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明細書 :蛍光標識されたL-グルコース誘導体を用いたがん細胞を検出するための方法及び該誘導体を含むがん細胞のイメージング剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6019500号 (P6019500)
登録日 平成28年10月14日(2016.10.14)
発行日 平成28年11月2日(2016.11.2)
発明の名称または考案の名称 蛍光標識されたL-グルコース誘導体を用いたがん細胞を検出するための方法及び該誘導体を含むがん細胞のイメージング剤
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/52        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
A61B  10/00        (2006.01)
FI C12Q 1/04
G01N 33/48 M
G01N 33/52 C
A61K 49/00 A
A61B 10/00 T
請求項の数または発明の数 21
全頁数 42
出願番号 特願2013-507740 (P2013-507740)
出願日 平成24年3月29日(2012.3.29)
国際出願番号 PCT/JP2012/058439
国際公開番号 WO2012/133688
国際公開日 平成24年10月4日(2012.10.4)
優先権出願番号 2011079418
優先日 平成23年3月31日(2011.3.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年3月18日(2015.3.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
【識別番号】595125362
【氏名又は名称】株式会社ペプチド研究所
発明者または考案者 【氏名】山田 勝也
【氏名】尾上 浩隆
【氏名】豊島 正
【氏名】山本 敏弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査官 【審査官】森井 文緒
参考文献・文献 国際公開第2010/016587(WO,A1)
米国特許出願公開第2009/0317829(US,A1)
YAMAMOTO Toshihiro, et al., Synthesis of 2-NBDLG, a fluorescent derivative of L-glucosamine; the antipode of D-glucose tracer 2-NBDG
調査した分野 C12Q 1/00-3/00
G01N
PubMed
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
がん細胞又はそのおそれがある細胞を検出するための方法であって、以下の工程、
a.生体外の標的細胞に、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体を含有する組成物を接触させる工程、及び
b.該標的細胞内に存在する該L-グルコース誘導体を検出する工程、
を含み、
該方法が、蛍光分子団を分子内に有するD-グルコース誘導体を標的細胞に接触させる工程を含まないことを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースに結合したものである、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースの2位、4位又は6位に結合したものである、請求項2に記載のがん細胞の検出方法。
【請求項4】
前記L-グルコース誘導体が、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコースである請求項3に記載のがん細胞の検出方法。
【請求項5】
前記工程aにおける検出が標的細胞をイメージングすることにより行う請求項1~4のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項6】
前記工程aにおける組成物が、スルホローダミンを分子内に有するL-グルコース誘導体をさらに含み、かつ、前記工程bが、標的細胞中に存在する蛍光分子団である7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体を検出する工程である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項7】
前記組成物が、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース及び2位にスルホローダミン101又はスルホローダミンBをスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースを含む、請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記工程bにおける検出がイメージングされた細胞の蛍光色調の時間経過による変化を指標にして行う、請求項6又は7に記載の検出方法。
【請求項9】
さらに以下の工程、
c.前記蛍光色調の変化をもとに標的細胞ががん細胞であるか損傷細胞であるかを判定する工程、
を含む、請求項5~8のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項10】
前記全ての工程を30分以内に行う請求項1~9のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項11】
標的細胞内への標識されたL-グルコース誘導体の取り込みによって標的細胞をイメージングするためのイメージング剤であって、蛍光分子団である7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体を含み、蛍光分子団を分子内に有するD-グルコース誘導体を含まないことを特徴とする標的細胞のイメージング剤。
【請求項12】
がん細胞を検出するための請求項11に記載のイメージング剤。
【請求項13】
前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースに結合したものである、請求項12に記載のイメージング剤。
【請求項14】
前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースの2位、4位又は6位に結合したものである、請求項13に記載のイメージング剤。
【請求項15】
前記L-グルコース誘導体が2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコースである請求項14に記載のイメージング剤。
【請求項16】
前記イメージング剤がさらに、スルホローダミンを分子内に有するL-グルコース誘導体を含む請求項12~15のいずれか一つに記載のイメージング剤。
【請求項17】
前記イメージング剤がさらに、2位にスルホローダミン101又はスルホローダミンBをスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースを含む請求項16に記載のイメージング剤。
【請求項18】
前記L-グルコース誘導体が、放射性標識されたL-グルコース誘導体である請求項11~15のいずれか一つに記載のPET用イメージング剤。
【請求項19】
請求項12~18のいずれか一つに記載のイメージング剤を含むがん細胞を検出するためのキット。
【請求項20】
前記工程bが、該標的細胞に該L-グルコース誘導体を接触させる前の標的細胞の蛍光強度に対する蛍光強度の増加をもって評価を行うことを含む、請求項1に記載のがん細胞の検出方法。
【請求項21】
前記工程aが、該標的細胞に該L-グルコース誘導体を一定時間接触させ、しかる後にこれを洗い流す工程をさらに含み、
前記工程bが、接触前の標的細胞の蛍光強度に対する蛍光強度の増加をもって評価を行うことを含む、請求項1に記載のがん細胞の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を用いてがん細胞又はそのおそれがある細胞を検出するための方法に関する。本発明はまた、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を含むがん細胞又はそのおそれがある細胞のイメージング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんを精度よく検出することは、その発見や治療のために重要である。通例、がん組織は一様な性質を示す細胞の集合ではなく、様々な形態的あるいは機能的な特徴、分化の程度を示す細胞の集合である。また正常細胞の中に混在して存在する場合もある。そこで、がん診断では、診断を確定するために生検標本の病理診断を行い、細胞レベルで異常細胞の評価を行うことが必要となる。しかし、生検標本の病理診断においては、特に早期がんであるほど、がん細胞もしくは前がん状態にある細胞が見落とされる可能性、すなわち誤って陰性(False Negative、偽陰性)と診断される可能性が存在する。特に、内科診断時に組織のごく一部のみを取り出す生検を行なう場合、このような偽陰性の診断がなされてしまい、その後に病状が進行してしまってから初めて気づく危険性をいかに小さくするかが課題となっている。同様の問題は、手術後の再発の有無の評価においても大きな課題となっており、増える一方のがん患者に対応する多くの臨床科では、担当医の経験や習熟度に大きく依存せずに、的確に診断可能な方法が求められている。
【0003】
生検は外科手術時に確認の目的で行われる場合、内視鏡、気管支鏡、拡大鏡、鼻鏡、耳鏡などを用いた内科検査時に消化管や気管、膀胱、膣、その他各種管腔の内側から行なわれる場合、あるいは観察部位付近の身体に小さな穴を開け、開口部に腹腔鏡や胸腔鏡などを挿入して組織の外側から行われる場合などがあるが、侵襲的な操作であることから、いずれの場合にも的確な生検部位の選定が極めて重要な課題である。内視鏡検査などでは、発赤やびらん、白色隆起、微細血管構築の異常を示す領域を認めた場合、拡大内視鏡を併用した異型血管像の精査などにより生検部位の選定が行なわれる。しかし、生検に伴う出血により、微小ながんではもし生検部位を誤れば病変を認識できなくなることも多い。一方、正常と区別のつかない組織を広範に摘出すれば侵襲度が高くなる。がんの手術においても、再発や再手術を避けようと正常部分を不必要に大きく切除すれば、QOL(Quality of Life)改善との兼ね合いにおいてはマイナス要因として働く。このため外科手術では、摘出範囲が適切であるか否かを調べるため、確実にがんが含まれていると思われる部分から一定距離離れた部分まで切除を行っては切断端の迅速病理診断を行う、というプロセスを、手術中に何度か繰り返している。しかし、切断端を迅速病理診断に出し、その結果が得られるまでには一回につき数十分から1時間といった時間が必要であることから、手術時間短縮の阻害要因の一つとなっている。手術時に限らず、内視鏡などの検査時に生検が行われる場合も、診断中、患者には非常に大きな負担がかかっている。従って検査を少しでも早く終わらせるため、どこを精査し、生検すべきかを示すイメージング法への医療現場のニーズは切実である。また、胆道がんや、バレット食道がんなどのように、検査で発見した時点では既に手遅れとなっている場合が多いがんでは、早期発見により生存率の改善が期待され、小さながんを的確、簡便に発見できるイメージング法が求められている。更に、ひとたびがんが発見された場合、内腔表層に薄く存在するがんがどこまで拡がって存在するか(側方進展あるいは水平進展などと称する)を的確に判定し、治療に生かす必要があるが、内視鏡でこれを細胞単位で行うことは熟練した専門家でも困難である(非特許文献1)。
【0004】
現在、内視鏡は、がんの特徴を、より明瞭に捉えて観察できるように、高解像度のものや、光の散乱・吸収変化を利用するNarrow Band Imaging (NBI)、細胞の自家蛍光(Autofluorescence)をイメージングするもの(AFI)、Optical Coherence Tomography (OCT)といった新しい原理を用いるものなど各種の開発が進められている。中でもNBIの有用性が認識され、急速に普及している。しかしNBIは、主として血管パターンを可視化することでがんの進行度を間接的に判断しようとする方法で、上記で例示した他の方法と同様、個々の細胞を直接観察するには不向きである。一方、共焦点内視鏡 Confocal Laser Endomicroscopy(非特許文献2)は、フルオレセインなどの蛍光分子を静脈注射し、組織の発する蛍光を用いた断層像の取得により個々の細胞の形態的特徴を観察できるため、感度が向上すれば異形成や悪性度の違いの細胞単位での判定が期待される。手術時への応用も可能である。しかし、フルオレセインなどの細胞内取り込みはがん細胞特異的でないため、顕微鏡の視野範囲からみれば広大とも言える組織領域に含まれるほぼ全ての細胞が蛍光を発する中で、内視鏡やその他の検査時に異常を示すがん細胞の蛍光で精密に観察しようとすれば膨大な時間を要する。そこで、がん細胞や前がん状態にあるような細胞を迅速に発見し、炎症など、がん以外の原因に起因する細胞異常との識別をも可能にする適切なコントラスト剤が求められている(非特許文献3及び非特許文献4)。
【0005】
がん診断イメージングを可能にするコントラスト剤として今日最も使用されているものの一つに、18Fで放射性標識された2-デオキシ-D-グルコースの誘導体[18F]2-fluoro-2-deoxy-D-glucose (FDG)があり、これを陽電子断層法(PET)と組み合わせた臨床画像診断が広く行われている(非特許文献5) 。FDG法は、がん細胞が正常細胞よりD-グルコースを細胞内に多く取り込む性質を利用してがんを可視化するものであるが、測定手法上、生きた単一の細胞がD-グルコースを取り込む様子をリアルタイムで連続的に観察することができないという欠点を有する(非特許文献6)。これは、一様でない形態や機能、分化程度を示しながら正常細胞の中に混在して存在するがんの正確な診断において不利な点で、例えばごく小さながん細胞が散在する場合や消化器粘膜に薄く発生するがんの早期発見を困難にしている要因の一つである。また、D-グルコースは正常細胞にも取り込まれるが故に、がん組織の周辺や、場合によってはがん組織内に存在する正常細胞へのFDGの取り込みによるバックグラウンド信号がSN比を低下させるという原理的な問題がある。さらに、炎症を起こしている細胞にはFDGが集まりやすいため、がんとの判別が難しくなる。
【0006】
一方本発明者らは、蛍光基である7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基(NBD)で標識した2-アミノ-2-デオキシ-D-グルコース(2-NBDG)が、哺乳動物細胞のグルコーストランスポーターを通過して、放射性標識D-グルコース誘導体に匹敵するキネティクスをもって細胞内に取り込まれることを示した(非特許文献6)。これらを背景に、2-NBDGのような蛍光標識されたD-グルコース誘導体をFDGの代わりに用いて、がんを細胞レベルでイメージングすることが提案されている(非特許文献7及び特許文献1)。また、がん組織の生検もしくは手術時摘出標本に2-NBDGを用いたイメージングとして、口腔がん(非特許文献8)、乳がん(非特許文献9)およびパレット食道がん(非特許文献1)に適用した例が報告されている。
【0007】
しかしながら、2-NBDGをがん診断イメージングに用いる場合、2-NBDGがD-グルコースの誘導体であるために、FDGと同様、正常細胞への取り込みに起因するバックグラウンド信号がSN比を低下させ、微小ながんの早期発見を困難にする。実際、D-グルコースは血糖上昇により脂肪細胞や筋肉に強く取り込まれる性質を示し(非特許文献10)、FDGも同様の性質を示す。そこでFDGを用いたPET検査では、SN比を高めるため検査前に長時間の絶食が不可欠で、また事前のFDG取り込み時間中(約30分~1時間程度)および測定時間中(20~30分程度)、筋肉を動かさずにじっとしている必要がある(会話も制限される)。同様に、2-NBDGによるがんのイメージングでも絶食などが必要となる(非特許文献11)。しかし、絶食を行っても、蛍光標識されたD-グルコース誘導体が正常細胞に取り込まれることを完全に抑制することはできず、より精度の高い検出法が求められている。最近、ヒト組織の生検標本において比較的弱い2-NBDGの取り込みを示す軽度異形成細胞と、2-NBDGを強く取り込む高度異形成細胞のあることが報告されたが(非特許文献1)、いずれにも2-NBDGは取り込まれるため、両者の区別は連続的なものとならざるを得ない。また2-NBDGの強い取り込みは炎症組織にも認められ、がんとの識別がFDG-PET法と同様に課題となっている(非特許文献1)。従って、蛍光標識されたD-グルコース誘導体を用いる限り、腫瘍細胞であるか否かの判定を精度よく行うには限界があると言わざるを得ない。さらに、FDG法は糖尿病患者では診断が困難であるが、がん好発年齢は糖尿病発症年齢と重なるという問題があり、2-NBDGによるイメージングにも同様の制約がおきる可能性がある。
【0008】
また最近、蛍光分子団をD型もしくはL型グルコースの一位にリンカーを介して結合した誘導体を合成する方法が提案され、正常細胞及び特定の腫瘍細胞に適用して蛍光による検出をおこなっている(特許文献3)。しかし、特許文献3の実施例においては、正常細胞及び腫瘍細胞のいずれにおいても、L型グルコース誘導体による十分な蛍光強度の増加が検出されることが示されている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】米国特許第6989140号明細書
【特許文献2】WO2010/016587公開公報
【特許文献3】米国特許出願公開第20090317829号公報
【0010】

【非特許文献1】Thekkek et al., Technol. Cancer Res. Treat. 10: 431-41, 2011
【非特許文献2】Hsiung, PL. et al., Nat. Med. 14: 454-8, 2008
【非特許文献3】Thekkek & Richards-Kortum, Nat. Rev. Cancer 8: 725-31, 2008
【非特許文献4】Goetz & Wang., Gastroenterol. 138: 828-33, 2010
【非特許文献5】Jadvar et al., J. Necl. Med. 50: 1820-27, 2009
【非特許文献6】Yamada et al., J. Biol. Chem. 275: 22278-83, 2000
【非特許文献7】O'Neil et al., Mol. Imaging Biol. 7: 388-92, 2005.、
【非特許文献8】Nitin et al., Int. J. Cancer 124: 2634-42, 2009
【非特許文献9】Langsner et al., Biomed. Optics Express 2: 1514-23, 2011
【非特許文献10】Foley et al., Biochemistry 50: 3048-61, 2011
【非特許文献11】Sheth et al., J. Biomed. Optics 14: 064014, 2009
【非特許文献12】Thompson RJ. et al., Science 312,924-927,2006.
【非特許文献13】Cheng et al., Bioconjgate Chem. 17: 662-69, 2006
【非特許文献14】Etxeberria et al., J. Experimental Botany 56:1905-12, 2005
【非特許文献15】Yamamoto et al., Tetrahedron Lett. 49: 6876-78, 2008
【非特許文献16】Yamada et al., Nat. Protoc. 2: 753-762, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、イメージングによりがん細胞又はそのおそれがある細胞を精度よく検出するための方法、及びその方法に用いるイメージング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、発達した腫瘍細胞(その意味するところは例えば、異常な細胞核を呈する細胞を細胞塊中に多数含む程までに発達した段階の腫瘍塊を構成する細胞である)が蛍光標識されたL-グルコース誘導体を活発に取り込むことを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、特定の蛍光発色団(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基)を分子内に有するL-グルコース誘導体を用いて標的細胞ががん細胞又はそのおそれがあることを検出するとともにその判定を行う方法である。より詳細には以下の通りの発明である。
(1)がん細胞又はそのおそれがある細胞を検出するための方法であって、以下の工程、
a.標的細胞(生体の又は生体から分離した細胞又は組織中の細胞)に、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体を含有する組成物を接触させる工程、及び
b.該標的細胞内に存在する該L-グルコース誘導体を検出する工程、
を含む検出方法。
(2)前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースに結合したものである、前記(1)に記載の検出方法。
(3)前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースの2位、4位又は6位に結合したものである、前記(2)に記載の検出方法。
(4)前記L-グルコース誘導体が、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコースである前記(3)に記載の検出方法。
【0014】
(5)前記工程aにおける検出が標的細胞をイメージングすることにより行う前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の検出方法。
(6)前記工程aにおける組成物が、スルホローダミンを分子内に有するL-グルコース誘導体をさらに含み、かつ、前記工程bが、標的細胞中に存在する蛍光分子団である7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体を検出する工程である、前記(1)に記載の検出方法。
(7)前記組成物が、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース及び2位にスルホローダミン101又はスルホローダミンBをスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースを含む、前記(6)に記載の検出方法。
(8)前記工程bにおける検出がイメージングされた細胞の蛍光色調の時間経過による変化を指標にして行う、前記(6)又は(7)に記載の検出方法。
【0015】
(9)さらに以下の工程、
c.前記蛍光色調の変化をもとに標的細胞ががん細胞又はそのおそれがある細胞であるか否かを判定する工程、
を含む、前記(5)~(8)のいずれか一つに記載の検出方法。
(10)前記全ての工程を30分以内に行う前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の検出方法。
(11)前記L-グルコース誘導体が放射性標識されたL-グルコース誘導体であり、かつ標的細胞内に存在するL-グルコース誘導体を検出する工程が少なくともPETイメージングを含む、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の検出方法。
(12)前記組成物が、蛍光発色団を分子内に有する蛍光標識されたD-グルコース誘導体をさらに含む、前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の検出方法。
【0016】
(13)標的細胞(生体の細胞、又は生体から分離した細胞又は組織中の細胞)内への蛍光標識されたL-グルコース誘導体の取り込みによって標的細胞をイメージングするためのイメージング剤であって、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体を含む標的細胞のイメージング剤。
(14)がん細胞又はそのおそれがある細胞を検出するための前記(13)に記載のイメージング剤。
(15)前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースに結合したものである、前記(14)に記載のイメージング剤。
(16)前記L-グルコース誘導体が、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を、L-グルコース又はアミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースの2位、4位又は6位に結合したものである、前記(15)に記載のイメージング剤。
(17)前記L-グルコース誘導体が2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコースである前記(16)に記載のイメージング剤。
【0017】
(18)前記イメージング剤がさらに、スルホローダミンを分子内に有するL-グルコース誘導体を含む前記(14)~(17)のいずれか一つに記載のイメージング剤。
(19)前記イメージング剤がさらに、2位にスルホローダミン101又はスルホローダミンBをスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースを含む前記(18)に記載のイメージング剤。
(20)前記L-グルコース誘導体が、放射性標識されたL-グルコース誘導体である前記(13)~(17)のいずれか一つに記載のイメージング剤。
(21)蛍光発色団を分子内に有する蛍光標識されたD-グルコース誘導体をさらに含む、前記(14)~(20)のいずれか一つに記載のイメージング剤。
(22)前記(14)~(20)のいずれか一つに記載のイメージング剤を含むがん細胞又はそのおそれがある細胞を検出するためのキット。
(23)前記(1)~(12)のいずれか一つに記載の検出方法を用いてがん細胞又はそのおそれがある細胞を検出することによって、標的細胞が由来する組織ががんであるか、または前がん状態(すなわち放置すれば早晩がんになる可能性の高い状態、高度異形成と診断される状態)にあると診断する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、がん細胞又はそのおそれがある細胞を高いコントラストで識別できる方法及びそのためのイメージング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2において腫瘍細胞(C6グリオーマ)を右後肢付け根の皮下に移植したマウスに2-NBDLGを投与して1分おきにイメージングを行った結果を示す写真である。矢印は、2-NBDLGを投与した時点を示す。
【図2】同、2-NBDGを投与してイメージングを行った結果を示す写真である。矢印は、2-NBDGを投与した時点を示す。
【図3】同、2-NBDLGと2-NBDGをそれぞれ投与した後の腫瘍細胞の移植部分(右後肢付け根部の丸、グラフの菱形、Tumor+Glc)と、首の近くの背側の脂肪細胞が豊富な部分(首部の丸、グラフの四角、BG+Glc)における、それぞれの集積値の経時的変化を示すグラフである。
【図4】実施例3においてマウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊に2-NBDLGを投与してリアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡により取得した画像である。
【図5】実施例4におけるマウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊に、100マイクロモルの2-NBDLGと20マイクロモルの2-TRLGからなる混合溶液を投与する前のリアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡により取得した画像である。
【図6】同、投与終了から2分経過後の取得画像である。
【図7】同、投与終了から4分経過後の取得画像である。
【図8】同、投与終了から2分経過後の緑チャネル画像と赤チャネル画像とDIC画像を重ね合わせた画像である。
【図9】同、投与終了から4分経過後の緑チャネル画像と赤チャネル画像とDIC画像を重ね合わせた画像である。
【図10】2-NBDG及び2-NBDLGのマウスインスリノーマ(MIN6)細胞内への取り込みに対する阻害剤の影響をみた結果である。
【図11】実施例6におけるマウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊に、100マイクロモルの2-NBDLMと20マイクロモルの2-TRLGからなる混合溶液を投与する前のリアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡により取得した画像である。
【図12】同、投与時の取得画像である。
【図13】同、投与終了から2分経過後の取得画像である。
【図14】同、投与終了から10分経過後の取得画像である。
【図15】同、投与終了から22分経過後の取得画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を用いてがん細胞又はそのおそれがある細胞を検出するための方法及びその方法に用いるイメージング剤である。本発明によれば、有効量の蛍光標識されたL-グルコース誘導体(蛍光分子団である7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体)を含む組成物(以下の、「本発明の組成物」又は「本発明のイメージング剤」ということがある)を試薬として、標的細胞に接触させることにより、標的細胞ががん細胞(又はそのおそれがある細胞)であるか否かを判定することができる。本発明によればまた、標的細胞を含む組織に、本発明の組成物を接触させイメージングを行うことにより、組織中のがん細胞又はそのおそれがある細胞を検出することができる。本発明によればさらに、本発明の組成物を生体に投与しイメージングを行うことで、がん細胞(又はそのおそれがある細胞)又はそれらの細胞を含む組織を検出することができ、この方法はがんを検出する方法として有用である。蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、マクロファージやマイクログリアのような食作用を司る特殊な細胞をのぞいて、正常細胞には例えば投与開始後20分以内といった短時間では取り込まれないか取り込まれたとしても僅かであるので、本発明によれば、短時間(例えば、投与開始後15分以内など)でイメージングを実施可能であり、しかもがん細胞又はそのおそれがある細胞と、正常細胞もしくは核に異常を来たすまでには発達していない腫瘍細胞塊を構成する細胞との間で高いコントラストを得ることができる。

【0021】
蛍光標識D-グルコースを投与する際には脂肪細胞や筋肉への取り込みを低下させる目的で投与前に通常絶食が行われていたが、絶食を行なうと、ヘミチャネル(gap junction/hemichannel)が開口し、ヘミチャネルを介したD-グルコースの取り込みがおきて、臓器によってはコントラストが低下する可能性がある(非特許文献12)。また絶食時、筋肉、肝臓、膵臓、腎臓などの正常細胞は、自食(Autophagy)を開始する。自食とは、正常細胞が自身を消化する現象で、もし様々な細胞に自食を生じれば、それに伴い蛍光で標識されたD-グルコース誘導体が、がん細胞以外の正常細胞に非特異的に取り込まれる可能性を否定できない。このように絶食を行うことは、イメージングによるがん細胞の特定にマイナスとなる場合もある。in vitroにおいて生きた細胞の評価に適用する場合にあっても、グルコースのようなエネルギー源となりうる糖類を添加せずに細胞を一定時間維持した場合、同様の非特異的取り込みが起こる可能性がある。更に、D-グルコースもしくはD-グルコースに蛍光基を結合した誘導体を、長時間(具体的には30分以上)正常細胞に接触させ続けると、正常細胞の細胞膜に存在するグルコーストランスポーターもしくはグルコース受容体などの膜タンパクに、これらの誘導体が結合したまま細胞内に移動する現象(internalization)や(非特許文献13)、非特異的なエンドサイトーシスが起きる可能性のあることが示唆されている(非特許文献14)。これに対して本発明は生体では絶食を行なわずに短時間(例えば、投与開始後15分以内など)でイメージングを実施可能で、本発明によれば、標識されたD-グルコース誘導体を用いてイメージングを行う場合に比較して、がん細胞(又はそのおそれがある細胞)と正常細胞との間で高いコントラストを得ることができる。また、検出・判定に際して絶食を行う必要がないので、患者に負担を強いることなく、直ちに検査を実施することができる。

【0022】
本明細書で言う「がん細胞又はそのおそれがある細胞」とは、細胞形態の異常(構造異型)を示す細胞、またはそのような細胞と腫瘍塊を構成する細胞、核形態の異常(核異型)や核分裂の異常を示す細胞、又はそのような細胞に発展する可能性の高い細胞を意味し、一般には悪性腫瘍に分類されがんと診断される細胞か、そのような細胞集団を構成する細胞、又はそのような細胞集団に発展する可能性の高い細胞を意味する。
がん細胞ではないが食作用等により非特異的に本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体を細胞内に取り込む可能性のある細胞、例えば、マクロファージやマイクログリアなどの細胞も生体内には存在する。それらの細胞は、がん細胞(又はそのおそれがある細胞)でもなくまた細胞膜に破綻をきたしていないにも関わらず、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を取り込む可能性がある。それらの細胞は、形態による識別の他、2-TRLGを同時に投与した際に細胞内に取り込むことや、特異マーカー、たとえばCD14やCD11bを用いて、本発明の方法において擬陽性と判定した後に、それらの細胞の種類を確認することもできる。

【0023】
本発明の方法において判定できるがん細胞の種類は特に制限がないが、例えば、眼瞼や涙腺など眼科領域のがん、外耳や中耳などの耳のがん、鼻腔や副鼻腔など鼻のがん、肺がん、口腔内のがん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、小腸、大腸がんなど消化器のがん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、卵管がんなど婦人科領域のがん、生殖器のがん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、肛門がん、皮膚がん、骨のがん、筋肉のがん(肉腫)、白血病など血液のがん、悪性リンパ腫、末梢および中枢神経のがん、及び、グリアのがんなどのがん細胞をあげることができる。

【0024】
本発明において用いられる蛍光標識されたL-グルコース誘導体としては、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基(NBD)及びその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体をあげることができる。L-グルコース誘導体におけるNBDが結合する位置は特に制限がないが、具体的には、L-グルコースの1位、2位、3位、4位、又は6位をあげることができ、好ましくは2位、4位又は6位であり、更に好ましくは2位又は6位であり、最も好ましくは2位である。また、NBDのL-グルコースへの結合は、アミンを介して直接結合しても、スペーサー、例えば、-NH-(CH2)n-NH-(ここで、nは2~20好ましくは2~10であり、メチレンの一部は、O、NH、S、又はC=Oで置換されてもよい)を介して結合してもよい。緑色の蛍光を発する、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基及びその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体の蛍光極大波長は530~580nmあたりである。

【0025】
本発明において用いる蛍光標識されたL-グルコース誘導体とは、蛍光発色団を結合した、L-グルコース又はその誘導体(アミノ基及び/又はフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースなど)を意味し、塩酸塩のような塩の形態であってもよい。また、本発明において、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基及びその誘導体とは、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基に加え、蛍光特性を害さない範囲で置換基を付加又は変更したものを含む意味であり、例えば、7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-2-オキサ-1,3-ジアゾール基(DBD基)をあげることができる。

【0026】
本発明に用いることができる蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、具体的には、緑色の蛍光を発する7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基を分子内に有するL-グルコース誘導体(極大蛍光波長は530nm~580nmあたりである)、例えば、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)、4-デオキシ-4-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-L-グルコース(4-NBDLG)や、6-デオキシ-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-L-グルコース(6-NBDLG)などが挙げられる。また、NBDの誘導体である黄色~黄緑色の蛍光を発する(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基を分子内に有するL-グルコース誘導体、例えば、2-デオキシ-2-[N-7-(N’,N’-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-L-グルコース(2-DBDLG)などが挙げられる。

【0027】
これらの化合物のいくつかは本発明者らの先の研究成果に関するWO2010/016587公開公報(特許文献2)に記載されている。このうち2-NBDLGは、以下に示すように2-NBDG(2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-D-グルコース)と鏡像異性体の関係にあり、グルコーストランスポーターであるGLUTを通過しないと考えられる(非特許文献15、特許文献2)。2-NBDGは、生きた哺乳動物細胞のD-グルコースの動的な取り込みプロセスの研究のために本発明者らが提案した化合物であり、今や、この研究分野において欠かすことができないものに位置付けられている(非特許文献16)。特許文献2において提案されているD-グルコースの細胞内への特異的な取り込みの評価方法においても、2-NBDGが蛍光標識されたD-グルコース誘導体として用いられている。

【0028】
【化1】
JP0006019500B2_000002t.gif

【0029】
本発明において用いる蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、NBDを分子内に有するL-グルコース誘導体であるが、好ましくは2-NBDLG又はその誘導体、更に好ましくは2-NBDLGである。2-NBDLG又はその誘導体とは、2-NBDLG又は、2-NBDLGを本発明における効果を害しない範囲で本発明の用途に応じて改変したものを意味し、例えば、L-グルコース又は蛍光発色団のいずれか又は両方に、置換基を付加又は変更したものを意味する。蛍光分子であるNBDの誘導体としては、例えば、DBDをあげることができる。L-グルコースの誘導体としては、例えば、アミノ基により水酸基が置換されたL-グルコース、アミノ基およびフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコース、およびフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコース、更には、例えば、L-グルコース又はこれらの糖の第二位、第三位、第四位、第六位などにフッ素を導入した分子も含み、例としては、2-F-6-NBDLG、3-F-2-NBDLG、4-F-2-NBDLG、および6-F-2-NBDLGなどをあげることができる。

【0030】
本発明における標的細胞は、特に限定されず、生体から単離した細胞、生体から単離した組織中に存在する細胞、生体の組織中に存在する細胞、生体から単離後の初代培養細胞、又は株化した細胞など、どのような細胞であってもよい。

【0031】
本発明の方法においては、蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、がん細胞に取り込まれ細胞内で検出される。がん細胞内における本発明のL-グルコース誘導体の検出は、通常用いられる蛍光を検出する方法で行うことができる。例えば、以下のようにして行うことができる。

【0032】
本発明の方法における、がん細胞内に存在する蛍光標識されたL-グルコース誘導体の検出は、あらかじめ標的細胞の蛍光を計測し、次いで標的細胞に蛍光標識したL-グルコース誘導体を一定時間接触させ、しかる後にこれを洗い流し、再度標的細胞の蛍光を計測して、接触前の標的細胞の蛍光強度に対する蛍光強度の増加をもって評価を行うことができる。蛍光強度を画像として認識することにより、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を細胞内に有する細胞をイメージ化してがん細胞又はそのおそれがある細胞の検出が可能となる。また、蛍光プレートリーダーやフローサイトメトリーなどを用いて、多数の細胞の示す蛍光強度の総和、もしくは蛍光強度の分布をもって評価を行ってもよい。

【0033】
蛍光の検出は洗い流しが終了した後、任意の時間後に行うことができる。生体から単離した組織又は細胞に直接L-グルコース誘導体を接触させた場合は、例えば、洗い流し終了直後~20分後の間、好ましくは洗い流し終了直後~10分後の間に検出することができる。標的細胞が組織中の細胞であり、観察対象である細胞周囲の細胞外組織中におけるL-グルコース誘導体の洗い流しに時間がかかる場合は、それが終了した後に検出することができる。接触後、時間を置いた後にコントラストよく検出することができるが、共焦点顕微鏡や多光子顕微鏡など細胞の断層像を取得できる検出装置を用いる場合には、接触時間中においても標的細胞内の蛍光強度もしくは蛍光強度の変化を検出し、接触開始前と比較して評価し及び/又はイメージ化することも可能である。このように本発明によれば、がん細胞を検出するための行程が、本発明の組成物の細胞への接触を開始直後から30分以内、好ましくは15分以内完了する。更に本発明によれば、多くの場合、本発明の組成物の細胞への接触を開始してから単離細胞では数分以内、組織中の細胞でも10分以内にがん細胞を検出することができる。標的細胞が生体内の細胞である場合は、本発明のイメージング剤を生体に直接局所的に接触させた後に洗い流し、蛍光を検出する。あるいは静脈などの血管に投与し、標的細胞付近に到達した後に検出する。血管に投与する場合には特段の洗い流し操作は必要としない。さらには、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、静脈などの血管に投与した場合は、全身イメージングを行うことも可能である。以下、それぞれについて具体的に記載する。

【0034】
有効量の蛍光標識されたL-グルコース誘導体を投与する標的が、生体内の細胞である場合は、例えば用時に標識されたL-グルコース誘導体を注射用生理食塩水などに溶解することで液状試薬を調製し、静脈内注射によって行えばよい。また、検査対象部位が皮膚表面、もしくは口腔や消化管、膀胱、膣など管腔の内表面にある場合には、液状試薬を検査対象部位に直接塗布、滴下あるいは散布し、あるいはゲル状にして例えば数分間など一定時間接触させてもよい。また膀胱に適用する場合にはあらかじめ尿を除去した後、液状試薬を経尿道的に注入することで接触させてもよい。消化管内などにおいて粘液などが効果的な接触の障害となる場合には、通常内視鏡検査でも行われるようにプロナーゼ等による粘液処理および除去を行い、インジゴカルミンや酢酸などを撒布する場合と同様の自体公知の方法で接触させることも可能である。この場合にはイメージングを行う前に検査対象部位に残留している余分な液状試薬を洗い流し、試薬接触前の検査対象部位の蛍光イメージに対する蛍光強度の増加として細胞内への取り込みを評価することができる。ただし、検査対象部位に余分な液状試薬が残留している状態でも、既に述べたように、共焦点効果を有する適切な蛍光顕微観察装置(たとえば共焦点内視鏡)を用いて、観察対象とする細胞の焦点深度にあわせて観察すれば、細胞膜状態が保持された細胞の内部に、標識されたL-グルコース誘導体が取り込まれたか否かを接触時間中において知ることも可能である。イメージングは、蛍光標識されたL-グルコース誘導体の標識に応じた自体公知の方法で行えばよい。本発明によれば、標識されたL-グルコース誘導体をマウスの静脈に投与してから数分後には、標識されたD-グルコース誘導体を用いる場合に比較して、腫瘍細胞と正常細胞を高いコントラストで識別することができる。以上により、イメージングによる評価を行うタイミングは、標識されたL-グルコース誘導体を生体に投与開始直後から40分以内、好ましくは20分以内、更に好ましくは10分以内に行うことができる。イメージングによる評価は、特定の時点で1回限り行ってもよいし、複数の時点で行って観察対象とする細胞間のコントラストの経時的変化によって評価を行うようにしてもよい。

【0035】
また、標的細胞が生体から採取した組織又は細胞の場合は、生検を行う際や、外科的手術の開始時あるいは術中に採取した組織・細胞を検体とし、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を注射用生理食塩水に溶解することで調製した液状試薬に検体を浸漬したり、検体に液状試薬を滴下したり、あるいは液状試薬で潅流した後、検体の細胞外に残留している余分な液状試薬を洗い流してからイメージングを行い、細胞内の標識されたL-グルコース誘導体を検出する。この方法は、検体が生体から取り出したものであるという点において先の方法とは異なり、例えば、取り出した時点で切断面が傷害された組織を一定時間リンガー液中などで回復させる自体公知の方法をはさむ必要があるが、この点を除けば、用いる蛍光標識されたL-グルコース誘導体の種類やイメージングの原理などは先の方法と同じであってよい。また、これらのイメージング工程も、標識されたL-グルコース誘導体を組織又は細胞に接触を開始直後から30分以内、好ましくは15分以内完了し、多くの場合、本発明の組成物の細胞への接触を開始してから単離細胞では数分以内、組織中の細胞でも10分以内にがん細胞を検出することができる。

【0036】
本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体を体内診断に用いる場合は、術中評価や内視鏡等の診断時への適用が可能で、投与法としては、既に述べたように静脈投与などの全身投与法のほか、患部への必要最小量の直接投与が考えられる。具体的には、患部あるいは手術野に直接塗布、滴下あるいは撒布する、あるいは内視鏡等を利用して検査時に撒布にて局所に投与する方法や、ゲル状にして接触させる方法などが考えられる。

【0037】
本発明の方法又はイメージング剤において、蛍光標識に加えて放射性標識を用いる場合は、がん細胞の検出は、蛍光に加えて放射線を検出することにより行うことができ、例えば、ガンマ線を検出するPETを例示することができる。

【0038】
本発明を体内診断に用いて、イメージングにより、がんや前がん病変が疑われる所見を認めた場合、組織生検を実施し、ホルマリン等で固定後、病理検査を実施して、確定診断とすることができる。また、事前のイメージングにより、生検部位の選定の信頼度が高めることができる。さらに、蛍光標識されたがん診断用イメージング剤は、内視鏡やその他の蛍光観察装置などと併用し、術中評価への応用にも用いることができ、標識されたL-グルコース誘導体を、手術摘出範囲を適切に決める助けとして使用することにより、手術時間の短縮による患者負担やリスクの低減、QOLや予後の改善などの効果が期待できる。

【0039】
本発明の特筆すべき事項は、標識されたL-グルコース誘導体の細胞内への取り込みの程度をもとに、腫瘍細胞の発達の程度を知ることができることである。具体的には、標識されたL-グルコース誘導体を活発に取り込む腫瘍細胞は、異常な細胞核を呈する細胞を細胞塊中に多数含む程までに発達した段階の腫瘍塊を構成する細胞、即ち、悪性腫瘍を構成するがん細胞であることが本発明者らによって確認された。従って、標識されたL-グルコース誘導体が細胞内から検出された場合、その細胞は発達した腫瘍細胞塊を構成するがん細胞か又はそのおそれがあると判定することができる。

【0040】
L-グルコース誘導体は、L型であるがゆえに、GLUTのような、グルコースに対する立体選択性を有する膜タンパクが、その基質を正しく立体選択的に通過させる機構を保っているか否かを示す役割をはたす。また、がん細胞のように、グルコースの立体選択的な膜通過機構(その意味するところは、D型およびL型の互いに鏡像異性体の関係にあるグルコースのうちで片方を選択的に通過させる機構である)と、非立体選択的な膜通過機構(その意味するところは、互いに鏡像異性体の関係にあるD型とL型を共に通過させる膜タンパクを介した機構であり、propidium iodideのような膜不透過性マーカーの通過に代表されるような細胞膜の脂質二重層構造の破綻による通過を除外した取り込みである)を並列的に発現する細胞においては、後者の経路の全体の通過量に対する寄与の程度をもって、正常細胞との識別、あるいは同種がん細胞でも悪性度や、微小環境要因による細胞状態の違いの識別を行うことが可能である。

【0041】
本発明のイメージング剤は、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体に加えて、波長が異なる蛍光発色団を持つL-グルコース誘導体をさらに含むこともできる。これにより、異なる波長で検出される、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体と他の蛍光標識されたL-グルコース誘導体を細胞に接触せしめ、時間の経過によるイメージングされた細胞の色調の変化を指標することで、がん細胞であるか否かについてより正確な判定を行うことができる。具体的には、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体と識別可能な蛍光標識されたL-グルコース誘導体を同時に用いることにより、これらのL-グルコース誘導体の細胞内への取り込みの違い、ならびに排出の時間経過の違いに基づいて、個別のがん細胞の状態評価を、両者の誘導体の波長成分の混在割合によって表現される連続的な蛍光色で示すことが可能であるとともに、炎症や物理的損傷による細胞膜損傷に基づく取り込みやマクロファージなどによる非特異的取り込みによるノイズを除外できる。即ち、上記のように蛍光色調の変化に基づき、標的とする細胞が、がん細胞又はそのおそれがある細胞であるか否かを精度良く判定できる。

【0042】
例えば、本発明のイメージング剤は、更に、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体とは波長が異なる蛍光発色団である、赤色の蛍光を発するスルホローダミン(スルホローダミンB、スルホローダミンG、スルホローダミン101など)を結合せしめたL-グルコース誘導体(極大蛍光波長は580nm~630nmあたりである)、例えば、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコース(2-TRLG)又はその誘導体を含むことができる。2-TRLG又はその誘導体とは、2-TRLG又は、2-TRLGを本発明における効果を害しない範囲で本発明の用途に応じて改変したものを意味し、例えば、L-グルコース及び/又はスルホーダミン101に置換基を挿入又は変更した誘導体を意味する。ここにいうL-グルコース又はその誘導体とは、L-グルコースそのものに加え、アミノ基により水酸基が置換されたL-グルコース、アミノ基およびフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコース、スペーサーを介してアミノ基を有するL-グルコースおよびフッ素原子により水酸基が置換されたL-グルコースを含み、更には、例えば、L-グルコースの第二位、第三位、第四位、第六位などにフッ素を導入した分子も考えられ、例としては2-F-6-TRLG、3-F-2-TRLG、4-F-2-TRLG、および6-F-2-TRLGをあげることができる。赤色の蛍光を発する誘導体としては、好ましくは2-TRLG又はその誘導体、更に好ましくは2-TRLGである。

【0043】
2-TRLGは、細胞膜状態が悪化した細胞に取り込まれることが本発明者らにより報告されている(特許文献2)。つまり、2-TRLGはL型誘導体であるためにグルコーストランスポーターとの結合を介した細胞内取り込みがおきない上、かさ高く、脂溶性の高い蛍光基を有するので、2-TRLGが細胞内に侵入する場合には、エンドサイトーシス(Endocytosis)による場合などを除き、細胞膜機構に比較的大きな損傷を受けている場合が考えられる。その損傷の程度が大きいほど、2-TRLGはいったん細胞内に侵入しても、洗い流しにより、より早く細胞外に排出される。よく使われるpropidium iodide (PI)のような細胞死(necrosis)判定用の蛍光試薬は、細胞膜の損傷により細胞内に侵入すると核に不可逆的に結合し、損傷のあったことを知らせるが、損傷の度合いを示すことが難しい。また、蛍光基を付与したデキストランのように、単純に立体的かさ高さのみで細胞膜通過を阻害されている分子とは異なり、2-TRLGは、細胞膜の悪化の程度が完全な細胞膜の破壊を伴う細胞死(necrosis 壊死)とみなせるほど著しくなく、未だ活動性の残っている細胞内に侵入すると、細胞膜内側に吸着し、細胞内により長く留まる性質を示す。従って、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体と2-TRLGを組み合わせて用いることにより、異なる蛍光波長で検出される、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体と2-TRLGを細胞に接触せしめ、時間の経過によるイメージングされた細胞の色調の変化を指標することで、がん細胞又はそのおそれがあるか否かについて本発明のL-グルコース誘導体を単独で用いる場合より正確な判定を行うことができる。

【0044】
本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体、例えば2-NBDLGと、蛍光標識されたL-グルコース誘導体である2-TRLGを例にとって説明すると、後者は発達した腫瘍細胞塊中にあって細胞膜状態の多少なりとも悪化した腫瘍細胞に取り込まれるが、2-NBDLGはこれらの腫瘍細胞に取り込まれることに加えて、発達した腫瘍細胞塊中にあって細胞膜状態の全く悪化していない細胞にも取り込まれる。2-NBDLGがこれら
の腫瘍細胞内へも取り込まれることは、実施例4によっても明らかである。一方で、2-TRLGは、細胞にいったん取り込まれると2-NBDLGよりも排出されにくい性質を有する。従って、例えば、緑色の蛍光を発する2-NBDLGと赤色の蛍光を発する2-TRLGを一定(5:1)の割合で混合した溶液を作成し、適切な(488nm)励起光で照射することにより両者の蛍光強度がおよそ1:1に近くなるように緑と赤の二つの検出器の検出感度を調整した上で、本溶液を細胞に取り込ませ、イメージングを行うと、両者を取り込んだ細胞は、2-NBDLGに由来する緑色の蛍光と2-TRLGに由来する赤色の蛍光を重ね合わせることで黄色の蛍光で可視化される。その後、2-NBDLGが排出されると、より排出されにくい2-TRLGが細胞内に残り、細胞は赤色の蛍光で可視化される。従って、時間の経過に伴う細胞の黄色から赤色の蛍光色調の変化が確認された場合、その細胞は、いったん2-NBDLGと2-TRLGを取り込んだ後に2-NBDLGを排出したことがわかる。なお、本発明者らの先の研究成果に関するWO2010/016587公報によれば、2-TRLGは以下に示す2種類の異性体(オルト体とパラ体)で存在する。

【0045】
【化2】
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【0046】
このように、発達した腫瘍細胞塊を構成する腫瘍細胞には、2-NBDLG及び/又は2-TRLGを取り込むが、下記の実施例で示されるように、同一腫の腫瘍細胞塊中にあって2-TRLGを取り込まず、2-NBDLGを取り込む腫瘍細胞が存在し、その細胞における2-NBDLGの取り込みは特定の輸送経路を阻害する物質で阻害される。つまり、それらの腫瘍細胞の2-NBDLGの取り込みは、WO2010/016587公報で示されているような細胞膜状態の悪化による2-TRLGの非特異的な取り込みとは異なり、特異的機構(ここでいう特異的とは、互いに鏡像異性体の関係にある標識されたグルコース誘導体、具体的には2-NBDLGと2-NBDGが共に通過可能な膜タンパクを介した機構であり、propidium iodideのような膜不透過性マーカーの通過に代表されるような細胞膜の脂質二重層構造の破綻による通過を除外した取り込みという意味である)を介した腫瘍細胞内への取り込みである。従って、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体である2-NBDLGの細胞内への取り込みを検出することにより発達した腫瘍細胞塊を構成する腫瘍細胞を検出でき、即ちがん細胞の検出が可能となる。

【0047】
2-TRLGは、細胞膜状態の悪化した細胞に取り込まれる。つまり、上記の発達した腫瘍細胞塊中にあって細胞膜状態の多少なりとも悪化した腫瘍細胞ばかりでなく、炎症や物理的影響により損傷した細胞(正常細胞を含む)にも取り込まれる。従って、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体に加えて、例えば2-TRLGを用いることにより、標的細胞内での本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体の検出が、標的細胞の細胞膜損傷の影響であるか否かの判断をすることができ、これによりがん細胞を精度良く検出することができる。

【0048】
本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、さらに放射性標識することもできる。具体例としては、6-[18F]-2-NBDLGや4-[18F]-2-NBDLGを挙げることができる。蛍光標識に加えて放射性標識されたL-グルコース誘導体を用いることにより、本発明のイメージング剤を生体に投与した後に、PETなどを用いた全身イメージングによりがん細胞の存在部位を確認した上で、蛍光を検出することによりがん細胞を細胞レベルで検出できる。

【0049】
本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、さらに、蛍光標識されたD-グルコース誘導体とともに用いることもできる。腫瘍細胞は正常細胞よりD-グルコースを細胞内に多く取り込む性質を有する(例えば、非特許文献16)。従って、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体を用いたがん細胞又はそのおそれのある細胞の検出に加え、D-グルコースの取り込みの程度を検出することにより、より精度の高い判定が可能となる。

【0050】
本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体を用いた検出と蛍光標識されたD-グルコース誘導体の取り込みを用いた判別を組み合わせる場合に用いられる蛍光標識されたD-グルコース誘導体は、細胞に取り込まれるD-グルコース誘導体であれば特に限定されず、例えば、緑色又は青色の蛍光発色団を分子内に有するD-グルコース誘導体であり、具体的には、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基及びその誘導体を分子内に有するD-グルコース誘導体である。このようなD-グルコース誘導体としては、好ましくは、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-D-グルコース(2-NBDG)をあげることができる。

【0051】
以上の説明から明らかなように、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、がん細胞を検出するために有用であるとともに、例えばがん細胞を可視化するためのイメージング剤の有効成分としても有用である。蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、これを溶解するための溶媒(注射用生理食塩水など)に溶解されて溶液の形態で提供されてもよいし、これを溶解するための溶媒と組み合わされて用時に溶解して溶液を調製するためのキットの形態で提供されてもよい。溶液中の標識されたL-グルコース誘導体の濃度は、例えば1nM~100mMの範囲で調整すればよい。なお、がん細胞の検出のために本発明の標識されたL-グルコース誘導体を用いる方法に自体公知の方法を組み合わせて用い、さらなる判定精度の向上を図ってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1:化合物の合成
(1)蛍光標識L-グルコース誘導体の合成
(1-1)2-NBDLGの合成
2-NBDLGは以下のようにしてL-グルコースより合成した。
【実施例】
【0054】
【化3】
JP0006019500B2_000004t.gif
【実施例】
【0055】
【化4】
JP0006019500B2_000005t.gif
3,4,6-Tri-O-acetyl-L-glucal
L-グルコース (20 g) をピリジン (262 ml) に溶解し、0℃に冷却した。無水酢酸 (171 ml) を滴下し、室温で終夜攪拌した。減圧濃縮後にトルエンで共沸する操作を3回繰り返した。残渣に酢酸エチルを加え、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾去し、減圧濃縮により有機溶媒を除いた。得られた残渣をアルゴン雰囲気下、脱水ジクロロメタン (115 ml) に溶解し、0℃に冷却した。30%臭化水素酢酸溶液 (61 ml) を滴下した。滴下終了後、室温に昇温し、3時間攪拌した。3時間後、減圧濃縮により有機溶媒を除いた。残渣にクロロホルム (800 ml) を加え、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾去した。減圧濃縮により有機溶媒を除いた。得られたオイル状化合物に酢酸 (72 ml) と水 (72 ml) を加え、0℃に冷却した。亜鉛 (71 g) を少しずつ加え、ヘキサクロロ白金(IV)酸 (135 mg) を加えた。さらに酢酸 (72 ml) と水 (72 ml) を加えた。1.5時間後、クロロホルムを加え、セライト濾過した。濾液に飽和重曹水を加え、有機層を飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、減圧濃縮により有機溶媒を除いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的の画分を集め、減圧濃縮によりオイル状化合物を得た。
収量:21.0 g
収率:70% (3工程)
【実施例】
【0056】
【化5】
JP0006019500B2_000006t.gif
1,3,4,6-Tetra-O-acetyl-2-deoxy-2-(2',2',2'-trichloroethoxysulfonylamino)-L-glucopyranose
3,4,6-Tri-O-acetyl-L-glucal (20 g) と2,2,2-Trichloroethoxysulfonylamine (18.5 g) と酸化マグネシウム (6.8 g) に対してアルゴン雰囲気下、クロロベンゼン (73 ml) を加え、さらに酢酸ロジウム (650 mg) を加えた。-20℃に冷却し、ヨードソベンゼンジアセテート (30.8 g) を加えた。2時間かけて室温に戻し、終夜攪拌した。クロロホルムで希釈し、セライトで濾過した。濾液を減圧濃縮して得られた褐色オイル状化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的の画分を集め、白色固体を得た。
収量:26.0 g
収率:63 %
【実施例】
【0057】
【化6】
JP0006019500B2_000007t.gif
1,3,4,6-Tetra-O-acetyl-2-acetamido-2-deoxy-L-glucopyranose
1,3,4,6-Tetra-O-acetyl-2-deoxy-2-(2',2',2'-trichloroethoxysulfonylamino)-L-glucopyranose (22.9 g) をアルゴン雰囲気下、酢酸 (130 ml) と無水酢酸 (130 ml) に溶解した。室温で亜鉛銅カップル (40 g) を加え、2時間攪拌した。減圧濃縮し、得られた残渣にクロロホルムを加え、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾去した。減圧濃縮により得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的の画分を集め、白色固体を得た。
収量:12.1 g
収率:76 %
【実施例】
【0058】
【化7】
JP0006019500B2_000008t.gif
L-glucosamine hydrochoride
1,3,4,6-Tetra-O-acetyl-2-acetamido-2-deoxy-L-glucopyranose (3.5 g) を6M-HCLに懸濁させ、70℃に加熱した。6時間後に減圧濃縮し、残渣に水を加えて共沸した。残渣を水から凍結乾燥を行い、白色固体を得た。
収量:1.95 g
収率:100 %
【実施例】
【0059】
【化8】
JP0006019500B2_000009t.gif
2-[N-(7-Nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino]-2-deoxy-L-glucose (2-NBDLG)
褐色フラスコにNBD-F (227 mg) を入れ、メタノール (10 ml) に溶解した。アルゴン雰囲気下、L-glucosamine hydrochoride (100 mg) と炭酸水素ナトリウム (65.7 mg) を水 (2.0 ml) に溶解したものを加え、37℃で攪拌した。2時間後に減圧濃縮により有機溶媒を除き、生じた沈殿 (NBD-F由来の不要物) を水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:125 mg
収率:79 %
1H-NMR (400 MHz、重水、ppm):
δ8.52 (d, 1H, J=9.1 Hz, H6'), δ6.56 and δ6.54 (d x 2, 0.5H x 2, J=9.1 Hz and J=9.1 Hz, H5'), δ5.38 (d, 0.5H, J=2.8 Hz, H-1α), δ4.89 (d, 0.5H, J=8.1 Hz, H-1β), δ3.50-δ4.02 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6).
ESI-MS:calcd for C12H15N4O8 [M+H]+ 343.1, found 343.1
【実施例】
【0060】
(1-2)2-DBDLGの合成
2-DBDLGは、非特許文献5に記載の方法に従って以下のようにして合成した。
【実施例】
【0061】
【化9】
JP0006019500B2_000010t.gif
2-Deoxy-2-[N-7-(N',N'-dimethylaminosulfonyl)benz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino]-L-glucose (2-DBDLG)
褐色フラスコにDBD-F (100 mg) を入れ、メタノール (2.00 ml) およびTHF (2.00 ml) の混合溶媒に溶解した。アルゴン雰囲気下、L-GlcNH2.HCl (49.8 mg) を0.3 M-NaHCO3水 (1.08 ml) に溶解したものを加え、さらに水 (1.00 ml) で洗い込んだ後に室温で攪拌した。48時間後に減圧濃縮により有機溶媒を除き、生じた沈殿 (DBD-F由来の不要物) を水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:35.8 mg
収率:38 %
1H-NMR (400 MHz、重水、ppm):
δ7.82 and δ7.84 (d x 2, 0.5H x 2, J=8.3 Hz and 8.3 Hz, H-6' of DBD), δ6.42 and δ6.46 (d x 2, 0.5H x 2, J=8.3 Hz and 8.3 Hz, H-5' of DBD), δ5.31 (br.d, 0.5H, J=2.7 Hz, H-1α), δ4.79 (br.d, 0.5H, J=8.3 Hz, H-1β), δ3.43-δ3.90 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6), δ2.65 (s, 6H, Me2NSO2-).
ESI-MS:calcd for C14H21N4O8S [M+H]+ 405.1, found 405.1
蛍光極大波長:570 nm
【実施例】
【0062】
(1-3)2,6-Dideoxy-6-[F]fluoro-2-[N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino]-L-glucose(6-F-2-NBDLG)の合成
構造式を以下に示す。
【実施例】
【0063】
【化10】
JP0006019500B2_000011t.gif
【実施例】
【0064】
他の本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体である、6-F-2-NBDLGを以下のようにして合成した(合成方法1)。
【実施例】
【0065】
【化11】
JP0006019500B2_000012t.gif
【実施例】
【0066】
【化12】
JP0006019500B2_000013t.gif
2-Benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-L-glucopyranose
L-glucosamine hydrochoride (1.65 g) を水 (25 ml) とアセトン (25 ml) に溶解した。Z-ONSu (2.1 g) 、アセトン (25 ml) 、トリエチルアミン (2.8 ml)を順次加えて室温で攪拌した。4時間後に減圧濃縮により有機溶媒および水を除いた。生じた沈殿 (目的物) を濾取し、水洗後に減圧下で乾燥することにより白色固体を得た。
収量:1.75 g
収率:73 %
【実施例】
【0067】
【化13】
JP0006019500B2_000014t.gif
2-Benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-6-O-triphenylmethyl-L-glucopyranose
2-benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-L-glucopyranose (1.35 g) をアルゴン雰囲気下、ピリジン (80 ml) に溶解し、塩化トリチル(5.92 g) を加え70℃に加温して攪拌した。2時間後に放冷し、減圧濃縮により有機溶媒を除き、トルエン共沸した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的の画分を集め、減圧濃縮により白色固体を得た。
収量:2.2 g
収率:92 %
【実施例】
【0068】
【化14】
JP0006019500B2_000015t.gif
Benzyl 3,4-di-O-benzyl-2-benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-6-O-triphenylmethyl-L-glucopyranoside
2-benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-6-O-triphenylmethyl-L-glucopyranose (2.1 g) をアルゴン雰囲気下、ジメチルホルムアミド (36 ml) に溶解し、臭化ベンジル (713 μl) を加えて攪拌した。反応混合物を0℃に冷却し、水素化ナトリウム (60%含量 433 mg) を加えて攪拌した。1時間後に水素化ナトリウム (60%含量 43 mg) を追加した。2時間後に氷を加えた後に酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムを濾去した。減圧濃縮により得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的の画分を集め、減圧濃縮によりオイル状化合物を得た。
収量:2.0 g
収率:64 %
【実施例】
【0069】
【化15】
JP0006019500B2_000016t.gif
Benzyl 3,4-di-O-benzyl-2-benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-L-glucopyranoside
Benzyl 3,4-di-O-benzyl-2-benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-6-O-triphenylmethyl-L-glucopyranoside (2.0 g) をメタノール (40 ml) とクロロホルム (4 ml) に溶解した。4.4 M-塩化水素-ジオキサン溶液(8 ml)を加えて攪拌した。2時間後に減圧濃縮により得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的の画分を集め減圧濃縮により白色固体を得た。
収量:650 mg
収率:46 %
【実施例】
【0070】
【化16】
JP0006019500B2_000017t.gif
Benzyl 3,4-di-O-benzyl-2-benzyloxycarbonylamino-2,6-dideoxy-6-fluoro-L-glucopyranoside
Benzyl 3,4-di-O-benzyl-2-benzyloxycarbonylamino-2-deoxy-L-glucopyranoside (95 mg) をアルゴン雰囲気下、ジクロロメタン (1.6 ml) に溶解して攪拌し、-20℃に冷却した。三フッ化N,N-ジエチルアミノ硫黄 (107μl) を加えて攪拌し、室温に昇温した。2時間後にメタノールを加え、飽和重曹水と酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムを濾去した。減圧濃縮により得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的の画分を集め、減圧濃縮により白色固体を得た。
収量:63 mg
収率:66 %
【実施例】
【0071】
【化17】
JP0006019500B2_000018t.gif
2-Amino-2,6-dideoxy-6-fluoro-L-glucopyranose hydrochloride
Benzyl 3,4-di-O-benzyl-2-benzyloxycarbonylamino-2,6-dideoxy-6-fluoro-L-glucopyranoside (62 mg) をクロロホルム/メタノール/1M-HCl=3/6/1 (5 ml)に溶解し、攪拌した。パラジウム-黒 (40 mg) を加えて攪拌し、水素で置換した。8日後パラジウム-黒を濾去し、減圧濃縮によりオイル状化合物を得た。
収量:23.1 mg
収率:100 %
【実施例】
【0072】
【化18】
JP0006019500B2_000019t.gif
2,6-Dideoxy-6-fluoro-2-[N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino]-L-glucopyranose (6-F-2-NBDLG)
2-Amino-2,6-dideoxy-6-fluoro-L-glucopyranose hydrochloride (23.1 mg) をジメチルホルムアミド/水=10/1 (2 ml) に溶解し、攪拌した。NBD-F (23.2 mg) を加え、さらにトリエチルアミン (32.4μl) を加えて37℃に加温した。2時間後に酢酸を入れて中和し、水を入れてメンブランフィルターを通した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥し、赤色固体を得た。
収量:11.5 mg
収率:32 %
1H-NMR (400 MHz、重水、ppm):
δ8.43 (d, 1H, J=8.9 Hz, H6'), δ6.49 and δ6.45 (d x 2, 0.5H x 2, J=9.2 Hz and J=9.2 Hz, H5'), δ5.33 (d, 0.5H, J=2.3 Hz, H-1α), δ4.89 (d, 0.5H, J=7.8 Hz, H-1β), δ4.48-δ4.63 (m,1H, H-2), δ3.90-δ4.00 (m, 1H, H-3), δ3.52-δ3.71 (m, 3H, H-4, H-5, H-6).
ESI-MS:calcd for C12H14FN4O7 [M+H]+ 345.1, found 345.0
励起極大波長:472 nm
蛍光極大波長:538 nm
【実施例】
【0073】
6-F-2-NBDLGはまた以下のようにしても合成できる(合成方法2)。
【実施例】
【0074】
【化19】
JP0006019500B2_000020t.gif
ここでKFの代わりに、K18Fを用いて、他の本発明の蛍光及び放射性標識L-グルコース誘導体である、6-18F-2-NBDLGを合成することができる。
【実施例】
【0075】
参考例1:比較化合物の合成
(1)蛍光標識D-グルコース誘導体の合成
(1-1)2-NBDGの合成
2-NBDGは非特許文献5に記載の方法に従って合成した。
【実施例】
【0076】
(1-2)蛍光標識L-マンノースの合成
本発明では蛍光基を結合する糖の骨格として、自然界に多量に存在する天然型の6炭糖であるD-グルコースの鏡像異性体であって、自然界にみられない非天然型であるL-グルコースを用いている。一方、同様に自然界に多量に存在する6炭糖であるD-マンノースの鏡像異性体であって、非天然型であるL-マンノースを骨格とする蛍光標識L-マンノース誘導体として、発明者らは、2-Deoxy-2-[N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl) amino]-L-mannose (2-NBDLM)を新規に合成した。
【実施例】
【0077】
【化20】
JP0006019500B2_000021t.gif
【実施例】
【0078】
【化21】
JP0006019500B2_000022t.gif
Benzyl 4,6-O-benzylidene-α-L-glucopyranoside
L-グルコース(6 g)をベンジルアルコール(173 ml)にサスペンドした。室温下、クロロトリメチルシラン(42.3 ml)を滴下し、60℃で攪拌した。5時間後、反応溶液にエーテル、水を加え抽出した。得られた水層をエーテルで洗浄し、水層を凍結乾燥した。得られた固体をジメチルホルムアミド(150 ml)に溶解した。アルゴン雰囲気下、p-トルエンスルホン酸一水和物(633 mg)、ベンズアルデヒド ジメチルアセタール(7.5 ml)を順次加えて70℃で攪拌した。3時間攪拌後、ベンズアルデヒド ジメチルアセタール(2.5 ml)を追加した。さらに6時間攪拌後、室温に戻して終夜攪拌した。終夜攪拌後、反応溶液に酢酸エチルと飽和重曹水を加え、抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾去した後に減圧濃縮した。得られた固体をエタノールから再結晶した。
収量:2.50 g
収率:21% (2工程)
【実施例】
【0079】
【化22】
JP0006019500B2_000023t.gif
Benzyl 2-azido-2-deoxy-4,6-O-benzylidene-α-L-mannopyranoside
ピリジン(449 μl)をジクロロメタン(150 ml)に溶解した。アルゴン雰囲気下、-30℃でトリフルオロメタンスルホン酸無水物 (257 μl)を滴下した。10分後、Benzyl 4,6-O-benzylidene-α-L-glucopyranoside(500 mg)を加え、-30℃で攪拌した。2時間後、反応溶液にクロロホルム、飽和食塩水を加え、抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾去後に減圧濃縮した。得られたオイル状化合物をジメチルホルムアミド(10 ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、アジ化ナトリウム(272 mg)を加えて50℃で攪拌した。3時間後、アジ化ナトリウム(635 mg)を追加し、室温攪拌した。さらに46時間後、アジ化ナトリウム(906 mg)を追加し、室温攪拌した。20時間後、反応溶液にエーテル、水を加えて抽出した。得られた有機層を水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾去後に減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物を得た。
収量:172 mg
収率:32%
【実施例】
【0080】
【化23】
JP0006019500B2_000024t.gif
2-Deoxy-2-[N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino]-L-mannose (2-NBDLM)
Benzyl 2-azido-2-deoxy-4,6-O-benzylidene-α-L-mannopyranoside(172 mg)をメタノール(5 ml)、2M-HCl水(449 μl)に溶解した。アルゴン雰囲気下、10% Pd(OH)2/C(43 mg)を加え、水素を添加し、攪拌した。20時間後、10% Pd(OH)2/Cを濾去し、減圧濃縮した。得られたオイル状化合物を水で溶解後、エーテルで洗浄し、水層を減圧濃縮した。得られたオイル状化合物をジメチルホルムアミド(2 ml)、水(387 μl)に溶解した。室温下、NBD-F(82 mg)、トリエチルアミン(124 μl)を順に加えて攪拌した。1.5時間後、酢酸(80 μl)でクエンチし、HPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:37 mg
収率:24%
1H-NMR (400 MHz、重水、ppm):
δ8.44 (d, 1H, J=9.1 Hz, H6'), δ6.55 and δ6.51 (d x 2, 0.5H x 2, J=9.1 Hz and J=9.1 Hz, H5'), δ5.24 and δ5.09 (0.5H x 2, H-1), δ3.35-δ4.14 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6).
ESI-MS:calcd for C12H15N4O8 [M+H]+ 343.1, found 343.0
励起極大波長:472 nm
蛍光極大波長:539 nm
【実施例】
【0081】
実施例2:腫瘍細胞(C6グリオーマ)を移植したマウスを用いた検討
(実験方法)
(1)移植用ラットグリオーマ細胞(C6)の調製
常法に従い細胞数が2 x 107 cells/mLになるようにC6細胞を調製した。
(1-1)C6細胞の培養
C6細胞は10 cmシャーレに蒔き、CO2インキュベーター中に静置し、37℃にて培養した。2日に1回培養液の交換を行った。
(1-2)C6細胞の培養に用いた培養液の組成
1 g/Lグルコース含有Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(Nacalai No. 08456-65)に、Fetal Bovine Serum(Equitech-Bio SFBM)を終濃度10 %となるように、またペニシリン-ストレプトマイシン(Nacalai No. 26253-84)を終濃度1 %となるよう添加したものを用いた。
【実施例】
【0082】
(2)腫瘍モデルマウスの作製
5~6週齢の胸腺欠損ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)にイソフルレン麻酔下において、2 x 107 cells/mLに調製した細胞懸濁液50 μLを右後肢付け根付近の皮下に移植した。移植した腫瘍細胞がおよそ200~300 mm3程度に成長するまで観察し、生体蛍光イメージングの撮像に使用した。
【実施例】
【0083】
(3)C6腫瘍モデルマウスを用いた生体蛍光イメージング
C6腫瘍モデルマウスをイソフルレン麻酔下で、生体蛍光イメージング装置IVIS(登録商標) Kinetics(Caliper Life sciences)に静置しマウス皮膚の自家蛍光を測定し、その直後に、生理的食塩水に溶かした2-NBDLG又は2-NBDG 400 nmol(100 μL)を尾静脈から30秒かけて投与し、投与開始1分後から再び蛍光イメージングの測定を開始した。生体蛍光イメージングは、励起波長465 nm、GFPフィルター(透過蛍光波長515-575 nm)を用いて測定を行った。測定は45分間行い、最初の20分間は1分ごとに、20~45分までは5分ごとに撮像を行い、総計25枚の画像を得た。2-NBDLG又は2-NBDGを投与した後に撮像した25枚の画像からそれぞれの自家蛍光の画像を引き算することによって、関心領域における2-NBDLGおよび2-NBDGの集積値(蛍光値)を求めた。
(3-1)2-NBDLGおよび2-NBDG溶液の調製
実験直前に、0.5 mg 2-NBDLG又は2-NBDGのバイアルを生理的食塩水400 μLに溶解することで、最終濃度 400 nmol/100 μLの溶液を調製した。
【実施例】
【0084】
(実験結果)
図1は、右後肢付け根部に腫瘍細胞(C6グリオーマ)を移植したヌードマウスに、 2-NBDLGを投与後、1分おきに取得した蛍光画像である。数字は投与後の時間を示す。2-NBDLGは、矢印で表した部分で400nmol/100 μLの濃度にて、尾静脈より30秒間かけて投与した。2-NBDG(図2)を投与した場合と比較して、2-NBDLGは腫瘍移植部に強い集積を認め、正常組織にはほとんど取り込まれていないため、短時間で優れたコントラストが得られる。ここでは、絶食させていないマウスを使用している。図2は、2-NBDLG投与と同一条件で、2-NBDGを投与後1分おきに取得した蛍光画像である。2-NBDG(黄色で表示)の強い集積が背中や背骨の間の脂肪組織、筋肉などに認められ、腫瘍移植部とのコントラストに難がある様子がわかる。
また、関心領域として設定した右後肢付け根付近の腫瘍細胞の移植部分(Tumor+Glc)と首の近くの背側の脂肪細胞が豊富な部分(BG+Glc)における2-NBDLGと2-NBDGのそれぞれの集積値の経時的変化を図3に示す。図2から明らかなように、2-NBDGを投与した場合、投与後ただちに首の近くの背側の脂肪細胞が豊富な部分などに集積が認められた。投与から5分後以降あたりからは腫瘍細胞を移植した部分への集積が認められたが、首の近くの背側の脂肪細胞が豊富な部分との間のコントラストは十分ではなかった。これに対し、2-NBDLGを投与した場合、図1から明らかなように、投与から5分後以降あたりからは腫瘍細胞を移植した部分への特異的な集積が認められ、首の近くの背側の脂肪細胞が豊富な部分との間で高いコントラストが得られた。この結果は図3に示す結果からも支持された。即ち、2-NBDG投与例では正常組織(赤色四角、BG)における蛍光値が腫瘍移植部(青色菱形、Tumor)より大きいのに対して、2-NBDLG投与例では腫瘍移植部 (青色菱形、Tumor)の方が正常組織(BG)より一貫して明るいことがわかる。全6例で同様の結果が得られた。以上の結果から、腫瘍細胞であるか否かの判定を行う際における2-NBDLGの有効性が明らかになった。
【実施例】
【0085】
実施例3:マウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊の2-NBDLGを用いたイメージング
(実験方法)
(1)マウスインスリノーマ細胞(MIN6)の調製
MIN6細胞を10 x 104 cells/mLの割合で懸濁させた培養液を、ピペッティングにより分散し、ガラスカバースリップ上に滴下した後、5%CO2インキュベーター中で20分間静置することでガラス面に付着させ、培養液を 3 mL加えて培養した。培養液は2日に一回半量を交換した。
(1-1)MIN6細胞の培養
MIN6細胞(大阪大学の宮崎純一教授より供与を受けて6-9回継代した細胞)を10 cmシャーレに蒔き、CO2インキュベーター中に静置し、37℃にて培養した。培養液は2日に一回半量を交換した。
(1-2)MIN6細胞の培養に用いた培養液の組成
高グルコース含有Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM-HG)(SIGMA #D5648) 13.4 g, NaHCO3(Wako, No.191-01305) 3.4 g, 2-Mercaptoethanol(Wako, No.135-14352) 5 μLを1 Lの超純水(Mili Q)に溶解し、外気と平衡化させた。次に1NのHClを用いて、37℃のCO2インキュベーター中でpH 7.3 - 7.35となるようpHを調整し、吸引ろ過により滅菌した。使用直前にHyclone Fetal Bovine Serum(Cat# SH30070.03)を終濃度10 %となるように、またペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco #15140)を終濃度0.5 %となるよう添加した。
(1-3)MIN6細胞を10 x 104 cells/mLの割合で懸濁させた培養液
MIN6細胞を、細胞数が10 x 104 cells/mLになるよう培養液を用いて調整した。
【実施例】
【0086】
(2)2-NBDLG溶液の調製
0.5 mg 2-NBDLGバイアル一本全量を画像取得用HEPES溶液14.6 mLに溶解することで、終濃度 100 μMの2-NBDLG溶液とした。
(2-1)画像取得用HEPES溶液
NaCl 131.8 mM, KCl 4.75 mM, KH2PO4 1.19 mM MgCl2 1.2 mM, CaCl2 1 mM, NaHCO3 5.0 mM, 2.8 mM D-Glucose, HEPES 10 mM (1M NaOHにてpH 7.35に調整)。なおgap junction/hemichannelを経由する蛍光標識グルコースの出入りを阻害する目的で0.1 mM Carbenoxolone(SIGMA #C4790)を加えた。なお本画像取得用HEPES溶液は、2-NBDLG溶液を作成するための溶液として、また2-NBDLG/2-TRLG溶液を作成するための溶液として使用した。
【実施例】
【0087】
(3)MIN6細胞へのDAPI溶液の投与
MIN6細胞を付着させ10-13日間培養したガラスカバースリップを、35 mmディッシュに満たしたD-グルコース5.6 mMを含有するDAPI溶液中に移し、37℃で加温しながら45分から1時間静置して細胞にDAPIを取り込ませた。別実験で、共焦点顕微鏡上で継時的に観察しながらDAPIを投与する実験を行い、実験時間内にDAPI投与および405 nmのレーザー光照射による細胞の形態変化は認められないことを確認した。
(3-1)DAPI溶液の調製
4',6-Diamidino-2-phenylindole DAPI(No. 049-18801, Wako Pure Chemical Industries, Osaka)を100 mg/mL の割合でDMSOを10 %含有する水溶液に溶かしたものを冷蔵保存しておき、使用時はDAPI調整用として5.6 mMのD-Glucoseを含有するHEPES溶液にて100倍に希釈して用いた。
【実施例】
【0088】
(4)MIN6細胞を培養したガラスカバースリップの蛍光計測用灌流チャンバー内への金属ガイドを用いた固定法
レーザースキャン共焦点顕微鏡(ライカ社TCS SP5)上のユニバーサルステージ(Leica 11600234)上にセットされた灌流チャンバー内の画像取得用HEPES溶液中に、MIN6細胞を培養したガラスカバースリップを移し、チャンバー底部のガラス面上に軽く密着させた。静置後、カバースリップの両側を左右からカバースリップの長軸に平行に2枚の長方形の金属ガイド(長さ10 mm、幅2 mm、厚み0.7 mm、銀製)を用いて押さえ、慎重に押し当てることで、流れの中でもカバースリップが動かないようにした。またこの2枚の金属ガイドに挟まれた空間内では、灌流液が層流となってスムーズに流れ、すみやかな液交換が可能となるという優れた効果がある。
(4-1)レーザースキャン共焦点顕微鏡ステージ上の蛍光測定用灌流チャンバー
底部に対物レンズ用の丸穴(直径18 mm)のあいたアルミ製加温制御プラットフォーム(PH1、Warner Instruments, USA、温度制御装置TC-324により37℃に加温, Warner Instruments)上に、シリコングリース(HIVAC-G, Shin-Etsu Silicone, Tokyo)を用いて、カバーガラス(幅24 mm x 長さ50 mm、厚さ No. 1, Warner Instruments No. CS-24/50)をプラットフォーム中央の丸穴以外の部分に密着させた。次いでカバーガラス上に、中央に流線型に穴開け加工(ガラス底面に接する側は幅10 mm x 長さ35 mm、曲率半径33 mm、ガラス面に接しない側すなわち上方がわずかに広くなるように加工した)を施した厚さ1 mmのシリコン板(幅20 mm x 長さ50 mm)を載せ、シリコングリースを用いずにカバーガラスと密着させた。
シリコン板上の流線型穴の上流隅に、先端をフラットにした太さ20ゲージのカテラン針をセットして、インレットとして用いた。
灌流液の排出用ステンレス管(アウトレット)は、非特許文献16に記載の方法に準じて先端部を平らにつぶした上で斜めにカットしたものを用い(加工が難しければ、Warner社のRC-24Nなどのプラスチック製灌流チャンバーに付属するステンレスアウトレットを直線に伸ばしたものを流用してもよい)、真空吸引時、空気と溶液の両者を同時に吸引することで安定させる方式とした。
【実施例】
【0089】
(5)灌流チャンバーへの灌流液供給システム
(a)灌流液の加温と灌流チャンバーへの供給
灌流液供給システムは、コントロール溶液用の60 mL注射筒一本と、薬剤供給用の10 mL注射筒5本を備え、電磁バルブで随時切り替えて灌流することができる。本発明に関わる実験では、60 mL注射筒を用いて2.8 mMグルコース含有画像取得用HEPES溶液を、5系統ある10 mL注射筒のうち一本を用いて2-NBDLGと2-TRLGとの混合溶液を投与した。以下に述べるように、両者は灌流チャンバー内でバブルを生じないよう、あらかじめ加温された上、灌流チャンバーに導かれる前に一本のチューブに合同し、流量調節器で速度調節されてから、再度インラインヒーターにて加温し共焦点顕微鏡上の灌流チャンバーに供給された。
画像取得用HEPES溶液は、アルミ製シリンジヒーター(Model SW-61, 温度制御ユニットはNo. TC-324B, Warner Instruments)中で暖められた60 mL注射筒から、溶液供給ラインのチューブ内をフラッシュするための3方活栓に接続され、続いて細くガス透過性も低いソフトチューブ(Pharmedチューブ, AY242409, Saint-Gobain Performance Plastics, Ohio)を介して超小型電磁バルブ(EXAK-3, 3 way clean valve, Takasago Electric, Nagoya)のnormally open側に接続した。電磁バルブの開閉はパルス発生装置(Master 8, AMPI社, Israel)で制御した。画像取得用HEPES溶液についてはペリスタルティックポンプ(MCPポンプ12 rollers、Ismatec)を用いてメジウムビンから60 mL注射筒内に持続的に供給し、実験中に注射筒内の溶液上面の高さが変化しないよう、溶液落下速度と等しくなるようにポンプの溶液供給スピードを精密に調整した。ペリスタルティックポンプの溶液供給速度はデジタル表示されるため、もしも灌流チャンバーへの溶液供給速度に実験中に変化があれば溶液面の高さが変わることで直ちにわかる。このように本溶液は常時更新されるため、液温維持のためシリンジヒーターSW-61は38.5℃に設定した。
一方、2-NBDLGと2-TRLG混合溶液は、シリンジヒーター(Model SW-6, 温度制御ユニットはNo. TC-324, Warner Instruments)にセットされ37.5℃に加温された10 mL注射筒から供給した。本注射筒は三方活栓を介して、画像取得用HEPES溶液とは別個の電磁バルブのnormally closed側に接続されており、パルス発生装置の制御によりコントロール溶液と随時切り替えて供給できる。シリンジヒーターSW-6には6本の10 mL注射筒がセットでき、1本には蒸留水を入れて加温ブロックの温度モニター用プローブを挿入した。
コントロール溶液である画像取得用HEPES溶液と、2-NBDLGと2-TRLGの混合溶液とは、電磁バルブのアウトレットを出た後、6ポートの小型マニフォールド(MPP-6, Warner Instruments)により1本に集められた。MPP-6マニフォールドのアウトレットは短いPharmedチューブに接続し、このチューブをスクリューにより開度を増減できる流量調節器にはさみこみ、開度の調整により流量を1.2 ± 0.2 mL/分に調整した。本Pharmedチューブは、最短距離でインラインヒーター(Multi-Line In-Line Solution Heater SHM-8、温度制御ユニットはTC-324B、Warner Instruments)に接続した。これは灌流チャンバーに導入する溶液温度を、導入直前に加温するためである。SHM-8インラインヒーターの温度は灌流速度にあわせて、チャンバー中での灌流液の実測温度が、カバースリップの存在する領域で36-37℃になるように調整した。加温された溶液は短いタイゴンチューブ(R-3603, inner diameter 1/32 inch)を介して最短距離で灌流チャンバー上流に配置されたステンレスパイプ(インレット)に接続し、灌流チャンバー内に供給した。
注射筒からの溶液供給は静水圧を用いて供給圧力を決めるため、高さの違いが灌流速度の違いとなってチャンバー内の水面高の変化をもたらさないように、2-NBDLG溶液については投与時間が短いことから一回の実験では実験中に液供給は行わず、各実験が終了するごとに液の上面が蛍光グルコースを含有しないHEPES溶液とほぼ同じ高さになるように溶液を追加した。また注射筒に接続されたチューブの長さと太さの調整により、コントロール溶液である画像取得用HEPES溶液の灌流速度と同じ速度で排出されるように慎重に調整することで、液交換による液面の変動を避けることができる。また実験終了後および開始前にはチューブ内部を十分フラッシュしてスムーズな流れを確保した。
【実施例】
【0090】
(b)灌流チャンバー内の層流の確保ならびに灌流液の除去
灌流チャンバー上からの灌流液の滑らかで速やかな除去は再現性の高い結果を得る上で最も重要なポイントである。灌流液の排出用のステンレス管(アウトレット)をタイゴンチューブで二つの大型ガラストラップに順次導き、真空ポンプ(DAP-15, ULVAC KIKO, Inc)で緩やかに吸引した。吸引圧は二つの大型ガラストラップの中間で吸引ラインから枝分かれさせたラインに設置した圧力計でモニターし、三方活栓の開閉度の制御により35kPaとなるように調整した。
灌流チャンバー内の層流の確保は、まず青色色素(Pontamine sky blue, 1 %以下の濃度に希釈して用いる)溶液をインレット付近に滴下して、流れの左右対称性、均一性と再現性を確保した。
チャンバー内灌流溶液中の各部の温度の確認は極細サーミスタープローブ(Physitemp社IT-23)を用いた(非特許文献16)。またアウトレット先端部には実験中にHEPES溶液由来の塩が付着することで吸引圧が変化するのを防ぐため、チャンバー上に設置されたオペレーション顕微鏡(POM-50II, KONAN MEDICAL, 西宮)で実験ごとに確認し、クリーニングを行った。本顕微鏡は、その他チャンバーへのカバースリップの設置時や、流れの状況、チャンバーの異常の確認などに有用である。
【実施例】
【0091】
(6)画像取得条件
レーザースキャン共焦点顕微鏡(Leica製TCS-SP5システム、顕微鏡本体はDMI6000 CS trino電動倒立顕微鏡)をコンベンショナルモードで使用した。使用レーザーは、核染色に使用したDAPIは405 nmダイオードレーザーを用いて音響光学偏光素子(Acoustic Optical Tunable Filter, AOTF) 20 %で励起、2-NBDLGおよび2-TRLGは488 nmを用いてArgon laser main power30-60%、AOTF 20-60%で励起した。スキャンスピードは200Hzもしくは400Hzを用いた。
蛍光検出は、DAPIによる青色蛍光の検出用にphotomultiplier検出器(PMT)1を415-500 nmの波長検出範囲(検出感度750 V)で、2-NBDLGによる緑色蛍光の検出用にPMT2(緑チャネルと名付けた、以下同じ)を500-580 nmの波長検出範囲で使用した(検出感度670 V)。以上の青(415-478 nm)、緑(500-580 nm)の蛍光検出波長領域の選別は通常用いられるEmissionフィルター方式によらず、プリズム分光とスリットを組み合わせた方式(Leica,TCS-SP5の標準)により取得した。ビームスプリッターは500 nm(RSP500)を使用した。405 nm用のビームスプリッターはSP5システムでは上記と独立に415 nmの固定式となる。この実験では、蛍光励起に際し、最初に488 nm励起を使用して2-NBDLG投与プロトコルの時間経過に従った画像取得をおこなった後、改めて405 nm励起によりz軸方向の深さで異なる核の様態をxyzモードで取得した。
立体的な腫瘍細胞塊の構造的特徴を捉えるために用いた微分干渉(DIC)画像の取得は、488 nm励起時に透過光用検出器PMT Transを同時に使用して検出(典型的な検出感度は145-200 V)したものを用いた。微分干渉方式(DIC)の画像取得に必要なポラライザーやアナライザーを光路に入れる為の切り替え時間や切り替えショックの問題を回避するため、405 nm励起による画像取得時にもDIC用ポラライザーとアナライザーは光路に入れたままとした。
本法では、xy軸への高い解像力と細胞塊の全体を視野内に含む画角を求めて対物レンズは高解像力のx40oilレンズ(HCX PL APO CS 40.0x1.25 OIL UV, NA1.25)を絞り開放で使用した。取得蛍光強度を稼ぐためPinholeサイズは3 airy unitとした。このpinhole sizeでもz軸方向に細胞内の核と細胞質を実用的に区別し得ることが取得画像で確認された。ズームは使用せず(1倍)、1024x1024の画素数で、ノイズを減らすため二回のスキャニングを行い、その平均画像(Line average)を12 bitの深さで画像取得した。
なお以上の溶液の投与およびすべての画像取得は24時間一定室温(24℃)に保持された暗室内で行った。
【実施例】
【0092】
(実験結果)
図4に、蛍光標識L-グルコース誘導体2-NBDLGのインスリン産生腫瘍細胞 (MIN6)への投与の結果を示す。2-NBDLGは多数の細胞が立体的に集積し、異常核を呈する細胞塊に取り込まれる。Aは、2-NBDLG投与前の蛍光像 (Excitation 488nm, Emission 500-580 nm)である。細胞の存在はかすかな自家蛍光により確認される。Bは、100 μMの2-NBDLG含有HEPES溶液で3分間細胞を灌流し、続いて2-NBDLGを含まないHEPES溶液による洗い流しが終了した直後の蛍光像である。画面上の細胞塊(a)で、2-NBDLGの強い取り込みを認める。Cは、微分干渉顕微鏡(DIC)像と、蛍光像Bの重ね合わせである。細胞塊aの下に点在する二つの細胞は、DIC像から状態悪化が確認される。Dは、DAPIを用いた核染色像である。DIC像ではよく似て見える細胞塊aとbのうち、細胞塊 b の細胞は正常な核様態を示すのに対し、細胞塊aには強く光り異常な核様態を示す細胞が存在する。2-NBDLGの顕著な取り込みはaのみで認められる。A-Dは、共焦点顕微鏡像である。以下に更に詳しく記す。
細胞塊aと細胞塊bは共に11日間培養したマウスインスリノーマ細胞(MIN6)の多数の細胞の集合体である。これらの細胞に供給していた灌流液を、2.8 mMのグルコースを含有する画像取得用HEPES溶液から電磁バルブの操作により同じ溶液に2-NBDLG(100 μM)を含有させた溶液に切り替え、3分間細胞外から投与した後、画像取得用HEPES溶液に戻し、2-NBDLG溶液を洗い流した。2-NBDLGが細胞内に取り込まれた場合は、投与前後の蛍光強度の差に反映される。画像Aと画像Bは、2-NBDLGの発する緑色の蛍光を捉えた緑チャネル画像(検出波長領域500-580 nm)である。画像A(投与直前の蛍光像)では、細胞はフラビンタンパクなどに由来する自家蛍光を有する為、うっすらと緑色に光っている。その強弱は細胞により異なり、細胞塊cでは自家蛍光がやや強く、状態があまりよくないことがうかがわれる。画像B(投与直後の蛍光像)では、細胞塊aには、2-NBDLGを非常に強く取り込む細胞が認められる。蛍光グルコース誘導体は通常核内には侵入しないため、これらの細胞の核はきれいに抜けている。一方、細胞塊bに見られるように、全く同一種類の腫瘍細胞であり、かつ3次元的集積を開始している細胞塊であっても、2-NBDLGの取り込みがわずかしか認められない。細胞塊cについては、投与前から自家蛍光がやや強かったが、投与後もほとんど蛍光強度の増加は認められない。画像Cは、投与直後の緑チャネル画像に微分干渉(DIC)画像を重ね合わせたものである。細胞塊aと細胞塊bでは、2-NBDLGの取り込みの様子が大きく異なることがわかる。画像Dは、実験終了後、細胞に4,6-diamidino-2-phenylindole dihydrochloride(DAPI)を投与して、核染色を行った像である。画像Bと画像Dとを見比べると、中心部に異常核が出現しておらずに正常細胞と同様の核様態を示している細胞塊(細胞塊b)や、2次元的・平面的な集積段階にある細胞塊(細胞塊c)には、2-NBDLGの取り込みがほとんどみられないことがわかる。一方、中心部に異常核を生じる段階まで発達した細胞塊aの細胞には、2-NBDLGを強く取り込むものが出現していることがわかる。ここで、画像Dにおける共焦点顕微鏡の焦点深度は、異常核へのDAPIの取り込みが最も大きい焦点深度にあわせて写真撮影しているため、画像A-Cで見ている焦点深度とは異なる断面の断層写真となっている。すなわち、腫瘍細胞塊の中で、異常核の出現している層と、2-NBDLGの取り込みが大きい層とは同一でないことがxyzスキャンにより示唆された。このことは次の実施例4において、一層明瞭となる。なお、画像A,B,Dにおける細胞塊cは、共焦点顕微鏡の焦点深度外となっているが、細胞塊cについての上記の記述は別途の焦点深度において確認している。
【実施例】
【0093】
これらのことより以下のことが判る。腫瘍細胞の悪性度について知る目的で投与したDAPIにより可視化された核染色像から、2-NBDLGを取り込んだ腫瘍細胞塊(a)には、巨大核など悪性度の高い核様態を示すがん細胞が多数含まれていたが、全く同一種の腫瘍細胞でありながら2-NBDLGをほとんど取り込まない腫瘍細胞塊(b)には、このような異常核様態を示すがん細胞が認められなかった(図4Bと4Dの比較)。従って、適切に設計した蛍光で標識されたL-グルコース誘導体を用いれば、同一種のがん細胞から構成されるがん組織中にある細胞の状態の違いを、L-グルコース誘導体の取り込みの違いにより可視化し、評価することが可能となる。
【実施例】
【0094】
実施例4:マウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊の2-NBDLGと2-TRLGを用いたイメージング
(実験方法)
(1)マウスインスリノーマ細胞(MIN6)の調製
実施例3と同様にして行った。
【実施例】
【0095】
(2)2-NBDLG溶液ならびに2-NBDLG + 2-TRLG混合溶液の調製
2-NBDLG + 2-TRLG混合溶液の作製
0.1 mg 2-TRLGバイアルをデシケーター内に移して室温に戻した。2-TRLGは水に難溶性のため、暗所にてこの2-TRLGバイアル全量を65 μLの開封直後のdimethyl sulfoxide(DMSO, Nacalai Tesque No.13408-64)を用いて溶解した。2-NBDLG溶液は実施例3に述べたのと同様の方法で、実験直前に終濃度100 μMとなるように作製し、これに上記2-TRLG/DMSO溶液を非特許文献16に準じた方法で加えることで、2-TRLG濃度が20 μMとなるようにした。具体的には、あらかじめ上記2-NBDLG溶液を6.5 mLとり、激しく攪拌しておく。次いで40 μL DMSOを、チップ壁への付着が無視しうるRAININ製チップ(Mettler Toledo)を用いて2-TRLGバイアル瓶に加え、バイアルごとミキサーで攪拌して溶解させる。スピンダウンにより壁に付着した2-TRLGを底部に集め、同チップを使ってピペットマンで全量とり、攪拌中の2-NBDLG溶液に溶解した。2-TRLGバイアル瓶中にわずかに残った2-TRLGは、上記と同様の方法で25 μL DMSOを用いて回収し、2-NBDLG溶液に更に溶解した。以上の方法により、再現性良く、終濃度100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合溶液を作製することができた。
【実施例】
【0096】
(3)2-NBDLG + 2-TRLG混合溶液の投与法および画像取得プロトコル
(a)100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合溶液の投与
100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合溶液を、腫瘍細胞塊全体を完全に覆うように3分間投与した。投与液が細胞塊全体にかかっていることは投与中の緑、赤の各波長領域の蛍光像、および透過光像の取得により毎回かならず確認した。蛍光グルコース混合溶液の供給をストップすると同時に蛍光グルコース不含HEPES溶液に切り替えると、1分後には背景の蛍光は無視できる程度となった。
(b)画像取得条件の詳細
画像取得は実施例3に準じた方法で、実験開始後直ちに混合溶液投与前の画像取得を開始し、以降2分おきに実験終了まで青、緑、赤の各波長領域の蛍光像、および透過光像を取得した。使用レーザーは、核染色に使用したDAPIは405 nmダイオードレーザーを用いて(AOTF 20%)で励起、2-NBDLGおよび2-TRLGは488 nmアルゴンレーザーを用いて(出力50 %、AOTF 28%)で励起した。スキャンスピードは400 Hzを用いた。
蛍光検出には、三つの蛍光検出器を以下のように用いた。DAPIによる青色蛍光の検出用にphotomultiplier検出器(PMT)1を415-500 nmの波長検出範囲(検出感度750 V)で、2-NBDLGによる緑色蛍光の検出用にPMT2を500-580 nmの波長検出範囲(検出感度670 V)で、更に赤色蛍光の検出用にPMT3を580-740 nmの波長検出範囲で使用した(検出感度670 V)。ここで2-TRLGの蛍光は大部分が580 nm以上に存在し、580 nm以下にはほとんど蛍光成分を有していないことから、PMT2の500-580 nmの蛍光強度にはほとんど影響を与えない。このため2-TRLGの細胞内における検出量が増加する場合には、その効果は主にPMT3の580-740 nmにおける蛍光強度の増加として現れる。これに対して2-NBDLGは、蛍光強度のピークは540-550 nm付近にあるが、580-740 nm領域にも蛍光を有している。このため2-NBDLGの細胞内における検出量が増加する場合には、PMT2で検出される500-580 nmにおける蛍光強度の増加に加えて、PMT3で検出される580-740 nmにおける蛍光強度も増加する。その際、例えば専ら2-NBDLGの細胞内における検出量のみが増加して2-TRLGは細胞内に侵入していない場合、PMT2で検出される500-580 nmの蛍光波長領域における2-NBDLGの蛍光強度に対するPMT3で検出される580-740 nmの蛍光波長領域における2-NBDLGの蛍光強度の比は、2-NBDLGの濃度、検出器等の感度特性、ならびに励起光強度に依存して一定の関係となる。一方、細胞内に2-NBDLGが取り込まれた際に、これに加えてもし2-TRLGも細胞内に侵入した場合には、PMT3で検出される580-740 nmの蛍光波長領域における2-NBDLGの蛍光強度について上記関係から予測される投与前に比較した蛍光強度の増加に加えて、更なる蛍光強度の増加として検出される。その蛍光強度増加の上限は、投与した100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合溶液の500-580 nmにおける蛍光強度と580-740 nmにおける蛍光強度の比から知ることができ、下限は細胞内に2-NBDLGのみが取り込まれた場合における500-580 nmにおける蛍光強度と580-740 nmにおける蛍光強度の比であり、実際にはこの下限と上限の間で細胞内への2-TRLGの侵入の程度に応じて変化する。実際のプロトコルにおいては、PMT3の580-740 nmにおける蛍光取得の装置設定(すなわち励起光強度および検出器感度)を、専ら2-NBDLGのみが細胞内に取り込まれて2-TRLGが細胞内に侵入しない場合にはほとんど蛍光強度の増加として検出できない程度に調整しておく。これにより、2-TRLGがわずかでも細胞内に侵入した場合には直ちにその侵入を検出することが出来る。
【実施例】
【0097】
以上の青(415-478 nm)、緑(500-580 nm)、赤(580-740 nm)の蛍光検出波長領域の選別には2-NBDLGの緑色蛍光と2-TRLGの赤色蛍光の同時取得が可能な500 nm(RSP500)のビームスプリッターを使用した。405 nm用のビームスプリッターは使用したLeica SP5システムでは415 nmの固定式である。蛍光励起に際しては、最初に405 nm励起によるDAPI画像を検出器PMT1で取得した後に488 nm励起による画像を取得するsequential scan(between frame scan)を用いたが、488 nm励起時にはPMT2とPMT3の両検出器を同時にアクティブにすることにより2-NBDLGの緑色蛍光と2-TRLGの赤色蛍光画像を同時取得した。
実際の画像取得にあたっては、立体的な腫瘍細胞塊のそれぞれの深さにおける細胞の蛍光変化を、時間経過を追って捉える目的で、以上のxyスキャンを、共焦点顕微鏡のガルバノステージをz軸方向に一定距離動かしては繰り返すxyzスキャン動作を蛍光標識グルコース誘導体投与開始前3分前からスタートし、投与プロトコル終了まで2分ごとに繰り返すxyztスキャンを実施した。その際、レーザーの繰り返し照射による蛍光退色を最小限としつつ細胞塊中の深さの違いによる細胞応答の違いを知るため、z軸方向のステージ移動距離は8-10 μmおきとした。具体的に図6の例では、ほぼガラス面の直上にあたるZ位置からスタートしてz軸方向に8-10 μmずつずらして異なる深さで一枚ずつ、合計2枚もしくは3枚のxyスキャニングを行い、この操作を2分、もしくは4分に一度ずつ繰り返した。本法ではx40倍oil対物レンズを使用し、かつ速やかな液交換とサンプル交換を可能にする灌流チャンバーを用い、倒立顕微鏡ステージ上のガラス面上に細胞を付着させたカバースリップを密着させた上で下側からサンプルを観察する方式を取っている。このためworking distanceの短い高解像度対物レンズがガラス面に接触することによる限界から、厚みのある腫瘍塊のz軸方向の上部構造にピントを合わせることには限界がある。上記のz軸方向のステージ移動距離はこの点についても考慮して決定している。腫瘍塊の全体の構造は、投与プロトコル開始前もしくは別実験にてレンズを低倍率レンズに変更することで確認することが可能である。
【実施例】
【0098】
(実験結果)
100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合液を、発達したインスリン産生腫瘍細胞塊(MIN6)に3分間投与し、レーザー共焦点顕微鏡で観察した結果を図5-9に示す。
(図5~図7) それぞれ100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合液投与前、投与後2分経過した時点、投与後4分経過した時点での蛍光画像およびDIC画像を示す。画像A(DAPIによる核染色像)では、左右の腫瘍塊のそれぞれ中央部にDAPIの異常蓄積を示す細胞核の存在を認める。画像Bは、2-NBDLGの細胞内への取り込みを反映する緑チャネル画像(500-580 nm)である。共焦点顕微鏡により撮影された腫瘍塊内部の一断面の蛍光像が表示されている。以下に詳細に記す。
【実施例】
【0099】
図5は、インスリン産生腫瘍(MIN6)が多数集積した細胞塊の投与前の共焦点顕微鏡断層像である。Aは、DAPIによる核染色像である。左上および右下の細胞集団のそれぞれ中央付近に非常に強い核染色像が見られる。Bは、緑チャネル(500-580 nm)の投与前蛍光像である。自家蛍光を認める。Cは、赤チャネル(580-740 nm)の蛍光像である。この波長帯では通常自家蛍光は極めて小さい。Dは、微分干渉(DIC)像である。Eは、A-Dの重ね合わせ画像である。
【実施例】
【0100】
図6は、100μM 2-NBDLG + 20μM 2-TRLG 溶液投与終了後 2 min 経過時の画像である。Aは、DAPIによる核染色像である。Bは、2-NBDLG取り込みを反映する緑チャネルの蛍光像である。細胞塊中心部に強い取り込みを認め、その外側には様々な程度の取り込みを見せる細胞が点在する。中心部のすぐ回りには取り込みのほとんどない細胞も見られる。Cは、2-TRLGの取り込みを強く反映する赤チャネルの蛍光像である(赤チャネルで検出される蛍光強度に対する2-TRLGと2-NBDLGの寄与の割合は、2-TRLGと2-NBDGの赤チャネルへの寄与の割合と同様に理解される)。中心部の強い取り込みを除くと、周辺部では強く染まるか、もしくは非常に弱いか二極化している。Dは、DIC像である。左の細胞塊では中心部はドーナツ状に窪んでいる。Eは、重ね合わせ像である。蛍光L-グルコース誘導体を取り込まない細胞、2-NBDLGのみ取り込んだ緑細胞、2-NBDLGと2-TRLGを取り込んだ黄細胞、2-TRLGによる蛍光が残る赤細胞を認める。
【実施例】
【0101】
図7は、100μM 2-NBDLG + 20μM 2-TRLG 溶液投与終了後 4 min 経過時の画像である。異常核様態を示す細胞塊中心部では、既に2-NBDLGが相当程度排出されて蛍光強度は弱まっているが(B)、いったん取り込まれた2-TRLGの蛍光はまだ減弱していない(C)。その結果、中心部の色調が図6と異なる。DAPIによる強い青色を呈する細胞(A)は2-NBDLGをよく取り込む緑色の細胞と細胞塊中心部では重なるが、周辺部では必ずしも重ならない。緑チャネルと赤チャネルの変化の詳細は図8~図9を参照する。
【実施例】
【0102】
上記のように、2-NBDLGを用いることで、同じ細胞塊の中にあっても、細胞塊中心部のすぐ外側に存在している細胞のように2-NBDLGをほとんど取り込まない細胞から、その外側にある2-NBDLGを非常によく取り込むもの、中程度に取り込むものなど、多様な2-NBDLGの取り込み状態を示す腫瘍細胞を識別して可視化できることがわかった。図7において白矢印で示した細胞は、この図では、周辺にある同程度に緑色にうっすらと光る細胞と、2-NBDLGの取り込みのみによっては区別できないが、同時投与した2-TRLGの取り込みの様子をみると(図8と図9を参照)、周りの細胞と明瞭に異なる性質を有することが識別される。画像Cは、2-TRLGの細胞内への取り込みを主に反映する赤チャネル画像(580-740 nm)である。画像Dは、3次元的に高度に集積した腫瘍塊のDIC(微分干渉)画像である。左側の腫瘍細胞塊では、細胞塊が盛り上がり、中心部がクレーター状にやや陥没した状態となっている。右側の細胞塊は、左の細胞塊と比較するとやや高さが薄い状態にある。ピンホールを用いる蛍光像とは異なり、DIC画像では異なる焦点面に存在する細胞も、すこし焦点がぼけた状態とはなるが、観察できる。画像Eは、A-Dの重ね合わせ画像である。
【実施例】
【0103】
(図8と図9)
図8は、100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合液を投与終了から2分経過した時点での緑と赤チャネルの蛍光像を抜き出してDIC像と重ね合わせたものである。細胞塊中心部は、2-NBDLGと2-TRLGの両者をよく取り込み黄色を呈する。そのすぐ外側には両者とも取り込まない暗い細胞が存在する。更にその外側を様々な程度に2-NBDLGを取り込む細胞が取り囲む。赤色のみ呈する細胞は2-NBDLGと2-TRLGを取り込み、前者を洗い流しにより速やかに排出した細胞である。細胞塊周辺の焦点深度が異なる細胞は、蛍光像では共焦点効果により本図の焦点深度では画像化されていない。このように、図6で見た緑色の蛍光を発する2-NBDLGを様々な程度に取り込む細胞が存在することが可視化されることに加えて、2-TRLGをも取り込んで黄色となっている細胞が認められる。これらの黄色を呈する細胞のほとんど全ては、図9に示した投与終了から4分経過した時点を見るとわかるように、赤色系統の色に蛍光色調が変化している。
その説明として、単一神経細胞を用いた別の実験から、次のようなことが考えられる。2-TRLGが2-NBDLGと共に細胞状態が完全に死んではいないが中程度に悪化したことのわかっている神経細胞内に取り込まれた場合、2-TRLGの取り込みの時間経過は2-NBDLGの取り込みの時間経過より遅く、つまりゆっくりと入っていき、逆にいったん細胞内に入った2-TRLGは、仮にその量が2-NBDLGより少なかった場合でも、洗い流しを開始してから細胞外に流出するのに、2-NBDLGよりも長時間を要した。従って、2-TRLGを2-NBDLGの両者を細胞内に取り込んで黄色となった腫瘍細胞は、洗い流しを開始してからは緑色の2-NBDLGが先に排出され、赤色の2-TRLGが細胞内に残ったものである。実際、図8では、既に様々な程度に赤色の2-TRLGを取り込んだ細胞が認められるが、これらの細胞の色を2-NBDLG + 2-TRLG混合溶液投与中、あるいは投与終了してから最初の画像取得の2回のアベレージングスキャンが終了する前に調べると、そのほとんどが黄色に見える。
投与終了から2分経過した時点の図8において白矢印で示した細胞は、未だ強い黄色を呈しており、周辺の細胞とは異なり2-NBDLGに加えて赤色の2-TRLGを取り込んだことがわかるが、投与終了から4分経過した時点の図9で同じく白矢印で示した細胞の色に明らかなように、この2分の間に緑色の2-NBDLGが細胞外にすみやかに流出し、2-TRLGが多く細胞内に残った結果、赤色を呈している。つまり2-TRLGは、過去に2-NBDLGが大量に入ったことをメモリーのようにしばらくの間知らせてくれる役割を果たすことができる。もしも2-TRLGを2-NBDLGと同時に使用しなければ、図7において白矢印で示された細胞が、同じように淡い緑色を呈する周辺の細胞と違う取り込みパターンを示す細胞であることはわからない。この細胞は、同時投与した2-TRLGの取り込みの様子とあわせてみることで、初めて周りの細胞と明瞭に異なる細胞状態にあることがわかるのである。
実験室以外の実際の種々の条件下で蛍光標識グルコースを腫瘍細胞に接触させてその取り込みの様子を調べる際には、厳密な時間経過を追って調べることは困難な場合も多いと考えられることから、赤色の2-TRLGを緑色の2-NBDLGと同時に用いることは多様性を示す腫瘍細胞の細胞状態の識別においてメリットとなる。
【実施例】
【0104】
図9は、100 μM 2-NBDLG + 20 μM 2-TRLG混合液を投与終了から4分経過した時点での緑と赤チャネルの蛍光像を抜き出してDIC像と重ね合わせたものである。細胞塊中心部や白矢印の細胞は、図8の時点では緑色の2-NBDLGと赤色の2-TRLGにより黄色を呈していたが、それから2 min経過した本図では緑色の2-NBDLGが細胞外に排出されており、相対的に赤色の2-TRLGの排出が遅れた結果、図8よりも赤色が強くなっている。また細胞塊外縁に見られるように、図8で既に赤色であった細胞のいくつかについては、本図では赤色の2-TRLGも排出されている。図9において、腫瘍細胞塊中心部の細胞群は赤系統(図7ではDAPIの青が混じりピンク色)の色を呈し、これらの細胞群は図8では黄色を呈していたことから、赤色の2-TRLGも緑色の2-NBDLGも取り込んだ後、緑色の2-NBDLGを2分以内で速やかに排出する細胞状態にあることがわかる。一方、図8において既に赤色を呈していた細胞、例えば細胞塊の一番外周に存在する球形の細胞の一部などは、投与終了後2分以内という速いスピードで2-NBDLGが細胞外に流出したものと推定され、これらの細胞の赤色は図9においては既に消失しているものも多い。つまり2-TRLGも4分以内に細胞外に流出したことになる。このことは、これらの細胞の膜透過性が極めて高くなっていることを強く示唆しており、細胞状態としては死に近い末期的状態にあることが推定される。
【実施例】
【0105】
またこうした細胞と比較すると、図9において、腫瘍細胞塊中心部において赤系統の色を呈している細胞群は、まだ致命的な状態とは言えず、完全に死滅しているわけではないと推定される。この推定はこれらの細胞の核染色様態と照らしあわすことでも支持される。
一方、図8と図9では、L-グルコースを母核とする蛍光標識グルコース誘導体、すなわち赤色の2-TRLGも緑色の2-NBDLGも、ほとんど取り込まない暗い細胞が、細胞塊中心部のすぐ外側の部分を取り囲むように存在している様子が明瞭にわかる(微分干渉コントラスト(DIC)画像を重ねていない図6Bおよび図7Bでは黒く見える部分となる)。DIC画像からわかるように、この部分には細胞が存在していないわけではない。すなわちこれらの細胞は、正常細胞と同様に細胞膜がグルコース取り込みについて立体選択性を保った状態にある。このような正常細胞に匹敵する細胞膜の状態を維持している腫瘍細胞の存在を可視化できることは、抗がん剤や治療の効果を調べる際に役立つものと期待される。このように本発明は、L-グルコースを母核とする蛍光標識グルコース誘導体を、発達した腫瘍塊を含む細胞群に投与し、その個々の細胞内への取り込みの程度に応じて積極的に個々の腫瘍細胞の細胞状態の違いを評価できることに加えて、細胞内にL-グルコースを母核とする蛍光標識グルコース誘導体を取り込まないことをもってそのような細胞を浮き彫りにし、薬剤や放射線治療の効果判定などのためのマーカーとして広い応用の可能性を有するものと期待される。
【実施例】
【0106】
実施例5:
2-NBDLG(200 μM)および2-NBDG(200 μM)をマウスインスリノーマ細胞(MIN6)にそれぞれ5分間取り込ませた際の各種阻害剤の有無による違いを、蛍光マイクロプレートリーダーFlex Station (Molecular Device Japan(株))を用いて定量的に解析した。
(1)細胞の調製
測定に用いたウェルは、縦A-Hの8行、横1-12の12列のウェルを有する96穴クリア底ウェルプレートμCLEAR-PLATE (Greiner bio-one, BLACK, 96 well, #655090)で、この3列目と5列目のB行からG行のウェルに、MIN6細胞を6 x 105 cells/mLの割合で調製した細胞溶液をおのおの15μLづつ均一に蒔いた。培地交換は、0-4 DIV(days in vitro)では2日に1回半量交換、5 DIV以降は毎日交換し、培養10-13日目(10-13 DIV)で実験に供した。A行およびH行は、細胞を蒔かず、洗い流しが正確に行われたか否かをチェックするためのコントロールとして用いた。また、4列目には細胞はなく、クレブスーリンガーバッファ溶液(KRB, ギャップ結合阻害剤carbenoxolone 0.1 mM、グルコース5.6 mMを含む)のみのブランクとして使用した。
【実施例】
【0107】
(2)取り込み計測
8連のPCRチューブのそれぞれに、2-NBDLGまたは2-NBDGを入れ、8連ピペットを用いて吸い、ウェルに同時に滴下する方法で評価した。これにより、2-NBDLGを投与するウェルと、2-NBDGを投与するウェルとに、同時に投与することが可能となり、信頼性よく評価できる。上記したように3列目と5列目の二つの列において細胞のあるウェルは12個で、これらのうち2-NBDLGと2-NBDGの違いと阻害剤の有る無しの違いで各3ウェルづつ4群に割り振った。具体的に、2-NBDLG(200 μM)および2-NBDG(200 μM)の取り込みに対するGLUT阻害剤サイトカラシンB(10 μM)の有無による影響を見る場合、まずサイトカラシンB存在下で計測する予定のウェルには、蛍光標識されたグルコース誘導体投与の5分前からあらかじめサイトカラシンBを前投与した。また、蛍光標識されたグルコース誘導体投与前に、各ウェルの自家蛍光を計測した。Flex Stationの測定条件は、Well Scan Mode、Bottom Readで、Ex 470 nm, Em 540 nm, Cut off 495 nm, Averaging 3 、Photomultiplier感度 highにておこなった。蛍光マイクロプレートリーダーFlex StationのWell Scan Modeでは、一つのウェル中を9つの観察領域(エリア)に分割して、それぞれ独立に計測する。9分割されたそれぞれのエリアには、およそ5000個の細胞が存在することをリアルタイムデコンボリューション顕微鏡のZ section計測により別途確認した。
2-NBDGおよび2-NBDLG、サイトカラシンB有り無しの投与を行い(37℃、5分間)、投与終了後は、蛍光標識グルコースを含まないKRB溶液250 μLを、ウェル中の50 μLの溶液に加える操作をストップウォッチで測りながら7回繰り返すことにより、対照群として設定したA行およびH行のウェルの示す蛍光強度が、細胞のないブランクのウェルの蛍光強度と等しくなるまで洗い流しをおこなった。この過程は7分を要し、細胞膜状態の破綻を来たした細胞が2-NBDGおよび2-NBDLGに接触後、これらの化合物をいったん細胞内に取り込んだとしても、計測時点では既に細胞外に流出し洗い流されているために、観察エリア全体の蛍光強度の増加に対する寄与は無視しうる程度と判断された。このことは別途薬理学的阻害実験で、阻害剤存在下に蛍光強度の増加がほぼ消失することにより裏付けられた。上記の方法は、他の阻害剤の場合にも同様に実施した。Na+-freeのKRB液はNa+をcholineで置換して浸透圧の変化のないことを確認した。
【実施例】
【0108】
(実験結果)
図10に、マウスインスリノーマ(MIN6)細胞内への2-NBDGおよび2-NBDLGの取り込みに対する阻害剤の影響を蛍光プレートリーダーにより定量的に評価した結果を示す。
A, 2-NBDGの取り込みはGLUT阻害剤Cytochalasin B (10 mM, CB)添加により有意な減少を示し、グルコーストランスポーターGLUTを介した取り込みの存在がわかる。一方、2-NBDLGの取り込みはCytochalasin Bにより有意な低下を示さず(N.S.)、GLUTを介さない取り込みであることが示唆される。*は、2-NBDG投与による蛍光強度の増加に対して、有意に低いことを示す(p< 0.0001, ANOVA, Bonferroni/Dunn)。
B, 2-NBDGならびに2-NBDLGが、Na+イオンとグルコースを共輸送するグルコーストランスポーターであるSGLTを介するか否かを調べたものである。蛍光グルコースを、Na+イオンを含むバッファーに溶かして投与した場合と、Na+イオンを含まないバッファー(Na(-))に溶かして投与した場合とで、2-NBDGと2-NBDLGの両者ともに細胞内取り込みには有意な差が認められなかった。SGLTはNa+イオン非存在下では機能しないため、MIN6細胞のNBDLG取り込みにSGLTはほとんど寄与していないことが示唆される。
C, 2-NBDGと2-NBDLGの両者とも、GLUTおよび水チャネルの共通阻害剤である Phloretin (150 μM, PHT)によりMIN6細胞への取り込みが阻害された。2-NBDLGの細胞内取り込みは、PHTで阻害される選択的経路を介することが示唆される。
なお、別の実験によりPHTによる2-TRLGの細胞内への取り込み阻害を確認したが、阻害されなかった。
【実施例】
【0109】
実施例6:急性単離神経細胞への2-NBDLMと2-TRLG混合溶液投与によるイメージング
(実験方法)
(A)以下の組成の溶液と材料を用いた。
(共焦点画像取得用HEPES溶液の組成)
NaCl 150 mM, KCl 5 mM, MgCl2 1 mM, CaCl2 2 mM, HEPES 10 mM, 1M Tris(2-amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol)溶液にてpH7.4に調整。Glucose 濃度は10 mMとした。なおgap junction/hemichannelを経由する蛍光標識マンノースの出入りを阻害する目的で0.1 mM Carbenoxolone(SIGMA #C4790)を加えた。
(単離用リンガー液の組成)
NaCl 124 mM, NaHCO3 26 mM, KCl 5 mM, KH2PO4 1.24 mM, CaCl2 2.4 mM, MgSO4・7H2O 1.3 mM, Glucose 10 mM, 95%O2-5%CO2通気によりpH7.4に保持した。
(カバースリップのpoly-L-lysineコート(神経細胞用))
5 mgのpoly-L-lysine hydrobromide(SIGMA P6282)を50 mLの0.15 Mホウ酸(NaOHにてpH 8.4に調整)に溶解したものをストックし、冷蔵保存する。本ストック溶液を0.15 Mホウ酸 で1/500~1/1000に希釈したものにカバースリップ(13 mm x 22 mm松浪No.0ガラス)を沈め、室温にて20分放置した後、蒸留水ですすぎ、自然乾燥させた。
(B)2-NBDLM溶液ならびに2-NBDLM + 2-TRLG混合溶液の調製
2-NBDLMは2-NBDLGの立体異性体であり、両者の分子量は同一であるため、本発明者らによる先のWO2010/016587公報に詳述した2-NBDLG液ならびに2-NBDLG + 2-TRLG混合溶液の調製と基本的に同様の方法で調製した。投与溶液の濃度は、0.5 mgのバイアルの全量を、画像取得用HEPES溶液14.6 mLに溶解することで、終濃度100 μMの2-NBDLM溶液とした。溶解法は実施例3における2-NBDLG溶液の調製と同様に実施した。2-TRLGは水に難溶性のため、1 mgの2-TRLGをdimethyl sulfoxide (DMSO)液に溶解してまず2 mM 2-TRLG溶液とした後、この2 mM溶液を、あらかじめ100 μMの2-NBDGを含有するよう調製した下記組成の画像取得用HEPES溶液で100倍に希釈し、100 μM 2-NBDLM + 20 μM 2-TRLG混合溶液を得た。
【実施例】
【0110】
(B)急性単離神経細胞の調製
本発明者らによる先のWO2010/016587公報に記したのと同様の方法で、以下のように実施した。
(1)マウス脳スライスの作製
生後13-17日令(幼若期)のC57BL/6Jマウスにウレタン深麻酔(i.p. 1.6g/kg)を施行し、常法に従い断頭後、単離用の冷リンガー液(0℃)をかけながら脳を取り出し、氷冷したシャーレ上に載せて直ちにトリミングを行った後、リニアスライサー(堂阪Pro7)にて冷リンガー液(0℃)中で厚さ400もしくは500μmの冠状断脳スライスを作製した。次いで95%O2-5%CO2を通気した上記リンガー液が循環するチャンバー(ハーバード社製アクリルインキュベーションチャンバー)中にて室温で1時間回復させた。
(2)脳スライスの酵素処理
蛋白分解酵素Pronase(10mg/60mL)を上記リンガー液に溶解して作製した酵素液(31℃;95%O2-5%CO2通気によりpH7.4に保持したもの)に脳スライスを浸漬して酵素処理を行った。所定時間経過後、直ちに室温にて50-100mLの10mM glucose含有HEPES溶液に脳スライスを浸漬して酵素反応を停止させた。
(3)中脳黒質網様部の分離
底部にシリコンを貼付した60ないし100mmプラスチックディッシュに10mM glucose含有HEPES溶液(室温、共焦点画像取得用HEPES溶液からCarbenoxolonを除いたもの)を満たしておき、上記脳スライスを液中に浸漬した。二本の27G注射針で脳スライスを固定した上、顕微鏡下にて左右の中脳黒質網様部を18G注射針の先端を楕円形にしたものでパンチアウトし、室温で上記HEPES溶液(35mmカルチャーディッシュ)中に保存した。
(4)黒質網様部神経細胞の単離
各種先端径に調整したガラスピペットにてtriturationにより神経細胞を単離し、poly-L-lysineコートしたガラスカバースリップに付着させた。
(C)リアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡を使用した場合の2-NBDLM+2-TRLG混合溶液の投与法および画像取得プロトコル
混合溶液の投与は、実施例3(4)~(6)に記載したMIN6細胞への投与法と同様に実施した。
【実施例】
【0111】
(実験結果)
100 μM 2-NBDLM + 20 μM 2-TRLG混合液を、急性単離神経細胞に5分間投与し、レーザー共焦点顕微鏡で観察した結果を図11~15に示す。
(図11~図15)
それぞれ100 μM 2-NBDLM + 20 μM 2-TRLG混合液投与前、投与中、投与終了後2分経過した時点、投与後10分経過した時点、投与後22分経過した時点での、緑チャネル(500-580 nm)における蛍光画像A、赤チャネル(580-740 nm)における蛍光画像B、微分干渉(DIC)画像C、およびABCの重ね合わせ画像Dを示す。
図11は、マウスの中脳黒質網様部から急性単離した神経細胞に、2-NBDLM (100 μM) + 2-TRLG (20 μM)を投与する直前の緑チャネル(A)および赤チャネル(B)における自家蛍光像、微分干渉(DIC)像(C)、およびこれらの重ねあわせ画像(Overlay、D)である。
図12は、2-NBDLM (100 μM) + 2-TRLG (20 μM) 投与中の緑チャネルおよび赤チャネルの蛍光像、微分干渉像および重ね合わせ画像(いずれも原画像のまま)である 。矢印で示された健全な細胞では、投与中に2-TRLGが細胞内に侵入しないため、2-TRLGの蛍光を強く反映する赤チャネルの蛍光像(B)では細胞体部分が影となっている。一方、2-NBDLMの取り込みを反映する緑チャネルの蛍光像(A)を見ると、投与中に2-NBDLMが細胞内に取り込まれ、細胞体の影が赤チャネルのそれより小さい。またDの重ね合わせ像において、矢印の細胞は、中心部の細胞核を除く細胞質部分が2-NBDLMの蛍光を反映して緑色となっている様子がわかる。これに対して、矢頭で示した状態の悪化している二つの細胞では、緑チャネル、赤チャネルのいずれも投与中に細胞体の影が認められず、2-NBDLMと2-TRLGの両者共に投与中に細胞内に完全に侵入している様子が示されている。
図13は、2-NBDLM (100 μM) + 2-TRLG (20 μM) 投与終了後2分経過した時点のイメージ(緑チャネルと赤チャネルとを同一レベルで強調して、蛍光変化を見やすく表現している)を示している。Aの緑チャネルで見ると、いずれの細胞も2-NBDLMを取り込んでいる。しかしBの 赤チャネルを見ると、矢印で示された健全な細胞では2-TRLGが取り込まれておらず細胞膜が健全であることが示されるのに対し、矢頭で示された二つの細胞は2-TRLGの多量の取り込みを示し、細胞膜が破綻を来たしている様子がわかる。結果として、Dの重ね合わせ画像において、矢印の細胞では細胞体が緑色蛍光を示しているのに対し、矢頭の細胞では緑色と赤色が混じり橙色を呈している。なお矢印で示された細胞で赤チャネルの蛍光強度が投与前に比較してわずかに増加してみえるのは、2-NBDLMの赤チャネルにおける蛍光成分の増加が画像強調によって可視化されたものである(詳細は[0096])。
図14は、2-NBDLM (100 μM) + 2-TRLG (20 μM) 投与終了後10分経過した時点のイメージを示している。Aの緑チャネルおよびDの重ね合わせ画像を見ると、矢印の健全な細胞では、緑色蛍光で示される2-NBDLMが投与終了後10 分経っても細胞内に維持されている様子がわかる。一方、矢頭の二つの細胞では、投与後2分経過した時点の画像では細胞内に見られていた緑チャネルおよび赤チャネルの蛍光が既に大きく減弱しており、細胞膜破綻により細胞内に一端侵入した2-NBDLMおよび2-TRLGが洗い流しの時間経過と共に細胞外に流出した様子がわかる。
図15は、2-NBDLM (100 μM) + 2-TRLG (20 μM) 投与終了後22分経過した時点のイメージを示している。AおよびDに明らかなように、2-NBDLMによる緑蛍光は、投与終了後22分を経過しても細胞内に維持されている。図13, 14, 15はいずれも全く同一の画像処理条件で表示している。
以上の結果は、2-NBDLMが、正常なマウス神経細胞内に取り込まれることを示している。
【実施例】
【0112】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、腫瘍細胞であるか否かの判定を精度よく行うための方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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