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明細書 :外傷性神経障害治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成26年5月19日(2014.5.19)
発明の名称または考案の名称 外傷性神経障害治療剤
国際特許分類 A61K  39/395       (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
FI A61K 39/395 N
A61P 25/00
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 23
出願番号 特願2012-546930 (P2012-546930)
国際出願番号 PCT/JP2011/077782
国際公開番号 WO2012/074043
国際出願日 平成23年12月1日(2011.12.1)
国際公開日 平成24年6月7日(2012.6.7)
優先権出願番号 2010270133
2011131674
優先日 平成22年12月3日(2010.12.3)
平成23年6月13日(2011.6.13)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , MD , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC , VN
発明者または考案者 【氏名】西堀 正洋
【氏名】森 秀治
【氏名】高橋 英夫
【氏名】和氣 秀徳
【氏名】劉 克約
【氏名】伊達 勲
【氏名】大熊 佑
【氏名】友野 靖子
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
【識別番号】399015780
【氏名又は名称】医療法人創和会
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4C085
Fターム 4C085AA14
4C085CC21
4C085CC28
4C085DD63
4C085EE01
4C085GG02
要約 外傷性神経障害、即ち脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷を治療するための新規薬剤を提供する。脳に対する物理的外力とHMGB1との関係を調べたところ、正常な状態ではHMGB1は脳神経細胞の核内に存在するものの、傷害を受けた部位又はその近傍の組織ではHMGB1は神経細胞の核外に放出されることを初めて確認した。これにより、神経細胞の核外に放出されたHMGB1を捕捉することで、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷により生じる運動障害を改善化しうることを見出し、本発明を完成した。
特許請求の範囲 【請求項1】
抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とすることを特徴とする、外傷性神経障害治療剤。
【請求項2】
外傷性神経障害が、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷である、請求項1に記載の外傷性神経障害治療剤。
【請求項3】
外傷性障害を受けた後に投与するものである請求項1又は2に記載の外傷性神経障害治療剤。
【請求項4】
抗HMGB1モノクローナル抗体を、1回当たり0.2~5 mg/kg投与するものである請求項1~3のいずれか1に記載の外傷性神経障害治療剤。
【請求項5】
請求項1~5のいずれか1に記載の外傷性神経障害治療剤を用いることを特徴とする、外傷性神経障害の治療方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、外傷性神経障害、即ち脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷を治療するための薬剤に関するものである。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2010-270133号及び特願2011-131674号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
脳外傷とは、外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury:TBI)ともいい、例えば何らかの事故(例えば交通事故、落下事故、衝突事故や転落事故など)により首から上の頭部に強い外力が加えられることにより外傷を負い、脳そのものが損傷した病態をいう。脳損傷には「閉鎖性頭部損傷:closed head injury」(CHI)と「開放性頭部損傷:open head injury」(OHI)の2つの基本的なタイプがあり、開放性頭部損傷は弾丸や何か突き刺さった物体によって引き起こされる。閉鎖性頭部外傷は、例えば上述のような事故により、急激な動きの間に脳が頭蓋骨の内側で急に動かされることによって引き起こされ、発生する。かかる急激な動きによる圧迫は神経の線維や軸索に損傷を与え、神経伝達経路を破壊する。
【0004】
脳外傷急性期には、生命維持に直接関連する呼吸と循環の管理による全身状態の機能維持が図られる。一方、脳外傷急性期には脳浮腫が発生するため、これを防ぐ目的で高浸透圧グリセロールやマンニトール点滴や代謝抑制を目指したバルビツール酸投与などが臨床的に用いられる場合がある。しかしながら、その有効性についての証拠・根拠(エビデンス)はない。低体温療法が急性期に用いられる場合もあるが、一般的でない。その他、脳損傷に起因する脳浮腫・脳障害に有効な薬物は見出されていない。つまり、脳外傷急性期の脳障害に対するエビデンスのある治療法は現在まで存在していない。
【0005】
脊髄は、脳と体の他の部分の情報を伝達する主要経路である。チューブ状の構造で、脳の基底部から下方へ伸びている。脊髄損傷(Spinal Cord Injury:SCI)とは、主として脊柱に強い外力が加えられることにより脊椎を損壊し、脊髄に損傷をうける病態である。かかる脊柱に加えられた強い外力により、神経の線維や軸索に損傷を与え、神経伝達経路を破壊する。
【0006】
脳損傷防御剤及び頭部外傷や脳外科手術に伴う脳組織損傷防御剤について開示がある(特許文献1)。特許文献1では、(±)-N,N'-ロピレンジニコチンアミド(一般名:ニカラベン)又はその薬学上許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とし、脳損傷の進展に関連のあるマクロファージ及び反応性マイクログリアの動態を指標として評価している。他の報告では、外傷性脳損傷(TBI)又は低酸素性若しくは虚血性発作を治療する方法が開示されている(特許文献2)。特許文献2では、低酸素性若しくは虚血性発作を治療する方法であって、そのような治療を必要とする患者に、血栓崩壊剤と組合せてNMDAレセプター拮抗物質を投与することを含む方法について開示がある。具体的には、NR2Bサブタイプ選択的N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプター拮抗物質を、(a)ナトリウムチャネル拮抗物質;(b)一酸化窒素シンターゼ(NOS)阻害剤;(c)グリシン部位拮抗物質;(d)カリウムチャネルオープナー(opener);(e)AMPA/カイニン酸レセプター拮抗物質;(f)カルシウムチャネル拮抗物質;(g)GABA-Aレセプターモジュレーター(例えばGABA-Aレセプター作用物質);又は(h)抗炎症剤と組合せて投与することを含む方法が開示されている。また、別の報告では、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄損傷(SCI)又はそれに関連する状態に起因する生理学的損傷を抑制又は治療するための方法について開示がある(特許文献3)。特許文献3では、補体副経路を選択的に阻害する作用剤及び組成物の使用が開示される。TBI又はSCIに起因する損傷の抑制に使用される好ましい試薬には、補体系のタンパク質であるB因子を阻害するものが含まれ、抗B因子抗体は特に好ましい作用剤として開示されている。副経路の活性化に関与する主要タンパク質は、B因子(fB)及びD因子(fD)である。
【0007】
HMGB1(High Mobility Group Box 1:以下、「HMGB1」という)タンパク質は、DNA の構造維持や転写調節に関わる非ヒストンクロマチン関連性タンパク質ファミリーの一員である。近年、細胞の壊死によりHMGB1が細胞外に遊離したり、血管炎症性シグナル応答で細胞外に能動分泌が見られるなど、新たな炎症マーカーとしても注目されている。HMGB1はげっ歯類からヒトまで99%以上のアミノ酸配列について相同性を有するタンパク質である。このHMGB1は正常細胞にも存在するが、敗血症(全身性炎症反応症候群)において放出される菌体内毒素であるLPS(リポ多糖)による刺激によって血中濃度が上昇し、最終的な組織障害をもたらす。このHMGB1に対する抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする薬剤について、脳血管攣縮抑制剤(特許文献4)及び脳梗塞抑制剤(特許文献5)がすでに特許されているが、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷を治療するための薬剤については開示されていない。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平8-12577号公報
【特許文献2】特開2002-322096号公報
【特許文献3】特表2008-542298号公報
【特許文献4】特許第3882090号公報
【特許文献5】特許第3876325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、外傷性神経障害、即ち脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷を治療するための新規薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、脳に対する物理的外力とHMGB1との関係を調べたところ、正常な状態ではHMGB1は脳神経細胞の核内に存在するものの、傷害を受けた部位又はその近傍の組織ではHMGB1は神経細胞の核外に放出されることを初めて確認した。これにより、神経細胞の核外に放出されたHMGB1を捕捉することで、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷により生じる運動障害を改善化しうることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とすることを特徴とする、外傷性神経障害治療剤。
2.外傷性神経障害が、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷である、前項1に記載の外傷性神経障害治療剤。
3.外傷性障害を受けた後に投与するものである前項1又は2に記載の外傷性神経障害治療剤。
4.抗HMGB1モノクローナル抗体を、1回当たり0.2~5 mg/kg投与するものである前項1~3のいずれか1に記載の外傷性神経障害治療剤。
5.前項1~5のいずれか1に記載の外傷性神経障害治療剤を用いることを特徴とする、外傷性神経障害の治療方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とすることを特徴とする、外傷性神経障害治療剤は、パーカッション傷害モデルラットにおいて、行動学的にも、組織学的にも優れた効果を示した。また、現在使用されている抗体薬剤を考慮すれば、重篤な副作用を生じる可能性は極めて少ないと考えられる。従って、本発明の外傷性神経障害治療剤は、これまで特に有効な処置手段のなかった外傷性神経障害を治療できるものとして、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】パーカッション傷害モデル作製の概要を示す図である。(実施例2)
【図2】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合のロータロッドテスト結果を示す図である。(実験例2-1(A))
【図3】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合のシリンダーテスト結果を示す図である。(実験例2-1(B))
【図4】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合の傷害部位の組織を示す写真図である。(実験例2-2(A))
【図5】パーカッション傷害モデルの脳について、傷害を与えた部位とは反対の部位(正常領域)におけるHMGB1の分布を確認した写真図である。(実験例2-2(B))
【図6】パーカッション傷害モデルの脳について、傷害を与えた部位におけるHMGB1の分布を確認した写真図である。(実験例2-2(B))
【図7】パーカッション傷害モデルの脳について、傷害を与えた部位周辺におけるHMGB1の分布を確認した写真図である。(実験例2-2(B))
【図8】パーカッション傷害モデルの脳について、エバンスブルーの漏出量を確認した図である。(実験例2-3)
【図9】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後24時間目でのロータロッドテスト結果を示す図である。(実施例3)
【図10】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後3時間目でのロータロッドテスト結果を示す図である。(実施例3)
【図11】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後6時間目でのロータロッドテスト結果を示す図である。(実施例3)
【図12】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後時系列でのロータロッドテスト結果を示す図である。(実施例3)
【図13】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後24時間目でのシリンダーテスト結果を示す図である。(実施例4)
【図14】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後3時間目でのシリンダーテスト結果を示す図である。(実施例4)
【図15】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後6時間目でのシリンダーテスト結果を示す図である。(実施例4)
【図16】パーカッション傷害モデルに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与後時系列でのシリンダーテスト結果を示す図である。(実施例4)
【図17】パーカッション傷害モデルの脳でのHMGB1ウエスタンブロッティングを行うための試料調製方法を示す図である。(実施例5)
【図18】パーカッション傷害モデルの脳でのHMGB1ウエスタンブロッティング結果を示す写真図である。(実施例5)
【図19】パーカッション傷害モデルの脳でのHMGB1ウエスタンブロッティング結果を示す図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の外傷性神経障害治療剤は、抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする。抗HMGB1モノクローナル抗体は、原則としてHMGB1のみに結合して無毒化し、他の化合物等には作用しない。よって、副作用が生じる可能性はないか、極めて少ないと考えられる。本発明において、外傷性神経障害治療剤として、有効成分を抗HMGB1モノクローナル抗体とするのは、健常な状態ではHMGB1は神経細胞核内に存在するのに対し、外傷性神経障害に伴い、傷害部位又は傷害部位周辺において、HMGB1は神経細胞核内から、細胞質や細胞外に放出されることを初めて確認したことによる。抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする治療剤を投与することで、脳組織や血中に放出されたHMGB1を捕捉し、HMGB1に起因する外傷性神経障害を治療しうる。

【0015】
本発明において、外傷性神経障害とは、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷をいう。背景技術の欄でも説明したように、脳外傷とは、外傷性脳損傷(TBI)ともいい、首から上の頭部に強い外力が加えられることにより外傷を負い、脳そのものが損傷した病態をいう。また、脳外科手術に伴う脳損傷とは、例えば腫瘍摘出、血腫除去、その他の脳領域における外科的手術の際に、不可避的に脳に損傷を与えてしまう場合があり、そのような場合をいう。また、脊髄損傷(SCI)とは、主として脊柱に強い外力が加えられることにより脊椎を損壊し、脊髄に損傷をうける病態である。かかる首から上の頭部や脊柱に加えられた強い外力により、神経の線維や軸索に損傷を与え、神経伝達経路を破壊するため、本発明において脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷及び/又は脊髄損傷を、外傷性神経障害ということとする。

【0016】
抗HMGB1モノクローナル抗体の調製は、常法に従えばよい。例えば、市販のHMGB1を用いてマウスやラット等を免疫し、その抗体産生細胞や脾細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを得る。このハイブリドーマをクローニングし、HMGB1へ特異的に反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングする。このクローンを培養し、分泌されるモノクローナル抗体を精製すればよい。

【0017】
本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする外傷性神経障害治療剤は、その剤形や投与形態は特に問わない。有効成分としての抗HMGB1モノクローナル抗体とともに、溶液、マイクロエマルジョン、分散液、リポソーム、又は高薬物濃度に好適なその他の適確な形状として、製剤化することができる。必要量の抗HMGB1モノクローナル抗体を、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組み合わせとともに、適切な溶媒中に組み入れた後、ろ過滅菌することによって、調製することができる。

【0018】
本発明の外傷性神経障害治療剤は、当分野で知られている多様な方法によって投与することができる。投与形態は特に問わないが、外傷性神経障害に対する緊急性を考慮すれば、注射剤として静脈内投与することが好ましい。その場合、溶媒としては、pHを調整した生理食塩水やグルコース水溶液など、血漿の等張液を用いることができる。また、抗体を塩類等と共に凍結乾燥した場合には、純水、蒸留水、滅菌水等も使用できる。その濃度も通常の抗体製剤のものとすればよく、0.2~5 mg/mLとすることができる。但し、注射剤の浸透圧は、血漿と同等にする必要がある。

【0019】
本発明の外傷性神経障害治療剤の投与時期は特に制限されないが、外傷性神経傷害後、早ければ早いほど好ましく、具体的は、傷害後12時間以内、好ましくは3時間以内、より好ましくは1時間以内、最も好ましくは10分以内である。

【0020】
後述する実施例で示す通り、体重約300gのラットに対して1回当たり200μgの抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合に、脳外傷による脳障害の顕著な抑制効果が得られた。かかる結果から考えると、ヒトに対する投与量は、1回当たり抗HMGB1モノクローナル抗体を0.2~5 mg/kgとし得、より好適には0.2~2 mg/kgとすることができる。但し、これら薬剤の投与量は、患者の年齢や性別、疾患の重篤度等によって適宜変更すべきである。また、本発明の外傷性神経障害の治療剤は、複数回にわたって或いは持続的に投与することができる。

【0021】
さらには、本発明の外傷性神経障害治療剤と組み合わせて、他の治療薬を用いることもできる。特定の実施形態において、本発明の抗HMGB1モノクローナル抗を、1以上の別の治療薬とともに製剤化し、及び/又は同時投与してもよい。本発明は、上記本発明の外傷性神経障害の治療剤を用いることを特徴とする、外傷性神経障害の治療方法にも及ぶ。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0023】
(実施例1) 抗HMGB1モノクローナル抗体の調製
特許文献4に記載の方法と同手法により、抗HMGB1モノクローナル抗体を調製した。具体的には、以下のとおりである。
【実施例】
【0024】
(a)ラットの免疫
市販のウシ胸腺由来HMGB1とHMGB2との混合物(和光純薬工業社製、コード番号:080-070741)1 mg/mLを2 mLガラス製注射筒にとり、別の2 mLガラス製注射筒にとった等容量のフロイント完全アジュバンドと連結管を通じて徐々に混和することによって、エマルションとした。セボフルレンにより麻酔したラットの後肢足蹠に、得られたエマルションを0.05 mLずつ、計0.1 mL注射投与した。2週間後、頚静脈から試験採血し、抗体価の上昇を確認した。次いで、腫大した腸骨リンパ節を前記注射投与から3週間後に無菌的に取り出した。得られた2個のリンパ節から、約6×107 個の細胞を回収することができた。
【実施例】
【0025】
(b)細胞融合とクローニング
上記腸骨リンパ節細胞とマウスミエローマSP2/O-Ag14(SP2)細胞を、ポリエチレングリコールを用いて融合させ、得られた融合細胞を96穴マイクロプレートに蒔いた。1週間後、最初のELISAスクリーニングを行ない、陽性ウェルについて、ウェスタンブロットにより二次スクリーニングを行なった。陽性を示すウェル細胞を24穴マイクロプレートに移し、細胞をほぼコンフルエントな状態(約2×105)に殖やしてから、0.5 mLの凍結培地(GIT培地にウシ胎児血清を10%とジメチルスルホキシドを10%添加したもの)を用いて、液体窒素中で凍結保存した。この凍結保存細胞を解凍した後、96穴マイクロプレートでクローニングした。
【実施例】
【0026】
(c)抗体の精製
回転培養装置(SARSTEDT社製)により上記陽性細胞を2週間大量培養し、濃度2~3 mg/mLの抗体液を得た。この抗体液をアフィニティゲル(MEP-HyperCelTM、インビトロジェン社製)と中性pH下で混和し、抗HMGB1抗体をゲルへ特異的に結合させた。特異的にゲルに結合した抗体を、酢酸ナトリウムバッファー(pH 4)により溶出した。溶出液を限外濾過装置により濃縮した後、セファロースCL6Bゲル濾過カラム(直径2 cm×長さ97 cm)によって、さらに精製した。
【実施例】
【0027】
(実施例2)外傷性神経障害モデルラットに対する抗HMGB1抗体の作用
1)外傷性神経障害モデルラットの作製
外傷性神経障害モデルラットとして、パーカッション傷害作製装置(Dragonfly HPD-1700:ドラゴンフライ社)を用いたパーカッション傷害ラットを作製した。ウィスター系雄性ラット(体重:約300 g)をバルビツレート(30 mg/kg)で麻酔し、ラットの頭蓋骨のブレグマ(Bregma:冠状縫合と矢状縫合の交点)から後方約3 mm、右側方約3 mmに専用の穿頭器を用いて穿頭孔 (burr-hole)を穿ち、筒型のプラスチックを瞬間接着剤・骨セメントを用いて装着した。皮膚を軽く縫合した。翌日、イソフルラン(導入2%、随時漸減)を用いて、麻酔導入し、動物用定位脳手術台に固定したうえで、脳圧測定した。その後、パーカッション傷害作製装置により、出力が2.2 atmとなるようにセットし、脳硬膜上から衝撃を加えて頭部外傷のパーカッション傷害ラットを作製した。以降、頭部外傷のパーカッション傷害を、単に「TBI」という場合がある。パーカッション傷害(TBI)の概要は、図1を参照されたい。
【実施例】
【0028】
抗HMGB1モノクローナル抗体(実施例1参照)投与群15匹と対照抗体(抗Keyhole Limpet hemocyanin(KLH) 抗体:自家製)投与群15匹に分けた。TBIラットを作製してから5分後に再び脳圧測定した。さらに、5分後に別の術者が尾静脈より薬物(抗HMGB1抗体又は抗KLH抗体)を200μg投与した。
【実施例】
【0029】
(実験例2-1)行動学的評価
実施例2で作製したTBIラットについて、行動学的評価を行った。行動学的評価として、協調運動を観察するためにロータロッド(rotarod)テスト(0-10分間程)、及び上肢の自発運動を観察するためのシリンダーテスト(3分間)を、各々頭部外傷直前と外傷後24時間後に行った。
【実施例】
【0030】
(A)ロータロッドテスト結果
ロータロッドテストは、TBIによる脳外傷前及び脳外傷後について、ラットを回転するロッドに乗せ、当該ラットがロッドから転落するまでの時間を計測することにより実施した。その結果を表1及び図2に示した。
【実施例】
【0031】
表1において、TBI(atm)とはTBI作製時の脳硬膜上に与えた圧力を示し、pre(sec)はTBI前のラットがロッドから転落するまでの時間(秒)を、post(sec)は同様にTBI後のラットがロッドから転落するまでの時間(秒)を示した。ラットにより個体差はあるものの、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群(表1では、HM群)では、TBI前(pre)に比べて転落するまでの時間がやや伸びる傾向であった。一方、抗KLH抗体(自家製)投与群(対照群:表1ではKL群)では、転落までの時間が明らかに短くなっていることが観察された。この結果より、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では、TBI後であってもラットがバランスをとってうまく行動することができ、協調運動能力が維持できていることが認められた。
【実施例】
【0032】
【表1】
JP2012074043A1_000002t.gif
【実施例】
【0033】
図2では、TBI前の運動能(ラットのロッドから転落するまでの時間)に対するTBI後の運動能(post TBI/pre TBI)を比較した結果を示した。疑似手術群(sham群)は、実施例2に示すTBIラットの作製方法において、脳硬膜上から衝撃を与える前の状態のもの、即ちラットの頭蓋骨のブレグマから後方約3 mm、右側方約3 mmに専用の穿頭器を用いて穿頭孔を穿ち、筒型のプラスチックを瞬間接着剤・骨セメントを用いて装着し、皮膚を軽く縫合したものとした。対照の抗KLH抗体(自家製)投与群では、TBIにより運動能力の著明な低下がみられたが、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では低下が認められなかった。なお、sham群では、2回目のロータロッドテストの結果、学習によりロッドから転落するまでの時間が伸びていることが確認されたが、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では、sham群と同程度に伸びており、現行治療薬の50%グリセロール投与群と比べても有意に優れた運動能を示した(図2)。
【実施例】
【0034】
(B)シリンダーテスト(3分間)
シリンダーテストは、パーカッション傷害により脳の右部位にTBIを与えた脳外傷モデルラットをシリンダー内(直径17.5cm)に入れ、健常側と患側について探索的に前肢を壁にかける動作の左右差を確認することにより行った。具体的には、左右の前肢をついた全回数を分母とし、患側肢(左)をつく回数を分子として計算し、前肢を壁にかける動作の左右差を確認した。TBI前の左右前肢を同等の頻度で壁にかける健常動物では、ほぼ0.5の値を示したが、TBI後24時間では、対照の抗KLH抗体(自家製)投与群では、患側肢をつく頻度に著明な低下がみられたが、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では低下が認められなかった(図3)。
【実施例】
【0035】
(実験例2-2)組織学的評価
実施例2で作製したTBIラットについて、TBI作製24時間後に脳圧測定の上で、バルビツレート(50 mg/kg)で麻酔し、パラホルムアルデヒドにて心還流固定を行い、脳組織を取り出した。パラフィン包埋脳組織から薄切切片を作製し、組織学的に脳障害を評価し、TBI時のHMGB1動態について評価した。
【実施例】
【0036】
(A)組織学的評価
ラット脳組織のうち、受傷中心部分を含む冠状断切片について組織切片を作製し、ヘマトキシリン-エオシン染色により組織学的評価を行った。コントロール群(抗KLH抗体:自家製)に比べて、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では、傷害の広がりが明らかに抑制されていた(図4)。
【実施例】
【0037】
(B)分子生物学的評価(参考)
ラット脳組織のうち、大脳皮質部分の組織切片を作製し、HMGB1を抗HMGB1モノクローナル抗体(赤)、神経細胞マーカーであるMAP-2を抗MAP-2ウサギポリクローナル抗体(緑)で染色し、細胞核をDAPI(青)で染色した。その結果、傷害を与えた部位(傷害部位)とは反対の部位(正常領域)では、HMGB1は神経細胞の核内に存在することが示された(図5)。一方、傷害部位では細胞核内にHMGB1は認められず、神経細胞外に分散していることが確認された(図6)。また、傷害部位よりやや内部の組織についても確認した結果、HMGB1は神経細胞質部分には認められるものの、核内にはとどまっていないことが観察された。HMGB1は、傷害により神経細胞核外に放出されることが確認された(図7)。
【実施例】
【0038】
(実験例2-3)脳血管透過性の評価
実施例2で作製したTBIラットについて、傷害作製3時間後に尾静脈よりエバンスブルー(EB)を投与し、その3時間後に脱血・灌流して、脳内に移行したエバンスブルーを定量した。その結果、対照群では、エバンスブルーの漏出が認められたが、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では、顕著に漏出量が低かった(図8)。
【実施例】
【0039】
(実施例3)外傷性神経障害モデルラットに対する抗HMGB1モノクローナル抗体の効果
本実施例では、外傷性神経障害モデルラットとして実施例2と同手法により作製したTBIラットに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与したときの効果を、実験例2-1と同様に行動学的評価(ロータロッドテスト)により確認した。TBI後10分目に抗HMGB1モノクローナル抗体を尾静脈より200μg経静脈投与した。抗体の対照として抗KLH抗体(抗Keyhole Limpet hemocyanin(KLH) 抗体:自家製)を用いた。また、標準治療方法として10%グリセロールを含む0.9%生理食塩液を0.5ml経静脈投与した。対照として、sham群についても確認した。
【実施例】
【0040】
行動学的評価は、TBI直前とTBI後3、6及び24時間後についてロータロッドテストにより行った。ロータロッドテストは、実験例2-1(A)と同手法により行い、各時間における脳外傷作製前の運動能(ラットのロッドから転落するまでの時間)に対する脳外傷作製後の運動能(post TBI/pre TBI)を比較した(図9-11)。
その結果、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では、経時的に行動学的改善効果が認められ、24時間目ではsham群と同程度に伸びており、現行治療薬のグリセロール投与群と比べても有意に優れた運動能を示した(図12)。
【実施例】
【0041】
(実施例4)外傷性神経障害モデルラットに対する抗HMGB1モノクローナル抗体の効果
本実施例では、外傷性神経障害モデルラットとして実施例2と同手法により作製したTBIラットに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与したときの効果を、実験例2-1と同様に行動学的評価(シリンダーテスト)により確認した。TBI後10分目に抗HMGB1モノクローナル抗体を尾静脈より200μg経静脈投与した。抗体の対照として抗KLH抗体(抗Keyhole Limpet hemocyanin (KLH) 抗体:自家製)を用いた。行動学的評価は、TBI後3、6及び24時間後について実験例2-1(B)と同手法でのシリンダーテストにより行った(図13-15)。その結果、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群では、TBI後経時的に行動学的改善効果が認められた(図16)。
【実施例】
【0042】
(実施例5)パーカッション傷害ラットにおけるHMGB1
本実施例では、外傷性神経障害モデルラットとして実施例2と同手法により作製したTBIラットについて、抗HMGB1モノクローナル抗体を投与したときの組織中のHMGB1について、ウエスタンブロッティングにより評価した。実施例3と同手法により、TBI後10分目に抗HMGB1モノクローナル抗体を尾静脈より200μg経静脈投与した。抗体の対照として抗KLH抗体(抗Keyhole Limpet hemocyanin(KLH) 抗体:自家製)を用いた。また、標準治療方法として10%グリセロールを含む0.9%生理食塩液を0.5mL経静脈投与した。
受傷中心部から前側方の大脳皮質を受傷後24時間後に3mm×3mmの大きさでサンプリングした。非障害側についても対称の位置からサンプリングした。大脳皮質組織を1ml のRIPPA buffer (50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 0.15M NaCl, 0.1% SDS, 0.1% Triton X-100, 0.5% Sodium deoxycholate)でホモジナイズした。10,000×g 20分遠心後、上清を12% ポリアクリルアミドSDS-PAGEで泳動分離し、ニトロセルロース膜に転写した。ニトロセルロース膜上HMGB1をウエスタンブロッティング法によりHRP標識抗HMGB1ラット単クローン抗体を用いて化学発光法で検出した(図17)。
上記の結果、抗HMGB1モノクローナル抗体群及びグリセロール投与群ではTBI側及び非障害側で、組織中のHMGB1の存在について差を認めなかったが、抗KLH抗体投与群では非障害側に比べて、TBI側のほうがHMGB1のバンドが薄かった。このことより、大脳皮質中のHMGB1の存在については、抗HMGB1モノクローナル抗体は既存のグリセロールと同等の効果を示したことが確認された(図18、19)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上詳述したように、本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とすることを特徴とする、外傷性神経障害の治療剤は、パーカッション傷害ラットにおいて、行動学的にも、組織学的にも優れた効果を示した。これまで特に有効な処置手段のなかった外傷性神経障害、特に急性期の外傷性神経障害を治療できるものとして、極めて有用である。
図面
【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図19】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図17】
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【図18】
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