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明細書 :ホスファチジルセリンの定量方法及び定量用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5800830号 (P5800830)
登録日 平成27年9月4日(2015.9.4)
発行日 平成27年10月28日(2015.10.28)
発明の名称または考案の名称 ホスファチジルセリンの定量方法及び定量用キット
国際特許分類 C12Q   1/44        (2006.01)
C12Q   1/26        (2006.01)
C12Q   1/28        (2006.01)
FI C12Q 1/44
C12Q 1/26
C12Q 1/28
請求項の数または発明の数 3
全頁数 13
出願番号 特願2012-545787 (P2012-545787)
出願日 平成23年11月24日(2011.11.24)
国際出願番号 PCT/JP2011/077049
国際公開番号 WO2012/070617
国際公開日 平成24年5月31日(2012.5.31)
優先権出願番号 2010263706
優先日 平成22年11月26日(2010.11.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年8月22日(2014.8.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
発明者または考案者 【氏名】森田 真也
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】森井 文緒
参考文献・文献 特表2003-524762(JP,A)
国際公開第2007/078806(WO,A2)
HOJJATI M.R. et al.,Rapid, specific, and sensitive measurements of plasma sphingomyelin and phosphatidylcholine.,J. Lipid Res.,2006年,Vol.47, No.3,p.673-676
PEINADO J. et al.,Enzymatic determination of cholesterol, L-amino acids and linoleic acid with a novel redox indicator system.,Anal. Chim. Acta.,1986年,Vol.184,p.235-242
調査した分野 C12Q 1/44
C12Q 1/26
C12Q 1/28
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
試料中のホスファチジルセリンの定量方法であって、
(1)試料にホスホリパーゼD及びL-アミノ酸オキシダーゼを作用させる工程、並びに
(2)前記(1)工程で生成するH量を測定し、予め求めた検量線からホスファチジルセリンを定量する工程
を有し、上記(2)工程におけるH量の測定を、Hにペルオキシダーゼを作用させることにより生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定することにより行うことを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記(1)工程においてホスホリパーゼDに代えて、ホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(I)ホスホリパーゼD、又はホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼ、(II)L-アミノ酸オキシダーゼ、並びに(III)ペルオキシダーゼを含むホスファチジルセリンの定量用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はホスファチジルセリン(phosphatidylserine、以下PSということもある)の定量方法、及びホスファチジルセリンの定量用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ホスファチジルセリンは、グリセロリン脂質の一種である。PSとは、構造上、グリセロール骨格の3位にリン酸セリンが結合し、1位と2位にさまざまな鎖長・二重結合数のアシル鎖が結合したものを指す(図1)。PSは、原核細胞ならびに真核細胞の細胞膜を構成するリン脂質成分の一つである。細胞膜における総リン脂質に対してPSの占める割合は、概して小さいが、細胞のさまざまな機能において重要な役割を担っている。ホスファチジルセリンは、血液凝固反応の補助因子として働くことが知られており、アポトーシスを誘発した細胞においてホスファチジルセリンの細胞表面への露出が観察される。ヒトならびに動物の血中において、PSはリポタンパク質の構成成分として存在している。
【0003】
そのため、PSの機能の研究等のために優れたPSの定量法が要望されている。現在までに用いられているPSの分析法としては、TLC-リン定量法(例えば、非特許文献1)、HPLC、質量分析(例えば、非特許文献2)、及び蛍光標識アネキシンV染色が挙げられる。
【0004】
TLC-リン定量法は、従来、広く用いられてきたが、検出感度が低く、操作に時間と手間がかかり、多数の試料を扱うには不向きであった。
【0005】
HPLCと紫外吸収検出器を組み合わせたPSの分析では、PSのアシル鎖の二重結合を検出するため、アシル鎖の種類に依存しないPS総量の正確な測定は行えない。また、HPLCと蒸発光散乱検出器を組み合わせたPSの分析では、PSのアシル鎖に依存せずにPSを定量できるが、培養細胞などに含まれる少量のPSを定量するには検出感度が不十分である。
【0006】
質量分析を用いたPSの分析では、検出感度は高いが、PS分子のアシル鎖の違いも区別して検出してしまうため、PS総量の測定は非常に困難である。
【0007】
蛍光標識アネキシンV染色は、アネキシンVとPSの特異的結合を利用して、細胞表面に現れたPSを染色することで、アポトーシスの判定に用いられている。しかし、PSに対する定量性は無い。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Stone, S. J., Cui, Z. and Vance, J. E. (1998) Cloning and expression of mouse liver phosphatidylserine synthase-1 cDNA. Overexpression in rat hepatoma cells inhibits the CDP-ethanolamine pathway for phosphatidylethanolamine biosynthesis. J Biol Chem 273, 7293-7302
【非特許文献2】Taguchi, R., Houjou, T., Nakanishi, H., Yamazaki, T., Ishida, M., Imagawa, M. and Shimizu, T. (2005) Focused lipidomics by tandem mass spectrometry. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 823, 26-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のPSの分析法には前述するような問題があり、少量のPSを高精度に定量する方法は存在しなかった。
【0010】
そこで、本発明は、PSを高感度且つ高精度で簡便に定量できるホスファチジルセリンの定量方法、及びホスファチジルセリンの定量用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、図2に示す一連の酵素反応を用いることによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。図2に示すホスファチジルセリンの定量方法について以下説明する。
(i) ホスホリパーゼDによりPSを加水分解することで、セリンとホスファチジン酸を生成させる。
(ii) L-アミノ酸オキシダーゼによりセリンを酸化させ、H2O2、NH3及び2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸を生成させる。
(iii) 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンとH2O2をペルオキシダーゼにより反応させることで、レゾルフィンを生成させる。レゾルフィンから生じる蛍光強度を測定することにより、PS量を求めることができる。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のホスファチジルセリンの定量方法、及びホスファチジルセリンの定量用キットを提供するものである。
【0013】
(I)ホスファチジルセリンの定量方法
(I-1) 試料中のホスファチジルセリンの定量方法であって、
(1)試料にホスホリパーゼD及びL-アミノ酸オキシダーゼを作用させる工程、並びに
(2)前記(1)工程で生成するH2O2量を測定し、予め求めた検量線からホスファチジルセリンを定量する工程
を有することを特徴とする方法。
(I-2) 前記(2)工程におけるH2O2量の測定を、H2O2にペルオキシダーゼを作用させることにより生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定することにより行うことを特徴とする、(I-1)に記載の方法。
(I-3) 前記(2)工程に代えて、(2')前記(1)工程における(a)酸素の減少量、(b)アンモニアの増加量、又は(c)2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸の産生量、を測定することによりホスファチジルセリンを定量する工程を有することを特徴とする、(I-1)に記載の方法。
(I-4) 試料中のホスファチジルセリンの定量方法であって、
(1')試料にホスホリパーゼDを作用させる工程、及び
(2'')前記(1')工程で生成するセリン量を測定することによりホスファチジルセリンを定量する工程
を有することを特徴とする方法。
(I-5) 前記(1)工程においてホスホリパーゼDに代えて、ホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼを使用することを特徴とする、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載の方法。
(I-6) 前記(1')工程においてホスホリパーゼDに代えて、ホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼを使用することを特徴とする、(I-4)に記載の方法。
(I-7) 前記(2)工程におけるH2O2量の測定を、H2O2に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンとペルオキシダーゼを作用させることにより生成するレゾルフィンの蛍光強度を測定することにより行うことを特徴とする、(I-1)又は(I-2)に記載の方法。
【0014】
(II)ホスファチジルセリンの定量用キット
(II-1) ホスホリパーゼD、又はホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼを含むホスファチジルセリンの定量用キット。
(II-2) 更にL-アミノ酸オキシダーゼを含むことを特徴とする、(II-1)に記載のキット。
(II-3) 更にペルオキシダーゼを含むことを特徴とする、(II-2)に記載のキット。
(II-4) 更に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンを含むことを特徴とする、(II-3)に記載のキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明のホスファチジルセリンの定量方法及び定量用キットは、高感度、高精度且つ簡便なホスファチジルセリンの定量が可能であり、また、ホスファチジルセリンの定量のハイスループット化が可能である。更に、本発明の定量方法により、これまで困難であった培養細胞内に含まれる少量のPSの高精度定量も行える。また、血液中に含まれるPSの定量にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ホスファチジルセリンの構造を示す図である。
【図2】本発明のホスファチジルセリンの定量方法の反応を示す図である。
【図3】ホスファチジルセリンの検量線(低濃度)を示すグラフである。
【図4】ホスファチジルセリンの検量線(高濃度)を示すグラフである。
【図5】ホスファチジルセリンの定量におけるアシル鎖及びアミン頭部の影響を示す図である。縦軸は、POPSの蛍光強度を100%とした相対値である。
【図6】細胞抽出PS定量における本発明の酵素定量法(縦軸)とTLC-リン定量法(横軸)の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のホスファチジルセリンの定量方法、及びホスファチジルセリンの定量用キットについて詳細に説明する。

【0018】
ホスファチジルセリンの定量方法
本発明の試料中のホスファチジルセリンの定量方法は、(1)試料にホスホリパーゼD及びL-アミノ酸オキシダーゼを作用させる工程、並びに(2)前記(1)工程で生成するH2O2量を測定し、予め求めた検量線からホスファチジルセリンを定量する工程を有することを特徴とする。

【0019】
以下、各工程について説明する。

【0020】
<(1)工程>
(1)工程では試料にホスホリパーゼD及びL-アミノ酸オキシダーゼを作用させる。

【0021】
試料にホスホリパーゼDを作用させることにより、ホスファチジルセリンとH2Oからセリンとホスファチジン酸が生成される。更に、当該生成物にL-アミノ酸オキシダーゼを作用させることにより、セリン、O2及びH2Oから、H2O2、NH3及び2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸が生成される。

【0022】
ホスホリパーゼD(phospholipase D)は、グリセロリン脂質のホスホジエステル結合の塩基側を加水分解するリン脂質加水分解酵素である。本発明で使用するホスホリパーゼDは、ホスファチジルセリンを加水分解して、セリンとホスファチジン酸を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できるが、微生物由来のものが好ましく、ストレプトミセス・クロモフスカス(Streptomyces chromofuscus)由来のもの(GenBank Accession Number: AF523823.1)が特に好ましい。また、当該ストレプトミセス・クロモフスカス由来ホスホリパーゼDのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるホスホリパーゼDも好ましい。

【0023】
主要リン脂質の中で、ホスホリパーゼDとの反応によりL-アミノ酸オキシダーゼの基質を生成するのは、PSとリゾホスファチジルセリン(LPS)のみである。しかし、大半の生体試料において、LPS含有量はPS含有量と比べてはるかに少ない。このことにより、PSの特異的定量が可能となる。

【0024】
L-アミノ酸オキシダーゼは、分子状酸素を用いてL-アミノ酸を酸化的に脱アミノ化し、2-オキソ酸にする反応を触媒する酵素である。本発明で使用するL-アミノ酸オキシダーゼは、セリンを酸化的に脱アミノ化し、H2O2、NH3及び2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できるが、動物由来のものが好ましく、クロタルス・アダマンテウス毒(Crotalus adamanteus venom)由来のもの(GenBank Accession Number: AF071564.1)が特に好ましい。また、当該クロタルス・アダマンテウス毒由来L-アミノ酸オキシダーゼのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるL-アミノ酸オキシダーゼも好ましい。

【0025】
本発明のPSの定量方法では、試料に上記2種類の酵素を作用させる際には、2種の酵素を一緒に添加して一度に反応させても良いし又は逐次的に添加して反応させても良い。

【0026】
試料にホスホリパーゼDを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常7~9、温度は通常15~40℃である。試料にホスホリパーゼDを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常1分以上である。

【0027】
試料にL-アミノ酸オキシダーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常7~8.5、温度は通常15~40℃である。試料にL-アミノ酸オキシダーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常10分以上である。

【0028】
2種類の酵素の作用温度やpHが共通する場合はすべての酵素の反応を同時に行うことができ、作用温度やpHが酵素により異なる場合は逐次段階的に必要とされる温度やpHに設定し反応を行うことができる。

【0029】
本発明のPSの定量方法において、試料に2種類の酵素を作用させる反応液中の2種類の酵素の量は、含まれるPS量等を考慮して分析に適切な酵素量に適宜調整することができるが、ホスホリパーゼDは通常0.1~1000 U/ml、L-アミノ酸オキシダーゼは通常0.1~100 U/mlである。

【0030】
試料にホスホリパーゼD及びL-アミノ酸オキシダーゼを作用させるための反応液には、試料と酵素の他に、緩衝液、金属塩等が含まれていても良い。緩衝液としては、例えば、トリス-塩酸緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、グリシン-塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。金属塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。

【0031】
本発明における試料としては、PSの定量が求められているものであれば特に限定されず、例えば、培養細胞、培養液、ヒト又は動物の組織及び血液を含む体液、植物の組織及び植物体液、菌類、真菌類、細菌及び細菌の培養液、医薬、食品、サプリメント等が挙げられる。試料は希釈液により希釈されていても良く、そのような希釈液としては緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、例えば前述するものが挙げられる。試料は酵素反応の前に前処理されていても良く、そのような処理としては加熱処理等が挙げられる。

【0032】
本発明では、前記(1)工程においてホスホリパーゼDに代えて、ホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼを使用することもできる。PSにこれら2種類の酵素を作用させることでも同様にセリンを生成させることができる。ホスホリパーゼC(phospholipase C)は、ホスファチジルセリンを加水分解してジアシルグリセロールとホスホセリンを生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できる。ホスホモノエステラーゼ(phosphomonoesterase)は、ホスホセリンを加水分解してセリンとリン酸を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できる。

【0033】
<(2)工程>
(2)工程では前記(1)工程で生成するH2O2量を測定し、予め求めた検量線からホスファチジルセリンを定量する。

【0034】
一連の反応の結果、1分子のPSから1分子のH2O2が生成するため、H2O2量を測定することでPSを定量することが可能である。

【0035】
H2O2量の定量には、H2O2量を検出及び定量できる各種の方法を使用することができるが、例えば、H2O2にペルオキシダーゼを作用させることにより生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定することによりH2O2量の定量ができる。このような方法としては、具体的には、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たな吸収波長を得る化合物(N,N’-Bis(2-hydroxy-3-sulfopropyl)tolidine等)を用いて吸光度測定を行う方法、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して複数の化合物が酸化縮合し新たな吸収波長を得る化合物(フェノールと4-アミノアンチピリンとの酸化縮合等)を用いて吸光度測定を行う方法、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに蛍光を生じる化合物(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン等)を用いて蛍光強度を測定する方法、及びペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに発光を生じる化合物(ルミノール等)を用いて発光量を測定する方法が挙げられる。

【0036】
上記の中でも好ましいのは、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに蛍光を生じる化合物を用いて蛍光強度を測定する方法であり、特に好ましいのはH2O2に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex(登録商標) Red)とペルオキシダーゼを作用させることにより生成するレゾルフィンの蛍光強度を測定する方法である。レゾルフィンは、蛍光性化合物であり、最大励起波長は571 nm、最大蛍光波長は585 nmである。それに対して、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンは、非蛍光性化合物であり、波長571 nm付近の光を照射しても蛍光は生じない。一連の反応の結果、1分子のPSから1分子のレゾルフィンが生成するため、レゾルフィン量を測定することでPSを定量することが可能である。レゾルフィン量の測定は、例えば蛍光マイクロプレートリーダーを使用し、励起波長側544 nm、蛍光波長側590 nmのフィルターを選択して蛍光強度を測定することにより行うことができる。

【0037】
本発明で使用するペルオキシダーゼは、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できるが、植物由来のものが好ましく、西洋ワサビ(horseradish)由来のもの(GenBank Accession Number: E01651.1)が特に好ましい。また、当該西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペルオキシダーゼも好ましい。

【0038】
試料にペルオキシダーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~8、温度は通常15~40℃である。試料にペルオキシダーゼを作用させる時間は、適宜設定することができるが、通常5~120分である。

【0039】
本発明のPSの定量方法において、ペルオキシダーゼを作用させる反応液中のペルオキシダーゼの酵素の量は、含まれるH2O2量等を考慮して分析に適切な酵素量に適宜調整することができるが、通常0.5~50 U/mlである。

【0040】
H2O2にペルオキシダーゼを作用させるための反応液には、緩衝液、金属塩等が含まれていても良く、緩衝液及び金属塩としては前述するものが挙げられる。

【0041】
H2O2にペルオキシダーゼを作用させるための反応液に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンが含まれる場合の10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンの量は適宜調整することができるが、通常10~500μMである。

【0042】
本発明の方法では、ホスホリパーゼD、L-アミノ酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼのすべての酵素反応にとって適した条件であれば、これら3つの酵素を同時に反応させることによりPSの定量を行うことも可能である。

【0043】
本発明において、ホスホリパーゼD、L-アミノ酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼの活性は実施例に記載の方法により測定される活性である。

【0044】
上記「1個若しくは2個以上」の範囲は特に限定されないが、例えば1~50個、好ましくは1~25個、より好ましくは1~12個、更に好ましくは1~9個、特に好ましくは1~5個を意味する。特定のアミノ酸において、1個若しくは2個以上のアミノ酸が置換、欠失、若しくは付加させる技術は公知である。

【0045】
本発明において、微生物、動物又は植物由来の酵素とは、微生物、動物又は植物が産生する酵素、及び該酵素のアミノ酸配列において、1又はそれ以上のアミノ酸を置換、付加、欠失、挿入させることで得られる改変体を広く包含する。

【0046】
上記の各酵素は市販品として入手可能であるか、又は公知の遺伝子配列の情報を利用して遺伝子を取得し形質転換体を作製することにより生産することができる。生産した酵素の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム塩折法等により行うことができる。

【0047】
本発明のPSの定量方法の一例として次の方法が挙げられる。まずPSの濃度が既知の溶液を適宜希釈した標準試料について本発明の方法によりH2O2を測定し、PS濃度に対するH2O2量(レゾルフィンの蛍光強度等)の検量線を作成する。そして、PSの含量が未知の試料を用いて本発明によりH2O2量を測定し、上記検量線からPS量を求めることができる。

【0048】
<(2')工程>
本発明のPSの定量方法は、前記(2)工程に代えて、(2')前記(1)工程における(a)酸素の減少量、(b)アンモニアの増加量、又は(c)2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸の産生量、を測定することによりホスファチジルセリンを定量する工程を有していても良い。ホスファチジルセリンは予め求めた検量線から定量することができる。

【0049】
図2に示されているように、O2、NH3及び2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸の1分子は、PSの1分子に相当するため、当該分子の増減を測定することで、PSを定量することが可能である。(a)酸素の減少量、(b)アンモニアの増加量、又は(c)2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸の産生量の測定方法は、当該分子の量を測定できる方法であれば特に限定されないが、例えば、(a)としては酸素電極による測定、(b)としてはアンモニア電極による測定、(c)としては2-オキソ-3-ヒドロキシプロピオン酸還元酵素を用いた酵素定量法が挙げられる。

【0050】
<(1')及び(2'')工程>
本発明のPSの定量方法は、(1')試料にホスホリパーゼDを作用させる工程、及び(2'')前記(1')工程で生成するセリン量を測定することによりホスファチジルセリンを定量する工程を有する方法であっても良い。ホスファチジルセリンは予め求めた検量線から定量することができる。

【0051】
上記の一連の反応の結果、1分子のPSから1分子のセリンが生成するため、セリン量を測定することでPSを定量することが可能である。セリンの量を測定する方法は、セリンの量を測定できる方法であれば特に限定されないが、例えばセリンデヒドロゲナーゼを用いた酵素定量法が挙げられる。

【0052】
(1')工程において使用するホスホリパーゼD、ホスホリパーゼDを作用させる条件等は前述の(1)工程におけるものと同様である。また、(1')工程においてホスホリパーゼDに代えて、ホスホリパーゼC及びホスホモノエステラーゼを使用することもできる。

【0053】
本発明のホスファチジルセリンの定量方法は、高感度、高精度且つ簡便なホスファチジルセリンの定量が可能である。

【0054】
本発明のPS定量法の工程は、以下に示す実施例において、(1)反応試液S1とのインキュベーション、(2)反応試液S2とのインキュベーション、(3)蛍光強度測定の3つである。作業に要する時間は、260分程度であり、測定する試料の数が増加しても、反応試液の分注操作が増えるだけで、作業時間はあまり変わらない。

【0055】
それに対して、TLC-リン定量法によるPS定量の工程は、(1)シリカゲルプレートへの試料の着点、(2)溶媒(クロロホルム/メタノール/酢酸/ギ酸/水=70/30/12/4/2)を用いた展開、(3)乾燥、(4)ヨウ素によるスポットの検出、(5)スパーテルを用いたスポットのかきとり回収、(6)70%過塩素酸による無機リン酸への分解、(7)モリブデン酸アンモニウムとの反応、(8)吸光度測定の7つである。作業に要する時間は、400分程度であり、測定する試料の数が増加することにより、工程(1)及び(5)に費やす時間が大きく増加する。

【0056】
このように、本発明のPS定量法と従来法(TLC-リン定量法によるPS定量)を比較した場合、本発明の方法は工程数が少ない等の理由により簡便な方法と言える。

【0057】
ホスファチジルセリンの定量用キット
本発明のホスファチジルセリンの定量用キットは、ホスホリパーゼDを含むことを特徴とし、好ましくは更にL-アミノ酸オキシダーゼを含み、より好ましくは更にペルオキシダーゼを含み、特に好ましくは更に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンを含む。

【0058】
本発明のPSの定量用キットを用いて前記PSの定量方法を実施することで、高感度、高精度且つ簡便なPSの定量が可能となる。

【0059】
本発明のPSの定量用キットを使用する方法は、前述するPSの定量方法を適用できる。ホスホリパーゼD、L-アミノ酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼは前述したものと同様である。

【0060】
本発明のPSの定量用キットは、ホスホリパーゼD、L-アミノ酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを酵素液として含んでいても良いし、また乾燥粉末の形態で含んでいても良い。本発明のPSの定量用キットは、更に緩衝剤、金属塩等を含んでいても良い。緩衝剤及び金属塩としては前述するものが挙げられる。緩衝剤及び金属塩は水溶液又は粉末の形態でキットに含まれていることが好ましい。

【0061】
本発明のホスファチジルセリンの定量用キットはまた、ホスホリパーゼDに代えて、ホスホリパーゼCとホスホモノエステラーゼを含んでいても良い。ホスホリパーゼCとホスホモノエステラーゼは前述したものと同様である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
[方法]
600 U/mlのホスホリパーゼD(Streptomyces chromofuscus由来)(Enzo Life Sciences社製BML-SE301)、20 U/mlのL-アミノ酸オキシダーゼ(Crotalus adamanteus venom由来) (Worthington Biochemical社製LAO)、50 mMのNaCl、及び50 mMのTris-HCl(pH7.4)を含む溶液を、反応試液S1とした。37℃、pH8.0で、5 mMのホスファチジルコリンから1時間に1μmolのコリンを遊離させるホスホリパーゼD酵素量を1Uとする。25℃、pH7.6で、1分間に1μmolのL-ロイシンを酸化するL-アミノ酸オキシダーゼ酵素量を1Uとする。
【実施例】
【0064】
6.25 U/mlのペルオキシダーゼ(horseradish root由来) (オリエンタル酵母社製46261003)、187.5μMの10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Invitrogen社製A12222)、0.125%のTriton X-100、50 mMのNaCl、及び50 mMのTris-HCl(pH7.4)を含む溶液を、反応試液S2とした。25℃、pH7.0で、4-アミノアンチピリンとフェノールを酸化縮合させ、1分間に1μmolのキノンイミン色素を産生させるペルオキシダーゼ酵素量を1Uとする。
【実施例】
【0065】
1% Triton X-100を含む試料又は標準溶液10μlをマイクロプレートに注入し、反応試液S1を10μl加えて、25℃で240分間インキュベートした。その後、反応試液S2を80μl加えて、室温で15分間インキュベートし、Amplex Red/UltraRed Stop Reagent(Invitrogen社製A33855)を20μl加えて、反応を停止させた。反応停止後、蛍光マイクロプレートリーダー(Thermo Scientific社製Fluoroskan Ascent FL)を用いて、励起波長側544 nm、蛍光波長側590 nmのフィルターを選択し、蛍光強度の測定を行った。
【実施例】
【0066】
標準溶液の測定により得られた検量線と試料の蛍光強度から、試料中のPS量を求めた。Amplex Red/UltraRed Stop Reagentを加えた後、少なくとも3時間、蛍光は安定であり、測定可能である。
【実施例】
【0067】
反応試液S2を加えて、15分インキュベートした後、迅速に蛍光測定することが可能であるならば、Amplex Red/UltraRed Stop Reagentの添加は、省略することができる。
【実施例】
【0068】
TLC-リン定量法は以下の通りに行った。
(1)シリカゲルプレートへ試料100μlの着点
(2)溶媒(クロロホルム/メタノール/酢酸/ギ酸/水=70/30/12/4/2)を用いた展開
(3)乾燥
(4)ヨウ素によるスポットの検出
(5)スパーテルを用いたスポットのかきとり回収
(6)70%過塩素酸(500μl)を加え、2時間160℃で加熱することによる無機リン酸への分解
(7)モリブデン酸アンモニウム:マラカイトグリーン試液を5 ml加え、室温で20分間のインキュベーション
(8)吸光度測定(波長660 nm)
モリブデン酸アンモニウム:マラカイトグリーン試液(100 ml)の調製方法
(1)0.3%マラカイトグリーン水溶液(50 ml)を30分間撹拌
(2)2.1%モリブデン酸アンモニウム:2.5N HCl水溶液(50 ml)を加え、30分間撹拌
(3) No.2ろ紙でろ過
(4)Tween20(60μl)を加え、30分間撹拌
【実施例】
【0069】
[結果]
試験例1
L-α-パルミトイル-オレオイル-ホスファチジルセリン(POPS)の精製標品を用いて、本発明の方法により、検量線の作成を行ったところ、0~0.5 nmolの範囲では直線を示し(r=0.9987)、検出限界は0.05 nmolであった(図3)。0.5~10 nmolの範囲では、双曲線を示した(r=0.9998)(図4)。
【実施例】
【0070】
試験例2
大豆由来PSやブタ脳由来PSは、さまざまな種類のアシル鎖を結合したPSの混合物である。1 nmolのPOPSと1 nomlの大豆PSや1 nmolのブタ脳PSで、本発明の酵素定量反応後の蛍光強度に差は無かったことから、アシル鎖種の違いは本発明の酵素定量反応に影響しないことが分かった(図5)。
【実施例】
【0071】
リゾホスファチジルセリン(LPS)は、PSからグリセロール骨格2位の脂肪酸が解離した1本鎖リン脂質である。1 nmolのPOPSと1 nmolのLPSで、本発明の酵素定量反応後の蛍光強度に差は無かった(図5)。
【実施例】
【0072】
ホスファチジルエタノールアミン(PE)やホスファチジルコリン(PC)は、ホスファチジルセリンと同様にアミンを頭部にもち、ホスホリパーゼDが作用すると、それぞれエタノールアミンとコリンを遊離する。しかし、本発明の酵素定量反応において、PEやPCでは蛍光は発生せず、検出されなかった(図5)。
【実施例】
【0073】
試験例3
プラスチックシャーレ上で培養したHEK293細胞からBligh-Dyer法により脂質を抽出し、その細胞抽出脂質溶液におけるPS添加回収試験を行った(表1)。表1に示されているように、添加PS量0.25、0.50、1.25及び2.50 nmolにおいて、ほぼ100%回収できた。この結果から、添加したPSの定量は、他の細胞抽出物質の阻害を受けておらず、本発明の定量方法は正確に細胞内PSを定量できることが分かった。
【実施例】
【0074】
【表1】
JP0005800830B2_000002t.gif
【実施例】
【0075】
試験例4
TLC-リン定量法は、培養細胞内のPSを定量するために従来最も広く用いられてきた方法である。HEK293細胞から得られた同一試料について、TLC-リン定量法により得られたPS量と、本発明の定量方法により得られたPS量を比較したところ、ほぼ一致した(y =-0.8007+0.9999x、r =0.9803)(図6)。これらのことから、今回開発した本発明の定量方法を用いて得られた培養細胞内PS量は信頼できる。
【実施例】
【0076】
HEK293細胞からBligh-Dyer法により抽出した脂質は、一旦乾燥させた。本発明の酵素定量法を行う場合は、乾燥させた脂質を1%TritonX-100水溶液(200μl)に溶解して、そのうち10μlをマイクロプレートに注入した。一方、TLC-リン定量法を行う場合は、乾燥させた脂質をメタノール:クロロホルム(1:1)混液(100μl)に溶かして、全量(100μl)をシリカゲルプレートに着点した。この場合、用いた試料の量は、20倍ということになるが、本発明の酵素定量法の場合は、更に少ない量でも定量可能である。
【実施例】
【0077】
尚、本発明のPS定量法は、TLC-リン定量法と比べて感度が100倍であるため、必要な試料の量は1/100である。
【実施例】
【0078】
試験例5
本発明のPS定量法を用いて、ヒト血漿から単離した高密度リポタンパク質(HDL)(EMD Chemicals, Inc.製(Cat# 437641)、ヒト血漿から150 mM NaCl, 0.01%EDTA, pH7.4の溶液中に精製されているもの、純度95%以上)10μlに含まれるPSの定量を行った。その結果、HDL中のPS量は、19.8 nmol/mg proteinであった。
【実施例】
【0079】
上記の結果から、本発明のPSの定量方法は、簡便、高感度、且つ高精度であることが分かり、ハイスループット化も可能である。また、本発明の定量方法により、これまで困難であった培養細胞内に含まれる少量のPSの高精度定量も行えた。更に、血液中に含まれるPSの定量にも応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のホスファチジルセリンの定量方法及び定量用キットは、培養細胞を用いた実験におけるPSの定量、分散系(リポソームやミセル)を用いた実験におけるPSの定量、精製したPSの定量、培養細胞に含まれるPS及び培養液中に含まれるPSの定量、ヒトの組織及び血液を含む体液に含まれるPSの定量、動物の組織及び血液を含む体液に含まれるPSの定量、植物の組織及び植物体液に含まれるPSの定量、菌類及び真菌類に含まれるPSの定量、細菌に含まれるPS及び細菌の培養液中に含まれるPSの定量、食品及び医薬品中に含まれるPSの定量などに利用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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