TOP > 国内特許検索 > ヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法 > 明細書

明細書 :ヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5904468号 (P5904468)
登録日 平成28年3月25日(2016.3.25)
発行日 平成28年4月13日(2016.4.13)
発明の名称または考案の名称 ヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C40B  50/06        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI C12N 5/10
C40B 50/06 ZNA
C12N 15/00 ZCCA
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 6
全頁数 25
出願番号 特願2012-544298 (P2012-544298)
出願日 平成23年11月17日(2011.11.17)
国際出願番号 PCT/JP2011/076533
国際公開番号 WO2012/067188
国際公開日 平成24年5月24日(2012.5.24)
優先権出願番号 2010258404
優先日 平成22年11月18日(2010.11.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年10月8日(2014.10.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】金山 直樹
【氏名】大森 齊
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】吉岡 沙織
参考文献・文献 国際公開第2007/026661(WO,A1)
特開2006-109711(JP,A)
金山直樹 他,培養B細胞株を用いるIn vitro抗体作製システムによる有用抗体の創製,薬学雑誌,2009年,Vol.129, No.1,p.11-17
金山直樹,高親和性抗体の産生機構に関する研究とその工学的応用,生物工学会誌,2009年,Vol.87, No.3,p.116-122
調査した分野 C12N 5/10
C12N 5/0781
C12N 15/09
C40B 50/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
Science Direct

特許請求の範囲 【請求項1】
細胞外刺激により外因性Creリコンビナーゼ遺伝子の発現が誘導され、発現されたCreリコンビナーゼにより外因性AID(activation induced cytidine deaminase)遺伝子の向きを反転させることにより、AID発現を誘導することおよび停止させることが可能なニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞であって、以下の特徴:
1)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、内因性AID遺伝子発現によるAIDタンパク質は産生されないこと、
2)互いに逆方向の2つのloxP配列で挟まれた外因性のAID遺伝子、および該2つのloxP配列で挟まれた領域の上流側に存在する該動物細胞で機能し得るプロモーターを有し、上記AID遺伝子が該プロモーターに対して順方向に配置されている場合には、該プロモーターによるAID遺伝子の発現が可能であり、上記AID遺伝子が該プロモーターに対して逆方向に配置されている場合には、AID遺伝子の発現は停止すること、および
3)Creリコンビナーゼ遺伝子が、細胞外刺激によりCreリコンビナーゼ活性化が可能な形で導入されており、Creリコンビナーゼ活性化により、上記外因性AID遺伝子を含む2つのloxP配列に挟まれた領域の方向が反転すること、
を有する上記B細胞の抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置換することを含み、
(i)B細胞の抗体遺伝子の定常部のみをヒト抗体遺伝子の定常部に置換し、
(ii)重鎖については定常部をコードするエキソンのうちCH1領域から分泌エキソンまでの領域をヒト由来IgG抗体重鎖定常領域と置換し、軽鎖については定常部エキソンのみをヒト由来κ軽鎖定常領域遺伝子と置換し、
(iii)ヒト型抗体を産生するB細胞が定常部遺伝子の上流に存在するイントロンに含まれるスプライシング受容体配列及びスプライシングブランチポイント配列としてヒト抗体遺伝子由来のものを含み、定常部遺伝子の下流にあるポリA付加配列としてニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞DT40-SWのものを含み、さらにスプライシング配列を含むヒト定常部遺伝子の上流にloxP配列で挟まれた薬剤耐性遺伝子を含む、ヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【請求項2】
ニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞のCreリコンビナーゼ遺伝子は、Creリコンビナーゼがエストロゲンレセプターとの融合タンパク質を発現する形で存在し、上記細胞外刺激がエストロゲンまたはその誘導体による刺激であり、細胞を細胞外からエストロゲンまたはその誘導体で刺激することにより、細胞内でCreリコンビナーゼの活性化が誘導される、請求項1記載のヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【請求項3】
ニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞の抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子への置換が前記B細胞の抗体遺伝子をターゲットとするターゲティングベクターを用いて行われる、請求項1又は2に記載のヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の作製方法により得られた、ヒト型抗体を産生するニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞。
【請求項5】
請求項4記載のヒト型抗体を産生するニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞において、Creリコンビナーゼ遺伝子を活性化させ培養を行い抗体可変部遺伝子に変異を導入することを含む、ヒト型抗体変異ライブラリーを作成する方法。
【請求項6】
ヒト型抗体を産生するニワトリB細胞株DT40細胞に由来するB細胞において、Creリコンビナーゼがエストロゲンレセプターとの融合タンパク質を発現する形で存在し、細胞を細胞外からエストロゲンまたはその誘導体で刺激することにより、細胞内でCreリコンビナーゼの活性化が誘導され、抗体可変部遺伝子に変異を導入する、請求項5記載のヒト型抗体変異ライブラリーを作成する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の免疫系による産生される抗体は、その特異的な標的認識能力を利用して試薬のみならず、最近では医薬、診断薬への応用が進んでいる。生体内では、抗原刺激を受けて産生されてくる抗体の親和性が経時的に上昇してくる。これを親和性成熟と呼ぶが、活性化されて盛んに分裂する抗原特異的B細胞において、抗体可変部遺伝子に高頻度体細胞突然変異が起こり、生じた多様な変異B細胞集団から、高親和性を獲得したB細胞クローンが厳密に選択されることにより進行する。この原理を利用して、動物への反復免疫とハイブリドーマ作製によるモノクローナル抗体の作製は広く使われているが、抗体取得には多大な労力と時間がかかり、種間の保存性の高い抗原に対する抗体は免疫寛容のため取得するのが困難であるほか、生理活性のある抗体の取得も難しいといわれている。動物では作製が困難なこれらの抗体が医薬に有用である場合が多く、そのため免疫寛容がないin vitro技術であるファージディスプレー法が現在よく用いられている。ファージディスプレー法では、ハイブリドーマ法に比べて抗体選択の操作を迅速に行えるが、ライブラリーの質に抗体作製の成否が大きく依存し、抗体Fv断片をscFvとして組み換えてファージ上にディスプレーするため完全型抗体に戻して発現させたときに特異性が変わることが多い、といった問題があることも知られている。特に、鍵となる変異ライブラリー作製には多大な労力と高度な遺伝子組換技術が必要である。
【0003】
そこで、生体内での抗体産生系をin vitro培養細胞系で再現することが出来れば、迅速かつ効率的に抗体を作製できると考えられる。抗体遺伝子への変異導入能力を保持するニワトリB細胞株DT40は、以下の点で、この目的を達成する上で適している。
【0004】
(1)自発的変異導入能力により培養のみで免疫寛容の影響を受けない多様な抗体ライブラリーを形成する。
【0005】
(2)細胞表面上と培養上清中に抗体を発現し、抗原への結合に基づく特定のクローンの選択が可能である。
【0006】
(3)相同組換え効率が非常に高いので、遺伝子ノックアウトなどにより細胞の機能改変が容易である。
【0007】
本発明者らは、DT40の特性に着目し、DT40の変異機能を任意にON/OFFできる細胞株DT40-SWを樹立してDT40-SWを用いたin vitro抗体作製法を開発した(特許文献1及び非特許文献1を参照)(図1)。この方法では、変異機能をONにして培養して得られた抗体ライブラリーから、従来法では取得が困難であるものを含む様々な抗原に対する抗体取得に成功している(非特許文献2及び3を参照)。また、この方法では、得られた抗体産生細胞に再度変異を導入することにより多様化させ、選択を繰り返すことにより抗体の親和性成熟が可能であり、特に、変異導入様式を操作することにより親和性成熟を効率化することにも成功している(特許文献3並びに非特許文献4及び5を参照)。
【0008】
抗体の医薬への応用においては、ヒト抗体あるいはヒト型化した抗体の使用が必須である。これは、異種由来の抗体を人体に摂取すると、人体にとって異物である摂取抗体に対する免疫反応が人体で起こり、複数回投与すると重篤な副作用を引き起こしたり効果が減弱していったりする問題が発生するからである。このため、抗体医薬開発においては異種由来の候補抗体を初期の評価段階からヒト型化する、あるいはヒト型の構造を有した抗体を候補抗体として取得することが必要となっている。特に、in vitroあるいはin vivoでの試験で効果を評価するためには、抗体定常部がヒトIgG1型であることが必須である。従来用いられているヒト抗体あるいはヒト型化抗体の取得法は、(a)ハイブリドーマ法などにより得られた異種抗体の抗体可変部をヒト抗体定常部とのキメラとして宿主細胞で発現させる方法(特許文献3を参照)、(b)可変部のうち抗原結合部分をヒト抗体に移植するCDR移植(特許文献4及び5を参照)、(c)ヒトから単離した抗体遺伝子群から作製したヒト抗体断片を提示するファージディスプレーライブラリーから抗体を取得する方法(特許文献6及び7を参照)、(d)ヒト抗体遺伝子を導入したマウスよりハイブリドーマ法により抗体を取得する方法などがある(特許文献8~10を参照)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特許第4487068号公報
【特許文献2】特開2009-60850号公報
【特許文献3】米国特許第6331415号明細書
【特許文献4】米国特許第5225539号明細書
【特許文献5】米国特許第5585089号明細書
【特許文献6】米国特許第5885793号明細書
【特許文献7】米国特許第5837500号明細書
【特許文献8】米国特許第6150584号明細書
【特許文献9】米国特許第5545806号明細書
【特許文献10】特許第3030092号公報
【0010】

【非特許文献1】Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75
【非特許文献2】Todo, K., et al. J. Biosci. Bioeng. 102, 478-481 (2006)
【非特許文献3】Kanayama, N., et al. YAKUGAKU ZASSHI 129, 11-17 (2009)
【非特許文献4】Kajita, M., et al. J. Biosci. Bioeng. 110, 351-358 (2010)
【非特許文献5】Kajita, M., J. Biosci. Bioeng. 109, 407-410 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ヒト型抗体を産生する、自発的変異導入能力を有するB細胞の作製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のDT40-SWから得られる抗体は、ニワトリIgM抗体であるため、DT40-SWを用いた抗体作製システムによりヒトIgG1型抗体を得ることが可能になれば、医薬開発において非常に有用な技術となると考えた。
【0013】
上述のように医薬応用に向けた抗体探索にはヒト抗体あるいはヒト型化抗体の作製が必要である。上記の(a)~(d)のヒト抗体およびヒト型化抗体取得技術は広く用いられているが、潜在的に以下のような問題点がある。例えば、(a)(b)(d)は候補抗体の作製がマウスへの免疫に依存するハイブリドーマ法によるため免疫寛容の問題があること、ファージディスプレーを用いる(c)は得られた抗体を完全抗体に改変する必要があること、(a)(b)(c)は多くの遺伝子組換え操作が必要で多数の候補抗体を扱う場合煩雑なることなどである(図2)。
【0014】
また、いったん取得した抗体の親和性や特異性を改良することはDT40-SWシステム以外の従来技術では容易ではない。DT40などの変異能力を有する細胞株は、本来保持する抗体遺伝子に変異を導入してライブラリーとして用いられてきた(Cumbers, S. J., et al. Nat. Biotechnol. 20, 1129-1134 (2002); Seo, H., et al. Nat. Biotechnol. 23, 731-735 (2005); Todo, K., et al. J. Biosci. Bioeng. 102, 478-481 (2006))。DT40を用いた抗体作製では免疫寛容は問題とならないが、得られた抗体はすべてニワトリIgM抗体であるため、現状では上記の(a)(b)の技術の応用が必要である。DT40-SWシステムを他の従来技術を比較した時、多くの優位性がDT40システムに見いだされることから(図2)、ヒト抗体産生型に改変したDT40-SWシステムの開発の重要性は明らかである。
【0015】
本発明者らは、上記の問題を解決するには、抗体作製システムが以下の(1)~(4)の特徴を備えていることが重要であると考えた。
【0016】
(1)免疫寛容を回避できるin vitro技術である。
【0017】
(2)抗体可変部遺伝子に変異が効率よく導入される。
【0018】
(3)抗体遺伝子が細胞表面に提示発現される。
【0019】
(4)抗体遺伝子が培地上清に分泌発現される。
【0020】
上記の(1)及び(2)は、有用な抗体を含む抗体ライブラリーの作製のために重要であり、(3)及び(4)は目的の抗体を産生する細胞をスクリーニングするために重要である。そのため、DT40細胞の特徴の一つである高頻度に起こる相同組換えを用いてニワトリ抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置換することにより、DT40-SW細胞をヒト型抗体産生型に変換する方法に思い至った(図3)。特に本発明では、DT40細胞の変異能力を有効に活用して有用な抗体ライブラリーを作製するために、変異導入される可変部領域をニワトリのままにし、定常部をヒト型に置換することが有効であると考えた(図4A)。この場合、産生される抗体は、ニワトリ-ヒトキメラ抗体であるが、定常部はヒト由来であることから医薬候補探索のための様々な試験に直接使用可能であり、候補探索の迅速化が可能となる(図4B)。産生されるヒト型抗体は、生体内で重鎖定常部を介した様々なエフェクター機能が期待できるIgG1であることが好ましいことから、今回、ヒトIgG1産生型DT40-SWを樹立することとした。また、軽鎖定常部は、ヒト体内で最も存在量の多いκ鎖を用いることとした。
【0021】
抗体遺伝子は、プロモーター下流に小胞体へのターゲティングに必要なシグナルを含むリーダーペプチドをコードするエキソン、可変部をコードするエキソン、および定常部をコードするエキソンから構成される(図4A)。重鎖の場合は、定常部は複数のエキソンから構成され、抗体が分泌型あるいは膜結合型として発現されるかは使用するエキソンの違いによって決定される。したがって、上記(2)~(4)のような特徴を備えた細胞を構築するためには、重鎖については定常部をコードするエキソンのうちCH1から分泌エキソンまでの領域をヒト由来IgG1抗体重鎖定常部遺伝子と置換し、軽鎖については定常部エキソンのみをヒト由来κ軽鎖定常部遺伝子と置換することが、最も効率的な方法であるとの着想に至った(図5)。その際、可変部遺伝子と定常部遺伝子の間にあるイントロンには、変異導入に重要な領域があると考えられているため、この領域を改変・除去することなく定常部の置換をすることが重要であると考えた。
【0022】
するDT40-SWを作製するためには、(i)ニワトリ抗体遺伝子の単離と構造解析、(ii)ニワトリ抗体遺伝子の定常部エキソンを置換するターゲティングベクターの構築が必要である。ゲノム解析の進展により、軽鎖抗体遺伝子領域は塩基配列が明らかになっていたが、重鎖については部分的な情報しか無く、未知領域を単離し、その配列の一部を明らかにした。明らかにした情報を基に重鎖および軽鎖抗体定常部遺伝子の置換のためのターゲティングベクターを作製しこれらのベクターを用いてキメラ抗体を産生する細胞の樹立に成功した。この細胞は、キメラ抗体を細胞表面および培養上清中に発現した。抗体可変部への変異導入を試みたところ、野生型DT40-SWが内在性の抗体遺伝子に変異導入する場合と同等の効率で変異導入することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0024】
[1] 細胞外刺激により外因性Creリコンビナーゼ遺伝子の発現が誘導され、発現されたCreリコンビナーゼにより外因性AID(activation induced cytidine deaminase)遺伝子の向きを反転させることにより、AID発現を誘導することおよび停止させることが可能な非ヒト脊椎動物B細胞であって、以下の特徴:
1)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、内因性AID遺伝子発現によるAIDタンパク質は産生されないこと、
2)互いに逆方向の2つのloxP配列で挟まれた外因性のAID遺伝子、および該2つのloxP配列で挟まれた領域の上流側に存在する該動物細胞で機能し得るプロモーターを有し、上記AID遺伝子が該プロモーターに対して順方向に配置されている場合には、該プロモーターによるAID遺伝子の発現が可能であり、上記AID遺伝子が該プロモーターに対して逆方向に配置されている場合には、AID遺伝子の発現は停止すること、および
3)Creリコンビナーゼ遺伝子が、細胞外刺激によりCreリコンビナーゼ活性化が可能な形で導入されており、Creリコンビナーゼ活性化により、上記外因性AID遺伝子を含む2つのloxP配列に挟まれた領域の方向が反転すること、
を有する上記B細胞の抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置換することを含む、ヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0025】
[2] 非ヒト脊椎動物B細胞のCreリコンビナーゼ遺伝子は、Creリコンビナーゼがエストロゲンレセプターとの融合タンパク質を発現するような形で存在し、上記細胞外刺激がエストロゲンまたはその誘導体による刺激であり、細胞を細胞外からエストロゲンまたはその誘導体で刺激することにより、細胞内でCreリコンビナーゼの活性化が誘導される、[1]のヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0026】
[3] 非ヒト脊椎動物B細胞の抗体遺伝子の定常部のみをヒト抗体遺伝子の定常部に置換する、[1]又は[2]のヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0027】
[4] 重鎖については定常部をコードするエキソンのうちCH1領域から分泌エキソンまでの領域をヒト由来IgG抗体重鎖定常領域と置換し、軽鎖については定常部エキソンのみをヒト由来κ軽鎖定常領域遺伝子と置換する、[1]~[3]のいずれかのヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0028】
[5] ヒト型抗体を産生するB細胞が定常部遺伝子の上流に存在するイントロンに含まれるスプライシング受容体配列及びスプライシングブランチポイント配列としてヒト抗体遺伝子由来のものを含み、定常部遺伝子の下流にあるポリA付加配列として非ヒト脊椎動物B細胞のものを含み、さらにスプライシング配列を含むヒト定常部遺伝子の上流にloxP配列で挟まれた薬剤耐性遺伝子を含む、[1]~[4]のいずれかのヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0029】
[6] 非ヒト脊椎動物B細胞の抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子への置換が前記B細胞の抗体遺伝子をターゲットとするターゲティングベクターを用いて行われる、[1]~[5]のいずれかのヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0030】
[7] 非ヒト脊椎動物B細胞がニワトリB細胞株DT40細胞に由来する細胞である、[1]から[6]のいずれかのヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0031】
[8] 非ヒト脊椎動物B細胞がニワトリB細胞株DT40-SW細胞である、[7]のヒト型抗体を産生するB細胞の作製方法。
【0032】
[9] [1]~[8]のいずれかの作製方法により得られた、ヒト型抗体を産生する非ヒト脊椎動物由来B細胞。
【0033】
[10] [9]のヒト型抗体を産生する非ヒト脊椎動物由来B細胞において、Creリコンビナーゼ遺伝子を活性化させ培養を行い抗体可変部遺伝子に変異を導入することを含む、ヒト型抗体変異ライブラリーを作成する方法。
【0034】
[11] ヒト型抗体を産生する非ヒト脊椎動物由来B細胞において、Creリコンビナーゼがエストロゲンレセプターとの融合タンパク質を発現するような形で存在し、細胞を細胞外からエストロゲンまたはその誘導体で刺激することにより、細胞内でCreリコンビナーゼの活性化が誘導され、抗体可変部遺伝子に変異を導入する、[10]のヒト型抗体変異ライブラリーを作成する方法。
【0035】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2010-258404号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0036】
本発明では、DT40-SW細胞を、ヒトIgG1型抗体を細胞表面に提示しかつ培養上清中にも分泌できるよう改良した。この細胞株DT40-SW-hgの抗体可変部遺伝子への変異能力は、すでに様々な抗原に対する抗体の作製に用いられているDT40-SWよりも優れており、より優れた抗体ライブラリーの作製を可能にする。さらに、DT40-SW-hgは、DT40-SWが備える有用な特徴:(i)変異と発現を一細胞内で一体的に行えるので変異抗体の作製が簡便である、(ii)細胞表面に抗体を提示し、抗原への結合に基づいた目的抗体の選択が容易であり、変異と選択による目的抗体の高機能化が簡便である、(iii)変異機能は任意に停止、再開できることから有用な変異の固定や再変異による抗体の改変が可能である、をすべて保持しており、かつ、抗体として取り扱いやすいヒトIgG1型抗体を産生する。抗体Fc部分がヒトIgG1であることから、Fc部分を介した様々な免疫反応、例えば、抗体依存性細胞傷害や補体依存性細胞障害といった、医薬利用を目的として有用な抗体を探索する時、必ず評価しなければならない抗体の機能を、DT40-SW-hgの抗体ライブラリーから単離されたクローンから産生されるヒトIgG1型の完全型抗体を直接用いることで迅速に評価できる。本発明で作製した細胞株を使用した抗体作製システムは、従来のヒト型抗体作製法で問題となっていた様々な問題を回避できることから、癌などの難治性疾患の治療に役に立つ抗体の開発を迅速化する重要な基盤技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】DT40-SWシステムの原理及び有用性を示す図である。DT40-SWライブラリー(1)から目的抗体産生細胞を単離し、変異機能をOFFにして安定化できる(3)。再度の変異導入と選択のサイクルを繰り返して抗体の親和性を改良することも可能である(2)。
【図2】従来法及び本発明の抗体作製技術の比較を示す図である。
【図3】ヒト型DT40-SWシステムにおけるヒトIgG1型としての抗体の機能改変と、ヒト型抗体ライブラリーからの抗体探索の方法を示す図である。
【図4】ヒト型抗体産生型DT40の作製方法の概略を示す図である。ニワトリ抗体定常部遺伝子をジーンターゲティングによりヒト抗体定常部遺伝子に置換してDT40細胞のゲノム上の抗体遺伝子を改変し(A)、ニワトリ抗体可変部とヒト抗体定常部のキメラ抗体を発現させる(B)。
【図5】ヒトIgG1κ定常部産生型DT40の作製の概略を示す図である。
【図6】ニワトリ抗体定常部遺伝子の置換方法の概略を示す図である。図6Aはターゲティングベクターの構造を、図6Bはターゲティング後の細胞の抗体遺伝子座の構造を、図6Cはターゲティング後の細胞を4-ヒドロキシタモキシフェンにより処理し、Creリコンビナーゼを活性化して薬剤耐性遺伝子を除去した後の抗体遺伝子座の構造を、図6Dはヒト抗体定常部産生型DT40-SW細胞の作製スキーム例を示す。
【図7】ヒトκ鎖定常部遺伝子ターゲティングベクターの構築のDT40-SWへの導入の方法を示す図である。AはChicken Cλ locusを、BはHuman Cκ targeting constructをCはHuman Cκ targeted locusを示し、図7左図はsIg発現の模式図である。
【図8】ヒトκ鎖定常部遺伝子ターゲティングベクターの構築を示す図である。
【図9】ヒトκ鎖定常部遺伝子の導入の確認の結果を示す図である。図9AはFACSによるsIg-クローンの選択を示し、図9Bはgenomic PCRによるtargeted locusの確認の結果を示す。
【図10】ヒトκ鎖高発現クローンの選択を示す図である。図10AはhCκ発現細胞のsorting(clone2)の結果を示し、4-OHT処理によりsIgを回復させた細胞についてsingle cell sortを行った結果である。図10BはセルソーティングによるhCκ高発現クローンの選択を示す。
【図11】DT40-SW-hkはニワトリ-ヒトキメラ軽鎖抗体遺伝子を転写することを示す図である。図11Aはニワトリ軽鎖可変部とヒトκ鎖定常部のキメラ転写産物を発現していることを示し、図11Bは増幅産物の配列解析の結果を示す。
【図12】ヒトCγ1 targeting constructとhIgG1-SW樹立のストラテジーを示す図である。図12AはChicken Cμ locusを、図12BはHuman Cγ1 targeting constructを、図12CはHuman Cγ1 targeted locusを示し、図12左図sIg発現の模式図である。
【図13】hCγ1 targeting constructの構築を示す図である。
【図14】ニワトリ膜型IgMの膜貫通領域の遺伝子配列を示す図である。
【図15-1】IgH3’arm の5’側部分配列を示す図である。
【図15-2】IgH3’arm の3’側部分配列を示す図である。
【図16】hCγ1導入の確認の結果を示す図である。図16AはFACSによるsIg-クローンの選択を示し、図16Bはgenomic PCRによるtargeted locusの確認を示す図である。
【図17】hIgG1高発現クローンの選択の結果を示す図である。図17AはhIgG1発現細胞のsortingを示し、4-OHT処理によりsIgを回復させた細胞についてsingle cell sortを行った。図17BはFACSによるhIgG1/hCκ高発現クローンの選択を示し、図17CはELISAによる抗体分泌の高いクローンの選択を示す図である。Standard(Human IgG)は、5~320ng/ml、Sample:1~64倍で系列希釈を行った。
【図18】DT40-SW-hgの増殖能力がDT40-SWと同等であることを示す図である。
【図19】DT40-SW-hgがchicken-human chimeric IgG1抗体遺伝子を転写することを示す図である。図19AはL鎖を、図19BはH鎖を示す。
【図20】DT40-SW-hgがヒトIgG1型抗体を発現することを示す図である。図20Aはα-hIgG(×1:タンパク量50μg)を、図20Bはα-hCκ(×1:タンパク量150μg)を、図20Cはα-cIgM(×1:タンパク量150μg)を示す。
【図21】DT40-SW-hgがヒトIgG1型抗体を分泌することを示す図である。図21AはhIgG1抗体分泌を、図21BはL鎖とH鎖の会合を、図21CはcIgM抗体分泌を示す。
【図22】DT40-SW-hgが抗体可変部へ高頻度に変異を導入することを示す図である。
【図23-1A】DT40-SW-hgが抗体可変部(重鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図であり(クローン1)、下線部はCDR領域を示す。
【図23-1B】DT40-SW-hgが抗体可変部(重鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図である(図23-1Aの続き)。
【図23-2A】DT40-SW-hgが抗体可変部(重鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図であり(クローン2)、下線部はCDR領域を示す。
【図23-2B】DT40-SW-hgが抗体可変部(重鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図である(図23-2Aの続き)。
【図23-3】DT40-SW-hgが抗体可変部(軽鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図であり(クローン1)、下線部はCDR領域を示し、欄外は遺伝子変換に用いられたと予想される偽遺伝子を示す。
【図23-4A】DT40-SW-hgが抗体可変部(軽鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図であり(クローン2)、下線部はCDR領域を示し、欄外は遺伝子変換に用いられたと予想される偽遺伝子を示す。
【図23-4B】DT40-SW-hgが抗体可変部(軽鎖可変部)へ高頻度に変異を導入することを示す図である(図23-4Aの続き)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明のヒト型抗体を産生するB細胞は非ヒト由来のB細胞を用いて以下のようにして作製する。

【0039】
本発明においてヒト型抗体を産生するB細胞を作製するための非ヒト由来のB細胞は、体細胞超変異に必須の役割を持つ酵素であるAID(activation-induced cytidine deaminase)を構成的、または誘導的に発現し、抗体の遺伝子に自発的な変異を導入する性質を有するものであれば、どのような細胞も用いることができる。由来動物種、細胞株種は限定されない。マウス、ヒツジ、ラット、ウサギ、ニワトリなどの脊椎動物のB細胞若しくはその細胞株又はそれらの変異株を用いることができる。好ましくはニワトリB細胞由来のDT40細胞株を用いる。DT40細胞株は、Bリンパ腫由来の細胞であり、第2染色体がトリソミーという特徴をもつ(Baba, T.W., Giroir, B.P. and Humphries, E.H.:Virology 144 : 139-151,1985)。DT40株としては、野生型DT40株又は本発明者らが独自に樹立したDT40-SW株(変異機能を司る遺伝子AIDの発現を可逆的にスイッチすることにより、その抗体変異機能をON/OFF制御できる変異株(詳細はKanayama, N., Todo, K., Reth, M., Ohmori, H. Biochem. Biophys. Res. Commn. 327:70-75 (2005)及び特開2006-109711号公報に記載されている))を用いることができる。

【0040】
該B細胞は、細胞外刺激により外因性Creリコンビナーゼ遺伝子の発現が誘導され、発現されたCreリコンビナーゼにより外因性AID(activation induced cytidine deaminase)遺伝子の向きを反転させることにより、AID発現を誘導することおよび停止させることが可能な脊椎動物B細胞であって、以下の特徴:
1)内因性のAID遺伝子が機能的に破壊されており、内因性AID遺伝子発現によるAIDタンパク質は産生されないこと、
2)互いに逆方向の2つのloxP配列で挟まれた外因性のAID遺伝子、および該2つのloxP配列で挟まれた領域の上流側に存在する該動物細胞で機能し得るプロモーターを有し、上記AID遺伝子が該プロモーターに対して順方向に配置されている場合には、該プロモーターによるAID遺伝子の発現が可能であり、上記AID遺伝子が該プロモーターに対して逆方向に配置されている場合には、AID遺伝子の発現は停止すること、および3)Creリコンビナーゼ遺伝子が、細胞外刺激によりCreリコンビナーゼ活性化が可能な形で導入されており、Creリコンビナーゼ活性化により、上記外因性AID遺伝子を含む2つのloxP配列に挟まれた領域の方向が反転すること、を有するB細胞である。

【0041】
該細胞を得るためには、まず、内因性のAID遺伝子を発現し得る任意の脊椎動物に由来する細胞の、内因性のAID遺伝子を機能的に破壊して内因性AID遺伝子の発現によるAIDタンパク質の産生が起こらないように細胞を改変するとよい。内因性AID遺伝子の両対立遺伝子の一方は、通常の手法にのっとりAID遺伝子ターゲティングベクターを作製して遺伝子破壊(ノックアウト)を行い、もう一方の対立遺伝子座には、Creリコンビナーゼによりその方向が反転し得るように構築された外因性のAIDをコードする遺伝子を含むDNA構築物を含有するAID遺伝子ターゲティングベクターを作製して、相同組換えを起こすことにより、内因性AID遺伝子は破壊され、外因性AID遺伝子の発現制御が可能な細胞を作製し得る。Creリコンビナーゼによりその方向が反転し得るように構築された外因性のAID遺伝子は、互いに逆方向の2つのloxP配列に挟まれている。さらに、この2つのloxP配列で挟まれた領域の上流側に、対象とする動物細胞において機能するプロモーターが存在し、相同組換えにより該プロモーターもゲノム上に挿入されるように、ターゲティングベクターを設計するとよい。このようにして、Creリコンビナーゼによりその方向が反転し得るように構築された外因性のAID遺伝子を細胞のゲノムに組込むことにより、該外因性AID遺伝子が上記プロモーターに対して順方向に配置されている場合は、該プロモーターによってAID遺伝子の発現が誘発される。言うまでもなく、該AID遺伝子が上記プロモーターに対して逆方向に配置された場合には、AID遺伝子の発現は起こらない。ここで用いる、適切なプロモーターは当業者であれば、様々なものを想到し得、適切なものを選択することができる。例えば、β-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーターが挙げられる。

【0042】
例えば、上記のCreリコンビナーゼ遺伝子は、Creリコンビナーゼがエストロゲンレセプターとの融合タンパク質を発現するような形で存在し、上記細胞外刺激がエストロゲンまたはその誘導体による刺激であり、細胞を細胞外からエストロゲンまたはその誘導体で刺激することにより、細胞内でCreリコンビナーゼの活性化が誘導される。エストロゲン誘導体刺激を細胞に与えると、Creリコンビナーゼの活性化が誘導される。したがって、細胞外からエストロゲン誘導体を作用させたときにのみ、Creリコンビナーゼが活性化し(ここで、上記融合タンパク質が核内に移行して、CreリコンビナーゼがloxP配列に作用し得ることを指す)、AID遺伝子を含むloxP配列に挟まれた領域が反転される。

【0043】
また、上記2つのloxP配列に挟まれた領域内に、AID遺伝子と同じ向きのマーカー遺伝子をさらに含んでいてもよく、ここで、AID遺伝子が該プロモーターに対して順方向に配置されている場合には該マーカー遺伝子も順方向に配置されているため該マーカー遺伝子が発現して、AID遺伝子が該プロモーターに対して順方向に配置されてAID遺伝子が発現可能である細胞を該マーカーにより選択可能となる。

【0044】
さらに、上記2つのloxP配列に挟まれた領域内に、AID遺伝子とは逆向きのマーカー遺伝子をさらに含んでいてもよく、ここで、AID遺伝子が該プロモーターに対して逆方向に配置されている場合には該マーカー遺伝子は順方向に配置されているため該マーカー遺伝子が発現して、AID遺伝子が該プロモーターに対して逆方向に配置されてAID遺伝子を発現できない細胞を該マーカーにより選択可能となる。

【0045】
このようなB細胞は、特許第4487068号公報の記載に従って得ることができる。

【0046】
本発明のヒト型抗体を産生するB細胞を作製するには、上記の非ヒト由来B細胞の抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子で置換する。この際、非ヒト由来B細胞が有する抗体の定常部の遺伝子をヒト抗体定常部の遺伝子で置換すればよい。

【0047】
抗体遺伝子の置換は、相同組換えにより行うことができる。このためには、本発明のヒト型抗体産生細胞の作製に用いる非ヒトB細胞の動物種の抗体遺伝子を単離し、構造を解析し、該抗体遺伝子の定常部エキソンを置換するターゲティングベクターを構築する。次いで、このようにして構築したターゲティングベクターを用いて上記非ヒトB細胞の抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置換する。

【0048】
ヒト抗体定常部遺伝子の具体的な導入方法の概略は以下の通りである(図6)。以下の方法では、ニワトリDT40-SWを用いる場合の方法を示す。

【0049】
(1)ターゲティングベクター
定常部遺伝子の上流約2kbpと下流2~5kbpを相同組換えに必要な領域として使用する。

【0050】
定常部遺伝子の上流のイントロンに含まれるスプライシング受容体配列およびスプライシングブランチポイント配列は、ヒト抗体遺伝子のものを使用する。

【0051】
定常部遺伝子の下流にあるポリA付加配列はニワトリ由来を使用する。

【0052】
loxP配列で挟まれた薬剤耐性遺伝子を、スプライシング配列を含むヒト定常部遺伝子の上流に配置する。

【0053】
(2)キメラ抗体産生細胞の作製
このターゲティングベクターが抗体定常部遺伝子に正しく導入されると、野生型(図6A)の抗体遺伝子の構造は図6Bのように変化する。薬剤耐性遺伝子により抗体遺伝子を分断しているので抗体遺伝子は不活性化して抗体を産生することはできない。したがって、薬剤耐性に加えて細胞表面上の抗体産生の消失をフローサイトメトリーによって解析することによって、ターゲティングが目的どおりに起こった細胞の候補を絞り込むことが可能である。想定通りの組み込みが起こっているかどうかについては、PCRあるいはサザンブロットによるゲノム遺伝子の解析により確認することができる。

【0054】
この方法で用いるDT40-SW細胞には、変異型エストロジェンレセプターとの融合タンパク質としてCreリコンビナーゼ(Mer-Cre-Mer)を発現させている。Mer-Cre-Merは、通常不活性型であるが、エストロジェンの誘導体の一つである4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)を培地中に添加することにより活性化させることができる(Zhang, Y. et al., Nucleic Acids Res. 24 543-548 (1996))。したがって、ターゲティングベクターを導入していったん抗体産生を失った細胞(図6B)に4-OHTを作用させると、Creリコンビナーゼが活性化してloxP配列で挟まれた薬剤耐性遺伝子が除去され、図6Cのような抗体遺伝子構造に変化する。この構造では、再度、抗体遺伝子の発現が可能になるので導入されたニワトリ抗体可変部とヒト抗体定常部とのキメラ抗体の発現が期待できる。キメラ抗体を細胞表面に発現するようになった細胞は、フローサイトメトリーなどによって単離することが可能である。

【0055】
抗体は、重鎖と軽鎖から構成されるので、図6Dのように軽鎖→重鎖あるいは重鎖→軽鎖の順に段階的に遺伝子組換えを進めて、キメラ抗体産生細胞を作製する。

【0056】
(3)外来抗体可変部遺伝子への変異導入
ヒトIgG1κ定常部産生型DT40-SWは、これまでに確立しているDT40-SWを用いたin vitro抗体作製方法と同様の操作により抗体可変部遺伝子への変異導入が可能である。この細胞は初期状態では変異導入機構はOFFであるが、4-OHTによる処理により変異をONにスイッチした細胞を作製できる。変異がONの細胞は緑色蛍光タンパク質を発現するのでフローサイトメトリーによるソーティングにより分離することができる。その後、培養を継続するだけで外来抗体可変部に変異が導入された細胞集団が生成する。この変異体ライブラリーから目的の特異性、親和性を有した抗体を産生する細胞を単離する。変異と選択を繰り返すことにより、取得抗体の親和性成熟も可能である。この方法では、細胞自身の保持する変異能力を使うことから、変異と選択の操作の連続化が容易である。取得された抗体の特性は、細胞の変異機能を4-OHTによる処理によりOFFにすることにより可能である。

【0057】
以上のようにこの方法により、DT40の抗体変異機能を損なわずにヒトIgG1κ定常部とのキメラ抗体を発現するDT40-SWを作製することができる。該細胞をDT40-SE-hgと呼ぶ。この細胞は従来のDT40-SWと全く同様に抗体作製に使用することが可能であり、得られるヒトIgG1型抗体は、ヒト抗体定常部を介したエフェクター機能について様々な評価に直接使用できることから、医薬開発に向けた迅速な候補抗体の取得のための技術として極めて有用である。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(A)ニワトリ抗体軽鎖定常部遺伝子のヒト抗体κ鎖定常部遺伝子への置換
1)ヒトκ鎖定常部遺伝子ターゲティングベクターの構築
図6に示した概略に沿って、ニワトリ軽鎖定常部をヒトκ鎖定常部に置換する方法を図7に示す。ターゲティングベクターの構築にあたって、上述の項目に加えて次の点に特に工夫した。(i) 遺伝子発現や変異導入に関わる因子であるmatrix attachment region (MAR)や3’エンハンサー (3’E)を改変・削除しない様にターゲティングアームを設計した、(ii) ベクターに組み込むヒトκ鎖定常部(Cκ)遺伝子を含む断片にはヒトCκ上流部分のイントロンにスプライシングアクセプター配列およびブランチポイント配列もふくまれるようにした、(iii) ベクターに組み込むヒトCκ遺伝子断片にはポリA付加配列は含ませず、ニワトリ抗体軽鎖遺伝子上のポリA配列が使用されるようにした。
【実施例】
【0060】
以下に、ターゲティングベクターの構築手順を示す(図8)。ニワトリ軽鎖遺伝子は、すでにクローニングされており(Reynaud, C.-A., et al., Cell 40, 283-291 (1985))、ゲノム解析により周辺の塩基配列も明らかになっている(International Chicken Genome Sequencing Consortium, Nature 432, 695-716 (2004))。ニワトリ抗体軽鎖可変部周辺の遺伝子断片を得るために、明らかになっている配列を基にしてプライマーをデザインし、PCRによって遺伝子断片を得た。DT40-SWのゲノムDNAから定常部上流の5’側ターゲティングアーム(IgCL5’)に用いる遺伝子断片を、プライマーIgLD511 (5’-GAGTCGCTGAACTAGTCTCGGTCTTTCTTCCCCCATCG-3’(配列番号5)、ACTAGTはSpeIサイト)とcCL5-Bam2 (5’-ACGGATCCATATCTATTTTCATGGATGTTATACGTGTGCG-3’(配列番号6)、GGATCCはBamHIサイト)およびKOD-Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡)を用いてPCRによって増幅し、SpeIとBamHIで処理した後、pBluescriptIISK(-)に組込んだ。同様にして、定常部下流の3’側ターゲティングアーム(IgCL3’)に用いる遺伝子断片をプライマーcCL3-HindIII (5’-CTAAGCTTCCCACTGGGGATGCAATGTGAGGACAGT-3’(配列番号7)、AAGCTTはHindIIIサイト)とcCL3-Kpn2 (5’-TGCGATCCAGGTACCACGATAGCACTGCCTGCCTCCATC-3’(配列番号8)、GGTACCはKpnIサイト)を用いて増幅し、HindIIIとKpnIで処理した後、pBluescriptIISK(-)中のIgCL5’の下流に組込んだ。さらに、human Burkitt's lymphoma 細胞株 Daudi (Riken cell bankより入手)のゲノムDNAから、hCkを含む遺伝子断片をプライマーhCk5-Bam (5’-CTAAACTCTGAGGGGATCCGATGACGTGGCCATTCTTTGC-3’(配列番号9)、GGATCCはBamHIサイト)とhCk-HindIII(5’-GTAAGCTTCTAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTCTTTGTGA-3’(配列番号10)、AAGCTTはHindIIIサイト)を用いて増幅し、BamHIとHindIIIで処理した後、IgCL5’とIgCL3’の間に挿入した。さらに、両端にloxP配列を持つBlasticidin S耐性遺伝子(Bsr) (Arakawa, H., et al. BMC Biotechnol. 1, 7 (2001))をhCkの直上部のBamHIサイトに組込んだ。
【実施例】
【0061】
2)ヒトκ鎖定常部遺伝子ターゲティングベクターを組み込んだDT40-SWの作製
(A)-1)で作製したヒトCκ遺伝子ターゲティングベクター15μgをNotIで切断して直鎖化し、1×107細胞のDT40-SWと混合して500μlの懸濁液とし、4mmギャップのエレクトロポレーションキュベットに添加して、550V、25μFの条件で電気穿孔を行った。エレクトロポレーション法にはGene Pulser Xcell (バイオラッド社)を用いた。電気穿孔後、細胞を10mlの増殖培地(PRMI1640、Invitrogen社;10%ウシ胎児血清、Invitrogen社;1%ニワトリ血清、Sigma社)に懸濁して24時間培養後、10mlの2×選択培地(増殖培地+ブラストサイジンS(科研製薬))を添加し、終濃度20μg/mlの濃度のブラストサイジンSとして96穴プレート2枚に分注して10~14日間培養した。4回の試行でブラストサイジンSにより選択されたコロニーが139クローン得られた。
【実施例】
【0062】
コロニーを形成した細胞を、R-phycoerythrin (R-PE) labeled mouse anti-chicken IgM mAb (クローンM1、Southern Biotechnology社)で染色し、FACS Calibur (BD Bioscience社)で解析した。目的どおり、ターゲティングされた細胞は、抗体重鎖を発現できることが期待できることから、抗ニワトリIgM抗体で染色されない3クローンを選択した(図9A)。遺伝子レベルでの確認をするために、これらの細胞からゲノムDNAを抽出し、ターゲティングベクターの組み込みを、ターゲティングベクターの外側領域に対するプライマーとベクターに特異的なプライマー、すなわち、上流領域ではプライマーLLF1 (5’- CCATCGGCGTGGGGACACACAGCTGCTGGGATTCC-3’(配列番号11))とBSR2 (5’- GTGATGATGAGGCTACTGCTGACTCTCAACATTCTACTCCTCC -3’(配列番号12))、下流領域ではHck-F2 (5’- GAGAGGCCAAAGTACAGTGGAAGGTGGATAACGCCCTCC -3’(配列番号13))とcCL3-dn6 (5’- GGAGCTGTACCATGCGGCCTGCTCTGCTGATGCCATGTCG -3’(配列番号14))を用いてPCRにより確認した(図9B)。クローン2と3で目的どおりターゲティングされたことを示すPCR産物の特異的な増幅が見られた。このうちクローン2を以降の操作に用いた。
【実施例】
【0063】
3)ヒトκ鎖定常部の発現
クローン2について、以前に報告したように50 nMの4-OHTで処理(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75 (2005))することによって薬剤耐性遺伝子を除去した。薬剤耐性遺伝子が除去された細胞では、抗体の発現が回復していることが期待される。細胞表面の抗体の発現をmouse anti-chicken IgM mAb クローンM1あるいはクローンM4(Riken Cell Bank)およびmouse anti-human Ig k light chain(BD Bioscience社)によって染色し、フローサイトメトリーで解析したところ、細胞表面のIgMとヒトκ鎖の両方を発現する細胞が出現していることが確認された(図10A)。FACS Ariaを用いてヒトCκを高発現する細胞をsingle cell sortingしたところ、これらはニワトリIgMとヒトCκを細胞表面に高発現していた。また、培養液中にもニワトリμ鎖とヒトκ鎖が会合した抗体が分泌されていることがELISAによって確認され、確認したくクローンはすべて薬剤耐性を失っていた。これらのうち、代表的なクローンをDT40-SW-hkと命名し以降の検討をおこなった。
【実施例】
【0064】
DT40-SW-hkに組み込んだヒトCκ遺伝子の転写レベルの発現をRT-PCRによって解析した。DT40-SW-hkの全RNAをTRIzol (Invitrogen社)によって抽出し、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen社)とオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、軽鎖の増幅のためにセンスプライマー(CLL5-Bam: 5’- CGGCGTGGGGATCCACAGCTGCTGGGATTC-3'(配列番号15))とアンチセンスプライマー(cCMUCLAR: 5’- GGAGCCATCGATCACCCAATCCAC -3’(配列番号16))あるいは(hck-RT2: 5’- CTCATCAGATGGCGGGAAGATGAAGACAGATGGTGCAGCC -3’(配列番号17))を用い、また、内部標準としてβアクチンの転写産物をプライマーactin3 (5’-CTGACTGACCGCGTTACTCCCACAGCCAGC-3’(配列番号18))とactin4 (5’-TTCATGAGGTAGTCCGTCAGGTCACGGCCA-3’(配列番号19))を用いて増幅した。その結果、DT40-SW-hkはニワトリ抗体軽鎖を発現せず、ニワトリ軽鎖可変部とヒトκ鎖定常部のキメラ転写産物を発現していることが確認された(図11A)。また、増幅産物の配列解析を行ったところ、エキソンの結合は正常であり、抗体軽鎖タンパク質を目的どおりコードする転写産物であることが確認された(図11B)。
【実施例】
【0065】
(B)ニワトリ抗体μ鎖遺伝子のヒト抗体γ1鎖遺伝子への置換
1)ヒトγ1鎖遺伝子ターゲティングベクターの構築
図4に示した概略に沿って、ニワトリμ鎖(Cμ)遺伝子をヒトγ1鎖 (Cγ1) 遺伝子に置換する方法を図12に示す。ターゲティングベクターの構築にあたって、次の点を工夫した。(i) 遺伝子発現や変異導入に関わる因子であるμエンハンサー(Eμ)を改変・削除しないようにターゲティングアームを設計した、(ii) 5’側のターゲティングアームは、定常部のすぐ上流には繰り返し配列の多いスイッチ領域(Sμ)があるためSμの上流領域に設定する、 (ii)ニワトリCμ遺伝子のCH1、CH2、CH3、CH4、分泌型C末端エキソンを、ヒトCγ1遺伝子のうちCH1、ヒンジ、CH2、CH3、分泌型C末端エキソンと置換し、膜貫通ドメインエキソンはニワトリμ鎖遺伝子のものを残す、(iii) ヒトCγ1遺伝子断片にはCγ1上流部分のイントロンにスプライシングアクセプター配列およびブランチポイント配列もふくまれるようにする、(iv) ヒトCγ1遺伝子断片には分泌型C末端下流のポリA付加配列は含ませず、ニワトリCμの分泌型C末端下流のポリA配列が使用されるようにする。以下に、ターゲティングベクターの構築手順を示す(図13)。Sμの上流領域の5’側ターゲティングアーム(cIgH5’arm)に用いる遺伝子断片をえるために、Sμ付近の塩基配列 (Kitao, H. et al. Int. Immunol. 12, 959 (2000); accession no. AB029075)からプライマーJCF_Sac4 (5’- AAATGGCCGAATTGAGCTCGGCCGTTTTACGGTTGGGTTC -3’(配列番号20)、GAGCTCはSacIサイト)とJCR_Bam2 (5’- CTCATCATTCAGTATCGATGGATCCTTAATTACTCCCACG -3’(配列番号21)、GGATCCはBamHIサイト)をデザインし、DT40-SWのゲノムDNAからPCRによって増幅した。得られた遺伝子断片は、pCR-Blunt (Invitroten社)に組込み、塩基配列を確認した(図13A)。3’側ターゲティングアーム(cIgH3’arm)に用いるニワトリCμ遺伝子の分泌型C末端エキソンより下流の遺伝子情報は公開されていないため、ニワトリ分泌型IgMのmRNAの配列 (Dahan, A. et al
. Nuclec Acids Res. 11, 5381 (1983); accession no. X01613)からCH4ドメインに対するセンスプライマーcCmu4-F1 (5’- GGCTCAGCGTCACCTGCATGGCTCAGG-3’(配列番号22))をデザインし、膜型IgMの膜貫通領域遺伝子の下流の3’UTRに対するプライマーmCmyu3’ (5’-CCTTGATTTCGAAGTGGAGAAGACGTCGGGAGGTGGAGA-3’(配列番号23); Sayegh, C. E., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96, 10806 (1999))とともに用いてPCRによって遺伝子断片を増幅し、pCR-BluntにクローニングしてTM1エキソンおよびTM2エキソンにコードされる膜貫通領域遺伝子および3’UTRの一部の配列を明らかにした(図14)。ニワトリ分泌型IgMの塩基配列と図14に示したTM1の配列を基にプライマーCH4F4 (5’- TGGATAGGGCTTCGGGTAAAGCAAGTGCTGTCAATGTCTC -3’(配列番号24))とTM1R2 (5’-ATGAAGGTGGAGGTGGTGGCCCAAAGGCGTTGGATGTCG-3’(配列番号25))をデザインし、これらを用いたPCRによってニワトリCμ遺伝子のCH4とTM1の間のゲノムDNAを用いて増幅した。この断片の増幅にはKOD-FX(東洋紡)を用いた。得られた遺伝子断片をpCR-Bluntにクローニングし、5’側および3’側より部分配列を決定した(図13B、図15)。ヒトCγ1遺伝子断片は、human Burkitt's lymphoma 細胞株 DaudiのゲノムDNAを鋳型としてプライマーhIgG1F1 (5’-ACGGATCCTGCAAGCTTTCTGGGGCAGGCCAGGCCTGACC-3’(配列番号26)、GGATCCはBamHIサイト)とhIgG1R1 (5’-CGGCGGCCGCACTCATTTACCCGGAGACAGGGAGAGGCTC-3’(配列番号27)、GCGGCCGCはNotIサイト)を用いて増幅し、pCR-Bluntにクローニングし、配列を確認した(図13C)。cIgH3’armの上流のNotIサイトにhCγ1遺伝子を含むNotI断片を挿入し(図13D)、cIgH3’armとhCγ1遺伝子を連結したBamHI-EcoRI断片をpBluescriptIISK(-)に挿入した(図13E)。さらに、hCγ1の上流のSacI-BamHI領域にcIgH5’armを挿入し(図13F)、最後にcIgH5’armとhCγ1の間のBamHIにloxPで挟まれたブラストサイジン耐性遺伝子を挿入した(図13G)。
【実施例】
【0066】
2)ヒトγ1鎖遺伝子ターゲティングベクターを組み込んだDT40-SWの作製
(B)-1)で作製したヒトCγ1遺伝子ターゲティングベクター15~40μgをNotIで切断して直鎖化し、1×107細胞のDT40-SWと混合して500μlの懸濁液とし、4mmギャップのエレクトロポレーションキュベットに添加して、550Vまたは700V、25μFの条件で電気穿孔を行った。エレクトロポレーション法にはGene Pulser Xcellを用いた。電気穿孔後、細胞を10mlの増殖培地に懸濁して24時間培養後、終濃度20μg/mlの濃度のブラストサイジンSを含む増殖培地20mlに懸濁し、96穴プレート2枚に分注して10~14日間培養した。17回の試行でブラストサイジンSにより選択されたコロニーが207クローン得られた。
【実施例】
【0067】
目的どおりターゲティングされた細胞は、抗体重鎖を発現できなることが期待できることから、コロニーを形成した細胞をR-PE labeled mouse anti-chicken IgM mAbクローンM1で染色し、FACS Caliburで解析した。その結果、抗ニワトリIgM抗体で染色されない1クローンを得た(図16A)。
【実施例】
【0068】
遺伝子レベルでの確認をするために、これらの細胞からゲノムDNAを抽出し、ターゲティングベクターの組み込みを、ターゲティングベクターの外側領域に対するプライマーとベクターに特異的なプライマー、すなわち、上流領域ではプライマーJCF5 (5’-TAATCGGTACTTTTTAATCCTCCATTTTGCCCGAAATCGC-3’(配列番号28))とBSR3 (5’-CTGTGGTGTGACATAATTGGACAAACTACCTACAGAG-3’(配列番号29))、下流領域ではhIgGF5 (5’-TGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGC-3’(配列番号30))とTM1R4 (5’-CCTTGATGAGGGTGACGGTGGCGCTGTAGAAGAGGCTG-3’(配列番号31))を用いてPCRにより確認した(図16B)。sIg- であるクローンD2では目的どおりターゲティングされたことを示すPCR産物の特異的な増幅が見られた。今回の試行では、目的の細胞の取得効率が極めて悪いが、その後のトランスフェクション法の条件の最適化によって効率的な細胞株樹立法を確立している。
【実施例】
【0069】
3)ヒトIgG1型抗体の発現
クローンD2を50nMの4-OHTで処理することによって薬剤耐性遺伝子を除去した。剤耐性遺伝子が除去された細胞では、抗体の発現が回復していることが期待される。細胞表面の抗体の発現をbiotin化mouse anti-human IgG1 mAb (ZYMED社)およびPE-CyTM5 Streptavidin (BD Pharmingen社)によって染色し、フローサイトメトリーで解析したところ、細胞表面のヒトIgG1を発現する細胞が出現していることが確認された(図17A)。FACS Ariaを用いてヒトIgG1を高発現する細胞をsingle cell sortingし、得られたコロニーのフローサイトメトリー解析でヒトIgG1とヒトκ鎖を高発現する3クローンを選択した(クローン25,49,53)(図17B)。これらのクローンが薬剤耐性遺伝子を失っていることをPCRで確認し、これらのクローンの培養上清中の抗体分泌をELISAによって検討した。500倍希釈したgoat anti-human IgG Fc (Betyl社)を96ウェルプレート(Greiner社)上に結合させ、系列希釈してプレート上に結合させたサンプル上清中のヒトIgG1型抗体を500倍希釈したperoxidase-conjugated goat anti-human IgG Fc (KPL社)を用いて検出したところ、3クローンとも同等の分泌量が認められ、この方法により作成されたヒトIgG1型抗体産生型DT40が、膜型および分泌型抗体の両方の発現が可能であることが示された(図17C)。これらのうち、代表的なクローン25をDT40-SW-hgと命名し詳細な検討をおこなった。
【実施例】
【0070】
DT40-SW-hgの増殖能力をDT40-SWと比較したところ、同等の増殖を示した(図18)。すなわち、ヒト型抗体の発現は、変異をONにして長期に培養した場合も変異導入に重要な増殖過程には影響がないことが確認された。
【実施例】
【0071】
DT40-SW-hgに組み込んだヒトCγ1遺伝子およびヒトCκ遺伝子の転写レベルの発現をRT-PCRによって解析した。DT40-SW-hgの全RNAをTRIzolによって抽出し、Superscript II逆転写酵素とオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、軽鎖はセンスプライマーCLL5-BamとアンチセンスプライマーcCMUCLARあるいはhck-RT2を用いて増幅し、重鎖はセンスプライマーChicken LH5-Eco (5’-GCCGGAATTCCGACGGAGGAGCACCAGTCG-3’(配列番号32))とアンチセンスプライマーcCmu2-R (5’-TTGTACCACGTGACCTCGGTGGGACGGCG-3’(配列番号33))またはhCg1-1R (5’-CTCTTGGAGGAGGGTGCCAGGGGGAAGACC-3’(配列番号34))を用いて増幅した。その結果、DT40-SW-hgはニワトリ抗体を発現せず、ニワトリ抗体可変部とヒト抗体定常部のキメラ転写産物を発現していることが確認された(図19)。
【実施例】
【0072】
DT40-SW-hgに組み込んだヒトCγ1遺伝子およびヒトCκ遺伝子の発現を、細胞表面および細胞内のタンパク質レベルで確認するためにWestern blotを行った。回収した細胞をPBS(-)で洗浄し0.1%TritonX100および1/100体積のProtease inhibitor(nacalai tesque社)を加えたPBS(-)で5×106cells/200μlの割合で細胞を懸濁し、15秒vortexした後、30min、on iceで静置した。この間、10min毎に撹拌した。12,000rpm、10min遠心分離後、上清を回収し、無細胞抽出液とした。無細胞抽出液のタンパク質濃度をBCA Protein Assay Kit (PIERCE)で決定し、50μgまたは150μgの無細胞抽出液を12.5%SDS-PAGEにて分離した。分離したタンパク質は、polyvinylidene fluoride (PVDF)膜(Immobilon-P, Millipore社)に転写して各抗体と反応させた後、ECL Advance Western Blotting Detection Kitを用いて検出した。化学発光は、ChemiDoc XRS system (Bio-Rad Laboratory 社)でデータを取り込んだ。抗体は、ヒトIgG Fcの検出には5000倍希釈したperoxidase labeled goat anti-human IgG Fc、ヒトκ鎖の検出には200倍希釈したbiotin化mouse anti-human Ig k light chain (BD pharmigen社)と100000倍希釈したstreptavidin-HRP Conjugate (ZYMED社)、ニワトリIgMの検出には10000倍希釈したperoxidase conjugated goat anti-chicken IgM (mu chain) (ROCKLAND社)を用いた。その結果、DT40-SW-hgは、約55kDaのヒトIgG1 Fcを含む重鎖と約25kDaのヒトCκを含む軽鎖を発現しており、ニワトリIgMは発現していないことが示された(図20)。アミノ酸配列から推定されるニワトリ-ヒトキメラ抗体の重鎖の分子量は56kDa、軽鎖鎖は28kDaで、ほぼ予測通りの分子量のタンパク質の発現が確認された。
【実施例】
【0073】
さらに、DT40-SW-hgからのヒトIgG1型抗体の分泌をFc部分に対する抗体を用いたELISAで確認しただけでなく、ヒトγ1鎖とヒトκ鎖の会合もそれぞれの特異的抗体を用いてELISAで調査した(図21)。ヒトγ1鎖とヒトκ鎖の会合は、goat anti-human IgG Fc(500倍希釈)、Biotin化 mouse anti-human Ig k Light Chain (500倍希釈)、Streptavidin-HRP Conjugate (1000倍希釈)を用いて検出し、ニワトリIgMはgoat anti-chicken IgM (mu chain) (Betyl社)(500倍希釈)とperoxidase-conjugated goat anti-chicken IgM (mu chain) (ROCKLAND)(1,000倍希釈)を用いて検出した。系列希釈した培養上清を用いて分泌抗体の解析を行ったところ、DT40-SW-hgはニワトリIgMを分泌せず(図21C)、ヒトIgG1型抗体のみを分泌し(図21A)、分泌された抗体はヒトγ1鎖とヒトκ鎖が会合した状態であることが確認された(図21C)。すなわち、DT40-SW-hgは、ニワトリ抗体可変部とヒト抗体定常部のキメラ重鎖とキメラ軽鎖が安定に会合したキメラ抗体を、細胞表面と培養上清に発現可能な有用な細胞株であることが示された。
【実施例】
【0074】
(C)ヒトIgG1型抗体産生DT40-SW(DT40-SW-hg)における抗体可変部への変異導入
DT40-SW-hgの変異機構を以前に報告済みの方法によりONにして抗体可変部への変異導入を解析した(Kanayama, N., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 327, 70-75 (2005))。4-OHTによって細胞を処理後、GFP+の細胞、すなわち、変異導入に必須のAIDの発現がONになった細胞を、FACSAriaを用いたフローサイトメトリーによって単一細胞として単離し、独立した2クローンを5mlスケールで5×105cells以上かつover growthしない状態で維持して41日間培養した。培養した細胞からゲノムDNAを単離し、重鎖可変部はプライマーCVH1F2 (5’- GGCGGCTCCGTCAGCGCTCTCT-3’(配列番号35))およびCJH1R2 (5’-GCCGCAAATGATGGACCGAC-3’(配列番号36))を用いて、軽鎖可変部はプライマーCVLF61 (5’- GGCACGGAGCTCTGTCCCATTGCTG -3’(配列番号37))およびCVLR31 (5’- CCCCAGCCTGCCGCCAAGTCCAAG -3’(配列番号38))を用いてPCRによって増幅し、pCR-Bluntベクターにクローニングした。プラスミドDNAは、High Pure Plasmid Isolation Kit (Roche)を用いて抽出し、ABI PRISM Big Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用いてSequence反応をおこない、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)を用いて塩基配列を解析した。41日間培養後のサンプルの塩基配列を、変異をONにする前の元の塩基配列と比較したところ、DT40-SW-hgの抗体可変部遺伝子には重鎖および軽鎖の両方においてオリジナル株であるDT40-SWと比べて多数の変異が導入されていた(図22)。DT40-SW-hgは、塩基あたりの変異導入効率においても解析クローンに占める変異を有するクローンの割合においてもDT40-SWと比べて高い頻度での変異導入が認められ、抗体ライブラリーを作製するのに十分な変異能力を備えていることが示唆された。また、可変部遺伝子に導入された変異の分布をみると、様々な部位に変異が導入されていた(図23-1~図23-4)。
【実施例】
【0075】
すなわち、これらの結果は、DT40-SW-hgの変異能力をONにして一定期間培養することにより、任意の抗原に対する抗体が含まれた抗体ライブラリーを形成可能であることが示唆しており、DT40-SW-hgが抗体作製において有用な細胞株であること保証するものである。
【実施例】
【0076】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15-1】
14
【図15-2】
15
【図16】
16
【図17】
17
【図18】
18
【図19】
19
【図20】
20
【図21】
21
【図22】
22
【図23-1A】
23
【図23-1B】
24
【図23-2A】
25
【図23-2B】
26
【図23-3】
27
【図23-4A】
28
【図23-4B】
29