TOP > 国内特許検索 > 外来遺伝子導入用ベクター及び外来遺伝子が導入されたベクターの製造方法 > 明細書

明細書 :外来遺伝子導入用ベクター及び外来遺伝子が導入されたベクターの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5246904号 (P5246904)
登録日 平成25年4月19日(2013.4.19)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
発明の名称または考案の名称 外来遺伝子導入用ベクター及び外来遺伝子が導入されたベクターの製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 15
全頁数 27
出願番号 特願2012-533169 (P2012-533169)
出願日 平成24年3月27日(2012.3.27)
国際出願番号 PCT/JP2012/057875
国際公開番号 WO2012/133376
国際公開日 平成24年10月4日(2012.10.4)
優先権出願番号 2011075273
優先日 平成23年3月30日(2011.3.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年8月10日(2012.8.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】堀井 雅恵
【氏名】岸 裕幸
【氏名】小林 栄治
【氏名】小澤 龍彦
【氏名】村口 篤
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】鶴 剛史
参考文献・文献 特表2002-526083(JP,A)
Lentiviral Vectors for Gene Expression,BioSettia Inc.,2010年 2月,Catalog number: cDNA-pLV##,p.1-11
DEROOSE, CM. et al,Noninvasive monitoring of long-term lentiviral vector-mediated gene expression in rodent brain with,Mol. Ther.,2006年 9月,Vol.14 No.3,p.423-431,Abstract and Fig.1
KOSAKA, Y. et al,Lentivirus-based gene delivery in mouse embryonic stem cells.,Artif. Organs,2004年 3月,Vol.28 No.3,p.271-277,Abstract and Fig.1
MA, H. et al,Plasmid construction by homologous recombination in yeast.,Gene,1987年,Vol.58 No.2-3,p.201-216,Fig.3
THOMASON, L. et al,Recombineering: genetic engineering in bacteria using homologous recombination.,Curr. Protoc. Mol. Biol.,2007年 4月,Unit 1.16,p.1-24,Figure1.16.1、Figure1.16.2
CHINO, A. et al,Plasmid construction using recombination activity in the fission yeast Schizosaccharomyces pombe.,PLoS One,2010年,Vol.5 No.3,e9652,Figure1
調査した分野 C12N 15/09
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
複製起点、配列A、マーカー遺伝子X、相同組換えにより外来遺伝子を導入するための二つの配列C及びD、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターであって、
前記二つの配列C及びDは、直接または間接的に隣接し、配列Cと相同な配列C’、外来遺伝子、及び配列Dと相同な配列D’をこの順に含む核酸断片とともに相同組換えを起こす条件下に置くことにより、前記隣接する二つの配列C及びDの間に外来遺伝子を導入するために用いられ
配列Aと配列Bとは、該条件下で相同組換えを生じさせうるものであり、複製起点は、組換えベクター製造用の宿主において機能可能であり、マーカー遺伝子Xは、組換えベクター製造用の宿主において発現可能なようにベクターに含まれており、それにより組換えベクター製造用の宿主におけるマーカー遺伝子Xの発現を指標として、前記隣接する二つの配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主の選抜を可能にする、ベクター。
【請求項2】
ベクターがレトロウイルスベクターである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項1又は2に記載のベクター。
【請求項4】
前記配列Aがレトロウイルスのゲノムに含まれる3’LTRであり、かつ前記配列Bがレトロウイルスのゲノムに含まれる5’LTRである、請求項1~3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記配列Aがレトロウイルスのゲノムに含まれる5’LTRであり、かつ前記配列Bがレトロウイルスのゲノムに含まれる3’LTRである、請求項1~3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
マーカー遺伝子Xが、蛍光タンパク質遺伝子又は薬剤耐性遺伝子である、請求項1~5のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
マーカー遺伝子Xが、ルシフェラーゼ又はβ‐ガラクトシダーゼをコードする遺伝子である、請求項1~5のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
複製起点及び配列Aは間接的に隣接し、かつ前記隣接する複製起点及び配列Aの間に、マーカー遺伝子Xとは異なるマーカー遺伝子Yをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項9】
複製起点及び配列Bは間接的に隣接し、かつ前記隣接する複製起点及び配列Bの間に、マーカー遺伝子Xとは異なるマーカー遺伝子Yをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
マーカー遺伝子Yが、蛍光タンパク質遺伝子又は薬剤耐性遺伝子である、請求項8又は9に記載のベクター。
【請求項11】
マーカー遺伝子Yが、ルシフェラーゼ又はβ‐ガラクトシダーゼをコードする遺伝子である、請求項8又は9に記載のベクター。
【請求項12】
複製起点が、大腸菌(Escherichia coli)、バクテリオファージ、Saccharomyces cerevisiae、及びSchizosaccharomyces pombeから選択される生物の複製起点である、請求項1~11のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のベクターにおいて前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを製造する方法であって、以下の工程を含む方法:
請求項1~12のいずれか1項に記載のベクターを準備する工程(1)、
前記配列Cと相同な配列C’、外来遺伝子、及び前記配列Dと相同な配列D’をこの順に含む核酸断片を準備する工程(2)、
前記ベクターと前記核酸断片とを相同組換えを起こす条件下に置くことによる前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターの生成、及び前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主の形成を行う工程(3)、
工程(3)で得られた宿主を培養し、培養物中からマーカー遺伝子Xの発現を指標として、配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主を選抜する工程(4)、及び
工程(4)において選抜した宿主から配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを抽出する工程(5)。
【請求項14】
前記工程(3)は、相同組換えを起こす酵素と、前記ベクター及び前記核酸断片とを混合して相同組換え産物を得、得られた産物を宿主に形質転換することにより実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(3)は、相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子及び前記ベクターと前記核酸断片とを含む宿主を得、得られた宿主において前記相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子を発現させることにより実施される、請求項13に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、相同組換えにより外来遺伝子を導入するために用いられるためのベクター及び外来遺伝子が導入されたベクターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベクターに目的遺伝子を導入するためには、通常、制限酵素が用いられている。具体的には、ベクターをマルチクローニング・サイトにおいて特定の制限酵素で切断し、その切断された部位に、その制限酵素部位に一致する制限酵素部位を有する目的遺伝子の核酸断片を導入していた。近年、ベクターに存在する二つ配列のそれぞれと相同な二つの配列を両端に有する目的遺伝子を含む核酸断片を準備し、ベクターにおける前記二つの配列と核酸断片における前記二つの配列との間で相同組換えを起こさせることにより、目的遺伝子をベクターに導入する方法が開発され、使用され始めている(Zhang Y, Muyrers J.P.P., Testa G and Stewart A.F. DNA cloning by homologous recombination in E.Coli. Nature Biotechnology 18:1314-1317, 2000、及びQuinn Lu, Seamless cloning and gene fusion. TRENDS in Biotechnology 23: 199-207, 2005)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の相同組換えを利用した方法は、制限酵素部位に依存せずに目的遺伝子をベクターに導入できる点で、非常に簡便かつ有効な方法である。しかしながら、ベクター内部に、相同組換えにより外来遺伝子を導入することを意図する領域以外の領域に、互いに相同な複数の配列が存在する場合には、ベクター内部の前記相同配列同士において相同組換えが高率に誘導されてしまう。その結果、そのようなベクターに対して相同組換え法を用いて目的遺伝子の導入を試みると、ベクター内部での相同組換えが頻発し、目的とする目的遺伝子を導入したベクターを得ることは非常に困難であるかほとんど不可能であった。このことは、非特許文献1の中で実験的にも示されている。
【0004】
ベクター内部に、相同組換えにより外来遺伝子を導入することを意図する領域以外の領域に、互いに相同な二つの配列を有する代表的な例として、レトロウイルスベクターあるいはレンチウイルスベクター(レトロウイルスベクターの一種)が挙げられる。レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターは遺伝子導入が困難な動物細胞に高効率で遺伝子を導入することが可能なため様々な分野で研究目的・治療目的で用いられている。レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターは図1に示すようにlong terminal repeat (LTR)という相同な配列を2カ所有している。通常は図1に示すような位置に、制限酵素部位を用いて目的遺伝子を導入する。従来のレトロウイルスベクターに目的遺伝子を相同組換えにより導入しようとした場合、図2Aに示すように目的遺伝子をベクターに導入したいのであるが、ベクター内部に5’-LTRと3’-LTRという相同な配列が存在するために、図2Bのように5’-LTRと3’-LTRの間で相同組換えが高頻度で起こってしまい、目的の遺伝子を図2Aのように相同組換えを用いて導入することはほとんど不可能であった。
【0005】
本発明の課題は、上記従来技術における問題点を解決できる、相同組換えにより外来遺伝子を導入することができるベクター技術を提供することにある。具体的には、本発明の課題は、相同組換えにより外来遺伝子を導入することを意図する領域以外の領域に、互いに相同な複数の配列を有するベクターに外来遺伝子を相同組換えにより導入する方法において、外来遺伝子が導入されたベクターを効率的に選択することができる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、相同組換えにより外来遺伝子を導入することを意図する領域以外の領域に、互いに相同な複数の配列を有するベクターに外来遺伝子を相同組換えにより導入する方法において、相同組換えにより外来遺伝子を導入するための二つの配列と互いに相同である二つの配列を有するベクターであって前記相同組換えにより外来遺伝子を導入するための配列の一方と互いに相同である配列の一方との間の隣接領域にマーカー遺伝子を配置したベクターを用いることにより、外来遺伝子が導入されたベクターを効率的に選択及び取得できることを見出した。本発明は、係る知見により完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
〔1〕 複製起点、配列A、マーカー遺伝子X、相同組換えにより外来遺伝子を導入するための二つの配列C及びD、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターであって、前記二つの配列C及びDは、直接または間接的に隣接し、前記隣接する二つの配列C及びDの間に外来遺伝子を導入するために用いられるためのベクター。
〔2〕 ベクターがレトロウイルスベクターである、〔1〕に記載のベクター。
〔3〕 ベクターがレンチウイルスベクターである、〔1〕又は〔2〕に記載のベクター。
〔4〕 前記配列Aがレトロウイルスのゲノムに含まれる3’LTRであり、かつ前記配列Bがレトロウイルスのゲノムに含まれる5’LTRである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のベクター。
〔5〕 前記配列Aがレトロウイルスのゲノムに含まれる5’LTRであり、かつ前記配列Bがレトロウイルスのゲノムに含まれる3’LTRである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のベクター。
【0008】
〔6〕 マーカー遺伝子Xが、蛍光タンパク質遺伝子又は薬剤耐性遺伝子である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のベクター。
〔7〕 マーカー遺伝子Xが、ルシフェラーゼ又はβ‐ガラクトシダーゼをコードする遺伝子である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のベクター。
〔8〕 複製起点及び配列Aは間接的に隣接し、かつ前記隣接する複製起点及び配列Aの間に、マーカー遺伝子Xとは異なるマーカー遺伝子Yをさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のベクター。
〔9〕 複製起点及び配列Bは間接的に隣接し、かつ前記隣接する複製起点及び配列Bの間に、マーカー遺伝子Xとは異なるマーカー遺伝子Yをさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のベクター。
【0009】
〔10〕 マーカー遺伝子Yが、蛍光タンパク質遺伝子又は薬剤耐性遺伝子である、〔8〕又は〔9〕に記載のベクター。
〔11〕 マーカー遺伝子Yが、ルシフェラーゼ又はβ‐ガラクトシダーゼをコードする遺伝子である、〔8〕又は〔9〕に記載のベクター。
〔12〕 複製起点が、大腸菌(Escherichia coli)、バクテリオファージ、Saccharomyces cerevisiae、及びSchizosaccharomyces pombeから選択される生物の複製起点である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のベクター。
【0010】
〔13〕 〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のベクターにおいて前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを製造する方法であって、以下の工程を含む方法:
〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のベクターを準備する工程(1)、
前記配列Cと相同な配列C’、外来遺伝子、及び前記配列Dと相同な配列D’をこの順に含む核酸断片を準備する工程(2)、
前記ベクターと前記核酸断片とを相同組換えを起こす条件下に置くことによる前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターの生成、及び前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主の形成を行う工程(3)、
工程(3)で得られた宿主を培養し、培養物中からマーカー遺伝子Xの発現を指標として、配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主を選抜する工程(4)、及び
工程(4)において選抜した宿主から配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを抽出する工程(5)。
【0011】
〔14〕 前記工程(3)は、相同組換えを起こす酵素と、前記ベクター及び前記核酸断片とを混合して相同組換え産物を得、得られた産物を宿主に形質転換することにより実施される、〔13〕に記載の方法。
〔15〕 前記工程(3)は、相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子及び前記ベクターと前記核酸断片とを含む宿主を得、得られた宿主において前記相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子を発現させることにより実施される、〔13〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、互いに相同な複数の配列を有するベクターに外来遺伝子を相同組換えにより導入する方法において、外来遺伝子が導入されたベクターを効率的に選択及び取得することができる。特に、本発明によれば、レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターに外来遺伝子を相同組換えにより導入する方法において、外来遺伝子が導入された該ベクターを効率的に選択及び取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターの基本構造を示す図である。(LTR long terminal repeat): ウイルスゲノムの発現、作製に必須。5'-LTRと3'-LTRは相同な配列を有する。ψ: ウイルスゲノムをウイルス粒子内にパッケージンゲするために必要な配列。ori:DNAの複製起点。大腸菌内でDNAを複製するのに必須。耐性マーカー: プラスミドDNAが入った大腸菌を選択的に増殖させるために必要。
【図2】図2は、ベクター内部に相同な配列を持つベクターに相同組換え法を用いて目的DNAをベクターに挿入する方法を示す図である。S-A及びS-Bは、ベクター内部の相同領域を示す。MG-Yは、マーカー遺伝子Y(選択マーカーY)を示す。S-C及びS-Dは、ベクターに目的DNA(外来遺伝子)を導入するための相同組換え配列を示す。FDは、目的DNA(外来遺伝子)を示す。MG-Xは、マーカー遺伝子X(選択マーカーX)を示す。
【図3】図3は、本発明のベクターにおけるマーカー遺伝子(選択マーカー)の位置を示す。各符号は図2と同様である。
【図4】図4は、比較例及び実施例の結果を示す図である。
【図5】図5は、従来の抗体遺伝子発現用レトロウイルスベクターの構造を示す図である。
【図6】図6は、比較例における相同組み換えによりベクターに挿入可能なインサートDNAの作製方法を示す。
【図7】図7は、本発明によるTCR遺伝子発現用レトロウイルスベクターの構造を示す図である。
【図8】図8は、実施例における相同組み換えによりベクターに挿入可能なインサートDNAの作製方法を示す図である。
【図9】図9は、本発明によるベクターの別の例を示す図である(図3Bに示す構造)。
【図10】図10は、ヒト由来の目的遺伝子を相同組み換えにより本発明のベクターに挿入した実施例の結果を示す図である。
【図11】図11は、解析した遺伝子の配列を示す図である。
【図12】図12は、フローサイトメトリーによる解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明のベクター)
本発明は、複製起点、配列A、マーカー遺伝子X、相同組換えにより外来遺伝子を導入するための二つの配列C及びD、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターであって、前記二つの配列C及びDは、直接または間接的に隣接し、前記隣接する二つの配列C及びDの間に外来遺伝子を導入するために用いられるためのベクターに関する。

【0015】
本発明において、「直接的に隣接する」とは、二つの配列が互いに直接連結されていることを意味し、二つの配列の隣接部位にその他配列が存在しない。一方、本発明において、「間接的に隣接する」とは、二つの配列がその他の任意の配列を介して連結されていることを意味する。

【0016】
本発明のベクターは、複製起点、配列A、マーカー遺伝子X、相同組換えにより外来遺伝子を導入するための二つの配列C及びD、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むことを特徴とする。

【0017】
本発明において、複製起点とは、本発明のベクターを構成する核酸の複製が開始する部位を意味する。複製起点としては、ファージ、原核生物(細菌を含む)、真核生物の各種複製起点が挙げられる。本発明のベクターは、細菌の複製起点を含むことが好ましく、大腸菌(Escherichia coli)の複製起点を含むことがより好ましい。また、本発明のベクターは、バクテリオファージ、酵母類(例えば、Saccharomyces cerevisiaeSchizosaccharomyces pombe)の複製起点を含むこともできる。

【0018】
本発明のベクターは、上記の通り、互いに相同である配列A及び配列Bをその内部に有する。配列A及び配列Bは、相同組換えにより外来遺伝子を導入することを意図する領域以外の領域に存在する遺伝子配列である。このような互いに相同である配列A及びBを有するベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクターが挙げられる。さらにレトロウイルスベクターの例としては、レンチウイルスベクターが挙げられる。

【0019】
但し、互いに相同である配列A及びBを有するベクターとしてはこれらのベクターに限定される意図ではない。互いに相同である配列A及びBとは、後述する相同組換えにより、組換えが生じる可能性がある塩基配列を意味する。配列A及びBの塩基数には特に制限はなく、例えば、配列A及びBの少なくとも一部の配列同士で相同組換えが生じるような配列であることもできる。相同組換えが生じるために必要な塩基数は、相同組換えに用いる手段(例えば、組換え用酵素等)により異なる。あるいは上記「互いに相同である」とは、配列A及びBが相同組換えを起こす程度に類似した塩基配列を有することを意味する。配列A及びBの相同性は、相同組換えを起こす範囲において、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%である。

【0020】
二つの配列C及びDは、相同組換えにより外来遺伝子を導入するために用いる配列である。二つの配列C及びDは、本発明のベクターに外来遺伝子を導入するための材料となる、外来遺伝子を含む核酸断片の5’末端側及び3’末端側塩基配列と相同である。二つの配列C及びDの塩基数は、相同組換えに用いる手段(例えば、組換え用酵素等)により異なるが、例えば、2~600の範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではない。配列Cが前記核酸断片の5’末端側の塩基配列と相同である場合には、配列Dは前記核酸断片の3’末端側の塩基配列と相同である。一方、配列Cが前記核酸断片の3’末端側の塩基配列と相同である場合には、配列Dは前記核酸断片の5’末端側の塩基配列と相同である。また、「相同である」とは、本発明のベクターの配列C及びDと前記核酸断片との間で相同組換えを起こす程度に、配列C及びDが前記核酸断片の5’末端側及び3’末端側の塩基配列と類似していることを意味する。配列C又はDと前記核酸断片の5’末端側又は3’末端側の塩基配列との間の相同性は、相同組換えを起こす範囲において、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%である。

【0021】
レンチウイルスベクターを含むレトロウイルスベクターは、図1に示すように、5’LTRと3’LTRという2つの配列を有している。例えば、5’LTRの塩基配列は、以下の通りである。
aatgaaagaccccacctgtaggtttggcaagctagcttaagtaacgccattttgcaaggcatggaaaaatacataactgagaatagaaaagttcagatcaaggtcaggaacagatggaacagctgaatatgggccaaagcggatatctgtggtaagcagttcctgccccggctcagggccaagaacagatggaacagctgaatatgggccaaacaggatatctgtggtaagcagttcctgccccggctcagggccaagaacagatggtccccagatgcggtccagccctcagcagtttctagagaaccatcagatgtttccagggtgccccaaggacctgaaatgaccctgtgccttatttgaactaaccaatcagttcgcttctcgcttctgttcgcgcgcttctgctccccgagctcaataaaagagcccacaacccctcactcggggcgccagtcctccgattgactgagtcgcccgggtacccgtgtatccaataaaccctcttgcagttgcatccgacttgtggtctcgctgttccttgggagggtctcctctgagtgattgactacccgtcagcgggggtctttcatt(配列番号1)

【0022】
例えば、3’LTRの塩基配列は、以下の通りである。
aatgaaagaccccacctgtaggtttggcaagctagcttaagtaacgccattttggaaggcatggaaaaatacataactgagaatagagaagttcagatcaaggtcaggaacagatggaacagctgaatatgggccaaacaggatatctgtggtaagcagttcctgccccggctcagggccaagaacagatggaacagctgaatatgggccaaacaggatatctgtggtaagcagttcctgccccggctcagggccaagaacagatggtccccagatgcggtccagccctcagcagtttctagagaaccatcagatgtttccagggtgccccaaggacctgaaatgaccctgtgccttatttgaactaaccaatcagttcgcttctcgcttctgttcgcgcgcttctgctccccgagctcaataaaagagcccacaacccctcactcggggcgccagtcctccgattgactgagtcgcccgggtacccgtgtatccaataaaccctcttgcagttgcatccgacttgtggtctcgctgttccttgggagggtctcctctgagtgattgactacccgtcagcgggggtctttcatt(配列番号2)
従って、これら2つの配列は相同である。

【0023】
マーカー遺伝子Xは、本発明のベクターに含まれる遺伝子が発現している宿主を特定するためのマーカーのために本発明のベクターに含まれる。マーカー遺伝子Xの具体的な機能、作用については後述する。マーカー遺伝子Xは、上記のように本発明のベクターに含まれる遺伝子が発現している宿主を特定するためのマーカーを提供するための遺伝子であり、そのような機能を有するマーカーを提供できる遺伝子であれば、特に制限はない。マーカー遺伝子Xは、例えば、蛍光タンパク質遺伝子、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子を含む。

【0024】
蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、GFP、YFP、CFP、BFP、Venus、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどの蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。

【0025】
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン/ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などの各種薬剤抵抗性遺伝子が挙げられる。

【0026】
レポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼなどが挙げられる。

【0027】
本発明のベクターは、複製起点及び配列Aは間接的に隣接し、かつ前記隣接する複製起点及び配列Aの間に、上記マーカー遺伝子Xとは異なるマーカー遺伝子Yをさらに含むものであることもできる。マーカー遺伝子の具体例としては、上記したマーカー遺伝子Xの具体例が挙げられる。マーカー遺伝子Yは、本発明のベクターの外来遺伝子を相同組換えで導入したベクターを選択するための機能には直接関与するマーカーではなく、前述の従来のレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターに当初から含まれているマーカー遺伝子であり、本発明におていはそのようなマーカー遺伝子の共存を否定するものではないことを意味する。換言すると、そのようなマーカー遺伝子Xとは異なる遺伝子が、上記部位に存在していても、本発明のベクターの機能は損なわれないことを意味する。

【0028】
本発明のベクターにおいて重要なことは、マーカー遺伝子Xが、配列Aと配列C及びDとの間に位置することである。これにより、相同組換え後に配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを含む宿主のみを選択的に選別することが可能になる。一方、上記マーカー遺伝子Yは、複製起点及び配列Aの間に存在するために、相同組換え後に配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターのみならず、配列AとBとの間で相同組換え生じて外来遺伝子が導入されなかったベクターを含む宿主にも含まれるので、上記選択的選別には利用できない。この点をさらに詳しく以下に説明する。

【0029】
図3は、外来遺伝子(目的DNA)が導入された本発明のベクターの4つの例を示す図である。図3において、マーカー遺伝子Y(選択マーカーY)はDNA複製起点(ori)の近傍に位置する。マーカー遺伝子X(選択マーカーX)は導入される目的遺伝子(外来遺伝子)のどちら側に存在してもよい。どちらが好ましいかは目的により使い分ける。図3のAのベクターは、複製起点、マーカー遺伝子Y(選択マーカーY)、配列A、マーカー遺伝子X(選択マーカーX)、相同組換えにより外来遺伝子(目的DNA)を導入するための二つの配列C及びD、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターに外来遺伝子(目的DNA)が相同組換えにより導入されたベクターである。図3のBのベクターは、複製起点、マーカー遺伝子Y(選択マーカーY)、配列A、相同組換えにより外来遺伝子(目的DNA)を導入するための二つの配列C及びD、マーカー遺伝子X(選択マーカーX)、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターに外来遺伝子(目的DNA)が相同組換えにより導入されたベクターである。図3のCのベクターは、複製起点、配列A、マーカー遺伝子X(選択マーカーX)、相同組換えにより外来遺伝子(目的DNA)を導入するための二つの配列C及びD、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターに外来遺伝子(目的DNA)が相同組換えにより導入されたベクターである。図3のDのベクターは、複製起点、配列A、相同組換えにより外来遺伝子(目的DNA)を導入するための二つの配列C及びD、マーカー遺伝子X(選択マーカーX)、並びに前記配列Aと相同な配列Bをこの順に含むベクターに外来遺伝子(目的DNA)が相同組換えにより導入されたベクターである。

【0030】
図2のAで耐性マーカーYは例えばアンピシリン耐性遺伝子である。このベクターに相同組換え配列を用いて目的遺伝子を導入しようとした場合、理想的には図2のAの下図に示すベクターのように、目的の部位に目的遺伝子が挿入されたベクターを取得することが想定される。しかし、レトロウイルスベクターには前記相同配列が存在するため、目的遺伝子とレトロウイルスベクター間での相同組換えが生じずに、図2のBに示すように、より高い頻度でレトロウイルスベクター内の相同配列で相同組換えが生じてしまい、図2のBの下図に示すような目的とするベクターとも元のベクターとも異なる副産物ができてしまう。

【0031】
上記のような従来のベクターの問題点を解消するために、本発明のベクターでは、間接的に隣接する上記配列Aと相同組換えにより外来遺伝子を導入するための配列Cとの間に、マーカー遺伝子X(選択マーカーX)が配置されている(図2のC、Dを参照)。本発明のベクターに外来遺伝子を相同組換えにより導入する場合、ベクター内部の互いに相同な配列Aと配列Bとの間で相同組換えを起こして生ずる副産物は、複製起点を含み、かつマーカー遺伝子Xを含まないものと、マーカー遺伝子Xを含み、かつ複製起点を含まないものが想定される。マーカー遺伝子Xを含み、かつ複製起点を含まない副産物は、複製起点を含まないため、宿主内で複製されることはない。一方、複製起点を含み、かつマーカー遺伝子Xを含まない副産物は、宿主内で複製されるものの、マーカー遺伝子が発現することはない。したがって、本発明のベクターによれば、マーカー遺伝子の発現の有無を指標とし、マーカー遺伝子を発現する形質転換体を選択することにより、上記副産物が導入された形質転換体を除外することが可能であり、外来遺伝子(目的遺伝子)が導入されたベクターを効率的に選抜することができる。

【0032】
(本発明の製造方法)
本発明は、さらに、上記本発明のベクターにおいて前記隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを製造する方法であって、以下の工程を含む方法:
上記本発明のベクターを準備する工程(1)、
前記配列Cと相同な配列C’、外来遺伝子、及び前記配列Dと相同な配列D’をこの順に含む核酸断片を準備する工程(2)、
前記ベクターと前記核酸断片とを相同組換えを起こす条件下に置くことによる前記隣接含る配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターの生成、及び前記隣接する配列含及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主の形成を行う工程(3)、
工程(3)で得られた宿主を培養し、培養物中からマーカー遺伝子Xの発現を指標とし含、配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主を選抜する工程(4)、及び
工程(4)において選抜した宿主から配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベク含ーを抽出する工程(5)に関する。

【0033】
工程(1)においては、本発明の上記ベクターを準備する。相互に相同である2つの配列含含むベクターにおいて、2つの配列の間に目的遺伝子を相同組み換えにより挿入するための配列とその上流、あるいは下流に相同組み換えマーカー遺伝子をライゲーション等の遺伝子工学的手法により挿入する。
例えば、遺伝子工学的手法を用いることにより、既存のレトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)に、互いに間接的に隣接する5’LTR又は3’LTRと外来遺伝子を相同組換えにより挿入するための配列(つまり、配列C又はD)との間において、相同組換えマーカー遺伝子Xを挿入することにより、上記本発明のベクターを作製することができる。この場合、相同組換えにより外来遺伝子を挿入するための配列C及びDは、レトロウイルスベクターに存在する既存の配列でも良いし、該レトロウイルスベクターに新たに導入した配列であってもよい。

【0034】
工程(2)は、本発明のベクターに相同組換えにより導入される、外来遺伝子を含むインサート(挿入物)を準備する工程である。本工程(2)では、本発明のベクターに存在する配列Cと相同な配列C’、外来遺伝子、及び本発明のベクターに存在する配列Dと相同な配列D’をこの順に含む核酸断片を作製する。該核酸断片は、例えば、配列C’を5’末端側に含むフォワードプライマー、及び配列D’を5’末端側に含むリバースプライマーを用いて、外来遺伝子を含む核酸断片を鋳型としてPCR法などの核酸増幅技術により作製することができる。

【0035】
工程(3)は、本発明のベクターと工程(2)で準備した核酸断片とを相同組換えを起こす条件下に置くことにより、隣接する配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターの生成、及び該外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主の形成を行う工程である。工程(3)は、相同組換えを試験管内(in vitro)で行う場合と生体内(in vivo)で行う場合とがある。

【0036】
試験管内(in vitro)で行う場合は、本発明のベクターと上記核酸断片との相同組換えは、例えば、相同組換え起こす酵素と、本発明のベクター及び上記核酸断片とを試験管内(in vitro)で混合し、該混合物を適切な時間及び温度でインキュベートすることにより相同組換え反応を行うことにより実施できる。相同組換えを起こす酵素としては、各種リコンビナーゼが挙げられ、このようなリコンビナーゼを用いたクローニング・システムの市販品として、In-Fusion Advantage PCRクローニングキット(クロンテック社)、Gatewayシステム(インビトロジェン社)などがある。次いで、上記相同組換えの反応産物を用いて、本発明のベクターを複製することができる宿主を形質転換し、外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主を形成することができる。宿主としては、本発明のベクターが有する複製起点に応じた宿主を用いればよく、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バクテリオファージ、酵母類(例えば、Saccharomyces cerevisiaeSchizosaccharomyces pombe)などが挙げられる。形質転換の方法は、宿主の種類に応じた各種公知の方法を用いることができる。

【0037】
また、上記試験管内(in vitro)の相同組換え反応に代えて生体内(in vivo)で行う場合は、相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子及び本発明のベクターと工程(2)で準備した核酸断片とを含む宿主を取得し、得られた宿主において前記相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子を発現させることにより、工程(3)を実施することもできる。例えば、相同組み換えを起こす酵素をコードする遺伝子を含む宿主に、本発明のベクターと工程(2)で準備した核酸断片とを形質転換することにより、宿主において相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子を発現させ、宿主の中で相同組換え反応により本発明のベクターに外来遺伝子を導入させることができる。この場合、宿主の中で相同組換えを起こす酵素が発現するため、宿主内で該酵素の働きにより本発明のベクターと上記核酸断片が相同組換え起こし、外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主が得られる。相同組換えを起こす酵素をコードする遺伝子としては、GENE BRIDGES社から販売されているRed/ET相同組換え法のキットに含まれるpRedETが挙げられる。これを宿主大腸菌(DH10B、HS996、Gene Hogs、あるいは、TOP10)に導入したものを相同組換え用大腸菌コンピテントセルとして用いる。
また、相同組み換えを起こす酵素をコードする遺伝子を導入せず、宿主大腸菌が元来持っている相同組み換えの性質を利用するものもGenlantis社から販売されている(Xi-Clone Hgh Speed Clonig Kit)。

【0038】
工程(4)は、工程(3)において得られた宿主(形質転換体)を培養し、培養物中からマーカー遺伝子Xを発現するものを選別することにより、本発明のベクターにおいて配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを有する宿主を選抜する工程である。マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である場合、該蛍光タンパク質を発現する宿主を蛍光検出により選抜することができる。マーカー遺伝子Xが薬剤耐性遺伝子である場合には、対応する薬剤を含む培地で工程(3)において得られた宿主(形質転換体)を培養すれば、薬剤耐性遺伝子(マーカー遺伝子X)を発現する宿主のみ選抜することができる。例えば、宿主として大腸菌を用い、かつマーカー遺伝子Xとしてアンピシリン耐性遺伝子を用いた場合には、アンピシリンを含有する平板培地上で工程(3)において得られた大腸菌形質転換体を培養することにより、アンピシリン耐性遺伝子を発現する大腸菌のみを選抜することができる。

【0039】
上記の通り、本発明のベクターにおいて互いに相同である配列A及び配列Bとの間で相同組み換えが起こることにより生ずる副産物は、複製起点を含み、かつマーカー遺伝子Xを含まないものと、マーカー遺伝子Xを含み、かつ複製起点を含まないものが想定される。マーカー遺伝子Xを含み、かつ複製起点を含まない副産物は、複製起点を欠如するため宿主内で複製されることはない。一方、複製起点を含み、かつマーカー遺伝子Xを含まない副産物については、宿主内でマーカー遺伝子Xが発現しない。例えば、宿主として大腸菌を用い、かつマーカー遺伝子Xとしてアンピシリン耐性遺伝子を用いた場合に、アンピシリンを含有する平板培地上で工程(3)において得られた大腸菌形質転換体を培養すると、アンピシリン耐性遺伝子(マーカー遺伝子X)を含み、かつ複製起点を含まない副産物が導入された大腸菌は、該副産物が複製起点を欠如するため、大腸菌宿主内で該副産物は複製されずアンピシリン耐性遺伝子も発現しない。したがって、アンピシリン耐性遺伝子(マーカー遺伝子X)を含み、かつ複製起点を含まない副産物が導入された大腸菌は、アンピシリンを含有する平板培地上で生育することができず、コロニーを形成することもない。一方、複製起点を含み、かつアンピシリン耐性遺伝子(マーカー遺伝子X)を含まない副産物が導入された大腸菌は、該副産物が複製起点を有するため、大腸菌宿主内で該副産物は複製され得るが、該副産物はアンピシリン耐性遺伝子を欠如するため、該大腸菌宿主内でアンピシリン耐性遺伝子が発現することはない。したがって、複製起点を含み、かつアンピシリン耐性遺伝子(マーカー遺伝子X)を含まない副産物が導入された大腸菌は、アンピシリンを含有する平板培地上で生育することができず、コロニーを形成することもない。このようにして、本発明によれば、マーカー遺伝子Xの発現を指標として、上記副産物が導入された宿主を除外し、結果として、本発明のベクターにおいて外来遺伝子が相同組換えにより導入されたベクターを有する宿主を効率的に選択することが可能となる。

【0040】
工程(5)は、工程(4)において選抜した宿主から、本発明のベクターにおいて配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを抽出する工程である。

【0041】
上記宿主から、本発明のベクターにおいて配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを抽出する方法としては、各種公知の核酸抽出技術が挙げられる。例えば、宿主が大腸菌である場合には、各種公知のプラスミド抽出法により、大腸菌宿主から本発明のベクターにおいて配列C及びDの間に外来遺伝子が導入されたベクターを抽出することができる。

【0042】
以下、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(比較例)
図2Aに示すような構造を持つ従来から使われているレトロウイルスベクターpMX_G(図5)に抗体遺伝子をGeneBridges社あるいはClontech社(タカラバイオ)の相同組換え法によって遺伝子導入しようとした。図5における符号の意味は以下の通りである。pMx_G:抗体H鎖発現用ベクター。Amp:アンピシリン耐性遺伝子。hγ:抗体H鎖定常部領域cDNA。SacB:枯草菌(Bacillus subtilis)ゲノムDNA、この遺伝子が存在するとスクロース培地中で大腸菌が生存できない。LTR:long terminal repeat。MCS:multi-cloning site。NruI, NotI, SalI:制限酵素部位。
【実施例】
【0044】
まず、図6Aに示す通り、抗体H鎖の遺伝子を含むテンプレートDNAから、5’末端に配列a(約20塩基)を含むフォワードプライマー、5’末端に抗体の定常部領域(CH)の一部(約20塩基)を含むリバースプライマーを用いてPCRで遺伝子を増幅する。得られるPCR産物は図6Bのように抗体可変部領域(VH)の末端にaの配列と抗体H鎖の定常部領域の一部が付加されたものとなる。図6Cに示すレトロウイルスベクターにおけるSacB遺伝子の上流にあるNruIサイトの上流20塩基が図6BのPCR産物の末端のaの配列と一致している。また、SacB遺伝子の下流にあるNruIサイトの下流のH鎖定常部領域の一部の配列は、図6BのPCR産物の末端のH鎖の定常領域の一部と同じ配列である(図6BのPCR産物の配列にはNruIサイトは含まれない)。図6CのベクターをNruI処理し、図6BのPCR産物とともに相同組み換え大腸菌に導入すると図6Dのような相同組み換えが起こり、図6Eの構造を持つ発現ベクターが得られると期待される。しかしながら、実際には5’LTRと3’LTRの間で相同組み換えが高率に起こるため、期待されるベクターが得られる確率は低かった。図6における符号の意味は以下の通りである。pMx_G:抗体H鎖発現用ベクター。Amp:アンピシリン耐性遺伝子。hγ:抗体H鎖定常部領域cDNA。SacB:枯草菌(Bacillus subtilis)ゲノムDNA、この遺伝子が存在するとスクロース培地中で大腸菌が生存できない。LTR:long terminal repeat。SalI, NruI, NotI:制限酵素部位。
以下に各手順の詳細を説明する。
【実施例】
【0045】
<ヒト抗体H鎖遺伝子のレトロウイルスベクターへの相同組み換えによる導入>
[制限酵素によるベクターの切断(リニアライズ、直線化、線状化)]
ベクター2μgをRoche社製のNruI制限酵素(10U)を用いてBuffer B(Roche社製)の存在下、50μLの反応液中で37℃、2時間切断し、直線化(線状化)した。制限酵素処理後、反応液1μLを0.6%のアガロースゲルで100V、20分間電気泳動して、ベクター6kbとSacB 1.9kbのバンドを確認した。残りの49μLをQIAquick PCR Purification kit(QIAGEN)で精製し、キットに添付されたEB溶液30μLで溶出した。
【実施例】
【0046】
[インサートDNAの調製]
ベクターの5’側のNruI部位の5’上流のmulti-cloning site(MCS)と相同な20塩基の配列を含むフォワードプライマーとベクターの3’側のNruI部位の3’下流のH鎖定常部領域に相同な20塩基の配列を含むリバースプライマーを用いてPCRで目的インサート(抗体H鎖)DNAを増幅することにより、ベクターに導入するインサートDNAにベクターに相同組換えで挿入可能な配列を付加した(図6A及びB)。
【実施例】
【0047】
[大腸菌への遺伝子導入(GeneBridges社)]
1.5 mLマイクロチューブにベクター 1μLとインサートDNA 1μLを混ぜ、さらに氷上で相同組換え用大腸菌コンピテントセル(GeneBridges社)50μLを加えて混合し、氷上に15分間静置した。42℃、30秒のヒートショック後、さらに5分間氷上に静置した。その後マイクロチューブを37℃で一時間インキュベーションしたのち、100μg/mLアンピシリン、2%スクロース(ナカライテスク)含有のLB(Luria-Bertani)寒天培地(10cmディッシュ)にマイクロチューブ内の溶液をプレーティングした。このプレートを37℃で14時間静置培養した。使用したLB寒天培地の組成は以下の通りである。
【実施例】
【0048】
1%ポリペプトン(和光純薬)
0.5%乾燥酵母粉末(ナカライテスク)
1%塩化ナトリウム(和光純薬)
1%寒天末(ナカライテスク)
・選択用培地として以下の試薬を含む。
2%スクロース(ナカライテスク)
100μg/mL アンピシリン(和光純薬)
【実施例】
【0049】
[In-fusion Advantage PCR cloning kit (Clontech社、タカラバイオ)を用いた相同組み換えと大腸菌への遺伝子導入]
1.5mLマイクロチューブにキットに添付されたCloning Enhancer 2μLとPCRインサート5μLを混ぜ、37℃で15分インキュベート後、80℃で15分インキュベートし、氷上に静置した。1.5mLマイクロチューブにリニアライズしたベクター7μLと上記のPCRインサート1μL、にキットに添付された5×In-fusion reaction buffer 2μL、In-fusion enzyme 1μLを混ぜ、37℃15分インキュベーション後、50℃15分インキュベートし、氷上に静置した。その後、TEバッファーを全体量が50 μLになるよう添加した。1.5mLチューブにこの混合溶液2.5μLと大腸菌(DH5α)コンピテントセル50μLを加えて混合し、氷上に15分間静置した。42℃、30秒のヒートショック後、さらに5分間氷上に静置した。その後マイクロチューブを37℃で一時間インキュベーションしたのち、100μg/mLアンピシリン、2%スクロース(ナカライテスク)含有のLB(Luria-Bertani)寒天培地(10cmディッシュ)にマイクロチューブ内の溶液をプレーティングした。このプレートを37℃で14時間静置培養した。使用したLB寒天培地の組成は以下の通りである。
【実施例】
【0050】
1%ポリペプトン(和光純薬)
0.5%乾燥酵母粉末(ナカライテスク)
1%塩化ナトリウム(和光純薬)
1%寒天末(ナカライテスク)
・選択用培地として以下の試薬を含む。
2%スクロース(ナカライテスク)
100μg/mL アンピシリン(和光純薬)
【実施例】
【0051】
[大腸菌シングルコロニーからの大腸菌の培養]
大腸菌のコロニーを7-9個ピックアップし、それぞれ100μg/mLアンピシリン含有の液体LB培地2 mLで37℃14時間振とう培養した。
【実施例】
【0052】
[DNA精製]
上記の大腸菌からQIAprep Miniprep kit(Qiagen)でプラスミドDNAを抽出し、添付のEB溶液50μLで溶出した。
【実施例】
【0053】
[制限酵素SalIでインサートチェック(1サンプルあたり)]
ベクター 0.2μgをSalI(15U)(ニッポンジーン)でBuffer H(ニッポンジーン)の存在下、トータル10.1μLの反応液中で37℃ 2時間で制限酵素処理を行った。その後、反応溶液(10μL)を0.6 %のアガロースゲルで100V、20分電気泳動した。
【実施例】
【0054】
期待通りならば、図4Bの右端のようにベクターと約1kbpの目的遺伝子の2つのバンドが観察されないといけないが、図2Bのように用いたレトロウイルスベクターの5’-LTR、3’-LTRの間で相同組換えが起こってしまい、用いた制限酵素SalIでDNAが切断されず、ベクターのサイズも元のベクターに較べて小さくなっている(図4A、B)。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
図4Cは本発明により構築したレトロウイルスベクターを用いて、TCRの遺伝子を相同組換え法により導入し、アンピシリン、カナマイシンそれぞれ単独で選択した例を示す。以下に詳細に説明する。
【実施例】
【0056】
[マウスT細胞受容体(TCR)α鎖の本発明によるベクターへの相同組換えによる導入-アンピシリン、カナマイシンそれぞれ単独で選択した場合-]
図7左に示す相同組み換え用レトロウイルスベクターpMX-KmAm2-mαは、公知のレトロウイルスベクターであるpMXベクターのアンピシリン耐性遺伝子を遺伝子工学的方法によりカナマイシン耐性遺伝子に置き換え、目的遺伝子(マウスTCRαの可変部領域)を相同組み換えによる挿入するための配列(MCS、NruI、SacB、NruI、マウスTCRα定常部領域の一部)を挿入したベクターであり、本発明にかかるベクター改変としてマウスTCRαと3’LTRの間にアンピシリン耐性遺伝子が挿入してある。このレトロウイルスベクターpMX-KmAm2-mα(マウスTCRαの定常部領域を含み、5’LTRの下流にアンピシリン耐性遺伝子が導入されている)を用いてマウスTCRα鎖の相同組み換えによるクローニングを行った。図7における符号の意味は以下の通りである。pMx-KmAm2-mTCRα:TCRα鎖発現用ベクター。pMx-KmAm2-mTCRβ:TCRβ鎖発現用ベクター。Neo/kan:ネオマイシン・カナマイシン耐性遺伝子。Amp:アンピシリン耐性遺伝子。mTCR Cα:TCRα鎖定常部領域cDNA。mTCR Cβ:TCRβ鎖定常部領域cDNA。SacB:枯草菌(Bacillus subtilis)ゲノムDNA、この遺伝子が存在するとスクロース培地中で大腸菌が生存できない。LTR:long terminal repeat。SalI, NruI:制限酵素部位。
【実施例】
【0057】
相同組換え用レトロウイルスベクターpMX-KmAm2-mαにおいて、図2に示すベクターにおける耐性マーカーY(マーカー遺伝子Y)に該当する遺伝子は、カナマイシン耐性遺伝子であり、耐性マーカーX(マーカー遺伝子X)に該当する遺伝子はアンピシリン耐性遺伝子である。耐性マーカーYのカナマイシンだけで選択した場合、5’LTRと3’LTRで相同組み換えが起こったベクターのうちカナマイシン耐性遺伝子を持ったベクターが導入された大腸菌も生えてくる(図2B)。一方、耐性マーカーXのアンピシリンだけで選択した場合、5’LTRと3’LTRで相同組み換えが起こったベクターのうちアンピシリン耐性遺伝子を持ったベクターはDNA複製起点(DNA replication origin)がないため、その遺伝子が導入された大腸菌は増殖できない。また、5’LTRと3’LTRで相同組み換えが起こったベクターのうちDNA複製起点(DNA replication origin)を持ったベクターはアンピシリン耐性遺伝子がないため、その遺伝子が導入された大腸菌も増殖できない。したがって目的遺伝子が導入された大腸菌が選択されると考えられる。
【実施例】
【0058】
まず、図8Aに示す通り、TCRの遺伝子を含むテンプレートDNAから、5’末端に配列a(約20塩基)を含むフォワードプライマー、5’末端にTCRのコンスタント領域の一部(約20塩基)を含むリバースプライマーを用いてPCRで遺伝子を増幅する。得られるPCR産物は図8Bのように末端にaの配列とTCRの定常部領域の一部が付加されたものとなる。図8Cに示す本発明の構造を持つクローニングベクターにおいて、SacB遺伝子の上流にあるNruIサイトの上流20塩基が図8BのPCR産物の末端のaの配列と一致している。また、SacB遺伝子の下流にあるNruIサイトの下流のマウスTCRα定常部領域の一部の配列は、図8BのPCR産物の末端のTCRの定常部領域の一部と同じ配列である。(図8Bの配列にはNruIサイトは含まれない)。図8CのベクターをNruI処理し、図8BのPCR産物とともに相同組み換え大腸菌(GeneBridges社製のプラスミドpREDETを導入したTOP10)に導入すると図8Dのような相同組み換えが起こり、図8Eの構造を持つ発現ベクターが得られる。図8における符号の意味は以下の通りである。pMx-KmAm2-mTCRα:TCRα鎖発現用ベクター。pMx-KmAm2-mTCRβ:TCRβ鎖発現用ベクター。Neo/kan:ネオマイシン・カナマイシン耐性遺伝子。Amp:アンピシリン耐性遺伝子。mTCR Cα:TCRα鎖定常部領域cDNA。mTCR Cβ:TCRβ鎖定常部領域cDNA。SacB:枯草菌(Bacillus subtilis)ゲノムDNA、この遺伝子が存在するとスクロース培地中で大腸菌が生存できない。LTR:long terminal repeat。
以下に各手順の詳細を説明する。
【実施例】
【0059】
[制限酵素によるベクターの切断(リニアライズ)]
ベクター2μgをRoche社製のNruI制限酵素(10U)を用いてBuffer B(Roche社製)の存在下、50μLの反応液中で37℃ 2時間切断し、直線化(線状化)した。制限酵素処理後、反応液1μLを0.6%のアガロースゲルで100V、20分電気泳動して、ベクター 6kbとSacB 1.9kbのバンドを確認した。残りの49μLをQIAquick PCR Purification kit(QIAGEN)で精製し、キットに添付されたEB溶液30μLで溶出した。
【実施例】
【0060】
[インサートDNAの調製]
ベクターの5’側のNruI部位の5’上流のmulti-cloning site(MCS)と相同な20塩基の配列を含むフォワードプライマーとベクターの3’側のNruI部位の3’下流のTCR定常部領域に相同な20塩基の配列を含むリバースプライマーを用いてPCRで目的インサート(TCR)DNAを増幅することにより、ベクターに導入するインサートDNAにベクターに相同組換えで挿入可能な配列を付加した(図8)。
【実施例】
【0061】
[大腸菌への遺伝子導入(GeneBridges社)]
1.5 mLマイクロチューブにベクター 1μLとインサートDNA 1μLを混ぜ、さらに氷上で相同組換え用大腸菌コンピテントセル 50μLを加えて混合し、氷上に15分間静置した。42℃、30秒のヒートショック後、さらに5分間氷上に静置した。その後マイクロチューブを37℃で一時間インキュベーションしたのち、100μg/mLアンピシリン、2%スクロース(ナカライテスク)含有のLB(Luria-Bertani)寒天培地(10cmディッシュ)あるいは、50μg/mLカナマイシン、2%スクロース含有のLB寒天培地にマイクロチューブ内の溶液をプレーティングした。このプレートを37℃で14時間静置培養した。使用したLB寒天培地の組成は以下の通りである。
【実施例】
【0062】
1%ポリペプトン(和光純薬)
0.5%乾燥酵母粉末(ナカライテスク)
1%塩化ナトリウム(和光純薬)
1%寒天末(ナカライテスク)
・選択用培地として以下の試薬を含む。
2%スクロース(ナカライテスク)
100μg/mL アンピシリン(和光純薬)あるいは50μg/mL硫酸カナマイシン注射液(明治製菓)
【実施例】
【0063】
[大腸菌シングルコロニーからの大腸菌の培養]
大腸菌のコロニーを12個ピックアップし、それぞれ100μg/mLアンピシリンあるいは50μg/mLカナマイシン含有の液体LB培地2 mLで37℃14時間振とう培養した。
【実施例】
【0064】
[DNA精製]
上記の大腸菌からQIAprep Miniprep kit(Qiagen)でプラスミドDNAを抽出し、添付のEB溶液50μLで溶出した。
【実施例】
【0065】
[制限酵素SalIでインサートチェック(1サンプルあたり)]
ベクター 0.2μgをSalI(15U) (ニッポンジーン)でBuffer H(ニッポンジーン)の存在下、トータル10.1μLの反応液中で37℃ 2時間で制限酵素処理を行った。その後、反応溶液(10μL)を0.6 %のアガロースゲルで100V、20分電気泳動して、ベクターのバンド4.5kbと目的DNA OT1 TCRα+Ampの1.9kbのバンドを確認した(図4C)。その結果、図4Cに示す通り、アンピシリンのみで選択した場合は、7個のプラスミドDNAのうち6個のプラスミドDNAにおいて目的遺伝子が相同組換え法により正しく目的の位置に導入されていることがわかった。また、カナマイシンのみで選択した場合は7個のプラスミドDNA中正しく目的の位置に目的遺伝子が相同組換え法により導入されたものは得られなかった。
【実施例】
【0066】
(実施例2)
本発明によるベクターの別の例として、図9に示す二種類のベクターを作製した。図9左に示す相同組み換え用レトロウイルスベクターpMX-KmAm-mαは、公知のレトロウイルスベクターであるpMXベクターのアンピシリン耐性遺伝子を遺伝子工学的方法によりカナマイシン耐性遺伝子に置き換え、目的遺伝子(マウスTCRαの可変部領域)を相同組み換えによる挿入するための配列(MCS、NruI、SacB、NruI、マウスTCRα定常部領域の一部)を挿入したベクターであり、本発明にかかるベクター改変として5'LTRとマウスTCRα間にアンピシリン耐性遺伝子が挿入してある。
このベクターでは、図5に示すpMx-KmAm2-mTCRαとは、アンピシリン耐性遺伝子(amp)と目的遺伝子との位置関係が異なるが、目的とした相同組み換えの選択に用いることができる。
【実施例】
【0067】
図9の右に示すpMx-KmAmSEP-mTCRαでは、アンピシリン耐性遺伝子(amp)の位置は左のpMx-KmAm-mTCRαと同じく5’LTR近傍に位置する。さらにTCR遺伝子の発現強化のためにSV40エンハンサ、プロモータ(SV40)がTCR遺伝子の前に挿入されている。
図9における各符号の意味は以下の通りである。Neo/kan:ネオマイシン・カナマイシン耐性遺伝子。Amp:アンピシリン耐性遺伝子。mTCR Cα:TCRα鎖定常部領域cDNA。mTCR Cβ:TCRβ鎖定常部領域cDNA。SacB:枯草菌(Bacillus subtilis)ゲノム
【実施例】
【0068】
(実施例3)
[ヒトTリンパ球からの機能的TCR遺伝子のクローニング]
相同組換え法を用いて目的DNA断片を挿入する、本発明のベクターを実際に用い、目的DNAをクローニングした。詳細には下記の手順で行った。
ヒトTリンパ球をセルソーターにて96well PCRプレートの各ウェルに1個/ウェルになるようにソーティングした。
TCR Vα領域およびTCR Vβ領域を、5’-RACE法にてTCRの定常部領域5’近傍からTCR V遺伝子上流までを増幅した。増幅したTCR Vα領域およびTCR Vβ領域を、相同組換え用発現ベクターpMX-KmAm2-hTCRα、pMX-KmAm2-hTCRβ(あらかじめ、公知のレトロウイルスベクター、pMXベクターのアンピシリン耐性遺伝子を遺伝子工学的方法によりカナマイシン耐性遺伝子に置き換え、目的遺伝子を相同組み換えによる挿入するための配列(MCS、NruI、SacB、NruI、ヒトTCR遺伝子定常部領域の一部)を挿入したベクターであり、本発明にかかるベクター改変としてヒトTCR遺伝子定常部領域の一部と3’LTRの間にアンピシリン耐性遺伝子が挿入してある。)に、GeneBridges社あるいはクロンテック社の相同組換えのシステムを用いて組み込んだ。
常法により得られたベクターを大腸菌へ導入し、アンピシリンとカナマイシンの両方に耐性の大腸菌を寒天培地にて一晩培養し、出現したコロニーを1個ずつピックアップし、2 mL アンピシリンとカナマイシンを含むLB培地で培養した。次の日、プラスミドDNAを精製し、制限酵素BamHIとNotIの両方で切断し、アガロースゲルにて解析した。
【実施例】
【0069】
その結果、以下の図10のように24個中21個のプラスミドDNAより目的のバンドが検出された(TCR Vαの結果。図中、上のバンドがベクターのバンド、下のバンドがTCR α鎖cDNAのバンド)。
【実施例】
【0070】
次に、プラスミドDNAのインサートのシーケンスを解析したところ、図11および配列表の配列番号3および4に示したように、機能的TCR遺伝子が発現ベクターにin frameで挿入されていることを確認した。
取得したTCRα鎖およびTCRβ鎖遺伝子を同時に内因性のTCR遺伝子が発現していないマウスT細胞株TG40に導入し、マウスCD3分子の細胞表面への発現を解析した。その結果、フローサイトメトリーによる解析により、CD3分子が細胞表面に発現していることが確認された(図12)。CD3分子はTCRを伴ったかたちでしか細胞表面に発現せず、この結果は、取得したTCR遺伝子が機能的TCR遺伝子であることを示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11