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明細書 :透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製するための方法及び培地、該方法により調製された哺乳動物卵を用いた受精方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5439677号 (P5439677)
登録日 平成25年12月27日(2013.12.27)
発行日 平成26年3月12日(2014.3.12)
発明の名称または考案の名称 透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製するための方法及び培地、該方法により調製された哺乳動物卵を用いた受精方法
国際特許分類 C12N   5/075       (2010.01)
A01K  67/02        (2006.01)
C12N   5/076       (2010.01)
FI C12N 5/00 202E
A01K 67/02
C12N 5/00 202F
請求項の数または発明の数 14
全頁数 29
出願番号 特願2012-533984 (P2012-533984)
出願日 平成23年9月12日(2011.9.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 特許法第184条の14の規定により平成23年改正前特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとする特許出願; 2011年7月20日、BIOLOGY OF REPRODUCTION 85、1066-1072(2011)に発表; 2011年8月20日、日本繁殖生物学会発行のThe Journal of Reproduction and Development、Vol.57,Suppl、August 2011(第104回日本繁殖生物学会大講演要旨掲載号)157頁に発表
国際出願番号 PCT/JP2011/070687
国際公開番号 WO2012/036107
国際公開日 平成24年3月22日(2012.3.22)
優先権出願番号 2010203979
優先日 平成22年9月13日(2010.9.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年6月28日(2013.6.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】中潟 直己
【氏名】竹尾 透
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 特開平11-342596(JP,A)
BATH,ML,PLoS One. 2010 Feb 24, vol.5(2), e9387
HOSHI,K et al,Fukushima J Med Sci. 1988 Jun, vol.34(1), pp.1-9
星和彦ら,日本産科婦人科学会雑誌,1982, vol.34(12), pp.2229-2234
TAKEO,T et al,Biol Reprod. 2008 Mar, vol.78(3), pp.546-551
SUZUKI,H et al,J Reprod Dev. 1994, vol.40(4), pp.361-365
調査した分野 C12N 5/00-5/02

JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程:
a.非ヒト哺乳動物の精子を、0.1mM以上20mM以下のシクロデキストリン及び0.1mM以上10mM以下のカルシウムを含有する培地で前培養する工程、
b.非ヒト哺乳動物の未受精卵の透明帯の菲薄化のために、該未受精卵を、還元型グルタチオンを0.25mM以上10mM以下の濃度で含有する培地に添加し、該還元型グルタチオンにより処理された未受精卵を調製する工程、及び
c.工程aで前培養した該精子を、工程還元型グルタチオンで処理した該未受精卵の存在する培地中に添加し媒精を行う工程、
を含む受精方法。
【請求項2】
前記未受精卵がマウス未受精卵である請求項1に記載の受精方法。
【請求項3】
前記シクロデキストリンがメチル-β—シクロデキストリンである請求項1又は2に記載の受精方法。
【請求項4】
受精に用いる精子がマウス凍結精子であり、工程aの精子の前培養を少なくとも10分間行う、請求項1~3のいずれか一つに記載の受精方法。
【請求項5】
前記還元型グルタチオン濃度が、0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下である、請求項1~4のいずれか一つに記載の受精方法。
【請求項6】
培地中の前記還元型グルタチオン濃度が、0.15mg/ml以上0.46mg/ml以下である、請求項5に記載の受精方法。
【請求項7】
前記工程cの媒精を、前記工程bと同じ培地中で前記未受精卵と前記精子を数時間共培養することにより行う、請求項5又は6に記載の受精方法。
【請求項8】
受精に用いる精子が、還元型グルタチオンを含まない培地で前培養されている新鮮精子、凍結精子、冷蔵精子又はそれらの組み合わせである、請求項1~7のいずれか一つに記載の受精方法。
【請求項9】
以下の培地(i)及び(ii)からなる受精用培地キット:
(i)非ヒト哺乳動物の精子を前培養するための、0.1mM以上20mM以下のシクロデキストリン及び0.1mM以上10mM以下のカルシウムを含有する精子前培養用培地、及び
(ii)非ヒト哺乳動物の卵と精子の受精を行うための、0.25mM以上10mM以下の濃度の還元型グルタチオンを含有する受精用培地。
【請求項10】
前記還元型グルタチオン濃度が、0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下である、請求項9に記載の受精用培地キット。
【請求項11】
前記還元型グルタチオン濃度が、0.15mg/ml以上0.46mg/ml以下である、請求項10に記載の受精用培地キット。
【請求項12】
前記精子前培養用培地が、還元型グルタチオンを実質的に含有しない請求項9~11のいずれかひとつに記載の受精用培地キット。
【請求項13】
前記精子前培養用培地が、TYH培地、HTF培地、mR1ECM培地、BO培地KSOM培地、Dulbeccos ’s PBS培地、M2培地、PB1培地、Hanks培地、Hepes-TALP培地、Hoppe&Pitts培地、m-KRB培地、HIS培地、mTALP培地、mT培地、MCM培地、CCM培地、K-MCM培地、BWW培地、Whitten培地、BMOC培地、T6培地、HT6培地、Bavister-TALP培地、SOF培地、Menezo-B2培地、Ham’s培地、Medium199培地、MEM培地、mWM培地からなる群より選ばれる培地であり、かつ、前記受精用培地が、HTF培地、TYH培地、mR1ECM培地、BO培地、KSOM培地、Dulbeccos ’s PBS培地、M2培地、PB1培地、Hanks培地、Hepes-TALP培地、Hoppe&Pitts培地、m-KRB培地、HIS培地、mTALP培地、mT培地、MCM培地、CCM培地、K-MCM培地、BWW培地、Whitten培地、BMOC培地、T6培地、HT6培地、Bavister-TALP培地、SOF培地、Menezo-B2培地、Ham’s培地、Medium199培地、MEM培地、mWM培地からなる群より選ばれる培地である、請求項9~12のいずれか一つに記載の受精用培地キット。
【請求項14】
前記非ヒト哺乳動物がマウスである、請求項9~13のいずれか一つに記載の受精用培地キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、体外受精や遺伝子改変動物の作製に用いることができる技術に関する。特には、本発明は、哺乳動物の未受精卵、受精卵、又は発生初期胚を処置する方法、及びそのために用いることができる培地に関する。
【背景技術】
【0002】
受精に際しては、卵子の近傍に到来した精子は、卵透明帯に接触すると先体反応が生じ、頭部の先端にある先体が変化してヒアルロニダーゼ、アクロシン等の溶解酵素が放出され、これらの働きにより精子は透明帯を通過し、内部に存在する卵細胞に到達し、受精に到る。しかし、形成異常を起こした精子や凍結保存した精子では、受精能が低下しており、卵子と精子を混ぜ合わせるだけの通常の体外受精では受精卵の作製が困難である。そのため、哺乳動物の体外受精においては、受精率を高めるための様々な工夫が成されている。
【0003】
現在,遺伝子の機能解析及びそれに関連した研究開発が、国家プロジェクトとして世界中で盛んに行われつつあるが、その中で重要な役割を果たしているのが遺伝子改変(Tg(Transgenic)及びKO(Knock Out))マウスである。KOマウスが次々と作られることから、今後、その数は、100万種を超えるものと考えられており、その系統維持には天文学的な数のマウスを飼育しなければならならず、これらマウスの維持管理が,世界中の実験動物施設においてきわめて深刻な問題になっている。そこで注目を集めているのが凍結精子によるこれらマウスの保存であるが、特に、実験動物として汎用されているC57BL/6系統マウスの精子は、凍結処理及び融解処理により損傷をうけ活力を低下し、透明帯を通過する力を欠いているものが多く、受精率が低い。
【0004】
近年、C57BL/6系統マウス精子の改善された凍結法が報告されているが(非特許文献1)、操作が煩雑であることから、安定した高い受精率を得ることは難しく、一般には、せいぜい10~20%の受精率しか得られないのが現状である。
さらに、体外受精において、新鮮な卵子の使用が困難な場合には、凍結保存された卵子を用いることが行われているが、凍結融解により、透明帯が固くなり、凍結融解卵子を用いた場合には、新鮮な精子であっても、受精率が低下するという問題がある。
かかる状況下において、現在、受精能が低下した精子を用いた体外受精、或いは凍結保存した卵子を用いた体外受精において、効率的に受精卵を作製するために、以下のような生殖補助技術が利用されている。
【0005】
比較的運動能が維持されている精子に対しては、透明帯部分切開法(PZD:Partial Zona-Pellucida Dissection(非特許文献2);ZIP:Partial Zona-Pellucida Incision by Piezo-micromanipulator(非特許文献3))やレーザー透明帯穿孔法(特許文献1)が利用されている。透明帯部分切開法は、注射針の先端(PZD)やピエゾマイクロマニュピレーターに接続したガラス毛細管の先端(ZIP)を用いて、卵子の透明帯をカットする方法であり、レーザー透明帯穿孔法は、レーザーにより卵子の透明帯に穴を空ける方法である。これらの方法により透明帯に作製されたスリットや穴から、精子が卵子内に侵入可能となり、受精率が向上する。
一方、凍結融解後、全く運動性が認められない精子に対しては、一個の精子を卵細胞質に機械的に直接注入する卵細胞質内精子注入法(ICSI:Intra Cytoplasmic Sperm Injection)(非特許文献4)が一般に用いられている。
しかしながら、これらの方法は、特別な技術や装置が必要となり、汎用性が低いという問題がある。
【0006】
透明帯はまた、受精卵(受精胚)を保護する機能も有する。透明帯は、卵子の周囲に存在する膜であり、受精卵は所定の時期までその透明帯で包囲・保護されて発達し、次に透明帯から脱出して着床する。
しかしながら、発生段階において、発生初期胚(胚盤胞期胚)が透明帯を孵化できないために、子宮への着床が障害される場合がある。かかる障害は、排卵誘発剤を用い卵胞を成熟させた時に得られた卵子の透明帯が固くなったり又は厚くなったりする場合の他、透明帯形成異常を有する卵子を用いた場合、凍結保存した卵子を用いて体外受精した場合、或いは受精卵(胚)を凍結保存したのち融解し子宮へ移植した場合に起こりやすい。
【0007】
体外受精により得られた受精卵が着床しやすいように、子宮へ移植する前に、アシストハッチング法(透明帯開孔法)が利用されている。アシストハッチング法は、注射針やガラス毛細管の先端を利用して機械的に透明帯を切断する透明帯部分切開法(非特許文献2及び3)、レーザーにより透明帯に穴を空ける方法(特許文献1)、酵素により透明帯を溶解させる方法(非特許文献5)がある。
しかしながら、注射針やガラス毛細管の先端を利用する方法やレーザーにより透明帯に穴を空ける方法は、特別な装置と技術が必要となり、汎用性が低いという問題がある。酵素による方法は、胚へのダメージにより発生能が低下するという問題がある。
【0008】
遺伝子改変動物、例えば遺伝子改変マウス(ノックアウトマウス)は、概ね、以下の手順で作製される。まず、ターゲッティングベクター(組換えDNA)を調製した後、エレクトロポレーション法などにより、そのターゲッティングベクターをES細胞に導入する。そして、相同的遺伝子組換えの起こったES細胞株を選別する。次に、胚盤胞期の受精卵にできる腔にマイクロマニュピレーターを用いてES細胞を注入し、キメラ胚を作製し、そのキメラ胚を偽妊娠マウスの子宮に移植する方法(インジェクションキメラ作製法)や、透明帯を除去した発生初期胚(例えば、8細胞期胚)を作製し、それにES細胞を加えて集合塊を作り、胚盤胞期まで培養して偽妊娠マウスの子宮に移植する方法(集合キメラ法)によりキメラを作製する。そして産仔(キメラマウス)を得る。次に、作製したキメラマウスと野生型マウスを交配し、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されているかどうかを確認する。そして、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されていることが確認されたマウス同士を交配し、得られた産仔の中からノックアウトマウスを選別する。
【0009】
上記方法で用いられるマイクロマニュピレーター法は、特殊な装置と技術が必要となる。一方、集合キメラ法においては、発生初期胚の透明帯の除去が必要であるが、透明帯の除去には、酸性タイロード液(pH2)が利用されている(特許文献2)。酸性タイロード液を用いた場合は、酸性タイロード液自身が、細胞毒性が高いこと、そして、操作中にタンパク質フリーの条件で使用する必要があり、ディッシュ或いはガラスキャピラリーに発生初期胚が接着することにより、操作性が極めて低いという問題がある。
【0010】
上記生殖補助技術の他にも、受精率を上げるために精子をシクロデキストリン誘導体並びにアミノ酸及び/又は解糖系中間体物質を含有する培地で精子を前培養する方法(特許文献3)、凍結融解精子を用いた場合に発生する過酸化水素による受精率の低下を防ぐために、還元型グルタチオン含有培地で前培養した精子に未受精卵を添加し、そして還元型グルタチオン存在下で受精する方法(非特許文献6)、ヒトの体外受精において妊娠効率を上げるための連続的培養系及びプロセス(特許文献4)など、培地や培養方法に関するものが提案されている。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2004-147604号公報
【特許文献2】特開2006-204180号公報
【特許文献3】特表2003-517276号公報
【特許文献4】特開2001-61470号公報
【0012】

【非特許文献1】Bath, M.L. (2003) Simple and efficient in vitro fertilization with cryopreserved C57BL/6J mouse sperm. Biol. Reprod., 68:19-23.
【非特許文献2】Nakagata, N., M.Okamoto, O.Ueda, and H.Suzuki (1997) The positive effect of partial zona-pellucida dissection on the in vitro fertilizing capacity of cryopreserved C57BL/6J transgenic mouse spermatozoa of low motility. Biol. Reprod., 57:1050-1055.
【非特許文献3】Kawase, Y., T.Iwata, O.Ueda, N.Kamada, T.Tachibe, Y.Aoki, K.Jishage, and H.Suzuki (2002) Effect of partial incision of the zona pellucida by piezo-micromanipulator for in vitro fertilization using frozen-thawed mouse spermatozoa on the developmental rate of embryos transferred at the 2-cell stage. Biol. Reprod., 66:381-385.
【非特許文献4】Kimura, Y.and R.Yanagimachi (1995) Intracytoplasmic sperm injection in the mouse. Biol. Reprod., 52:709-720.
【非特許文献5】Fong CY, Bongso A, Ng SC, Anandakumar C, Trounson A, Ratnam S. (1997) Ongoing normal pregnancy after transfer of zona-free blastocysts: implications for embryo transfer in the human. Hum Reprod., 12(3):557-60.
【非特許文献6】Bath, M.L. (2010) Inhibition of In Vitro Fertilizing Capacity of Cryopreserved Mouse Sperm by Factors Released by Damaged Sperm, and Stimulation by Gultathione., PLOS ONE, Vol. 5, Issue 2, e9387.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
体外受精においては、形成異常を有する精子或いは凍結保存した精子のような、低受精能を示す精子では、卵子の透明帯を通過することができず、通常の体外受精では効率的に受精卵を作製することが困難であるため、受精に際し、卵透明帯の菲薄化又は除去が必要となる。また、凍結した卵子を用いた場合にも、透明帯が固くなり、通常の体外受精では効率的に受精卵を作製することが困難であるため、受精に際し、同様な処置が必要となる。
【0014】
体外受精において、受精卵の作製後は、発生初期胚(胚盤胞胚)が透明帯を孵化できないため、子宮への着床が障害される場合があり、かかる場合は、着床の障害となる透明帯の菲薄化又は除去が必要となる。
さらには、遺伝子改変動物の作製工程においては、透明帯を除去した発生初期胚(例えば、2~8細胞期胚)を作製する必要がある。
【0015】
本発明の目的は、哺乳動物卵又は胚において、受精率や発生率の向上が期待できる方法を提供することである。
また本発明の目的は、哺乳動物卵又は胚(例えば、未受精卵、受精卵又は発生初期胚)の透明帯を菲薄化又は除去する方法、透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵及び/又は胚(例えば、未受精卵、受精卵又は発生初期胚)を調製する方法、及び該方法により調製された透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を提供することである。
本発明の他の目的は、体外受精、受精卵の移植、遺伝子改変動物の作製において利用される発生初期胚の調製、において用いることができる、透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物胚を調製する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、上記調製方法であって、少なくとも特別な技術や装置を要求することがない方法を提供することであり、好ましくは、細胞毒性がなく又は実験操作性を損なうことがない、汎用性がある方法を提供することである。
【0016】
また本発明の別の目的は、体外受精、移植前の受精卵の前処理、又は遺伝子改変動物の作製において利用される発生初期胚の調製、において用いることができる、哺乳動物胚の透明帯を菲薄化又は除去できる哺乳動物胚用の培地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、哺乳動物卵又は胚(未受精卵、受精卵又は発生初期胚)を、SH基を有する還元剤(例えば、還元型グルタチオンやDTT)で処理することにより、哺乳動物卵又は胚の透明帯を菲薄化又は除去できること、並びにそれらの透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を用いることにより受精率や発生率を向上できることを見いだし、本発明を完成した。
本発明は、哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)卵又は胚を、有効量のSH基を有する還元剤(還元型グルタチオン、DTT、又はジスルフィド還元酵素)を含有する培地で処理することにより、卵又は胚の透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製する方法である。
本発明はまた、SH基を有する還元剤を処理することにより透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵と、好ましくはシクロデキスチトリンで前培養された精子を受精する方法である。
本発明の別の態様は、遺伝子改変マウスの作製に用いることができる透明帯が菲薄化又は除去されたマウス発生初期胚を調製する方法である。
本発明の他の態様は、着床率を向上できる透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物受精卵又は胚を調製する方法である。
本発明はより具体的には、以下の通りである。
【0018】
(1)以下の工程:
a.哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の精子を、0.1mM以上20mM以下のシクロデキストリン及び0.1mM以上10mM以下のカルシウムを含有する培地で前培養する工程、
b.哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の未受精卵の透明帯の菲薄化又は除去のために、該未受精卵を、SH基を有する還元剤をSH当量で0.25mM以上500mM以下の濃度で含有する培地に加え、該還元剤により処理された未受精卵を調製する工程、及び
c.工程aで前培養した該精子と、工程2でSH基を有する還元剤で処理した該未受精卵を共培養して受精を行う工程、
を含む受精方法。
(2)前記未受精卵がマウス未受精卵である前記(1)に記載の受精方法。
(3)前記シクロデキストリンがメチル-β—シクロデキストリンである前記(1)又は(2)に記載の受精方法。
【0019】
(4)工程cが、工程aで前培養した該精子を、工程bでSH基を有する還元剤で処理した該未受精卵の存在する培地中に添加し媒精を行う工程である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の受精方法。
(5)前記SH基を有する還元剤が還元型グルタチオンであり、かつ培地中の該還元型グルタチオン濃度が、15mg/ml以上90mg/ml以下である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の受精方法。
(6)前記SH基を有する還元剤が還元型グルタチオンであり、かつ培地中の該還元型グルタチオン濃度が、0.075mg/ml以上3.0mg/ml以下である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の受精方法。
(7)培地中の前記還元型グルタチオン濃度が、0.15mg/ml以上0.46mg/ml以下である、前記(6)に記載の受精方法。
(8)前記工程cの媒精を、前記工程bと同じ培地中で前記未受精卵と前記精子を数時間共培養することにより行う、前記(6)又は(7)に記載の受精方法。
(9)前記工程cの媒精を、還元型グルタチオンを実質的に含有しない培地で行う、前記(5)に記載の受精方法。
(10)受精に用いる精子が、還元型グルタチオンを含まない培地で前培養されている新鮮精子、凍結精子、冷蔵精子又はそれらの組み合わせである、前記(1)に記載の受精方法。
(11)受精に用いる精子がマウス凍結精子であり、工程aの精子の前培養を少なくとも30分間行う、前記(1)に記載の受精方法。
【0020】
(12)哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)卵又は胚を、SH基を有する還元剤(好ましくは、DTT又は還元型グルタチオン)をSH当量で0.25mM以上500mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、0.075mg/ml以上150mg/ml以下の濃度)、好ましくは、SH当量で0.5mM以上500mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、0.15mg/ml以上150mg/ml以下の濃度)で含有する培地で処理することにより透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製する方法。
(13)前記哺乳動物卵又は胚が、マウス未受精卵又はマウス胚である前記(12)に記載の透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製する方法。
(14)前記哺乳動物卵が未受精卵であり、かつ、培地中の前記SH基を有する還元剤(好ましくは、DTT又は還元型グルタチオン)の濃度が、SH当量で0.5mM以上10mM以下(還元型グルタチオンの場合は、0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下の濃度)、好ましくは、SH当量で0.5mM以上1.5mM以下(還元型グルタチオンの場合は、0.15mg/ml以上0.46mg/ml以下の濃度)である、前記(12)に記載の透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵を調製する方法。
(15)培地中の前記SH基を有する還元剤(好ましくは、DTT又は還元型グルタチオン)の濃度が、SH当量で50mM以上500mM以下(還元型グルタチオンの場合は、15mg/ml以上150mg/ml以下)、好ましくは、SH当量で100mM以上300mM以下(還元型グルタチオンの場合は、30mg/ml以上90mg/ml以下)である、前記(12)に記載の透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製する方法。
(16)前記(12)~(15)のいずれか一つに記載の方法により調製された透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚。
【0021】
(17)哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)卵又は胚を、DTT又は還元型グルタチオンをSH当量で50mM以上300mM以下の濃度で含有する培地で処理することにより透明帯が菲薄化又は除去された哺乳動物卵又は胚を調製する方法。
(18)前記哺乳動物卵又は胚が、マウス未受精卵又はマウス発生初期胚(2細胞期胚~16細胞期胚)である前記(17)に記載の透明帯が菲薄化又は除去されたマウス未受精卵及び/又はマウス発生初期胚を調製する方法。
(19)前記(18)の方法により調製されたマウス発生初期胚をES細胞株と凝集させる手順を少なくとも含む、キメラ非ヒト哺乳動物の作製方法。
(20)前記(17)に記載の方法により調製された哺乳動物胚を用いることを含む、哺乳動物胚の着床率を高める方法。
(21)前記(17)又は(18)により調製された哺乳動物卵又は胚。
【0022】
(22)哺乳類動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)卵又は胚の透明帯を菲薄化又除去するための、SH基を有する還元剤(好ましくは、DTT又は還元型グルタチオン)をSH当量で0.25mM以上500mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、0.075mg/ml以上150mg/ml以下の濃度)、好ましくは、SH当量で0.5mM以上500mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、0.15mg/ml以上150mg/ml以下の濃度)で含有する、哺乳動物卵又は胚用培地。
(23)体外受精用の未受精卵を培養するための培地又は受精用培地であり、SH基を有する還元剤(好ましくは、DTT又は還元型グルタチオン)をSH当量で0.25mM以上10mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、0.075mg/ml以上3.0mg/ml以下の濃度)、好ましくは、SH当量で0.5mM以上1.5mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、0.15mg/ml以上0.46mg/ml以下の濃度)で含有する培地。
【0023】
(24)SH基を有する還元剤(好ましくは、DTT又は還元型グルタチオン)をSH当量で50mM以上300mM以下の濃度(還元型グルタチオンの場合は、15mg/ml以上90mg/ml以下の濃度)で含有する、哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)卵又は胚の透明帯を菲薄化又は除去するための培地、
(25)前記非ヒト哺乳動物胚が遺伝子改変動物作製用の受容胚又は発生初期胚である前記(24)に記載の培地。
(26)前記遺伝子改変動物が遺伝子改変マウスである前記(25)に記載の培地。
【0024】
(27)以下の培地(i)及び(ii)からなる受精用培地キット:
(i)哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の精子を前培養するための、0.1mM以上20mM以下のシクロデキストリン及び0.1mM以上10mM以下のカルシウムを含有する精子前培養用培地、及び
(ii))哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の卵と精子の受精を行うための、SH当量で0.25mM以上10mM以下のSH基を有する還元剤を含有する受精用培地。
(28)前記受精用培地が、0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下の濃度の還元型グルタチオンを含有する、前記(27)に記載の受精用培地キット。
(29)前記精子前培養用培地が、還元型グルタチオンを実質的に含有しない前記(19)又は(20)に記載の受精用培地キット。
(30)前記精子前培養用培地が、TYH培地、HTF培地、KSOM培地、Dulbeccos ’s PBS培地、M2培地、PB1培地、Hanks培地、Hepes-TALP培地、Hoppe&Pitts培地、m-KRB培地、HIS培地、BO培地、mTALP培地、mT培地、MCM培地、CCM培地、K-MCM培地、BWW培地、Whitten培地、BMOC培地、T6培地、HT6培地、Bavister-TALP培地、SOF培地、Menezo-B2培地、Ham’s培地、Medium199培地、MEM培地、mWM培地からなる群より選ばれる培地であり、かつ、前記受精用培地が、HTF培地、TYH培地、mR1ECM培地、BO培地KSOM培地、Dulbeccos ’s PBS培地、M2培地、PB1培地、Hanks培地、Hepes-TALP培地、Hoppe&Pitts培地、m-KRB培地、HIS培地、mTALP培地、mT培地、MCM培地、CCM培地、K-MCM培地、BWW培地、Whitten培地、BMOC培地、T6培地、HT6培地、Bavister-TALP培地、SOF培地、Menezo-B2培地、Ham’s培地、Medium199培地、MEM培地、mWM培地からなる群より選ばれる培地である、前記(27)~(29)のいずれか一つに記載の受精用培地キット。
(31)前記非ヒト哺乳動物がマウスである、前記(27)~(30)のいずれかに記載の受精用培地キット。
【0025】
(32)哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)卵又は胚の透明帯を菲薄化又は除去するための、SH基を有する還元剤(還元型ジスルフィド又はDTT)の使用。
(33)哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の未受精卵と精子、好ましくはマウス未受精卵とシクロデキストリン含有培地で前培養したマウス精子(新鮮精子、冷蔵精子、又は凍結精子)との受精において、該未受精卵の透明帯を菲薄化又は除去することにより受精率を増加させるためのSH基を有する還元剤(還元型ジスルフィド又はDTT)の使用。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、哺乳類動物、特にはマウスの体外受精において、特別な装置を必要とせず、飛躍的な操作の簡便化や大幅な作業の効率化を実現できる。さらには、本発明は、着床を容易にする技術として、或いは、遺伝子改変動物、特に遺伝子改変マウスの作製において有用な技術として利用できる。また、グルタチオン自身が防御因子として存在する生体由来成分であることから、卵子及び胚に対する毒性が極めて低く、安全に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明で用いた、マウスの凍結保存精子を用いた体外受精の方法の概略を示したフローチャートである。
【図2】図2は、マウス未受精卵の透明帯の大きさに対する還元型グルタチオンの影響を示した図である。
【図3】図3は、各濃度の還元型グルタチオンで処理したマウス未受精卵の透明帯の様子を示した顕微鏡写真である。
【図4】図4aは、還元型グルタチオン未処理の、マウス未受精卵の顕微鏡写真である。図4bは、還元型グルタチオン処理後の、マウス未受精卵の顕微鏡写真である。図4cは、受精後の卵の分割を示した顕微鏡写真である。
【図5】図5aは、還元型グルタチオン未処理の、マウス未受精卵(凍結融解卵子)の顕微鏡写真である。図5bは、還元型グルタチオン処理後の、マウス未受精卵(凍結融解卵子)の顕微鏡写真である。図5cは、受精の様子を示した顕微鏡写真である。
【図6】図6aは、還元型グルタチオン未処理の、マウス発生初期胚(8細胞期胚)の顕微鏡写真である。図6bは、還元型グルタチオン処理後の、マウス発生初期胚(8細胞期胚)の顕微鏡写真である。
【図7】図7は、本発明で用いた、未受精卵(胚)の透明帯除去の方法の概略を示した図である。
【図8】図8Aは、各濃度の還元型グルタチオンで処理したマウス未受精卵の顕微鏡写真である。図8Bは、各濃度の還元型グルタチオンで処理したマウス未受精卵をチオール反応性蛍光色素で染色した写真である。
【図9】図9は、各濃度の還元型グルタチオンで処理したマウス未受精卵をチオール反応性蛍光色素で染色した場合の、蛍光強度を示したものである。還元型グルタチオン未処理を100%とした相対強度で示してある。
【図10】図10は、SH基を有する還元剤(DTT、アスコルビン酸及びエピカテキン)でマウス未受精卵を処理した場合の、透明帯の膨化を測定した結果である。各還元剤未処理を100%とした。
【図11】図11は、SH基を有する還元剤(DTT、アスコルビン酸及びエピカテキン)処理したマウス未受精卵の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを、上限としてYを含む意味で用いる。
本明細書中では、特に断りがない限りは、「グルタチオン」及び「還元型グルタチオン」は、交換可能な用語として用いる。

【0029】
本発明に用いられる、「透明帯が菲薄化する」とは、卵の透明帯の構造がSH基を有する還元剤(例えば、還元型グルタチオンやDTT)の作用を受けることにより、透明帯中のジスルフィド結合が切断されて透明帯が変化又は脆弱化し(見かけ上の変化を伴わない場合も含む)、場合によっては、膨化その他の見かけ上の変化を伴い、精子が、グルタチオンの作用を受ける前の透明帯に比べて、容易に通過できる状態になることを意味する。
本発明に用いられる、「有効量のSH基を有する還元剤を含有する」とは、卵の透明帯を菲薄化又は除去できる量又は濃度のSH基を有する還元剤(例えば、還元型グルタチオンやDTT)を含んでいることを意味する。

【0030】
本発明に用いられる哺乳動物及び/又は胚(未受精卵、受精卵及び/又は発生初期胚)を提供する哺乳動物は、特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ等の家畜類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル等の実験動物類、ネコやイヌ等のペット類、野生動物等、全ての動物種を含むが、マウス、ラット、ハムスター等の実験動物が好ましく、マウスが特に好ましい。またマウスは、自然発生マウス、遺伝子改変マウスのいずれを用いることもでき、例えば、BALB/c、CH3/He、C57BL/6J、C57B/6N、DBA/2N、ICR、BDF1、B6C3F1、129T2/SvEmsJ等の系統をあげることができる。これらの内、本発明の対象としては、BALB/c及び129系統が好ましい。

【0031】
本発明において用いられる「哺乳動物胚」なる語は、哺乳動物由来の、未受精卵、受精卵及び発生初期胚(2細胞期胚から胚盤胞期)を含む意味であり、特に断りのない限り、それらの全てを含む意味で用いられる。 本発明において用いられる「哺乳動物卵」は、哺乳動物由来の未受精卵及び受精卵を含み意味であり、特に断りのない限り両者を含む意味である。本発明において用いられる「哺乳動物胚」は、発生初期胚、例えば、2細胞期胚から胚盤胞期胚を意味する。
本発明に用いられる哺乳動物胚及び/又は(未受精卵、受精卵及び/又は発生初期胚)は、哺乳動物より採取したものを直接使用しても、或いはそれを冷蔵保存して又は凍結保存した後融解して使用しても良い。冷蔵保存、又は凍結保存及び融解は、体外受精の技術分野における定法に従って行なうことができる。

【0032】
本発明において用いられる「未受精卵」なる語は、個体から採取後新鮮な状態にある卵(胚)、採取後使用までの間冷蔵保存された卵子、及び凍結保存した後融解して使用される卵子を含む意味であり、特に断りのない限り、それらの全てを含む意味で用いられる。
本発明において用いられる「受精卵」なる語は、受精後の卵(胚)及びそれを凍結後融解した卵(胚)のいずれも含む意味であり、特に断りのない限り、両者を含む意味で用いられる。
本発明において用いられる「発生初期胚」なる語は、2細胞期から胚盤胞期までの胚を含む意味である。また、「発生初期胚」なる語は、発生開始初期の胚及びそれを凍結後融解した胚のいずれも含む意味であり、特に断りのない限り、両者を含む意味で用いられる。

【0033】
本発明で用いられるSH基を有する還元剤として、還元型グルタチオン、DTT、ジスルフィド還元酵素(例えば、グルタチオンレダクターゼやチオレドキシン)をあげることができるが、還元型グルタチオン又はDTTか好ましく、還元型グルタチオンが特に好ましい。
本発明で用いられる還元型グルタチオンは、市販の還元型グルタチオンをそのまま用いることができるが、市販の酸化型グルタチオンを還元した後用いても良い。

【0034】
本発明で用いるSH基を有する還元剤の濃度は、還元型グルタチオン又はDTTの場合は、培地中、SH当量で、0.25mM以上500mM以下、より好ましくは、0.5mM以上300mM以下、特に好ましくは、1.0mM以上200mM以下であるが、その目的に応じて適宜選択でき、目的に応じた好ましい濃度が存在する。
本発明のSH基を有する還元剤として還元型グルタチオンを用いる場合は、還元型グルタチオンの濃度は、培地中、好ましくは0.075mg/ml以上150mg/ml以下、より好ましくは、0.15mg/ml以上90mg/ml以下、特に好ましくは、0.30mg/ml以上60mg/ml以下であるが、その目的に応じて、濃度は適宜選択でき、目的に応じた好ましい濃度が存在する。
本発明のSH基を有する還元剤としてDTTを用いる場合は、DTTの濃度は、培地中、好ましくは0.125mM以上250mM以下、より好ましくは、0.25mM以上150mM以下、特に好ましくは、0.5mM以上100mMであるが、その目的に応じて、濃度は適宜選択でき、目的に応じた好ましい濃度が存在する。

【0035】
本発明のSH基を有する還元剤としてジスルフィド還元酵素を用いる場合は、培地中に酵素を、0.01mg/ml以上100mg/ml以下の濃度、好ましくは、0.1mg/ml以上10mg/ml以下の濃度で添加し、20~37℃で、0.5~24時間、好ましくは1~8時間反応を行うが、その目的に応じて、濃度や反応時間は適宜選択でき、目的に応じた好ましい条件が存在する。

【0036】
本発明のSH基を有する還元剤グルタチオンの培地中の濃度は、哺乳動物卵又は胚の透明体を菲薄化する目的の場合及び透明体を除去する目的の場合において、異なった濃度で用いることができる。例えば、SH基を有する還元剤として、還元型グルタチオンを用いた場合は、それぞれ、以下に記すような濃度で用いることができる。

【0037】
本発明で用いるグルタチオン濃度は、哺乳動物卵又は胚の透明帯を菲薄化する目的においては、培地中、好ましくは0.075mg/ml以上15mg/ml以下、より好ましくは0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下、さらに好ましくは、0.15mg/ml以上0.46mg/ml未満、特に好ましくは0.30mg/ml以上0.46mg/ml未満である。培地中のグルタチオン濃度は、上記範囲中の低濃度、例えば、0.15mg/ml以上0.46mg/ml未満の範囲の濃度であっても、透明帯の菲薄化の目的のために十分な効果を発揮できる。

【0038】
本発明で用いるグルタチオン濃度は、透明帯を菲薄化する目的において、比較的長い時間、例えば数十分~数時間、哺乳動物卵又は胚を処理又は培養する場合は、低濃度で十分な効果が発揮できる。その際のグルタチオン濃度は、好ましくは0.075mg/ml以上6.0mg/ml以下であり、より好ましくは、0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下、さらに好ましくは、0.15mg/ml以上0.46mg/ml未満、特に好ましくは、0.30mg/ml以上0.46mg/ml未満である。これらの濃度で未受精卵を処理又は培養することにより、受精率が20%~60%向上し、凍結精子、冷蔵精子、新鮮精子のいずれを用いた場合でも、その受精率は大幅に上昇する。

【0039】
本発明で用いるグルタチオン濃度は、透明帯を菲薄化する目的において、比較的短い時間、例えば数十秒~数分間、哺乳動物卵又は胚を処理又は培養する場合は、中程度の濃度で十分な効果が発揮できる。その際のグルタチオン濃度は、好ましくは6.0mg/ml以上15mg/ml未満、より好ましくは、6.0mg/ml以上12mg/ml以下である。これらの濃度で未受精卵を比較的短い時間培養したのち、グルタチオンを培地から除去し、精子と受精させることにより、受精率が向上する。中程度の濃度での処理は、低濃度での処理で効果が十分に得られない未受精卵(例えば、凍結融解卵子)や種(例えば、家畜等の大型の動物)が存在した場合に、特に有効である。

【0040】
本発明で用いるグルタチオン濃度は、培地中、哺乳動物卵又は胚の透明帯を除去する目的においては、培地中、好ましくは15mg/ml以上150mg/ml以下、より好ましくは、15mg/ml以上90mg/ml以下、さらに好ましくは、30mg/ml以上90mg/ml以下、特に好ましくは、30mg/ml以上60mg/ml以下である。これらの濃度で未受精卵、受精卵や発生初期胚(例えば、8細胞期胚)を短時間(例えば、10秒~数分間、好ましくは30秒~120秒間)処理すると、簡単に透明帯を除去することができる。

【0041】
上記グルタチオン濃度範囲は、マウスの未受精卵、受精卵又は発生初期胚において特に好ましい範囲であるが、グルタチオンの濃度は、上記範囲内において、対象とする未受精卵、受精卵、発生初期胚の状態(新鮮胚、冷蔵保存胚、又は凍結融解胚)やその種類に応じて適宜選択可能である。
また、哺乳類動物種の違いによる、未受精卵、受精卵、又は発生初期胚の大きさに応じて、グルタチオン濃度の好ましい範囲は、適宜選択可能であり、マウスの胚に比べて大きな胚(例えば、牛胚)を用いた場合は、マウス胚に比べてより高濃度のグルタチオンを用いることが適当である。また、処理時間を、適宜選択し、より短く又はより長くすることも可能である。

【0042】
本発明のSH基を有する還元剤として還元型グルタチオンを用いた例を上記に記載したが、DTTを用いる場合は、SH当量で換算して同等の濃度のDTTを用いることにより、哺乳動物卵又は胚の透明体を菲薄化又は除去ができる。
以下、還元型グルタチオンの例を中心に本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものでない。

【0043】
このようにして透明帯が菲薄化又は除去された未受精卵は、きわめて運動性の低い精子とも体外受精できるので有用である。また、凍結融解卵子を用いた体外受精においては、凍結融解により卵子の透明帯が硬化し、精子が通過しにくくなるので、本発明を用いて、透明帯を菲薄化又は除去することが有効である。さらには、遺伝子改変動物の作製においては、本発明を用いて、発生初期胚(例えば、2細胞期~8細胞期胚)の透明帯を除去し、ES細胞との融合に用いることができる。

【0044】
上記した哺乳動物卵又は胚の透明帯の菲薄化又は除去のための濃度は、透明帯の菲薄化又は透明帯の除去の目的においてあくまで目安であって、上記した透明帯の菲薄化のための濃度の範囲内において、透明帯が除去される場合を排除するものではなく、また上記した透明帯を除去するための濃度の範囲内において、透明帯が菲薄化される場合を排除するものではない。

【0045】
本発明において、本発明の方法を体外受精に用いる場合は、未受精卵は、受精の前にグルタチオン又はDTT含有培地で処理されても良く、また、受精と同時にグルタチオン又はDTT含有培地で処理されても良い。受精の前にグルタチオン含有培地で処理される場合は、未受精卵を、グルタチオン含有培地、例えば、グルタチオン含有HTF培地で、例えば、数十秒~数分間、或いは数十分間処置した後、必要に応じてグルタチオンを培地から除去し、受精に用いる。好ましくは、グルタチオン含有培地で未受精卵を調製し、グルタチオン処理をし、必要に応じてグルタチオンを含有しない培地に交換した後、そこに調製した精子を添加し、受精を行う。一方、未受精卵を受精と同時にグルタチオン含有培地で処理する場合は、未受精卵を、グルタチオン含有培地で調製し、そこに別途調製した精子を添加(媒清)し、受精を行う。このように、例えばグルタチオン含有培地で未受精卵の処理を行った後または処理を開始した後、そこに精子を添加することが好ましい。これにより、多くの未受精卵を簡便な方法により同時に受精できる。
透明帯を除去するために、高濃度のグルタチオン、例えば、15mg/ml以上の濃度のグルタチオン含有培地で未受精卵を処理した場合は、受精の前にグルタチオンを除いておくことが必要である。

【0046】
本発明の方法においては、本発明の方法により透明帯が菲薄化又は除去された未受精卵との受精に用いる精子は、前培養してから用いることが好ましい。。かかる場合は、精子を、天然体又は合成体のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン或いはそれらの誘導体のいずれか、或いはそれらの任意の2つ以上の組み合わせを含む培地で前培養することにより、受精率の向上が期待できる。特に、受精能の低下した凍結精子を用いた場合は、受精率の大きな向上が期待できる。

【0047】
シクロデキストリンは、合成体、天然体、或いはそれらの誘導体のいずれを用いても良く、シクロデキストリン誘導体は、例えば、6個のグルコースがα-1,4結合で環状に結合したα-シクロデキストリン骨格、7個のグルコースがα-1,4結合で環状に結合したβ-シクロデキストリン骨格、または8個のグルコースがα-1,4結合で環状に結合したγ-シクロデキストリン骨格を有するものをあげることができる。このようなシクロデキストリン誘導体としては、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、スルフォブチル-β-シクロデキストリン、ならびにこれらのα体およびg体を挙げることができるが、好ましくは、メチル-β-シクロデキストリンである。前培養におけるシクロデキストリン又はその誘導体の濃度は、用いられるシクロデキストリンの種類に応じて適宜選択され、例えば、好ましくは0.1mM以上20mM以下、より好ましくは0.2mM以上10mM以下であり、特に好ましくは0.5mM以上5mM以下であるが、メチル-β-シクロデキストリンの場合は、例えば0.5mM以上5mM以下が好ましく、0.5mM以上3.0mM以下がさらに好ましい。

【0048】
精子の前培養においては、受精能を活性化するために培地にはカルシウムを添加するのが好ましい。培地中のカルシウム濃度は、例えば、0.1mM以上10mM以下であり、好ましくは0.5mM以上5.0mM以下、更に好ましくは1.0mM以上2.0mM以下であるが、本発明における至適濃度は約1.7mMである。

【0049】
精子の前培養は、上記デキストリン及びカルシウムを含む培地で、約37℃で、10分~数時間、好ましくは30分~1時間行う。前培養の時間は、精子の種類や状態(新鮮精子、冷蔵精子又は凍結精子)に応じて、適宜選択可能である。

【0050】
本発明の哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)卵の受精方法は、以下の工程を含むa.哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の精子を、0.1mM以上20mM以下のシクロデキストリン及び0.1mM以上10mM以下のカルシウムを含有する培地で前培養する工程、
b.哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の未受精卵の透明帯の菲薄化又は除去のために、該未受精卵を、SH基を有する還元剤をSH当量で0.25mM以上500mM以下の濃度で含有する培地に添加し、該還元剤により処理された未受精卵を調製する工程、及び
c.工程aで前培養した該精子と、工程2でSH基を有する還元剤で処理した該未受精卵を共培養しての受精を行う工程。
ここで、未受精卵は、特に限定されないが、好ましくはマウス未受精卵である。
ここで、SH基を有する還元剤は、還元型グルタチオン又はDTTであり、還元型グルタチオンが好ましい。また培地中の還元剤の濃度は、SH当量で、0.25mM以上10mM以下、好ましくは0.5mM以上10mM以下であり、還元型グルタチオンの場合は、0.075mg/ml以上3.0mg/ml以下、好ましくは、0.15mg/ml以上3.0mg/ml以下、更に好ましくは0.15mg/ml以上0.46mg/ml以下である。特に、新鮮精子を用いる場合は、0.075mg/ml以上の還元型グルタチオンで顕著な受精率の向上が達成される。

【0051】
本発明の哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)の未受精卵の受精方法においては、上記の様に、精子をシクロデキストリン及びカルシウムを含有する培地で前培養する。培地に添加するシクロデキストリン及びカルシウムの濃度は上記した通りである。シクロデキストリンの添加により受精率の向上が得られる。凍結精子を用いる場合は、シクロデキストリンで前培養することが特に好ましく、特にマウス凍結精子を用いた場合は、受精率の著しい改善が得られる。また、カルシウムの含有により、受精能の活性化が期待できる。

【0052】
本発明の哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)の未受精卵の受精方法はさらに、
工程cが、工程aにおいてシクロデキストリン存在下で前培養した該精子を、工程2においてSH基を有する還元剤で処理した該未受精卵の存在する培地中に添加し媒精を行うである工程である態様を含む。
グルタチオンで未受精卵の処理を行った後または処理を開始した後、そこに精子を添加する方法により、多くの未受精卵を簡便な方法により同時に受精できる

【0053】
本発明の哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)の未受精卵の受精方法はさらに、
前記精子を前記未受精卵の存在する培地中に添加した後、数十分~数時間それらを共培養し、透明帯の菲薄化又は除去を行いながら受精を行うこともできる。共培養の時間は、用いる精子及び卵子の種類や状態、培養条件等に応じて適宜選択出来るが、数十分の共培養でも十分な受精が期待でき、数時間の共培養で受精が完了する。マウスの場合は、数十分の受精で十分な受精が達成でき、3時間程度で受精が完了する。これにより、透明帯の菲薄化の進行と受精を同時に行うことができ、操作が効率よく行える。

【0054】
他の観点において、本発明の哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)の未受精卵の受精方法は、上記工程において、未受精卵を、SH基を有する還元剤をSH当量で50mM以上300mM以下の濃度で含有する培地で処理することにより胚の透明帯中を除去する工程、培地からSH基を有する還元剤を除く工程、及び該未受精卵が存在する培地中に、精子を添加する媒精を行う工程、を含む。を含む。
ここで、SH基を有する還元剤が還元型グルタチオンである場合は、培地中の該還元型グルタチオン濃度が15mg/ml以上90mg/ml以下であることが好ましい。

【0055】
上記のそれぞれの受精方法で用いる精子は、新鮮精子、凍結精子、冷蔵精子又はそれらの組み合わせであることもできるが、凍結精子を用いることが簡便である。また、還元型グルタチオンで処理されていない精子を用いることができる。

【0056】
本発明の培地は、哺乳類動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)卵又は胚の透明帯を菲薄化又除去するための、SH基を有する還元剤として還元型グルタチオン又はDTTをSH当量で0.25mM以上300mM以下の濃度で含有する、哺乳動物胚用培地である。
本発明の透明帯を菲薄化するための培地は、SH基を有する還元剤として還元型グルタチオン又はDTTをSH当量で0.5mM以上10mM以下の濃度で含有する培地である。
本発明の透明帯を除去するための培地は、SH基を有する還元剤として還元型グルタチオン又はDTTをSH当量で50mM以上300mM以下の濃度で含有する培地である。

【0057】
本発明の培地は、遺伝子改変動物作製用の受容胚又は発生初期胚を処理又は培養する場合は、SH基を有する還元剤として還元型グルタチオン又はDTTをSH当量で50mM以上300mM以下、好ましくは100mM以上300mM以下の濃度で含有する。

【0058】
本発明で用いる培地は、未受精卵の調製又は受精のために用いられる培地に、SH基を有する還元剤(例えば、還元型グルタチオン又はDTT)を所定の濃度含有した受精用培地であれば、培地の種類は特に制限無く用いられる。具体的には、例えば、HTF培地、TYH培地、mR1ECM培地、BO培地、KSOM培地、Dulbeccos ’s PBS培地、M2培地、PB1培地、Hanks培地、Hepes-TALP培地、Hoppe&Pitts培地、m-KRB培地、HIS培地、mTALP培地、mT培地、MCM培地、CCM培地、K-MCM培地、BWW培地、Whitten培地、BMOC培地、T6培地、HT6培地、Bavister-TALP培地、SOF培地、Menezo-B2培地、Ham’s培地、Medium199培地、MEM培地及び、mWM培地培地を用いることができ、例えば、HTF培地、TYH培地、mR1ECM培地、BO培地にグルタチオンを所定の濃度含有させた培地が好ましく用いられ、HTF培地にSH基を有する還元剤(例えば、還元型グルタチオン又はDTT)を含有した培地が特に好ましく用いられる。ここで、TYH培地は、マウスの受精卵に対して好ましく用いられ、mR1ECM培地は、ラットの受精卵に対して好ましく用いられ、BO培地は、家畜の受精卵に対して好ましく用いられる。

【0059】
本発明において精子の前培養に用いる培地は、シクロデキストリンを所定の濃度含有した培地であれば、培地の種類は特に制限なく用いられる。例えば、TYH又はHTFに、シクロデキストリン(好ましくは、メチル-β-シクロデキストリン)を所定の濃度含有させた培地が好ましく用いられる。具体的には、例えば、HTF培地、TYH培地、mR1ECM培地、BO培地KSOM培地、Dulbeccos ’s PBS培地、M2培地、PB1培地、Hanks培地、Hepes-TALP培地、Hoppe&Pitts培地、m-KRB培地、HIS培地、mTALP培地、mT培地、MCM培地、CCM培地、K-MCM培地、BWW培地、Whitten培地、BMOC培地、T6培地、HT6培地、Bavister-TALP培地、SOF培地、Menezo-B2培地、Ham’s培地、Medium199培地、MEM培地、及びmWM培地をあげることができるが、TYH培地が特に好ましく用いられる。


【0060】
本発明においては、上記の精子前培養用培地と上記の受精用培地をキットとすることもできる。即ち、本発明の別の一つの態様においては、本発明はまた、以下の精子前培養用培地及び受精用培地を含む受精用培地キットである:
(i)哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の精子を前培養するための、1.0mM以上10mM以下のカルシウム及び0.1mM以上20mM以下のシクロデキストリンを含有する精子前培養用培地、及び
(ii))哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)の卵と精子の受精を行うための、SH当量で0.25mM以上10mM以下のSH基を有する還元剤を含有する受精用培地。

【0061】
培地の例として、HTF培地、TYH培地、mRICE培地及びBO培地の組成を以下に示す。

【0062】
【表1】
JP0005439677B2_000002t.gif

【0063】
【表2】
JP0005439677B2_000003t.gif

【0064】
【表3】
JP0005439677B2_000004t.gif

【0065】
【表4】
JP0005439677B2_000005t.gif

【0066】
以下、本発明の方法を適用する未受精卵を調製する方法を、マウスを例に説明する。しかしながら、本発明の方法の適用はマウスに限定されるものではない。

【0067】
1.卵子の調製
1-1)新鮮未受精卵の採取
本発明に係る透明帯が菲薄化又除去された未受精卵の調製方法において、哺乳動物、特にマウスからの新鮮未受精卵の採取に際しては、当該技術分野で実施されている前処理を採用することができる。すなわち、排卵誘発剤の投与により過排卵処理を行なった雌マウスを安楽死させ腹部を切開する。子宮、卵管、卵巣を体外に取り出した後、卵管のみを採取し、卵管膨大部より卵丘細胞に包まれた新鮮未受精卵を取り出す。具体的には、過排卵処理は、排卵誘発剤、例えば、卵胞刺激ホルモン性の性腺刺激ホルモンの卵胞成熟効果と、黄体形成ホルモン性の性腺刺激ホルモンの排卵効果とを組合せたものであり、より具体的には、成熟雌マウス(8~12週齢)に所定濃度の血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)と胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)を、例えば48時間間隔で腹腔内に投与(7.5単位/匹)することにより過排卵処理を施すことができる。過排卵処理を施した雌マウスの卵管膨大部より未受精卵塊(卵丘・卵子複合体:COC)を採取する。

【0068】
1-2)卵丘細胞の除去
前記工程にて得られた新鮮未受精卵塊をヒアルロニダーゼ処理に供し、卵丘細胞を除去する。具体的には、新鮮未受精卵塊を、ヒアルロニダーゼ(0.1%)を添加した体外受精用培地(HTF培地)に導入し、ヒアルロニダーゼで処理し、洗浄後、卵丘細胞が除去された卵子を得る。

【0069】
1-3)未受精卵の冷蔵保存
未受精卵を冷蔵保存して使用する場合は、上記1)のようにして得た卵丘細胞付着卵子、或いはさらに2)の操作を加えて卵丘細胞を除去した卵子を、M2培地中に移動し、冷蔵保存(1~15℃)して使用する。冷蔵保存は、48時間可能である。

【0070】
1-4)未受精卵の凍結保存
新鮮未受精卵は、凍結保存した後使用することもできる。未受精卵の凍結保存は、卵丘細胞を除去した卵子を、20%牛胎仔血清を含むHTF培地で10分間培養した後、凍結することにより行う。

【0071】
室温にて、ディッシュに1M DMSO(ジメチルスルフォキシド)のドロップ(100μl)を作製する。1M DMSOは、ディスポーザブル・フィルターユニット(ポアサイズ:0.22μm)を用いて使用直前に濾過する。凍結する胚を1つの1M DMSOのドロップに静かに移す。胚がディッシュの底に沈んだら、残りの1M DMSOのドロップに胚を均等に分けて移す。20μl用のオートピペッターを用いて、5μlの1M DMSO溶液とともに胚をクライオチューブ内に入れ、0℃の冷却装置に移す。5分後、あらかじめ0℃に冷却しておいた保存液(DAP213)45μlをチューブ内の管壁を伝わらせて静かに添加する。さらに5分後、液体窒素内で冷却しておいたケーンにチューブを装着し、直ちに液体窒素中に浸漬し、凍結する。

【0072】
2.精子の調製
2-1)新鮮精子の調製
マウス成熟雄(8週齢以上)より採取した精巣上体尾部から精子塊を採取し、ディッシュ内の精子培養液(TYH培地)(200μl/2精巣上体尾部)に移し、インキュベーター内(37℃、5%CO2)で60分間前培養し、新鮮精子として受精に用いる。

【0073】
2-2)冷蔵精子の調製
マウス成熟雄(8週齢以上)より採取した精巣上体尾部を採取し、チューブ内のLifor培地(Lifor(登録商標) ACF Perfusion Media)に移し、冷蔵保存(1~15℃)し、冷蔵精子として受精に用いる。

【0074】
2-3)凍結精子の調製
マウス成熟雄(12週齢以上)より採取した精巣上体尾部を、ディッシュ内の精子凍結保存液(例えば、FERTIUP(登録商標)、九動株式会社)(120μl/2精巣上体尾部)に移し、精巣の5~6箇所に切れ込みを入れる。ディッシュを約3分間静置し、精子を保存液中に懸濁した後、精巣上体尾部をディッシュから取り出す。残った精子懸濁液を以下のようにして凍結する。

【0075】
ストローにHTF培地を100μl吸引する。ついで、約10μlの空気相を作製し、最後に、上記採取した精子懸濁液を、10μlずつストローに充填し、液体窒素中に浸漬し、凍結保存し、凍結精子として用いる。
凍結保存しておいた精子を液体窒素中から取り出し、37℃の温水中に浸漬し、10分間加温した後、融解した精子懸濁液を90μlのTYH培地のドロップに移す。

【0076】
3.体外受精
精子懸濁液を、90μlのTYH培地中で、37℃で30分間、前培養し、実体顕微鏡下で非運動性の精子を避けて運動性を示す精子を回収し、受精に用いる。前培養した精子懸濁液10μlを、予め卵丘・卵母細胞複合体(COCs)を導入しておいた90μlのHTF培地(±グルタチオン)に加え(媒精)、5~6時間インキュベーター内(37℃、5%CO2)で共培養し、受精を行う。その後、新しいHTFのドロップで卵子を洗浄し、卵子の観察を行う。単為発生卵子と判定されたもの(卵細胞質内に1つの前核のみが認められるもの)を、取り除き、翌日(媒精24時間後)、2細胞期胚のみを選別し、受精率を以下の式により求める。
体外受精率(%)=(2細胞期胚の数)/(2細胞期胚の数+未受精卵の数)×100

【0077】
4.受精卵の卵管への移植
通常、卵管へは、前核期受精卵及び2細胞期胚を移植する。但し、それ以外の発生段階にある胚の移植も可能である。
受容雌には、ICR系マウスを用い、移植前日に外陰部を観察して発情前期にあるものを選び、精管結紮雄と同居させる。翌日、膣栓を確認したものを受容雌として用いる(偽妊娠第1日目)。麻酔した受容雌の皮膚及び腹壁を切開し、切開部より、卵巣、卵管及び子宮の一部を体外に露出させ、卵巣に付着した脂肪をクレンメで固定する。200μlの移植用ドロップをディッシュの中央に作製し、移植する胚(20個/匹)を移植用ドロップに移す。次いで、移植用キャピラリーに、少量の培養液とともに10個の胚を吸引する。卵管を、その円周の約1/2~2/3程度切開し、その切開部から卵管膨大部に向かって胚を含むキャピラリーを挿入し、胚を移植する。反対側の卵管へも、同様の操作手順で胚を移植する。
胚移植後の産子率(着床率)は以下の式により求める。
産子の発生率(%)=(産子数)/(移植胚数)×100

【0078】
5.キメラ動物の作製
以下に、本発明の方法を適用する、共培養法によるキメラ動物作製の方法を、マウスを例に説明する。特には、本発明の方法は、受容胚の調製のために用いることができる。しかしながら、本発明の方法の適用はマウスに限定されるものではない。

【0079】
(A)ES細胞の調製
液体窒素タンクから、ES細胞の入ったチューブを取り出し、37℃のウォーターバスで融解する。融解したES細胞を、約5mlのESM(DMSO 450ml、血清 100ml、非必須アミノ酸溶液 5ml、β-メルカプトエタノール 5ml、及びESGRO(450,000units、CHEMICON)に懸濁し、ゼラチンコートしたディッシュに移して、10分間培養する。続いて、ES細胞が浮遊している上清を遠沈管に入れ、共培養に用いるまで、氷上で保存する。

【0080】
(B)受容胚の調製
PMSGとhCGによって過排卵処理した雌マウスを、hCG投与後、直ちに成熟雄と交配する。翌日、膣栓の有無を確認する。hCG投与約40~46時間後に、膣栓を確認したマウスから卵管を採取・灌流することにより、2細胞期胚を採取する。採取した2細胞期胚を、KSOM培地のドロップ中で培養し、8細胞期へ発生したものを受容胚として用いる。

【0081】
(C)マウス胚の作製
ディッシュ上に作製した10μlの100mMのグルタチオンを含有したHTF培地のドロップに、受容胚を導入し、透明帯を溶解する。透明帯の消失が確認されたら、直ちに1000μlのHTF培地を加えて希釈する。透明帯を除去した受容胚は、3個作製した100μlのKSOM培地中を移動させながら、グルタチオンを完全に取り除く。
(D)キメラ胚の作製
ディッシュ上に、KSOM培地のドロップ(15μl)を作製し、ディッシュの底面にアグリゲーションニードルで窪みを作製した後に、流動パラフィンで被覆する。透明帯を除去した受容胚を1つの窪みに1個ずつ導入し、その上からES細胞をふりかける。翌日まで、37℃、5%CO2のインキュベーター内で培養し、胚盤胞期胚まで発生したキメラ胚を得る。
(E)子宮内胚移植
受容雌には、ICR系マウスを用い、移植前日に外陰部を観察して発情前期にあるものを選び、精管結紮雄と同居させる。翌日、膣栓を確認し、偽妊娠第3日目になった段階で受容雌として用いる。麻酔した受容雌の皮膚及び腹壁を切開し、切開部より、卵巣、卵管及び子宮の一部を体外に露出させ、卵巣に付着した脂肪をクレンメで固定する。100μlの移植用ドロップをディッシュの中央に作製し、移植する胚(20個/匹)を移植用ドロップに移す。次いで、移植用キャピラリーに、少量の培養液とともに10個の胚を吸引する。注射針を用いて子宮の卵管接合部に近い部位を切開し、卵巣側から子宮膣部側に向かって胚を含むキャピラリーを挿入し、胚を移植する。反対側の子宮へも、同様の操作手順で胚を移植する。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
精子凍結保存液(CPA液)の調製
精子凍結保存液として、TYH培地ではなくCPA培地を用いた。CPA培地は以下のようにして調製した。
1,800mgのラフィノース5水和物、300mgのスキムミルク(BD Difco)及び146mgのL-グルタミンを10ml蒸留水に60℃にて溶解し、さらに、温浴中にて90分間60℃にて加温した。1.0mlずつマイクロ遠心管に移し、10,000×gで60分間遠心処理した。上清0.7mlを採取し、0.22mmの孔サイズの使い捨てフィルターで濾過し、CPA培地とし、室温で保存し、実験に用いた。
【実施例】
【0084】
実施例1:グルタチオンによる受精率増加作用
上記記載の定法に従って、C57BL/6Jマウスの新鮮精子、凍結精子及びICRマウスの冷蔵精子(2日間冷蔵)を調製した精子懸濁液を用いて体外受精を行なった。また、上記記載の定法に従って、マウスの新鮮未受精卵を調製し、卵丘・卵母複合体を得た。
【実施例】
【0085】
HTF培地は上記した組成表に従い調製した。調製したHTF培地に、還元型グルタチオンを1mM(0.307mg/ml)になるように加え、グルタチオン含有培地を調製した。具体的には、組成表に従いHTF培地を調製し、5mlずつアンプルに封入した(成分A)。また、還元型グルタチオン(SIGMA社より入手)30.7mgをNaCl 593.8mgと混合した後、1回使用量(グルタチオン1.535mg/混合物31.225mg)に分注した(成分B)。使用前まで、これらの試薬を冷蔵保存し、使用直前に、成分Aと成分Bを混合し、受精に用いた。コントロールは、成分A(グルタチオンを添加していないTHF培地)のみを用いた。
【実施例】
【0086】
本発明で用いた凍結保存精子を用いた体外受精の方法を、図1に示す。
【実施例】
【0087】
具体的には、ディッシュ内の、卵丘・卵母細胞複合体(COCs)を含む90μlのHTF培地(グルタチオン濃度 1mM)中に、新鮮精子、冷凍精子及び冷蔵精子のそれぞれの精子懸濁液(運動性がある精子を回収したもの)を10μl加え、受精を行い、受精率を上記に従い求めた。グルタチオンを含有しないHTF培地を用い、コントロールとした。結果を表5示す。
【実施例】
【0088】
【表5】
JP0005439677B2_000006t.gif
【実施例】
【0089】
未受精卵をグルタチオンで処理することにより、すべての精子において、受精率の大きな向上が見られた。特に、冷蔵精子を用いた体外受精においては、その向上が著しかった。
【実施例】
【0090】
実施例2:グルタチオン濃度による影響
実施例1と同様にして、種々の還元型グルタチオン濃度を用いて受精率を検討した。精子は、C57BL/6Jマウスの凍結精子を用い、図1に従って行った。結果を以下の表6に示す。
【実施例】
【0091】
【表6】
JP0005439677B2_000007t.gif
【実施例】
【0092】
これにより、0.5mM(0.15mg/ml)以上のグルタチオン濃度において、受精率の向上が確認された。特に、1.0mM以上2.0mM以下(0.30mg/ml以上0.60mg/ml)の濃度において顕著な受精率の向上が確認された。
【実施例】
【0093】
また、グルタチオンが透明帯の膨化に及ぼす影響を確認した。上記「1.卵子の調整」に従って準備した卵丘細胞が除去された新鮮未受精卵を、それぞれの濃度のグルタチオンを含有するHTF培地で、37℃で、6時間処理した後、透明帯内の面積を顕微鏡下で撮影し画像解析ソフトにより測定した。結果を、図2に示す。また、グルタチオン濃度、0mM、1mM、2mM及び10mMのそれぞれにおける透明帯の様子を、倒立顕微鏡観察した。結果を、図3に示す。
これらの結果より、グルタチオン濃度依存的に、透明帯の膨化が認められ、特に、2mM以上の濃度においては、透明帯の膨化が顕著に認められた。
【実施例】
【0094】
上記受精率の向上の結果と透明帯の膨化の結果より、1.0mM以上1.50mM未満(0.30mg/ml以上0.46mg/ml未満)のグルタチオン濃度においては、透明帯の膨化が顕著に現れないにもかかわらず、受精率の顕著な向上が確認された。
【実施例】
【0095】
実施例3:メチル-β-シクロデキストリンとグルタチオンの併用作用
精子の前培養における、グルタチオン及びメチル-β-シクロデキストリン(MBCD)の影響を、実施例1と同様にして確認した。精子の前培養に用いたTYH培地は、ウシ血清アルブミンの代わりにポリビニルアルコール(1.0mg/ml、SIGMA社より入手)用い、メチル-β-シクロデキストリン(0.75mM、SIGMA社より入手)を加えた以外は、上記の組成に従って調製した。また、TYH培地中のグルタチオン濃度は1mMとし、実施例1と同様にして調製し、使用直前にTYH培地に添加した。メチル-β-シクロデキストリンを含有するもの、グルタチオンを含有するもの、両者を含有するもの、のそれぞれについて受精率に対する影響を比較した。
【実施例】
【0096】
実施例1と同様にして、卵丘・卵母細胞複合体(COCs)を含む90μlのHTF培地(グルタチオン添加の場合は、濃度を1mMとした)にて、受精を行った(表中のIVF/グルタチオン)。精子はC57BL/6Jマウスの凍結精子を用い、図1に示す工程に従って行った。融解精子は、TYH培地(±グルタチオン、±メチル-β-シクロデキストリン)中、37℃で、30分間、前培養し、運動性を示す精子を回収して、受精に用いた。実験は5回行った。結果を、以下の表7に示す。
【実施例】
【0097】
【表7】
JP0005439677B2_000008t.gif
【実施例】
【0098】
上記結果も、未受精卵をグルタチオンで処理することにより、受精率の顕著な向上を示している。
一方、精子のプレインキュベーションに関しては、精子を1mMのグルタチオンで前処理しても、受精率の改善は見られないことが示された。しかし、精子をメチル-β-シクロデキストリンで処理したものは受精率が向上し、さらに未受精卵をグルタチオンで処理することと組み合わせた場合は、受精率が大きく向上していることが示された。
【実施例】
【0099】
実施例4:未受精卵の透明帯の除去(1)
上記「1.卵子の調整」に従って準備した卵丘細胞が除去されたマウス新鮮未受精卵子を調製した。グルタチオンを100mM(30.7mg/ml)含有するHTF培地で、90秒間、20℃で処理した。行った操作を、図7を参照して説明する。シャーレの底に10μlのグルタチオン含有HTF培地を滴下し、その中に10個の胚を挿入した。30秒後には、透明帯の薄くなり始め(膨化し)、90秒後には、完全に透明帯が消失した。透明帯の消失を確認後、胚へダメージを避けるために、直ちに、1000μlのグルタチオンを含有しないHTF培地で希釈した。その後、透明帯除去胚を100μlのHTFのドロップ中へ移動し、さらに2回100μlのHTFのドロップ中へ胚を移動し、培養を続けた。
【実施例】
【0100】
透明帯除去の状態を倒立顕微鏡により確認した。図4aは、グルタチオン処理前の未受精卵である。図4bは、グルタチオン処理後の未受精卵である。図に示されるように、グルタチオン処理の結果、未受精卵の透明帯が除去された。
【実施例】
【0101】
次いで、一般的に受精能の低いC57BL/6マウスの凍結精子を使用し、上記のようにして調整した透明帯除去卵子を用いた以外は実施例1と同様にして、受精を行った。受精能の低い精子を用いても受精が起こり、卵の発生(卵の分割)が確認された。結果を、図4cに示す。
上記の実験を10回繰り返した。結果は、70個の胚を用いて、70個の透明帯除去胚を作製でき、66個の胚が胚盤胞期まで発生したことを確認した。この結果、胚の透明帯除去をすることにより、受精能が低い精子を用いた場合でも、非常に高い頻度で受精が行われ、発生が起こることが確認された。
【実施例】
【0102】
実施例5:未受精卵の透明帯の除去(2)
グルタチオン濃度を50mM(15.4mg/ml)としたHTF培地を用いた以外は、実施例4と同様にして、未受精卵の透明帯の除去を行った。50mMの濃度のグルタチオンを用いた場合にも、透明帯は完全に除去されたが、透明帯が消失するまでに7~8分かかった。実験を2回繰り返したが、結果は、20個の胚を用いて、20個の透明帯除去胚を作成できた。
【実施例】
【0103】
実施例6:凍結未受精卵の透明帯の除去
定法に従って、8週齢の雌マウスを用いて、マウスの凍結未受精卵を調製した。凍結未受精卵を融解後、実施例4と同様にして、グルタチオンを100mM含有するHTF培地で、90秒間、20℃で処理し、その状態を顕微鏡により確認した。図5aは、グルタチオン処理前の未受精卵である。図5bは、グルタチオン処理後の未受精卵である。図に示されるように、グルタチオン処理の結果、凍結融解未受精卵の透明帯が除去された。
実施例1と同様にして、透明帯を除去した未受精卵を用いて受精を行ったところ、受精率は25%(125/492)であった。また、顕微鏡による観察により、精子の進入が容易になったことが示された(図5c)。本発明の方法が、凍結受精卵にも有効であることが確認された。
【実施例】
【0104】
実施例7:透明帯の菲薄化及び除去とグルタチオン濃度
グルタチオン濃度及び処理時間が、透明帯の菲薄化及び除去に及ぼす影響を確認した。上記「1.卵母細胞の調整」に従って準備した卵丘細胞が除去されたマウス新鮮未受精卵子を調製した後、シャーレの底に10μlの種々の濃度(5,10,25,50,100,200,及び300mM)のグルタチオンを含有するHTF培地を滴下し、その中に20個の卵子を挿入し、透明帯が除去されるまでの時間を測定した。結果を表8に示す。
【実施例】
【0105】
【表8】
JP0005439677B2_000009t.gif
【実施例】
【0106】
上記結果より、50mM以上のグルタチオン濃度で透明帯が除去され、除去に必要な時間は、濃度依存的に減少した。なお、グルタチオン濃度の増加に伴い、処理培地のpHも下がる。
【実施例】
【0107】
実施例9:グルタチオン処理による着床率(産子発生率)の上昇
実施例1と同様にして、C57BL/6Jマウスのマウス凍結精子を用いて、受精を行なった。次いで、グルタチオンを1mM含有するHTF培地で、受精卵を洗浄し、さらに培養(発生)行った。翌日、受精が確認された胚(2細胞期胚)を回収し、上記の定法に従い、雌マウスに移植し、産子数を確認した。HTF培地中のグルタチオン濃度は1mMとし、グルタチオンを含有しないHTF培地を用いて受精及び培養を行なったものをコントロールとした。
その結果、HTF培地のみで、受精及び培養を行なった場合は、産子発生率は、31/80(38.8%)であるのに対し、グルタチオン含有HTF培地で受精及び培養を行なった場合は、43/80(53.8%)であった。グルタチオンによる透明帯の菲薄化により、産子発生率(着床率)が上昇し、効果的に産子を作製できることが示された。
【実施例】
【0108】
実施例10:マウス発生初期胚の透明帯の除去
遺伝子改変マウスの作製に用いるマウス発生初期胚(8細胞期胚)の透明帯の除去を行った。具体的には、調製したマウス発生初期胚(8細胞期胚)を、グルタチオンを100mM含有するHTF培地で、90秒間、20℃で処理し、その状態を顕微鏡により確認した。図6aは、グルタチオン処理前のマウス胚である。図6bは、グルタチオン処理後のマウス胚である。図に示されるように、グルタチオン処理の結果、遺伝子改変マウスの作製に用いる8細胞期胚からの透明帯の除去が容易に行え、ES細胞との共培養に適したマウス胚が調製された。
【実施例】
【0109】
実施例11:グルタチオン処理卵子透明帯中のチオールの確認
上記「1.卵母細胞の調整」に従って準備した卵丘細胞が除去されたマウス新鮮未受精卵子を調製した後、シャーレの底に100μlの種々の濃度(0,0.25,0.5,0.75,1.0,1.25,1.5及び2.0mM)のグルタチオンを含有するHTF培地を滴下し、その中に50個の卵子を挿入し、37℃で1時間処理した。その後、チオール反応性蛍光色素(Alexa Fluor 488 C5-maleimide)を用いて、透明帯中のタンパクチオールを検出した。蛍光標識の結果を図8に示す。また、各濃度のグルタチオンで処理した卵子の蛍光強度を図9に示す(コントロールを100%とした)。
【実施例】
【0110】
この結果より、処理したグルタチオン濃度に応じて、透明帯中の蛍光強度が増加していること、即ち透明帯中のフリーのチオール基が増加していることが確認された。これは、グルタチオンが透明帯中のジスルフィド結合に作用して、少なくともその結合の一部を切断していることを示している。更には、結合の切断が増加するに伴い透明帯の膨化が進むことが示されている。
【実施例】
【0111】
実施例12:グルタチオン以外の還元剤による透明帯の菲薄化
実施例2と同様にして、他の還元剤(DTT、アスコルビン酸(VC)、及びエピカテキン(EC))による透明帯の菲薄化及び膨化に及ぼす影響を確認した。それぞれの還元剤の濃度による未受精卵の透明帯の膨化の程度は、顕微鏡下で撮影し、以下の式により求めた。
%Relative area in ZP=(各実験区の透明帯面積/0mMの透明体面積)X100
結果を図10に示す。
【実施例】
【0112】
DTT、アスコルビン酸及びエピカテキンをそれぞれ0.5、5、1mM添加した培地で処理した未受精卵の透明帯の様子を図11に示す。
図10及び図11の結果より、DTT処理による透明体の菲薄化及び膨化が確認された。しかし一方、SH基を有しない還元剤である、アスコルビン酸又はエピカテキンでは、透明体の菲薄化又は膨化は起こらなかった。
【実施例】
【0113】
実施例13:グルタチオンによる各種系統のマウスにおける受精率の向上
実施例1と同様にして、種々の系統のマウスを用いて、グルタチオンによる受精率の向上を検討した。精子は、MBCDで前培養した新鮮精子及び凍結精子を用いて受精を行った。HTF培地中のグルタチオン濃度は、新鮮精子の場合は0.25mMとし、凍結精子の場合は1mMとした。また、精子は受精前に、実施例3と同様にして、MBCD含有TYH培地(グルタチオンなし)で前培養を行った。前培養時間は、新鮮精子と冷蔵精子の場合は1時間、凍結精子の場合は30分とした。新鮮精子の結果を表9に、凍結精子の結果を表10に示す。
【実施例】
【0114】
【表9】
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【実施例】
【0115】
【表10】
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【実施例】
【0116】
新鮮精子の場合は、0.25mMのグルタチオン濃度で受精率の十分な改善がみられた。また、全てのマウスの系統において、グルタチオン添加により凍結精子による受精率の著しい向上が確認された。
【実施例】
【0117】
実施例14:MBCD及びグルタチオンによる冷蔵精子の受精率の向上
実施例1と同様にして、C57BL/6Jマウスの冷蔵精子を用いて、MBCD及びグルタチオンによる受精率の向上を検討した。精子は、受精前に、実施例3と同様にしてMBCD含有TYH培地(グルタチオンなし)で前培養を行った。前培養時間は1時間とした。結果は、グルタチオンを添加しない場合の受精率が52.4%であるのに対し、グルタチオンを0.5mM添加した場合には、受精率は85.4%に上昇した。
【実施例】
【0118】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、哺乳動物の体外受精、受精卵の子宮移植(着床)において有用である。本発明はさらに、遺伝子改変動物の作製工程において用いることができる有用な技術である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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