1)ORFの検出を行い、配列表の配列番号23および24に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いて、PCR法により前記(2)のORFの検出を行い、配列表の配列番号9および10に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いて、PCR法により前記(3)のORFの検出を行い、配列表の配列番号3と4、5と6、7と8、25と26、31と32に示された塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマーを用いて、PCR法により前記(4)のORFの検出を行い、配列表の配列番号27と28、29と30、47と48、49と50、51と52に示された5組の塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマーを用いて、PCR法により前記(5)のORFの検出を行うことによっても実施することができる。
【0023】
より高精度に遺伝子型別分類する観点からは、配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46に示された13組の塩基配列の組み合わせからなる群より選択される11組以上のプライマーを用いて、PCR法により前記(1)ORFの検出を行うことが好ましい。
【0024】
上記プライマーには、2塩基以下の付加、置換、欠失、挿入が有ってもよいが、高精度に遺伝子型別分類する観点からは、前記プライマーに付加、置換、欠失、挿入がないことが好ましい。
【0025】
前記PCR法としてマルチプレックスPCR法を採用すると、遺伝子型別分類のコストを抑えることができる。
前記(1)~(5)のORF有無の検出結果を、それぞれ1(有)と0(無)に置き換えて2進法コード化すると、検出結果が見やすくなる。
【0026】
さらに、前記(4)および(5)のORF有無の検出結果を一つにまとめて2進法コード化すると、MRSAの流行クローンの判定がしやすくなる。
前記2進法コード化した結果をさらに10進法コード化することで、結果の桁数が少なくなり、結果がより見やすくなる。
【0027】
本発明の遺伝子型別分類法を実施するための、
配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーと、配列表の配列番号23および24に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと、配列表の配列番号9および10に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと、配列表の配列番号3と4、5と6、7と8、25と26、31と32に示された塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマーと、配列表の配列番号27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる2組のプライマーとを含むプライマーセットも、本発明の範囲に含まれる。
【0028】
上記プライマーには、2塩基以下の付加、置換、欠失、挿入が有ってもよいが、前述のように、前記プライマーには付加、置換、欠失、挿入がないほうが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類を、特殊な装置や作業者の熟練を要さずに簡便に、迅速、客観的かつ高感度に行うことができるため、MRSAの院内感染の経路を速やかに決定し、院内感染の広がりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、実施例の電気泳動写真を示す。図1において、「PC」はポジティブコントロールの略であり、「1 2・・・・」などと記載された数値は菌株の番号を示している。また「M」は50bpラダーを示す。
【図2】図2は、比較例の電気泳動写真を示す。図2において、「1 2・・・・」などと記載された数値は菌株の番号を示している。また「M」は100bpラダーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法は、黄色ブドウ球菌のゲノム上の、(1)ファージ由来遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)、(2)ブドウ球菌カセット染色体(SCCmec)以外のゲノミックアイランド由来のORF、(3)トランスポゾン由来のORF、(4)SCCmec由来のORF、および(5)genomic isletを構成するORFの保有の有無を任意の順で検出し、これら5種類の由来の異なるORFの保有の有無の組み合わせにより遺伝子型別分類を行うステップを有することを特徴としている。以下、これらのORFについて説明する。

【0032】
[(1)ファージ由来遺伝子のORF]
近年、ゲノム解読が進み、黄色ブドウ球菌ゲノムはおよそ2500~3000個のORFから構成されていることが明らかとなった。

【0033】
前記ゲノム上に存在するファージ由来遺伝子のORFをいくつか組み合わせて検出することが、MRSAの菌株識別にきわめて有効であることが特許文献1(特開2006-141249号公報)で明らかとなっている。しかし特許文献1では、多様な黄色ブドウ球菌が保有するファージ由来遺伝子のORFについての検討がなされていないため、NewYork/Japan clone以外の黄色ブドウ球菌では菌株識別能が顕著に低下する傾向がある。

【0034】
そこで本発明者はGenBankの黄色ブドウ球菌ならびに黄色ブドウ球菌関連ファージについての公開遺伝子情報を利用し、多くのファージ由来遺伝子のORFを検出するためのプライマーを設計し、多様な遺伝的バックグラウンドを持つ黄色ブドウ球菌について、それらの保有するファージ由来遺伝子のORFについて検討した。

【0035】
その結果、SAV0850(GenBank Accession No. BA000017)、
SAV0898(GenBank Accession No. BA000017)、
SAV0866(GenBank Accession No. BA000017)、
SA1774(GenBank Accession No. BA000018)、
SAV1974(GenBank Accession No. BA000017)、
SAV0855(GenBank Accession No. BA000017)、
SAV0881(GenBank Accession No. BA000017)、
SLTorf175(GenBank Accession No. AB045978)、
SA1801(GenBank Accession No. BA000018)、
SAV0913(GenBank Accession No. BA000017))、
SLTorf182(GenBank Accession No. AB045978)、
SAV1998(GenBank Accession No. BA000017)および
PV83orf2(GenBank Accession No. AB044554)を検出の対象とすると、黄色ブドウ球菌の菌株を高精度で分類することができることを本発明者は見出した。

【0036】
またこれらを、後述するPCRおよび電気泳動を利用して検出した場合には、DNAが増幅しやすく、またエクストラバンドが現れにくい。
なお、SAVとはMRSAのMu50株の遺伝子であることを示し、SAとはN315株の遺伝子であることを示し、SLTorfとはファージSLTの遺伝子であることを示し、PV83orf2とはファージPV83の遺伝子であることを示す。また、SAVなどの後に示される数字は、全ゲノムにおいて、その示された番号の遺伝子であることを示す。

【0037】
その他のファージ由来遺伝子のORFとして、SAV0858およびSLTorf257や、特許文献1に挙げられた、SAV0890、SAV0904、SAV0910、SAV1985、SA1791、SA1794、SA1806、SLTorf104、SLTorf145なども、黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類に有用であり、これらの有無の検出によっても、ある程度の感度をもって黄色ブドウ球菌を分類することができる。

【0038】
上記SAV0850は、配列表の配列番号11(リバース)および12(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV0898は、配列表の配列番号13(リバース)および14(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV0866は、配列表の配列番号15(フォワード)および16(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SA1774は、配列表の配列番号17(フォワード)および18(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV1974は、配列表の配列番号19(フォワード)および20(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV0855は、配列表の配列番号21(フォワード)および22(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV0881は、配列表の配列番号33(フォワード)および34(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SLTorf175は、配列表の配列番号35(フォワード)および36(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SA1801は、配列表の配列番号37(リバース)および38(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV0913は、配列表の配列番号39(フォワード)および40(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SLT182は、配列表の配列番号41(フォワード)および42(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SAV1998は、配列表の配列番号43(リバース)および44(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
PV83orf2は、配列表の配列番号45(フォワード)および46(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能である。

【0039】
さらに、配列表の配列番号53(リバース)および54(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより上記SAV0858を検出することが可能であり、
配列表の配列番号55(フォワード)および56(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより上記SLTorf257を検出することが可能である。その他のORFに対するプライマーの一般的設計方法については、後述する。

【0040】
以上では、PCR法によりファージ由来遺伝子のORF(1)を検出することを主に説明してきたが、ファージ由来遺伝子のORF(1)はその他の方法によっても検出可能であり、たとえばハイブリダイゼーションによって検出可能である。

【0041】
[(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF]
SCCmecは、黄色ブドウ球菌のゲノムにおいて、メチシリン耐性遺伝子(mecA)などをコードするゲノミックアイランドである。ゲノミックアイランドとは、ゲノムにおける、外来性の多数の遺伝子がまとまってゲノム上に二次的に入りこんだものを言う。したがって言葉の定義上は、ゲノミックアイランドにはファージ由来の遺伝子も含まれるが、本明細書においては、ファージ由来の遺伝子はゲノミックアイランドに含めないものとする。また、後述するgenomic isletに該当するものは、本明細書において、ゲノミックアイランドに含めないものとする。

【0042】
これらSCCmec以外のゲノミックアイランド由来の遺伝子は、ファージ由来の遺伝子と比較して変異の可能性が極めて低い。したがって、これらSCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFの保有の有無のパターンの検出結果を、上記ファージ由来遺伝子ORFの保有の有無のパターンの検出結果と組み合わせることにより、黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類の識別能力及び判定結果の信頼性をより向上させることができる。

【0043】
SCCmec以外のゲノミックアイランドとしては、SaGIm、SaPIn1、SaPIn2、SaPIn3などが挙げられる。
これらのいずれを検出の対象としても、黄色ブドウ球菌を良好に、感度良く分類することができるが、特にSaGImを検出の対象とすると、黄色ブドウ球菌を特に精度良く分類することができる。SaGImは機能不明の遺伝子であり、その機能はいまだ解明されていない。

【0044】
SaGImは、配列表の配列番号23(リバース)および24(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRによって検出可能であり、
SaPIn1は、配列表の配列番号59(フォワード)および60(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SaPIn2は、配列表の配列番号61(フォワード)および62(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
SaPIn3は、配列表の配列番号63(フォワード)および64(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能である。その他のORFに対するプライマーの一般的な設計方法については、後述する。

【0045】
以上では、PCR法によりSCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF(2)を検出することを主に説明してきたが、SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF(2)はその他の方法によっても検出可能であり、たとえばハイブリダイゼーションによって検出可能である。

【0046】
[(3)トランスポゾン由来のORF]
トランスポゾンは、菌株間での遺伝子の交換に関与するといわれる遺伝子であり、トランスポゼースという酵素をコードする領域を有し、この酵素の働きによって、ゲノムの中を移動することができる。

【0047】
このようなトランスポゾンの有無の検出結果を、上記のファージ由来遺伝子のORF(1)およびSCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF(2)の検出結果と組み合わせて判定することにより、黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類の精度を上げることができる。

【0048】
このようなトランスポゾンの例としては、Tn554、Tn552、Tn916が挙げられる。
特に、SCCmec Type II保有MRSAはトランスポゾンTn554を保有する一方、SCCmec Type IV保有MRSAの多くは保有しない。したがって、Tn554を検出することでMRSAを2種類に大別することができる。

【0049】
また、Tn554は黄色ブドウ球菌のゲノム上に複数個のコピーが存在する。このようにゲノム上にTn554は複数個存在することから、ポイントミューテーションにより1つのTn554が変異しても別のTn554でPCR増幅が可能であるため、偽陰性の可能性が低くなると考えられる。したがって、前記ファージ由来遺伝子のORF(1)保有の有無の検出結果ならびにSCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORF(2)の保有の有無の検出結果に加え、トランスポゾンTn554由来ORF(3)の保有の有無の検出結果を合わせて判定することにより、偽陰性を防止し、菌株特定の識別能力及び結果の信頼性を向上させることができると期待される。

【0050】
Tn554は、配列表の配列番号9(フォワード)および10(リバース)のプライマーを使用することで、PCRによって検出可能である。その他のORFに対するプライマーの一般的な設計方法については、後述する。

【0051】
なお、以上では、PCR法によりトランスポゾン由来のORF(3)を検出することを主に説明してきたが、トランスポゾン由来のORF(3)はその他の方法によっても検出可能であり、たとえばハイブリダイゼーションによって検出可能である。

【0052】
[(4)SCCmec由来のORF]
上述のように、SCCmecはメチシリン耐性遺伝子mecAなどを有する領域(ゲノミックアイランド)である。ゲノム上にSCCmecがある場合には、その黄色ブドウ球菌はMRSAである。

【0053】
SCCmecのタイプは、cassette chromosome recombinaseのタイプとmec gene complex のクラスとの組み合わせで、下記表1に示す通りtype I~type Vに分類される。空欄は、現在までに発見されていない組み合わせである。

【0054】
cassette chromosome recombinaseのタイプには、下記表1に示す通り、type 1~3とtype Cがあり、mec gene complex のクラスには、class A~Cがある。Cassette chromosome recombinaseのタイプについて、Aは主にA1~3であり、Bは主にB1~3であり、Cは主に1種類である。そして前記タイプのAがA1であれば、前記タイプのBは必ずB1であり、AとBの後につく数字は必ず同じになる。

【0055】
【表1】
JP0005083571B2_000002t.gif
mec gene complex class AのORFは、配列表の配列番号31(リバース)および配列番号32(フォワード)のプライマーを使用して、PCRにより検出可能であり、
mec gene complex class BのORFは、配列表の配列番号5(フォワード)および配列番号6(リバース)のプライマーを使用して、PCRにより検出可能である。

【0056】
これらのいずれによってもORFが検出されなかった場合には、そのMRSAのmec gene complexはclass Cということになる。
そしてそのようにmec gene complexが判別できれば、あとはCassette chromosome recombinase type A2のORFの有無を検出すれば、その結果によってSCCmecのタイプがいずれであるか判別することができる。

【0057】
前記Cassette chromosome recombinase type A2のORFは、配列表の配列番号25(フォワード)および配列番号26(リバース)のプライマーを使用して、PCRにより検出可能である。

【0058】
また、SCCmec type IIの中でも、SCCmec type II a特異的なORF(kdpC)を検出することで、type II aとII bとの区別が可能となる。
本発明者が日本で分離されるMRSAを収集、解析したところ、保有するSCCmecのタイプはII a、II b、IV及びVが主なものであった。

【0059】
したがって、SCCmecにおいて、メチシリン耐性遺伝子mecAのORFを検出することでメチシリン感受性の判定ができるのみならず、他のSCCmec関連ORFの保有パターンとの組み合わせから、上記のSCCmecタイプの推定が可能となった。

【0060】
なお、上記SCCmec type II a特異的なORF(kdpC)は、配列表の配列番号7(リバース)および8(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
上記mecAのORFは、配列表の配列番号3(フォワード)および4(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能である。

【0061】
以上説明したように、SCCmecのタイプを判別し、さらにmecAのORFの有無を検出し、その結果を上記(1)~(3)のORFの検出結果と組み合わせることで、MRSAの菌株をより詳細に分類することができ、また(1)~(3)のORFまでの検出結果で得られた分類の信頼性確保にも資する。しかも、特許文献1に記載の技術では不可能であった、黄色ブドウ球菌がメチシリンに対して耐性を有するかどうかも判定可能である。そのため、本発明の遺伝子型別分類法においては、特許文献1に記載の技術においておこなっていた、黄色ブドウ球菌がメチシリン耐性を有するかどうかを判定する試験(薬剤感受性試験)が不要であり、この点で、本発明は特許文献1に記載の技術よりも経済的(低コスト)である。

【0062】
なお、SCCmec由来のORFとしては、他にIS431、pUB110を構成するORFなどが挙げられるが、これらの有無を検出することによっても、MRSAを分類することができる。しかし、SCCmec type IIaおよびIIbを分類でき、しかもメチシリン耐性を判定できることから、本発明においては、SCCmec由来のORF(4)として、mec gene complex class AのORF、mec gene complex class BのORF、Cassette chromosome recombinase type A2のORF、上記kdpCおよびmecAのORFを検出することが好ましい。これらのORF以外のORFに対するプライマーの一般的な設計方法については、後述する。

【0063】
以上説明したSCCmec由来のORF(4)としては、mec gene complex class AのORF、mec gene complex class BのORF、Cassette chromosome recombinase type A2のORF、SCCmec type II a特異的なORF(kdpC)およびmecAのORFを検出対象とすることが、必要最小限の検出ORFによってMRSAを高精度に分類するという観点から望ましい。

【0064】
なお、以上では、PCR法によりSCCmec由来のORF(4)を検出することを主に説明してきたが、SCCmec由来のORF(4)はその他の方法によっても検出可能であり、たとえばハイブリダイゼーションによって検出可能である。

【0065】
[(5)genomic isletを構成するORF]
(日本で分離される黄色ブドウ球菌の遺伝的特徴)
黄色ブドウ球菌の遺伝的バックグラウンドを系統的に分類する方法として、multilocus sequence typing(MLST)解析が利用されている。

【0066】
MLST解析では7カ所のハウスキーピング遺伝子の塩基配列を決定する必要があるが、近縁なMLST型の集合であるclonal complex (CC)型を簡易的に決定するために必要な検出ORFの組み合わせについては既報がある。その既報によると、CC型を決定するために16個のORFを検出する必要があり、これでは効率が悪い。そこで、よりCC型決定を効率的に行うため、日本で分離される黄色ブドウ球菌を分類するのに十分な最低限のORFを決定する必要がある。

【0067】
黄色ブドウ球菌にはさまざまな遺伝的バックグラウンドを持つものが存在する。実際の野生株における遺伝的バックグラウンドの調査結果(種々のORFの検出結果を含む)は文献として個々の研究施設における断片的な情報として利用できるが、最低限のORFの検出によって黄色ブドウ球菌を分類できる遺伝子型別分類法を開発するには十分でない。

【0068】
そこで本発明者は、日本で分離されるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)を収集しMLST解析を行い、それらの遺伝的バックグラウンドの調査を行った。その結果、日本で分離されるMRSAにはMLST解析によって得られる遺伝子型として、clonal complex (CC) 5型、CC89型、CC8型、CC59型、CC72型およびCC30型が多いことが判明し、MRSAの遺伝子型別分類においては特にこのうちの前3者を区別することが重要であることが判明した。
またメチシリン感受性株においては、CC1型、CC5型、CC8型、CC12型、CC15型、CC20型およびCC45型が多いことが判明した。

【0069】
(genomic isletを構成するORF)
前記のCC型を区別するためには、genomic isletを構成するORFを検出することが有用であることがわかった(下記表2参照、表2において「0」はそのgenomic isletが存在しないことを、「1」はそのgenomic isletが存在することを示す)。genomic isletとは、細菌のゲノム同士を比較した場合に、5kbp程度、またはそれ以下の大きさで配列が異なる部分を言い、これはゲノム全体に散在しており、個体の生存確率に影響せず、進化の過程で取り残されたものと考えられる(参考文献:Journal of Applied Microbiology 107 (2009) 1367-1374)。

【0070】
【表2】
JP0005083571B2_000003t.gif
表2からわかるように、MRSAのMW2株(GenBank Accession Number BA000033)の遺伝子MW0919、N315株(GenBank Accession Number BA000018,)の遺伝子SA2259及び遺伝子SA2124 、MRSA-COL株(GenBank Accession Number CP000046)の遺伝子SACOL1824、MRSA252株(GenBank Accession Number X571856)の遺伝子SAR0228を検出することで前記のCC型を区別可能であった。また、特に重要なCC5型、CC8型およびCC89型を分類するためには、遺伝子MW0919および遺伝子SA2259の検出が有効であることが判明した。

【0071】
なお、たとえば前記MW0919は、GenBankにおいて公開されているMW2株の919番目の遺伝子である、ということを意味するが、この遺伝子はMW2株のみにしか存在しないわけではなく、それから派生した菌株や、それとは異なる系統の黄色ブドウ球菌においても存在する可能性がある。

【0072】
なお、遺伝子MW0919は、配列表の配列番号29(フォワード)および30(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
遺伝子SA2259は、配列表の配列番号27(リバース)および28(フォワード)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
遺伝子SA2124は、配列表の配列番号51(フォワード)および52(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
遺伝子SACOL1824は、配列表の配列番号49(フォワード)および50(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能であり、
遺伝子SAR0228は、配列表の配列番号47(フォワード)および48(リバース)のプライマーを使用することで、PCRにより検出可能である。

【0073】
上記ORFを検出することで、単純にCC型の区別ができるだけでなく、国際的な取り決めによって、MRSAの流行クローンは、clonal complex (CC)型とSCCmecのタイプとの組み合わせで決定するように定められているので、上記SCCmec由来のORF(4)の検出結果と合わせることで、MRSAの流行クローンを判定することができる。

【0074】
さらに、その他上記(1)~(3)のORFの検出結果と組み合わせることで、黄色ブドウ球菌全般における菌株識別能力が向上する。
以上説明した(1)~(5)のORFのうち、遺伝子型別分類に用いるのが特に好ましいORFおよびそれを検出するための好適なPCR用プライマーを下記表3に示す。下記表3において、「bp」とはPCRにより増幅される塩基対のサイズを塩基対数によって表わしたものである。また、配列番号1および2で示された増幅ORFのfemAとは、factor essential for expression of methicillin resistanceをコードする遺伝子であり、黄色ブドウ球菌に普遍的に見出されるので、ポジティブコントロールとして用いられる。

【0075】
【表3】
JP0005083571B2_000004t.gif
その他にも、必要に応じて本発明に好ましく使用できるORFおよびそれを検出するために有用なプライマーとして、下記表4に示すものが挙げられる。

【0076】
【表4】
JP0005083571B2_000005t.gif
[ORF検出手段]
上述した、黄色ブドウ球菌のゲノム上の、ファージ由来遺伝子のORF(1)、SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF(2)、トランスポゾン由来のORF(3)、SCCmec由来のORF(4)およびgenomic isletを構成するORF(5)の保有の有無の検出は、任意の順で行うことができる。具体的には、これらORFを各ORF毎に任意の順に検出してもよく、複数のORF毎に任意の順にまとめて検出してもよく、全てのORFを同時に検出してもよい。ORFを検出する手段としては、PCRおよびハイブリダイゼーションが挙げられる。

【0077】
<PCR>
各ORF毎に別々に検出する場合には、たとえば、検出対象のORF毎にそれぞれ対応する1組のプライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマー)を用いて、独立した系で、MRSAのDNA抽出サンプルとともに、real time PCR反応を行い、PCR増幅産物の生成シグナル蛍光をリアルタイムに検出する。

【0078】
また、複数のORF毎にまとめて検出する場合には、たとえば、ポジティブコントロールとしてfemAを検出するプライマー(配列表の配列番号1と2)を加えた、複数のORFにそれぞれ対応する複数組のプライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマーの組)を混合し、同一の反応系に入れてPCR反応を行うマルチプレックスPCRが実施可能である。この場合には、各ORFに対応するPCR増幅産物の有無は、反応系を電気泳動、たとえば、アガロースゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動などで泳動して得られたバンドの有無によって確認する。

【0079】
全てのORFを同時に検出する場合には、たとえばmicro arrayを応用してORFを検出する。micro arrayでは検出する各ORFとハイブリダイズするプローブをmicro arrayの各wellに作成しておき、培養菌からカラム抽出あるいはフェノール-クロロホルム抽出によって精製されたDNAをハイブリダイズさせ、未反応のDNAを洗浄した後、2本鎖DNAと結合する蛍光色素でラベルし、蛍光を捉える機械で測定することで目的のORFが検出可能となる。
これらのうちでは、複数のORFを簡易な装置で効率よくまとめて検出できる点から、マルチプレックスPCRが好ましい。

【0080】
(プライマーの設計)
上記ファージ由来遺伝子のORF(1)、SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF(2)、トランスポゾン由来のORF(3)、SCCmec由来のORF(4)およびgenomic isletを構成するORF(5)に加え、ポジティブコントロールとしてのfemAのそれぞれに対応するプライマーの設計にあたっては、プライマー自身が折れ曲がって相補的になっている部分が結合して2重鎖を形成したり、異なるプライマー同士が、互いに相補的になっている部分において結合して2量体またはそれ以上の結合体を形成したりしないような配列にする。

【0081】
さらに、マルチプレックスPCRで検出することを考慮し、プライマーのGC比をおよそ50%とし、Tm値を合わせるよう工夫することが好ましい。また、増幅効率と、電気泳動の際に短時間で分離可能なよう、PCR増幅産物サイズがおよそ50bp~700bp、好ましくは70bp~600bpとなるように調整することが望ましい。なお、同じ反応系で検出するORFにおいては、PCR増幅産物のサイズが同じにならないようにプライマーを設計することはもちろんである。

【0082】
なお、ファージ由来遺伝子のORF(1)については、塩基配列が90%程度相同なORFが臨床分離株やデータベース上に見られることから、これらの相同なORFも検出できるよう、変異の少ない部分に結合するプライマーを設計することで、ほとんどの黄色ブドウ球菌に汎用的に使用でき、かつ突然変異の影響を受けにくいプライマーとすることが好ましい。

【0083】
上記のような条件を設定することでマルチプレックスPCRにおいて再現性の高い増幅結果が得られるプライマーおよびプライマーセットを得ることができる。このようなプライマーの設計は、市販のソフトウェアにより行うことができる。

【0084】
具体的には、上記(1)~(5)のORFの項目でそれぞれ述べたように、
(1)ファージ由来遺伝子のORFのためのプライマーとして15組のプライマー(配列表の配列番号11~22、33~46、53~56)を、
(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORFのためのプライマーとして4組のプライマー(配列表の配列番号23および24、59~64)を、
(3)トランスポゾン由来のORFのためのプライマーとして1組のプライマー(配列表の配列番号9および10)を、
(4)SCCmec由来のORFのためのプライマーとして5組のプライマー(配列表の配列番号3~8、25と26、31と32)を、および
(5)genomic isletを構成するORFのためのプライマーとして5組のプライマー(配列表の配列番号27~30、47~52)の合計30組のプライマーを本発明者は設計した。

【0085】
後述するが、ファージ由来遺伝子のORF(1)については、8組以上のプライマーを使用すると、有効に黄色ブドウ球菌を遺伝子型別分類することができる。さらに、11組以上のプライマーを使用すると、全てのプライマーを使用した場合に対して、95%の確度が保証される。

【0086】
上記のプライマーのうちでは、遺伝子型別分類の効率および結果の信頼性を考慮すると、
ファージ由来遺伝子のORF(1)のためのプライマーとして、配列表の配列番号11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマー、
SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF(2)のためのプライマーとして、配列表の配列番号23および24に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマー、
トランスポゾン由来のORF(3)のためのプライマーとして、配列表の配列番号9および10に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマー、
SCCmec由来のORF(4)のためのプライマーとして、配列表の配列番号3と4、5と6、7と8、25と26、31と32に示された塩基配列の組み合わせからなる5組のプライマー、ならびに
genomic isletを構成するORF(5)の検出のためのプライマーとして、配列表の配列番号27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる2組のプライマーからなる合計22組のプライマーセットをより好適に用いることができる。

【0087】
なお、上記プライマーセットを用いてマルチプレックスPCRを行う場合には、下記表5-1および表5-2にprimer mixture 1および2として示すように、11組のプライマーセットにポジティブコントロールとしてfemAを検出するプライマー(配列表の配列番号1と2)を加えた12組のプライマーを組み合わせて混合し、二つの反応系にてPCRを実施することが望ましい。

【0088】
【表5-1】
JP0005083571B2_000006t.gif

【0089】
【表5-2】
JP0005083571B2_000007t.gif
以上に示した具体的なプライマーは、標的ORFを増幅するために最適化された配列であり、これらのプライマーに2塩基程度の付加、置換、欠失、挿入といった変更があっても、プライマーとしての機能は失われず、PCRによって標的ORFを増幅することができる。付加とは、表に示されたプライマーの5’側または3’側の末端に塩基が追加されることをいい、挿入とは、前記の末端ではなく、プライマーの内側において、塩基と塩基の間に塩基が追加されることを言う。

【0090】
プライマーとして高い性能を発揮する観点からは、前記変更は、2塩基以下の付加、置換、欠失、挿入であることが好ましく、2塩基以下の付加または2塩基以下の5’側または3’側の末端における欠失であることがより好ましく、1塩基以下の標的ORFと相補的な塩基の付加または5’側または3’側の末端における1塩基以下の欠失であることが特に好ましい。一般的に、5’側の変更はプライマーとしての機能を失わせにくく、3’側の変更はプライマーの機能を失わせやすい傾向がある。

【0091】
<ハイブリダイゼーション>
ハイブリダイゼーションによりORFを検出する場合には、まず培養菌(黄色ブドウ球菌)からカラム抽出あるいはフェノール-クロロホルム抽出によって精製されたDNAをアルカリ変性し、ナイロンメンブレン、セルロースメンブレンあるいはマイクロプレートに定着させる。本発明で検出する各々のORFとハイブリダイズするプローブを作成する。プローブは人工合成DNAでも、上記で説明したプライマーを利用したPCRで作成してもよい。プローブはビオチン、ジゴキシゲニン、蛍光色素などを用いてラベルしておく。菌抽出DNAとプローブをハイブリダイズし、プローブのラベルに応じて、酵素付加、発色、発光などさせ、シグナルを捉える。これを各々の検出ORFについて実施する。

【0092】
[ORF検出遺伝子型別分類法実施方法]
以下、マルチプレックスPCRを行い、上記(1)~(5)のORFのうち、上述した検出対象として好ましいORFを検出する場合を一例とし、本発明の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法の手順を説明する。

【0093】
(菌種の同定)
血液、痰、膿、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液などの患者由来の検体あるいは患者に使用したカテーテルやガーゼ等の医療器具などの材料から、マンニット食塩培地(黄色ブドウ球菌分離用)、MSO培地(MRSA分離用)などの黄色ブドウ球菌分離培地を用いて黄色ブドウ球菌様の菌を分離する。その後、グラム染色による形態の確認、および生化学性状の確認により、黄色ブドウ球菌と同定する。

【0094】
黄色ブドウ球菌であると同定された菌株を、黄色ブドウ球菌を増殖可能な液体培地(Luria-Bertani broth、Brain Heart Infusion培地、トリプトソイブイヨン等)、あるいは寒天培地(Luria-Bertani寒天培地、Brain Heart Infusion寒天培地、トリプトソイ寒天培地、普通寒天培地等)を用いて37℃で一晩培養する。

【0095】
(DNA抽出)
培養した菌体から、熱抽出、フェノール抽出、あるいは市販のDNA抽出キットを用いるなどの方法でDNAを抽出し、サンプルとする。

【0096】
(PCR反応)
マルチプレックスPCRでORF(上記表3に記載の、ファージ由来遺伝子のORF13個、SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF1個、トランスポゾン由来のORF1個、SCCmec由来のORF5個およびgenomic isletを構成するORF2個の合計22個)に加えてポジティブコントロールとしてfemAを検出する。具体的には、検出対象のORF群に対応する数のプライマーの組(フォワードプライマー及びリバースプライマー)を、12組ずつの2群に分け、12組毎に同一の反応チューブに入れ((1)~(5)のORF用のプライマー22組、ポジティブコントロール用のプライマーをチューブ1つあたり1組なので、プライマーの合計は24組である)、PCR反応を行う。

【0097】
(電気泳動)
およそ50bp~600bpのDNA断片が充分に分離されるようなアガロースゲルなどのゲルを用い、PCR増幅産物を電気泳動する。泳動距離は約5~6 cmでよく、ミニゲルの場合100V、50分程度で充分分離可能である。電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色して写真撮影を行う。

【0098】
(結果判定)
1反応につき最大12本のバンドが現れる。PFGEと異なり、本発明の遺伝子型別分類法ではバンドサイズがあらかじめわかっているため、それぞれの菌株及び反応系において目的のサイズのバンドがあるか否かを判定する。場合によっては目的のサイズ以外の非特異的なバンドが現れることがあるが、非特異バンドは無視する。目的のサイズのバンド(各ORFに対応するバンドおよびポジティブコントロールに対応するバンド)が増幅していれば1、増幅が見られない場合を0として2進法のコードを作成する。

【0099】
このコードは(1)~(5)の各ORFごとに作成してもよいし、すべてをまとめて一つのコードとして作成してもよいし、あるいは(1)~(5)のORFの一部をまとめて作成するなどしてもよい。本発明の遺伝子型別分類法が実際の医療の現場で使用される場合に、(1)~(5)のORFすべてをまとめて一つのコードして作成すると、桁数が大きくなって見にくいこと、(1)~(5)の各ORFごとに作成すると、コードの数が多くなることから、いくつかのORFの結果はまとめて一つのコードとして作成することが好ましい。

【0100】
ここで上述のとおり、国際的な取り決めによって、MRSAの流行クローンは、clonal complex (CC)型とSCCmecのタイプの組み合わせで決定するように定められている。上記のとおり、clonal complex (CC)型はgenomic isletを構成するORF(5)を検出することにより、SCCmecのタイプはSCCmec由来のORF(4)を検出することによって決定することができる。また、(1)~(3)のORFは、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性等に関するタンパク質をコードしているわけではなく、また分類学上重視されているわけではないが、上記のとおり菌株識別能力を高めるのに有用である。

【0101】
したがって、(4)および(5)のORF検出結果をまとめて一つのコードとし、(1)~(3)のORF検出結果をまとめて適宜一つまたは二つ程度のコードとして作成することが好ましい。

【0102】
そして、たとえばこのようにして作成された2進法のコードを、より桁数を少なくして見やすくするため、たとえば10進法に変換し、遺伝子型コードとする。以上のコード作成の一例を下記表6に示す。

【0103】
【表6】
JP0005083571B2_000008t.gif
まず、適切なプライマーを使用したPCRおよび電気泳動により、試験対象の黄色ブドウ球菌における各ORFの有無を検出し、それを2進法によりコード化する。そして、このコードを10進法に変換し、遺伝子型コードを得る(93(コード1)-147(コード2)-107(コード3))。

【0104】
なお、表6において示されたORF番号と、それを検出することのできるプライマーとの対応関係は下記表7のとおりである。表7において、「配列番号」は配列表の配列番号に対応している。

【0105】
【表7】
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表6に示された例において、コード1は(4)および(5)のORFの検出結果をまとめたものであるので、複数の黄色ブドウ球菌株について遺伝子型コードを作成した場合に、まずコード1からその黄色ブドウ球菌がMRSAであるかどうかを判断することができる。さらにMRSAであると判断された複数のMRSAのコード1を比較することによって、複数のMRSAが同一の流行クローンであるかどうかを判断することができる。

【0106】
コード2は(1)のORFの一部と(2)および(3)のORFの検出結果をまとめたものであり、コード3は(1)のORFの残りの検出結果をコード化したものである。したがって、黄色ブドウ球菌について、コード1でそれがMRSAであるかを判断し、複数のMRSAについて、コード1の比較で同一の流行クローンであるかどうかを判断したうえで、コード2およびコード3を比較することで、より詳細に黄色ブドウ球菌株を識別することができる。たとえば患者AとBから採取した黄色ブドウ球菌は、ともにMRSAであり、流行クローンは同一であるがコード2が異なるので感染経路が異なり、患者BとCとはMRSAの流行クローンが同一であり、しかもコード2および3がそれぞれ同一であるので、感染経路が同一である、などといった判定を行うことができる。したがって本発明の遺伝子型別分類法は、医療の現場において黄色ブドウ球菌の感染経路を特定する手段として有用であると考えられる。

【0107】
具体的には、たとえば、黄色ブドウ球菌臨床分離株48株(SCCmec TypeII保有MRSA NewYork/Japan clone株24株、NewYork/Japan clone以外のMRSA株13株、メチシリン感受性株(MSSA)11株)における22個のORF(ORF1~22)の保有の有無を、上記と同様にして2進法コード化、さらに10進法コード化すると、下記表8の通りである。

【0108】
【表8】
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表8において、一番左側の行は、菌株をサンプリングした患者の番号である。なお、ATCC33591のみはAmerican type culture collectionの一般名称である。また、「II b ?」とあるのは、菌株がtype II bの系統であるが何らかの変異を有していることを示している。

【0109】
このように判定結果をコード化し、得られた遺伝子型コード同士を比較することで、異なる時期や施設で分離された菌株の特定であっても、容易かつ客観的に行うことができる。したがって、本発明の黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法によれば、PFGEとは異なり、時間的あるいは距離的に隔たりのある遺伝子型別分類結果間での遺伝子型の比較も可能である。

【0110】
また、上記表8より明らかであるが、MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)は、コード1の数値がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)のもの(64以上)に比べて明らかに小さい(0~14の偶数)ので、上記のようにコード1から、対象の黄色ブドウ球菌がメチシリン耐性であるかまたは感受性であるかを判定することができる。

【0111】
さらに、本発明で検出の対象としているORFは、SCCmec由来のORF(4)を除いては、黄色ブドウ球菌の病原性等に関連しないORFである。病原性に関連するなど、特定の機能を有する遺伝子は、その黄色ブドウ球菌が宿主内で増殖する確率を上げたり、あるいはその遺伝子産物が宿主の免疫システムのターゲットとなり、反対に生存確率を下げることがある。つまりこのような遺伝子は、黄色ブドウ球菌の多くが持っている、あるいは反対にほとんど持っていないと考えられる。本発明では、このようなバイアスがかからないように適切なORFを選択して遺伝子型別分類を行っているのである。

【0112】
また、後述する実施例で明らかとなるが、臨床分離黄色ブドウ球菌株の薬剤耐性パターンとSCCmecのタイプを調査すると、両者の間には相関があることがわかる。すなわちSCCmec type IIおよびI保有株は薬剤耐性傾向が強く、バンコマイシン、アルベカシンおよびリネゾリドに感受性があるのみで、その他の薬剤に対してはほとんど耐性である。一方SCCmec type IV保有株では薬剤耐性傾向は強くなく、マクロライド、テトラサイクリン、クリンダマイシンおよびニューキノロンに感受性を示す事が多い。従って、SCCmecのタイプを調査する((4)のORFの検出を行う)ことで、黄色ブドウ球菌(MRSA)の薬剤耐性傾向も捉えることが可能である。

【0113】
このようにして遺伝子型別分類を行った後、本発明においては、さらにORF番号23~30のORFを追加で検出するなどして、より詳細に黄色ブドウ球菌を遺伝子型別分類してもよい。上記48株におけるこれらのORFの保有状況およびこれらのORFを検出するためのプライマーの配列番号は、下記表9のとおりである。

【0114】
【表9】
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さらに表8より、ファージ由来遺伝子のORF(1)については、8種類を検討すれば上記48株を分類することができることが分かる。そのことが分かりやすいように上記表8の項目の並び順等を変更すると、下記表10のようになる。表10において、網掛けした部分がファージ由来遺伝子のORF(1)の検出結果を示す。

【0115】
【表10】
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また、上記表8の48株のうち、ファージ由来ORFが2個以下の違いしか見られない組み合わせは、下記表11(近似遺伝子型比較表)の15組である。他の組み合わせについてはファージ由来ORFが3つ以上かまたは他のORFの保有状態が異なるため、任意の11個のファージ由来ORFで型別した場合でも、識別可能である。

【0116】
【表11】
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しかし表11の菌株番号1と2とで示された15組については、任意の11個のファージ由来ORFで型別した場合に分離できない可能性がある。そこで15組の菌株識別に有効なORFを上記表11に示した。15組の識別に有効なORFのうち2組以上の組み合わせについて識別に必要なORFを2個除いた場合において、菌株識別能力が顕著に低下する可能性がある。そのような組み合わせとしてはORF16および21を除いた場合と5および22を除いた場合とが挙げられる。

【0117】
ORF16および21を除いた場合菌株番号2002N192、2006N438、2007N173が区別できなくなり、ORF5と22を除いた場合菌株番号2002N035と2005N168と、並びに2002N281と2006N512とが区別できなくなる。どちらの場合も48株は46通りに分類されることとなり、任意の11個のORFを選択して検出した場合でも、上記で示した、(1)のORFを検出するのに15組のプライマーを使用した場合の95%の識別能力が確保されている。
【実施例】
【0118】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ある病院で臨床分離された黄色ブドウ球菌47株について、下記の手順により、ORF検出による遺伝子型別分類を行った。
【実施例】
【0119】
<ORF検出による遺伝子型別分類>
(黄色ブドウ球菌の培養)
黄色ブドウ球菌であると同定された47の菌株を、Luria-Bertani寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。
【実施例】
【0120】
(DNA抽出)
培養した菌のおよそ1コロニーに相当する量を、1.5mlのエッペンドルフチューブに入れた、lysostaphinを1μg/100μlの濃度で含むトリス-EDTAバッファー100μl中に懸濁し、37℃で10分間細胞壁の消化処理を行った。その後、前記チューブを100℃で10分間加熱した。次いで、チューブを12,000rpmで3分間遠心分離し、その上清をDNA熱抽出サンプルとした。
【実施例】
【0121】
(PCR反応液の調製)
RocheのFastStart PCR Masterを説明書に従って使用した。その際、反応液量は20μlとした。反応液20μlの組成は、2×FastStart PCR Master 10μlおよびprimer mixture 1もしくは2を8μlである。これに、上記のDNA熱抽出サンプルを2μl(反応液の1/10量)加えた。
【実施例】
【0122】
プライマーは12組(ポジティブコントロール用のプライマー1組を含む)を組み合わせ2本の反応チューブを使用し、24個のORFについて、マルチプレックスPCRを行った。プライマーの組み合わせ(primer mixture 1および2)、及びその最終濃度は下記表12-1および表12-2のとおりである。
【実施例】
【0123】
【表12-1】
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【実施例】
【0124】
【表12-2】
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(PCR反応)
サーマルサイクラー(Applied Biosytems社製、GeneAmp PCR System 9700)にサンプルをセットし、最初に95℃で10分間処理し、その後、94℃ 30秒、60℃ 90秒、72℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。サイクル反応終了後、PCR産物を4℃で保存した。
【実施例】
【0125】
(電気泳動)
アガロースゲル(4% NuSieve 3:1 in TBE buffer)を用い、ミニゲルを作成し、100Vで50分間、5μlのPCR産物を電気泳動した。泳動距離は約10cmであった。電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、写真撮影を行った。
【実施例】
【0126】
(結果判定)
1反応につき最大12本のバンドが現れた。それぞれの菌株及び反応系において目的のサイズのバンドがあるか否かを判定し、目的のサイズのバンドが増幅していれば1、増幅が見られない場合を0として、上記表6と同様の2進法のコードを作成した。さらに2進法のコードを10進法に変換し、遺伝子型コードとした。
【実施例】
【0127】
結果を図1および下記表13に示す。
【実施例】
【0128】
【表13】
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表13において、「PC」はポジティブコントロールであり、「MSSA」はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌であることを示す。
【実施例】
【0129】
表13において、前述のようにコード1が流行クローンを示すが、たとえば菌株2~8はすべてコード1が93で同じであるが、コード2および3を比較すると、菌株2と6とを除いては実際は異なる菌株であることがわかる。
【実施例】
【0130】
[比較例]
<特許文献1(特開2006-141249号公報)に記載のORF検出による遺伝子型別分類>
(黄色ブドウ球菌の培養)
実施例で使用したのと同じ47の菌株を、Luria-Bertani寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。
【実施例】
【0131】
(DNA抽出)
培養した菌のおよそ1コロニーに相当する量を、1.5mlのエッペンドルフチューブに入れた、lysostaphinを1μg/100μlの濃度で含むトリス-EDTAバッファー100μl中に懸濁し、37℃で10分間細胞壁の消化処理を行った。その後、前記チューブを100℃で10分間加熱した。次いで、チューブを12,000rpmで3分間遠心分離し、その上清をDNA熱抽出サンプルとした。
【実施例】
【0132】
(PCR反応液の調製)
タカラバイオのEXTaqを説明書に従って使用した。その際、反応液量は20μlとした。反応液20μlの組成は10×EXTaq Buffer 2μl、dNTP mixture 1.6 μl、MgCl2 2mMであり、EXTaqの濃度は0.6 unit/20μlとし、DNA熱抽出サンプル2μl 分を除いた反応液量が18μlとなるよう精製水で調整した(Buffer、dNTP、MgCl2については取扱説明書の指示通りの濃度であるが、EXTaq濃度は説明書の表記(0.25~0.50 unit/20μl)よりやや高めに設定した。)。
【実施例】
【0133】
プライマーは4組を組み合わせ4本の反応チューブを使用し、16個のORFについて、マルチプレックスPCRを行った。プライマーの組み合わせ(Mix1~Mix4)、及び最終濃度は特許文献1の表2-1および表2-2の通りとした。ただし、Mix2にはkdpC検出プライマー(最終濃度0.15μM、増副産物123bp、配列表の配列番号57および58)を加えた。PCR反応液に上記のDNA熱抽出サンプルを2μl(反応液の1/10量)加えた。
【実施例】
【0134】
(PCR反応)
サーマルサイクラー(PERKIN ELMER社製、GeneAmpTM PCR System 9600)にサンプルをセットし、最初に94℃で2分間処理し、その後、94℃ 30秒、53℃ 30秒、72℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。サイクル反応終了後、PCR産物を4℃で保存した。
【実施例】
【0135】
(電気泳動)
アガロースゲル(2.5% Agarose 1000 (Invitrogen) in 0.5X TBE)を用い、ミニゲルを作成し、100Vで25分間、5μlのPCR産物を電気泳動した。泳動距離は約2~3cmであった。電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、写真撮影を行った。
【実施例】
【0136】
(結果判定)
1反応につき最大4本のバンドが現れた。それぞれの菌株及び反応系において目的のサイズのバンドがあるか否かを判定し、目的のサイズのバンドが増幅していれば1、増幅が見られない場合を0として、特許文献1と同様にして2進法のコードを作成し、さらに2進法のコードを10進法に変換し、遺伝子型コードとした。
【実施例】
【0137】
結果を図2および下記表14に示す。
【実施例】
【0138】
【表14】
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表14において、kdpCはSCCmec type IIaのマーカーであるので、これが検出された株はメチシリン耐性、すなわちMRSAである。しかしながら、kdpCが検出されていない、たとえば菌株1は、前もってメチシリン耐性を同定しているからMRSAであることがわかるが、この遺伝子型別分類のみによっては判断することができない。
【実施例】
【0139】
さらに、前述のようにSCCmec type IIであるNew York/Japan cloneからは、cassette chromosome recombinase A2およびmec gene complex class Aが検出されるが、上記47の菌株のうち、たとえば33~38および41~47は、これらのいずれか少なくとも一方が検出されていないので(表13参照)、New York/Japan clone以外の菌株である。
【実施例】
【0140】
表13より、本発明の遺伝子型別分類法によれば、菌株33~38および41~47のうち、菌株36,37,42,43および45がメチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)であり、他はMRSAであることがわかるが、比較例の方法で得られた結果、すなわち表14では、たとえば菌株33~38の遺伝子型コードはすべて同じになってしまっており、MRSAとMSSAとを区別できていない。
【実施例】
【0141】
さらに、表13より、本発明の遺伝子型別分類法によれば、菌株33~47を14通りに分類することができるが、表14より、比較例の方法では、4通りにしか分類できていない。このことから、本発明の遺伝子型別分類法が菌株識別能力に優れていることが分かる。
【実施例】
【0142】
[試験例]
市販の抗菌薬含有ディスクを用いたディスク拡散法によって、黄色ブドウ球菌臨床分離株の薬剤耐性検査を行った。結果(耐性株数および割合)を下記表15に示す。
【実施例】
【0143】
【表15】
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[発明の効果]
本発明によれば、黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類を、特殊な装置や作業者の熟練を要さずに簡便、迅速、客観的かつ高感度に行うことができるため、院内感染の経路を速やかに決定し、院内感染の広がりを防止することができる。
【実施例】
【0144】
より具体的には、下記(1)~(5)の効果を奏することができる。
(1)複雑なマルチプレックスPCRに使用可能なプライマー設計を行えば、1検体あたりのPCR反応チューブを2本に減らすことが可能となり、実施コストが削減される。
【実施例】
【0145】
(2)プライマー配列の工夫により広範囲のテンプレート濃度に適用でき、増幅バンドの濃さにむらが生じにくく、判定が容易である。
(3)SCCmec関連ORFを検出することでメチシリン耐性の黄色ブドウ球菌と感受性の黄色ブドウ球菌が区別できるだけでなく、SCCmecの型を決定することができ、薬剤耐性のパターン推定が可能である。
【実施例】
【0146】
(4)Genomic isletのORFを検出することで、ゲノムの遺伝的な由来を特定することが可能であり、黄色ブドウ球菌すべてにおける菌株識別能力が向上している。
(5)ファージ由来遺伝子のORF検出プライマー配列を改良することで、検出ORFの数を増やすことなく、NewYork/Japan cloneにおける菌株識別能力を落とさずに、NewYork/Japan clone以外の黄色ブドウ球菌すべてにおいて菌株識別が可能となった。
図面
【図1】
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【図2】
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