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明細書 :免疫抑制性細胞捕集材及び免疫抑制性細胞捕集用カラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5916712号 (P5916712)
登録日 平成28年4月15日(2016.4.15)
発行日 平成28年5月11日(2016.5.11)
発明の名称または考案の名称 免疫抑制性細胞捕集材及び免疫抑制性細胞捕集用カラム
国際特許分類 A61M   1/36        (2006.01)
A61K  35/17        (2015.01)
A61P  35/00        (2006.01)
B01J  20/22        (2006.01)
B01J  20/281       (2006.01)
B01J  20/24        (2006.01)
FI A61M 1/36 545
A61K 35/17 A
A61P 35/00
B01J 20/22 C
B01J 20/22 D
B01J 20/24 C
請求項の数または発明の数 10
全頁数 18
出願番号 特願2013-507607 (P2013-507607)
出願日 平成24年3月27日(2012.3.27)
国際出願番号 PCT/JP2012/057918
国際公開番号 WO2012/133399
国際公開日 平成24年10月4日(2012.10.4)
優先権出願番号 2011071475
優先日 平成23年3月29日(2011.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年1月16日(2015.1.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
発明者または考案者 【氏名】小笠原 一誠
【氏名】寺本 和雄
【氏名】上田 祐二
【氏名】伊藤 靖
【氏名】石垣 宏仁
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】寺澤 忠司
参考文献・文献 特開2010-201345(JP,A)
特開2006-288571(JP,A)
特開昭56-130160(JP,A)
特開昭60-252423(JP,A)
調査した分野 A61M 1/36
A61K 35/17
A61P 35/00
B01J 20/22,20/24,20/281
特許請求の範囲 【請求項1】
アミノ基を有する易加水分解性縮合ポリマー、
該易加水分解性縮合ポリマーを被覆する難加水分解性ポリマー、及び
該難加水分解性ポリマーを被覆するリガンド結合難加水分解性ポリマー
を備えた成型体からなる免疫抑制性細胞捕集材であって、
該リガンドが、NH2基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、ポリアミン残基、塩基性環状ポリペプチド残基、アミノグリコシド系化合物残基、クロロキン、プリマキン、メフロキン、イミキモド、及びナイスタチンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
該成型体中のアミノ基の量が150μmol/g以下である、免疫抑制性細胞捕集材。
【請求項2】
前記リガンドが第四級アンモニウム基ではない、請求項1に記載の捕集材。
【請求項3】
前記易加水分解性縮合ポリマーがポリエステル又はポリウレタンであり、前記難加水分解性ポリマーがポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド又はこれらの誘導体である、請求項1に記載の捕集材。
【請求項4】
前記免疫抑制性細胞がレイタンシイ・アソシエイティッド・プロテインを細胞表面に有する細胞である、請求項1に記載の捕集材。
【請求項5】
前記免疫抑制性細胞が顆粒球抗原とCD11b抗原を高発現する細胞である、請求項1に記載の捕集材。
【請求項6】
請求項1に記載の捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム。
【請求項7】
体外循環用である、請求項6に記載のカラム。
【請求項8】
細胞治療用である、請求項6に記載のカラム。
【請求項9】
癌の治療に使用される、請求項6に記載のカラム。
【請求項10】
癌の摘出手術後の癌の再発予防に使用される、請求項6に記載のカラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主として医療用途に用いる免疫抑制性細胞捕集材、該捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム、並びに該捕集材を使用する癌の治療及び予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の克服は現代医学の大きな課題である。生体には癌細胞を除く機構が備わっており癌にならないはずであるが、何らかの原因で免疫が低下した時に癌が発症すると考えられる。
【0003】
担癌哺乳動物の血液には、TGF-βやインターロイキン-10などの免疫抑制性タンパク質の濃度が増加していることが知られており、これら免疫抑制性タンパク質を吸着カラムでの体外循環によって除去すれば、免疫が向上して腫瘍の増殖を抑えられると考えられる。実際、特許文献1では、そのようなTGF-βや免疫抑制酸タンパク質に吸着する吸着材について報告されている。また、特許文献2では、TGF-β1やS100A8/A9等の免疫抑制性タンパク質を吸着できる吸着材が充填されたカラムで担癌ラットを体外循環治療すると、殺細胞活性が増強されたことや腫瘍の肺転移を防止できたことが報告されている。
【0004】
最近、担癌生体の血液中に含まれる白血球の中には免疫抑制性のものがあることが分かってきている。そして、CD4+CD25+FoxP3+の制御性T細胞(非特許文献1)、細胞表面にレイタンシイ・アソシエイティッド・ペプチド(latency-associated peptide)(以下LAPと略称する)を発現したCD4+及びCD8+の制御性T細胞(非特許文献2、3)、及びGr1highCD11bhigh等のミエロイド由来抑制性細胞(非特許文献4)が免疫を抑えていることが明らかになっている。
【0005】
これらの細胞はTGF-βやインターロイキン-10等の免疫抑制性タンパク質を大量に分泌しているので、これらの細胞を除去することは癌治療上、免疫抑制性タンパク質を除去する以上に重要であると考えられる。
【0006】
しかし、血液中には免疫抑制性の細胞だけでなく、免疫を高めるように働く白血球が多量に含まれており、10%程度しか存在しない免疫抑制性の細胞だけを選択的に除去するのは容易でない。このような場合、免疫抑制性の細胞に対する抗体を固定したビーズのカラムを使えば、免疫抑制性の細胞だけを吸着できるが、このカラムを治療用器材として使用するためには熱や放射線で滅菌する必要がある。しかし、抗体はタンパク質であり、滅菌操作で変性し、機能を失ってしまう。タンパク質を固定化した物質を滅菌する方法は現在のところ存在せず、血液中の免疫抑制性の細胞を除去できる治療用カラムは現在のところ知られていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2003-111834号公報
【特許文献2】特開2010-201345号公報
【0008】

【非特許文献1】M. Beyer and J. L. Schultze, Blood 2006: 108: 804-811
【非特許文献2】K. Nakamura, A. Kitani, I. Fuss, A. Pedersen, N. Harada, H. Nawata and W. Strober, The Journal of Immunology 2004: 172: 834-842
【非特許文献3】M. L. Chen, B. S. Yan, D. Kozoriz and H. L. Weiner, European Journal of Immunology 2009: 39: 3423-3435
【非特許文献4】P. Sinha, C. Okoro, D. Foell, H. H. Freeze, S. Ostrand-Rosenberg and G. Srikrishna, The Journal of Immunology 2008: 181: 4666-4675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、免疫抑制性細胞を選択的に捕集する非タンパク質性の免疫抑制性細胞捕集材、該捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム、並びに該捕集材を使用する癌の治療及び予防方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、抗体を使用しないで血液中の免疫抑制性細胞を選択的に捕集する医療用のカラムを作る方法がないか種々検討した結果、繊維表面の高分子を分解することにより多孔化したアミノ化ポリエチレンテレフタレート繊維を使用することによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。特に、第四級アンモニウム基以外のものをリガンドとして使用し、且つアミノ基の存在密度が低い場合に、アルブミンなどの血漿タンパク質の吸着性が低い上に、免疫抑制性細胞を選択的に捕集できるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の免疫抑制性細胞捕集材、免疫抑制性細胞捕集用カラム、並びに癌の治療及び/又は予防方法を提供するものである。
【0012】
(I) 免疫抑制性細胞捕集材
(I-1) アミノ基を有する易加水分解性縮合ポリマー、
該易加水分解性縮合ポリマーを被覆する難加水分解性ポリマー、及び
該難加水分解性ポリマーを被覆するリガンド結合難加水分解性ポリマー
を備えた成型体からなる免疫抑制性細胞捕集材であって、
該リガンドが、NH2基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、ポリアミン残基、塩基性環状ポリペプチド残基、アミノグリコシド系化合物残基、クロロキン、プリマキン、メフロキン、イミキモド、及びナイスタチンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
該成型体中のアミノ基の量が150μmol/g以下である、免疫抑制性細胞捕集材。
(I-2) 前記リガンドが第四級アンモニウム基ではない、(I-1)に記載の捕集材。
(I-3) 前記易加水分解性縮合ポリマーがポリエステル又はポリウレタンである、(I-1)又は(I-2)に記載の捕集材。
(I-4) 前記難加水分解性ポリマーがポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド又はこれらの誘導体である、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載の捕集材。
(I-5) 前記易加水分解性縮合ポリマーがポリエステルであり、且つ前記難加水分解性ポリマーがポリスルホンである、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載の捕集材。
(I-6) 前記免疫抑制性細胞がレイタンシイ・アソシエイティッド・プロテインを細胞表面に有する細胞である、(I-1)~(I-5)のいずれかに記載の捕集材。
(I-7) 前記免疫抑制性細胞が顆粒球抗原とCD11b抗原を高発現する細胞である、(I-1)~(I-5)のいずれかに記載の捕集材。
【0013】
(II) 免疫抑制性細胞捕集用カラム
(II-1) (I-1)~(I-7)のいずれかに記載の捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム。
(II-2) 体外循環用である、(II-1)に記載のカラム。
(II-3) 細胞治療用である、(II-1)に記載のカラム。
(II-4) 癌の治療に使用される、(II-1)~(II-3)のいずれかに記載のカラム。
(II-5) 癌の摘出手術後の癌の再発予防に使用される、(II-1)~(II-3)のいずれかに記載のカラム。
【0014】
(III) 癌の治療及び/又は予防方法
(III-1) (I-1)~(I-7)のいずれかに記載の捕集材に患者の血液を接触させることを特徴とする、癌の治療及び/又は予防方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の捕集材及びカラムは、血液中から免疫抑制性細胞を選択的に捕集することができ、その濃度を下げることができる。そのため、本発明の捕集材及びカラムは癌治療や癌の再発予防への適用が期待される。
【0016】
更に、本発明の捕集材は、非タンパク質性の材料を使用しているので滅菌操作が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について更に詳細に説明する。

【0018】
免疫抑制性細胞捕集材
本発明の免疫抑制性細胞捕集材は、
アミノ基を有する易加水分解性縮合ポリマー、
該易加水分解性縮合ポリマーを被覆する難加水分解性ポリマー、及び
該難加水分解性ポリマーを被覆するリガンド結合難加水分解性ポリマー
を備えた成型体からなり、
該リガンドが、NH2基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、ポリアミン残基、塩基性環状ポリペプチド残基、アミノグリコシド系化合物残基、クロロキン、プリマキン、メフロキン、イミキモド、及びナイスタチンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
該成型体中のアミノ基の量が150μmol/g以下であることを特徴とする。

【0019】
(捕集材の構成)
本発明における免疫抑制性細胞とは、キラー細胞及びヘルパーT細胞の機能を抑制する血液細胞を意味する。その具体例としてLAPを細胞表面に有する細胞であるLAP+CD4+制御性T細胞及びLAP+CD8+制御性T細胞、顆粒球抗原とCD11bを高発現している細胞、即ち、Gr1highCD11bhighの細胞などを挙げることができる。これらの細胞はフローサイトメーター分析で確認することが可能である。LAP+CD4+制御性T細胞及びLAP+CD8+制御性T細胞の末梢血液中の存在量は個々の生体により異なるが、一般的にはそれぞれのT細胞サブセット中の0.2%~15%である。

【0020】
本発明における「選択的に捕捉する」とは、捕集材を充填したカラムに血液又は血液細胞混合液を通した時、通過した細胞混合液中の免疫抑制性細胞の存在比率が通過前より減少し、捕捉された細胞中の免疫抑制性細胞の存在比率が通過前より増加することを意味する。本発明の捕集材としては、血液/捕集材の重量比20で接触させた時のLAP陽性T細胞の存在比率が、CD4+T又はCD8+Tの細胞サブセット内で通過前の存在比率の0.7以下、特に0.5以下になる能力を有するものが好ましい。

【0021】
ポリエチレンテレフタレートのような易加水分解性縮合ポリマーの表面を難加水分解性ポリマーで被覆した後、ポリアミンで処理することによって多孔性捕集材が得られる。この捕集材表面近傍に存在する孔はポリマー鎖の抜けた後に形成されるので、ポリマー分子以上の大きさになり、高分子の捕集用途に適している。また、孔は易加水分解性縮合ポリマーがポリアミンでアミノリシスされてできるので、孔の表面のポリマーはアミノ基を有するという特徴がある。

【0022】
選択的捕集の機構としては、免疫抑制性細胞の一つであるLAP陽性T細胞上のLAPはポリロイシン構造に結合する性質があり、捕集材のポリエチレンテレフタレートは芳香核とエステル基を有しており、その化学構造がポリロイシン構造の嵩高さ、疎水性及び極性に近いと考えられること、LAPがその側鎖の糖鎖にリン酸基を持つことからアミノ基に親和性を持っていること等が推測される。

【0023】
本発明で使用する易加水分解性縮合ポリマーとしては、主鎖にエステル結合又はウレタン結合(-O-CONH-)を含むポリマーであり、且つ機械的に強い成型体に加工でき得るポリマーが挙げられ、これらのポリマーは温和な条件で加水分解が可能である。このようなポリマーとしては、ポリエステル及びポリウレタンが含まれる。中でも、ポリエステルは加水分解反応性が高い上に、機械的強度及び加工性が高く、且つ成型品の入手が容易なので、特に好ましい。ポリエステルの具体例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができるが、中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。当該ポリマーの分子量は、成型できる範囲であれば特に制限されないが、成形性の良さから、通常1万~100万、特に2万~20万が好ましい。

【0024】
本発明における「成型体」とは、アミノ基を有する易加水分解性縮合ポリマー、難加水分解性ポリマー、及びリガンド結合難加水分解性ポリマーを含む「成型体」を意味しており、他のポリマー成分等を含むものであっても良い。本発明の成型体の態様としては、アミノ基を有する易加水分解性縮合ポリマーの表面が難加水分解性ポリマーで被覆され、当該難加水分解性ポリマーの表面が更にリガンド結合難加水分解性ポリマーで被覆された成型体である。尚、本発明において被覆とはポリマー全体が被覆されていることだけでなく、ポリマーの一部のみが被覆されていることも意味する。

【0025】
本発明の成型体の形状としては、特に限定されないが、繊維状、不織布状、膜状、中空糸状、粉粒状、及びこれらの高次加工品が挙げられ、形状は用途に応じ適宜選択される。

【0026】
本発明において「アミノ基を有する」とは、アミノ基がポリマーに直接結合していること、及びスペーサー分子を介して結合していることの両方を包含する。

【0027】
本発明で使用する難加水分解性ポリマーとは、易加水分解性縮合ポリマーより加水分解を受け難いポリマーであり、且つ有機溶媒に可溶なポリマーを意味し、特にガンマー線滅菌や高圧蒸気滅菌の条件に耐え得るポリマーが好ましく、加工品の機械的安定性が増すので更にフイルム形成性があるとより好ましい。難加水分解性ポリマーの具体例としては、ビスフェノールAとジフェニルスルホンからなるポリスルホン -{(p-C6H4)-SO2-(p-C6H4)-O-(p-C6H4)-C(CH3)2-(p-C6H4)-O}n-、ポリ(p-フェニレンエーテルスルホン)-{(p-C6H4)-SO2-(p-C6H4)-O-(p-C6H4)-O}n-、-{(p-C6H4)-SO2-(p-C6H4)-O-(p-C6H4)-C(CF3)2-(p-C6H4)-O}n-などで代表される芳香族ポリスルホン重合体、ポリエーテルイミド、ポリイミド、及びこれらの誘導体を挙げることができる。中でも、ポリスルホンは、安価で加工性が高く、自身の機械的強度も高く、強靭なフイルムを形成する能力があるので医療用材料として優れており、また官能基を導入し易いので、特に好ましい。また、上記ポリマーの中でも、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキサイド、N-メチルピロリドンなどの非塩素系且つ非発癌性溶剤に溶解するものが、環境汚染防止や労働衛生維持上、特に好ましい。当該ポリマーの分子量は、成型できる範囲であれば特に制限はないが、成形性の良さから、通常1万~500万、特に2万~20万が好ましい。

【0028】
難加水分解性ポリマーとしては、アミノ基と化学結合を形成する反応性官能基を側鎖に持つものが特に好ましい。更に難加水分解性ポリマーが、捕集能力及び捕集特異性を決定するリガンドを併せ持つと捕集材の性能向上に役立つ。

【0029】
上記反応性官能基としては、クロロメチル基、ハロアセトアミドメチル基、カルボキシル基の酸ハロゲン化物、酸無水物又はエステル等の反応性官能基が挙げられ、反応性の高さと加工中の安定性のバランスから、クロロアセトアミドメチル基、ヨードアセトアミドメチル基及びブロモアセトアミドメチル基が特に好ましい。

【0030】
本発明にかかる難加水分解性ポリマーが有すべきリガンドは捕集機能の発揮のため必要なものであり、NH2基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、ポリアミン残基、塩基性環状ポリペプチド残基、アミノグリコシド系化合物残基等の中から目的に応じて1個又は2個以上の官能基が選ばれる。

【0031】
好ましい具体例としては、NH2基、N-メチル-アミノ基、N-ブチル-アミノ基などで代表される第二級アミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-メチル-N-ブチルアミノ基などで代表される第三級アミノ基等のアミノ基;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどで代表されるポリアミン;ポリミキシンB、コリスチンで代表される塩基性環状ポリペプチド;アミカシン、アストロマイシン、イセパマイシン、アルベカシン、トブラマイシン、カナマイシン、ジベカシン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ネチルマイシン、ベカナマイシンなどで代表されるアミノグリコシド系化合物;クロロキン、プリマキン、メフロキン、イミキモド、ナイスタチン等が挙げられる。

【0032】
上記のリガンドの内、ジエチレントリアミンや環状ポリアミノ化合物等の複数のアミノ基を有するものは、難加水分解性ポリマーの架橋基としても作用する。そのような架橋基は、後加工時の耐熱性及び耐溶剤性を高めると共に多孔化を促進するために有用である。

【0033】
本発明の捕集材の細胞選択性は高い方が医学的安全上好ましいが、これを向上させるためには一般的にアミノ基の塩基性度が低い方が良く、且つ、存在密度が低い方が良い。また、体外循環のように血液を直接処理して、生体に戻す使用方法の場合は、アルブミンなどの血漿タンパク質の吸着性ができるだけ低い方が良い。とりわけ、捕集材に捕捉された細胞を捕集材のアミノ基が刺激して、サイトカインを放出させることやネクローシスを起こさせることは医学的安全上避けなければならない。これらの観点から、第四級アンモニウム基は難加水分解性ポリマーが有すべきリガンドから除外される。そして、本発明の成型体中のアミノ基の量は、好ましくは1 g当たり150μmol以下、より好ましくは110μmol以下、特に好ましくは1~110μmolである。尚、本発明におけるアミノ基の量は、実施例に記載のアミノ基の定量方法で求められる値とする。

【0034】
特許文献2(特開2010-201345号公報)の実施例1~3ではリガンドとして第四級アンモニウム基が使用され、実施例4及び5では吸着材のアミノ基の量は各々357μmol/g、413μmol/gとなっている。このように特許文献2の実施例で開示されている多孔性吸着材は本発明の捕集材とは異なる物である。そして、特許文献2の多孔性吸着材はタンパク質吸着性が高いのに対して、本発明の捕集材はタンパク質の吸着性が低く、タンパク質吸着性の点で異なっている。

【0035】
本発明の捕集材は、多種類の血液細胞からなる細胞液から免疫抑制性細胞を選択的に捕捉することができる。また、本発明の捕集材はタンパク質成分を含まないので、高圧蒸気滅菌や放射線滅菌などの滅菌操作で機能を失わず、無菌操作に使用できる。

【0036】
(捕集材の製造方法)
本発明の捕集材の製造方法としては、易加水分解性縮合ポリマーを直接、塩基性条件で処理することにより、又は、その表面を難加水分解性ポリマーで被覆し、次に、塩基性条件で処理することにより易加水分解性縮合ポリマーの一部を分解し、その分解産物を抽出することによってアミノ基を有する多孔構造を作る方法が挙げられる。

【0037】
難加水分解性ポリマーでの被覆の方法としては、易加水分解性縮合ポリマーを難加水分解性ポリマー溶液に浸した後、溶媒を蒸発除去する方法、或いは、温度による溶解度差を利用して、50~70℃の難加水分解性ポリマーの溶液に易加水分解性縮合ポリマーを浸した後、冷却して徐々にポリマーを析出させながら被覆する方法が採用される。後者の方法は均一に被覆が行われる特長があり、また、溶媒を蒸発させ装置や溶媒回収装置を必要としない経済的利点がある。上記難加水分解性ポリマーを更にリガンド結合難加水分解性ポリマーで被覆するとより優れた捕集材が得られる。以下に具体例を示す。

【0038】
まず、市販のポリエチレンテレフタレート不織布をジエチレントリアミンの0.5重量%ジメチルスルホキサイド溶液中、105℃で20分間加熱して、表面洗浄とともに繊維表面を粗面化する(前処理工程)。水洗浄・乾燥後、得られた不織布を繊維重量の10%量のクロロアセトアミドメチルポリスルホン(置換率10モル%)を含むテトラヒドロフラン溶液に浸した後、テトラヒドロフランを蒸発させて、難加水分解性ポリマー塗布物を得る(一次被覆工程)。次に、この塗布物をジエチレントリアミンの1重量%・含水(20重量%)ジメチルスルホキサイドの溶液に浸し、80℃で1時間加熱して、多孔化成型品を得る(多孔化処理工程)。更に、この多孔化成型品を0.2重量%クロルアセトアミドメチルポリスルホン(置換率100モル%)含有ジメチルスルホキサイド溶液に浸し40℃で30分間加熱した後、引き上げ、ジメチルスルホキサイドで3回洗浄した後、乾燥する。次に、1重量%ジエチレントリアミンのジメチルスルホキサイド溶液中40℃で1時間加熱した後、エタノール及び水で洗浄して、本発明の捕集材を得る(二次被覆工程)。ここでジエチレントリアミンの代わりに種々のリガンドを用いれば、様々な機能を持つ捕集材を得ることができる。

【0039】
上記一次被覆工程においては、ポリエチレンテレフタレート繊維の表面アミノ基と被覆ポリマーのクロロアセトアミドメチル基の間で結合反応が起きる。この一次被覆が無いと、多孔化構造が安定化されないため多孔化の程度が低く、機械的強度も低くなる。被覆する難加水分解性ポリマーは、テトラヒドロフランのような低沸点溶媒に溶解すると、溶媒の蒸発除去が容易なので好ましい。被覆する難加水分解性ポリマーの被覆量は、易加水分解性ポリマーに対し0.1~50重量%の量が好ましく用いられる。被覆量が多い方が多孔化の程度は高くなるが、通常5~20重量%がより好ましい。

【0040】
上記多孔化処理工程では、易加水分解性縮合ポリマーをアミンで化学処理を行うが、使用するアミンとしてはポリアミンが好ましく、ジエチレントリアミンが特に好ましい。ジエチレントリアミンの使用量が少ないと、分解産物のオリゴマーの分子量が大きくなるので、形成される孔の大きさが大きくなる。形成されるオリゴマーの溶解性は溶媒によって異なるので、形成される孔の大きさと頻度は溶剤の選択に強く依存する。大きなオリゴマーを溶解する溶媒ほど多孔性が高くなると考えられるが、一方、溶媒に難加水分解性ポリマーが溶解すると、被覆ポリマーの脱落に繋がるので、難加水分解性ポリマーが溶解し難い溶媒を選択する必要がある。そのような観点から溶媒としては含水ジメチルスルホキサイドが好ましい。ジメチルスルホキサイドの含水率は目的に応じて適宜選択されるが、通常0.1~50重量%、好ましくは5~20重量%が採用される。反応温度はガラス転移点より低い温度が採用されるが、高すぎると、成型体の強度低下に繋がるので、通常、室温から100℃、特に室温から80℃が好ましく用いられる。

【0041】
多孔化後の二次被覆工程は新しいリガンドの導入の目的で行う。また、多孔化処理工程で新たに生成した易加水分解性縮合ポリマーの表面を保護する役割もある。易加水分解性縮合ポリマーは加水分解され易いので、表面を難加水分解性ポリマーで被覆することにより化学的及び物理的に構造が安定化され、医療用途でも好適に使用可能となる。二次被覆ポリマーにリガンドが結合したポリマーを用いると、リガンド特有の細胞捕集機能及び細胞活性化機能が付与される。

【0042】
免疫抑制性細胞捕集用カラム
本発明の免疫抑制性細胞捕集用カラムは、上記の免疫抑制性捕集材が充填されたものであることを特徴とする。

【0043】
本発明の捕集材が繊維状や不織布の形状の場合、カラムに充填する本発明の捕集材の充填密度は、好ましくは50~400 mg/cm3、特に好ましくは150~300 mg/cm3である。この範囲であると、細胞捕集効率、選択率、及び通液時の圧損が適切な範囲となる。圧損が大きくなると、赤血球が溶血する。特に、溶血は体外循環では禁忌である。圧損は充填密度と血液流速に正の相関がある。ヒトで体外循環を2時間以内に終了するためには血液流速を少なくとも30 mL/分にする必要があるので、赤血球が溶血しないためには圧損を100 mmHg以下にすることが必要である。

【0044】
本発明のカラムは、体外循環用カラムとして使用することで、血液中から免疫抑制性細胞を選択的に捕集することができ、その濃度を下げることができる。また、本発明のカラムで処理した血液から調製した白血球及び予め単離した白血球を当カラムで処理した白血球はCTL活性が向上しているので、本発明のカラムは癌等の疾患に対する細胞治療用カラムとしても使用できる。

【0045】
本発明の捕集材を充填する容器としては、例えば、ガラス製、プラスチック製、ステンレス製等のものが挙げられ、容器のサイズは使用目的に応じて適宜選択される。

【0046】
本発明のカラムは、免疫抑制性細胞を選択的に捕集することができることから、ウイルス疾患や癌の治療、及び癌の摘出手術後の癌の再発予防のためにも用いることができる。本発明のカラムを癌治療用に適用した場合、手術療法、放射線療法、抗癌剤療法、活性化白血球療法、ワクチン療法等と併用すれば、これらの治療効果向上に役立ち、特に転移や再発の予防にも役立つと考えられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
尚、本実施例中のアミノ基量の測定、細胞表面抗原の解析、担癌ラットの調製、ラットの体外循環、並びにラット脾細胞及び末梢血単核球の調製は、特に記載しない限り以下の方法で行った。
【実施例】
【0049】
1.アミノ基量の測定
検体0.1 gを0.1M ピクリン酸・70%エタノール溶液10 mLに浸し、2時間緩やかに振とうした。次に、検体を70%エタノール溶液で洗浄し、洗浄液の黄色が消えるまで洗った。次に、検体を10~50 mLの1重量%ジエチルアミン・70%エタノール溶液に浸し、ピクリン酸を溶出させた。320 nmの吸光度からピクリン酸濃度を求め、吸着量を正確な検体重量で除して1グラム当たりのアミノ基量とした。
【実施例】
【0050】
2.細胞表面抗原の解析
細胞の表面抗原の分析はベクトン・ディッキンソン社製のFACSCaliberを用いて行なった。細胞表面染色用抗体としては、ベクトン・ディッキンソン社のフィコエリスリン標識抗ヒトLAP、FITC標識抗ラットCD4、APC標識抗ラットCD4、e-Bioscience社のFITC標識抗ラット顆粒球マーカー、APC標識抗ラットCD8、フィコエリスリン標識抗ラットCD3、Biolegend社のAPC標識抗ラットCD11b/cを用いた。
【実施例】
【0051】
3.担癌ラットの調製
(KDH-8細胞の調製)
4-ジメチルアミノアゾベンゼン誘発肝癌細胞KDH-8(矢野 諭、北海道医誌、68巻5号、654-664(1993))を完全培地(RPMI1400培地:ウシ胎児血清10体積%、2-メルカプトエタノール50μg/L、ストレプトマイシン50μg/mL、ペニシリン-G50単位/mL)中で継代した。使用4日前に新しい150 cm2の培養フラスコに移して培養して用いた。
【実施例】
【0052】
(担癌ラットの調製)
1-10×105個の癌細胞KDH-8を0.5 mLのPBS(-)に浮遊させ、WKAH/Hkmラット(雄、8-16週令)の背部皮下に接種して、担癌ラットを調製した。
【実施例】
【0053】
4.ラットの体外循環
(体外循環カラムの調製)
捕集材0.3 gを内径1 cm、内容積2 mLのポリプロピレン製円筒形カラムに充填し、体外循環カラムを作成した。カラムと回路に70%アルコールを通液して滅菌した後、体外循環直前にヘパリン添加生理食塩液(5単位/mL) 40 mLを2 mL/分の速度で流して前処理した。
【実施例】
【0054】
(体外循環)
体重300~400 gの担癌ラットをネンブタールで全身麻酔し、左大腿の動脈と静脈にカニュレーションし、動脈から脱血し、マイクロチューブポンプを用いて、体外循環カラムを通過させ、静脈に返血した。血流速度2 mL/分で1時間体外循環した。体外循環中ヘパリンを100単位/時間で持続投与した。
【実施例】
【0055】
5.ラット脾細胞及び末梢血単核球の調製
ラットをネンブタールで麻酔した後、腹部大動脈から失血・屠殺させ、脾臓を採取した。脾臓を完全培地中で細かく砕き、細胞を採取した後、赤血球を除くため低浸透圧液で処理し、赤血球を溶血させた。得られた細胞を完全培地に浮遊させ、脾細胞液とした。
【実施例】
【0056】
末梢血を同量の生理食塩水で希釈し、希釈液と同量のリンパ球分離液1077(和光純薬工業社)上に積層し、800 gで20分間遠心した。単核球層を集め、低浸透圧液で処理し、赤血球を溶血させた。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
(難加水分解性ポリマー1の調製)
ニトロベンゼン20 mLと硫酸40 mLの混合溶液を0℃に冷却後、2.6 g(0.02モル)のN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを0~10℃の温度で加えて溶解し、この溶液をユーデルポリスルホンP3500のニトロベンゼン溶液(88.4 g:0.2モル/1600 mL)に良く撹拌しながら加えた。更に、20℃で2時間撹拌した後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿物をニトロベンゼン臭が無くなるまでメタノールで抽出した後、乾燥して90.0 gのポリマーを得た。このポリマーを2Lのジメチルホルムアミドに溶解し、大過剰のメタノール中に入れて再沈殿させ、精製した。得られたポリマーはジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド及びテトラヒドロフランに溶解した。これをクロロホルムに溶解し、ガラス板の上にキャストして作成したフイルムの赤外線吸収スペクトルから3290-3310、1670、1528 cm-1の吸収によりアミド基の存在を確認した。重水素化クロロホルム溶液の1HNMRスペクトルを測定し、ポリスルホン主鎖のイソプロピリデン基水素(6H)由来ピーク(1.66 ppm;シングレット)の面積に対するアミドメチル基のベンジル基のメチレン基水素(2H)由来のピーク(4.22 ppm)の面積の比率から置換率が10%であることを確認した。
【実施例】
【0058】
(難加水分解性ポリマー2の調製)
ニトロベンゼン130 mLと硫酸270 mLの混合溶液を0℃に冷却後、13.6 g(0.13モル)のN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを0~10℃の温度で加えて溶解し、この溶液をユーデルポリスルホンP3500のニトロベンゼン溶液(44.2 g:0.1モル/500 mL)に良く撹拌しながら加えた。更に、20℃で2時間撹拌した後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿物をニトロベンゼン臭が無くなるまでメタノールで抽出した後、乾燥して62.0 gのポリマーを得た。このポリマーを1Lのジメチルホルムアミドに溶解し、大過剰のメタノール中に入れて再沈殿させ、精製した。得られたポリマーはジメチルホルムアミドやジメチルスルホキサイドに溶解するが、テトラヒドロフランには溶解しなかった。元素分析:N: 2.1% Cl: 4.5%。臭化カリウムペレットの赤外線吸収スペクトルで3290-3310、1670、1528 cm-1の吸収からアミド基の存在を確認した。このポリマーの重水素化ジメチルスルホキサイド溶液のHNMRスペクトルから難加水分解性ポリマー1の場合と同様にして置換率が100%であることを確認した。
【実施例】
【0059】
(捕集材合成:前処理)
ポリエチレンテレフタレート繊維不織布(密度48 mg/cm3;日本バイリーン)88.2 gを0.5重量%ジエチレントリアミン・ジメチルスルホキサイド溶液2Lに浸し、105℃で20分間加熱した。水洗後、乾燥して87.2 gの前処理不織布-1を得た。アミノ基量は1μmol/gであった。
【実施例】
【0060】
(捕集材合成:難加水分解性ポリマー被覆処理)
先に調製した難加水分解性ポリマー1の6 gを800 mLのテトラヒドロフランに溶解し、この溶液に先に調製した前処理不織布-1の40 gを浸し、24時間静置した後、テトラヒドロフランを蒸発させ、46 gの一次被覆不織布-1を得た。
【実施例】
【0061】
(捕集材合成:抽出処理)
ジエチレントリアミン20 mL、水60 mL及びジメチルスルホキサイド320 mLからなる溶液に20 gの一次被覆不織布-1を浸し、75℃の水浴中で2時間加熱した。不織布を水洗後、60℃の温水で6回抽出した後、乾燥して、19 gの多孔化不織布-1を得た。アミノ基量は56μmol/gであった。
【実施例】
【0062】
(捕集材合成:二次被覆処理)
先に調製した難加水分解性ポリマー2の2 gを200 mLのジメチルスルホキサイドに溶解し、0.2重量%濃度とする。この溶液に先に調製した10 gの多孔化不織布-1を浸し、50℃で1時間加熱した後、不織布を引き上げ、ジメチルスルホキサイドで3回洗浄した。これをジエチレントリアミン5 g含有ジメチルスルホキサイド200 mLに浸し、40℃のバス中で1時間加熱した。不織布を取り出して、エタノールで洗浄した後、水洗し、真空乾燥して、9.6 gのジエチレントリアミン化不織布(本発明捕集材-1)を得た。アミノ基量は62μmol/gであった。
【実施例】
【0063】
[実施例2]
(捕集材合成:二次被覆処理)
500 mgのポリミキシンBを150 mLの10重量%含水ジメチルスルホキサイドに溶解してポリミキシン溶液を作成した。先に調製した難加水分解性ポリマー2の2 gを200 mLのジメチルスルホキサイドに溶解し、1重量%濃度とした。この溶液に先に調製した10 gの多孔化不織布-1を浸し、40℃で1時間加熱した後、不織布を引き上げ、ジメチルスルホキサイドで3回洗浄した。これをポリミキシン溶液に浸し、1モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液を5 mL加え、40℃のバス中で1時間加熱した。不織布を取り出して、エタノールで洗浄した後、水洗し、真空乾燥して、9.4 gのポリミキシン化不織布(本発明捕集材-2)を得た。アミノ基量は55μmol/gであった。
【実施例】
【0064】
[実施例3]
(捕集材合成:二次被覆処理)
750 mgのプリマキン・リン酸を150 mLの10重量%含水ジメチルスルホキサイドに溶解してプリマキン溶液を作成した。先に調製した難加水分解性ポリマー2の2 gを200 mLのジメチルスルホキサイドに溶解し、1重量%濃度とした。この溶液に先に調製した10 gの多孔化不織布-1を浸し、40℃で1時間加熱した後、不織布を引き上げ、ジメチルスルホキサイドで3回洗浄した。これをプリマキン溶液に浸し、40℃のバス中で1時間加熱した。不織布を取り出して、エタノールで洗浄した後、水洗し、真空乾燥して、9.6 gのプリマキン化不織布(本発明捕集材-3)を得た。アミノ基量は48μmol/gであった。
【実施例】
【0065】
[試験例1](捕集能評価試験-1)
WKAH/Hkmラット(雄、12週令)の背部皮下に10×105個の癌細胞KDH-8を接種して、調製した担癌ラット(体重354 g、腫瘍径26 mm×21 mm)の頸動脈から500単位のヘパリンを用いて血液10 mLを採取し、また、脾臓から脾細胞を調製し、完全培地に浮遊させて、500×104個/mLの脾細胞液を調製した。
【実施例】
【0066】
捕集材100 mgを10 mLの注射筒に詰め、完全培地を流した後、23ゲージの注射針を着け、10 mLの脾細胞液を流し、さらに10 mLの完全培地を流した。溶出液を遠心して10 mLの体積とし、細胞を数えると共に、CD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合をフローサイトメーターで求め、表1の結果を得た。比較例1としてポリエチレンテレフタレート繊維不織布を洗浄して用いた。
【実施例】
【0067】
【表1】
JP0005916712B2_000002t.gif
【実施例】
【0068】
表1から細胞の減少率は殆ど同じであるにも拘らず、実施例の捕集材ではCD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が低下していることから、本発明の捕集材はLAP+CD4+T細胞を選択的に捕集することが分かる。一方、ポリエチエンテレフタレート繊維不織布では細胞を捕集するが、全く選択性が無いことが分かる。
【実施例】
【0069】
[試験例2](捕集能評価試験-2)
捕集材100 mgを10 mLの注射筒に詰め、完全培地を流した後、23ゲージの注射針を着け、試験例1で得られた血液3 mLを流し、さらに5 mLの完全培地を流した。溶出液から赤血球を除去し、CD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合をフローサイトメーターで求め、表2の結果を得た。比較例1としてポリエチレンテレフタレート繊維不織布を洗浄して用いた。
【実施例】
【0070】
【表2】
JP0005916712B2_000003t.gif
【実施例】
【0071】
表2から実施例の捕集材ではCD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が低下していることから本発明の捕集材は全血からLAP+CD4+T細胞を選択的に捕集することが分かる。一方、ポリエチエンテレフタレート繊維不織布は全く選択性が無いことが分かる。
【実施例】
【0072】
[試験例3](治療実験-1)
WKAH/Hkmラット(雄、14週令)の背部皮下に1×105個の癌細胞KDH-8を接種した後、3週間後、腫瘍径が13 mm×13 mmになった。この担癌ラット(体重400 g)の動脈から1 mLを採血した後、0.3 gの本発明捕集材-1を充填したカラムで1時間体外循環を施行した。終了後全採血を行なって、血液15 mLを得た。体外循環後のカラムに500単位のヘパリンを加えた50 mLの生理リン酸緩衝液を逆に流し、付着細胞を回収した。25×106個の細胞が回収された。
【実施例】
【0073】
体外循環前と後の血液および付着回収細胞について表面抗原を分析し、表3の結果を得た。
【実施例】
【0074】
【表3】
JP0005916712B2_000004t.gif
【実施例】
【0075】
表3から本発明の捕集材ではCD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が体外循環によって初期値の33%にまで低下していること、CD8+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が体外循環によって初期値の19%にまで低下していること及び付着回収細胞中のLAP陽性細胞が増加していることから、本発明の捕集材は全血からLAP陽性T細胞を選択的に捕集することが分かる。また、免疫抑制性細胞と言われているCD11bc+細胞中の顆粒球マーカー高発現細胞の割合も体外循環によって低下することが分かる。
【実施例】
【0076】
[試験例4](治療実験-2)
WKAH/Hkmラット(雄、13週令)の背部皮下に2×105個の癌細胞KDH-8を接種した後、20日後、腫瘍径が23 mm×22 mmになった。この担癌ラット(体重350 g)の動脈から1mLを採血した後、0.3 gの本発明捕集材-1を充填したカラムで1時間体外循環を施行した。終了後全採血を行なって、血液15 mLを得た。体外循環後のカラムに500単位のヘパリンを加えた50 mLの生理リン酸緩衝液を逆に流し、付着細胞を回収した。28×106個の細胞が回収された。
【実施例】
【0077】
体外循環前と後の血液および付着回収細胞について表面抗原を分析し、表4の結果を得た。
【実施例】
【0078】
【表4】
JP0005916712B2_000005t.gif
【実施例】
【0079】
表4から本発明の捕集材ではCD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が体外循環によって初期値の39%に低下していること、CD8+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が体外循環によって初期値の20%に低下していること及び付着回収細胞中のLAP陽性細胞が増加していることから、本発明の捕集材は全血からLAP陽性T細胞を選択的に捕集することが分かる。
【実施例】
【0080】
[試験例5](CTL抑制実験)
WKAH/Hkmラット(雄、10週令)の背部皮下に1×105個の癌細胞KDH-8を接種した後、20日後、腫瘍径が10 mm×10 mmになった。このラットから全採血をし、単核球を取り出し、5×106個/mLの細胞液を調製した。試験例4でカラムに捕集された細胞を脱離させて得た付着細胞を5×106個/mLの濃度に調整した。
【実施例】
【0081】
生理リン酸緩衝液中に1×107個/mL濃度で浮遊させたKDH-8細胞液1 mLに3μLの5(6)-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステルのジメチルスルホキシド溶液(5 mg/mL)を加え、37℃で15分間温めた。完全培地10 mLを加えて反応を停止させ、洗浄して、完全培地に浮遊させ、1×105個/mLのラベル化癌細胞液を調製した。
【実施例】
【0082】
24ウエルの培養皿の各ウエルに17μLのラベル化癌細胞液と500μLの単核球液を加え、これに付着細胞液を0、50、100、150又は200μL加えて、37℃の炭酸ガスインキュベーターで40時間培養した。細胞をフローサイトメーターで分析し、FL-1陽性細胞の中のヨウ化プロピジウム陽性細胞を殺された癌細胞、陰性細胞を生きている癌細胞として、キラー活性(CTL活性)を算定した。実験はn=4で行なった。結果を表5に示す。
【実施例】
【0083】
【表5】
JP0005916712B2_000006t.gif
【実施例】
【0084】
表から付着細胞の添加量に比例して、CTL活性が下がることが分かる。従って、カラムに捕集される細胞は強い免疫抑制性を持つことがわかる。
【実施例】
【0085】
[試験例6](細胞治療実験)
4匹のWKAH/Hkmラット(雄、12週令)の背部皮下に1×105個の癌細胞KDH-8を接種した後、3週間後、腫瘍径が10~13 mmになった。2匹の担癌ラットに0.3 gの本発明捕集材-1を充填したカラムで体外循環を1時間施行した。終了後全採血を行なって、血液15 mLを2本得た。遠心分離して単核球を分離した後、溶血操作をして赤血球を除去し、合計6×107個の単核球(治療ラットPBMC)が得られた。残りの2匹の血液からも合計6×107個の単核球(担癌ラットPBMC)が得られた。これと併行して、3匹のWKAH/Hkmラット(雄、15週令)のラットから採血し、同様に処理して合計7×107個の単核球(正常ラットPBMC)が得られた。
【実施例】
【0086】
別の9匹のWKAH/Hkmラット(雄、9週令)の背部皮下に1×105個の癌細胞KDH-8を接種した後、3匹ずつの3群に分けて夫々、3×107個の治療ラットPBMC、担癌ラットPBMC、又は正常ラットPBMCを0.5 mLの生理リン酸緩衝液に分散して、同一場所に注射した。腫瘍増殖の観察結果を表6に示す。腫瘍直径が40 mmを超えたラットは深麻酔により安楽死させた。
【実施例】
【0087】
【表6】
JP0005916712B2_000007t.gif
【実施例】
【0088】
表6から本発明の捕集材で体外循環したラットの末梢血単核球は癌細胞の定着を完全に抑制するが、無治療のラットの末梢血単核球は抑制効果が全くないことが分かる。
【実施例】
【0089】
[実施例4]
(捕集材合成:難加水分解性ポリマー被覆処理)
先に調製した難加水分解性ポリマー1の3.00 gを300 mLのジメチルスルホキサイドに60℃で溶解し、この溶液に先に調製した前処理不織布-1の19.04 gを浸し、1時間静置した後、8時間かけて20℃まで震盪しながら冷却した。この際、液は透明で、ポリマー浮遊物は無かった。不織布を遠心して、ジメチルスルホキサイドを除き、水洗後、乾燥して,21.25 gの一次被覆不織布-2を得た。
【実施例】
【0090】
(捕集材合成:抽出処理)
ジエチレントリアミン15 mL、水65 mL及びジメチルスルホキサイド320 mLからなる溶液に20.8 gの一次被覆不織布-2を浸し、70℃の水浴中で3時間加熱した。不織布を50℃の温水で洗浄液が透明になるまで、抽出した後、乾燥して、20.0 gの多孔化不織布-2を得た。アミノ基量は115μmol/gであった。
【実施例】
【0091】
(捕集材合成:二次被覆処理)
先に調製した難加水分解性ポリマー2の1 gを200 mLのジメチルスルホキサイドに溶解し、0.5重量%濃度とする。この溶液に先に調製した10 gの多孔化不織布-2を浸し、50℃で1時間加熱した後、不織布を引き上げ、ジメチルスルホキサイドで3回洗浄した。これをジエチレントリアミン5 g含有50%ジメチルスルホキサイド水200 mLに浸し、40℃のバス中で1時間加熱した。不織布を取り出して、水洗し、真空乾燥して、9.8 gのジエチレントリアミン化不織布(本発明捕集材-4)を得た。アミノ基量は105μmol/gであった。
【実施例】
【0092】
[試験例7](癌再発抑制実験)
(タンパク質吸着試験)
ヒトAB型血清(大日本住友製薬(株))を0.22μmのフィルターでろ過した後、この血清2 mLに50 mgの各本発明捕集材を浸して、37℃で2時間穏やかに振盪した。その後、血清中のアルブミンとTGF-β1の濃度を測定し、表7に結果を示した。
【実施例】
【0093】
アルブミン及びTGF-βの濃度低下は殆ど認められなかったことから本発明吸着材はタンパク質吸着性が低いことが分かった。尚、アルブミンはBCG法(Clinical Chemistry 1972: 18: 1537-1538)により求め、TGF-β1はRアンドD社のELISAキットで測定した。夫々の初期値は、アルブミンが3.3 mg/dL、TGF-β1が8.5 ng/mLであった。
【実施例】
【0094】
【表7】
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【実施例】
【0095】
WKAH/Hkmラット(雄、12週令)の背部右側皮下に5×104個の癌細胞KDH-8を接種し、35日後に腫瘍径が3 mmになった。このラットに対し0.3 gの本発明捕集材-4を容積1.6 mLの円筒形カラムに充填したもの(充填密度190 mg/cm3)で体外循環を1時間施行した。この際、体外循環開始前と終了後に1 mLの血液を採取し、それぞれの血液及び付着回収細胞について表面抗原を分析し、表8の結果を得た。
【実施例】
【0096】
【表8】
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【実施例】
【0097】
表8からCD4+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が本発明捕集材-4のカラムによる体外循環によって初期値の31%に低下していること、CD8+T細胞中のLAP陽性細胞の割合が初期値の59%に低下していること及び付着回収細胞中のLAP陽性細胞が増加していることから本発明捕集材-4は全血からLAP陽性T細胞を選択的に捕集することが分かる。
【実施例】
【0098】
(癌再発抑制実験)
8匹のWKAH/Hkmラット(雄、12週令)の背部右側皮下に5×104個の癌細胞KDH-8を接種した後、7週間後、腫瘍径が10~13 mmになった。全ラットの腫瘍をネンブタール麻酔下で外科的に切除した後、背部左側皮下に1×105個の癌細胞KDH-8を再接種した。直後、無作為に選んだ4匹の担癌ラットに対し、0.3 gの本発明捕集材-4を容積1.6 mLの円筒形カラムに充填したもの(充填密度190 mg/cm3)で体外循環を1時間施行し、その後の生存日数を体外循環治療の無いラットと比較した。手術後、感染予防のため切開部に0.1%ゲンタマイシン硫酸塩軟膏を塗布して、傷口を縫合した。表9に結果を示す。
【実施例】
【0099】
【表9】
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【実施例】
【0100】
表9から、体外循環治療が無いラットの平均生存日数が20日であったのに対し、本発明の捕集材で体外循環したラットは4匹中2匹で腫瘍が再発せず、完全治癒し、残りの2匹は45日と27日の生存日数を示したことから、本発明捕集材は顕著な癌再発抑制効果があることが分かる。