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明細書 :イオン液体を含む光変換要素およびその製造方法ならびに光変換要素を含む装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5750770号 (P5750770)
登録日 平成27年5月29日(2015.5.29)
発行日 平成27年7月22日(2015.7.22)
発明の名称または考案の名称 イオン液体を含む光変換要素およびその製造方法ならびに光変換要素を含む装置
国際特許分類 C09K  11/06        (2006.01)
H01L  51/48        (2006.01)
B01J  35/02        (2006.01)
FI C09K 11/06
H01L 31/04 182A
B01J 35/02 J
請求項の数または発明の数 17
全頁数 44
出願番号 特願2012-538701 (P2012-538701)
出願日 平成23年10月12日(2011.10.12)
国際出願番号 PCT/JP2011/073443
国際公開番号 WO2012/050137
国際公開日 平成24年4月19日(2012.4.19)
優先権出願番号 2011021136
2010230938
優先日 平成23年2月2日(2011.2.2)
平成22年10月13日(2010.10.13)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成26年7月23日(2014.7.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】村上 陽一
【氏名】佐藤 勲
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100102990、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良博
【識別番号】100128495、【弁理士】、【氏名又は名称】出野 知
【識別番号】100147212、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 直樹
審査官 【審査官】吉田 邦久
参考文献・文献 国際公開第2009/071281(WO,A1)
特開2009-108249(JP,A)
特表2008-506798(JP,A)
国際公開第2009/083901(WO,A1)
特開2008-084664(JP,A)
特開2010-006758(JP,A)
調査した分野 C09K 11/06
B01J 35/02
H01L 51/48


特許請求の範囲 【請求項1】
三重項-三重項消滅過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、イオン液体中に溶解および/または分散させて成る、目視上均質かつ透明な光変換要素。
【請求項2】
該イオン液体が、有機光増感分子および有機発光分子とカチオン-π相互作用を有しかつ非水混和性である、請求項1に記載の光変換要素。
【請求項3】
該イオン液体中のアニオンが、[N(SO2CF32]-、[C(SO2CF33]-、[PF6-、[(C253PF3]-、[BR1234-(R1,R2,R3,R4は、独立して、CH3(CH2n(ここで、n=1,2,3,4,5,6,7,8,9である)またはアリールである)から成る群から選択された1種または2種以上である、請求項1または2に記載の光変換要素。
【請求項4】
該イオン液体中のカチオンが、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオンから成る群から選択された1種または2種以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の光変換要素。
【請求項5】
該溶液および/または該分散体が、長期間安定である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光変換要素。
【請求項6】
300Kにおける粘度が、1Pa・s以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光変換要素。
【請求項7】
融点(Tm)、凝固温度(Tf)が、共に0℃以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の光変換要素。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光変換要素を用いた太陽電池。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光変換要素を用いた光触媒。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光変換要素を用いた光触媒型水素・酸素発生装置。
【請求項11】
a)三重項-三重項消滅過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、揮発性有機溶媒中に溶解させた有機溶液を生成させる工程と、
b)イオン液体と、該揮発性有機溶液とを攪拌により混和させて目視上均質かつ透明な溶液および/または分散体を生成させる工程と、
c)該溶液および/または該分散体から減圧下で該揮発性有機溶媒を痕跡量以下まで除去する工程と、
を含んで成る、目視上均質かつ透明な光変換要素の製造方法。
【請求項12】
該イオン液体が、有機光増感分子および有機発光分子とカチオン-π相互作用を有しかつ非水混和性である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該イオン液体中のアニオンが、[N(SO2CF32]-、[C(SO2CF33]-、[PF6-、[(C253PF3]-、[BR1234-(R1,R2,R3,R4は、独立して、CH3(CH2n(ここで、n=1,2,3,4,5,6,7,8,9である)またはアリールである)から成る群から選択された1種または2種以上である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
該イオン液体中のカチオンが、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオンから成る群から選択された1種または2種以上である請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
該光変換要素の300Kにおける粘度が、1Pa・s以下である、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
該光変換要素の融点(Tm)、凝固温度(Tf)が、共に0℃以下である、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
該攪拌が、超音波、バブリング、攪拌機、液送ポンプ、粉砕機、ビーズミル、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、マイクロ波のいずれか一種またはそれらの組み合わせにより行われる、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を含む光変換要素およびその製造方法ならびに光変換要素を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策、クリーンエネルギーなどの代替エネルギーへの強いニーズがある中、太陽光を高効率に二次エネルギー(電力・水素など)に変換する技術開発が急務となっており、高い光変換効率を有する太陽電池や水素発生光触媒などへの期待が高まっている。太陽電池や水素発生光触媒などでは、太陽光に含まれる広範な波長範囲の内、系に固有の、ある閾値波長より短い波長成分のみを変換に利用していることから、広範な太陽光の波長範囲を有効に利用する技術の一つとして、光アップコンバージョン(すなわち、長い波長の光を吸収して、より短い波長の光を発光することにより光の波長を変換すること)が検討されている。
【0003】
光アップコンバージョンの手段として、希土類元素の多光子吸収を用いた光アップコンバージョンの研究は、50年以上の歴史を有している。しかし、希土類元素の多光子吸収では一般的に非常に高い入射光強度が必要であり、太陽光などの弱い光を変換の対象とすることは困難であった。
【0004】
近年、光吸収・発光により光アップコンバージョンを行える有機分子について発表された。
特許文献1は、光子エネルギーをアップコンバートする組成物において、少なくともフタロシアニン、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン等の感光体として機能する第1の波長域においてエネルギーを吸収する第1の成分と、ポリフルオレン、オリゴフルオレンおよびこれらのコポリマー、ポリパラフェニレン等の発光体として機能する第2の波長域でエネルギーを放出する第2の成分を含む、組成物を記載する。
【0005】
非特許文献1は、有機分子における三重項-三重項消滅過程(以下、「TTA過程」という)を利用したトルエン溶媒中での太陽光程度の比較的弱い光を用いた光アップコンバーターを記載する。
【0006】
光アップコンバーター中に含まれる有機分子の媒体として、高分子量の有機ポリマーを用いた先行事例が存在している。
特許文献2は、光アップコンバージョンのための、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む系の使用であって、前記増感剤の三重項エネルギーレベルが、前記ポリマーの三重項エネルギーレベルよりも高いことを特徴とする系の使用を記載する。
【0007】
非特許文献2は、酢酸セルロース(分子量 約100,000)のポリマーを有機分子の分散媒体とした光アップコンバーターを記載する。しかし、非特許文献2は、光変換要素の変換量子効率に関する定量的なデータを一切記載していない。
【0008】
非特許文献3は、ガラス転移温度(Tg)が236K(マイナス37℃)である室温において柔らかいゴム状のポリマーを媒体に用いた光アップコンバーターを記載する。非特許文献3は、TTA過程による光アップコンバージョンが、媒体内部において三重項励起エネルギーを担う有機分子が拡散運動・相互衝突を行って有機分子間でエネルギーのやりとり行う必要があることに起因して、温度が比較的高くポリマーに充分流動性がある温度範囲(>300K)ではアップコンバージョン発光強度は上昇するものの、温度が低く媒体の流動性が乏しい温度範囲(≦300K)ではアップコンバージョン発光強度は非常に弱くなることを記載する。非特許文献3は、光アップコンバーターの変換量子効率に関する定量的なデータは一切記載していない。
【0009】
非特許文献4は、スチレンのオリゴマー(スチレン3量体および4量体の混合物)を有機光増感分子および有機発光分子の媒体として用いた光アップコンバーターを記載する。非特許文献4は、出力約14W/cm2のレーザーを励起光として試料面上を約10kHzで走査させ、最大3.2%の変換量子効率であったことを記載する。なお、非特許文献4は、光励起強度を表すためにmean excitation intensityという独自指標を用いて、5mW/cm2程度としているが、この独自指標の定義を明確に記載していない。
【0010】
非特許文献5は、TTA過程を用いた光アップコンバージョンに用いることができる有機光増感分子として、金属ポルフィリン類、金属フタロシアニン類を、有機発光分子として、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、ペリレン、ルブレンなどを記載する。
【0011】
非特許文献6は、イオン液体に関する一般的なレビューを記載し、性質として、非特許文献6から引用した図1に示すように、イオン液体は一般的に不燃性であること(Usually nonflammable)、標準状態下では蒸気圧が無視できる程度であること(Negligible vapor pressure under normal conditions)、および極性・非極性の概念がイオン液体にもそのまま当てはまるかどうかは疑問であること(Polarity concept questionable)、などを記載する。
【0012】
非特許文献7は、実験結果に基づき、ある非水混和性イオン液体(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)と何種類の一般的な有機溶媒との混合可能割合を記載する。非特許文献7は、有機溶媒がイオン液体と層分離せず均質に混合する割合(混合可能割合)が、有機溶媒分子の極性(双極子モーメント:D)と有機溶媒分子のサイズの両方またはいずれか一方に依存すること、特に、有機溶媒分子の極性が高まる程、非水混和性イオン液体中での有機溶媒の混合可能割合が増加することを記載する。
【0013】
非特許文献8は、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムをカチオンとする様々なイオン液体について極性測定の実験を行い、その結果に基づき、それらが短鎖アルコール程度の極性を持つことを記載する。
【0014】
非特許文献9は、多環芳香族π電子共役系分子であるポルフィリン類のイオン液体中における特性の測定を試みたが、当該分子がイオン液体に殆ど溶解しなかったために、得られた信号が微弱だったことを記載する。この事実について、同文献の著者らは、文中において、「以前の研究から、イオン液体は、アセトニトリルや、メタノール・2プロパノールなどのアルコール類と同程度の極性を有することが知られていることから、我々は典型的な芳香族化合物はイオン液体には溶解しないものと想定する(The polarity of room-temperature ionic liquids are similar to acetonitrile and alcohols such as methanol and 2-propanol according to the previous studies,and we assume that typical aromatic compounds are not soluble in room-temperature ionic liquids.)」と記述する。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】特許第4518313号公報
【特許文献2】特表第2008-506798号公報
【0016】

【非特許文献1】S.Baluschev et al.,Physical Review Letters,vol.97,pp.143903-1~143903-4,2006
【非特許文献2】A.Monguzzi et al.,Journal of Physical Chemistry A, vol.113,pp.1171~1174,2009
【非特許文献3】Tanya N.Singh-Rachford et al.,Journal of the American Chemical Society,vol.131,pp.12007-12014,2009
【非特許文献4】T.Miteva et al.,New Journal of Physics,vol.10,pp.103002-1~103002-10,2008.
【非特許文献5】S.Baluschev et al.,New Journal of Physics,vol.10,pp.013007-1~013007-12,2008
【非特許文献6】N.V.Plechkova and K.R.Seddon,Chemical Society Reviews,vol.37,pp.123~150,2008
【非特許文献7】M.B.Shiflett and A.M.S.Niehaus,Journal of Chemical and Engineering Data,vol.55,pp.346~353,2010
【非特許文献8】A.J.Carmichael and K.R.Seddon,Journal of Physical Organic Chemistry,vol.13,pp.591~595,2000
【非特許文献9】A.Kawai et al.,Molecular Physics,vol.104,pp.1573~1579,2006
【非特許文献10】V.Yakutkin et al.,Chemistry-A European Journal,vol.14,pp.9846~9850,2008
【非特許文献11】T.N.Singh-Rachford et al.,Journal of the American Chemical Society,vol.130,pp.16164~16165,2008
【非特許文献12】T.N.Singh-Rachford and F.N.Castellano,Journal of Physical Chemistry Letters,vol.1,pp.195~200,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
TTA過程を用いる光アップコンバーターでは、原理的に、媒体中で有機分子同士がエネルギーをやりとりするために拡散運動・相互衝突することが必要であることから、上記のごとく、従来は、媒体として、トルエンやベンゼン等の揮発性有機溶媒を用いていた。しかし、揮発性有機溶媒は、可燃性であることによる安全上の問題があり、揮発性の高いことから、環境への悪影響および光変換要素の経時変化を避けるために密閉性の高い容器を必要とすること、また、溶媒に溶解したり溶媒分子の浸透により膨潤したりする樹脂材料を光変換要素の容器に使用できないことなどが、問題であった。
【0018】
さらに、有機分子の媒体として、オリゴマーであるスチレン3量体を使用しても、可燃性(和光純薬のSiyaku.com:製品安全データシート(MSDS)に、保管方法については、「冷凍庫(-20℃)に密閉して保管、火気厳禁」と記載されている)、揮発性(220℃において約425Pa:B.J.Meister et al.,Industrial and Engineering Chemistry Research,vol.28,pp.1659~1664,1989)、および、室温における高い粘度により媒体として流動性が充分ではないこと、などが解決されていなかった。
【0019】
また、上記のように酢酸セルロース、柔軟なゴム等の高分子化合物を媒体として使用すると、これらは可燃であることに加えて、固体であること、および/または流動性の低さから、室温(300K)およびそれ以下の温度ではアップコンバージョンされた光の強度が著しく低下するといった問題が生じ、そもそもアップコンバージョン量子効率を検討できるほどのアップコンバージョンが達成できていなかった。
【0020】
上記のように、有機分子のTTA過程を用いる光アップコンバーターは太陽光強度程度の弱い光にも適用可能であることから、高効率な光アップコンバージョンを行う方法として有望であるものの、光アップコンバーターにおいて従来用いられていた媒体の可燃性、揮発性、または媒体の高粘度によるアップコンバージョン後の光強度の低下の点などにより、実用化に向けて解決が必要な問題が存在していた。
【0021】
一方、イオン液体は極めて低い蒸気圧、一般的に従来の溶媒にはない高い熱安定性を有し、一般的に室温で液体である。しかし、例えば、以下において本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、非特許文献8,9が記載するように、イオン液体は、メタノールやアセトニトリルと同程度の極性を持つ極性溶媒であることが過去の実験的研究から知られている。イオン液体が極性を有することは、それが“イオン”から成り立っていることからも直感的に理解される。一方で、TTA過程に基づく光アップコンバージョンで用いられる有機分子としては、可視~近赤外域で光学活性をもつπ電子共役系分子、特に(前述の非特許文献1~5において用いられたように)多環芳香族π電子共役系分子が一般に用いられる。これらの分子は一般に無極性(或いは弱極性)であり、従来の溶媒和化学の考え方に基づけば、これらの有機分子は極性媒体であるイオン液体には殆ど溶解しないはずであり、また、もし仮に何らかの方法によって溶解させたとしてもこれらの有機分子はイオン液体中では安定に存在できない(すなわち、いずれ析出や凝集が起こる)ことが予想される。実際、これらの多環芳香族π電子共役系分子は、一般にメタノールには溶解しないが、これはこのような溶媒和化学の予想とよく合致するものである。
【0022】
非特許文献11では、イオン液体中における多環芳香族π電子共役系分子(テトラフェニルポルフィリン)の特性を測る試みがなされたが、当該分子のイオン液体中への溶解度が著しく低かったため、得られた信号は微弱だったことが記載されている。この点について、非特許文献11の著者らは、文中で、「我々は典型的な芳香族化合物はイオン液体には溶解しないものと想定する(we assume that typical aromatic compounds are not soluble in room-temperature ionic liquids)」と述べている。
【0023】
このように、TTA過程を用いる光アップコンバーターで使用される有機分子類、特に多環芳香族π電子共役系分子はイオン液体には殆ど溶解しないという、溶媒和化学の予測、および非特許文献11において示された過去の実験事実は、イオン液体をこの用途の媒体として使用することに否定的な見通しを与えていた。すなわち、本発明以前に、TTA過程を用いる光アップコンバーターの媒体にイオン液体を用いることが検討されてこなかったのは、このような、従来の知識・経験からすればほぼ自明といえる否定的な予想・見通しが存在していたためと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一態様は、TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、イオン液体中に溶解および/または分散させて成る、目視上均質かつ透明な光変換要素である。
【0025】
本発明の別の態様は、a)TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、揮発性有機溶媒中に溶解させた有機溶液を生成させる工程と、b)イオン液体と、この有機溶液とを攪拌により混和させて目視上均質かつ透明な溶液および/または分散体を生成させる工程と、c)この溶液および/またはこの分散体から減圧下でこの揮発性有機溶媒を痕跡量以下まで除去する工程と、を含んで成る、目視上均質かつ透明な光変換要素の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様の光変換要素によれば、室温において、蒸気圧が極めて低く、媒体の揮発性等に基づく毒性、環境に悪影響を与えないのみならず、不燃性等の安全性を有しながら充分な流動性を有し、さらに樹脂材料を容器に使用することができる、TTA過程による光変換要素が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、非特許文献6中に記載のイオン液体の性質を従来の有機溶媒と比較した一覧を示す図である。(非特許文献6中のTable 4)
【図2】図2は、非特許文献6中に記載の、イオン液体に含まれるアニオンの種類によってイオン液体の水混和性、非水混和性がどのように変化するのかについての傾向を、幾つかの代表的なアニオンについて示す図である。(非特許文献6中のFigure 9)
【図3】図3は、本発明の一態様に係る光変換要素を太陽電池に用いた例を、断面模式図によって示す図である。
【図4】図4は、本発明の一態様に係る、有機光増感分子および有機発光分子をイオン液体中に溶解および/または分散させてゆく手順を段階的に示す図である。
【図5】図5は、本発明の一態様に係る、イオン液体中に溶解および/または分散した有機光増感分子および有機発光分子が、入射光をアップコンバートする様子を示す図である。
【図6】図6は、本発明の一態様に係る、イオン液体中に溶解および/または分散した有機光増感分子および有機発光分子が、入射光をアップコンバートする様子を示す図である。
【図7】図7は、本発明の一態様に係る、有機光増感分子および有機発光分子がイオン液体中に溶解および/または分散された試料から発せられたアップコンバージョン発光のスペクトルを、異なる三種類のイオン液体を用いた場合ついて示す図である。
【図8】図8中の(a)~(d)は、本発明の一態様に係る、有機光増感分子および有機発光分子がイオン液体中に溶解および/または分散された試料からのアップコンバージョン発光スペクトルを示す図である。
【図9】図9中の(a)~(d)は、本発明の一態様に係る、有機光増感分子および有機発光分子がイオン液体中に溶解および/または分散された試料からのアップコンバージョン発光スペクトルを示す図である。
【図10】図10中の(a)~(d)は、本発明の一態様に係る、有機光増感分子および有機発光分子がイオン液体中に溶解および/または分散された試料からのアップコンバージョン発光スペクトルを示す図である。
【図11】図11は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図12】図12は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図13】図13は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図14】図14は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図15】図15は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図16】図16は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図17】図17は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図18】図18は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図19】図19は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図20】図20は、本発明の一態様に係る光変換要素のエージング試験前後での光吸収スペクトルの比較を示す図である。
【図21】図21は、実施例46で説明した、作製から10か月経過した時点での、連続光レーザー発光#1の照射による光アップコンバージョンの様子を表わす写真である。
【図22】図22は、実施例57、58、59、60、63について、連続光レーザー発光器#3を用い、アップコンバージョン量子効率の励起強度依存性を測定した図である。
【図23】図23は、図22の横軸をNexに直して表示した実験データプロット、およびそれらに対する式1によるフィッティングカーブを示す図である。
【図24】図24は、有機光増感分子および有機発光分子を、揮発性有機溶媒を用いずに、粉末のままイオン液体に上から直接振りかけた後、10時間以上経過してもイオン液体中への自発的な溶解または分散が起こらないことを示す図である。色の濃い(白黒印刷では黒色)粉末が有機光増感分子、色の淡い(白黒印刷では灰色)粉末が有機発光分子である。
【図25】図25は、本発明の一態様に係る非水混和性のイオン液体と、無極性溶媒であるベンゼン(C)との混和性の様子を表わす写真である。
【図26】図26は、本発明の一態様に係る非水混和性のイオン液体と、無極性溶媒であるシクロヘキサン(C12)との混和性の様子を表わす写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の代表的な態様を例示する目的でより詳細に開示するが、本発明はこれらの態様に限定されない。

【0029】
上記のように、TTA過程に基づく光変換要素では、媒体はその内部で有機分子の拡散運動を許容するものである必要がある。本発明者らは、従来用いられてきたトルエンやベンゼン等の有機溶媒、および可燃であると同時に流動性に乏しく粘度が非常に高いゴム状のポリマー、可燃性で実用上小さくない蒸気圧を持つオリゴマーなどの媒体に代わり、極めて低い蒸気圧、比較的高い流動性、難燃性等の性質を一般に有するイオン液体を用いた光変換要素を作製することを考え、鋭意検討を行った結果、以下の態様により、上記課題を解決できることを見いだし、本発明に至ったものである。

【0030】
本発明の一態様は、TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、イオン液体中に溶解および/または分散させて成る、目視上均質かつ透明な光変換要素である。

【0031】
本明細書中において、
「イオン液体」とは、カチオンとアニオンから成る、25℃で液体である常温溶融塩をいう。
「目視上均質かつ透明」とは、イオン液体と、揮発性有機溶媒中に有機光増感分子および有機発光分子を溶解した溶液との場合、有機光増感分子および有機発光分子の揮発性有機溶液が、イオン液体に対して、目視上二層以上の層分離を起こしておらず、そして目視で確認できる程度において、均質であり、かつ濁り・曇りを有さず透明に混和していることをいい、イオン液体と、有機光増感分子および有機発光分子との場合、有機光増感分子および有機発光分子の、イオン液体中溶液および/または分散体が、目視で確認できる程度において、固体を有さず、均質であり、かつ濁り・曇りを有さず透明であることをいう。なお、溶解および/または分散とは、溶解もしくは分散のいずれかまたは溶解および分散を同時にしていることをいう。

【0032】
イオン液体は、一般的に、極めて低い蒸気圧および難燃性を有することが知られている。イオン液体は、カチオンとアニオンの組み合わせによって少なくとも1,000,000種類以上存在することが知られている(非特許文献6)。イオン液体は常温溶融塩と称されるように融点が室温付近にあるものが多いが、本発明の一態様に係るTTA過程は、媒体であるイオン液体の内部で有機分子の拡散運動を許容するものである必要があり、本態様においては、室温で液体であるイオン液体を用いている。

【0033】
蒸気圧についてみると、一般的に、イオン液体の蒸気圧は極めて低いことから、本発明の態様において使用できる。例えば、本発明の一態様に係る1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドで、室温(25℃)で1×10-9Pa、80℃では1.8×10-6Paであり、本発明の一態様に係る1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの蒸気圧は室温(25℃)で8×10-10Pa、80℃では1.4×10-6Paであると記載されており(D.H.Zaitsau et al.,Journal of Physical Chemistry A,vol.110,pp.7303~7306)、低蒸気圧を有している。

【0034】
JIS規格では1×10-5Pa以下を超高真空としていることから、これらのイオン液体は、いずれも超高真空域の蒸気圧である。

【0035】
イオン液体は、近年では常温溶融塩と称されており、種類によっては高粘度な場合がある。しかし、本発明の一態様に係るイオン液体は、後述のように、室温を含む使用温度において粘度が低い。例えば、本発明の一態様では、300Kにおいて(1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)とも呼ばれる)1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの粘度は0.082Pa・sであるといったように、低粘度を有する(S.I.Fletcher et al.,Journal of Chemical and Engineering Data,vol.55,pp.778~782,2010)。

【0036】
さらに例を挙げれば、本発明の一態様に係る1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの303.48Kにおける粘度、および本発明の一態様に係る1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの302.93Kにおける粘度は、ぞれぞれ、0.029Pa・sおよび0.041Pa・sであることが記載されている(J.Jacquemin et al.,Green Chemistry,vol.8,pp.172~180,2006)。

【0037】
熱安定性についてみると、本発明の一態様に係る、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよび1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)のTGA(熱重量測定)で測定した熱分解開始温度(Tonset)は、それぞれ453℃および462℃であることが記載されている(H.L.Ngo et al.,Thermochimica Acta,vol.97,pp.357~358,2000)。

【0038】
また、熱分解が僅かでも開始する温度を熱分解開始温度(Tstart)と定義したさらに厳しいTGAの測定結果においても、本発明の一態様に係る1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)の熱分解開始温度(Tstart)は385℃であり、本発明の一態様に係る1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの熱分解開始温度(Tstart)が330℃であることが記載されている(C.P.Fredlake et al.,Journal of Chemical and Engineering Data,vol.49,pp.954~964,2004)。

【0039】
いずれにせよこれらの熱安定性は、従来の有機溶媒では考えられない程の高さであり、この点からも本発明に係るイオン液体を媒体として用いることの優位性を見いだした。

【0040】
以上のように、本発明の一態様の光変換要素によれば、室温において、蒸気圧が非常に低く、媒体の揮発性に基づく毒性、環境に悪影響を与えないのみならず、不燃性等の安全性を有しながら充分な流動性を有する光変換要素が提供される。

【0041】
本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、イオン液体は、上記低揮発性、難燃性などの特性を有する一方で、前述のように、イオン液体は、一般に短鎖アルコールやアセトニトリルと同程度の極性を有する。そのため、溶媒和化学の常識に基づけば、無極性(或いは弱極性)分子である多環芳香族π電子共役系分子は極性媒体であるイオン液体には殆ど溶解しないと予想されるし、また、もし仮に何らかの方法によって溶解させたとしてもこのような分子はイオン液体中では安定に存在できない(すなわち、いずれ析出や凝集が起こる)ことが予想される。このことは、既に非特許文献11で実験的に示されている事であり、また、本明細書においては、後に示す比較例1~3によって再確認されている事でもある。他方で、一般的に、図1に示すように、溶解性について、従来の極性-非極性の考え方がそのまま当てはまるかは疑問との指摘もなされていた。

【0042】
本発明者らは、イオン液体の上記の特殊性をブレイクスルーの可能性として着目して、検討を行った結果、驚くべきことに、以下の態様により、本発明に係る光変換要素を達成できることを見いだした。

【0043】
本発明の別の態様は、TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、イオン液体中に溶解および/または分散させて成る、目視上均質かつ透明な光変換要素であって、イオン液体が、有機光増感分子および有機発光分子とカチオン-π相互作用を有しかつ非水混和性である、光変換要素である。

【0044】
本明細書中において、「カチオン-π相互作用」とは、イオン液体中のカチオンと、有機光増感分子および有機発光分子のπ電子との間のエネルギー安定化相互作用をいい、「非水混和性」とは、25℃において、10重量%以下の水が、イオン液体に目視上均質かつ透明に混和する場合があるが、10重量%超の水が、イオン液体に目視上均質かつ透明に混和しないことをいう。

【0045】
本態様においては、イオン液体のカチオンとして、有機光増感分子および有機発光分子との間に「カチオン-π相互作用」を有するものを用いることにより、有機光増感分子および有機発光分子のイオン液体中での溶解・分散の安定性を高めることができるものである。

【0046】
本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、有機光増感分子および有機発光分子がイオン液体中で安定的に溶解および/または分散されているのは、例えば、以下のように考えることができる。本発明に係る有機光増感分子および有機発光分子は、下記比較例1~3に示すように、そもそもイオン液体には殆ど直接溶解・分散しない。これは、有機光増感分子および有機発光分子が、π-πスタッキング、すなわち分子上のπ電子雲同士の重なりにより固体として凝集していて、イオン液体中に溶解・分散していかないためと考えることができる。しかし、いったん溶解・分散してしまえば、イオン液体のカチオンとして、有機光増感分子および有機発光分子と「カチオン-π相互作用」を有するものを用いることにより、例えば、有機光増感分子および有機発光分子同士のπ-πスタッキングによる再凝集が生じないようにし、むしろ有機光増感分子および有機発光分子とイオン液体とが、より安定に相互作用して、イオン液体中での溶解および/または分散の安定性が高めることができているものと考えられる。

【0047】
さらに、このような、「カチオン-π相互作用」による有機光増感分子および有機発光分子のイオン液体中での安定化メカニズムの存在は、比較実験(比較例14~21)の結果により、強く示唆されることが見出されている。

【0048】
本発明の一態様に係るイオン液体のカチオンとしては、「カチオン-π相互作用」を示すものであれば、特に制限なく、広範なイオン液体のカチオンを用いることができる。

【0049】
このようなイオン液体の「カチオン-π相互作用」を示すカチオンとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムなどの1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ペンチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ヘプチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-オクチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどの1-アルキル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-シアノメチル-3-メチルイミダゾリウム、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチルピリジニウム、1-ヘキシルピリジニウム、N-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウム、N-ヘキシル-4-ジメチルアミノピリジニウム、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム、N-エチル-N,N-ジメチル-2-メトキシエチルアンモニウム、N-(メトキシエチル)-N-メチルモルフォリウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、N-(メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウムなどを含む、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、モルフォリニウムカチオンなどの芳香族アミン系、脂肪族アミン系、脂環式アミン系などの窒素含有化合物カチオン、テトラアルキルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムなどの第四級ホスホニウムカチオン、トリアルキルスルホニウム、トリフェニルスルホニウムなどのスルホニウムカチオンを挙げることができるが、これらに限られない。
これらのカチオンは、1種または2種以上の混合物であってもよい。

【0050】
また、イオン液体は、イオン液体中のアニオンの種類によっては、水と上限なく混和するが、イオン液体中のアニオンの種類によっては、イオン液体が水とある程度以上混和しないか、またはごく微量しか混和しないことが記載されている(非特許文献6)。

【0051】
本発明者らは、イオン液体を種々検討した結果、イオン液体のアニオンとして、図2に示された群のアニオンの内、イオン液体に非水混和性を与えるアニオンを含むイオン液体を使用した場合に、有機光増感分子および有機発光分子を、イオン液体中に溶解および/または分散させて、目視上均質かつ透明な光変換要素を得ることができることを見いだしたものである。

【0052】
そもそも本発明に係る有機光増感分子および有機発光分子は、下記比較例1~3に示されるように、そのままではイオン液体中に殆ど溶解・分散しない。これは、本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、溶媒についての従来からある極性・非極性による考え方からすれば、一般に短鎖アルコールやアセトニトリルと同程度の極性を有するイオン液体に、無極性(または弱極性)であるこれらの芳香族π電子共役系分子(特に多環芳香族π電子共役系分子)が殆ど溶解しないのは、予想されることである。しかし、このような否定的予想にも関わらず、例えば、本発明の一態様に係る方法などを用いることで、これらの有機分子を、イオン液体中に長期安定に溶解或いは分散させておく事が可能なことが見出された。

【0053】
メカニズムとしては、「カチオン-π相互作用」が合理的なメカニズムとして後述の比較例14~21の結果により強く示唆されているものの、依然決定的には判明しておらず、また本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、本発明に係る一態様は、イオン液体として、ある程度まで水に混和する場合があるが、ある程度以上は水と混和しない、あるいは水とは殆ど混和しない(非水混和性)イオン液体を用いることにより、イオン液体中に、有機光増感分子および有機発光分子を、目視上均質に溶解および/または分散させることができ(例えば、図4)、本発明に係る光変換要素を提供できるものである。一方、水混和性イオン液体を用いると、本発明の一態様に係る手法を用いても、下記比較例4~7に示すように、イオン液体と、有機光増感分子および有機発光分子を溶解させた有機溶媒とが、目視上均質に混合せず、イオン液体と有機溶媒とが二層分離を起して、均質な光変換要素を提供しないことが判明した。

【0054】
イオン液体のアニオンは、イオン液体に非水混和性を与えるものであれば、特に制限なく用いることができ、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([N(SO2CF32]-)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド([C(SO2CF33]-)、ヘキサフルオロホスフェート([PF6]-)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([(C253PF3]-)などのフッ素含有化合物系アニオン、[BR1234-(R1,R2,R3,R4は、独立して、CH3(CH2n(ここで、n=1,2,3,4,5,6,7,8,9である)またはアリールである)を含むが、これらに限られない。

【0055】
これらのアニオンは、1種または2種以上の混合物であってもよい。

【0056】
以上から、上記イオン液体のアニオンおよびカチオンの組み合わせの内、本発明の一態様に係るイオン液体としては、例えば、以下のカチオンとアニオンとを組み合わせた、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム [BR1234-、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム [BR1234-、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム [BR1234-、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム [BR1234-、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム [BR1234-、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム [BR1234-、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム [BR1234-(R1,R2,R3,R4は、独立して、CH3(CH2n(ここで、n=1,2,3,4,5,6,7,8,9である)またはアリールである)、1-ブチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1-ヘキシルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-シアノメチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-ヘキシル-4-ジメチルアミノピリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-エチル-N,N-ジメチル-2-メトキシエチルアンモニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N-(メトキシエチル)-N-メチルモルフォリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルーピロリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-(メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1-(メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-(メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-(メトキシエチル)-N-メチルモルフォリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを含むイオン液体が挙げることができるが、これらに限られるものではない。

【0057】
本発明の一態様によれば、さらに有機光増感分子および有機発光分子がイオン液体に再凝集や析出などすることなく、長期間安定な、TTA過程による光変換要素が提供される。

【0058】
本明細書中において、「長期間安定」とは、不活性ガス雰囲気中において80℃で100時間保持した場合、保持の前後で有機光増感分子および有機発光分子に起因する光吸収スペクトルのピーク位置およびスペクトル強度が、測定誤差以上に変化しないことをいう。

【0059】
すでに説明したように、例えば、イオン液体のカチオンが、有機光増感分子および有機発光分子に対して「カチオン-π相互作用」を有しており、かつ/またはイオン液体がそのアニオンの種類によって非水混和性を有していれば、有機光増感分子および有機発光分子のイオン液体に対する溶解および/または分散性を高め、かつ/またはイオン液体中での安定性を高めると考えられるため、長期間安定の上では適する。

【0060】
本発明の一態様に係る光変換要素の粘度に、特に制限はないが、アップコンバージョン発光がTTA過程に起因するため、例えば、-100℃~200℃、-50℃~100℃、-30℃~80℃等の光変換要素を使用する温度範囲において液体であると適する。本発明の一態様に係る光変換要素の粘度は、300Kにおいて、0.000001Pa・s以上、0.00001Pa・s以上、0.0001Pa・s以上、0.001Pa・s以上であることができ、1Pa・s以下、10Pa・s以下、100Pa・s以下、1000Pa・s以下であることができる。

【0061】
本発明の一態様に係る該光変換要素の融点(Tm)および凝固温度(Tf)に特に制限はないが、発光がTTA過程に起因するため、光変換要素を使用する温度範囲において液体であると適する。融点は、-200℃以上、10℃以下、0℃以下、-10℃以下、-30℃以下、-50℃以下であることができる。凝固温度は、-200℃以上、0℃以下、-10℃以下、-30℃以下、-50℃以下であることができる。通常の室環境においての使用のためには、融点、凝固温度共に0℃以下であると適する。

【0062】
本発明における一態様に係る光変換要素を装置に使用する場合には、水分量を、1重量%以下、0.1重量%以下、0.01重量%以下、0.001重量%以下とすることができる。
酸素が存在すると、TTA過程で励起状態をクエンチし、変換効率を低下させるので、本発明における一態様に係る光変換要素では、酸素濃度を、100ppm以下、10ppm以下、1ppm以下、0.1ppm以下とすることができる。
これらの目的のため、本発明の一態様に係る光変換要素を有する装置には、酸素ゲッター、水吸収材料を共存させることができる。

【0063】
本発明に使用できる有機光増感分子および有機発光分子は、その組み合わせがTTA過程に基づいて発光するものであれば、制限なく広く用いることができる。また、吸光波長、発光波長は、太陽光のスペクトル範囲内から、制限なく選択することができ、例を挙げると、可視~近赤外域の光をアップコンバージョンする態様においては、可視~近赤外域に光吸収帯および/あるいは発光帯を有するπ共役分子を用いることができる。

【0064】
本発明の一態様に係る有機光増感分子としては、例えば、メソ-テトラフェニル-テトラベンゾポルフィリン金属錯体、オクタエチルポルフィリン金属錯体などの金属ポルフィリン類、および金属フタロシアニン類を含むがこれらに限られない。錯体中の金属としては、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Zn、Cuなどを用いることができる。有機発光分子としては、例えば、9,10-ジフェニルアントラセン,9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、ペリレン、ルブレンなどを含むがこれらに限られない。TTA過程に基づいて発光する有機光増感分子および有機発光分子については、芳香族π電子共役系化合物、特に多環芳香族π電子共役系化合物など、および例えば、非特許文献5に記載されているものなどを含め、広く用いることができる。

【0065】
有機光増感分子および有機発光分子の光変換要素中における含有量には、TTA過程および/または光変換効率の低下等を生じなければ、特に制限はない。本発明の一態様に係る光変換要素は、有機光増感分子および光発光分子をそれぞれ、例えば、0.000001重量%以上、0.00001重量%以上、0.0001重量%以上含むことができ、1重量%以下、5重量%以下、10重量%以下含むことができる。

【0066】
本発明の別の態様は、a)TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子および有機発光分子を、揮発性有機溶媒中に溶解させた有機溶液を生成させる工程と、b)イオン液体と、この有機溶液とを攪拌により混和させて目視上均質かつ透明な溶液および/または分散体を生成させる工程と、c)この溶液および/またはこの分散体から減圧下でこの揮発性有機溶媒を痕跡量以下まで除去する工程と、を含んで成る、目視上均質かつ透明な光変換要素の製造方法である。

【0067】
本態様においては、有機光増感分子および有機発光分子を揮発性有機溶媒に溶解させた溶液を、イオン液体に加えて攪拌することにより、イオン液体中に目視上均質かつ透明に混和させられるものである。

【0068】
本明細書中において、「攪拌」とは、液体の容器自体を動かすこと、液体中の物体を動かすこと、液体中の物体を振動させること、液体自体を流動させること、液体自体を振動させること、液体中に気体を噴出させること、またはこれらの操作の2つ以上を順次もしくは同時に行うこと、および間接的にこれらの操作を生じることをいう。なお、この液体は固体を含むことができる。更に、「撹拌」には超音波を利用するものやマイクロ波などの分子が振動、吸収するエネルギーの利用または併用を含むことができる。
そして、本明細書中において、揮発性有機溶媒についての「痕跡量」とは、光吸収スペクトルの測定に基づいて、イオン液体に対して揮発性有機溶媒をノイズレベル以下でしか検出できない量をいう。

【0069】
本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、有機光増感分子および有機発光分子の、揮発性有機溶媒中での溶解には、従来の極性-非極性に基づく溶解性の概念が当てはまると考えられるが、有機光増感分子および有機発光分子を含む揮発性有機溶液の、イオン液体への分散・溶解では、従来の極性-非極性に基づく溶解性の概念が当てはまらず、上記イオン液体のアニオンの所で説明したのと同様な考え方により、ある程度まで水と混和する場合があるが、ある程度以上は水と混和しない(非水混和性)イオン液体を用いることにより、有機光増感分子および有機発光分子を含む揮発性有機溶液をイオン液体と目視上均質かつ透明に混合させることができると考えることができる。

【0070】
さらに本態様においては、有機光増感分子および有機発光分子を含む揮発性有機溶液をイオン液体中に、目視上均質かつ透明に混和させた後で、揮発性有機溶媒を高真空下で、痕跡量以下まで除去しても、有機光増感分子および有機発光分子をイオン液体中に、目視上均質かつ透明に溶解および/または分散させたままにできることを見いだした。

【0071】
本発明がなんらかの理論に拘束されることを意図しないが、揮発性有機溶媒を除去した後では、上記イオン液体のカチオンのところで説明した「カチオン-π相互作用」と思われるエネルギー安定化相互作用により、有機光増感分子および有機発光分子のイオン液体中での目視上均質かつ透明な溶解および/または分散が安定化されるものと考えられる。

【0072】
本発明の一態様に係る揮発性有機溶媒としては、本発明に係る有機光増感分子および有機発光分子を溶解でき、かつ非水混和性イオン液体と均質かつ透明に混和でき、さらに減圧下で痕跡量程度まで除去できる溶媒であれば、特に制限なく、広く用いることができ、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族系溶媒などを有機光増感分子および有機発光分子の溶解性に合わせて適宜選択できる。

【0073】
本発明の一態様に係る攪拌は、有機光増感分子および有機発光分子を揮発性有機溶媒に溶解させた溶液を、イオン液体中に混和できれば、特に制限なく、超音波、バブリング、攪拌機、液送ポンプ、粉砕機、ビーズミル、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、マイクロ波等の技術または装置を用いることができ、これらを単独で、または組み合わせて使用してもよい。

【0074】
本発明に係る光変換要素のところで説明したように、この光変換要素の製造方法において使用されるこのイオン液体が、さらに有機光増感分子および有機発光分子とカチオン-π相互作用を有しかつ非水混和性であれば、有機光増感分子および有機発光分子をイオン液体中に目視上均質かつ透明に溶解および/または分散を行うことができ、そして有機光増感分子および有機発光分子のイオン液体中での溶解および/または分散を安定化できる。

【0075】
この光変換要素の製造方法において、イオン液体のカチオンおよびアニオンは、特に制限なく、上記光変換要素に係るイオン液体のカチオン、アニオンとして記載したものを使用できる。これらのカチオンおよびアニオンは、それぞれ1種または2種以上の混合物であってもよい。

【0076】
用途に関しては、本発明の一態様に係る光変換要素は、太陽電池、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置等において、用いることができる。
例えば、図3は、太陽電池層1、透明背面電極2、透明絶縁膜3、光反射膜5を有する太陽電池において、本発明の一態様に係る光変換要素を用いたアップコンバージョン膜層4を、一例として、透明絶縁膜と光反射膜との間に配置した機器の断面模式図である。例えば、図3の構成により、太陽からの入射光6を、アップコンバートすることにより、太陽電池層が発電に使用できる波長範囲の光の強度を高めて、発電効率をさらに高めることが可能になる。

【0077】
図3の太陽電池層1の代わりに、例えば、光触媒層を配置することにより、触媒効率の高い、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置を達成することが可能になる。
本発明の一態様に係る光変換要素は、上記構成に限定されることなく、必要に応じて、例えば、透明背面電極と透明絶縁膜との間等必要に応じた配置が可能である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下に、本発明の一態様の実施例および比較例で用いた、イオン液体、有機発光分子、有機光増感分子、有機揮発性溶媒、使用装置などについて詳細を示す。
【実施例】
【0079】
イオン液体
本発明に係る態様において、安定で良好な光アップコンバーターが作製できることが見出されているイオン液体。
イオン液体#1:1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(メーカー名:Covalent Associates Inc、CAS番号 174899-82-2)
イオン液体#2:1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(メーカー名:Covalent Associates Inc、CAS番号 169051-76-7)
イオン液体#3:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(メーカー名:Covalent Associates Inc、CAS番号 174899-83-3)
イオン液体#4:1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(メーカー名:Covalent Associates Inc、CAS番号 169051-77-8)
イオン液体#5:N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(製造元:日清紡、販売元:関東化学、製品番号:11468-55、CAS番号 464927-84-2)
イオン液体#6:1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(メーカー名:関東化学、CAS番号 382150-50-7)
イオン液体#7:1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(販売元:関東化学、製品番号:49514-85、CAS番号:178631-04-4)
イオン液体#8:1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(販売元:関東化学、製品番号:49515-52、CAS番号:174899-90-2)
イオン液体#9:1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(販売元:関東化学、製品番号:49515-66、CAS番号:350493-08-2)
#1~#9は、いずれも非水混和性のイオン液体である。
本発明に係る方法を適用しても、有機光増感分子および有機発光分子を溶解させた有機溶媒と目視で認識できる層分離を起こし、光変換要素の作製に適さなかったイオン液体。
イオン液体#10:N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(製造元:日清紡、販売元:関東化学、製品番号:11469-45、CAS番号 464927-72-8)
イオン液体#11:1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム ヨージド(販売元:東京化成、製品番号:M1440,CAS番号 119171-18-5)
イオン液体#12:1-エチル-3-メチルイミダゾリウム トリフルオロアセテート(販売元:メルク、製品番号:490147,CAS番号 174899-65-1)
イオン液体#13:1-エチル-3-メチルイミダゾリウム アセテート(販売元:関東化学、製品番号:49514-02,CAS番号 143314-17-4)
#10~#13は、いずれも水混和性のイオン液体である。
【実施例】
【0080】
有機光増感分子
有機光増感分子#1:メソ-テトラフェニル-テトラベンゾポルフィリン パラジウム (CAS番号 119654-64-7)
有機光増感分子#2:オクタエチルポルフィリン パラジウム (CAS番号 24804-00-0)
【実施例】
【0081】
有機発光分子
有機発光分子#1:ペリレン (CAS番号 198-55-0)
有機発光分子#2:9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン (CAS番号 10075-85-1)
有機発光分子#3:9,10-ジフェニルアントラセン (CAS番号 1499-10-1)
揮発性有機溶媒
トルエン(メーカー名:和光純薬、品番:209-13445)
ベンゼン(メーカー名:和光純薬、品番:021-12301)
ノルマルヘキサン(メーカー名:和光純薬、品番:082-06901)
シクロヘキサン(メーカー名:アルドリッチ、品番:227048)
【実施例】
【0082】
装置類
バスソニケーター(メーカー名:Branson、型番:Model 3510)
ガラス製パスツールピペット(メーカー名:フィッシャー サイテンティフィック、製品番号:5-5351-01)
真空チャンバー(アルミニウム製、内部寸法直径10cm×高さ6cmの円筒形特注品)
ロータリーポンプ(メーカー名:ULVAC、型番:GLD-051、設計到達圧力は1Pa以下である。)
スクロールポンプ(メーカー名:Edwards、型番:XDS35i、設計到達圧力は1Pa以下である。)
ターボ分子ポンプ(メーカー名:ファイファーバキューム、型番:HiCube80、実質到達真空度約10-4~10-5Pa)
【実施例】
【0083】
連続光レーザー発光器#1(波長:632.8nm、メーカー名:CVIメレスグリオ、型番:05LHP991)
連続光レーザー発光器#2(波長:532.0nm、メーカー名:AOTK、型番:Action532S)
連続光レーザー発光器#3(He-Neレーザー、波長:632.8nm、メーカー名:CVIメレスグリオ,型番:25 LHP 928-249)、出力約30mW、レーザースポット直径=約1mm。測定試料の直前に絞り(アイリス)を設置し、試料位置においてレーザースポット直径を0.8mm(励起パワー密度=約6W/cm2)とした。
連続光レーザー発光器#4(ダイオードレーザー、波長:407nm、メーカー名:World Star Tech、型番;TECBL-30GC-405)
連続光レーザー発光#1:上記連続光レーザー発光器#1において、励起光源:632.8nm、スポット径:約1mm、出力:約11mWのもの。
連続光レーザー発光#2:上記連続光レーザー発光器#2において、励起光源:532.0nm、出力:約10mWのもの。
【実施例】
【0084】
分光器(メーカー名:Roper Scientific、型番:SP-2300i)
電子冷却シリコンCCD検出器(メーカー名:Roper Scientific、型番;Pixis100BR、横方向1340ピクセル)
CCDビームレーザープロファイラー(メーカー名:Ophir、型番:SP620)
回折格子式分光器(メーカー名:PI Acton、型番:SP2300)
紫外可視近赤外分光計(メーカー名:島津製作所製、型番:UV-3600)
【実施例】
【0085】
減圧処理#1:室温下で、ロータリーポンプを用いて、約5時間~約12時間減圧(実施例1~34、46~56)
減圧処理#2:室温下で、ターボ分子ポンプで、10時間以上減圧(実施例35~45、57~64)
なお、減圧処理#1と減圧処理#2の違いによって、得られた結果に有意な差異は見られなかった。
【実施例】
【0086】
実施例1 イオン液体への有機光増感分子および有機発光分子の溶解・分散
以下に示す3ステップで、イオン液体に、有機光増感分子および有機発光分子を溶解および/または分散させた。(これらのステップの写真と模式図を、図4に示す。)
【実施例】
【0087】
ステップ1
室温下で容積1.5~10mlのガラス瓶に体積400μlのイオン液体#1(無色透明)を入れた。次に、このイオン液体に、有機光増感分子#1をトルエン中に溶解させた濃度4×10-4Mの溶液を50μl、および発光分子#1をトルエン中に溶解させた濃度4×10-3Mの溶液を100μl加えたところ、無色透明なイオン液体#1を下層、緑色の有機光増感分子#1および有機発光分子#1を含むトルエン溶液を上層として、層分離したままの状態となった。
【実施例】
【0088】
ステップ2
上記ステップ1の溶液を、細いガラス製のパスツールピペットを用いて「吸い・吐き」の繰り返しを行い、目視で均質かつ透明な混合液となったのを確認後、ガラス瓶にフタをして、バスソニケーターで、約30分間、超音波分散器に掛け、さらに混合液の均質度を高めた。
【実施例】
【0089】
ステップ3
ステップ2で得たイオン液体・有機溶媒混合液を、ガラス瓶のフタを取り除いて、真空チャンバーの中に入れ、上記の減圧処理を行ったところ、目視上均質かつ透明な一層の有機光増感分子・有機発光分子を含むイオン液体の溶液および/または分散体が得られた。真空チャンバーから取り出して、分光光度計により試料に残留するトルエンを定量したところ、減圧処理#1および#2のいずれも1.0重量%の範囲内であり、イオン液体の溶液および/または分散体中に含まれるトルエンを痕跡量にまで除去したことを確認した。
有機光増感分子#1および有機発光分子#1がイオン液体#1中に溶解および/または分散している図(図4)を示す。(なお、例外として実施例1のみ、減圧処理#1および#2後の両方について、それらの減圧処理後に分光光度計によって試料に残留するトルエンの評価を行っている。)
【実施例】
【0090】
実施例2~17
以下の表1中に示したイオン液体、有機光増感分子、有機発光分子を用いたほかは、実施例1と同じ操作を行ったところ、目視上均質かつ透明な一層の溶液および/または分散体が得られた。実施例1も以下の表1中に示す。
【表1】
JP0005750770B2_000002t.gif
【実施例】
【0091】
実施例18 光変換要素の光変換確認実験
室温下において、実施例1で作製した試料を、窒素雰囲気下のグローブボックス内に置き、ガラス瓶に密閉フタをつけた後取り出して、連続光レーザー発光#1を照射したところ、室内灯をつけた室内環境下において、明るい青色のアップコンバージョン発光を、目視で充分に確認できた。本レーザーのスポット径から算出すると、励起パワー密度は約2W/cm2であった。アップコンバージョンしている様子の図(図5)を示す。
【実施例】
【0092】
実施例19~34
以下の表2中に示した実施例中の試料、連続光レーザー発光を用いたほかは、実施例18と同じ条件下で、各試料に連続光レーザーを照射したところ、室内灯をつけた室内環境下において、明るい青色~青緑色のアップコンバージョン発光を、目視で充分に確認できた。実施例18も以下の表2中に示す。
実施例2の試料において青緑色にアップコンバージョンしている様子の図(図6)を示す。
【表2】
JP0005750770B2_000003t.gif
【実施例】
【0093】
上記試料について、試料から発せられたアップコンバージョン光をレンズで一旦平行光にした後、別のレンズで分光器の入り口スリット(スリット幅:150μm)に集光して内部の回折格子で回折させた後に、電子冷却シリコンCCD検出器でアップコンバージョン光のスペクトルを計測・記録した。
図7に示す実施例18、22、30(実施例1、5、13)のスペクトルは、同一の測定条件・同一のレーザーアライメント条件で測定したものであり、縦軸の相対強度は比較可能である。いずれの試料からも、アップコンバージョン発光のスペクトルが測定された。また、スペクトルの定量比較によって、粘度の最も低いイオン液体#1から#2、そして粘度の最も高い#4の順にアップコンバージョン強度が低下してゆく傾向が観測された。
【実施例】
【0094】
さらに、実施例18~21(図8中(a)(イオン液体#1、増感分子#1、発光分子#1)、(b)(イオン液体#1、増感分子#1、発光分子#2)、(c)(イオン液体#1、増感分子#2、発光分子#1)、(d)(イオン液体#1、増感分子#2、発光分子#3))、実施例22~25(図9中(a)(イオン液体#2、増感分子#1、発光分子#1)、(b)(イオン液体#2、増感分子#1、発光分子#2)、(c)(イオン液体#2、増感分子#2、発光分子#1)、(d)(イオン液体#2、増感分子#2、発光分子#3))、実施例26~29(図10中(a)(イオン液体#3、増感分子#1、発光分子#1)、(b)(イオン液体#3、増感分子#1、発光分子#2)、(c)(イオン液体#3、増感分子#2、発光分子#1)、(d)(イオン液体#3、増感分子#2、発光分子#3))のそれぞれの発光スペクトルの図を示す。
【実施例】
【0095】
実施例35~44
イオン液体中有機光増感分子および有機発光分子の溶液および/または分散体の長時間安定性の確認
実施例1、2、5、6、9、10、14~17の試料において減圧処理#1の代わりに減圧処理#2を行ったものを、光路長1mmの薄型石英セルを使用して、室温・室湿度下で、作製直後に光吸収スペクトルを測定した。その後、試料を不活性ガス(アルゴン)で満たした密閉容器に入れ、この密閉容器を80℃の恒温オーブンに入れ加速試験(エージング試験)を行った。80℃・室湿度下で100時間半(100.5時間)保持後に密閉容器を高温オーブンから取り出し、その後38時間室温・室湿度下で静置した後、密閉容器のフタを開け、直ちに光吸収測定を行った。
【実施例】
【0096】
いずれの試料においても、光吸収スペクトルは変化しておらず、イオン液体中での有機光増感分子および有機発光分子の溶液および/または分散体が長期間安定であることが確認された。
実施例1、2、5、6、9、10、14~17のサンプルの光吸収スペクトルのエージング前後でのスペクトルデータを、それぞれ図11~20に示す。
【実施例】
【0097】
実施例45
イオン液体中有機光増感分子および有機発光分子の溶液および/または分散体の長期間安定性の確認(2)
実施例1において減圧処理#1の代わりに減圧処理#2を行って作製した試料を、アルゴンガスで満たされたステンレス製グローブボックスの中で、内寸2mm×2mm、外寸3mm×3mm、長さ40mmの正方形断面形状を有する片端閉じ石英管に、その全長の3/4程度注入し、その後すぐ、同じアルゴンで満たしたグローブボックス中において、低融点ハンダと汎用の電子工作用半田ごてを用いて、石英管の開端口を閉じて密閉し、試験試料とした。この試験試料を、作製から10か月間、室内の蛍光灯のあたる机の上(空気中、室温・室湿度)に置き、作製から10か月経過した時点で、連続光レーザー発光#1を照射したところ、室内灯をつけた室内環境下において、作製直後と目視で変わらない、明るい青色のアップコンバージョン発光を確認できた。本試験試料が、作製から10か月経過後に、光アップコンバージョンをしている様子の写真(図21)(イオン液体#1、有機光増感分子#1の濃度5×10-5M、有機発光分子#1の濃度1×10-3M、連続光レーザー発光器#1)を示す。
【実施例】
【0098】
実施例35~45により、イオン液体が、有機光増感分子および有機発光分子と「カチオン-π相互作用」を有しかつ非水混和性である場合、光変換要素が、長期間安定であることが判明した。
【実施例】
【0099】
実施例46 アップコンバージョン量子効率の測定1
連続光レーザー発光#1を用いて、実施例13についての量子効率を算出したところ、励起強度密度2W/cm2において、約1.6%のアップコンバージョン量子効率を達成したことが判明した。
アップコンバージョン量子効率決定の手順1
まず、試料およびリファレンスを、アルゴンで満たしたグローブボックス中において、内寸2mm×2mm、外寸3mm×3mm、長さ40mmの片閉じ矩形ガラス管(メーカー:水戸理化ガラス、特注品、図番:EA0066)にその全長の約半分程度注入し、その後すぐ、同じアルゴンで満たしたグローブボックス中において、低融点ハンダ(融点155℃、製品名:セラソルザ・エコ#155、販売元:栄信工業株式会社)と汎用の電子工作用半田ごてを用いて、矩形ガラス管の開端口を閉じて密閉した。
ここで、試料は、「実施例1の手順で作製された表1における実施例1の試料」であり、リファレンスとは、有機発光分子#2のトルエン溶液(モル濃度:1×10-4mol/l)である。
【実施例】
【0100】
有機発光分子#2のベンゼン溶液を波長400nm付近で励起した場合の発光量子効率は、文献(P.J.Hanhela and D.B.Paul,Australian Journal of Chemistry,vol.37,pp.553~559,1984)に記載されたように、約85%である。ベンゼンとトルエンには溶媒としての若干の差異はあるものの、しばしばこの若干の差異が発光量子効率に与える影響は大きくないと想定され、例えば、非特許文献5において試料の量子効率が見積られた際も、リファレンスとして有機発光分子#2のトルエン溶液が用いられ、その発光量子効率を85%とし、試料の量子効率を求めるという方法が取られている(この事は、非特許文献5のFigure 5のキャプション中に記載されている)。すなわち、本発明の実施例における試料の量子効率の求め方は、用いたリファレンス中の有機発光分子#2の濃度が異なるだけで、基本的には非特許文献5において採られた方法と同じであった。
【実施例】
【0101】
本発明の実施例においては、まず、試料に連続光レーザー発光器#1から出射される連続光レーザー発光#1を入射し、分光器(既出)および電子冷却シリコンCCD検出器(既出)を用いて、発光スペクトルを測定した。測定条件は、分光器の入口スリット幅:150μm、シリコンCCD検出器の露光時間:0.01秒であった。
続いて、リファレンスに波長405nmのダイオードレーザー(スポット径:約1mm、メーカー名:World Star Tech社、型番:TECBL-30GC-405)を入射し、その発光スペクトルを、上記と同じ測定条件で測定した。
別途、分光光度計(既出)によって、試料とリファレンスの光吸収スペクトルを測定した。
【実施例】
【0102】
以上の測定データを基に、当業者に通常用いられる方法によって、試料のアップコンバージョン量子効率が求められる。本発明の実施例における、アップコンバージョン量子効率の定義は、2個の入射光子から必ず1個のアップコンバートされた光子が生成される場合を100%とするものである。
【実施例】
【0103】
なお、背景技術において、先行事例として媒体にスチレンオリゴマーを用いた非特許文献4に言及したが、この事例では、約14W/cm2の励起強度でアップコンバージョン量子効率が最大約3.2%であった。TTA過程による光アップコンバージョンは、量子効率が励起強度の2乗に比例して変化しうることが知られている(非特許文献2のFigure 5に記載)。本発明の実施例(実施例46)における連続光レーザー発光#1の励起強度は、約2W/cm2であり、これは非特許文献4における励起強度のおよそ7分の1にあたる。そこで、もし非特許文献4における励起強度が(本発明の実施例における励起強度と同様な)その7分の1程度だったとしたら、アップコンバージョン量子効率は、3.2%÷7÷7=0.065%程度だったことが導かれる。本発明の実施例(実施例46)におけるアップコンバージョンの値、すなわち約1.6%は、この先行事例の値を大きく上回っている。このような差は、スチレンオリゴマーが高粘度媒体であることが一因となっていると考えられる。
【実施例】
【0104】
なお、本発明の実施例46における試料では、未だ量子効率を最大化するための最適条件探索が全く行われていなかった、という点は強調されるべきである。すなわち、本アップコンバージョン量子効率を測定した「実施例1の手順で作製された表1における実施例1の試料」は、アップコンバージョン量子効率を最大化する条件最適化(最適な増感分子濃度および発光分子濃度の探索)が行われていなかった試料である。このことから、本発明の実施例46における試料に対してもアップコンバージョン量子効率を最大化する条件最適化を行えば、先行事例(非特許文献4)におけるスチレンオリゴマーを媒体とした場合のアップコンバージョン量子効率を大きく上回る量子効率が得られることが示された。このように、本発明に係る態様は、先行事例(非特許文献4)から大きく進歩したアップコンバージョン量子効率を提供するものであることが判明した。
【実施例】
【0105】
実施例47~50 揮発性有機溶媒の種類を変えた場合における溶解および/または分散試験
イオン液体#1(実施例47)、イオン液体#2(実施例48)、イオン液体#3(実施例49)、イオン液体#5(実施例50)において揮発性有機溶媒としてトルエンの代わりに、ベンゼンを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、実施例1と同様な目視上均質かつ透明な一層の溶液および/または分散体が得られた。
【実施例】
【0106】
実施例51~53 光変換要素の光変換確認実験
以下の表3中に示したイオン液体を用いたほかは、実施例1と同じ操作を行ったところ、目視上均質かつ透明な一層の溶液および/または分散体が得られた。
【表3】
JP0005750770B2_000004t.gif
【実施例】
【0107】
実施例54~56
以下の表4中に示した実施例51~53中の試料、連続光レーザー発光を用いたほかは、実施例18と同じ条件下で、各試料に連続光レーザーを照射したところ、室内灯をつけた室内環境下において、明るい青色のアップコンバージョン発光を、目視で充分に確認できた。
【表4】
JP0005750770B2_000005t.gif
【実施例】
【0108】
アップコンバージョン量子効率決定の手順2
まず、内寸1.0mm×1.0mm、外寸2.0mm×2.0mmの正方形断面形状を有する石英管(メーカー:VitroCom、品番:QA101)を長さ25mmに切断し、洗浄後、バーナーで片端を閉じ、量子効率測定に用いる片端閉じ石英管を作製する。続いて、前述の手順で作製した試料を、アルゴンガスで満たされたステンレス製真空グローブボックス(メーカー:UNICO、品番:UN-650F)の中で、上記の片端閉じ石英管にその全長の3/4程度試料液体を注入し、上記アップコンバージョン量子効率決定の手順1と同様に、石英ガラス管の開端口を閉じて密閉し測定試料とした。なお、本節(アップコンバージョン量子効率決定の手順2)において、リファレンス液には、有機発光分子#2のトルエン溶液(モル濃度:1×10-5mol/l)を用いた。
試料石英菅の空間位置を精度よく決定・再現するために、手動マイクロメーターにより精密に位置決めがなされるステンレス製XYZステージ(製造メーカー:駿河精機(株)、品番:BSS76-40C)上に保持された特注の試料石英管保持用ステンレス製ホルダーに試料石英管をセットした。サンプルおよびリファレンス液が入った試料石英菅を、それぞれ連続光レーザー発光器#3および#4を用いて照射した。石英管位置におけるビームスポット径は、CCDビームレーザープロファイラーを用いて測定して約0.8mmであった。試料石英管からの発光をレンズにより一旦平行光とした後、別のレンズにより30cm回折格子式分光器(メーカー名:PI Acton、型番:SP2300)のスリットへ再集光した。得られた光発光のスペクトルは、使用した回折格子の波長依存性および電子冷却アレイ型CCD検出器(メーカー名:Princeton Instruments、型番:PIXSIS:100BR)の波長依存性について補正された。これと共に1mm厚の石英光学セル(メーカー名:Starna、型番:Type53/Q/1)中に充填したサンプル液、およびリファレンス液の光吸収スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計を用いて測定した。上記有機発光分子#2のベンゼン溶液を波長400nm付近で励起した場合の発光量子効率の記載箇所において既に述べたように、本リファレンス液の発光量子効率は約85%と既知であることから、これを基にサンプルのアップコンバージョン量子効率の値を計算した。
【実施例】
【0109】
実施例57~64 アップコンバージョン量子効率の測定2
上記のアップコンバージョン量子効率決定の手順2を用いて、濃度1×10-5(mol/l)の有機光増感分子#1,濃度3×10-3(mol/l)の有機発光分子#1、イオン液体#1、#3、#6、#7,#8,#2、#9、#5を用いた測定結果に基づいて、量子効率の値を計算した結果を表5に示す。
【表5】
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【実施例】
【0110】
上記のアップコンバージョン量子効率の測定2の結果(表5)に示すように、本発明に係る一態様において、連続光励起で測定された既報文献において報告されたアップコンバージョン量子効率の値(非特許文献1、非特許文献4、非特許文献5)から大きく改善したアップコンバージョン量子効率の値を達成した。
【実施例】
【0111】
本発明の実施例における、アップコンバージョン量子効率の定義は、2個の入射光子から必ず1個のアップコンバートされた光子が生成される場合を100%とするものである。なお、現状、当業者の間で用いられているアップコンバージョン量子効率の定義には2種類あり、一つは上述の本発明の実施例において用いられる定義(最大値が100%)であり、もう一つは、2個の入射光子から必ず1個のアップコンバートされた光子が生成される場合を50%とするものである。後者の定義ではアップコンバージョン量子効率の最大値は50%となり、このような定義は、例えば、非特許文献5などにおいて採用されている。
【実施例】
【0112】
上記のアップコンバージョン量子効率の測定結果(表5)に示すように、本発明に係る一態様において、最大約10%の量子効率が達成されている。なお、表5の例(実施例57~64)は、いずれも632.8nm(励起波長)から475nm(アップコンバージョン発光スペクトルのピーク波長、図7)付近への変換であり、エネルギーアップシフト量ΔE(eV)を、アップコンバージョン発光スペクトルのピーク波長の光子エネルギーと励起波長の光子エネルギーとの差と定義すれば、表5は、ΔE=1240/475 - 1240/632.8 = 0.65eVのエネルギーアップシフトに関するアップコンバージョンの結果を示すものである。
【実施例】
【0113】
本発明に係る一態様で観測されたアップコンバージョン量子効率の値(最大約10%、表5)と、揮発性有機溶媒を有機分子の媒体に用いて行われた従来例において報告されたアップコンバージョン量子効率の値とを比較することは、事例間で量子効率の測定条件やエネルギーアップシフト量(ΔE(eV))を含む様々な条件が異なっており、また、一般に狙うΔEが大きい程アップコンバージョン量子効率は低下する傾向があることなどから、必ずしも容易ではない。しかし、大まかな目安を示す目的で比較を試みれば、非特許文献1では「溶媒:明確に記載されていないが文脈からベンゼンまたはトルエンと推定、ΔE:約0.43eV、量子効率:2%またはそれ以上」、非特許文献5では「溶媒:トルエン、ΔE:約0.65eV、量子効率:6.4%」、非特許文献10では「溶媒:トルエン、ΔE:約0.6eV、量子効率:2.4%」、非特許文献11の一つの形態では「溶媒:ベンゼン、ΔE:約0.2eV、量子効率:約15%」、非特許文献11のもう一つ形態では「溶媒:ベンゼン、ΔE:約0.4eV、量子効率:約6%」、非特許文献12では「溶媒:ベンゼン、ΔE:約0.8eV、量子効率:約1%」、であった。これらの量子効率は、前述した本発明の実施例において用いられる定義(最大値が100%)に合致させた値である。先に述べたように、ΔEが大きい程アップコンバージョン量子効率は低下する傾向があることなどにより、各事例間では様々な条件が異なり量子効率の値の単純な比較は難しいが、本発明の実施例(表5)で観測された値(ΔE:約0.65eV、量子効率:約10%)は、少なくともこれらの従来事例における値に劣っておらず、むしろ、ΔEの大小を考慮に入れて比較すれば、従来事例における値より優位となっている。
【実施例】
【0114】
さらに、実施例57、58、59、60、63について、連続光レーザー発光器#3を用い、アップコンバージョン量子効率の励起強度依存性を測定した([図22]参照)。このように、いずれの場合も、励起強度の増大につれて、アップコンバージョン量子効率の値はそれぞれ一定値へと収束していった。アップコンバージョン量子効率の値が励起強度に依存しなくなるということは、生成された三重項励起状態のほぼすべてが、その励起状態寿命のうちに三重項-三重項消滅のパートナーを見つけられているということであり、これは媒体(イオン液体)内において有機分子の拡散運動および有機分子間のエネルギー移動が十分に高いレートで行われていることの証拠である。仮にもし、媒体内に三重項励起状態を効率よくクエンチ(基底状態への非発光緩和)させてしまう酸素分子などが有意に残留している場合には、三重項励起状態にある有機分子の少なくない数は、三重項-三重項消滅のパートナーを見つけるよりも先に酸素分子と衝突し基底状態へとクエンチしてしまう。このような効率的でない状況においては、アップコンバージョン量子効率の値は、生成される三重項励起状態の濃度、すなわち励起強度に比例して増加してゆくことになる。すなわち、図22において、30mW以下と比較的弱い励起強度にも関わらず、このようなアップコンバージョン量子効率の一定値への収束が見られているということは、イオン液体内部では十分に高いレートで有機分子の拡散運動および有機分子間でのエネルギー移動が起きているということである。このような望ましい性質は、媒体に蒸気圧が極めて低いイオン液体を用いることにより試料液体を直接ターボ分子ポンプによって排気することが可能となり、その結果三重項励起状態を高速にクエンチさせてしまう酸素分子の容易な除去が可能となったことで実現されたものと考えられ、このような観点からも、媒体にイオン液体を用いたことについて従来には無い利点が存在しているといえる。このようなターボ分子ポンプによる試料の直接脱気は、従来の揮発性溶媒を用いた試料には適用できない方法だからである。
【実施例】
【0115】
さらに、前段落の記述を補強するため、本発明に係る一態様では独自の解析モデルを導出した。式1は、本発明に係る一態様において導出された、励起強度とアップコンバージョン量子効率の関係を表す無次元方程式である。
【数1】
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ここで、0≦Θ≦1、0≦Λ<∞であり、各変数は
【数2】
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と定義される。式2における変数は、θ:アップコンバージョン量子効率、ε:有機発光分子の最低励起一重項準位からの発光量子効率、φ:三重項-三重項消滅の結果として一重項が生成される確率、Nex:有機増感分子によって吸収される光子をモル数で表したレート(単位:Ms-1)、kTTA:三重項-三重項消滅のレート(単位:M-1-1)、kT(E):有機発光分子の最低三重項準位から基底状態への自発緩和レート(単位:s-1)、であり、0≦θ≦1、0≦ε≦1、0≦φ≦1である。式1は、有機分子間の衝突・エネルギー移動のレートが十分に高いことを仮定して導出された解析式である。図23に、図22の横軸をNexに直して表示した実験データプロット、およびそれらに対する式1によるフィッティングカーブを示す。分子間のエネルギー移動レートが十分に高いことを仮定して導出されたモデル(式1)と実験結果はよい一致を示しており、図22で観測されたアップコンバージョン量子効率の一定値への収束が、有機分子間の衝突・エネルギー移動のレートが十分に高いことに起因するものであることが確認された。
【実施例】
【0116】
比較例1 揮発性有機溶媒を用いないイオン液体への有機光増感分子および有機発光分子の溶解性試験
室温下で約0.5グラムのイオン液体#1を、石英製の乳鉢に入れた。次に、約0.5ミリグラムの有機光増感分子#1および約1ミリグラムの有機発光分子#2の粉末を振りかけて、約6時間放置した。上記有機光増感分子#1は、暗緑色を呈する粉末状態でイオン液体#1上に浮いたままであり、上記有機発光分子#2は、黄橙色を呈した粉末状態でイオン液体#1上に浮いたままであった。その後室温下で約4時間放置したが、図24に示すように、上記有機光増感分子および有機発光分子の状態に変化は観察されなかった。
【実施例】
【0117】
比較例2 乳鉢でのすりつぶしによるイオン液体中での溶解・分散テスト
比較例1の上記有機光増感分子および有機発光分子を石英製乳棒で約30分間すり潰した。イオン液体が目視上色づき、固体粉末が液面および液内部に浮遊する、不均質な分散体となった。これを光学顕微鏡を用いて、倍率50倍で観察したところ、上記有機光増感分子および有機発光分子の大半が細かな固体粉末のままであることを確認した。
【実施例】
【0118】
比較例3 超音波を用いたイオン液体中での溶解・分散テスト
比較例1において、有機光増感分子および有機発光分子を振りかけた後に、約30分間超音波分散器に掛けてさらなる分散を試みたが、目視上イオン液体が若干色づき、液面および液内部に固体粉末の浮遊する、不均質な分散体のままであった。
【実施例】
【0119】
揮発性有機溶媒中に溶解しないと、有機光増感分子#1および有機発光分子#2は、本発明に係る攪拌を行っても、イオン液体#1中には、均質に溶解・分散しないことが判明した。
【実施例】
【0120】
比較例4~7 イオン液体に水混和性を与えるアニオンを有するイオン液体を用いた溶解・分散テスト
イオン液体#10(比較例4)、イオン液体#11(比較例5)、イオン液体#12(比較例6)、イオン液体#13(比較例7)を用いた以外は、実施例1と同じ手順を行ったところ、有機発光分子#1(黄色)の一部は、イオン液体側に移動しているようではあったが、有機光増感分子#1(緑色)の大半は、目視では上層のトルエン溶液の方に残ったままであって、依然としてイオン液体と有機分子のトルエン溶液が目視で層分離を起こしており、減圧過程(揮発性有機溶媒除去過程)において、有機光増感分子および有機発光分子の固体析出を伴うことなく、これらの分子をイオン液体中に目視上均質に溶解・分散させることはできないことを確認した。
【実施例】
【0121】
比較例4~7により、イオン液体に水混和性を与えるアニオンを有するイオン液体#10~#13を使用すると、実施例1に係る手順では、有機光増感分子#1および有機発光分子#1がイオン液体#10~#13中に目視上均質に溶解・分散できないことが示された。
【実施例】
【0122】
比較例8~13 イオン液体に水混和性を与えるアニオンを有するイオン液体用いた溶解・分散テスト
揮発性有機溶媒として有機発光分子#1および有機光増感分子#1を溶解していないn-ヘキサンを用いた以外は、イオン液体#1,#2,#3,#5,#6に対して、実施例1のステップ1およびステップ2と同じ手順を行ったところ、n-ヘキサンと、非水混和性のイオン液体とで、完全な層分離が生じ、一切混和しなかったことを目視上確認した。このような、無極性溶媒であるn-ヘキサンが目視上全く混和せず、同じ無極性溶媒であってもπ電子を有するベンゼンおよびトルエンは混和するという実験結果により、本発明に係る態様で用いたこれらのイオン液体において、「カチオン-π相互作用」が有意に働いていることが示唆された。
【実施例】
【0123】
比較例14~21 本発明の一態様に係る非水混和性イオン液体と、二種類の無極性溶媒(ベンゼン・シクロヘキサン)との混和性の比較テスト
本発明の一態様に係る非水混和性のイオン液体#1、#5、#6、#9と、二種類の無極性溶媒、ベンゼン(C)(比較例14~17)およびシクロヘキサン(C12)(比較例18~21)、との混和性を比較する実験を行った。これら4種類のイオン液体と2種類の無極性溶媒との組み合わせを調べるため、シリコンキャップで簡易的に密閉ができるガラス容器(容量:約1.5ml)を8個用意した。これらのうち4個には、まず300μlのイオン液体#1、#5、#6、#9を加え、その上から過剰量(>1ml)のベンゼンを加え、残りの4個には、同様にまず300μlのイオン液体#1、#5、#6、#9を加え、その上から過剰量(>1ml)のシクロヘキサンを加えた。これら8個のガラス容器は、シリコンキャップで簡易的に密閉した後、手で約1分間よく振って撹拌した。撹拌後の、これらのガラス容器の様子を図25および図26に示す。これらの図において、破線矢印は元々のイオン液体の液面位置、実線矢印は撹拌後に観察された二層分離界面の位置を示す。ベンゼンにおいては、撹拌後の二層分離界面位置(実線矢印)が初期のイオン液体液面位置(破線矢印)より高い位置にきており、イオン液体がベンゼンとある一定体積比まで混和したことを示す(図25)ものの、同じ無極性溶媒でもπ電子を持たないシクロヘキサンでは、撹拌後の二層分離界面位置(実線矢印)と初期のイオン液体液面位置(破線矢印)が一致しており、混和が起こらなかったことを示している(図26)。この結果は、これらのイオン液体との相互作用は、極性・無極性の区別ではなく、π電子の有無の区別によって支配されていることを明確に示すものである。このような、同じ無極性分子であってもπ電子を有するベンゼンはイオン液体内部に侵入できるという実験結果により、本発明の一態様に係るこれらのイオン液体において、「カチオン-π相互作用」が有意に働いていることが強く示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明に係る光変換要素は、長期間安定に光をアップコンバートできるため、例えば、太陽電池、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置等を含む、光エネルギーを利用したエネルギー分野において、広く用いることができる。
【符号の説明】
【0125】
1 太陽電池層
2 透明背面電極
3 透明絶縁膜
4 アップコンバージョン膜層
5 光反射膜
6 入射光
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図7】
3
【図8】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図22】
7
【図23】
8
【図4】
9
【図5】
10
【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
25