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明細書 :走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成26年1月20日(2014.1.20)
発明の名称または考案の名称 走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置
国際特許分類 G01Q  60/24        (2010.01)
G01Q  80/00        (2010.01)
FI G01Q 60/24
G01Q 80/00 111
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 24
出願番号 特願2012-533006 (P2012-533006)
国際出願番号 PCT/JP2011/070385
国際公開番号 WO2012/033131
国際出願日 平成23年9月7日(2011.9.7)
国際公開日 平成24年3月15日(2012.3.15)
優先権出願番号 2010202497
優先日 平成22年9月9日(2010.9.9)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , MD , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC , VN , ZA
発明者または考案者 【氏名】岩田 太
出願人 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100136674、【弁理士】、【氏名又は名称】居藤 洋之
審査請求 未請求
要約
表面加工の様子を高速SPM(AFM)によりリアルタイムで観察可能であるとともに、ばね定数の小さなカンチレバーを用いても探針により微細表面加工を行える。
走査型プローブ顕微鏡(SPM、AFM)を用いて試料4の表面を加工する加工装置であって、試料を載置するステージ6,7と、試料4の表面に対向して設けられるカンチレバー3と、カンチレバーの変位を測定する変位測定手段1,2と、カンチレバーと試料との相対位置を変化させながら変位測定手段によりカンチレバーの変位を測定することにより試料の表面性状画像を取得する表面性状画像取得手段と、試料の表面とカンチレバーの先端に設けられた探針8との間にカンチレバー系とは異なる系から外力を印加することにより探針により試料の表面を加工する表面加工手段5とを有し、表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得と表面加工手段による表面加工とを交互に繰り返す。
図1
特許請求の範囲 【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡を用いて試料の表面を加工する加工装置であって、
前記試料を載置するステージと、
前記試料の表面に対向して設けられるカンチレバーと、
前記カンチレバーの変位を測定する変位測定手段と、
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させながら、前記変位測定手段によりカンチレバーの変位を測定することにより、前記試料の表面性状画像を取得する表面性状画像取得手段と、
前記試料の表面と前記カンチレバーの先端に設けられた探針との間に、前記カンチレバーの系とは異なる系から外力を印加することにより、前記探針により前記試料の表面を加工する表面加工手段と、を有し、
前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得と前記表面加工手段による表面加工とを交互に繰り返す、
ことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項2】
前記カンチレバーに押圧力を加える押圧力付与手段を有し、
前記表面加工手段は、前記押圧力付与手段による前記押圧力により前記試料の表面を加工する、
ことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項3】
前記押圧力付与手段は、
前記カンチレバーに設けられた磁石と、
前記磁石が存在する領域に磁界を発生させる磁界発生手段とを備える、
ことを特徴とする請求項2記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項4】
前記試料の表面と前記探針との間に電界または磁界を発生させる手段を有し、
前記表面加工手段は、前記探針に生じる静電力または磁力により前記試料の表面を加工する、
ことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項5】
前記表面加工手段は、前記試料に振動を加えることにより前記外力を印加する、
ことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項6】
走査型プローブ顕微鏡を用いて試料の表面を加工する加工装置であって、
前記試料を載置するステージと、
前記試料の表面に対向して設けられるカンチレバーと、
前記カンチレバーの変位を測定する変位測定手段と、
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させながら、前記変位測定手段によりカンチレバーの変位を測定することにより、前記試料の表面性状画像を取得する表面性状画像取得手段と、
前記試料の表面と前記カンチレバーの先端に設けられた探針との間に力を印加することにより、前記探針により前記試料の表面を加工する表面加工手段と、
前記カンチレバーのばね定数を動的に変化させるばね定数変化手段と、を有し、
前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得と前記表面加工手段による表面加工とを交互に繰り返し、
前記ばね定数変化手段は、前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得時には前記カンチレバーのばね定数を小さくし、前記表面加工手段による表面加工時には前記カンチレバーのばね定数を大きくする、
ことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項7】
前記ばね定数変化手段は、前記カンチレバーの梁部に設けられた弾性力可変部材を含んでいる、
ことを特徴とする請求項6記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項8】
前記弾性力可変部材は、形状記憶合金または磁歪素子である、
ことを特徴とする請求項7記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項9】
前記ばね定数変化手段は、前記カンチレバー近傍に設けられた剛性部材を含んでおり、前記剛性部材を前記カンチレバーに機械的に結合させることにより前記カンチレバーのばね定数を大きくする、
ことを特徴とする請求項6記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項10】
前記ばね定数変化手段は、
前記剛性部材が、前記カンチレバーに対して前記試料の表面形状の取得時における前記カンチレバーの変位範囲を越えた位置に配置されており、
前記表面加工手段は、前記カンチレバーの前記探針を前記試料の表面に押し付けた状態で加工を行う、
ことを特徴とする請求項9記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項11】
前記ばね定数変化手段は、前記カンチレバーを多次モードにより振動させることにより、ばね定数を変化させる、
ことを特徴とする請求項6記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項12】
前記走査型プローブ顕微鏡は原子間力顕微鏡である、
ことを特徴とする請求項1~11いずれか記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項13】
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させるためのカンチレバー操作子を有し、
前記カンチレバー操作子は、前記変位測定手段によって測定された前記カンチレバーの変位をオペレータに操作反力として提示する力覚フィードバックデバイスである、
ことを特徴とする請求項1~12いずれか記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【請求項14】
前記表面性状画像取得手段は、高速AFMである、
ことを特徴とする請求項1~13いずれか記載の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いた表面加工装置に関する。走査型プローブ顕微鏡(SPM)としては原子間力顕微鏡(AFM)が好適であるが、試料を表面加工できる探針を有する走査型顕微鏡であれば何でも良く、走査型トンネル顕微鏡(STM)等でも良い。
【背景技術】
【0002】
SPM(走査型プローブ顕微鏡)は試料の微細な表面性状を画像化する顕微鏡であり、その中でも特にAFM(原子間力顕微鏡)は真空のみならず大気中や液体の環境でのナノスケールイメージングや微細加工を可能にする重要なナノ科学やナノテクノロジーを支える顕微鏡である。しかし、一般的なSPM(AFM)測定は、試料の表面上を探針により走査しながら1点1点の表面性状(表面形状)を測定していくため、1枚の表面性状画像(表面形状画像)を取得するのに数分以上を必要とする。よってSPM(AFM)測定は実質的に静止した試料の様子しか見ることができない。また、SPM(AFM)の探針を用いた試料表面の加工においては、加工中の様子をリアルタイムで観察することができないことが問題となる。このようなことから、SPM(AFM)を用いたリアルタイム観察が望まれている。
【0003】
本発明者らは、SPM(AFM)と力覚操作を組み合わせた微細表面加工装置を開発した(非特許文献1参照)。また、SPM(AFM)の探針を用いた試料表面の加工の様子をリアルタイムで観察するために、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察しながら表面加工を行う装置も開発した。光学顕微鏡や電子顕微鏡で探針位置や試料表面を観察しながら加工対象箇所に探針を移動させ、カンチレバーまたは試料表面をZ軸方向(試料表面に垂直な方向)に変位させることにより、カンチレバーの反発力を先端部にある探針に伝えて試料表面を押圧して加工する。しかしながら、光学顕微鏡による観察は、回折限界のため観測できる大きさに限界がある。また、電子顕微鏡による観察は、装置が大掛かりになってしまう上に、真空中で操作しなくてはいけないため生体試料の測定ができないなどの種々の制約がある。
【0004】
近年、SPM(AFM)の走査速度を高速化する研究が進められている。例えば、小さな形状による高い共振周波数を有するカンチレバーを用いて高速フィードバックを行う手法(特許文献1~3、非特許文献2)が報告されている。これらの高速SPM(AFM)技術を用いれば、数10ミリ秒程度の時間で1枚の表面性状画像(表面形状画像)を取得することが可能である。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許4496350
【特許文献2】特許4474556
【特許文献3】国際公開2007/072706
【0006】

【非特許文献1】Iwata F, Ohara K, Ishizu Y, Sasaki A, Aoyama H and Ushiki T 2008 Japan. J. Appl. Phys. 47 6181
【非特許文献2】Ando T, Uchihashi T, Kodera N, Miyagi A, Nakakita R,Yamashita H andSakashita M 2006 Japan. J. Appl. Phys. 45 1897
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SPM(AFM)の探針を用いた表面加工装置において、表面加工の様子をリアルタイムで観察するために上述の高速SPM(AFM)技術を用いて、表面加工と表面走査とを交互に行うことが考えられる。しかしながら、高速SPM(AFM)では、探針を表面の凹凸に高速に追従させるため、ばね定数が小さいカンチレバーを用いる必要がある。一方で、表面加工においては、試料表面に十分な押圧力を印加するために、ばね定数が大きなカンチレバーを用いる必要がある。したがって、これらの技術の両立は困難である。
【0008】
本発明は上記問題点を解決し、表面加工の様子を高速SPM(AFM)によりリアルタイムで観察可能であるとともに、ばね定数の小さなカンチレバーを用いても探針により微細表面加工が可能な走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
走査型プローブ顕微鏡を用いて試料の表面を加工する加工装置であって、
前記試料を載置するステージと、
前記試料の表面に対向して設けられるカンチレバーと、
前記カンチレバーの変位を測定する変位測定手段と、
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させながら、前記変位測定手段によりカンチレバーの変位を測定することにより、前記試料の表面性状画像を取得する表面性状画像取得手段と、
前記試料の表面と前記カンチレバーの先端に設けられた探針との間に、前記カンチレバーの系とは異なる系から外力を印加することにより、前記探針により前記試料の表面を加工する表面加工手段と、を有し、
前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得と前記表面加工手段による表面加工とを交互に繰り返す、
ことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【0010】
また、本発明は以下の構成を有する。
走査型プローブ顕微鏡を用いて試料の表面を加工する加工装置であって、
前記試料を載置するステージと、
前記試料の表面に対向して設けられるカンチレバーと、
前記カンチレバーの変位を測定する変位測定手段と、
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させながら、前記変位測定手段によりカンチレバーの変位を測定することにより、前記試料の表面性状画像を取得する表面性状画像取得手段と、
前記試料の表面と前記カンチレバーの先端に設けられた探針との間に力を印加することにより、前記探針により前記試料の表面を加工する表面加工手段と、
前記カンチレバーのばね定数を動的に変化させるばね定数変化手段と、を有し、
前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得と前記表面加工手段による表面加工とを交互に繰り返し、
前記ばね定数変化手段は、前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得時には前記カンチレバーのばね定数を小さくし、前記表面加工手段による表面加工時には前記カンチレバーのばね定数を大きくする、
ことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。
【0011】
また、本発明は以下の好ましい実施態様を有する。
前記カンチレバーに押圧力を加える押圧力付与手段を有し、
前記表面加工手段は、前記押圧力付与手段による前記押圧力により前記試料の表面を加工しても良い。
前記押圧力付与手段は、
前記カンチレバーに設けられた磁石と、
前記磁石が存在する領域に磁界を発生させる磁界発生手段とを備えても良い。
前記試料の表面と前記探針との間に電界または磁界を発生させる手段を有し、
前記表面加工手段は、前記探針に生じる静電力または磁力により前記試料の表面を加工しても良い。
前記表面加工手段は、前記試料に振動を加えることにより前記外力を印加しても良い。
前記ばね定数変化手段は、前記カンチレバーの梁部に設けられた弾性力可変部材を含んでいても良い。
前記弾性力可変部材は、形状記憶合金または磁歪素子であっても良い。
前記ばね定数変化手段は、前記カンチレバー近傍に設けられた剛性部材を含んでおり、前記剛性部材を前記カンチレバーに機械的に結合させることにより前記カンチレバーのばね定数を大きくするようにしても良い。
前記ばね定数変化手段は、前記剛性部材が、前記カンチレバーに対して前記試料の表面形状の取得時における前記カンチレバーの変位範囲を越えた位置に配置されており、前記表面加工手段は、前記カンチレバーの前記探針を前記試料の表面に押し付けた状態で加工を行うようしにしても良い。
前記ばね定数変化手段は、前記カンチレバーを多次モードにより振動させることにより、ばね定数を変化させるようにしても良い。
前記走査型プローブ顕微鏡は原子間力顕微鏡であっても良い。
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させるためのカンチレバー操作子を有し、前記カンチレバー操作子は、前記変位測定手段によって測定された前記カンチレバーの変位をオペレータに操作反力として提示する力覚フィードバックデバイスであっても良い。
前記表面性状画像取得手段は、高速AFMであっても良い。
【0012】
前記表面加工手段における“表面加工”とは、表面の形状を変形させること(ファブリケーション)のほか、表面にある物体を移動させること(マニピュレーション)を含む。また、“表面加工”に表面の性質を局所的に変化させること、すなわち局所的な様々な相互作用(化学反応、電気化学反応、光化学反応、溶解など)による表面の局所的な変化(形状以外の変化も)を含めても良い。
“前記カンチレバーの系とは異なる系から外力を印加する”とは、前記カンチレバーのばね力を用いないで試料表面と探針との間に力を作用させることを意味している。
前記外力を試料に振動を加えることにより印加する場合、前記試料に、前記カンチレバーの共振周波数以上でカンチレバーが追従できない程度の振動や衝撃力を印加することで外力を生じさせる。
前記多次モードとは、前記カンチレバーを共振周波数より高い周波数で振動させて、複数の節・腹を有する定在波を生じさせることをいい、前記カンチレバーを多次モードで振動させることにより見かけ上のばね定数を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記構成を採用したことにより、走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置において、高速SPM(AFM)によるリアルタイム観察のためにばね定数の小さなカンチレバーを用いても、探針による微細表面加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態のシステム構成図。
【図2】本発明の一実施形態の外力印加の説明図。
【図3】本発明の一実施形態の試料走査の説明図。
【図4】本発明の一実施形態の信号処理の説明図。
【図5】本発明の一実施形態により取得したAFM画像。
【図6】本発明の一実施形態の動作説明図。
【図7】本発明の一実施形態の動作フローチャート。
【図8】本発明の別の実施形態のカンチレバーの説明図。
【図9】本発明の別の実施形態のカンチレバーの説明図。
【図10】本発明の別の実施形態のカンチレバーの説明図。
【図11】本発明の別の実施形態のカンチレバーの説明図。
【図12】本発明の別の実施形態のカンチレバーの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明するものは本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者であれば特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇で各種の変更が可能である。

【0016】
本実施形態のシステム構成を図1に示す。カンチレバー3は先端部に探針8を有しており、試料4の表面に探針8が接するようにカンチレバー3が配置される。カンチレバー3のばね定数は、例えば0.15N/mである。レーザ1及び4分割光検出器2はカンチレバー3のたわみを検出するものであり、レーザ1からのレーザ光をカンチレバー3の先端部に照射し、その反射光の変化を4分割光検出器2で検出する光てこ法によりカンチレバー3のたわみ量を検出する。そして、カンチレバー3のたわみ量によって探針8のZ軸方向(試料表面に垂直な方向)の変位を検出する。

【0017】
試料4は、シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7に載置されていて、これらのスキャナによりXYZ方向に移動可能になっている。図3に示すように、シェア型スキャナ6は高速走査軸であるX軸方向に移動し、チューブスキャナ7は低速走査軸であるY軸方向に移動する。試料表面に垂直な方向であるZ軸方向については、チューブスキャナ7により移動される。これらのスキャナは駆動回路14により制御される。

【0018】
試料4の下部には、探針8に外力を印加するための電極5が設けられている。カンチレバー3及び探針8は導電性を有するように構成されており、カンチレバー3と電極5との間に図2のように電圧を印加すると、試料4の表面と探針8との間に電界が生じる。この電界により、探針8に試料表面方向への静電力が生じ、この静電力を試料4の表面の加工のための押圧力として用いる。このようにすることにより、カンチレバー3のばね力を用いることなく試料4の表面の加工が可能となる。カンチレバー3と電極5との間の電圧を制御することにより、探針8の試料表面への押圧力を制御可能である。この制御は、外力印加回路15により行われる。試料表面への押圧力の制御は、単純なON/OFF制御でも良いし、探針8のZ軸変位測定と後述の力覚操作を用いたフィードバック系により制御しても良い。試料表面への押圧力の印加は、直流的に印加しても良いし、交流的に印加しても良いし、タッピングしても良い。

【0019】
AFMによる高速画像取得は、例えばコンタクトモードによる方法を用いる。これは試料4に対して探針8の先端で高速に走査した際のカンチレバー3の瞬時のたわみ、すなわち図1におけるI/V回路11からのカンチレバー3のたわみ信号から試料4の表面情報を得ることができ、AFM画像を高速に取得できる。また、走査中は従来のAFMフィードバックシステム(フィードバック回路12)によっておよそ1フレームの中で平均化した一定力を維持するように制御される。試料表面の高速走査は、シェア型スキャナ6によりX軸走査と、チューブスキャナ7によりY軸走査の組み合わせにより行われる。図6(a)に走査の軌跡の例を示す。高速走査が必要なX軸方向走査にはシェア型スキャナ6を用い、比較的低速な走査で良いY軸方向走査にはチューブスキャナ7を用いる。なお、AFMによる画像取得はコンタクトモードに限られず、タッピングモードを用いても良い。

【0020】
本システムはナノマニピュレータとして、人間の手に力を提示する力覚フィードバックデバイスであるハプティックデバイス10(PHANTOM omni, SensAble Technologies)を、この高速AFMシステムに組み込んでいる。ハプティックデバイス10はPC13と接続されており、ペン型のハンドルを動かすことでAFM探針8を試料4の表面の任意の場所に移動させ、その間カンチレバー3が検出した表面凹凸形状を感じることができる。これにより、高速画像取得と任意の位置の力覚操作の両方を可能とするシステムを実現する。

【0021】
本システムでは高速AFM用システムとして、例えば、図4に示すメモリ搭載のA/D・D/A変換ボードを用いたデータ収集システムを用いる。A/D変換の動作は、D/A変換ボードからのクロック信号により走査信号と同期して同じタイミングで行われる。画素データは一旦A/D変換ボードのメモリに格納され、その後、データ処理され、A/D変換ボードのメモリに1フレーム分の画素データが溜まった後にまとめてPCに転送する。このシステムでは1フレームのデータごとにPCのCPUにデータを転送するという方式をとっているので、従来の1点の画素ずつの処理方法に比べてCPUのデータ処理回数が減り、大幅に時間を短縮することができる。

【0022】
実際に本システムにより取得した高速AFM画像の例を図5に示す。図はDVD表面の凹凸(ピット)を計測したものであり、(a)は高速AFMにより0.5秒で取得した画像を、(b)は従来型のAFMにより300秒で取得した画像を示す。図からわかるように、高速AFMでも十分に表面の凹凸を計測可能である。

【0023】
続いて、図6及び図7により、高速AFMによる画像取得と力覚操作による表面加工とを組み合わせた本システムの動作について説明する。なお、説明を簡単化するために探針8やカンチレバー3が移動するように記載しているが、実際には試料4の方を移動させている。本システムでは1つのカンチレバー3で(a)高速AFMモード(高速で試料表面の2次元画像を取得)と(b)表面加工モード(加工対象20に探針8を移動させ表面加工)とを交互に繰り返すことにより、2次元表面画像取得と表面加工とを行う。例えば、高速AFMモードによる画像取得は0.1秒で終了するので、1フレーム/秒で画像取得・表示を行うようにすれば、高速AFMによる画像取得の終了と次の画像取得の開始までの間に0.9秒の空き時間ができる。この空き時間の間に探針8を加工対象20に移動させ表面加工を行う。高速AFM動作中は表面加工は行えないが、高速AFM走査の開始前に探針8の座標を記憶しておき、高速AFM走査終了時に記憶した座標に探針8を復元することにより、見かけ上連続して表面加工を行うことができる。図6(c)にタイミング図を示す。

【0024】
図7のフローチャートにより本システムの動作を説明する。
まず、探針8の表面加工座標及び加工押圧力を初期化する(ステップ31)。例えば、初期座標として表面加工座標が画面の中央位置に設定され、加工押圧力は0に設定される。
続いて、高速AFMにより表面形状画像(2次元)の取得・表示を行う(ステップ32)。試料4とカンチレバー3の相対位置を高速に移動させて、試料表面を2次元的に走査することにより表面形状画像(2次元)を取得する。取得に要する時間は種々の条件により変わるが、本実施形態では0.1秒で1画像分を取得する。
高速AFMによる画像取得終了後、カンチレバー3は高速AFMの走査終了位置にあるので、これを高速AFM走査前の表面加工座標に移動させて加工押圧力を印加し(ステップ33)、高速AFM走査前のハプティックデバイスによる表面加工操作を引き続いて継続する(ステップ34)。
ハプティックデバイスによる表面加工操作を0.9秒程度継続した後、次の高速AFM走査の開始前に、現在の探針8の表面加工座標と加工押圧力を記憶する。なお、表面加工の押圧力は上述の静電力により発生され、外力印加回路15により制御される。
ステップ32~ステップ35を繰り返すことにより、見かけ上、1つカンチレバー3で、高速AFMで取得した画像上で探針8により表面加工を行っているように操作することができる。これにより、2次元AFM画像を見ながら、画像上の加工対象20の表面加工を行うことが可能となる。なお、表面形状画像を取得する時間と表面加工を行う時間とは、取得する画像の解像度や表面加工の内容によって適宜決定すれば良く、例えば、表面形状画像を取得する時間と表面加工を行う時間とをそれぞれ0.5秒ずつとすることもできる。

【0025】
本発明の別の実施形態について説明する。上述の実施形態では、表面加工の際、カンチレバーのばね定数の小ささを外力の印加により補ったが、本実施形態ではカンチレバーのばね定数そのものを動的に変化させることで高速画像取得と表面加工とを両立させる。

【0026】
カンチレバーのばね定数を変化させる実施形態の一例について図8を用いて説明する。図8は、カンチレバー3の側面図である。本実施形態では、カンチレバー3の一部に凹部41が設けられていて、この部分が機械的に弱くなるように設計してある。この機械的に弱い部分に、熱により弾性力を変化させることができる形状記憶合金42を設ける。形状記憶合金42は形状記憶温度以下では高い弾性力を持つので、その状態ではばね定数は大きく、カンチレバー3全体のばね定数は大きくなる。一方、図示されていない加熱手段により形状記憶合金42を形状記憶温度以上に加熱すると弾性力が低下するため、カンチレバー3全体のばね定数が小さくなる。これを画像取得時と表面加工時とで動的に切り換えて、画像取得時にはばね定数を小さく、表面加工時にはばね定数を大きくして用いる。形状記憶合金42の加熱については、直接通電、近傍に設けたヒーターによる加熱、レーザ加熱など、公知の方法を用いることができる。弾性力を変化させることができる部材としては、外部からの物理量により弾性力を変化させられるものであれば何でもよく、例えば磁歪素子などを用いても良い。すなわち、これらの形状記憶合金や磁歪素子が、本発明に係る弾性力可変部材に相当する。なお、図8の配置についてはあくまで一例であり、本実施形態の趣旨に沿った形で当業者が適宜設計可能であることは言うまでもない。

【0027】
カンチレバー3のばね定数を変化させる実施形態の別の例について図9を用いて説明する。図9は、カンチレバー3の上面図である。本実施形態では、ばね定数の小さいカンチレバーのばね定数を補うために、剛性部材51をカンチレバー3の梁部に機械的に結合させる。図9(a)は剛性部材51がカンチレバー3から離れた状態であり、カンチレバー3のばね定数は小さくなる。一方、図9(b)は剛性部材51がカンチレバー3に機械的結合している状態であり、カンチレバー3のばね定数は大きくなる。剛性部材51とカンチレバー3との機械結合に関しては、双方に凹凸を設けて嵌合するように構成しても良いし、それぞれを単に接触させて摩擦力により結合するようにしても良い。剛性部材51とカンチレバー3を機械的結合するためにそれぞれを移動する手段については図示されていないが、一般的な公知の移動手段を用いることができる。また、剛性部材の配置や形状については、本実施形態の趣旨に沿った形で当業者が適宜設計可能であることは言うまでもない。
この他、カンチレバー3の見かけ上のばね定数を変化さるために、カンチレバー3を梁部に多次モードの定在波が発生する周波数で振動させても良い。カンチレバー3の梁部に多次モード(2次、3次、4次・・・)の定在波が発生することにより、見かけ上のばね定数を大きくすることができる。
この他、カンチレバー3の梁部にバイメタルを設けて、表面加工時にはバイメタルを加熱してカンチレバー3を試料4側に逆そらしさせることにより、ゼロ点のオフセットを持たせて試料に対する押圧力を強めても良い。

【0028】
また、カンチレバー3のばね定数を変化させる実施形態の別の例について図10を用いて説明する。図10(a),(b)は、カンチレバー3の側面図である。本実施形態では、カンチレバー3の上面(試料4とは反対側の面)に剛性部材61が設けられている。剛性部材61は、カンチレバー3の上方において探針8側に向ってカンチレバー3の梁部と平行に延びるとともに探針8側の端部がカンチレバー3側に突出して規制部62が形成されている。この場合、剛性部材61の規制部62の下面とカンチレバー3の上面との間の隙間は、カンチレバー3が試料4の表面を二次元的に走査して表面形状画像を取得する際におけるカンチレバー3のZ軸方向の変位量よりも大きく設定されている。すなわち、剛性部材61は、カンチレバー3に対して試料4の表面形状の取得時におけるカンチレバー3の変位範囲を越える位置に配置されている。

【0029】
このため、試料4の表面形状画像を取得する場合においては、図10(a)に示すように、カンチレバー3は剛性部材61の規制部62に接触することなくZ軸方向に往復変位することができる。一方、試料4の表面に加工を行う場合においては、図10(b)に示すように、チューブスキャナ7を駆動することにより試料4をカンチレバー3側に移動させることにより、試料4がカンチレバー3の探針8を押圧してカンチレバー3の梁部を剛性部材61の規制部62に接触させる。これにより、カンチレバー3の撓み変形が規制されてばね定数を変化させることができる。この結果、カンチレバー3は、剛性部材61の規制部62側への変位が規制された状態で試料4の表面に加工を行うことになる。なお、本実施形態における剛性部材61は、必ずしもカンチレバー3に支持されている必要はなく、カンチレバー3の変位の範囲の外に配置されていれば、他の部材によってカンチレバー3とは独立した状態で支持されても良い。また、カンチレバー3を剛性部材61の規制部62に接触させる際においても、カンチレバー3を試料4側に変位させることによってカンチレバー3を剛性部材61の規制部62に接触させるようにしても良い。また、剛性部材61によってカンチレバー3の上面が覆われることにより、レーザ1及び4分割光検出器2によるカンチレバー3のたわみ量が検出できない場合には、カンチレバー3に圧電素子を設けることによってたわみ量を検出することができる所謂自己検型のカンチレバー3を用いることができる。

【0030】
また、カンチレバー3の探針8を試料4の表面に押圧する実施形態の別の例について図11を用いて説明する。図11(a)~(c)は、カンチレバー3の側面図である。図11(a)に示した実施形態においては、カンチレバー3における探針8の図示上方にノックピン71およびこのノックピン71を図示上下方向に進退させるためのアクチュエータ72を設けて構成されている。この場合、アクチュエータ72は、圧電素子やマイクロリニアモータなどで構成できる他に、磁力や静電力によってノックピン71を図示上下方向に進退させることができるアクチュエータによって構成することもできる。このように構成した本実施形態によれば、カンチレバー3は、アクチュエータ72によって図示下方向に変位するノックピン71に押されて試料4の表面を押圧して加工する。すなわち、ノックピン71およびアクチュエータ72が、本発明に係る押圧力付与手段に相当する。

【0031】
また、図11(b)に示した実施形態においては、カンチレバー3の上面に磁石81を設けるとともにカンチレバー3における探針8の図示上方に電磁石82を設けて構成されている。この場合、磁石81は、板状のネオジムやパーマロイのコーティングなどによって構成されており、探針8の背面側におけるカンチレバー3の図示上面に磁極の一方が位置した状態で設けられる。このように構成された本実施形態によれば、カンチレバー3は、磁石81に対向する側の電磁石82の磁極が正極と負極とに切り替わるごとに図示上下方向に変位する。すなわち、カンチレバー3は、磁石81と電磁石82とが反発しあう磁力によって試料4の表面を押圧して加工する。

【0032】
また、図11(c)に示した実施形態においては、前記電磁石82に代えて棒状の可動磁石83が設けられて構成されている。この場合、可動磁石83は、ネオジムや芯材の表面をパーマロイでコーティングなどして構成されており、中央部を回転中心として回転駆動制御されるように支持されている。このように構成された本実施形態によれば、カンチレバー3は、可動磁石83が回転駆動することにより磁石81に対向する側の可動磁石83の磁極が正極と負極とに入れ替わることによって図示上下方向に変位する。すなわち、カンチレバー3は、磁石81と可動磁石83とが反発しあう磁力によって試料4の表面を押圧して加工する。なお、可動磁石83は、回転駆動だけでなく、磁石83に対して近接および離隔する方向に直線的に可動するように支持されていても良い。すなわち、前記電磁石82および可動磁石83が、本発明に係る磁界発生手段に相当する。

【0033】
また、これらの各実施形態において、カンチレバー3の上面が覆われることにより、レーザ1及び4分割光検出器2によるカンチレバー3のたわみ量が検出できない場合には、カンチレバー3に圧電素子を設けることによってたわみ量を検出することができる所謂自己検型のカンチレバー3を用いることができる。また、磁力に代えて静電力によってカンチレバー3を試料4の表面に押圧して加工することもできる。例えば、探針8の背面側におけるカンチレバー3の図示上面にエレクトレット(電石)を設けることができる。この場合、エレクトレットは、半永久的に保持した静電力により電場を形成し続けることができる物質である。したがって、カンチレバー3に設けたエレクトレットに対向する位置にエレクトレットに対応する電場を形成することによってカンチレバー3を変位させることができる。

【0034】
以上、本発明の実施形態のいくつかの例について説明したが、当業者であれば本発明の技術思想に沿って種々の設計変更が可能であることは言うまでも無い。
例えば、上述の実施形態では外力印加手段に静電力を用いたがこれに限られるものではなく、例えば、図12に示すように、探針8を磁性体で構成し外部から制御可能な磁界を例えば電磁石82で印加して磁力により試料4の表面に押圧してもよいし、カンチレバー3に適当な強度のレーザ光を印加して光圧によって押圧してもよい。このほか、試料に超音波振動を与えたりZ方向の衝撃力を与えることにより探針8との間に押圧力を発生させても良い。また、上述の実施形態では電極を試料4の背面側に設けたがこれに限らず、試料の表面側に導電性物質を蒸着してこれを電極としても良い。
上述の実施形態では、SPM(走査型プローブ顕微鏡)としてAFM(原子間力顕微鏡)を用いる例を示したたが、これに限らず、走査型トンネル顕微鏡(STM)や走査型近接場光顕微鏡(SNOM)などを用いても良い。これらの顕微鏡に必要な構成は公知なので、当業者であれば上述の実施形態をこれらの顕微鏡に応用可能であることは言うまでも無い。
上述の実施形態では、DVDの凹凸を観察する例を示したが、これはあくまで一例であり、SPM(走査型プローブ顕微鏡)で観察可能な試料であれば、加工対象は何でも構わない。特に、SPMとしてAFMを用いた場合は大気中で観察・加工ができるので、種々の試料に適用可能である。特に、細胞などの生体試料に好適に用いられうる。生体試料を高速AFMで観察する場合は、高速AFMの画像取得中に生体試料を傷つけないようにするために、特にばね定数の小さなカンチレバーを用いる必要があるが、上述の実施形態では加工のための押圧力をカンチレバー系以外から印加したりばね定数を可変にしているため、カンチレバー自体はばね定数の小さなものを用いることができる。もちろん、生体試料以外の試料も観察・加工可能であることは言うまでも無い。

【符号の説明】
【0035】
1:レーザ、 2:4分割光検出器、 3:カンチレバー、 4:試料: 5:電極、 6:シェア型スキャナ、 7:チューブスキャナ、 8:探針、 10:ハプティックデバイス、 20:加工対象、41:凹部、42:形状記憶合金、51:剛性部材、61:剛性部材、62:規制部、71:ノックピン、72:アクチュエータ、81:磁石、82:電磁石、83:可動磁石
図面
【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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