TOP > 国内特許検索 > 抗癌剤の活性増強剤 > 明細書

明細書 :抗癌剤の活性増強剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5924593号 (P5924593)
登録日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発行日 平成28年6月1日(2016.6.1)
発明の名称または考案の名称 抗癌剤の活性増強剤
国際特許分類 A61K  38/00        (2006.01)
A61K  31/7068      (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  35/02        (2006.01)
C07K  14/78        (2006.01)
FI A61K 37/02 ZNA
A61K 31/7068
A61P 35/00
A61P 35/02
C07K 14/78
請求項の数または発明の数 8
全頁数 17
出願番号 特願2013-504713 (P2013-504713)
出願日 平成24年3月9日(2012.3.9)
国際出願番号 PCT/JP2012/056186
国際公開番号 WO2012/124641
国際公開日 平成24年9月20日(2012.9.20)
優先権出願番号 2011054475
優先日 平成23年3月11日(2011.3.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年2月25日(2015.2.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
発明者または考案者 【氏名】深井 文雄
【氏名】兒玉 浩明
【氏名】松永 卓也
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】安藤 公祐
参考文献・文献 特開2006-327980(JP,A)
調査した分野 A61K 38/00
A61K 31/7068
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 35/02
C07K 14/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1で示されるポリペプチドFNIII14のうち、第2番目のアミノ酸残基で
あるグルタミン酸残基がD体アミノ酸残基であるD体アミノ酸残基含有FNIII14ポ
リペプチドを有効成分とする、抗癌剤の活性増強剤。
【請求項2】
前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドが、多量体D体アミノ酸残基含
有FNIII14ポリペプチドである請求項1記載の抗癌剤の活性増強剤。
【請求項3】
白血病に対する抗癌剤と組み合わせて用いられる請求項1記載の抗癌剤の活性増強剤。
【請求項4】
前記抗癌剤が、シタラビン(AraC)、エノシタビン(Enocitabine)及
びエラシタラビン(Elacytarabine)からなる群より選択された少なくとも
1つである請求項記載の抗癌剤の活性増強剤。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項記載の抗癌剤の活性増強剤と、薬学的に許容可能な担体とを含む癌治療用の医薬組成物。
【請求項6】
抗癌剤を更に含む請求項記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか1項記載の抗癌剤の活性増強剤を含む第一の収容部と、抗癌剤を含む第二の収容部とを備えた癌治療用の抗癌治療剤セット。
【請求項8】
以下のいずれかであるポリペプチド:
(1) 配列番号1で示されるポリペプチドのうち、第2番目のアミノ酸残基であるグル
タミン酸残基がD体アミノ酸残基であるポリペプチド、
(2) 前記(1)のポリペプチドを構成単位とする多量体であるポリペプチド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の活性増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学療法は、腫瘍医学が発展した現在に於いてもなお癌治療の重要な位置を占めている。特に、白血病の治療においては化学療法が中心をなしており、固形癌に比べて高い治療効果が得られている。なかでも急性骨髄性白血病(AML)細胞は、高い薬剤感受性を示す細胞であることが知られている。このため、急性骨髄白血病の治療として寛解導入療法を適用した場合、約80%の症例が完全寛解となる。しかしながら、再発することが多く長期生存率は30%~40%でしかないのが現状である。化学療法後の完全寛解期に患者骨髄に残存する白血病細胞の微少残存が再発の原因であると考えられている。
末梢血/体液中で非接着状態にある白血病細胞は、抗癌剤によって比較的効率よく殺滅される。これに対して、骨髄中の白血病細胞は、細胞外マトリックス(例えばフィブロネクチン(FN)や骨髄間質細胞)に、接着分子(例えばインテグリン)を介して接着し、これにより抗癌剤耐性を獲得して、化学療法施行後も微少残存することが知られている。この現象は、接着依存性薬物耐性(CAM-DR)と呼ばれ、白血病の抗癌剤治療において克服すべき最も重要な課題の一つである。
【0003】
細胞の接着や脱着に関与するフィブロネクチンは、代表的な細胞外マトリックスタンパク質分子の一つで、ほとんど全ての組織に分布し、組織を構築する骨組みとしての役割のみならず、細胞膜上の接着分子に結合して、細胞機能調節のためのシグナル分子としても機能している。
フィブロネクチン分子を構成するポリペプチドは、I型、II型、III型の繰り返し配列から構成されている。なかでも、フィブロネクチン(FN)III型様リピート、(FNIII)には、種々の機能が知られている。
【0004】
例えば、FNIIIは、細胞接着阻害活性(例えば、特開平10-147600号公報及び特開2000-26490号、参照)を有することが知られている。特開平10-147600号には、癌の転移抑制作用について可能性を言及しているが、実施例の記載はない。また、FNIIIの細胞死誘導活性に基づく抗癌活性を増強する作用については、国際公開第01/08698号に開示されている。しかし、国際公開第01/08698号の実施例はin vitroの試験結果のみであり、in vivoでの有効性までは検討されておらず、血液中での安定性など全く不明である。
【0005】
さらに、国際公開第01/08698号では、in vitroの試験が開示されているのみであるため、生体内での効果については開示がなく、このため、FNIIIの細胞死誘導活性に基づく抗癌活性の増強強化について実用的な判断ができない。
具体的には国際公開第01/08698号では図1~図8まで、いくつかのガン細胞に対して、ビンクリスチン又はアクチノマイシンDと、配列番号2で表されるポリペプチドとの混合効果を調べているが、図1、2、3、4及び8では添加効果が最大でも30%程度であったり、図2のように濃度で効果が反転したりと、実用的に有望なデータは示されていない。図5及び図7には薬剤の添加効果が示されているが、薬剤の効果自体に濃度依存はないので、有効性について判断できない。唯一図6で示されるように、胃ガン由来のGT3TKB細胞を用いた場合に、ビンクリスチンに対して、配列番号2で示されるポリペプチドの添加効果が認められる傾向があった。
このように、実際に医療現場で使用することを考慮すると、配列番号2で示されるポリペプチドでは、特定のがんの種類と特定の薬剤に対してのみ添加効果が認められるものであり、このポリペプチドがすべての薬剤の効果を増強するものではないと考えられる。さらに、配列番号2で示されるポリペプチドは、制癌剤のうち、作用機構の異なるピリミジン代謝拮抗剤である、シタラビン等との効果は示されていなかった。
【0006】
特開2006-327980号には、動物実験で白血病治療薬とFNIII様ペプチドの併用でマウスの寛解を目指した実施例が記載されている。
しかしながら、実施例ではFNIII様ペプチドの濃度は1mgであり、それよりも低い濃度による効果は確認されていない。
また、Leukemia(2008),Vol.22,353-360では特開2006-327980号と同様の実験が報告されているが、修飾したFNIII様ペプチドであっても、生理活性が向上していないことが示されている。
【0007】
このような化学修飾に関してはいくつか報告がある。特開2010-043087号では、ネイティブHBHAを大腸菌(E.Coli)の遺伝子組換えで生産させても、ミコバクテリアが生産したHBHAとは生理活性が異なることから、C末端のリジン基をメチル化することで本来の生理活性が再現できたと報告している。これは、メチル化することで本来の活性を取り戻したこと示したに過ぎず、本来持っていた生理活性以上の効果を示したものではない。特開平6-73093号では、「オピオイド系鎮痛剤が有していた依存性、耐性など欠点を解決する目的」で、D体のアミノ酸としてTrp、His、Pheなどを導入した例が報告されている。しかし、特開平6-73093号に記載してあるように、化合物としての安定性や活性の向上を達成したというものではなかった。また、D体のアミノ酸を用いることは、一般的にプロテアーゼに認識されないために、分解を受けないだろうと思われるが、得られるペプチドのコンフォメーションも変化するために、その生理活性が維持できなくなることが推定されている。Biochem Pharmacol. 1999 Dec 1;58(11):1775-80では、N端とC端を2残基ずつDアミノ酸に変え、血清酵素処理で安定性が増加したことを報告しているが、生理活性は高くならなかった。Neuropeptides. 1984 Dec;5(1-3):177-80では、オピオイドペプチド群で、例えばエンケファリン(Tyr-Gly-Gly-Phe-Leu)の2番目のアミノ酸を置換してTyr-D-Ala-Gly-Phe-Leuに改変しても、活性が高くなることはなかったことが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、要求されるレベルのペプチドの安定化と活性向上を達成したものや、要求されるレベルまでペプチドの安定性と活性を向上させるための方法は、いまだに知られていない。
以上のように、フィブロネクチンとその関連ペプチドの欠点を改善し、抗癌剤又は他の抗癌剤との併用投与することで急性骨髄白血病などを根絶する治療が望まれていた。
【0009】
従って本発明の目的は、急性骨髄性白血病をはじめとする化学療法後の再発が多い悪性腫瘍の根絶治療を目的として、併用する抗癌剤の活性をより高くする増強可能な活性増強剤及び、これを含む医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために選ばれた生理活性に必須のペプチドを用い、生理活性をさらにあげ、多くの抗癌剤と相乗効果を示して薬量が下げることができ、さらに血液中での安定性を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ペプチドFNIII14の誘導体でこれらの問題を解決することができる新規のペプチドを見いだすことに成功し、単独または制癌剤との併用で、急性骨髄白血病根絶治療をはじめとした、その他の癌の寛解治療ができることに成功した。
本発明は、以下の各態様を提供する。
【0011】
[1] 配列番号1で示されるポリペプチドFNIII14のうち、第1番目から第13番目のアミノ酸残基の1つ以上がD体アミノ酸残基であるD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドを有効成分とする、抗癌剤の活性増強剤。
[2] 前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドが、1個~6個のD体アミノ酸残基を含む[1]に記載の抗癌剤の活性増強剤。
[3] 前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドが、前記D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの第1番目~10番目に有する[1]又は[2]に記載の抗癌剤の活性増強剤。
[4] 前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドが、1のD体グルタミン酸残基を含み、当該1のD体グルタミン酸残基が、配列番号1で示されるポリペプチドの第2番目のアミノ酸残基に対応するグルタミン酸残基である[1]~[3]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤。
[5] 前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドが、多量体D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドである[1]~[4]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤。
[6] 白血病に対する抗癌剤と組み合わせて用いられる[1]~[5]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤。
[7] 前記抗癌剤が、シタラビン(AraC)、エノシタビン(Enocitabine)及びエラシタラビン(Elacytarabine)からなる群より選択された少なくとも1つである[1]~[6]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤と、薬学的に許容可能な担体とを含む癌治療用医薬組成物。
[9] 抗癌剤を更に含む[8]に記載の医薬組成物。
[10] [1]~[7]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤を含む第一の収容部と、抗癌剤を含む第二の収容部とを備えた抗癌治療剤セット。
[11] 以下のいずれかであるポリペプチド:
(1) 配列番号1で示されるポリペプチドのうち、第1番目から第13番目のアミノ酸残基の1つ以上がD体アミノ酸残基であるポリペプチド、
(2) 前記(1)のポリペプチドを構成単位とする多量体であるポリペプチド。
[12] [1]~[5]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤、又は[8]に記載の医薬組成物を、癌治療を必要とする患者へ投与することを含む癌の治療方法。
[13] [1]~[5]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤、又は[8]に記載の医薬組成物と、白血病に対する抗癌剤とを、白血病治療を必要とする対象へ投与することを含む[12]記載の癌の治療方法。
[14] [1]~[7]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤、又は[8]若しくは[9]に記載の癌治療用医薬組成物の製造における前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドの使用。
[15] 癌の治療方法に使用される[1]~[7]のいずれかに記載の抗癌剤の活性増強剤、又は[8]若しくは[9]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抗癌剤の活性をより高く増強可能な抗癌剤の活性増強剤及び、これを含む抗癌組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係るポリペプチドの細胞接着阻害活性を示すグラフである。
【図2A】本発明の実施例3に係るポリペプチドの血清中での安定性を示すグラフである。
【図2B】本発明の実施例3に係るポリペプチドの血清中での安定性を示すグラフである。
【図2C】本発明の実施例3に係るポリペプチドの血清中での安定性を示すグラフである。
【図2D】本発明の実施例3に係るポリペプチドの血清中での安定性を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1に係るポリペプチドの白血病細胞株に対する抗癌剤の活性増強効果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1に係るポリペプチドのマウスにおける抗癌剤の活性増強効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗癌剤の活性増強剤(以下、単に活性増強剤ということがある)は、配列番号1で示されるポリペプチドFNIII14のうち、第1番目から第13番目のアミノ酸残基の1つ以上がD体アミノ酸残基であるD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドを有効成分とする抗癌剤の活性増強剤である。
また、本発明の癌治療用の医薬組成物は、前記活性増強剤と抗癌剤とを含む組成物である。
本発明のポリペプチドは次のいずれかのポリペプチドである:(1)配列番号1で示されるポリペプチドのうち、第1番目から第13番目のアミノ酸残基の1つ以上がD体アミノ酸残基であるポリペプチド、(2)前記(1)のポリペプチドを構成単位とする多量体であるポリペプチド。

【0015】
本発明によれば、配列番号1で示されるFNIII14ポリペプチドのアミノ酸配列のうちN末端側のアミノ酸残基の1つ以上がD体である特定のD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドが、血清中で良好な安定性を示し、また抗癌剤の抗癌活性を相乗的に高めることができる。
これにより、抗癌剤と共に使用することにより当該抗癌剤の効果をより高く増強することができる。また、D体アミノ酸残基含有FNIII14と、併用する抗癌剤との双方の薬剤量を少なくすることができ、患者に対するリスクを低減することができる。

【0016】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本発明において、ポリペプチドを構成するアミノ酸配列のアミノ酸残基を、当技術分野で周知の一文字表記(例えば、グリシン残基の場合は「G」)又は三文字表記(例えば、グリシン残基の場合は「Gly」)を用いて表現する場合がある。
以下、本発明について説明する。

【0017】
本発明におけるD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドは、配列番号1で示されるFNIII14のうち、第1番目から第13番目のアミノ酸残基の1つ以上がD体アミノ酸残基であるD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドである。
本発明にかかる配列番号1で示されるポリペプチドFNIII14は、ヒトフィブロネクチンの14番目のフィブロネクチンIII様反復配列(FNIII)に由来する配列である。
配列番号1で示される配列のうち第1番目から第13番目のアミノ酸残基を除く部分は、活性配列であるYTIYVIALであるので、この活性配列を除いたN末端側のアミノ酸残基の1つ以上がD体アミノ酸残基であればよい。このようなD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドは、FNIII14の血清中での安定化を高めると共に、併用される抗癌剤の抗癌剤活性をより強く増強することができる。FNIII14は、TEATITGLEPGTEYTIYVIAL(配列番号1)で示される21個のアミノ酸残基で構成されたポリペプチドであり、この21のアミノ酸残基のうち、14番目のチロシン(Y)からの8アミノ酸残基(YTIYVIAL)が活性中心であることは既に知られている。

【0018】
配列番号1で示されるFNIII14の第1番目から第13番目のアミノ酸残基に含まれうるD体アミノ酸残基の数は、血液中での安定性、FNIII14の生理活性の向上、抗癌剤との相乗効果などの観点から1個~6個であることが好ましく、1個~3個であることがより好ましく、1個であることが更に好ましい。また、D体アミノ酸残基となり得るアミノ酸残基の位置としては、いずれの位置であってもよいが、配列番号1で示されるポリペプチドの第1番目~第10番目に位置することが好ましく、第1番目~第6番目に位置することがより好ましく、第2番目であることが更に好ましい。

【0019】
更には、D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドにおけるD体アミノ酸残基の数及びその位置の組み合わせは、上述した好ましいD体アミノ酸残基の数と、好ましいD体アミノ酸残基の位置の組み合わせとすることができる。

【0020】
例えば、前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドの好ましい態様としては、以下のポリペプチドを挙げることができる:
(1)D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの第1番目~第10番目のいずれかの位置に1個~6個有しているポリペプチド;
(2)D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの1番目~第6番目のいずれかの位置に1個~3個有しているポリペプチド;
(3)D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの第1番目~第10番目のいずれかの位置に1個有しているポリペプチド。
抗癌剤の活性増強効果の観点から、D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドは、1のD体グルタミン酸残基を含み、当該1のD体グルタミン酸残基が配列番号1で示されるポリペプチドの第2番目のアミノ酸残基に対応するグルタミン酸残基であるD体グルタミン酸含有ポリペプチドがより好ましい。

【0021】
また、D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドは、活性配列が保持され且つD体アミノ酸残基を1つ以上有するものであれば、生理活性の向上などのために他の修飾を含んでもよい。
例えば、配列番号1で示される前記ポリペプチドFNIII14のアミノ酸残基の1つ以上が他の標準アミノ酸(遺伝子にコードされているアミノ酸の意味)もしくは、上述したD体アミノ酸残基以外のD体アミノ酸を代表とする異常アミノ酸(天然に見られる非標準アミノ酸や人工的に調製された立体制約アミノ酸などを含む)である修飾アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチド、さらにこれらの活性ペプチド複数個をペプチド結合やジスルフィド結合をはじめとする共有結合を利用して、複数の官能基を有するテンプレート分子上で束ねた多価ペプチドとしてもよい。

【0022】
ここで、「異常アミノ酸」に含まれる非標準アミノ酸としては、Dメチルロイシン、N-ヒドロキシ-L-アラニン、β—ヒドロキシロイシン、などを挙げることができる。立体制約アミノ酸としては、たとえば2-アミノイソ酪酸などのα、α—2置換アミノ酸やβ—メチルフェニルアラニン、シクロプロパンアミノ酸などを挙げることができる。

【0023】
また、「テンプレート分子」としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、マレイミド基などの官能基を1つ又は2つ以上有するペプチドを挙げることができる。これらのテンプレート分子であれば、1つ又は複数の前記D体アミノ酸残基含有FNIII13ポリペプチドと当該ポリペプチド上の官能基を介して結合することができる。これにより、前記D体アミノ酸残基含有FNIII13ポリペプチドの血清中での安定性が更に向上すること、及び取扱い性がより向上することなどが期待できる。ポリペプチド上の官能基は、ポリペプチドにおけるペプチド結合、ジスルフィド結合などの結合部分を、例えば切断する公知の手段を用いて前記ポリペプチド鎖上に作り出すことができる。

【0024】
また、血清中での安定化のための修飾としては、1番目のアミノ酸残基、即ちスレオニン残基のアセチル化などを挙げることができる。

【0025】
本発明のD体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドは、例えば、固相合成法等の化学的合成法、又はアミノ酸配列をコードするDNA配列をプラスミドベクターに挿入し大腸菌等の微生物を形質転換することにより該ペプチドを生産する遺伝子組み換え手法を用いた合成法等により合成することが可能である。化学的な合成は固相ペプチド合成法を用いて行なうのが最も一般的である。合成方法の例として次に説明するが、これに限定されるものではない。

【0026】
ポリエチレングリコール鎖を持つポリスチレン樹脂上に保護アミノ酸、具体的には、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)-Leu-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Val-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Pro-OHなどを導入する。
導入法は、例えば、アミノ酸(1mmol)を2-(1-H-benzotriazol-1-yl)-1,1,3,3- tetramethyluronium(HBTU) とN-hydroxybenzotriazole (HOBt)各1mmolを含むN,N,-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に溶解した後、ポリスチレン樹脂と混合する。30分後、不溶性樹脂をDMFで洗浄し、その後、樹脂を20%ピペリジンのDMF溶液に懸濁する(Fmoc基を除去する)。その後、目的のペプチド鎖が得られるまでこの操作を繰り返す。目的のペプチドをポリスチレン樹脂から切断するため、及びベンジル基などの保護基を除去するため、トリフルオロ酢酸中で1時間反応させる。得られた粗生成物はHPLCで精製し、均一なペプチドを得ることができる。また、合成されたペプチドの構造を、飛行時間型分子量測定装置により確認できる。

【0027】
遺伝子組み換え手法を用いた合成法では、細胞接着阻害ペプチドをコードする遺伝子を、例えば、DNA合成装置(DNAシンセサイザー)により合成し、公知のプラスミドベクターに該遺伝子を組み込み、得られた組み換えベクターを宿主となる微生物に導入し、形質転換体を作成することにより該細胞接着阻害ペプチドを生産することができる。
ここで用いられるプラスミドベクターはタンパク質生産用の発現ベクターであれば特に限定なく用いることができる。また、宿主は微生物に限定されることなく、COS細胞等の真核細胞を用いることができる。

【0028】
D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドを作製する方法は、特に制限されず、公知のポリペプチド合成方法を適用可能であり、ポリペプチド合成工程において特定のアミノ酸残基をD体とする工程を含む公知の方法のいずれを用いてもよい。

【0029】
得られた粗ペプチドの精製方法としては、例えば、各種イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し、目的とするペプチドを分離、精製する方法を挙げることができる。

【0030】
前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドは、多量体化、例えば、トリマー化したり、デンドリマー化することができる。多量体化により得られた前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドを構成単位とする多量体は、血清中での更に良好な安定性を有し、抗癌剤の活性をより効果的に増強させ、癌に対する良好な治療効果を得ることができる。

【0031】
前記D体アミノ酸残基含有FNIII14の多量体は、多量体化の公知の方法を用いて得ることができる。
例えば、トリマー(三量体)の製造方法としては、調製した単量体ペプチドFNIII14を、DMSOとPBSに溶解し、TMEA(Tris[2-maleimidoethyl]amine)のDMSO溶液を滴下することで得られる。得られた生成物の純度と構造は、HPLC及びMALDI-TOF MS分析で確認できる。
デンドリマー(樹状構造体)の製造方法としては、単量体ペプチドの固相合成法では、ペプチドの末端に、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)を持つペプチドを調製し、ペプチドをDMSOとPBSに溶解し、システイン残基を3~6個含む環状ペプチドのDMSO溶液を滴下する。その他にも適当な官能基を有するビルディングブリックをペプチドの末端に導入し、デンドリマーの合成が可能である。合成上、アミノ基とカルボキシル基や、チオール基とマレイミド基、又はチオール基の組合せが利用できる。得られた生成物の純度と構造はHPLC及びMALDI-TOF MS分析で確認できる。
トリマーもデンドリマーも、上記以外の製造方法により得ることも可能であり、上記の製造方法に限定されない。

【0032】
また、前記D体アミノ酸残基含有FNIII14の多量体としては、以下の構成単位(1)~(3)の組み合わせ、又は以下の構成単位(1)~(3)のいずれか1種のみで構成された多量体も含まれる:
(1)D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの第1番目~第10番目のいずれかの位置に1個~6個有しているポリペプチドからなる構成単位;
(2)D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの1番目~第6番目のいずれかの位置に1個~3個有しているポリペプチドからなる構成単位;
(3)D体アミノ酸残基を、配列番号1で示されるポリペプチドの第1番目~第10番目のいずれかの位置に1個有しているポリペプチドからなる構成単位。
好ましくは、前記D体アミノ酸残基含有FNIII14の多量体は、すべての構成単位が同数且つ同一の位置にD体アミノ酸残基を有するものである。

【0033】
本発明に係わる癌の治療により治療が可能な癌の種類には、特に制限がない。例えば、急性白血病、および慢性の骨髄性およびリンパ性など全ての白血病、頭部癌、口腔・舌癌、咽頭癌、甲状腺癌、肺癌、乳癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚部癌、子宮体部癌、卵巣癌、皮膚癌、骨部癌、軟部組織癌等の癌が挙げられるが、これらの臓器或いは、組織に限定されない。

【0034】
D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドによって増強される抗癌剤としては、固形癌又は白血病に対する治療効果を有する抗癌剤のいずれであってもよい。例示すると、次のようなものが挙げられる:ニトロジェンマスタード(Nitrogen Mustard)、シクロフォスファミド(Cyclophosphamide)、イフォスファミド(Ifosfamide)、メルファラン(Melphalan)、ブスルファン(Busulfan)、イムプロスルファントシレート(Improsu1fan Tosylate)、ミトブロニトール(Mitobronitol)、カーボクオン(Carboquone)、チオテパ(Thiotepa)、ラニムスチン(Ranimustine)、ニムスチン(Nimustine)等のアルキル化剤;メトトレキサート(Methotrexate)、6-メルカプトプリンリボシド、メルカプトプリン(Mercaptopurine)、5-フルオロウラシル(5-FU)、テガフール(Tegafur)、UFT、ドキシフルリジン(Doxif1uridine)、カルモフール(Carmofur)、シタラビン(Cytarabine)、シタラビンオクフォスフェート(Cytarabine Ocfosfate)、エラシタラビン(Elacytarabine)、エノシタビン(Enocitabine)のような代謝拮抗剤+アクチノマイシンD(Actinomycin D)、ドクソルビシン(Doxorubicin)、ダウノルビシン(Daunorubicin)、ネオカルジノスタチン(Neocarzinostatin)、ブレオマイシン(Bleomycin)、ペプロマイシン(Peplomycin)、マイトマイシンC(Mitomycin C)、アクラルビシン(Aclarubicin)、ピラルビシン(Pirarubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、ジノスタチンスチマレマー(Zinostatin Stimalamer)、イダルビシン(Idarubicin)等の抗癌性抗生物質;ビンクリスチン(Vincristine)、ビンブラスチン(Vinblastine)、ビンデシン(Vindesine)、エトポシド(Etoposide)、イリノテカン(Irinotecan)、ソブゾキサン(Sobuzoxane)、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)等の植物アルカロイド系の抗癌剤;シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、ネダプラチン(Nedaplatin)等の白金錯化合物;その他上記の分類に含まれないミトキサントロン(Mitoxantrone)、L-アスパラギナーゼ、プロカルバジン(Procarbazine)、デカルバジン(Dacarbazine)、ヒドロキシカルバミド(Hydroxycarbamide)、ペントスタチン(Pentostatin)、トレチノン(Tretinoin)のような抗癌剤。
中でも、シタラビン(Cytarabine、AraC)、エラシタラビン(Elacytarabine)、エノシタビン(Enocitabine)等の白血病に対する抗癌活性を有する抗癌剤であることが、D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドの増強効果の点で好ましい。D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドと、白血病に対する抗癌活性を有するこれらの抗癌剤とを組み合わせることにより、特に、AMLの再発の原因である骨髄微少残存を根絶する可能性を高めることができる。

【0035】
本発明の抗癌剤の活性増強剤は単独で、又は、上記の抗癌剤の1種と組み合わせた癌治療用の医薬組成物として、患者に投与し得る。なお、特定の癌に対して複数の抗癌剤の臨床的使用が認められている場合、それらに本発明の増強剤を組み合わせた抗癌組成物を用いてもよい。また、異なる2種以上の癌に対して、複数の抗癌剤の投与が行われる場合も、それらに本発明の増強剤を組み合わせて用いることができる。

【0036】
前記抗癌剤の活性増強剤を、前記抗癌剤と共に用いる場合、他の癌治療法と組み合わせて実施することが可能であり、それぞれの治療法を単独で実施したときに比べてより効果的な治療効果が期待できる。例えば、外科的切除と組み合わせて実施する場合は、手術の前後を問わず化学療法を継続することが可能である。また、放射線療法と組み合わせて治療することも可能である。

【0037】
前記抗癌剤と組み合わせる前記活性増強剤の投与量は、患者の年齢、症状等により適宜選択することができ、抗癌剤の抗癌活性を増強する量であれば、特に制限はない。実際には、抗癌剤の所定の投与量に従って、広範囲に変動しうる。通常、1回の投与あたりの投与量(単位投与量)は0.01mg~10g/kg体重である。

【0038】
一方、前記抗癌剤の投与量としては、用いる抗癌剤の種類によって異なるが、例えば、アクチノマイシンDの場合、0.001μg~0.5mg/Kg体重(静脈内投与)、ドクソルビシンの場合、0.05mg~600mg/m体表面積(静脈内投与)、ビンクリスチンの場合、1ng~0.5mg/Kg体重(静脈内投与)、5-フルオロウラシルの場合、1mg~125mg/kg体重(静脈内投与)、或いは2.5mg~3g/Kg体重、シクロフォスファミドの場合、0.05mg~5g/m体表面積(静脈内投与)の範囲で使用するのが望ましい。

【0039】
前記活性増強剤は、いかなる投与経路からでも患者に投与可能であるが、静脈内投与、患部への局所投与、経口投与が好ましい。特に、静脈内投与、患部への局所投与がより好ましい。
前記活性増強剤と抗癌剤とは、両者を混和後、単一の混合製剤(抗癌組成物)として患者に投与することが好ましい。ただし、それぞれ別の投与経路(例えば、活性増強剤は静脈内投与、抗癌剤は経口投与)で投与しても同様の治療効果が期待できる。

【0040】
活性増強剤と、抗癌剤とを別々に投与する場合、投与する抗癌剤の種類、患者の病状等に合わせてそれぞれの投与量等を決定することが可能である。活性増強剤は、抗癌剤の投与の前、或いは投与の後、投与できるが、その投与間隔はあまり長くないのが好ましい。例えば、一時間以内くらいが好ましい。

【0041】
上記の投与に際して、前記活性増強剤および抗癌剤をそれぞれ単独で、またはこれらを共に含む癌治療用の医薬組成物(抗癌組成物)として、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、安定化剤等の任意の担体及び添加剤を場合により含んだ製剤として投与することが好ましい。この目的で用いられる薬学的に許容可能な担体及び添加剤は、当業者によく知られている。

【0042】
本発明に用いられ得る薬学的に許容可能な担体及び添加剤は、前記抗癌剤の活性増強剤又は抗癌組成物の投与経路に応じて適宜選択され得る。このような担体および添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などが挙げられる。使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜選択されるが、これらに限定されるものではない。

【0043】
本発明の抗癌治療剤セットは、前記活性増強剤を含む第一の収容部と、抗癌剤を含む第二の収容部とを備えたものである。
本キットにおける「収容部」とは、それぞれの薬剤が混合せずに独立して存在するために有効な形態であれば特に制限はなく、例えば、容器や個別包装形態などであってもよく、一のシート状で独立して区分けされた領域としての形態であってもよい。
前記抗癌治療剤セットは、それぞれを単独で投与してもよく、必要時にそれぞれの収容部から前記活性増強剤と抗癌剤とを取り出して混合し、製剤(抗癌組成物)を調製してもよい。前記活性増強剤及び前記抗癌剤の種類、投与経路、及び投与量等については、前述した事項をそのまま適用することができる。

【0044】
また、本発明は、腫瘍若しくは癌の疑いのある患者、腫瘍若しくは癌が既に発生している患者、又は腫瘍若しくは癌の治療を必要とする患者に対して、本発明にかかる抗癌剤の活性増強剤又は抗癌組成物を投与すること(投与工程)を含む癌の治療方法を含む。ここで、「治療」には、症状の改善であればよく、病巣の肥大抑制又は縮小、転移速度の緩和又は転移の停止も、確認できる範囲でこの用語に包含される。

【0045】
投与工程は、活性増強剤と抗癌剤とが同一の個体に対して投与されればよく、投与の順序、形態等に制限はない。例えば、投与工程は、活性増強剤を投与する工程と、抗癌剤を投与する工程とをそれぞれ含んでもよく、活性増強剤及び抗癌剤を同時に投与する工程であってもよく、また、抗癌組成物として投与する工程であってもよい。
本治療方法において使用される抗癌剤の活性増強剤及び抗癌剤の種類、投与経路、投与量等については、前述した事項を、本治療方法に関する事項としてそのまま適用することができる。

【0046】
また、本発明は、前記抗癌剤の活性増強剤又は癌治療用医薬組成物の製造における前記D体アミノ酸残基含有FNIII14ポリペプチドの使用を含む。これにより、抗癌剤と共に使用することにより当該抗癌剤の効果をより高く増強できる抗癌剤の活性増強剤又は癌治療用医薬組成物を提供できる。

【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
<各ポリペプチドの作製>
試験に用いたポリペプチドFNIII14(配列番号1)は、SAWADY TECHNOLOGY CO.LTD,Tokyoに依頼し、ペプチドシンセサイザー(Multiple Peptide Synthesizer[SYROII]、Multi SynTec GmbH製)を用いて合成した。また、合成されたペプチドの配列は、ペプチドシークエンサー(Model 476A、Applied Biosystems製)で確認した。
【実施例】
【0049】
また、FNIII14の配列において2番目のアミノ酸残基がD-グルタミン酸であるD-Glu-FNIII14(T-[D-Glu]-ATITGLEPGTEYTIYVIAL)は、次の方法で合成した。
ポリエチレングリコール鎖を持つポリスチレン樹脂上にまず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)-Leu-OHを導入した。Fmoc-Leu-OH(1mmol)を、2-(1-H-benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3- tetramethyluronium (HBTU) とN-hydroxybenzotriazole(HOBt)を各1mmol含むN,N,-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に溶解した後、ポリスチレン樹脂と混合した。30分後、不溶性樹脂をDMFで洗浄した。その後、樹脂を20%ピペリジンのDMF溶液に懸濁し(Fmoc基を除去し)た。その後、Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Val-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Pro-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-D-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OHを同じ操作で導入した。得られたペプチドを樹脂から切断し、また、Bzl基(ベンジル基)などの保護基を除去するため、トリフルオロ酢酸中で1時間反応した。得られた粗生成物はHPLCで精製し、均一なペプチドを得た。また、合成されたペプチドの構造を、飛行時間型分子量測定装置により確認した。
【実施例】
【0050】
Ace-FNIII14の合成法は以下の通り。
ポリエチレングリコール鎖を持つポリスチレン樹脂上にまず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)-Leu-OHを導入した。Fmoc-Leu-OH(1mmol)を2-(1-H-benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3- tetramethyluronium (HBTU) とN-hydroxybenzotriazole(HOBt)各1mmolを含むN,N,-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に溶解した後、ポリスチレン樹脂と混合した。30分後、不溶性樹脂をDMFで洗浄した。その後、樹脂を20%ピペリジンのDMF溶液に懸濁し、Fmoc基を除去した。その後、Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Val-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Pro-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OHを同じ操作で導入した。20%ピペリジンのDMF溶液に不溶性樹脂を懸濁しFmoc基を除去した。別途、酢酸、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール各5mmolをジクロロメタン中で30分反応させ、ろ液を不溶性樹脂に加えた。30分後不溶性樹脂をDMFで洗浄した。目的のペプチドの樹脂からの切断、及び、Bzl基などの保護基を除去するため、トリフルオロ酢酸中で1時間反応した。得られた粗生成物はHPLCで精製し、均一なペプチドを得た。また、合成されたペプチドの構造を、飛行時間型分子量測定装置により確認した。
【実施例】
【0051】
Met化-FNIII14の合成法([N-Me-Glu]2-FNIII14)は以下の通り。
ポリエチレングリコール鎖を持つポリスチレン樹脂上にまず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)-Leu-OHを導入した。Fmoc-Leu-OH(1mmol)を2-(1-H-benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3- tetramethyluronium (HBTU) とN-hydroxybenzotriazole(HOBt)各1mmolを含むN,N,-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に溶解した後、ポリスチレン樹脂と混合した。30分後、不溶性樹脂をDMFで洗浄した。その後、樹脂を20%ピペリジンのDMF溶液に懸濁し(Fmoc基を除去し)た。その後、Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Val-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Pro-OH, Fmoc-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-N-Me-Glu(OBzl)-OH, Fmoc-Thr(Bzl)-OHを同じ操作で導入した。目的のペプチドの樹脂からの切断、及び、Bzl基などの保護基を除去するため、トリフルオロ酢酸中で1時間反応した。得られた粗生成物はHPLCで精製し、均一なペプチドを得た。また、合成されたペプチドの構造を、飛行時間型分子量測定装置により確認した。
【実施例】
【0052】
<評価> 細胞接着阻害活性
96ウェル細胞培養プレート(Corning社製)を0.5μg/mLの濃度のヒト由来血漿性フィブロネクチン(以下、「FN」とする。Fukaiらの方法で調製、(Fukai et al.,J.Biol.Chem.,266,8807,1991)でコーティングした。無血清培地で2×10細胞/mlとなるように、A375SM細胞を懸濁し(2×10細胞)にD-Glu-FNIII14と、FNIII14を含むペプチド溶液(リン酸緩衝生理食塩水に溶解)を最終濃度3.125~25μg/mlになるように混合したものを、上記のプレートの各ウェルに播種した。対照として、ペプチドを含まないPBSのみを同様に各ウェルへ添加した。なお、培地は、DMEM培地(GIBCO BRL社製)を使用した。
プレートを37℃、5v/v%CO雰囲気下で1時間培養した。4%ホルマリンと5%スクロースを含むPBS(-)溶液を100μL静かにウェルに加え、室温で1時間放置することで細胞を固定した。固定後、PBS中での非接着細胞を洗浄除去した後、あらかじめ決められた4視野内の細胞数を計測し接着細胞数とした。結果を図1に示す。
【実施例】
【0053】
図1に示されるように、D-Glu-FNIII14は、FNIII14と同程度の接着阻害活性を保持することが示された。よって、D-Glu-FNIII14は、N末端側にD体アミノ酸を含んでいても、FNIII14としての活性低下は見られないことが示された。
【実施例】
【0054】
[実施例2]
<トリマーおよびデンドリマーの製造>
(1) トリマー(三量体Ac-FNIII14)の製造方法
上記の方法で調製した単量体ペプチドFNIII14をDMSOとPBSに溶解し、TMEA (Tris[2-maleimidoethyl]amine)のDMSO溶液を滴下して得た。
トリマーが得られたことは、合成されたペプチドの構造を、飛行時間型分子量測定装置により確認した。
また同様の手順に従えば、D-Glu-FNIII14の単量体からD-Glu-FNIII14の三量体を得ることができる。
【実施例】
【0055】
(2) デンドリマーの製造方法
単量体ペプチドFNIII14の固相合成法で、ペプチドの末端に、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)を持つペプチドを調製した。ペプチドをDMSOとPBSに溶解し、システイン残基を6個含む環状ペプチドのDMSO溶液を滴下して得た。
デンドリマーが得られたことは、合成されたペプチドの構造を、飛行時間型分子量測定装置により確認した。
また同様の手順に従えば、D-Glu-FNIII14の単量体からD-Glu-FNIII14の多量体(デンドリマー)を得ることができる。
【実施例】
【0056】
[実施例3]
<ヒト血清中におけるペプチドの安定性の評価>
FNIII14(500μg/mL)、各修飾ペプチド(500μg/mL)または溶解液を、それぞれヒト血清中(終濃度90%)(防腐剤としてsodium azide 0.01%添加)にて0~56時間、37℃、5%CO条件下で一定時間インキュベートした。その後、各ウェル中のペプチド濃度が25μg/mLになるようにDMEM(-)で希釈した各試料を、1.5×10/ウェルに調整した A375SM細胞と共に、FN 0.5μg/mLでコート済みの96穴ウェル組織培養プレートに播種し、一定時間培養した後、4%ホルマリンと5%スクロースを含むPBS(-)溶液を100ml静かに各ウェルに加え、室温で1時間放置することで細胞を固定した。固定後、あらかじめ決められた4視野内の細胞数を計測し全細胞数とした。PBS(-)溶液で3回洗浄することで非接着細胞を除去した後、上記と同じ4視野内の接着細胞数を顕微鏡下に計測した。血清処理していないFNIII14の接着阻害活性を100とし、それに対するFNIII14又は修飾ペプチドの血清処理後の残存接着阻害活性の割合を百分率で評価した。結果を図2A~図2Dに示す。なお、図2A~図2Cにおいて、白菱形はFNIII14、白四角はAce-FNIII14、白丸はMet-FNIII14、白三角はD-FNIII14を、それぞれ用いた場合の結果を表す。また図2Dにおいて、黒丸は、FNIII14の活性を示し、黒三角はD-Glu-FNIII14の活性を示す。
【実施例】
【0057】
図2Aに示されるように、FNIII14が2時間で急激に活性を失い、20時間後には60%程度になっていた。これに対して、Ace-FNIII14(図2B参照)やMet-FNIII14(図2C参照)は、FNIII14よりも安定化させることができた。さらに、D-Glu-FNIII14は、ヒト血清中においてアミノペプチダーゼなどによる分解への抵抗性を示した。また、D-Glu-FNIII14は、血清中で活性の低下を起こさず、むしろ20%以上活性が高まることが見出された。
【実施例】
【0058】
本バイオアッセイ方法でヒト血清を用いているが、この血液中の阻害因子をこのペプチドはさけることができるために、100%を越えている。このことは、治療のために血中濃度を維持するためには、FNIII14は1時間程度の間隔で静脈注射する必要があるのに対して、D-Glu-FNIII14であれば1日以上の間隔をあけて静脈注射すればよいことが期待される。さらに、D-Glu-FNIII14であれば、図2Dに示すように60時間の長期の安定性を示したが、50時間以降で分解の傾向を示しているので、不必要に長期に血液中に残留することを避けることができることが示された。この物性を達成できたことから、DDSの手法で必要な放出制御が容易となった。
【実施例】
【0059】
[実施例4]
<抗癌剤補強活性評価>
白血病細胞株U937を含む細胞懸濁液(1mMの塩化マグネシウム及び20%ヒト血清含有DMEM培地)を、2.5×10細胞/ウェルとなるように、FN10μg/mLでコート済みの96-well組織培養プレートに播種した。各ウェルに、FNIII14またはD-Glu-FNIII14をそれぞれ100μg/mLの濃度及びとなるように添加して、37℃、5%CO条件下で2時間培養した。その後、0、10-8M、10-7M、10-6M、10-5Mの各濃度のシタラビン(AraC、協和醗酵社)を添加し、24時間培養した後、WST法に準じてCell counting kit(和光純薬)により生細胞数を測定した(測定波長:450nm、参照波長:655nm)。なお、すべてヒト血清(4人の健常ボランティアからの血清の混合物)を20%添加した培地RPMI1640を用いて行った。結果を図3に示す。
【実施例】
【0060】
その結果を図3に示す。図3に示されるように、AraC存在下におけるU937細胞の生存の減少に対して、D-Glu-FNIII14は、FNIII14よりも優れた効果を有することがわかった。また、D-Glu-FNIII14存在下におけるAraCのIC50として、ペプチド非存在下と比較して約100倍、またFNIII14と比べても更に約10倍となる阻害効果が認められた。
【実施例】
【0061】
また、この図3を見ると、D-Glu-FNIII14との併用は曲線が大きく下に振れ相乗効果が認められている。一方FNIII14ではほぼ直線で相乗効果が認められなかった。相乗効果の指標であるコンビネーションインデックスを Drewinko等の報告 (Drewinko, B., Green, C., and Loo, T.L. (1976) Combination chemotherapy in vitro with cis-dichlorodiammineplatinum(II) Cancer Treat Rep 60(11): 1619-1625)に従ってD-Glu-FNIII14とAra-Cの相乗効果に関して計算した。本薬剤の有効血中濃度範囲である、10-6MのAra-Cで0.188と極めて高く、FNIII14とは著しく異なり、D-Glu—FNIII14は高い相乗効果が得られ、実用場面で効率的な治療効果ができることが明らかとなった。
【実施例】
【0062】
Combination Index(CI)=V/(V×V
=抗がん剤をある濃度作用させた時の細胞生存率
=被験物質をある濃度作用させた時の細胞生存率
=両者を併用して作用させた時の細胞生存率
CI=1:相加効果
CI>1:拮抗効果
CI<1:相乗効果
【実施例】
【0063】
[実施例5]
実施例1で得られたD-Glu-FNIII14のマウスにおける効果を以下のようにして確認した。
6週齢のSCIDマウス(チャールスリバー、日本)を各群6匹ずつに分け、それぞれ4グレイの放射線を照射した後に、5×10個のU937細胞株を尾静脈投与した。投与後7日目に、1.0mg若しくは0.5mgのFNIII14、又は1.0mg若しくは0.5mgのD-Glu-FNIII14をそれぞれ尾静脈から注入し、同時にAraC(20mg)又は生理食塩水を腹腔内投与した。その後、通常の飼育環境下で飼育を継続し、各ペプチドの効果を評価した。結果を図4に示す。
【実施例】
【0064】
図4に示されるように、D-Glu-FNIII14を投与した群では、1mgでも0.5mgでも60日以上の生存が確認され、完全寛解を期待できることが分かった。これに対して、FNIII14では、1mgの場合には、D-Glu-FNIII14と同様に60日以上の生存が確認できるが、0.5mgの場合では50日程度で生存率が0となる。このことから、D-Glu-FNIII14の必要最小投与量は、D-グルタミン酸を有しないFNIII14の半量であり、D-Glu-FNIII14はFNIII14よりも抗癌剤の活性増強効果が驚くことに2倍以上高いことが示された。図2、図3の結果を踏まえるとさらに低薬量でも効果が期待できる。
【実施例】
【0065】
このように、D体アミノ酸残基含有FNIII14は、併用される抗癌剤に対して高い活性増強効果を有すると共に、抗癌剤と併用することにより抗癌剤の効果を相乗的に高めることがわかった。
従って、本発明によれば、併用される抗癌剤の治療効果を増強可能な抗癌剤の活性増強剤及び、これを含む癌治療用医薬組成物を提供することができる。
【実施例】
【0066】
2011年3月11日に出願された日本国特許出願第2011-054475号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
図面
【図3】
0
【図1】
1
【図2A】
2
【図2B】
3
【図2C】
4
【図2D】
5
【図4】
6