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明細書 :膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-227292 (P2015-227292A)
公開日 平成27年12月17日(2015.12.17)
発明の名称または考案の名称 膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン
国際特許分類 A61K  39/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  35/04        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
FI A61K 39/00 H
A61P 35/00
A61P 35/04
C07K 14/47 ZNA
C07K 7/06
C07K 7/08
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-112525 (P2014-112525)
出願日 平成26年5月30日(2014.5.30)
発明者または考案者 【氏名】谷内 恵介
出願人 【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
【識別番号】100129757、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久彦
【識別番号】100115082、【弁理士】、【氏名又は名称】菅河 忠志
【識別番号】100125243、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 浩彰
審査請求 未請求
テーマコード 4C085
4H045
Fターム 4C085AA03
4C085BB01
4C085DD62
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA16
4H045CA41
4H045DA86
4H045EA31
要約 【課題】本発明は、膵がん細胞の浸潤や転移を特に有効に抑制できるワクチンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンは、ヒトインスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3のアミノ酸配列(配列番号1)の一部を有するペプチドを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトインスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3のアミノ酸配列(配列番号1)の一部を有するペプチドを含むことを特徴とする膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【請求項2】
上記ペプチドのアミノ酸数が8以上、12以下である請求項1に記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【請求項3】
上記ペプチドが配列番号2~49のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する請求項1または2に記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【請求項4】
上記ペプチドに加え、さらに、KIF20Aのアミノ酸配列の一部を有するペプチドを含む請求項1~3のいずれかに記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【請求項5】
上記ペプチドがHLA-A24とHLA-A2の両方に結合できるものである請求項1~4のいずれかに記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、膵がん細胞の浸潤や転移を有効に抑制できるワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
「腫瘍」とは異常に増殖した細胞を指し、その異常増殖の原因が消失あるいは取り除かれても細胞の増殖が持続する状態をいう。腫瘍の中でも良性腫瘍は腫瘍の増殖が遅く、転移はしない。よって、一般的には切除すれば問題は無く、たとえ切除せずに放置しておいても命に別状はないといえる。一方、悪性腫瘍、即ちがんは、良性腫瘍とは異なり急速に増殖する上に、リンパ節や他の臓器に転移して増殖する。よって、例えば外科的手術により除去しても、僅かにでも残留したがん細胞や、既にリンパ節や他の臓器に転移していたがん細胞が再び増殖を開始することがある。よって、がんはいったん治療が終了した後の予後が悪く、各がんにおいては5年後生存率が調査されており、一般的に、治療により癌が消失したとされてから5年経過後までに再発がない場合がようやく治癒と見なされる。
【0003】
膵がんは、がんの中で最も予後が悪いといわれている。その原因としては、膵臓が後腹膜臓器であるために早期発見が困難であることに加え、膵がん細胞の運動性がきわめて高いため、例えば2cm以下の小さながんであっても、周囲の血管、胆管、神経などへすぐに浸潤し、また、近くのリンパ節に転移したり、肝臓などへ遠隔転移したりすることが挙げられる。
【0004】
上記のとおり、がんが悪性の腫瘍である所以は、特に他組織へ浸潤や転移することにあり、浸潤転移さえしなければ予後も良好なものになると考えられる。そこで、がん細胞の浸潤転移を抑制するための技術が開発されている。
【0005】
例えば特許文献1,2には、肝細胞増殖因子(HGF)分子中の末端ヘアピンとそれに続く4個のクリングルドメインを有する分子内断片であるNK4をコードする遺伝子を、がん細胞の浸潤や転移の抑制に利用する発明が記載されている。
【0006】
ところで、インスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3(Insulin-like Growth Factor 2 mRNA-Binding Protein 3,以下、「IGF2BP3」と略記することがある)は、主に核小体に存在し、インスリン様成長因子IIのRNAの5’非翻訳領域3の5’UTRに結合し、インスリン様成長因子IIの翻訳を阻害する。IGF2BP3をコードする遺伝子は、特許文献3に記載の発明において、その過剰発現ががんの検出に用いられる遺伝子の一つとして挙げられている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2003-250549号公報
【特許文献2】特開2008-7514号公報
【特許文献3】特表2011-516077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、がん細胞の浸潤や転移を抑制するための技術は種々検討されているが、特に膵がん細胞がなぜ浸潤転移し易いのかという理由は示されておらず、膵がん細胞の浸潤転移の抑制に必ずしも有効なものではなかった。
【0009】
そこで本発明は、膵がん細胞の浸潤や転移を特に有効に抑制できるワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、一般的な細胞では主に核小体で見出されるヒトインスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3が、膵がん細胞では、浸潤転移する上で必須の細胞内構造物である細胞膜突起中に存在し、膵がん細胞の浸潤転移に大きく関わっていることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
以下、本発明を示す。
【0012】
[1] ヒトインスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3のアミノ酸配列(配列番号1)の一部を有するペプチドを含むことを特徴とする膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【0013】
[2] 上記ペプチドのアミノ酸数が8以上、12以下である上記[1]に記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【0014】
[3] 上記ペプチドが配列番号2~49のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する上記[1]または[2]に記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【0015】
[4] 上記ペプチドに加え、さらに、KIF20Aのアミノ酸配列の一部を有するペプチドを含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【0016】
[5] 上記ペプチドがHLA-A24とHLA-A2の両方に結合できるものである上記[1]~[4]のいずれかに記載の膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチン。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るヒトインスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3(IGF2BP3)は、膵がん細胞の細胞膜突起中に存在し、膵がん細胞の運動性の向上に関与し、その浸潤転移に大きな役割を果たしていると考えられる。また、本発明者の実験的知見によれば、IGF2BP3遺伝子の発現が阻害されると膵がん細胞の運動性は損なわれ、かかる膵がん細胞の浸潤転移は有意に抑制される。よって、IGF2BP3のアミノ酸配列の一部を有するペプチドをワクチンの有効成分として用いれば、IGF2BP3を発現している膵がん細胞がペプチドワクチンにより活性化された細胞障害性T細胞(CTL)により障害される結果、高浸潤転移性の細胞が減少して浸潤転移が抑制され得る。一方、IGF2BP3は胎児期における重要臓器で高発現しているが、成人臓器では精巣に若干の発現が認められるものの、重要臓器における発現は皆無である。さらにIGF2BP3は、生体細胞由来のタンパク質であるため、その部分アミノ酸配列を有するペプチドは無害で安全なものであると考えられる。従って本発明に係るペプチドワクチンは、膵がん細胞の浸潤転移を安全に抑制できるものとして、非常に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、フィブロネクチン上で培養することにより細胞膜突起の形成を促進したヒト膵管腺がん細胞であるS2-013株とPANC-1株を、免疫細胞化学的に蛍光標識した写真である。緑色部分は抗IGF2BP3抗体で標識された部分を示し、赤色部分はファロイジンで標識されたアクチンフィラメントを示す。矢印はIGF2BP3が細胞膜突起に局在している部分を示し、バーの長さは10μmである。
【図2】図2は、フィブロネクチン上で培養したS2-013株細胞の、共焦点免疫蛍光顕微鏡試験におけるZ-stack(多層取り込み)写真である。青色部分はDAPIで染色した核を示し、緑色部分は染色されたIGF2BP3を示す。矢印はIGF2BP3が細胞膜突起に局在している部分であり、IGF2BP3が細胞膜突起に集積していることが示されている。白枠で囲まれた部分は、拡大された領域を示す。下側と右側のパネルは、それぞれ黄色線部分の断面を示す。バーの長さは10μmである。
【図3】図3は、IGF2BP3のmRNAを標的とするsiRNAを導入したIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞(siIGF-1とsiIGF-2)と、コントロールRNAi S2-013株細胞(Scr-1とScr-2)で発現しているタンパク質をウェスタンブロットで解析した結果を示す写真である。
【図4】図4は、IGF2BP3-RNAi S2-013株細胞とコントロールRNAi S2-013株細胞の創傷領域への運動性アッセイにおいて創傷領域へ移動した細胞数を示す。
【図5】図5は、IGF2BP3-RNAi S2-013株細胞とコントロールRNAi S2-013株細胞の創傷領域への運動性アッセイにおいて創傷領域に移動した細胞数を示すグラフである。「*」は、t-テストにおいてコントロールに対してp<0.001で有意差があることを示す。
【図6】図6は、単層でコンフルエントに増殖したS2-013株細胞の一部分をピペットチップで除去することにより創傷領域を形成し、当該創傷領域へ向けて遊走しはじめる膵がん細胞の先進部位を免疫染色した写真である。緑色部分は抗IGF2BP3抗体で染色した部分を示す。矢印は、遊走しはじめたS2-013株細胞の先進部位に形成された細胞膜突起に存在するIGF2BP3を示す。バーの長さは10μmである。
【図7】図7は、コントロールRNAi S2-013株細胞、IGF2BP3-RNAi S2-013株細胞、およびIGF2BP3発現を回復させたIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞のトランスウェル浸潤性アッセイにおいて、浸潤した細胞数を示すグラフである。「*」は、t-テストにおいてコントロールに対してp<0.005で有意差があることを示す。
【図8】図8は、コントロールRNAi S2-013株細胞、またはIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞を膵臓に移植されたヌードマウスの、ヘマトキシリン-エオシン染色した、膵臓内に形成された腫瘍の写真である。「R」は腔腹膜組織を示し、「P」は筋肉組織を示し、「N」は正常組織を示す。
【図9】図9は、フィブロネクチンで刺激したコントロールRNAi S2-013株細胞、IGF2BP3-RNAi S2-013株細胞、およびIGF2BP3発現を回復させたIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞の、共焦点免疫蛍光顕微鏡試験におけるZ-stack(多層取り込み)写真である。青色部分はDAPIで染色した核を示し、赤色部分はファロイジンで標識されたアクチンフィラメントを示す。矢印は細胞膜突起中に存在するアクチンフィラメントを示す。下側と右側のパネルは、それぞれ白色線部分の断面を示す。バーの長さは10μmである。
【図10】図10は、フィブロネクチンで刺激したコントロールRNAi S2-013株細胞、IGF2BP3-RNAi S2-013株細胞、およびIGF2BP3発現を回復させたIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞の、全細胞数に対する細胞膜突起を有する細胞の割合を示すグラフである。「*」は、t-テストにおいてコントロールRNAi S2-013株細胞またはIGF2BP3発現を回復させたIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞に対してp<0.001で有意差があることを示す。
【図11】図11は、フィブロネクチンで刺激したコントロールRNAi S2-013株細胞およびIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞の形態を、位相差顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンは、ヒトインスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質3(IGF2BP3)のアミノ酸配列(配列番号1)の一部を有するペプチドを有効成分として含む。

【0020】
インスリン様成長因子(IGF)は、そのアミノ酸配列がインスリンと高度に類似したポリペプチドであり、細胞培養ではインスリンと同様に有糸分裂誘発などの反応を引き起こす。IGF-2は初期の発生に要求される第一の成長因子であると考えられ、哺乳類では脳、腎臓、膵臓および筋肉より分泌され、IGF-1よりも特異的な作用をし、大人ではインスリンの600倍の濃度でみられる。IGFの働きはIGF結合タンパク質として知られる遺伝子ファミリーにより調節されているが、IGF遺伝子の発現は、そのmRNAに結合するタンパク質によって調節されている。

【0021】
IGF2BP3はIGF遺伝子発現の調節因子の一つであり、主に核小体に存在しているのに対して、本発明者は、膵がん細胞内ではその運動性に必須の部位である細胞膜突起に集積しており、膵がん細胞の運動性に大きく関与していることを見出した。例えば、膵がん細胞においてIGF2BP3遺伝子をノックアウトすると、運動性を失って浸潤や転移を起こさなくなる。よって本発明者は、IGF2BP3の部分アミノ酸配列を有するペプチドをワクチンとして用いれば、膵がん細胞の浸潤転移を抑制できるとの本発明を想到した。

【0022】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンの有効成分であるペプチドは、ヒトIGF2BP3のアミノ酸配列の一部を有する。ヒトIGF2BP3のアミノ酸配列は配列番号1に示されており、本発明のペプチドはその一部の配列を有する。

【0023】
本発明において「アミノ酸配列の一部」とは、全アミノ酸配列ではないといった程度の意味であるが、アミノ酸数としては5以上、15以下が好適である。当該アミノ酸数が5以上であれば、免疫応答をより確実に起こすことが可能になり得る。一方、当該アミノ酸数が15以下であれば、細胞障害性T細胞上のHLAとの結合を十分に確保することができる。当該アミノ酸数としては、6以上がより好ましく、7以上がさらに好ましく、8以上が特に好ましく、また、14以下がより好ましく、12以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましい。

【0024】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンで有効成分として用いるペプチドとしては、具体的には、配列番号2~49のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。

【0025】
上記ペプチドは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を併用し、免疫応答が陽性であるものを選択していくこともできる。この場合のペプチド数としては、例えば、2以上、10以下とすることができる。当該ペプチド数としては、3以上がより好ましく、また、6以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。

【0026】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンには、上記IGF2BP3ペプチドの他に、IGF2BP3以外のタンパク質のアミノ酸配列の一部を有するペプチドを配合してもよい。例えば、単独ではワクチン効果の弱いペプチドであっても、本発明に係る上記IGF2BP3ペプチドと併用することにより、膵がん細胞に対して優れた浸潤転移抑制作用などの抗がん作用が発揮される可能性がある。このようなIGF2BP3以外のタンパク質としては、例えば、KIF20Aを挙げることができる。KIF20A(kinesin family member 20A)は膵がん細胞の浸潤転移に関与していることから、その部分アミノ酸配列を有するペプチドを本発明に係るIGF2BP3ペプチドと併用することにより、膵がん細胞の浸潤転移を相乗的に抑制できる可能性がある。

【0027】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンに配合すべき上記ペプチドの選択基準としては、被投与者の細胞障害性T細胞上のHLAとの結合力を挙げることができる。当該結合力の強いペプチドを選択すれば、被投与者においてより有効な免疫応答が得られる可能性がある。例えば、日本人に多いHLAとしてはHLA-A24を挙げることができる。その他、HLA-A2など他のHLAとの結合能をも有するペプチドを選択すれば、本発明ワクチンが有効である被投与者の適用範囲を広げられ得る。

【0028】
本発明で用いるペプチドは、当業者公知の方法により適宜調製することができる。例えば、所望のペプチドをコードするDNAを、鋳型としてヒトIGF2BP3遺伝子を用いるPCRにより増幅し、適切なベクターを用いて大腸菌、枯草菌、酵母などの微生物に導入して形質転換し、培養した後、精製すればよい。また、固相法などにより化学合成することも可能である。

【0029】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンの剤形は、所望の投与経路に応じて適宜選択すればよい。例えば、皮下注射の場合には、溶液やエマルションとすればよいし、或いは、凍結乾燥品とし、溶液やエマルションを用事調製してもよい。また、経粘膜投与の場合には、舌下錠などの錠剤、軟膏剤、クリーム剤などとすればよい。

【0030】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンには、その剤形に応じた添加成分を配合してもよい。添加成分としては、例えば、水やエタノールなどの溶媒;塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの塩;不完全フロイントアジュバント、プルランなどの多糖類、完全フロイントアジュバントなどの免疫増強剤;比較的低分子のポリエチレングリコールなどの水溶性高分子;比較的高分子のポリエチレングリコールなどの基材;クエン酸、乳酸、炭酸カリウムなどのpH調整剤などを挙げることができる。

【0031】
本発明に係る膵がん細胞浸潤転移抑制ワクチンに配合するペプチドは、事前に選択してもよい。例えば、投与予定者から血清試料を取得し、被検ペプチドに対する免疫反応を試験し、高いCTL誘導能が得られるペプチドを選択することができる。

【0032】
本発明ワクチンの投与量は、患者の重篤度、性別、年齢などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、1回の投与あたりの各ペプチドの投与量がそれぞれ1mg以上、15mg以下程度、より好ましくは3mg以上、5mg以下程度となるようにすることができる。

【0033】
投与方法も適宜選択すればよいが、例えば、腋下または鼠径部近傍に皮下注射することが好ましい。

【0034】
本発明ワクチンは、効率的な免疫応答のため2回以上投与することが好ましい。例えば、5日以上、10日以下、好ましくは1週間に1回の投与間隔で、5回以上投与することが好ましい。但し、注射部位の発赤や発熱などの症状がある場合には、例えば投与を1回以上省略した後に投与を再開することもできる。投与回数の上限は特に制限されず、患者に炎症や痛みなどの症状が出ない限り十分な免疫応答が得られるまでとすればよいが、例えば、50回以下とすることができる。

【0035】
本発明ワクチンを2回以上投与する場合には、有効成分として配合するペプチドを適宜変更してもよい。例えば、血液試料を患者より適宜取得し、細胞障害性T細胞を活性化するペプチドと活性化しないペプチドを特定し、良好な免疫応答が得られるペプチドを選択していくことが可能である。

【0036】
本発明ワクチンの投与対象は膵がん患者であるが、膵がん細胞がリンパ節や他の臓器に転移した患者にも投与することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0038】
実施例1: IGF2BP3の転移性膵がん細胞における所在確認
免疫細胞化学的手法を用い、膵管腺がん(PDAC)細胞内におけるIGF2BPの所在を確認した。PDAC細胞としては、中分化PDAC細胞(S2-013株)と未分化PDAC細胞(PANC-1株)の2種を用いた。
【実施例】
【0039】
(1) 膵がん細胞の培養
ヒトPDAC細胞SUIT-2株の亜系であるS2-013株を、宮崎大学の岩村威志先生より頂いた。また、PDAC細胞PANC-1株は、American Type Culture Collectionより購入した。これら細胞は、加熱により不活性化したウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Gibco-BRL製)中、5%CO2を含む湿潤雰囲気下で培養した。
【実施例】
【0040】
(2) 共焦点免疫蛍光顕微鏡試験
ガラス製のカバースリップを、室温で1時間、10μg/mLのフィブロネクチン(Sigma-Aldrich製)でコートした。各PDAC細胞を当該フィブロネクチンコートカバースリップ上に播き、5時間インキュベートした。次いで、当該細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton X-100で透過処理し、ブロッキング溶液(3%BSA/PBS)で被覆した後、抗IGF2BP3一次抗体等と1時間インキュベートした。さらに、ローダミンが結合したファロイジン(Cytoskeleton製)の存在下または不存在下、蛍光色素であるAlexa488-,Alexa546-,Alexa594-またはAlexa647-結合二次抗体(Cytoskeleton製)を用いた。いくつかの一次抗体には、市販の抗体標識技術(Life technologies製「Zenon(登録商標)」を用い、緑色または赤色の蛍光色素分子を結合させた。各試料は、共焦点レーザスキャン蛍光相関分光顕微鏡(Carl Zeiss製「Zeiss LSM 510 META microscope」)で可視化した。得られた顕微鏡像の写真を図1,2に示す。
【実施例】
【0041】
(3) 結果と考察
膵管腺がん細胞であるS2-013株またはPANC-1株をフィブロネクチン上で培養して細胞膜突起の形成を促進したところ、図1の写真に示された矢印部分のとおり、IGF2BP3は細胞膜突起に集積していた。共焦点免疫蛍光顕微鏡試験におけるZ-stack(多層取り込み)写真である図2によれば、フィブロネクチンで刺激されたS2-013株では、細胞膜突起中に局在している細胞質顆粒中に、IGF2BP3の発現を確認することができた。
【実施例】
【0042】
かかる知見と以上の結果より、細胞の運動性に必須の部位である細胞膜突起にIGF2BP3が集積するので、IGF2BP3は、膵がん細胞の運動性や浸潤にとり重要であることが明らかとなった。
【実施例】
【0043】
実施例2: 転移性膵がん細胞におけるIGF2BP3のノックダウン試験
(1) IGF2BP3-RNA干渉
膵がん細胞の浸潤転移に関するIGF2BP3の影響を明らかにするために、IGF2BP3遺伝子に特異的なsiRNAを発現するベクターを用いて、S2-013株細胞におけるIGF2BP3遺伝子の発現を阻害した。
【実施例】
【0044】
GP2-293パッケージング細胞(Clontech製)に、scrambled negative control(OriGene Technologies製「
TR30013」)またはIGF2BP3 mRNAを標的とするsiRNA(OriGene Technologies製「TG312221」)を組み込んだ複製欠損レンチウィルスを発生させるpGFP-V-RSベクター(OriGene Technologies製)に一時的に感染させた。引き続き、それぞれのsiRNAを内包しているGP-293パッケージング細胞をS2-013株細胞に感染させた。感染から48時間後、S2-013株細胞をフラスコに移し、0.5μg/mLのピューロマイシンを含むDMEM培地中で7日間培養することにより、IGF2BP3 mRNAをターゲットとするsiRNAを安定的に発現するS2-013株細胞由来のクローン細胞を多数得た。各クローン細胞におけるIGF2BP3発現抑制の程度をウェスタンブロット解析した。結果を図3に示す。なお、図3中、「Scr」はscrambled negative controlのsiRNAを恒常的に発現するコントロールクローンであり、「siIGF」はIGF2BP3特異的なsiRNAを恒常的に発現してIGF2BP3発現が抑制されているクローンであり、「GAPDH」はウェスタンブロット解析で各サンプルが等量用いられていることを示すインターナルコントロールとしてのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼである。
【実施例】
【0045】
図3に示す結果のとおり、免疫ブロットによりIGF2BP3のノックダウンが確認された。以下の実験において、細胞は、ウェスタンブロット解析によりIGF2BP3遺伝子の発現が抑制されていることを確認できたクローン細胞であるScr-1とScr-2を用いた。
【実施例】
【0046】
別途、IGF2BP3遺伝子の発現抑制が膵管腺がん細胞(S2-013株またはPANC-1細胞)の増殖に影響を及ぼさないことを、in vitro MTTアッセイにより確認した。
【実施例】
【0047】
(2) 創傷領域運動性アッセイ
各創傷治癒アッセイでは、プラスチック製のピペットチップを用い、コンフルエントの単層細胞に創傷領域として十字型の切れ込みを入れた。観測する創傷領域にいくつかマーキングした後に、位相差顕微鏡を使って写真撮影した。マークした創傷領域に遊走する細胞を1時間から8時間観察し、写真撮影を継続的に行った。遊走した細胞による創傷領域の塞がりの度合いを、遊走した細胞を計数することにより定量化した。細胞の写真を図4に、定量値を図5に示す。
【実施例】
【0048】
図4に示す結果のとおり、IGF2BP3遺伝子の発現抑制により、コンフルエント培養物されたS2-013株の創傷領域への細胞の移動が阻害された。また、図5のとおり、創傷領域に移動する細胞の数は、IGF2BP3遺伝子の発現をRNA干渉で阻害することにより、有意に減少した。
【実施例】
【0049】
(3) 細胞運動先進部の免疫細胞染色
プラスチック製ピペットチップを用い、コンフルエントのS2-013株細胞に十字型の切れ込みを入れた後、創傷領域への細胞の遊走を促進させた。4時間後、細胞を一次抗体で免疫染色し、上記実施例1と同様にして蛍光体結合二次抗体とインキュベートした。創傷領域へ遊走しはじめた細胞の運動先進部を、共焦点レーザスキャン蛍光相関分光顕微鏡(Carl Zeiss製「Zeiss LSM 510 META microscope」)で観察した。結果を図6に示す。図6のとおり、遊走を開始したS2-013株細胞のアクチンが重合している細胞先進部にIGF2BP3が集積していた。
【実施例】
【0050】
(4) マトリゲル浸潤アッセイ
3.0×104個の細胞を、Matrigel Invasion Chamber(24ウェルプレート,孔径:8μm,Becton Dickinson製)の上部チャンバーに播種した。無血清培地を当該上部チャンバーに加え、5%FCSを含む溶媒を下部チャンバーに添加した。細胞を上部チャンバー内で22時間インキュベートした。次いで、3つの独立した領域を顕微鏡で観察し、下部チャンバーへMatrigelを溶解して浸潤した細胞を計数した。同様の実験を3回繰り返し、scrambled negative controlのsiRNAを恒常的に発現するS2-013コントロールクローン(Scr-1およびScr-2)とIGF2BP3特異的なsiRNAを恒常的に発現してIGF2BP3発現が抑制されたS2-013クローン(siIGF-1およびsiIGF-2)との間で比較した。結果を図7に示す。
【実施例】
【0051】
図7に示す結果のとおり、Matrigel Invasion Chamberを使った浸潤性アッセイの結果、IGF2BP3の発現をRNA干渉により阻害したS2-013株(siIGF-1およびsiIGF-2)の浸潤性は、コントロール(Scr-1およびScr-2)に対して有意に抑制された。
【実施例】
【0052】
また、IGF2BP3全アミノ酸をコードするcDNAを増幅するために、S2-013株細胞のRNAを鋳型としてRT-PCRを行った。得られたPCR産物を、C-末端にmyc-DDKタグを生じるpCMV6-Entryベクター(Origene製)に導入した。以下、得られたベクターを「IGF2BP3-pCMV6」という。siIGF-1およびsiIGF-2クローン細胞にIGF2BP3発現を回復させるために、IGF2BP3-pCMV6をX-tremeGENE HP DNA Transfection Reagent(Roche製)を用いてsiIGF-1およびsiIGF-2クローン細胞にトランスフェクションを行った。結果を図7に示す。図7中の「*」は、モックベクターをトランスフェクションした細胞に対して、IGF2BP3-pCMV6をトランスフェクションした細胞が、t-テストにおいてp<0.005で浸潤した細胞が有意に回復したことを示す。
【実施例】
【0053】
図7に示す結果のとおり、IGF2BP3-pCMV6のIGF2BP3-RNAi S2-013株細胞へのトランスフェクションは、IGF2BP3発現を回復することによりIGF2BP3-RNAiにより生じた細胞の浸潤抑制を無効にすることが見出された。
【実施例】
【0054】
(5) マウスと腫瘍細胞の同所移植
6週齢の無菌雌性無胸腺ヌードマウス(BALB/cSlc-nu/nu)を日本エスエルシー株式会社から購入し、高知大学研究機関内動物管理使用ガイドラインに従って扱った。scrambled negative controlのsiRNAを恒常的に発現するS2-013コントロールクローン(Scr-1およびScr-2)とIGF2BP3特異的なsiRNAを恒常的に発現してIGF2BP3発現が抑制されたS2-013クローン(siIGF-1およびsiIGF-2)を、各マウスの膵臓へ外科的かつ同所的に移植することにより、マウス膵臓内に腫瘍を形成させた。移植から42日後にマウスを屠殺し、ヘマトキシリン-エオシン染色を行い、マウスの膵臓内に形成された腫瘍から後腹膜への浸潤の有無と、肺および肝臓への転移の有無を調べた。また、マウス膵臓内に形成された腫瘍を計量した。計量結果、および後腹膜への浸潤と遠隔転移の有無を表1に、染色写真を図8に示す。なお、図8中、「R」は腔腹膜組織を示し、「P」は筋肉組織を示し、「N」は正常組織を示す。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP2015227292A_000002t.gif
【実施例】
【0056】
表1に示す結果のとおり、マウス膵臓内に形成された腫瘍から後腹膜への浸潤は、コントロールクローン細胞(Scr-1およびScr-2)に比べ、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞(siIGF-1およびsiIGF-2)の方が有意に低かった。また、コントロールクローン細胞由来の膵がん組織は肝臓や肺へ転移したのに対して、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞由来の膵がん組織は転移しなかった。
【実施例】
【0057】
また、図8に示す結果のとおり、コントロールクローン細胞由来の膵がん組織は、マウスの膵臓組織全体へ浸潤していた。特に、腫瘍組織と正常組織との間の境界は、コントロール試料では明確でなかった。それに対して、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞由来の膵がん組織は、その大部分がマウスの間質細胞により包まれ、マウス正常膵臓組織から明確に分離されていた。コントロールクローン細胞を移植されたマウスでは、腹膜の表面は、コントロールクローン細胞由来の膵がん組織から播種された比較的厚いがん細胞層で覆われており、がん細胞は筋層まで浸潤していた。一方、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞を移植されたマウスでは、腹膜の大部分においてがん細胞は認められなかった。さらに、コントロールクローン細胞を移植されたマウスでは、肺と肝臓に転移巣が認められたが、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞を移植されたマウスでは、肺および肝臓への転移巣は皆無であった。以上の結果より、膵がん細胞でIGF2BP3の発現を抑制することにより肺や肝などへの転移を完全に防ぐことができ、また、IGF2BP3は膵がんの新規治療標的分子になり得るといえる。
【実施例】
【0058】
(6) 考察
以上の結果は、IGF2BP3が膵がん細胞の浸潤転移を特に促進し、また、生体内における膵臓の腫瘍形成において、IGF2BP3の発現量の低減が、1)膵臓内における腫瘍の増加と、2)膵臓の隣接組織への浸潤と、3)他の組織への転移に影響を及ぼすことを示している。
【実施例】
【0059】
実施例3: 細胞の細胞膜突起の形成におけるIGF2BP3の役割
共焦点顕微鏡を用い、フィブロネクチンで刺激したS2-013株細胞におけるアクチンフィラメントの重合と細胞膜突起の3次元構造を調べた。共焦点顕微鏡の詳しい条件は、上記実施例1と同様とした。結果を図9~11に示す。
【実施例】
【0060】
図9は、細胞膜直下に形成されたアクチンフィラメントの写真である。図9のとおり、scrambled negative controlのsiRNAを恒常的に発現するS2-013コントロールクローン(Scr-1)に比べ、IGF2BP3特異的なsiRNAを恒常的に発現してIGF2BP3発現が抑制されたS2-013クローン(siIGF-1)における重合アクチンフィラメントの量は少ない。かかる結果は、IGF2BP3-RNAi S2-013株細胞へのIGF2BP3-pCMV6のトランスフェクションによって、IGF2BP3の発現が回復し、細胞膜直下のアクチンフィラメントの重合が復活することを示している。
【実施例】
【0061】
図10は、全細胞中、細胞膜突起を有する細胞の割合である。図10のとおり、IGF2BP3発現が抑制されたクローン(siIGF-1およびsiIGF-2)における細胞膜突起を有する細胞の割合は、コントロールクローン(Scr-1およびScr-2)に比べて有意に少ない。
【実施例】
【0062】
図11は、コントロールクローン細胞(Scr-1)とIGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞(siIGF-1)の位相差顕微鏡を用いた写真である。図11のとおり、コントロールクローン細胞は紡錘形であり線維芽細胞様の形態を示す一方で、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞は丸状であり上皮細胞様の形態を示した。線維芽細胞様形態は上皮細胞様形態に比べて浸潤転移傾向の強いことが多いので、かかる結果は、IGF2BP3発現が抑制されたクローン細胞が、IGF2BP3発現が抑制されていないコントロールクローン細胞よりも浸潤転移能が低いことを示す。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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