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明細書 :キトサン誘導体から得られるヒドロゲル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5907489号 (P5907489)
登録日 平成28年4月1日(2016.4.1)
発行日 平成28年4月26日(2016.4.26)
発明の名称または考案の名称 キトサン誘導体から得られるヒドロゲル
国際特許分類 C08B  37/08        (2006.01)
A61L  15/16        (2006.01)
A61K   9/06        (2006.01)
A61K  47/32        (2006.01)
FI C08B 37/08 A
A61L 15/01
A61K 9/06
A61K 47/32
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願2012-555972 (P2012-555972)
出願日 平成24年2月3日(2012.2.3)
国際出願番号 PCT/JP2012/052487
国際公開番号 WO2012/105685
国際公開日 平成24年8月9日(2012.8.9)
優先権出願番号 2011022562
2011265167
優先日 平成23年2月4日(2011.2.4)
平成23年12月2日(2011.12.2)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成27年1月29日(2015.1.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】武井 孝行
【氏名】川上 幸衛
【氏名】中原 秀樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査官 【審査官】三木 寛
参考文献・文献 中国特許出願公開第101195031(CN,A)
特開2000-109502(JP,A)
特開2008-220388(JP,A)
特開2011-006571(JP,A)
Jae Hyung PARK, et al.,Synthesis and Characterization of Sugar-Bearing Chitosan Derivatives: Aqueous Solubility and Biodegr,Biomacromolecules,2003年,Vol.4,p.1087-1091
化学大辞典2縮刷版,日本,共立出版株式会社,1987年 2月15日,p.732
化学大辞典3縮刷版,日本,共立出版株式会社,1993年 6月 1日,p.149
化学大辞典6縮刷版,日本,共立出版株式会社,1987年 2月15日,p.562
Shingo NAKAMURA, et al.,Effect of controlled release of fibroblast growth factor-2 from chitosan/fucoidan micro complex-hydr,Journal of Biomedical Materials Research Part A,2007年,Vol.85A Iss.3,p.619-627
牟田智也、他,部分脱アセチル化キチンスポンジ止血材の局所止血効果の検討-非晶質キチン・グルコン酸塩を用いて-,日本バイオマテリアル学会大会予稿集,2010年,Vol.32,p.349
牟田智也, 他,部分脱アセチル化キチンスポンジ止血材の局所止血効果の検討 非晶質キチン・グルコン酸塩を用いて,中部日本整形外科災害外科学会雑誌,2010年,Vol.53 No.6,p.1423-1424
黒住誠司, 他,キチン類スポンジ止血材の開発,キチン・キトサン研究,2009年,Vol.15 No.2,p.102-103
黒住誠司, 他,キチン類スポンジ止血材の開発,キチン・キトサン研究,2008年,Vol.14 No.2,p.158-159
黒住誠司, 他,非晶質キチン, キトサンを用いた止血材開発に関する研究,キチン・キトサン研究,2007年,Vol.13 No.2,p.94-95
調査した分野 C08B 37/08
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
キトサンのグルコサミン単位のアミノ基にアルドン酸が脱水縮合により結合して成るキトサン誘導体に由来するヒドロゲルの調製方法であって、前記キトサン誘導体を含有する水溶液を所定の形状の型に流し込む工程、前記型内で前記キトサン誘導体含有水溶液を凍結する工程、および、前記凍結したキトサン誘導体含有水溶液を融解して、前記所定の形状に応じた形状のゲルを得る工程、を含むことを特徴とするヒドロゲルの調製方法。
【請求項2】
キトサン誘導体として、脱アセチル化度75~85%のキトサンを使用して、アルドン酸のキトサンへの導入率が10~30%であるものを用いる請求項1に記載のヒドロゲルの調製方法。
【請求項3】
アルドン酸がグルコン酸である請求項2に記載のヒドロゲルの調製方法。
【請求項4】
アルドン酸がトレオン酸である請求項2に記載のヒドロゲルの調製方法。
【請求項5】
アルドン酸がキシロン酸である請求項2に記載のヒドロゲルの調製方法。
【請求項6】
前記キトサン誘導体を含有する水溶液にポリビニルアルコールが混合されている請求項1に記載のヒドロゲルの調製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヒドロゲルに関し、特に、創傷被覆材等として有用なキトサン誘導体由来のヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
創傷被覆材には創傷治療を促進する性質が求められる。創傷部位に湿潤環境を提供できるヒドロゲル状の創傷被覆材は、創傷部位の肉芽組織形成および再表皮化を促し、治癒を促進することが報告されている。
【0003】
キトサンは抗菌性ならびに創傷治癒効果を有する天然多糖類であり、その特性故、これまでキトサンは創傷被覆材材料として広く使用されてきた。しかしながら、キトサンは生理的pHにおいて難水溶性であるため、ヒドロゲル状のキトサン創傷被覆材を作製することは困難である。一方、生理的pHにおいて水溶性を示すキトサン誘導体が報告されているが、このキトサン誘導体からヒドロゲルを調製するためには、グルタルアルデヒドなどの架橋剤を使用しなければならなく、ゲル中に残存した架橋剤の生体毒性が問題である。
【0004】
特表2009-520705号公報(特許文献1)には、キトサンとトレハロースのような二糖類またはグリセロールのようなポリオールとを混合することにより、熱でゲル化するキトサン組成物が記載されており、この熱ゲル化特性は凍結乾燥後も再構成される旨言及されている。特表2001-513367号公報(特許文献2)には、キトサン(誘導体)と、グリセロールのようなポリオールまたは糖の塩(例えば、一リン酸二塩基塩)とを混合することにより、30~60℃でゲル化する組成物が記載されている。特表2003-503367号公報(特許文献3)には、キトサンとポリエチレングリコールのようなポリアルキレンオキシドとから構成されるヒドロゲルが記載されている。特開2008-174671号公報(特許文献4)には、キトサンにフェノール性水酸基を導入したキトサン誘導体が開示され、これを該フェノール性水酸基が酸化される環境に供することによりゲル化する旨記載されている。特表2010-533154号公報(特許文献5)には、キトサンのカルボキシアルキルアミドから成り美容的および皮膚科的用途に向けられたヒドロゲルが記載されている。
【0005】
上述の文献は、キトサンまたはキトサン誘導体を用いるヒドロゲルに関するものであるが、いずれも、単にヒドロゲルが形成されることを示しているにすぎず、個々の用途に適合した形状のキトサン由来のヒドロゲルを調製し得るような技術はどの文献にも開示されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2009-520705号公報
【特許文献2】特表2001-513367号公報
【特許文献3】特表2003-503367号公報
【特許文献4】特開2008-174671号公報
【特許文献5】特表2010-533154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生体に有害な添加剤を使用することなく、しかも、簡単に任意の形状に成形することができ創傷被覆材等として有用なキトサン由来のヒドロゲルを得る新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、検討を重ねた結果、生理的pHにおいて溶解可能なキトサン誘導体に注目し、このキトサン誘導体を含有する水溶液は、凍結および融解するだけでヒドロゲルを形成することを見出し、本発明を導き出した。
【0009】
かくして、本発明は、キトサンのグルコサミン単位のアミノ基にアルドン酸が脱水縮合により結合して成るキトサン誘導体に由来するヒドロゲルの調製方法であって、前記キトサン誘導体を含有する水溶液を所定の形状の型に流し込む工程、その型内で、キトサン誘導体含有水溶液を凍結する工程、および、凍結したキトサン誘導体含有水溶液を融解して、所定の形状に応じた形状のゲルを得る工程、を含むことを特徴とするキトサン由来のヒドロゲルの調製方法を提供するものである。
【0010】
本発明は、さらに、上記の方法によって得られることを特徴とするヒドロゲル(ヒドロゲル構造体)を提供する。本発明は、さらに、ポリビニルアルコール(PVA)を混合した上記のヒドロゲルを提供する。
【発明の効果】
【0011】
特定構造のキトサン誘導体から、架橋剤など生体に有害な添加剤を使用することなく、創傷部に湿潤環境を提供して創傷被覆材など医療用に適した各種の形状のヒドロゲルを調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明において用いられるキトサン誘導体に用いられるアルドン酸の化学構造式を例示する。
【図2】本発明において用いられるキトサン誘導体を合成する反応スキームを例示する。
【図3】本発明において用いられるキトサン誘導体におけるグルコン酸の導入率を測定するに際して、キトサン誘導体水溶液に加えた水酸化ナトリウム水溶液の量と導電率の関係を示す。
【図4】本発明において用いられるキトサン誘導体の水溶性を評価するために測定したキトサン誘導体水溶液のpHと濁度の関係を示す。
【図5】本発明に従うキトサン誘導体から得られる成型ゲルをその鋳型とともに例示する。
【図6】本発明に従うキトサン誘導体から得られる成型ゲルに関する強度評価として、(a)歪み(%)と応力(mN/mm)を測定した圧縮強度の結果と、(b)ゲルの含水率(%)の結果を示す。
【図7】本発明に従うキトサン誘導体から得られる成型ゲルに関して、(a)水分保持力に関する離水率(%)の結果と、(b)~(d)耐酵素分解性に関するリゾチーム水溶液に浸した写真を示す。
【図8】本発明に従うキトサン誘導体から得られる成型ゲルの創傷治癒促進評価として、(a)本発明に係るヒドロゲルと5(重量/容量)%のポリビニルアルコールゲル(対照)とを埋植したマウス背部皮下を撮影した写真と、(b)創傷部の経時変化を撮影した写真と、(c)創傷面積の経時変化の結果を示す。
【図9】本発明において用いられるキトサン誘導体の細胞毒性の評価実験の結果を示す。(a)グルコン酸修飾キトサン、(b)トレオン酸修飾キトサン。
【図10】本発明において用いられる別のキトサン誘導体の水溶性を評価するために測定したキトサン誘導体水溶液のpHと濁度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において用いられるキトサン誘導体を合成するのに用いられるキトサンとは、キチンの脱アセチル化物である。よく知られているように、キチンのキトサンへの変換(脱アセチル化反応)は完全には進まず、糖鎖上に一部N-アセチルグルコサミンを含み、市販のキトサンの脱アセチル化度は通常50~100%の範囲にあり、特に70~90%程度のものが多い。
本発明に関連して用いるキトサンとは、特に言及しない限り、脱アセチル化度が50~100%のものを意味し、したがって、脱アセチル化度が100%でないものも包含する。

【0014】
本発明において用いられるキトサン誘導体を合成するのに用いられるアルドン酸とは、単糖を酸化して得られる誘導体のうち、アルドースの1位のホルミル基がカルボシキル基に変わったカルボン酸の総称であり、例えば、下記の一般式(I)で表すことができる。

【0015】
【化1】
JP0005907489B2_000002t.gif
上記式中、nは2から4の整数である。

【0016】
本発明において用いられるキトサン誘導体の合成に用いられるのに好ましいアルドン酸としては、グルコン酸が挙げられ、その他に、トレオン酸やキシロン酸も好適に使用することができる。さらに、ガラクトン酸、マンノン酸、リキソン酸、エリトロン酸、リボン酸、アラビノン酸、アロン酸、アルトロン酸、グロン酸、イドン酸、タロン酸などアルドン酸として知られたカルボン酸はいずれも使用可能である。図1には、これらのアルドン酸の幾つかの化学構造式をFischer投影式に準じて示している。

【0017】
以上の説明から理解されるように、本発明において用いられるキトサン誘導体は、一般に、下記の式(II)に示されるようにグルコサミン単位のアミノ基にアルドン酸が結合している部位とアセチルグルコサミン単位の残存している部位とから成る繰り返し単位(反復単位)を有するものとして表すことができる。

【0018】
【化2】
JP0005907489B2_000003t.gif
上記式中、nは2から4の整数である。

【0019】
したがって、アルドン酸がグルコン酸の場合、本発明において用いられるキトサン誘導体は、一般に、下記の式(III)で示される繰り返し単位を有するものとして表すことができる。

【0020】
【化3】
JP0005907489B2_000004t.gif

【0021】
本発明において用いられるキトサン誘導体は、アルドン酸をキトサンに縮合脱水反応させてキトサンのグルコサミン単位の2位のアミノ基にアルドン酸を結合(導入)することにより合成することができる。アルドン酸は、一般に、適当な塩(例えばNa塩)として反応させる。図2には、アルドン酸としてグルコン酸を用いた場合についての反応スキームが示されている。

【0022】
この縮合脱水反応は、縮合剤(脱水縮合剤)を用い酸性条件下に室温で実施することができる。このキトサンとアルドン酸との縮合脱水反応における縮合剤として好適なものとして、アルドン酸のカルボキシル基を活性化する機能を果たす1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)および副反応を抑制する機能を果たすN-ヒドロキシこはく酸イミド(NHS)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0023】
キトサンへのグルコン酸等のアルドン酸の導入率は、キトサンに対するアルドン酸の相対的な使用量および縮合剤の使用量を変えることにより調整することができ、アルドン酸の相対的使用量および縮合剤の使用量を多くすることにより当該導入率を高くすることができる。アルドン酸導入率は最大50%程度まで可能であるが、得られるキトサン誘導体(アルドン酸修飾キトサン)をヒドロゲルとして用いる本発明においては、後述するように、キトサンへのアルドン酸導入率は、脱アセチル化度75~85%のキトサンを用いて、通常10~30%とすることが好ましい。

【0024】
ここで、グルコン酸等のアルドン酸の(キトサンへの)導入率とは、下記の式(A)で表されるものである。
アルドン酸導入率(%)=[Y/(X+Y)]×100 (A)
X=キトサン導入体中に含まれるグルコサミン単位の物質量(モル数)、Y=キトサン誘導体中に含まれるアルドン酸導入グルコサミン単位の物質量(モル数)。

【0025】
この導入率は、キトサン誘導体(アルドン酸修飾キトサン)を適当な濃度の塩酸水溶液に溶解させた水溶液に、その塩酸と当モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液を加えた際の導電率の変化を測定することにより算出することができる。

【0026】
この測定法を、アルドン酸としてグルコン酸を用いて得られるグルコン酸修飾キトサン(以下、GCと省略することがある)について、図3に沿って詳述すると次のようになる:グルコン酸修飾キトサンを溶解した0.1M塩酸水溶液中に0.1M水酸化ナトリウムを加えていくと、中和反応により溶液中のH+が減少し、それに伴って水溶液の導電率は低下する(図3A-B)。その中和反応が完了すると、グルコサミン単位中のプロトン化したアミノ基の脱プロトン化がはじまり、その脱プロトン化が完了するまで導電率は変化しない(図3B-C)。脱プロトン化が完了すると水溶液中のOHが増加することから導電率も増加する(図1C-D)。ここで、図3中のB-Cで水溶液に加えた水酸化ナトリウムの物質量は、グルコサミン単位中のプロトン化したアミノ基の物質量に相当する。また、この塩酸水溶液中ではほとんどのグルコサミン単位中のアミノ基がプロトン化していることを考慮すると、図1中のBCで水溶液に加えた水酸化ナトリウムの物質量は、グルコン酸が修飾されていないグルコサミン単位の物質量に相当する。したがって、この測定法によりグルコン酸修飾および未修飾キトサン中のグルコサミン単位の物質量を算出し、それらを比較することでグルコン酸の導入率を求めることができる。

【0027】
本発明において用いられるキトサン誘導体(アルドン酸修飾キトサン)は、酸性領域で水溶性を有するとともに、アルドン酸の導入率が増加するに従い、水溶性を呈する領域がpHの高い領域にまで拡がる特性を有する。例えば、脱アセチル化度75~85%のキトサンを用いて、アルドン酸の導入率が10~30%の場合には、本発明のキトサン誘導体は、pH7の中性付近(生理的pH域)においても良好な水溶性を呈することが見出されている。そして、驚くべきことに、このような生理的pH値のキトサン誘導体水溶液を凍結した後、融解するだけでヒドロゲルが形成されることが見出された。

【0028】
かくして、本発明に従えば、キトサン誘導体(アルドン酸修飾キトサン)を含有する水溶液を所定の形状の型(鋳型)に流し込んで凍結させ、その後、融解することにより、所定の形状に応じた形状のゲルを得ることができる。凍結は、例えば、-20℃、また、融解は、一般に、室温下に行われるが、凍結および融解の温度や時間は特に限定されるものではなく、必要に応じて調整すればよい。

【0029】
本発明に従いキトサン誘導体を凍結・融解することによりヒドロゲルを形成する詳細なメカニズムは未だ充分には解明されていないが、疎水結合や水素結合を介してキトサン誘導体(アルドン酸修飾キトサン)分子が互いに絡み合った構造が凍結により固定化された後、融解により該構造が幾分緩むことによりゲル化するものと推測される。

【0030】
さらに、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上記のキトサン誘導体にポリビニルアルコール(PVA)を混合して同様の操作を行うことにより諸特性の向上したヒドロゲルが形成することをも見出した。すなわち、前記キトサン誘導体を含有する水溶液(鋳型に流し込む水溶液)にポリビニルアルコールを混合し、凍結・融解することにより、キトサン誘導体にポリビニルアルコールが混合されたヒドロゲルが得られる。

【0031】
キトサン誘導体にポリビニルアルコールが混合されたヒドロゲルを得る場合、ヒドロゲル中のポリビニルアルコール配合量は、キトサン誘導体/ポリビニルアルコール[(重量/容量)%比]が、1/10以上2/5未満であることが好ましく、より好ましくは1/5であり、例えば、キトサン誘導体[1(重量/容量)%]とポリビニルアルコール[5(重量/容量)%]という配合比率で形成することができる。また、本発明に適用されるポリビニルアルコールの分子量は、ゲルの形成しやすさから、6.6×10Da(ダルトン)以上2.5×10Da(ダルトン)以下のものを使用することが好ましく、例えば、1.5×10Daのものを使用することができる。分子量が6.6×10Daより小さい場合には、ゲル化しても高い強度が得られず、2.5×10Daより大きい場合には水溶液の粘度が高くポリビニルアルコールとキトサン誘導体の混合が困難であるためである。

【0032】
このようにして得られたヒドロゲルは、ポリビニルアルコールの寄与によって、高い生体適合性を維持しつつ、極めて優れた強度、水分保持力、耐酵素分解性等の特性を有するものとなる(後述の実施例参照)。このため、本発明に係るヒドロゲルは、強度、水分保持力、耐酵素分解性が要求されるような用途に使用する場合には、ポリビニルアルコールを混合することが好ましく、例えば、創傷被覆材として使用する場合には、生体適合性を維持しつつ、ゲル強度の低下を防止するとともに、より長期間にわたり創傷を湿潤状態に維持することが可能となる。

【0033】
本発明のキトサン誘導体から形成されるゲルは、一般に、弾性のある硬質のヒドロゲルである。用いる型(鋳型)の形状に従い、シート状のものや球形のものなど、用途に応じて各種の形状に成形することができる。また、上記の説明から理解されるように、ゲル化に際して架橋剤を全く用いておらず、生体に有害な添加剤の使用を回避している。
以下、本発明の特徴をさらに具体的に説明するため、グルコン酸をはじめとして、幾つかのアルドン酸を用いた場合の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0034】
グルコン酸修飾キトサン(GC)の合成
2-モルホリノエタンスルホン酸を23.5mMの濃度で溶解させた蒸留水300ml(pH4.0)にキトサン3.0g(商品名「キトサンLL」、脱アセチル化度80%、焼津水産化学工業株式会社製)を溶解させ、1M塩酸水溶液を加えることによりpHを4.0に調整した。表1に示すとおり、この水溶液にグルコン酸ナトリウム(以下、GAと省略)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、EDCと省略)およびN-ヒドロキシこはく酸イミド(以下、NHSと省略)を溶解させ、室温で24時間攪拌することで、キトサンのグルコサミン単位の2位のアミノ基にグルコン酸を導入した(図2参照)。
【実施例1】
【0035】
続いて、1M水酸化ナトリウム水溶液を加えることにより反応溶液のpHを8.0に調整した後、99.5%エタノールを加えることでグルコン酸修飾キトサンおよび未反応のグルコン酸ナトリウムを沈殿させ、遠心操作により沈殿物を回収した。その後、沈殿物を透析膜に封入し、1週間蒸留水に浸すことでグルコン酸ナトリウムを除去した。この際、1日に2回蒸留水を交換した。続いて、透析膜内の沈殿物および水溶液を回収し、99.5%エタノールを加えることでグルコン酸修飾キトサンを沈殿させ、その沈殿物を回収した。その後、凍結・乾燥処理を行い、保管した。
【実施例1】
【0036】
反応結果を下記の表1に示す。グルコン酸導入率は、既述のように、0.1M塩酸水溶液40mlにグルコン酸修飾キトサン乾燥粉末0.2gを溶解させ、その水溶液に0.1M水酸化ナトリウム水溶液を加えた際の導電率の変化を測定することで算出した。
【実施例1】
【0037】
【表1】
JP0005907489B2_000005t.gif
【実施例1】
【0038】
グルコン酸導入率18.7%の場合の生成物および未修飾のキトサンについてFT-IR測定を行ったところ、いずれも、3400cm-1および1590cm-1にピークが認められたが、そのピーク高さの差は、グルコン酸を導入した生成物の方が大きかった。FT-IR測定において、3400cm-1のピーク高さは分子中のヒドロキシル基数に依存し、1590cm-1のピーク高さはグルコサミン単位のアミノ基数に依存する。3400cm-1のピーク高さと1590cm-1のピーク高さの差は、理論上、グルコン酸修飾キトサンの方が、未修飾キトサンよりも大きくなる。実際に、3400cm-1のピーク高さと1590cm-1のピーク高さの差は、グルコン酸修飾キトサンの方が、未修飾キトサンよりも大きかったことからキトサンにグルコン酸を導入したグルコン酸修飾キトサンの生成が確認された。
【実施例2】
【0039】
グルコン酸修飾キトサンの水溶性評価
2-モルホリノエタンスルホン酸を50mMの濃度で溶解させた蒸留水50ml(pH4.0)にグルコン酸修飾キトサン乾燥粉末を0.5g溶解させ、1M塩酸水溶液を加えることによりpHを4.0に調整した。続いて、0.1Mまたは1.0M水酸化ナトリウム水溶液を加えることでpHを上昇させ、その際の溶液の濁度(波長600nm)を測定した。その結果、グルコン酸導入率が増加するにつれ、濁度が上昇しはじめるpHはアルカリ側にシフトし、導入率10.5%および18.7%のキトサン誘導体を溶解させた水溶液はpH7付近の中性領域においてもほとんど白濁せず、生理的pHにおいても溶解可能であることが示された(図4参照)。更に測定を行ったところ、導入率10~30%において生理的pH域における白濁は認められず、キトサン誘導体(グルコン酸修飾キトサン)が水溶性を有することが明らかとなった。
【実施例3】
【0040】
グルコン酸修飾キトサンの細胞毒性評価
L929繊維芽細胞を1.0×10-4cells/wellの密度で96wellプレートに播種し、24時間培養した。実施例1で合成したグルコン酸修飾キトサン誘導体を濃度を変えて溶解した最少必須培地(Minimum Essential Medium)(pH7.0)をwellに加え、さらに24時間培養した。続いて、cell counting kit 8(同仁化学)を用いて、細胞の生存率を測定した。なお、キトサン誘導体を含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。
その結果を図9の(a)に示す。測定誤差の範囲内で、ほぼ100%を示しており、グルコン酸修飾キトサン誘導体は、キトサンと同様に、細胞毒性がきわめて低いことが理解される。
【実施例4】
【0041】
凍結・融解によるヒドロゲルの調製
実施例1で合成したグルコン酸導入率18.7%のキトサン誘導体乾燥粉末0.1gを蒸留水10mlに加え、0.1M塩酸水溶液を加えることにより、粉末を完全に溶解させた。続いて、0.1Mまたは1.0M水酸化ナトリウム水溶液を加えることでpHを7.0に調整し、得られた水溶液を断面が星形状の金属鋳型に入れて、-20℃で12時間凍結した。その後、室温での静置により溶解させたところ、金属鋳型の形状に応じた星形状のゲルの生成が確認された(図5参照)。なお、対照として、グルコン酸を導入していないキトサンについても同様にゲル化を試みたが、ゲル化は起らなかった。
【実施例5】
【0042】
ヒドロゲルの細胞接着性評価
実施例1で合成したグルコン酸導入率18.7%のグルコン酸修飾キトサンの1%(w/v)水溶液(pH7.0)を48wellプレートに注ぎ、その底面の半分を当該キトサン誘導体から成るポリマー溶液で覆った。続いて、-20℃で凍結(24時間)後、室温で融解(2時間)することで、ポリマー溶液をゲル化させた。その48wellプレートにL929繊維芽細胞を播種し、培養24時間後に細胞形態を顕微鏡観察したところ、ゲルによる細胞接着性は非常に低いことが認められた。
【実施例6】
【0043】
ポリビニルアルコールを混合したヒドロゲルの調製
グルコン酸導入率19.3%のキトサン誘導体乾燥粉末をpH4.0の生理食塩水に溶
解して2(重量/容量)%のキトサン誘導体溶液を得た。また、別の生理食塩水にポリビニルアルコール粉末(分子量1.5×10Da、シグマ・アルドリッチ製)を加えて加熱することで溶解して10(重量/容量)%のポリビニルアルコール溶液を得た。キトサン誘導体溶液とポリビニルアルコール溶液を1:1(体積比)で混合し、その中に0.1Mまたは1.0Mの水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、水溶液のpHを7.0に調整し、得られた水溶液1mlを内径11mmの円筒容器に入れて-30℃で24時間凍結した。その後、室温(20℃)で2時間静置して融解させることにより、ポリビニルアルコールを混合したヒドロゲルの生成が確認された。
【実施例7】
【0044】
ヒドロゲルの特性評価
既述の実施例に従って調製したグルコン酸修飾キトサン(GC)由来のヒドロゲルおよびGCにポリビニルアルコール(PVA)を混合して得られたヒドロゲルについて、下記のように幾つかの特性を評価した。
(1)力学強度(圧縮強度)
円筒容器から円盤状となったゲルを取り出し、その圧縮強度を測定した。この円盤状ゲルを圧縮した際の歪み(%)と応力(mN/mm)を測定した結果を図6(a)に示す。同図(a)に示すように、本発明に係るヒドロゲルは単独でも十分な圧縮強度を有するが、さらにポリビニルアルコールを混合することで、1(重量/容量)%GC(グルコン酸修飾キトサン)の5倍、2(重量/容量)%GCの3倍まで圧縮強度が飛躍的に向上することがわかった。さらに、ゲルの含水率(%)を(ゲル湿潤重量/ゲル乾燥重量)の比率として算出した結果を図6(b)に示す。一般にゲルの力学強度が高くなるほどゲルの含水率が低くなることから、同図(b)に示すように、本発明に係るヒドロゲルは単独でも十分に低いゲルの含水率を有するが、さらにポリビニルアルコールを混合することで、1(重量/容量)%GCに対して1/4まで、2(重量/容量)%GCに対して1/3までゲルの含水率が低下したことから、ゲルの力学強度が飛躍的に向上することがわかった。
【実施例7】
【0045】
(2)水分保持力
50ml遠沈管の管口に、孔径40μmのメッシュで構成されるセルストレーナー(日本BD製)を設置し、このセルストレーナー内に上記の円盤状ゲル(体積:2ml)を入れ、1200rpmで15分間遠心した。遠心後に遠沈管内に溜まった水の重量から、離水率(%)を(遠心後に遠沈管内にたまった水重量/遠心前のゲル中の水重量)の比率として算出した結果を図7(a)に示す。同図(a)に示すように、本発明に係るヒドロゲルは単独でも十分に高い水分保持力を有するが、さらにポリビニルアルコールを混合することで、1(重量/容量)%GCに対して1/10まで、2(重量/容量)%GCに対して1/15まで離水率が抑えられたことから、水分保持力が飛躍的に向上することがわかった。
【実施例7】
【0046】
(3)耐酵素分解性
本発明に係るヒドロゲルの耐酵素分解性を確認するために、リゾチーム(ヒト体内にも存在するキトサン分解酵素)を含有するリゾチーム水溶液に、本発明に係るヒドロゲルを浸してゲル形状の経時的な変化を観察した。リゾチーム水溶液に浸した直後の写真と24時間後の写真を図7(b)および(c)に示す。特にポリビニルアルコールを混合したヒドロゲルは、同図(d)に示すように、リゾチーム水溶液に浸してから24時間後にも、リゾチーム水溶液に浸した直後と同じような明確なゲル形状を維持していた。このように、本発明に係るヒドロゲルは単独でも十分な耐酵素分解性を有するが、さらにポリビニルアルコールを混合することで、耐酵素分解性が飛躍的に向上することがわかった。
【実施例8】
【0047】
ヒドロゲルの創傷治癒促進評価
グルコン酸修飾キトサン(GC)にポリビニルアルコール(PVA)を混合した本発明に係るヒドロゲルの免疫賦活能(創傷治癒促進効果)を確認するために、マウス背部皮下にゲルを1週間埋植して経過観察した。本発明に係るヒドロゲルと、5(重量/容量)%のポリビニルアルコールゲル(対照)とを埋植したマウス背部皮下を撮影した写真を図8(a)に示す。同図(a)に示すように、1週間経過後には、本発明に係るヒドロゲルの近傍では、過剰な白血球(免疫細胞)が集積していたが、対照である5(重量/容量)%ポリビニルアルコールゲルの近傍では、白血球の集積は見られなかった。本発明に係るヒドロゲルは、ポリビニルアルコールを混合した後も、キトサンが本来的に有する免疫賦活能を維持していることがわかった。
【実施例8】
【0048】
さらに、本発明に係るヒドロゲルを、ストレプトゾトシンの投与により糖尿病にしたラット(血中グルコース濃度:>300mg/dl)の皮膚全層欠損モデルに適用した。雄性Wistarラット(糖尿病、7週齢)背部に4つの皮膚全層欠損創(直径1cm)を作製し、本発明に係るヒドロゲルと、本発明に係るヒドロゲルに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加したものと、対照としてガーゼおよびビューゲル(登録商標)の計4ケースの経時変化を検証した。創傷部の経時変化を撮影した写真を図8(b)に示す。また、創傷面積の経時変化を図8(c)に示す。
【実施例8】
【0049】
図8(b)および(c)の結果から、本発明に係るヒドロゲルは、市販されているガーゼおよびビューゲルよりも、創傷治癒を著しく促進することがわかった。さらに、本発明に係るヒドロゲルに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加することで、特に創傷治癒の初期における創傷治癒が有意に促進されることがわかった。
【実施例9】
【0050】
トレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンの合成、水溶性評価およびヒドロゲルの調製
実施例1に記載の方法と同様の方法により、アルドン酸としてトレオン酸およびキシロン酸を用いて、トレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンを合成した。反応結果を下記の表3に示す。それぞれのアルドン酸の導入率は、実施例1に記載の場合と同様に、キトサン誘導体(アルドン酸修飾キトサン)を塩酸水溶液に溶解させた水溶液に、その塩酸と当モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液を加えた際の導電率の変化を測定することにより求めた。
【実施例9】
【0051】
【表2】
JP0005907489B2_000006t.gif
【実施例9】
【0052】
【表3】
JP0005907489B2_000007t.gif
【実施例9】
【0053】
次に、以上のようにして合成したトレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンについて、実施例2と同様の手法により、pHに対する濁度の変化を測定することにより、水溶性を評価した。その結果を図10に示す。図に示されるように、トレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンのいずれも、グルコン酸修飾キトサンと同様に、無処理のキトサンに比べて、pH7付近の中性領域(生理的pH域)においても水溶性が高いことが認められる。
さらに、合成したトレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンを実施例4と同様の手法により、-20℃で12時間凍結した後、室温で融解したところ、ゲル化していることが確認された。
【実施例10】
【0054】
トレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンの細胞毒性評価
L929繊維芽細胞を1.0×10cells/wellの密度で96wellプレートに播種し、24時間培養した。実施例9で合成したトレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンのそれぞれを溶解した最少必須培地(pH7.0)をwellに加え、さらに24時間培養した。続いて、cell counting kit 8(同仁化学)を用いて、細胞の生存率を測定した。キトサン誘導体を含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。トレオン酸修飾キトサン誘導体の場合の測定結果を図9の(b)に示す。グルコン修飾キトサンと同様に、トレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンの細胞毒性は低いことが認められた。
【実施例11】
【0055】
ヒドロゲルの細胞接着性評価
実施例9で合成したトレオン酸修飾キトサンおよびキシロン酸修飾キトサンの1%(w/v)水溶液(pH7.0)を48wellプレートに注ぎ、その底面の半分をそれらのアルドン酸修飾キトサンから成るポリマー溶液で覆った。続いて-20℃で凍結(24時間)後、室温で融解(2時間)することで、ポリマー溶液をゲル化させた。その48wellプレートにL929繊維芽細胞を播種し、培養24時間後に細胞形態を顕微鏡観察した。トレオン酸修飾キトサン由来のゲルおよびキシロン酸由来のゲルのいずれの場合においても、ゲルによる細胞接着性は低かった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図6】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図5】
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【図7】
8
【図8】
9