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明細書 :Reが添加されたNi基2重複相金属間化合物合金及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5757507号 (P5757507)
登録日 平成27年6月12日(2015.6.12)
発行日 平成27年7月29日(2015.7.29)
発明の名称または考案の名称 Reが添加されたNi基2重複相金属間化合物合金及びその製造方法
国際特許分類 C22C  19/03        (2006.01)
C22F   1/10        (2006.01)
B22D  27/04        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22C 19/03 H
C22F 1/10 K
B22D 27/04 G
C22F 1/00 602
C22F 1/00 611
C22F 1/00 630C
C22F 1/00 630J
C22F 1/00 651B
C22F 1/00 651Z
C22F 1/00 681
C22F 1/00 682
C22F 1/00 691B
C22F 1/00 691C
C22F 1/00 692A
請求項の数または発明の数 10
全頁数 30
出願番号 特願2012-534955 (P2012-534955)
出願日 平成23年7月20日(2011.7.20)
国際出願番号 PCT/JP2011/066466
国際公開番号 WO2012/039189
国際公開日 平成24年3月29日(2012.3.29)
優先権出願番号 2010213768
優先日 平成22年9月24日(2010.9.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年3月18日(2014.3.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】高杉 隆幸
【氏名】金野 泰幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
審査官 【審査官】蛭田 敦
参考文献・文献 特開2009-255170(JP,A)
特開2009-215649(JP,A)
特開2009-197254(JP,A)
特開2006-299403(JP,A)
調査した分野 C22C 19/00 ~ 19/03
特許請求の範囲 【請求項1】
Niを主成分とし、かつ
Al:5~12原子%、V:11~17原子%、Re:1~5原子%を含み、残部が不可避不純物からなる成分組成を有し
初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項2】
Niを主成分とし、かつ
Al:8~12原子%、V:13~17原子%、Re:1~5原子%を含む請求項1に記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項3】
Niを主成分とし、かつ
Al:5~9原子%、V:11~15原子%、Ta:3~7原子%、Re:1~5原子%を含む請求項1に記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項4】
前記含有量のNi、Al、V及びRe又は、前記含有量のNi、Al、V、Re及びTaを含む合計100原子%の組成の合計質量に対して10~1000質量ppmのBをさらに含む請求項1~3のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項5】
Niを主成分とし、かつ
Al:5~12原子%、V:11~17原子%、Re:1~5原子%を含み、残部が不可避不純物からなる成分組成を有する溶湯を徐冷して鋳造する工程を含む、
初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項6】
鋳造後、1503~1603Kの溶体化熱処理を行う請求項5に記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項7】
溶体化熱処理後、1073~1273Kの時効熱処理を行う請求項6に記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項8】
前記溶湯が、Niを主成分とし、かつ
Al:8~12原子%、V:13~17原子%、Re:1~5原子%を含む請求項5~7のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項9】
前記溶湯が、Niを主成分とし、かつ
Al:5~9原子%、V:11~15原子%、Ta:3~7原子%、Re:1~5原子%を含む請求項5~7のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項10】
前記溶湯が、前記含有量のNi、Al、V及びRe又は、前記含有量のNi、Al、V、Re及びTa、を含む合計100原子%の組成の合計質量に対して10~1000質量ppmのBをさらに含む請求項5~9のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Reが添加されたNi基2重複相金属間化合物合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境破壊が問題となり、省エネルギーやCO2削減に関する技術が、近年注目されている。このため、内燃機関の燃焼効率のさらなる向上が望まれ、より高温特性の優れた材料の開発が求められている。
【0003】
このような要望に対し、高温特性の優れた材料として、(1)Ni基超合金と(2)Ni基2重複相金属間化合物合金の開発が進められている。
【0004】
上記(1)のNi基超合金は、母相であるγ相(Ni固溶体相)と、この母相中に分散析出したγ’相とを有し、γ’相がNi3Alを基本組成とする金属間化合物(L12相)であり、構成相中の約60~70vol%がγ’相で構成される。
【0005】
この合金は、普通鋳造合金、一方向凝固合金、単結晶合金へと開発が進められ、単結晶合金では、第1世代合金、Reを約3重量%含有する第2世代合金、Reを5~6重量%含有する第3世代合金、Ruなどの貴金属を2~3重量%含有する第4世代合金、貴金属を5~6重量%含有する第5世代合金へと開発が進められている。
【0006】
例えば、一方向凝固材用Ni基超合金として、C,B,Hf,Co,Ta,Cr,W,Al,Reを含有し、残部がNi及び不可避の不純物からなる一方向凝固用Ni基超合金が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この合金は、Ti,Nb,V,Zr等を任意の成分とし、母相のγ相と析出相のγ’相とを構成する元素の添加量と、結晶粒界を強化する元素の添加量を調整することにより、凝固方向の強度と結晶粒界の強度を改善する。
【0007】
また、実用面において高温強度と高温における耐酸化性の両面においてバランスの取れたNi基単結晶超合金として、Al,Ta,W,Re,Cr及びRuを主添加元素とするNi基単結晶超合金が知られている(例えば、特許文献2参照)。
この合金は、その元素の組成比を最適な範囲に設定することにより、母相(γ相)の格子定数と析出相(γ’相)の格子定数とを最適な値に制御して優れた高温強度(クリープ強度)を実現する。
【0008】
これらのNi基超合金は、ジェットエンジン等のタービン翼を主な用途とするため、高温強度や鋳造の観点から開発され、これらの観点から好ましい元素がその組成に添加されている。Ni基超合金は、上記で説明したように母相のγ相と析出相のγ’相からなるが、Reはγ相(固溶体相)に固溶してクリープ強度を向上させると説明されている(例えば、特許文献1及び2参照)。また、Taは、W等とともにγ相に固溶するとともにその一部がγ’相に固溶してクリープ強度を向上させると説明されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、Vは、高温強度が低下するので、1重量%以下が好ましいと説明されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0009】
しかし、Ni基超合金は、構成相の約30~40vol%以上が金属相のγ相であるために融点や高温クリープ強度に限界があるといえる。また、高温強度の観点での開発は進んでいるものの、硬さの観点での開発は進んでいない。
【0010】
一方、このような課題を解決する合金として、上記(2)のNi基2重複相金属間化合物合金の開発が期待されている。このNi基2重複相金属間化合物合金は、最密充填(Geometrically Closed Packed)結晶構造に属するNi3X型金属間化合物を整合良く組み合わせた複相合金であり、例えば、上記γ’相のNi3Alの金属間化合物相と、Ni3Vの金属間化合物相とで構成される。
【0011】
図17に、このNi基2重複相金属間化合物合金の組織を説明するための図を示す。図17において、(1)がNi基2重複相金属間化合物合金の組織を説明するためのSEM写真の一例(Ni75Al814.5Nb2.5)であり、(2)がNi基2重複相金属間化合物合金の組織を構成する結晶構造(Ni3Al,Ni3V)の模式図である。
【0012】
図17に示すように、このNi基2重複相金属間化合物合金は、整合性よく形成されたミクロ組織と、その間に形成されたナノ組織とで構成され(図17(1)参照)、前者のミクロ組織が初析L12相(図17(2)で示すNi3Al)で構成され、後者のナノ組織がL12相とD022相(図17(2)で示すNi3Al及びNi3V)とからなる共析組織で構成されている。
【0013】
このNi基2重複相金属間化合物合金は、共析温度よりも高い温度の熱処理で、A1相(Ni固溶体相)に初析L12相が析出した上部複相組織が形成され、その後の共析温度以下の熱処理で、A1相がL12相とD022相の2相に共析変態し下部複相組織が形成されて構成されている。
【0014】
このように、Ni基2重複相金属間化合物合金は、優れた特性を有するNi3X型金属間化合物が複相化されて形成されている。このため、このNi基2重複相金属間化合物合金は、単一の金属間化合物相で構成された合金よりもさらに優れた特性を示し、かつ幅広い組織制御の可能性がある合金として期待されている(特許文献3参照)。例えば、高温強度のほか、硬さの観点でも開発が進められている。
【0015】
具体的な例を挙げると、常温のみならず高温でも優れた硬さを示すNi基2重複相金属間化合物合金として、Niを主成分とし、Al,V,Ta及び/又はW,Nb,Co,Cr,Bを含む(Nb,Co,Crは任意の成分)合金が知られている(特許文献4参照)。
【0016】
また、表面の硬さが高められたNi基2重複相金属間化合物合金として、Niを主成分とし、Al,V,Nb,Ti,Co,Cr,Bを含む(Nb,Ti,Co,Crは任意の成分)合金を母材とし、この母材が窒化処理と浸炭処理の少なくとも一方によって表面処理されているNi基2重複相金属間化合物合金が知られている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【0017】

【特許文献1】特開2006-45654号公報
【特許文献2】特開2010-312299号公報
【特許文献3】国際公開第2007/086185号パンフレット
【特許文献4】特開2009-215649号公報
【特許文献5】特開2009-197254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、上記背景技術のようなNi基2重複相金属間化合物合金は、優れた硬さを示すが、その特性の改善が望まれている。例えば、Ta等の含有量を多くすると、優れた硬さを示すものの、逆にAlの含有量が少なくなると高温において十分な硬さが得られない場合がある。また、Ta等の含有量が多くなると、強度特性上好ましくない第二相粒子(分散物)が出現する場合がある。このため、Ta等の含有量による硬さ特性の改善には限界があると考えられ、たとえばTa等以外の元素を含有させることにより、Ni基2重複相金属間化合物合金の硬さ特性を改善することが望まれている。
【0019】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、優れた硬さを示すNi基2重複相金属間化合物合金を提供するものである。
【0020】
本発明によれば、Niを主成分とし、かつAl:5~12原子%、V:11~17原子%、Re:1~5原子%を含み、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の発明者らは、従来のNi基2重複相金属間化合物合金が、Ni3X型金属間化合物のX元素に置換する元素(例えば、Ta,Nb,Ti)を含有していたことに着目し、Ni基2重複相金属間化合物合金にX元素に置換する元素ではなくNi元素に置換する元素を含有させることを発案した。
そして、鋭意研究をした結果、(1)Ni,Al,Vを含むNi基2重複相金属間化合物合金にRe(例えば、3原子%)を含有させることにより、微細な組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が得られること、及び(2)Reを含有するNi基2重複相金属間化合物合金に熱処理を行うことにより2重複相組織を維持したまま、この合金の硬さを向上させることができること、を見出し、本発明の完成に到った。
本発明によれば、優れた硬さを示すNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。
また、素材が硬くない、すなわち加工(例えば、切削加工)しやすい状態で加工した後、熱処理により硬さを向上させることができるので、加工性(例えば、切削加工性)に優れるNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。
【0022】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、以下の記述中で示すものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】比較例に係るNo.1及びNo.2の試料のSEM写真である。
【図2】比較例に係るNo.3の試料のSEM写真である。
【図3】本発明の実施例に係るNo.4及びNo.5の試料のSEM写真である。
【図4】溶体化熱処理及び下部複相熱処理が施されたNo.5のX線回折プロファイルを示す図である。
【図5】下部複相熱処理(温度:1173K)が施されたNo.1~No.5の試料について、下部複相熱処理の時間とビッカース硬さの関係を示すグラフである。
【図6】下部複相熱処理(温度:1223K)が施されたNo.1~No.5の試料について、下部複相熱処理の時間とビッカース硬さの関係を示すグラフである。
【図7】No.6~No.12の試料について、下部複相熱処理の条件とビッカース硬さの関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例に係る、溶体化熱処理が施されたNo.4の試料のSEM写真である。
【図9】本発明の実施例に係る、溶体化熱処理が施されたNo.5の試料のSEM写真である。
【図10】比較例に係る、溶体化熱処理が施されたNo.13の試料のSEM写真である。
【図11】本発明の実施例に係る、溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:2時間)が施されたNo.4の試料のSEM写真である。
【図12】本発明の実施例に係る、溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:2時間)が施されたNo.5の試料のSEM写真である。
【図13】比較例に係る溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:2時間)が施されたNo.13の試料のSEM写真である。
【図14】本発明の実施例に係る、溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:24時間)が施されたNo.4の試料のSEM写真である。
【図15】本発明の実施例に係る、溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:24時間)が施されたNo.5の試料のSEM写真である。
【図16】比較例に係る溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:24時間)が施されたNo.13の試料のSEM写真である。
【図17】Ni基2重複相金属間化合物合金の組織を説明するためのSEM写真及びこの合金の組織を構成する結晶構造(Ni3Al,Ni3V)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るNi基2重複相金属間化合物合金は、Niを主成分とし、かつAl:5~12原子%、V:11~17原子%、Re:1~5原子%を含み、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有する。このNi基2重複相金属間化合物合金は、前記含有量のNi、Al、V及びReを含む合計100原子%の組成の合計重量に対して10~1000重量ppmのBをさらに含んでもよい。

【0025】
また、本発明の実施形態において、Reを1~5原子%含む場合、Niを主成分とし、かつAl:8~12原子%、V:13~17原子%、Re:1~5原子%を含むNi基2重複相金属間化合物合金であってもよい。Reを1~5原子%含む実施形態でも、前記含有量のNi、Al、V及びReを含む合計100原子%の組成の合計重量に対して10~1000重量ppmのBをさらに含んでもよい。

【0026】
この実施形態によれば、例えば、熱処理(例えば、1073~1273Kの熱処理)を施すことにより、硬さを著しく向上させることができるNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。また、このNi基2重複相金属間化合物合金は、微細な2重複相組織を維持したまま、硬さを著しく向上させることができる。
また、このNi基2重複相金属間化合物合金は、上記熱処理の温度で著しい硬さを示すので、上記熱処理の温度、すなわち、高温での使用にも適する。

【0027】
ここでいう熱処理は、初析L12相の間隙に形成されたA1相を変態させて、L12相とD022相とを形成させるための熱処理である。この熱処理には、このような組織の形成を促進するための処理として、時効熱処理(いわゆる人工時効)が含まれ、また、このような組織を形成する処理として、後述する下部複相熱処理(第2熱処理)が含まれる。
この熱処理の温度は、上記実施形態の場合、好ましくは1073~1273Kであり、より好ましくは1098~1198K(1123K±25K又は1173K±25K)である。これら温度範囲であれば、この合金の硬さを著しく向上させることができ、また、硬さを維持した状態で、このNi基2重複相金属間化合物合金を用いることができる。
なお、熱処理の時間は、好ましくは5~10時間である。この時間範囲であれば、例えば、1148~1198Kの熱処理で約660HVのビッカース硬さを実現できる。

【0028】
また、本発明の実施形態において、このNi基2重複相金属間化合物合金がTaをさらに含んでもよい。具体的には、Ni基2重複相金属間化合物合金がTaを含む場合、Niを主成分とし、かつAl:5~9原子%、V:11~15原子%、Ta:3~7原子%、Re:1~5原子%を含むNi基2重複相金属間化合物合金であってもよい。また、Taを含む実施形態でも、前記含有量のNi、Al、V及びReを含む合計100原子%の組成の合計重量に対して10~1000重量ppmのBをさらに含んでもよい。

【0029】
この実施形態によれば、熱処理を施すことにより硬さを著しく向上させることができるのみならず、熱処理前であっても優れた硬さを有するNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。
ここで、この実施形態の場合、前記熱処理の温度は、好ましくは1073~1273Kであり、熱処理の時間は、好ましくは、2~24時間である。このような熱処理であれば、より優れたビッカース硬さ(例えば約780HV)を実現できる。
また、この実施形態のNi基2重複相金属間化合物合金も熱処理により微細な2重複相組織を維持したままで硬さを著しく向上させることができ、高温(例えば、1073~1273Kの温度)での使用に適する。

【0030】
また、本発明の実施形態において、本発明のNi基2重複相金属間化合物合金で耐熱部品を形成してもよい。

【0031】
本発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、前記熱処理の温度、例えば、1073~1273Kの温度で硬さが向上することから、上記で説明したように、高温(例えば、前記熱処理の1073~1273Kの温度)での使用に適する。従って、このNi基2重複相金属間化合物合金で形成された耐熱部品(例えば、耐熱ボルト)は、高温でも優れた硬さを有する。

【0032】
また、他の観点によれば、本発明は、Niを主成分とし、かつAl:5~12原子%、V:11~17原子%、Re:1~5原子%を含む溶湯を徐冷して鋳造するNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法を提供する。
また、本発明の製造方法の実施形態において、前記溶湯が、Niを主成分とし、かつAl:8~12原子%、V:13~17原子%、Re:1~5原子%を含んでもよいし、また、前記溶湯が、Niを主成分とし、かつAl:5~9原子%、V:11~15原子%、Ta:3~7原子%、Re:1~5原子%を含んでもよい。さらに、前記溶湯が、前記含有量のNi、Al、V及びRe又は、前記含有量のNi、Al、V、Re及びTaを含む合計100原子%の組成の合計重量に対して10~1000重量ppmのBをさらに含んでもよい。

【0033】
本発明の製造方法によれば、優れた硬さを示すNi基2重複相金属間化合物合金が製造できる。また、本発明の製造方法によれば、素材が硬くない、すなわち加工(例えば、切削加工)しやすい状態で加工し、その後熱処理によって硬さを向上させることができるNi基2重複相金属間化合物合金が製造できるので、加工性(例えば、切削加工性)に優れるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法が提供される。

【0034】
また、本発明の製造方法の実施形態において、鋳造後、1503~1603Kの溶体化熱処理を行ってもよい。

【0035】
この実施形態によれば、1503~1603Kの温度で、V元素等が固溶してA1相(Ni固溶体相)を形成するとともに初析L12相が形成され、その後の冷却で、再度2重複相組織(初析L12相と(L12+D022)共析組織の組織)が形成される。このため、微細かつ均一な2重複相組織を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法が提供される。

【0036】
なお、上記溶体化熱処理は、初析L12相とA1相とが共存する温度で鋳造された合金に熱処理を行う工程(この明細書でいう上部複相熱処理(第1熱処理))を兼ねてもよいし、また、均質化熱処理を兼ねてもよい。

【0037】
また、本発明の製造方法の実施形態において、溶体化熱処理後、1073~1273Kの時効熱処理を行ってもよい。

【0038】
この実施形態によれば、微細な2重複相組織を維持したままで硬さを著しく向上させるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法が提供される。

【0039】
ここで示した実施形態は、互いに組み合わせることができる。本明細書において、「~」は、両端の点を含む。(なお、原子%は、at.%ともいう。)
以下、これらの実施形態の各元素について詳述する。

【0040】
Niの具体的な含有量(含有率)は,好ましくは70~74at.%であり,さらに好ましくは71~73at.%である。このような範囲であれば,(Ni,Re)の含有量と,(Al,V,Ta)の含有量の合計が3:1に近くなり、2重複相組織が形成されやすい。
Niの具体的な含有量は,例えば70,70.5,71,71.5,72,72.5,73,73.5又は74at.%である。Niの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0041】
Alの具体的な含有量は,5~12at.%である。Ni基2重複相金属間化合物合金がTaを含まない場合、好ましくは、8~12at.%であり、さらに好ましくは、9~11at.%である。また、Ni基2重複相金属間化合物合金がTaを含む場合、好ましくは、5~9at.%、さらに好ましくは、6~8at.%である。
例えば5,5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5又は12at.%である。Alの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0042】
Vの具体的な含有量は,11~17at.%である。Ni基2重複相金属間化合物合金がTaを含まない場合、好ましくは、13~17at.%であり、さらに好ましくは、14~16at.%である。また、Ni基2重複相金属間化合物合金がTaを含む場合、好ましくは、11~15at.%、さらに好ましくは、12~14at.%である。
例えば11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5又は17at.%である。Vの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0043】
Reの具体的な含有量は、1~5at.%であり、好ましくは、2~4at.%である。例えば1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5又は5at.%である。Reの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0044】
Taの具体的な含有量は、3~7at.%であり、好ましくは、4~6at.%である。例えば3,3.5,4,4.5,5,5.5,6,6.5又は7at.%である。Taの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であっても
よい。

【0045】
Bは任意の成分であるが、Ni基2重複相金属間化合物合金がBを含む場合、Bの具体的な含有量は、10~1000重量ppmである。例えば10,50,100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,750,800,850,900,950又は1000重量ppmである。Bの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0046】
なお、Bの具体的な含有量は、Ni,Al,V,Re,Ta(Taは任意)を含む合計100at.%の組成の合計重量に対する含有量である。

【0047】
次に、Ni基2重複相金属間化合物合金の組織について説明する。本発明のNi基2重複相金属間化合物合金も図17に示すNi基2重複相金属間化合物合金と同様の組織を有する。

【0048】
すなわち、本発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有する。初析L12相は、共析温度よりも高い温度で形成される組織である(なお、共析温度よりも高い温度で形成される初析L12相とその間隙のA1相とからなる組織を「上部複相組織」という)。一方、(L12+D022)共析組織は、前記初析L12相の間隙に形成されたA1相が、共析温度以下の温度で、分離して形成されるL12相とD022相とからなる下部複相組織である。

【0049】
ここで、共析温度よりも高い温度とは、初析L12相とA1相とが共存する温度であり、共析温度とは、A1相がL12相とD022相とに変態(分解)する温度の上限値である。

【0050】
このような組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金は、以下の製造方法で製造する。

【0051】
まず、各元素が上記で説明した割合となるように金属地金を秤量し、これを加熱して溶解させる。次に、この溶湯を冷却することにより鋳造する。

【0052】
この鋳造における溶湯の冷却は、例えば、徐冷により行う。徐冷を行うと、溶湯が凝固した後に初析L12相とA1相とが共存する温度に比較的長い時間さらされることになり、また、その後、A1相がL12相とD022相とに分離する共析温度以下の温度にも長い時間さらされることになる。このため、初析L12相とA1相とからなる上部複相組織が形成され、さらにA1相が分解して、L12相とD022相とからなる下部複相組織が形成される。

【0053】
この徐冷は、例えば、炉冷によって行う。すなわち、上記材料を加熱して溶解させ、加熱後、その炉に溶湯をそのまま放置する。

【0054】
また、上記の組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金は、鋳造後、熱処理を行うことにより製造してもよい。

【0055】
例えば、鋳造後、1503~1603Kの溶体化熱処理を行い(すなわちA1単相化の溶体化熱処理を行い)、その後冷却してこのNi基2重複相金属間化合物合金を製造してもよい。初析L12相が自然に析出し、その後、A1相がL12相とD022相とに分解されてNi基2重複相金属間化合物合金を製造できる。また、特許文献3、4に記載されているように、溶解・凝固により得られた合金材(鋳塊など)に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行い(上部複相組織の形成)、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させて(下部複相組織の形成)、このNi基2重複相金属間化合物合金を製造してもよい。

【0056】
また、溶解・凝固により得られた合金材(鋳塊など)に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行い(上部複相組織の形成)、その後、L12相とD022相とが共存する温度に冷却(空冷や炉冷のような自然冷却又は水冷等の強制冷却)するか、その温度で第2熱処理を行うことによってA1相を(L12+D022)共析組織に変化させて(上部複相組織の形成)、このNi基2重複相金属間化合物合金を製造してもよい。

【0057】
ここで、本発明に係るNi基2重複相金属間化合物合金の場合、第1熱処理は、例えば、1503~1603Kの温度で行い、具体的には、1503Kの温度で、5~200時間程度の熱処理を行う。
また、第2熱処理は、例えば、1123~1273Kの温度で行う。具体的には、1203Kの温度で、5~200時間程度行う。

【0058】
また、鋳造後又は上記第1若しくは(及び)第2熱処理後、1503~1603Kの溶体化熱処理を行ってもよい。溶体化熱処理は、例えば、1553Kの温度で、5時間程度行う。溶体化熱処理後の冷却は、空冷等の自然冷却、水冷等の強制冷却、いずれでもよいが、例えば、炉冷による冷却で行うとよい。

【0059】
なお、溶体化熱処理は、第1熱処理や均質化熱処理を兼ねてもよいし、逆に、第1熱処理や均質化熱処理が溶体化熱処理を兼ねてもよい。

【0060】
また、鋳造後又は上記第1若しくは(及び)第2熱処理後、あるいは、これらの処理に加えて溶体化熱処理を行った後、さらに時効熱処理を行ってもよい。この時効熱処理は、Ni基2重複相金属間化合物合金の初析L12相の間隙に形成されたA1相を変態(分解)して、L12相とD022相とを形成するために実施するものであるので、第2熱処理と同じ温度範囲で熱処理することにより実施できる。L12相とD022相とが形成されることを促進するため、この時効熱処理の温度は、1123~1273Kであることが好ましい。
なお、この明細書において、時効熱処理を下部複相熱処理(下部複相組織を形成させる熱処理)ともいう。

【0061】
(効果実証実験1)
次に、効果実証実験1について説明する。以下の実験では,鋳造材を作製し、(1)溶体化熱処理、(2)溶体化熱処理及び下部複相熱処理(上記の時効熱処理に相当する)を施して、(1)又は(2)の条件のNi基2重複相金属間化合物合金をそれぞれ作製し、作製された合金について、SEM組織観察、硬さ測定、X線測定を行い、その特性を調べた。

【0062】
(合金の作製)
まず、表1のNo.1~No.5に示す割合のNi,Al,V,Ta,Reの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びBをアーク溶解炉内の鋳型中で溶解、凝固することによって鋳造材(30~50mmφの小型ボタン状の合金)を作製した。

【0063】
上記アーク溶解炉の雰囲気は、溶解室内を真空排気し、その後不活性ガス(アルゴンガス)に置換した。電極は、非消耗タングステン電極を用い、鋳型には水冷式銅ハースを使用した。

【0064】
【表1】
JP0005757507B2_000002t.gif

【0065】
ここで、表1において、No.1~No.3の試料が比較例であり、これらはReが添加されていない試料である(ここで、試料の名称は「No.1」等の番号ほか、Taが添加されている試料であることから、その含有量と含有元素「Ta」とあわせた文字列もその試料の名称とした。例えば、Taを5at.%含有する試料は「5Ta」とも呼ぶ。)。
また、表1において、No.4及びNo.5の試料が本発明の実施例であり、Reが添加されている試料である(試料の名称は、上記Taの場合と同様である。例えば、Taを5at.%、Reを3at.%含有する試料は、「5Ta3Re」とも呼ぶ。)。
なお、表1におけるBの割合は、Ni,Al,V,Nbを含む合計100at.%の組成に対する数値である。

【0066】
次いで、作製された鋳造材(No.1~No.5)から試験片(約10mm×5mm×1mm)を切り出し、得られた試験片(No.1~No.5)に対して、溶体化熱処理として1553K×5時間の熱処理を施し、その後炉冷した。
なお、この溶体化熱処理によってA1単相組織化を行い、その後の炉冷で、初析L12相および間隙のL12相とD022相とが共存する2重複相組織を形成させた。

【0067】
さらに、溶体化熱処理された試験片のうち、その一部に下部複相熱処理を施した。また下部複相熱処理による組織変化等を観察するため、それぞれの試験片(No.1~No.5)に対し、1173Kの温度で5、10、24時間の、1223Kの温度で2、5、10、24時間の条件で下部複相熱処理を行い、水焼き入れを行った。

【0068】
これらの溶体化熱処理及び下部複相熱処理により、表2に示す条件を施した試料を作成した。

【0069】
【表2】
JP0005757507B2_000003t.gif

【0070】
(組織観察)
次に、溶体化熱処理・下部複相熱処理の熱処理された試料について、SEMによる組織観察を行った。図1~図3にその写真を示す。図1及び図2が、比較例に係るNo.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料のSEM写真であり、図3が本発明の実施例に係るNo.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料のSEM写真である。
これらの図において、溶体化熱処理のみ施された試料の写真に「溶体化材」と記載し、また試料No.の後ろに「—A」と、その条件(表2の条件)を記載している。また、溶体化熱処理に加えて下部複相熱処理が施された試料の写真に、「1173K-10h」「1223K-10h」と下部複相熱処理の条件を記載している。さらに、試料No.の後ろに「—B」又は「—C」と、その条件(表2の条件)を記載している。

【0071】
図1~2を参照すると、No.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料のうち、溶体化熱処理のみ施された試料では2重複相組織が形成されている領域以外に、図1(1)No.1-A及び(4)No.2-A、並びに図2(1)No.3-Aに示されるような微細に入り組んだツイード状組織領域も存在していることがわかる。
特に、No.3(6.5Ta)の溶体化熱処理のみ施された試料(図2(1)No.3-A)は、4回対称性を持つツイード状組織が観察された。これは、Ta添加量が増加したことによるものと考えられる。

【0072】
また、図1~2を参照すると、No.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料のうち、溶体化熱処理に加えて下部複相熱処理が施された試料(図1(2)No.1-B、(3)No.1-C、(5)No.2-B及び(6)No.2-C並びに図2(2)No.3-B及び(3)No.3-C)は、基本的には溶体化熱処理のみ施された試料と同様の特徴を示しているが、1223Kの温度で下部複相熱処理が施されたNo.1及びNo.2の試料(5Ta,6Ta)(図1(3)No.1-C及び(6)No.2-C)は、ツイード状組織の4回対称性が崩れる傾向を示していることがわかる。また、下部複相熱処理が施されたNo.3(6.5Ta)の試料(図2(2)No.3-B及び(3)No.3-C)は、新たに形成されたと考えられる粗大な板状の第2相も確認された。

【0073】
一方、図3を参照すると、No.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料のうち、溶体化熱処理のみ施された試料(図3(1)No.4-A及び(4)No.5-A)は、図1~2のNi基2重複相組織合金や従来の2重複相組織よりも遥かに微細な(「超微細な」と言ってもよい)2重複相組織で形成されていることがわかる。

【0074】
例えば、No.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料とNo.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料を比較すると、いずれの熱処理の場合もNo.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料のほうが超微細な2重複相組織で形成されていることがわかる。
また、図3(1)No.4-Aと図17(1)を比較すると、図3(1)No.4-Aの立方体状(キューブ状)の組織は、その辺の長さが図17(1)の(Ni75Al814.5Nb2.5)の2重複相組織のおよそ半分以下である。すなわち、図3に示される各試料の組織の大きさは、図17のそれと比較して数分の1の大きさであることがわかる。(例えば、図17の試料は、辺の長さが1~2μmからなる立方体の組織を有するのに対し、図3(1)No.4-Aの試料は、辺の長さが0.3~0.5μmからなる立方体の組織を有する。)このように、No.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料は、特許文献3~5に記載された2重複相組織よりも、微細な2重複相組織で形成されていることが理解できる。

【0075】
さらに、図3を参照すると、No.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料、特に、溶体化熱処理に加えて下部複相熱処理が施された試料(図3(2)No.4-B、(3)No.4-C、(5)No.5-B及び(6)No.5-C)は、興味深いことにTaの添加の有無によらず超微細な2重複相組織で形成されていることがわかる。

【0076】
これらの結果から、2重複相組織の維持及びその大きさにReが関与し、Reが添加されることにより、2重複相組織が維持されるとともに微細な2重複相組織が形成されることが理解できる。

【0077】
なお、溶体化熱処理のみ施されたNo.4(3Re)の試料は、不均質に分布する、立方体状(キューブ状)に析出した組織が観察された。これに対して、溶体化熱処理に加えて下部複相熱処理が施されたNo.4(3Re)の試料は、均質に組織が形成され、このような立方体状の組織は観察されなかった。

【0078】
(X線測定)
次に、これらの試料について、X線測定を行った。図4に、No.5(5Ta3Re)の試料の測定結果を示す。図4は、溶体化熱処理及び下部複相熱処理が施されたNo.5(5Ta3Re)のX線回折プロファイルを示す図である。
図4において、(a)~(e)のグラフは、各熱処理のX線回折プロファイルを示し、(a)は、溶体化熱処理のみ施された試料(表2の条件A)に、(b)~(e)は、溶体化熱処理に加えて下部複相熱処理が施された試料(表2の条件C)に、それぞれ対応している。(b)~(e)の下部複相熱処理の時間は、(b)が2時間、(c)が5時間、(d)が10時間、(e)が24時間である。また、図4において、丸印(黒色の○印)は、L12相(Ni3Al)のX線回折ピークの位置を示し、三角印(グレーの△印)は、D022相(Ni3V)のX線回折ピークの位置を示している。

【0079】
図4に示すように、いずれの熱処理の試料もL12相とD022相のピークが観察されたが、これらの相以外の明瞭なピークは観察されず、第2相のピークは認められなかった。
正確な解析には、TEM(透過電子顕微鏡)による調査が必要であるが、この結果から、No.5は、L12相とD022相とで構成されていることがわかる。

【0080】
(ビッカース硬さ試験)
次に、溶体化熱処理・下部複相熱処理の熱処理された試料について、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さは、荷重300g、500gまたは1kg、保持時間20秒で測定し、その測定は、室温の25℃で行った。表3及び表4にその測定結果を示す。
表3は、1173Kの温度の下部複相熱処理を施した試料のビッカース硬さを示す表であり、表4は、1223Kの温度の下部複相熱処理を施した試料のビッカース硬さを示す表である。

【0081】
【表3】
JP0005757507B2_000004t.gif

【0082】
【表4】
JP0005757507B2_000005t.gif

【0083】
また、図5及び図6に、上記ビッカース硬さ試験の測定結果をまとめたグラフを示す。図5及び図6は、表3及び表4の測定結果をグラフ化したものであり、これらの図は、下部複相熱処理が施されたNo.1~No.5の試料について、下部複相熱処理の時間とビッカース硬さの関係を示すグラフである。図5が1173Kの温度による下部複相熱処理(表2に示す条件B)、図6が1223Kの温度による下部複相熱処理(表2に示す条件C)にそれぞれ対応し、これら図5及び図6において、溶体化熱処理のみ施された試料のビッカース硬さを左端の軸上に示している。

【0084】
図5及び図6を参照すると、No.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料は、いずれの下部複相熱処理(温度:1173K、1223K)においても、ほぼ5時間(1.8×104秒間)の下部複相熱処理でビッカース硬さの値が緩やかなピークを示し、その後、下部複相熱処理の時間が長くなるとその値が次第に低下する傾向(硬さが軟化する傾向)にあるものの、そのビッカース硬さの値はあまり変動していないことがわかる(下部複相熱処理により明瞭な硬さの変化が見られない)。

【0085】
一方、No.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料は、数時間の下部複相熱処理でビッカース硬さの値が著しく上昇している(図5及び図6参照)。例えば、5時間(1.8×104秒間)、1173Kの下部複相熱処理により、No.4(3Re)の試料は、約130HVもビッカース硬さの値が上昇し、No.5(5Ta3Re)の試料は約140HVもビッカース硬さの値が上昇している。

【0086】
このように、図5及び図6を参照すると、No.4(3Re)及びNo.5(5Ta3Re)の試料は、下部複相熱処理が施されることにより、ビッカース硬さの値が高い値を示すことがわかる。

【0087】
例えば、No.4(3Re)の試料は、1173K、1223Kのいずれの下部複相熱処理でも短時間(5~10時間又は5時間以内、すなわち1.8×104~3.6×104秒間又は1.8×104秒間以内)で著しく硬さが上昇し、特に1173Kの下部複相熱処理で顕著である。具体的には、No.4(3Re)の試料は、1173Kの温度で5~10時間(1.8×104~3.6×104秒間)、下部複相熱処理が施されることにより、約660HVの硬さを示すようになっている。この硬さは、No.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料よりも優れている。この実験結果から、Reが添加された試料に対する下部複相熱処理は、1223Kよりも1173Kの温度が好ましく、その処理時間は、5~10時間が好ましいことがわかる。

【0088】
また、No.5(5Ta3Re)の試料は、溶体化熱処理のみ施した場合でも660HVという高い値を示すが、短時間の下部複相熱処理でその値は顕著に上昇し、800HVを超える値を示している。ビッカース硬さの値が最高値となる下部複相熱処理の時間は、温度によって相違するものの、1173K、1223Kのいずれの下部複相熱処理でも800HVを超える値に達している(ビッカース硬さの値が140~150HV上昇している。)。この実験結果から、Re及びTaが添加された試料に対する下部複相熱処理は、1173K、1223Kのいずれの温度も好ましく、その処理時間は、短時間(2時間~)でもよいことがわかる。

【0089】
ところで、No.5(5Ta3Re)の試料は、下部複相熱処理が長時間に及ぶと、その硬さが微減する傾向にあり、24時間の下部複相熱処理で、800HVをわずかに下回り(780~790HV)、ビッカース硬さの最高値と比較してわずかであるが、その値は減少している(1173Kで約10HV減少し、1223Kで約20HV減少している)。

【0090】
しかしながら、24時間(8.64×104秒間)の下部複相熱処理が施されたNo.5(5Ta3Re)の試料は、800HV近い値を示し、No.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)のいずれの熱処理条件の試料よりもその硬さが優れていることがわかる。溶体化熱処理のみ施した試料であっても、その硬さはNo.1~No.3(5Ta,6Ta,6.5Ta)の試料を上回っている。

【0091】
これらの結果から、No.5(5Ta3Re)の試料は、熱処理が施されることにより、ビッカース硬さの値が高い値を示すことがわかる。すなわち、No.5(5Ta3Re)の試料は、その熱処理が溶体化熱処理のみでも優れた硬さを示し、溶体化熱処理に加えて時効熱処理を施すと、より優れた硬さを示すことがわかる。

【0092】
また、特許文献と比較しても、No.5(5Ta3Re)の試料の硬さが優れていることが理解できる。例えば、特許文献4に記載されたNi基2重複相金属間化合物合金が500~650HV付近の値であるので、No.5(5Ta3Re)の試料のビッカース硬さは、この特許文献の合金を約100HV以上も上回るものであり、驚異的な硬さであることが理解できる。
また、特許文献5のプラズマ浸炭したNi基2重複相金属間化合物合金はその表面層(表面の数十ミクロン)で800HVレベルの硬さであるが、No.5(5Ta3Re)の試料は、試料全体がこれに匹敵する硬さである。このように、No.5(5Ta3Re)の試料が優れた硬さ特性を示している。

【0093】
(効果実証実験2)
次に、効果実証実験2を行った。効果実証実験2では,鋳造材を作製し、鋳造材に溶体化熱処理及び下部複相熱処理(上記の時効熱処理に相当する)を施してNi基2重複相金属間化合物合金を作製し、作製された合金について、硬さ測定を行って、その特性を調べた。

【0094】
まず、表5のNo.6~No.12に示す割合のNi,Al,V,Ta,Reの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びBを溶解、凝固することによって鋳造材を作製した。
No.6~No.11の試料は、効果実証実験1と同様にアーク溶解法により溶解、鋳造してインゴット(直径30~50mmφの小型ボタン状の合金)を作製した。また、No.12の試料は、セラミックモールド法により、鋳造してインゴット(直径約16.5mmφ×長さ約150mm)を作製した。

【0095】
【表5】
JP0005757507B2_000006t.gif

【0096】
なお、表5において、No.6,No.9及びNo.10の試料が比較例であり、これらはReが添加されていない試料である。また、表5において、No.7及びNo.8並びにNo.11及びNo.12の試料が本発明の実施例であり、Reが添加されている試料である。(試料の名称は、上記効果実証実験1と同様であるが、Taが5at.%添加された試料は、上記効果実証実験1の「5Ta」とそのAl及びVの含有量が異なるので、「5Ta*」と記載している。また、Ta及びReが添加されていない試料は「無添加」と記載している。)
また、表5におけるBの割合は、表1の効果実証実験1と同様にNi,Al,V,Nbを含む合計100at.%の組成に対する数値である。

【0097】
次に、アーク溶解法により作製された鋳造材(No.6~No.11)に対して1553K×5時間の溶体化熱処理を施し、その後水冷した。
なお、No.12の試料は、セラミックモールド法で鋳造するときに徐冷され、初析L12相とA1相とが共存する温度及びA1相がL12相とD022相とに分離する共析温度以下の温度に長い時間さらされているので、No.12の試料に対する上記溶体化熱処理は省略した(以下、溶体化熱処理を省略した試料を鋳造後試料という)。

【0098】
次に、作製された鋳造材をEDM(放電加工:electrical discharge machining)でスライスして試験片(約10mm×5mm×1mm)を作製した。そして、下部複相熱処理の影響を調べるため、得られた試験片(No.6~No.12)の一部に対して、1123Kの温度で5時間の下部複相熱処理、又は1223Kの温度で5時間の下部複相熱処理を施し、その後水焼き入れを行った。これにより、溶体化熱処理のみが施された試料(No.12の試料は鋳造後試料)と、溶体化熱処理及び下部複相熱処理が施された試料(No.12の試料は下部複相熱処理のみ施された試料)を作製した。

【0099】
次に、上記の溶体化熱処理・下部複相熱処理が施された試料について、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さは、荷重1kg、保持時間10秒で測定し、その測定は、室温の25℃で行った。表6にその測定結果を示す。表6は、各熱処理の条件と、その熱処理が施された試料のビッカース硬さを示す表である。

【0100】
【表6】
JP0005757507B2_000007t.gif

【0101】
また、図7に、上記ビッカース硬さ試験の測定結果をまとめたグラフを示す。図7は、表6の測定結果をグラフ化したものであり、No.6~No.12の試料について、下部複相熱処理の条件とビッカース硬さの関係を示すグラフである。横軸の「溶体化熱処理後/鋳造後」は、溶体化熱処理のみを行った場合を示し(No.6~No.12の試料のうちNo.12の試料は鋳造後の状態を示し)、「1123-5h」又は「1223-5h」は、溶体化熱処理後、さらに1123Kの温度で5時間、又は1223Kの温度で5時間の下部複相熱処理を行った場合を示している。

【0102】
図7を参照すると、No.7(2Re)及びNo.8(5Re)、並びにNo.11(5Ta5Re)及びNo.12(5Ta3Re)の試料は、いずれの処理であってもTa及びReが添加されていないNo.6(無添加)の試料よりもビッカース硬さの値が高いことがわかる。例えば、No.7(2Re)及びNo.8(5Re)の試料は、No.6の試料よりもビッカース硬さの値が約70~80Hv高く、この結果から、Ni,Al,V及びBの組成にReを添加することによりビッカース硬さが改善されることがわかる。

【0103】
また、図7を参照すると、これらのReが添加された試料(No.7,No.8,No.11及びNo.12)は、Ni,Al,V及びBにTaのみが添加された試料(No.9及びNo.10)と同等かそれ以上のビッカース硬さを示すことがわかる。特に、Ta及びReが添加されている試料(No.11(5Ta5Re)及びNo.12(5Ta3Re)の試料)は、Taのみが添加された試料よりも、そのビッカース硬さの値が大幅に高い値を示している。この結果から、Ni,Al,V及びBの組成にReを添加すると、Taを添加する場合と同様にビッカース硬さが改善され、さらにReに加えてTaを添加すると、ビッカース硬さが顕著に上昇することがわかる。

【0104】
さらに、図7を参照すると、これらのReが添加された試料(No.7,No.8,No.11及びNo.12)は、Reが添加されていない試料(No.6)やTaのみが添加された試料(No.9及びNo.10)と異なり、下部複相熱処理を施すことにより、そのビッカース硬さの値が上昇することがわかる。いずれの温度の下部複相熱処理でもそのビッカース硬さの値が上昇しているが、特に、1123Kの下部複相熱処理の場合、いずれのReが添加された試料でも、そのビッカース硬さが大幅に高くなっている。また、Ta及びReが添加されている試料(No.11及びNo.12)の場合、いずれの温度の下部複相熱処理でも、そのビッカース硬さが高くなる傾向にあることがわかる。

【0105】
(効果実証実験3)
次に、効果実証実験1の溶体化熱処理及び下部複相熱処理について、試料の組織への影響を詳細に観察するため、効果実証実験1と同様の方法で作製したNo.4及びNo.5について、その組織観察を行った。

【0106】
また、表7に示す割合のNi,Al,V,Ta,Reの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びBを溶解、凝固することによってNo.13の試料を作製し、この試料を比較例として、その組織観察も行った。

【0107】
【表7】
JP0005757507B2_000008t.gif

【0108】
なお、No.13の試料は、効果実証実験1及び2と同様にして鋳造し、このNo.13の試料を含む各試料(No.4,No.5及びNo.13)の溶体化熱処理及び下部複相熱処理は、効果実証実験1の条件A及びC(下部複相熱処理は1223K、2時間)で行った。

【0109】
その結果を図8~図16に示す。図8~図16は、No.4,No.5及びNo.13の試料のSEM写真である。図8~図10は、溶体化熱処理が施された各試料、図11~図13は、溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:2時間)が施された各試料、図14~図16は、溶体化熱処理及び下部複相熱処理(温度:1223K、時間:24時間)が施された各試料の写真である。図8~図16の各図において、(1)及び(2)が2次電子像(SEI:secondary electron image)であり、(3)及び(4)が反射電子組成像(COMPO:compositional image)であり、(1)及び(3)が倍率5000倍、(2)及び(4)が倍率25000倍の写真である。

【0110】
図8~図10を参照すると、溶体化処理のみを施された試料はいずれも2重複相組織が形成されていることがわかる。すなわち、図17(1)に示す2重複相組織と同様に、サブミクロンサイズの初析L12相と、この初析L12相間に形成されたナノレベルの組織(共析組織)とで構成されていることがわかる。

【0111】
また、図11~図13を参照すると、溶体化処理に加えて2時間の下部複相熱処理(温度:1223K)が施されても、No.13の試料は、その組織はほとんど変化せず、2重複相組織を維持していることがわかる。一方、Reが添加された試料、すなわちNo.4及びNo.5の試料は、溶体化処理に加えて2時間の下部複相熱処理(温度:1223K)が施されると、針状の第2相粒子が主として初析L12相間の共析組織中に形成されていることがわかる(図11(4)及び図12(4)の白い針状の組織)。

【0112】
さらに、図14~図16を参照すると、図11~図13と同様の現象が観察されることがわかる。下部複相熱処理(温度:1223K)の処理時間が2時間から24時間に延びても、No.13の試料は、その組織がほとんど変化しないが、Reが添加された試料、すなわちNo.4及びNo.5の試料は、下部複相熱処理(温度:1223K)の処理時間が延びると、図11~図13で観察された第2相(針状粒子)がより明瞭に観察できることがわかる(針状粒子が粗大化している)。

【0113】
これらの結果から、Reが添加された試料(No.4及びNo.5)は、下部複相熱処理により初析L12相の間に形成された共析組織中に、針状の第2相粒子が形成されていることがわかる。このような組織の変化がビッカース硬さの変化に関与していると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、優れた硬さを示すNi基金属間化合物合金が提供される。また、このNi基金属間化合物合金は、時効熱処理によりその硬さが向上し、高温でも優れた硬さを示す。このため、このNi基金属間化合物合金は、耐熱ボルト、ジェットエンジンやガスタービンのような高温機械構造物の材料としても有用である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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