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明細書 :近赤外光によりRNAを細胞質内に送達するための新規なキャリア分子ならびに方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5900895号 (P5900895)
登録日 平成28年3月18日(2016.3.18)
発行日 平成28年4月6日(2016.4.6)
発明の名称または考案の名称 近赤外光によりRNAを細胞質内に送達するための新規なキャリア分子ならびに方法
国際特許分類 C12N  15/113       (2010.01)
C07K  14/155       (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  47/48        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAG
C07K 14/155
C07K 14/47
C07K 7/08
C07K 19/00
A61K 47/42
A61K 47/48
A61K 48/00
A61K 31/7088
請求項の数または発明の数 10
全頁数 17
出願番号 特願2013-505776 (P2013-505776)
出願日 平成23年11月24日(2011.11.24)
国際出願番号 PCT/JP2011/077075
国際公開番号 WO2012/127739
国際公開日 平成24年9月27日(2012.9.27)
優先権出願番号 2011063953
優先日 平成23年3月23日(2011.3.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年10月6日(2014.10.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】大槻 高史
【氏名】石躍 由佳
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査官 【審査官】戸来 幸男
参考文献・文献 特開2006-280261(JP,A)
J. Control. Release,2009年,vol.137, no.3,pp.241-245
Nucleic Acids Symp. Ser.,2007年,no.51,pp.127-128
Bioconjugate Chem.,2008年,vol.19, no.5,pp.1017-1024
生化学,2009年,vol.81, no.2,pp.110-112
高分子,2009年,vol.58, no.3,pp.140-141
Adv. Drug Deliv. Rev.,2009年,vol.61, no.9,pp.704-709
Methods Mol. Biol.,2010年,vol.623,pp.271-281
J. Am. Chem. Soc.,2004年,vol.126, no.47,pp.15376-15377
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-14/825
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞膜透過性ペプチド(CPP)およびRNA結合性蛋白質(RBP)を含むキャリア蛋白質と、該キャリア蛋白質のN末端側またはC末端側に連結した、700nm~1000nmの波長を有する光で機能する光増感剤(PST)とからなる構造を有するキャリア分子であって、
前記光増感剤(PST)は、下記構造式で表される化合物(DY750:商標)、図3に示す蛍光スペクトルを有する化合物(Alexa Fluor750:登録商標)または図4に示す吸収スペクトルを有する化合物(IRDye800CW:登録商標)であることを特徴とするキャリア分子。
【化1】
JP0005900895B2_000006t.gif

【請求項2】
前記キャリア蛋白質が、さらにプロテアソーム分解シグナル配列タグ(PDS)および/またはHis-richタグ(HR)を含む、請求項1に記載のキャリア分子。
【請求項3】
前記キャリア蛋白質において、N末端側から、細胞膜透過性ペプチド(CPP)、RNA結合性蛋白質(RBP)、プロテアソーム分解シグナル配列タグ(PDS)および/またはHis-richタグ(HR)がこの順序で連結されており、かつ当該キャリア蛋白質のC末端側に前記光増感剤(PST)が連結されている、請求項1またはに記載のキャリア分子。
【請求項4】
前記CPPが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する、ヒト免疫不全ウイルス由来Tat(trans-activator of transcription)蛋白質中の12アミノ酸からなるペプチドである、請求項1~3のいずれかに記載のキャリア分子。
YGRKKRRQRRRG 配列番号1
【請求項5】
前記RBPが、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する、ヒト由来U1A(U1 small nuclear ribonucleoprotein A)のRNA結合ドメインである、請求項1~4のいずれかに記載のキャリア分子。
AVPETRPNHTIYINNLNEKIKKDELKKSLYAIFSQFGQILDILVSRSLKMRGQAFVIFKEVSSATNALRSMQGFPFYDKPMRIQYAKTDSDIIAKMK 配列番号4
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のキャリア分子と、該RNAキャリア分子中のRBPに結合したRNAとからなる構造を有するキャリア分子/RNA複合体。
【請求項7】
前記RNAが、short hairpin RNA(shRNA)、small interfering RNA(siRNA)またはmicroRNA(miRNA)である、請求項に記載のキャリア分子/RNA複合体。
【請求項8】
請求項またはに記載のキャリア分子/RNA複合体を含む遺伝子治療薬。
【請求項9】
がんまたはウイルス疾患を対象とする、請求項に記載の遺伝子治療薬。
【請求項10】
生体外において、請求項またはに記載のキャリア分子/RNA複合体を細胞と接触させて当該細胞内のエンドソームに局在化させる工程、および該キャリア分子/RNA複合体中のPSTが機能する近赤外線領域の波長を有する光を照射して該キャリア分子/RNA複合体を細胞質中に拡散させる工程を含むことを特徴とする、細胞質内へのRNAの送達方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の機能を発現しうるRNA(機能性RNA)を細胞内に導入し、所定の波長を有する光を照射することによりその機能を発現させるための方法および当該方法に用いられるキャリア分子などに関する。
【背景技術】
【0002】
RNAiは、shRNAやsiRNAの塩基配列に依存して特定遺伝子の発現が抑制される現象であり、病気の原因となる遺伝子やウイルス遺伝子の発現抑制に基づく疾患治療などに応用できるため近年非常に注目されている。このような目的のために、RNAを細胞質内に効率的に導入する手段の研究開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、RNA結合性タンパク質および膜透過性キャリアペプチドを含む融合タンパク質に、該RNA結合性タンパク質に対する認識配列および任意の配列を有するRNAを結合させ、この結合体を任意の細胞と混合することにより、該RNAを細胞内に導入する方法が記載されている。
【0004】
非特許文献1および2には、RNA結合性タンパク質および膜透過性キャリアペプチドに加えて可視領域の波長の光で励起する蛍光色素(たとえばAlexa Fluor 546、励起波長530-550nm)を含む融合タンパク質にsiRNAを結合させた複合体が記載されている。そして、この結合体と細胞を接触させ、当該結合体がエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれエンドソームに局在化した後、励起光を照射することにより、蛍光色素が光増感剤として作用し、siRNAがエンドソームから細胞質に放出され、所定のRNAi効果を達成できることが記載されている(図1参照)。なお、非特許文献1および2には、近赤外領域の波長の光で励起する蛍光色素を用いても上記のような作用効果が奏されることは、記載も示唆もされていない。
【0005】
一方、特許文献2には、機能性分子キャリアとして金ナノロッドを用い、金ナノロッド凝集体とDNAとの複合体を培養細胞に添加し、近赤外域(波長1064nm)のパルスレーザーを照射することにより、DNAを金ナノロッドから脱離させて、当該DNAからの遺伝子を効率的に発現させる方法が記載されている(実施例参照)。しかしながら、金ナノロッドは光熱変換機能を有し、金ナノロッドを集積させた標的部位周辺組織へのフォトサーマル治療(腫瘍細胞等を発生した熱で死滅させる)ために用いられている材料でもあるため(たとえば特許文献3参照)、そのようなことを目的としない使用における細胞毒性や安全性について懸念される。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2006-280261号公報
【特許文献2】特開2005-255582号公報
【特許文献3】特開2010-083803号公報
【0007】

【非特許文献1】T. Endoh, M. Sisido and T.Ohtsuki (2008) Cellular siRNA delivery mediated by a cell permeant RNA-binding protein and photoinduced RNA interference. Bioconjugate chemistry 19(5), 1017-1024.
【非特許文献2】T. Endoh, M. Sisido and T.Ohtsuki (2009) Spatial regulation of specific gene expression through photoactivation of RNAi. Journal of Controlled Release 137, 241-245.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1および2に記載された方法によりRNAを細胞内に導入する場合、励起光として可視光が用いられるが、可視光は生体内への透過性に劣る。そのため、生体の表層(たとえば皮膚表面)にある細胞へのRNAの導入には適用できるが、生体内の深部にある細胞へのRNAの導入には不適当である。
【0009】
本発明は、細胞障害や発熱の問題を起こさず、生体透過性のよい(好ましくは波長700~1000nm程度の)近赤外光を利用してRNAを細胞内に導入する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、近赤外光を励起光とする蛍光色素のうち特定のものが、非特許文献1等に記載の複合体中の蛍光色素として用いた場合に、近赤外光の照射により光増感剤として作用し、エンドソームから細胞質にRNAを放出させる能力を有することを見いだした(図1参照)。さらに、その複合体中の融合タンパク質に特定のペプチドをさらに加えることにより、RNAの細胞質内への導入効率をさらに高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]細胞膜透過性ペプチド(CPP)およびRNA結合性蛋白質(RBP)を含むキャリア蛋白質と、該キャリア蛋白質のN末端側またはC末端側に連結した、近赤外線領域の波長を有する光で機能する光増感剤(PST)とからなる構造を有することを特徴とするキャリア分子。
【0012】
[2]前記光増感剤(PST)が700nm~1000nmの波長を有する光で機能するものである、[1]に記載のキャリア分子。
[3]前記光増感剤(PST)が、下記構造式で表される化合物(DY750)、図3に示す蛍光スペクトルを有する化合物(Alexa Fluor750)または図4に示す吸収スペクトルを有する化合物(IRDye800CW)である、[1]または[2]に記載のキャリア分子。
【化1】
JP0005900895B2_000002t.gif

【0013】
[4]前記キャリア蛋白質が、さらにプロテアソーム分解シグナル配列タグ(PDS)および/またはHis-richタグ(HR)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のキャリア分子。
【0014】
[5]前記キャリア蛋白質において、N末端側から、細胞膜透過性ペプチド(CPP)、RNA結合性蛋白質(RBP)、プロテアソーム分解シグナル配列タグ(PDS)および/またはHis-richタグ(HR)がこの順序で連結されており、かつ当該キャリア蛋白質のC末端側に前記光増感剤(PST)が連結されている、[1]~[4]のいずれかに記載のキャリア分子。
【0015】
[6]前記CPPが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する、ヒト免疫不全ウイルス由来Tat(trans-activator of transcription)蛋白質中の12アミノ酸からなるペプチドである、[1]~[5]のいずれかに記載のキャリア分子。
YGRKKRRQRRRG 配列番号1
【0016】
[7]前記RBPが、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する、ヒト由来U1A(U1 small nuclear ribonucleoprotein A)のRNA結合ドメインである、[1]~[6]のいずれかに記載のキャリア分子。
AVPETRPNHTIYINNLNEKIKKDELKKSLYAIFSQFGQILDILVSRSLKMRGQAFVIFKEVSSATNALRSMQGFPFYDKPMRIQYAKTDSDIIAKMK 配列番号2
【0017】
[8][1]~[7]のいずれかに記載のキャリア分子と、該RNAキャリア分子中のRBPに結合したRNAとからなる構造を有するキャリア分子/RNA複合体。
[9]前記RNAが、short hairpin RNA(shRNA)、small interfering RNA(siRNA)またはmicroRNA(miRNA)である、[8]に記載のRNA複合体。
【0018】
[10][8]または[9]に記載のキャリア分子/RNA複合体を含む遺伝子治療薬または診断薬。
[11]がんまたはウイルス疾患を対象とする、[10]に記載の遺伝子治療薬または診断薬。
【0019】
[12]生体外において、[8]または[9]に記載のキャリア分子/RNA複合体を細胞と接触させて当該細胞内のエンドソームに局在化させる工程、および該キャリア分子/RNA複合体中のPSTが機能する近赤外線領域の波長を有する光を照射して該キャリア分子/RNA複合体を細胞質中に拡散させる工程を含むことを特徴とする、細胞質内へのRNAの送達方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によるRNAキャリアは大部分を生体分子である蛋白質で合成することができるため、生分解性で細胞毒性がなく、安全なRNAキャリアとして使用することができる。また、近赤外光を照射したときのみRNAが細胞質内に拡散するので、位置やタイミングを指定してRNAを細胞質内に送達させ、RNAi等のRNA機能の発現を引き起こすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、所定の波長を有する光の照射によりRNAを細胞質内に送達する方法の概要 。A) RNAキャリア蛋白質 (CPP-RBP) とRNAの複合体。B) エンドサイトーシスを経由するCPP-RBP/RNA複合体の細胞質への移行。蛍光基を付加したCPP-RBPは、まず1) CPPを介して細胞内に導入され、2) エンドサイトーシスを経由してエンドソームに取り込まれる。次に、3) 用いる蛍光色素の励起波長の光を照射することにより、エンドソーム膜が崩壊し、4) CPP-RBP/RNA複合体が細胞質に拡散して、5)RNAの機能が発現する(導入したRNAがshRNA等の場合はDNAiが誘導される)。
【図2】図2は、DY750の励起スペクトル(左)および蛍光スペクトル(右)を表す。
【図3】図3は、Alexa Fluor 750の蛍光スペクトル(右)を表す(対比のためCy7の蛍光スペクトル(左)も併記されている)。
【図4】図4は、IRDye800CWの励起スペクトルを表す(蛍光スペクトルも併記されている)。
【図5】図5は、実施例3)で行った、近赤外光照射によるキャリア/shRNA複合体の細胞質への移行の有無を示す画像である。Alexa Fluor 750、DY750およびIRDye800CWでは細胞質中にRNAが見られ、特にDY750について明瞭であり、これらの蛍光色素を用いると近赤外光の照射によりキャリア/shRNA 複合体を細胞質中に拡散させることができることが確認された。
【図6】図6は、実施例4)で作製したTatU1A-DY750を用いた近赤外光照射によるRNAi効果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例6)で作製したTatU1A-His6-DY750を用いた近赤外光照射によるRNAi効果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例7)で行った、ヒト腫瘍細胞におけるRNAi効果を示すグラフである。(A)フローサイトメトリーによる測定結果。(B)フローサイトメトリーの結果から算出された平均蛍光強度。
【発明を実施するための形態】
【0022】
—キャリア蛋白質—
本発明におけるキャリア蛋白質は、少なくとも細胞膜透過性ペプチド(CPP)とRNA結合性蛋白質(RBP)を必須の構成要素として含み、好ましくはさらにプロテアソーム分解シグナル配列タグ(PDS)および/またはHis-richタグ(HR)を構成要素として含むペプチド(融合タンパク質)を指す。

【0023】
CPP、RBP、PDS、His6の要素同士は、直接ペプチド結合を介して連結していてもよいし、リンカーとなるペプチド(通常1~20個程度のアミノ酸からなるもの)を介して連結していてもよい。また、上記所定の要素およびリンカーを含むキャリア蛋白質全体がペプチド(アミノ酸)のみで構成されることが望ましいが、リンカーとしてペプチド(アミノ酸)以外の化合物、たとえばPEG(ポリエチレングリコール)などを用いてキャリア蛋白質を構成することも可能である。

【0024】
必要に応じて、キャリア蛋白質の内部または末端に上記要素以外のペプチドが含まれていてもよい。たとえば、発現ベクターが産生した本発明のキャリア蛋白質をアフィニティ・クロマトグラフィによって精製・回収するためのHisタグまたはGSTタグがキャリア蛋白質のN末端付近に連結されていてもよい(キャリア蛋白質の回収後に上記Hisタグを切断しない場合は、当該Hisタグを膜透過性を高めるためのHRとして利用することができる。そのようなHRはキャリア蛋白質のN末端側およびC末端側の両方に連結されていてもよい。)。また、後述するような手法によりPSTをキャリア蛋白質に連結させるために、システインを末端付近に位置させておいてもよい。

【0025】
・細胞膜透過性ペプチド(CPP)
CPPは、一般的にアルギニンなどの塩基性アミノ酸に富んだアミノ酸配列を有する、細胞膜と結合し自身を細胞内に取り込ませる働きを持つポリペプチドとして知られており、膜透過性ドメイン(Protein Transduction Domain: PTD)と称されることもある。当初、CPPは、細胞膜を透過して自発的に細胞内に侵入すると考えられたため「細胞膜透過性ペプチド」と命名されているが、現在では一般的に、主に細胞のエンドサイトーシス経路を経て細胞内に取り込まれると考えられている。そして、CPPに連結させて細胞内に運ぼうとする積み荷の性質により、そのままエンドソームに局在化することも多い。本発明においてCPPは、これと連結した複合体の他の要素と共にエンドソームに局在化する能力を有するペプチドを指す用語として定義される。

【0026】
本発明では様々なCPPを用いることができ、目的とする細胞(通常は哺乳動物細胞)に対応するものであればよく、その種類は特に限定されるものではない。また、CPPは、野生型のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、細胞内に侵入する(好ましくは野生型よりも優れた)能力を有する範囲で、野生型のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加を施した変異型のアミノ酸配列を有するものであってもよい。

【0027】
たとえば、ヒト免疫不全ウイルスI型(HIV-1)に由来するTrans-activator of transcription protein(Tatタンパク質)に含まれる、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、本発明におけるCPPとして好適である。
YGRKKRRQRRRG 配列番号1

【0028】
また、フロックハウスウイルス(FHV)に由来する配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、および配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するCTP512(Cytoplasmic Transduction Peptide)も、本発明における好ましいCPPとして挙げられる。
RRRRNRTRRNRRRVR 配列番号3
YGRRARRRRRRR 配列番号4
その他、Revペプチド、ネコヘルペスウイルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニンなどもCPPとして挙げられる。

【0029】
・RNA結合性蛋白質(RBP)
RBPは、RNAの塩基配列または立体構造に依存的または非依存的に結合するタンパク質として公知である。

【0030】
本発明では様々なRBPを用いることができ、その種類は特に限定されるものではないが、通常、RNAの特定の塩基配列または立体構造を認識し、特定のRNAと特異的に結合するものを用いるようにする。また、RBPは、野生型のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、RNAと結合する(好ましくは野生型よりも優れた)能力を有する範囲で、野生型のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加を施した変異型のアミノ酸配列を有するものであってもよい。

【0031】
たとえば、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する、ヒト由来U1A(U1 small nuclear ribonucleoprotein A)のRNA結合ドメインは、本発明におけるRBPとして好適である。
AVPETRPNHTIYINNLNEKIKKDELKKSLYAIFSQFGQILDILVSRSLKMRGQAFVIFKEVSSATNALRSMQGFPFYDKPMRIQYAKTDSDIIAKMK 配列番号2

【0032】
また、sex-lethalタンパク質は、上記ヒト由来U1AよりもRNA運搬能にやや劣るが、本発明のRBPとして用いてもよい。その他、アミノアシルtRNA合成酵素、伸長因子Tu、RRMモチーフを構造中に有するタンパク質などの、公知のRBPを用いることもできる。

【0033】
・プロテアソーム分解シグナル配列タグ(PDS)
プロテアソーム分解シグナル配列は、タンパク質の末端に付加されるアミノ酸配列であって、そこにユビキチンが結合し、プロテアソームでその配列を有するタンパク質を分解しうるものとして公知であり、タンパク質分解(シグナル)配列、分解促進配列などと称されることもある。

【0034】
本発明では様々なPDSを用いることができ、その種類は特に限定されるものではない。また、PDSは、野生型のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、プロテアソームにより分解される(好ましくは野生型よりも優れた)能力を有する範囲で、野生型のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加を施した変異型のアミノ酸配列を有するものであってもよい。たとえば、CL1、CL2、CL6,CL9,CL10、CL11、CL12、CL15、CL16、SL17、PESTなどの公知のPDSを用いることができる。

【0035】
なお、PDSを用いた場合、複合体が細胞質内に導入された後、キャリア蛋白質がプロテアソーム分解系を介して分解され、キャリアタンパク質とRNAの解離が促進されることにより、RNAの機能発現の効果が高くなるものと考えられる。

【0036】
・His-richタグ(HR)
HRは、典型的には6個のヒスチジン(His)からなる、複合体の細胞内への導入効率をより高めることのできるペプチドである。6個のヒスチジンからなるペプチドはアフィニティ・クロマトグラフィのために利用されているHisタグとしても知られている。本発明におけるHRは、そのようなHisタグと同じく(6個の)ヒスチジンのみからなるペプチドであってもよいし、HRを用いない場合よりも細胞内侵入性を向上させる能力を有する範囲でHis6を改変したペプチド、たとえばヒスチジンの数を7~10個程度に増加させたペプチドや、ヒスチジン以外のアミノ酸を織り交ぜたペプチドであってもよい。HRを構成するアミノ酸数は通常は6~20個程度であり、また全アミノ酸中のヒスチジンの割合は通常は50%~100%の範囲である。

【0037】
・作製方法
上記の要素を含むキャリア蛋白質は公知の手段により作製することができる。代表的には、1)PCR法を利用して本発明の所定の要素を含むポリペプチドに対応する塩基配列を有するDNAを作製し、2)作製したDNAをプラスミド等のベクターに導入し、3)部位特異的変異導入法(Site-Directed Mutagenesis)を利用して、C末端にシステインが配置されたポリペプチドに対応する塩基配列を有するベクターを作製し、4)得られたベクターを発現させて目的とするキャリア蛋白質を回収する、という方法が挙げられる。

【0038】
—キャリア分子—
本発明におけるキャリア分子は、上述したキャリア蛋白質と、近赤外線領域の波長の光(近赤外光)で機能する光増感剤とが連結した分子を指す。

【0039】
・光増感剤(PST)
「近赤外線領域の波長の光(近赤外光)で機能する」光増感剤とは、近赤外光を照射することにより、細胞内に取り込まれエンドソームに局在化していた複合体を細胞質中に拡散させ所定の機能を発揮させる状態にすることが可能である光増感剤をいう。なお、そのメカニズムとしては、近赤外光の照射により励起された光増感剤が一重項酸素を発生させ、これがエンドソーム膜を不安定化させる(破壊する)ためであると推測される。

【0040】
本発明において、「近赤外領域」は700nm~2500nmを指す。本発明では、そのような近赤外線領域の波長、より好ましくは700~1000nmの波長、特に好ましくは700~850nmの波長の光で機能する、換言すれば極大励起波長がこれらの領域にある光増感剤が用いられる。上記の近赤外線領域の波長が好ましい理由は、生体中のヘモグロビンや水による吸収を回避して、生体組織透過性が高い波長だからである。

【0041】
本発明におけるPSTの具体例としては、DY750(DYOMICS GmbH社製)、Alexa Fluor 750(登録商標、Invitrogen社製)、IRDye800CW(登録商標、LI-COR社製)が挙げられる。DY750は、下記式に示す構造式および図2に示す励起スペクトル(極大励起波長は747nm)を有する化合物である(DYOMICS GmbH社ホームページ、http://www.dyomics.com/dy-750.html参照)。Alexa Fluor 750は、構造式は明らかにされていないが、図3に示す蛍光スペクトルを有する化合物で極大励起波長は749nmである(Invitrogen社ホームページ、http://www.invitrogen.jp/catalogue/molecular#probes/alexa/alexa#index.htmlおよびhttp://www.invitrogen.jp/catalogue/molecular#probes/alexa/alexafluor750/index.html参照)。IRDye800CWは、構造式は明らかにされていないが、図4に示す励起スペクトル(極大励起波長は774nm)を有する化合物である(LI-COR社のホームページより入手可能なカタログ、http://biosupport.licor.com/docs/800CW#Micro#08618.pdf参照)。

【0042】
【化2】
JP0005900895B2_000003t.gif
・作製方法
キャリア分子は公知の手法によりキャリア蛋白質とPSTとを連結させて作製することができる。代表的には、キャリア蛋白質中唯一のシステインをN末端付近またはC末端付近に配置しておき、一方PSTには当該システインのチオール基と選択的に反応する(キャリア蛋白質中の他のアミノ酸残基とは反応しない)マレイミド基を導入しておき、これらの官能基を反応させてキャリア蛋白質にPSTを結合させる手法が挙げられる。このような手法は、市販の「マレイミド基の付いたPST」を用いて、末端1箇所にシステインを含むキャリア蛋白質と混ぜ合わせたのちに、ゲル濾過スピンカラムなどで未反応のPSTを除去することで行うことができる。

【0043】
—キャリア分子/RNA複合体—
本発明におけるキャリア分子/RNA複合体(単に「複合体」と称するときもある。)は、上述したキャリア分子にRBPを介してRNAが結合した複合体を指す。ただし、RNAはRBPとの特異的な結合とともに、正電荷を多く有するCPP(たとえばTat)との静電気的・非特異的な結合によってキャリア分子と複合体を形成していてもよい。

【0044】
・RNA
キャリア蛋白質中のRBPに結合させるRNAは、当該RBPのRNA認識部位に認識される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、細胞質内に導入することにより所定の機能を発揮する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下「機能性RNA」と称する。)とを含み、これらは直接結合していても、リンカーとなるオリゴヌクレオチドを介して結合していてもよい。

【0045】
機能性RNAとしては様々なRNAを用いることができ、その種類は特に限定されるものではない。本発明における代表的な機能性RNAとしては、特定の遺伝子の発現を抑制するためのshRNA(short hairpin RNA)、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)が挙げられる。また、細胞内で特定のタンパク質を合成するためのmRNAや、タンパク質の特定の部位に非天然アミノ酸を導入するための改変されたtRNAも本発明における機能性RNAとして用いることができる。その他、アンチセンスRNA、アプタマーRNA、リボザイムなども本発明における機能性RNAとなり得る。

【0046】
・形成方法
キャリア分子/RNA複合体は、あらかじめ作製したキャリア分子とRNAとを溶液中で混合することにより、容易に形成させることができる。これらの混合量(モル)の比率は適宜調整することができるが、たとえば、実施例で用いているキャリア(TatU1A, TatU1A-CL1, TatU1A-His6)の場合、RNA:キャリア分子=1:5~10とすることが好ましい。

【0047】
—キャリア分子/RNA複合体の細胞質内への送達方法—
本発明によるキャリア分子/RNA複合体は、以下のような手順により細胞質内に送達することができる。

【0048】
まず、キャリア分子/RNA複合体を細胞と接触させて当該細胞内のエンドソームに局在化させる。通常、細胞にキャリア分子/RNA複合体を含む溶液を添加すれば、一定の時間の経過の後、エンドサイトーシスにより自ずとキャリア分子/RNA複合体は取り込まれ、細胞内のエンドソームに局在化する。細胞は、通常は動物細胞(ヒトの細胞を含む)であり、生体内にあるものでも、生体外にあるもの(培養細胞)でもよい。すなわち、本発明による細胞質内へのRNAの送達方法は、生体内、生体外どちらにおいても適用することができる。

【0049】
次いで、キャリア分子/RNA複合体中のPSTが機能する近赤外線領域の波長を有する光を照射して該キャリア分子/RNA複合体を細胞質中に拡散させる。そのような所定の近赤外光を照射しなければ、キャリア分子/RNA複合体はほとんどエンドソーム中に局在化したままであり、RNAの所定の機能は実質的に発現しない。

【0050】
励起光を照射する手段は特に限定されるものではない。所定の波長の近赤外光を発するキセノンアークランプや色素ポンプレーザーを光源とし、必要に応じて適切なフィルターを用いて、RNAの機能を発現させたい所望の部位の細胞に近赤外光を照射すればよい。

【0051】
このような手順によりキャリア分子/RNA複合体が細胞質内に送達された後は、細胞質中の各種の生体物質の作用によりRNAの所定の機能が発揮される。たとえば、機能性RNAとしてsiRNAまたはshRNAを用いた場合、Dicer酵素の作用によりリンカー配列部分および一本鎖ループ配列部分が切断・分解され、二本鎖部分が細胞固有の特定の構造体に認識されることにより、mRNAからの翻訳反応を阻害し、RNAiが達成される。

【0052】
—用途—
本発明のキャリア分子は、当該キャリア分子に結合しうる任意のRNAを細胞質内に導入することができ、その用途は特に限定されるものではない。代表的には、本発明のキャリア分子/RNA複合体は、たとえばがんやウイルス疾患を対象とする遺伝子治療薬として使用することができる。この場合、RNA(機能性RNA)としては、RNAiによりがんまたはウイルス疾患の原因となっている特定の遺伝子の発現を抑制することのできる、適切な塩基配列を有するものが選択される。
【実施例】
【0053】
1) キャリア蛋白質の調製
CPPとしてヒト免疫不全ウィルス由来Tat (trans-activator of transcription) 蛋白質の11アミノ酸からなる膜透過ドメインと、RBPとしてヒト由来U1A (U1 small nuclear ribonucleoprotein A) のRNA結合ドメインとを融合した、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するキャリア蛋白質TatU1Aを調製した (図1A)。下記配列番号5のアミノ酸配列中、二重下線部(13-24位)がTat、下線部(36-132位)がU1Aの配列である。
【実施例】
【0054】
【化3】
JP0005900895B2_000004t.gif
また、この蛋白質のC末端に、PDSとしてのCL1、あるいはHRとしてのHis6タグを付加した、それぞれ配列番号6および7で示されるアミノ酸配列を有するキャリア蛋白質TatU1A-CL1およびTatU1A-His6も同時に調製した。下記配列番号6のアミノ酸配列中、二重下線部(13-24位)がTat、下線部(36-132位)がU1A、一点鎖線(135-150位)がCL1の配列である。下記配列番号7のアミノ酸配列中、二重下線部(13-24位)がTat、下線部(36-132位)がU1A、二点鎖線(135-141位)がHis6の配列である。
【実施例】
【0055】
【化4】
JP0005900895B2_000005t.gif
なお、いずれのキャリア蛋白質も、後にチオール反応性の色素(光増感剤)を付加するため、C末端はシステインにしてある。このC末端のシステインは、キャリア蛋白質の中で唯一のシステインである。
【実施例】
【0056】
2) キャリア蛋白質への(光増感剤としての)近赤外蛍光色素の付加
1)で調製したキャリア蛋白質に、近赤外光で励起される蛍光色素を付加した。蛍光色素として、DY750 (DYOMICS GMMBH社製)、HiLyte Fluor750 (Anaspec社製)、IRDye800CW (LI-COR社製)、Alexa Fluor 750 (Invitrogen社製) 、DyLight750 (Takara社製) 、DyLight800 (Takara社製)を用いた。Protein Assay Kitを用いて定量したキャリア分子の蛋白質濃度と、分光光度計を用いて吸光度測定により定量した蛍光色素濃度から、蛍光色素付加率を求めた。付加率が10~30%程度になるように、未標識のキャリア蛋白質を添加し調製した。
【実施例】
【0057】
3) 近赤外蛍光色素の付いたキャリア蛋白質によるRNAの細胞内エンドソーム内導入と近赤外光による細胞質への拡散
種々の蛍光色素で標識したキャリア蛋白質(ここではTatU1A)について、U1Aが認識する配列を付加したshRNAの細胞質移行を試みた。shRNAとTatU1A-蛍光色素コンジュゲート(以下これをキャリアと呼ぶ)をそれぞれ最終濃度200 nMおよび2 mMとなるように混合し、遮光条件下で37 ℃で10分間インキュベーションすることにより、キャリア/shRNA 複合体を調製した。ここでは、複合体の細胞内局在を可視化するために、FAM標識したshRNAを用いた。約70%コンフルエントになるまで培養した哺乳動物細胞 (CHO細胞) に、上記キャリア/shRNA混合液を添加し、37 ℃で2時間、CO2インキュベーターで培養した。それぞれの蛍光色素の励起波長で光照射し、キャリア/shRNA 複合体の細胞内局在を蛍光顕微鏡観察により評価した。蛍光色素(光増感剤)としてAlexa Fluor 750, DY750, IRDye800CW を用いた場合にのみ、細胞内に点在 (エンドソームに局在) していたshRNAが近赤外光の照射により細胞質に拡散した (図5)。すなわち、近赤外光照射特異的にキャリア/shRNA 複合体を細胞質に導入できることを示した。このときHiLyte Fluor750、Alexa Fluor 750、およびDyLight750を用いた場合は750±20nmの光(epitex社製 Infrared illuminator L750-66-60)、IRDye800CWおよびDyLight800を用いた場合には780±20 nmの光(epitex社製 Infrared illuminator L780-66-60)を励起光として用いた。
【実施例】
【0058】
4) 近赤外光による哺乳動物細胞の細胞質内へのRNA導入とそのRNAの機能発現(RNAi)の確認
750 nm付近に吸収をもつ蛍光色素DY750を付加したTatU1A (TatU1A-DY750) を用いて、近赤外光照射によるRNAi誘導の検討を行った。shRNAとTatU1A-DY750をそれぞれ最終濃度200 nMおよび2 mMとなるように混合し、遮光条件下で37 ℃で10分間インキュベーションすることにより、TatU1A-DY750/shRNA複合体を調製した。ここでは、EGFPのmRNAを標的とするため、anti-EGFP配列のshRNAを用いた。EGFPを安定発現するCHO細胞 (EGFP-CHO細胞) を約70%コンフルエントになるまで培養し、上記TatU1A-DY750/shRNA 混合液を添加し、さらに37 ℃、2時間CO2インキュベーターで培養した。DY750の励起波長で光照射し、37 ℃で20時間CO2インキュベーターで培養した後、細胞を回収し、フローサイトメトリー法によりRNAi効果を検討した。その結果、光照射した細胞集団のEGFP平均蛍光強度は、光照射しなかったものと比較し、顕著に減少した (図6)。すなわち、光照射を行った細胞において、EGFPに対するRNAi効果が認められた。
【実施例】
【0059】
以上の結果から、TatU1A-DY750によりshRNAを細胞内に導入し、光照射特異的に、つまり近赤外光を照射したときのみshRNAを細胞質に移行させることができ、RNAi(shRNAの機能発現)を誘導することができた。
【実施例】
【0060】
5) RNA運搬能の高いキャリア蛋白質の選抜
上記1)で作製したTatU1Aに対して、CPP部分をFHV (フロックハウスウイルス由来のアルギニンペプチド; RRRRNRTRRNRRRVR)またはCTP512 (cytoplasmic transduction peptide;YGRARRRRRRR。変異導入のしやすさを考慮して、配列番号4に記載のアミノ酸配列の4位のRが欠失したものを用いた。)に変えたものを作製した。しかし、FHV-U1AやCTP-U1Aの細胞質へのRNA運搬能はTatU1Aと大差なかった。次に、CPPとしてTatを用い、RBP部分をSxl蛋白質またはバクテリオファージλ-Nペプチドにしたものを作製した。このTatSxlはのRNA運搬能を持っていたもののTatU1Aより劣っていた。TatλNはRNA運搬能が全く見られなかった。
【実施例】
【0061】
次に、1)で作製したTatU1A-CL1、TatU1A-His6およびTatU1AのRNA運搬能を調べたところ、TatU1A-CL1およびTatU1A-His6はTatU1AよりもRNA運搬能が高かった。すなわち、キャリア蛋白質部分としては、TatU1A-CL1およびTatU1A-His6が、以上で検討された中で最もRNAキャリアとしての能力が高かった。
【実施例】
【0062】
6) 近赤外光による哺乳動物細胞の細胞質内へのRNA導入とそのRNAの機能発現(RNAi)の確認
4)と同様、750 nm付近に吸収をもつ蛍光色素DY750を付加したTatU1A-His6 (TatU1A-His6-DY750) を用いて、近赤外光照射によるRNAi誘導の検討を行った。shRNAとTatU1A-His6-DY750をそれぞれ最終濃度200 nMおよび2 mMとなるように混合し、遮光条件下で37 ℃で10分間インキュベーションすることにより、TatU1A-His6-DY750/shRNA複合体を調製した。ここでは、EGFPのmRNAを標的とするため、anti-EGFP配列のshRNAを用いた。EGFPを安定発現するCHO細胞 (EGFP-CHO細胞) を約70%コンフルエントになるまで培養し、上記TatU1A-His6-DY750/shRNA 混合液を添加し、さらに37 ℃、2時間CO2インキュベーターで培養した。DY750の励起波長で光照射し、37 ℃で20時間CO2インキュベーターで培養した後、細胞を回収し、フローサイトメトリー法によりRNAi効果を検討した。その結果、光照射した細胞集団のEGFP平均蛍光強度は、光照射しなかったものと比較し、顕著に減少した (図7)。すなわち、光照射を行った細胞において、EGFPに対するRNAi効果が認められた。以上の結果から、TatU1A-His6-DY750によりshRNAを細胞内に導入し、光照射特異的にshRNAを細胞質に移行させることができ、RNAi(shRNAの機能発現)を誘導することができた。
【実施例】
【0063】
7) ヒトの腫瘍細胞における近赤外光RNAi誘導
4)と同様、750 nm付近に吸収をもつ蛍光色素DY750を付加したTatU1A-CL1 (TatU1A-CL1-DY750) を用いて、近赤外光照射によるRNAi誘導の検討を行った。shRNAとTatU1A-CL1-DY750をそれぞれ最終濃度200 nMおよび2 mMとなるように混合し、遮光条件下で37 ℃で10分間インキュベーションすることにより、TatU1A-CL1-DY750/shRNA複合体を調製した。ここではヒト腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞211H を用いた。EGFPを安定発現する211H 細胞を約70%コンフルエントになるまで培養し、上記TatU1A-CL1-DY750/shRNA 混合液を添加し、さらに37 ℃、2時間CO2インキュベーターで培養した。DY750の励起波長で光照射し、37 ℃で20時間CO2インキュベーターで培養した後、細胞を回収し、フローサイトメトリー法によりRNAi効果を検討した。その結果、光照射した細胞集団のEGFP平均蛍光強度は、光照射しなかったものと比較し、顕著に減少した (図8)。すなわち、光照射を行った細胞において、EGFPに対するRNAi効果が認められた。
【配列表フリ-テキスト】
【0064】
配列番号4:CTP512
配列番号5:TatU1A
配列番号6:TatU1A-CL1
配列番号7:TatU1A-His6
図面
【図2】
0
【図1】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7