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明細書 :整流装置、トランジスタおよび整流方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5260810号 (P5260810)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発行日 平成25年8月14日(2013.8.14)
発明の名称または考案の名称 整流装置、トランジスタおよび整流方法
国際特許分類 H01L  29/82        (2006.01)
FI H01L 29/82 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2013-502951 (P2013-502951)
出願日 平成24年8月21日(2012.8.21)
国際出願番号 PCT/JP2012/071025
優先権出願番号 2011180767
優先日 平成23年8月22日(2011.8.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年2月4日(2013.2.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】好田 誠
【氏名】新田 淳作
【氏名】小林 研介
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100087480、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 修平
審査官 【審査官】羽鳥 友哉
参考文献・文献 特開2006-032570(JP,A)
特開2011-071255(JP,A)
特開2011-082388(JP,A)
調査した分野 H01L 29/82
要約 半導体からなり電子が走行する一次元チャネル18と、前記一次元チャネルに電界を印加することにより、前記一次元チャネルを走行する電子にスピン軌道相互作用に起因する有効磁場を前記電子が走行する方向と交差する方向に生成させる電極26と、前記一次元チャネルに外部磁場を生成する外部磁場生成部38と、を具備する整流装置。
特許請求の範囲 【請求項1】
半導体からなり電子が走行する一次元チャネルと、
前記一次元チャネルに電界を印加することにより、前記一次元チャネルを走行する電子にスピン軌道相互作用に起因する有効磁場を前記電子が走行する方向と交差する方向に生成させる電極と、
前記一次元チャネルに外部磁場を生成する外部磁場生成部と、
を具備することを特徴とする整流装置。
【請求項2】
前記一次元チャネルは量子ポイントコンタクトであることを特徴とする請求項1記載の整流装置。
【請求項3】
前記外部磁場生成部は、前記外部磁場を、前記有効磁場の方向または前記有効磁場と反対方向に生成することを特徴とする請求項1記載の整流装置。
【請求項4】
前記一次元チャネルは、閃亜鉛鉱型結晶構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の整流装置。
【請求項5】
前記一次元チャネルは、(001)面または(110)面上に形成されていることを特徴とする請求項4記載の整流装置。
【請求項6】
前記一次元チャネルは、前記電子が走行する方向に対し両側からくびれた箇所に形成される半導体であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の整流装置。
【請求項7】
前記一次元チャネルの前記くびれた箇所の両側に空乏層を形成するサイドゲートを具備することを特徴とする請求項6記載の整流装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項記載の整流装置を含むトランジスタ。
【請求項9】
前記一次元チャネルに電子を注入するソースと、
前記一次元チャネルから電子を受けるドレインと、を具備し、
前記電極はゲート電極であることを特徴とする請求項8記載のトランジスタ。
【請求項10】
半導体からなり電子が走行している一次元チャネルに、電界を印加することにより、前記一次元チャネルを走行している電子にスピン軌道相互作用に起因する有効磁場を前記電子が走行している方向と交差する方向に生成させるステップと、
前記一次元チャネルに外部磁場を生成するステップと、
を含むことを特徴とする整流方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、整流装置、トランジスタおよび整流方法に関し、特に、スピン軌道相互作用を用いた整流装置、トランジスタおよび整流方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピンを用いたスピンエレクトロニクスはその実用化が期待されている。スピンエレクトロニクスの分野において、強磁性体の磁化方向によるメモリ機能を有する装置が開発されている。また、非特許文献1では、スピン軌道相互作用に起因する有効磁場を活用したスピン電界効果トランジスタが提案されている。このようなスピンエレクトロニクスの分野においては、スピン偏極率の高いスピンインジェクタが求められる。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】APPl. Phys. Lett. 56, 665 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなスピンエレクトロニクスの分野においては、一方方向に電子を流すとスピン偏極率の電子が得られるが、反対方向には電子が流れない整流装置が求められている。このような整流装置を用いスピンの整流を行なうことができる。本発明は、一方方向に電子を流すとスピン偏極率の高い電子が得られるが、反対方向には電子が流れない整流装置および整流方法、並びにそれらを用いたトランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、半導体からなり電子が走行する一次元チャネルと、前記一次元チャネルに電界を印加することにより、前記一次元チャネルを走行する電子にスピン軌道相互作用に起因する有効磁場を前記電子が走行する方向と交差する方向に生成させる電極と、前記一次元チャネルに外部磁場を生成する外部磁場生成部と、を具備することを特徴とする整流装置である。本発明によれば、一方方向に電子を流すとスピン偏極率の高い電子が得られるが、反対方向には電子が流れない整流装置を提供することができる。
【0006】
上記構成において、前記一次元チャネルは量子ポイントコンタクトである構成とすることができる。
【0007】
上記構成において、前記外部磁場生成部は、前記外部磁場を、前記有効磁場の方向または前記有効磁場と反対方向に生成する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記一次元チャネルは、閃亜鉛鉱型結晶構造を有する構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記一次元チャネルは、(001)面または(110)面上に形成されている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記一次元チャネルは、前記電子が走行する方向に対し両側からくびれた箇所に形成される半導体である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記一次元チャネルの前記くびれた箇所の両側に空乏層を形成するサイドゲートを具備する構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記整流装置を含むトランジスタである。
【0013】
上記構成において、前記一次元チャネルに電子を注入するソースと、前記一次元チャネルから電子を受けるドレインと、を具備し、前記電極はゲート電極である構成とすることができる。
【0014】
本発明は、半導体からなり電子が走行している一次元チャネルに、電界を印加することにより、前記一次元チャネルを走行している電子にスピン軌道相互作用に起因する有効磁場を前記電子が走行している方向と交差する方向に生成させるステップと、前記一次元チャネルに外部磁場を生成するステップと、を含むことを特徴とする整流方法である。本発明によれば、一方方向に電子を流すとスピン偏極率の高い電子が得られるが、反対方向には電子が流れない整流方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一方方向に電子を流すとスピン偏極率の高い電子が得られるが、反対方向には電子が流れない整流装置および整流方法、並びにそれらを用いたトランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、実施例1に係る整流装置の上面図、図1(b)は、図1(a)のX-X断面図、図1(c)は、図1(a)のY-Y断面図である。
【図2】図2は、実施例1に係る整流装置の平面模式図である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、量子ポイントコンタクトを走行する電子に加わる有効磁場を説明する図である。
【図4】図4は、サンプルの半導体積層構造を示す図である。
【図5】図5(a)は、サイドゲート電圧に対するソース-ドレイン間のコンダクタンス、図5(b)は、サイドゲート電圧に対するスピン偏極率を示す図である。
【図6】図6(a)および図6(b)は、実施例1に係る整流装置の原理を説明する図である。
【図7】図7(a)および図7(b)は、電子の走行方向に依存したスピン分裂準位の模式図である。
【図8】図8(a)および図8(b)は、実施例2に係るトランジスタの原理を説明する図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、電子の走行方向に依存したスピン分裂準位の模式図である。
【図10】図10(a)および図10(b)は、実施例3の動作を説明する平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1(a)は、実施例1に係る整流装置の上面図、図1(b)は、図1(a)のX-X断面図、図1(c)は、図1(a)のY-Y断面図である。図1(a)から図1(c)のように、(001)面半導体基板10上に、半導体層11として障壁層12、井戸層14および障壁層16が順に形成されている。半導体層11には、基板10まで達する溝30が形成されている。井戸層14のバンドギャップを障壁層12および16より小さくすることにより、電子を井戸層14付近に閉じ込めることができる。これにより、井戸層14内には二次元チャネルが形成される。井戸層14に接するようにソース20およびドレイン22が形成されている。
【実施例1】
【0019】
溝30は、ソース20からドレイン22に走行する電子が通過する一次元チャネル18が形成されるように、半導体層11の両側面からV字状に形成されている。これにより、半導体層11(特に井戸層14)にくびれが形成される。このように、井戸層14により二次元チャネルを形成し、溝30によりくびれからなる一次元チャネル18を形成する。障壁層16上には絶縁膜24が形成されている。絶縁膜24上には、金属からなるゲート電極26が形成されている。ゲート電極26は、一次元チャネル18に電界を印加する。溝30によりチャネルから分離された半導体層11の領域34には、サイドゲート32が接触している。サイドゲート32により、領域34の半導体層11にサイドゲート電圧を印加することができる。さらに、一次元チャネル18に外部磁場Bexを印加する外部磁場生成部38が設けられている。外部磁場生成部38としては、磁化した強磁性体を用いることができる。また、電流により外部磁場を生成するものでもよい。
【実施例1】
【0020】
図2は、実施例1に係る整流装置の平面模式図である。図2には、半導体層11、ソース20、ドレイン22およびサイドゲート32が図示されている。図2の左から右方向(ソース20からドレイン22方向)を+X方向、の下から上方向を+Y方向、奥行きから手前方向を+Z方向とする。サイドゲート32は、図1(a)の領域34と一体に図示している。ドレイン22にはソース20に対しドレイン電圧Vdsが印加される。サイドゲート32には、ソース20に対しサイドゲート電圧VSGが印加されている。正のドレイン電圧Vdsを印加することにより、ソース20からドレイン22に電子が走行する。負のドレイン電圧Vdsを印加することにより、ドレイン22からソース20に電子が走行する。なお、このとき、ドレイン22およびソース20は実質的にはそれぞれソースおよびドレインとして機能する。負のサイドゲート電圧VSGを印加することにより、溝30付近の半導体層11(特に井戸層14)に空乏層36が形成される。空乏層36間に一次元チャネル18が形成される。サイドゲート電圧VSGの大きさにより、一次元チャネル18の幅を調整することができる。一次元チャネル18として振舞うには、一次元チャネル18の幅は、フェルミ波長程度以下の幅であり、50nm~100nm以下の幅とすることが好ましい。図2のように、チャネルの幅が100nm程度以下であり、チャネル方向のくびれの長さが500nm程度以下のポイント状に形成された一次元チャネル18を量子ポイントコンタクトという。
【実施例1】
【0021】
図3(a)および図3(b)は、量子ポイントコンタクトを走行する電子に加わる有効磁場を説明する図である。図3(a)のように、ドレイン電圧Vdsが正であり、電子40が+X方向に走行している。ゲート電極26により、一次元チャネルに+Z方向の電界Eが印加されている。この場合、一次元チャネル18を走行(矢印44)する電子40には+Y方向に有効磁場Bαが印加される。このように半導体におけるスピン軌道相互作用は電子に対し有効磁場として作用する。有効磁場は、電子が走行することにより受ける磁場である。例えば、閃亜鉛鉱型結晶構造を有する化合物半導体にはラシュバスピン軌道相互作用とドレッセルハウススピン軌道相互作用との2種類が存在している。ドレッセルハウススピン軌道相互作用の強さβは、電子が走行する方向によって定まり、電界によらず一定である。ラシュバスピン軌道相互作用の強さαは、電界により可変である。図3(a)および図3(b)の有効磁場Bαはラシュバスピン軌道相互作用により生成されるものである。有効磁場Bαの大きさは、電子の走行速度が速くなると大きくなる。一次元チャネル18を通過した電子42は、有効磁場Bαにより+Y方向にスピン偏極(矢印41a)する。
【実施例1】
【0022】
一次元チャネル18を通過する電子を有効磁場Bαを用いスピン偏極させることにより、スピン偏極率を向上させることができる。一般に、2次元または3次元に走行する電子は、格子振動等の散乱によりドリフト速度により走行する。このため、電子に作用する有効磁場Bαは小さい。一方、量子ポイントコンタクトにおける一次元チャネル18を走行する電子は、電子の平均自由工程がくびれの長さより十分長くなる。この場合、電子は一次元チャネル18を弾道的に通過する。これにより、電子はフェルミ速度により一次元チャネル18を走行する。フェルミ速度はドリフト速度の100倍以上である。このため、一次元チャネル18においては、電子に作用する有効磁場Bαを大きくすることができる。よって、電子42のスピン偏極率を大きくすることができる。
【実施例1】
【0023】
図3(b)のように、ドレイン電圧Vdsが負であり電子40が-X方向に走行している。電子40が-X方向に走行する場合、一次元チャネル18において有効磁場Bαは-Y方向に生成される。よって、電子42は-Y方向にスピン偏極(矢印41b)する。電子42のスピン偏極率を向上できるのは、図3(a)と同様である。なお、ゲート電極26に印加される電圧を反転し、一次元チャネル18に印加される電界を-Z方向とすると、有効磁場Bαの方向は、逆となる。すなわち、ドレイン電圧Vds>0の場合有効磁場Bαの方向は-Y方向となり、電子42は-Y方向にスピン偏極される。ドレイン電圧Vds<0の場合有効磁場Bαの方向は+Y方向となり、電子42は+Y方向にスピン偏極される。
【実施例1】
【0024】
スピン偏極率を測定するためサンプルを作成した。図4は、サンプルの半導体積層構造を示す図である。基板10から順に、バッファ層50、障壁層12、第1半導体層52、第2半導体層54、第3半導体層56および障壁層16が積層されている。第1半導体層52から第3半導体層56が井戸層14に対応する。基板10は半絶縁性InP基板であり、(001)面を主面としている。バッファ層50は、膜厚が200nmでアンドープのIn0.52Al0.48As層と、電子濃度が4×1018cm-3で膜厚が6nmのIn0.52Al0.48As層である。障壁層12は、膜厚が15nmでアンドープのIn0.52Al0.48As層である。第1半導体層52は膜厚が5nmでアンドープの(In0.53Ga0.47As)0.41(InP)0.59層である。第2半導体層54は、膜厚が5nmでアンドープのIn0.8Ga0.2As層である。第3半導体層56は、膜厚が3nmでアンドープの(In0.52Al0.48As)0.3(In0.53Ga0.47As)0.7層である。障壁層16は、膜厚が25nmでアンドープのIn0.52Al0.48As層である。In0.53Al0.47AsおよびIn0.53Ga0.47Asは、InPと格子整合するため、第2半導体層54以外はInPと格子整合し、図4の半導体積層構造は、格子歪の少ない構造となる。
【実施例1】
【0025】
絶縁膜24は、原子層堆積装置を用い形成された、膜厚が150nmの酸化アルミニウム(Al)である。ゲート電極26は、絶縁膜24側から膜厚が10nmのCr膜、膜厚が200nmのAu膜である。ソース20およびドレイン22は、膜厚が200nmのAuGeNi膜である。サイドゲート32は、障壁層16の上に形成された膜厚が200nmのAuGeNi膜である。溝30は、幅が約400nmであり、図1(a)の幅W1が400nm、幅W2が800nmとなるように形成する。
【実施例1】
【0026】
作製したサンプルを用い、Fano因子からスピン偏極率を測定した。ドレイン電圧Vdsは10μV、ゲート電圧は1.7Vとした。測定温度は3.6Kである。図5(a)は、サイドゲート電圧VSGに対するソース-ドレイン間のコンダクタンスG、図5(b)は、サイドゲート電圧VSGに対するスピン偏極率を示す図である。量子ポイントコンタクトにおいては、電気伝導が離散化される。コンダクタンスGが(2e/h)を単位として整数倍のところにステップ構造があらわれる。コンダクタンスGが1×(2e/h)の場合は、量子ポイントコンタクトの部分に電子が伝導するチャネルが一本のみ存在すること示している。この状態において、電子の有効磁場が働くと、アップッスピンまたはダウンスピンのみが通過することになる。よって、コンダクタンスGは0.5×(2e/h)となる。
【実施例1】
【0027】
図5(a)のように、サイドゲート電圧VSGが、-3.26Vから-3.17Vの範囲において、(2e/h)で規格化したコンダクタンスGがほぼ0.5となっている。これは、量子ポイントコンタクトがアップスピンまたはダウンスピンのみの一次元チャネルとして機能していることを示している。図5(b)のように、一次元チャネル18として機能しているサイドゲート電圧VSGが、-3.26Vから-3.17Vの範囲において、0.5~0.7と高いスピン偏極率が得られる。以上のように、強磁性体を用いず高い偏極率の電子を生成することができる。
【実施例1】
【0028】
図6(a)および図6(b)は、実施例1に係る整流装置の原理を説明する図である。図7(a)および図7(b)は、電子の走行方向に依存したスピン分裂準位の模式図である。図6(a)および図6(b)のように、外部磁場生成部38により、-Y方向に外部磁場Bexが生成されている。図6(a)のように、ドレイン電圧Vdsが正であり、電子が+X方向に走行している。この場合、電子40に加わる有効磁場Bαは+Y方向である。図7(a)のように、外部磁場Bexが0の場合、電子40は有効磁場Bαにより準位がスピン分離する。この場合、+Y方向にスピン偏極したスピン準位E1が-Y方向にスピン偏極したスピン準位E2に対し低くなる。外部磁場Bexが-Y方向に印加された場合(すなわちBex<0の場合)、外部磁場Bexの方向が有効磁場Bαの方向とは反対となる。このため、Bex=0に比べ、スピン準位E1は高くなり、スピン準位E2は低くなる。外部磁場Bexが印加されることにより、スピン準位E1が高くなるエネルギーΔEは、1/2gμBexである。ここで、gはg因子、μは透磁率である。
【実施例1】
【0029】
図6(b)のように、ドレイン電圧Vdsが負であり、電子が-X方向に走行している。この場合、電子40に加わる有効磁場Bαは-Y方向である。図7(b)のように、外部磁場Bexが0の場合、電子40は有効磁場Bαにより準位がスピン分離する。この場合、-Y方向のスピン準位E2がY方向のスピン準位E1に対し低くなる。外部磁場Bex<0が印加された場合、外部磁場Bexの方向が有効磁場Bαの方向と同じである。このため、Bex=0に比べ、スピン準位E2は低くなり、スピン準位E1は高くなる。外部磁場Bexが印加されることにより、スピン準位E2が低くなるエネルギーΔEは、1/2gμBexである。
【実施例1】
【0030】
図7(a)においては、電子40は有効磁場BαによりY方向にスピン偏極する(図6(a)参照)。しかし、外部磁場Bexにより、+Y方向のスピン準位E1のエネルギーが高くなる。例えば、スピン準位E1がフェルミ準位EFより高くなる。このため、-Y方向にスピン偏極した電子のX方向への走行は妨げられる。一方、図7(b)においては、電子40は有効磁場Bαにより-Y方向にスピン偏極する(図6(b)参照)。外部磁場Bexにより、-Y方向のスピン準位E2のエネルギーが低くなる。例えば、スピン準位E2がフェルミ準位EFより低くなる。このため、電子の-X方向への走行は促進される。このように、同じ電圧を印加しても電子スピンの方向により電子の流れ易さが異なるスピンラチェット状態を実現できる。以上のように、実施例1の整流装置は、-X方向に電子を流すと-Y方向にスピン偏極(図6(b)の矢印41b)したスピン偏極率の高い電子が得られるが、+X方向には電子が流れない整流装置となる。また、ゲート電極26に印加する電圧を反転し、一次元チャネル18における電界を-Z方向とすることにより、X方向に電子を流すとY方向にスピン偏極したスピン偏極率の高い電子が得られるが、-X方向には電子が流れない整流装置となる。
【実施例1】
【0031】
実施例1によれば、ゲート電極26が、一次元チャネル18に電界を印加することにより、一次元チャネル18を走行する電子にスピン軌道相互作用に起因する有効磁場Bαを電子が走行する方向に交差する方向に生成させる。外部磁場生成部38が、一次元チャネル18に外部磁場Bexを生成させる。これにより、図6(a)から図7(b)を用い説明したように、一方方向に電子を流すとスピン偏極率の高い電子が得られるが、反対方向には電子が流れない整流装置が得られる。
【実施例1】
【0032】
一次元チャネル18は、図2のように、量子ポイントコンタクトを用い形成することができる。
【実施例1】
【0033】
外部磁場生成部38が生成する外部磁場Bexは、有効磁場Bαに対し直交していないことが好ましい。これにより、ΔEを大きくでき、より整流特性を向上できる。特に、外部磁場Bexは、図7(b)のように有効磁場Bαの方向または図7(a)のように有効磁場Bαと反対方向に生成することが好ましい。これにより、図7(a)および図7(b)のΔEを最も大きくでき、より整流特性を向上できる。
【実施例1】
【0034】
ラシュバスピン軌道相互作用を用いるため、一次元チャネル18は、閃亜鉛鉱型結晶構造を有することが好ましい。特に、III-V族化合物半導体であることが好ましい。例えば、一次元チャネル18としてGaAs、InAs、AlAs、GaP、InP、AlP、GaSb、InSb、AlSb、GaN、InNおよびAlNを用いることができる。また、これらの混晶を用いることができる。また、一次元チャネル18として、II-IV族化合物半導体を用いることもできる。
【実施例1】
【0035】
一次元チャネル18が閃亜鉛鉱型結晶構造を有する場合、有効磁場Bαを得るため(001)面、(110)面、またはこれらの面に等価な面上に形成されていることが好ましい。一次元チャネル18における電子の走行方向は、面内方向のいずれの方向でもよい。
【実施例1】
【0036】
図2のように、一次元チャネル18は、電子が走行する方向に対し両側からくびれた箇所に形成される半導体である。このように、半導体層11(特に井戸層14)にくびれを設けることにより量子ポイントコンタクトを形成することができる。
【実施例1】
【0037】
さらに、井戸層14のくびれた箇所の両側に空乏層を形成するサイドゲート32を設ける。これにより、くびれた箇所の両側の空乏層のより、図5(a)のように、一次元チャネル18を形成することができる。
【実施例1】
【0038】
実施例1に係る整流装置を用いれば、例えば量子コンピューティングにおける量子ビットの初期化に用いることができる。量子コンピューティングにおいては、最初に電子スピンを一方向に揃えて(これを初期化という)から計算を行なう。量子コンピューティングにおいては、例えば量子ビットを1量子ビットとして用いられる。量子ビットの中にスピン偏極した電子を注入するには、量子ビットと同程度のサイズ(例えば数100nm)のスピン注入源を用いることが好ましい。例えば、強磁性体を用い半導体にスピン注入を行なう場合、数100nmサイズでのスピン注入は実現されていない。実施例1においては、100nm程度の一次元チャネルによりスピン注入できることから、スピンの方向が揃った電子を量子ビットに注入することができる。これにより、本整流装置を例えば量子コンピューティングにおける量子ビットの初期化に用いることができる。
【実施例1】
【0039】
さらに、実施例1に係る整流装置は、例えばスピン電界効果トランジスタなどに用いることもできる。スピン電界効果トランジスタにおいては、強磁性体を用い半導体にスピン注入を行なう。このため、強磁性体と半導体との高品位ヘテロ接合を形成することになる。よって、高度な薄膜形成技術を要する。一方、本整流装置においては、半導体のみを用いスピン偏極を生成することができる。よって、本整流装置は、強磁性体を用いる場合に比べ、より半導体デバイスに適したスピン偏極源となる。さらに、本整流装置においては、スピン整流効果を利用することにより、ランダムエネルギー変化を利用して、スピンが揃った電流を生成できるため、省電力スピン偏極源として利用することもできる。
【実施例2】
【0040】
実施例1に係る整流装置をスピントランジスタとして用いる例を説明する。図8(a)および図8(b)は、実施例2に係るトランジスタの原理を説明する図である。図9(a)および図9(b)は、電子の走行方向に依存したスピン分裂準位の模式図である。図8(a)および図8(b)を参照し、ゲート電極26により、一次元チャネルに-Z方向の電界Eが印加されている。外部磁場生成部38により、-Y方向に外部磁場Bexが生成されている。図8(a)のように、ドレイン電圧Vdsが正であり、電子40が+X方向に走行している。この場合、電子40に加わる有効磁場Bαは-Y方向である。
【実施例2】
【0041】
図9(a)のように、外部磁場Bexが0の場合、電子40は有効磁場Bαにより準位がスピン分離する。この場合、-Y方向にスピン偏極したスピン準位E2が+Y方向にスピン偏極したスピン準位E2に対し低くなる。外部磁場Bexが-Y方向に印加された場合(Bex<0の場合)、外部磁場Bexの方向が有効磁場Bαの方向と同じとなる。このため、Bex=0に比べ、スピン準位E2はΔE低くなり、スピン準位E1は高くなる。
【実施例2】
【0042】
図8(b)のように、ドレイン電圧Vdsが負であり、電子が-X方向に走行している。この場合、電子40に加わる有効磁場Bαは+Y方向である。図9(b)のように、外部磁場Bexが0の場合、電子40は有効磁場Bαにより準位がスピン分離する。この場合、+Y方向のスピン準位E1が-Y方向のスピン準位E2に対し低くなる。外部磁場Bex<0が印加された場合、外部磁場Bexの方向は有効磁場Bαの方向とは反対である。このため、Bex=0に比べ、スピン準位E1はΔE高くなり、スピン準位E2は低くなる。
【実施例2】
【0043】
ゲート電極26により、一次元チャネルに-Z方向の電界Eが印加されている場合は、図8(a)、図9(a)のように、外部磁場Bexにより、-Y方向のスピン準位E2のエネルギーがフェルミ準位EFより低くなる。このため、-Y方向にスピン偏極(矢印41b)した電子42のX方向への走行が促進される。一方、図8(b)、図9(b)のように、外部磁場Bexにより、+Y方向のスピン準位E1のエネルギーがフェルミ準位EFより高くなる。これにより、+Y方向にスピン偏極した電子のX方向への走行は妨げられる。
【実施例2】
【0044】
以上のように、実施例2によれば、ソース20が一次元チャネル18に電子を注入し、ドレイン22が一次元チャネル18から電子を受ける場合(すなわちVds>0の場合)、ゲート電極26に負の電圧を印加すると、図6(a)および図7(a)のように、ソース20からドレイン22へ-Y方向のスピンを有する電子の走行が抑制される。一方、ゲート電極に正の電圧を印加すると、図8(a)および図9(a)のように、ソース20からドレイン22へ-Y方向にスピン偏極した(矢印41b)電子42が走行する。このように、ゲート電圧により、-Y方向にスピン偏極した電子の流れをオンまたはオフするトランジスタを実現することができる。
【実施例3】
【0045】
実施例2のトランジスタを2つ用いた例を説明する。図10(a)および図10(b)は、実施例3の動作を説明する平面模式図である。図10(a)および図10(b)中のクロスは半導体層11上にゲート電極26が形成されていることを示している。図10(a)および図10(b)に示すように、実施例2において説明したトランジスタ60および62が複数接続されている。2つのトランジスタ60および62のソース20は共有されている。
【実施例3】
【0046】
図10(a)に示すように、ソース20とドレイン22との間に正のドレイン電圧Vdsを印加する。これにより、トランジスタ60においては-X方向に、トランジスタ62においてはX方向に電子が移動しようとする。ゲート電極26に正の電圧Vgsを印加する。外部磁場Bexが-Y方向に印加されている場合、図8(a)および図8(b)を用い説明したように、トランジスタ60においては、-X方向に電子40は流れない。一方、トランジスタ62においては、X方向に-Y方向にスピン偏極した電子が流れる。よって、トランジスタ60は遮断状態となる。トランジスタ62は導通状態となり、スピン偏極した電子がソース20からドレイン22に流れる。
【実施例3】
【0047】
図10(b)に示すように、ソース20とドレイン22との間に正のドレイン電圧Vdsを印加し、かつゲート電極26に負の電圧Vgsを印加する。外部磁場Bexが-Y方向に印加されている場合、図6(a)および図6(b)を用い説明したように、トランジスタ60においては、-X方向に-Y方向にスピン偏極した電子42が流れる。トランジスタ62においては、X方向に電子40は流れない。よって、トランジスタ62は遮断状態となる。トランジスタ60は導通状態となり、スピン偏極した電子がソース20からドレイン22に流れる。
【実施例3】
【0048】
実施例3によれば、実施例2に係るトランジスタを複数用いることにより、簡単に、1入力2出力のスイッチ回路を実現できる。実施例3以外にも、実施例1の整流装置を用いることにより様々な電子回路を実現することができる。
【実施例3】
【0049】
以上、実施例1を用いたトランジスタおよび複数のトランジスタの例を説明したが、トランジスタは、実施例1に係る整流装置を備えていれば他の構成でもよい。また、実施例1の整流装置は、磁気センサ等に用いることもできる。さらに、実施例1から3は、モニタ、テレビジョン等の家庭用電気機器、通信機器およびコンピュータ等の電子機器を構成する電子部品として使用できる。
【実施例3】
【0050】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
11 半導体層
18 一次元チャネル
20 ソース
22 ドレイン
26 ゲート電極
32 サイドゲート
38 外部磁場生成部
60、62 トランジスタ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9